妙な薬ができたね

  • 1二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 22:25:43

    「なんだろうね、これは」

     桃色の蛍光色をしたゲル状の物体が、試験管の中でぷるぷると震えている。
     気まぐれに調合した薬品を一晩放置していたら、今までに見たことのない薬品が出来上がっていた。
     他の薬品の調合に使った素材の余り物で作ったお遊びだが、中々に興味深い。
     これを自分で試す気は起こらないが、効果のほどは是非とも知りたい。
     さてどうしたものかと周囲を見回すと、ある一点に目が止まる。
     私の研究室と共に、この部屋のもう半分を共同スペースとして利用しているウマ娘、マンハッタンカフェのスペースにあるテーブル。
     その上にはマグカップとティーカップの二つが並んで置かれている。
     ティーカップは私のもので、中には何時間も前に冷めた紅茶が、もう片方のマグカップはカフェの物だ。
     先ほど呼び出しを受けて席を外した彼女のマグカップの中には、丁度よく飲みかけのコーヒーが、まだ温かそうに湯気を立てている。

    「ふぅン……」

     部屋の出入り口から頭だけを出して廊下を覗く。
     廊下に人の姿はなく、カフェが戻ってくる気配はまだない。

    「不用心だね……」

  • 2二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 22:26:13

     安全も確認できたので、早速コーヒーの中に、小匙で一掬(ひとすく)いした桃色のゲルを落とす。
     ゲルは温かなコーヒーの表面にじわりと溶けて、かすかに桃色になった液が広がる。
     それを傍にあったマドラーで軽くかき混ぜてやると、コーヒーは小さな泡をくるくると回しながら、元の色と代わりない様子で湯気を立てている。

    「これでよし」

     あとはカフェが戻ってくるのを待つだけだ。
     私は、まだ彼女が戻らぬ部屋の入り口に視線をやりながら、マグカップの隣に置いてあった自分のティーカップを手に取り、すっかり冷たくなった紅茶に口をつける。

    「あづっ!?」

     薬品製作で寝不足だったせいか、ぼんやりとした頭でよそ見していたら、ティーカップとマグカップの握りの違いにも気がつかなかったらしい。
     どうにも私は手に持った彼女のマグカップをそのまま自分の口に運んでしまったようだ。
     冷めた紅茶と思っていたから、一気に口の中に流し込んでしまい、舌と喉がヒリヒリする。
     おまけに先程混ぜたゲルのせいなのか、コーヒーに若干の粘り気があって喉元に引っ掛かっている。
     こんなことで火傷してはたまらない。
     急いで紅茶で流し込み、舌と喉を冷やす。

    「あっつ……はぁ……」

  • 3二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 22:27:07

     何とか落ち着き、カップをテーブルに戻す。
     わかってはいたが、睡眠は正常な思考力に大切なプロセスなのだと、改めて思い知る。

    「しかし、どうなるかねぇ……」

     カフェに飲ませるつもりだった謎の薬品を混ぜたコーヒーをうっかり自分で飲んでしまった。
     こうなれば、なるようにしかならないが効力の憶測さえついていない薬を飲んだという事実は、少しばかり不安になる。
     私に勝手に薬を飲まされていたカフェはこんな気持ちだったのかと考えると、なるほど少しは反省するとしよう。
     次回からは薬品の効力を事前に説明するようにしようか。

    「……なんでそこに座ってるんですか」
    「いいだろう? 共有部屋のよしみじゃないか」

     数分後、ようやくカフェが戻ってくると、彼女の椅子に腰掛けてくつろいでいる私を見て大きな溜め息をを吐く。
     人を見てその態度は失礼じゃないか。

  • 4二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 22:27:42

  • 5二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 22:28:04

    「失礼なのは、勝手に人の物を使う貴方だと思いますが……」
    「なるほど、それは確かに謝罪しよう」

     まあそれはいい。
     椅子の隣に空いたスペースをぽんぽんと手で叩く。

    「……なんですか」
    「たまには一緒に飲みながら、二人で雑談でもしようじゃないか」

     露骨すぎたのか、あからさまに怪しいものを見る目で睨み付けてくる。
     私も飲んだのだから、カフェにも薬品を混ぜたコーヒーを飲ませたいのだが、私がここまでカップに近づいていたら警戒して飲んではくれないだろう。
     私は一蓮托生のつもりだったが、彼女はそうではないらしい。

    「道連れにしないでください……」
    「つれないねぇ」

     事情を説明してみたが、やはりコーヒーには一口も口をつけず、新しく淹れなおすことにしたようだ。
     飲み物を粗末にするとは感心しないね。

    「もう少し、そっちにつめてください」
    「半分でいいじゃないか」

     私を椅子の上からどけることは諦めているのか、それでも端の方へと追いやられてしまった。
     冷めた紅茶も飲みきってしまったことだし、私も新しく淹れなおそうかと立ち上がろうとした時、体に違和感があることに気がついた。
     少し頭がくらくらする。
     なんだか熱っぽいようで、足元がふわふわするような感覚。
     寝不足が祟って風邪でもひいただろうか。
     それでも先程まではそんな症状はなかったのだし、これはひょっとすると薬の効力が出てきているのかもしれない。

  • 6二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 22:28:54

    「…………? タキオンさん?」

     ふらつく私の様子を見て、カフェが不思議そうに声をかけてくる。

    「ああ、いや……なんでもない……」

     何やら体がむずむずとして落ち着かない。
     もじもじと乙女のように足を擦り合わせてむず痒さを抑えようとしても、太ももに擦れる自分の肌の感触が妙に艶かしく伝わってくきて、逆にますます落ち着かなくなる。
     体が熱く、呼吸も鼻呼吸では追いつかないくらいに荒くなってきているのがわかる。

    「……大丈夫ですか?」
    「うひぁんっ!?」

     ふらつく私を心配してくれたカフェが、肩にすっと手を添えて支えてくれる。
     服の上からほんの添える程度の接触。
     ただそれだけのことなのに、その微かな刺激に背筋が反り返るほど全身が跳ねて、自分でも驚くような甲高い声が口から飛び出す。
     一気に全身から力が抜け、思うように立っていることもできず、へなへなと床にへたりこんでしまう。

  • 7二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 22:29:09

    > 人を見てその態度は失礼じゃないか。

    自分のやろうとしてた事考えてから思いなさいよオメー

  • 8二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 22:29:40

     息が苦しく、声も絶え絶えになる。
     立ち上がろうにも腰が抜けてしまい、膝が笑ってろくに動くこともできない。
     精々できることは、刺激に震える自分の体を、両手で抱き締めることぐらいだった。

    「タキオンさん……? あの、誰か大人を……呼んできますね……?」

     おろおろとした様子で、部屋の扉に向かおうとするカフェの尻尾を咄嗟に掴む。

    「な、なんですか……離してください……」

     それは、それだけはダメだ。
     今の自分がどんな状態なのか、自分が一番よくわかっている。
     こんな姿を誰かに見せるわけには、絶対にいけない。

    「だめ……かふぇ……ここに、いてぇ……」

     喋ることも儘ならない口で、何とか言葉を絞り出す。
     どうにか通じる言葉になりはしたものの今はこれが精一杯だった。
     今のこの状態は、間違いなくさっき飲んだ薬の影響だろう。
     効果がどれだけ続くのか分からないが、とにかく耐えていればいずれ薬の効果は切れて、正常な常態に戻れるはずだ。
     少し時間が立てばもう少しまともに喋れるようにもなるだろう。
     カフェにはそれまでここにいてもらって、改めて状況の説明を……。

    「…………」

  • 9二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 22:30:05

    このレスは削除されています

  • 10二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 22:30:30

    「…………」

     ごくり、と何かを飲み込むような音が耳に届いた。
     熱で顔を上げるのも億劫なダルさの中、音がした方向。
     この手に握った尻尾の主を見上げると、無言のままこちらを見下ろす金色の瞳が視界に映る。

    「……? か、ふぇ……?」

     熱に浮いた思考とぼやけた視界で、その表情を上手く読み取れない。
     ただ、何か。
     いつもの彼女とは違う、ということだけは朧気(おぼろげ)ながらに感じられる。
     一歩、また一歩とこちらの反応を窺うようにカフェが近づいてくる。
     言い知れぬ威圧感を放ちながら、距離を詰めてくる彼女に恐怖を感じ、辛うじて動く手の力だけで、動かない足を何とか引きずりながら後ずさる。
     だがそれで距離を取れるはずもなく、二人の間の空間はどんどん縮まっていく。
     そして先ほどまで腰かけていた椅子が背中にぶつかり、これ以上後ろには下がれなくなる。

    「…………」
    「ん……ぁ……な、なにを……」

     彼女は相変わらず無言のまま、へたりこみ動けなくなった私の目の前に立ち、見下ろしてくる。
     まさか日頃のことを恨めしく思って、私が動けないのをいいことに仕返しでもするつもりなのか?
     何をされるのか分からないあまりの恐怖に、言葉にならない嘆願を瞳に込める。
     許して、見逃して欲しい……と。

    「暴れないで……くださいね……?」

     彼女は腰を落として跨がるように私の上に座りこんでくる。
     私の願いは虚しいものだったようだ。
     さっぱり分からない薬を盛るときはゆっくり休んだ後にしよう。
     そんな反省を得られた日だった。

  • 11二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 22:30:46

    再掲

  • 12二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 22:32:29

    >>9

    逆に他のカプだと思って見にきたの?

  • 13二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 22:33:55

    再掲ありがとう…

  • 14二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 22:34:06

    9じゃないけど俺はモルモット君に薬飲ませる流れかと思って開いたよ

  • 15二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 22:34:17

    このレスは削除されています

  • 16二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 22:36:22

    >>14

    このスレタイでそれは病気よ

  • 17二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 22:37:19

    >>16

    知らない人もいるかもなんだからあんま攻撃的な書き込みはやめよう

  • 18二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 22:40:00

    モルモット君なんて狂っててナンボだし褒め言葉みたいなもんヨ(ポジティブ)

  • 19二次元好きの匿名さん21/12/06(月) 01:39:07

    よわよわタキオンはやはり良いね

オススメ

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