機 伶 門

  • 1日:カレンチャン 香:真機伶21/09/01(水) 14:33:33

    ある日の超暮方(ほぼ夜)の事である。一人のカワイイウマ娘が、機伶門(自作)の下で雨やみを待っていた。
    無駄に広い門の下には、所々丹塗の剥げた、大きな円柱に、鳳蝶が一匹とまっていることと、このウマ娘のほかに誰もいない。

    何故かと云うと、この二三日、トレセン学園には、♀トレ管理とか海賊団とかBBSとか走れメロス怪文書とか云うエグすぎる災がつづいて起ったからである。
    古事記によると、トレーナーを押し倒して、うまぴょいをした後、もうイヤになっちゃうくらい朱印のついた婚約届を、路ばたに親の仇のようにつみ重ねて、実家に連れ帰っていたウマ娘までいると云う事である。
    トレセン学園がその始末であるから、機伶門の修理などは、元より誰も捨てて顧る者がなかった。

    作者はさっき、「ウマ娘が雨やみを待っていた」と書いた。しかし、ウマ娘は雨がやんでも、格別どうしようと云う当てはない。
    というのも、先日の一件で業を煮やしたカレンチャンは、お兄ちゃんが猫好きだという情報を掴み、猫耳ブルマで上目遣いのまま膝に寝転がり、上目遣いで「にゃー♡」と、ウマ娘としてのアイデンティティをちょっと投げ捨てて挑んだのだ。

    そしてお兄ちゃんは──耐えた。

    お兄ちゃんはガチ猫好きだったので、猫をそういう対象に見るのには、忌避感を抱いていたのである。完全に作戦ミスであった。お兄ちゃんも割とギリギリであったのだが、カレンチャンがそれを知る由もない。

    だから「ウマ娘が雨やみを待っていた」と云うよりも「お兄ちゃんにクソデカ鋼の意志で逃げ切りを食らったウマ娘が、次のうまぴょい誘導のアイデアが浮かばず、途方にくれていた」と云う方が、適当である。
    その上、お兄ちゃんからの「流石にちょっと迷走してない?」という一言も、
    カレンチャンのSentimentalismeにそれはもう割とマジでガチ目に影響した。

  • 2二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:33:52

    ま た お 前 か

  • 3二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:33:54

    申の刻下り(午後4時くらい)からふり出した雨は、いまだに上るけしきがない。
    そこで、ウマ娘は、何をおいても差当り明日のうまぴょい誘導方針をどうにかしようとして――
    云わばどうにもならない事を、どうにかしようとして、とりとめもない考えをたどりながら、さっきからトレセン大路にふる雨の音を、聞くともなく聞いていたのである。

    雨は、機伶門をつつんで、遠くから、ざあっと云う音をあつめて来る。夕闇は次第に空を低くして、見上げると、門の屋根が、斜につき出した甍の先に、重たくうす暗い雲を支えている。

    どうにもならない事を、どうにかするためには、手段を選んでいる遑はない。
    選んでいれば、学園卒業どころか、下手すれば現役引退まで、未うまぴょいのままである。そうして、そのまま結婚生活に入り、子供を5人ほど産んで幸せに暮らすばかりである。
    選ばないとすれば――カレンチャンの考えは、何度も同じ道を低徊した揚句に、やっとこの局所へ逢着した。
    しかしこの「すれば」は、いつまでたっても、結局「すれば」であった。
    カレンチャンは、手段を選ばないという事を肯定しながらも、この「すれば」のかたをつけるために、
    当然、その後に来る可き「もう自分からうまぴょいするよりほかに仕方がない」と云う事を、積極的に肯定するだけの、諦めが出来ずにいたのである。カワイくないし。

    下人は、大きな嚔をして、それから、死ぬほど大儀そうに立上った。夕冷えのするトレセン学園は、もう火桶が欲しいほどの寒さである。風は門の柱と柱との間を、夕闇と共に遠慮なく、吹きぬける。丹塗の柱にとまっていた鳳蝶も、もうどこかへ行ってしまった。

  • 4二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:34:08

    カレンチャンは、頸をちぢめながら、肩を高くして門のまわりを見まわした。もうなんか誰でもいいから相談に乗ってほしい気分だったのである。
    すると、折よく誰かが門の近くへ走ってきていた。
    カレンチャンは、守宮のように足音をぬすんで、やっと柱の陰に隠れた。
    そうして体を出来るだけ、平にしながら、頸を出来るだけ、前へ出して、
    恐る恐る、柱の陰から覗いて見た。
    街灯に照らされたその姿を見ると、一人のトレーナーが傘も差さずに走り、雨宿りの場所を探しているようだった。
    仕事はとっくに終えた後なのだろう。少なくとも、一人のカワイイウマ娘の些細な悩みを聞く程度の時間的な余裕はありそうであった。

    そして、街灯の明かりに照らされたその顔は、スマートファルコンのトレーナーだった。
    元々老婆枠はファル子の予定だったが、ファルトレが流石に老婆枠はと、出演NGを出したので、代わりにファルトレが出演することになったのである。
    ファルトレのことをカレンチャンが認識すると同時に、ファルトレもまた、カレンチャンのことを見つけた。
    ファルトレは、一目カレンチャンを見ると、あ、これ面倒くさい案件だと察し、まるで弩にでも弾かれたように、飛び上った。

    「おのれ、どこへ行く。」

    カレンチャンは、ファルトレが雨の道につまずきながら、慌てふためいて割とマジで逃げようとするのに縄を投げつけ、こう言った(罵ったはカワイイ的NG)。
    ファルトレは、それでも縄から逃れようとする。カレンチャンはまた、それを逃がすまいとして、押しもどす。
    二人は雨の中で、しばらく、無言のまま、死闘を繰り広げた。しかし勝敗は、はじめからわかっている。
    カレンチャンはとうとう、ファルトレを縛り上げて、機伶門の下へ投げ込むと、スマホを取り出した。

  • 5二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:34:24

    「相談に乗れ。乗れ。乗らぬと、これだぞよ。」

    けれども、ファルトレは黙っている。
    両手をわなわなふるわせて、肩で息を切りながら、眼を、眼球が外へ出そうになるほど、見開いて、唖のように執拗く黙っている。
    これを見ると、カレンチャンは始めて明白にこのファルトレの社会的生死が、全然、自分の意志に支配されていると云う事を意識した。
    そうしてこの意識は、今までけわしく燃えていた心を、いつの間にか冷ましてしまった。
    後に残ったのは、ただ、ある仕事をして、それが円満に成就した時に近いような、安らかな得意と満足とがあるばかりである。
    つまりは、流石に何やってるんだろう私と冷静になった。カワイくない。

    そこで、カレンチャンは、ファルトレを見下しながら、少し声を柔らげてこう云った。

    「己は別に無体を働きたいのではない。今し方この門の下を通りかかった旅の者だ。だからお前に縄をかけて、どうしようと云うような事はない。ただ、今時分この門の下で、少しばかり相談に乗って欲しいだけなのだ。」

    すると、ファルトレは、見開いていた眼を、一層大きくして、じっとそのウマ娘の顔を見守った後、大人しく相談に乗ることにした。
    カレンチャンの様子が思ったよりやばそうだったからだ。
    ファルトレは、もう同期が急に消息不明になったり、転勤したと通達を受けるのにも、疲れていた。

    そして、その代償として、ファルトレは、お兄ちゃんからうまぴょいさせるためにはどうしたらよいのだろうか、と相談を受けるはめになった。
    「そんなこと俺に言われても。」
    普通ならそう答えるが、ファルトレはクソ真面目なので答えを考え始めた。

  • 6二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:34:30

    メロスの人…?

  • 7二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:34:43

    「成程な、ウマ娘の気持ちを袖にして、うまぴょいから逃げると云う事は、何ぼう悪い事かも知れぬ。じゃが、ここにまだ残っているトレーナーどもは、皆、そのくらいな覚悟を、持っているトレーナーばかりだぞよ。現在、わしが今、担当をしているウマ娘などはな、温泉旅行の最中でも求められればすぐウマドルに切り替わって、まさしくプロの精神であったわ(惚気)。それにな、カレトレがお主に手を出さないのもな、何よりお主のことを想ってのことじゃろうて。わしは、ファル子を一人のファンとして陰で支え続けるつもりじゃ。せねば、うまぴょいをするのじゃて、仕方がなくする事じゃわいの。いやまあわしの場合はそういう心配とは無縁じゃがな(クソボケ)。されば、今また、カレトレのしていた事も悪い事とは思わぬぞよ。これとてもやはりせねば、うまぴょいするじゃて、仕方がなくする事じゃわいの。じゃて、その仕方がない事を、よく知っているのなら、大方カレトレのする事も大目に見てくれはせんじゃろか。というか、カレンチャンが押せ押せのせいで意固地になってるところもあると俺は思う」
    ファルトレは、大体そんな感じの意味のこと言った。

    カレンチャンは、腕を胸の前で組んで、尻尾をゆらゆらとさせながら、冷然として、この話を聞いていた。
    そして、誰でもいいとは言ったがやっぱこれは人選ミスであったのではなかろうかと、カレンチャンは訝しんだ。

    しかし、これを聞いている中に、カレンチャンの心には、ある勇気が生まれて来た。
    それは、さっき門の下で、このウマ娘には欠けていた勇気である。
    そうして、これまでカワイイのために貫き、砕けてきた時の勇気とは、全然、反対な方向に動こうとする勇気である。
    カレンチャンは、うまぴょいをさせるかうまぴょいをするかに、迷わなかったばかりではない。
    あまりのクソボケ具合に触れた結果、その時のこのカレンチャンの心もちから云えば、引退まで未うまぴょいなどと云う事は、ほとんど、考える事さえ出来ないほど、意識の外に追い出されていた。

  • 8二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:34:55

    文学カレンチャンは俺が飽きるまで擦っていけ

  • 9次回、カレンの糸21/09/01(水) 14:35:10

    「きっと、そうか。」
    なぜか老婆口調で語っていたファルトレの話が完ると、カレンチャンは囁くような声(嘲るはカワイイ的にNG)で念を押した。

    「では、己がうまぴょい誘導の為にお兄ちゃんから服を引剥しようと何も言うまいな。己もそうしなければ、うまぴょいさせられぬ身なのだ。」
    「それもうカレンチャンからうまぴょいしてるのでは?」
    言われてみればそうであった。ちょっと掛かってしまっているのかもしれません。冷静さを取り戻せるといいのですが。
    「あ!」 ふと、ファルトレが指を指した方に、カレンチャンは目を向ける。
    すると、お兄ちゃんが傘を差しながら、こちらに歩いてくるのが見えた。
    偶然通りがかったのだろう。そしてカレンチャンを見かけて迎えに来たのだ。
    チャンスだ。これは…イケる(確信)。
    カレンチャンはお兄ちゃんに、焦らずゆっくりと声をかける。

    「傘、一つしかないね? お兄ちゃん♡」

    するとお兄ちゃんは大丈夫だと携帯傘を取り出し、カレンチャンに渡した。
    カレンチャンは流れるようにファルトレに傘を貸し出すと、お兄ちゃんの懐に滑り込んだ。雨に濡れ僅かに火照った体をお兄ちゃんに寄り添わせ、耳元で囁いた。

    「お風呂、入らないとね──お兄ちゃん♡」

    そしてお兄ちゃんは────耐えた。

    カレンチャンはキレた。

    下人の行方は、マジで誰も全然知らない。

    うまぴょいうまぴょい

  • 10二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:37:01

    しかもクソでか羅生門じゃねえか!、

  • 11二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:40:31

    カレンの糸楽しみに待ってます

  • 12二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:40:52

    下人ってだれだよ

  • 13二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:42:05

    下人誰や

  • 14二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:42:08

    カレンチャンURAシナリオしかしてないのでは?アオハルなら鋼の意志じゃなくてアガってきた!が貰えるからそっちのほうが落とせるぞ(謎の助言

  • 15二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:42:59

    或クソボケの一生とか出来そうだな

  • 16二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:46:34

    成人過迄?

  • 17二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:48:04

    コレみてると国語の教科書にのってる物語って為になって面白い名著だということが再確認できて好きだよ

  • 18二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:48:48

    定期的に文が冷静になるの草

  • 19二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:52:19

    なんだかんだ今できなくても結婚して子供も5人産むことも決定済みなの強すぎる

  • 20二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:53:56

    ファルコがトレーナー諸共被弾しまくってるの草

  • 21二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:53:59

    相対的に弱弱で翻弄されるカレンちゃんは私の性癖にはあってますよ

  • 22二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:54:47

    高い教養を怪文書作成に注ぎ込む怪文書作者の鑑

  • 23二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:54:49

    味を占めていけ

  • 24二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:54:51

    >>元々老婆枠はファル子の予定だったが、ファルトレが流石に老婆枠はと、出演NGを出したので、代わりにファルトレが出演することになったのである。


    やっぱり台本あるのかよ!?

  • 25二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:58:58

    なんなんだこれ……

  • 26二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 14:59:52

    よく見たら次回作まで決まってるの草

  • 27二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 15:12:30

    お兄ちゃんよく耐えれるな…

  • 28二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 15:15:24

    カレトレ(鋼の意志)
    ファルトレ(クソボケ)

  • 29二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 15:22:48

    機伶って香港でのカレンチャンの馬名かよ

  • 30二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 15:36:52

    >>29

    また一つあにまんで賢くなってしまった…

  • 31二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 15:46:18

    いきなり出てきた下人の行方とか誰も知らないに決まっててわろた

  • 32二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 15:48:58

    鋼の意思が鋼過ぎて徐々に攻めのラインを見誤っていく認識はありませんでした
    ありがとうございます。いただきます
    よく馴染むぜお前の魂

  • 33二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 15:51:47

    これがウマ娘世界の現文の教科書ですか…

  • 34二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 15:52:15

    ファルトレ可哀想…

  • 35二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 15:56:41

    ついつい入れたくなるクソデカ要素を最小限に抑えているあたりがマジでセンスいい

  • 36二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 16:05:26

    お兄ちゃんは数年後に落とされる未来が確定しているので、それまでどれだけ耐えさせてもよい

  • 37二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 16:13:06

    文系を始めて尊敬した

  • 38二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 16:17:04

    ちょこちょこ誤字とか名前間違いがあるけど普通に文章うまいし面白かったわ

  • 39二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 18:21:24

    >>27

    お兄ちゃんだからな…

  • 40二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 20:19:14

    クソボケ機伶門

  • 41二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 21:22:39

    >するとお兄ちゃんは大丈夫だと携帯傘を取り出し、カレンチャンに渡した。

    >カレンチャンは流れるようにファルトレに傘を貸し出すと、お兄ちゃんの懐に滑り込んだ。


    ここほんと草

  • 42二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 23:02:12

    >>38

    わざとだぞ

    そういうの解説されると恥ずかしくなるだろうから察してやってくれ

  • 43二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 23:10:27

    あにまんのSS書きの中で一番好き

  • 44二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 23:42:22

    >>42

    普通に解説がほしい、新作が出た時にまた同じこと思いそう

  • 45二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 23:45:35

    お兄ちゃんは文豪

  • 46二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 23:51:39

    やっぱり教養って大事ね
    下地があるとこういう楽しみが広がる

  • 47二次元好きの匿名さん21/09/01(水) 23:54:07

    >>44

    これに限らず元ネタ改変モノはところどころ元ネタのままにしとくっていうお決まりのネタみたいなものがあるんだ

  • 48二次元好きの匿名さん21/09/02(木) 00:14:12

    ただでさえカオスなのになんで下地がクソでか羅生門なんだよ

オススメ

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