- 1二次元好きの匿名さん22/01/02(日) 16:42:02
再投下
一月一日。
デビュー戦、そして数々のレースを経て、有馬記念を駆け抜けてから数日。あれよあれよと言う間に年が明けた。
アタシはトレーナーさんと炬燵で暖まりながらお茶を飲んでいた。
「一年経つの、はやいですねぇー…。」
「気づけば2022年。1日1日は長く感じるんだけどねぇ。」
「一週間…一月…気づけば春、夏、秋、冬。一瞬ですよ?」
「まったくもって、その通り。」
時が経つと言うのは早いもので、年が明けたと思えば気付けば灼熱の夏、と思えば極寒の冬。
毎年用意するカレンダーも、やれ一枚さあ一枚とこちらを急かすように薄くなっていくものだ。
「この歳になるとどうも、ですね。いや〜季節に身体が追いつきませんて。」
「ネイチャ…それ、私の台詞じゃない?貴女みたいなうら若き乙女が言うべきもんじゃないよ。」
「いえいえ、これはメンタル的なものですよー。」
「そんなもんかな?」
「そんなもんですよ。」
「納得できるような…できないような?」 - 2二次元好きの匿名さん22/01/02(日) 16:42:40
アタシは、そうトレーナーさんに納得させると、炬燵の上の蜜柑を剥き、一粒口に放り投げる。
うむ、甘い。至福の幸せってやつですな。
トレーナーさんにも、おひとつ如何ですか?と蜜柑の籠を渡す。
「ん、ではおひとつ貰いましょう。どう?甘かった?」
アタシはその言葉に、口をモグモグとさせながらOKのハンドサインを出して答える。一粒頬張ったばかりなのだ。いまはこの甘さをのんびりと味わいたい。
「そう。なら楽しみにしておきましょう、さてさて。」
トレーナーさんはその女性らしいほっそりとした指でゆっくりと、丁寧に皮を剥く。
…と、ははあなるほど。
「トレーナーさん、蜜柑のスジは綺麗に取るタイプ?」
「ん?まあ、ね。気にすることでもないんだけどさ、食感というか。どうせならって。ネイチャは?」
「そのまま食べちゃいますかねー。甘ければOK、みたいな?」
というか、蜜柑の白いスジ…アルベド?って言ったかな?あれには栄養があるって聞いてから、一応食べるようにしてる。ってまあ、そんなの聞く前から取ってなかったですケド、めんどうですし。 - 3二次元好きの匿名さん22/01/02(日) 16:43:23
「たまにはどう?スジ取り蜜柑。」
「どう、って…。」
綺麗にスジを取った、蜜柑の粒。トレーナーさんはそれを私の前に差し出してくる。
…なんというか、これはその。
「餌付け、みたいじゃない?」
「あら、そうみえた?ごめん、渡し方間違えちゃった。」
そう言うと、先程剥いた蜜柑の皮に手に持った粒を置こうとする。
あっ…。
「…別に、そのままでも。」
思わず、声に出てしまった。
「あー…じゃあ、はい。ネイチャ、あーん。」
「…あーん。」
口を開け、トレーナーさんの手が伸びてくるのを待つ。
…ん、美味しい。確かに、甘い。
「ね、たまにはいいんじゃない?スジ取り蜜柑も。」
「あー、はい。たまには、いい…デスネ、はい。」
トレーナーさんは、目を細め、朗らかな笑みを浮かべ、そう言った。
まったく、これじゃホントに餌付けだ。母鳥を待つ小鳥のようで。…アタシ、何考えてんだろ。
口の中には甘味がまだ、強く残っている。
しかし、これは本当に蜜柑の甘味なのだろうか。急に熱を増した頭、赤みを増す、顔。
アタシは、それを隠すように炬燵に身体を埋めると、トレーナーさんから顔を背けるように狸寝入りをするのだった。 - 4二次元好きの匿名さん22/01/02(日) 16:43:35
終わり。