【ss】トレセン学園の家庭科室 〜タルトタタン〜

  • 1二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 02:25:33

    「史上最高の失敗作…と言う言葉を聞いたことはあるかい トレーナーくん?」

    小粒の甘酸っぱそうな林檎が袋に詰まったものを、家庭科室の作業台に置きながらタキオンが話し出す

    「それは…とあるホテルを経営する姉妹がアップルタルトを作るときに林檎のフィリングを炒め過ぎるという失敗から産まれた料理…タルトタタンをさしてそう言うことがあるらしい」

    どこか覚束ない手付きで洗った林檎の皮を剥き出したタキオンを手伝いながらその話に耳を傾ける

    「おや…すまないね つまり、失敗が何を生むかは分からない というよりは、挑戦した…その結果がどうであれ何かを得ようとしなければ無駄になるということさ」

    タキオンに弁当や料理を作り続けた結果、段々と早くこなせるようになった料理の腕を振るい、皮をするりと剥き芯をくり抜き、タキオンが言葉少なに指定する形に瑞々しく果汁を溢れさせる白い果肉を切り分ける

    そして、それを浅広鍋に溶かしたバターに投下し、その上に砂糖を回しかけ、炒める

    「ふむふむ…やはりバターと砂糖が加熱される香りは食に興味がなかった頃から今このときまで食欲をどうにもかきたてるねぇ…」

  • 2二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 02:33:46

    「もう少し炒めておくれ …そう、かつては失敗へと向かったルートを敢えて追う…それによって良い結果を得られる まるで実験のようだとは思わないかい? お菓子作りもよく科学実験と呼ばれるしね」

    タキオンは、詞を詠うようにそんなふうに言う

    「さて…ではそのリンゴをグラタン皿に敷き詰めてくれたまえ そして…今回は時短のために冷凍のパイ生地を買ってきたからね これを使おう」

    グラタン皿に合わせるように切り取ったパイ生地をフィリングの上に重ねると、扉を開けると陽炎を放つ200℃のオーブンに入れる

    「さて…出来るまで紅茶でも飲んで待つとしようか」

  • 3二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 02:49:40

    しばし、タキオンの手ずから入れた甘い甘い紅茶を飲みながら、待つ

    茶菓子はなかったが、オーブンから放たれるほろ苦く、甘い芳しい香りはそれだけで茶を進ませた

    「今回は、トレーナー君の労いのためなんだ…ゆるりとすごし給えよ」

    やがて、オーブンに設定されたタイマーが鳴り、意識を引く

    「よし…まぁ理論通りよく焼けたんじゃないかな すまないねトレーナーくん 作るところから見せてあげたかったから呼んだが、食べれるのは明日なんだ また明日の今頃来てくれたまえ?」

    そういって、その場はお開きになった

    次の日、同じ時間に家庭科室に向かうと既にタキオンはコポコポと湯を沸き立たせるヤカンとともに待っていた

    「さぁさぁさぁ…昨日から冷やしておいたタルトタタンも出来上がりの段だねぇ…昨日の時点では加熱によるメイラード反応の結果生まれる香ばしさこそあれど、しかしそのままでは緩すぎて形を保てない
    だからこそ冷やして油脂を固め、また林檎のペクチンによる凝固で形を整える」

    「作るということは完成してすぐではなく、時間を置けばこそ見えてくるものもあるということかな」

    何かを揶揄するように言うと、タキオンはヤカンに湧いた湯を紅茶の葉が入っていると思われるティーポットに勢いよく注ぐ

    透明なティーポットは、空気をよく含んだ湯が葉を踊らせる様子を周囲に表す

    やがて、上下に揺れていた葉が落ち着いた頃、湯が茶葉からの抽出された成分で紅く染まる

    それを見計らっていたタキオンは、暖めていたカップの湯を捨て、軽く拭き上げ注ぐ

  • 4二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 02:55:20

    「タルトタタンと同じ…紅茶もまた失敗から産まれたという説がある」

    「曰く、中国から西洋へ船で運ばれる茶葉が発酵あるいは腐敗し、黒く変色した それを飲むと、ただの茶にはない芳醇な風味があったというわけさ」

    「そう…失敗から産まれたタルトタタンにもレシピ(方程式)があり、失敗から産まれた紅茶にもゴールデンルール(理論)が構築された」

    「つまり、あらゆる失敗は可能性(希望)へと転化されうる」

    「だからこそ、私は失敗を恐れない 違うな…この世に本当の意味での失敗などないと確信しているのさ!」

  • 5二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 03:04:07

    そう言いきると、タキオンは一晩ほど寝かしたタルトタタンを切り分けたものを白い皿に盛り、鮮やかな色の紅茶を少し上等なカップとソーサーに注いだものを渡してくる

    「では…頂くとしようか トレーナーくん」

    タルトタタン…しっとりとした林檎とカラメル状の砂糖がサクサクとしたパイ生地の上に乗っている。

    「はむ…うん、なかなかいけるものだ この林檎をくれたスカーレットくんには感謝しないとねぇ…」

    タルトタタンは丁寧に炒められたことでバターのコクと砂糖の甘味を存分に吸い、しかしながら元の酸味か爽やかさも感じさせる林檎のフィリングは、市販のものながらしっかりとサクサクに仕上がったバターの効いたパイ生地に絶妙に有っていた

    「うん…やはり甘い物に紅茶は合うねぇ…トレーナーくんは砂糖いらなかったのかい?」

    頷きを返しながら、タキオンが手に10個ほど摘んでいた角砂糖を投入することを阻止した程良い渋味のヌワラエリヤを飲み、口をリセットさせながらまたタルトタタンを一口ずつ食べていった

  • 6二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 03:13:23

    そうして優しい甘さのタルトタタンと、爽やかな紅茶を飲みながらのタキオンとの茶会は1時間ほど続き…

    「ご馳走さま…といったところかな」

    タキオンが口元をハンカチで軽く拭いたところで、茶会の終わりを告げる言葉が告げられた

    「さて…今回のタルトタタンと紅茶…美味しかっただろう? もう…私が何がいいたいかは分かったね?トレーナーくん…」

    「つまり…今回、トレセン学園中で皆がカラフルに光り出したのは失敗ではないし、いずれこれが可能性になりうるということさ!」

    そう堂々と放ったタキオンと目を合わせ、じっと考える
    そして長めの間を取って言い放った
    「いや…ないない…それは無い」


    「えーーーーーー〜〜っ!?」
    可能性を追い続ける超光速のプリンセス アグネスタキオンのどこか間の抜けた叫びが家庭科室にこだました…

  • 7二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 03:17:40

    おわりです

    オチ思いつかんかったけど、失敗を迂遠に言い訳するタキオンが書けたので良かった

  • 8二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 03:19:15

    なぜこのような良いSSを人目のつかぬ時間帯に出したのか!言えっ!

  • 9二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 03:21:07

    >>8

    夜に食いたくなったものでss書いてるからに決まってるでしょ!田舎だから近くにコンビニ無いしつれぇ!

  • 10二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 03:28:35
  • 11二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 07:55:38

    朝ageせねばなるまい

  • 12二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 12:43:47

    このレスは削除されています

  • 13二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 19:31:01

    age

  • 14二次元好きの匿名さん23/06/24(土) 06:11:50

    タキオンって料理できるんだろうか

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