オリキャラ集めてバトロワ書きます4

  • 1◆xaazwm17IRZa23/06/09(金) 21:20:33

    https://bbs.animanch.com/board/1712644/?res=192


    https://bbs.animanch.com/board/1720355/?res=991


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    「バトロワするからオリキャラ募集します」の5スレ目です。





    ※最初のスレで皆さんから頂いたオリキャラを元に私がデスゲーム小説を書くスレです。


    ※今月中に完結を目指しています。


    ※ジャンルの都合上、残酷なシーンが多く、キャラクターがどんどん減っていきます。ご了承ください。

  • 2二次元好きの匿名さん23/06/09(金) 21:20:48

    このレスは削除されています

  • 3◆xaazwm17IRZa23/06/09(金) 21:22:05

    ☆関係者ダイス


    せっかくクラスメイトなので、初登場の回で関係者ダイスを振らせていただきました……!


    関係人物dice1d33=30 (30)


    関係性dice1d100=51 (51)


    でダイスを振り、数字が大きい程好意を抱いています。



    だいたいの目安としては


    0~20 嫌い


    21~40 まあまあ嫌い


    40~60 普通(やや嫌いからやや好き)


    61~80 まあまあ好き


    81~100 好き



    ただ、キャラクターの設定によっては100でも0でも、あまり強い感情を向けないタイプのキャラもいると思うので、その辺りは設定に準拠します。関係値ダイスは設定を覆しません。

  • 4◆xaazwm17IRZa23/06/09(金) 21:22:23

    ☆アイテムダイス



    それぞれ生徒に配られるランダムアイテムは、初登場話にてダイスで決定しました。


    アイテムdice2d100=80 12 (92)


    左の数字が大きい程アイテムの当たり度が高くなり、右の数字が大きいほどアイテムのオリジナリティ(?)が高くなります。



    当たり度のなんとなくの基準としては


    0~20 外れ枠(鍋の蓋、フォークなど)


    21~40 やや外れ(ナイフ、ハンドアックス、鉈など)


    41~60 普通(日本刀、弓矢)


    61~80 やや当たり(拳銃類)


    81~100 当たり(散弾銃、ショットガンなど)


    かなりアバウトなので、上の表からズレる可能性もあります



    オリジナリティに関しては明確な基準がなく、低かったら原作に登場した武器、高かったら生徒の私物や皆さんの挙げたアイテムくらいのふわっとした認識です。

  • 5◆xaazwm17IRZa23/06/09(金) 21:22:37

    ☆幸運ダイス
    その話のキャラクターが「どれだけ思い通りにできるか」を判定するダイスです。
    ※90以上なら、どんな絶望的状況でも生存します。
    ※10以下なら、どんな安全な状況でも死亡します。
    低い程思い通りに進まず、高い程思い通りに進みます。
    ただ、参加者間の能力格差や装備の差、状況次第では、ダイスが高くても低い相手に敗北することがあります。
    また、10以上でも、状況によっては死亡します。50以下は危ないし、50以上でも普通に危ないと思っていただければ幸いです……! 絶対安全範囲は90以上からです……!

  • 6◆xaazwm17IRZa23/06/09(金) 21:22:52

    本スレの進行ですが、「安価系」のカテゴリに立っているにのに申し訳ありませんが、
    ①私の投稿が不安定で、安価に参加するには一日に何度もスレを確認しなければならない不親切な仕様
    ②時間帯によっては参加できない人も出てくるため
    ③皆さんのアイデアはなるべく取り入れたい
    という考えから、基本的に安価は取らず、ダイスと私の駄文で進行していきます……!
    ご了承いただけると幸いです……!

  • 7◆xaazwm17IRZa23/06/09(金) 21:23:05

    本スレは皆さんからオリキャラを募集し、私がそのキャラをお借りしてデスゲーム小説を書くという、かなり悪趣味なことを行うスレです。キャラクターはバンバン死んでいき、悲惨なシーンや猟奇的な描写もあります。ご了承いただけると幸いです……!

  • 8◆xaazwm17IRZa23/06/09(金) 21:23:28

    他にも質問などがあればどんどんお願い致します……!
    一応過去スレを見て頂ければ各用語の説明や、これまでの流れを追えるとは思いますが、質問いただければ、早めにお答え致します……!
    今後ともよろしくお願い致します……!

  • 9二次元好きの匿名さん23/06/09(金) 21:26:11

    たておつです〜

  • 10◆xaazwm17IRZa23/06/09(金) 21:27:49

    現在生存した生徒たちが主催本部に乗り込む終盤戦となっております……!
    ここまで応援してくださった皆さん、本当にありがとうございます……!

  • 11二次元好きの匿名さん23/06/09(金) 21:40:27

    そういえばまだ暗黒金持ちの枠が1つ残ってたよね
    こんな最終版で出てくるとすれば管理人か既に言及されてるキャラのどちらかだと思うけど…

  • 12二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 00:26:33

    今夜は更新あるかな

  • 13二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 04:02:57

    なさそう

  • 14二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 04:36:38

    保守がてらもしもアニメ化した時の声優が誰になるか語ろうぜ
    とりあえず茜音沢はツダケン

  • 15二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 06:07:04

    ドラギモスは神谷浩史

  • 16二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 12:16:56

    ボンバーガールとCCJやってるせいで歯荷ちゃんは大空さんで脳内再生される

  • 17二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 17:09:37

    歯荷ちゃんって某お嬢様系Vtuberみたいな感じかと思ってたけどアクアだったのか

  • 18二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 18:38:30

    最近の声優は分からないですが暗黒金持ち達は吹替声優とか大御所があてられてそう

  • 19◆xaazwm17IRZa23/06/10(土) 22:54:57

    篠宮パート投下します……!

  • 20◆xaazwm17IRZa23/06/10(土) 22:55:32

     尻から伝わる沈み込むソファの感触は、篠宮の緊張を僅かに解した。
     相変わらず背後から女に銃口を突き付けられ、孤軍で運営者と向かい合うという状況は変わっていないが。
     篠宮は、無力化されている。鹵獲した拳銃は手放し、頼みの綱の『透明な拳銃』は、背後の『異能殺し』によって封じられている。
     無理に抵抗すれば後頭部に風穴が空くだろう。
     本部に侵入して三十分も経たない内に戦闘不能だ。
     いや、もっと前から、篠宮は無力だった。

    「さて、誰を切り捨てるか決まったか?」

     真正面に座る谷淵の言葉に、篠宮は臍を噛んだ。

    (二人切り捨てる……。僕たちの中から二人……)

  • 21◆xaazwm17IRZa23/06/10(土) 22:55:58

     生還できるのは九人まで。
     生存した生徒は十一。
     谷淵と後ろの異能殺しは自分たちも数にいれ、なおかつ生存した生徒を九人と誤解しているため、二人減らせと提案している。当然篠宮は二人を生還させるつもりはない。自分たちを殺し合わせた運営側の人間を許せるはずがないのだ。

    (ただ、彼らを全て排除したとしても、二人は帰れない……誰を切り捨てるべきか……)

     食事を共にした仲間の顔を思い浮かべる。
     今まで苦楽を共にしたクラスメイト……誰一人欠けるわけには……。

    (……駄目だ。僕はやっぱり、石川とマネモフルは許せない)

     芝野は、同じボランティア部に所属していた。不器用ながら一生懸命な彼を、篠宮は尊敬していた。そんな彼は、マネモフルの凶刃に斃れた。
     瀧沢は、このゲームが始まるまで接点は無かった。しかし篠宮が今も無事なのは、瀧沢の活躍があってこそだ。そんな彼女は、石川に殴殺された。
     食事を共にすることはなかったが、彼らは共に廃校で戦った仲間だった。だから、理不尽にその命を奪った、石川とマネモフルは許せない。

  • 22◆xaazwm17IRZa23/06/10(土) 22:56:29

     どうして芝野と瀧沢は死に、石川とマネモフルは帰還できるのか。
     理不尽だ。
     不条理とさえ言える。

    「心当たりがあるようだな」

     谷淵は篠宮の顔色を読み取り、くつくつと笑った。

    「俺達の目下の敵は茜音沢だ。あれを殺さねば、誰一人帰れない。ただ、単に協力して戦うだけでは不十分だ。もし、万が一、上手くいってしまったら、誰一人欠けることなく茜音沢を倒してしまったら、後に待つのは仲間同士の椅子取りゲームだ。真なるバトルロワイアルに続く、最後のバトルロワイアルと表現してもいいだろう。もしそうなったら……」

     谷淵は大仰に両手を広げた。

    「戦闘能力に長けた石川とマネモフルが有利だろうな」

    「なっ!?」

    (心を読まれた!? こいつ、まさか『読心』を……)

    「いいや、俺は異能を持っていない。お前が石川とマネモフルを帰還させたくないと考えているのはそんなものを使わなくても分かる。俺たちは観ていたからな」

  • 23◆xaazwm17IRZa23/06/10(土) 22:57:00

     正確には石川が瀧沢を殺したところは確認できていない。が、それ以前の石川の暴れぶりはチェックされているため、容易に推理できる。

    「俺たちは協力して茜音沢を倒す。そして、その過程で石川とマネモフルが退場するように立ち振る舞う。どうだ、悪くない案だろう?」

    (駄目だ、乗せられるな、こいつのペースに……)

     しかし、谷淵の提案は、提出したのが敵である谷淵であるという点を除けば、悪くないものだった。もちろん篠宮も、生存者に制限が無ければ、積極的に石川やマネモフルを排除しようとは思わない。恨みはあれど、殺し合いという極限状況の中では受け入れざるを得ない部分もあるだろう。
     だが、生存者に枠があるのなら、話は別だ。どうして殺人者のために無辜の生徒が犠牲にならなければいけないのか。そんな理不尽は受け入れられない。
     篠宮はそこまで聖人にはなれない。

    「別にいいのよ、私たちを殺しても」

     背後で声がした。異能殺しと名乗った女。
     異能に特化した篠宮の天敵である女。

  • 24◆xaazwm17IRZa23/06/10(土) 22:57:25

    「殺したいほど憎んでるでしょ。隙を見て殺しにかかっても全然いいわよ。むしろそうするほうが自然よね……知らんけど」

    (な、何だ……何が言いたいんだこの女……)

     挑発されているのか、と篠宮は思った。
     銃口は依然として突き付けられている。
     今の状況で篠宮が殺しに行けるはずがない。
     優位ゆえの驕りなのか。読心も異能の聴覚も、そして天才性も推理力も持たない篠宮では、敵の真意が掴めない。

    「さて、ここからの方針だが、まずバラバラになったお前のクラスメイトを回収しながら武器庫を目指そう。茜音沢を相手どるなら拳銃では心もとない。異論は無いな」

    「……この状態で異論を挟められると?」

    「そう睨むな弱者よ。もしものときは、お前に異能を返してやる。精々共に生き延びよう」

     谷淵は右手を差し出す。篠宮は嫌々ながらその手を握り返した。
     ここに初めて、生徒・暗黒金持ち・黒服の異種混合パーティが実現したのであった。

  • 25◆xaazwm17IRZa23/06/10(土) 22:57:42

    篠宮パート終了します……!

  • 26二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 23:04:02

    谷淵はかませ犬かと思いきや意外と有能だな
    いざ茜音沢に出会ったら二人だろうが三人だろうが瞬殺されそうではあるが…

  • 27◆xaazwm17IRZa23/06/10(土) 23:06:00

    次の投下が少し長くなるので、本日はここまでとさせていただきます……!

    毎度感想や保守管理のほうありがとうございます……! 最近投下頻度がだらしないので、ちょっと生活リズムを見直してみます……長くても六月いっぱいで終わると思うので、残り短いですが、最後までよろしくお願いします……!

    それでは、本日もありがとうございました……!

  • 28二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 23:09:32

    お疲れ様でした〜!!
    そろそろマジで誰か死にそうで怖いなぁ

  • 29二次元好きの匿名さん23/06/11(日) 02:05:26

    殺人保守

  • 30二次元好きの匿名さん23/06/11(日) 08:12:52

    スレが始まって3ヶ月、改めて完結を示唆されると喜ばしい反面寂しくもあり……

  • 31二次元好きの匿名さん23/06/11(日) 18:48:32

    保守

  • 32二次元好きの匿名さん23/06/11(日) 23:44:10

    保守

  • 33◆xaazwm17IRZa23/06/11(日) 23:58:55

    dice5d32=19 10 29 11 17 (86)

  • 34二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 00:01:47

    なんだぁっ!?

  • 35◆xaazwm17IRZa23/06/12(月) 00:16:46

    麻井「ええっ、私が魔法少女ですか!?」
    私の名前は麻井涼♪ あにまん小学校に通う五年生! 
    ある日公園でゴミ拾いしていたら不思議な猫ちゃんを拾いました。そこから、私の魔法少女としての生活が始まったんです!
    Nek-O「実は吾輩、魔法の国からやってきたのだ! 麻井涼よ! ANIMAカードを全て集めて魔法の国を救うのだ!」
    妖精・Nek-Oと一緒に街中に隠されたANIMAカードを集めないと、魔法の国が亡んじゃう! 優等生として放っておけません! でも、私の正義を邪魔する悪い魔法少女が……。
    目裏「ばーか♡ ANIMAカードも魔法の国も私のものだよー♡」
    金木「えへへ……この力でムカつく奴に復讐するんだ……」
    そんな身勝手な理由で魔法を使うなんて許せないっ!
    私のマジカルアローでやっつけてやる!
    芝野「な、なぁ……お前ももしかして、魔法少女なのか?」
    嘘っ、芝野くんも魔法少女!?
    次回、「第四の魔法少女は男の子!? 心が読めるなんてルール違反!」
    観ない子には、罰則だよ♪

  • 36二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 00:18:31

    …なんて??

  • 37二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 00:19:30

    あにまん魔法少女概念は想像してなかった、しかもちょうど良い選別…いや芝野お前!!

  • 38二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 00:21:42

    魔法少女茜音沢概念はある

  • 39◆xaazwm17IRZa23/06/12(月) 00:31:07

    【準標】
    貴重な一般人。正規参加者にも一般人は居ないので、マジで貴重な一般人。
    でもあえてその場の標準になろうとするタイプなので一般人ではないのかも。
    もしデスゲームに参加していたら危険人物の割合からスタンスを変えた筈。
    一黒服として本部の惨状を描けるキャラクターだったのですが、ダイス値が低いので目裏兄の異常性を際立たせるモブキャラに……。ダイス値が高ければモブとしての意地を見せる展開もあったかもです。
    ちなみに目裏兄はマジで面白いと思っていたのですが、個人的な欲求より義務感を優先するので排除しました。
    戦闘力としてはモブ黒服と同等。

  • 40二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 00:34:33

    目裏兄がイカレてるのが悪いよ…

  • 41二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 00:36:12

    怪文書の後にマトモなキャラ評始まって困惑してる

  • 42◆xaazwm17IRZa23/06/12(月) 00:38:57

    【スーツの男】
    『管理人』とも繋がっている謎の男。一応「黒服」扱いだが、誰も彼の名前も素顔を知らない。爆弾卿やセピアでさえも……。戦闘力や異能も不明。『管理人』から指示を受け、何をしようとしていたのかも不明。
    ダイス値が高ければ重要人物としてドラギモスと絡ませようと思っていましたが、ダイス値がかなり低いので、デストラップに引っかかり退場しました。ああいう1レス退場は黒服や暗黒金持ちだから出来ることでもあります(製作者様には申し訳ないですが……)。ちなみに顔を隠すスタイルはセピアもそうなので、モブ黒服からはセピアのフォロワーと勘違いされてました。セピア本人は翁と同じ厄ネタという認識、積極的に攻撃はしないが命令があれば排除するというスタンスでした。

  • 43二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 00:42:10

    スーツの人は過去編でちょっと出番あったし…

  • 44◆xaazwm17IRZa23/06/12(月) 00:55:28

    【マエストロ・セピア】
    最強の黒服。爆弾卿に忠誠を誓う。映画オタクだが、好きな映画でマウントを取る嫌なオタク。
    仰々しい口調は映画の悪役を意識したものであり、根っこは小物。
    「好きな映画で○○を挙げない奴は必ず始末する」のくだりも、かっこいい言い回しとして使っているだけで、何挙げようと普通に始末する。何ならキューブリックも黒澤も別に好きじゃない。映画は評価が定まった名作だけ観るタイプ。クソ映画は不要だと考えている。
    精神の小物さとは裏腹に実力は本物で、連戦とはいえ茜音沢と戦闘を成立させ、右腕を奪うことにも成功。ティタノボアや翁も終始優勢に戦いを進めている。作中で使ってる技名はWikipediaの古武術の項目から適当にそれっぽい言葉を採用。瀧沢のジークンドーといい、未経験なのでなんちゃってになるのは申し訳ない……。
    いちおう、奥義の「轟轟拳」はチャー研ネタ。爆弾卿は私兵部隊「ジェラル」を抱え、数多くのホルダーが在籍していましたが、離島に連れてきたのは全員殉職しています。

  • 45二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 00:58:55

    セピアさんは普通に大物であって欲しかった

  • 46◆xaazwm17IRZa23/06/12(月) 01:03:17

    本日も本編投下できず、魔法少女ネタとキャラ語りでお茶を濁すことに……。
    次のパートが早めに投下できるよう頑張ります……!

    もし次回作(何か月か分かりませんが……)で魔法少女やるとしても、本作のキャラは使用不可、あるいは同姓同名として処理するので、撲殺中年茜音沢ちゃんは実現できないです……。

    では、本日はここまでとさせていただきます……! 今後もよろしくお願いします……!

  • 47二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 01:13:51

    乙です、セピアさんの根は小物だとしても忠義は本物であるし爆弾卿とどんな会話するかを見てみたい。

  • 48二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 01:13:55

    お疲れ様でしたー!
    轟轟拳ってGO!GO!研!ってことか草

  • 49二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 02:08:32

    セピアさんが想像以上にカスみたいなオタクだった
    多分自分と同じように評価の高い名作だけ見て周りに知識マウントしてる奴見たら普通に殺しにかかると思う

  • 50二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 02:26:57

    小物キャラ好きだから詳細知ってときめいちゃった
    実力は本物ってのもいいね

  • 51二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 04:27:39

    次回作で魔法少女やるとしたら舞台はあにまん市だろうから
    あにまん学園再登場の可能性は普通にあるというね

  • 52二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 13:30:28

    ほしゅ

  • 53二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 20:44:55

    マジカル保守

  • 54◆xaazwm17IRZa23/06/13(火) 00:35:42

    二日連続投下できないのもあれなので、書けたところだけ投下します……!

  • 55◆xaazwm17IRZa23/06/13(火) 00:36:20

    (みんなは大丈夫だろうか……)

     戦車の運転席に身を預けながら、千頭之は不安に苛まれていた。
     谷淵の話によれば、本部は地獄だという。廃校の数時間も千頭之からすれば「地獄」と呼ぶに相応しい惨状だったが、本部はそれ以上なのかもしれない。
     そこに、九人のクラスメイトは突撃し、千頭之は置いていかれた。
     足手まといだという自覚はある。
     自分がこの殺し合いで何を為したのかと聞かれれば、何も為していないと言うしかない。
     マネモフルを倒したのは瀧沢だし、キルコを倒したのは堀木と姫氏原だし、石川を倒したのはドラギモス達だ。
     首輪解除に貢献したわけでもなく、考察で知見を提供したこともなく、ムードメーカーとしても機能していない。
     家族であるコサメを見つけたのも歯荷なのだから、本当になにもしていない。
     ただ、生きている。
     鰐淵の想いを背負うとのたまいながら、この体たらく。

  • 56◆xaazwm17IRZa23/06/13(火) 00:37:06

    (何で私が生き残ったのだろうな……)

     何度目になるか分からない逡巡。
     結論は既に出ている。
     理由は無い。偶々、幸運だったから。鰐淵が生かしてくれた、皆が助けてくれたから。けれどそれは千頭之に姫的な魅力があるのではなく、偶々そのポジションに千頭之が居たからだろう。
     コサメの喉を撫でる。千頭之が沈んでいるからか、コサメは心配そうに見上げている。

    「うん、大丈夫だ。必ずお前を帰してやるからな」

    「うわっ、ガチで蛇と話してるよ」

     無神経で調子外れな声が、隣から聞こえる。
     砲手席に座る金木が、欠伸をしながらこちらを見ている。
     何だこいつ。

  • 57◆xaazwm17IRZa23/06/13(火) 00:37:39

     いや、確かに深夜零時から始まったこのバトルロワイアル。既に午後二時を回り、眠たくなってくる時間なのは間違いない。というかその前日、殺し合いが始まる前は、午後10時に就寝しているので、実質睡眠時間は二時間である。
     ただ、今まさにクラスメイトが死地で頑張っているのに、欠伸するのはどうなんだ、と思う。人として大事なモノが欠けてるんじゃないか。

    (クズ……バカ……いや、これは、邪悪、なのかな……)

     何というか、すごく失礼なので口には出さないが、殺し合いで運営側に居てもおかしくはない。目裏雨子と同じように。

    (それでも、今は仲間だし、何よりクラスメイトだ。一緒に生きて帰りたい……)

     コサメがシャーと威嚇しているため、よしよしと宥める。
     むむむ……と金木は唸った。どうやら金木としては蛇と同じ空間に身を置いているのは不安ではあるらしい。

    「そうだ、ねぇ千頭之。あんたの蛇にプレゼントがあるんだけど」

    「プレゼント? 何だ?」

    「はい、さっき廃校で捕まえたんだ」

     そう言って、金木は鞄から白い鼠を取り出した。

  • 58◆xaazwm17IRZa23/06/13(火) 00:38:22

    「ほーら、蛇太郎、餌だよ~」

    「待て、この子の名前はコサメだ。っていうか……」

     尻尾を掴まれ、きゅうきゅうと鳴く鼠に目をやる。
     千頭之は蛇と心を通わせられるが、蛇以外とは通わせられない。だからこの鼠が何を考えているかまるで分からないし、一々共感しない。あくまで鼠は鼠であり、アラシに冷凍ラットを与えるときも、犠牲になったラットと業者の方々に感謝こそすれ、鼠の死を悲しんだりはしない。
     ただ、この白鼠、これって……。

    「目裏のペットじゃないか、これ?」

    「えっ!?」

     今気づいたのか、金木は驚いたように捕まえた鼠を見下ろす。

    (確か、名前はリッチーだったか。目裏は苦手だが、この子を可愛がっていたことは印象に残っている……)

     姫氏原を襲い返り討ちに遭ったクラスメイト。今まさに姫氏原がその幽霊らしきものと対峙しているとは夢にも思わず、千頭之は飼い主を亡くした鼠に同情する。

    「そっか、目裏の……。まぁいいや、ほーら蛇太郎、ご飯だよ~」

  • 59◆xaazwm17IRZa23/06/13(火) 00:39:03

    「いや駄目だろ倫理的に。いらないって」

     コサメも困惑した様子でしゃあ……? と千頭之に鳴く。

    「せっかくだし、この子も連れて帰ろう。きっと目裏もそれを望んでるよ」

     そう言って、千頭之は金木からリッチーを受け取った。

    「ほーら、コサメ、仲良くするんだぞ」

     コサメは頷く。元々生きた鼠を食べるようなことはしない。鞄に入る程の小さな蛇だ。
     リッチーは怯えたようにコサメを見ていたが、敵意が無いことを悟ったのか、徐々に震えは収まった。ただ、蛇の眼前に居ることは精神衛生上よろしくなかったのか、千頭之の鞄にさっさと潜り込んだのだった。
     金木はすっかり興味を無くしたのか、戦車の操作マニュアルをぺらぺらと捲っている。
     突如、バイブ音が車内に響いた。
     元々結に支給され、紆余曲折の末に金木が持つことになったスマホ。
     これが鳴った(正確には振動のみだが)ということは、三田たちは谷淵と合流できたのか、あるいはまた別の連絡手段を見つけたのか。
     とにかくにも、状況は動き出した。
     金木も緊張した様子で、スマホに顔を寄せる。

    「……もしもし」

     千頭之の耳にも、三田の声が聞こえた。

  • 60◆xaazwm17IRZa23/06/13(火) 00:39:49

    区切りが良いので、ここまでとします……!
    明日には残りのパートも投下できるよう頑張ります……!

  • 61二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 00:41:33

    お疲れ様でした〜
    金木が地雷踏んで戦車の中で殺し合いになるんじゃないかってヒヤヒヤしたな…

  • 62二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 08:58:50

    >「そっか、目裏の……。まぁいいや、ほーら蛇太郎、ご飯だよ~」


    だいたい一行でわかる金木冥

  • 63二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 16:42:55

    人のペットを餌扱いとか…おそろしー女

  • 64二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 16:49:31

    金木本人は善意でやってそうなのがまた…
    ここでリッチーを殺してたらまた内輪揉めに発展するところだったな

  • 65二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 22:32:16

    保守

  • 66二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 02:05:01

    今夜は何かあるかな

  • 67◆xaazwm17IRZa23/06/14(水) 03:02:29

    ソードマスターアキラ 最終話:希望を胸に
    アキラ「チクショオオオオ! くらえ翁! 新必殺音速火炎斬!」
    翁「さあ来いアキラァァ! ワシは実は一回刺されただけで死ぬぞォォ!」

    ティタノボア「翁がやられたようだな」
    セピア「フフフ……奴は主催の中でも最弱……」
    爆弾卿「生徒ごときに負けるとは主催の恥さらしよ……」
    アキラ「くらえ!」
    三人「グアアアアアアア」

    茜音沢「アキラよ……一つ言って置くことがある……お前は俺を倒すためにディスクが必要だと思っているようだが……別になくても倒せる。そしてお前以外の参加者はやせてきたので最寄りの駅に解放しておいた、後は俺を倒すだけだな、クックック……」
    アキラ「先生との間に因縁があった気がしたが別にそんなことはなかったぜ」
    アキラ「ウオオオいくぞオオオ!」
    茜音沢「さあ来いアキラ!」
    ご愛読ありがとうございました……!
    ◇アキラの勇気が世界を救うと信じて……!

  • 68◆xaazwm17IRZa23/06/14(水) 03:04:42

    申し訳ない、続きは明日投下します……!

  • 69二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 03:14:15

    もはや恒例になりつつあるなこのシリーズ
    ジジイとティタノボアがサラッと運営にカウントされてて笑う

  • 70二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 09:41:12

    本編のアキラは早くに逝ってしまったが
    だからこそ脚本に与えた影響ではトップクラスなんじゃなかろうか

  • 71二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 19:01:37

    保守マスター

  • 72二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 19:06:15

    新篠、オルランド、小田斬の誰か一人でも生き残ってたら本編とぜんぜん違う話になってそうなのよね

  • 73二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 20:21:16

    結とか含めtier1の奴ら殆ど序盤であっさり死んでるからな……
    オルランドの最期はあっさりと言うには壮絶すぎるけど

  • 74◆xaazwm17IRZa23/06/14(水) 23:04:49

    お待たせしました……三田VS希咲パート投下します……!

  • 75◆xaazwm17IRZa23/06/14(水) 23:05:32

    (落ち着け、状況は僕が有利だ)

     銃口を、男に向ける。
     三田は探偵だ。少なくとも、本人はそう自認している。突きつけるのは論理の刃で、追い詰めるのは推理によってだ。
     銃口を突き付けて犯人を追い詰める探偵なんて……けっこういるが、少なくとも三田のポリシーに反する。

    (そして、この希咲とかいう男……まったく動揺していない。拳銃ごときどうにでもなる異能を持っているのか。あるいは石川のように、純粋に戦闘能力が高いのか)

     情報が少ない。
     ああ、このゲームが始まって、三田は常にそう感じていた。
     推理をするにはピースが足りない。まだ推理を開陳する準備が整っていないのに、状況が目まぐるしく変わっていく。

  • 76◆xaazwm17IRZa23/06/14(水) 23:06:29

    「お前には期待しない」

     と、希咲は言った。さっきも聞いた言葉だ。
     見ず知らずの、デスゲームの運営側に立っている男からの期待など、こちらから願い下げだが、それにしたって何様だと怒りが沸いてくる。
     怒りのままに撃たないのは、希咲を警戒しているからだ。
     ゲーム開始前の三田ならば丸腰の犯人を撃つような真似はしない。取り押さえるにしてもバリツで制圧し、無用な傷を作ろうとはしなかった。
     が、今の三田は違う。
     その気になれば、希咲の頭を撃ち抜ける。それができる技量があり、覚悟がある。廃校の戦いは、探偵に兵士の心を植え付けていた。

    「お前には期待しないと言ったな」

     と、三田は言った。

    「じゃあ、誰に期待しているんだ? 『情報を与える』、『期待はしない』……僕に与えても無益な情報……優勝に関することか? ゲームに乘る可能性がある者でないと、扱えない情報」

     デスゲームは、既に変化している。

  • 77◆xaazwm17IRZa23/06/14(水) 23:07:01

    当初の、生徒間の殺し合いは終わりを迎え、今や運営と生徒を巻き込んだ殺し合いの最中だ。そして茜音沢は、優勝を目指しているという。

    「残念だが、僕は絶対にゲームに乘らない。探偵としての誇りがあるからね」

    「探偵としての誇りか……」

     希咲は懐かしむように、噛み締めるように呟き、

    「くだらん」

     と、切り捨てた。

    「探偵であることと、誇りを持つことと、ゲームに乘らないことは、まったく別の話だ。探偵であることは、正義の証明にはならんぞ、坊主」

    「……随分熱くなるじゃないか。探偵が嫌いなのか」

     冷静沈着に見えた希咲が垣間見せた熱に、三田は興味を惹かれる。

    「——口ぶりからして、挫折した元探偵ってところかい?」

     希咲が眉を顰めた。

    (当たりだな)

     その反応から、三田は答えを得る。

  • 78◆xaazwm17IRZa23/06/14(水) 23:07:36

    (彼の経歴に興味がないかと言えば嘘になるが……今はしくじり先生をしている時間はないな)

    「座る時間も惜しい。貴方には吐いてほしい情報がいくつかあるんだ。素直に吐けば殺しはしません」

    (これじゃ探偵じゃなくて警察……それも特高警察みたいだ。まったく、デスゲームは嫌になる)

    「脅されなくても情報は渡すさ。そうだな……お前は【管理人】について、どこまで把握している?」

    「管理人?」

     初めて聞く単語だった。意味は複数考えられる。このゲームの管理者。各部門の管理者。このゲームにどれだけの人員が割かれているのか見当もつかないが、管理人と呼ばれる者がいてもおかしくはない。
     が、このタイミングで出すとなると……。

    「一つ、気になっていた」

    「ほう」

  • 79◆xaazwm17IRZa23/06/14(水) 23:07:59

    「運営を巻き込んでのデスゲーム。この島で最後の一人、文字通りゲームの運営をしている者含め全てを殺した末に願いを叶えるとして……いったい誰が願いを叶えるんだ。そこには優勝者しかいないはずなのに」

    「当然の疑問だな」

    「今まで僕は、運営の中にゲームの裁定者、最後まで殺されない、数には含まれない者がいると思っていた。ゲームが終わったとき、優勝者と裁定者が残ると。願いを叶えるなんて単一の異能者では難しいことを考えると、複数の異能者、あるいは大組織でなければ不可能だ。だから、そういういわば真の運営がいると踏んでいた。けど、お前の口ぶりからして、それは違うらしい」

     管理人。

    「……そいつが、真犯人なのか?」

    「さてな。ただ、それには願いを叶える力を持つ。そして私は——管理人の正体を知っている」

    「何だと?」

    (ブラフか? ただ、もし本当なら……)

  • 80◆xaazwm17IRZa23/06/14(水) 23:08:35

     管理人さえどうこうできれば、ゲームそのものを無効化できるかもしれない。真なるバトルロワイアルとやらが消えれば、茜音沢と戦わなくて済む。三田としては自分たちを殺し合いに放り込んだ者を許す気はまったくないが、今の戦力で茜音沢と戦うことは非常に厳しい戦いになることは理解していた。

    「誰なんだ、管理人って」

    「まお落ち着け。それを教える前に電話をかけさせてくれ」

    (電話? 何のつもりだ)

     三田の困惑をよそに、希咲はポッケからスマホを取り出す。
     そして簡単な操作の後に、三田の目の前で本当に電話をかけはじめた。

    (分からない、この男は何をしようとしている?)

    「…………もしもし」

     希咲が声を発した。
     今までと明らかに声色の違う声。人は電話越しに話すときに声色が変わるが、そのレベルではない。
     希咲の喉から、若い男の声が聞こえる。

    (本当にどういうつもりだ!? 待て、この声は……)

  • 81◆xaazwm17IRZa23/06/14(水) 23:09:10

    『どしたの三田?』

     スマホ越しに聞こえたのは、金木の声だった。

    (こいつ、声帯模写が出来るのか……!?)

    「金木さん、今何してるのかな。ちゃんと言われた通りにやってるかい?」

    『はぁ? 言われた通り戦車で留守番してるけど。電話してくんの早くない?』

    「お、おい! 今すぐ電話を辞めろ! お前、何してるんだ!?」

    『なんか騒がしくない? まだ戦闘中?』

    「まぁね。金木さん、君の出番だ。——本部の西側、三階の窓を撃ってくれないか?」

    「っ!? 待て、金木さん、それは罠だ!」

    『了解でーす』

     三田の想いは届かない。
     無情にも通話は切られる。

    「どういうつもりだ、希咲!? そこには、誰が居るんだ!?」

  • 82◆xaazwm17IRZa23/06/14(水) 23:09:41

    「ふむ、簡単な推理だ。私の前に君が現れた。どうやら僅かなりとも関係性がある者の前に君たちは飛ばされるようだ。そして、今私が指定した場所には……目裏晴刈が居ると、彼の黒服に紛れ込ませたスパイから情報があってね。君が来る直前だったが。目裏晴刈と関連がある生徒……彼の妹を殺した姫氏原小毬、あるいは彼女の恋人、堀木彩か。どちらにせよ、強力なユニットだ」

    「彼らを、戦車で始末するつもりか!?」

    「まさか、私はね、金木冥というカオスの権化に期待しているのだよ。味方であるはずの戦車からの砲撃、それは新たな疑心暗鬼を生むだろう。金木は指示したのは君だと言い張るだろうね。そして、姫氏原・堀木……片割れを失えば、残った片割れはゲームに乘るんじゃないかね?」

    「お前……本当に何がしたいんだ……?」

    「私は、不条理が観たい」

     初めて、希咲の鉄面皮が崩れた。現れたのは、挫折し絶望し堕落した男の顔だった。

    「暗黒金持ちの闇を暴くと言っていた師匠……常に論理を武器に戦ってきた師匠……私の師匠は、しかし、彼本人が暗黒金持ちだった、自作自演だったのだよ……! 正義が、論理があるのは、小説の中だけだ……世界は、こうも不条理に満ちている……!」

  • 83◆xaazwm17IRZa23/06/14(水) 23:10:09

    ならばこそ、と希咲は続ける。

    「私は、金木冥という触媒を通して、最高の不条理劇を観てやるのさ……!」

    「そんなことはさせない! 僕が全てを証言する! 僕たちはこれ以上殺し合ったりはしない!」

    「そうだな、撃ったのが他の生徒ならそうかもしれん。だが下手人は『西日本最大のいじめっ子』『薄っぺらな邪悪』『不環(サークル・クラッシャー)』の金木冥だ! 探偵小僧、お前たちの積み上げた絆など、正義など、倫理など、圧倒的な不条理の前には塵芥に等しい。何よりお前は……」

     撃たなかったな、と希咲は言った。

    「どうして私を撃ち殺さなかったんだ? 管理人の情報を惜しんだか? 自分が殺人者になることを恐れたか? この砲撃で、誰かの命が失われれば……」

     ああ、そうかと三田は気づく。
     もしかしたら、この男は最初から……。

    「お前は共犯者だ、三田哲」

  • 84◆xaazwm17IRZa23/06/14(水) 23:10:32

    (探偵である僕を、犯罪者に墜とすために……!)

     ようやく狙いに気づく。
     それでも、引き金が引けない。
     無数の殺さない理由が思い浮かぶ。生かしておけば、戦車砲撃事件の証人になる。管理人の情報はブラフでは無いかもしれない。
     ——元探偵であるならば、もう一度探偵に戻ってくれるかもしれない。

    (くそっ、僕は何をやっているんだ、最悪だ、本当に最悪だ……)

     銃撃戦で兵士の心が備わった。
     けれど、三田哲は心底探偵だった。

    (まるで覚悟が決まっていなかった……!)

     そして、戦車の砲撃が、本部に炸裂した。

  • 85◆xaazwm17IRZa23/06/14(水) 23:11:15

    「………………ふぅ」

     三田の指示をこなした射手、金木はもくもくと黒煙をあげる本部を見て、息を吐いた。
     砲弾を撃つのは初めてだ。銃とはまた違う感覚。あの大破壊を自分でやったかと思うと全能感を覚える。

    (ま、私一人の力じゃないけど)

     装填したのは千頭之のづちである。

    「いぇーい、ハイタッチ……どうしたの?」

     喜びを分かち合うべく振り返れば、千頭之は顔面蒼白で震えていた。

    「……お、お前、何してんだ……」

    「何って、三田の指示通り西の三階の窓撃ったんだけど。茜音沢とか強い敵居たんじゃない? でもさ、この後どうするんだろ。ねっ、どうすればいいと思う?」

    「お前……今撃ったの……」

     千頭之は信じられないといった表情で言う。

    「東側の窓だぞ……」

    「……………………マジ?」

  • 86◆xaazwm17IRZa23/06/14(水) 23:13:18

     図書室は、ひっくり返っていた。
     突如として窓から打ち込まれた砲弾は、希咲が座っていたテーブルに着弾し、破壊を発生させた。
     本棚は倒れ、本は床にぶちまけられ、三田も吹き飛ばされる。
     死なずに済んだのは、意識を飛ばさずに済んだのは、奇跡的な幸運だった。
     本の下敷きになった状態から何とか抜け出し、三田はそれを見下ろす。
     信じられないといった表情で絶命した男。

    「……不条理、か。ある意味、あなたの願いは叶ったのかもしれませんね」

     敵ではなく、元探偵であることに敬意を表し、三田は口調を変えた。
     目を閉じさせると、ズボンのポッケからメモ帳が飛び出していることに気づく。また、奇跡的にスマホも無事だった。
     早く次の指示を金木たちに出さなければ、三田は足早に移動しながら素早く操作を始める。

    (ああ、覚悟は決まった。僕は、僕にしかなれない。
     僕は、この島でも探偵を貫く)

     かつて、不条理に呑み込まれ堕ちた探偵が居た。
     不条理に満ちたこの島で、それでも若き探偵はもがき続ける。

    【希咲枯春 死亡】
    【暗黒金持ち 残り10人】

  • 87◆xaazwm17IRZa23/06/14(水) 23:16:01

    投下を終了します……!
    本日の投下はこれだけです……!

    今日も感想や保守、ありがとうございます……! おかげさまで三か月を超えることができました……!

    クライマックスが近いですが、今後もよろしくお願い致します……!

  • 88二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 23:24:42

    お疲れ様でした〜流石の探求卿も金木を制御できなかったか
    そして管理人さんは人とか超越した存在なのかと思ってたけど正体があるのか…?

  • 89二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 23:25:38

    乙です、終わる頃には生徒達の体感も3ヶ月分なんだろうな

  • 90二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 00:36:09

    これは不条理だわ……

  • 91二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 00:48:32

    乙でした
    金木もまあ不条理に巻き込まれた側ではあるからな……
    初期装備なんかも散々だった中でよく頑張ってるよ

  • 92二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 08:56:51

    保守

  • 93二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 10:11:47

    金島の時といいちょいちょいライダーネタ挟んでくるの好き

    と言おうとしたが「僕は、僕にしかなれない」って台詞だけでライダーパロディ認定するのは早計か……?

  • 94二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 18:16:21

    保守

  • 95堀木を投げた人23/06/15(木) 22:17:32

    【保守がてらに拾わなくてもいい設定】
    堀木からはめちゃくちゃいい匂いがするが、姫氏原以外に嗅がれるのは嫌い。
    土下座して頼み込むとすごく嫌そうな顔をして嗅がせてくれるらしい。

  • 96◆xaazwm17IRZa23/06/16(金) 02:28:24

    お待たせしました……今日の分投下します……!

  • 97◆xaazwm17IRZa23/06/16(金) 02:29:13

     大上段に刀を振り下ろされる。
     石川はそれを難なく躱し、振るった男の頬を殴りつける。
     特定の武術・流派に属さない、石川が実戦の中で編み出した独自の戦闘スタイル。
     あらゆる武術家を相手取り、あらゆる武器を相手取って来た石川にとって、九龍は

    (こんなもんかよ)

     雑魚、としか言いようが無かった。
     ぽかぽかと拳をぶつけあって怪我をしないのは、幼児までである。大の大人が本気で相手を殴れば、素人同士でも死亡事故に繋がる可能性は十分にある。
     ましてや石川の拳は、一撃で相手を破壊する程の威力を持つ。
     頬を殴られた九龍の一帯は、頭部を破壊されて絶命する。
     その有様に、残った三人の九龍は怯む。

  • 98◆xaazwm17IRZa23/06/16(金) 02:29:54

     遭遇時には五人居た。
     今、一人死んだ。
     もう一人は、数秒前に石川の蹴りを脇腹に喰らい、壁に叩きつけられて即死した。
     九龍は、石川の高校生離れした、否、人間離れした強さに怯え、それぞれが武器を構え、じりじりと後退する。

    (素人じゃねぇか、おい)

     つまらん、と石川はポッケに手を突っ込んだ。
     大人は子どもより強い。クラスメイトは例外だが、それでも殺し合いの運営を行い、茜音沢相手に数時間生き延びている相手は、クラスメイトに勝るとも劣らない実力者揃いだと踏んでいた。
     自分より実力の劣る刀剣使いに、碌な抵抗も出来ずに殺されていた黒服たちの死体を見て、嫌な予感はしていたが、その予感は現実になりつつある。

    (そうだよなぁ……普通に考えたら、当たり前だ。高校生の殺し合いを高みの見物してるような奴、強いはずがないよなぁ)

     もし、自分が運営側の人間だったら、と石川は仮定する。

  • 99◆xaazwm17IRZa23/06/16(金) 02:30:24

     絶対に観戦だけでは済まさない。自ら会場に降り立ち、ゲームに参加するだろう。何なら首輪をつけたっていい。

    (こりゃ、茜音沢先生以外期待できねぇな)

     実のところ、この石川の思考は、的外れだ。
     既に死亡しているが、長松弘、ティエ・レンなどの実力者は、石川に匹敵する程の暴を有していたし、マエストロ・セピアに至っては、石川の実力では勝つことは容易ではない。未だ本部にはティタノボアが這いまわり、何より石川が雑魚と断じる九龍は、その本領を発揮できていない。
     九龍の強みは、人海戦術と、捨て身の戦法にある。一人一人はさほど実力は高くないが、異能によりその数を増やし、そして各個体の死を厭わない。茜音沢戦で見せた同士討ちを一切考慮しない密集戦を強いられれば、石川は苦戦、あるいは討ち取られていただろう。
     が、今の九龍はその戦法を使えない。
     数を三人にまで減らしながらも、彼らは増えようとしない。
     増えることが出来ない。

  • 100◆xaazwm17IRZa23/06/16(金) 02:30:50

     それだけでも強みを殆ど失っているのに、更に、増えれないことで、命を粗末に出来ない。
     各個体の死に動揺し、これ以上減ることを恐れてしまう。
     かといって、逃げることも出来ない。
     自発的に逃げた経験が無いのだ。どんな相手でも人海戦術で殺してきた。相手が逃げることはあっても、あるいはボスの命令で撤退することはあっても、命惜しさに逃げるという当たり前のことが出来ない。

    「うう……うわあああああああああああああああああっ!」

     鴛鴦鉞と呼ばれる、ナックルに刃物が付いた形状の武器を握り、一人の九龍が殴りかかる。カウンターですらない、石川の何てことないパンチでその命を散らす。
     残り二人。
     残った二人は、連携を取れなかった。
     まず、一人が峨嵋刺と呼ばれる暗器で石川の喉を狙った。あっという間に奪い取られ、逆に喉を刺し貫かれる。
     残り一人。

    「ひ、ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」

  • 101◆xaazwm17IRZa23/06/16(金) 02:31:37

     最後の一人、という事実に九龍は耐えられなかった。そんな事実はありえないのだ。常に複数人で在った九龍は、孤独に耐えられなかった。半ば発狂した最後の一人は、故に異能を行使した。
     九龍は、次の九龍を増やした。
     翁が出現した。



     石川は九龍の苦悩など一切把握していない。逃げるなら逃げればいいし、向かってくるなら消すし、増援を呼ぶんだったらちょっと嬉しい。
     だからか、最後の一人が叫びつつも何らかの奥の手を切ろうとしていることを察し、僅かにわくわくしていた。
     すると、九龍のすぐ傍に、見覚えのある老人が出現したのだ。

    「…………あー、まじかよ」

     と、石川は呟いた。
     九龍は、分かっていた。増えようとすれば、翁が出現するだけだと。既に自身の異能は汚染されていると。ただ、最後の九龍に、もはやそんな理性は残っていなかった。

    「……お、おれ……」

  • 102◆xaazwm17IRZa23/06/16(金) 02:32:16

    「きみだよぉおおおおおおおおおおおお」

     老人の口ががばりと開き、最期の九龍はその中に呑み込まれた。
     それが、九龍という存在がこの世から消えた瞬間だった。

    【九龍 全滅】
    【黒服 残り9人】

     九龍を取り込んだ翁は、窪んだ眼窩を、石川へ向けた。

    「あ、お久しぶりです」

     石川は爽やかに挨拶する。

    「……………………」

    (いけるか?)

    「わるいこはいねぇえええがああああああ!」

     翁の口から青龍偃月刀が発射され、石川は慌ててそれを躱す。

    「くそっ、やっぱ駄目か!」

     石川は背を向け逃げ出す。翁は高速で地を這いながらそれを追う。
     速い。

  • 103◆xaazwm17IRZa23/06/16(金) 02:32:46

     石川は瞬時に追いつかれ——

    「オラァ!」

     ムーンサルトキックを翁に叩きつけた。
     翁は床にめり込み、その動きを停止させる。

    「仕方ねぇ、あの時は面倒だから『後回し』にしたが……」

     拳を握る。
     ここで会ったが百年目。

    「姫氏原のおかげで霊の殴り方はちょっとコツを掴んだ。昭和生まれに令和高校生の力を見せてやるぜ!」

     ゆっくりと立ち上がる翁にすかさず殴りかかる。
     石川の挑戦が始まった。

  • 104二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 02:34:01

    うわぁ…石川くんこんな所で死なないよなぁ…??

  • 105◆xaazwm17IRZa23/06/16(金) 02:35:26

    石川VS九龍パート終了です……!

    今日も感想や補足情報ありがとうございます……! 堀木くんがいい匂いするの分かる。金木もようやっとる。
    投下ペースは下がってますが、何とか完結まで持っていくので、これからもよろしくお願いします……!

  • 106二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 02:42:45

    乙でした〜
    以前から思ってたんだけど石川くんの外見ってどんな感じなんですかね?
    オシャレ値の高い戦闘狂だから自分は呪術の石流をイメージしてましたが…

  • 107二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 10:17:58

    廃村以来のエンカウントか
    あの時は見逃してもらえたけど殺人歴積み重ねた今では……ねえ?

  • 108二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 18:32:56

    色んな人間食った爺と殴れる石川…どっちが強いんだ!?

  • 109二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 18:44:14

    現状のジジイのスペック
    射撃
    強制心停止
    壊拳
    無限再生
    無限増殖
    無限武器生成

    オーバースペックもいいところなんだよなぁ

  • 110二次元好きの匿名さん23/06/17(土) 00:00:59

    保守爺

  • 111二次元好きの匿名さん23/06/17(土) 08:14:02

    今日は来られそう?

  • 112二次元好きの匿名さん23/06/17(土) 13:52:33

    保守

  • 113二次元好きの匿名さん23/06/17(土) 22:29:39

    保守を、するよ…

  • 114二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 02:16:59

    保守
    スレ主の健康面を心配しつつ

  • 115二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 02:46:07

    このレスは削除されています

  • 116◆xaazwm17IRZa23/06/18(日) 02:47:42

    ペギー「ハァイ、ジョージィ」
    ペギー「『バトル・ロワイアルII 鎮魂歌』観た?」
    ドラギモス「ネットでクソ映画だって書かれてたろ、騙されんぞ」
    ペギー「oh、確かに駄目なところは多いが、良い所もいっぱいあるんだ。前作主催者キタノの娘、キタノシオリと前作で脱出して政府に対抗するテロリストになった七原の因縁、前作を超える理不尽さのペア爆破ルール、竹内力が熱演した新たな運営者『教師RIKI』……どうだい、面白そうだろ?」
    ドラギモス「確かに面白そう! 前作観るわ」
    ペギー「待てやっ!」
    ペギー、タリスマンを掲げる。
    ドラギモス「僕のアイテム!」
    ペギー「Exactly! これを帰して欲しければ観ろ」
    ドラギモス「でも、面白いの?」
    ペギー「勿論。『バトル・ロワイアルII 鎮魂歌』は切ないぞ、生徒の半分は上陸前に死ぬぞ……」
    ペギー、ドラギモスの腕を掴む。
    ペギー「お前もバトロワ沼に落ちろ!」
     場面暗転
    ペギー・ジョーダンは死んだ。ペアになっていた生徒が死亡したことで連鎖して首輪が爆発したのだ。色々言われてるけど、そんなに悪い映画じゃないと思うんだ。前作と比較してどうかという問いにはノーコメントとしておくよ。

  • 117二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 02:48:10

    このレスは削除されています

  • 118◆xaazwm17IRZa23/06/18(日) 02:49:02

    「間一髪だったわね」
     頭部を撃ち抜かれ、排水溝を流れていく道化師の死体を一瞥し、冬爺凛は今しがた救出したドラギモスに声をかけた。
     ワープ装置前に陣取っていた冬爺と墓蟹だったが、右往左往する黒服から、茜音沢の接近を知ると、地下に移動していた。冬爺が解放したデストラップはその殆どは駆逐され、それでいて茜音沢は健在のこの状況、どう打開すべきかと悩んでいたところ、ペギーに襲われているドラギモスを発見したのだ。
     どうして生徒がここに、と悩む前に、冬爺はペギーを射殺していた。立場は冬爺の方が上とはいえ、ペギーは黒服ホルダー、正面から戦えば倒すことは難しい。なので先手を打って不意打ち気味に射殺した。いくらペギーが怪人とはいえ、脳天を撃ち抜かれて生きていけるほど人間を辞めていない。
     ドラギモスは大人二人をじっと観察している。

  • 119◆xaazwm17IRZa23/06/18(日) 02:49:34

    (か、可愛い……)

     墓蟹は胸をときめかせていた。
     人形のような美しい顔立ちに、乱れた呼吸、首筋を濡らす汗。
     持ち帰りたいと墓蟹は思った。

    (いいコマが手に入ったわ……)

     冬爺はほくそ笑む。
     脱出のためには生徒の首輪を手に入れる必要がある。今、ドラギモスは首輪をつけていないが、外した首輪を持ち歩いている可能性が高い。もし持っていなくても、どこに置いてきたか知っているはずだ。
     ドラギモスの特徴として、頭が良く、体力が無い。つまり、頭脳面は活用でき、邪魔になればいつでも始末できる。便利な演算装置だ。

    「ねぇ、ドラギモスくんちゃん。一緒に行動しないかしら? お姉さんたちに、色々教えて。お姉さんも色々教えるからさ」

    「……そうだな」

    (あ、やっぱ声は可愛い系ではないな)

  • 120◆xaazwm17IRZa23/06/18(日) 02:50:41

    墓蟹、ちょっとがっかり。でも、これはこれで好きかも、と思う。若いので柔軟性がある。
     ドラギモスは思考する。ペギー・ジョーダンから逃れることが出来たのは僥倖だ。そして、二人に気づかれぬよう、タリスマンを取り返すことにも成功していた。現在、武器は拳銃のみ。二対一、それもドラギモスの貧弱な体で大人二人を相手取るのは厳しい。この二人が異能使いでない保証もない。

    (タリスマンに反応は無い……物理的な脅威は無いのか。谷淵からもたらされた情報と照らし合わせもしたい、ここは素直に同行するか)

     最終的にこの二人をどうするのか、ドラギモスも決めかねている。命の恩人ではあるが、自分たちに殺し合いを行わせた運営の一員でもある。

    (その辺りも含めて、見極めさせてもらうか)

     同刻、篠宮・谷淵・宇都のチームが結成されたように、ここでもドラギモス・冬爺・墓蟹のチームが結成されたのだった。

    【ペギー・ジョーダン 死亡】
    【黒服 残り8人】

  • 121◆xaazwm17IRZa23/06/18(日) 02:53:37

    ドラギモスパート終了します……!
    昨日は顔出せず申し訳ありません……!
    短いですが、今日の投下はこれだけです……!

    いつも感想や保守をありがとうございます……! とても励みになっています……! 残り少ないですが、よろしくお願い致します……!

  • 122二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 03:33:37

    宣伝のついでみたいに殺されたペギーに哀しき現在
    まぁでも元ネタ的に仕方ないんだよね

  • 123二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 07:46:34

    乙でした
    そういえばドラギモスお前美少女だったな……

  • 124二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 15:53:44

    保守

  • 125二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 20:43:57

    頭の回る茶髪ツインテ男の娘やぞ
    何だこいつ最強か?

  • 126◆xaazwm17IRZa23/06/18(日) 23:20:41

    マネモフルパート 投下します……!

  • 127◆xaazwm17IRZa23/06/18(日) 23:21:31

    (なんて強そうなんや……!)

     眼前に立つ巨躯の男に対し、マネモフルは戦慄する。
     身長だけならオルランドが勝っているが、体の分厚さは彼以上だ。しかも、肥満体ではなく、その体は仁王像のように引き締められている。
     何より全身から発せられる恐ろしい威圧感……!
     対峙するだけで全身の毛穴から汗が噴き出るほどの恐怖を感じさせる。

    (茜音沢先生と同格か、それ以上……! ラスボス候補で間違いないわ!)

     逃げることは、不可能だろう。もし逃げられたとしても、この男の暴力が他の仲間に向けられることは避けなければならない。

    (ワシに出来ることは、少しでもこいつを消耗させることだけや……! そのためにこの命、使わせてもらうでっ!)

    「こなくそーっ!」

     マネモフルは一気に間合いを詰め、拳王卿に殴りかかる。
     拳王卿は両腕を交差して殴打を受け止める。
     一発、二発、三発。

    (あかん、まるで鉄や! 効いとる気がせえへん!)

  • 128◆xaazwm17IRZa23/06/18(日) 23:22:03

     拳王卿が蹴りを放つ予備動作を察し、慌ててマネモフルは距離をとる。一撃でもまともに喰らえば即死する。そう確信していた。
     拳銃による攻撃も考えたが、このレベルの相手ならば拳銃は有効打にならないと判断する。かといって、自分の拳がマシなのかといえば、さっきの殴打の感触では微妙だと判断するしかない。

    (使うしかないんか……『灘神影流』を……)

     マネモフルの中の500億の人格が習得している、架空の武術。発動すれば、拳王卿にもきっと通じるはずだ。が、それはマネモフルの人格が再び野蛮になる危険性を孕む。

    (野蛮のままここで死ぬならそれでもいい、せやけど、もし野蛮になって生き残ってしまったら、ワシはまた罪を重ねてしまう……!)

    「何を悩んでいる、小僧」

     拳王卿が口を開く。
     質量さえ感じる重い声色。王に相応しい威厳があった。

    「貴様の暴虐は余も鑑賞させてもらった。が、今の貴様には覇気が感じられん。何故実力を隠す?」

  • 129◆xaazwm17IRZa23/06/18(日) 23:22:35

    「わ、ワシは変わったんや! ねうねいに救ってもらった!」

     きっとマネモフルの決意など、この男には些事としか映らないのだろう。
     それでもマネモフルは宣言する。過去と決別し、亡き友との約束のため、自らに言い聞かせる。

    「お前を、皆の前には行かせへんぞ!」

    「…………弱き力で吠えるなよ小僧!」

     マネモフルと拳王卿は同時に駆け出し、互いに拳をぶつけ合う。
     マネモフルの拳は拳王卿の岩石のような胸板を叩く。
     拳王卿の拳が、鍛え上げたマネモフルの腹筋に刺さる。

    「ぐっ……」

    「ぐはっ……けっ、瀧沢の方がよっぽどいいパンチ打っとったわ!」

     思っていたほどの威力は無かった。
     マネモフルは痛みをこらえ、更にもう一発、拳王卿に届かせる。

    「ぬうっ……!」

     拳王卿は一歩退いた。

  • 130◆xaazwm17IRZa23/06/18(日) 23:23:05

     この機を逃さんとマネモフルは更に一歩踏み込み、拳王卿の頬を殴り抜ける。
     拳王卿の口から歯が零れる。
     確実にダメージは与えている。
     確信したマネモフルは、更に殴打を重ねる。

    (いける、ワシの勝ちや……)

    「舐めるな!」

     突如、腹部に強烈な衝撃が走った。
     マネモフルは堪えきれず口から唾を噴き出す。

    「小僧、本気を出さずに生き残れると思っているのか!」

     慌てて体勢を立て直す前に、お返しとばかりに顔面に強力な打撃をもらう。
     拳王卿の重い打撃がマネモフルの全身に突き刺さる。

    (あかん、負けてしまう……!)

    「暴虐な貴様も貴様の一部だ!」

     殴打。

    「一側面だけで生き残れるほど殺し合いは甘くないぞ!」

  • 131◆xaazwm17IRZa23/06/18(日) 23:23:55

     殴打。

    「暗黒面をコントロールする術を身に付けねば、貴様は誰も守れない!」

     殴打。
     マネモフルの体は宙を舞い、壁に叩きつけられる。

    「どうした、立て小僧! それとも、貴様の決意はそんなものか!?」

    (言わせておけば偉そうに……殺し合いを強要しておいて……)

     だが、拳王卿の言うことも事実だ。今のマネモフルの実力では拳王卿に有効打を与えることなく死んでしまう。

    (せやけど、灘神影流を使えばどうなるかわからん……使うわけには……)

    『マネモフル』

     声が聞こえた。
     失ったはずの声だった。
     二度と聞くはずのない声だった。

    (……ねうねい?)

    『言ったでしょ。君の野蛮性は私が抑える。だからマネモフルは——』

  • 132◆xaazwm17IRZa23/06/18(日) 23:24:22

     身体に力が漲る。
     友が支えてくれる。こんなに心強いことはない。

    『やりたいようにやるんだ』

    (分かった……ありがとうな、ねうねい)

     マネモフルは立ち上がった。
     ほう、と拳王卿が零す。

    「お望み通り、本気を出す……!」

     マネモフルが駈け出す。さっきよりも何倍も速い速度で。

    「ぬう……!」

    「しゃあっ!」

     拳王卿の放った拳をマネモフルは簡単に弾く。
     そして

    「菩薩拳……!」

     両手の拳が拳王卿の胸板に届く。

    「ぐおおおおおおおおおおおおお!」

  • 133◆xaazwm17IRZa23/06/18(日) 23:24:47

     あまりの威力に拳王卿は両膝から崩れ落ちる。
     そして口から大量の血を吐き、その場に突っ伏した。
     マネモフルは残心しながら、拳王卿を見下ろす。
     灘神影流を取り戻したマネモフルは、拳王卿の実力を見抜いていた。

    (……このオッサン、弱いやんけ)

     鍛え上げた体格は称賛に値するし、拳の筋も良い。が、素人だ。
     もっとも、拳を交わしたから分かったことだ。最初から灘神影流を取り戻していても、拳王卿は強大に見えただろう。
     そしてもう一つ気づいたことは……。

    「どうして殺意が無かったのか教えてくれよ」

     拳王卿の拳には殺意が乘っていなかった。素人だからではない。素人でも人を撲殺することは出来る。拳王卿の丸太のような腕ならなおさらだ。にも関わらず、拳王卿は一切殺意を見せなかった。一体何故なのか。
     それが気になったマネモフルは、あえて手加減をして技を打った。その証拠に、拳王卿は徐々に上体を起こしていく。

    「殺意か……愚かな質問だ」

  • 134◆xaazwm17IRZa23/06/18(日) 23:25:21

     拳王卿は口角を上げる。

    「頑張っている若者を応援したいのは、大人ならば当たり前だろうに」

    「……ムフフ、殺し合わせといてよく言うのん」

    「……そうだ、まったくその通りだ」

     マネモフルは拳王卿に手を差し出す。拳王卿はそれを掴んだ。

    「悪いと思っとるなら脱出に協力してくれやぼくぅ~?」

    「そうだな、余が出来る範囲なら……」

     ——その時、嵐のような殺意が二人に襲いかかった。
     二人は弾かれたように殺意の出所に意識を向ける。

    「この殺意は……!?」

    「……どうやらこちらに近づいてくるらしいな」

    「くそっ、やるしかないのか……」

    「いや、貴様の死に場所はここではない」

     言い返す前に、突き飛ばされる。

  • 135◆xaazwm17IRZa23/06/18(日) 23:25:59

     まだこんなに余力を残していたのかと驚く強い力で。かつ、労りを感じさせる優しさで。

    「余が時間を稼ぐ。その間に仲間と合流し、戦力を整えろ」

    「なっ、オッサン置いて行けるわけないやろ……!」

     野蛮な衝動は徐々に収まりはじめている。
     闘争心よりも悲しみが勝っていく。

    「ワシも一緒に……」

    「命を無駄にするな」

     分かっている。二人で残っても死体が二つになるだけだ。

    「せやけど……」

    「分かってくれ、小僧」

     拳王卿はこちらを振り返り力無く微笑んだ。

    「余も……私も、贖罪がしたいのだ。君たちを助けることができなかった罪を償いたい」

    「オッサン……」

  • 136◆xaazwm17IRZa23/06/18(日) 23:26:28

    「さぁ行け! 急ぐのだマネモフル=タマネ」

    「くっ、オッサン! 絶対生きてまた会おうや!」

     それが絶望的な確率だと分かっていても、マネモフルはそう言うしかなかった。
     拳王卿は返事をすることもなく、廊下の奥からやってくる怪物じみた闘気を受けて立っている。

    「畜生……」

     マネモフルは振り返らずに駆け出した。
     贖罪のために戦う少年に、未だその機会は訪れなかった。



    「行ってくれたか……」

     安心したように、拳王卿呉偉は呟く。
     そして、胸の傷を撫でた。

    「それにしても、私は意外と喧嘩が出来たのだな……もっと早く、ゲームが始まる前に暴れることが出来れば、もっと多くの若者を救うことが……」

     自分は大罪人だ。大量殺人の共犯者だ。

  • 137◆xaazwm17IRZa23/06/18(日) 23:27:37

     罪の重さと狂気の世界に堪えきれずモニター室を飛び出した呉偉だったが、遭遇したマネモフルの変化を見て、気づくことが出来た。

    「遅い、ということはないのだな。あんなに野蛮だった彼が変われたんだ、私だって……」

     そして、その時がやってくる。
     片腕の修羅が、姿を現す。

    「…………チッ、厄介なのが生き残ってたな」

     茜音沢は、呉偉に気づくと、そう毒づく。彼ほどの武の化身でも、呉偉の実力に気づけない。

    (誤解されやすいのは私の短所だと思っていたが、こんなところで約に立つとはな……精々、時間を稼がせてもらおう……!)

    「片腕で余に勝とうとは笑止千万! 余は拳王卿なり!」

     両腕を広げ、呉偉は精一杯強がる。少しでもマネモフルの逃げる時間を稼ぐため。生徒たちの逆転の可能性を作るため。
     ——呉偉は最期まで拳王卿として在り続けた。

    【拳王卿・呉偉 死亡】
    【暗黒金持ち 残り9人】

  • 138◆xaazwm17IRZa23/06/18(日) 23:28:02

    マネモフルパート終了なのん……!

  • 139二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 23:29:18

    拳王卿のおっちゃん…!ヘタレの悪役が最後にちょっといいところ見せるのすき!

  • 140◆xaazwm17IRZa23/06/18(日) 23:51:27

    ちょっと早いですが、本日の投下はこれだけです……!

    感想&保守、ありがとうございます……!

    残りは歯荷と堀木パートなのでこの二人を二、三日で書いて、決戦パートに入りたいなぁと考えています。皆さんからいただいたアイテムやトラップ、施設など登場できずに終わるかもしれないです……力不足で申し訳ないです……!

    それでは、今後ともよろしくお願い致します……!

  • 141二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 23:55:12

    お疲れ様でした〜!
    休みながらでも全然いいんで最終決戦まで書き切ってください!!

  • 142二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 23:59:30

    ねうねいちゃん出ると切なくて泣いちゃう……
    拳王卿もいい最期だった

  • 143二次元好きの匿名さん23/06/19(月) 07:22:00

    乙です、見事な生き様だったな拳王卿

  • 144二次元好きの匿名さん23/06/19(月) 08:23:22

    >>125

    亀レスだけどまだ声が神谷浩史なだけの女の子の可能性だってあるんですよ!!

  • 145二次元好きの匿名さん23/06/19(月) 08:31:38

    真の性別
    cv神谷な理由
    名前がドラギモスな理由

    後書きとかでこの辺りが明かされる日は来るのだろうか

  • 146二次元好きの匿名さん23/06/19(月) 10:04:17

    知りたいと思う反面
    全てが謎のままの方がキャラとしておいしい気もする

  • 147二次元好きの匿名さん23/06/19(月) 19:37:44

    きっと名前の意味はキャラ作者のみぞ知る

  • 148ドラギモス投げた人23/06/19(月) 20:22:09

    ごめんおれも知らない

  • 149◆xaazwm17IRZa23/06/20(火) 00:08:52

    今日の分投下します……!
    歯荷VS錠著です……!

  • 150◆xaazwm17IRZa23/06/20(火) 00:09:45

    (面倒ですわね)

     と、もう何度目になるか分からない思考をする。
     絶え間なく打ち込まれる弾幕。隙を見て一、二発撃ち返す。
     向こうが弾切れになれば勝機があると思っていたが、最後尾の縦ロール女がオーホホホホホホと笑いながら鞄から弾薬を込め出したのでご破算となった。

    (たぶん近接戦なら勝てますわ)

     そう思うのは、彼らが近づいてこないからだ。歯荷の知る超人たち—マネモフル、瀧沢、石川なら、拳銃程度恐れずに近づき、近接戦に持ち込んでしまう。それをしないのは、彼らに自信がないからだ。

    (なんとか、私の土俵へ……んん?)

     違和感を覚える。

    (私の土俵って、何ですの?)

     愕然とした。いったいいつから自分はバトルキャラになっていたのか。所属はダンス部、趣味はプラモデル、異能の記憶力も、主にテストの一夜漬けに使う、歯荷仄花は、ジャンルとしては学園もののはずだ。銃撃戦をしながら近接攻撃を狙う、そんなバトル漫画脳は本来、歯荷のやることじゃない。

  • 151◆xaazwm17IRZa23/06/20(火) 00:10:51

    (馬鹿馬鹿しい、本当に、馬鹿馬鹿しいですわ)

     耳元を銃弾が通過する。普段の自分なら恐怖で泡吹いて気絶する事態だが、慣れてしまっている。

    「惜しいザマス! 次は顔面を吹っ飛ばすザマス!」

    (アホみたいな語尾ですわ、恥ずかしくないのかしら?)

     自分のキャラをめちゃくちゃ棚上げしながら、歯荷は思考する。
     どうすれば勝てる? どうすれば生き残れる? どうすれば家に帰れる?
     この殺し合いで習得した技術では、この状況を突破できない。オリジナルの本人ならともかく、技術に身体が追いつけない。歯荷が、異能の足手まといになっている。
     歯荷仄花の本体は異能であり、本人の身体や人格はおまけなのか。余分な贅肉でしかないのか。

    (まさか。そんなはずがないですわ)

     歯荷は、ダンス部に所属している。どこぞのアフロのように踊っている間無敵になるとかはできない。どこぞのバスケ部のように、バスケ選手だからという理由でボウガンを掴み取ったりは出来ない。上記のスーパー系とは違い、あくまで常識的なリアル系ダンス部であり、ダンスが上手いことが戦闘には直接作用しない。

  • 152◆xaazwm17IRZa23/06/20(火) 00:11:16

     ……直接は。

    (トーン、タタタタタン、タン、トーン、タタタタタン……)

     銃撃戦は長く続いている。向こうの弾薬はまだまだ多い。
     だから、じっくりと『聴けた』。
     弾を込める。撃つ。撃つ。撃つ。弾を込める。撃つ。撃つ。撃つ。

    (規則的、ですわね……)

     モブ黒服に自由は許されない。錠著者絵の黒服は特にそうだ。彼女の意思通り、彼らは攻撃を行う。彼らは、錠著の奏でる楽器なのだ。
     歯荷は、それを聴いた。
     異能の適用範囲外だ。聴いただけで、歯荷が新たなスキルを獲得することはない。
     ただ、リズムは掴めた。
     彼らに刻まれている命令を、理解できた。

  • 153◆xaazwm17IRZa23/06/20(火) 00:12:56

     歯荷は、ダンス部だ。リアル系ダンス部だ。そして歯荷はダンス部のエース、『異能抜き』で、ダンス部のセンターとして君臨している。
     中学生の、あの大会で。尊敬する先輩の青春を、終わらせてしまった歯荷は、ダンスを辞めることはなかった。居残り練習は嫌いだ。睡眠時間を削って練習しようとは思えない。趣味のプラモデルの時間だって、ちゃんと確保したい。
     けど、練習中は手を抜かない。異能で、先輩に追いつき、終わらせてしまった。……だったら、実力でもう一度追いつかなければ、あまりにも報われない。

    (掴めましたわ)

     歯荷は踊るように角から身を晒した。
     それは、黒服全員が同時に弾込めをしている瞬間だった。
     およそ二秒。
     男子顔負けの瞬発力を誇る歯荷は、二秒あれば、五mは余裕で進める。床を蹴り、駆け出し、驚愕する黒服の間を通過し

    「馬鹿ザマス! 大間抜けザマス!」

     黒服全員が弾込めをしていた。つまり、暗黒金持ちである錠著は例外である。彼女の持つトカレフの銃口が、歯荷を捉える。

  • 154◆xaazwm17IRZa23/06/20(火) 00:13:26

    「くたばるザマス……!」

     銃口が火を噴く。
     ——銃弾は、あらぬ方向へ飛んで行った。

    「ザマス!?」

    「おばさま」

     それは歯荷の予想通りだった。
     一歩踏み込む。
     錠著の胸に拳を当てる。

    「あなたが一番下手くそでしたわよ」

     ——寸勁。
     錠著は白目を剝き、血を吐いた。
     そして大の字で倒れると、それから二度と動かなかった。

    【錠著者絵 死亡】
    【暗黒金持ち 残り8人】

  • 155◆xaazwm17IRZa23/06/20(火) 00:14:01

    それを見届けることなく、歯荷は即座に拳銃で黒服たちの頭を撃ち抜いた。
     絶対者である錠著が倒れたことで動揺していた黒服は、碌な抵抗も出来ずにその命を終えたのだった。

    【黒服 残り5人】

    「ふぅ、上手くいきましたわね」

     歯荷は息を吐く。
     最初に錠著を倒せば、黒服は動揺すると踏んでいた。案の定だった。
     歯荷は、銃撃戦を二度目撃している。三田たちのマネモフルとの攻防も観ているし、今しがたの弾幕攻勢も観ている。撃っている者も素人に毛が生えたレベルなので、垣根や黒服ホルダーの長村・笛吹のような芸当はできないが、短距離で人に当てるには十分なスキルだった。

    「さて、皆さんと合流しませんと……」

    【試練を乗り越えたので、報酬を追加します】

    「何ですの!?」

     どこからともなく聞こえた、一切の人間味を感じられない声に、歯荷は驚愕し、周囲を観察する。
     しかし、特に怪しいものは……。

    「これは……」

     すぐ傍に置いてある物がある。歯荷はおそるおそる近づき、手にとった。
     そのアイテムとは……。

  • 156◆xaazwm17IRZa23/06/20(火) 00:22:26

    歯荷パート終了です……!

    明日は堀木パート投下の予定ですが、本部突入後の個別パートでは一番長くなると思うので、明日中に投下できないかもです……! ご了承いただけると幸いです……!

    今日も感想や考察ありがとうございます……! 
    ドラギモス……ダイスで芝野からの好感度が悪くされ、安価で「心が読めなかったから」となったことで、「正体不明」の異能が付与された、不憫なキャラです……。

    それでは、本日もありがとうございました……! 残り短いですが、最後までよろしくお願い致します……!

  • 157二次元好きの匿名さん23/06/20(火) 00:35:06

    乙でした
    自分のキャラ思いっきり棚上げする歯荷ちゃん好き

  • 158二次元好きの匿名さん23/06/20(火) 01:00:51

    お疲れ様でした〜
    あと残ってるアイテムって何がありましたかね?
    それはそうと堀木くんの死亡フラグがMAXでやばい

  • 159二次元好きの匿名さん23/06/20(火) 01:03:04

    乙です、変な語尾してるのはお互い様ザウルス
    アイテムは確か変身ベルトとか鉄球とか色々残ってるっすね…

  • 160二次元好きの匿名さん23/06/20(火) 05:50:20

    語尾で思い出したんだけど堀木の(*^-^*)と🤣ってなんか法則性あったりするのかな

  • 161二次元好きの匿名さん23/06/20(火) 14:19:09

    ほしゅ

  • 162二次元好きの匿名さん23/06/20(火) 21:41:02

    保守ザマス

  • 163二次元好きの匿名さん23/06/21(水) 02:03:19

    >>160

    見返したら初期は顔文字自体今ほど使ってなかったしまだキャラが固まる前のブレじゃなかろうか

  • 164二次元好きの匿名さん23/06/21(水) 02:38:15

    読み返したら初期は今よりも狂ってたのね堀木くん
    茜音沢をあかねっち呼ばわりはやばいだろ…

    そしてその後の歯荷ちゃんは一切キャラがブレてなくてすごい

  • 165二次元好きの匿名さん23/06/21(水) 08:33:46

    保守

  • 166二次元好きの匿名さん23/06/21(水) 18:43:31

    ほしゅ

  • 167◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 01:09:54

    短いですが、投下します……!

  • 168◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 01:10:37

     目裏晴刈は兄だ。兄は、妹の願いを叶える義務を負っている。
     高校生活に妹がいまいち馴染めていないことは分かっていた。個性豊かなメンツの前では、勝手が違うのだろう。兄として妹の奮闘を温かく見守る。
     妹は、自分のクラスメイトをデスゲームに参加させるらしい。いい解決法だと思う。物理的に排除できるし、溜飲も下げられるだろう。優勝した生徒を、子飼いの黒服として採用してもいい。
     ただ、妹は未熟だ。父親におねだりをしていたが、意見が通ることはないだろう。
     候補の学校は他にも幾つかある。妹のクラスメイトは各分野のホープが多く、人材が失われることを惜しむ声も多い。
     このままでは、妹の願いは叶わない。そう考えた晴刈は——裏工作を始めた。あらゆる根回しを行い、反対者を謀殺し、架空の理論さえでっち上げ。爆弾卿を味方につけることに成功し、見事あにまん高校3年1組をデスゲームに参加させることが決定されたのだった。長く、苦しい戦いだった。プロジェクトエックスに取り上げて欲しいくらいだ。

  • 169◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 01:11:13

     晴刈は自らの成果を妹に報告した。
     喜んでくれると思ったのだ。
     雨子は

    「そうなんだ……」

     と、何故か落ち込んでいた。
     行動が遅いと責めているのかもしれない。

    「もう、決まったこと何だよね……?」

    「ああ、絶対にお前のクラスが選ばれるよう、私が頑張ったからね(暗黒微笑)」

    「冗談のつもりだったんだけどなぁ……」

     ごめんね里美、と雨子は呟いた。
     妹は面映ゆい性格だ。素直に嬉しいと言えないのだろう、と晴刈は推測する。

    「……決まっちゃったものは仕方ないよね♡ 貧乏人どもみんなわからせてやる♡」

     憂鬱な表情から一転、勝気で元気な笑顔を見ることができ、晴刈は達成感に包まれた。

    (ああ、兄として義務を果たすことが出来た……)

     これからも、兄としての義務を果たしていこうと、晴刈は強く決意したのだった。

  • 170◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 01:12:16

    投下を終了します……!

  • 171二次元好きの匿名さん23/06/22(木) 01:19:05

    うわぁ…

  • 172二次元好きの匿名さん23/06/22(木) 01:35:16

    このシスコンが実質黒幕とか予想できん

  • 173二次元好きの匿名さん23/06/22(木) 01:39:50

    こいつが凄いのはどちらにしろ管理人と茜音沢がいるので
    本当は妹の役にすら立ってないってところよ

  • 174◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 02:14:55

    堀木VS晴刈を途中まで投下します……!
    続きは明日です……!

  • 175◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 02:15:25

     人間を仕留めるのに、戦車や砲弾は必要ない。自動小銃さえオーバーキルだ。
     拳銃さえあればいい。
     急所を撃てば即死する。
     急所を外しても、失血死する。
     射程内に対象が居れば、拳銃は無敵だ。
     どれだけ喧嘩が強くても、どれだけスポーツの才能があっても、どれだけ名刀を持っていても。
     拳銃には、勝てない。
     ——と、黒服の一人は思っていた。

  • 176◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 02:15:47

     裏社会に入り、超人の存在を知っても尚、その常識から抜け出すことが出来なかった。
     理屈としては分かっても、感覚がついてこないのだ。
     故に、主である目裏晴刈に命じられ、堀木彩に銃口を向けたとき。
     この男は油断していた。
     先に銃を向けた方が勝つ。という、常識が、この場でも適用されると勘違いした。
     堀木彩がサッカーの名プレイヤーであることは知っている。けれど、それだけだ。
     某体は子ども、頭脳は大人の名探偵のように、何か物体を蹴ってくる可能性も考えたが、不審な挙動を取った瞬間に撃てばいい。
     黒服は、拳銃の名手というわけではなかったが、至近距離で外す程素人ではなかった。
     それに、と思う。
     殺し合いはモニターで観戦していたが、この堀木彩というガキは一般人だ。
     これといった活躍はしていない。オルランドや石川と違い、銃で殺せる生物だ。
     戦車によって廃校が倒壊したとき、モニターの映像は途切れた。

  • 177◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 02:16:17

     黒服は、キルコとの戦いを知らない。
     だから、致命的な勘違いをする。
     堀木彩は、ただのメス男子だと。
     銃口を突き付けているにも関わらず、堀木彩は微笑を絶やさない。
     蠱惑的な笑み。
     顔の火傷跡が無ければ、誘惑されたかもしれない。既に堀木は美しさを損なっている。

    「目裏さま、どうしますか?」

    「私は兄として妹の仇を取らなければいけません、そのために小毬の恋人を殺さねば、後はわかりますね(暗黒微笑)」

    「了解しました」

     殺しの許可は出た。
     男は躊躇なく引き金を引いた。
     ——右手が爆発した。
     否、爆発ではない。

  • 178◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 02:16:42

     ただ、蹴られたのだ。
     男が引き金を引き終わる前に、堀木彩の蹴りが手首に襲いかかった。
     男の手首は根本からへし折れ、銃はあらぬ方に飛んで行った。
     手首を抑え、叫びながら、パニックになりながら、しかし男は勝利を確信していた。
     男は、一人ではない。
     この場に、黒服は三人居る。
     自分が失敗しても、後の二人が撃つ。
     所詮堀木彩は一人である。多少動けても、同時に三人を相手に出来ない。
     ほら、こうしている間にも銃弾が堀木を貫き……。

    (何だ?)

     弾丸が来ない。
     何故誰も撃たない?
     男は、他の二人に目をやった。
     一人は目を抑えて、蹲っている。もう一人は頭から血を流し、死んでいる。

  • 179◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 02:17:10

     いったい何があった?
     わけがわからない。
     半ばパニックに陥りながら、男は堀木に襲いかかった。
     例え手首を怪我していようと、体格はこちらが有利。メス男子。男らしさの対極にある概念。美のために、堀木はパワーを捨てたのだ。何て愚かしい。
     雄叫びとともに堀木に覆いかぶさろうとする。
     堀木はするりとそれを躱した。
     バランスを崩した男は転倒する。その背中に、堀木は足を乗せる。

    「ガッ……!」

     重い。
     万力のような力で抑えつけられ、男は悲鳴を上げた。
     堀木彩は非力……ではない。蠱惑的でフィティッシュなその肢体は、その実同年代のスポーツ系男子を容易く抑えつける怪力を有している。その怪力は、瀧沢、オルランド、新條など比較すれば見劣りするが、堀木彩もまた、「うちの体育会系は化け物だからな」と形容される、怪物の内の一人なのだ。
     大の男を脚一本で抑えつけ、堀木は懐から拳銃を取り出す。

  • 180◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 02:17:37

    「ごめんね、弾丸は節約したいんだ( ゚Д)」

     微笑を浮かべ、一切の容赦なく、撃つ。

    「撃たなきゃいけない奴が多いからね(+_)」



    (素晴らしいですね)

     と、晴刈は今、目の前で起きた神業をそう評する。
     一歩離れた位置で観ていた晴刈だからこそ、堀木彩が今やったことの異常性が分かる。
     拳銃を持った手を蹴った。
     弾が発射される前に。
     この時点で、常人では絶対に不可能な芸当だ。が、堀木がやったことはこれで終わりではない。
     部下の手から離れた拳銃はあらぬ方向へ飛んでいき、もう一人の部下の顔面に命中した。堀木を狙っていたその男は、発射のタイミングが狂わされ、銃口は予期せぬ方向を向いた。
     結果的に、撃った弾丸は三人目の黒服の眉間を貫いた。

  • 181◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 02:18:04

     かくして、三人の黒服は無力化された。
     晴刈は、部下を全て失った。

    (偶々……ではないのでしょうね。狙ってこの事態を引き起こしたのだとしたら、恐るべき空間把握能力と器用さと言わざるを得ません。同じ芸当が出来る人間が、果たして何人いるか……)

     純粋な実力なら堀木より遥かに格上である茜音沢やセピアでも難しいかもしれない。

    (ぜひとも部下に欲しい人材ですが、妹の無念を晴らすため、ここで処分しなければ)

     堀木は、油断なく晴刈を見ている。笑顔を浮かべているが、ひしひしと殺意が伝わって来た。
     目裏晴刈は堀木彩をここで始末する。そう決意している。
     同様に、堀木彩も目裏晴刈を仕留めると決意している。
     それでも、堀木は迂闊に晴刈に近づこうとしない。
     先ほどの芸当。あれは実のところ、失敗していた。
     三人目の黒服が倒れたとき。その銃口はやはり逸れ——晴刈を狙っていた。

  • 182◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 02:18:30

     上手くいけば、晴刈もまた死んでいたはずなのだ。
     が、そうならなかった。
     堀木の狙いを察した晴刈は僅かに体をずらし射線から逃れたのだ。
     その動きを、堀木は見逃していなかった。
     雑魚ではない、と堀木も気づいている。
     問題は、どこまで出来るのか。
     晴刈は懐から、拳銃を二丁取り出した。

    「私は貴方を殺します(暗黒微笑)」

    「出来るの?(失笑)」

    「絶対に出来ます(暗黒微笑) 何故なら私は太陽の息子にして雨子の兄、そして今貴方が殺した部下の雇い主、彼らの想いを背負っているのですから(暗黒微笑)」

     今の私に、不可能はありません。
     と、晴刈は断言した。
     そして、強く思い込む。
     自己催眠。

  • 183◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 02:18:54

     晴刈の特技だ。心底そう思い込むことで潜在能力を解放し、不可能を可能にする。若くして暗黒金持ちに名を連ねたのは、父の七光りだけでなく、この特技のおかげでもある。

    「ポジティブだね、いいことだよ(*^-)」

     堀木は笑う。堀木とて、メンタルの重要性はクラスの誰よりも知っている。思いの力は、人を変える。その実例を堀木はよく知っている。

    「でも、おにーさんにはここで死んでもらうからね(*_)」

     大切な人のためなら何だってできる。
     堀木彩は、そう信じている。

  • 184◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 02:20:48

    投下を終了します……!

    昨日は顔を出せず申し訳ありません……!

    毎日少しずつでも話を進められるよう頑張ります……!

    明日は引き続き堀木VS晴刈パートです。

    それでは、本日も感想や保守をありがとうございました……!

  • 185二次元好きの匿名さん23/06/22(木) 02:27:06

    お疲れ様でした〜!
    まだ98武器があるからなんとかなると信じたいが…

  • 186二次元好きの匿名さん23/06/22(木) 05:17:20

    サッカー部ってすげえ!

  • 187二次元好きの匿名さん23/06/22(木) 15:53:04

    ほしゅ

  • 188◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 23:17:14

    本日も始めさせていただきます……!
    堀木パート続きです……!

  • 189◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 23:17:38

     二丁拳銃。
     映画や漫画では頻繁に登場するが、実用性は低い。
     二つの銃を巧みに操作することは、常人には難しいからだ。
     そして、目裏晴刈は、紛れもなく常人である。
     拳銃など数える程度しか撃ったことが無い。笛吹のように弾丸を操作する技も持たない。
     二丁拳銃は無謀だ。
     しかし、晴刈は

    「どうしました、逃げるだけですか?(暗黒微笑)」

     十全に二丁拳銃を使いこなしていた。

    (何故なら私は、二丁拳銃の達人だからです)

     そんな事実は無い。
     しかし、強く……呪うように強く思い込むことで、脳のリミッターを外し、二丁拳銃使いとして覚醒する。
     若くして暗黒金持ちに名を連ねる、目裏晴刈の真骨頂。
     絶え間なく発射される弾丸を、堀木は黒服の死体を盾にしながら躱していく。
     堀木はスーパー系に片足を突っ込んだサッカープレイヤーであり、器用さにも自信がある。しかし、拳銃の扱いに長けているわけではない。
     射程距離が晴刈より短い。
     そして、持っている武器も、拳銃一丁のみ。

    (参ったな……(*_))

  • 190◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 23:18:07

     埒が空かないと堀木は思う。
     目裏晴刈をそこまで脅威には感じない。見逃すつもりはまったくないが、石川やキルコと比べれば、格下だ。
     が、早く姫氏原と合流したい。こうしている間にも、茜音沢に襲われているかもしれない。

    (うん、ちょっとお行儀が悪いけど、仕方ないよね……(*’ω))

     堀木は、鞄からそれを取り出した。
     鈍器とさえ形容される分厚い書籍。六法全書。
     三田たちと合流する前にキルコの死体から回収していたのだ。

    「こんな時に法律の勉強ですか(暗黒微笑)」

    「えへへ、姫、勉強嫌―い(*‘∀)」

     堀木は六法全書を離す。重力に従い六法全書は落下する。
     何の意味があるのか。
     ——堀木は、六法全書を蹴った。

  • 191◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 23:18:35

     この場に、麻井か文乃がいればブチ切れ不可避の所業だが、殺し合いはルール無用だろの精神で堀木はこの蛮行を成し遂げた。
     砲弾のような速さで、六法全書は晴刈に迫る。
     もし、この場に居るのが只の暗黒金持ちであったなら、死体が一つ出来上がっていただろう。
     が、目裏晴刈もまた、若くして暗黒金持ちに名を連ねた秀才。今の彼は二丁拳銃の達人でもある。

    「おお、怖い怖い(暗黒微笑)」

     首を捻り、襲来した六法全書を避ける。
     ——かかった。
     堀木は笑みを深めた。蠱惑的な笑みではなく、狩人の笑みだった。
     晴刈の後頭部に、飛来する物があった。
     それは、堀木が六法全書を蹴った、その直後に堀木に蹴られた物だった。カーブを描いて晴刈の死角に入り、その命を奪わんと頭部に迫っていた。
     晴刈は気づかない。
     むしろ、堀木の蹴りによる攻撃を躱したことに、自信を深めていた。

  • 192◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 23:19:06

     どれだけ思い込んだところで、本当の達人にはなれない。
     それを晴刈は分からされ……ない。
     晴刈の後頭部を狙っていた凶器は、掌に止められていた。
     晴刈の手ではない。メタリックな銀色に光る、機械仕掛けの腕。

    「……おや、間に合いましたね(暗黒微笑)」

     九死に一生を得たことに気づいたのか、晴刈は後ろを振り返る。
     スーツを着た、長身の男が居る。全身が特殊合金で造られた奇妙な男だ。

    (新手かな……🤮)

     只者ではない。カーブで減速させたとはいえ、高速で迫る物体を難なく掴んだのだ。
     少なくともさっき瞬殺した雑魚よりは遥かに強い。

    (ま、何とかなるよね☺)

     それでも、堀木の心は陰らない。

    「『零式処刑忍者』」

     と、晴刈は男の名前を呼んだ。

  • 193◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 23:19:34

    「この少年を始末しなさい(暗黒微笑)」

    「……御意」

     迫りくる忍者サイボーグを、堀木は微笑を浮かべて迎え撃った。



     堀木彩は、サッカープレイヤーである。
     間違っても、喧嘩自慢でもなければ、殺し屋でもない。
     人を殺したことなんて無かったし、喧嘩だって殆どしたことがない。
     こちらに迫りくるサイボーグ忍者に対し、堀木は何らプレッシャーを感じていなかった。
     堀木は、忍者を知っている。ねうねい、ラッタッターと共に、廃校を目指した。そして、石川によって破壊されてしまった。
     忍者がどの程度強いのかは、伝聞でしか知らない。
     ただ、さっきの動きを見る限り、強敵なのは間違いない。
     それでも、堀木に気負いはない。
     負けるかもしれない。死ぬかもしれない。守れないかもしれない。

  • 194◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 23:20:01

     そんな可能性を微塵も考えない。

    (蹴れそうな物はだいたい蹴っちゃったし……)

     拳銃は、もう蹴ってしまった。晴刈の後頭部を狙ったそれは、忍者に掴み取られ、握りつぶされてしまった。

    (何を蹴ろうかな……)

     考えた末に、堀木は人を蹴ることにした。サッカーなら絶対駄目だが、サッカーじゃないからセーフだ。
     蹴るのは、死体。
     今しがた撃ち殺した死体を、堀木は忍者に向かって蹴り上げた。
     スパン、と小切れいい音と共に、死体は両断される。
     忍者の二の腕から、刀が伸びている。ひゅうと堀木は口笛を吹いた。

    「中々やるね、怖いな( ;∀)」

     余裕を保ったまま、堀木は嘯く。挑発ともとれる行為に、忍者は一切の反応を示さなかった。
     ただ黙々と近づき。

  • 195◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 23:20:40

     と、思った瞬間、忍者の口元がカパリと開き、火炎放射が堀木を襲った。

    「うわ、あっつ(‘ω)」

     慌てて堀木は飛び退く。
     数時間前に顔を大火傷したばかりだ。けれど堀木にトラウマは刻まれていない。
     堀木は蹴れる物を探した。死体が一つ。生者が一人。
     そして、鞄に仕込んだ奥の手……。

    (サッカーボールが欲しいなぁ……)

     堀木にしては珍しく弱音が浮かんだ。
     せめて蹴りやすい物が欲しい。人間の体は蹴ることはできるが、速さは出ない。

    (それとも、戦法を切り替えようかな……)

     堀木は戦闘者ではない、それは、裏を返せば、堀木の戦闘スタイルはこれからどんどん進化していくことを意味する。
     コナン君戦法では限界が来ている。

    (これはサッカーじゃないんだ……(*_))

     堀木は両手を意識する。

  • 196◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 23:21:10

     殴ってもいい。抉ってもいい。切り裂いてもいい。
     他にも……。

    (ああ、そうか。そういう手段もあるね……)

     堀木は床を蹴って、跳躍した。今しがた堀木が立っていた場所に、忍者の刀が閃く。
     堀木は壁を蹴ると、忍者と晴刈の間に入る。そのまま晴刈目掛けて一直線に疾走した。
     獣じみた速さで迫る堀木に対し、晴刈は動じない。自分を達人だと思い込んでいる晴刈は

    「ほう、私狙いですか(暗黒微笑)」

     と笑みを絶やさず、二つの銃口を堀木に向ける。
     堀木は、転がっていた肉片を……両断された黒服の死体の片方を蹴飛ばした。
     人体一人分の、半分の重さしか無いそれは、かなりの速度で晴刈に迫る。

    「む……」

     晴刈は唸った。

  • 197◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 23:22:14

     直接凶器として危険なわけではないが、遮蔽物として機能することに気づいたのだ。
     その隙に、堀木は晴刈に接近し
     蹴る。
     渾身の蹴りは、人間一人を即死させる威力が込められていた。
     当たれば、石川やキルコもただでは済まない一撃だった。
     当たれば。

    「っ!?」

     止められている。
     銀色の腕が、堀木の脚を掴んで止めている。
     サイボーグ忍者、二体目。
     思わず堀木も呆然とした。その隙を、忍者は見逃さない。
     二の腕から生えた刀が一閃した。
     ぼどり、と堀木の右足が落下する。

    「ぁぐっ……!!」

  • 198◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 23:22:57

     堀木は、痛みに呻いた。脂汗をかき、顔を苦痛に歪める。
     切断部を抑え、表情を歪ませた堀木を、晴刈は無感動に見下ろしていた。

    「何だ、やっぱり演じていただけだったんですね(暗黒微笑) 健気だなぁ(暗黒微笑)」

     せっかくなので、私の手で始末しましょう。
     微笑を浮かべ、晴刈は堀木の顔に狙いをつけ、撃つ。
     銃声が響いた。



    「堀木君……?」

     霧の森を抜け、姫氏原は廊下を走っていた。
     堀木と、そして仲間と合流するために。雨子によって気づかされた自分の本当の能力で皆を助けるために。
     けれど、その足は止まる。
     どこかで銃声が聞こえたのだ。
     誰かが戦っている。急がなければ。
     そう思うのに、何故か足が動かない。
     今の銃声は、もう取返しがつかない音に思えたのだ。
     嫌な予感がしたのだ。

    「堀木君、嘘だよね……無事だよね……!?」

     姫氏原は不安を振り払うように駆けだした。ただ、恋人の無事を願って。

    【堀木彩 死亡】
    【残り 10人】

  • 199◆xaazwm17IRZa23/06/22(木) 23:23:50

    投下を終了します……!

  • 200二次元好きの匿名さん23/06/22(木) 23:27:21

    な、そん……え……?え?嘘だろ……?

  • 201二次元好きの匿名さん23/06/22(木) 23:37:13

    堀木くん…私はお前の死を受け入れる事ができん…涙も出んのだ……何故かな………堀木よ…

  • 202二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 00:13:38

    これはマジでつらい……
    姫氏原ちゃんどうなってしまうのか

  • 203二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 00:28:56

    途中までに書こうとしてた感想全部吹っ飛んだ
    堀木……せめて彼女に一言くらい遺してやってくれよぉ……

  • 204二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 00:41:00

    俺は堀木くんがまだ何か残してくれてると信じてるよ

  • 205◆xaazwm17IRZa23/06/23(金) 01:52:24

    次のパート完成遅れそうなので、今回はここまでとさせていただきます……!

    今日もたくさんの感想ありがとうございます……! ちょっとずつですがエンドに向けて行けるよう頑張るので、今後ともよろしくお願いします……!

  • 206二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 01:55:45

    お疲れ様でした〜
    こんな一番続きが気になるところで…!!

  • 207二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 09:59:40

    保守
    とうとう学生サイドから決戦編一人目の犠牲者が……( ;∀|

  • 208二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 14:27:07

    ここに堀木くんのお墓を建てよう

  • 209二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 22:06:28

    保守

  • 210◆xaazwm17IRZa23/06/23(金) 23:41:10

    今日の分を投下します……!

  • 211◆xaazwm17IRZa23/06/23(金) 23:41:54

     堀木彩の初恋は、小学6年生の時だ。
     相手は、隣のクラスの女の子。
     弱気で臆病なサッカー少年だった堀木は、一世一代の告白のために勇気を振り絞った。
     そして、玉砕した。
     否、玉砕以前の問題だった。
     告白した瞬間、堀木は吹き飛んだのだ。
     比喩ではなく、文字通り、強い力に殴られて宙を舞った。
     意識が落ちる瞬間に見えたのは、初恋の子の、恐怖で固まった表情。
     次に瞼を開けたときには病院のベッドの上だった。
     学校に戻ったときには、状況がすっかり変わっていた。
     堀木はどうやら悪霊に殴られたらしい。悪霊は女の子に取り憑いていて、近づく男に片っ端から危害を加える。当然、女の子の周囲には誰も近づかなくなった。いくら女子が殴られた事例がないとはいえ、そんなものは悪霊の匙加減で、女子が安心できる理由にはならない。
     結局、その子はすぐに転校してしまった。寂しそうに学校を去っていく様子を、堀木はグラウンドから見ていた。
     元気づけてあげたいと思った。
     けれど、堀木が近づいても悪霊に殴られるだけだ。
     取り憑かれた女の子を悲しませるだけだ。
     どうすればいいんだろう。
     自分に何が出来るのだろう。

  • 212◆xaazwm17IRZa23/06/23(金) 23:42:29

     練習が終わり、ロッカーで着替える。

    「堀木、お前さ、もっと筋肉つけたほうがいいぜ」

     コンプレックスを指摘され、堀木は苛立ちを覚える。

    「女みたいな体だもんな、名前も女っぽいし」

    「人が気にしていることを……そうか!?」

     天啓だった。
     どうすれば彼女に触れあえるのか、突破口が見えたのだ。

    「簡単なことだったんだ……」

     堀木は、決定的な言葉を呟いた。

    「女になれば良かったんだ……」



    (…………参っ、た、なぁ……)

     右足を切断された堀木は廊下に這いつくばって、離れようとする意識を必死にとどめていた。
     片足が無い。

  • 213◆xaazwm17IRZa23/06/23(金) 23:42:55

     それは、戦闘不能を意味する。
     死と同義でもある。片足を切断されたのだ。失血死は免れない。ショック死しなかっただけ、幸運だ。

    (……ま、何とか、なるよ……)

     この期に及んでなお、堀木のメンタルは崩れない。
     死の淵に立ちながらもなお、堀木彩は堀木彩で在り続ける。
     何故堀木彩の精神はこんなにも歪なのか。
     一説には、霊はネガティヴな感情を好むらしい。明るい人の周囲には霊が居つくことが出来ないのだとか。
     堀木は明るさを失わない。病的なまでに保持し続ける。
     晴刈が何か言っているが、上手く聞き取れない。ただ、ここでじっとしていると不味いことは分かる。

    (……手も、使わない、とね……)

     堀木は、両腕に力を籠める。そして、床を強く押した。
     狙うは一撃。

  • 214◆xaazwm17IRZa23/06/23(金) 23:43:30

     残った左足を鎌のように振り下ろす。
     晴刈は反応できなかった。
     一撃は首元に当たり、へし折る。
     硬い感触だった。人間の骨はこんなにも硬いのか。
     違う。
     これは、この首は……。
     首がへし折れたサイボーグが、その場に崩れ落ちる。

    「おっと、危ないところでした(暗黒微笑)」

     そんな馬鹿な……。堀木は驚愕する。確かに晴刈を狙ったはずなのに。

    「今のは変わり身の術。処刑忍者が私と瞬時に入れ替わったのですよ(暗黒微笑)」

    「ハハ……面白いね……(*_)」

     堀木は笑った。
     末期の笑みである。既にその顔は土気色になっていた。

    「では、今度こそさようならです(暗黒微笑)」

    「やだよ、っと……!」

  • 215◆xaazwm17IRZa23/06/23(金) 23:44:08

     片足で大きく跳ね、晴刈の弾丸を躱す。そのまま曲がり角を利用して壁の後ろに隠れる。

    (参ったなぁ……😅 いよいよ奥の手を切るしかないのかも)

     ロッカーを開けたときに入っていたもの。
     それを手に入れたとき、堀木はそっと懐に仕舞った。
     そして、仲間たちには嘘をついた。

    『姫のロッカーにはこれ、姫、勉強嫌いなのに~🤣』

     そう言って、あらかじめキルコの鞄から抜いていた六法全書を見せた。
     疑う者はいなかった……はずだ。少なくとも堀木の観測する範囲では。

    (普通の武器なら皆にも見せたんだけど、これはなぁ~🥲)

     懐から奥の手を取り出す。
     毒々しい色の、何らかの臓器。
     確か、【突然変異の心臓】といったか。

    (使うしか、ないか~😝)

     使わなければ堀木は助からない。選択肢は無いのだ。

  • 216◆xaazwm17IRZa23/06/23(金) 23:44:56

     説明書には色々と不吉なことが書いてあった。使えば、ただでは済まない。

    (ま、せっかく積み上げたものが無くなっちゃうのは、ちょっと残念かなぁ~、でも、まぁいいや、これはこれで楽しそうだしっ!🥳)

     ここまで切羽詰まっても、堀木彩は笑顔を崩さない。人であることを止める瀬戸際に立ってもなお、蠱惑的な、何を考えているのか分からない、究極のメス男子の表情を保ち続ける。
     突然変異の心臓がブレた。

    (あれ、どういうこと?😕)

     どうして心臓がバイブレーションを起こすのか。堀木は思案し、理由に気づく。心臓が動いているのではない。
     ——心臓を握る手が、震えているのだ。
     慌てて堀木は左腕で右手を抑えるが、震えが止まらない。

    (……うーん、そっかぁ……)

     人であることを止める。
     堀木彩が堀木彩で無くなる。
     怖い。

  • 217◆xaazwm17IRZa23/06/23(金) 23:47:18

     今抱えている記憶や想いはどうなるのか分からない。
     小毬との思い出も、好きだという気持ち……。
     失いたくない、嫌だ、怖い怖い怖い……。

    (あはははははは、笑っていればたいてい何とかなるよ😁 安心しろよ『僕』。小毬を助けたいんだろ? そのために今まで……)

     ふぅと息を吐く。視界が霞む。いよいよ限界だ。何もしなければもう少しで死ぬ。
     ——ここで死んだら、小毬を守れない。

    「怖いな……」

     ぽつりと言葉が漏れた。
     それは、かつての、気弱なサッカー少年としての本音だった。

    「でも……」

     堀木彩は心臓を握りしめる。

    「意地があるだろ、男の子には……!」

     そして、堀木彩は、突然変異の心臓を自らの胸に押し付けた。

    【『堀木彩』 死亡】

    【蝣?譛ィ蠖ゥ 生存確認】

  • 218◆xaazwm17IRZa23/06/23(金) 23:47:49

    「出てきませんね、向こうで死んでいるんでしょうか(暗黒微笑)」

     目裏晴刈は勝利を確信していた。
     否、この男は最初から勝利を確信している。自分が負けるかもしれない、死ぬかもしれないという可能性の一切を考えない。
     故に優秀、故に才媛。

    「目裏様、ここは私が……」

    「ああ、あなた、生きてたんですね(暗黒微笑)」

     堀木に瞬殺された三人のうち、一人は生きていた。彼は怒りに燃えながら、拳銃を握り、堀木が隠れた壁の裏に近づく。

    「ふん、足の届かない距離から撃てば、貴様など……!」

     嘲りながら、男は予告通り、適切な距離を保ちつつ、銃口を向け。
     ——首が飛んだ。
     晴刈から微笑が消える。
     何が起こったのか分からない。
     呆然とした表情のまま、くるくると回転する生首。

  • 219◆xaazwm17IRZa23/06/23(金) 23:48:13

    (……飛び道具を隠し持っていた? いえ、私には処刑忍者が居ます。問題ないですね(暗黒微笑))

     処刑忍者が、刀を構えながら近づく。
     未だ優位は崩れない、と晴刈は笑い。
     ——瞬時に、処刑忍者がバラバラになった。

    「……はい?」

     いったい何が、と言う前にそれは来た。
     否、来たことが分かった。
     晴刈の眼前で、爪と刀が交錯する。
     バラバラになる前に分身していた処刑忍者が、隠し刀で晴刈を守った。
     守りが間に合ったからこそ、晴刈はそれに襲われたことを知覚した。
     速すぎる。
     まるで目で追えない。
     交錯も一瞬であり、再びそれの姿は掻き消える。
     混乱した晴刈では、それの輪郭しか捉えられなかったが。

  • 220◆xaazwm17IRZa23/06/23(金) 23:48:42

    (毛むくじゃらの……牙の生えた……大きな……)

     いったい何だ?
     まるで分からない。
     処刑忍者は名の通り、それを処刑せんと刃を振るう。
     届かない。
     爪らしきもので弾かれている。そもそもが、忍者が遅すぎて捉えられない。

    「処刑忍者ッ! 数を増やしなさいッ!」

     晴刈の怒号に合わせ、処刑忍者が一気に分身の術で数を十に増やす。
     処刑忍者は密かに埋め込まれた九龍細胞によって分身している。が、その分身には制限があり、一度に十体である。限界を超えた稼働をする処刑忍者から煙が噴き出し
     次の瞬間、十体全てが粉々に切り刻まれる。
     鎌鼬が吹いたかのように、一騎当千の処刑忍者の残骸が散らばっていく。

    「今です!」

     晴刈の言葉に合わせるように、最初に堀木が首をへし折った処刑忍者の口がカパッと開いた。

  • 221◆xaazwm17IRZa23/06/23(金) 23:49:10

     噴き出すのは火炎放射。
     堀木が交わしたそれとは温度も範囲も違う。
     一瞬で処刑忍者の残骸が燃え上がる。
     それもまた、全身火達磨になる。

    「ははは、デストラップか何かでしょうが、私の敵ではありません! これが、ええ、これが、家族のために戦う私の底力……!」

     危機を乗り越え、晴刈は新たなる高みに昇ったことを感じた。事実、視点が高くなっている。
     殺した獲物を見ようと視点を下げ、おや、と思う。
     首から下が残っている。私の体だ。

    (……ああ、そういうことですか)

     晴刈は全てを察した。

    (済まない雨子、お前の仇を取ることは出来なかったよ……)

     瞼を閉じる。
     最愛の妹がにっこり微笑んでいる。

  • 222◆xaazwm17IRZa23/06/23(金) 23:49:48

    (ありがとうお兄ちゃん、私のために頑張ってくれて。いいんだ雨子、私はお前のためならどんなことでもしてみせるよ。ありがとうお兄ちゃん、大好きだよ。ははは、私もお前を愛してい……)

     ざーこ♡ 
     どこからか幻聴が聞こえたが、晴刈は無視した。

    【目裏晴刈 死亡】
    【暗黒金持ち 残り7人】
    【黒服 残り2人】

     火達磨になりながらも、それは晴刈の首を刈り取った。
     それは雄たけびをあげた。
     全身の火傷は瞬時に回復していく。
     数秒で、それは元の肉体を取り戻す。
     それは、人の姿をしていなかった。
     牙を軋ませながら、それは次の獲物を探すべく、鼻を鳴らす。

    【試練を乗り越えたので、報酬を追加します】

  • 223◆xaazwm17IRZa23/06/23(金) 23:50:16

     どこからともなく、声が聞こえた。
     そして、二つのアイテムがその場に出現する。
     目裏晴刈と零式処刑忍者。試練を二つ乗り越えたと、【管理人】は判断したのかもしれない。
     新たなるアイテム、【変身ベルト】と【サッカーシューズ】。
     堀木彩であれば、大当たりといえるアイテムたち。
     ……それの知能では、これらをどう使うのか、何であるのか理解できなかった。

     「…………Grrrrrrrr……」

     怪物は喉を鳴らすと、その場から姿を消した。
     弾丸よりもなお速い速度で、それは次の獲物の前に立つのだろう。
     後には死体と機械の残骸だけが残った。堀木彩の右足だけが、一人の少年がここで終わりを迎えたことを物語る墓標だった。

  • 224◆xaazwm17IRZa23/06/23(金) 23:50:34

    投下を終了します……!

  • 225二次元好きの匿名さん23/06/24(土) 00:01:35

    死亡メタガードがあるとはいえ堀木くんに姫氏原ちゃん襲わせるのは尊厳破壊すぎてかなしい…

  • 226二次元好きの匿名さん23/06/24(土) 00:03:23

    目裏兄は完全なヒールキャラなんだけど最期まで一切改心することなくクソ野郎だから逆に好きだったりするんだよね

  • 227◆xaazwm17IRZa23/06/24(土) 00:12:28

    本日の投下はここまでです……!

    今日も感想ありがとうございます……! 暗黒金持ちは良い感じに邪悪な設定のキャラが多くて楽しかったです……(まだ何人か残っていますが)、そして、堀木君はオープニング書いてた頃はこんなキャラになるとは思ってなかったのでびっくりです……!

    それでは、本日もありがとうございました……!

  • 228二次元好きの匿名さん23/06/24(土) 00:25:31

    こんなに凹んだのは無能なナナでミチルちゃんが死んだ時以来だよ……

  • 229二次元好きの匿名さん23/06/24(土) 00:31:23


    メス男子はそういう経緯だったのか……相変わらず設定回収が上手い

  • 230堀木を投げた人23/06/24(土) 03:02:45

    堀木にこんな男らしい死に場所をくれてありがとう

    そして石川くんとかドラっちもこれからこんな感じで死んでいくと思うと涙が出そうだよ…

  • 231二次元好きの匿名さん23/06/24(土) 06:13:36

    九龍いつの間に細胞取られてて草生やしたいけど、堀木くんの健気さや一途さ、実質的な死が何とも哀しくて草枯れる

  • 232二次元好きの匿名さん23/06/24(土) 16:26:58

    保守

  • 233二次元好きの匿名さん23/06/24(土) 22:54:25

    保守…(*^-^*)

  • 234◆xaazwm17IRZa23/06/25(日) 02:18:39

    短いですが、31話①を投下します……!

  • 235◆xaazwm17IRZa23/06/25(日) 02:19:14

    【試練を乗り越えたので、報酬を追加します】

     戦車内に声が響いた。
     金木と千頭之はきょろきょろと車内を窺う。

    「今の千頭之が言ったの?」

    「違う……もしかしてあれじゃないか? ほら、放送で茜音沢が言ってた、試練を一つ乗り越えるたびに新たな力がってやつ」

    「ああ、そう言えばそんなこと言ってたね」

     金木には、心当たりがある。
     さっき三田から電話がかかってきた。本物の三田からだ。
     戦車で撃てと言ったのは、三田の声真似をした敵だったらしい。もし偽三田の言う通りに戦車を撃っていたら、仲間が危険に晒されていた。
     幸運にも金木が東西を間違えたおかげで偽三田を倒すことが出来たのだ。

    (じゃあ私のキルスコアになったってことね)

     生まれて初めて殺人を犯したが、金木に感慨はなかった。砲撃による殺人なので死体も観ていなければ、生前の偽三田の顔も知らない。実感が沸かないのは無理もない。
     ただ、金木が殺人そのものを重く受け止める性格なのはか不明だが。
     とにかく、金木は見事暗黒金持ちを血祭にあげることが出来た。

  • 236◆xaazwm17IRZa23/06/25(日) 02:19:40

     例えそれが限りなく事故に近いにしろ、事実は事実。
     かくして、金木の足元にそのアイテムは出現する。

    「……指輪?」

     とりあえず嵌めてみる。
     説明書も付いていた。

    「どんなアイテムが手に入ったんだ?」

    「えっとね、『これは執行指輪です。指輪の装備者は"革命"と唱えて指を鳴らすだけで現生存者の中で最強のプレイヤーの首輪を爆破することが可能です』だってさ」

    「え、めっちゃ強いじゃないか……」

    「……数時間前はね」

    「あ、そっか」

     千頭之は首を撫でる。そこに首輪は嵌っていない。
     千頭之だけではない。既に、この島で首輪を嵌めている者はいないのだ。
     そして、目下の敵である茜音沢を始めとした運営陣は、当然首輪をつけていない。

    「また外れアイテム……私、なんか悪いことしたかな……」

  • 237◆xaazwm17IRZa23/06/25(日) 02:20:14

    「その……同情するよ」

     千頭之は優しく金木の背を撫でた。
     悪いことをしたかしてないかで言えば、不登校を量産したり石川と共に美人局をしたりその他諸々悪事を数多くやっているのだが、千頭之はそこまで事情を知っているわけではなかった。
     三田からは再び待機、もし敵に襲われたら戦車の機動力を生かして全力で逃亡するよう指示されているので、千頭之は入り口から顔を出して、周囲の様子を探る。念のため姫氏原から渡されていた双眼鏡も使っていた。
     指輪を撫でながら金木は思う。
     既に、説明書はぐしゃぐしゃに丸めてポッケに仕舞った。
     ——隙を見て、廃棄する。
     金木が千頭之に語った説明には、穴があった。
     意図的に伝えていない情報があったのだ。

    (『もし現生存者で最強のプレイヤーが首輪を装着していなかった場合——該当プレイヤーの心臓を停止させます』か……。今って、運営の人も巻き込んで、全員バトロワしてるってことで、いいんだよね……。石川やマネモフルだけじゃなくて、茜音沢先生もプレイヤーにカウントされてる)

     この指輪は、究極の切り札になりうる。
     三田に伝えるべきか。
     金木は、そうしなかった。

    (これをいつ使うかは私が決めていいよね、だって私のアイテムなんだから。うん、これは上手く使えば……)

     三田の言葉は正しかった。誰にでも優勝のチャンスがある。
     金木冥にだって、チャンスがある。

    (私、優勝できちゃうかも……)

     革命の時は近い。

  • 238◆xaazwm17IRZa23/06/25(日) 02:21:18

    投下を終了します……! 本日の投下はこれだけです……!
    中々プロットがまとまらず、投下頻度下がるかもしれません、申し訳ないです……!

  • 239二次元好きの匿名さん23/06/25(日) 03:06:18

    お疲れ様でした〜
    それにしても意地の悪いアイテムだな執行指輪
    今すぐ茜音沢が死んだら石川やマネモフルと椅子取りゲームが始まる訳だし、金木が優勝するにはみんなが殺されるのを待つ必要があるってことか…

  • 240二次元好きの匿名さん23/06/25(日) 07:36:14

    多少間隔が空いたっていいんだ
    むしろじっくり時間をかけて最高の構想を練っておくれ

  • 241二次元好きの匿名さん23/06/25(日) 15:22:36

    保守

  • 242二次元好きの匿名さん23/06/25(日) 23:46:13

    ☆ゅ

  • 243二次元好きの匿名さん23/06/26(月) 08:19:32

  • 244二次元好きの匿名さん23/06/26(月) 12:16:17

    そういえばループの伏線回収はどうするんだ……
    堀木は結局直接は関係無いんだっけ?

  • 245二次元好きの匿名さん23/06/26(月) 12:41:38

    ループはただのキャラ設定回収では無いだろうし…黒幕候補の管理人がそこら辺関係ありそうっすね

  • 246二次元好きの匿名さん23/06/26(月) 16:07:24

    ループは堀木の能力かと思ったら、歯荷ちゃんも前の記憶を思い出したりしてるしキャラじゃなくて世界設定の方になんかあるんだと思う

  • 247二次元好きの匿名さん23/06/26(月) 16:28:34

    "今の自分"は死んだら終わりなのにループものみたいに振る舞える堀木くんが異常なだけな気もする
    普通は記憶引き継げても死ぬの怖いよ…

  • 248◆xaazwm17IRZa23/06/26(月) 22:13:22

    本日も明日朝早いので投下できないです、申し訳ない……!

  • 249二次元好きの匿名さん23/06/26(月) 22:22:30

    早めの報告ありがたい、了解です

  • 250二次元好きの匿名さん23/06/27(火) 05:24:01

    そういえば茜音沢先生の娘をデスゲームに放り込んだのって目裏兄だったのかね
    本人をバトロワに参加させても殺せないから娘を奪って闇堕ちさせたとか?

  • 251二次元好きの匿名さん23/06/27(火) 16:24:47

    保守

  • 252二次元好きの匿名さん23/06/27(火) 23:35:36

    保守

  • 253◆xaazwm17IRZa23/06/28(水) 01:56:07

    運営側戦闘力早見表
    S+ 茜音沢 廃村の老人
    S マエストロ・セピア 拳王卿・呉偉(風格)
    A++ 九龍(群体) ティタノボア
    A+ 長村洋 ティエ・レン 笛吹享楽 高地鼓一 処刑忍者
    A 科葉師智 爆弾卿四天王
    B 破目囃子 田中屍山血河 ペギー・ジョーダン 
    C+ 拳王卿・呉偉(実力) 希咲枯春 目裏晴刈 張湖李(全盛期)
    D+ ジョン・ジョンソン 準標 一般黒服
    E+ 錠著者絵 張湖李(老人) 一般暗黒金持ち
    不明 スーツの男 【管理人】

  • 254二次元好きの匿名さん23/06/28(水) 02:11:14

    ジジイって茜音沢と同格なのか…
    ゴミみたいに瞬殺された爆弾卿四人集も意外と強くて草

  • 255◆xaazwm17IRZa23/06/28(水) 02:17:32

    A+ランクの生徒は漠然と
    石川……戦闘最強
    小田斬……殺し合い最強
    オルランド……フィジカル最強
    新條……総合力最強
    のイメージです。
    Aランクの三人娘は
    キルコ……学習能力
    瀧沢……フィジカル
    鰐淵……技術
    でそれぞれ同ランクより優れてます。
    瀧沢もジークンドーを高いレベルで習得していますが、習い始めたのが高校からなのと、怪力設定の分、他キャラとの差別化で鰐淵の方が技術値は高いということで

  • 256◆xaazwm17IRZa23/06/28(水) 02:23:12

    >>254

    一時的に倒すだけならA++~Sなんですけど、完全に消滅させるのは非常に困難なのでそれも含めてS+ですね

  • 257二次元好きの匿名さん23/06/28(水) 02:26:22

    このレスは削除されています

  • 258二次元好きの匿名さん23/06/28(水) 02:27:06

    あとは変異した堀木、灘神影流モードのマネモフル、花子さんあたりはどのくらいなんだろう?

  • 259◆xaazwm17IRZa23/06/28(水) 02:36:48

    >>258

    変異堀木はA++

    灘神影流モードのマネモフル(瀧沢戦)はB+

    花子さんは……A++くらい? 相性バトルなので……

  • 260◆xaazwm17IRZa23/06/28(水) 02:46:09

    花子さんの退治方法としては
    ①結の異能で具現化を解く
    ②除霊技を打ちこむ
    ③トイレごと破壊する
    ④より強い異能で押しつぶす
    ⑤結界を張る
    のいずれかが有効です。
    なお、逃れるだけならトイレの入り口の段階で全力バックステップすれば捕まらずに済みます。

  • 261◆xaazwm17IRZa23/06/28(水) 02:47:18

    それでは明日には投下できると思います、本日もありがとうございました……!

  • 262二次元好きの匿名さん23/06/28(水) 02:53:37

    お疲れ様でした〜
    次の展開が予測つかないけどジジイvs石川とかかな

  • 263二次元好きの匿名さん23/06/28(水) 09:22:04

    ほし

  • 264二次元好きの匿名さん23/06/28(水) 18:43:01

    強さの訳を聞けば黒服三人衆も爺との邂逅でもう少し冷静に連携できてればワンチャンあったんだろうな…いや倒そうにも決定打がなさそうだけど

  • 265二次元好きの匿名さん23/06/28(水) 23:27:52

    暗黒保守

  • 266◆xaazwm17IRZa23/06/29(木) 02:19:31

    本日の分を投下します……!

  • 267◆xaazwm17IRZa23/06/29(木) 02:20:21

    「おっ、らぁっ!」

     裂帛の気合と共に、石川は翁の頬を殴りつけた。
     大の男でも一撃でノックアウト、最悪即死の可能性さえ含む攻撃は、石川にとって小手調べだ。

    (さぁ、どうなる……?)

     翁は未知数だ。
     廃村で遭遇したとき、石川は戦闘を回避した。
     翁の正体が掴めず、戦って面白いかどうかも分からなかったからだ。
     戦いを愉しみたい石川を美食家に喩えるなら、廃村の翁は新種の茸である。味に興味はあるが、メインディッシュ(クラスメイトや茜音沢)を前に、腹を壊したくないという計算が働いたのだ。
     ならば、どうして今回戦闘を選んだのか。

    (雰囲気が違った。廃村のときは何の臭いもしなかったが……今は血の臭いがする……人を襲ったな……だったらカテゴライズは簡単だ)

    「『怪物』だろ?」

     殴られた翁はピンボールのように吹き飛ぶ。石川の拳には、殴った感触が残った。

    「よし、殴れるな!」

     姫氏原の悪霊を殴っていたときのような、威力が減衰される感覚が、無い。

  • 268◆xaazwm17IRZa23/06/29(木) 02:20:44

     石川の膂力をダイレクトに伝えることができている。
     石川は、今しがた死者の森を通過した。死の淵に立ったキルコが悪霊を視認できたように、石川もまた、一時的に死者の世界を通過したことで、霊や怪異に干渉する力を獲得したのだ。

    「殴れるなら、楽しめるってことだな」

     石川は駆けた。
     マッハ婆と追いかけっこができる脚力を使い、一瞬で翁と距離をつめる。
     翁が口を大きく開けた。
     覗くのは銃口。
     身体を屈めて射線を躱した石川は、顎をかち上げるようにアッパーを叩き込む。
     翁の体が衝撃で宙に浮く。
     追撃に、鳩尾に蹴りを入れる。体をくの字に曲げ、翁が再び吹き飛ぶ。
     その落下地点に、石川は既に到達している。

    「くたばれ爺」

     踵落としが翁の額に落ちる。

  • 269◆xaazwm17IRZa23/06/29(木) 02:21:12

    衝撃で床にクレーターが発生する程の一撃。

    (さぁ、どうなる?)



     罅が入った廊下から、一歩、二歩、下がる。
     何が起きるのか。
     何も起こらないのか。

    (あれで終わりってわけじゃないよなぁ)

     だとしたら、呆気なさ過ぎる。
     体力ゲージで言えば、石川はまるで消耗していない。

    (今度はそっちの番だぜ爺)

     石川の期待に応えるかのように、翁はむくりと上体を起こした。
     そのまま何事も無かったかのように立ち上がる。

    (やっぱり、只者じゃねぇな)

     姫氏原の悪霊のような、衝撃が伝わっていない感覚は、無い。
     確かに石川の攻撃は伝わっている。

  • 270◆xaazwm17IRZa23/06/29(木) 02:21:36

     その上で、翁がタフなのだ。

    (あるいは、どれだけ攻撃をしてもダメージを負わない……そんな特性でもあるのか?)

     ラッタッターは無効化。
     姫氏原の悪霊は減衰。
     そして、翁はHP無限。
     だとしたらどう工夫する。
     立ち上がった翁は、拳法の構えをとった。中国拳法だと、石川は気づく。

    「崩拳」

     突き出された拳を避け、お返しとばかりに拳を打つ。
     この技をまともに喰らうと危険だ。が、当たらなければどうということはない。
     一撃を入れれば、連続で攻撃が繋がる。あらゆる武術・格闘技の基本である技のコンビネーション。石川は無数の実戦経験から、もはや「石川流」と言える独自の技術体系を獲得している。
     半分の背丈程の老人を滅多打ちする。時折、老人は抵抗する。口から銃が飛び出し、髪の毛が自在に動き、心臓に作用する異能を使おうとする。

  • 271◆xaazwm17IRZa23/06/29(木) 02:22:02

     が、技のおこりを読み、その前に潰す。
     RPGのようにターン制ならともかく、実戦では相手に技を出させないことが何より重要である。
     あるいは、石川に余裕があれば、翁の技を正面から耐えようとしたのかもしれない。
     が、石川にとって翁は突然出現したエネミーでしかなく、優先順位は低い。
     これからラスボス・茜音沢との死闘が待っている。
     戦闘は楽しみたいが、無駄な消耗はしたくない。
     故に、殴る。一方的に殴り続ける。

    (……なんか、おかしくねぇか?)

     殴りながら、石川は思う。
     ——爺が弱すぎる。
     石川は挑戦者のつもりで殴りかかった。が、始まってみれば一方的だ。
     気配を読み違えたのか。

  • 272◆xaazwm17IRZa23/06/29(木) 02:22:26

     ……実のところ、翁は万全ではない。一度マエストロ・セピアによって除霊されたとき、翁は貯め込んでいた魂を吐き出してしまった。今、九龍が分裂したことで復活を果たしたが、そのストックは増えるはずだった九龍、そして取り込んだ九龍、会わせて二人分の魂である。
     つまるところNP不足。
     黒服ホルダーを瞬殺した頃と比べ、その動きは精彩を欠き、いいように石川にやられていく。
     それでも、除霊されない限り、翁が消えることは無い。
     が、今の翁では、石川を喰らうことは不可能である。
     石川に蹴られ、翁は毬のように転がっていく。

    (俺じゃこいつを倒せねぇし、ディスク持ってる奴と合流して除霊してもらうか。そいつのところまでこうやって攻撃しながら運べばいい……お、あれは)

     ごろごろと翁は転がっていく。
     階段まで。

    (階段、か。またワープすんのか)

     それはちと不味いな、と石川は思う。

  • 273◆xaazwm17IRZa23/06/29(木) 02:22:50

     自分だからこうも一方的にボコボコにしているが、例えばドラギモスあたりが単体で遭遇すれば、死んでしまうだろう。

    (いや、ドラちゃんなら何とかするかもしれねぇけどよ。まぁいいや。ワープする前に回収しねぇと)

    「待てこらおい!」

     石川は駆けた。
     翁はわざとそうしているのかごろごろと階段のほうに転がっていく。
     それに追いつき、石川は足を落として翁を地面に縫い付けようとする。
     ズン。
     石川は足を踏み下ろす。
     ぬるり。
     と、翁は分裂した。

    「あ!? てめぇ……!」

     アメーバのように動きながら翁は階段まで滑り、水がしたたるように、どろりと階段に広がった。

  • 274◆xaazwm17IRZa23/06/29(木) 02:23:15

     一段、二段、三段.
     少しずつ下に向かって落ちていく。

    「ああ、これ、どうすりゃいいんだ……?」

     液状化した翁を前に、石川は面食らう。
     その間に、翁はどんどん広がっていく。
     四段、五段、六段.
     ふと、石川の背筋に悪寒が走った。
     今、自分は致命的なミスを犯した。
     そう思ったのだ。

    (何だ? 俺は何を……)

     とにかく、このままでは翁がワープしてしまう可能性がある。本部の全ての階段が、ワープ装置付きだとは思えないが、念のためだ。
     七段、八段、九段.

    (そうか、階段ごと破壊すれば……!)

     脳筋戦法を思いつき、石川は直ちに実行する。

  • 275◆xaazwm17IRZa23/06/29(木) 02:23:38

     階段まで走り、一段目を踵落としで粉砕しようとする。
     液状化していた翁の水面から、長槍が突き出された。
     咄嗟に避ける。一手、遅れる。
     十段、十一段、十二段。

    (ちっ、ワープしちまうか。だったら他の奴と早く合流を……)

     十三階段。
     翁は、ワープしなかった。
     ただの階段だったから、ではない。
     石川の危惧通り、これは十三階段。
     予想と違ったのは、死者の森を経由してランダムにワープするのではなく、【この世に未練のある死者を呼び出す】という性質のもの。
     さて、一つ確認しなくてはならないが。
     この世に未練のない死者が、果たしているのだろうか?
     殺し合いという状況下で、存在するのだろうか。
     もしかしたら、生徒の何人かは未練なく命を失えたのかもしれない。

  • 276◆xaazwm17IRZa23/06/29(木) 02:24:04

     あるいは未練こそ残せど、再び現世に戻す選択肢は取らないのかもしれない。
     もし、階段を通ったのが、生徒であったならば、死者から生者への激励がかけられる展開があったのだろう。
     結からドラギモスへ、星峰から篠宮へ、鰐淵から千頭之へ。
     束の間の再会があったのかもしれない。

     そうはならなかった。

     十三階段に、死者が、死者の群れが出現する。
     黒服である。
     暗黒金持ちである。
     殺し合いの監督者・観戦者であったはずの彼らは、この島で最も未練を残した死者たちであった。
     死したはずの邪悪とその使役が、復活する。
     百を超える有象無象が、団子状に階段に密集して現れ。
     彼ら死者は何一つ言葉を遺すことなく、液状化した翁に包まれる。
     消化は、一瞬だった。

  • 277◆xaazwm17IRZa23/06/29(木) 02:24:29

     死者の魂が消え失せる。
     残ったのは、一人の翁であった。
     翁は、階段の入り口で呆然と立っている石川を見上げる。

    「こんにちは」

     翁が、口を開いた。

    「きみは、わるいこだね?」

    「…………だったらどうだって言うんだ、爺」

     にちにちと翁の口角が吊り上がる。
     石川の本能が警鐘を鳴らしている。
     石川は知らない。今までの翁は、取り込んだ魂が少ないがための弱さだったと知らない。
     たった20程度の魂を捕食した段階で、石川と同格の黒服を圧倒した事実を知らない。
     ただ、何となく理解はできる。

    (今までとは、圧が別物だぜ……)

  • 278◆xaazwm17IRZa23/06/29(木) 02:24:56

     高校一年のとき、茜音沢に喧嘩を売ってのされた。
     あの時の恐怖を、遥かに上回る絶望感。
     それでも、廃村の時とは違う。
     あの時出会った翁とは、何かが変質しているのだ。石川の頭では上手く言語化できないが、何かが違う。

    「俺が悪い子だとして、爺、どうすんだよ」

     けたけたけたけたと翁は笑った。
     そして

    「わぁああああああああああああるいこはぁああああああああああああたべちゃおううううううううねえええええええええ!!」

     裂けるように口が開く。中には無数の翁が嗤っていた。
     もぞもぞと口から翁が這い出して来る。
     無数の翁は四つ足で這いまわりながら石川の方まで登ってくる。

    「いいぜ、来るならこい!」

     最初に到達した翁の頭を蹴り飛ばし、石川は吠える。

  • 279◆xaazwm17IRZa23/06/29(木) 02:25:25

    「いえ、これくらいにしておきます」

     翁が静止した。
     そして無数の翁が、全ての翁が、風船のように膨らんでいく。

    「あぁ!? 何だそりゃ……っ!」

     石川の顔色が変わった。
     風船の内側で、生物の影が見えたのだ。
     枯木のような生物が、一人一人の翁の内側に詰まっている。
     あれも、翁、なのか。
     動物的な本能に突き動かされ、石川は階段から離れた。
     翁が、弾けた。
     爆弾のように翁をまき散らしながら、次々と翁が弾けていく。
     世界を浸蝕するかのように、翁はその数を増やしていく。
     階段からあふれ出し、ある者は上へ昇り、ある者は下へ降り。ある者は廊下を翁で満たし。ある者は各個室に入り込んで充満し。ある者はガラスを破って本部の外へ溢れ出す。
     一度は消滅寸前まで追い込まれた翁が、完全に復活を遂げた瞬間であった。
     老人の狂笑が本部を覆った。

  • 280◆xaazwm17IRZa23/06/29(木) 02:25:41

    投下を終了します……!

  • 281二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 02:30:15

    もう誰も勝てないだろ
    どうすんだこれ…

  • 282◆xaazwm17IRZa23/06/29(木) 02:45:00

    本日の投下はここまでです……!

    次の投下は金曜日になると思います……頻度が遅く申し訳ありません……!

    感想&保守感謝です……! 六月いっぱいで終わるのは絶対無理なので、今後ともよろしくお願い致します……!

    それでは、本日もありがとうございました……!

  • 283二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 02:51:49

    乙でした〜
    7月いっぱいには完結かな?
    個人的には寧ろ終わらないでほしいけど

    このクオリティを保ったまま4ヶ月も放り出さずに続けられるの尊敬する

  • 284二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 09:30:05

    真面目にどう決着付ける気だこれ
    流石に全チームでvs爺パートやるつもりはないと思いたいが

  • 285二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 19:22:24

    保守爺

  • 286二次元好きの匿名さん23/06/30(金) 00:57:11

    保守

  • 287二次元好きの匿名さん23/06/30(金) 08:17:40

    保守だねえぇ

  • 288二次元好きの匿名さん23/06/30(金) 13:21:21

    スーパー爺大戦開戦だぁっ!

  • 289二次元好きの匿名さん23/06/30(金) 23:04:23

  • 290◆xaazwm17IRZa23/06/30(金) 23:33:41

    31話①投下します……!

  • 291◆xaazwm17IRZa23/06/30(金) 23:34:19

     そういえば、と石川は思った。
     自分は、いつも独りで戦っている。
     公園で喧嘩をした時も、校庭で乱闘した時も、裏路地で闘争をした時も。
     いつも独りだ。
     それを、寂しいと思ったことは、ない。
     ただ、独りの方が気楽だ、とも思っていない。
     あえて独りになったのではなく、石川が石川らしく生きていた結果、いつだって独りだったというだけのことだ。
     そこに後悔は無いし、そこに間違いは無かった。
     この殺し合いで殺したクラスメイトについても、全ては戦いの結果であり、もう戦えなくて残念だとは思っても、殺してしまったことは気にしていない。
     元々、この島に来る前から、石川は殺人者だ。
     誰かに受け入れられるはずがない。

  • 292◆xaazwm17IRZa23/06/30(金) 23:34:42

     同じ殺人者の小田斬にも拒絶された。
     自分より一桁多くは殺しているであろう小田斬にさえ、石川という個性は認められなかった。

    (……別に寂しくはねぇよ)

     ただ、何となく思っただけなのだ。
     自分はいつも独りだと。
     一緒にヤクザと戦っても、拒絶され。
     仲間と共に巨悪の本部に乗り込んでも、分断される。
     そして——独りで死んでいく。
     今、石川の周囲は、枯木のような老人が取り囲んでいる。
     ケタケタと奇怪な笑い声を立てながら、石川を捕食せんと迫っている。
     ——勝てない。
     石川の闘争本能は、瞬時に解を導き出す。
     さっきまでボコボコにしていた老人とは、雰囲気からして別物だ。
     否、さっきまでにしても、老人を消す有効な手立てがなかった。

  • 293◆xaazwm17IRZa23/06/30(金) 23:35:19

     石川が圧倒的に優位でありながら、殺しきれず、結果として今の大惨事を招いている。
     一つのフロアに老人が密集し、天井にも這っている。
     窓を割って外に出ていく老人もあった。
     それらを観察しながら、石川は笑った。

    「おいおい何だこれ、現代日本か?」

     座学が残念な石川はとりあえずそれっぽいことを言い、んんーとけのびをする。
     死ぬ。
     自分はここで死ぬ。
     助かる手段は無い。
     こうも囲まれては逃げることも不可能だ。命乞いも通じそうにないし、それは石川のポリシーに反する。
     人は死んだら終わり。
     天国地獄や生まれ変わりを何一つ信じていない石川は、迫りくる絶対的な死を、冷静に受け止めていた。

  • 294◆xaazwm17IRZa23/06/30(金) 23:35:43

    「なるほどねぇ、俺はここで終わりなのか」

     言葉にしてみても、不思議と恐怖は湧いてこない。
     ただ、そうか、という納得がある。
     未練はある。茜音沢と戦えなかった未練。生存したクラスメイトにも面白い奴は何人もいた。
     この島に来ていない強者だって居る。学内にも、学外にも。
     まだ生まれていない強者だっているだろう。
     それらとはもう戦えない。
     残念だ。
     とてもとても、残念だ。
     でも、仕方ない。
     負けたら死ぬ。
     弱いから死ぬ。
     石川は、この老人より弱いから死ぬ。
     自然の摂理だ。どうにも仕様がない。

  • 295◆xaazwm17IRZa23/06/30(金) 23:36:10

    「ま、死ぬ前に大暴れしてやるぜ」

     石川は拳を鳴らした。
     それが合図だった。
     四方八方から老人が飛び掛かる。
     我武者羅に拳を振るう。
     殴られた老人は泥のように潰れていく。
     潰れた老人を踏み越えて、新たな老人が迫る。
     殴る、殴る、殴る……!
     銃声と共に、肩に痛みが走る。
     ——軽傷だ。
     脇腹に焼けるような熱が広がる。
     ——かすり傷だ。
     老人の拳が鳩尾を抉る。
     ——致命傷には、ほど遠い。

    「クックック…………ぎゃはははははははははははははは!!」

    「けたけたけたけたけたけたけたけたけたけた!!」

  • 296◆xaazwm17IRZa23/06/30(金) 23:36:49

     石川は笑った。
     老人もまた笑った。
     少しずつ、石川は削られていく。
     体力が、細胞が、骨格が、筋肉が。削がれていく。失われていく。
     自分はいつか、大勢に囲まれて死ぬと、漫然とそう思っていた。
     その相手が不気味な爺だとは予想外だが、まぁ悪くないのだろう。
     絡みつく老人を振り払い、蹴りつける。
     切り裂こうとする老人を躱し、殴りつける。
     撃とうとする老人に対して、老人を投げつける。
     老人の数が減ることはない。
     無限に対して石川は有限だ。
     いつか終わりがやってくる。
     背中を斬られる。大したことはない。

  • 297◆xaazwm17IRZa23/06/30(金) 23:37:21

     視界が眩む。大した事ないはずだったのに。
     いよいよ終わりだ。
     石川は空を仰いだ。当然見えるのは灰色の天井、そこを這いまわる無数の老人という地獄絵図。
     やっぱり独りなのか、と石川は思った。

    「悪い子だぁあああああああああああああああ!」

    「……知ってるよ」

     飛び掛かって来た老人を殴り潰す。
     その隙に新たな老人が飛び掛かる。
     終わらない。どれだけ水面を殴っても、海が消えることはない。
     百を超える魂を捕らえた老人に対して、石川はあまりにも矮小だ。

    「……クックック」

     石川は滑稽そうに笑った。

    「なまはげ気取りか、爺。悪い子どもを懲らしめるってか?」

     老人の身体を引き千切る。

  • 298◆xaazwm17IRZa23/06/30(金) 23:37:44

    「人喰いの化け物が、道徳語ってんじゃねぇぞ!」

     廃村で遭遇したとき、石川は戦闘を回避した。
     何故なら、得体が知れなかったから。
     強いかも、弱いかも分からない。
     そういう尺度で測っていいものかも分からない。
     茜音沢とは別種の恐怖を感じた。
     今はどうだ?
     なるほど、強いのだろう。
     茜音沢よりも強いのかもしれない。
     少なくとも、石川よりはずっと強いのだろう。
     けれど——怖くない。
     わけのわからない爺の正体は、ただの不死身の人喰いだった。
     理解する。
     理解できてしまえば、もう、怖くない。

    「廃村で遭った頃のが怖かったぜ、爺」

  • 299◆xaazwm17IRZa23/06/30(金) 23:38:09

     石川は吐き捨てる。
     老人の顔が——怒りで歪んだ。

    (お、化けの皮が剝がれたな……。よし、カウンターも決めれて気分いいし、もう十五分くらい殴ったら死んどくか。クラスの奴らのために減らしときたいんだけどな~、こいつらいくら殺しても数全然減らないんだよな~)

     あー面倒くさいな、と石川は息を吐いた。
     殺到する老人を殺し続ける。
     殺して、殺して、殺して……。
     唐突に、空が爆発した。
     否、空ではない。上だ。天井が砕け散った。
     上階から、何かが落ちてくる。
     人の形をしている。
     小さい。
     可愛らしい容姿をしている。
     虎肝ドラギモスが、落ちてくる。

  • 300◆xaazwm17IRZa23/06/30(金) 23:38:40

    「どらっち……?」

    「いしか……っ!」

     一瞬でドラギモスが見えなくなる。
     地上の翁から伸びた髪の毛が、ドラギモスを覆い隠す。
     不味い、と石川はドラギモスを救わんと拳を構え——
     ざばり、と髪の毛が切断され、宙を舞った。
     そのままドラギモスは落下を続け。翁の上に落ちる。蟻のように、翁がドラギモスに群がり。

    『全集中! 水の呼吸 壱ノ型! 水面斬り! ザバァー!!(CV花江夏樹)』

     群がっていた翁が、瞬時に塵に還った。
     取り囲んでいた翁が、怯えるように後ずさる。
     それは、異常な光景だった。
     ゆっくりと、ドラギモスが立ち上がる。手には、青い刀が握られている。

    「どらっち……?」

     石川の頭は疑問符で埋め尽くされた。

  • 301◆xaazwm17IRZa23/06/30(金) 23:39:08

     どうしてここにドラギモスが居るのか。
     上で何が起こったのか。
     その刀は、何なのか。
     訊きたいことは山ほどあった。
     が、石川はそれをぐっとこらえた。
     今、もっともしなければならない質問は一つだからだ。

    「なぁどらっち、一緒に喧嘩しねぇか?」

     刀に体重を預けながら、ドラギモスは不敵に笑った。

    「今日だけだぜ」

  • 302◆xaazwm17IRZa23/06/30(金) 23:39:44

    31話①を終了します……! 

  • 303二次元好きの匿名さん23/06/30(金) 23:48:05

    嘘でしょ!??
    まぁジジイは倒す必要はないってことか

  • 304二次元好きの匿名さん23/06/30(金) 23:53:51

    どういうことなの?(レ)…DX日輪刀がなんか変化してる。とりま共闘か熱くて楽しみだ!

  • 305◆xaazwm17IRZa23/07/01(土) 00:09:03

    本日はここまでとさせていただきます……!

    昨日はお休みいただき申し訳ありません……!
    その間保守をしていただき、ありがとうございます……!

    明日は13時頃から始めさせていただきます……!

    それでは、本日もありがとうございました……!

  • 306二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 00:10:20

    今夜もお疲れ様でした
    久々の昼更新だ!

  • 307二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 05:44:38

    このレスが回収されるとはね……

  • 308二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 06:49:41

    石ドラキテる

  • 309二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 07:31:02

    距離が近くなってきたと言うことは…
    今度こそは死に分かれないといいねぇ……

  • 310二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 08:21:42

    廃校編終盤からの主人公ムーブでドラギモスが最推しになった者は多いと聞く……

  • 311◆xaazwm17IRZa23/07/01(土) 13:49:02

    すいません、投下遅れます……!

  • 312◆xaazwm17IRZa23/07/01(土) 16:58:10

    墓蟹と爆弾卿の関係性dice1d100=23 (23)

  • 313二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 17:07:58

    成る程…0ではないか

  • 314二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 17:52:40

    世界中にばら撒かれた爆弾卿の種の一人とかかもしれん

  • 315◆xaazwm17IRZa23/07/01(土) 20:35:07

    お待たせ致しました……!
    31話②Aを投下します……!

  • 316◆xaazwm17IRZa23/07/01(土) 20:35:47

     現生存者最弱……否、あにまん高校最弱の存在である虎肝ドラギモスには、しかし心強い武器が在る。
     疑似的な未来予知、「未来視のタリスマン」。
     死者の記憶・異能を復活させる、「奇跡のディスク」。
     全国の子どもたちに大人気、「DX日輪刀」。
     拾った拳銃。
     が、「未来視のタリスマン」は十三階段のようなオカルト系脅威には無力であり、「奇跡のディスク」はドラギモスは使用不可、「DX日輪刀」は玩具である。
     唯一頼りになる拳銃も、ドラギモスの筋力では満足に扱えない。
     結局ドラギモスは外見と声の良さと頭脳で勝負するしかない。
     そう思っていたのだが。

    「ふーん」

     と、DX日輪刀を観察しているのは冬爺凛。
     ドラギモスたちを殺し合いに送り込んだ運営の一人であり、恨み骨髄の相手だ。が、今は一応対茜音沢で同盟を張っている。そこに信頼関係は微塵もないが……。

  • 317◆xaazwm17IRZa23/07/01(土) 20:36:22

    「ただの玩具をアイテムに加えて、どうするつもりだったのかと思ったけど……これ、コンボ前提のアイテムなのね」

    「コンボ?」

     と、訊いたのはもう一人の同盟者、墓蟹毒美である。
     時折ドラギモスの肢体に熱い視線を這わせるが、ドラギモスは徹底的に無視していた。

    「別のアイテムと組み合わせること前提なのよ」

    「例えばどれだ?」

     とドラギモスは訊く。ドラギモスの頭脳でもすぐに答えが思い浮かばない。思いついていれば石川戦でとっくに披露している。例えばディスクで剣士スキルを手にしたとしても、玩具よりもその辺の木の棒で殴ったほうが効果的なはずだ。無理して花江夏樹を酷使する必要は無い。

    「そうね……『栄光の手』とか」

    「どういうアイテムだそれは?」

    「アイテムを進化させるアイテムよ。もっとも、大抵のアイテムは進化させてもあまり変化はないけど……」

  • 318◆xaazwm17IRZa23/07/01(土) 20:36:54

    「例えば拳銃を進化させるとどうなる?」

    「装填数が増えたり、射程が伸びたり……とかかしら。ショットガンやマシンガンに進化はしないと思うわ」

     だとしたら、DX日輪刀も期待薄だ。進化したところで収録された台詞数が増えるだけかもしれない。
     ドラギモスの失望した顔を察したのか、違うわ、と冬爺は言った。

    「それが外れであればあるほど進化のふり幅は大きくなる。DX日輪刀なら、きっと別物に進化するはずだわ。試してみる価値はあるんじゃないかしら」

    「そうだな……で、その『栄光の手』とやらはどこにあるんだ?」

    「二つあって、一つは廃校理科室……もう一つは」

     ここよ、と冬爺は指差す。
     何の変哲もない、本部の一室だ。

    「ここは倉庫として使われていてね、色んなアイテムが放り込まれてあるの」

    「不用心な……」

    「ほとんどがガラクタよ。『栄光の手』も、外見はただの木乃伊の腕だし……」

  • 319◆xaazwm17IRZa23/07/01(土) 20:37:22

     そう言って、冬爺は倉庫のドアを開ける。
     十畳ほどの大きさで、冬爺の言葉通り、所狭しと様々なアイテムが並べられている。
     が、それよりももっと重要なのは、倉庫の中で人が死んでいることだった。
     顔を布で隠したスーツの男が、うつ伏せで倒れている。

    「これって、『スーツの男』……?」

    「ここで死んでいたんですね」

     二人の運営者は知っていたようだ。
     ただの黒服とは違うということは、個性を主張する装いから分かる。
     が、今となっては死んでいる。
     殺した人物も、既にこの場を去っているようだ。

    (外傷は無いな、異能による攻撃、あるいは毒殺か? 気にはなるが、探求している時間はない……)

     気になったのは、スーツの男の傍に置いてあるスマホだ。
     ドラギモスはそれを拾い上げる。

  • 320◆xaazwm17IRZa23/07/01(土) 20:37:53

    (セキュリティーはかかっていない……直前まで誰かと通話していたのか……『管理人』……何者なんだ?)

     二人にばれないように、こっそりとスマホを回収する。

    「あ、あった、これだわ」

     ガラクタの山から、冬爺は木乃伊の腕を見つけ出した。

    「しかし冬爺さん、外れアイテムを進化できるなら、ここにあるアイテムを手あたり次第進化させればいいのでは……?」

    「栄光の手が使えるのは一回だけよ」

    「そうですか……」

     墓蟹は肩を落とした。

    「とにかく、使ってみましょ……」

     ごう、という音が倉庫の外から聞こえた。
     豪雨のような音が響く。
     雨、ではない。足音だ。
     大勢の人間が走る音が、倉庫の外から聞こえる。

  • 321◆xaazwm17IRZa23/07/01(土) 20:38:28

    「何かしらいったい」

    「まだこんなに生き残りが居たんでしょうか……?」

     二人の大人は顔を見合わせる。

    「……すぐにドアを閉めろ」

     と、ドラギモスは言った。

    「タリスマンに反応は無いが……嫌な予感がする」

     偉そうに言ってないでお前が閉めろよ、と言いたげな表情を浮かべながらそれでも墓蟹はドアに近づき
     ——外から伸びた手に掴まれ、あっという間に姿を消してしまった。

    「や、やめろー! お、俺は爆弾卿の……!」

     墓蟹の断末魔が響く。
     二人の反応は速かった。
     一瞬でドアまで駆け寄ると、あっという間に鍵をかける。
     一瞬後に、外からドアを叩く音が無数に聞こえた。
     墓蟹が帰って来たのではない、と二人は悟っている。

  • 322◆xaazwm17IRZa23/07/01(土) 20:40:27

    「……不味いことになったわね」

    「何かわかるか、冬爺」

    「冬爺お姉さんと言いな、クソガキ。こんな大部隊を率いられるの何て、爆弾卿か張の九龍くらいだけど……どっちも既に壊滅しているだろうし……」

     まさか、と冬爺は唸る。

    「廃村の爺か!?」

    「おいおい、廃村に老人ホームでもあったのか? 足音の数からして、参加者の僕らより数が多いじゃないか」

    「……石川と遭遇時に分裂は確認されてたけど、こうも増えるなんてね。あれをどうにか出来るのなんて、【異能殺し】くらいだけど……」

     けたけたという笑い声が、壁の外から聞こえてくる。

    「頼みの綱は、DX日輪刀か」

    「どこまで効果があるのか未知数だけど、やるしかないわね」

     ドラギモスはDX日輪刀を栄光の手に握らせる。
     壁の外から聞こえる老人の声は、どんどん大きくなっていくのだった。

    【墓蟹毒美 死亡】
    【暗黒金持ち 残り6人】

  • 323◆xaazwm17IRZa23/07/01(土) 20:41:46

    31話②Aを終了します……!
    時間を置いて、31話②Bを投下します……!

  • 324二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 20:58:53

    このレスは削除されています

  • 325◆xaazwm17IRZa23/07/01(土) 22:52:36

    31話②Bを投下します……!

  • 326◆xaazwm17IRZa23/07/01(土) 22:53:21

     まるでゾンビ映画みたいだな、とドラギモスは思った。
     狭い部屋に閉じ込められ、外には謎のモンスターが徘徊している。
     一瞬見えた腕は、枯木のようで、ますますゾンビのイメージを強くさせた。

    (ゾンビ系か……ホラージャンルでは、まだ観れる方だな。理不尽幽霊系と比べると……)

     ■と一緒に観たことを思い出す。
     が、いつまでも追想に浸るわけにはいかない。
     隣では冬爺が栄光の手でDX日輪刀を掴んでいる。
     鬼気迫る表情で木乃伊の腕で玩具を掴んでいる様子は、狂気を感じさせるものだった。

    「どうだ、冬爺……?」

    「まだよ。進化には時間がかかる」

    「だけど、時間はもうないぞ」

     ドアを叩く音はますます強くなっている。

  • 327◆xaazwm17IRZa23/07/01(土) 22:53:50

     後数分で、ドアの外の怪物たちが中に雪崩れ込んでくるだろう。

    「あけてあけてあけてあけてあけてあけて」

     そんな声さえ聞こえてくる。

    (ここで終わりなのか……?)

     弱気な考えが浮かび、ドラギモスは首を振った。
     茜音沢を倒し、生きて帰る。
     そう決めたのだ。

    (DX日輪刀には頼らずに、別の手段で状況への対処を……)

     さしあたり、突破口を開きそうなのは、スーツの男のスマホだと、ドラギモスがそう思考したとき。
     破砕音が、壁の外から聞こえた。
     いよいよ、怪物が雪崩れ込んでくるのか。ドラギモスはガラクタの中から武器を探そうとし——外から、老人の絶叫が聞こえた。
     そして、同時に少女の声も。

    「どけ! 私は彼氏持ちだぞ!」

  • 328◆xaazwm17IRZa23/07/01(土) 22:54:20

    「この声……姫氏原か?」

     姫氏原! とドラギモスはドア越しに叫んだ。

    「僕はここだ!」

    「ドラギモスくんちゃん!?」

     破砕音が大きくなる。
     老人の声が小さくなっていく。
     悪霊だ、とドラギモスは気づく。
     姫氏原が、悪霊を使って怪物を薙ぎ払っているのだろう。
     そして、数秒も経たないうちに、ドアが外側から破られた。

    「ドラギモスくんちゃん、無事!?」

    「ああ、何とかな」

    (ちょっと見ない間に、随分頼もしくなったな……)

     内向的で、神経質で、気弱な少女。
     悪霊に取り憑かれているのだから無理もない、とドラギモスはそんな風に思っていたが。

  • 329◆xaazwm17IRZa23/07/01(土) 22:54:48

     今の姫氏原からは堂々とした風格を感じていた。
     僅かな間に何か成長するイベントがあったのか。成長期って凄い。

    「それで、後ろの女の人は?」

    「ああ、これは同盟を組んでる冬爺って女だ」

    「だから敬語使えガキ。どうも姫氏原ちゃん、私は冬爺凛。短い間だけど、よろしくね」

    「え、えっと、はい……?」

     混乱している様子の姫氏原にドラギモスは説明しようとし
     何故か、冬爺が一歩ドラギモスの前に踏み出していた。
     その手には、DX日輪刀。
     栄光の手は、いつの間にか外れている。

    「……まさか!」

    「セレブ斬り!」

     日輪刀は上段から真っすぐ姫氏原に振り下ろされる。
     ドラギモスは間に合わなかった。

  • 330◆xaazwm17IRZa23/07/01(土) 22:55:15

     姫氏原は、間に合った。
     昨日までの姫氏原なら、なすすべなく斬られていたかもしれない。
     が、今は違う。
     堀木と共にキルコと戦い、悪霊の真実を知った姫氏原は。
     冬爺程度の剣術では容易く対応できる。
     姫氏原は悪霊を使って、刀の一撃を受け止めた。
     悪霊は物理的干渉を限りなく軽減させる。素人の振った刀では、傷一つつかない。
     そのはずだった。

    「…………え?」

     姫氏原がぽかんと口を開けた。
     突如、彼女の身体は後方に吹き飛ぶ。まるで、悪霊に攻撃されたように。
     壁に強く背中をぶつけ、姫氏原は痛みに呻いた。

    「姫氏原!」

    「ふふ、思った通りだわ」

     冬爺が妖しく笑う。

  • 331◆xaazwm17IRZa23/07/01(土) 22:55:43

    「お前、何のつもりだ……?」

    「ふふふ、生き残る算段がついたのよ……だからあなたたちはもう用済み。ここで死んでもらうわ」

     刀を振り回しながら、冬爺は言う。

    「DX日輪刀は進化して……そうね怪異殺しの刃に進化したわ。能力としては、鬼・怪異……そして悪霊特攻かしら。ねぇ、姫氏原ちゃん?」

     まさか、とドラギモスは気づく。
     今、何が起こったのか。

    「嘘……」

     と、姫氏原は信じられないといった表情で呟いた。

    「私の悪霊……消えちゃった……」

  • 332◆xaazwm17IRZa23/07/01(土) 22:56:11

    31話②Bを終了します……!

  • 333二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 23:01:48

    栄光の腕くん廃校と共に設定毎消えたと思ったけど役に立って嬉しい…いや何やってんだお前ェっ!!!

  • 334二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 23:38:26

    進化したDX日輪刀は喋らんのかな
    なかなか厄介な存在になってて面白い

  • 335二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 23:48:39

    乙でした

    ドラギモス……いよいよ■のことも忘れかけてる……?


    >>334

    なんでや!300で喋っとったやろ!

  • 336二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 00:03:07

    >>335

    ほんまや見落としてた……

    改めて見るとシュールすぎる

  • 337◆xaazwm17IRZa23/07/02(日) 00:22:19

    本日の投下はここまでとさせていただきます……!

    〇13時とか書きながら大遅刻してしまい申し訳ありません……!

    〇進化したDX日輪刀はそのまんま「鬼滅の刃」にしようと思ったんですけど、さすがにあれなので、「怪異殺しの刃」という名称になりました。

    〇墓蟹と爆弾卿の関係性ダイスですが、80以上出れば息子説確定にする予定(90以上で自分を墓蟹と思い込んでいる爆弾卿ロボ)だったのですが、23なので真相は闇の中です……!

    〇たくさんの感想、いつもありがとうございます……! 3月から始まり7月に入ってもここまで読んでいただけただけでとても嬉しいです……!

    〇それでは、本日もありがとうございました……! 明日は21時から開始しますが、もしかしたらもっと早く投下できるかもしれないです……! 

  • 338二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 01:05:02

    墓蟹、びっくりするほどいいとこ無しだったの本当草

  • 339二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 01:12:49

    >>335

    忘れてるのかな?自分の声が神谷浩史な理由を説明したのに何故か分かってもらえないってエピソードあったし、外部に伝えることが不可能なだけなんじゃない?

  • 340二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 01:25:06

    解釈に悩むとこだが前スレ45~46を見るに本人は全部覚えてるのか
    掲示板越しの我々にさえ伝わらなくなっただけで……

  • 341二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 01:28:58

    >>340

    第四の壁超えてくるあたり上手く使えば管理人すら騙せそうなのよねドラちゃんの異能

    死亡偽装とかで一矢報いてくれないかな

  • 342二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 07:39:29

    果たして姫氏原ちゃんの悪霊は復活するのか
    某特級呪術師と境遇が似てるし最終決戦で純愛ビーム撃って欲しかったけどどうなるかな

  • 343二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 14:27:22

    悪霊は力の発現で形造られたなら本体の姫氏原チャソが生きてればワンチャン時間を置いて復活すると思いたい

  • 344二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 14:58:36

    このレスは削除されています

  • 345二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 14:59:30

    ねうねいの強制言語変換、マネモフルの野蛮人格に並ぶクソ異能だけど
    上記の2人はそれ以外にちゃんと戦力になり得る異能あるのにドラギモスだけ無いんだよな……神谷浩史なだけ

    あと姫氏原の悪霊消滅はなんやかんやで堀木くんが守護霊になってくれる展開のための布石と予想

  • 346二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 20:42:56

    ・純愛
    ・男誑し
    ・悪霊憑きのせいで人と関われない陰キャ
    ・死に別れた恋人が化け物になった
    ・最強の先生の教え子

    箇条書きマジック!!

  • 347◆xaazwm17IRZa23/07/02(日) 22:59:39

    お待たせしました、31話③を投下します……!
    時系列がどんどん遡ってしまう……

  • 348◆xaazwm17IRZa23/07/02(日) 23:00:11

     死者の森を抜けた後、姫氏原は堀木を、そして仲間を見つけるべく本部内を駆けまわっていた。
     その足は、遅い。
     異能遣いとはいえ、身体能力はインドア系女子である。また、昼食で一息ついたとはいえ、一日の疲労も蓄積している。
     仲間の他には、未だ死者にしか出会っていない。
     嫌な予感、特に堀木に関して強烈に嫌な予感を覚えながら、姫氏原は長い廊下を走り抜け

    「「「「「「こんにちは」」」」」」

     翁の大群と出くわした。

    「えっ、こんにちは……っ!」

     生来の礼儀正しさから打算抜きで(どこかの戦闘狂とは違う)挨拶を返したが、ずっと悪霊に取り憑かれていた(と思い込んでいた)姫氏原は、すぐに老人たちが悪霊ないしそれに近い存在だと理解する。
     そして、自分の敵であることも。

  • 349◆xaazwm17IRZa23/07/02(日) 23:01:00

    ぶわっ、と翁たちは跳躍し、姫氏原に覆いかぶさろうとする。それは、黒い津波のようにも見えた。

    「邪魔しないで!」

     姫氏原の怒りに合わせ、悪霊は拳を振るう。
     翁たちは散らされていく。
     悪霊は、悪霊ではなかった。自分が作り出した、自分の異能。
     もう怖くない。
     もう嫌っていない。
     これも、この子も、自分の一部なのだ。
     その確信が、姫氏原を強くする。
     翁たちは、呆気なく蹴散らされていく。
     手を変え品を変え姫氏原に迫るが、まるで彼女に近づけない。
     もし、この戦いを観戦している者がいれば、疑問に思ったかもしれない。
     黒服・金持ち100人以上の魂を吸収したにも関わらず、翁が弱くなっていないかと。

  • 350◆xaazwm17IRZa23/07/02(日) 23:01:25

     これには幾つかの複合的な理由があった。
     翁が本部全体に展開しているため各部の層が薄くなっていること。
     翁に瞬殺されてしまったティエ・レンなどのホルダーたちには油断・慢心があったこと。
     何より、姫氏原は、翁に恐怖していない。
     これは、石川も同様である。
     彼らは翁を怖がらない。
     黒服・金持ちと比較し恐怖心が薄いから、という理由ではない。
     若者はホラー耐性がある、という理由でもない。
     黒服・金持ちなどの運営陣は、殆どの者が殺し合いを観戦しに訪れていた。彼らはここで死ぬとはまるで思っていなかった。
     故に、翁という正体不明で奇怪な怪異に恐怖し、呆気なく取り込まれてしまった。
     生徒たちは違う。
     彼らは皆、死線を超えている。

  • 351◆xaazwm17IRZa23/07/02(日) 23:02:17

     重ねた戦いの数こそ違えど、積み重ねた屍の数こそ違えど、誰も彼もが命がけで戦っている。
     そして、当然だが、その心は未だ日常に帰ってきていない。
     本来の姫氏原は、自分を殺しにかかる者が多数潜んでいる本部で、走り回ることは出来ない。一人いるだけでもう駄目だ。それは彼女が臆病だからというわけではなく、常識で考えて当たり前のことだ。自分の職場に自分を殺そうと考えている奴が一人でも潜んでいるのなら、大抵の人間は仕事を辞めるだろう。
     謎の老人がいる。奇怪な言動をとる。自分に殺意を向けている。
     ああ、と姫氏原は老人の正体を勝手に認識する。
     ——怪異タイプのデストラップね。
     本来は違うのかもしれない。もっと深淵の、もっと奇妙な、もっと得体の知れない存在なのかもしれない。
     が、そんなことは姫氏原の知ったことではない。
     結果として「廃村の老人」という運営も手出しが出来なかった怪物は、女子校生によって「敵キャラB」として処理される。
     故に、蹴散らされる。

  • 352◆xaazwm17IRZa23/07/02(日) 23:02:52

     一か所に凝縮するならともかく、薄く広く本部全体に拡散した状態では、自らの異能を理解した姫氏原には届かない。

    「わるいこはいねぇえええええがあああああああああああああああ!」

     老人の心を凍てつかせる声も、姫氏原には敵キャラの「ウボァー」という断末魔にしか聞こえない。
     恋する乙女は盲目で最強なのだ。

    「うるさい!」

     老人たちを次々と黙らせていく。
     姫氏原は進む。
     破壊音を響かせながら前進する。
     彼女が、ドラギモスの声に気づくのは、翁たちを蹴散らし始めて、数分経ってからのことだった。

  • 353◆xaazwm17IRZa23/07/02(日) 23:03:39

    31話③Aの投下を終了します……!

  • 354二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 23:09:25

    恋する乙女はやっぱり強い。改めてそう思った。

  • 355二次元好きの匿名さん23/07/02(日) 23:10:48

    姫氏原ちゃんは最低でもまだ一回は折れるイベントがありそうなので何度でも美味しい

  • 356◆xaazwm17IRZa23/07/03(月) 01:33:10

    短いですが31話③Bを投下します……!

  • 357◆xaazwm17IRZa23/07/03(月) 01:33:39

     刀を振り下ろされる。
     ドラギモスと一緒に居た若い女の攻撃を、姫氏原はどこか余裕を持って見上げていた。
     勿論、反応は迅速で、即座に悪霊によるガードは済ませていた。
     デスゲーム開始前の姫氏原なら、呆然としている間に斬られていた。
     今は違う。
     石川、キルコ、翁との戦闘を潜り抜けた姫氏原は、冬爺程度の一撃は、容易く反応できる。
     反射神経ではなく、無意識の領域で、彼女は斬撃を防御する。
     ざくり、と斬られた。
     肉体は斬られていない。
     ただ、姫氏原を構成する一部を、明確に断ち切られた。そんな感覚があった。

    「……え?」

     刀は止まらない。
     ガードしていたはずの悪霊を通過し、姫氏原本体に迫る。
     殺される。姫氏原がようやく気づいたとき、
     衝撃と共に肉体が浮いた。
     刀が離れていく。違う、姫氏原が離れたのだ。

  • 358◆xaazwm17IRZa23/07/03(月) 01:34:53

     殴られた、と分かった。
     悪霊が殴るところは散々見てきたが、姫氏原が悪霊に殴られたことはなかった。
     悪霊はいつだって、姫氏原に直接危害を加えることは無かったのだから。
     ストーカーの、最低最悪の、気持ち悪い悪霊。
     そんな「設定」を押し付けてしまった、姫氏原の力。
     壁に叩きつけられる。

    「嘘……」

     と、声が漏れる。

    「私の悪霊……消えちゃった……」

     ただ、喪失感だけがそこにあった。

  • 359◆xaazwm17IRZa23/07/03(月) 01:35:23

    31話③Bを終了します……!

  • 360二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 01:47:35

    11人の生き残り達、特に本部突入組は見違えるほど精神的に成長してるのがよくわかる
    まあその分失ったものも多いんですけどね……

  • 361二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 04:39:26

    乙でした
    ドラっちが石川のところに降ってきた時姫氏原ちゃんはいなかったんだよね…
    堀木くん助けに来てくれー!!

  • 362◆xaazwm17IRZa23/07/03(月) 05:40:04

    31話③Cを投下します……!

  • 363◆xaazwm17IRZa23/07/03(月) 05:40:54

     何が起こったのか、ドラギモスは瞬時に判断した。
     「怪異殺しの刃」。
     豹変した冬爺。
     呆然とする姫氏原。
     そこからの行動は迅速だった。
     今のドラギモスが持てる最強の武力。
     黒服の死体から奪っていた拳銃を冬爺に向ける。

    「動くな! 今すぐ武器を捨て——」

    「セレブ旋風脚!」

     冬爺の回し蹴りにより銃が弾かれ床に転がる。
     冬爺は決して強者ではない。
     性別と年齢を考えれば十分上澄みのレベルではあるが、もしこの場に三田が居れば容易く制圧できるレベルの強さだ。
     が、不意を討てば銃を持った黒服を倒せる程度の武力はある。
     そして、この場に居るドラギモスと姫氏原の身体能力は平均並と平均以下。
     刀を持った成人女性は十分に脅威たりえてしまう。
     ドラギモスの動きを見た姫氏原もまた、拳銃を抜こうとするが

    「遅い!」

     それよりも早く、冬爺が怪異殺しの刃で斬りかかる。

  • 364◆xaazwm17IRZa23/07/03(月) 05:41:24

     刃は姫氏原の身体を僅かに逸れ、壁を傷つけるだけで止まった。
     冬爺のミスではない。
     彼女の腰にドラギモスがしがみついている。
     本人はタックルのつもりだったが、結果的にフリーハグになってしまったのだ。
     が、小柄なドラギモスでも冬爺程度なら体勢を崩すことは出来る。
     姫氏原の余命は伸びる。

    「この、エロガキが……!」

     冬爺は標的を姫氏原からドラギモスに切り替える。
     刀で脳天を突き刺そうとする。

    「駄目!」

     姫氏原は銃を構えた。

    「ドラギモスくんちゃんを離して!」

    「こいつの方からしがみついてきたのよ!?」

    「いいから離して!」

     銃を持つ姫氏原の手は震えていた。

  • 365◆xaazwm17IRZa23/07/03(月) 05:41:53

     頼りの悪霊を失ってしまった。
     落ち着いたら謝りたかった。今まで姫氏原の汚い部分を押し付けてきてごめんなさいと。けれど悪霊は最期まで姫氏原を守って消えてしまった。
     慣れない。手足のようだと感じた悪霊と違い、拳銃は異物だ。
     それでも、銃口を逸らすことはない。

    「ドラギモスくんちゃんを解放しないと、撃つよ……!」

    「へぇ、一丁前に私を脅迫するんだ、スイーツ脳のくせに」

     もし、この場にいたのがただの暗黒金持ちであったなら、姫氏原の気迫に呑まれてドラギモスを解放したかもしれない。
     が、冬爺凛は、オルランドに全額かけて泡吹いて気絶したりもするが、爆弾卿にもしもの場合の統括を任されるほどの実力者である。
     むしろドラギモスをがっちりとヘッドロックし、刀をつきつける。

    「武器を捨てな」

    「な……!?」

    「銃を捨てろ、と言ったのよ。クラスメイトを殺されたくなかったらね」

  • 366◆xaazwm17IRZa23/07/03(月) 05:42:18

    「ふ、ふざけないで……」

    「ふざけてなんかいないわよ」

     そう言って、冬爺は無造作にドラギモスの脇腹に刀を刺した。
     あまりにも自然な動きに、一瞬姫氏原は何が起きたのか分からなかった。
     ドラギモスも同様で顔は驚愕に歪み、即座に痛みへと変わる。
     セーラー服の隙間から伝うように赤が流れる。

    「これ以上傷つけられたくなかったら武器を捨てなさい。それとも耳か鼻を削ごうかしら」

    (何なのこの人……!)

     姫氏原は戦慄する。
     どうして平然と人を傷つけることが出来るのか。
     怖い。
     石川やキルコとはまた別種の怖さ。
     他者を傷つけ命を奪うことを当然として生きてきた、裏社会の大人の怖さ。
     姫氏原は今、それを始めて実感していた。

  • 367◆xaazwm17IRZa23/07/03(月) 05:42:49

     銃口が、下がる。
     どうしていいか、姫氏原には分からない。

    「くそっ、離せ!」

     ドラギモスが身を捩った。

    「大人しくしなさい」

     容赦なく冬爺が刃を突き刺す。ドラギモスは痛みに絶叫し
     カチリ、と刃が柄から外れた。

    「……は?」

     冬爺がぽかんと口を開ける。
     腹に刃を刺したまま、ドラギモスは笑った。

    「DX日輪刀は、刀身を付け替えてモードチェンジ出来るのが売りだ。進化しても仕様は変わらなかったみたいだな」

    「お、お前……!」

     柄だけを握ったまま、冬爺は激高する。
     が、その前に姫氏原は撃っていた。

  • 368◆xaazwm17IRZa23/07/03(月) 05:43:23

     弾は冬爺の右肩を撃ち抜いた。

    「がぐっ……!? クソガキども……!」

     冬爺の顔が憎悪に歪められ。
     しかし、彼女は脱兎の如く駈け出した。
     見切りの速さもまた、彼女が暗黒金持ちの上澄みであることの証明である。

    「…………っはぁ!」

     脂汗を浮かべ、姫氏原はその場に崩れ落ちる。弾が当たったのはまぐれだった。
     両腕がじんじんと痛む。
     どうやら自分に銃を撃つ才能は無いのだと実感する。

    「やったね、ドラギモスくんちゃん……ドラギモスくんちゃん?」

     刀が刺さったままドラギモスはその場から動こうとしない。腹部からはどくどくと血が流れ出ている。

    「ドラギモスくんちゃん!?」

     姫氏原は駆け寄る。
     どうしてもっと早く気づかなかったのだろう。
     異能あり超人ありのバトルロワイアルで、姫氏原はすっかり麻痺していた。
     ——人は、刀で刺されると死ぬ。
     ましてや、ドラギモスの虚弱性はクラス一である。

    「ど、どうしよう……どうすれば……!?」

     広がっていく赤い水たまりを前に、姫氏原は慌てることしか出来なかった。

  • 369◆xaazwm17IRZa23/07/03(月) 05:43:51

    31話③Cを終了します……!

  • 370二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 05:50:31

    ドラっちは瀕死だしここからどうなったらあのシーンに繋がるんだ??

  • 371二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 05:54:07

    そしてドラギモスの服が学ランじゃなくてセーラー服なの嬉しい…

  • 372◆xaazwm17IRZa23/07/03(月) 05:54:11

    〇ドラギモスの異能は「他者に情報を伝えられない」なので、一応ドラギモス本人は覚えています……! それを証明することは出来ないのですが。
    〇怪異殺しの刃は普通の刀としても使えるみたいです。原作日輪刀レベルの切れ味なのか、あくまで現実の日本刀レベルなのかはまだ決めてないです。

    それでは本日はここまでとさせていただきます……!
    またお手すきの時にお読み抱けると嬉しいです……!
    そしていつも感想ありがとうございます……!励みになります……!
    本日もありがとうございました……!

  • 373二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 05:57:13

    お疲れ様でしたー!!
    冬爺さんはここで敢えて死ななかったあたりまだ出番がありそうですね
    それに比べて墓蟹があまりにもあっけなくて笑う

  • 374二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 17:03:16

    保守

  • 375二次元好きの匿名さん23/07/03(月) 21:27:23

    呼吸で止血するくらいしか打開策が思いつかねえ
    恐らく付属しているであろうヒノカミ神楽バージョンの刀身も変化してるのかな?

  • 376◆xaazwm17IRZa23/07/04(火) 01:04:38

    短いですが、投下します……!

  • 377◆xaazwm17IRZa23/07/04(火) 01:05:16

    (ドラギモスくんちゃん……!)

     姫氏原は、勉強が出来る。
     その学力はクラスで三本の指に入る。(彼氏の堀木は三馬鹿の一人である)。
     しかし、刀で刺された際の治療法など、まるで分からない。

    (こういうときって、凶器は抜いちゃだめなんだっけ……? で、でも、刺したままだと危ないんじゃ……駄目、分からない! どうすれば……!?)

     既にドラギモスの意識は無い。
     顔面は蒼白で呼吸も薄い。赤黒い血が今もなお床に広がり続けている。

    (どうしよう……堀木くん、私、どうすればいいの……!? このままだとドラギモスくんちゃんが死んじゃう……!)

     私でなければ、と思う。
     駆けつけたのが私でなければ、ドラギモスくんちゃんは助かったのではないか。
     他の仲間なら冬爺程度難なく制圧できただろう。
     もしドラギモスに怪我があったとしても、応急処置が出来たかもしれない。
     姫氏原には分からない。

  • 378◆xaazwm17IRZa23/07/04(火) 01:05:42

     聡明な彼女は、仮に救急箱や医務室程度の設備があれば、要領よく理解し、それなりに処置が出来たのかもしれない。
     が、何もない、この場では、手掛かりさえ掴めない。

    (私が……私が来たせいで……!)

     一度浮かび上がった心が、再び沈んでいく。
     悪霊も消えてしまった。
     もう姫氏原には何も残っていない。
     このままドラギモスが死ぬのを、見ていることしか……。

    (嫌だ!)

     戦車の砲撃の中、自分を励ましてくれたことを覚えている。
     首輪も外してくれた。
     ここで、この子を死なせたくない。
     姫氏原はドラギモスの腹部に手を翳した。
     異能、とは何なのか。

  • 379◆xaazwm17IRZa23/07/04(火) 01:06:05

     異能者が数多く在籍するあにまん高校の書庫には、異能に関する研究が多く納められている。生徒が閲覧できるのは極一部だが、取り憑いた悪霊をどうにかするために、姫氏原は一時期図書館に通い詰めたことがあった。
     その頃は、この悪霊が自分の異能によるものだとは当然知らず、むしろ異能によって悪霊を除霊できないかというアプローチによるものだった。
     結局、それは失敗に終わった。が、その過程で知識は得た。
     異能、とは異能者自身の認識に大きく作用される。
     新條アキラは「武器に炎を纏わせる」という異能を持っている。この「武器」とは「新條アキラが武器と認識したもの」であり、「刀剣」や「銃」の他にも、例えば「
    五体が武器だろ」と空手家的発想になれば拳や蹴りにも炎が乗せられる。突き詰めれば手に持ったものは何でも武器だと認識できれば、ハンガーだろうと割り箸だろうと炎を纏うだろう。
     異能とは、主観の世界。
     では、姫氏原小毬の異能とは?
     「ストーカーの悪霊を具現化する」ことか?
     違う、と姫氏原は強く思う。

  • 380◆xaazwm17IRZa23/07/04(火) 01:06:29

     彼女は未だ、自身の異能を定義づけていない。
     何が出来て、何が出来ないのか、明確にしていない。

    (だったら、今ここで決めればいい……!)

     治療の異能……違う、これじゃ発現しない、あくまで今までの私の延長戦上にある能力。悪霊に取り憑かれた少女、悪霊を創り出した少女。
     天啓が降りた。

    (私の異能は、新たなキャラクターを創り出す能力……!)

     イメージは固まった。
     姫氏原は全神経を集中させる。
     傷を治すのではない。
     ドラギモスが、治すのだ。
     ドラギモスという一個人に「これくらいのダメージでは死なない」という属性を付与する。
     出来る出来ないではない、やるしかない。

    「ぐっ……!?」

  • 381◆xaazwm17IRZa23/07/04(火) 01:07:03

     歯を軋ませる。
     脳のあちこちでスパークが起きているのが分かる。
     あの時を思い出す。
     初めて悪霊を発現させた悪夢の日。
     ずっと罪悪感と恐怖心から記憶の奥底に封印していたあの時の情景を脳裏に再起させる。
     クラスメイトに呼び出され、教室を出て、告白したいという男子の前に立ち……。

    (…………あ)

     あの自分が初めて悪霊で傷つけた男子は。
     微かに面影があった。
     顔立ちも雰囲気もすっかり変わってしまっているが、誰よりも彼の顔を見ていた姫氏原だから気づけた。

    (そうだったんだ……)

     どうして、彼はメス男子になったのか。
     怖くて聞けなかった問いの、答えが分かった。

  • 382◆xaazwm17IRZa23/07/04(火) 01:07:25

    (堀木くん……)

     会いたい。
     もう一度会いたい。

    (私は、堀木くんに誇れる私になりたい……!!)

     ドラギモスの傷が、塞がり始める。同時に刀がゆっくりと抜けていく。

    (強い私になりたい……!!)

     太陽のような光がドラギモスを包んだ。

  • 383◆xaazwm17IRZa23/07/04(火) 01:08:10

    31話④終了です……!

  • 384二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 01:14:19

    あの弱かった姫氏原ちゃんが精神的にも異能的にもここまで成長してくれて嬉しいよ…
    それはそれとして堀木くんが死んだとわかった時の表情が早く見たいですね…

  • 385◆xaazwm17IRZa23/07/04(火) 01:18:14

    〇あにまん高校は異能者が数多く在籍していますが、ヒロアカのようにバトルはせず、異能についての授業も少ないです。生徒はそれぞれの異能をうっすら把握しており、異能とは何かを1時間ほどの座学で学びます。書庫に行けば異能関係の書籍を閲覧できますが、一部の資料は生徒に閲覧権限がありません。

    〇いちおう現実世界にある娯楽はたいてい作中世界にも存在します。ただまとめサイト「あにまん」及び「あにまん掲示板」は存在しません。後「バトルロワイアル」という作品も存在していないです。(デスゲームというジャンルはある)

    〇時系列は2022年想定で、何月何日かに関してはふわっとしてます。後描写が面倒なのでコロナ禍も起こってない想定です。(本来なら中学高校ばっちりコロナと被ってるので諸々のイベントが中止になってる可能性大)

    短いですが、本日はここまでとさせていただきます……!
    感想や保守、いつもありがとうございます……! 割と感想見て展開思いつくことも多いので助かっています……!
    ありがとうございました……!

  • 386二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 01:35:46

    あにまん学園、元は異能者の卵を飼い殺しにしておく施設だった説

    ところで>>116で思い切り続編の名前が出てるように見えるのですがそれは

  • 387二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 01:45:14

    >>386

    ペギーの死に際の幻覚

  • 388二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 09:48:46

    保守

  • 389二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 11:55:35

    保守

  • 390二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 20:45:11

  • 391二次元好きの匿名さん23/07/04(火) 20:51:58

    太陽のような光……日の呼吸ってコト!?

  • 392◆xaazwm17IRZa23/07/05(水) 01:35:25

    お待たせしました、本日の分投下します……!

  • 393◆xaazwm17IRZa23/07/05(水) 01:35:59

     髪切った?
     と、石川は唐突に思った。
     上から堕ちてきた——降りてきた、ドラギモスに対しての感想だ。
     もちろん、ドラギモスは散髪をしていない。
     栗色の髪がうなじを隠すように流れている。
     ああ、ツインテ解いたんだ。と、石川は気づいた。
     だからか。
     石川は納得した。ドラギモスが、別れたときと別人のような気がしたのは、髪型が変わっていたのが理由だったのだろう。
     よーし、それなら納得……。

    「ふっ!」

     気合一閃、ドラギモスの繰りだした斬撃が翁の首を刎ねた。
     吹き飛んだ頭部と胴体が塵のように消える。

    「甘い、その程度の動きでは拙者を殺せないで御座るよ」

    「キャラ違くね!?」

  • 394◆xaazwm17IRZa23/07/05(水) 01:36:31

     石川は突っ込んだ。
    「どうしたどらっち!? 侍キャラになってるぞ!?」

    「む……石川殿、戦場(いくさば)でそう騒ぐものでは御座らん。残心を忘れてはいけないで御座る」

    「ええ……こわい」

     わけの分からない現象に、石川は戸惑うしかない。
     ドラギモスはそれを見ると、くっくっく……と意地悪そうに笑った。

    「冗談だよ、こうも動けるのは■■■■■■■だからテンション上がってさ」

    「ああ? 何て言った?」

    「別に、何でもない」

    「そっか。まぁぶっちゃっけ侍キャラでこの先やっていくなら止めねぇけどよ。元々色物だし」

    「不本意だなぁ……」

     ドラギモスは肩を落とす。この少年/少女、一応自分を正統派主人公だと認識しているのだ。

  • 395◆xaazwm17IRZa23/07/05(水) 01:37:07

    (どらっちなんでそんな強くなってるのか、興味はある。が、今はそれよりも……)

     周囲を取り囲む老人の数が増えている。
     石川の攻撃ならともかく、ドラギモスの斬撃は翁を増やすことなく消滅させる。
     ドラギモスが斬れば斬るほど、翁の数は減っていくはずだ。
     なのに増えるということは。

    「増援か」

    「ああ、他のフロアに遠征行ってた奴を再集合させてるみたいだな。どうやら僕を天敵だと認識したらしい」

     まぁそれが狙いだったんだが、とドラギモスは言った。

    「ここに集まってくれれば、その分他の皆の負担が減る。この怪異を、この刀無しで戦うのは中々骨が折れるだろうからな」

     石川、姫氏原は一時的に翁を圧倒した。が、それはあくまで翁の末端に過ぎない。
     翁総軍で攻め掛かられては成す術も無いだろう。
     フルスペックの翁を相手取れるのは、今この島で茜音沢と——ドラギモスだけだ。

    「ディスクで結の異能呼び出してさ、消すとか出来ねぇの?」

  • 396◆xaazwm17IRZa23/07/05(水) 01:37:40

    「たぶん無理だ。結が呼び出せるのは都市伝説や妖怪……つまり、世間的に認知されている、『名前の付いている』『架空の』怪異だ。こんなわけのわからない老人は異能の対象外だ……もっと言えば、結は自分が具現化していない怪異を消す力は持ってないぞ。■■■■の時に、■■■■■して分かったんだ」

     例えば、もし仮にトイレの花子さんが実在するとして、結はそれを消す力は無い。あくまで、自分が召喚した場合のみ消すことが可能だ。(怪異を召喚して怪異同士で戦わせることは出来るが)。

    「なるほどな、じゃあ結局殴って斬ってやっつけるしかないわけか。シンプルじゃねぇか」

    「頭の悪い解決法だがな、今のところそれが一番——手っ取り早い」

     ドラギモスは刀を構える。
     堂に入った構えである。
     剣道部三人と比べれば隙は大きいが、石川から見て十分及第点だ。

    (本当に何があったんだ? ま、この戦いが終わってから聞けばいいか)

     こちらを殺さんと迫る翁を殴りつける。
     隣でドラギモスが翁に斬りつけている。

  • 397◆xaazwm17IRZa23/07/05(水) 01:38:07

    「石川、後ろ任せていいか」

    「おう任せろ、足引っ張んなよ雑魚」

    「こっちの台詞だ、刀の間合いに入るなよ馬鹿」

     二人は背中合わせになる。
     石川は拳を構え。
     ドラギモスは剣を向ける。
     翁が、殺到する。
     二つの存在を塗りつぶすように、雪崩のように襲いかかる。

    「おらおらおらおらおら! そんなもんかよ爺!」

     石川はラッシュを撃って翁の群れを押しとどめる。

    「神谷の呼吸、一の型、阿良々木!」

    「その技名はどうかと思うぜ!?」

     気の抜けるような技名とは裏腹にドラギモスの斬撃は翁を切り裂いていく。
     石川とは違い、ドラギモスの刀は怪異・悪霊特攻。斬られた翁は分裂することなく塵に還る。

  • 398◆xaazwm17IRZa23/07/05(水) 01:38:37

     少しずつ、翁はその総数を減らしていく。
     石川の拳が、翁を押しとどめ。
     ドラギモスの剣が、翁を滅していく。

    (……嫌な予感がするな)

     と、石川は思った。
     戦闘狂であり、クラスで最も戦闘経験が豊富な石川には、野生じみた直感が備わっている。
     その直感が、このまますんなり勝てるとは思えない、と石川に訴えているのだ。

    「どらっち、油断するなよ——」

    「ああ、分かってる。一気に終わらせるぞ」

     ドラギモスは一歩踏み込んだ。
     石川も呼吸を合わせ、ドラギモスと距離を離さないよう移動する。

    「神谷の呼吸、六の型、リヴァイ!」

     怒りさえ感じさせる無数の斬撃を、ドラギモスは放つ。
     一瞬で、翁は細切れになる。

  • 399◆xaazwm17IRZa23/07/05(水) 01:39:02

    「神谷の呼吸……っ!?」

     ドラギモスの視界を、翁が覆い隠した。
     細切れになった翁の、襤褸切れのような服の切れ端が、ドラギモスの顔にへばりついたのだ。
     すぐにドラギモスは刀を顔に滑らせ、布を断ち切る。
     愛らしい顔立ちに斜め一閃の傷が残るが、ドラギモスは気にも留めない。
     ドラギモスの対応は、間違っていなかった。
     が、致命的に遅かった。
     ドラギモスの視界が塞がれ、それを排除した僅かな時。
     その刹那に、世界は大きく変わっていた。
     ドラギモスがそうしたように、床をぶち抜いて、大量の翁が上から雨のように降ってくる。

    「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

     石川は吠え、滝に抗うように降り注ぐ翁を迎撃した。
     足りない。

  • 400◆xaazwm17IRZa23/07/05(水) 01:39:29

     手数が、圧倒的に足りない。

    (あ、やっべぇ……)

     今度こそ死ぬ。
     石川がそう覚悟したとき。
     脇腹に衝撃が走った。
     数時間前、マッハ婆に衝突されたように、石川は吹き飛ぶ。
     吹き飛ぶことで、降り注ぐ翁からの脱出に成功する。

    「どらっち!?」

     石川は叫んだ。
     ドラギモスが自分を蹴ったということはすぐに分かった。

    「まさかてめぇ……!」

     ドラギモスは皮肉気な笑みを石川に向けた。
     そして、翁の質量に呑み込まれ、見えなくなってしまった。

  • 401◆xaazwm17IRZa23/07/05(水) 01:39:52

    31話⑤を終了します……!

  • 402二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 01:43:59

    えっマジ?
    まぁでもまだ死んでないよね?

  • 403二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 01:52:07

    例の死亡ログが出てないってことはそういうことだろう
    しかし長髪ドラっちか……アリだな

  • 404◆xaazwm17IRZa23/07/05(水) 02:18:04

    〇ドラギモスが強キャラになってる理由は後の話(もしくは補足で)説明します……!
     数値としてはB+くらいですが、怪異殺しの刃による補正もあって翁相手に有利に立ち回ってます

    本日はここまでとさせていただきます……!
    いつも感想ありがとうございます……! 理想としては一日3話くらい進めたいのですが、中々思うようにならず、力不足で申し訳ないです……
    今月中に完結目指して頑張ります……!
    それでは、今夜もありがとうございました……!

  • 405二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 02:51:31

    自分のこと主人公呼ばわりしてたの、冗談じゃなくて割とガチだったのか……

  • 406二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 06:06:57

    「阿良々木」はギリ鬼滅の刃の技にありそう

  • 407二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 15:00:48

    保守

  • 408◆xaazwm17IRZa23/07/05(水) 17:49:27

    PCの充電器が断線してしまい、新しい充電器が来るまで2週間程かかります……。
    その間はスマホによる打ち込みか漫画喫茶の利用になるので投稿ペース今より下がると思います……。
    参加してくださっている皆さま、本当に申し訳ありません……。

  • 409二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 18:36:33

    んなぁ…
    まあ4ヶ月も続けてればそういうこともありますよね
    完結さえしてくだされば主さんのペースで大丈夫ですよ!

  • 410二次元好きの匿名さん23/07/05(水) 21:19:06

    それは災難ですな……
    無理せず慌てずでいいので頑張ってください!

  • 411二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 01:31:13

    上でも言ってたし今夜は更新ないかな?

  • 412二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 08:12:42

    保守
    生存報告があれば儲けものくらいに思っとこう

  • 413◆xaazwm17IRZa23/07/06(木) 12:51:43

    test

  • 414◆xaazwm17IRZa23/07/06(木) 18:33:44

    投下します……!

  • 415◆xaazwm17IRZa23/07/06(木) 18:37:20

    畳があった。
     黴が生え、虫が喰った、古く穢い畳だった。
     土足でも接することが厭になるような、そんな畳だった。
     古いのは畳だけではない。
     障子は破け、木組みだけが残っている。
     天井の塗装は剥がれ、柳のように垂れている。
     掛け軸は掠れ、薄っすらと老人らしき影しか見えない。
     其処は座敷だった。
     枯れた民家の、枯れた座敷だった。
     世紀単位で管理がされていない、忘れ去られた空間だった。
     ドラギモスは、其処に居た。
     縫い付けれるように畳に尻を落とし、スカートから伸びる白い足を力なく転がしていた。

    「怖いか」

     と、声があった。
     くぐもった、痰の絡んだ、しわがれた声だった。
     ドラギモスの前に老人が立っている。
     もはや原型が分からない程ボロボロの服を纏った、木乃伊(ミイラ)のような老人だった。

    「怖いか」

     と、もう一度老人は問うた。

    「お前の自我はもうすぐ消失する。儂と一つになるのだ」
     

  • 416◆xaazwm17IRZa23/07/06(木) 18:38:07

     老人は裂けるように嗤った。

    「あの忌々しい刀は此処には無い。お前一人の矮小な魂、取り込むことに何の苦労もない」

     老人は骨ばった腕をドラギモスに伸ばす。
     表情を無くしたドラギモスは、じっとその指先を見た。

    「さぁ、闇に堕ちよ――」

    「安っぽいよなぁ」

     と、神谷浩史の声が響いた。

    「内側に入って分かった。お前の正体」

     ドラギモスの目に光が戻る。

    「最初、僕はお前のことをなまはげのような悪事を諫める来訪神だと思った。しかし、それにしてはあまりにも実害がありすぎる。運営共や石川みたいな悪党ならともかく、正当防衛が十分適用される姫氏原まで襲ったのはやりすぎだ。お前は、なまはげじゃない」

     ゆっくりとドラギモスは立ち上がった。膝を立て、眦を上げ、翁と相対する。

    「次に、クトゥルフの邪神ではないかと考えた。得体のしれない、それでいて生理的嫌悪感を想起させるのはクトゥルフ系を連想させる。けど、それもやっぱり違う。見ることで正気度を失うことはないし、本当に創作の邪神が実際に具現化しているとすれば、僕や石川で勝負が成立していたのがおかしい。これも違う」

     老人は、落ち窪んだ目でドラギモスを見ている。
     答えを、待っている。

    「強力な異能者、結の置き土産、恐怖の具現化……全部違う。
     お前は、お前には――正体が、無い」

  • 417◆xaazwm17IRZa23/07/06(木) 18:38:53

    「――そうだ」

     老人はけたけたと嗤った。

    「儂に正体は無い。真実も無ければ教訓も無く、噂も無ければ実体も無い。故に、儂は不滅であり無敵だ。あの忌々しい刀も、儂を滅するには足りん。あと数度斬られれば、儂はあれを克服するだろう」

     頼みの綱の、怪異殺しの刃さえも、弱点にはなり得ない。
     そして今、それすらも無い。
     ドラギモスは、老人の内側で、あまりにも無力な存在だった。

    「正体が無い」

     ドラギモスは絶望的な事実を繰り返した。

    「ああ、きっとそうなんだろう」

     ドラギモスは書いてあることをそのまま口にするように、感情を感じさせない声色で言った。

    「お前には、正体が無い。それはきっと真実だ。僕がどれだけ知恵を捻っても、あらゆる手段を使っても、お前の正体には辿り着かない。きっとこの世界の誰も不可能だ。神にさえできない。――けれど、一人だけ知っている者がいる」

    「いない。儂には正体がない」

    「いいことを教えてやるよ。正体が無いっていうのはさ、存在していないと同義なんだぜ。でも、お前は確かに存在している。たくさんの人間を殺し、たくさんの魂を取り込んでもなお、『老人』というアイデンティティを確立している。お前だけは、お前の正体を知っている」

  • 418◆xaazwm17IRZa23/07/06(木) 18:39:42

     老人は押し黙った。
     そして、体を震わせた。

    「明察だ。儂の自己定義は、儂にしか認識できない。お前の矮小な自我は、儂に飲み込まれる」

    「そうなるだろうな」

    「怖いか?」

     と、翁は訊いた。

    「怖いよ」

     と、ドラギモスは答えた。

    「自分が自分で無くなるのは、怖い」

     翁は勝ち誇った笑みを浮かべ、ドラギモスに再び手を伸ばした。
     骨ばった指が、ドラギモスの顔を覆う。

    「お前も、儂の一部になれ。――永遠の恐怖の中で」

    「元々、僕は怖がりなんだ。これでもけっこう強がってるんだぜ。本当は■■■だし、■■■■なんだからさ」

    「……貴様、今、何と言った?」

    「聞こえなかったのか? ■■■■。僕の■■だぜ」

     翁はドラギモスから手を離した。そして禁忌から逃れるように、よろめくように退く。

  • 419◆xaazwm17IRZa23/07/06(木) 18:41:14

    「お前、お前は一体、何だ?」

    「取り込んだんだから、僕が何なのか、お前にも分かってるだろ」

     朗々と、ドラギモスは言う。

    「芝野の血を吸った瀧沢は、芝野の異能を獲得した。魂まるごと吸い取ったんだ。僕の異能が、お前に感染しても仕方ないよな」

     其れは、異能の研究機関・一国を牛耳る権力者達でも調べられない、鉄壁の情報秘匿スキルを持つ。
     其れは、あらゆる異能・あらゆる権能を無効化し、上位存在の観測すらも拒絶する。
     其れは、あらゆる過去を黒で覆い隠し、生きた足跡を塗り潰す。
     創造主すら由来を知らない、一人の孤独な■■である。
     出席番号32番、無線部。
     虎肝ドラギモス。

    「お前と同じだよ」

     と、ドラギモスは言った。

    「誰も知らないけれど、僕は自分の性別を知っているし、自分が何者なのか知っている」

    「わ、儂は……」

    「僕の情報は誰にも伝わらない。それが怪異であろうと神であろうと、伝わることはない」

    「わ、儂は■■■だ…お前が何と言おうと■■■なんだ……ッ!?」

    「可哀そうにな、同情するよ。同系統取り込むとそうなるのか。お前の正体は、お前だけは知っていた、自己定義していたはずの正体は、――もう、お前には伝わらない」

  • 420◆xaazwm17IRZa23/07/06(木) 18:42:00

    「そ、そんな馬鹿な話があるかッ!? 儂は■■■何だぞッ! ■■が……■■■であるこの儂がッ……!」

     ぐおおおおおおおおおお、と老人は白髪を搔きむしった。
     そして、呆けたような表情でドラギモスを見た。

    「儂は、儂は誰だ……?」

    「お前に正体はない」

     と、ドラギモスは断じた。

    「だから、お前は存在しない」

    「わ、儂は……無いのか?」

     ドラギモスは自らの側頭部を指さす。

    「そして自己崩壊が始まる」

    「あ……ああ、儂は、儂はいったい……」

     どろり、と老人が溶けた。
     否、老人だけではない。
     畳が、襖が、天井が、掛け軸が。
     屋敷そのものが、溶解していく。
    「廃村の老人」という一つの世界が、終焉を迎えた瞬間であった。

    【廃村の老人 存在不明】

  • 421◆xaazwm17IRZa23/07/06(木) 18:42:46

     ドラギモスが翁の雪崩に吞み込まれ、数秒が経過したときだった。
     エリアに密集していた翁が蜃気楼の如く揺らめき、蝋燭の様に溶け出した。

    「あぁ? 何が起こったんだ?」

     どうやってドラギモスを救出するべきか思案していた石川は、眼前のグロテスクな光景に首を捻る。

    「虎肝喰って腹でも壊したのか?」

    「人をゲテモノみたいに言うな」

     溶けていく翁の中央に、虎肝ドラギモスは立っていた。
     五体に傷一つなく、その可憐な顔立ちも、その矮躯も、色気のある神谷ボイスも、ドラギモスのままだ。

    「お、無事だったのかどらっち」

    「まぁな、ほとんどギャンブルだったけど、上手くいって良かったよ」

     ふぅ、とドラギモスは息を吐く。

    (あぁ?)

     その表情にはどこか覚えがあった。石川はこの島で何度もその顔を見てきた。

    「どらっち、お前……」

     何故、こいつは死を受け入れた顔をしているのだろう。

    「石川、どうやら僕はここまでみたいだ」

  • 422◆xaazwm17IRZa23/07/06(木) 18:44:05

     ドラギモスは力なく笑った。

    「喧嘩に勝ったのは僕なんだ、最後まで約束は守れよ」

    「意味わかんねぇ……、お前怪我一つ無ぇじゃねえか。貧弱にも程が……」

     唐突に石川は気づいた。
     ドラギモスは虚弱で貧弱だ。
     何らかの力でブーストしているのかもしれないが、それでもおかしい。
     あれだけ老人と戦って、石川でさえ全身に無数の傷を負っているのに――どうしてドラギモスは無傷なのだろうか。

    「……そういうことかよッ」

     苛立たし気に石川は髪を搔きむしる。

    「どらっち、てめぇ最初から……!」

    「ボーナスステージだったのさ。それも、今終わった」

     悪いな、とドラギモスは言った。

  • 423◆xaazwm17IRZa23/07/06(木) 18:45:20

    「僕は勝ち逃げさせてもらう。……姫氏原にも謝っといてくれ」

    「面倒なこと押し付けてんじゃねえよ。くそっ……なぁ、ドラギモス」

     石川は悔し気に言った。

    「また、喧嘩しようぜ」

     ドラギモスは皮肉気に笑った。

    「二度と御免だ」

     そして、ドラギモスは姿を消した。
     最初からそこには誰もいなかったように、音も光もなく、ただそうであるかのように消え去った。

    「……知ってるよ」

     轟音が響いた。壁を殴打した石川の拳から、コンクリートの破片が細切れになって落ちた。
     世界そのものを埋め尽くさんとする翁の気配が消失し、石川の耳にそれまで聞こえなかった音が聞こえた。
     少女の、乱れた呼吸音。
     石川は一飛びで上階に飛び移った。
     目当ての仲間を見つけるのに1分もかからなかった。

    「姫氏原」

  • 424◆xaazwm17IRZa23/07/06(木) 18:46:04

    「石川、くん」

     憔悴した表情で姫氏原は石川を見上げた。
     かつて襲った者襲われた者、食堂では緊張関係があった。

    「ど、どうしよう! ドラギモスくんちゃん、目を覚まさないの……。傷は治ってるのに、塞がってるのに……! 私の異能で、起き上がるはずなのに……! こ、これじゃまるで……」

    「気づいてんだろ」

     石川は吐き捨てた。

    「そいつはもうとっくに死んでるよ」

     姫氏原は硬直し、顔を俯かせると、全身を震わせたのだった。

    「わ、私、やっぱり、何も、何も変わってない……」

    (面倒なこと押し付けてくれたなぁ、どらっち……)

     困ったような表情で石川は天を仰ぐのだった。

    【虎肝ドラギモス 死亡】
    【悪霊「虎肝ドラギモス」 消滅】
    【残り9人】

  • 425◆xaazwm17IRZa23/07/06(木) 18:47:44

     霧がかった河川敷を、ドラギモスは歩いていた。
     この河はどこまで繋がっているんだろう、と思う。
     どこかに繋がっていてほしいと願っている自分が居ることに、ドラギモスは気づく。
     もし彼女の元に繋がっていないのだとしたら。

    「絶望した、か。はは、夢見すぎだっての」

    「相変わらずニヒルだねぇ、ドラギモンくんちゃんは」

    「人のことをデジモンみたいに呼ぶな、僕の名前はドラギモスだ。ま、本名じゃないんだけどさ」

     そこまで言って、ドラギモスは驚いたように傍らを見た。
     あの子が、足元に腰かけている。

    「……結」

    「あはは、随分久しぶりな気がするね」

    「まぁな、頭脳労働専門の僕としてはハード過ぎる一日だった。飛び級してるんだから、ちょっとは労わって欲しいぜ」

     そう言って、ドラギモスは結の隣に腰を下ろす。

    「ねぇドラギモスくんちゃん」

  • 426◆xaazwm17IRZa23/07/06(木) 18:48:33

    「何だよ」

    「私、人を殺したんだ」

    「お前の怪異が、だろ。お前のせいじゃねぇよ」

    「ううん、花子さんを召喚したのは私。私の罪だよ」

    「そうかよ、でもお前の怪異のおかげで僕は助かったんだぜ。それも事実だろ」

    「……やっぱり優しいね、ドラギモスくんちゃんは」

     ドラギモスは照れたように顔を逸らした。
     そして、ふと何かを思いついたかのように、生意気そうな笑みを浮かべた。

    「なぁ結」

    「なぁに?」

    「ずっと言いたかったことがあるんだけど」

     ドラギモスは結の耳元に顔を寄せた。

    「実は僕――なんだぜ」

     ええー!? と結はすっとんきょうな叫び声をあげる。
     それを見て、ドラギモスはしてやったりと笑みを浮かべたのだった。

    【虎肝ドラギモス 存在確定】

  • 427◆xaazwm17IRZa23/07/06(木) 18:48:59

    投下を終了します!

  • 428二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 19:02:53

    薄々分かってたけどドラちゃんは生き返ったわけじゃなかったのね…
    そしてジジイはドラギモスと同じで過去のバトロワ参加者とかだったのかな

  • 429◆xaazwm17IRZa23/07/06(木) 19:07:47

    〇昨日は投下できず申し訳ありません、充電器が届くまでは週2程度のペースになってしまうと思います。こちらの不手際でお待たせしてしまいふがいないです。
    〇暖かいお言葉、感想ありがとうございます。話としては佳境に入っていますが、今後もよろしくお願い致します。

    本日はここまでとさせていただきます!
    今日もありがとうございました!

  • 430二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 19:25:34

    爺のメタは宇都ちゃんだけではなかったか…いい生き様だった!
    しかしこれ爺の余波を受けて食われた奴らも存在が不確定化するのかな…まあ、いいか生きちゃいないし

  • 431ドラギモス投げた人23/07/06(木) 19:48:08

    乙でした
    「原作の展開を踏まえると機械強い奴がいた方がいいかな」ってところから考えたキャラだったのですが、まさか首輪解除以外にこんなに見せ場をもらえるなんて感無量です ありがとう……ありがとう……

  • 432二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 19:52:56

    乙でした〜
    石川はまた独りになっちゃったね

  • 433二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 21:51:13

    ドラギモス助けられないわ彼氏は知らんうちに死んでるわで姫氏原ちゃんのメンタルが心配だ……

  • 434二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 22:25:27

    姫氏原小毬の心はもう…

  • 435二次元好きの匿名さん23/07/06(木) 22:38:16

    >>431

    なんでそれで出力されるのが虎肝ドラギモス(CV:神谷浩史)なんだよ

  • 436二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 08:24:18

    肉体的には死んだけど皆の記憶には確かに"虎肝ドラギモス"として残った……って解釈でいいのかな
    本当に大好きなキャラだった、ありがとう

  • 437二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 08:54:37

    ドラちゃんマジで爽やかな最期で泣いた
    お前は語り継がれる…

  • 438二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 13:30:18

    後付けされた異能抜きにしても機械得意以外の要素が中々濃いキャラだった……

  • 439二次元好きの匿名さん23/07/07(金) 22:00:46

    保守

  • 440二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 00:57:18

    保守ギモス

  • 441二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 07:35:36

    >>433

    そういえばこのゲームが始まってから小毬ちゃんと関わった人は石川以外全滅してるんだよね(記憶が正しければ)

  • 442二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 12:03:10

    あー
    ドラギモスと結のラストシーン、なんで河川敷なんだろうって思ってたけど そういや2人が初めて出会った場所も河川敷だったな

  • 443二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 21:15:31

    結ちゃん初の犠牲者で結構呆気なく逝ってしまったからな…確かな繋がりからこういう濃い出番があるのはいいことですな

  • 444二次元好きの匿名さん23/07/08(土) 22:31:41

    凄いいい展開だった…

  • 445二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 00:55:10

    ほし

  • 446二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 07:24:53

    保守爺

  • 447二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 17:05:38

    保守

  • 448二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 21:12:54

    やったね篠宮くん!
    これで2人死んだし生徒の中で誰を間引くかとか悩まずに済むね!

  • 449二次元好きの匿名さん23/07/10(月) 07:03:26

    ほしゅ

  • 450二次元好きの匿名さん23/07/10(月) 12:59:09

    ほし

  • 451二次元好きの匿名さん23/07/10(月) 20:46:57

  • 452◆xaazwm17IRZa23/07/10(月) 22:40:33

    お久しぶりです……!
    充電器が思ったより早く届きました……! この度はこちらの不手際でお待たせしてしまい、申し訳ございません……!

    31話⑥投下します……!

  • 453◆xaazwm17IRZa23/07/10(月) 22:41:07

     生き残りの参加者と生き残りの運営者たちがぶつかり合い、そこに廃村の老人という化物も絡み合う。
     中央本部は地獄絵図だ。
     そんな中で、其処から僅かに離れた場所、とある日本軍戦車の中は、平和だった。
     既に砲弾は一発消費され、どうやら敵の命を一つ奪ったらしいが、それでも既に二人の脱落者が出ている本部組と比べれば極楽と言うしかない。
     千頭之のづちと金木冥。ひときわ弱者であったが故に、特攻から外れた幸運者。無論二人は堀木やドラギモスの脱落を知らず、ただ指示通りに戦車内で待機をしていた。

    (いったい何が起こっているんだ……?)

     乗り組み口から顔を突き出し、千頭之は思う。
     千頭之の脳が未だ狂っていないという前提に立つなら、本部では異様なことが起こっているように見受けられた。
      一区画から蟻の大群が這い出すように、人型の何かが無数に出現し、本部の外壁を這いまわり、あらゆる場所から内部に侵入していったのだ。
     双眼鏡で確認したが、どうも老人のように見えた。

  • 454◆xaazwm17IRZa23/07/10(月) 22:41:36

     千頭之は武芸者でもなければ怪異の専門家でもない。それでも、例えばゲージの中に寄生虫の卵を見つけたときのような、本能的な危機感を老人に感じていた。

    (こっちの判断で砲撃するべきだったか……? でも物理攻撃が効く相手なのかもわからない……、それに、もし目をつけられたら……)

     三田を始め、本部突入組から指示は無かった。
     だから千頭之は何もしなかった。
     まるで指示待ち人間だと自嘲する。

    (どうして私が生き残ったんだ?)

     もはや何度目になるか分からない疑問。
     きっと、生涯抱えることになる疑問。

    (いけないな、弱気になっちゃ……)

     勘違いしてはいけない。未だ千頭之は戦地に居る。運営をも巻き込んだ殺し合いは、依然続行中なのだ。
     内省は、帰ってからすればいい。
     鰐淵なら、きっとそう言ったはずだから。

  • 455◆xaazwm17IRZa23/07/10(月) 22:42:11

    「わ、何か変なの居るんだけど」

     足元で金木が騒ぎ出した。

    (もしやあの老人か?)

     再び双眼鏡で本部の状況を確認するが、各所で煙が上がっているだけで、あの老人の姿はない。

    「何これ蛍? ちょっと千頭之も見てよ」

    (戦車の中に虫でも入ったのか)

     千頭之は虫耐性がある。というか無いと蛇の世話なんて出来ない。
     散々銃撃戦やら超人バトルを掻い潜ったのに虫を怖がるなんてと呆れながら、千頭之は車内に戻る。

    「ほら、見て見て!」

    「これは……」

     車内をふわふわと漂っているものがいる。
     一言で表現するなら、緑色の光。
     掌サイズの光(光球?)が、狭い車内をゆっくりと飛び回っている。

  • 456◆xaazwm17IRZa23/07/10(月) 22:42:45

    (虫、か……? いや、こんな虫聞いたこともない。じゃあ何だ?)

    「捕まえて蛇吉に食べさせる?」

    「変なもの食べさせようとするな」

     とにかく観察してみよう、と千頭之は慎重に距離をつめる。
     虫、かどうかも分からないが、虫の中には猛毒を持つ種もある。自然界では、未知の存在には細心の注意を払わなければならない。

    (これは……)

     虫、ではない。
     非常に小さいが、人型だ。背中に蝶のような羽根が生えているが。

    (猿の仲間……いや、違うな。むしろこれは……)

    「怪異、か」

     ひとまずそう結論付ける。怪異、と考えればこれの正体に何となく察しがつくからだ。
     羽根が生えていて、小さくて、人型で、光っている。
     つまり、妖精。

  • 457◆xaazwm17IRZa23/07/10(月) 22:43:15

    (怪異にも妖精にも詳しくはないな……一応、金木とも情報交換してみるか)

     そういえば金木はオカルト好きだったなと今更ながら思い出し、千頭之はこれは妖精なんじゃないかと意見を求めようとしたときだった。
     衝撃が、千頭之を襲った。
     金盥が直撃したような痛みが脳天に走る。
     本能的に、千頭之は両耳を抑えて蹲っていた。
     物理的に殴られたわけではない。
     あまりにも耳障りな絶叫が、妖精らしき者から放たれたのだ。
     絶叫は僅か二秒ほどだったが、もう二秒続けば鰐淵と再会する羽目にはると千頭之に思わせるほど、その声は強烈だった。

    「な、何よこいつ……!」

    「わからん。だが、もう一度叫ばれると厄介だぞ……」

     一刻も早く追い出さなくては。二人の少女は心を一つにして妖精らしき光を捕まえようとする。
     ——次の衝撃は、外から来た。

  • 458◆xaazwm17IRZa23/07/10(月) 22:43:44

    車内全体が振動する。

    「な、何だぁっ!」

    「外から攻撃されてる、やばいよこれっ!」

     意外にも、金木の状況判断は千頭之より早かった。
     かつてマネモフルに襲撃されたときも誰よりも早く逃げた女である。
     即座に戦車を発進させ、謎の襲撃者から距離をとる。

    「千頭之、スコープ覗いて!」

    「あ、ああ!」

     金木の指示通り、千頭之は射手の席に走り、スコープを覗き込んだ。

    「……何だあれ」

     博物館に展示されていそうな、女神像がそこに立っていた。
     柔和な微笑み、美しい肢体、柔らかなベール。
     門外漢の千頭之から見ても、一目で芸術品だと理解できる造形。
     そして、女神の手には二本の斧が握られている。

    「……何なんだあれ」

  • 459◆xaazwm17IRZa23/07/10(月) 22:44:16

     斧、という表現は適切だろうか。
     刃の部分は千頭之の顔より大きい。斧というよりアックス、否バトルアックスとでも表現したくなる、トロールが振り回していそうな物騒な武器だった。
     女神もまた、大きい。戦車より一回り大きいのだ。
     美しい顔立ちにも関わらず、千頭之は思わず、こう口走っていた。

    「処刑者……」

     安寧の時は破られた。
     この島に安全圏は無いのだ。
     二人の無力な少女は、「最硬」のデストラップに挑むことになる。

  • 460◆xaazwm17IRZa23/07/10(月) 22:44:43

    31話⑥終了します……!

  • 461二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 00:51:32

    2スレ目855~856のデストラップか

    巡視者:人間を見つけると処刑者を呼び出す警報器
    処刑者:硬い。破壊不能。だが足が遅く視力もない
        単体ではまともに機能しない可能性

    これ戦車が意味ないどころかむしろ足枷になってるな……?

  • 462◆xaazwm17IRZa23/07/11(火) 00:53:11

    31話⑥B投下します……!

  • 463◆xaazwm17IRZa23/07/11(火) 00:57:56

     千頭之のづちと金木冥が乘っている八九式中戦車は四名だ。砲手、装填手、運転手、通信手。が、外部との連携はスマホで取れるし、軍団で行動するわけではない以上、通信手は必要ない。
     が、それでも残り三つの役割を二人でこなすことは簡単だ。つまり、移動・装填・発射をてきぱきと行うことは出来ない。装填・発射をしているときは移動が出来ないのだ。
     もっとも、行進間射撃……戦車を動かしながら砲を当てることなど、素人どころか一流の軍人でも難しいのだが。
     何はともあれ、大斧を二本も構えた女神像に対し、二人の少女は「攻撃」を選んだ。
     少し前に本部ビルに向かってぶっ放したことが思考に影響していたのかもしれない。
     ゆっくりと戦車に向かって進む女神像に向けて、千頭之が装填し、金木が狙いを定める。

    「その綺麗な顔を吹っ飛ばしてやる!」

     悪役のような台詞を吐いて、金木は砲弾を発射した。
     相手は明らかに人外。金木はともかく千頭之も良心の呵責は起きない。
     砲弾は真っすぐ女神像へ飛んでいき——直撃。
     斧で切り裂いたり防御をすることもなかった。

    「よし、命中!」

     二人の少女はハイタッチを交わす。
     強敵を撃破したという高揚が二人を包んでいた。

  • 464◆xaazwm17IRZa23/07/11(火) 00:58:21

     ——爆炎の中から、女神像が姿を現す。
     傷一つない玉体が、晒される。

    「嘘でしょ……」

    「おい、倒せてないのか!?」

    「千頭之、もう一回装填! 急いで!」

     戦車で撃たれれば死ぬ。
     それは当たり前のことだ。
     鰐淵は砲弾を逸らしてみせたが、直撃すれば即死してしまう。
     化け物じみた体育会系の連中も、茜音沢にしたって、砲弾が直撃すれば死ぬはずだ。
     千頭之はそう考えていた。
     それなのに……。
     二発目が、発射される。
     やはり女神像は、何ら抵抗しない。
     直撃。爆炎。……そして、無傷。

  • 465◆xaazwm17IRZa23/07/11(火) 00:58:45

    「駄目、これ、無理……!」

     金木の心は折れた。
     素早く砲手席から運転席に身体をスライドさせ、戦車を発進させる。
     急制動に振り回されながら、千頭之は文句を言おうとは思わなかった。
     金木の今までの行動を全肯定することは出来ないが、今回ばかりは正しい。砲撃が通用しない時点で、二人に出来ることは何もない。これ以上の火力を持ち合わせていない。女神像に首輪でもついていれば金木の執行指輪で爆破できたかもしれないが、当然そんなものは付いていない。
     砲弾で傷一つつかない化物を、透明な拳銃で倒せるはずがない。
     逃げることは正解だ。
     入口から顔を出して、千頭之は女神像が追ってこないか確認する。

    「よし、いいぞ……!」

     追おうとはしているのだろう。
     だが、遅い。
     クレイアニメーションのように、のっそりと女神像は進んでいる。

  • 466◆xaazwm17IRZa23/07/11(火) 00:59:31

     あれなら、走っても逃げられたかもしれない。

    「硬い分、遅いってことか……。まるでゲームキャラみたいだ」

     元々、デストラップは暗黒金持ちを喜ばせるために投入されている。どんなデストラップにも攻略法があり、絶対に攻略できない調整はされていないのだ。(といっても、デストラップが攻略されることなど、殺し合いでは滅多に起こらない。たいていの場合、参加者の半分以上がデストラップと遭遇し命を落とす。ゲーム序盤からデストラップを狩りまくっていた今回が異常事態なのだ)

    (このまま見えなくなるまで逃げ続ければ……)

     どんどん小さくなっていく女神像を見て、千頭之は安堵の息を零す。
     再び、耳障りな音が響いた。
     どれだけ温厚な人間でも一瞬で激昂するような音。
     衝撃で足を滑らした千頭之はあ、と思う間もなく戦車内に落下し。
     前髪が数本、斧によって切断された。

    「——————っ!?」

     居る。
     戦車のすぐ真横に、女神像が立っている。

  • 467◆xaazwm17IRZa23/07/11(火) 01:00:05

     もし、千頭之がもう少し体幹が強ければ。あるいは騒音耐性があれば。
     いまごろ斬首刑となっていた。
     九死に一生を得た。が、危機は去っていない。
     騒音によって、金木もまた、レバーから手を離していた。
     戦車は停止している。
     轟音と共に、後部が凹んだ。
     装甲に攻撃されている。

    「金木、早く出せっ!」

    「ぃわれなくても!」

     ぱにくりながらも金木は再び戦車を発進させる。
     外から轟音が響くが、どうやら攻撃距離から離れたらしい。

    (どういうことだ。一瞬で移動……高速移動、いやワープか!)

     ふざけるなよ、と思う。
     これでは遅いという弱点が機能していない。
     硬すぎて壊せないうえに、ワープ機能付き。

  • 468◆xaazwm17IRZa23/07/11(火) 01:00:30

     絶対に始末する、という殺意を千頭之は感じ取った。
     故に、処刑者。
     もう顔を出そうとは思わない。念のため装填作業をしながら千頭之は息を殺す。
     三度目の、絶叫。
     そして、衝撃。
     千頭之のすぐ傍を刃が通過した。
     とうとう装甲の一部が破られたのだ。
     覚悟していた金木は歯を食いしばって騒音を堪え、戦車は止まらなかったため、それ以上の追撃は無かった。
     それでも、このままではじり貧だ。

    「千頭之、絶対その光ってる奴が元凶だよ」

    「ああ、分かっている!」

     千頭之は妖精らしき者をはたき落とそうと平手打ちを放った。ふわり、と妖精はそれを躱してしまう。

    「くそっ、こいつ……!」

  • 469◆xaazwm17IRZa23/07/11(火) 01:01:12

     必死に両腕を振り回すが、捉えきれない。千頭之とて、どんくさいわけではない。が、彼女の動体視力はあくまで平均並み。狭い室内を飛び回る妖精を捕まえるには足りない。そうしているうちに。
     四度目の、絶叫。
     そして衝撃。
     今度は、戦車の内部に刃が侵入することはなかった。
     より、最悪なことが起きた。
     世界が、傾く。

    「わ、わ、わーっ!」

     金木が悲鳴を上げた。

    「制御できない、やばい……!」

    (まさかこれは……)

     傾く車内、止まらぬブレーキ。妙にスローモーションに見える世界で、千頭之の直感は何故か冴えわたった。

    (斬られたのか、キャタピラを……?)

     最高速度まで上げていた戦車は、火花を挙げながら本部ビルへと突っ込む。
     ホテルを模した正面玄関は、戦車のチェックインには対応していなかった。
     ガラスを破り、装飾を破壊し、戦車がエントランスに乗り上げる。
     先発組がホテルに侵入しておよそ1時間。
     最後の二人が、最終決戦の舞台に登壇した瞬間であった。

  • 470◆xaazwm17IRZa23/07/11(火) 01:05:51

    31話⑥B終了します……!

    本日の投下はここまでとさせていただきます……!
    投下前も申しましたが、今回は一週間近く投下が滞ってしまい申し訳ありません……!
    無事充電器も届きキーボードで執筆できるようになったので、投稿ペースも以前と同じように戻ると思います。
    空白期間を感想や保守で保っていただきありがとうございます……!
    残るイベントも少なくなってきましたが、今後ともよろしくお願い致します。
    それでは、本日もありがとうございました……!

  • 471二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 02:20:07

    お疲れ様です!
    今まで安全だった戦車のコンビがいったいどうなるか気になるな

  • 472二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 08:15:44

    お疲れ様でした〜
    これ廃校の時点で出てきてたら詰みだったな…
    しかも妖精が一体とは限らないという

  • 473二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 16:02:40

    保守者

  • 474二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 23:53:21

  • 475運営23/07/12(水) 01:24:14

    復活直後なのに申し訳ないですが、明日朝早いので今日は投下できないです…

  • 476二次元好きの匿名さん23/07/12(水) 06:03:17

    了解しました
    お疲れ様です〜

  • 477二次元好きの匿名さん23/07/12(水) 16:54:05

  • 478◆xaazwm17IRZa23/07/13(木) 01:45:29

    31話⑦投下します……!

  • 479◆xaazwm17IRZa23/07/13(木) 01:46:08

     千頭之のづちが意識を失っていたのは極わずかな時だけだった。
     その刹那の時間で、状況は大きく変わっていた。

    (一体、何がどうなって……)

     目を開く。
     狭い戦車の車内だ。
     席を立とうとして、側頭部がずきりと痛んだ。触れると、出血がある。
     相変わらず世界は傾いたままだ。キャタピラを斧で斬られたためだろう。

    「金木は……」

     居ない。
     とっくに逃げ出したようだ。
     置いていかれた。

    (こればかりは、仕方ないな……)

     彼女を責めようとは思わない。
     非力な金木では、人間一人を抱えて戦車から脱出するのは大変だろう。恋人や親友同士ならいざ知らず、金木と千頭之の関係性なら置いていっても何もおかしくない。

  • 480◆xaazwm17IRZa23/07/13(木) 01:46:33

    (別に恨むつもりはないさ……)

     ふわふわと、あの忌々しい妖精は未だに車内を漂っている。
     ということは、もうすぐ女神像が、処刑者が来る。

    (急いで逃げないと、な……っ!)

     右足の感覚が、無い。
     視線を落とせば、凹んだ装甲に圧し潰されている。
     痛みは無い。
     装甲の下でどうなっているのかは分からない。骨折なのか、挽肉なのか、切断なのか。

    (参ったな、これじゃ逃げられない……)

     金木に見捨てられるのも分かる。
     千頭之のづちは詰んでいる。
     ここで、ゲームオーバーだ。

    (……だったら、後は出来ることをしよう)

     切り替える。

  • 481◆xaazwm17IRZa23/07/13(木) 01:47:04

     死ぬのが怖くない、と言えば嘘になる。
     一度死んだときの、あの痛みと、暗くなる感覚を、再び味わうのは勘弁だ。
     けれど、こうなったからには仕方ない。
     他のクラスメイトと同じように、ストームと同じように、鰐淵と同じように、千頭之にも最期の時が来たというだけだ。

    (まだ、私が冷静なうちに、狼狽える前に、やるべきことを……)

     周囲に視線をやれば、鞄が視界に入る。
     それを抱え、戦車の外に出そうとする。

    「シャ……」

    「駄目だろ出てきちゃ……」

     鞄の中からコサメが顔を出す。鞄から出て千頭之に巻き付こうとする。

    「いい子だから……」

    「シャ……」

    「もう仕方ないなぁ……」

     コサメの瞳孔と眼を合わせる。

  • 482◆xaazwm17IRZa23/07/13(木) 01:47:30

    「アラシを探すのをお願いしてもいいかい?」

    「シャ……」

    「お前にしか頼めないんだ。お願いだから……」

     コサメは舌をちろちろと伸ばした。千頭之はそれに指を這わせる。
     そして、コサメは鞄の中に姿を消した。
     千頭之は息をつくと、鞄を戦車の外へ投げる。

    (ああでも言わないと、お前は私の傍を離れないだろうからな……)

     これで、やるべきことはもう無い。
     残りは仲間たちが上手いことやってくれるだろう。
     きっと、アラシやコサメも彼らと一緒に家に帰れる。

    (二回目だっていうのに、やっぱり死ぬのは怖いな。数時間で再会だ、鰐淵の奴、きっと怒るよなぁ……)

     絶叫が響く。
     処刑を宣告する、鐘の音が響く。
     そして、轟音。

  • 483◆xaazwm17IRZa23/07/13(木) 01:47:57

     鈍く光る刃が千頭之の鼻先を通過する。

    (いよいよか……)

     装甲に守られている分、下手に死ぬのが長引くのは参るなと思う。
     少しずつ自分を守る盾が破れていくのを意識しながら死ぬ。嫌な死に方だ。

    (痛いのは一瞬がいいけれど……)

     その願いをどこまであの女神像が忖度してくれるやら。
     再び斧が振り下ろされる。
     咄嗟に千頭之は頭を屈めた。すぐ頭上を刃が通過する。
     そして、三撃目が戦車に振り下ろされる。

    「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

     地を震わす雄叫びが聞こえた。
     そして轟音。
     三撃目は、来ない。
     千頭之は頭上を見上げた。
     戦車の搭乗口から、見えるものがある。

  • 484◆xaazwm17IRZa23/07/13(木) 01:48:22

     鱗だ。

    (アラシ……来てくれたのか……?)

     違う、とすぐに気づく。
     アラシにしては、大きすぎる。太すぎる。神々しすぎる。
     大蛇、と形容することすら役不足。
     それは、正しく「蛇の王」だった。

    (私は、夢でも見ているのか……?)

     妖精の絶叫とは格の違う、貫禄すら感じる雄叫びが響く。
     かくして、本部ビル玄関にて、ティタノボアと処刑者、王と神の対決が切って落とされたのであった。

  • 485◆xaazwm17IRZa23/07/13(木) 01:49:48

    31話⑦終了です……!

    昨日は投下できず申し訳ありません……!
    感想や保守、いつもありががとうございます……!
    後一か月、よろしくお願いします……!
    それでは、本日もありがとうございました……!

  • 486千頭之投げた人23/07/13(木) 02:43:21

    キタ━(゚∀゚)━!!

  • 487二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 05:01:21

    ボ、ボアちゃん!

  • 488二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 15:27:19

    しかしティタノボアちゃんはどれくらい強いんだろうねぇ…

  • 489◆xaazwm17IRZa23/07/13(木) 20:17:07

    31話⑧Aを投下します……!

  • 490◆xaazwm17IRZa23/07/13(木) 20:17:53

     「王」が自らの異能に気づいたのは、生まれて五百年を経過した時であった。
     「王」の種族は、恐竜亡き暁新世で地上の支配者であり、対抗できるのはディアトリマのような大型鳥類か、セベクスのような陸生鰐くらいである。殆ど天敵が居ない中、「王」の種族は繁栄を築いた。
     強靭で強大な種の中で、「王」はひと際大きく、ひと際賢かった。故に死ぬことはなく、爬虫類の特性に従い、喰えば喰う程、生きれば生きるほど、その身を大きくした。
     雌と番い、子が生まれ、その子が全て息絶える程の年月が流れても、「王」は健在だった。
     五百年。
     ようやく「王」は気づく。
     老いない。
     どれだけ年月が流れようと、「王」の肉体は全盛期を維持している。
     個体差、で片づけるには五百年はあまりに長かった。
     不死身、ではない。
     まだ未熟であった頃は、同族との縄張り争いの末に、鱗に傷が入ることもあった。

  • 491◆xaazwm17IRZa23/07/13(木) 20:18:25

     ただ、老いない。
     死を回避し続ければ、永遠に生きられる。
    「不老の蛇王」は、その後も生き続けた。
     周囲の環境は変化する。
     氷河期が訪れ、同族は滅ぶ。
     「王」は滅びない。
     不死でこそないが、並外れた生命力と適応力で、氷の世界を生き延びる。
     マンモスを喰らい、時には凍りながら冬眠し、ただ一人の「王」として生き続ける。
     ふと、猿の一部が進化したことに気づく。
     知恵をつけ、群れをなし、武器を使う。
    「王」は、それも喰らう。
     時には、集落一つを全滅させる。
     後の神話でナーガ・ドラゴン・八岐大蛇として語り継がれることになるが、「王」はそれに関与しない。

  • 492◆xaazwm17IRZa23/07/13(木) 20:19:14

     「王」はもっぱら山に潜むようになる。
     山脈を移動し、世界各地を旅する。
     「王」は泳ぐことさえ出来、時には大型海洋生物さえ捕食したが、「王」とて溺死の危険性はある。基本的に陸地を拠点とする。
     「王」が生まれて六千万年程の月日が流れる。
     その間、「王」は無敗である。
     とある山麓で、「王」は奇妙なコロニーに遭遇した。
     かつて、氷河時代に餌としていたサーベルタイガーを、矮小に弱小に変えたようなフォルム、いわゆる山猫の群れに遭遇する。
     高度に統率された山猫たちは、その山麓を支配していた。狼も熊も、人間でさえも統率された山猫に勝てず、山麓の支配権を明け渡している。
     一匹のカリスマ的リーダーに率いられたその群れは、繁栄を謳歌している。
     「王」は、それを蹂躙する。
     どれだけ繁栄しようと、どれだけ数を増やそうと、「王」の前では無力だ。
     カリスマ的リーダーを、尾の一撃で殺し、残った烏合の衆を一匹、また一匹と捕食する。

  • 493◆xaazwm17IRZa23/07/13(木) 20:19:54

     山猫の王国は滅亡する。
     「王」は満足し、その地を去る。
     そこから更に数千年の時が流れる。あまりにも長い年月だが、「王」の感覚では一瞬に過ぎない。
     ますます増える人類。
     「王」の住む場所は少しずつ減っていく。
     武器も強くなり、集落も国へと変化を遂げ、文化は文明へと進化する。
     「王」でも大国を滅ぼすことは難しくなる。忌々しいと思いながらも、「王」は世界を渡り、獣を喰い、人を喰い、生き長らえ続ける。
     ふと、自分を追う者がいることに気づく。
     逃げる者はあれど、追う者など数千万年居なかった。
     興が乗った「王」は、それを迎え撃つ。
     そして王は——敗北する。
     三十人あまりの集団であった。
     武装こそしていたが、その程度の数では、「王」の相手にはならない。

  • 494◆xaazwm17IRZa23/07/13(木) 20:20:29

     身の程を知れと「王」は襲いかかり、全身に無数の傷を生む結果となった。
     彼らは只の人類ではなかった。
     火を操る者が居た。
     水を操る者が居た。
     風を操る者が居た。
     木を操る者が居た。
     三十人程度の集団全員が、異能者だった。
     「王」とて、異能者との戦いは初めてではない。が、なまなかな異能者一人や二人、容易く餌にしてみせた。
     これほどの数の、これほど統率のとれた異能者の集団を相手取るのは、初めてだった。
     人種も様々、言語も様々、老若男女が混在するその集団が、何よりも脅威だったのは、「王」の行動パターンを全て予測されていたことだった。
     プライドを捨て策を弄しても全て見破られる。

  • 495◆xaazwm17IRZa23/07/13(木) 20:21:22

     明らかに以前「王」と戦った者がその中に居る。しかし、それはありえない。「王」と遭遇し生き長らえた者など、ここ数百年居ないはず。人間に、そこまで長寿の個体が存在しないことを、「王」は知っていた。
     とうとう、「王」は敗北した。
     その巨体を地に沈め、喉を晒し、数多の時代で君臨した「王」は玉座を降りることとなった。
     何故我は敗北したのか。
     この集団はどうやって形成されたのか。
     「王」には皆目見当がつかなかった。

    「久しぶりだな、蛇の王よ」

     集団の中から、一つの影が進み出た。
     この個体は。

    「吾輩から臣下を奪った罪、ここで晴らしてくれようぞ」

     「王」の想定外のことだった。
     「不老の蛇」が居るように、「不死の猫」が居るなどと。「王」は知る由もなかったのだ。

    「我が名は猫王」

     と、その猫は言った。

  • 496◆xaazwm17IRZa23/07/13(木) 20:22:09

    31話⑧Aを終了します……!
    時間を置いて、31話⑧Bを投下します……!

  • 497二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 20:37:02

    やばい理解が追いつかない…どういうことよ…?

  • 498二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 20:43:16

    ネックオー
    猫 王……!!

  • 499二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 20:49:21

    序盤からいた出オチみたいなキャラが伏線回収して真の力を晒す展開好き
    アツすぎる

  • 500◆xaazwm17IRZa23/07/14(金) 00:32:06

    31話⑧Bを投下します……!

  • 501◆xaazwm17IRZa23/07/14(金) 00:32:38

     同種ではない。
     が、同形ではある。
     それが「王」が小さき蛇に抱いた感慨である。
     数千年ぶりに再会した「猫王」をかつての恨みをこめて叩きのめし(どうせ不死なのだから雑に扱っても構わないだろう)、さてあの屈強な武人たち(茜音沢とセピア)に復讐せんと痕跡を探していた時のことだった。
     小さき蛇が、「王」の前に姿を現したのだ。
     小さき蛇は、「王」に懇願した。小さき蛇の主を助けてほしいという弱者からの願いを、「王」は聞き届けた。

    (蛇と話す人族……あの巫女の末裔か)

     かつて、「猫王」率いる異能集団に追い詰められたとき、ただ一人「王」の助命を願った女が居た。蛇と話す異能を持つ巫女であった。巫女の嘆願の結果、「王」は山の奥深くに封印され、そこから出られないよう結界を張られたのだ。

  • 502◆xaazwm17IRZa23/07/14(金) 00:33:05

     それから数千年、「王」は甘んじて封じられ続けた。

    「ふむ、中々強そうだNE。対茜音沢くんの抑止力として採用しそうじゃないKA」

     一人の邪悪によって、本部に運び込まれるまで。
     「王」は同形であろうと顧みない。
     助命の恩が貼ろうと喰うときは喰う。
     ただ、戦う相手は自分で選ぶ。
     今、「王」が敵意を向けるのは、二本の斧を操る女神像である。

    「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

     生ある者なら正しく「蛇に睨まれた蛙」状態にしてしまう咆哮も、命を持たない処刑者には通じない。
     ただ、無感動に斧が振るわれる。
     戦車の装甲さえ切り裂く一撃は、鱗を裂き傷を残す。
     ティタノボアは怒りに任せ、女神像に噛みついた。スケールはティタノボアが遥かに勝っている。
     硬い、と思った。

  • 503◆xaazwm17IRZa23/07/14(金) 00:33:25

     金剛石よりもなお硬い。
     ここまで硬い存在はティタノボアの長い長い歴史でも、一度も現れなかった。
     喉を狙って斧が振るわれる。
     ティタノボアは回避を選択する。
     巨体に似合わず、「王」は俊敏である。分厚い刃は空振りする。
     そこをすかざす、ティタノボアの石柱のような尾が振り抜かれる。
     硬さでは処刑者に分があるが、単純な質量ではティタノボアが勝っている。
     処刑者は地を離れ、僅かな間滑空する。
     決め手に欠ける、と「王」は思う。
     ティタノボアの攻撃では処刑者に傷は付かず、また処刑者の攻撃はティタノボアは容易く回避できる。
     さてどうするかと「王」が思案したとき、戦車の中から絶叫が響いた。耳障りな音に「王」は苛立ち、瞬間、胴体から血飛沫が上る。
     ワープした処刑者の一撃が、ティタノボアを捕らえたのだ。
     状況は処刑者に有利である。

  • 504◆xaazwm17IRZa23/07/14(金) 00:33:48

    「いったい、何がどうなって……」

     戦車の中で、千頭之は困惑の極みに居た。
     突如出現した怪物じみた大蛇。この世の蛇はだいたい友達の千頭之でさえ、面食らってしまうほどのサイズ。
     そして始まる怪獣バトル。

    (味方、でいいんだよな。そうだよな、蛇に悪い奴なんかいないんだし……)

     ティタノボアがクラスメイトのライフを一つ削っていることなど露知らず、千頭之はそんな風に考えていた。
     その頭上を、妖精が飛び交う。
     鬱陶しい。

    (こいつを何とかしないと、じり貧だ……)

     手を伸ばす。
     当然届かない。
     五体満足の状態でも捉えきれなかった相手、片足を潰された今では、到底捕まえられる相手ではない。

  • 505◆xaazwm17IRZa23/07/14(金) 00:34:17

    「くそっ」

     悪態をつく千頭之を煽るように妖精はジグザグ飛行を見せ

    「シャ!」

     小さな蛇が鎌首をもたげ、妖精に噛みつく。

    「コサメ!」

    「シャ! シャ!」

     逃がしたはずのコサメが戦車内に戻ってきていた。懸命に妖精を追いかける。
     妖精の動きが加速する。蛇の牙から逃れるべく縦横無尽に戦車内を飛び回る。

    「チュウ!」

    「お前は、目裏の……!」

     白鼠のリッキーまでもが対妖精戦線に参加する。
     素早さならコサメ以上。戦車内を飛び回る妖精を追いかけまわす。
     妖精が口を開く。
     が、叫ぶ前にリッチーが飛び掛かる。
     それを避けても今度はコサメが襲いかかる。

  • 506◆xaazwm17IRZa23/07/14(金) 00:35:13

     千頭之も腕を伸ばし、妖精をはたこうとする。
     妖精は、上へ逃げた。
     戦車の中だからこそ追い詰められるのだ。
     外の広い空間に出れば、小さな妖精を捕らえる難易度は格段に上昇する。
     デストラップの使命を果たすべく、妖精は搭乗口から外に出て

    「狙い通りだ」

     待ち構えていたNek-Oの爪で切り裂かれた。
     同時に、処刑者の動きが停止する。
     全身に幾つかの傷を負ったティタノボアは処刑者が動かなくなったことに気づくと、勝利の雄たけびを挙げたのだった。

  • 507◆xaazwm17IRZa23/07/14(金) 00:42:24

    31話⑧Bを終了します……!

    巡視者&処刑者コンビですが、巡視者が本体です。
    また処刑者の強度は作中最硬であり物理で破壊することは非常に難しいです。
    巡視者が弱点というギミックを知っていればA+、知らなければA++相当の強敵でしょう。
    お察しの通り、中盤における廃校での足止めの門突破条件の一つ、デストラップの撃破では巡視者&処刑者コンビを登場させる予定でした。

    そして、本日はここまでとさせていただきます……!
    残るボス戦は後二つですが、最後までお付き合いいただけると幸いです……!
    本日もありがとうございました……!

  • 508二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 03:25:22

    ティタノボア、もしかして恨みの無い相手だったら多少は話が通じるのか……?

  • 509二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 08:17:35

    お疲れ様でした〜
    残りのボス戦は扇動卿と先生ですかね?
    それはそうとNek-Oの過去が気になりすぎて外伝が欲しいレベル

  • 510二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 10:37:34

    激熱展開で誤魔化されているがこの千頭乃のづちという女、今しがた片足を持っていかれたばかりである

  • 511二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 11:43:10

    Nek-O、トリコで次郎の正体がニ狼だって判明した時みたいで好き

  • 512二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 20:32:28

    ほしゅ

  • 513◆xaazwm17IRZa23/07/14(金) 23:32:20

    31話⑧投下します……!

  • 514◆xaazwm17IRZa23/07/14(金) 23:32:50

    「ふふふ……あのクソガキ共……絶対に許さないわよ……」

     肩を撃ち抜かれた冬爺凛は、血痕を垂らしながら『ある場所』へと歩を進めていた。
     その顔は醜悪に歪み、失血によって青白くなっている。まるで幽鬼のようだ。
     爆弾卿より会場の全権を委ねられた冬爺。
     彼女には、他の暗黒金持ちと違い、一つのアドバンテージがあった。

    「着いたわ、これさえあれば……」

     辿り着いたのは「第三制御室」。
     管理者権限がインストールされたカードキーをスライドし、冬爺は中に入る。
     無人のコンソールが幾つも並ぶが、冬爺は一直線に一番奥のコンソールへと向かった。

    「ふふふ……目に物を見せてやるわ……」

     重症とは思えない程てきぱきとした動きで冬爺は機械盤を操作する。幾つもの「警告」を承認し、13桁のセキュリティキーを打ち込み、最後にアームレバーをガシャコンと下げた。

    【自爆プログラムが承認されました】

  • 515◆xaazwm17IRZa23/07/14(金) 23:33:40

    【残り2時間でこの島は爆破されます】

    「くくく、いい気味よ……誰一人生き残らせないわ……」

     ——極限状況の中で、人間はどれほど冷静で居られるのだろうか。
     人は、簡単に正気を失う。
     殺し合いの鑑賞者であり、爆弾卿の信認篤い冬爺凛という人間にとって、たった数時間の死闘は、容易く正気を奪うものであった。
     タイムリミットは残り2時間。この2時間で茜音沢の息の根を止めなければ、ワープ装置は起動せず、冬爺凛は帰還できないのだ。
     墓蟹と一緒にいた頃の冬爺ならば、自らの首を絞める(文字通り自爆行為)ことに気づいていただろう。
     が、今の冬爺は気づかない。

    「さぁ、私はこの隙に屋上へ逃げるわ……! ふふふ、ざまぁみろ……」

     気づかない。
     確かに屋上にはヘリポートがある。
     ヘリの準備さえしてある。

  • 516◆xaazwm17IRZa23/07/14(金) 23:35:05

     が、多くの暗黒金持ちがそれを知っていながら、考慮しようともしなかった。
     かつての冬爺もヘリではなく、ワープ装置にこだわっていた。
     この特殊な島は、ヘリで脱出することが出来ないと、知っていたはずなのに。

    「ふふふ……クソガキ共……ドラギモス……姫氏原……! 絶対に許さない、たっぷりと苦しめて殺してや」

     る、という音は発されなかった。
     冬爺は冷静ではなかった。セキュリティキーで開いた扉を、閉めることを忘れている程に。
     もし閉めていれば。それが鋼鉄の扉を突破する三十秒程の余命があったかもしれないのに。
     銃弾を超える速さで到達した黒い影は、冬爺の首を一瞬で噛み切る。
     冬爺の首が床に落下するより前に、黒い影は第三制御室を飛び出し、次の獲物の場所まで疾走していた。
     後には、首を噛み千切られた女の死体だけが残った。

    【冬爺凛 死亡】
    【暗黒金持ち 残り5人】

  • 517◆xaazwm17IRZa23/07/14(金) 23:35:59

    31話⑧終了します……!

    少し時間あるので、久しぶりにおまけ的なのやります……!

  • 518◆xaazwm17IRZa23/07/14(金) 23:41:47

    Q「猫王」って何?
    A Nek-O→「猫王」と一週間くらい前に電波が降りてきました。詳細は不明なのでダイスで決めます。

    名前:猫王
    年齢:百万年(百万回生きた猫から)
    描写:①山猫の王国でカリスマ的リーダーとして君臨
       ②ティタノボアに王国を滅ぼされる
       ③異能者の集団を組織し仇を取る

  • 519◆xaazwm17IRZa23/07/14(金) 23:50:41

    猫王の戦闘力dice1d100=85 (85)

    1~20:D相当

    21~40:C相当

    41~60:B相当

    61~80:A相当

    81~100:A+相当


    猫王の不死以外の異能・特技dice1d4=4 (4)

    1:無し 2:特技あり 3:異能あり 4:特技+異能あり

  • 520◆xaazwm17IRZa23/07/14(金) 23:54:35

    特技dice1d4=2 (2)

    1:戦闘系特技

    2:リーダー的特技

    3:山猫系特技

    4:クソの役にも立たない特技


    異能dice1d4=1 (1)

    1:戦闘系異能

    2:リーダー的異能

    3:山猫系異能

    4:不死+α

  • 521◆xaazwm17IRZa23/07/15(土) 00:00:27

    リーダー的特技dice1d4=2 (2)

    1:人間の文字を読め人間の社会制度を王国に持ち込めた

    2:圧倒的なカリスマ性

    3:人材発掘&育成能力

    4:口臭がマタタビ


    戦闘系異能dice1d4=1 (1)

    1:自分が殺された攻撃を再現

    2:一度殺された攻撃の無効化

    3:純粋な身体能力の強化

    4:猫パンチ

  • 522◆xaazwm17IRZa23/07/15(土) 00:10:12

    何となく「猫王」の設定が固まってきましたね……!


    明日はdice2d9=7 8 (15)

    が合流します……!

    1:石川&姫氏原

    2:篠宮&谷淵&宇都(黒服)

    3:千頭之&Nek-O&ティタノボア

    4:堀木彩だった存在

    5:マネモフル

    6:三田

    7:金木

    8:歯荷

    9:茜音沢

  • 523◆xaazwm17IRZa23/07/15(土) 00:14:53

    それでは、本日はここまでとさせていただきます……!
    今日も感想や保守をありがとうございます……! 毎回楽しく拝読しています……!
    明日は21時頃開始の予定です……もしかしたらもう少し早く始められるかもしれないです……!

  • 524二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 00:37:55

    乙です、Nek-Oのはまだ本気出してなさそうだな。そして約一名合流=死の存在が…!

  • 525二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 00:39:58

    乙でした
    金持ちの生き残りの5人って誰がいたっけ

  • 526二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 00:47:21

    展開気になりすぎてなんかもうすでにソワソワしてる
    そして4がなんとも無慈悲……

  • 527二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 01:36:27

    正直今までちゃんとNek-Oって打ち込むの大変だったから猫王って簡単な名称が出てきて助かる
    作った人ごめん

  • 528二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 08:52:39

    Nek-Oは王の子孫なんかな
    カウンターの異能なんてあれば(後付けとはいえ)とっくに使ってるだろうから

  • 529二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 09:07:32

    9引いたら生存値とか関係なく即死っぽいのほんと酷くて草
    変異堀木に対抗できるのも現状猫王組しかいなさそう

  • 530二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 18:10:10

    保守王

  • 531二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 19:18:25

    とりあえず最弱な金木の護衛兼見張り役に歯荷ちゃんがついてくれれば一安心ね

  • 532◆xaazwm17IRZa23/07/15(土) 23:19:33

    31話⑨投下します……!

  • 533◆xaazwm17IRZa23/07/15(土) 23:20:06

     浮遊感に、しばし身体を預ける。
     個室の中で、金木は息をついた。

    (千頭之生きてるかな……)

     最後に見たときは右足を装甲で潰されていた。
     あの女神像がいつやってくるかわからない以上、金木は千頭之を置いてその場を逃げ出したが、別に千頭之に積極的に死んでほしいわけではない。もし生きているなら再び合流したいところだ。

    (でも、あの妖精? みたいなやつは飛んでたし、たぶん死んでるよね。ご愁傷様……)

     見捨てた罪悪感を、千頭之は覚えない。あの場で自分が出来ることは何も無いのだから。むしろ意識を落としていた千頭之をそのまま寝かせて行ったのは優しさかもしれない。寝ている間に殺されるのはこの島では幸運な終わり方だろう。

    (銅像っぽいし心臓とか無いだろうから革命指輪も通じないだろうし。透明な鉄砲でどうにかなる相手じゃないし。まぁ、仕方ないよね)

     そんなことより、と思考を切り替える。

    (気になるのはここの屋上)

  • 534◆xaazwm17IRZa23/07/15(土) 23:20:42

     戦車の中でこっそり観察していたのだが、もしかしたら見間違いかもしれないが、ヘリらしきものが停まっているように見えた。
     こうも大きい施設だと屋上にヘリポートがある可能性がある。もしヘリもあれば——金木はゲームから一抜けできる。

    (素人がヘリの操縦とかめちゃ危ないけど、こんな島に長居するよりはマシでしょ)

     見捨てた千頭之が命を拾ったことに気づくはずもなく、金木は都合の良い空想に浸りながら上昇していた。
     そして、六階でエレベーターは停止する。

    「うん?」

    「手を挙げろですわ! って、あら……」

     ドアが開かれ、歯荷仄花は乗り込んでくる。サブマシンガンを突き付けられ、金木はホールドアップした。

    「どうして金木さんが……外の戦車で待機してるはずじゃ……」

     不思議そうに首を傾げ、そしてああ、なるほどと表情を歪ませる。

    「あなた、また一人だけ逃げたんですのね」

    「……は? そっちこそ一緒に乗り込んだ奴らどこ行ったの? 今さら優勝狙い?」

  • 535◆xaazwm17IRZa23/07/15(土) 23:21:12

    「罠にかかってバラバラになっただけですわ。それで、どうしてあなたはぼっちなのかしら?」

    「ごついのに襲撃されて千頭之とはぐれただけだよ。ねぇいい加減銃下げてくれない? 腕上げっぱなしなのだるいんだけど」

     渋々歯荷はサブマシンガンの銃口を降ろす。
     元々この銃は歯荷が撃破した錠著が装備していた。彼女は幾つもの銃器と無数の弾薬を運びながら他の運営を粛清していた。歯荷は一番状態の良さそうな(あくまで素人判断だが)銃を一つ選び装備していた。
     付け焼刃の近接技術だけでは銃撃戦に対応できないという反省からだった。

    「で、あんたはどこ行こうとしてたの?」

    「屋上ですわ」

    「ああ、やっぱ気になるよね」

    「ええ、ヘリ……ありましたよね?」

    「うん、あった」

     ドアが閉まる。再びエレベーターが上昇を始める。

    「ねぇ」

  • 536◆xaazwm17IRZa23/07/15(土) 23:21:41

    「何ですの」

    「私が里美殺したことチクろうとしたの、怒ってる?」

    「別に怒ってないですわよ」

     歯荷は、生存欲求が強い。そのためなら殺人を選べてしまう程に。
     しかし、彼女の倫理観は、しごくまともだ。
     追いつめられると本能が倫理を捻じ曲げてしまうだけだ。
     里美を殺したのは、忍者を獲得したかったからだ。
     それはクラスメイトを殺してしまえる理由になるのか、歯荷にはわからない。

    「ねぇ」

    「だから、何ですの?」

    「そんなに後悔してるなら、何で殺したの?」

    「…………っ」

     見透かされていると歯荷は気づき、不快感に苛まされた。

    (ずれていますわ)

     金木冥という女はいつもそうだ。

  • 537◆xaazwm17IRZa23/07/15(土) 23:22:06

     いつもどこかずれている。
     そのずれが苛立ちを生む。

    (後悔なんて、帰ってからやればいいいじゃないですの)

     ——どこまでも合理的に。
     歯荷が里美綾香に抱くのは、そんな機械のようなイメージだ。
     演劇とダンス、同じ表現者として感じていた。彼女の表現はお手本となるものをそのまま表出したような、高性能なロボットのような演技だった。
     きっと、それに気づいていたのはあまりいないだろうけど。
     中学の時の先輩と、里美綾香。歯荷が終わらせたのはこれで二人目だ。
     共通点はどちらも歯荷より才能があるということ。

    (……死にたくないですわよね、里美さん)

     彼女は最期にそう言った。命乞いの末に死んだ。
     歯荷が死ぬと、その最期さえも誰にも伝わらない。

    (……絶対に死にたくないですわ)

  • 538◆xaazwm17IRZa23/07/15(土) 23:22:33

     終わらせた者には、続ける責任がある。初めて人を終わらせたときから、歯荷はそれを知っている。
     エレベーターのドアが開いた。
     二人はそのまま屋外へと繋がるドアも開ける。(鍵は歯荷が拳で壊した)。
     まだ1時間あまりしか経っていないはずだが、外の空気が随分久しぶりに感じる。
     日も傾いている。
     抜けるような青空に、黒いヘリが一台プロペラを回している。
     ……ん?

    「やべーですわよ!」

    「ヘリガニゲテル!」

     頼みのヘリは既に離陸していた。
     二人は呆気に取られて頭上を見上げる。
     窓からは幾人かの男女が顔を覗かせている。

    「まだ運営の残党がいたんですわね……!」

    「こらー! 降りて来い! レディーファーストを知らないのか!」

  • 539◆xaazwm17IRZa23/07/15(土) 23:23:00

     一足遅かったと地団太を踏みたいがぐっとこらえる。
     サブマシンガンで攻撃してやろうかとも思ったが、万が一奇跡が起こってあのヘリが脱出に利用するかちお考えると、下手に弾も撃てない。
     空が飛べるわけもない二人は一足先に逃げていく運営たちを見送ることしか出来ない。
     ——突如、ヘリの尾翼付近から炎が上がった。
     炎は一瞬でヘリの全身を包む。
     くるくると回りながらヘリは落下する。
     ——屋上に向かって。
     二人は脱兎の如く逃げ出し、屋内へと避難した。
     屋上へと繋がるドアを閉め、その場から少しでも離れる。
     爆風が屋上全体を包み込んだ。
     偶然の事故か、運営たちの仲間割れか……あるいは最初から仕込まれていたのか、かくして空からの脱出経路は絶えてしまったのである。

    【暗黒金持ち 残り2人】

  • 540◆xaazwm17IRZa23/07/15(土) 23:23:28

    31話⑨終了します……!

  • 541◆xaazwm17IRZa23/07/15(土) 23:25:11

    次はdice2d8=8 8 (16)

    が合流します……!

    1:石川&姫氏原

    2:篠宮&谷淵&宇都(黒服)

    3:千頭之&Nek-O&ティタノボア

    4:堀木彩だった存在

    5:マネモフル

    6:三田

    7:金木&歯荷

    8:茜音沢

  • 542二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 23:34:53

    なにっ 同キャラ対決!

  • 543◆xaazwm17IRZa23/07/16(日) 00:13:15

    今夜はここまでとさせていただきます……!

    感想ありがとうございます……! 同キャラが被った場合は単独話扱いとさせていただきます……!

    本日もありがとうございました……!

  • 544二次元好きの匿名さん23/07/16(日) 07:31:16

    乙でした
    ラスボスの独白が始まるあたり終盤も終盤ですね

  • 545二次元好きの匿名さん23/07/16(日) 16:20:00

    保守

  • 546◆xaazwm17IRZa23/07/16(日) 22:13:20

    本日も始めさせていただきます……!

    31話⑩を投下します……!

  • 547◆xaazwm17IRZa23/07/16(日) 22:13:45

     朱音が乗ったバスが事故に遭った。
     崖を転がり落ちて、乗員は全滅だったらしい。
     訃報を聞いたとき、何故か俺は冷静だった。
     俺はどうしてあんなにも冷静だったのか。
     武人として殺傷沙汰には慣れていた。
     それもあるが、もっと大きいのは、現実感が無かったからだろう。
     心のどこかで朱音は生きていると信じていた。
     俺の娘だ。
     俺なら、乗っていたバスが崖から転落しても、五体満足で生存できる。
     俺のクラスメイトでも、何人かは生存が可能なはずだ。
     朱音はどこまでいっても平凡な女子高生で、超人的な身体能力も、特殊な異能も、奇妙な精神も何一つ持ち合わせていなかった。
     けれど、俺の娘だ。
     土壇場で覚醒したのかもしれない。
     朱音が死ぬはずがない。

  • 548◆xaazwm17IRZa23/07/16(日) 22:14:12

     ……きっと、俺の心は妻よりずっと弱かったのだろう。
     現実を、受け入れられなかった。
     娘の遺体を見たときも、本物だとはどうしても思えなかった。
     俺は、違和感を覚えた。
     死因は事故死だ。
     きっと損傷していたはずの遺体を、プロが綺麗に整えたのだろう。
     それでも、見る者が見れば、分かる。

    (何だこれは……)

     首回りを修復した後がある。抜歯の跡すら残っていないが、大きく損傷していたのだと推測できる。

    (落下しているときに首に何か刺さったのか。いや、この傷はむしろ……)

     爆弾によるもの。
     エンジンの爆発に巻き込まれたのなら、体全体に火傷、あるいは炭化しているはず。
     朱音の傷は、首に小型の爆弾を押し付けたような傷だ。

  • 549◆xaazwm17IRZa23/07/16(日) 22:14:43

     爆弾付きの首輪だと、俺は気づいた。マフィアが見せしめのためにそういった殺し方をするのを知っている。中国の張一家がよく使う処刑法だ。
     娘は事故死ではない、と俺は気づいた。
     誰だ? 朱音を殺したのは?
     葬式の後、俺は闇に潜った。
     情報は遅々として集まらなかった。
     学園最強と嘯いたところで一個人の捜査能力などたかが知れている。
     それでも俺は諦めなかった。
     一か月後、妻が自殺した。
     帰るべき家を失った。
     それでも俺は、朱音を探して彷徨い続け。

     ——【管理人】に出遭った。

  • 550◆xaazwm17IRZa23/07/16(日) 22:15:47

    31話⑩Aを終了します……!


    次のパートは

    dice2d8=2 3 (5)

    が合流します……!

    1:石川&姫氏原

    2:篠宮&谷淵&宇都(黒服)

    3:千頭之&Nek-O&ティタノボア

    4:堀木彩だった存在

    5:マネモフル

    6:三田

    7:金木&歯荷

    8:茜音沢

  • 551◆xaazwm17IRZa23/07/17(月) 00:14:29

    31話⑩Bを投下します……!

  • 552◆xaazwm17IRZa23/07/17(月) 00:15:11

     篠宮は混乱していた。
     はたしてこの殺し合いが始まって混乱していなかった時があったのかとも思うが、とにかくにも篠宮はまったく状況を掴めていなかった。
     運営者二人と接触し半ば強制的に共同戦線を組んだ。そこまではいい。
     しかしその後が良くなかった。

    「ディスクはお前が持っているのか」

     と谷淵に聞かれ、篠宮は誤魔化そうとした。が、表情を見るなり

    「そうか、お前が持っているのか」

     と、感づかれてしまった。
     子どもと大人。
     一般人と裏社会の人間の、経験の違い。
     自分一人ではこの男を出し抜けないと、篠宮は諦める。

    「ディスクは非常に重要なアイテムだ。茜音沢に勝てるかどうかはディスクを上手く使えるかで結果が変わる」

    「ディスクが有用だっていうのは知ってるよ」

  • 553◆xaazwm17IRZa23/07/17(月) 00:15:43

     もしディスクが無ければ石川に勝つことは出来なかった。実際の現場を見ていたわけではないが、篠宮はそう考えている。
     茜音沢はきっと石川よりずっと強い。彼を倒すにはアイテムが重要だ。

    「ディスクには裏コードがある」

    「…………何だと?」

    「ある手順を踏めば、ディスクは最大限の力を発揮できる。俺はその手順を知っている」

    「……だから渡せって言うのか?」

    「ククク……弱者から武器を取り上げる程俺は狭量ではない」

    (どういうことだ、どうしてそれを僕に教える……)

     分からない。
     谷淵と出会ってから、篠宮はペースを握られっぱなしだ。

    「……最大限の力……いったい、どんな力なんだ」

    「それはだな……」

  • 554◆xaazwm17IRZa23/07/17(月) 00:16:10

    「わぁああああああああるうううううううぃいいいいいいいいいこはあああああああ」

     不気味な声とと共に、上から老人が降ってきた。

    「な、何だこいつら!?」

    「ほう……」

    「お二人とも、私の近くに」

     動いたのは、異能殺し、宇都紀久子。いつの間にか彼女の手には、「御札」が握られている。
     慣れた手つきで彼女は御札を四方に撒いた。
     瞬間、落下してきた老人たちが篠宮たちに覆いかぶさろうとし——見えない壁にぶつかったかのように弾かれる。

    「結界を張りました。しばらく持つでしょう」

    「よくやった。しかし異能殺し……こいつらを滅することは出来るか」

    「無理です」

     と、異能殺しは即答する。

  • 555◆xaazwm17IRZa23/07/17(月) 00:16:39

    「末端ならともかく、本体を相手取るのは難しいです。私の力量を超えています」

    「そうか。なら、他の奴が何とかするまでここで待つか」

     そう言って、谷淵はよっこらしょと腰を下ろす。

    「さて、どこまで話したかな……そうだ、ディスクの裏コードについてだったな」

    「……あんた、状況分かってるのか」

    「仲間が心配か? 安心しろ——お前じゃ、何もできない」

    「……っ!」

     その言葉は核心をついていた。
     篠宮纏は、無力だ。
     戦闘で活躍も出来ないし、首輪を解除することも出来ないし、新たな方針を立てることも出来ない。
     ただの高校生。
     ただの少年。
     どこまでも透明な、居ても居なくても別にいい人物。
     それが、自分だ。

  • 556◆xaazwm17IRZa23/07/17(月) 00:17:08

    「何もできないし、何もできなくていい」

     と、谷淵は断言した。

    「そんなことは、このゲームにおいて何ら重要なことじゃない」

    「……どういう意味だ」

    「バトルロワイアルは、キルスコアを競うゲームでもなければ、貢献度を測るゲームでもない。重要なのは——生き残ることだ。最後の一人なるまで生き残る。どんな手段を使ってもな。それが、このゲームで最も重要なこと」

     お前はそれが出来ている、と谷淵は言う。

    「お前の立ち回りは、上手い。目立つこともなく、矢面に立つこともなく、常に生存に有利な場に立っている。鉄火場になるべく近づかず、格上との戦闘も極力避け、その上で勢力の中心人物から一定の信頼を得ている」

     そう、なのか……?
     散々な一日だと、篠宮は今日を定義している。人生最悪の一日だ。何一つ上手くいかなかった。
     違うのか?

    「気づいているか?」

  • 557◆xaazwm17IRZa23/07/17(月) 00:17:43

     と、谷淵は問うた。

    「今、一番優勝に近いのはお前だぞ」

     違う、と篠宮は心中で唱える。
     自分のような弱者が優勝できるはずがない。
     そして、すぐにその考えを否定する。
     そして、自分は優勝を考えていない。
     仲間と共に脱出する。

    「純粋な戦力なら茜音沢や石川が有利だ。けどなぁ、奴らは警戒されている。茜音沢はその隔絶した強さ故に包囲網を敷かれ、石川も恐らく警戒されているだろう。お前は違う。お前は、誰よりも危険な異能を持ちながら、まったく警戒されていない。舐められている。否、そういうポジションに座ったんだ。大したものだよ」

     篠宮は反論しようとした。しかし、何も言葉が出てこなかった。

    「ふむ、翁も去ったか」

     いつの間にか、周囲を取り囲んでいた老人がいなくなっている。

    「異能殺し、結界を解け。移動するぞ」

  • 558◆xaazwm17IRZa23/07/17(月) 00:18:12

    「かしこまりました」

     四方の御札が炎を上げて消失する。
     再び、三人は歩きだした。

    「ディスクの裏コードだがな」

     と、谷淵は続ける。

    「簡単に言えば、制限が無くなる」

    「……制限?」

    「死んだ生徒の記憶か異能を一つだけ再現、というのがディスクの能力だ。が、ある手順を踏めば、再現できるのは一つじゃなくなる」

    「……どうなるんだ」

    「全部さ」

     と、谷淵は言った。

    「全てを再現できる」

  • 559◆xaazwm17IRZa23/07/17(月) 00:18:53

    31話⑩Bを終了します……!
    時間を置いて、31話⑩Cを投下します……!

  • 560◆xaazwm17IRZa23/07/17(月) 02:16:40

    31話⑩Cを投下します……!

  • 561◆xaazwm17IRZa23/07/17(月) 02:17:06

     Nek-Oは「猫王」としての記憶を取り戻していた。
     殺される度に野生に戻っていったNek-O。今、彼は原初の記憶、「猫王」の記憶と再会したのだ。

    「それで、猫王って何なんだ?」

     と、千頭之は訊いた。
     一人と一匹は、並んでいる。
     高い位置に居る。
     ティタノボアと呼ばれる古代の超巨大蛇、その頭上に陣取っている。

    「今までと何が違うんだ?」

    「そうさな、人格に変化は無い。マネモフルのように野蛮な性格になったりするわけではない。ただ、今までは出来ないことが出来るようになっている」

     そう言って、猫王はすくっと立ち上がり

    「にゃあ!」

     と拳を打った。
     千頭之には、武術の心得がまるで無い。
     しかし、猫王のパンチは、猫パンチと呼ぶにはあまりに鋭かった。

  • 562◆xaazwm17IRZa23/07/17(月) 02:17:36

     人体を容易く破壊してしまうかと錯覚してしまう程の威力。

    「今のは一体……」

    「今の吾輩は、吾輩を殺した攻撃を再現できる」

    「マジか……すっごい強いじゃないか」

     ふふん、と猫王は胸を張った。
     頼もしい、と千頭之は思う。
     それに比べて自分は……。
     右足に、目をやる。
     足は、あった。
     幸い、千切れたり、折れたりはしていない。
     ただずっと装甲で圧迫されていたのが悪かったのだろう。
     ——感覚は、無い。
     もしかしたらもう二度と歩けないかもしれない。

    (足手まといが、いよいよお荷物だな)

     と、千頭之は自嘲する。

  • 563◆xaazwm17IRZa23/07/17(月) 02:18:02

     処刑者を倒した後、千頭之はティタノボアの力で戦車から救出された。
     蛇に詳しい千頭之は、すぐにこの蛇が古代種・ティタノボアだと気づいた。

    (気位が高い)

     と、千頭之はティタノボアの性格を分析する。
     どんな蛇とも友達になれる自信はあったが、さすがに彼とは気軽に友達になれなかった。
     名目上、千頭之は今、ティタノボアに臣下として庇護された形になっている。
     Nek-O、否猫王とは、過去に因縁があるらしい。
     が、今は対茜音沢で我慢をしてくれている。
     猫王の方も

    「遥か昔のことである。それに、吾輩の復讐はもう済んでいる」

     とのことだった。
     この猫何歳なんだよと思ったが、千頭之はスルーした。

    (他の皆は大丈夫か。無事だといいが……)

    (巫女よ、人が三人、こっちに向かっているぞ。——喰うか)

  • 564◆xaazwm17IRZa23/07/17(月) 02:18:35

    (待て、いや、待ってください『王』。私の仲間かもしれない……)

     先発組が階段トラップでバラバラになったというのは猫王から聞いている。
     しかし、千頭之が猫王と合流できたように、先発組も合流できたのかもしれない。

    「臭いからして、一人は篠宮……後の二人は、知らぬ臭いだ」

    (どういう状況?)

     そうこうしているうちに、三人は姿を現す。
     フードの男、スーツの女、そして篠宮。

    「久しぶりだね千頭之さん、Nek-O……」

     篠宮は肩を竦めて言った。

    「で、どういう状況?」

  • 565◆xaazwm17IRZa23/07/17(月) 02:19:00

    31話⑩Cを終了します……!

  • 566◆xaazwm17IRZa23/07/17(月) 02:21:53

    本日はここまでとさせていただきます……!

    だいたい状況も整ったので後一週間で完結できるように頑張ります……!

    今日も感想や保守ありがとうございます……! 残り僅かですが、最後までお付き合いいただけると幸いです……!

  • 567二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 02:28:05

    お疲れ様です
    どんどんキャラが集結してきてクライマックスに近づいてる感じがするな
    個人的には堀木だったものがどうなるのかがめっちゃ気になる

  • 568二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 02:47:41

    乙です、バトロワのジョーカー枠に篠宮君もいたか…

  • 569二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 08:24:08

    乙でした〜
    透明武器の異能は突入前までなら暗殺最強だったかも知れないけど、みんな強化されたから簡単には死ななそうなんだよな
    そして死んだ生徒の異能全部乗せは流石に強すぎない!?

  • 570二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 09:57:43

    寿命では死なないけど命は一つの蛇王と、死んでも蘇る代わりに残機制の猫王(現Nek-O)か

    急に壮大だけど妙な説得力生まれてて面白いね


    >>569

    もはや銃弾一発で死ぬような奴の方が珍しいまである……

  • 571二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 17:56:32

    アイテムは運営側の異能で準備されてるらしいけど
    DISCを作った人はマジで何者なんだ…

  • 572◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 01:30:08

    31話⑪Aを投下します……!

  • 573◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 01:30:46

     蹲る姫氏原に対し、石川は惑っていた。

    (あー、どう言えばいいんだ?)

     ドラギモスから姫氏原へのフォローを任され、渋々承諾した。
     しかし、いざ言葉にしようとすると、石川は戸惑う。

    (あいつは後悔していなかった。あいつは感謝していた……。どれも、しっくりこないんだよなぁ……)

     姫氏原が何を行い、ドラギモスがどうなったのか、石川は薄々察している。
     それはきっと、一つの奇跡なのだろう。
     死者を一時的に現世に留め、更に戦う力まで付与する。
     強い、と石川は判断する。
     石川の価値観はシンプルだ。強いか弱いか。楽しいか楽しくないか。
     姫氏原の異能は、強い。
     ドラギモスのような虚弱でも超人に片足を突っ込む強さを獲得していた。
     これが、最初から超人であったなら、どこまで強化できるのか。
     気になる。

  • 574◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 01:31:30

     新條とか小田斬とか悪霊で呼んで欲しい。

    (何て、言える空気じゃないよなぁ……)

     よくやっている。ドラギモスもきっと満足している。
     けれど、そんなことを姫氏原は望んでいたわけじゃない。
     きっと姫氏原が望んでいたのは

    (生きてて欲しかったんだよなぁ)

     それが叶わなかったから、泣いているのだろう。
     弱い。
     泣いたところでドラギモスが生き返るわけじゃない。
     強い感情の発露は異能に影響を与えることはあるが、女の涙がパワーアップアイテムにならないことは石川も経験上知っている。
     泣いている暇があるなら、さっさと立ち上がって戦えばいい。
     石川なら、きっとそうする。

    (いつもの俺ならほっとくんだけどなぁ……どらっちに頼まれたからなぁ……)

     喧嘩仲間に頼まれた以上、石川もなるべく尊重したい。

  • 575◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 01:32:00

     が、分からない。
     こういう時、どういう対応をすればいいのか、まるで見当がつかない。
     戦闘狂も、こうなってはただの内気な少年だ。

    「えーとさ、姫氏原……」

     とりあえず、呼びかける。
     姫氏原は目元を赤く腫らしながら石川を見上げた。

    (……よし、まだ眼は死んでないな)

     だったら大丈夫だ。まだこの少女は戦える。

    「……ドラギモスによ、言われたんだ。代わりに謝っといてくれって」

    「……何を?」

     姫氏原は不思議そうに問うた。

    「ドラギモスくんちゃんが、私に何を謝るの?」

    「……さぁな、知らねぇ。んなもん、自分で考えろよ」

     俺はさぁと石川は投げやりに言った。

  • 576◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 01:32:37

    「喧嘩しか知らねぇ。戦うことしか分からねぇ。どらっちがお前に何を謝りたいかなんてちっともわかんねぇし、考えるのも面倒くさい!」

     みんながみんな、お前みたいに頭良くねぇんだよ。

    「でもよぉ、それを考えるのが悼むってことじゃねぇの? 少なくとも、どらっちはお前に泣いて欲しいとは言ってなかったぜ。それは確かだ」

    「……わた、私は、この殺し合いで、変われると思ったの……」

     姫氏原はドラギモスの遺体を抱えながら肩を震わせた。

    「……いっぱい人に迷惑をかけて、目裏さんを殺して……色んな人に助けてもらって……でも、戦いを通して、異能の使い方も、本質も掴めた。変われた、と、そう思ってたのに……結局、私は無力のままだった……」

     私は、私が大嫌い。
     姫氏原は、血を吐くように言った。
     石川は、頷いた。

    「俺も、俺のことは嫌いだよ」

    「そう、なの……?」

    「あー、まあな。だってさ……」

  • 577◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 01:33:08

     石川は口を噤んだ。
     そして、後ろを振り返る。

    「………………来た」

    「………………え?」

    「姫氏原、てめぇ逃げてろ。そんなにメンタルやられてちゃ足手まといだ」

    「え、え、え? な、何が来たの?」

    「決まってんだろ……」

     ああ、と姫氏原は思う。
     この大柄な少年が柄にもなく自分を励まそうとしていたことは、分かっていた。
     何人もの生徒を殺した彼にも、年齢相応の部分があったのだろう。
     けれど、やっぱり違う。

    「茜音沢先生だよ……!」

     喜色満面の笑みを浮かべる石川を、姫氏原はあまりにも遠く感じた。

  • 578◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 01:33:36

     隻腕の修羅は、獲物を求めて彷徨っていた。
     片腕の欠損。放って置けば感染症のリスク、否、適切な処置をしなければ失血死の可能性すらある。
     が、この男はそんなことに頓着しない。
     筋肉で患部を無理やり抑え込む。細菌兵器や異能ならともかく、ただの怪我で病を拾う可能性など、この男にはあり得ない。
     この強靭さの百分の一でも娘に遺伝していれば、彼女は悲劇的な末路を迎えることなく、優勝者として帰還できたのかもしれない。
     そうはならなかった。
     一代限りの突然変異。
     最強の武人。
     茜音沢仁史。

    「せーんせ♡」

     甘えるような声と共に近づく少年が居る。
     体格は茜音沢を上回っている。高校生離れした体躯と筋肉。全身に無数の傷を負っているが、その覇気は衰えない。

  • 579◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 01:34:09

    「あーそぼ♡」

    「……石川か」

     修羅は、かつての教え子と相対した。
     真なるバトル・ロワイアルが始まって初めてのことであった。

    「お前は、一年の時にシメたっけな」

    「『俺に勝てるようになるまで、学校の奴に絡むな』だろ。ちゃんと守ってたぜ。あ、この殺し合いはノーカンだから」

    「あれから、少しは強くなったのか?」

    「見せてやるよ、茜音沢先生」

     石川は拳を握る。
     じりじりと二人の闘気が鬩ぎあった。

    「……お前じゃ無理だ」

    「そうかな、やってみないとわからないよ」

    「32人の教え子の中で、お前が一番可能性がねぇよ、石川大輔」

    「教師がそんなこと言っていいのかよ、ひっでぇ」

     石川は何気なく茜音沢に近づいていく。

  • 580◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 01:34:46

    「一年の頃とは違うぜ、俺は」

     自然な足取りで二人の距離を零にする。

    「成果を見せてやるよ、先生」

     石川の拳が、茜音沢の右頬を打ち抜く。
     常人が喰らえば顔面が粉砕される一撃。
     高校生離れ、否、人間離れした、剛拳。
     一切の加減なし、茜音沢の超人ぶりを理解した上での攻撃。
     結果は。

    「軽いな」

    「…………!?」

     茜音沢は微動だにしていない。
     拳は、茜音沢の頬を歪ませたところで止まっている。
     血さえ出ていない。
     歯さえ、折れていない。
     もしかしたら、肌の細胞さえ削れていないかもしれない。

  • 581◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 01:35:25

    石川の顔が驚愕に歪む。
    「やっぱお前、全然駄目だわ。いいか、石川。パンチっていうのは」
     来る、と分かった。
     避ける。
     逃げる。
     否、否、断じて否……!
     石川は全身の力を込めた。
     ありとあらゆる気合を総動員した。
     受け止める。
     ここで引いたら、この戦闘、自分の負けだ。

    (戦いは、始まったばかりだぜ茜音ざ……)

     顔面に茜音沢の拳がめり込む。
     衝撃(インパクト)。
     石川がこの殺し合いで受けてきた様々な攻撃、そのどれよりも遥かに強力な一撃。
     吹き飛ぶ。

  • 582◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 01:36:20

     折られた歯が、宙を舞う。
     巌のような体躯が、弾丸のように吹き飛んでいく。
     意識は、既に刈り取られている。
     石川の身体は本部の壁に叩きつけられ、その壁を粉砕し、なお吹き飛び、更に壁を粉砕し、速度は衰えず、三枚目の壁を破壊したところでようやく旅を終えた。
     茜音沢はその様子を冷めた目つきで見送る。
     そして、ぺっと口から何かを吐き捨てた。
     それは、歯。
     石川の初撃は、茜音沢の奥歯を一本破壊していた。
     石川は確かに二年間で成長していた。
     それでもなお、茜音沢との間には大人と子供以上のレベル差があったということだ。

    「——こう打つんだよ」

     それっきり、何の興味も無くしたかのように、あるいは元々興味などなかったかのように、茜音沢は背中を向け、次の獲物を探しに向かった。

  • 583◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 01:37:00

    31話⑪Aを終了します……!

  • 584◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 03:28:49

    31話⑪Bを投下します……!

  • 585◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 03:29:34

     姫氏原は、忘我していた。
     深夜零時に始まったバトル・ロワイアル。時刻は午後五時を回ろうとしている。
     純粋な疲労。
     殺人。
     複数回に渡る殺し合い。
     気持ちが下がって、下がって、少し上がって、また下がって……。
     乱高下する感情に、姫氏原の心はついていけなかった。
     故に、忘我。
     ぷつりと緊張の糸が切れる。
     ドラギモスの遺体を抱え、ただ石川が去って行った方向を見る。

    「久しぶりだな、姫氏原」

    「……茜音沢、先生……」

     反応が、出来ない。
     茜音沢に会ってどうするのか、思えばまったく考えていなかった。

  • 586◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 03:30:00

     自分たちを殺し合いに巻き込んだ張本人。
     裏切った最悪の教師。
     けれど、姫氏原は知っている。
     自分の体質に、ずっと親身に向き合ってくれた。
     近づく男子を物理的に排除してしまう厄ネタ女子を、それとなく、けれど確かにサポートしてくれていた。
     良い先生だ、と思う。
     だから。

    「どうして、ですか」

     茜音沢の足が止まる。

    「どうして、こんなことを……」

     茜音沢は答えない。
     ただ、無機質な瞳でじっと彼女を見る。

    「……もしかして、娘さんの為ですか?」

    「…………どうして、それを」

  • 587◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 03:30:25

     茜音沢の目の色が変わる。
     熱を持つ。
     その迫力に姫氏原は息を呑む。
     噂にはなっていた。茜音沢先生が学校に来なくなったのは娘が事件に巻き込まれたかららしい。
     事故? 事件? ストーカー? 連続殺人鬼? 誘拐?
     噂が噂を呼んでいた。交友関係に乏しい姫氏原でも小耳に挟む程度には。

    「……まさか、お前」

     茜音沢は、それを知らない。
     娘が居なくなってから一度も学校に戻らず、とうとうこんな所に来てしまった男には。
     だからこそ、根本的な勘違いをする。

    「視えてるのか」

    (先生……)

     その一瞬、男は修羅であることを止めた。

  • 588◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 03:30:58

     希望に縋りつこうとする父親の顔になった。

    (やっぱり、娘さんのためなんだ)

     この顔を知っている。廃校で戦ったキルコ。彼女もまた、失った者のために戦っていた。

    (先生も、私たちと同じ……)

     姫氏原には、見えない。
     どれだけ目をこらしても、茜音沢の娘の幽霊など、影も形も無い。
     迷った。正直に話すか、誤魔化すか。
     もし上手く嘘をつければ、これ以上殺し合わずに済むのかもしれない。
     姫氏原もまた希望に縋りつこうとし、

    「……ああ、居ないのか」

     見透かされる。
     茜音沢の顔から表情が消える。
     死ぬ。
     何も為せずに死んでしまう。

  • 589◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 03:31:26

     堀木に会えずに、目裏との約束も果たせずに。
     仲間のために何一つ出来ずに。
     ここで茜音沢に殺される。

    「先生、私、私ね、自分のことが好きになれません」

     茜音沢は答えない。
     修羅は、言葉を交わさない。

    「でも先生、私……」

     無造作に、茜音沢が近づく。
     一撃で絶命させるべく、腕に血管が浮かび上がる。

    「死にたくないよ……」

     そして茜音沢の隻腕が少女に伸び。

     閃光が走った。

     茜音沢の掌から煙が上がる。

  • 590◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 03:31:54

     二人の間に割って入った影がある。
     ——異形である。
     全身に獣毛を生やし、牙は鋭く、爪は長く、瞳は爛々と輝く。
     怪人。怪物。獣人。——人狼。
     遠雷のような音が、人狼の喉から漏れた。
     速度を乗せた渾身の一撃。
     この島で最強の生物を倒すべく放ったそれは、茜音沢の掌で容易く防御されていた。
     それでも、人狼の戦意は衰えない。

    「…………堀木くん?」

     姫氏原の言葉に、人狼は身を震わせた。
     しかし、振り返ることも、頷くことすらしなかった。既にその名は死人である。
     人狼は、地を蹴る。
     速度を乗せて、茜音沢に蹴りを浴びせる。
     茜音沢は表情を変えずに蹴りを受け止め

  • 591◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 03:32:21

    (ちっ、さっきより重くなってやがる)

     想定を超える威力に、足に力を込め踏ん張る。
     背後に姫氏原が居るからか、人狼の強さが一段階アップしている。
     評価を上方修正した茜音沢は、必殺の威力を込めた拳を打ちこむ。
     人狼は、拳の到達より早く身体を屈める。
     狙うのは、足場。
     人狼の足が円を描く。
     茜音沢と人狼を支えていた床が一瞬で崩壊する。
     あまりの早業に、茜音沢の体勢もまた、崩れる。
     腹部に、人狼の蹴りが突き刺さる。
     そのまま二人の魔人は落ちて行った。
     姫氏原は呆然と攻防を見るしかなかった。

    (どうして……)

     どうしてあの人狼に、恋人の気配を感じるのか。

    (もしあれが堀木くんなら……でも、私に何が出来るの)

     姫氏原の霧は、未だ晴れない。

  • 592◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 03:32:53

    31話⑪Bを終了します……!

  • 593◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 06:04:55

    31話⑪C[を投下します……!

  • 594◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 06:05:44

     堀木彩が取り込んだのは、人狼の心臓だ。
     人狼……より正確に表現すれば、とある研究機関で開発されていた生物兵器。弾丸飛び交う戦場で、相手兵士を制圧するために開発された。そのコンセプトは「速さ」。
     火力インフレを迎えた近代戦においての一つの解、「どんな攻撃も当たらなければどうということはない」。
     人狼は、かつて堀木彩だったものは、今まさにそれを体現している。
     一挙一動が、速い。
     通常の人類では視認すら不可能な程の速さ。
     繰り出される攻撃には、人狼の怪力も乗っている。
     人体を紙のように容易く切り裂けるパワーがある。
     そして、その必殺の攻撃は——捌かれ続ける。
     対する修羅は、隻腕だった。
     剣士でありながら丸腰である。

  • 595◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 06:06:15

     それでも、人狼の攻撃を片手と両足を駆使して受け止め続ける。

    「笑えば何とかなる、だったか?」

     口を開く余裕さえあった。

    「笑ってみろよ、犬」

     人狼がその牙で修羅の喉笛を噛み千切ろうとする。
     その前に顔を掴まれ、強烈な頭突きを喰らう。
     思わず人狼の動きが止まった。
     致命的な静止。
     茜音沢の攻撃が、人狼の胴体を、正中線をなぞるように浴びせられる。
     人狼は血を吐いた。
     地に倒れる。
     追撃するかのように、茜音沢が拳を落とし——後頭部に、人狼の蹴りが刺さる。
     オーバーヘッドキック。
     茜音沢の頭から流れた血が、人狼の毛皮に垂れる。
     人狼はバネのように跳ね上がると茜音沢と距離を置く。

  • 596◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 06:06:37

    「……チッ」

     茜音沢は傷口を拭う。

    「てこずらせやがって」

     格付けは、既に終了している。
     このまま戦い続ければ、茜音沢の勝利は揺るがない。
     人狼は毛皮を逆立て、唸り声を上げる。
     一切退くつもりは無いのだろう。
     茜音沢は鬱陶しそうに肩を鳴らし、人狼へ一歩踏み込み。
     隻腕が、後頭部へ向けて投げられた瓦礫をキャッチした。
     握力でそれを微塵に変える。
     誰が投げたのか、振り返る前から茜音沢は感づいていた。
     それでも、あえて振り返る。
     戦士としての礼儀か。
     次こそ息の根を止めるという宣言か。

    「ラウンド2だぜ、先生」

  • 597◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 06:07:07

     曲がった鼻を手で無理やり治し、石川は笑みを深める。
     三人目の魔人、ここに見参。

  • 598◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 06:19:28

    31話⑪Cを終了します……!


    本日の投下はここまでです……!

    今日も感想や保守をありがとうございます……!



    >>567

    堀木だったもの、どうなるんでしょうね……。一応ルール上死者扱いですが、生徒の首輪があれば部外者でも脱出できるので、堀木だったものも脱出の可能性はまだ残っています。



    >>568

    実際自前で武器作れるのはジョーカーっぽいですよね、これで武器術の扱いに長けてたらキルスコア1位も夢じゃないです



    >>569

    全部乗せは実際めちゃくちゃ強いというか、クライマックスだから解禁した感じです。なおデメリットも勿論あり、後の話で説明が入ると思います。




    >>570

    異能ありと異能なしが混在したのとダイスで死亡の都合上、生徒の身体能力がインフレを起こしたので……。オルランドで箍が外れたのはあるかもです。




    >>571

    dice1d4=4 (4)

    ①【管理人】②スーツの男③とある暗黒金持ちの異能④とある黒服の異能

  • 599◆xaazwm17IRZa23/07/18(火) 06:20:33

    ディスクを作ったのはとある黒服のようです。たぶん故人でしょう。(詳細はどっかのタイミングで決めるかもです)。

    それでは本日もありがとうございました……!

  • 600二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 08:22:21

    生徒側最高戦力が揃ってるしここで勝てなかったらもう厳しそうだな…猫王と蛇王早く来てくれ…

    そしてワンちゃんになっても堀木くんは堀木くんで安心したよ


    >>599

    そういえばセピアさんがヴェラジウスちゃんの魔眼をコピーしてたけどもしかして…

  • 601二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 10:24:56

    他人の異能に干渉できるやつで黒服なんて危険だし(恐らくの段階だけど)故人であることが救いだ

  • 602二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 15:37:04

    うーん熱すぎる
    全員生き残ってほしいと思ってしまうほど全員に愛着湧いてるから先が怖いな

  • 603二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 16:28:16

    もしかしてこの化け物相手に勝負が成立してた垣根ちゃんって割とやばいのでは??
    火力は魔弾で補ってたとしてもスピードに関しては言い訳できないんだよね

  • 604二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 21:03:45

    垣根ちゃんはパルクールやってるからな……

  • 605二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 21:07:05

    パルクール経験者ならしゃあないかぁ…

  • 606二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 01:55:15

    ほし

  • 607◆xaazwm17IRZa23/07/19(水) 04:43:12

    31話⑫を投下します……!

  • 608◆xaazwm17IRZa23/07/19(水) 04:43:46

     石川と人狼は同時に駈け出した。
     茜音沢を挟撃する形である。

    「おっ、らぁっ!」

     石川の剛拳を茜音沢は片手で受け止める。
     同時に人狼の蹴りが茜音沢をの首をへし折らんと迫るが、これは足によって防がれる。

    「まだまだっ!!」

     石川のラッシュが茜音沢を襲った。
     全て片手で防がれる。
     人狼も追撃を仕掛ける。
     この攻撃もまた、全て防がれる。
     鉄壁。
     それは逆を言えば、茜音沢が防御に徹しなければならないことを示している。
     戦局は互角——。

    「軽いな」

  • 609◆xaazwm17IRZa23/07/19(水) 04:44:15

     ではなかった。
     茜音沢のローキックにより、石川の体勢が崩れる。
     同時に裏拳が人狼の顎を撃ち抜いている。
     次の瞬間には、人狼の身体が宙を舞っていた。
     石川のサッカーボールキックが炸裂したのだ。

    「チッ……」

     茜音沢が舌打ちをする。脇腹に石川の拳が突き刺さっている。
     体勢を崩されながらの一撃。

    「ヒャハハハハどうだ先生! 多少は効くだろ!」

    「効かねぇよ馬鹿」

     先ほどの戦いを再現するかのように茜音沢の拳が石川の顔面を撃ち抜く。
     石川は、耐えた。

    「あぁ……?」

     のけ反りながらもその場に留まる。
     そして。

  • 610◆xaazwm17IRZa23/07/19(水) 04:44:41

    「……効かねぇよ先公」

     お返しとばかりに顔面を殴りつける。
     茜音沢の体勢が僅かによろめく。

    「テメェ……」

    「何驚いてんだよ先生、当たり前だろ」

     顔面を血で染め上げながらも、石川は悪魔のように笑った。

    「強敵と戦ったら強くなる、バトルってそういうもんだろ?」

     石川大輔、18歳。未だ成長期。

    「……受け持ったときから思ってたぜ、めんどくせぇガキだってな」

    「ヒャハハハ、ひっでぇ!」

     二人は互いに拳を握る。
     身体スペックも、戦闘経験も、もしかしたら信念すらも、石川大輔は茜音沢仁史に劣っている。
     それでも、若さだけは勝っている。

  • 611◆xaazwm17IRZa23/07/19(水) 04:45:04

     石川は、戦うことが好きだ。
     強い相手と戦うことが好きだ。
     けれど、彼の日課は弱い者イジメが多い。
     弱者は嫌いだ。
     嫌いだが、わざわざ死滅させようとはしない。
     向こうから絡んでこない限り、相手をしない。
     時間の無駄だ。それならコンビニで雑誌の立ち読みをするほうがよほど有意義だ。
     なのに、何故石川は弱い者イジメが多いのか。
     単純な話だ。
     戦い始めた頃は、確かに相手は強者だった。
     けれど、駄目だ。
     追いついてしまう。追い抜いてしまう。
     戦っている内に、石川の成長が、相手を上回る。
     終わる頃には、石川が格上になっている。
     弱い者イジメに、なっている。

  • 612◆xaazwm17IRZa23/07/19(水) 04:45:29

     この島での殺し合いにおいて、石川は常に挑戦される側だった。相手は格下であり、石川を攻略するために策を練った。
     そもそも殺し合いの参加者に石川より格上の生徒など存在しない。同格こそ
    居れど、彼を上回る暴を持つ者など居ない。
     今。茜音沢という明確な格上を前にして、石川は進化する。
     彼と並べるレベルまで。彼を倒せるレベルまで。石川を押し上げる。
     戦闘狂、石川大輔。その本領が、発揮される。



    「ガハッ!」

     何度目になるかわからない衝撃。
     叩きつけられた壁が破壊される感触。
     全身がボロボロになっていくのを感じる。けれど、同時に全身が熱くなっている。折れた骨が繋がっていく。砕けた肉が修復されていく。
     より硬く、よりしなやかに、より強く。
     石川は即座に立ち上がる。

  • 613◆xaazwm17IRZa23/07/19(水) 04:45:55

     成長している実感がある。

    「戦いを通してキャラクターは成長する、漫画ってやっぱ正しいんだな」

    (あの狼は何なのかよくわかんねえけど、まぁどうでもいいや)

     いい気分だ。こんなに晴れやかな気持ちになったのはいつ以来だろうか。
     不純物のない、闘争の世界。
     石川の、理想の世界。

    「さぁ、もっと殴り合おうぜ先生!」

     大地を蹴る。
     殴る。殴る。殴る。
     石川の知る、あらゆる攻撃を試す。
     石川は格闘技を習得していない。けれど、様々な武術家・格闘家と戦ってきた経験がある。
     それを試す。
     あまりにも無謀な行為だった。
     相手は茜音沢。武の極致。付け焼刃の技術など通用しない。

  • 614◆xaazwm17IRZa23/07/19(水) 04:46:22

     全て受け流される。全て防がれる。全て弾かれる。
     それでも石川は攻撃を止めない。
     そして、遂に陥落の時が来る。
     石川の拳が、茜音沢の顎を捉える。クリーンヒット。
     相手が並の……否、一流の戦士であっても即死をまぬがれない一撃。

    「どうだ、先生!」

     茜音沢は吹き飛ぶ。
     壁を破壊しながら吹き飛んでいく。
     大げさに、まるで自分から飛んだかのように。

    「……あり?」

     さすがに石川も気づく。
     今のは一体何だ? 何を意味している?

    「……あ、不味い!」

     急いで石川は駆けだした。茜音沢の狙いに気づいたのだ。
     もし石川の危惧する通りのことが起こるのなら。それは、最悪の事態だ。

  • 615◆xaazwm17IRZa23/07/19(水) 04:46:48

     その予感は、現実のものとなる。
     横殴りの衝撃が来た。
     肋骨がへし折れる。足が宙を舞う。
     石川は、横薙ぎに吹き飛ばされる。
     無様に大地を転がった石川は、即座に起き上がろうとし、今までは段違いのダメージに、血を吐いた。

    「これ以上お前一人に時間はかけてやれねぇからな」

     茜音沢の手には、得物が握られている。
     漆黒の鉄棒。
     茜音沢を象徴する武器が、そこに収まっている。

    「バトルじゃねぇ」

     茜音沢は吐き捨てる。

    「暴力だよ、一方的なな」

     茜音沢が遂にその本領を発揮する。

  • 616◆xaazwm17IRZa23/07/19(水) 04:47:18

    31話⑫を終了します……!

  • 617二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 09:45:04

    素手でも十分すぎるくらい強いからすっかり忘れてたが
    元々武器持ちキャラだったなこの先生……

  • 618二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 09:53:15

    乙でした
    茜音沢は運営の強者を何人も殺してるし、もし報酬のアイテムを使われたら最悪だな…

  • 619二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 18:46:13

    保守

  • 620◆xaazwm17IRZa23/07/19(水) 21:33:42

    申し訳ありません……体調悪いので今日はお休みします……

  • 621二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 03:06:59

    乙です

  • 622二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 07:45:16

    乙でした〜
    くれぐれもお体には気をつけてください…

  • 623二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 16:04:35

    保守

  • 624二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 21:37:41

    ほしゅあげ

  • 625二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 02:18:43

    主の体調的にも今夜はなさそうかな

  • 626二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 10:05:41

    おだいじに

  • 627二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 19:01:35

  • 628二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 23:05:34

  • 629二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 01:15:02

  • 630二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 08:28:33

  • 631二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 08:47:12

    堀木くん思ったより理性あるな……
    これならどさくさに紛れてみんなと一緒に日本に帰っても大丈夫そうだ

  • 632二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 09:33:23

    谷渕は口癖のように強者にこだわってるけど
    これで実際強かったら面白い

  • 633二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 19:20:55

    プロフィール的には陰湿極悪人のはずなのに相手が今のところ格下メインなおかげで
    なんか子供に親切なおじさんに見えてくる谷淵……
    ここから死ぬのはほぼほぼ既定路線だけど、それまでにどう動くのか楽しみ

  • 634二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 00:41:20

    A+の中で唯一実力がお披露目されることなく退場した小田斬くん
    さすがにもう出番はないだろうけど終わった後の余談とかで語られたらいいな

  • 635二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 08:40:53

    保守

  • 636二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 19:05:37

    ダーク読み手はもし出来ればイフ・シーンをみたい欲求をコントロールできない

  • 637二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 21:11:56

    どうやって勝つんだこんな奴……
    運良く歯荷ちゃんが茜音沢をラーニングできたとしてもフィジカルにかなりの開きがあるし、両腕ある状態で隻腕の人間の再現するの地味に大変そうだし

  • 638◆xaazwm17IRZa23/07/24(月) 01:09:38

    しばらく顔出せず申しわけないです……!
    体調は回復したのですがけっこう忙しく、今日もきりのいいところまで書けなかったので、投下はできないです……
    時間見つけてちょっとずつ書き進めるので、気長に待っていただけると幸いです……!

  • 639二次元好きの匿名さん23/07/24(月) 07:35:52

    体調が回復してよかった!
    気長に待ってますよ〜

  • 640二次元好きの匿名さん23/07/24(月) 09:37:16

    報告たすかる、そして大事には至らなかったようで何より
    また体壊さないように無理のないペースでね

  • 641二次元好きの匿名さん23/07/24(月) 19:51:22

    保守

  • 642二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 05:26:27

    保守

  • 643二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 13:06:33

  • 644二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 20:58:52

  • 645二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 21:51:09

  • 646二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 07:15:05

    完走祈願保守

  • 647二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 07:45:46

    ワンピのヒグマ生存説のように、ペギー生存説を唱えてみる
    あいつ回避異能と未来予知できるアイテム持ってたのにあっさり死にすぎじゃんよ

  • 648二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 18:26:02

    仮にもデスゲームスレだから死ぬときはあっさり死ぬ……
    と言いたいところだがあのピエロ幸運79もあったんだな
    撃った冬爺とも2の誤差しかないし仮に生きててもおかしくはないか

  • 649二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 01:12:34

    保守ロワイヤル

  • 650二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 12:31:12

    待ちの姿勢

  • 651二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 12:44:34

    ほし

  • 652二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 20:27:29

  • 653二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 02:02:11

    ほし

  • 654二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 13:36:34

    保守

  • 655二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 20:07:56

  • 656◆xaazwm17IRZa23/07/28(金) 23:41:40

    お久しぶりです……! ずっとお待たせして申し訳ありません……!
    31話⑬を投下します……!

  • 657◆xaazwm17IRZa23/07/28(金) 23:42:08

     石川大輔は、ごく普通の両親の家に生まれ、ごく普通に育てられた。
     虐待を受けたことはなく、異常な愛情を注がれることもなく、異能と遭遇することもなかった。
     普通の子どものように育ち、普通の子どものようにヒーロー番組にハマり、普通の子どものように友達と遊んだ。
     普通と違ったのは、石川が頑丈だったことだ。
     遊びにムキになって友達に怪我をさせる……それはきっと、普通の子どもでも起こりえる事象だ。
     それが理由で仲間外れにされることも、我を曲げずに年上の子どもにどつかれることも、いつの時代のどの町でも必ず起こる出来事といっていいだろう。
     挫折を知って、妥協を知って、トラウマを背負って、少年は大人になっていく。
     ——石川には、それが無かった。
     全戦全勝。
     ガキ大将も、年上の小学生も、中学生も、高校生も、大人ですら。
     石川をどつけない。
     石川を曲げられない。

  • 658◆xaazwm17IRZa23/07/28(金) 23:42:30

     暴力の空しさを、現実の残酷さを、妥協することの喜びを、教えることが出来ない。
     戦いごっこが好きだった。
     本気でやったら友達が怪我をした。
     悪いのは誰だ?
     決まっている——弱い奴が悪い。
     俺は悪くない。幼い石川はそう結論づける。
     もし、俺が悪いのなら、俺は不幸な目に遭っているはずだ。望まぬ状態になっているはずだ。
     ヒーロー番組では、そうなっている。ヒーローだって時には間違える。ヒーローらしからぬ行動をとることもある。
     けれど、その話、あるいは来週の話でヒーローはその行動が原因で不幸になる。やることなすこと上手くいかなくなるし、顔も悲し気になる。
     そして何らかのきっかけをもとにヒーローは自分が間違っていたことに気づき、その行動を修正する。
     現実も、同じなはずだ。

  • 659◆xaazwm17IRZa23/07/28(金) 23:42:55

     間違っているのなら、不幸になるはずだ。
     俺は、間違っているのか。
     間違っていない。戦いごっこが好きだ。大好きだから真剣に取り組んでいる。
     そのおかげで——戦う相手にことかかない。
     幸せだった。
     もし曲げていれば手に入らなかった幸福だ。
     暴走族の集団を足蹴にしながら、中三の石川は空を仰ぎ呵呵大笑した。
     俺は何も間違っていない!
     戦いは最高で、強い奴は至高で、俺の人生はハッピーだ!
     無敗の少年は叫んでいた。
     小学生のとき、一緒に遊んでいた友人たちの顔は、すっかり思い出せなくなっていた。
     別にいいだろ、あんな雑魚ども。

  • 660◆xaazwm17IRZa23/07/28(金) 23:43:19

    「あー、参ったな」

     石川は、眼前の超人を見て、肩を竦める。
     超人の名は、茜音沢仁史という。
     かつて、無敗の石川に決定的な一敗をくれた恩人だ。
     あにまん高校に入学し、初日に「最強」を殴りに行った石川は、茜音沢に瞬殺された。
     剣士であるという。が、真剣どころか竹刀すら使われなかった。
     パンチをいなされ顔に一発。それだけでノックダウン。
     石川が雑魚を黙らせるときのように、ヒーローが雑魚敵を倒すときのように。
     負けた石川は約束をした。
     茜音沢に勝てるようになるまで、学校関係者に手を出さない。

    『暴力禁止……と言いたいところだが、中学で散々大暴れしたお前だ、方々で恨みを買ってるだろうし、最低限自衛は必要だろ』

     つーかガチで暴力禁止だと、俺も困るしな。
     怠そうな口調で茜音沢は頭を掻いていた。

  • 661◆xaazwm17IRZa23/07/28(金) 23:43:53

    『あにまん高校は特殊な高校だ。お前のその面倒くせぇ戦闘意欲も、何らかの異能が関わっている可能性がある。学園の方針としてはそれを磨いてほしいだろうしな。まったく、とんでもねぇ学校だぜ』

     まぁだから、学校関係者にはてぇ出すなよ。他は自己責任だ。捕まっても庇わねぇし助けねぇからな。退学にして終わりだ。

    『…………けけけ、ひっでぇ。そこはさ、もっと熱血なこと言うんじゃねぇの?』

    『俺は冴えない中年教師だよ。学園ドラマなら主人公を冷めた目で見る脇役さ。お前らの卒業式と娘の卒業式が被ったら娘の卒業式優先するタイプだよ』

     ま、適当に学園生活楽しめよ。バトルはご法度だが、同学年にけっこう面白い奴は多いぜ。友達作ったり恋人作ったり、勉強したり部活したり遊んだりでだらだら過ごせよな。
     そう言って、茜音沢は去って行った。
     痛みから起き上がれなかった石川は、それでも

    『……分かったよ先生。約束は守るぜ』

     と、笑みを浮かべたのだった。
     その茜音沢が今、氷点下の殺意を持って、石川と対峙している。

  • 662◆xaazwm17IRZa23/07/28(金) 23:44:17

     手には漆黒の鉄棒。
     素手の状態で茜音沢は遥かに格上だった。
     ましてや得意武器を持たれては。
     ——絶対に勝てない。
     どれだけ石川が異能で強くなろうとも。
     どれだけ石川が火事場の馬鹿力を発揮しようとも。
     あるいは友情パワー、主人公補正、黄金の意思、漆黒の殺意、などのバフが乗ろうとも。
     勝てない。

    (俺は茜音沢先生に殺される)

     改めて、石川は心に刻む。
     闘争に彩られた十八年の人生。
     その果てに格上の戦士に蹂躙されて死ぬ。
     ああ、それは。

    (よし、ハッピーエンドだな!)

  • 663◆xaazwm17IRZa23/07/28(金) 23:44:42

     石川は破顔した。
     笑顔のまま駈け出す。
     死神の鎌の元へその首を差し出す。
     鉄棒のリーチにためらいなく飛び込む。
     来た。
     躱す? 無理だ。
     相手は茜音沢。射程距離で鉄棒を躱すなんて芸当、きっと出来る存在は居ない。
     石川の動体視力でも、鉄棒の動きを捉えられない。
     狙撃にさえ対応しうる速さなのだ。
     だから、腕を出して防御できたのは、直感によるものだった。あるいは、隻腕の茜音沢が繰りだせる棒術を、膨大な戦闘経験からピックアップし、ある程度の当たりを無意識で算出していたのだろう。
     防ぐ。
     腕が千切れ飛ぶ。
     当たり前だ。

  • 664◆xaazwm17IRZa23/07/28(金) 23:45:02

    石川にはラッタッターのような無敵の異能は持ち合わせていない。
     茜音沢の本気の一撃を浴びれば、その五体は耐えられない。
     右腕を失いながらも、石川は前進した。
     茜音沢に少しでも一撃を与えるべく、自身を刻み付けるために、前に出る。
     無情にも、鉄棒が振り下ろされる。
     石川は、茜音沢に触れることなく、絶命する。
     ——一人なら。
     茜音沢の目が見開かれた。
     首に、牙が突き立てられる。
     石川に意識を向けていた分、背後への警戒が僅かに疎かになっていた。
     それでも近づく者がいれば即座に反応できただろう。
     気取るより速く動ける、人狼でなければ。
     茜音沢の、鉄を重ねたような筋繊維を、人狼は噛み切ろうとしている。
     傷口から血が流れる。
     牙が、肉に刺さる。

  • 665◆xaazwm17IRZa23/07/28(金) 23:45:28

     ——それだけだ。
     首を千切ることも、頸動脈を断ち切ることも、出来ない。
     人狼の牙では、茜音沢を殺せない。
     それでも、気を逸らすことは出来た。
     だから、石川は近づけた。
     拳が届く距離まで。
     生涯最後の一撃。
     今までの闘争人生を締めくくる一撃。
     ありったけの余力を込めた一撃。
     剛拳が茜音沢に迫り——。

    「ぬるいな」

     鉄棒が振られた。
     それは、初歩的な動きだった。
     武術家や戦士でなくともできる、極々当たり前の所作だった。
     茜音沢は、鉄棒の握る位置をずらした。

  • 666◆xaazwm17IRZa23/07/28(金) 23:45:54

     より中央に近い位置に持ち替える。
     そうすれば、第三の選択肢が選べる。
     石川を先に攻撃し、人狼への対処を遅らせるか。
     人狼へ攻撃し、石川の攻撃を受けるか。
     一定以上のダメージ覚悟の強制二者択一が、崩壊する。
     中央に近い位置を握り、振るう。
     石川と人狼の頭部が爆ぜた。
     石川と人狼への同時攻撃。
     石川の全身から力が抜ける。
     人狼の牙が外れる。
     石川の生涯最後の一撃は、当たらずに消える。
     けれど。

    「なるほど」

     と、踏み込んだ少女は言った。

    「そうやって殴るんですのね」

  • 667◆xaazwm17IRZa23/07/28(金) 23:46:23

     石川と人狼への同時攻撃。
     それはつまり——二人の影に隠れていた歯荷仄花をスルーするということを意味する。
     技名は、無かった。
     恐らく、体系的な技術では無いのだろう。
     独学、自己流、孤独な少年が研鑽した、最も効率的な人の殴り方。
     本来の一撃には、きっと足りない。
     体格も、筋力も、拳の硬さも。
     それでも、ある程度までは再現できる、再現できてしまう。
     茜音沢仁史が修羅のように。
     石川大輔が戦闘狂のように。
     人狼が怪物であるように。
     歯荷仄花もまた、異能者なのだから。

    「っおっらぁああああああああああああああッッ!」

     歯荷は吠えた。

  • 668◆xaazwm17IRZa23/07/28(金) 23:46:52

     消えるはずだった石川の、最後の一撃が再現される。
     瀧沢のジークンドー、マネモフルの灘神影流、そして石川との戦闘経験を貯め込んだ歯荷ならば、予備動作だけでその一撃は再現できた。
     拳は、茜音沢の胸板に、心臓に突き刺さる。
     茜音沢は、よろめいた。
     顔が、驚愕で歪む。

    (ありましたわ、確かな感触が! 効いていますわ、効いているはずですわ……!)

     この機を逃してはいけない。
     歯荷は更なる追撃を行おうとし。
     
     自身の腰から下が消失したことに気づいた。

    (……え?)

     理解が追いつかない。
     一体何が起こったのか。
     茜音沢が足を上げている。

  • 669◆xaazwm17IRZa23/07/28(金) 23:47:20

     ああ、と納得する。
     蹴られたのだ。
     いくら技術を蓄えたところで、肉体は常人の範囲を出ない。
     修羅に蹴られれば、五体を保ってはいられない。

    (あ……駄目ですわ)

     痛みはない。
     ただ、急速に意識が霞み始める。

    (駄目です、駄目ですわ、眠ってしまっては……眠れば全部)

     消えてしまう、と歯荷は思った。
     それが、最後の思考だった。

  • 670◆xaazwm17IRZa23/07/28(金) 23:48:55

    31話⑬を終了します……!

    続きは数日以内にまた投下します……!

    感想や保守を本当にありがとうございます……!

  • 671二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 01:42:56

    久々の更新めっちゃ嬉しいです
    そして個人的に特に好きなキャラが集まってるのにヒヤヒヤする展開だ……

  • 672二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 08:35:34

    おおよそ十日ぶりの更新が沁みる
    しかし千頭之といい歯荷といいあに高ガールズは脚を潰されるジンクスでもあるのか

  • 673二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 10:06:15

    久しぶりの更新お疲れ様でした!
    歯荷ちゃんが来たってことは金木も近くにいる筈だが…もはや心臓を潰したからってこの先生が死ぬとは思えないな

  • 674二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 11:04:13

    大丈夫か二人とも…まだ致命傷で済んでればいいけど…

  • 675二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 18:43:23

    茜音沢先生は剣士キャラなのにまだ一度も技術を使ってないのよね
    それが図らずとも歯荷ちゃん対策になってる訳だが

  • 676二次元好きの匿名さん23/07/30(日) 02:15:55

    保守の構え

  • 677二次元好きの匿名さん23/07/30(日) 08:43:25

  • 678二次元好きの匿名さん23/07/30(日) 17:52:38

    保守

  • 679二次元好きの匿名さん23/07/31(月) 03:51:33

    保守

  • 680二次元好きの匿名さん23/07/31(月) 12:45:52

    ほし

  • 681二次元好きの匿名さん23/07/31(月) 20:31:32

    みね

  • 682二次元好きの匿名さん23/07/31(月) 21:14:10

    星峰くん……彼が居なかったらどっかのタイミングで歯荷ちゃんが最悪の敵になる可能性もあったしあそこで庇ったのは英断だったよ……

  • 683二次元好きの匿名さん23/08/01(火) 07:05:48

    保守

  • 684二次元好きの匿名さん23/08/01(火) 14:22:46

  • 685二次元好きの匿名さん23/08/01(火) 20:49:14

  • 686二次元好きの匿名さん23/08/02(水) 06:33:21

  • 687二次元好きの匿名さん23/08/02(水) 16:55:26

  • 688二次元好きの匿名さん23/08/02(水) 20:38:40

  • 689二次元好きの匿名さん23/08/02(水) 23:43:48

  • 690二次元好きの匿名さん23/08/03(木) 09:40:29

  • 691二次元好きの匿名さん23/08/03(木) 19:48:39

  • 692◆xaazwm17IRZa23/08/03(木) 20:57:04

    お久しぶりです、31話⑭投下します……!

  • 693◆xaazwm17IRZa23/08/03(木) 20:57:42

     茜音沢がその場を去った後も、まだ石川には意識があった。
     一度沈んでいたのが再浮上したのか、微かにだが存続していたのか。それすらも曖昧で分からない。
     ぼんやりとした意識のなか、どうやら自分はうつぶせに倒れていることは分かる。
     まだ、戦いは終わっていない。
     石川は、再び立ち上がろうとした。
     しかし、指先一つ動かない。
     五感も、まったく働かない。
     それどころか、体の各部が徐々に冷えていくのを感じる。
     凍傷や冷却とはまったく別種の凍え……永遠の喪失。
     死は、もうすぐそこまで来ている。

    (ま、仕方ねえか)

     石川は、じたばたと足掻かなかった。
     最強に挑み、敗れた。
     戦闘狂にとって、満足のいく最期だった。

  • 694◆xaazwm17IRZa23/08/03(木) 20:58:11

     畳の上で大往生をするより、不意の事故死をするより、この死に方は石川の望むところだった。

    (まったく、いい人生だった!)

     まだ、少し時間があるらしい。
     石川は、走馬灯代わりに、自分の人生を総括することにした。
     今までの戦いを思い出す。鮮烈なバトルの数々を思い出す。
     せっかくなので、ベストを決めようと思った。
     余力を振り絞り、自らの感情に委ねて、最高に楽しかった戦いを決める。
     ——候補は、二つ出た。
     意外なセレクトだった。
     ドラギモスと共に戦った老人戦。
     命を落とす結果となった、茜音沢リベンジ戦。

    (へぇ、ヤクザ潰したときや、金輪・ラッタッター・瀧沢戦は入らなかったか。我ながら意外……でもねぇか。どっちも俺史上最高に強敵だったしな。まったく、一人じゃどうにもできない相手だった……)

  • 695◆xaazwm17IRZa23/08/03(木) 20:58:42

     ……………………待て。
     何か今、おかしくなかったか?
     戦闘狂にあるまじき、石川大輔を否定するような思考をしなかったか?
     老人に囲まれながら、ドラギモスと背中合わせで戦った。
     謎の狼と挟み撃ちにして、最後は歯荷に一撃を託した。
     どちらも、戦闘狂としては不純物の多い、最悪ではないにしても不満足なもののはずだ。
     おかしい。
     そんなはずはない。
     石川大輔は、『戦うこと』が好きなはずなのだ。
     『弱者』は嫌いなはずなのに、どうして弱者と共闘したことばかり心に残っているのか。
     それではまるで……。

    (俺は……俺は、どうして……)

     石川大輔は、戦うことが好きだ。

  • 696◆xaazwm17IRZa23/08/03(木) 20:59:11

     石川大輔は、戦いごっこが好きだ。
     だって石川大輔は——ヒーロー番組が、大好きだったから。

    (……そういうことかよ)

     死の間際、石川は自らの根底に気づいた。
     仲間と共に、巨悪に立ち向かう。
     石川が本当に求めていたものは、敵ではなく——。

    (くそ……何だよ、それ……)

     立ち上がろうとする。
     身体に力が入らない。
     幻視する。
     首輪を外し、茜音沢に立ち向かう。
     石川の右隣には、金輪が立っている。
     左隣には、瀧沢が構えている。
     背中はラッタッターが守り、遠くでねうねいがサポートの準備をしている。

    『行くぜお前ら!』

  • 697◆xaazwm17IRZa23/08/03(木) 20:59:35

     応! と声と共に石川たちは最強へと挑む。
     仲間を守るために、石川は願いを込めて拳を打つ。
     そんな未来が、どこかにあったのかもしれない。
     覆水は盆に還らない。

     (畜生……俺は、最初から……)

     石川は立ち上がろうとした。
     そこで、彼の意識は闇に溶けた。

    【石川大輔 死亡】
    【残り8人】

  • 698◆xaazwm17IRZa23/08/03(木) 21:00:11

     意識と意識の狭間には何があるのか。
     何もない、と歯荷は知っている。
     夢を見ない限り、そこには闇すら無い。
     ただ、無いというのは、あくまで歯荷の認識の問題であり、実際には眠っている間も脳は稼働を続けている。
     となると意識と脳は別物なのか? ドラギモスや三田ならばその答えを知っているのかも知れないが、歯荷の知識ではこれ以上賢いことは考えられない。というか、あんまりその辺は興味が無い。
     ただ、分かっていることは。

    (消えてしまった……)

     眠ることは、喪失を意味する。
     むくりと歯荷は起き上がった。
     腰から下は、在る。てけてけさんにはなっていない。

    (本物かどうか確証は持てませんでしたが、どうやら間違いないようですわね)

     歯荷は、確かに死んだはずだった。
     上半身と下半身を分断されれば、人間は絶命する。身体能力は常人の域に留まっている歯荷ならばなおさらだ。
     歯荷は、確かに死んだ。恐れていたはずの死に、呑み込まれたはずだった。
     茜音沢戦の前に服用していた、あるアイテムが無ければ。

  • 699◆xaazwm17IRZa23/08/03(木) 21:00:35

    (感謝しますわ、不死太郎さん。おかげで命だけは失わずに済みましたわ)

     ——異能血清『田中不死太郎』。
     異能の研究の一環として作られた試験薬。不死性はほぼ完璧に再現出来ているが使用者の体質によっては再生力が不安定という欠陥がある。血清の異能が発動する度効力が落ちる。
     暗黒金持ち・錠著者絵を殺したことにより、歯荷には報酬のアイテムが与えられていた。
     それが、不死太郎の異能血清だったのだ。
     幸いにも、歯荷の体質は不死太郎の血清に適応していた。どんな技術でも習得する歯荷の異能が間接的に作用したのかもしれない。

    (服まで再生されるタイプの不死なのも良かったですわね。今更服探しをしている余裕も無いですし)

     命は助かった。死はある程度遠ざかった。
     けれど、歯荷仄花は戦闘不能(リタイア)だ。

  • 700◆xaazwm17IRZa23/08/03(木) 21:00:59

     どんな技術でも観れば習得できる歯荷仄花の異能は……【一日】という明確な制限がある。そして、一日とは、歯荷の意識が継続している時間を指す。つまり、眠れば全てはリセットされる。
     歯荷は戦士ではない。
     下半身を吹き飛ばされればショックで意識を失う。
     その時点で、歯荷は失った。この島で身に着けたあらゆる技術を、全て手放すことになった。
     もう、歯荷は戦えない。

    「……これからどうしようかしら」

     後は仲間に託して逃げ隠れるか。
     あるいはもう一度強くなるために、鉄火場の近くに陣取るか。
     歯荷は、周囲を見渡した。
     茜音沢は、姿を消している。他の仲間を襲いに行ったのだろう。
     あの、謎の狼もまた、姿を消している。怪異の一種で消滅したのか、あるいは茜音沢の後を追ったのか。
     そして、石川大輔は。

  • 701◆xaazwm17IRZa23/08/03(木) 21:01:21

    「……随分と、悔しそうな顔をされるのですね」

     その死に顔は、穏やかとは程遠いものだった。
     彼には、いい思い出がない。
     ここに来るまでも、ここに来てからも、乱暴で獰猛で狂人。それが歯荷から見た石川大輔だった。
     それに、殺人者の自分が言えることではないが、石川は四人もクラスメイトを殺している。
     自業自得だと笑うべきなのかもしれない。
     悪が滅んだと喝采するべきなのかもしれない。
     また一人死の要因が減ったと安堵するべきなのかもしれない。
     歯荷は、そのどれでもなかった。
     心中に沸き上がったのは、怒り。
     どうしてこんなにも苛立っているのか、自分でも分からない。
     誰に対して、何に対して怒っているのかも、分からない。
     ただ、嫌だ。

  • 702◆xaazwm17IRZa23/08/03(木) 21:01:49

     何だか無性に嫌なのだ。

    (このまま、一人ずつ私たちが殺されて、幕を下ろすなんて……そんな終わり方はごめんですのよ)

     茜音沢は、強い。
     絶望的なまでに、強い。
     それでも、それでも、それでも……!

    (まだ私は生きていますわ。……絶対に、あの男の好きにはさせません)

     歯荷は立ち上がった。
     石川の遺体を顧みることなく歩きだす。
     全てを失ってもなお、歯荷は生きるために戦い続ける。

  • 703◆xaazwm17IRZa23/08/03(木) 21:03:02

    31話⑭終了です……!
    ここまで感想や保守をありがとうございます……!
    数日以内に続きを投下するので、お手すきの時に読んでいただけると幸いです……!

  • 704二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 00:15:31

    久し振りに来られたぜ……

    この文章のクオリティでこれだけの量とか大変だったでしょう?
    本当にお疲れ様です

  • 705二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 02:59:27

    お疲れ様です
    上手く言い表せないけどドラマチックで心を揺さぶられる展開でした
    心から感謝!

  • 706二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 07:45:13

    乙でした
    一瞬(もしかして歯荷ちゃん下だけ裸になってない!?)と思ったけど便利すぎる異能に救われてた

  • 707二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 08:47:00

    久々の更新乙でした〜
    石川が逝ったか…
    しかしこうなると誰が茜音沢を倒すんだろうな

  • 708二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 14:56:11

    あとまともに戦力になるのってティタノボアとマネモフルくらいじゃない?
    前出てたキャラステータスだとフルスペックマネモフルでB+だったから描写的には瞬殺されてもおかしくないんだけど、歯荷ちゃんの最後の一撃がいい感じに作用してなんとか喰らいつけるようになってるといいな

  • 709二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 21:07:28

    戦力だけなら堀木+姫氏原と千頭之+ティタノボアでワンチャンあるかもだが先生と因縁のある相手がみんな死んじゃったのよね

  • 710二次元好きの匿名さん23/08/05(土) 01:23:27

    だな!

  • 711二次元好きの匿名さん23/08/05(土) 09:12:59

    なんて悲しい男なのだ石川くん…歯荷嬢どうか頼んます

  • 712二次元好きの匿名さん23/08/05(土) 19:38:19

    保守

  • 713二次元好きの匿名さん23/08/05(土) 21:38:08

    石川の最後の妄想、ヒーロー番組に準えるなら司令官かおやっさんポジにドラちゃんもいてほしいな

  • 714二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 08:07:29

    とうとう歯荷の異能も効力切れかあ
    敵が減るほどラーニングが難しくなって逆にピンチに追い込まれるの面白いね

  • 715二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 19:06:30

    取り敢えず保守して待つ

  • 716二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 23:45:00

  • 717二次元好きの匿名さん23/08/07(月) 08:54:57

  • 718二次元好きの匿名さん23/08/07(月) 17:38:28

    保守太郎

  • 719二次元好きの匿名さん23/08/07(月) 20:51:06

    茜音沢戦のインフレを見るに歯荷ちゃんとマネモフルにはまだ強化イベントがあって欲しいね

  • 720二次元好きの匿名さん23/08/08(火) 07:34:05

    保守

  • 721二次元好きの匿名さん23/08/08(火) 16:37:47

    ⭐️

  • 722二次元好きの匿名さん23/08/08(火) 22:52:19

    干し柿

  • 723二次元好きの匿名さん23/08/09(水) 08:40:04

    保守

  • 724二次元好きの匿名さん23/08/09(水) 19:24:42

    干し梅

  • 725◆xaazwm17IRZa23/08/10(木) 05:54:57

    31話⑮を投下します……!

  • 726◆xaazwm17IRZa23/08/10(木) 05:55:26

     千頭之のづちは、眼下に集まった集団を見下ろしていた。
     クラスメイトだけでなく、大人も混じっている。
     フードを被った男と、スーツの女。
     どうして篠宮が運営側と一緒に居たのか、千頭之は問い詰めようと思わなかった。
     元々、篠宮たちが本部に突入したのは運営側と接触するためだ。
     突入組がトラップで散り散りになったと聞いたときは不安だったが、どうやら目的は達成できたらしい。
     対茜音沢先生のために共闘する者たち。
     もっとも、だから仲間だ、とはならない。

    (こいつらも、私たちを殺し合いに放り込んだ張本人なんだからな)

     彼らのせいで、多くのクラスメイトが命を落とした。
     その中には、鰐淵やキルコや瀧沢が居る。親しい者も親しくない者も居る。

    (許せない)

     茜音沢先生を倒せたら、次は彼らだ。
     そう決意して、千頭之はティタノボアの頭上から、二人の邪悪を見下ろす。

  • 727◆xaazwm17IRZa23/08/10(木) 05:55:59

     ふと、スーツの女が顔を上げた。
     怜悧な瞳が、千頭之と重なる。

    (確か、宇都って言ったっけ。『異能殺し』だとかいう)

     動揺や感情を一切感じさせないその表情は、どこか鰐淵やキルコに相通じるものがあった。
     彼女たちがもう一回り年を取れば、こんな風に成長したのかもしれない。
     千頭之はそう思い、その可能性が二度と無いことに心を痛めた。



     ドラえもんが助けに来ないかな。
     と、宇都 紀久子は思った。
     けっこう深刻に思っていた。
     状況は、詰んでいる。
     今現在、この島に何人生存者が居るのか宇都は把握していないが、マエストロや長村といった強者が姿を現さないことを鑑みるに、すでにこの場に居る者以外は全滅している可能性がある。

  • 728◆xaazwm17IRZa23/08/10(木) 05:56:37

     自分、谷淵、篠宮、千頭之、Nek-O、ティタノボア。
     うぬら六人か、と頭の中で大魔王が唸っていた。

    (え、このメンツで茜音沢倒すとか無理ゲーじゃね?)

     精々戦力になるのは大蛇くらいだろう。
     後は応援要員だ。
     仲間たちの想いを一心に背負った大蛇が茜音沢を倒すことを信じて……! 宇都先生の次回作にご期待ください……!

    (……人生打ち切りって感じかしら)

     まぁ、元々テコ入れみたいな人生だったが、と内心ため息をつく。
     本来、自分は学園ものの登場人物だった。
     変わったことがあるとすれば、その学園には数多の異能者が在籍していた。かといって異能バトルに発展したりはせず、わりと普通の学生らしい生活を送っていた。
     あの日までは。
     突如始まったバトルロワイアル。

  • 729◆xaazwm17IRZa23/08/10(木) 05:58:45

     抗議した生徒会長の首が爆弾で吹き飛ばされ、担任教師が死体で発見され。阿鼻叫喚の中で宇都たちは殺し合った。
     宇都は、優勝した。
     騙し討ちのような勝利だった。
     脱出派のグループに潜り込み、最後の五人まで誰一人殺さず生き残った。
     今回の殺し合いと違い宇都たちのクラスは異能こそ強力だったが、身体能力は高校生の域を出ない者たちばかりだった。
     そうでなければ異能を封じる以外はただの女子校生でしかない宇都が生き残れるはずがなかった。
     そして宇都のグループだけが残り、首輪を解除するために模索し、24時間が経った。三日間で優勝者が決まらなければ全員の首輪が爆破される。
     徐々に迫るタイムリミット。
     ——最初に発狂したのが、宇都だった。
     死者から奪い隠し持っていた銃火器を乱射した。
     時間を1秒止められる異能者が居た。
     両手から火球を発射する異能者が居た。

  • 730◆xaazwm17IRZa23/08/10(木) 05:59:14

     髪の毛を自在に伸ばし操る異能者が居た。
     背から翼を生やし空を飛べる異能者が居た。
     皆蜂の巣になって死んだ。
     異能殺しの前では彼らはただの肉塊に過ぎなかった。
     宇都は優勝し、紆余曲折の末に、黒服になった。
     発狂したままで居られるほど宇都は幸運ではなかった。
     素面に戻ったとき、宇都は犯した罪の重さに震え、自分の中で帳尻をつける必要に駆られた。
     どうして自分は撃ったのか。
     ——何故なら自分は、運営に雇われたジョーカーだったからだ。
     鬱状態から立ち直るためには、そんな嘘をつき続けるしかなかった。
     そして今、宇都は運営側の一員として、ここに立っている。
     宇都の異能殺しは、クラスメイトを殺戮したこの異能は……対茜音沢においてまったくの無力である。

    (ああクソ、マジで死にたくないな……ここで死ぬんなら、あの時に)

  • 731◆xaazwm17IRZa23/08/10(木) 05:59:52

     クラスメイトと共に首輪爆破で死ぬべきだったか。
     綺麗なままで死ぬべきだったか。
     宇都は迷い、それはないと結論づけた。
     どれだけ血に染まっても、生きた方がいいに決まっている。例え自分に嘘をつくことになっても。



     状況が動き出したのは、集まった六人に、新たな一人が加わったためだった。

    「お前ら、無事だったんか!?」

     剃髪のマッチョが姿を現す。
     マネモフル=タマネ。改心した殺人者。
     ……篠宮が切り捨てる対象の一人。

    「マネモフル君、生きていたんだね」

     内心をひた隠し、篠宮が声をかける。

    「ああ、何とかな。そんなことより大変や! 今マッチョのおっさんと茜音沢先生が戦っとる! 速く加勢に行かな!」

  • 732◆xaazwm17IRZa23/08/10(木) 06:00:26

    「茜音沢、だって……!」

     ……唾を呑み込む。
     本部に突入したときから分かってはいた。それでも、いざ対決の時となると体の震えが止まらない。
     うちの体育会系は化け物ばかりだ。そんな彼らが口を揃えて「茜音沢先生は別格」だという。そんな怪物を超えた怪物とこれから戦う。
     ……勝てるのか?
     勝機はあるのか。

    「臆するな」

     と、耳元で谷淵が囁いた。

    「お前には、ディスクがある。もしもの時は使え」

    「だ、だが、僕はまだ、裏コードとやらを教えてもらっていない……!」

    「その時が来たら教える。今はまだその時ではない」

    (こいつ……本当にそんなものあるのか? 僕を惑わすための虚言なんじゃ)

    「今から俺と一緒に加勢に行ってくれんか!?」

  • 733◆xaazwm17IRZa23/08/10(木) 06:01:00

    「マネモフル、茜音沢から逃げてどのくらい経った?」

     谷淵に問いかけられ、マネモフルはフードを睨んだ。

    「誰やお前」

    「俺が谷淵だ。で、どのくらい経ったんだ?」

    「十分くらいや」

    「ならお前を逃がした男はとっくに死んでいるだろう。茜音沢相手に十分持たせられる者などいるはずがない」

     この時、谷淵の脳裏には二人の候補が浮かんでいた。
     マエストロ・セピア。
     拳王卿。
     だが、この二人が参加者であるマネモフルを逃がすようなことをするとは思えない。他者を肉袋程度にしか思っていない外道たちだ。

    (おおかた黒服の一人が妙な同情心を起こしたのだろう。弱者らしい最期だ)

     まさか拳王卿が見掛け倒しの善良な男だとは気づかず、谷淵は結論づけた。

    「今から行ったところで返り討ちに遭うだけだ。まずは戦力を整えて……」

  • 734◆xaazwm17IRZa23/08/10(木) 06:01:31

    「助けて!」

     甲高い少女の声がフロアに響いた。
     必死に駆けてきたのは、金木冥。

    「金木、無事だったか!」

     戦車の中に置き去りにされた千頭之だったが、金木を恨む気持ちはまったくなかった。(むしろコサメに対する雑な態度の方に苛ついていた)
     本部の中を単独行動しているであろうクラスメイトを彼女はむしろ心配していたのだ。
     もっとも、金木もまた千頭之を見捨てたことはすっかり忘れていた。
     より大きな感情が、彼女の頭の中を支配していたのだ。

    「茜音沢が来るよ!」

     金木は叫んだ。

    「石川も、歯荷も殺されちゃった! 早く逃げないと——」

     衝撃的な告白に、その場に居た全員が硬直した。
     そして。

  • 735◆xaazwm17IRZa23/08/10(木) 06:02:11

     金木の背後に、歪な影が揺らめいた。

    「——邪魔だ」

     金木の姿が消える。
     足を上げた修羅だけが残る。
     果たしてその場の何人が一部始終を視認できたのだろうか。
     少なくとも、この場で最も常人に近い千頭之は、結果した見えなかった。
     金木は、ワープしていた。
     さっきまでいた場所から十メートルは離れた壁際に、倒れ伏している。
     四肢が、歪な方向に歪んでいる。腹部からは出血し、骨さえ見えている。上体と顔の角度が合っていないのは、きっと首も折れているに違いない。

    「……………………え?」

     千頭之は、麻痺していた。
     食堂でのランチタイム、戦車内でのコサメと金木との日々。女神像戦ですら終わってみれば、一人の犠牲もなく。
     すっかり忘れていた。
     人の命は、あまりにも脆い。

    「金木……?」

     今日だけで何度も突きつけられた真実が、千頭之を突き刺した。

  • 736◆xaazwm17IRZa23/08/10(木) 06:03:22

    31話⑮を終了します……!
    みなさん感想や保守をありがとうございます……!
    続きは数日以内に投下するので、気長にお待ちいただけると幸いです……!

  • 737二次元好きの匿名さん23/08/10(木) 12:51:39

    金木のこと結構好きだったのかもしれん
    死亡確定したわけではないけど結構ショック受けてる

  • 738二次元好きの匿名さん23/08/10(木) 13:04:31

    乙でした〜
    堀木とかドラちゃんがめっちゃエモい感じで死んでたから忘れてたけどこれそういう趣旨の企画だったな

  • 739二次元好きの匿名さん23/08/10(木) 16:27:54

    しかしなぜ金木は石川が死んだと知っていながら茜音沢を指輪の力で殺さなかったんだ?
    これは次回まだ何かあるかもな

  • 740二次元好きの匿名さん23/08/10(木) 20:51:40

    金木ちゃんに黙祷

  • 741二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 01:00:53

    宇都さん地味にいい能力持ってるけど上手く活用できそうにないのが惜しいな

オススメ

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