[SS]繋がり(後編)

  • 1二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 13:21:22
  • 2二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 13:39:51

    保守
    そして期待

  • 3二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 13:57:02

    待ってた

  • 4二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 14:31:30

    保守

  • 5二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 14:33:56

    期待保守

  • 6二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 15:19:03

    確固たる保守

  • 7二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 16:49:06

    保守

  • 8121/12/16(木) 18:44:10

    「トレーナー……!」

     真っ暗な寝室に駆け込むと、トレーナーは布団の中で深い寝息を立てていた。
     顔を近づけると、遠目ではわからなかった幸せそうな寝顔が見える。
     少し酒臭いのはご愛嬌だ。
     私はようやく生きた心地を取り戻して、トレーナーの隣に寝転がる。
     硬い畳の鑑賞が背中越しに伝わった。

    「能天気なツラしやがって……」

     私がいなくなってもそんな風に過ごせるのかよ。私たちは結局、馴れ合いに溺れる弱い心の持ち主に過ぎなかったんだぞ。
     いや、それすら私の幻覚かもしれない。
     私だけがトレーナーに溺れていて、その責任を彼にも擦りつけたくて共依存などという都合のいい妄想を繰り広げていただけかもしれない。

    「認めねえ」

  • 9二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 18:50:22

    保守

  • 10二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 19:13:47

    保守う

  • 11二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 23:20:11

    保守

  • 12121/12/17(金) 00:44:14

    >>8

     私はその時、自分でも驚くくらいに冷静だった。

     トレーナーを包む毛布を剥いで、代わりに私が覆い被さる。

     こいつの口から引き出すのだ。俺にはナカヤマフェスタが必要だと。

     歪んだ妄想なら現実にしてしまえ。深く深く、二人だけの世界に溺れてしまうのだ。

     そうすれば何も考えずに済む。


    「はあっ、はあっ……!」


     自然と息が荒くなり、胸の鼓動が速くなる。

     今からするのは、トレーナーへの、そして二人で積み上げてきた競走生活への裏切りだ。

     最後の理性がそんな警告を発するが、もはや聞こえない。

     私はトレーナーを壊す前に、緊張を鎮めようと深く息をした。

     そして、彼の姿をまじまじと見下ろす。


    「トレーナー……」


     最初に浮かんできたのは憐憫だった。

     私より頭二つ程背が高くて、感情豊かな気取り屋で、私の事を第一に考えてくれて、そして時には私以上の貪欲さで勝利に食らいつく勝負師も、今となってはまな板の上の鯉。蹂躙されるのを待つばかりの獲物なのだ。

     人間はウマ娘に勝てない。

     そんな当たり前の事実を、今更ながら噛み締める。


    「……ごめんな」

  • 13二次元好きの匿名さん21/12/17(金) 00:47:39

    湿気ったナカヤマめちゃくちゃいいな

  • 14121/12/17(金) 01:01:03

    >>12

     せめて優しくしてやる。

     そう思いながら唇を奪おうとした時、私は信じられないものを目撃した。

     それは開かれたトレーナーの黒い瞳だった。

     咄嗟に顔を離した私に、トレーナーは普段と変わらない調子で言った。


    「んだよ、そんなにビビるなって」

    「なっ、なんで起きて……」


     あれだけ酒を飲んだならば、そう簡単には目が覚めない筈——


    「あんだけ酒を飲んだのにどうして、とか考えてるだろ」


     嘘だろ、完全に見透かされた。

     やりい、と無邪気にガッツポーズをしたトレーナーは、今度は淡々とした口調で告げる。


    「あの時飲んだ酒ね、あれ実はノンアルなんだわ」

    「の、ノンアル……?」

    「そ。ノンアルコールビール。まあちょっとは普通のも飲んだんだけどね。お前がまだ酒の味を知らなかったお陰で、上手く誤魔化せた」

    「じゃあ、今までのは全部」

    「演技だよ。元演劇部の血が騒いじまってなぁ!」


     はっはっは、と豪快に笑うトレーナーだが、未だ私の優位は覆せていない。

     私がその気になれば、すぐにでも手篭めにしてしまえるのだ。

     だから私は、その前に一つだけ質問した。

     何故私を欺くような真似をしたのか、と。


    「あー……そうだなぁ」


     トレーナーは笑うのをやめて、真剣な面持ちで口を開いた。

  • 15二次元好きの匿名さん21/12/17(金) 07:48:23

    保守

  • 16二次元好きの匿名さん21/12/17(金) 13:24:13

    保守

  • 17二次元好きの匿名さん21/12/17(金) 22:10:34

    ほしゅ

  • 18二次元好きの匿名さん21/12/17(金) 23:37:15

    保守

  • 19二次元好きの匿名さん21/12/17(金) 23:39:52

    湿気がエグくなってきた
    好きすぎる

  • 20二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 10:10:22

    保守

  • 21二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 16:43:05

    保守

  • 22121/12/18(土) 23:35:06

    >>14

     トレーナーが語ったのは、この家に着いてからの私の異変だった。

     無意識のうちに現れていたクセや仕草、視線、態度。それらを一つ一つ列挙して、私の抱えているものを少しずつ看破していく。


    「で、疑惑が確信に変わったのが26個目。お前が鍋から豆腐を取った時だ。いつもなら肉を取るはずの状況でな。それで俺は、お前に話を聞こうとした」


    「……それが何故、酔ったフリに繋がるんだよ」


    「だってお前、素直に誰かを頼ったりすんの苦手だろ? だから待つ事にした。隙だらけを装って、お前が仕掛けてくるのをな。まさかここまでされるとは思わなかったけど」


     ははは、と苦笑するトレーナーの目に恐怖は無かった。

     あるのはただ己の策が上手くいった事に対する喜びと、担当ウマ娘の悩みを聞き出し、向き合おうとする誠実さだけ。

     そんな目で見つめられた私は、いつの間にか全てを吐き出していた。

     ずっと燻り続け、ついに爆発してしまった黒い火種の正体を。


    「……寂しかったんだ。ターフを去って、アンタと離れる事に耐えられなかった。だから私はアンタとの繋がりを保とうとしたんだ。……こんな、最低の手段を使ってでも」


     涙ぐむ私の頬を拭って、トレーナーは深く頷く。

     そんなトレーナーの優しさに寄りかかるように、すっと言葉が溢れた。


    「なあ、アンタはどうなんだ。アンタも私と……離れたくないって思ってくれるか?」

  • 23二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 23:57:03

    加湿器だ

  • 24二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 10:23:45

    保守

  • 25二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 14:46:18

    保守

  • 26二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 18:30:11

    保守

  • 27二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 00:14:24

    保守

  • 28121/12/20(月) 01:22:52

    >>22

    「当然、思ってるさ」


     即答だった。だが私が安堵するのも束の間、トレーナーは苦い顔で続ける。


    「だが無理だ。俺はお前に、走り以外の事を何も教えてやれなかった。そんな奴と一緒にいたって、お前の中の問題は解決しねえよ」

    「問題? 知るか、アンタといればそんなもん」

    「それだよ」


     私の言葉を遮って、トレーナーが言った。


    「俺たちは相性抜群のコンビだった。だからこそ俺たちは、互いを自分の抱える問題から目を背ける理由にしてしまったんだ。無意識のうちにな」

    「互いって……アンタにもあるのかよ、問題が」

    「ある」


     トレーナーが頷く。こいつはこれまで、そんな素振りを微塵も見せなかった。いや、私が気づかなかっただけかもしれない。

     彼は深く息をすると、心の奥底に閉じ込めた記憶を引っ張り出すように語り始めた。


    「お前を担当する前の事だ。本当に短い間だが、俺はあるウマ娘の専属トレーナーだったんだ」

    「私の前……?」

    「そうだ。そいつはお前とは真逆のタイプだったなぁ。で、俺も初めての担当ウマ娘だったからすげえ浮かれててさ。『こいつを世界一のウマ娘にする!』なんてでっかい夢を大真面目に追いかけてたよ」

    「それから、どうしたんだ」

    「俺は徹底的に研究を重ねた。脚質に合った負荷のかかり辛い走り方に、フォームの調整、息遣い、それから仕掛けるタイミング……。挙げていけばキリがないが、とにかく教えられる限りの事を教えたよ」


     意外だった。あまり細かい指示を出さない方針を取っていたトレーナーが、ここまで理論派な指導をしていたとは。

     トレーナーは続ける。


    「でもそんなある日、そのウマ娘に切り出されたんだ。もう専属契約を解除したいって。まだひと月も経ってなかったっけ」

  • 29121/12/20(月) 01:59:42

    >>28

     厳しすぎて着いていけない。そう言ってそのウマ娘はトレーナーの元を去ったらしい。

     バカな話だ。勝負の世界が厳しいのは当たり前だろうに。


    「……で、夢と担当をいっぺんに失って宙ぶらりんになってた所に現れたのが、お前だった」


    「そうだったな。あの日のアンタは本当に酷い顔をしていた」


     出会った当初のトレーナーの顔を思い浮かべて、私は苦笑する。

     そんな彼の姿がレースに出会うまでの自分と重なって見えたから声をかけた。それが私たちの始まりだった。


    「お前は厳しいトレーニングに着いてきたし、何よりも勝ちたいという気迫に溢れていた。そのためにならどんな犠牲だって払うとでも言わんばかりに」


    「その通りだ。それが私の生き方だからな」


    「俺はその気迫に惹かれた。一度は捨てた夢が、叶うかもしれないと思った! ……俺はお前を、夢のために利用していただけだったんだ」


    「そして私も、そんなアンタの距離感を気に入っていた。私を強くしてくれて、レースの手配もしてくれるだけのビジネスパートナー。それが私にとってのアンタだったよ」


    「へっ、お互い様ってわけだ」


     トレーナーがまた、今度は自嘲的に笑う。

     こんな歪な形だけれど、過酷な勝負の世界を共に生き抜く相手が出来た事は素直に嬉しかった。

     そしてそれは無自覚な依存心へと変わり、やがて私はトレーナーの家に上がり込むようになった。

     トレーナーもそれを快諾した。無関心故に。


    「今さら謝って許される事じゃないが、本当にごめん。過去の失敗なんて忘れて、お前個人に向き合うべきだった。もっとお前の心に寄り添う事が出来れば、ここまでお前を追い詰めちまうことも、なかったのに、なぁ」


     懺悔しながら、トレーナーは涙を流していた。

     嗚咽混じりの声で過去を悔い、必死に許しを乞う彼はもうビジネスパートナーでも依存の対象でもなく、弱さを抱えた等身大の人間に過ぎなかった。

  • 30二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 02:30:44

    保守

  • 31二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 03:10:05

    保守

  • 32二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 08:36:37

    保守

  • 33二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 17:47:26

    保守

  • 34二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 20:14:16

    保守

  • 35二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 00:33:36

    保守

  • 36121/12/21(火) 01:52:11

    >>29

     私はトレーナーから体を離し、毛布を再び被せる。


    「いや、私を追い詰めたのは私自身だ。アンタのせいじゃねえよ」


     この男は、私にとって理想のトレーナーだった。

     きっと徹底的に調べ上げたのだろう。彼はあらゆる角度から私を分析し、トレーニング方針や作戦だけでなく、自分自身の性格まで私に最適化させてしまった。

     私はそんな理想像の虜になって彼の本質を見落とし、それを失くしたくないがためにトレーナーを襲ってしまった。

     自業自得だ。


    「何言ってんだよ、俺がもっとしっかりしてれば」


     未だ懺悔を続けるトレーナーは、もうかつてのトレーナーではない。

     それがどうした。

     嘘偽りのない本来のトレーナーにようやく会えた。それだけで心に喜びが満ちてくる。

     本当は謝らないといけないのに、気付けば私は感謝を口にしていた。


    「……ありがとうな」


    「えっ?」


    「それが本当のアンタなんだろう? 愚直で不器用な今のアンタが。……見せてくれて、ありがとう」

  • 37二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 09:36:36

    保守

  • 38二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 12:42:19

    保守

  • 39二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 19:52:33

    保守

  • 40二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 22:41:40

    保守

  • 41二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 01:04:48

    保守

  • 42121/12/22(水) 02:13:19

    >>36

     発言の意図がわからない、という風にトレーナーが私を見詰める。

     恐らくは幻滅されると思ったのだろう。


    「……気持ち悪くないのか? 俺はお前に、出会ってから今日までずっと嘘を吐き続けたんだぞ」


    「今はもう嘘吐きじゃない」


     私も、もう心を隠さない。

     1からやり直すのだ。担当ウマ娘とトレーナーではなく、私とアンタとして。


    「……私はもっとアンタを知りたい。笑った顔も泣き顔も、アンタの全てが見たいんだ」


    「俺もだよ。俺もフェスタを知りたい。データや分析じゃ測れない、心を見せてほしい」


     そうか、最初からこうすればよかったんだ。

     過ちに向き合い、互いの目を見て心を通わせた今日という日から、私たちの本当の繋がりは始まる。

     出遅れた挙句掛かりに掛かってしまったが、まだまだ先は長い。慌てる程ではないだろう。


    「……へくちっ!」


     安心したら急に寒くなってきた。

     くしゃみをした私はトレーナーの布団に潜り込んで、事後報告をした。


    「今日だけ、一緒に寝させてもらうぞ」

    「はいはい、わかったよ」


     一線を越える心配は無いと判断したのか、トレーナーはあっさりと布団の面積を分け与えた。

     それまでの疲れと人肌の温もりが重なり、私たちはすぐ深い眠りに落ちていく。

     次に意識を取り戻したのは、翌日の午前11時を過ぎた頃だった。

  • 43二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 13:08:50

    保守

  • 44二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 19:29:58

    保守

  • 45二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 00:04:41

    保守

  • 46121/12/23(木) 01:43:11

    >>42

    「……寝過ごしたな」


    「ああ、完全に寝過ごした」


     窓から降り注ぐ日差しを浴びながら、私たちは布団の中で天井を見つめて呟いた。

     起き上がらなければいけないとわかってはいるが、布団の温もりはそう簡単に私たちを手放してはくれない。


    「もうちょっとだけ寝てようぜ」


    「何言ってるんだ、起きるぞ」


     トレーナーは無理矢理布団を取っ払い、そのまま洗面所へと向かう。

     釣れない奴め。そう心の中で呟きながら私も起き上がり、トレーナーの後に続いた。


    「そろそろ帰らなきゃな」


     簡単な身支度をしてバターロールと牛乳だけの遅い朝食を平らげると、すぐに別れの時はやってきた。

     玄関前で見送るトレーナーに、軽く手を振りながら言う。


    「色々と世話になった。……またな」

    「ああ、また」


     私は彼に背を向けて、玄関の扉を開けた。

     錆び付いていた筈の扉が、何故か音を立てる事なく私と外界を繋げる。

     扉の向こうに踏み出そうとしたその時、私はある事を思い出して立ち止まった。


    「そうだ、一つ言い忘れていた事がある」

    「言い忘れていた事? 何だそれ」

    「……一度しか言わねえから、よく聞けよ」

  • 47121/12/23(木) 01:57:46

    >>46

     それは、昨日出来た新しい夢。

     私たちが走るもう一つのレース。


    「私はトレーナーになる。今度は指導者として凱旋門賞制覇を目指すんだ。だからそれまで、トレーナーを辞めるなよ」


     トレーナーとして結果を残すウマ娘は少ない。だが、それがどうした。

     常識や前評判を覆す事には慣れてる。今度だって上手くいく。賭けてもいい。


    「……ああ、勿論だ!」


     トレーナーは、少年のような笑みを浮かべて頷いた。

     私は玄関の戸を閉め、二度と振り返る事なく学園への帰り道を歩いていく。

     これから待ち受けるのは、トレーナーになるための勉強の日々だ。

     まずは記号問題でヤマを張る癖を直す事から始めよう。

     そうやって一つ一つ積み重ねて、再び彼の隣に並び立つのだ。


    「待ってろよ」


     私は肌寒い秋風を浴びて進んでいく。いつかトレーナーを、相棒と呼ぶ日のために。


  • 48二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 07:37:53

    おつかれさまでした!

  • 49二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 07:42:22

    最高

  • 50二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 08:02:05

    読み応えあって良かったです!お疲れ様です!!

オススメ

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