【SS】あるウマ娘の上京【予定としてはゴルジャス】

  • 1GSの上京23/06/23(金) 23:43:01

     早朝の日高本線に汽笛が響く。C58形式蒸気機関車が牽引する混合列車がゆっくりと清畠の駅を出る。黒煙天になびかせて軽快に行く。一路東京を目指してゆく私の未来への旅に車窓は明るくて。

  • 2GSの上京23/06/23(金) 23:43:16

     平野に近いところを行くときは外は見ないほうがいい。走りたくなるから。野原で遊ぶ純真な若いウマ娘たちにとって、2軸貨車を伴って65㎞/hを超えない列車は楽しい楽しい併走相手でもあるからだ。

  • 3GSの上京23/06/23(金) 23:43:26

     手元にあるトレセン学園のトレーナーによる推薦状を見返す。間違いなく本物で、その感激に公印さえも光って見える。トレーナーの推薦状があれば、試験の一部が免除されまた選抜レースの後のチーム決めでも優先権があったりする。

  • 4GSの上京23/06/23(金) 23:48:21

     函館港。連絡船に乗り込む船のいい位置を占めんと駆ける人々の浅ましさは、初めて多くの人を見る私を圧倒した。夜に船は出て、翌日には南下する列車に乗れた。青森発上野行きC62形式蒸気機関車が牽く急行みちのく。
     汽笛一声青森を出でてゆく。行方は一路夢の東京へ。

  • 5GSの上京23/06/23(金) 23:48:42

     1日がかりの旅路も水戸を過ぎて夕刻。95km/hの汽車は残照を駆け抜けていく。次第に落ちていく日の光と、ゆっくりと増え行く家々の電燈。取手を過ぎるときには日は全く落ちていた。ここまで家々の途切れない平野を見たのは初めてで、夜景は幻燈のごとき美しさに息を呑む。私の故郷は夜は漆黒の闇夜であって、心細かった。

  • 6GSの上京23/06/23(金) 23:49:02

     東京に入ってネオンきらめく大都会を行く様は宇宙を行くかのようだ。汽車が宙を行っている。幻想の汽車旅はいよいよ上野にたどり来ぬ。遥か北海富源の大地より風より疾くきた。祝え人々鉄道の興りしときに逢える身を。上野の山に響くまで鉄道唱歌の聲たてて。

  • 7GSの上京23/06/23(金) 23:49:21

     春は名のみの風の寒さ。機関車から、客車の暖房管から漏る蒸気はホームを濛々蔽い、今や雲上にいるかのごとき幻想的なる情景となっている。今日は東京駅近くのホテルに泊まることになっている。明日にはトレセン学園に着く。

  • 8GSの上京23/06/23(金) 23:53:34

     夕食も豪勢な晩餐と言える状況に。しかし御料牧場の衛士の血が流れるからには、このようなときの立ち居振る舞いも完全でなければならない。
     常日頃から母に躾けられ、それを内面化してきた。無意識に所作は洗練されたように。そして、食器は一切音を立てずに。

  • 9GSの上京23/06/23(金) 23:56:54

     風呂では1日分の旅程のばい煙を洗い落とす。芦毛の躰に煤煙の汚れは非常な目立つ。
     頭を洗えば、頭皮にシンダーか小さな黒い塊がいくつも刺さっていた。

  • 10GSの上京23/06/24(土) 00:03:14

     これを落とし尽くして、湯に浸かり、尾や髪を改めて見返す。
     汚れとれ去りしっかりと手入れしたそれらはわずかに黄みのかかって金のような美しさを誇る。これだけきれいなら、トレーナーの関心も引けるだろうか。
     昔はキューティーブラウンで、それはそれで気に入ってたんだけれどな。

  • 11GSの上京23/06/24(土) 00:04:49

     そう思いながら、浴槽にもたれて天を仰ぐ。不夜城の街明かりに、天は黒黒として、異様に感じた。
     故郷ではこれほど星が見えないことなどあり得なかった。
     でも、そのうち慣れるんだろうな。

     そう考えながら、自分がどこまで活躍できるか妄想する。オープンまで行くことには行くかもしれない。どうだろうか。

  • 12GSの上京23/06/24(土) 00:05:31

    (新作です。酒の勢いで書いたのはここまでなので明日続きを投げていきます)

  • 13GSの上京23/06/24(土) 09:03:12

     東京駅からゆく中央線電車は鈍色の車体にオレンジの帯を巻いたいかにも都会というような見た目だ。

    東京駅は始発駅だから座れて、スムースに行った。対して揺れもせず、しかし速くはなく、旅路の最後に華を添えている

  • 14GSの上京23/06/24(土) 09:41:27

     この時間帯に国分寺からトレセン学園への引込線列車はないので、西国分寺駅まで出てそこから武蔵野線で北府中まで出るつもりだ。
     はじめてトレセン学園につくなら、正門から入りたい。そうなれば北府中から歩くのが一番の正解だと思う。JR線で行くなら。私鉄とか乗り換えに自信がないからこうしている。

  • 15GSの上京23/06/24(土) 14:06:58

     北府中から歩いて少し後悔したけれど、トレセン学園に近づくにつれてどんどんウマ娘が増えていくのがわかり、面白くなってきた。
     制服姿は上級生だろうか。同窓生になるのは色とりどりの私服姿で、見送りの親の姿もあろうか。私の母はそのところは放任で、仕事が忙しいからと1人で行けとした

  • 16GSの上京23/06/24(土) 21:46:46

     正門から見るトレセン学園。大きく開けた門は、未来を大きく暗示するかのようで、光り輝いて見える。青い尖塔は雲を衝くようだ。

     私は、希望を胸に一杯詰め込んでここまで来た。絶望するその時まで誠心誠意走って見せたい。

  • 17GSの上京23/06/25(日) 00:19:54

     レクリエーションを受ける教室で、同窓生になる方々と対面する。まだ自己紹介もしていないのに、旧友のようになっているグループがいくつかあった。

     意識を向けて聞いてみると(あまり良いことではないし、大概は耳の向きで聞いていることがバレるのだが)どうやらあの有名な社台にある学校の出のグループのようだった。

  • 18二次元好きの匿名さん23/06/25(日) 00:29:42

    (レクリエーションでなくてオリエンテーションです、寝ぼけて書きました)

  • 19GSの上京23/06/25(日) 09:16:10

     そして教官が来て、オリエンテーションが始まった。自己紹介から。アルフレード、ジョワドヴィーヴル、フェノーメノ、ワールドエース、ジェンティルドンナ、ジャスタウェイ、グランデッツァ、ディープブリランテ。
     素質のある生徒の集まった部屋だと言われた。どこの教室でも同じことを言っているだろうけれど

  • 20GSの上京23/06/25(日) 16:49:15

     どこに何がある。込み入ったところまで案内されて気も使ってヘロヘロだけれど、夕方にトレーナー室の棟に来た。私を推薦してくれたトレーナーのところに挨拶をするために

  • 21二次元好きの匿名さん23/06/25(日) 22:14:50

    (GSって誰だ…?

  • 22二次元好きの匿名さん23/06/25(日) 22:18:28

    >>21

    ゴルシでしょ

  • 23GSの上京23/06/26(月) 00:16:31

    「やあ。よく来たね」

    そう言って迎えてくれたなおすけトレーナー。母もお世話になったらしい。
    選抜レースとか今後色々あるけれど、青田買いの内々定をもらったも同然だ。

    「よろしくお願いします」

  • 24GSの上京23/06/26(月) 00:17:34

    >>21

    >>22

    (バレているけど、オチまで気がついてないふりしてくだち、これかなり気合の入ったネタ振りなので…)

  • 25GSの上京23/06/26(月) 07:00:04

     専任でつくサブトレーナーのこーへーさんや栄養士のタカトシさんとのご挨拶も終えて、寮につく。どこの棟のどこの部屋が割当なのか示された紙っぺらがまた心ともなくて3度も違う部屋にたどり着いた。なんというわかりにくさ。部屋は多いし区画割りも画一的で、そのクセ付番の規則性は確かではない。(建て増ししたときに番号の並びがずれ込んだりしているらしい)

     今度こそ自分の割当の部屋だろう。
     

  • 26二次元好きの匿名さん23/06/26(月) 15:00:04

    このレスは削除されています

  • 27GSの上京23/06/26(月) 23:19:24

     部屋にはすでに級友となるジャスタウェイさんがいて、ここで改めてお互い自己紹介をした。

    『はい、私はゴールドシップです、よろしくね』

    ─────

    「なんて、かわいげのあった時代もありましたね」

    「ゴルシちゃんは今でもかわいいだろ?というかアタシの日記帳読むのやめて?」

    「この本棚においているのが悪いんですよ、シップ」

    「いや、この本棚本来備付の共用だからな!?8割お前が占領しているけど本来半々だからな?」 

    「どうせ使わないんですから私が有効活用してあげているんですよ」

    「抜かしおる」

  • 28GSの上京23/06/26(月) 23:31:20

     そんな馬鹿話をしながら、空挺の物料箱のようなサイズの木箱に本やら何やら色々詰め込んでいく。
     先日のジャパンカップのあと、このまま素直に引退することに決めたジャスタウェイの荷造りをしているところである。

    「おめー、なんでこんなにものがあんだよ。部屋の容積考えたらあり得なくねぇか?」

    「ここに入ってるんだからあり得るんですよ」

  • 29GSの上京23/06/27(火) 07:00:17

    「本棚1つとっても整頓したのはアタシのだからな。この部屋の外では優等生で通っているのも、アタシのおかげと言っても過言なくね?」

    「過言ですね」

    ああ言えばこう言う、いつもの夫婦漫才のような息がぴったり合うふたりならではの間合い。

  • 30二次元好きの匿名さん23/06/27(火) 14:52:12

     そしてようやく全ての木箱の蓋を釘で留めて、搬出する。輸送の業者がそろそろ来る。早く用意しないといけない。
     いつもの夫婦漫才のような息の合いようは、すぐに荷を運び出すのにも役立ち、手早く用意を終えることができた。

     そしてやってきた輸送の業者のトラックに荷を積み込んで、発車を見送る。これを送ってしまえば、ジャスタウェイの私物は総て寮から離れることになる。寂しくなるな、という感傷もひとしおに寒風にさらされている夕べ。

  • 31GSの上京23/06/27(火) 23:39:08

     トラックが完全に去り、寮に帰ろうと踵(きびす)を返したところで、呼ぶような声が聞こえだした。

    「おーい、ジャス、シップ、そこにいたか~」

    なおすけトレーナーの声だ。だいたいいつも碌な話を持ってこない。

  • 32GSの上京23/06/27(火) 23:57:12

     だいぶふくよかになって、なんというか、『貫録付いた」なんて言葉では誤魔化しきれなくなったトレーナー。中央はエリート揃いのはずなんだよな、と疑問に思うことさえあるが、開業から最短日時で100勝を上げるなど腕は確かであるからどうもそれは確からしい。

  • 33GSの上京23/06/28(水) 07:00:12

    「ジャスくん、君には有馬記念に出てもらう」

    「えっ、もう登録の抹消は済んだはずでは…」

    「いや、それがね、書類を出し忘れててね」

    嘘だ。先程言ったようにこのトレーナーはとぼけてみけて辣腕なのは確かだ。嘘をついてまでジャスタウェイを無理矢理有馬記念にねじ込もうとしている。脚に不安があって、常日頃からそれを気にかけているのに。

  • 34二次元好きの匿名さん23/06/28(水) 15:23:13

    このレスは削除されています

  • 35GSの上京23/06/28(水) 23:20:01

     怒りにとらわれてつい大きな声を出しそうになるけれど、ジャスタがそれを遮った。

    「ひとつ、質問をしてもいいでしょうか」

    「いいぞ」

    「勝算があって、有馬記念に出すんですね?」

    「もちろん」

    「中山の2500はたった100mとは言えジャパンカップから延びて長距離、しかも小回りで脚に負担がかかる、その上での勝機ですか?」

    「そうだとも」

  • 36GSの上京23/06/29(木) 07:13:22

    「いいでしょう。では、1つだけワガママを言わせてください」

    「何だ?」

    「せっかくの引退レースなんですから、『特別な勝負服』を仕立てたいので」

  • 37GSの上京23/06/29(木) 07:14:16

    (筆者、下血したりするなど体調が爆発したため、更新が怪しいかも)

  • 38二次元好きの匿名さん23/06/29(木) 17:04:35

    体調爆散につき保守

  • 39GSの上京23/06/30(金) 00:03:35

    「私は小さいころからオグリキャップ先輩の活躍にあこがれてきました。有馬記念を引退レースにしたいとも考えてきました。それを打ち明けたこともあります。だからと言って、思い出作りのためのレースなんかにしたくないんです。勝つために、そして歴史に蹄跡を残すために走りたいのです」

  • 40GSの上京23/06/30(金) 00:23:46

    体調爆散につき保守

    明日こそ

    明日こそ…

  • 41GSの上京23/06/30(金) 07:56:48

    興奮に顔を紅潮させて、夢を語るジャスタ。

    「いつもなら、あんな大レースのあとは疲れ果てて、蕁麻疹さえ出るのに。今回は特にそんなこともなく、この調子なら有馬記念を目指さないのはもったいないと思っていました。いいんですね、本当に」

    何度も念押しする。

  • 42GSの上京23/06/30(金) 18:55:33

    保守

  • 43GSの上京23/07/01(土) 01:05:58

    なんだかんだ話の主導権を奪い取って、あれよあれよと言う間に有馬記念に出ることにしてしまったジャスタ。

    「おい、おめー正気かよ、右回りは怖いとか言ってたろ」

  • 44GSの上京23/07/01(土) 13:01:24

    「ええ。でも、勝ち目があるそうですから。」

    もう決めてしまったものは仕方ない。

    「そんなにやめさせようとして、もしかして私に負けるのが怖いんです?」

    「あ、おめー、だいぶ図太くなったな…」

    「『こんだけ図太くなけりゃ、G1なんて勝たねーよ』」

    言った覚えのあるセリフ。確か神戸新聞杯へ向けた追切のときに言った。その後先着されたのだけれど。

    「あっ、おめー、言ったな!」

  • 45二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 23:30:24

    このレスは削除されています

  • 46GSの上京23/07/01(土) 23:43:53

     お互いに茶化しあいながら、寮の部屋へと走る。明日の朝からの稽古は、きっとまた張り合いのある楽しいものになる。

    「あんなに反対していたのに、いざ一緒に出るとなると、とことん楽しむ気ですね」

    「たりめーだ、んなのは楽しんだもの勝ちよ」

     朝練からきっとたのしい。その夜は二人ともなかなか寝付けず、翌朝二人そろって夜更かし気味と怒られるのであった

  • 47GSの上京23/07/01(土) 23:45:12

    とりあえずここで完結にさせてください

    ここしばらく体調がよからず、継戦能力が急速に低下しています。

  • 48GSの上京23/07/01(土) 23:48:04

    モチーフ紹介

    日高本線のC58牽引の混合列車

    この前引退したC58383牽引の釜石線の列車
    (写真は筆者が昨年撮影したもの)

    馬が並走していた情景からインスパイアされました

  • 49二次元好きの匿名さん23/07/01(土) 23:52:16

    お疲れ様でした!!ゴルジャス供給助かりました!!

  • 50GSの上京23/07/01(土) 23:53:01

    C62牽引の急行みちのく

    日高線をC58が行くのなら、東北本線、常磐線はC62牽引のみちのくがいいと思ったのが由来
    ネオンの中をゆくこのみちのくの姿は松本零士の『銀河鉄道999』のモチーフでもあり、今回はそこに仮託して『二度と帰ることのない旅』という意味も付与している
    使用した画像は『ある機関助士』という映画のスクショ

  • 51GSの上京23/07/01(土) 23:55:11

    ゴールドシップ
    説明は不要といってもいいので割愛
    写真は昨年三里塚記念公園で撮ったぬい撮り

  • 52GSの上京23/07/02(日) 00:05:32

    ジャスタウェイ
    須貝厩舎の誇るG1馬
    最近筆者はおがわじゅり氏の本を買い、ここで紹介される姿を知ってさらに掘り下げたいなとか思っている

  • 53GSの上京23/07/02(日) 00:06:26

    今度の有馬記念

    2014年の有馬記念
    説明はそんなにいらない

  • 54GSの上京23/07/02(日) 00:08:27

    この前のジャパンカップ

    勝者エピファネイア

  • 55GSの上京23/07/02(日) 00:09:39

    >>49

    楽しんでいただけて何よりです

    本来の構想ではもっと面白くなる予定でした


    体調が戻ってからリベンジしたいなあ

  • 56GSの上京23/07/02(日) 00:11:09
  • 57GSの上京23/07/02(日) 00:24:54

    戦争は終わった…

オススメ

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