(SS) グミだった!!!!!!(トレルビ)

  • 1二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 23:26:33

    ダイイチルビーのトレーナーは、疲れていた。

    それはもうクッソ疲れていた。

    そもそも彼は多忙である。
    まず、中央トレセンのトレーナーである。
    そして華麗なる一族、ダイイチルビーの専属トレーナーである。

    歴史的名家の末娘の側に立つトレーナーとして相応しい者になろうと、ひたすらに研鑽に没頭した。
    いまや誰もが認める(当の本人は除いて)「華麗なる一族のトレーナー」は、公的な場での語学、貴人・好事家の視点に立った美術・芸術の知識を有している。

    そしてそれは、新たに始まった世界一を目指す一大プロジェクト──プロジェクトL'Arcにとって得難い人材だった。
    付け焼き刃ながら、フランスの貴人とも渡り合う術を持つトレーナーは他にはいない。担当諸共すっかりあっちこっちに引っ張りだこになっていた。

    そんな訳で、昨日は通常業務とルビーが招待された宝石展への同行。今日は通常業務と凱旋門賞への挑戦者の語学指導を消化した彼は──もうメッタクソのバチボコのマチュピチュに疲れていた。
    血管の中にはエナジードリンクとコーヒーとゼリー飲料のカクテルが巡っている。

    ルビーが「短距離の道で最もたる輝きを示すという新たな道を中途半端で投げ出すべきではありません」とプロジェクトの参加を断ったのは、残念半分で安心も半分だった。これ以上はたぶん死ぬと。

    内心ゾンビと化しながらも虚勢を崩さず堂々と歩き、トレーナー室についた途端に崩れ落ちる様にデスクについた。
    今日は自分もルビーも休日。彼女に会いたい気持ちも山ほどあるが、お互い休息は必要だ。
    明日の準備をしたら、夕飯の時間まで一族の邸宅から貸し出されたレース史を読み込んで終わろう。


    そう決めてカフェインで血走った目を擦って姿勢を正すと、デスクの隅に見慣れないものが鎮座している。

  • 2二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 23:26:58

    カフェオレで満たされた愛用のマグカップの隣。端々にブリリアントカットが施された美しい青いガラスの容器に、黄色の造花。そして書き置き。

    見慣れた美しく硬い筆跡。ルビーの字だ。
    ただ端的に「休養を怠らず。ご自愛下さいませ」とだけ記されている。

    心配をかけてしまっただろうかと反省しつつ謎の青い容器に目を向けると、宝石めいた透き通った青の向こう何かが並べられている。

    容器の蓋を開けると、ふわりと優しいマスカットの香り。
    中身は、クリアグリーンののっぺりした半球形。触れるとくにゃりと沈むそれは──


    (グミだった!)


    驚きと困惑が混ざった。
    ルビーと駄菓子。かなりミスマッチな気がする。正直似合わない。

  • 3二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 23:27:44

    彼はグミを口にする前に考え込んだ。
    単なる差し入れにしては意味深な組み合わせ。ルビーの言動には必ず意図がある。

    黄色の造花はわかる。
    黄色の蓮の花言葉は「休養」。
    蓮の花言葉には「離れゆく愛」などという不安を煽るものもあるが……これはそうではないと、今は確信できる。

    しかしグミとやけに豪奢な容器が謎だ。
    グミ。宝石。青。サファイア──宝石。

    (もしかして……プレナイト?)

    それは宝石展で見かけた、つんつるてんな宝石。
    滑らかな表面が作る光沢は朝露の様で、なんとなく気に入っていた。
    石言葉は、忍耐力。

    (……認めてくれてるってこと、かな)

    忍耐力は今は納めて、よく休むように。
    彼女にしては意外な謎かけのメッセージ。
    少し可愛らしいなどとバカなことを思いながら、彼女が淹れてくれたらしいカフェオレに手を伸ばした。

    「……?」

    マグに触れると、熱い。
    これを淹れたのはついさっきの様だ。
    不思議に思いながらも、彼女の姿を思い浮かべて声を張った。

    「ありがとうルビー。いただきます!」

  • 4二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 23:28:46

    「ありがとうルビー。いただきます!」



    彼1人しかいないトレーナー室から、扉越しに声が届く。
    きっとトレーナーさんも、本人が聞いているとは思ってはいないでしょう。

    この様な遠回しは私らしくない、とは思います。

    しかし胸の奥の炎に急かされて用意したものは、一度冷静になってしまうととても正面からお渡しできるものではなかったのです。

    彼に慌てた様子はないということは、私の宛てたメッセージは一部分だけ届いたのでしょう。

    ──今はそれで良いと思いましょう。
    結論を急いで崩れかけた私に、新たな道を示した貴方がそう受け止めたのなら。



    サファイアと蓮の花──パパラチアサファイア。

    その石言葉は、願わくば貴方の口から。

  • 5二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 23:29:18

    おわり。

    9/3はグミの日だった!!!(出遅れ)

  • 6二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 23:30:13

    グミくれよ!

  • 7二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 23:33:54

    うおーいい文章でした!
    過去作とかあったら教えてくだせぇ!読みたい!

  • 8二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 23:38:46
  • 9二次元好きの匿名さん23/09/04(月) 23:40:34

    >>8

    感謝!今から読んできます!

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