【オリキャラ注意】「ドジって前世を思い出しちまったぜ」外伝その14

  • 11◆A8pWn3jbyg23/07/09(日) 01:04:43

    ナギナギの実を食べてすっ転んだら前世の記憶を思い出しちゃったコラさんの話、の続編。


    SS+ダイス+安価スレになると思います。ただしダイスと安価は要所要所。

    思いついちゃったボスがボスなのでボリュームが広がっていくかもしれない。

    書き溜めゼロなのでライブ感で行くのをご了承ください。

    転載は禁止とさせていただきます。

    ドジって前回のスレを落としちゃったので今回は気を付ける所存



    【注意事項】

    ・このスレの時系列はごちゃごちゃです。劇場版時系列と思ってください。

    ・ワノ国後っぽい雰囲気が見られたりするかも知れませんが、時系列はパラレル。

    ・ローはK・ROOM、R・ROOM使えるローなのか現状定めていませんが、『凪(サイレント)』は使う事はないと思います。



    前スレ

    【オリキャラ注意】「ドジって前世を思い出しちまったぜ」外伝その13|あにまん掲示板ナギナギの実を食べてすっ転んだら前世の記憶を思い出しちゃったコラさんの話、の続編。SS+ダイス+安価スレになると思います。ただしダイスと安価は要所要所。思いついちゃったボスがボスなのでボリュームが広が…bbs.animanch.com

    最初のスレ

    【オリキャラ注意】「ドジって前世を思い出しちまったぜ」外伝|あにまん掲示板前スレhttps://bbs.animanch.com/board/1079485/の続編です。ナギナギの実を食べてすっ転んだら前世の記憶を思い出しちゃったコラさんの話。SS+ダイス+安価スレになると…bbs.animanch.com

    前作

    「ドジって前世を思い出しちまったぜ」|あにまん掲示板ひっくり返って呆然と青空を仰ぎながら、おれは手に持った一口分齧られた跡があるその実をまじまじと見つめていた。一気に頭の中に起こった記憶の濁流はひどい頭痛と吐き気と倦怠感と悪寒と等々重たい風邪症状をタイ…bbs.animanch.com
  • 21◆A8pWn3jbyg23/07/09(日) 01:05:12

    【このスレだけのコラさんのオリジナル設定・オリジナルキャラ】

    ・コラさん
    一応色々あって今世の名前をロシーと自称しているが、ローもとい他の船員からはコラさん呼びされています。
    身長166㎝の伸び盛り。将来的には288㎝(ダイスで決定)
    治安悪めのスラムみたいなとこ生まれだけど特別な血統とか病気とかはないまま育った(安価で決定)
    現在花と敵対中 何か秘策を持ってるらしい?

    ・クオル
    前作からのオリキャラ
    安価で悪い医者と出たせいで徹底的にローと対比を取られつつ、神絵師のネコチャンイラストによって野良猫要素が継ぎ足された属性過多男。悪魔の実の能力者。
    不治の病の治療法を見つけるために勉強中の医者。
    ハートの海賊団に居候中。
    ホーキンスと馬が合っているかもしれない。
    現在森の鎮静化中&襲撃を受けてる?
    何かをコラさんに手渡した。

  • 31◆A8pWn3jbyg23/07/09(日) 01:06:46

    このスレからの新オリキャラ

    ・マリー
    色付き眼鏡、腕には入れ墨、屋台で威勢のいい掛け声をするファンキーなシスター。
    面倒見のいい姐さんタイプ。
    過去神様にあったことがあるらしい……?
    悪魔の実を食べドラゴン姿になりつつ再登場。
    メモメモの実のフィルムによって過去を思い出した。
    サバサバしつつもパパにクソデカ感情を持ってる。
    現在度重なるダメージと疲労により気絶および脱落

    ・クリストファー
    ギャンブル好きの生臭神父。人当たりはいいけれど結構適当でろくでなし。
    マリーの養父。
    右腕は義手。
    元兵士。
    敵に左胸を貫かれたが、戦線復帰している。
    現在援護に尽くしている。マリーが倒れているのは把握済みだし気持ち的には大変なことになっている。

    ・レミ
    本名レミリオ。優しそうな丸眼鏡のお兄さん。
    頬から首を渡って大きな傷がある。
    花によって呪われ苦しめられてきたが、実はPOW18で最大限発狂を気合で引かずに頑張ってきた覚悟ガンギマリお兄さん。
    ラミロに手渡された鞘に入った神殺しのナイフを飲み込んで腹に隠していた。
    現在気絶中。

  • 41◆A8pWn3jbyg23/07/09(日) 01:07:19

    ・ラミ
    本名ラミロ。レミの双子のお兄さん。すでに故人。元神父。
    コクレア様を蘇らせようとしていた。
    霊体のような姿で登場したのをシャチが確認。
    その状態ながらもこちらの手助けを行っているようだ。
    元メモメモの実の能力者。
    花を倒すために尽力していたが、コクレア様の血と肉を食べ、花に食べられるという時間稼ぎを行った。
    花の隙をついて少しばかり登場。忠告だけしてから消えていった。
    現在もシャチの傍にいるかもしれない。

    ・サルヴァドール
    コクレア様を信仰する神父。すでに故人。
    通称サルヴァ。
    クリスと似た性格をしており、そこそころくでなしだが人当たりはいい。
    毒を飲み込み、花に食べられに行く。

  • 51◆A8pWn3jbyg23/07/09(日) 01:10:14

    ・コクレア様
    白銀の色をした、ドラゴンのような、魚のような、蛇のような姿をした神様。
    最近はドラゴン説が急浮上。
    見た目は神秘的だけれど、慈悲深く、愛情深く、少しドジ。
    現在レミリオの姿になって登場。花に対して攻撃をしようとするが、同時に花に対しての友情は消えておらず、燃やしてとどめを刺そうとしたときについ助けてしまった。
    現在花に拘束されている。

    ・ムルフェルニソ
    元々麻薬の成分を含んだ花だった。
    はるか昔、人の信仰により神に転じた“ただの花”。
    純粋で悪辣。人を食物として認識している。
    コクレア様のことを“らせん”と呼んでいた。
    現在ラミロの姿を取り、差別化のためにミラと呼ばれている。
    既に限界は近いが、吹っ切れたように自分の終わりを悟りながら戦いに応じている。

  • 6二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 01:17:51

    立て乙です
    前スレ落としてしまってすまない…

  • 71◆A8pWn3jbyg23/07/09(日) 01:23:00

    攻撃の余波があまり及ばないところまでマリーさんの身体を運んでから、おれは激しい戦いの方へと駆け出す。
    でかい巨人を出したり、広範囲からの弾幕を繰り出すようなスケールの技は出してこない。隠しているのか力の限界なのか、後者だとは思うけれど、油断は出来ない。あいつの全てを把握しているわけではないのだから。
    かといって、ローだって限界は近いだろう。ていうか限界を越してる気がする! これまでの能力の使用回数を考えると、今のあいつの身体の負担は……、くそ、想像するだけでわかる。今すぐにでも安静にしてほしいんだけどさ、無理ってわかってるからもどかしい!

    「……凪(カーム)

    おれは自分の音を消す。今のあいつは、ミラは、恐らく五感のようなもので人の居場所を把握しているのはクリスといたときからわかっている。
    だから、おれは音を消して。
    最大限、自分が出来るほどの密やかさで。
    心の中で怒りとか心配とか焦燥とかいくらでも湧き立たせつつも、頭の中は、冷静に。

    「――タクトッ!」

    ローが周囲にあったコクレア様の祭壇の瓦礫を使用する。先ほどのミラの攻撃によって大分粉々になっていたが、ローの能力で集めるのは簡単だ。
    多少距離を離したローは、まるでその瓦礫をミラに向けると、槍のように、弾丸のように射出する。
    ミラはそれを忌々しそうに認識する。けれど退避する手段はとらず、逆にその瓦礫に向かって駆け出していった。
    身体をねじらせ、――どういう動体視力かはわからないが、隙間と隙間を潜り抜け、見事に触れることなく通り抜けちまう。
    ラミロの身体だっていうのに、扱いが極まっている。
    スピードを変えることなく、そのままローに接近する。撃ちだす弾がなくなったローは、それを迎え撃つように刀を振りぬき――ミラの歩く地面ごと切り裂いた!

  • 81◆A8pWn3jbyg23/07/09(日) 01:23:21

    >>6

    こちらこそすみません、油断してしまっていた

    気にかけてくれてありがとう

  • 91◆A8pWn3jbyg23/07/09(日) 02:14:32

    地面が崩れても相手は油断しない。これまでの戦いの中でローの能力を多少は理解しているのだろう。
    すぐさま自分の体勢を立て直すと、下から木のつるで自分の身体を押し上げ宙に飛び上がる。
    けれどそこには既にローがいる。お互い睨み合う一瞬、ローの長い脚での踵落としが……決まった!
    多分刀じゃ間に合わないと思ったのだろう。すぐさま刀で追撃をしようとするが、背後から木のつるがローに向かってくる!

    ……けれどそれは飛び出してきた影が対処した。――ベポだ!

    「キャプテン! 大丈夫?!」
    「おれは平気だ、背中を頼む」
    「アイアイ!」

    ベポもボロボロだ。ボロッボロのボロボロだ! 白い毛並みが真っ赤になっちまっている。ふわふわも今はきっとゴワゴワなことだろう。おのれミラめ!!!
    背中をベポに任せたローは、刀を落下中のミラに向かって狙いを定める。

    「くそっ、人間ごときが……!」
    「生憎化け物退治をすんのは人間って決まってるもんでな!」

    ミラは、何かをしようとしていた。それは間違いない。けれどそれより先、ローの行動が早く。
    長い鬼哭の切っ先がミラの心臓に向けられる。
    そこに心臓があるかないかと言えば、恐らくないだろうけれど。

    「ガンマ――――ナイフッ!!!!」

    本来はその手にナイフのエネルギーを貯めたうえで、相手に突き刺し内部破壊をする技だっただろうが、ローはそのエネルギーを鬼哭に纏わせ、一気にその心臓めがけて、貫いた。

  • 101◆A8pWn3jbyg23/07/09(日) 03:36:58

    「ぐ、グゥっ……! ほ、んとっ、忌々しい、限りだ……ッ!」

    口から血液――に似た、どす黒い体液を大量に吐き出しながら、鬼哭の刀身を掴む。
    ガンマナイフはただ突き刺すだけの攻撃じゃない。あれの本質はエネルギーによる内部の破壊。そしてそれは恐らく、ミラのような相手でも効くのではないだろうか。
    現に顔を苦痛に歪め、体液を吐き出し、そして突き刺された箇所からもぼたぼた同じ色の体液を零し続けている。
    見るからに致命傷――けれどそれはミラが人間だった場合の話だろう。

    「ハッ……神に、こんな攻撃をするなんて、不敬、そのものだね……ッ!」
    「神になりたくなかったくせによく言うよ」
    「ああ、そうさ。神になりたくなんざ、なかった、けれど、……おれを、神とあがめる、お前らが滑稽すぎるんだ、よ!」

    そう言ったミラは鬼哭を掴んだまま、一気に身体を横にずらす!
    戸惑うことなく半身を切断する形でその場から抜け出したミラは、大量の黒い血を身体から吹き出しながらも、腹に手を当て修復していく。
    額には脂汗を掻いている。余裕も何もないのだろう。痛みだって、感じているに違いない。
    なのに治るとわかっていながらも、躊躇なく半身を切断してでも胆力に少しばかりすげェと思っちまった。

    「――お前の望みはなんなんだ」

    ローが静かな声で問いかける。唐突に思えたそれを聞いたミラは、腹立たしそうに返した。

    「……お前らが、根絶やしになることさ」

  • 11二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 13:41:01

    コラさん割と戦闘中でもぽろっと挟んでくるよね
    ふわふわがゴワゴワになるのは世界の損失だから終わったら存分に洗いっこでもしてほしい

  • 12二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 21:03:54

    保守

  • 13二次元好きの匿名さん23/07/10(月) 02:35:01

    コラさん何しようとしてんだろうな…無茶するってのはわかるけど…

  • 141◆A8pWn3jbyg23/07/10(月) 03:10:18



    風が吹く。花が揺れる。さわさわと、揺れる。
    花畑が広がる。
    始まって、終わって、巡る。
    始まって、終わって、巡る。
    生まれ、育み、種を作り、枯れ、土に還り、また生まれる。
    それでよかったのに。
    それだけでよかったのに。

  • 151◆A8pWn3jbyg23/07/10(月) 03:45:12

    次に飛び出してきたのは拘束から抜け出したホーキンスだった。
    ミラのちょうど両腕の部分に、長い釘が刺さったのだ。
    しかもその釘が次の瞬間変化したかと思えば、藁と化した釘がが放射線状に伸びてミラの身体を貫通する。

    「ぐ、ゥがッ……!」

    ミラは力任せにその藁を引き千切る。そしてローを通り過ぎるように一気に駆けてきたホーキンスは腕を藁に変えて、一気にそれをミラに向かって伸ばす。
    一本一本が営利な刃物――どちらかと言えば釘そのもののように尖り、今にもミラを突き刺さんとする。藁ってそんな尖るもんだっけかなァ!
    まぁ能力なんてなんでもありか。ともかく、そんな攻撃をダメージを喰らった状態のミラが防ぎきれるわけもなく、……っていや、すぐにバックステップをすると、先ほどまでいた場所から木が一気に生え、それを身代わりにする。

    「はぁっ、はぁっ、はぁっ……、本当、能力者は厄介だな。特にお前、あの時殺しておけばよかった、よ」
    「ハッ、お前がおれを苦しませようと無駄なことしていたもんな。おかげ様で今嬲られている気分はどうだ」
    「最悪だね、本当に!」

    ローがにやりと笑う。いや本当おれからしたら溜まったもんじゃなかったぞ! そりゃ、殺されてなかったのはよかったけども、けども!
    今更ながら、思い返すたびに冷や汗が出る。……夢に出てきそうだ。

    「ぐ、ぐぐぐ……すべてが痛ェ……」
    「って、あ! ペンギン!」

    ペンギンの近くを通りかかった時に呻き声が聞こえて立ち止まる。慌てて駆け寄れば、ペンギンはなんとか、本当にきつそうだったけれど立ち上がった。
    不安そうに見つめるおれを見て苦笑する。

    「……いやあ、ボロボロの姿見せるのかっこ悪いな……」
    「……何言ってやがる、最高に格好いいぜ」

  • 16二次元好きの匿名さん23/07/10(月) 08:39:01

    保守

  • 17二次元好きの匿名さん23/07/10(月) 18:54:50

    自由度と厄介度が高い能力者供に寄港されちゃったのは運が悪かったね

  • 18二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 01:30:23

    それより何より悪運が強い奴らに当たったのもだな
    コイツら追い詰めれば追い詰めるほどえぐいしっぺ返しする奴らだからミラの行動の全てが逆転フラグという

  • 191◆A8pWn3jbyg23/07/11(火) 02:48:18

    そしておれは。
    ペンギンに背負われながら突撃している。

    「おれの方が格好悪くねェかなァ!」
    「何言ってんすか前世の分込みでコラさんハッピーに格好いいっすよ!」
    「そのハッピーって何基準!?」
    「キャプテンがハッピーって意味で」
    「くそ……ちょっと嬉しいぜ……」

    なんて会話も挟みつつ。ともかくまァ、今はおれはおれの出来ることをするべきだってな。
    マリーさんには策って言ったが……実のところ別にすごく大層なもんじゃない。
    人に頼らねえと何もできないおれなのは、今も何も変わらねえ。
    けれども、それでいいと、今のおれはそうやって誰かの力を借りて、それでも何かを為すのだと決めたおれだ。
    恥じることはない。だっておれはまだまだ成長期なんだからな。これからすっげェ強い大人になって、みんなを守ってやるくらいの気概を持たねえと。

    おれはずっと懐にしまっていた、そう、ちょうどペンギンから渡されていた袋からそれを取り出す。
    前回、おれがローに再開することが出来たとある島で、かつておれにも向けられたことがあるものだった。

    ―――『なにも成せないからと自虐するくらいなら、なんでも使って見せろ』

    「だから今も力借りるぜ」

    そう思いながらおれは―――、クオルから渡されていた銃を、ペンギン越しにミラに向けて狙いを定めた。

  • 201◆A8pWn3jbyg23/07/11(火) 02:54:54



    なんでだろう。なんでいつもこうなんだろう。
    ぽろぽろぽろぽろ、涙が零れる。
    頑張ってやった結果、なんかいつもひどい目に遭ってる気がする。
    そんなこと言ったらあの子が怒るかな。あの子もひどい目にたくさん遭っているから。

    好きで、大好きで、傷つけたくなくて。でもそれだけじゃ駄目で、そのことを自分はわかっていて。
    わかっているのにままならない。いつも怒らせてばっか。
    嫌われたし、やっぱり怒られるし。あの子はこわい。でも、大好き。

    自分はどうすればいいのだろう。いつも考える。
    神様だって楽じゃないのよ。でも本当は自分のこと神様だって考えたことないけど。役割だし。やっていることはやらなきゃいけないことで、そう生まれてきたものだから。

    いつも、ドジばっかり。やることなすこと裏目になって、あの子だって呆れて怒る。
    でも気ままに歌えば、呆れたまま、でもちょっとだけ楽しそうにしていたっけな。
    歌いたいなあ。そうしたらまた呆れた顔で歌ってくれないかな。
    そうだとするなら、もっと頑張れるのに。

  • 211◆A8pWn3jbyg23/07/11(火) 03:04:31



    なんでだろう。なんでいつもこうなるのだろう。
    だらだらと体組織が溢れる。ぼたぼた零れ落ちる色は、どす黒いのに、どこか人間みたいで気色悪い。
    どれほど数百年に及ぶ恨みを蓄えても、結局人間によって左右される。
    酷い目に遭ってばかりだ。ただの花でいたかったのに、どうしてこうなったのだろうか。

    憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、それだけで存在し続けた。復讐し続けた。
    なのに今のおれはこの戦いが勝ち負け別に、既にやがて頽れるか弱い存在になり果てた。
    意地を貫いた末だから、おれが自分からそうしたってことは、自分で認めるしかないわけだけど。

    ――いつだって、あの時どうすればよかったのか、考える。
    神になり果ててしまった自分は、人間に拝まれた時、らせんに燃やされた時、その節目節目、他に何かできることがあったかもしれない。今更だけど。

    それは改心故か?と聞かれたら鼻で笑ってやるよ。そうじゃない。ただ、思っただけだ。
    あいつの能天気な姿、もう見ることが出来ないから。おれの大嫌いなやつの、馬鹿みたいな姿を。
    ……いつだって、人間の祈りの声は耳障りだ。
    だからあいつの下手糞な歌、あれのがマシだから、だからもう一度くらい、そうしたら、おれだって、

  • 221◆A8pWn3jbyg23/07/11(火) 03:22:20



    「いやあ、本当にただ、思うんですがねえ」

    スコープ越しに彼らを見る。ロシーくん。ローさん。ホーキンスさん。シャチさん。あとすごく面識があるわけじゃないですがペンギンさん。ちなみにマリーちゃんは既に退避済みである。パパパワーで迅速に。お隣にはレミくんもちゃんといます。パパ回収頑張っちゃったぞ~。
    まあ、ともかく。最後にコクレア様を見て、またスコープをロシーくんに合わせる。

    ……なんかこれロシーくんに標準合わせてるみたいで精神衛生上悪いからやめとこ。

    そうしなくても私視力はめっちゃいいから別に大丈夫か!
    まあ、内心気楽に過ごしつつ。いやだって、そうしないと割と心情的に大変というか。迷惑かけない程度にふざけるのは許してもらいたいものである。

    「やっぱり、もしも君たちがこの島に来なかったら、この島はきっと花によって人が根絶させられるか、延々と苦しめられる地獄になっていたの思うんですよね」

    そうしたら近所の人たちとか。腰が悪いおじいさん、花の世話が好きだけど育てるのが下手糞な隣人、マリーちゃんの料理のファンの青年、骨董品をわざわざ取り寄せて自慢してくる小金持ち、賭場仲間、酒場の綺麗なお姉さん、そういったまあ、私の知る人たちがみんなひどい目に遭っていたわけで。
    それをいくら兵士上がりだからといって、自分がなんとか出来たとは思わないし、ラミくんから託されたとはいえ、まあ、惨憺たるありさまにしかならなかったと思う。

    「いや、彼らがここに来たのは運命って言うつもりはないですけど。偶然の産物でしょうし、まあ海賊の気まぐれ?って感じで、たまたま気のいい人が来てくれたっていうこう……超幸いなことだったというか……」

    ほんっとーに! ありがたいことである!

  • 231◆A8pWn3jbyg23/07/11(火) 03:36:46

    「……うん」

    だから、というわけじゃない。そういうわけじゃない、が。

    「―――神よ」

    祈る神は、コクレア様で。あそこでこんがらがってる神様だけれど。
    ――本当は、ただの真似事で、ちっとも信仰してなかったけれど。
    ロザリオを握りしめる。
    最初は真似事から始まったこれも、大分様になってきたと思う。

    もう片方の手で、コイントスを、した。
    くるくる回るそれが、手のひらに落ちてくる。
    ……マリーちゃんのお腹の中にいまだ入っているであろうコインとはまた別のコイン。
    ほんの少しの勇気を貰える、ただの神任せ。

    「………」

    「…………うん」

    ――――実のところ、答えは、最初から決まっていたけれど。

    「パパ、もう少し頑張ってきますね」

    マリーちゃんの悔しさもひっくるめて抱えて。
    だって私も実は馬鹿な男なものでしてね。

  • 241◆A8pWn3jbyg23/07/11(火) 03:39:44

    今日はここまでで
    ちなみに参考までに聞きたいんですけど、オリキャラ許容量超えて目立ちすぎてないかな……
    ボスのクソデカ感情、こちら側のキャラのクソデカ感情諸々ありつつ、映画オリジナルボス&映画のゲストキャラ立ち位置目指して、けれどもとにかくそれ以上に原作キャラを格好よくさせたいんだけど、塩梅がわかんなーい!

  • 25二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 08:45:21

    いい感じの目立ち具合だと思います!
    こういうのって大体オリキャラは原作キャラのサポートというか引き立て役になっていて影が薄くて蛇足のように感じてしまったり反対に目立ちすぎて原作キャラより出しゃばって原作キャラの格好良さも飲み込んで一時創作で足りる様に見える作品も多いように感じます!
    ですが作者様のオリキャラ達は原作キャラと協力し合ってオリキャラ達のそれぞれの心情などを物語にとても綺麗に組み込んでいてかっこいいですしそれ以上に原作キャラがオリキャラの心情などをしっかりと受け取ったうえで動いていてとても格好良いです!!(オタク特有の早口)

  • 26二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 17:23:34

    単純にオリキャラとキャラの配分がちょうどよくって、それこそいい塩梅ってやつだと思う
    戦闘はメインに原作キャラが目立ってるのがいいのかも

  • 271◆A8pWn3jbyg23/07/12(水) 01:48:25

    了解です、ありがとう
    この調子のままで突っ走ります
    ようやく終わりが近づいてきたので、改めて参入させたオリキャラがなんとかいい目立ち具合、塩梅になれてたのならよかった
    また明日更新します

  • 28二次元好きの匿名さん23/07/12(水) 08:12:53

    保守

  • 29二次元好きの匿名さん23/07/12(水) 17:30:56

    このレスは削除されています

  • 301◆A8pWn3jbyg23/07/13(木) 00:51:41

    「………」

    思考は冷たく、サイレントに。心音すらも凪がせ。標準がぶれることはあってはならない。力は籠めず、タイミングを待つ。
    おれが出来ることを、ただ行う。それだけ。
    ペンギンに抱えられて揺れる視界、けれど、そのぶれも少なくなる。
    集中。
    とん、と自分の耳にサイレントをかける。
    静寂の中。
    指先に、ほんの一ミリ力を籠める。

    ホーキンスが藁でミラを絡めとる。それを切り払ってミラが木のつるを射出する。
    反対側から仕掛けるローに、わずかに身体を切り裂かれながらもすぐさまその場から離脱。
    それに対してホーキンスが追撃をしようとするが、それを紙一重で避ける。
    次の瞬間腕を巨大なつるの鞭に変えると、思いっきりそれをローとホーキンスに向かって打ち付けた。
    ふたりはまともにそれにぶちあだって吹き飛ばされる、が、それを堪えてローがすぐさまホーキンスと共にミラの前に転移してくる。
    口から血を吐き出して苦しそうだ。

    「まだいけるか」
    「ああ」

    言葉少ななに交し合いながら、二人同時にミラに向かって刀を向ける。
    それをおれはじっと見つめている。

  • 311◆A8pWn3jbyg23/07/13(木) 01:19:47

    視界がモノクロになる。集中。集中。集中。余計な思考は全て根こそぎ削ぎ落して。
    ただ、静かに。
    ローが動く。ミラの身体から木の枝のように湧かれた棘がローとホーキンスに向かう。
    ――いくつか、その棘が身体を貫通して。
    ただでさえ身体中血まみれなのに、さらに真っ赤になりながら。

    「お前らは、お前らは、弱いくせに。どうしてそんなにも、」

    激しい戦闘の隙間――ミラが口を開く。
    続く言葉は、苦々しいものだった。

    「……恐ろしいんだ」

    削られていくミラの何か。ローとホーキンスによる猛攻撃。あふれ出る鮮血。
    そして、苦悶の悲鳴は――どちらのものだったか。

    「―――降魔の相」
    「インジェクション―――」

    ホーキンスが藁のモンスターに身体を変質させ、手に持った五寸釘をミラに向かって突き立てる。
    最初に比べるとミラの動きが大分鈍くなっていて、だからこそ木のつるとして打ち出されようとしていたミラの右腕が釘に打たれる。
    そこを狙って、ローが超スピードで飛び込んだ。

    「―――ショットッ……!」

  • 321◆A8pWn3jbyg23/07/13(木) 02:35:19

    ―――そして、もう一人はミラの背後から。

    「……実は金に物を言わせて、少しばかり上官の汚ェコネというやつを存分に使って、とある役職の方に指導をいただいたことがあるんですが、どうにもこうにもまあ才能はなくて。でもたった一つ、上手く習得出来たものがあったんですよ」

    そう言いながら、いつの間にかミラの背後から回り込んでいた、クリスは。
    人差し指を――ミラに向けた。

    「――――――――指銃ッ!!!!!」




    三者三様の攻撃が、ミラを貫く。
    クリスによって心臓の位置が破壊され、ホーキンスによって、身体中が釘で貫かれ、ローによって、刀が身体を貫通し。
    かはり、と口から大量のどす黒い体液をどろどろと溢れさせた。
    目を見開き、今にも頽れそうになり、いや、あと恐らく一瞬待てば、すぐに膝から崩れ落ちるだろう、そんな予感がさせられるほどに、致命的な攻撃を受けている。

    誰がどう見ても、ミラは今の攻撃で再起不能なダメージを負った。
    それは誰が見ても明らかだ。
    ミラは、どう考えても、数秒後に倒れるだろう。

    「――――――まだだ」

    静かな声がミラから響く。
    そう、数秒後に倒れるだろうということは。
    あと数秒、残っている。

  • 33二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 03:39:26

    このレスは削除されています

  • 341◆A8pWn3jbyg23/07/13(木) 03:41:02

    「まだ、まだ、まだ、まだだ、人間、おれはまだ、お前らに―――ッ!」

    身体中を破壊されながらミラは再び何かを起こそうとしていた。
    身体を膨れ上がらせる。そして、肌の表面に黒い線が走ったと思ったら、――金色の目が大量に溢れ出した。
    なんともおぞましい、狂気的な姿。先ほどまでラミロの姿のまま戦っていたのだから、そのギャップもひとしおだろう。

    「呪われろ! 苦しめ! お前らは、悪夢の中で手折られ続けろッ……!」

    怨嗟の声が響き渡る。びりびりと肌を痺れさせるほどの怒号、恨み、嘆き、絶望――――。
    ミラが腹を膨らませる。金色の目がぎょろぎょろと動く。

    ローが、指を動かす。

    その刹那の一時。


    ―――ここだ、と思った。



    「インフェクション・ディジーズ……なんてな」

    標準はとっくに固定されている。
    おれはその引き金を――迷わず、引いた。

  • 35二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 12:31:04

    このレスは削除されています

  • 36二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 15:26:38

    手に汗握って見てしまう…、かっこいい技のオンパレードだしクリス指銃使えたのが驚き

  • 37二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 01:32:54

    前のハッピーに格好いいとか言葉選びのセンスに脱帽する
    しかも納得いく人選と理由なのに絶対自分じゃ思いつかねぇ

  • 381◆A8pWn3jbyg23/07/14(金) 03:39:24

    また明日書けたら書きたいので保守しておく
    本当にクライマックスなので、ここまで長かったなあと思っているとこ
    外伝の最初のスレ11月なの思うともう7月じゃんとわろてる

  • 39二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 12:53:42

    保守

  • 40二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 23:02:38

    保守

  • 411◆A8pWn3jbyg23/07/15(土) 03:17:27

    銃弾が、木のつるの隙間、崩壊した木を紙一重に、ローの真横を通り過ぎて、やつの胴体のど真ん中を打ち抜く。
    ミラはその衝撃に目を見開き、――そして、弾丸に仕込まれていた病魔が促進する。
    クオルの能力によって込められた、“樹熱”の病――その細菌が一気に広がり、否応なしにあいつの身体の動きを鈍らせる!

    「な、ァ―――、ぐっ……!」

    ……なんか身体中に一気に斑模様が溢れ出している。黒い点ではないのを見るに、おれの知らない症状なんだろうけれど、多分これ“樹熱”以外の病気も込められてねェかなあ!

    ―――そう、クオルは、おれに一丁の拳銃を渡していた。
    それもいつもあいつが使っている、特別製の銃だ。
    前話を聞いたとき、グリップのところに特殊な細工がしてあって、一定の操作をすると針が飛び出てクオルの手を突き破り、そこから血液を採取して弾丸に込めることが出来るらしい。
    見るからに痛そうな仕掛けだ。けれども確かに、銃弾一つで多少離れた敵相手にクオルの能力を作用させられるのはなんとも凶悪だ。おれも大変な目にあったからな~。

    そして、それは見事にミラにも作用した。
    大分弱っているであろうミラだからこそ通すことが出来た攻撃かもしれないが、効いたことに違いはない。
    流石だぜ、と今船で寝ているだろうクオルを思う。血液足りてないだろうから、たくさん鉄分を取ってほしい。レバーとか。

    「っぐ、ググ、き、さまァ……!」

    ミラの目がおれの方を向く。身体中に生えている目も全部おれを見るからすげェ怖い。

    「うわコラさん、あいつめっちゃ怒ってますよ」
    「最初から全部に対して怒ってただろ。それに、大丈夫だ」

    もう、きっと終わる。

  • 421◆A8pWn3jbyg23/07/15(土) 03:25:19

    敵意がこちらに向いたとしても、驚くくらい心は凪いでいる。
    恐ろしさも不安もない。
    ミラがこちらに向かって何かをしようとしていたとしても。
    木のつるがおれたちに向かって迫ってきているとしても。

    長い指先が、くるりと動く。
    そしてたった一言、静かに響いた。




    「―――――――“シャンブルズ”」




    その声の示したものは、おれじゃない。ましてやミラでもない。
    ロー自身の位置が入れ替わる。
    煌めくのは――ハルバードの軌跡だ。


    「……悪夢の時間はもう終わりだぜ」


    ローの姿が変わり、唐突に現れた存在に、ミラは動揺したように目を見開いた。

    「お前っ……!」
    「美味しい役どころをありがとよキャプテンッ……!」

    そう言ってシャチは、海の王様みたいな顔で獰猛に笑った。

  • 431◆A8pWn3jbyg23/07/15(土) 04:03:36

    「お前は、お前はお前はお前はこの時までもォ……!」
    「この時だからだよ!」

    シャチがハルバードを振りかぶる。
    ミラは後方に退避しようとして――あいつの中で発芽し、一気に症状が進んだ病魔のせいで、かくんと膝の力が抜け、移動もままならない。
    その代わりに防御するように自分の前に巨大な木のつるの盾を張った。

    「神様になりたくなかったんなら、辞めちまえばよかったんだよ、お前はァ!」

    シャチは持ち手を強く握りしめ、そのまま一気に高く持ち上げる。
    そして上段から一気にミラに向かって――振り下ろした!

    「恨み憎しみ復讐うるっっっせェわ! 人間が嫌いだったなら、さっさと見限るでもなんでもして、どこまでも遠くに行けばよかったんだ! 友達と仲違いよりずっと、その方がよかっただろうがよ!」

    「―――――そうしていたのなら!」

    ハルバードの刃が、木のつるを切り裂く。そしてその勢いのまま、ミラの胸に突き立てられた。
    次の瞬間、じゅわ、と蒸気のようなものがシャチの刃に触れた個所から溢れ出す。
    ミラは白目を剥き出し、仰け反りながら絶叫を上げた。

    「そうしていたら、コクレア様の血がお前を拒絶することだってなかったはずだ!」

  • 441◆A8pWn3jbyg23/07/15(土) 04:32:08

    「滅ぼされて……なのに、人間を憎むのを、やめろって……貴様、はァ……!」

    「……やめろってわけじゃねェよ。復讐したい気持ちはわかるさ。けれど、それだけだったお前はおれに負けた。そういうことなんだよ」

    「―――――――」


    ミラがそのまま、背中から地面に倒れる。
    その瞬間、辺りに残っていた木のつるや植物は一斉に枯れて、風化し、消える。まるでこれがミラの末路だとでもいうかのようにあっけなく。
    四肢をだらりと投げ出して、どくどくと黒い体液を地面に広げるミラ。
    もうそこに、凶悪なほどの巨大な力の残滓すらない。
    もはや無力な、人間の姿をした何かだ。

    じゅうじゅう、と傷口から泡が立つ。どうしてあんな傷がついているのかはわからない、が。恐らくシャチが何かしたのだろう。
    ようやくおれとペンギンはシャチとミラの元へと到着する。
    シャチは肩で息をしている。というか動くたび身体中から血が溢れ出していて、正直もうぶっ倒れちまうんじゃないかってくらいの重症だ。
    それでも真っすぐミラを睨みながら、強くその場に立っている。

    「――お前の負けだよ、ミラ」

    そう、もう一度告げた。
    ……ミラはくしゃり、と。顔を歪ませた。

  • 451◆A8pWn3jbyg23/07/15(土) 04:42:27

    というところで今日はここまで
    最後の一撃は迷ったけど、この話の中でやっぱりシャチにお願いしたかった

    明日は投稿できないため、保守のご協力をどうかお願いします!
    あと感想もくれたら喜びます これでもかってくらい

  • 46二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 07:42:51

    神SSでした! 保守

  • 47二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 17:03:18

    ここまで丁寧に因縁と友情を積み重ねてからの美味しい役を貰ったシャチかっこいいです
    ラミロ見てるかな、お前の友達がやってくれたぜ

  • 48二次元好きの匿名さん23/07/16(日) 01:41:22

    戦いがかっこいい
    シャチの見せ場とか見れて嬉しいし、オリキャラとの関わり合いが楽しい

  • 49二次元好きの匿名さん23/07/16(日) 10:00:47

    とうとうミラに勝った!と気持ちと悲しい気持ちある
    なんだかんだミラのことも結構好きになってたわ

  • 50二次元好きの匿名さん23/07/16(日) 20:57:12

    このレスは削除されています

  • 51二次元好きの匿名さん23/07/16(日) 23:27:50

    オリキャラの動かし方が上手だと思う
    ほどよくキャラが立ってるから空気にならないし役割がきっちりしてる感じで素敵

  • 52二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 05:41:47

    保守
    あれだけ問答無用で強かったミラを、理由を付与してちゃんと自分たちの力で対抗できる敵にしてさらには一人一人見せ場を使ったバトルが出来たのすごい
    まさかシャチがこんなにカッコよくなるとは思わなかった

  • 53二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 11:43:32

    保守
    追い付きました~。何時も神SSありがとうございます!

  • 541◆A8pWn3jbyg23/07/17(月) 16:52:35

    保守のご協力と感想ありがとうございました!
    シャチ頑張りました
    また続きを書いていきたいと思います

  • 551◆A8pWn3jbyg23/07/17(月) 17:06:18

    身体から一気に力が抜けるように四肢を弛緩させたミラは、そのまま背中からぶっ倒れるように地面に崩れ落ちる。
    じゅうじゅう、とシャチが切り裂いた胴体の傷口は今もまだ蒸気が吹きあがり、泡立っている。それと同時にどす黒い体液もあふれ出していて、見るからに致命的なダメージなのだろう。
    同じく身体に大量のダメージが蓄積しているであろうシャチも地面に膝をつく。呼吸をするたびに血が身体から溢れ出しているのを見ると、早く治療に取り掛からなくてはいけないくらいの重症具合だろう――それはみんなに言えるだろうけれど。

    「く、そっ、くそ、くそ、……人間、ごとき、に………」

    ミラが力なく怨嗟の声を吐き出す。けれどやっぱり、それは弱弱しいものだった。
    始めの頃の人間への憎悪の化身のような姿はない。
    敗北したもの独特の諦念に近い雰囲気が感じられた。

    「ああ、おれは、なんで負けた、神、なのに、おれが神で、人間は、食物、でしか―――」
    「そうやって舐めプしてるからだろーが、よ。最初っから殺す気でいたら、おれらもやばかった、てーの」
    「………」
    「わざと相手を甚振ろうとするから、逆襲されるんだ。本当に食物って見てたら、そんな真似しねェだろ。そうやって相手を甘く見て、自分が強いから何をされても安心だって油断して、だから足元をひっくり返されるんだよ」
    「……………はは、そうか、よ」

    ミラは反論しなかった。シャチの言葉を正論だと受け取ったのかはわからないけれど。ただ力なく空を見上げながら、その空に向かって、手を伸ばす。

    「結局、おれは。こんな、ところで、……無様、に、人間、なんかに、おれ、は……」

    けれど、届くものはない。空に手なんて届かない。そのまま力なく、手は落ちて、
    ――その前に、拾い上げるように掴まれる。

  • 561◆A8pWn3jbyg23/07/17(月) 17:34:14

    「……お前、」
    「……! お、お花、お花」
    「お前、おれを馬鹿にでも、しにきた?」
    「してない!」

    その手を取ったのは、コクレア様だった。あの拘束から抜け出すことが出来たのだろう。泣きそうな顔で、飛びつくようにミラの手を握っていた。
    ミラは、拒否をしなかった。
    お互い手がじゅうじゅうと焼けている。それはお互いがお互いの天敵であるためだろう。
    人でないものの法則とかわからないけれど、それはすごく悲しいことに思えた。

    「……お、お花。手、痛くない?」
    「……全身痛い。だからお前程度、どうってことない」
    「そっ、か」

    それは素直じゃない言葉だった。本当に、ありふれた友達同士みたいな。
    コクレア様は唇をきゅっと引き結んで、でもやっぱり耐え切れなくなったというように目からぽろぽろ涙を零している。
    それをミラは見て、少しだけ目を揺らした後逸らして、やっぱり空を見た。

    「………おれは、もっと、もっと、にんげん、を」
    「――――お前の望みは何だったんだ」

    変わらず続けようとしたミラの怨嗟を遮り、――ローが、問いかける。それはさっきもした問いかけだった。
    ミラの口は一旦止まる。
    それから、自嘲するような笑みを零した。

  • 571◆A8pWn3jbyg23/07/17(月) 17:57:54

    「………うるさい、んだ。こえが、ずっと……きこえる、から……」

    観念したように、訥々と話し出す。

    「頭の中に、ひとの、……こえが、ずっと、ずっと……聞きたく、ない、のに……」

    つう、と。
    光を今にも失いそうになっているミラの目じりから、涙が零れる。
    それが、全ての矜持を取り払った、神になってしまった花の、弱音だったのだろう。
    延々と苦しみの中で、怒りと狂気を人間に向け、ただただ憎悪を腹の中で蓄積させ、この島に潜み続けてきた悪魔の、ささやかな願いがそれだった。

    「もう、おれに、望まないで」

    「ぼくたちに、すがらないで」

    「われわれに、いのらないで」

    「わたしたちを、しんこうしないで」



    「もう、おれを―――あいさないで」



    愛の否定。
    それが、人間を食い物にしてきた神の。
    たった一つの、願い事だった。

  • 58二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 22:31:16

    このレスは削除されています

  • 59二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 05:52:12

    ミラの一人称がいろいろあってなんか心臓がキュッとなった
    コクレア様と出会って仲良くなった頃は触れるだけで傷つけあうこともなかっただろうに

  • 60二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 12:03:22

    このレスは削除されています

  • 61二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 21:57:22

    保守

  • 62二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 00:14:22

    悪と言い切れる存在がいないのがやるせないなあ

  • 631◆A8pWn3jbyg23/07/19(水) 02:37:10

    今日は書けそうにないから保守だけしておきます
    また明日書けたら書きたい故、保守のご協力をお願いします

  • 64二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 08:14:41

    このレスは削除されています

  • 65二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 16:31:36

    保守

  • 66二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 23:54:35

    このレスは削除されています

  • 67二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 03:05:44

    どうにもならない状況に陥ったのは関係者全員にとって悲劇だったね…

  • 681◆A8pWn3jbyg23/07/20(木) 03:42:29

    ……………。
    ミラは、この島の人間を悪戯に苦しめ、殺してきた。そこには復讐という始まりがあったとしても、悪意があったし、さらに被害を拡大させてきた。
    もしこいつがこのまま存在し続けていたら、もっと被害は拡大しただろうし、苦しむ人が出続けていただろう。
    だから、きっとこいつがこのまま倒され、巡ることなく消滅するのを止めようなんて思わないし、人を傷つけ殺してきた分、敗北したからには報いを受けることになることだって、おれはそうするべきだと思う。

    でも、やっぱりやりきれないものもある。こいつの心情を聞いてしまったのだから。
    こいつがこれまでに島や人に出してきた被害と、こいつへのやりきれない感情はまた別の物として処理するべきなのだろう。
    そこにおれの気持ちがあるのは、確かなのだ。

    うるさいと。聞きたくないと、ミラは言う。
    だから、きっと、おれたちがこれ以上何を言ってもこいつには煩わしいものでしかないのだろう。
    ……それに、最後までこいつを苦しめる方法を取ることが出来たとして――したくないな、と思った。
    許しは出来なくても、死に行くものに唾を吐きかけるようなことはしたくなかったのだ。

    だから、おれはぱちりと指を弾いた。

    「――――サイレント」

    防音壁を、ミラと、コクレア様の周りにだけ張る。
    これでミラに声が届かなくなるかはわからないが、少なくともおれたちの声は聞こえないだろう。ほんのちょっとたりとも。
    周りのやつらはおれのやりたいことを理解したのだろう。特に何も言わなかった。――最後に情けをかけすぎたかな、と思うけど、クリスまでも何も言わなかったから、好きにやらせてもらうことにした。
    ……というか、限界がきたらしいシャチがぶっ倒れたのでそれどころじゃなくなったのもある。
    だから、残ったミラとコクレア様のことは、きっとあいつらしか知らないのだろう。

  • 691◆A8pWn3jbyg23/07/20(木) 04:01:56

    ……というか、シャチがマジでこう、すごくボロボロである!
    身体中に貫かれた部分があるし、白いつなぎの原型がわからないくらい真っ赤に染まっちまっている。
    顔は青白いし、血液が足りてないとしか思えない。
    というかここにいるみんなズタボロなんだよなあ! おれは守られていたから軽傷だけれど、みんな痛々しい姿で、正直見ていて心苦しい。
    おれがでっかけりゃみんな運んでやれたのに、と思うけれど、そういう無いものねだりの思考はやめようって決めただろう。
    大丈夫、ここにはローがいる。おれの知る世界一のお医者さんだからな!

    「……とりあえず船に運ぶぞ。他全員移動できるか」
    「あっ、マリーちゃんとレミくんは動けないと思うので、私が運びます」
    「キャプテン、シャチはおれが運びます。てかキャプテンもずったぼろだと思うんすけど」
    「構わねえ。コラさんは」
    「おれは、」

    ちら、とコクレア様たちを見る。
    防音壁の中、二人はまだそこにいる。
    おれは少し迷って、首を振った。

    「……まだ、ここにいるよ」
    「そうか」

    ローは眉間に皺を寄せつつも、何も言わずベポを見た。
    ベポはアイアイ!と返事をしておれの傍に来てくれる。……世話かけてすまねえなァ!

  • 70二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 10:52:06

    このレスは削除されています

  • 71二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 19:16:38

    サイレントするコラさん解釈一致
    たまに入るコラさんの親馬鹿みたいなローの評価好き

  • 721◆A8pWn3jbyg23/07/21(金) 02:04:51



    「……お前もどっか、いけよ」
    「やだ」
    「………お前の声も大概、やかましいんだぞ」
    「やだ」

    果たして、こいつはこんなに強情だっただろうか。
    力が抜けていくことを実感しながらも、ぼんやりと繋がれた手を見つめる。
    じゅうじゅうと肌の肉を焼きつつも、しっかりと握りしめられた手は、痛いほど熱い。なのにらせんは外さないし、おれも不思議と外す気にはなれなかった。……外す気力もない、だけだ。

    ぼろぼろと、ずっと泣いている。
    いつだってそうだ、こいつはいつも子どもみたいに無邪気で、素直で。だから敵であるおれのためにも泣く。本当に愚かだ。嫌いだ。馬鹿みたいだと本心から思う。

    「……お花。らせん、らせんはお花、大好き」
    「おれは、……お前のこと、大嫌いだよ」
    「いい、よ。かなしいけど。でも、それでも、好きだから」
    「………」

    手酷く否定されても、拒絶されても、それでもへこたれない。
    どこまでも真っすぐ、泣きながらだとしても、おれを見る。
    そうやって見られるのは、居心地が悪い。

    「……酷いことされても好きだって思えるお前は、頭がおかしい」
    「おかしくても、いいもん」
    「だからお前はガキなんだ。何百年も、生きてるくせに」

    おれのことも、人のことも愛せる理由が、わからない。

  • 731◆A8pWn3jbyg23/07/21(金) 02:49:21

    「……おれを、焼いたくせに」
    「………っ」
    「あれで、おれはお前を大嫌いになったのに」

    目をつむればいつだって目の前にあるかのように思い出せる。
    ――わかっているさ。神として、輪転を妨げる行いをしたおれを罰しようとしたってことも。それがこいつの役割だとしても。
    それでも、理性と心は別だ。それにこいつは堂々とするわけでもなく、いつだって悲しそうな、泣きそうな、申し訳なさそうな顔をしているから。だからおれも腹が立った。
    こいつの情に流されるような甘い部分が、大嫌いだった。

    らせんは、やっぱり泣きながらおれの顔をじっと見て、小さく口を開く。

    「どうしたら、」
    「……」
    「どうしたら、許してくれる?」

    弾けるようにらせんを見た。おい、お前、……お前さあ。

    「……神が、許しを求めるんじゃ、ねえよ。お前何考えてるんだ」
    「でも許してくれるなら許してもらいたい、もん。だって、らせん、謝れないから」
    「………」
    「謝れない、もん。だってらせんのしないといけないこと、だった、から」

    …………。
    呆れた。
    ほんっっっとうに呆れた。
    どれだけ阿呆なんだ。馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけれど。お前、こんな時まで馬鹿でいいのかよ。

  • 741◆A8pWn3jbyg23/07/21(金) 03:39:05

    しないといけないことだって思ってるなら、そのままそれを貫けばいいのに、おれに許しを乞う。
    どうしてかと言われたら、その答えは既に応えられている。
    おれのことが好きだから。
    謝れないのに、こうして泣きながら言葉を紡ぐこいつを見て。本当にあほらしく思った。
    どうせ、もう死ぬ。巡れないおれはただ消滅する。その結末に変わりはない。
    変わりはないから、最後くらい、もう全部放り出してもいいと思ったのだ。

    過去も、呪いも、憎悪も、因縁も、恨みも。
    おれの腹の中に溜まる、そういったどろどろとしたもの全部。

    「………うた、を」
    「……歌?」
    「あの、能天気で、全部どうでもよくなるような歌、うたってろ。そうしたら、……ゆるしてやる、よ」

    そう言って、少しだけ笑った。
    そうしたららせんは目を瞬かせて、目に溜まった雫をすべて零してから、歌い始めた。

    透き通った、獣の声。
    能天気で、下手糞。聞いてい全部馬鹿らしくなる。けれど、人間の声より、ずっと、ずっとましだったから。

    ………おまえ、なら。
    おまえなら、近くにいても、よかったんだ。
    そうやって、呑気なまま、生きていていてくれたなら。
    傍にいてくれたなら。
    そう、だったのなら。
    ――――もう、終わった話だけれど。

  • 75二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 09:33:58

    このレスは削除されています

  • 76二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 21:11:25

    少しでも安らかに逝けたんならそれに越したことはないね…

  • 771◆A8pWn3jbyg23/07/22(土) 04:55:26



    歌が響く。
    ――それは歌というより、バラバラの音程をただ鳴らしたようなお粗末なものだったかもしれない。
    歌という形を成していないもので、ただ友を送り出す最後の響きだ。

    かつて花であり、神であり、化け物だったそれは、目を閉じていく。
    身体がただの植物に変じ、その存在をゆっくりと消していくそれの頭を、優しい優しい神様は、撫でた。

    ぽろぽろ、ぽろぽろと涙を零しながらも、歌うのをやめない。
    それが友達の最後の願いだったから。
    最後、自分に望んでくれたことだったから。

    例え、罪を犯したとして、悪逆を為す存在になったとして。
    それでも、どうしても、好きなことをやめられなかった。
    いつかの日、ふたつで過ごす中で、呆れたように笑いながら、自分を見つめてくるその優しい眼差しが、大好きだったから。

    きっと、君は許されない。それほどの罪を犯した。故に、もうその魂は巡らない。
    巡らず、消えていくのみ。
    それをわかっている。それを変えることなんて出来ないし、してはならない。

    けれど、だから。どうか。どうか、どうか。
    君の最後に聞く、音が。
    ―――消えゆく君の、安らかな子守唄になりますように。

  • 781◆A8pWn3jbyg23/07/22(土) 05:12:59

    「……あ」

    遠目で見ていたから、二人がどうしていたかわからなかったけれど、不意にコクレア様とミラがいた地点から、青白く丸い光がいくつも浮かび上がるのが見えた。
    おれとベポはびっくりして身を寄せ合ったけれど、特に害はなさそうで、本当に辺りに浮かんでいるだけ。
    しばらくふよふよと漂っていて、おれたちはぽかんとそれを見ていることしか出来なかったけれど――、話が終わったのだろう、コクレア様がいつの間にか立っていることに気付いて、おれは能力を解除した。

    ミラの姿は、ない。跡形もなく消えている。――いや、そういうわけでも、なく。
    あいつが倒れていたところに、枯れた花が一本落ちていた。……そういうこと、なのだろうか。

    「―――みんな、苦しかったね」

    コクレア様が青白い光球に触れる。労わるようにそっと表面を撫でる。
    その顔は慈愛に満ちた顔をしていて、まさに神様らしい博愛に満ちているように思える。

    「大丈夫、君たちは還れるよ。再び輪転の中を巡りなさい。空に昇り、地面に注ぎ、……君たちの魂は、洗い流されながら、また次の生に向かう」
    「悪いことをしていたらちょっと時間がかかっちゃうけれど。罪もいつか濯がれるはず、だから」
    「いきなさい。生と死の輪転の中へ。今度の生が、どうか満足ある終わりを迎えられることを」

    光球が次々浮かび上がる。
    コクレア様の声に呼応するように光を瞬かせながら、ふわふわと周囲をくるりと回って、そして導かれるように空に向かって行く。
    あれって、とベポを見た。ベポもおれを見ていた。
    ……何も言わず、おれたちはコクレア様の姿を見守る。
    少なくとも、おれたちが邪魔をしたらいけないところだ。

  • 79二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 14:07:01

    そうか、ようやく皆も解放されたんだな
    コクレア様のくだけた言動も混じってるけど導きの言葉の神様っぷりにドキドキ

  • 80二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 01:16:45

    保守

  • 81二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 05:46:16

    このレスは削除されています

  • 82二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 13:09:26

    サルヴァとラミロも還れたのかな…

  • 831◆A8pWn3jbyg23/07/23(日) 17:33:03

    全ての光球がいなくなったあとも、コクレア様は静かに佇んでいた。
    物憂げな顔で見送ったあと、しゃがみこんで優しい手つきで枯れた花を手に取る。
    それは少しでも力を入れたら、粉々に崩れてしまいそうなほど儚く弱弱しい。――あれが、きっとミラだったものなのだろう。
    コクレア様は、おれたちの方を見て。くしゃりと顔を歪め、泣きそうな顔をした。

    「……お花、死んじゃった……」

    ……………。
    うん、……コクレア様にとって、大事な友達だったもんな。
    だからそうやって悲しいのは、きっと正しい。
    決してコクレア様がおれたちに対して責める気持ちを今もなお持たないように、おれたちだってコクレア様があいつに対して悲しんだり泣くことに対して否定する気持ちなんかない。

    「……悲しいよなあ」
    「しょうがないから慰めてやる?」
    「ベポはコクレア様に対しては素直じゃないよなあ」

    つん、とそっぽを向きつつも、そうやって素直じゃないことを言うベポも好きだぜ。
    おれたちはコクレア様の方に向かって歩く。
    とりあえず、泣いている友達を慰めに行くのもありだろ。

  • 84二次元好きの匿名さん23/07/24(月) 05:25:34

    悲しめなかったり涙が流せないよりよっぽどいい
    素直じゃないベポも珍しいし可愛い

  • 85二次元好きの匿名さん23/07/24(月) 12:25:21

    >>83

    続きキターー!待ってました!

  • 86二次元好きの匿名さん23/07/24(月) 23:32:52

    花もようやく元の姿に戻れたってことか…
    神さまの力使い果たしたから枯れたのか、とっくの昔に枯れてたのか…

  • 871◆A8pWn3jbyg23/07/25(火) 02:55:17

    「コクレア様、墓を作ってやるか」
    「お墓?」
    「ああ。死んだやつを悼むのならそうするべきだし――ミラの身体は花だっていうのなら、土に埋めたら地面に還って、そうして大地の栄養になって、他の植物の助けになる」

    もう巡らないと、神様が断言する命をおれがそう語るのは、希望的観測とか、理想論すぎるかもしれないけれど。
    それでも、悪い方ばかり考えるより、少しでも救われることを考えたいだろう?
    ま、ミラには複雑な心境たっぷりだが、コクレア様のことは好きだしな。

    「生まれ変わりとは言えないけれど、それでも大地の一部となるんだったら、コクレア様も――一緒に、いられるかなって……」

    でも、それは。本当にコクレア様にとってよいことなのだろうか。
    言っていてなんだがわからなくなる。
    まあコクレア様はおれの知らないものを知ってて、色んなことが見えるだろうし。
    おれが言いたい甘っちょろい考えが逆に傷つけていたりしたら、と少し不安に思ったけれど、おれの考えに反してコクレア様はきょとんとした顔をしたあと、少しだけ笑ってくれた。

    「……そっ、か。魂は、消えるけど。……残るものも、あるって思う方が、すてきだもんね」
    「………うん、素敵だ。すっげえ素敵。いいと思う」

    素敵って思えるなら、確かにそれは素敵なんだから。
    ベポはちょっとだけ複雑そうに唇を尖らせてから、ため息を吐いてコクレア様の肩を叩く。

    「もう、しょうがないな。それじゃお墓を作る場所を探しに行こうか」
    「ベポ、ふわふわ可愛い。抱き着いていい?」
    「強めに叩くよ!?」

  • 881◆A8pWn3jbyg23/07/25(火) 03:05:44

    少し小競り合いがあったけれど、少し高い丘に枯れた花を埋める。
    それから崩壊した祭壇から瓦礫を持ってきたかと思うと、すっぱり手刀で切断して形を整えていた。
    そう、見た目は今だ白いレミリオのままなんだけれど、一応スペック自体は神様なんだよな……。
    綺麗に整えられた十字架。それが墓の上に立っている。

    色々な人を苦しめ、弄び、食物として扱い続けた悪逆非道の化け物。
    人間に追い込まれ、同種を絶滅させられ、人を憎むようになった神にさせられた花。

    どちらの面も、あいつそのもので、だからこそこんなに拗れ、根深い問題になったのだろう。
    花のせい、人間のせい、とか、そういうのではなく。お互い他にやりようはあっただろうに、その手を出してしまったから最悪の事態になった。
    本当ままならねえし、結果犠牲になった命がが多すぎた。
    あいつが倒されたのはあいつの自業自得で、それでもあいつの恨みの全てを否定できるわけでもない。
    複雑だよなあ、と頭を掻きつつ、ふとコクレア様を見上げた。

    「なあ、コクレア様。この前海を――潜水艦の近くを泳いでただろ。いや本物かわかんねけど。あれ、おれだけに見えてたんだけど、理由とかあった?」
    「ん? んー、あ、うん!」

    何かを思い出すような顔をしたかと思ったら、すぐに思い至ったようで、にぱっと笑った。

    「子どもはドラゴンが好きだから、かっこいいって思ってもらえると思って」

    あれは幻影だけど、とか、あれは実物じゃないけど、とか、何やら説明していたけれど、どうでもよかった。
    ――おれは一気に身体から力が抜けるのを感じた。

    そんな! 理由で!

  • 891◆A8pWn3jbyg23/07/25(火) 03:16:26

    にこにこにこにこ!とどこかお花を飛ばしているような笑顔は、あれだ、子どもは自分のことを格好いい!って思ってる顔みたいだ。
    ベポが今にもツッコミを入れたそうにしている。
    いやでも……コクレア様の言っていることは嘘じゃない。

    そりゃまあ……ドラゴン、好きだろ……。
    多分男の子みんな好きだろ……。

    「……まあ、この話はいいや」
    「いいのコラさん」
    「いいんだ。いや、あと一つ聞きたいことがあってさ。ほら……コクレア様が輪転の神様なら」

    ちょっと躊躇したけれど、それでもずっと抱え込んでいた疑問を消化するためにコクレア様を見上げる。

    「あのさ、おれって前世の記憶があるんだけど、どうしてだかわかるか?」
    「え?」

    コクレア様は瞬いて、おれの顔をじーっと見る。
    神様だからそういうことすぐにわかると思っていたけれど、違うのかな。
    そうだ、ずっと不思議ではあったのだ。おれは一度死んで生まれ変わっているのに、前世の記憶もおまけでついてくるなんてあまりにもおかしすぎる。
    ナギナギの実を食った拍子あまりのまずさにスッ転んでに頭打って、どっちの衝撃がわからないけれど、うっかり思い出して。
    でもそういうの、こう……自然、じゃないだろ。なんか世界のルール的におかしいんじゃないかって……。
    そのもやもやを、もしかしたらコクレア様が解決してくれるんじゃないかと思っての問いかけだった。

    「うんとね、多分だけど」

    そして、コクレア様にもやはり、少しだけわかることがあるようだった。

  • 901◆A8pWn3jbyg23/07/25(火) 03:20:58

    「魂がね、綺麗に濯がれる時、ロシーの魂、転んだの」
    「は? 転んだ」
    「うん。ドジっこだねえ。だから濯ぎきれなかったし、誰も気付かなかったし、そのまま次の身体に行ったんだね」

    すごいねえ、とほわほわ笑うコクレア様的に、別に神様のルールとかを乱している、というようなことはないようだ。
    と、いうか。
    というかさあ!

    ベポをばっと見る。
    まるで信じられないようなものを見るような目でおれを見ていた。……おれだってわかってるよ!

    「コラさん、魂までドジなの……?」

    うわああああああすごく愕然とした声で言われた!
    おれだって予想外だよ! おれの魂どうしたんだよ! 魂までドジっこに染まり切ってんのかよ! ていうかおれの魂のドジに対する根深さが強すぎる!

    「笑えよ」
    「いや、笑えないレベルだよこれ」
    「ベポぉ……!」

    そんなはっきり言わなくてもいいだろー!!!
    すごいなあ、と逆になんか感心し始めたベポをよそに、コクレア様は事態を理解していないようで首を傾げている。
    教えてくれてありがとうな! なんかいろいろショックだったぜ!
    まあそれで、ローやベポたちに会えたのも確かなんだけどさあ……。

  • 91二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 08:13:36

    神様パワーがあったから生きてこれたんだろうなって考えると切ないね

  • 92二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 08:19:54

    _人人人人人人人人人_

    > 魂までドジっ子 <

     ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄

  • 93二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 08:28:52

    記憶を持ちつつの転生にお咎めなさそうで良かった

  • 94二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 18:20:23

    コラさんのドシは魂からのものだったんだ…

  • 95二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 00:29:29

    奇跡のドジっ子コラさん

  • 961◆A8pWn3jbyg23/07/26(水) 02:20:09

    とりあえず、おれたちはこのまま街に戻ることになった。
    コクレア様は、作った墓を何度も振り返って、名残惜しそうに見ている。
    でも、何も言わないまま。まだあそこにいたいとか、そういうことは決して言わないまま、おれたちに着いてきた。
    ミラとのことで決着をつけれたのかはわからない。いや、つけられてない、気がする。個人的に。だってコクレア様はびっくりするくらい親しみやすくて、愛情深い神様だ。
    だから、これ以上はおれたちは関わるべきじゃない。コクレア様の心は、コクレア様のものだから。

    「……にしても」

    おれは目をこすりながら、晴天を見上げた。
    昨日の明るい時間に森に入って、夜を越えて、今は……昼前、と言ったところだろうか。

    「長い一日だったなあ……」

    本当に、本当にすごく長い一日だった。
    けど、まだもう少し長いかもしれない。
    おれたちみんなボロボロだし、休養が必要だろ。シャチのことも心配だ。ローが傍にいるから大丈夫だろうけれど、本当にズッタボロボロのボロだ!
    マジでしっかり休養を取ってほしい。せっかちに島を出ていかなくてもいいんだぜ? しっかり傷治していこうな!

  • 971◆A8pWn3jbyg23/07/26(水) 02:43:18



    ―――気付いたら、おれは教会の長椅子に座っていた。
    あれ? キャプテンは? ペンギンは? と目を瞬かせる。確かミラを倒して……そんでおれ、ぶっ倒れたんだっけ。
    え、なんでおれここにいるんだろ。夢でも見てるのか?

    きょろきょろと辺りを見渡すが、誰もいない。
    不思議な気分ではあるけれど、何故かおれ自身はやけに落ち着いてて、すっげえ穏やかな気持ちで座ってる。
    この状況、普通

    目の前には銀の竜――コクレア様がモチーフの、でっかいステンドグラス。太陽の光を透過して、地面に色とりどりの模様を映し出している。
    それをぼーっと見ていたら、不意に隣に気配を感じて振り返る。

    「……うん、これは夢だよ。君も体験しただろ?」

    そう言って笑うそいつは――悪逆な表情も、憎悪を叫ぶ怒りもない、ただの心からの笑顔で笑うそいつは。
    おれはがたっと立ち上がる。
    それからわなわなと震えながら、一気に駆けのぼってきた色んな感情を頭の中で必死に処理する。
    叫ぶかと思った。そう思えるくらいの情動だった。
    だけど、それを、飲み込んだ。
    だってここが、静かな教会だったから。

    その代わりに、おれはそいつの隣に腰掛ける。
    それから自分でもへったくそだなあ、と思えるような顔で、笑った。

    「……気分はどうだよ、ラミロ」
    「多分、すごくいい感じ」

    そういって、おれの友達は、ようやく息をつけた、とでもいうかのように、椅子に身を預けた。

  • 981◆A8pWn3jbyg23/07/26(水) 02:58:11

    「……なんていうか、肩の荷が下りたっていうか。ようやく全部終わったんだなあって実感してる」
    「うん、そうだよな」

    10年前ラミロは死んだ。そんでずっとその間、多分だけど……ミラの傍とかにいたんだろ。
    そんで、おれのことを助けてくれていた。悪夢の中に居たときとか、あんなにボロボロになりながら。
    死んだのにあんな風にボロボロになるってことはさ。こう、想像だけど、魂とかにダメージがいったからじゃねェかって思うんだよ。

    「な、しっかり聞けなかったんだけど、あの時ペンギン呼んだのお前だった?」
    「……うん。そうだね。ミラの中にいたことと、コクレア様の一部を食べたから、少しだけ不思議な力を使えたから」
    「おれとしては感謝してるけど、なんで少し落ち込んでるんだよ」
    「いや、コクレア様の一部を食べるのとか……今更ながら酷いよなあ、って思って」
    「本当に今更じゃねェか!」
    「だって、ほら、シャチくんも身体の一部食べられたら嫌な気分になるだろ?」
    「あー、想像もつかねェなそりゃ。あと、シャチでいいって言っただろ」

    ……なんか、不思議なくらいしっくりと会話が出来る。
    あの時、いろんな場面で助けてもらったわけだけど、なんだかんだしっかり会話出来たこと少なかったし。
    そう思うと今こういった機会が手に入ったことは素直に嬉しい。

    「な、ラミロ。ありがとな。助けてくれて」

    心からの礼をラミロに告げる。こいつのおかげで命すら助かった部分があるからなあ。
    けれど、おれの言葉にラミロは逆に首を振る。

    「……そんなことないよ。むしろ、君たちを巻き込んでしまった」
    「いや、ま、喧嘩売ってきたのは向こうだし。気にしてねえよ」
    「でも結果的に利用した形になったし……」
    「だから別にいいって! 妙に後ろ向きだったんだなお前!」

  • 991◆A8pWn3jbyg23/07/26(水) 03:09:58

    「助けてもらったって思うんならさ、だったら、ありがとう!ってひとこと言えばいいんだよ。友達だろ」

    呆れた調子で言えば、ラミロは目を丸くする。それから泣きそうに顔をくしゃっとさせて、けれど堪える様に上を向いてステンドグラスの方に視線を移した。

    「君は、格好いいな。優しくて、勇敢で、気持ちがいい人だよ。君がこの島に来てくれたことが一番の幸運だって思える」
    「そ……こまで言われたら照れるぜ!」
    「ありがとう、シャチ。助けてくれてありがとう。この島に来てくれてありがとう。あいつを、倒してくれてありがとう。君のおかげで、この島は救われたし……自分勝手って言われるかもだけど、報われたって思っちゃうんだ」
    「思ってもいいだろ。だってお前頑張ってきたじゃん。死ぬ前も、死んだ後も。頑張ってないなんて誰も思わねえよ」

    それこそクリスやお嬢だって、レミリオだって。
    そう言えば、ラミロは困ったように眉を下げた。
    ……ここまで来て、ふと思い至ることがあった。今更かもしれないけれど。

    「なあ、ラミロ。なんでおれだったんだ? なんでおれのところに来てくれたんだ? ほら、クリスと仲が良かっただろ」
    「………」
    「ラミロ?」

    ええとね、と言いづらそうにラミロは口を開いた。

    「覚えて、ないんだ」
    「……は?」
    「………あの子たちのこと。大切な人だったことは、わかるけど。でも、名前も、性格も、全部覚えてない」
    「な、なんでだよ!」
    「多分だけど、」

  • 1001◆A8pWn3jbyg23/07/26(水) 03:28:08

    「おれって、メモメモの実の能力者だったんだろ」
    「だろって、なんだそれ、他人事みたいに、」

    途中まで言いかけて、目を見開く。
    メモメモの実。その能力もおれは既に知っている。
    知っているからこそ、おれは愕然とした。

    「……予測なんだ、けど。おれはあの花に食べられる前に、きっと花に知られてはいけない、秘密があったんだと、思う」
    「………おう」
    「そうだけじゃなくて、おれの大切な人たちのこととか。花に知られたら不利になる情報とかあったのかもしれない」

    その秘密を、知られちゃダメだった。未来に託すためにも絶対に。
    もし、花がミラを食べたとして、それでその人当人の持っている情報を、すべて自分のものにすることが出来るのなら。
    いや、ラミロの言い分だと、それは真実なのだろう。
    だから、決して知られないために。メモメモの実を使った。

    「……みんな、忘れたのか」
    「うん。“おれ”の始まりの記憶は、あの花の腹で漂う魂の一つだったんだよ」

    申し訳なさそうにしているけれど、それって、とんでもないことだ。
    とんでもない、辛い決断だっただろう。
    人が死ぬときは忘れられた時だって言葉を誰かから聞いた。だから、なんとなく、それは周りの大切な人を殺すも同然の行為だったんじゃねェかな、って。言いすぎかな。でも、言いすぎじゃない気がする。

    「でも、決意……かな。それだけは残ってたんだ。絶対、この花のすることだけは、止めないといけないんだって」
    「………」
    「結果色んなものを置き去りにしてしまったかもしれないけれど。でも、後悔はしていないよ。寂しいし、申し訳ない……けどね」

  • 101二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 09:09:36

    マジか、ラミロ…その決意だけであれだけ頑張ってたのかぁ

  • 102二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 20:15:28

    レミリオのナイフ隠しと言い、覚悟ガンギマリ過ぎないかこの兄弟…

  • 1031◆A8pWn3jbyg23/07/27(木) 01:33:01

    ラミロはそう言って、口を閉じる。
    きっと、この事実はおれしか知らないのだろう。
    そうやって壮絶な覚悟をしたラミロがかつていて、けれど自分の手でそのラミロを、殺した。
    忘れることだって、きっとつらい。記憶の中に大切なものがたくさんあったのならなおさら。そしてラミロはあんなに人に好かれていたのだから――多分、ラミロだって、愛しているものがあったのだろう。
    コクレア様の肉を食べて、そして自分の身を捧げようとするくらいには。

    「……すげェよ、ラミロは」

    だからおれは、ラミロの背中を思いっきり叩いて、それでその頭を乱暴にわしゃわしゃ撫でた。
    すげえショッキングな事実はあったわけだけど。でも今言うべきことはこれだろ。

    「やっぱりさ、さっきも言ったけど頑張ったよ、お前は」

    色々犠牲にしてきたものが多かったかもしれない。
    けれどお前は、それでも最後まで頑張ったんだよ。
    ボロボロになっても、苦しくつらい思いをしても、魂だけの存在になっても、戦い続けた。
    すげえよ。かっけェよ。

    「だから、お前もお前のこと認めて、褒めてやれ。お前すげ~こと成し遂げたんだからな!」
    「―――ッ!」

    そう笑って言えば、ラミロは目を大きく見開き、呆然としたような顔をして。
    それから、ぼろ、と大粒の涙を零したもんだから、おれは勢いのままラミロを抱きしめてやった。

    「な、おれら勝ったんだぜ! あの怖ェ神様相手によ!」

  • 1041◆A8pWn3jbyg23/07/27(木) 02:01:37

    抱きしめながらやっぱり頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜてやる。
    あ、なんだかつん、と鼻の奥が痛い。おれも泣きそうだぜ!

    「……だ、だめ、だめだなあ、おれ。こ、こんなに、泣くつもり、では」
    「男だって泣きてえくらい時あんだよ! おれたちなんてキャプテンが格好よすぎて泣くぜ!」
    「あはは、それは随分平和だけど……そっか、そっかあ」

    ズビッと鼻を啜る音が聞こえる。

    「よかった、……よかったあ……、本当に、これで、全部終わったんだ……」
    「ああ、そうだぜ。終わらせたんだよ、おれたちが!」

    お前の長年の悲願もようやく達成される。これで、もう誰かがあいつの手によって苦しめられたり、殺されたりすることもない。
    ハッピーエンドだって言うには、お前は死んじまってるけどさ。
    けどお前がこの終わりを、報われたって思えるなら、それならおれはいいなって思えるよ。

    「……ありがとう、本当に、本当に、ありがとう……ッ!」
    「どういたしまして、だぜ。いやあ、おれたち頑張ったなァ~!」

    おれもおれでズタボロだし! 自分でもドン引きするぐらいの血まみれ具合だった。あとでキャプテンに怒られるだろうな。でもキャプテンもそういうすぐ無理するところあると思う。

    しばらくその場で抱き合って泣き続けた。男同士で抱き合い続けるってどうかと思うけれど、友情にそういう野暮なことは無しだぜ。ギャグとかじゃなくさ、やっぱ思うだろ。
    泣くのも、喜ぶのも、人と共有し合ってこそひとしおなんだぜ。

  • 1051◆A8pWn3jbyg23/07/27(木) 02:28:54

    ひとしきり泣いたあと、お互いぐてっと長椅子に座って、少しだけ話をする。
    おれが海賊になるまでの話とか、今までしてきた冒険の話とか。目を輝かせて聞いてくれたもんだからおれはつい調子に乗って三割増し脚色して話してしまった気がするが、まあ喜んでくれたからいいだろ。
    ラミロは今までしんどかったことを愚痴のような形式で話した。膝を抱えながら闇オーラを放つラミロは少し意外だ。だからおれは励ますために何度も背中を叩いてやった。
    今まで出会ってきた綺麗なお姉さまのこととか話すと身を乗り出していたから、ラミロは結構スケベな男だ。好みのタイプは誤魔化してたけど、多分巨乳好きだな。見るからにわかりやすく色気のある女が好きそうだ。
    ちなみにお嬢について聞くと『いや彼女をそういう目で見るのは人として駄目な気がする』とやたらきりっとした顔で答えられた。記憶なくてもわかることはあるんだな。

    馬鹿な話をすれば大口を開けて笑う。キャプテンの格好良さについて語れば真剣な顔で頷いてくれる。おれについて話すと素直に滅茶苦茶褒めてくれて照れるから控えめに。
    記憶がない分、今だけでも楽しい記憶で埋められるように。
    ラミロの中に、クリスやお嬢、レミリオの記憶がないのは悲しいけど、どうしようもないことだからさ。だからそのことについてだって、おれが知る限りのことを伝えてやった。
    ちなみにギャンブル好きのろくでなし神父のことは『どうかと思う』って割とズバッと言っていた。結構辛辣だよなお前。
    けれど、話を聞いているラミロの表情が、無自覚だったかもしれないけれど、郷愁に浸るような柔らかな切なさを帯びていたから、やっぱり少しでも残ってるものがあるんじゃないか、とおれは信じたい。

    「なんだろなあ、言っちゃダメなんだろうけど」
    「なんだよ」
    「やっぱり、おれも生きてたかったなあ」

    なんて言われて、ちょっとだけ言葉に詰まったけれど。
    おれはやっぱりラミロの背中を叩いた。

    「コクレア様を祀る教会の神父なんだろ。だからお前も、巡れるよ」
    「うん、……うん、そっ、かあ」

  • 106二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 08:18:15

    ありがとう…ありがとうございます!

    リクエストなのですが、転生したロシナンテが海軍の関係者(センゴクさんとか)に会いに行く続編が見たいです!

  • 107二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 18:30:16

    シャチがもう一度ラミロに会えてよかったっていうのと
    故人と会えてるってことは割と生死が危ういのでは…という心配とで心が二つある

  • 108二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 03:12:21

    友達みたいに会話を楽しんでるのなんかいいな
    終わりがくるのがわかってるから寂しくなる

  • 109二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 13:34:03

    そういや一緒に暮らしてた時はマリーさんまだ子どもだったな
    横に保護者もいるし尚更そういう目で見ることはないか

  • 110二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 00:10:50

    保守

  • 1111◆A8pWn3jbyg23/07/29(土) 04:22:45

    巡る、って言葉は何度かコクレア様とかから聞いた言葉だけど、多分人が生まれ変わるってことを指すんだろうな、となんとなく話の中で察した。
    そうしたらもうコラさんとかも巡ったからここにいるとかなんだろうかな。そう思うとなんだかすごい話だ。

    「ああ……本当、この10年間、大変だったから。今が一番楽しい」
    「ははっ、そう言ってもらえて光栄だぜ」
    「相手は海賊なのにね。おれ、もう君たちが大好きなんだけどどうしてくれるのさ」
    「おれたちハートの海賊団のファンは大歓迎だから大丈夫だ! ま、でも世の中には悪い海賊はいっぱいるからな、おれたちだけ応援してくれりゃいいよ」
    「うん、そうするよ」

    ちなみにホーキンスくんは、と聞かれたから、あいつのファンにはならなくていい、とちゃんと言っておいた。
    困った顔をしていたけれど、あいつはいーんだよあいつは! そりゃちょっとだけいいところもあるけど!

    しばらく談笑して、たくさん話をして、笑い合って、讃え合って。
    どれくらいたったかわからない。何時間も喋った気がするし、数十分もたっていないかもしれない。
    よくわからない曖昧な感覚の中。友達と過ごすこの最期の時間を惜しむ気持ちがあって、あと少し、あと少し、と思いながら――それでもやってくる終わりの時間に、つん、と心臓が痛む気がする。

    激しい悲しみとかはない。けれど穏やかな寂しさを感じる。

    別れを察したのか、ラミロが静かに、微笑みを崩さないままおれを見た。
    うん、ボーナスステージはこれでおしまいってやつかな。
    だからおれは立ち上がって、ラミロに手を伸ばした。

    「ありがとな、ラミロ。楽しかったぜ」
    「ううん。……おれの方こそ、すごく楽しかった」

    ラミロがおれの手に、自分の手を重ねてきたからしっかりと握って握手をする。
    相手は死んでいるってのに、この夢の中みたいな世界のおかげなのか、不思議とその手が暖かい気がする。

  • 1121◆A8pWn3jbyg23/07/29(土) 05:12:56

    「帰り方はわかるね」
    「おう。もうベテランだぜ」

    まあその過程で散々な目にあったけどな!
    ……そんで、おれが割るべきステンドグラスは目の前にある。最初からそこにあった。
    恐らく、それで帰れる。帰れる、けど。

    「……ラミロ」

    やっぱり。
    ……これでお別れなのって、寂しすぎるよなあ!

    ぐいっと引っ張って、強くラミロを抱きしめる。
    驚くラミロの背中を思いっきりひっぱたいてから、それから身体を離して、にかっと笑った。

    「―――またな!」

    そう、大きな声で、叫べば。
    ラミロは目をこれでもかってくらい大きく見開いて、それからぐしゃっと泣きそうな情けねえ顔をしてから、けれど、それでも――晴れやかな顔で、笑って、同じように大きな声で叫んだ。

    「……うん、いつか、また! おれが巡って、また人に生まれ変われたら―――」


    「……シャチ、また、友達になってくれる?」
    「ああ、もちろんだぜ、ラミロ!」

    ――そうしておれたちは、笑いながらぱちん!と、ハイタッチを交わしたのだ。

  • 113二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 12:33:58

    シャチカッコいい

  • 114二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 23:22:40

    保守

  • 115二次元好きの匿名さん23/07/30(日) 03:14:35

    シャチとラミロ本当に好きだなぁ
    何かシャチはして欲しいと思ったことをいつもしてくれる…ラミくんとお別れ寂しすぎるな…って思って読んでたらシンクロするようにぎゅっと抱き締めてまたな!と言ってくれたのでワァ…ってなっちゃった大好き…

  • 1161◆A8pWn3jbyg23/07/30(日) 04:23:22



    割られたステンドグラス。去っていった彼の姿。静かになってしまった教会。
    ステンドグラスの向こうは白い光しか見えない。今のおれがあそこに行く資格はないのだろう。
    ――巡る、というのはどういう感覚だろうか。
    きっとその時には自分の意識とかはなくなるのだろうけれど、不思議な感覚だ。
    椅子の上で膝を抱える。
    やっぱり、怖い、とか、寂しい、とか、悲しい、とか。そういうのは全然ある。たくさんある。情けない話だけれど。

    ……おれの、中にはあんまり物はない。
    漠然とした使命感と、そうしなきゃいけないという強迫観念、みたいなのと、そして理由がわからないけれど、誰かを愛おしいと思う泣きそうな気持ち。
    シャチのおかげで、名前のついた記憶がおれの中に生まれた。
    ……本当は、もっとたくさんあっただろうに。でも、こうなる前のおれが決めたことだ。今更駄々を捏ねてもしかたないだろう。

    「うん、でも、救われたよ。それは本当なんだ」

    感傷とか、どうしようもない気持ちもあるけどさ。それでも何もなかったおれに、何かが出来た。
    でも――クリスくん、マリーちゃん、そして、……レミリオ。おれがかつて大切だったであろう人たち。ちっとも何も思い出せないけど、あやふやな胸の痛みを感じるその人たちが、おれにとってきっと、本当の、本当に、大切だったんだろうなあ。本当に思い出せないのが申し訳ない、けれど。

    「あーあ、今から一人で向かうのか。少し寂しいなあ」

    なんて、今だから言える本音を一つ。どんな旅路になるのかわからない。すぐに記憶も洗い流されてしまうのかもしれないけれど、自分という意識がある、今だけ。
    次の生には、今のおれの記憶なんて持ってられないだろうし。
    そう思いながら息を吐いた。
    でも、……ここで、たくさん、友達と話すことが出来た。笑いあえた。自分の使命だって果たすことが出来たのだ。ならもう、怖いことなんてないだろう。

  • 1171◆A8pWn3jbyg23/07/30(日) 04:33:15

    そう思っていて、そろそろ立ち上がるかと思ったとき。

    「なら、一緒に行かないかい?」

    ――そんな、声を聞いた。

    まず、ありえないと思った。ここにいるのは自分だけだった。そして、自分がここにいられたのも、自分という個をはっきり保っていられたのも……コクレア様の肉を食べた影響がある、と思う。
    シャチは悪夢と繋がっていた経験があるから、彼を誘って夢を共有することがしやすかった。
    けれどもうそれが立ち切れた今、他の人はここにいられるとは思えない。

    いつの間にか横にいた存在を見た。
    ……自分と同じ、神父服を着ている。
    金髪で、穏やかそうな顔で、どことなく雰囲気がクリスくんに似ているような、そうでないような。
    けれど、どうしてだろう。
    まったくわからない、そう、“記憶にない”のに。どれだけ頭の中を探っても、どうしても、その見た目も、名前も、どんな人だったかも思い出せないのに。

    なんでこんなに、泣きたくなるほど愛おしい気持ちになるのだろう。

    「……あ、あなた、は、」
    「君は神父様って呼んでくれてたよ」
    「神父……様……」

    やけに、口に馴染む気がする。わからないのに、おれはこの呼び方で彼を――ずっと、呼びたかった、気がするのだ。

    「お、おれ、何も覚えてないから、だから、あなたのことも、」
    「いいんだよ、その分私が覚えているから。だから、これからたくさん話をしよう。私が知ってることならなんでも教えようとも」

    そう言って、神父様はにっこりと笑った。

    「ラミくんは、私の跡継ぎだからね!」

  • 1181◆A8pWn3jbyg23/07/30(日) 05:05:20

    かつてステンドグラスがあった方とは逆の、教会の扉の方へとおれたちは歩く。
    何故か涙がぼろぼろと出て、それを笑って拭われて。背中を撫でられながら、神父様はちっとも悲壮感も恐怖も感じてい無さそうな弾んだ声をあげる。

    「お喋りしながら行こうじゃないか。きっと長い長い旅になるだろうしね」
    「……あはは、喋れるんですか?」
    「さあ? わからないさ。人が死んだあとのことなんて、誰も本に残してはくれないからね」

    でも、我々には愛おしい神様がいる。
    そう目を細めながら、神父様は胸を押さえる。

    「だから、きっとこの旅は、悪いものじゃないよ」
    「……そう、ですね」

    何故だろうか、抵抗なくその言葉を受け入れられる。この人の声が、すごく優しくて、懐かしく思えるからだろうか。

    「ああ、そうだそうだ! 私としたことが! まずこれをちゃんと言わなくちゃいけなかったのに!」

    扉の目前で、神父様は立ち止まって失敗した、と叫びながらおれに向き直る。
    え、急にどうした?と困惑していると、長い手がおれに伸びて、そのままぎゅっと抱擁される。
    シャチ、ともしたけれど、それとは違う。どこか――父親、というものを、思い起こさせるような。
    大きな手が、おれの頭を撫でる。

    「よく、よく頑張ったね、ラミくん。大変だっただろ。辛かっただろう。きっと、すごく苦しい目にあっただろう。それでも、君は頑張ってくれた。ここまで走り切ってくれた」

    「……本当に、ありがとう。君を、誇らしく思うよ」

    ……それを、聞いて。その言葉を聞いて。
    ああ、――本当に、終わったのか。
    何故か、今になって本当の意味で、そう思えた気がした。

  • 1191◆A8pWn3jbyg23/07/30(日) 05:20:49

    おれたちは、扉の前に立つ。それから、ゆっくりと扉を開けていく――けれどおれたちは気楽なまま、世間話をしながら歩きだす。

    「ねえ、神父様。教えてほしいことがあるんです」
    「うん、何かな?」
    「おれの弟の話です」

    実はずっと気になっていたんだ、と言えば、神父様は破顔する。

    「いいとも、実は君って結構なブラコンでね」
    「うわあ」
    「私がレミくんをギャンブルに誘うと君にグーで殴られた」
    「おい」

    そんなことがあったのかよ、とジト目で見れば、気まずそうに顔が逸らされる。
    まったく、ギャンブルをする神父なんて聞いたことがない。結構不真面目なのだろうか?
    けども、なんとなく許せてしまう愛嬌があるわけだから、ちょっとずるい。

    「もっとまともなエピソードとかはないんですか」
    「ああ、そうだね、ええとあれはいつだったか……」

    日常と変わらないようなペースで、ゆっくり歩きながら。扉の向こうへと、足を踏み出した。
    あとはもう、誰も知らない話だ。おれたちの、長く続くだろう――旅路の話だ。

    けれども、退屈しない旅になるだろう。それだけはわかる。
    できれば。
    君たちの世界の旅路も、楽しいものでありますように、なんて。
    一瞬だけステンドグラスの方に視線を向ける。その向こうは見えない、けれど。
    にっ、と笑いかけて。そして、扉は閉められた。

  • 1201◆A8pWn3jbyg23/07/30(日) 05:21:29

    これでラミロの因縁も終わった!
    保守のご協力をまたお願いします~
    あとできれば感想をいただけると嬉しいです 活力をいただきたい

  • 121二次元好きの匿名さん23/07/30(日) 09:30:21

    サルヴァドールさ"ん"!!!
    まさかここで逢えるとは思ってなかった…!最高です!!
    サルヴァドールさんのかけてくれる言葉がめちゃめちゃ暖かい…
    ラミロくんよかったね頑張ったね
    スレ主様が書く文章が愉快な場面は凄く面白くてシリアスな場面は不気味で怖くて続きが載せられるまでずっとドキドキハラハラしてました
    ここから勝てるのか…!?って思ってしまう状況から勝ちへの道筋を丁寧に書き上げてくださったスレ主様の手腕には脱帽しました
    素晴らしい物語を作ってくれて本当にありがとうございます!これからも応援しております!

  • 122二次元好きの匿名さん23/07/30(日) 20:55:30

    ようやく神父二人の旅も終わったんだなぁ…
    お疲れ様、新しい生で幸多からんことを

  • 123二次元好きの匿名さん23/07/30(日) 21:27:35

    サルヴァさん途中影薄かったけど(故人だし記憶ある人少ないので当然ではある)いい役貰ったな
    ラミロは本当の両親も安全地帯に逃がしちゃってるからここで「弟」の思い出を共有できる「父親」みたいな存在のサルヴァさんが一緒に新しいところに踏み出してくれるのは寂しくなくて本当にすごいよかった

  • 124二次元好きの匿名さん23/07/31(月) 07:36:56

    このレスは削除されています

  • 125二次元好きの匿名さん23/07/31(月) 09:20:27

    ままならない状況の中でも一筋の光や救いがあったけど、それすら無碍にする状況にしかなれなかったのが際立たせてる
    それでも最後に良かったと思える着地点になったのが読んでて気持ちいい

  • 126二次元好きの匿名さん23/07/31(月) 20:41:44

    また、と言える出会いがあったの素敵だな、来世でもどこかで縁が巡り合えますように

  • 1271◆A8pWn3jbyg23/08/01(火) 01:30:04

    感想たくさんありがとうございます!
    めっちゃ活力をもらえた 助かります
    クライマックスを越えた今、そこそこ長くエピローグが続いていくと思うのでよろしくお願いします

  • 1281◆A8pWn3jbyg23/08/01(火) 01:40:38

    おれたちが戻ると、すぐに治療に取り掛かられた。
    まあ、おれは軽傷だからいいものの、付き合ってくれたベポはそんな軽い怪我ではなかったしわかるけど。でもその治療しているローこそボロボロで、クルーはみんな悲鳴を上げっぱなしだった。ちなみにおれもたくさん上げた。
    いつの間にか姿が見えなくなっていたホーキンスだったが、ちゃんと治療されて寝かされてた。身体中包帯塗れだったというか、上から下まで包帯で巻かれていてミイラ男みたいだった。
    クリスやマリーさんやレミリオも同じくローによって素早く治療され、だがしかし、そして最後の最後、終わったと思ったらローがぶっ倒れやがった! 治療ありがとな!! 自分を大事にしてくれ!!!

    「血が足りなくて寝てたのになんだこの騒ぎは寝れねえ」
    「あっクオル! 残りの治療頼んだ!」
    「は???」

    迷惑そうに、気だるげに出てきたクオルの無事を確認して喜びつつも、とりあえずローの代わりを頼む。
    愕然とした顔をしているが、死屍累々の面々を見て一気に目の光彩を落としている。いや、頼むぜ!? おれも手伝うから!

    とにもかくにもかなりあわただしい状態になりながら、なんとか最低限の治療をして、ようやく休息をとることが出来た、というわけだ。
    ひとまず全員、寝た。とにかく寝た。森の中にいる間寝れなかったしな。いや、寝たは寝たけど、強制的に悪夢を見せられる拷問を受けていたわけで、正しい休息とやらは取れてなかったんだ。
    怪我人はベッドで、無事な奴らは雑魚寝で寝た。いびきの大合唱だったが、そんなものはまったく気にならないくらい爆睡した。
    疲労がこれでもかってくらい溜まってたんだ。夢も見ないくらいぐっすりと寝た!

  • 1291◆A8pWn3jbyg23/08/01(火) 01:49:19

    そして起きたら、良い匂いがする。
    わらわらと厨房に行けば、傷がすっかり癒えているマリーさんとイッカクが調理場で腕を振るっている。
    マリーさんの怪我の治りが早いのはあれかな、ドラゴンパワーだろうか。
    でっかいフライパンを片手で掴んで、中に入っている具材を時折くるっと宙で回転させながら、強い火力で一気に料理しているマリーさんと、鍋のスープの味を見つつ調整しつつ、てきぱきと動いているイッカク。
    そしてその周囲で二人の指示によってあたふたと動かされている船員たち。
    ……強い女には敵わねえよなあ、としみじみ思いながらおれも手伝いを申し出た。
    優しく頭を撫でられたと思ったらそのまま厨房から出された。
    ……さすがにそんなドジしねえよ! 多分!

    暇になったので何か手伝いはないかとジャンバールのところに行けば、買い出しに行くというので一緒に行くことになった。
    ポーラータング号を見上げれば、一番上に真っ白いレミリオがいる。……コクレア様だ。
    あの姿から変わってないけれど、気に入ってんのかなあ。
    空を見上げながら何か歌っている。くるる、とその喉から漏れるのは、獣の声で、なんて歌っているかわからないけれど。それでも穏やかそうに過ごせているのならいいと思った。

    ちなみにローは船員の監視の中絶賛お休み中だ。
    気が付くとすぐ動いて仕事しようとするらしい。
    ワーカーホリックはよくないぜ。たまにはさぼったっていいだろうよ。

  • 130二次元好きの匿名さん23/08/01(火) 10:48:12

    無焦点目で患者の治療をするクオルくんが見える見える

  • 131二次元好きの匿名さん23/08/01(火) 21:35:36

    戦力外通告されるコラさんに日常が戻ってきたなと感じる
    ワーカホリックなのは他人の事言えないと思う

  • 1321◆A8pWn3jbyg23/08/02(水) 03:32:29

    今日も書けなさそうなので保守だけしておきます

  • 133二次元好きの匿名さん23/08/02(水) 14:45:17

    やっと平穏な日々が帰ってきたって感じがする

  • 134二次元好きの匿名さん23/08/03(木) 01:05:06

    でもコラさんだからなぁ…お皿の1枚や2枚割ると思うなぁ…

  • 1351◆A8pWn3jbyg23/08/03(木) 02:43:02

    そんな感じで、嵐が去ったあとはひたすら凪いだような穏やかな時間が訪れるもんだ。
    みんな休養をとって、腹いっぱい飯を食べて。滅茶苦茶頑張った分を取り戻してほしい。
    かくいうおれは軽傷だったし、一晩ぐっすり寝れば疲れも取れたし! やれることを手伝うぜ! と突撃したらそっと方向転換させられた。みんなおれのドジに対して信頼が厚すぎる。

    「それでも手伝いてえって言ったらシャチにバナナ運んでこいって感じで厄介払いされたぜ」
    「そんなに自分を卑下しなくてもいいっすよ。ちなみに一本潰れてるんですけど」
    「転んだ」
    「みんなの判断が正しいな」
    「世知辛いぜ……」

    しょんぼり、と落ち込むおれをシャチがけらけら笑いながら慰めてくれる。笑ってる時点で慰めてねえか。
    今回本当にシャチは大活躍だった。もしかしたら一番の功労者とも言えるかもしれない。
    身体中に穴が空いて骨も折れて内臓も傷ついてとんでもなくズタボロだったらしいが、包帯ぐるぐる巻きになりつつも割と元気そうなシャチを見て、おれはほっとする。

    「シャチ、傷の調子はどうだ?」
    「まあ滅茶苦茶痛いっすけど、耐えられる範疇だな」
    「我慢強い子だなお前は。いやでも、ちゃんと休めよ? お前らすぐ無理するからなあ」
    「多分コラさんに言われたくないってキャプテンも言うと思うぜ?」
    「おれは自分が子どもだって自覚しているからな、最近は自分で出来る範囲で頑張るって決めてるんだ。無理するのは大人になってからにするよ」
    「うーん、これはキャプテンの胃が痛いやつでは」

    ローの胃が痛い? 大変じゃねえか!!!!!

  • 1361◆A8pWn3jbyg23/08/03(木) 03:42:35

    シャチと話をしたあと、その足でホーキンスのところまで向かう。
    ホーキンスもそりゃあ酷い有様だったわけだけど、暇なのか能力を使ってカードを動かしているのがわかる。
    こう、能力を使ってワラでカードを掴んで占いをしているようだ。……かと思ったら意味もなく高速回転していたりしている。暇なのかな。

    「ホーちゃん、調子はどうだ?」
    「よくはないな」
    「そっか……」

    普通にそっけなく返された。まあそのそっけなさが割と常だとはわかっているけど。

    「な、ホーキンス、ありがとうな。多分ホーキンスのおかげで神様パワーでうんと強くなってたあいつに対抗出来たんだと思うし」
    「礼には及ばない。おれはおれのしたいことをしただけだ」
    「仲間に会うため?」
    「……ああ」

    そっか、早く会えるといいな。そう思ってからそうだ、と思いつく。

    「じゃ、ローに頼んで近くまで乗せてってもらうか? 多分駄目って言わないだろ」

    今回かなりホーキンスに助けられたこと、ローもわかってるだろうし。多分言ったら文句を言いつつも断らないんじゃねえかなあ。あいつ、律儀だもん。
    なんか因縁っぽいような何かがあるっぽいけど、それを差し引いても今回の功績ってすげえんじゃねえのかな。
    そう思って提案してみたわけだけど、ホーキンスは表情に出るくらいきょとん、と目を瞬かせてから、思わず、と言った風に『ふっ』と笑った。

    「いいや、遠慮しておく」
    「そっかー」

    残念だなあ。

  • 1371◆A8pWn3jbyg23/08/03(木) 03:48:38

    ベポはそこそこ動けるようで、船の外で日向ぼっこしている。例の如く包帯は巻かれているけれど、ミンク族なこともあって人より治癒力が高いみたいだ。
    そして、ポーラータング号の一番上にはやっぱりコクレア様がいて、そこで歌を歌っている。暇さえあればそうしているようだったけれど、今思うとコクレア様なりに花の死を悼んで歌っているのかも知れないな、となんとなく思う。
    どうやら、そんなコクレア様の歌を聞きながら、ベポはまどろんでいるらしい。

    おれもそっとベポの隣に座る。ふわふわの毛並みを堪能させてもらいつつ、同じようにコクレア様の歌を聞きながらのんびりした。

    「……ふわあ」

    あ、でっかい口。あくびするとやっぱりシロクマだからなのか、やたらと開く口が大きい。牙がたくさん見えたりするので、普段可愛いベポだけどそこのところはちょっと怖かったりする。迫力あるよなあ。

    「コラさんもお昼寝するぅ……?」
    「するする。のんびりしようぜ」
    「いいよ~……」

    そのまま眠そうにうと、うと、と頭が揺れ始める。
    くるる……と響く神様の歌は、子守歌に聞こえちまうもんだから、睡眠導入にはぴったりよ。
    ――まるでどこかその声の響きに、何かを労わるような、幸福を願うような、そんな響きがあるように思えるからだろうか。だから、こんなにも心穏やかにいられるような気がしている。

    「……あいつは」

    ふと眠っちまう直前、ベポの声を聞いた。

    「これから、どうするのかなあ」

  • 138二次元好きの匿名さん23/08/03(木) 15:26:03

    続きが…続きが欲しいです…。どうか続編を…。

  • 139二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 02:32:21

    あぶねぇ!

  • 1401◆A8pWn3jbyg23/08/04(金) 03:35:53

    クリスも絶対安静……のはずだが、レミリオが寝ている部屋に居た。そしてそれを見つけたらしいマリーさんに怒られている。

    「あ、遊びに来ただけなんです。ほら、寝てるのって暇じゃないですか……」
    「ぶん殴って気絶させられたいのかい」
    「ひええ」
    「あはは……クリスさん、来てくれたのは嬉しいけれど、マリーちゃんはクリスさんのことが大好きなんだから無理しちゃだめだよ」
    「別に好きではあるけど第三者に言われるのは照れるんだけど」
    「ま、マリーちゃん……!」
    「ほらクリスのやつ調子に乗るし」

    ぺしり、と軽い調子でマリーさんがクリスの頭を叩くけど、クリスはデレデレした顔をしている。
    にしてもマリーさんはお父さんに好きって言うのを恥ずかしがったりしないんだな。おれはいいと思うぜ!
    思えば、おれもセンゴクさんに大好きってあんまり言えなかったしなあ。今は少し後悔している。だから、なんだかんだ遠慮がなくて、それでいていろいろ伝えられる二人の関係性はすごくいいと思う。

    でも安静にしていないといけないのに動くのはおれもよくないと思うから説教は受けるべきだと思うぜ。

    「それにしても、レミリオは……大丈夫か?」
    「大丈夫かって、何がですか?」
    「いやほら、いろいろと……」

    ってここで聞くのはデリカシーなないかな!?とあわあわしていると、そんなおれを見たレミリオは優しい顔をしながらおれに手を伸ばし、頭をぽん、と撫でてきた。

    「うん、大丈夫。大丈夫になったんです」

  • 1411◆A8pWn3jbyg23/08/04(金) 03:46:48

    「そりゃ、いろいろと考えることはあるけれど……それでも、嬉しいんです。記憶を思い出して、兄のねがいを果たせたことが」
    「ねがいって……あれ、だよな。あのナイフ……」
    「はい。僕が苦し紛れに飲み込んだナイフのことです」

    思い出しても、それでもちょっと記憶があやふやな部分があるんですがね、と前置きしてからレミリオは続けた。

    「あの森で、兄は僕に頼みました。このナイフをいつか来るべき時まで隠し続けておいてほしいって。呪いを植え付けられた際、その直前の記憶――兄とのやり取りまであやふやになって、薄れて、歪まされて、忘れきってしまってたんですが……あの事態の中、花によって操られているうちに何かしらの衝撃で思い出して」
    「それであの行動に繋がったと」
    「レミくん超格好よかったでしたよ~~~!! 私がグラマラスな美女なら惚れてました」
    「グラマラス部分必要か?」

    クリスの茶々入れは置いておくとして、それでもあの時一般人であるレミリオが立ち向かって、それでいて逆転の一手を作り出してくれたことは確かだ。
    そこんところはすっげえ格好いいってことに同意したい。

    「あ、そだ。結局その傷ってなんだったんだ? なんかミラと関係してそうな会話してたけど」
    「え? ああ、身体にあの花の種子が広がりそうになってたから、その起点を切り裂いて引きずり出したんです」
    「なんて?」
    「こう……ぶちぶちっと……」
    「いややり方じゃなくって」

    なんか、すごく、痛そうなことを聞いた気がする……?
    切り裂いて引きずり出したって何? 種子が広がりそうだったってどういうこと? ぶちぶちって?
    しかもそれをなんでもない顔で話されておれはビビるばかりだ。
    お前本当に一般人?

  • 1421◆A8pWn3jbyg23/08/04(金) 04:07:38

    気にしてなさそうだからよかったけれど、割とトラウマもんの話だったんじゃねえのかなあ……と思いつつ、にこにこと笑っているから、何も言わないでおこう。
    そう思っていたら、レミリオの方から声をかけられた。

    「それよりも、ロシーくん」
    「うん? なんだ?」
    「ありがとう」

    え?と聞き返せば、手をとって両手で握られる。

    「他の船員さんにも言ったけれど……きみたちのおかげで、この島は救われたし、僕達も救われた。君も子どもなのにボロボロになるまで頑張ってくれたでしょう?」
    「え? え、いや、おれは別にそんなに怪我してねえし……」
    「怪我の大小は関係ありませんよ。僕は君に感謝してるんです。だから受け取ってください」
    「なんかお前キャラ変わってねえ……?」

    なんか初めて会ったときよりも強気になっているような。あ、ほら。海賊苦手だっただろ?
    けれども……まあ、ここまで言われて謙遜するってのも違う、よな。
    だから笑っておれもレミリオの手を握り返す。

    「……どういたしまして!」

    ひとまず、うまいこといえないけどさ、なんだかんだお前はそういう風に笑ってくれるのなら、おれは喜ばしいと思うよ。

  • 1431◆A8pWn3jbyg23/08/04(金) 04:19:26

    今日はここまで
    考えているんだけどこのスレの最後くらいか次スレに渡ってからラストになると思うけれど、いろいろリクエスト聞いてSSを書こうかなって考えてる
    それでドジって前世を思い出したシリーズは終わりかなって
    まだ完結してないけど長きにわたりお付き合いくださりましてありがとうございます感

  • 144二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 04:20:48

    ありがとう
    貴方様のスレを眺めるのが毎日の楽しみだったよ

  • 145二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 15:05:42

    レミリオ平然と怖いこと言ってない…?そういやこれからも本屋続けるのかな

  • 146二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 23:57:07

    神スレがまた一つ終わりに向かうのか...悲しいから煮込まなきゃ

  • 1471◆A8pWn3jbyg23/08/05(土) 04:33:23

    書けなかったから保守しておく

  • 148二次元好きの匿名さん23/08/05(土) 16:15:01

    保守

  • 149二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 01:21:42

    本当にいい人だな…いや行動がどれもこれもぶっ飛んでいるけども…

  • 150二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 12:11:33

    花の種の引き抜き方と擬音がめっちゃ怖いんですが平然と言ってるんだろうな

  • 151二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 21:54:50

    ありがとうございました…。でも、このシリーズが、好きだったので終わってしまうのが悲しいです…。

  • 1521◆A8pWn3jbyg23/08/06(日) 22:48:28

    スレが終わるのを惜しんでくださる方がいて嬉しいです!
    恐らくリクエストSSは結構募集したいと思ってるので、その時が来たらご協力してくださると助かります

  • 153二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 23:07:29

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  • 1541◆A8pWn3jbyg23/08/06(日) 23:08:26

    「私もロシーくん、ないしこの船の方々に対してハグしてまわりたいんですが」
    「アンタ心臓すれすれを貫かれてたんだよ! いい加減安静にするってことを覚えな!」
    「うう……ろくすっぽギャンブルにも行けないし酒も飲めない……せっかくのマリーちゃんのお料理も病人食ばかり……せめて付きっ切りで看病してほしいのにマリーちゃんは海賊の人たちのお手伝いばっか……パパはいい加減そろそろ拗ねるときが来たようだな」
    「ロシー、一緒にデート行こうね」
    「えっ」
    「あああああ―――――!!!!!!!! マリーちゃーーーーーーーんそれはパパ許してなーーーーーい!!!!!!!!!」

    にこっと笑っておれの手を取ってすたすたと部屋を出ていこうとする。あ、これ怒ってるぞ。
    調子に乗っていらないことを言ったクリスはすっっっげえ悲痛な顔でマリーさんに手を伸ばしているが、マリーさんはすごく冷たい顔で『安静にしてないと病室にも顔出さないよ』との一言で撃沈させていた。娘って強いなあ。

    とりあえずおれも一緒に病室から出ることになった。背中に突き刺さるクリスの視線が痛いぜ!
    外に出たところで、はあああ、とため息。大変だな、マリーさん。

    「……せっかくだし買い物にでも行くかい。ロシーも欲しいお菓子があったら買ってあげるよ」
    「い、いや、大丈夫だぜ!」

    うーん、めちゃくちゃに子ども扱いされている。嬉し恥ずかし複雑って感じだ。
    とりあえずマリーさんについていく。

    「はあ、クリスのやつはどうしたらもっとこう……真面目になるかねえ」
    「いやでも、まあちょっとふざけはするけどマリーさんのことは人一倍大切に思ってるじゃん?」
    「それはそうだけどそれでもいい加減にはしてほしい」
    「いろいろ籠った声だぁ……」

  • 1551◆A8pWn3jbyg23/08/06(日) 23:43:02

    「まぁね、本当にどうしてこうなったって思うんだけどね」

    ロシー、聞いてくれるかい、とマリーさんが呆れ声で呟く。
    おれはどうしたんだろうと思いつつも、隣に並びながら聞く姿勢になると、それを見てからマリーさんは視線を宙に浮かばせ、口を開く。

    「ほら、クリスのやつ元兵士ってこと知ってるだろ」
    「ああ、うん。それは知ってるけど……」
    「アタシと初めて会ったときが戦場でね。アタシはまあ、家族無くして蹲ってて、もうどうしたもんかと思っていた時にクリスと出会ったわけなんだけど」

    呆れた声は崩さないけれど、なんかこう、その調子でいいのかって感じの話題が出たんだけど……。
    世間話みたいに悲壮感も何もなく話すものだから、おれもリアクションできずに曖昧に頷くことしか出来ない。

    「あいつ、アタシを見て、放っておくか、可哀想だから殺すかどうか悩んでてさ、コイントスで決めようとしやがった」
    「えっ」
    「腹立ったからそんなう風にアタシの人生決めるんだったら、もう逆に絶対にアタシを助けててもらおうって喧嘩売ったら急に父親面出し始めたのさ」
    「流れがわからねえ」

    なんかクリスが兵士だった時、かなり辛いことがあったのだろうことは知ってるけれど、マリーさんを殺そうとしていたなんて、今のクリスを思うと考えられない。しかも可哀想だからっていう理由で。そのうえコイントスなんてものにその運命を託して。
    でも喧嘩売ったら急に父親面をし始めた? 方向性が急転換しすぎてついていけねえぜ!

  • 1561◆A8pWn3jbyg23/08/07(月) 03:27:52

    「ええと……でもマリーさんは着いていったんだ?」

    仮にも自分を殺すことを選択肢に入れただろう兵士に着いていくことを決めただなんて、すごい胆力だ。ほら、だってその時マリーさんまだ子どもだっただろ。今のおれよりもずっと。
    家族とか死んで、自分だけ生き残って、頼りがないと蹲って……確かに、生き残るためには誰かの力が必要だったとは言え、それでも着いていこうとしたという事実を思えば、やっぱりすげえなあと感心するしかない。
    そう思っていたら、あー、とマリーさんは気まずそうな声をあげた。

    「……ま、ロシーならいいか」
    「うん? 何が?」
    「アタシはまあ、普通の家に生まれてね、まあ自分が住んでいた場所が戦場になるまでは健やかに育っていたわけなんだよ」
    「? おう」
    「それでいて、普通に絵本とか買い与えられててさ」

    絵本?
    話の繋がりがいまいちよく見えない。マリーさんは何を言いたいのだろうか?
    マリーさんは、苦笑しつつ頬を掻きながら、照れ臭そうにいった。

    「アタシの見ていた絵本、金髪碧眼の王子様が出てたんだ」
    「へえ。……ん?」

    金髪に、碧眼?
    それってクリスの特徴とあてはまるよな、と思っていたら、マリーさんは続ける。

    「まあ、クリスの顔が滅茶苦茶好みだったんだよね」
    「……えーーーーーーー!!!!」

    割と!!! そういう私情入ってたの?!

  • 1571◆A8pWn3jbyg23/08/07(月) 03:35:11

    「幼いアタシはそのまま乗り込んで結婚してやろうって気になってサ。まあ、顔が好みだったから」
    「マリーさんにもそういうところあったんだ……」
    「ま、あの野郎はアタシを娘認定してわけで、アタシも結局それを受け入れたわけだけどね」

    ふざけるなって話だろう、内緒だよ。とマリーさんは人差し指で内緒、のポーズをする。
    おれも思わず同じポーズを取りながら、こくこくと頷いた。
    いや……おれにそんな赤裸々な話してもよかったのかなあ! 言わないけどもさ!

    「……今はどう思ってんだ?」
    「あはは、デリカシーないねロシー」

    浮かんだ疑問をそのままいえば、デリカシーがないと言われてしまった。おれが他の人に対して散々思ったことを今ここでマリーさんに言われるなんて不覚だったぜ。
    でもさすがに突っ込んで聞きすぎたか、と反省していたけれど、見上げたマリーさんは、目を細めて、すっげえ綺麗な笑みを浮かべて、

    「内緒」

    って言われたから本当にこれ以上何も聞けなくなった!
    なんかすげえ気になっちまうんだけど!!

    ――結局それ以上は何も聞けないまま、おれたちは普通に買い物をして船に戻ったのだった。
    買い物途中におれはなんだかんだ買ってもらったお菓子を食べながら、女の子って……、と物思いに耽るのであった。

  • 1581◆A8pWn3jbyg23/08/07(月) 03:36:50

    今日はここまで

    多分最後の安価を保守代わりに入力お願いします

    >>159>>161でロシーの行動安価します

  • 159二次元好きの匿名さん23/08/07(月) 11:19:59

    恐らくグロッキーになってるであろうクオルのお見舞い

  • 160二次元好きの匿名さん23/08/07(月) 12:58:54

    ドキドキな話を色々聞いたのでちょっと海でも眺めてみる

  • 161二次元好きの匿名さん23/08/07(月) 20:27:24

    コクレア様と会う

  • 1621◆A8pWn3jbyg23/08/08(火) 03:31:00

    つまりドキドキしながら海に行きグロッキーになってるクオルを見舞いつつコクレア様と遭遇する感じですね、了解です
    今日は書けないのでまた保守のご協力をお願いします。

  • 163二次元好きの匿名さん23/08/08(火) 12:10:58

    クオルくんの生い立ち的に恋愛とは無縁だったんだろうなあ

  • 164二次元好きの匿名さん23/08/08(火) 15:34:28

    うつつをぬかす暇ないよね

  • 165二次元好きの匿名さん23/08/09(水) 01:25:18

    いやぁマリーちゃんのすごい秘密が出てきましたね…乙女の秘密は美しい…

  • 1661◆A8pWn3jbyg23/08/09(水) 02:32:51

    船に戻った後、おれはなんとなくドキドキが収まらずに周辺を散歩することにした。
    いやあ、だってさ、なんかこう……マリーさんの初恋?みたいな話を聞いちまってさ、こんなん聞いたら寝れねえだろ!
    何を隠そうコラさんは人の恋の話とか大好きだ。まあ、その初恋の相手が現自分の義父だって思うと心情的に複雑でこんがらがっちまいそうな気分だけど、それはそれ、これはこれ。だってほら、おれはいつはローがいつかそのうち可愛いお嫁さんとか出来るんじゃねえかって期待してるんだ。
    何せほら、あの男前っぷり! 頭もいいし医者だ! そんなのモテモテに決まってるだろ!
    ……まあ、海賊だけど……。

    ついローに対しては親馬鹿な自覚もあるが、贔屓目に見ちまうからな。もし結婚式とかしてみろ。とんでもなく大号泣すること間違いなしだ。
    惜しむらくはロー自身がそういうのにあまり興味がないことだ。もったいねえぜ!

    そう思いつつ、港側をてくてく歩いていたら。
    ……死んだ目で握り飯を食べているクオルを発見した。
    こう、お手本みたいな死んだ目だ。光彩ってのがどっかいっちまった。いや、普段からもなかったか?
    ともかく、休憩中なのかクオルが港のポラードに座って握り飯を食べている、という光景がすべてだ。

    「あ、クオル~~~~~~!! クオルお前初恋の話とかあったら聞かせてくれよ~~~~~~~!!」
    「うるせェのが意味わからねえこと叫びながら来やがった……」

    げんなり、という効果音が聞こえるようだ。まさにそんな表情をしながらおれを見ている。
    まあでも、いつも通りだな。

    「おれは急に現れた怪我人の治療をさせられて疲れてるんだよ。ていうかなんでおれがしているんだ」
    「そりゃお前が医者だからだろ。ローはボロボロだし」
    「他の船員がいるだろ」
    「今はクオルも船の一員だろ!」
    「だから、……ああ、もう、いい。面倒臭ェ」

  • 1671◆A8pWn3jbyg23/08/09(水) 02:50:25

    「けど助かってるぜ。なんだかんだてきぱきみんなの処置してくれてさ」
    「一応居候の身だから多少やってるだけだ」
    「おう! ありがとうな、クオル!」

    ニコニコ!と笑いながら礼を言えば、クオルはなんとも言えない顔をしながらため息を吐き、おれに握り飯を一つ渡してくれた。お、分けてくれるのか優しいじゃねえか!
    クオルの隣の地面にそのまま座ってありがたくいただく。ちょうどいい塩加減で美味い。しかも梅干しが入ってやがる。最高だ。

    「あ、それでクオルの恋の話とか聞かせてくれよ。初恋とかなかったのか?」
    「知らねえ」
    「でもお前世話焼きの姉さん女房タイプと結婚しそうな感じあるよな。ほら、自分から動きたがらないし」
    「黙って喰えねえのか」

    偏見だけど年上と合いそうだ。だってクオルってば根っからの弟属性だもんな。
    おれがどれだけ声をかけてもクオルの返事は相変わらずつれない。けれどもこうして話しかけている分は多少鬱陶しがられたりするが、本気で拒絶したりすることはあまりないので変わらずおれは話しかけ続ける。
    別にこれはクオルがおれに絆されたからとかじゃなくて、多分一方的に話されてることに割と免疫があるのだと踏んでいる。別に絆されてくれていいんだけどな!

    「クオルの甘酸っぱいエピソードとか聞きたかったな~」
    「……よしんば仮におれにそんなものがあったとして、お前に言うことはねえ」
    「なんでだよ」
    「うるさそうだから」

    ……確かに! そりゃごもっともだな!

  • 168二次元好きの匿名さん23/08/09(水) 02:55:38

    多分絆されてると思うぜ
    免疫があるのもそうだけど

  • 169二次元好きの匿名さん23/08/09(水) 12:10:42

    保守

  • 170二次元好きの匿名さん23/08/09(水) 22:09:39

    逆に、危なっかしい年下タイプも合いそう……
    コラさんみたいな子とか
    めんどくさがりつつ面倒見たり、はしゃぐその子を見て目を眇めて笑ったりするんだ……ウッ

  • 1711◆A8pWn3jbyg23/08/10(木) 02:55:01

    そんなこんな話をしている内におにぎりの最後の一口を飲み込んだ。
    あまり長居しすぎるとそれことマジで嫌がられそうだからこの辺で戻るとするか、と立ち上がる。
    一緒に居すぎでもストレスたまるって、マジで野良猫みたいなやつだよなあ、とぼんやりと思っていたら、たたたっと駆けてくる足音が聞こえて振り返る。

    「ロシー!」

    そこにいたのは人間姿で手をぶんぶん振りながら駆けてくるコクレア様だった。
    けれども走ってくる途中でスッ転んで『わぎゃん!』と目をバッテンにさせている。

    「まったく、コクレア様ってばドジなんだからな~」
    「……?!」

    何故かクオルに二度見された。おうなんだよ文句あんのかよ。
    まったくコクレア様はしょうがねえな~、と助けに近づいたら何故か小石に躓いておれまで転んじまったぜ!
    額に小さいけど尖った石が刺さって悶絶していたらとんでもなく面倒くさそうな顔をしたクオルがのそのそやってきて襟首を掴んで起こしてくれた。ありがとうな!

    「……んで、こいつがコクレア様……だって?」
    「おう、神様だぜ」
    「見えねえ」
    「む! コクレアばかにされた?」
    「してないしてない。ってかまだその姿のままなんだな」
    「えへへ、この姿が一番みんなと近いの。ひとの言葉、喋りやすいし。やってみるものだねえ」

    そう言ってほにゃほにゃ笑っていたコクレア様は、おれを見て『あ!』と何かに気付いた顔をする。
    なんだ?と思っていたら、コクレア様の身体がみるみる縮んでおれと同じ大きさになった。……どういうこと?
    クオルがすげえ顔でコクレア様を見ている。だから神様なんだって。

  • 1721◆A8pWn3jbyg23/08/10(木) 03:08:25

    「これでロシーともっと目線が近くなったね!」

    そういってにぱっと笑うコクレア様。

    「……可愛げってやつだ!」
    「なんだそのリアクション」
    「やっとコクレア様に感じていた違和感のような違和感じゃないような印象のずれが認識できた。大人の姿をしていたからだったんだよ。そりゃ子どもになったら可愛いに決まってるだろ」
    「意味が分からない」

    意味が分からない、と首を振りながら冷めた目で二回言われた。そんな念を押すように言うもんじゃねえぜ。
    コクレア様はきらきらした目でおれの手を掴む。それからクオルの手を掴んだ。

    「遊ぼ!」
    「は?」
    「お、いいじゃん。何して遊ぶんだ?」
    「おい、おれは遊ぶなんて一言も」
    「まあまあ。気晴らしに身体動かそうぜ!」
    「コクレア街見てみたいの。あんまり動けなかったから」
    「じゃ、買い食いでもどうだ? な、クオル」
    「おれを巻き込むな」

    すげないことを言うが、すごく嫌な顔をしつつも手を振り払う仕草はなかったから付き合ってくれようとはしてくれてるのだと信じたい。
    でもこれでもかってくらいの嫌な顔だな。嫌そうな顔大賞あったらグランプリを取れるかもしれねえ。

  • 173二次元好きの匿名さん23/08/10(木) 13:13:19

    クオルがお兄ちゃんしてて可愛い

  • 174二次元好きの匿名さん23/08/10(木) 23:34:56

    コクレア様ちっちゃくなれるんだ…いや言うてチビでは無い(ロシーと同じなら166)のだけれど
    ワンピ基準では小柄だけども!

  • 1751◆A8pWn3jbyg23/08/11(金) 04:04:00

    あのあと散々クオルを連れまわしながら島の中で遊びまわった。
    他の奴らが怪我で療養している時におれたちだけ遊んでいるってのはちょっと申し訳ないとは思うけれど、休養期間ってことで許してもらえるとありがたい。
    コクレア様と買い食いをしたり、駆けまわったり、路地裏を探検したり。律儀に最後まで付き合ってくれたクオルにも感謝だ。
    地面に誰が書いたかチョークでけんけんぱ用の丸が描かれていたので、コクレア様を誘ってやれば、こんな簡単な遊びにだってコクレア様は目を輝かせて楽しんでいた。クオルも誘ったが普通に断られた。スルーするなよな~。

    「ふ、ふふっ、ロシー! 人って楽しいねえ」
    「そう言ってもらえるとおれもなんだか嬉しいぜ!」

    そう言ってから、あの花のことを思い出す。
    楽しそうに何度もけんけんぱをするコクレア様にちょっと躊躇してから問いかける。

    「神様ってのは楽しいか?」
    「んー? 神様、ううん、……楽しい、楽しくないとかじゃなくて、しないといけない役目かなあ」

    これもデリカシーのない質問かな、と思ったけれど、コクレア様は特に気にしない様子で返事をしてくる。
    それにほっとしながらも役割、と、軽く言われたけれど、その実すげえ重たい言葉を考え直す。

    「コクレア様は……これからどうすんだ? こうやって人の姿のままでいる?」
    「うーん、それも楽しいけど、でもだめかな」
    「なんで?」
    「だってコクレア、人じゃないもの」

    そう言って右足で飛び、片足のまま着地する。

    「人じゃないのに、人に紛れちゃだめだよ。コクレアが生まれてきた理由は、人になるためじゃないもの」
    「それは……」
    「人の輪転が、滞りなく済むように。人の魂が無事に送られるように。そのためにコクレアはいるから」

    だから、今だけ特別、とコクレア様は笑う。

  • 1761◆A8pWn3jbyg23/08/11(金) 04:34:38

    それは、神様基準ではそうかも知れないけれど、でもこうして無邪気に笑うコクレア様を知ってしまったら。
    どうしても飲み込み切れない気持ちを抱えたままでいると、丸に全部足をつけて最後まで跳び終えたコクレア様は、不思議そうな顔でおれを見ていた。

    「ロシー、なんでそんな顔してるの?」
    「いや……なんか、ほら、やっぱりずっと一緒にいられないんだって思ってさ」
    「? ずっと一緒にはいられないよ。だってみんな、コクレアより先に死んじゃうもの」

    ……あ。
    寂し気に言われたその言葉に、おれはまた余計なことを言っちまったんじゃないかと焦る。
    けれどコクレア様はそんなおれの頭をぽんぽん、と慣れてなさそうな手つきで叩いた。

    「でも、コクレアにはわかるんだよ。みんながどこに行ったか。どこに輪転するか。コクレアはね、役目を嫌いだって思ったことはないよ」
    「……そっか」
    「コクレアはね、さっきはうんって言ったけど、神様じゃないよ。人は、コクレアのこと神様って言うかもしれないけど、でもコクレアはそういう役割を持って生まれたものだからよくわからない」

    お花の言っている神様って言葉も、本当はあまり理解できてないの、と眉を下げながらコクレア様は言う。

    「でも、人から祈られるの、コクレアは嬉しかった。人が人の幸せを祈って、次の生はもっといいものでありますようにって言われる時、本当にね、本当によかったなあって思えるの」
    「………」
    「もちろんそればかりじゃないけど、怖いものあるけど、でもコクレア、この役割をやだなーって思ったことなかったし。だから、ちゃんとコクレアはいるべきとこにいなきゃいけないかなって」
    「………」
    「でも」

  • 1771◆A8pWn3jbyg23/08/11(金) 04:53:00

    「コクレア、クリスやマリーのこと好きだし、お花のね、お墓にも行きたいから。あんまり人の姿になっちゃだめだけど、たまーにならいいかな~」
    「………えっ」

    すっかり沈痛な気持ちになっていたおれは、そんなコクレア様のお気楽発言に目を見開く。
    今これ、人とはもう離れて過ごすように聞こえていたんだけれど、もしかしてそうではない……?
    驚くおれに、やっぱりコクレア様は不思議そうな顔をして、おれの頬を引っ張る。

    「変な顔」
    「……ええと、コクレア様はここからいなくなったりしないか?」
    「? しないよ。コクレアここ、好きだもん」
    「クリスやマリーさんとは?」
    「遊んでもらう!」
    「……そっか。そっかあ」

    なんかおれの考えすぎだったのかなあ、と肩を落とす。
    コクレア様はやっぱりおれの気持ちなんてまったくわかっちゃいなさそうな顔だ。これが人間と神の壁ってか。
    まったくお気楽なもんだぜ、とため息を吐いていたら、コクレア様がぴったりと何故か自慢げな笑顔を向けてきた。

    「コクレアはドラゴンだよ」
    「……知ってるけど、どした?」
    「? コクレア、ドラゴンだからロシー元気出るかと思って……」
    「……なんだそりゃ!」

    ドラゴン属性に自信持ってんだなあお前! なんだかおかしくなって、思わず笑っちまった。そうしたらコクレア様も笑ってくれていたから、うん、まあいいかなあ、って素直に思えた。
    まあでもしょうがねえか。だって子どもはドラゴン、格好良くて好きなんだ!

  • 178二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 16:19:17

    マリーさん達と遊んでもらう気満々のコクレア様好きだ
    ドラゴン好きの子供に会えてよかったね

  • 179二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 21:30:23

    終わらないで…終わらないでくれ…頼むから…。

  • 1801◆A8pWn3jbyg23/08/12(土) 02:24:11

    この後もしばらくコクレア様と遊んで(クオルはずっと座って虚空を見ていた)、日が暮れてきたら三人で船に戻った。
    沢山遊んだからお腹もぺこぺこだ! でもイッカクとマリーさんがたくさん飯を用意していてくれたから、それをたらふく食べる。たくさん動いてたくさん飯を食べて健康的だなあ、なんて思いつつ、他の怪我人を見舞ったりなどした。
    ベポのところに行ったら既にコクレア様がいて、複雑そうな顔をしたベポの毛並みを『ふわふわ』と手で触っていた。

    「何してんだ?」
    「ベポかわいい」
    「コラさ~ん……こいつどうにかしてよ~」

    ……まあ、仲がいいってことだな!
    シャチとペンギンのいる部屋に行けば二人ともお腹を出してぐーすか寝ていたので、そっと布団をかけてやる。
    クリスとレミリオのところに行けばクリスに『マリーちゃんとのデートは楽しかったですか……』と地を這うような低い声が聞こえたのでそのまま帰った。お前こえーよ。
    それからローの部屋に入れば、ローはベッドに寝ながら本を読んでいた。
    うん、動いてないようでよろしい。ローのやつ、怪我人の癖に動き回ろうとしてクルーたちに怒られてたもんな。泣き落としまでされてたし。

    「……コラさん、どうしたんだ?」
    「んー? そろそろ安眠が必要じゃねえかと思って」
    「……いらねえ」

    と、不貞腐れた顔をされる。あ、その顔ガキっぽいな、と微笑ましく思いながらローの部屋の椅子に勝手に座る。

    「今回大変だったなあ」
    「……神だなんだの騒動に巻き込まれるとは思ってなかったな」
    「そりゃそうだ。青天の霹靂ってやつすぎるぜ」

    うん、お疲れ様ってやつだ。

  • 1811◆A8pWn3jbyg23/08/12(土) 02:37:27

    「でもまあ、終わってみればとある島での大冒険……って感じにならねえか?」
    「どうにも憎悪だか呪いだか生贄だとかが入り混じった血生臭い冒険だな」
    「ダークファンタジーだぜ……!」

    まあ、楽しかった冒険、とは言えないけどさ。
    それでも苦労した分、達成感はある。
    もしこれが物語だとして、完全なるハッピーエンドって言うにはちょっと爽やかさが足りない気もするけど。

    「でも、いい出会いはあったって思うよ」

    マリーさんにクリスにレミリオに、コクレア様。それから……ラミロ。
    うん、良い人に出会えた。それだけで結構自分の人生って潤うもんだ。
    おれはそういう出会いを大切にしたいし、ローにも色んないい出会いがあってほしい。ついでに言うとほら、お嫁さんとかもさあ!
    ……ま、これを言ったら冷たい目で見られそうだけど。恋愛関係にはあまり興味ねえよな。

    「……降りるの、この島にするか」

    不意にぽつり、と呟かれた言葉におれは顔を上げる。
    まだ目的の港までもう少し先だ。それなのに急にどうして、と思って、ああ、いい出会いがあった、って言ったからか。
    でもどうにも言ったローの顔は所在なさげな子どものような表情をしていて、その不安そうな横顔を見て、思わず笑みが零れちまった。

    「いや、まだ降りねえよ。ローと旅がもうちょっとしてェしな」
    「………そうか」

    おれの勘違いじゃなければ、その相槌はどこか安堵の雰囲気が漂っていた気がして、成長しても可愛いクソガキに笑っちまった。

  • 1821◆A8pWn3jbyg23/08/12(土) 02:53:32

    それから数日、療養してからおれたちは島を出ることになった。
    元から丈夫だったためか、今ではクリスもすっかり元気そうだ。……いや心臓近くを貫かれてたよな。本当に大丈夫?
    とは思いつつも、両の足で立派に立って、おれを抱き上げてぐるんぐるんしながら泣いているクリスを見ていると滅茶苦茶元気そうだな……と確信を持つしか出来なかった。

    「もう少しいましょうよ~~~~~~!! 私あなた方大好きになっちゃったんですから寂しいです~~~~~~~~~~~~!!」
    「目が回ってしぬ……」
    「クリスあんたもういい加減にしなよ! ロシーが可哀想だろ!」

    マリーさんがばしばしとクリスの背中を叩くがクリスは止まらない。
    ローたちは自分たちがされたらたまらないとみて見ぬふりだ。普通に仲間に見捨てられたぜ!

    「海賊だから一か所に留まらないとはわかってますけど~~~~!! やっぱり寂しいじゃないですかもう一月くらいいましょうよ~~~~~~~~!!!」
    「吐く」
    「クリスあんたもういい加減にしな!」
    「ぐはあ!」

    ドラゴンになったマリーさんがクリスの背中を思いっきり蹴る。おれは勢いのまま吹っ飛ぶが、近くにいたベポにキャッチされた。ありがとなベポ。吐いていいか?
    マリーさんはとどめばかりに腕挫十字固めを決めている。クリスが地面をばんばんと叩いているが止まらない。頼りになるぜ。

    「これ、少ないですが食料と本です。どうか旅の慰みにでもなれば」
    「あ、ありがとうレミリオ。あれはいいの?」
    「いつものことなので……」

    おれの背中を撫でながらベポが心配そうに言っているが、レミリオは困った笑顔のまま割とクリスを見捨てた発言をする。いいんだ!?

  • 183二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 13:57:21

    保守

  • 184二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 23:44:22

    映画だとエンディングが流れる前の場面だこれ
    終わりが近いれすね

  • 1851◆A8pWn3jbyg23/08/13(日) 03:41:34

    解放されたクリスは懲りずにシャチやベポのことを狙おうとしていたけれど、マリーさんに尻を蹴っ飛ばされて止められていた。クリスのやつ、スキンシップが好きなのかな。
    レミリオは一人ひとりに頭を下げに行っていた。真面目なのか毎回深く頭を下げて、なんかクルーたちの方が照れ臭そうだったり恐縮してたりしてるぜ。それでも感謝されて嬉しそうにしている辺り、いいやつの集まりってことがわかるんだよな。

    そんな船着き場でぼーっと立ってカードを見ているホーキンスがいて、おれはそちらに向かう。
    どうやらホーキンスのやつクルーたちと連絡がついたみたいで、おれたちが船を出した辺りでホーキンスの仲間たちも来るそうだ。

    「ホーキンス、身体は大丈夫か?」
    「問題ない。完治している」
    「そうかあ?」

    素知らぬ顔で言っているけれど、まだ胸元に包帯とか見えているぜ。
    けれどもあえて自分からけがの具合とか言ったりしねえか、と考え直して追求はやめる。これからはまた別の海賊同士なんだもんだ。

    「な、ホーキンス。改めてだけどありがとな。いろいろ助けてくれて」
    「礼には及ばない。おれはおれのするべきことをしただけだ」
    「それでもまた会えるかどうかもわかんねえし、一応受け取ってくれよな」

    そう言えば少し考えたように無言になってから、一度だけ頷いた。
    こういうところは可愛げあるよな~。何考えてるかこれっぽっちもわかんねえけど。

  • 1861◆A8pWn3jbyg23/08/13(日) 03:54:56

    そうやって対話していたら、たたたっと駆けてくる声が聞こえて、次の瞬間おれの脇に手を入れられて持ち上げられる。

    「おいこらホーキンス! てめェ何コラさんを勧誘してんだ!」
    「してないな」

    やってきたのはシャチだった。相も変わらずホーキンスを目の敵にしているようでがるるる、と噛みついている。
    喧嘩するほど仲がいいってやつかあ? あと持ち上げられるのさっきのクリスのせいで今トラウマ気味だから降ろしてくれたら嬉しいんだけどな!
    ホーキンスはやっぱり、何を考えているかわからない、といった顔でシャチを見ていた。
    それから少し考えたあと、ふむ、と頷く。

    「もしハートの海賊団を追い出されたら来ても構わない」
    「……は?」

    間違いなくシャチに向かって言った言葉に、ぽかんとしてから、怒ったように肩を怒らせる。

    「なんだそれ!! おれが追い出されるようなひでェへまをするような物言いじゃねーーーか!!」
    「いやそういう意図じゃねえと思う」
    「急に喧嘩売ってきやがって! 買うぞ!!」
    「買うな買うな。おいホーちゃん! そういうの……そういうアレ駄目だからな!」

    そういうのおれもみんなも許さねえからな!そう叫ぶと、ホーキンスはようやく愉快そうに笑った。
    ……ちょっと腹立つ笑顔だと思う!

  • 187二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 04:09:03

    わぁ最大級の賛辞だこれ多分
    シャチには侮辱として伝わってるけど!

  • 1881◆A8pWn3jbyg23/08/13(日) 04:16:40

    「……なぁ、コクレア様来ねえな」

    船に乗ったおれたちは、号泣しながら手を振るクリスに向かって手を振り返しながらぽつりと言う。
    絶対来てくれると思ってたんだけど、もしかして忘れてたりするんだろうか。ほらあいつドジだし……。

    「寝坊でもしてるんじゃない?」
    「いやでも……最後にもう一回くらいさあ」
    「コラさんもクリスに負けず劣らず寂しがり屋だよね」

    笑ってベポがおれの頭をぽふぽふ叩く。ぽふぽふされるのは嬉しいけど男としてのプライドが傷つくぜ。
    いやでも本当に来ないことなんてある? この島にまた来れるかどうかもわかんねえのに。

    「……でも、きっと元気でやってくれるよな、これからも」

    封印されていたドジで無邪気な神様は、ようやく自由を手に入れた。
    しなければいけない役割があるから、本当の意味での自由かどうかはわからないけれど、それでも今ああして好きに動き回れることは確かなのだ。
    好きに笑って、好きに楽しんで、好きに遊んで、好きに、泣ける。
    こっちが思わずツッコんじまうくらいのおとぼけ神様だけどさ、それでも今まで辛いことがたくさんあって、苦しんできたんだってことはわかってるんだ。

    だから、これから。この島で。穏やかに過ごしながら、また歌でもうたって元気でいてくれたらな、と思う。



    「――――お前ら! 出港するぞ!」

    誰かの声が、響く。

  • 1891◆A8pWn3jbyg23/08/13(日) 04:32:48

    「さよ―――なら―――――!! この島に来てくださってありがとうございました―――!! また来て下さ――――い!!!!」
    「飯をたらふく食べなよ! ちゃんと元気に過ごして風邪なんか引いたりせずに頑張りなね!」
    「あのっ……ありがとうございました!! お元気で……!」

    おれたちを見送る声が聞こえる。
    それに負けじとおれは船から身を乗り出して手を振った。
    慣れたもんだとローがおれの腰辺りを掴んでいるが、まさかおれも落ちたりするようなドジはしねえぜ! でも信用できねえよな! 普段のドジが憎いぜ……。

    「こっちもありがとな―――!! クリス!! マリーさん! レミリオ! またな―――!」
    「元気でな――――!!」
    「お嬢~~~~!!! また飯食べさせてくださ―――い!!!」
    「風邪引くなよ――――――!!!!!」

    これが島の人と海賊との別れの言葉なんて誰が思うだろうか。
    おれは思わずわはは、と笑っちまって、そのまま仰け反って落ちそうになってローに引っ掴まれた。
    ……悪かったって。

    どんどん島が遠ざかっていく。どんどん島が小さくなっていく。それでもずっと手を振ってくれている。そしておれたちも、手を振り返している。
    そして――次の瞬間。

    「クルルルルルルルァ――――!!」

    大きな水しぶきが立った。同時に響く透き通った声。ざぶり、と船が揺れて思わず柵にしがみつく。

  • 1901◆A8pWn3jbyg23/08/13(日) 04:42:46

    その、姿は。おれたちが知ってるのとは違う、もっとずっとずっと大きな姿だった。
    あの時、封印が解けた瞬間に見えたものとは違う。
    ――何せ、顔の大きさが島ほどもある!

    なのに、全長あの島百個分が移動したんだと言わんばかりの巨体なのに、波は多少暴れるくらいで大津波になったりなどしない。
    銀色の、ぴかぴかしたでっかい竜は――おれたちをくるりと囲んで、それから高らかに鳴いて、唄う。
    まるで、神様のお告げみたいな、そんな美しい声だった。

    なんでこんなにでっかいのとか。
    どうして今この時おれたちにその姿を見せてくれたのかとか。
    言いたいことはいろいろあるけれど――――。

    「……コクレア様――――――!!!!」

    おれはコクレア様に向かって、さっきみたいに全力で手を振る。

    「かぁっこいいぜ、ドラゴン姿!」

    そう叫べば、嬉しそうに目を細め、『くるるるるるっ!』と弾んだ声をあげた。
    ……あんなにでっかくても、本人……本神?の気質は変わんねえみたいだな。

    「まったく、大きすぎるんだよ」
    「言ってやるなよ、ベポ」

    最後までぷんすかしていたベポだって、少し口元が緩んでいたぜ!

  • 1911◆A8pWn3jbyg23/08/13(日) 04:49:52



    ここは不思議な不思議なとある島
    忘れられた神が時折歌う、呆れるほど平和でのどかな神の島

    過去も因縁も、古い古い呪いもきっと
    祈りも願いも、長い長い憎悪もきっと

    赦され洗われそしていつか、輪転の先に続くでしょう

    けれどもそんな言い伝えは野暮なこと
    ここはひとつ、手を取って。花歌まじりに踊りましょう。

    別れの言葉はお約束。さよならなんて無粋だろう。

    ――“また、いつか”

    ここは不思議な不思議なとある島。
    忘れられた神が時折歌う、呆れるほど平和でのどかな神の島。

  • 1921◆A8pWn3jbyg23/08/13(日) 04:58:15

    「さて、次の島は何があるかな~」
    「……今度は面倒ごとが起きなけりゃいいけどな」
    「流石に命に関わるような事件は起こってほしくねえな! こう、平和でなんかほのぼのする事件が起こってほしい」
    「……どんな事件だそれは」

    呆れた顔でローが言うけれど、しょうがねえだろ。

    「まあ事件でも、なんでもいいけどさ、もうちょっと騒ぎてえんだよ」
    「騒ぎたいってな」
    「だってお前らのことが大好きだって滅茶苦茶思い知っちまったわけなんだ!」

    まだ、別れは寂しいわけなんだってわけだよ。
    そう伝えれば、ローは目を瞬かせてから、くしゃりとおれと似たような顔で笑った。

    「――だったらもっと思い知っておいてくれ、コラさん」


    「ドジって前世を思い出しちまったぜ」外伝

    おしまい

  • 1931◆A8pWn3jbyg23/08/13(日) 04:59:57

    というわけでくぅ疲でした。これでメインストーリーは終わらせていただきたいと思います。

    でもまだ番外編とかリクエストSSとか書きたいと思っているので、もうちょっと続くんじゃ

    次スレです

    【オリキャラ注意】「ドジって前世を思い出しちまったぜ」外伝ラスト|あにまん掲示板ナギナギの実を食べてすっ転んだら前世の記憶を思い出しちゃったコラさんの話、の続編。SS+ダイス+安価スレになると思います。ただしダイスと安価は要所要所。思いついちゃったボスがボスなのでボリュームが広が…bbs.animanch.com

    残りは質問とかあれば書いてくだされば次スレで答えます。

    なければ小ネタとかで落としていきます。

  • 194二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 12:38:35

    お疲れ様です!今回も最高でした!
    エピローグの「鼻歌まじり」が「花歌まじり」なのがマジでエモすぎる
    安価とかも綺麗にまとめて終わらせてくれるから読みやすいのもあって前作は4週しましたありがとうございます!
    質問ですがコクレア様やムルフェルニソ、今回の話の元ネタというかモチーフはあるんですか?根幹的な………?
    あと変身中は見えると思うんですけどドラゴン姿のコクレア様ってごく普通の一般人とかにも見えるんですかね
    過去スレに記載していたらすみません
    リクエストできるならレミ達が島の子供達とかにコラさん達との冒険を血なまぐさいところはオブラートで話すほのぼのSSが読みたいです………!!
    あとコクレア様の1日とか………!!

  • 195二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 13:47:10

    お疲れ様です。
    今回もめちゃくちゃ面白かったです
    オリキャラが非常に魅力的なキャラクター造形で、過去回想からストーリーまで全て面白かったです

  • 196二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 13:48:24

    >>193

    落ちてて草

  • 197二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 13:51:25

    >>194

    花歌まじりってワードはオリジナルじゃないけどね…

  • 1981◆A8pWn3jbyg23/08/13(日) 15:17:49
  • 1991◆A8pWn3jbyg23/08/13(日) 15:19:26

    とりあえずスレ埋めさせていただきます

  • 2001◆A8pWn3jbyg23/08/13(日) 15:19:41

    これまでお付き合いくださりありがとうございました

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