新入生の入学式を見に行ったら妹(ウマ娘)がいた EP.11.5

  • 1◆iNxpvPUoAM23/07/16(日) 21:21:44
  • 2◆iNxpvPUoAM23/07/16(日) 21:22:28

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  • 3◆iNxpvPUoAM23/07/16(日) 21:25:50

    前回までのあらすじ
    謎のウマ娘ソフィと共にミヤコのレースを見にいくにぃやん
    ついに大学レースGⅠ級【アリエス杯】出走です

  • 4◆iNxpvPUoAM23/07/16(日) 21:26:44

    現在進行形で修正しつつ投下していくのでゆっくり進行になります!

  • 5◆iNxpvPUoAM23/07/16(日) 21:36:01

    〈さあ全員綺麗なスタートを切りましたアリエス杯!〉
    〈まずハナを切って飛び出したのは────〉

    「せんとーはナナちゃんの場所ですー!」

    〈大学リーグGⅠ級初挑戦のナナチャンセブン! トゥインクルシリーズから通しても大きなレースを走るのは初めてのウマ娘です!〉

    「ゴールまで一番前なら一着です!!」

    〈大逃げを得意とするこのウマ娘! ぐんぐん逃げて二番手以下との距離は開いていくばかり!〉

    〈二番手に位置付けたのはキャルウィザード!〉

    「ふっ……!!」

    〈そして一番人気のミヤコレガリアはここ! 前から三番手の位置です!〉

    「……よし」

    ミヤコの位置取りはいつも正確だ。
    周りを見ることに長けたあいつがそこを選んだのなら、俺はそれを信じて見守るのみ。

    「ねえ」
    「なんだよ」
    「あの位置、そんなにいい位置なの?」
    「……お前、ウマ娘だよな?」
    「言ったでしょう? 私はウマ娘の形を取っているだけの異世界人。元はあなたと同じ人間よ」
    「はぁ……違う世界に行くとウマ娘になるもんなのか?」

  • 6◆iNxpvPUoAM23/07/16(日) 21:36:51

    「それは色々と方法があるの。私がこの姿をしたのは戯れ。なろうと思えば、あなたの部屋にあるぬいぐるみの形にだってなれる」
    「異世界人って……なんか、すげぇな」

    とはいえ、ソフィはトレセンの制服を着ている。
    なら走るための存在であるはずなのだが……そういえば選抜や種目別大会にもその名前を見たことはない。
    まだデビュー前……それよりももっと前の段階なのだろうか。

    「それで、質問に答えてもらえるかしら」
    「……あぁ、ミヤコは先行での走りが得意なんだ。“王道”とも呼ばれる走り方で、レースを左右する逃げウマ娘を観察することのできる位置取りだ」
    「ふぅん」
    「特にミヤコは簡易領域のおかげで……って、いつでもわかんないよな」
    「いいえ、わかる」
    「え?」
    「ミヤコの能力はよく知っているから、続けて」
    「……お前、ほんとになんなんだ」
    「そのうち話す。だからいまは続けて」
    「……わかった。ミヤコは能力で周りのウマ娘の視界や経験を“覗く”ことができる。だからあの位置取りはミヤコにとって一番都合のいい位置なんだ」
    「そう、まだそこまでなのね」
    「なに?」
    「ミヤコの力はそんなものじゃない、ということよ」
    「……え?」

  • 7◆iNxpvPUoAM23/07/16(日) 21:39:16

    〈2コーナー回って直線へ! ナナチャンセブン、ただひとり距離を保ったまま先頭を駆け抜けています!〉

    「このままナナちゃんがせんとーでゴールです!」

    「ナナさんの大逃げ……は、ごめんなさい、大丈夫」
    「いま私が警戒するべきは────」

    〈2コーナーから3コーナーへの直線は下り坂! ここから3コーナーへの位置取りが勝負の鍵を握ります!〉

    「……っ……」
    「どうしたの?」
    「いや……下り坂が、な」
    「下り坂が、何?」
    「ミヤコは2年前の有馬記念で……怪我をしてる」
    「怪我?」
    「あぁ。……下り坂でスピードを上げて、3コーナーへ向かう途中で転倒したんだ」
    「……」

  • 8◆iNxpvPUoAM23/07/16(日) 21:43:11

    ・・・

    〈3コーナーを目前にミヤコレガリアが転倒!!〉
    〈なんということだ、ミヤコレガリア転倒です! 下り坂の勢いに脚がもつれてしまったか!!〉

    「……」
    「なんだよ……それ」
    「……ミヤコ」
    「……ミヤコ」
    「……」
    「………………ミヤコ」
    「……帰ろう、ミヤコ」
    「………………帰ろう、ミヤコ」
    「…………………………帰ろう」

    ・・・

    自分で口にして、吐き気に襲われる。
    あの痛ましい記憶が蘇ってくるようで、ミヤコの走りから目を背けそうになる。

    「カケル」
    「……あぁ」

    ソフィの声に、俺は力強く頷いて返す。

    もちろん、背けたりなんてしない。
    してやるものか。
    必ず見届けると決めたんだ、俺は絶対最後まで目を離さない。

  • 9◆iNxpvPUoAM23/07/16(日) 21:47:52

    〈ミヤコレガリアをかわしてシフナゼーンが三番手に! 続々とウマ娘たちが3コーナーを回り始めていきます!〉
    〈前半1000mは1分を切らないミドルペースですが、大学リーグでは平均的なペースと言えます!〉

    「1分が平均? 冗談でしょう?」

    実況の声を耳にしたソフィが首を傾げた。
    そういえばこいつは大学リーグのレースについてよく知らないんだったな。

    「大学リーグはトゥインクルシリーズほどの速さはないんだ。全盛期はすでに終えてるウマ娘たちのレースだからな」
    「全盛期を終えても尚、走ることをやめられない……そういう生き物なのね、ウマ娘って」
    「ああ。だからこそ、そのレースに全てを賭けてる。俺たちもそこに夢を見るんだ」
    「ふぅん」

    興味なさげに鼻を鳴らしたソフィだったが、その視線はターフに釘付けだ。
    なんだかんだ言って、こいつもレースに魅入られているのかもしれない。

    「で、そのスピードが乗りづらい世界でミヤコは順位を落として五番手。このまま勝機はあるの?」
    「……」

    ソフィの指摘に、俺は何も言えなくなる。

    ミヤコの得意な走りはスタミナを駆使したロングスパート。そして簡易領域によって視界、経験、記憶、諸々を覗くことで得られる先読み。

    先頭のキャルウィザードとの差はおよそ5から6バ身差。
    トゥインクルシリーズならばまだまだと思える距離かもしれないが、全盛期から衰え、本来スピードを乗せたい下り坂で減速したミヤコにこの距離は────

  • 10◆iNxpvPUoAM23/07/16(日) 21:55:23

    「くぅ、ううぅっ……!!」

    〈さあコーナー巧者たちが火を吹く3コーナーカーブ! 先んじて4コーナーを回り始めたキャルウィザードに追いつくことができるか!〉
    〈二番手にシフナゼーン、三番手はクイーンアストルムと続きます!〉

    ビジョンに苦しそうなミヤコの顔が映る。

    「……っ」

    拳を握る。
    俺はまたこの場所で、あの顔を見なくちゃいけないのか。
    限界まで追い込まれていたミヤコ。
    俺とぶつかってまで出たいと言い、半ば無理やり出走した有馬記念。

    ギリギリまで調整に時間をかけたが間に合わず、万全の状態で挑めなかった、あの冬の日。

    あの日の俺は、純粋な気持ちでミヤコを応援できなかった。
    トレーナーなのに、一番そばにいて、一番支えるべき存在だったはずなのに。

    だから俺は、今度こそあのとき言えなかった言葉を口にする。

    「……がんばれ。がんばれ、ミヤコ」

    悲痛な表情で走るミヤコに。
    せめて、彼女のとってこれが楽しいレースであってほしいと祈りを込めて。

  • 11◆iNxpvPUoAM23/07/16(日) 22:03:47

    ────……
    ────────……
    ────────────……

    「うん……私、がんばりますから」
    「あの日の私に……あの日のあなたに、胸を張りますから!」
    「だから────」

    〈ここでミヤコレガリアが動いた!!〉

    「私は今日、絶対に勝たないといけないんですっ!!」
    「あのヒトが観てるレースで、あのヒトが来てくれているレースで……負けるなんて、絶対にしたくないんです!!」

    ひと脚遅れての3コーナーカーブ。
    その瞬間、ミヤコの咆哮に呼応するように────……レース場全体が、眩いほどの輝きに包まれた。

    「……────」

    輝きの中心には、ミヤコが。

    「いったい、なにが……」
    「ついに開いたわね。ミヤコの本当の“領域”が」
    「……え?」

    ソフィの含みのある言葉。
    これまでのミヤコの走りは競争相手の視界を、経験を、記憶を覗いて有利に運ばせるものだった。だが────

    「……なんだ、この走り」

    いま目の前で繰り広げられる光景は、俺の知るミヤコの走りではなかった。

  • 12◆iNxpvPUoAM23/07/16(日) 22:12:49

    〈ミヤコレガリアが迫る! 3コーナーを回り、4コーナーへ!〉
    〈一瞬のうちに差を縮めていきます!!〉

    「なによこれ……全力を出してるはずなのに、うまく走れないじゃない……!」
    「なに? この感覚……嫌な感じ。私の全てを握られているような……!」
    「……やばい、ですね……!」

    「ごめんなさい。あなたたちの力は、今は私だけが使えます」
    「勝つために、私は私の持てる力を全て使わせてもらいます!!!!」

    輝きの中心で、ミヤコは叫ぶ。
    手袋に浮かんだスティグマを、全身に広げて。

    勝ちたいと。
    全てを奪ってでも勝利を手にしたいと。

    その力こそミヤコの本領。
    ミヤコのテリトリーに存在する者は、あらゆる力を奪われる。

    これまで培った技術も。
    これまで蓄えた経験も。
    生まれ持った能力も。

    そして────

  • 13◆iNxpvPUoAM23/07/16(日) 22:19:01

    そして────

    「あれがミヤコの本当の力」
    「いま、このターフで走るウマ娘の力はあの子のもの。ミヤコだけが使える」

    「そして────そう。たとえ相手が“領域”を持ったウマ娘だとしても、例外はない」


    【王の証】


    「あの日、私はカケルさんを不幸にしてしまった」
    「あの日、私はカケルさんに消えない傷を残してしまった」
    「あの日、私はカケルさんから、大切なものを奪ってしまった」

    「だから今度は、返さなくちゃ」
    「奪ってしまったものを、返さなくちゃ!」
    「私が奪ったものを、私が返さなくちゃ!」

    「じゃないと、私はカケルさんと対等になれないから────!」
    「せめてこれから先は、カケルさんをっ……! 幸せにしてみせる!!」

    〈4コーナー回って最終直線! 現在キャルウィザードが先頭!!〉
    〈しかし外から────外からミヤコレガリアが驚異の末脚!!〉

    「なんでっ……なんで衰えたウマ娘がそんなに……!!」

    〈シフナゼーンとクイーンアストルムをかわし、キャルウィザードへ迫る!!〉

    「トゥインクルシリーズじゃないのよ!? なのに、なんでそんな力が……っ!!」

  • 14◆iNxpvPUoAM23/07/16(日) 22:26:07

    「はぁぁぁああああああっ!!!」

    雄叫びが轟く。痛みに泣く声だけが響いていたあの時とは違って、今度はミヤコが勝利へ向かって吼えている。

    その姿が嬉しくて、誇らしくて。
    どんな言葉をかけてやろうかと考えて。
    でも、まずは、やっぱり。

    「おめでとう、ミヤコ」

    〈ゴォオオーーール!!!〉
    〈ミヤコレガリア! ミヤコレガリアが驚異的な追い上げで、いま一着でゴォーーール!!!!〉

    実況の絶叫がレース場に響き渡る。
    それに釣られたのか、観客たちも大音量で歓声を上げはじめた。

    〈キャルウィザードは惜しくもかわされ、二着となりました! 三着はクイーンアストルム! 四着はシフナゼーン、五着は────〉

    「はぁ……はぁ……はあ……っ」

    ゴール板の前で息を切らしながら、座り込むミヤコ。
    後から聞いた話だが、大学レースでこれほどの大歓声が巻き起こることは珍しいそうだ。

    それほどにこのレースは、観客たちの胸を焦がしたのだ。

    「っ……カケルさん、トレーナーさん。私、勝ちましたよ……っ」

    その熱量を一身に受けて、ミヤコは。
    左拳に喜びを乗せ、天高く掲げてみせた。

  • 15◆iNxpvPUoAM23/07/16(日) 22:46:51

    ・・・

    決着から数時間。

    ミヤコがセンターで歌うウイニングライブを観て、挨拶を聞いて、俺はちょっとだけ泣きそうになった。

    「みっともないわねぇ……」

    ソフィのにべもないひと言のおかげで引っ込んだけどな。ありがとうよ。

    ミヤコのチームはGⅠ級勝利にも関わらず、いつも通りの現地解散。
    俺とソフィはその時間まで待って、ミヤコに伝えていた集合場所へ向かった。

    レース場の前まで車を回してソフィを待たせたまま外に出る。
    少し探すと、ベンチに腰掛けているミヤコを見つけた。

    「ミヤコ」
    「カケルさん!」

    俺を見返し、立ちあがろうとした。
    その途端────

    「ぁ……」
    「ミヤコ!」

    慌てて駆け寄り、ふらついたミヤコを抱きとめる。

  • 16◆iNxpvPUoAM23/07/16(日) 23:21:04

    「大丈夫かっ!」
    「ご、ごめんなさい、急に力が抜けて……」
    「顔が真っ青だ……。休んだほうがいい」
    「……うん。そうする」

    ミヤコが力を抜き、俺に身体を預けた。

    ……久しぶりにも思える、時間。
    つい数時間前にもがんばれと声をかけたのに。
    ずいぶんと長いあいだミヤコと会っていなかったような感覚だ。

    たが……実際、そうなのかもしれない。
    俺とミヤコの中ではいつまでもあの有馬記念があって、そこで時が止まっていたのかもしれない。

    それが今日、ようやく────

    「……おめでとう」
    「うん、ありがとう……ございます」

    ミヤコが微笑み、俺の頬を……そっと、撫でる。

  • 17◆iNxpvPUoAM23/07/16(日) 23:21:36

    「ようやく……勝てましたよ、GⅠ」
    「……ああ、見てたよ。ずっと見てた。最後まで、一度も目なんか逸らしてない」
    「ふふ、嬉しい。泣いたりも、してませんか?」
    「してない。いつまで言うんだよそれ」
    「だって、ソラちゃんがずっと言うんだもん」
    「……あいつと会わせるのやめとくか。いいことなんもない」
    「だめ。私、ソラちゃんのこと……大好きなんですから」
    「そ、か」
    「……カケルさん」

    俺の胸に頭を預けながら、ミヤコ。

    「……あの、日。強がって、先走って、心配かけて……」
    「一人にしちゃって、ごめんね……?」

    その言葉を聞いた瞬間、なんだか胸が、熱くなって。
    口唇が震えて、うまく喋れなくて。

    こんなにも想ってもらえている。

    それだけで、俺のしてきたことは、なにひとつ、無駄じゃなかったと。

    そう、思えた。

    「……一人じゃなかったよ、俺は、ずっと。……ありがとう、ミヤコ。おめでとう」
    「……うん。私こそ、ありがとう」

    ふにゃ、と笑うミヤコ。
    彼女の頭をもういちど撫でてから、俺は手を引く。

  • 18◆iNxpvPUoAM23/07/16(日) 23:23:00

    「帰ろう。で、お祝いだな、とりあえず……夕飯、食べよう。お腹すいたろ」
    「……でもソラちゃんが待ってるでしょ?」
    「構わねぇよそんなの。あいつもそろそろ兄貴離れしないと」
    「……それじゃあ、今日だけカケルさんを借りちゃおうかな」
    「お好きなだけどうぞ。俺はミヤコのトレーナー、なんだろ?」
    「でも……もう、お友達、ですよね?」
    「……だな。その通りだ」
    「じゃあお友達として、お祝いしてください」
    「ああ、任せとけ」

    話しながら車へ向かう途中で、今日の同行者存在を思い出した。

    「……ん?」

    この状況でどうソフィのことを伝えたものかと悩んだ矢先、俺のポケットでスマホが音を鳴らした。

    『話ができる様子でもなさそうだから、後日にするわ。私の連絡先は残しておくこと』

    「……ふん」
    「どうかしたんですか?」
    「あぁ、いや。ただの通知」

    画面を確認して、閉じる。
    どうやら同行者は配慮をしてくれたらしい。少し申し訳なく思うが、正直助かった。

    いまはミヤコとふたりきりになりたかったから。

  • 19◆iNxpvPUoAM23/07/16(日) 23:28:55

    「歩けるか?」
    「はい……大丈夫です」
    「その状態でよくライブできたな」
    「ライブが終わるまでは大丈夫だったんです。終わったら、なんだか緊張が切れちゃって」
    「すごいレースだったもんな」
    「……、うん」

    脚元のおぼつかないミヤコを支えながら車に行くと、LANEに届いていたメッセージ通りソフィは姿を消していた。

    「ゆっくり座って」
    「はい……おじゃま、します」

    ドアを開けて、ミヤコを助手席に座らせる。
    ゆったりと腰を落ち着けて息を吐いたところを確認してからドアを閉めて、俺も運転席側へ回った。

    「帰ろう、ミヤコ」
    「うん……でも、その前にお夕飯……ですよね」
    「だな。なに食べたい?」
    「……作って、あげたいな。カケルさんの……食べたいもの」
    「あんなに頑張ったのに、今から料理なんてさせられないだろ。今日は食べて帰ろう。ミヤコの好きなもの、なんでもご馳走する」
    「ふふ、嬉しい。じゃあ……その前に、わがまま言っても……いい?」
    「え?」

    わがまま。
    ミヤコが俺にわがままを言うのは珍しい。
    具体的に思い出せるのだって、このレースを見に来てほしいって話や、あの有馬記念に出たいと言ったことくらいで……────

  • 20◆iNxpvPUoAM23/07/16(日) 23:38:18

    「私、勝ったんです」

    ミヤコがゆっくりと口を開く。

    「勝ったらご褒美……って話、覚えてる……?」

    そうだった。
    勝ったらミヤコのお願いを聞くって約束をしたんだ。
    それで申告制だから、ミヤコに考えておくようにとも、言ったのだ。

    その答えを、今……。

    「……いい、ですか? 言っても」
    「あぁ、もちろん」

    俺は当然、どんな願いでも受け入れるつもりだ。
    余程のことがない限り、全てを受け入れるつもりでいる。

    そもそもミヤコはソラみたいにアホなことを言うような心配はないし、ハルカのようにとんでもないことを言う不安もない。

  • 21◆iNxpvPUoAM23/07/16(日) 23:38:36

    それにミヤコは俺の初めての担当ウマ娘。
    多少の無理くらいなら、全然聞いてやるつもりでいるわけで。

    「……あの、ね……? カケル、さん」
    「ああ」
    「そ、の……本当に、いい……ですか?」
    「なんでも来いだ。GⅠだぞ? どんなことだって聞いてやる」
    「ふふ、じゃあ……すっごく、無茶なこと……言っても?」
    「もちろん」
    「……」

    息を吸って吐いて。
    緊張しているのか、それを何度も繰り返す。

    少しのあいだだけ沈黙が流れ、そして。

    「……私、ね」
    「ああ」
    「私……、その」
    「うん」
    「カケル、くんって……呼んでも、いい……?」

  • 22◆iNxpvPUoAM23/07/16(日) 23:38:49

    本日はここまで
    またこれからよろしくお願いします

  • 23◆iNxpvPUoAM23/07/16(日) 23:54:19
  • 24二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 06:32:34

    甘美な保守

  • 25二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 12:56:22

    お疲れ様です
    今回も熱いレースだった
    それにしてもこの呼び方になるといよいよ友達感出てきたなあ……
    それ以上かつ恋人ではない何かな気もしないでもないけど

  • 26二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 22:53:43

  • 27二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 23:11:47

    このスレが再開してくれたおかげで明日が少し明るく迎えられるぜ

  • 28二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 07:50:17

    領域覚醒シーンがかっこよかった(小並感)
    今後の活躍も期待しちゃっていいんですか…!?

  • 29◆iNxpvPUoAM23/07/18(火) 09:38:17

    >>23

    こちらの鯖に私も参加させていただくことになりました

    でも今後もSSはスレで更新していくのでどうぞよろしくお願いします

  • 30二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 18:56:26

    保守

  • 31二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 05:17:51

    保守

  • 32◆iNxpvPUoAM23/07/19(水) 14:43:49

    夜に余裕あれば更新したく存じます

  • 33二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 22:54:17

    保守

  • 34二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 07:48:31

    スレ主に毎秒余裕が生えてきますように…

  • 35◆iNxpvPUoAM23/07/20(木) 17:22:11

    今日こそ……今日こそ……
    すみません、昨晩はIP規制かかって更新できなくて……ごめんなさい

  • 36◆iNxpvPUoAM23/07/21(金) 00:26:38

    「ああ、いいよ」
    「……ほんと、ですか?」
    「もちろん。断る理由がないし、ミヤコがそう呼びたいなら、そう呼んでもらえる方が俺も嬉しい」
    「ふふ……よくわからないです、それ」
    「かもな。……まぁ、なんだ。俺、舞い上がってるかも」
    「……ありがとう……、カケル、く……」
    「ぁ……」
    「…………」
    「眠っただけか……。焦った……」

    言葉の途中で、吸い込まれるように意識が途絶え、ぐったりとシートに身体を預けさせたミヤコ。

    しかし、それにしても。

    「…………まさか、そう来るか」

    多少の無理はとかどうとか言ったが、“カケルくん”って呼びたい……と来たか。
    確かに以前から友達として、なんて色々と言っていたし、仲良くなるって点で言えば“カケルさん”より“カケルくん”の方がよほど仲良しだ。

    とはいえ……なんというか、あれだ。
    ミヤコの前ではカッコつけて『いいよ』なんて言っときながら、めちゃくちゃ照れ臭いな、これ……。

    でも……ここからが俺とミヤコの、本当の意味で、新しい始まりなのかもしれない。

    なら、照れ臭いなんて言ってられねぇな。ミヤコもかなり勇気を振り絞ってそう言ったんだろうし、覚悟を決めるしかない。

  • 37◆iNxpvPUoAM23/07/21(金) 00:29:11

    「……俺の方こそありがとう、ミヤコ」

    彼女の前髪を軽く撫でてから、俺は気持ちを切り替えるためにも車のエンジンを入れた。

    その後、ミヤコの眠るシートを倒してやるべきかとか、もう少し楽な体勢にした方がいいと起こそうかとか、色々と悩んでから。

    「とりあえず、出るか」

    シートベルトだけ締めさせて、アクセルを踏んで発進させる。

    下手に飯を食いに連れて行くよりも、家に送り届ける方がいいだろうか。
    それとも、ナインボールのほうがいいだろうか。

    ……いや、どっちもないな。
    もうトレーナーでもない男が実家に連れて行ったとなると、親御さんたちも困ってしまうだろうし、あらぬ噂を立てられたらミヤコも迷惑だ。
    俺もうまく誤魔化す自信がない。

    一番誰にも文句を言われず、困らせずに済むとしたら、俺の家だが……それはそれでめんどくさい奴がいる。
    当然、ソラだ。
    あの妹はきっとめんどくさい絡みをしてくるに違いない。そしてめんどくさいことを言い出すだろう。

    想像できるなぁ……。
    あいつのことだから、お持ち帰りだとかなんだとか言い出しやがるぞ、絶対。
    そうなれば俺も普通にキレるし、なにより、ミヤコとふたりっきりになりたい時にあいつの顔なんか見たら、気分も台無しだ。

  • 38◆iNxpvPUoAM23/07/21(金) 00:31:56

    ミヤコの勝利を。
    俺たちが追い求めてやまなかった、あの頂を。

    ついに手に入れることができた、この喜びに浸っていたかった。

    ……が、帰らせるならなるべく早いほうがいいかと思い、帰り道は高速を使った。
    おかげで1時間足らずで府中まで戻ってくることが出来たが……さて。

    「……とりあえずここまでは来たけど」

    現在は19時過ぎ。
    すっかりお腹も空く時間だが、俺はどうするのが正解か決めあぐねて適当なコンビニの駐車場に車を停めていた。

    なにをどうするのかと言われたら、当然、ミヤコのこと。
    それなりに揺れたりはあったが、まったく目を覚すことなくミヤコは眠り続けている。

    府中に着く頃には起きるだろうと思っていたのだが、存外ミヤコの眠りは深く、まったく起きるそぶりを見せない。

    ……ちゃんと起こした方がいいか。
    飯を食いに行くより、はやく家に帰らせた方が良さそうだ。

  • 39◆iNxpvPUoAM23/07/21(金) 00:33:29

    「ミヤコ」

    身体をゆする。

    「…………」

    反応なし。

    「ミヤコー?」

    もう少し強めにゆする。

    「………………」

    反応なし。
    ……やべぇ起きねぇ。

    相当眠りが深い。
    つまり、それほど疲弊しているってことだ。
    もう説明できないとか言ってる場合じゃないな。ナインボールに運ぶしかない。

    ……いや、待て待て。
    トレーナーでもない男が連れて行ったら、って判断はさっき下したばっかりだ。
    いくらミヤコのお祖父さんだって、急に俺が眠ったミヤコを連れてきたら驚くに決まってる。

    今日がミヤコのレースだとは知っているだろうが、どちらにせよ、俺がミヤコを背負って現れたりしたら絶対にややこしいことになる。

  • 40◆iNxpvPUoAM23/07/21(金) 00:35:11

    なるが……。
    いまの俺にできる選択は多くない。
    何より避けるべきは、このままここで寝かせてミヤコの調子を崩してしまうこと。

    レースのあとはちゃんと休ませるべきだ。
    特に今日のミヤコは……ソフィ曰く“領域”の覚醒ってのを起こして、かなり疲弊してるはずなんだ。
    なら、なりふり構ってなどいられない。

    「……よし」

    決めた。
    ナインボールに連れていく。
    そしてお祖父さんに可能な限りの説明をしよう。
    俺とミヤコのお祖父さんは知らない仲じゃない。
    今でも店に行けばたまに声をかけてくれるし、厨房の奥で顔を見かければ会釈くらいはする。

    ミヤコの有馬記念の時だって、誠意を込めて話をして分かってもらえた。
    大丈夫なはずだ、多分、きっと、おそらく。

    自信がないのは俺自身の問題。
    誠意をもって向かえば、ちゃんと理解してくれるはずだ。

    ビビりまくる内心にどうにか蓋をして、俺は車をナインボールの駐車場へと回した。

  • 41◆iNxpvPUoAM23/07/21(金) 01:00:50

    ────ナインボール

    「いらっしゃいま────……ぁ」
    「ぁ……ど、どうも。お久しぶり、です」

    扉を開けると迎えてくれたのは……都合よくというか、なんというか、件のお祖父さんだった。
    ミヤコを背負った俺を確認し、目を丸くしている。

    俺も初っ端からお祖父さんと対面するとまでは思っておらず、めちゃくちゃ不審な感じになってしまった。
    別に久しぶりでもないのに、お久しぶりですなんて言っちまって……動揺しまくりだ。

    「こんばんは、新海さん」
    「……はい、こんばんは」
    「ミヤコの面倒、見てくださったのですね。申し訳ありません、孫が粗相を」

    深々とお辞儀をされる。
    俺は焦って訂正を。

    「そんなことありません、むしろ……私の方こそ。ミヤコさんには無理ばかりさせてしまいましたから」
    「いえいえ……ミヤコが今も走り続けていられるのは、あなたのおかげです」
    「それこそ、そんなことありませんよ。今の彼女のトレーナーは大学の方ですから」
    「確かにそれはそうですが……ミヤコが怪我をしても諦めなかったのは、あなたのおかげです」
    「……そんなことは」
    「ミヤコがいつも言っているんですよ。新海さんと夢見た勝利を掴むまで、辞めたくないと」
    「……、ぁ」

    俺は何も言えなかった。
    ミヤコが家族に、そんなふうに言っていた、なんて。

  • 42◆iNxpvPUoAM23/07/21(金) 01:17:43

    お祖父さんの話は続く。

    「それに私たちも、新海さんがミヤコのためにどれだけ苦労してくれたかを知っています」
    「重圧もあったでしょう、私たちに思うことも多々あったことでしょう、それでもあなたはミヤコのために尽くしてくださった」
    「それだけで私たちは、あなたに感謝してもしきれないのです」
    「一昨年の有馬記念での怪我は、ウマ娘として走る上では仕方のないことです……とは、以前、言いましたね」
    「しかしあなたはずっと頭を下げてくださった。自分の責任だと、トレーナーとして最善の選択ができなかったと」

    頷いて、認める。
    声を出そうにも喉が固まってしまって、音すら出すことができなかったから。

    「あの時のあなたは、とても見ていられなかった。すぐに何かを食べさせてあげたかった……それほどに、壊れてしまいそうでした」
    「……」
    「私たちの方こそ、あれだけ尽くしてくださったあなたにお返しができず、申し訳ありませんでした」

    「や、やめてください!」

    今度はお祖父さんが頭を下げた。
    俺は流石に固まっていられず、お祖父さんのそばへ一歩進む。

    「俺はっ……、……私はミヤコさんのトレーナーとして、責任を取りたかっただけなんです。優しい言葉をかけてもらおうなんて、つもりは」

    なかった、のに。

    「……やはり、あなたにミヤコを託してよかった」

    そう言って、頭を上げた。
    お祖父さんは優しく微笑んでいた。

  • 43◆iNxpvPUoAM23/07/21(金) 01:18:20

    「いまはもう妹さんを担当していらっしゃるのですよね?」
    「……はい。ここにも、よく一緒に」
    「ええ、存じています。元気で可愛らしい子で、スタッフのあいだでも話題ですよ」
    「そう、なんですか……?」
    「もちろんですよ。とても仲のいい兄妹ですから」
    「……は、ははは」
    「だから新海さん。あなたはもう、ミヤコのことばかりを背負う必要はありません」
    「……ぇ」
    「ミヤコは今日、勝ってあなたと対等になりたいと言っていました」
    「対等に……」

    そうだ、言っていた。
    ターフの上で、吼えていた。

    俺と対等になると。

    「そしてミヤコは勝つことができた。だから……これからは元トレーナーとしてではなく、ひとりの人間として、ミヤコと接してあげてください」
    「……でも、私は」
    「いいんですよ。それがミヤコの願いであり、私たちの願いですから」
    「……」
    「いきなり言われても困ってしまいますね、申し訳ない」
    「……いえ」
    「ともかく新海さんも、必要以上に背負わないで。またゆっくりごはんでも食べに来てください、いつでも歓迎していますから。妹さんと一緒にね」
    「……ありがとう、ございます」
    「さあミヤコを預かりす。いつまでも背負っているのは大変でしょう」
    「あぁいえ……軽いので全然」
    「ふふ、そういうことはミヤコに直接言ってあげてください」
    「ぁ、あー……ぁはは……」

  • 44◆iNxpvPUoAM23/07/21(金) 01:19:08

    「さあこちらへ」
    「はい」

    言われるがまま、背負っていたミヤコを店のソファへ座らせる。
    やはり起きないが……表情は幾分柔らかく、少しずつ回復しているように見えた。

    ……よかった。

    「申し訳ありません新海さん。レースの後は食事に行くとミヤコが言っていたのですが……この時間です、食事をする間もなく眠ってしまったのではないですか?」
    「……ええ」
    「食べていってください。ミヤコのことは、お気になさらず」

    さすがミヤコのお祖父さんだ、よく見てらっしゃる。
    正直、めちゃくちゃお腹すいてる。

    「お祝い、と呼ぶには大したことのない料理ですが。ご馳走させてください」
    「え、そんな……! ナインボール以上のご馳走なんてなかなか無いですよ」
    「ふふ、冗談がお上手ですね。ありがとうございます」
    「本当にそう思ってますよ。妹も気に入ってて、ふたりでよくお邪魔してますし」
    「ええ、いつも美味しそうに食べてくださって嬉しい限りです。待っていてください、腕によりをかけてご用意させていただきます」
    「すみません、ありがとうございます」
    「メニューは何にいたしますか?」
    「……じゃあ、ハンバーグセットで」
    「はい、かしこまりました」

  • 45◆iNxpvPUoAM23/07/21(金) 01:19:23

    優しく微笑み、お祖父さんは厨房へ。
    俺は眠るミヤコの隣に腰掛け、好物のハンバーグセットが届くまで、もう少しだけふたりきりの時間を楽しんだ。

    話すこともなく、何をすることもないが。
    それでも、今日を走り切ってくれたミヤコに改めて感謝の念を送って、過ごした。

    その後は届いた料理を食べながら、少し早めに店を閉めたお祖父さんとミヤコのレースのことを話した。

    どうやらレースを中継で見ていたらしく、レース展開の考え方について動画を見ながら質問されるのを答えたりして、今まで出来なかった家族の方への詳細な説明がようやくできたような気がした。

    店を出たのは22時過ぎ。
    かなり話し込んでしまったが、おかげでお祖父さんとも仲良くなれた気がした。

    かなり気を遣ってくれたようにも思うが……それでも、ミヤコとのことで思っていたささくれが無くなったような感じ。
    心のつっかえが取れたような、すっきりした気持ちで店を後にした。

    ソラを連れて、また来ると約束をして。

  • 46◆iNxpvPUoAM23/07/21(金) 01:19:45

    本日はここまで
    ありがとうございました

  • 47二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 01:37:20

    お疲れ様でした〜

  • 48二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 02:01:33

    お疲れ様でしたー
    お祖父さんとのお話が素敵

  • 49二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 12:34:02

    お疲れ様でした

  • 50◆iNxpvPUoAM23/07/21(金) 22:50:19

    しばらく忙しくて更新できません!
    すみません!!

  • 51二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 09:54:43

    待ちますよ〜

  • 52二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 18:44:51

    お疲れ様です
    待ってます

  • 53二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 05:15:34

    保守

  • 54二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 14:54:43

  • 55二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 23:30:32

  • 56二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 23:32:39

    一応discordではこんな感じのSSがたまに出てたりします

  • 57◆iNxpvPUoAM23/07/24(月) 10:02:57

    今日か明日には更新したく存じます

  • 58二次元好きの匿名さん23/07/24(月) 19:53:10

  • 59二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 02:26:40

  • 60二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 11:48:58

  • 61◆iNxpvPUoAM23/07/25(火) 18:43:20

    ごめんなさい今日帰るの遅くなっちゃいそうです
    早く帰れたら更新するつもりです!!

  • 62二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 06:18:48

  • 63二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 16:15:11

    待機保守

  • 64◆iNxpvPUoAM23/07/26(水) 20:33:32

    ────そして、店を出てすぐのこと。

    「……ん?」

    駐車場へ向かう途中、街灯の当たらない暗がりに何か違和感を覚えた。
    何かがいる、ような……。

    「ハァイ」
    「うぉっ」

    するりと暖簾を開けて店に入るくらいの感覚で、暗闇からソフィが現れた。
    どっから現れたんだこいつ……。

    っていうか、まさか俺をつけてたのか?
    監視って言ってたけど……こんな感じで見てたとか?
    背中が冷たくなってきたぞ……。

    「……お前、どこから」
    「異世界人だと言ったでしょう?」

    異世界人の移動方法ってのは空間捻じ曲げる感じなのか……?
    眉唾だったが、実際見せられると信じるしかなさそうだな。

  • 65◆iNxpvPUoAM23/07/26(水) 20:34:02

    「……」

    心を落ち着かせるためひと息だけついてから、
    とりあえず駐車場へ向かって歩きながら話を始める。

    「どうした?」
    「ミヤコは送り届けたようね」
    「……お前、俺のこと監視でもしてんの?」
    「えぇ。あなたは私の監視対象だと言ったでしょう」

    まじかよ。
    マジで監視してんのかよ。

    「で、なんだよ」
    「ミヤコと話をするのは、もう少し先にしておこうと思って」
    「なんで?」
    「これからしばらくミヤコは体調を崩す。おそらくあなたへの連絡もあまり来ないでしょうね」
    「……別の世界での経験ってやつか?」
    「ええ」

    すんなりと答えられて、俺は少し肩透かしを食らったような気分になった。
    どうせはぐらかされるんだろうな、なんて思っていたから。

  • 66◆iNxpvPUoAM23/07/26(水) 20:34:26

    ソフィは続ける。

    「まぁ、そんなところね。別の枝……つまりこことは遠く離れた並行世界での経験」
    「……ふーん」
    「あなたにも観測はできないわよ」
    「観測ってどういうことだ?」
    「ぁっ」
    「あ?」
    「話せない」
    「嘘だろ。小さい声で、あっつったろ」
    「……」

    こいつ露骨に舌打ちしやがったぞ……。
    しかも聞こえるようにわざと結構でかい音で。

    「ハァ……分かった。話せる限り話してあげる」
    「お、おう……いいのか?」
    「いいも悪いも、口走った私が悪いのだし。隠してばかりであなたといい関係が作れるわけではないのは、経験済み」
    「……そ、か」
    「私がこの世界を監視する必要ができたのは、あなたにも関係していることなのよー
    「……はぁ?」

    わけがわからん。
    ソフィの言うことの大半がSFすぎてただの痛いやつになんだよな……。

  • 67◆iNxpvPUoAM23/07/26(水) 20:35:56

    「4年前の地震は覚えているかしら」
    「……あぁ」
    「あれがきっかけで、私はこの世界に気づいた」
    「? 普通は分からないもんなのか、異世界ってのは」
    「ええ、当たり前でしょ。あなただって今まで異世界が本当にあるだなんて考えたこともなかったでしょう」
    「まぁ、な。SF作品ではよくあることだから、あったらいいなくらいに思ったことはあるが」
    「子供ね」
    「うるせーよ。で、あの地震がなんなんだ?」
    「あの地震がきっかけで、世界同士を繋げる門の鍵のようなものが壊れたの。その結果、私の世界からこちらへ流れてきたものがある」
    「はぁ……んじゃあ、それを追いかけてきたって感じか」
    「察しがいいわね。ええ、おおかたその通り」
    「おおかた? じゃあ他にもあるのか」
    「まぁ、それは必要な時が来れば話す。私もまだ調査不足だから」
    「……ふぅん。で、なんでその監視対象が俺なんだ? 俺はウマ娘でもなんでもない、ただの人間だぞ」
    「別の世界で、同じことが過去に起きた」
    「……?」
    「あなたの地元にある伝承は知っているかしら」
    「……あぁ、知ってるけど」

    俺の地元にある、古いおとぎ話。
    地元の大手企業がスポンサーとなって製作されたアニメもあったが、難解すぎるストーリーのせいで『結局なにがしたかったの?』と言われる始末となった話だ。

    概要は簡単に。
    異世界との扉が開いて、その世界から流れ込んできた怪物をこの世界の人間と、異世界の人間が手を組んで退治する……とかそんな感じ。

    確かそこに出てくるメインの人物の名前は“魔眼のイーリス”とかなんとかだったっけ。

    それが本当に起きたって? 嘘だろ。

  • 68◆iNxpvPUoAM23/07/26(水) 20:36:27

    「……じゃあ、あれか。あの地震のせいでソフィの世界から怪物がやってきたってことか」
    「少し違う」
    「はぁ?」
    「こちらへ流出したのは、ヒトに異能を与える道具」
    「……道具」
    「それを集めるため、私はこことは違う世界で活動した。その時の協力者が、あなた」
    「……」

    俺、だと?
    俺にそんな記憶はないし、そもそも俺にはその異能を与える道具なんて手に入れちゃいない。

    見当違い……と言いたいが、ソフィを信じると頭の中で何かが叫んでいる気がする。
    根拠も何もないが……信じるしか、ないのだろう。

    「ただ、私がこの世界へ来たのはその道具を追って、ではないの」
    「……なに?」
    「今回、その道具の流出は起きていない。ただこの世界に在ってはならないものの反応を感じたから、それを確かめるために来た」
    「……」
    「あなたにコンタクトを取ったのは、それがいつかあなたの前に現れる可能性が高いから」
    「俺の前に……って、俺はウマ娘でもなんでもないただの人間だぞ? その道具ってやつも持っちゃいないし」
    「いいえ、あなたはそれをすでに手に入れている」
    「……え?」
    「この話はまたいずれ。ひとまず安心なさい、その道具があなたやその周りに悪さをするわけではないから」
    「はぁ……」
    「今はこれまで通り、あなたの仕事をすればいい」
    「……言われなくてもそのつもりだけどな。俺はソラとハルカのトレーナーだから」
    「えぇ」

  • 69◆iNxpvPUoAM23/07/26(水) 20:36:58

    異世界からの来訪者。
    道具の流出。
    俺は持っている……どれもわけのわからんことばかりだ。

    ただこれまで通りに過ごしていいなら、それに越したことはない。
    俺もソラもハルカも、やらなくちゃいけないことは山積みだ。
    道具探しとか、ヒト探しとか、そんなことをしてる余裕はない。

    ……ただ、これまでのソフィの話の中で気になることがひとつだけある。
    いまの話を聞いて、ひどく不安になるようなことだ。
    それを確かめる前には帰れない。

    「ひとつ聞いていいか」
    「なに?」
    「“領域”の話」
    「……」
    「お前、ソラやミヤコの“領域”のことをよく知ってる風だったよな? もしかしてとは思うが、その道具が関係してたりしないよな」

    しないでいてほしい、という気持ちがある。
    しかしらあいつらの“領域”は俺が調べて知っているものとは明らかに異質で、次元の違うもののように思えた。
    だからその理由付けとしては、その道具が関係してると思ったわけなんだが……。

    「簡単に言えば、その通りよ」
    「マジかよ。マジなのかよ」
    「道具の流出は起きていない。けれど……そうね、違う世界で彼女たちが手にした力。その力だけが伝播している……と言ったらいいかしら」
    「……つまり道具自体は流れてきてないが、違う世界であいつらが手に入れてた力だけは流れてきてると?」
    「そういうことね」
    「……危険は?」
    「ない、とは言い切れない」
    「……」

  • 70◆iNxpvPUoAM23/07/26(水) 20:37:31

    「特にソラは注意しなさい。力の制御には強い心が必要よ」
    「……あいつ、メンタル弱いもんな。わかった」
    「話が早くて助かるわ」
    「いや、俺も今までずっと疑問だったことが少し腑に落ちた感じだ。本来ならあいつらは“領域”を手にするほどのウマ娘じゃなかったってことだろ」
    「そうとまでは言わないけれど……こちらの世界のことはまだよくわかっていないし」
    「まあ、いいんだ。あいつらはその異世界の力のおかげでレースで戦えてるってことなんだろ」
    「あの子たち自身の力よ」
    「……ああ」
    「今日は帰るわ。また何かあれば呼びなさい、今後はどこへでも駆けつけてあげる」
    「わかった。俺も帰るわ、まだ整理ついてねーし」
    「だと思うわ。ゆっくり眠って気持ちに整理をつけなさいな」
    「ソフィってヒトを気遣えるやつだったんだな」
    「ハァ!?」
    「はは、冗談だよ。ありがとう」
    「……なんなのよあなたは」
    「じゃあな」
    「ええ、またね」

  • 71◆iNxpvPUoAM23/07/26(水) 20:38:54

    駐車場に着くと同時、ソフィはひらひらと手を振ってから俺に背を向けた。

    「うぉ、ぉ……っ」

    するとソフィの周囲の空間が歪み、収束し、消える。
    無駄にかっこいい演出でいなくなりやがった。
    しかしそれが……超常的な存在であることの証でもある。

    「……なんか、やべぇ話になってきちまった感じだ」

    異世界の住人に、流れてきた力に、存在しちゃいけないもの?
    わからんことばっかりだ。
    ただまぁ、ひとまず普段通りでいいってことならそうさせてもらう。
    ウマ娘でもない俺は、ただの非力な人間。
    力仕事すらウマ娘に勝てないレベルの弱い人間だ。

    いまは目先のレースのことだけを考えていたい。
    ハルカのフローラステークスに、パルフェの天皇賞・春、そしてソラのオークス。
    レース続きで大変だが、それが楽しくてやってる仕事だしな。

    「帰るか」

    俺は財布を取り出し、コインパーキングの機械に小銭を入れた。

    「くそ……300円になってる」

    話し込んじまったせいだ。
    あれがなかったら200円だったのに。

  • 72二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 06:54:20

    大事な話が100円だったと考えれば安いものさ……

  • 73二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 16:30:59

  • 74二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 01:42:57

  • 75二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 10:09:05

  • 76二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 21:02:13

  • 77二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 08:20:27

  • 78二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 20:07:42

  • 79二次元好きの匿名さん23/07/30(日) 07:50:32

  • 80二次元好きの匿名さん23/07/30(日) 19:49:13

  • 81二次元好きの匿名さん23/07/31(月) 07:32:47

  • 82二次元好きの匿名さん23/07/31(月) 07:33:25

  • 83二次元好きの匿名さん23/07/31(月) 09:35:30

    頬染めにいやん!!?

  • 84二次元好きの匿名さん23/07/31(月) 19:29:50

    待ってるうちにトンチキな縦読みが出来上がってて芝

  • 85二次元好きの匿名さん23/08/01(火) 03:29:09

    ほしゅ

  • 86二次元好きの匿名さん23/08/01(火) 12:59:00

    待機

  • 87二次元好きの匿名さん23/08/01(火) 21:03:36

    たいき

  • 88二次元好きの匿名さん23/08/02(水) 08:30:49

    保守

  • 89二次元好きの匿名さん23/08/02(水) 19:26:20

  • 90二次元好きの匿名さん23/08/03(木) 00:28:38

  • 91二次元好きの匿名さん23/08/03(木) 04:36:32

    ほし

  • 92二次元好きの匿名さん23/08/03(木) 04:38:40

    やっぱり体の中にアレが入ってるのか力だけ僅かに入ってる?

  • 93二次元好きの匿名さん23/08/03(木) 15:41:52

    こっちでのアレの形的に三女神とも関係ありそう

  • 94二次元好きの匿名さん23/08/03(木) 16:22:07

    フフ…この世界にAFの力が…!我が輝きが…!

  • 95二次元好きの匿名さん23/08/03(木) 23:48:49

    一応力だけっぽそうだけど……変化するかもね?

  • 96二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 00:12:05

    となると他のウマ娘もなんかヤバそう
    会長とかどっかのスレで見たみたいに三人適当に抜いたら発電できそう

  • 97二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 11:31:34

    ピニャ

  • 98二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 22:19:35

  • 99二次元好きの匿名さん23/08/05(土) 08:47:24

  • 100二次元好きの匿名さん23/08/05(土) 19:38:50

  • 101二次元好きの匿名さん23/08/05(土) 20:07:31

  • 102二次元好きの匿名さん23/08/05(土) 20:11:02

  • 103二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 02:16:57

  • 104二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 11:34:35

  • 105二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 19:30:48

  • 106二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 23:04:22

  • 107二次元好きの匿名さん23/08/07(月) 08:39:12

  • 108二次元好きの匿名さん23/08/07(月) 18:11:54

  • 109二次元好きの匿名さん23/08/07(月) 18:34:32

  • 110二次元好きの匿名さん23/08/08(火) 02:07:46

    コラボ商品っぽい縦読みが出てて芝

  • 111二次元好きの匿名さん23/08/08(火) 13:16:12

    保守

  • 112二次元好きの匿名さん23/08/08(火) 23:09:08

  • 113二次元好きの匿名さん23/08/09(水) 10:16:42

  • 114二次元好きの匿名さん23/08/09(水) 21:18:03

  • 115二次元好きの匿名さん23/08/10(木) 08:14:25

    保守

  • 116二次元好きの匿名さん23/08/10(木) 19:23:21

    しゅほ

  • 117二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 00:40:22

    ーイ

  • 118二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 12:16:05

    モーイ

  • 119二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 22:07:47

    2週間くらいまともなレスないのはなかなか重症ではこのスレ…?

  • 120◆iNxpvPUoAM23/08/11(金) 22:40:03

    更新できてなくて申し訳ありません…
    なるはやで続き投下しますのでもうちょっっとだけお待ちください……!!

  • 121二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 10:13:23

    待っております

  • 122二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 21:17:39

    待機保守

  • 123二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 04:36:42

    保守

  • 124二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 13:42:44

  • 125◆iNxpvPUoAM23/08/13(日) 22:36:08

    ────自宅

    「ただいま」

    ため息を吐きながら鍵を開けて、家に入る。

    ……今日は色々あってすげぇつかれた。
    さっさと風呂に入って寝たい……。

    んだけど、なぁ……。

    がらりと部屋へのドアを開けて、

    「……なにやってんのお前ら?」

    また、ため息。

    「ぁれ、にぃやん帰ってきたの?」
    「えっ!? ぁ、ぉ……お、おじゃま、してます……」

    部屋にいたのはソラと、まさかのハルカ。
    テレビにゲームを繋いでふたりで遊んでいるらしかった。
    やってるのは……スマブラか。

    俺の帰宅が想像より早かったのか、驚いた顔で目をぱちくりさせている。

  • 126◆iNxpvPUoAM23/08/13(日) 22:38:01

    「悪いなハルカ。こいつの面倒見てもらって」
    「い、いえ! 私も楽しい、ですから」
    「助かったよ。門限は大丈夫か?」
    「ぇ……ぁ、え、と、ぁ、ぁの、その」
    「?」

    「にぃになんで帰ってきちゃったの?」
    「はぁ? 俺んちだろーがよ」
    「朝帰りだと思ってた。わざわざハルカ先輩、外泊届出してきてくれたのに」
    「は? え?」

    嘘だろ?
    ハルカへ視線を移すと、

    「……ぁ、はは」

    と苦笑い。
    そしてカバンから差し出される一枚の紙────……外泊届け許可証明書。
    ご丁寧に寮長のハンコつき。そしてトレーナー室から勝手に取ったのだろう、俺のハンコもだ。

    ははーん、なるほど?

    「ソラてめぇの仕業だな」
    「……」
    「なんか言えや」
    「アタシベツニナニモシテマセンケド」

    こいつぶっ飛ばしてやりてぇ……。

  • 127◆iNxpvPUoAM23/08/13(日) 22:38:39

    「ハルカ」

    「ぁ、はい……ぇと、ソラちゃんが、トレーナーさんが帰ってこなくて寂しいからお泊まりに来てほしい……と」
    「ちょ、ハルカ先輩なんでバラしちゃうんすか!?」
    「ゃ、やっぱりちゃんと……許可は、もらわないと……」
    「ぐっ……にぃやん!」

    「んだよ」
    「ハルカ先輩泊めて?」
    「あぁ」

    「ぇ」

    「ちゃんと出してきたんだろ? 外泊届け」
    「は、はぃ」
    「じゃあ泊まってけ。俺は……風呂で寝るか」
    「ぇぇえっ!? そ、そんな……むしろ私が!」
    「お客さんをそんなとこに寝かせるわけないだろ。俺ので悪いけど、布団使ってくれたらいい」
    「と、トレーナーさん……」

    「さっすがにぃに! ぶっきらぼうでそっけない雰囲気しといて実は優しい!」
    「お前あとで説教な」
    「え゛っ!? なんで!」
    「当たり前だろアホ」

  • 128◆iNxpvPUoAM23/08/13(日) 22:46:32

    「アホじゃないですぅ! そもそも帰ってこないみたいな言い方したにぃにが悪いんですぅ!」
    「夕飯だけっつったろーがよ! ……ってか、お前らちゃんと食べたのか?」
    「ぁ、食べましたよ。ね、ハルカ先輩」

    「ぁ……は、はい。ソラちゃんの……行きたいって、イタリアンのお店で……」
    「へぇ、初めて聞いた。お前俺にはそんなこと言わなかったろ」

    「だってにぃに、パスタのこと麺類とか言っちゃうオシャンティさのかけらもない奴じゃん」
    「……麺類は麺類だろ」
    「はー……これだから兄上は」
    「あ?」
    「あのねぇ、パスタは“映え”なんですよ」
    「はぁ」
    「オシャレなお店でオシャレなパスタとピザ食べてウマスタにあげるのがステータスなんですよ、今時の若者の」
    「ほぉ。で、あげたの?」
    「……ん?」
    「ウマスタ。あげたの?」
    「……」
    「あげてねぇんだな」
    「はい」
    「今時の若者?」
    「あのー、あれですあれ。ちょっと聞いてもらえます?」
    「おう」
    「あたしと、ハルカ先輩なんですよ」
    「うん」
    「陰キャと、陰キャなんですよ」
    「……」

  • 129◆iNxpvPUoAM23/08/13(日) 22:48:15

    「ふたりとも緊張してて、味とか覚えてないレベルの陰キャなんすよ」
    「……」
    「写真も撮ったけど……盛り方とか何もわかんなくてほんと、ただのファルコンランチみたいな撮り方になってて」
    「……」
    「とりあえず食べてお店出て、せっかくいいもの食べたのに今時の若者っぽいこと何もできない自分たちを誤魔化すために、せめておいしかったね〜……みたいな会話だけして帰ってきたあたしたちを見て、どうお思いですか兄上」
    「……なんか、うん」
    「ちなみにですね」
    「うん?」
    「帰りにコンビニで食べたガリガリくんが、今日食べた中で一番美味しかった」

    「ぁ、はい、美味しかったですね……! 緊張とか色々なもので暑くなりすぎてた身体が冷えてくみたいで……」

    「次からナインボール行こうな」

    『ぐすん……』

  • 130◆iNxpvPUoAM23/08/13(日) 22:48:46

    ・・・

    「とりあえず風呂入るわ」
    「うぃー」

    「ぁ、す、すみませんまだ洗えてなくて……」
    「ん? なんでハルカが?」
    「ぇ……あ、ぇと」
    「お客さんにさせられないって。そういや、ふたりは風呂は?」

    「まだ。今やってるゲームで負けた方が洗おうって言ってたとこ」
    「……お前ハルカにやらせる気だったのか」
    「だって泊めてもらうだけじゃ、って。あたしも自分でやるつもりだったよ」
    「ほぉ……」
    「なんだよその目はぁ! ほんとだからね!?」
    「へいへい。俺洗うから、悪いけど先に入らせてくれ」
    「は〜? お客さん来てるのに〜?」
    「あ?」
    「すみません」

    「だ、大丈夫です! 私、一番最後で! むしろ最後のほうが……グフ」
    「……先輩? なんかあかん声漏れませんでした?」
    「ふぇっ!? あ、いえ、あの、その」
    「やべぇ側面見た気がする……」

  • 131◆iNxpvPUoAM23/08/13(日) 22:57:53

    ハルカのやばい声は聞かなかったことにして風呂場へ。
    さっさと洗って湯張りして、さくっと済ませた。
    続いてソラが入り、最後にハルカが入ってお湯を抜いて。
    ハルカが風呂に入ってる間、なんか変な声が聞こえた気がするが……これもやっぱり聞かなかったことに。
    あれはつっこんだらあかんやつだ。

    「にぃにもう寝る?」
    「ん? なんで?」
    「めちゃくちゃ疲れた顔してる」
    「ぁー……」

    確かに今日は色々疲れた。

    ソフィの異世界の話とか、ミヤコの“領域”とか……色々と情報というか、出来事が多すぎてパンクしかけだ。
    ほとんど何も噛み砕けてないが、ミヤコが勝てたということだけは確かなことで。

    「勝ててよかったね、ミャーコ先輩」
    「あぁ」

    「2人で中継を見ていて、とても嬉しくなっちゃいました」
    「ね! めっちゃ手握って大声で応援しましたもんね!」

    どうやらふたりも応援していてくれたらしい。
    それが嬉しくて、疲れた心が少しだけ癒された気がした。

  • 132◆iNxpvPUoAM23/08/13(日) 22:59:27

    それからしばらくミヤコのレースの話をしたり、スナック菓子をつまみながらくだらない話をしたり、三人でハルカおすすめのアニメ映画を見たりして時間を過ごした。
    そうして時刻は日付を超えたあたり。

    「悪い、先に寝るわ」

    身体の疲労も限界で瞼が重くなっていた俺は毛布だけ抱え、風呂場へ向かっていく。

    「にぃやんおやすみー」
    「ぁ……す、すみません、本当に……」

    「いいって。ゆっくり寝て、明日からまた週末のレースに向けて調整してくからな」
    「は、はいっ!」

    そう、週末はハルカのフローラステークスだ。
    正直あり得ないローテーションではあるが、ハルカの夢見る天皇賞・秋の舞台を見据えてのレースだ。
    東京で走ったという経験を得ておくことは大切だと思うし、なにより秋天と同じ距離なのが大きな武器になるはずだ。

    ハルカの苦手なスタミナ調整や、“領域”を発動した後のフルスロットル……それの制御も踏まえて経験を積むのがハルカにとって一番のはず。

    ……そのあとはソラのオークスも控えている。
    やることは山積みで、考えることも山積み。
    まだまだ頑張らなくちゃな。

    「さてと」

    いったん考えを振り払うようにわざと口に出してから、風呂場の扉を開けて────

    「……」

    絶句した。

  • 133◆iNxpvPUoAM23/08/13(日) 22:59:54

    「ちょ、まっ……おい!」

    リビングに戻って、

    「ぁ」

    ものすごい顔で俺を見るハルカ。
    ……どうやら察しがついたらしい。

    「す、すみませんすぐに片付けます……!! 汚いものを見せてしまってすみません、すみません、すみませんすみません〜!!!」

    ばたばたと風呂場へ走っていく。
    ただならぬ様子にソラが首を傾げ、

    「どったん? 話聞こか?」
    「お前ぶっ飛ばすぞ」
    「なんでだよっ!? ……ほんとにどしたの?」
    「……ハルカが風呂場に干してた」
    「ぁ〜……あたしが教えましたね。洗濯したの、お風呂場に干したらいいよって」
    「……」
    「ごめんて」
    「……」
    「ごめんって〜!」

    ちょっとだけ申し訳なさそうな顔のソラにため息で返してから、ハルカを追う。
    風呂場へ戻ると、ちょうどハルカがわたわたと……その、干してあった下着を片付けようとしているところだった。

  • 134◆iNxpvPUoAM23/08/13(日) 23:14:35

    「ぁ〜……ハルカ、さん?」
    「ぴゃ!? ぁ、いえ、その、す、すぐ片付け終わりますから!」
    「いいよ」
    「よくないですっ! こ、こんなお見苦しいものを……」
    「干してていいから」
    「ぇ……その、ほ、干したまま、寝ます?」
    「寝るかっ!」
    「で、ですよね……やっぱり」
    「片付けなくていい。台所ででも寝るさ」
    「そ、そんな。お布団もないのに」
    「まだ乾いてないだろ? うち、乾燥機ないし」
    「それ、は……」
    「それと……ごめん、その、見ちまって」
    「い、いえ! そんな……」
    「じゃあ、その……うん、寝るから」
    「ぁ……は、はい」
    「お疲れ。干してていいからな」
    「……はい、すみません」

    ぺこりと頭を下げるハルカに手を振り、風呂場を後に。

    「ブラおっきかった?」
    「黙れ」
    「はい」

    クソみてぇなことしか口にしない妹に、一瞥すらくれてやらずに叩きつけて台所へ。

  • 135◆iNxpvPUoAM23/08/13(日) 23:15:11

    適当に場所を開け、毛布を敷いて横になる。
    タオルを重ねて枕にすれば……ああ、これなら寝れそうだ。

    「おやすみにぃに」
    「おう」

    「ぉ、おやすみなさい……トレーナーさん」
    「ああ、おやすみ」

    リビングの方から聞こえてくるふたりに返事して目を閉じると、驚くほどすぐに俺は眠りに落ちた。
    よほど疲れていたらしい。普段できる気遣いも全然できなかったくらいだしな……。

    ハルカに嫌な思いさせてなきゃいいが……ともかく、今はこのまま……────

  • 136◆iNxpvPUoAM23/08/13(日) 23:18:50

    短いけどここまで
    待たせてるくせに短くてごめんなさい

  • 137二次元好きの匿名さん23/08/14(月) 09:02:15

    お疲れ様です
    なんやかんや姉っぽいところに収まってる気がする先輩

  • 138二次元好きの匿名さん23/08/14(月) 13:51:39

    久々の更新ありがてえ…ありがてえ…

  • 139二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 00:56:44

    待機

  • 140二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 12:12:39

  • 141二次元好きの匿名さん23/08/15(火) 21:56:46

  • 142二次元好きの匿名さん23/08/16(水) 08:16:50

  • 143二次元好きの匿名さん23/08/16(水) 19:18:13

  • 144二次元好きの匿名さん23/08/17(木) 05:30:43

    保守

  • 145二次元好きの匿名さん23/08/17(木) 17:19:06

    保守ーイ

  • 146二次元好きの匿名さん23/08/18(金) 00:51:35

  • 147二次元好きの匿名さん23/08/18(金) 11:16:44

オススメ

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