【SS】【ウマ×♂トレ】秋の味覚三昧、お待ち!

  • 1◆g4q/9YJtro23/10/28(土) 01:00:16

    ※マチタン×♂トレ概念あります。
    ※主人公はモブウマ娘です。


    トレセン学園には、不定期発行の学内新聞があります。
    有志から募った記事を、学園の広報部門が取りまとめて学内に配布する、という形式をとっていて、トレセン学園に所属していればトレーナーでもウマ娘でも自由に寄稿できます。
    内容については、公序良俗の範囲であれば特に制限はなく、普段のトレーニングについてのノウハウから、おすすめスイーツの紹介まで千差万別。

    トレセン学園の一ウマ娘であるわたしは、そんな学内新聞のグルメ部門担当記者(自称)。
    かつて名を馳せた、オグリさんやスペさん、ライスさんほどの健啖家ではありませんが、ウマ娘なりに食には貪欲で、オフの日にはよく学園近辺の食べ歩きと、勝手な講評をしています。
    そこで得た知見を記事にする、というのが半ば趣味になりつつあり、今ではウマ娘の本分の傍ら、記事の募集を心待ちにする日々。

    折しも季節は、天高くウマ娘肥ゆる秋――本当に肥えるとトレーニングに差し障りますが――グルメなわたしの大好きな季節がやってきました。
    記事募集のお知らせが学内の掲示板に掲載されたことを確認し、早速近所のお店をリサーチ。

    やっぱり、旬のものを出してくれるところがいいですよね――おっ、『新作、秋の味覚三昧定食』だって。いいですねいいですね。
    普段の食事は学園のカフェテリアでいただいているので、食べ歩きはもっぱらおやつが多いのですが……たまには気分を変えて、がっつり行っちゃいましょう。
    そうと決まれば、早速取材の申し込みを――あれ?この写真に写ってる人って、もしかして……。

  • 2◆g4q/9YJtro23/10/28(土) 01:00:32

    「いらっしゃいませっ! いやぁ、後輩ちゃんから取材の申し込みなんて、なんだか照れちゃいますなぁ」
    「いらっしゃい。うちはもっぱらトレーナーさん向けのメニューばかりだから、お口に合うといいんだけど……」
    出迎えてくれたのは、元トレセン学園所属のウマ娘、マチカネタンホイザさんとそのトレーナーさん――もとい、現在のご主人。
    卒業とともに引退した元トレさんと一緒に、ご実家の定食屋さんで修行を積まれたそうで、今ではこうしてトレセン学園のそばで支店として営業しているんだとか。

    それにしても、まさかこんなところでタンホイザさんに出会えるなんて……。
    ここだけの話、わたしがトレセン学園を志したきっかけは、何を隠そう数年前の有マ記念。
    ……そう、並み居る強豪を抑え、タンホイザさんが1着を獲った、あのレース。

    眩しいくらいの才能を持ったウマ娘たちが群雄割拠するトゥインクルシリーズにあって、正直なところ彼女は取り立てて輝いているようには見えませんでした。
    でも、そんな彼女が有馬記念のトロフィーを掲げたとき、わたしの中で何かが弾けて。
    ――脚が早くないからってなんだ。才能がないからってなんだ。彼女は立派に有マ記念制覇という偉業を成し遂げたじゃないか。
    今のわたしがトレセン学園にいるのは、きっとタンホイザさんのおかげ。……だけど……。

    「おや? 後輩ちゃん、もしかしてちょっと元気ないですか?」
    ――いけない、今日は取材でお邪魔してるのに。
    すみません、少し考え事を……では早速ですが、おすすめの秋の味覚三昧定食をお願いします。
    「かしこまりましたっ、秋三昧いっちょー!」
    注文を取り終えると、トトトッと小走りで厨房へ駆け寄り、元トレさんと肩を並べるタンホイザさん。
    仲睦まじいなぁ……淹れてもらったお茶を飲みつつ、心も身体も暖かくなっちゃいました。

  • 3◆g4q/9YJtro23/10/28(土) 01:00:44

    「おまちどおさまですっ! 秋の味覚三昧定食、どうぞっ!」
    ややあって、美味しそうな湯気と共に、タンホイザさんがお盆を運んできてくれました。

    まずはご飯。艷やかな銀シャリの山から、黄金色が顔を出す栗ご飯。
    続いてお汁椀は、これまた黄金色のサツマイモと、しめじやまいたけといった山の恵みがふんだんに入ったお味噌汁。
    主菜は、まさに今が旬のサンマの塩焼き。付け合せの大根おろしが心憎いです。
    副菜の小鉢は3つ。れんこんのきんぴらに、かぼちゃの煮物、それになすの揚げ浸し。
    どれをとっても、本当に美味しそう……。

    「トレーナーには人気なんだけど……学園の子にはちょっと地味かなぁ……」
    タンホイザさんに続いて、厨房から様子を見に来た元トレさん。
    いえいえ、何をおっしゃいますやら。それでは、いただきます!

    まずはお味噌汁を一口。……お味噌の芳醇な香りと、出汁の旨味、それから、煮込まれてほんのりと溶けたサツマイモの優しい甘みがじんわりと沁みます。
    きのこも入った具沢山ですから、これだけでもご飯が進みそうです。
    それから、栗ご飯。もち米も少し入っているのでしょうか、ご飯のもちもちとした食感と、栗の食感のコントラストがたまりません。
    塩焼きのサンマはとってもジューシーで、パリッと焼き上げられた皮に箸を入れると、中から脂が染み出してきます。
    このサンマを、少し醤油を垂らした大根おろしと一緒に――あぁ、なんて罪深い味なんでしょう……。
    そして、これらを支える小鉢たち。きんぴらは甘辛い味付けもさることながら、れんこんのさくさくとした食感が箸休めにぴったり。
    かぼちゃの煮物は、ねっとりとした食感で、こちらも優しい甘みを感じます。
    なすの揚げ浸しはトロトロで、噛むとお出汁がジュワッ。鰹節の香りがとても香ばしいです。

  • 4◆g4q/9YJtro23/10/28(土) 01:00:55

    ……ふぅ、ごちそうさまでした……。
    お品書き自体は至ってスタンダードなのに、実際に味わってみるとそれ以上の何かを感じる逸品揃いでした……。
    「お粗末さまでしたっ。お茶のおかわり、いかがですか?」
    ありがとうございます、いただきます。……本当に美味しいご飯でした。トレーナーさんにも食べてもらいたいくらい……。

    「……差し出がましいようなんだが、もしや君のトレーナーも、食事をおざなりにしていたりしないか?」
    ――心の声が漏れていたんでしょうか。それとも、元トレーナー故の洞察力でしょうか……ご明察です。

    「"君のトレーナーも"って言ったように、実は俺もトレーナー時代は食事をおろそかにしがちな質でね。
     担当のことはとことん気にするくせに、自分のことはてんで構いやしなくて……」
    「ホントですよぉ。ちゃんと食べてくれないから、いつか倒れるんじゃないかと思って、わたし気が気じゃなかったんですよ?」
    「スマンスマン、悪かったよ。まぁ、そんな経験があったからこそ、トレーナーが気軽に食事できるようにと思って、ここで定食屋をやってる訳なんだ」
    ……なるほど、どうしてわざわざご実家の近くにお店を構えなかったんだろうと疑問に思っていたんですが……後輩想いなんですね。

    照れくさそうに笑う元トレさんと、その様子をにこやかに見守るタンホイザさん。
    ……この二人になら、わたしの悩みを打ち明けられるかもしれない。
    あの、取材ついでで恐縮なのですが、わたしの相談に乗って頂けないでしょうか――。

  • 5◆g4q/9YJtro23/10/28(土) 01:01:05

    ご相談というのは、何を隠そうわたしの成績についてです。
    トレセン学園に入学したはいいものの、未だに初勝利も挙げられていない状態で……。
    ――わたしのトレーナーさんは、本当に熱心で真面目な方で、わたしのことを第一に考えてくださってます。
    ただその反面、元トレさんと一緒で、ご自分のことは二の次にしてしまうようで……。

    ちゃんと食べてくださいねって釘を刺しても、「まず君を勝たせてあげないと」なんて言い出す始末ですし……。
    わたしの実力がないばかりに、トレーナーさんがトレーニングメニューや戦略を練る時間が増えて、負担になってしまっている現状がとても歯がゆくて……。

    ……実は、今回の記事が好評だったら、トレセン学園を辞めてグルメライターとして生活していこうと思っているんです。
    これ以上、トレーナーさんに無理をさせたくないですし、ライターにも興味はあったし……。
    ……だから……ぅ、ぐすっ……あ、あれ……そんな……未練なんて……ない……ですっ……、ないん、ですっ……!

    「その話、きちんと君のトレーナーには話したかい?迷惑だなんて、君の独りよがりな思い込みかもしれないよ?」
    ……聞いたところで……トレーナーさんは、絶対、迷惑だなんて……言わないと、思います……。でも、それは、わたしに気を使って――。
    「……違うな。少なくとも、真っ当なトレーナーなら、担当が伸び悩んでいることに寄り添いこそすれ、迷惑だなんて思ったり、ましてや突き放したりなんて絶対にしない」

    …………。

  • 6◆g4q/9YJtro23/10/28(土) 01:01:17

    「後輩ちゃんの気持ち、ちょっと分かります。期待してもらっているのに、結果が出せなくて。
     知ってました?あの年のジャパンカップなんて、鼻血ブーしちゃって出走すらできなかったんですよ、わたし。えへへ。
     これまでで一番の仕上がりだと思ってた。……なのに、走れなかった。みんなの期待を裏切ってしまった。
     それでも、『次がある』ってみんなに支えられて。おかげさまで、なんとか有マ記念に勝つことができました」

    ……でもそれは、タンホイザさんの人柄に惹かれた人が多かったから――。

    「だけど、後輩ちゃんにも応援してくれている人がいる。特に、ご飯食べることすら忘れちゃうくらい、熱心なトレーナーさんが。
     なかなか勝ち上がることは出来なくても、その度にトレーニングや戦略を見直して、『次こそは』って意気込んでるトレーナーさんが」

    ……トレーナー、さん……。

    「……これはあくまで君の人生だから、俺たちに決定権はない。でも、本当に今辞めてしまって後悔はないかい?
     ケガが原因ならともかく、君はまだ十分走れるはず。……少なくとも、一度トレーナーと話し合ってから決めるべきだと思う」

    ……私は……私、はっ……!

    まだ、諦めたくないっ……!

  • 7◆g4q/9YJtro23/10/28(土) 01:01:33

    トレセン学園には、不定期発行の学内新聞があります。
    有志から募った記事を掲載しており、内容は千差万別。

    トレセン学園の一ウマ娘であるわたしは、そんな学内新聞のグルメ部門担当記者(自称)。
    今回は、めでたく採用された私の寄稿をご紹介しましょう。


    『お腹も心も満たされる、トレセン学園みんなの味方』

    トレセン学園のほど近くに店を構える定食屋さんをご存知だろうか。
    店主は、トゥインクルシリーズでも活躍したマチカネタンホイザさんご夫妻。

    ご実家仕込のクオリティの高さは圧巻の一言で、この時季のおすすめは、新作の『秋の味覚三昧定食』。
    秋の和食の王道ともいうべき献立となっており、トレーナーのみならず生徒の皆さんにも是非味わって頂きたい。

    また、味のクオリティもさることながら、注目していただきたいのはお二人のホスピタリティの高さ。
    トレセン学園近傍に店を構えたのも、食事に無頓着なトレーナーさんを支えたいという想いからなのだそう。

    お二人ともトレセン学園に所属していたという経験から、お悩み相談も受け付けているとのことで、
    恥ずかしながら、成績に伸び悩んでいた筆者のわたしも、相談に乗っていただいた。
    私事で恐縮だが、お二人のおかげでもやもやしたものが吹っ切れ、先日念願の初勝利を挙げることが出来た。

    これも偏にお二人と、何よりも私のトレーナーのご助力によるものによるものだと思う。
    この場を借りて感謝を申し上げたい。

    伸び悩んでいるウマ娘の方は、食事がてら一度足を運んでみてはいかがだろうか。
    お腹と心を満たすことで、現状を打破するきっかけをつかめるかもしれないのだから――。

  • 8◆g4q/9YJtro23/10/28(土) 01:02:26

    おわり

    マチタン×♂トレ概念で書き出したはずが、すっかりモブウマ娘ちゃんが主人公になってました

  • 9二次元好きの匿名さん23/10/28(土) 01:12:47

    なんで深夜に上げた…!(もっと見られるべきの意)
    なんで深夜に上げた…!(飯テロやめてくださいの意)

  • 10◆g4q/9YJtro23/10/28(土) 01:49:29

    >>9

    なんでスレタイで飯テロって分かってて開いた!(ありがとう)

  • 11◆g4q/9YJtro23/10/28(土) 02:16:50

オススメ

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