深夜のシャーレに遊びに行ったら

  • 1二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 22:37:18

    ど、どうも……

    ようこそキヴォトス怪談蒐集スレへ……


    はい、「また」なんです……すみません!


    仏の顔もと言いますので、謝った所で許されるとも思ってません……


    しかし、このスレタイを見た時、先生方は、きっと言葉では言い表せない「恐怖への興味」を感じてくれたのだと思います……


    辛い事と苦しい事に溢れたこのキヴォトスで、そういう気持ちを忘れないで欲しい、そう思ってこのスレを立てました。


    ……嘘です。おじいちゃんとおばあちゃんの容態がそろそろ悪化してきたので怪談話を摂取させてあげようと思ってのスレ立てでした……。


    ともかく、ご注文をどうぞ……!

    ※一レス内に「お題」と「生徒名」を記載してレスをお願いします!保守も兼ねて>>10まで募集します!

  • 2二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 22:38:48

    置いてけぼり
    カンナ

  • 3二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 22:40:04

    十四階段
    セリカ

  • 4二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 22:40:11

    コユキ
    幸運

  • 5二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 22:40:26

    また出たなヒヨリ! 待ってたぜ!
    罪と罰
    チェリノ

  • 6二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 22:41:02

    コハル
    アクロバティックサラサラ

  • 7二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 22:41:10

    がらがら
    才羽モモイ

  • 8二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 22:41:31

    耳鳴り フウカ
    要求しないとは卑しさがなくなっている…?誰だお主は!

  • 9二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 22:41:36

    アリス
    迷子案内

  • 10二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 22:41:38

    孤独
    ヒナ

  • 11二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 22:51:13

    >>8

    残念ですが……「募集レス」に書き込みをしたならそれすなわち「怪談話を要求されても文句は言えない」という事なんです……!ですので皆さんにも当然怪談話を持って来て頂きます……!他人に要求してしまった以上は仕方のない事なんです……。よろしくお願いしますね……!


    お題

    1.置いてけぼり

    2.十四階段

    3.幸運

    4.罪と罰

    5.アクロバティックサラサラ

    6.がらがら

    7.耳鳴り

    8.迷子案内

    9.孤独

    dice1d9=8 (8)


    生徒

    1.カンナ

    2.セリカ

    3.コユキ

    4.チェリノ

    5.コハル

    6.モモイ

    7.アリス

    8.フウカ

    9.ヒナ

    dice1d9=3 (3)

  • 12二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 22:53:01

    >>11

    粉☆バ☆ナ☆ナ☆?!

  • 13二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 22:55:06

    しまった罠だ! いろんな意味で…



    …一応過去スレでも貼っとく?

  • 14二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 22:55:54

    嘘だろおい…俺ssなんて書いた事も無いんだぜ?

  • 15二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 22:56:53

    >>14

    逆に考えるんだ、ここでss童貞を捨ててしまえばいいさと

  • 16二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 22:58:12

    コユキさんで迷子案内……

    迷子案内……

    迷子……


    ともかく、書いてきます……!


    当然このスレには自由に怪談を投稿して頂いて大丈夫です!

    いえ、「義務」が発生した以上不自由に、かもしれませんが……大丈夫です、私も乗り越えた辛さなので……!

  • 17二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 23:00:25
  • 18二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 23:28:50

    こんなこともあろうかとコピペ改変ネタですが用意しております


    教会生まれの…私は原付に乗って買い物に出かけていました

    普段どうり道路を走っていると

    真っ赤なスーツを着た綺麗なぺロロ様が眼に映り

    あ、ぺロロ様がいる、そう思った瞬間

    私は対向車線から来たトラックに撥ねられてしまいました

    荒事になれていた私はとっさの瞬間受身をとる事ができたため

    軽い擦り傷で済みました。


    それから半月たったある日友人のAちゃんが同じくトラックに撥ねられた

    直ぐに救護騎士団に駆けつけましたが、Aちゃんも受け身を取ったらしく怪我はありませんでした

    その場でと話をききましたが

    「赤いワンピースを見てスカルマンをみてしまって・・・」

    と呟いていたという

    私は驚きました。


    アレはモモフレンズの姿を借りた死神なんじゃないか?

    私ががそう思っている頃またあそこで事故が合った

    話を聞いてみるとひき逃げらしかった

    この辺りは見通しがいいにも拘らずそういう事故が多いらしい

    私はあの赤い服をきたモモフレンズが死神だと確信しました


    数日後私は同じ部活のKちゃんと戦車に乗ってその道を走っていました

    Kちゃんは実家が教会で非常に霊感が強いらしく、私は死神の話をしてみた。

    「なにそれぇ…」っとなぜかドン引きしながら聞いていたKちゃん…
    telegra.ph

    ダメだったら消しますので言ってくださいまし

  • 19二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 23:33:41

    シスフじゃなく正実ではないのか?ボブは訝しんだ

  • 20二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 23:34:47

    ssってどうやって書くんだ…?

  • 21二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 23:37:58
  • 22二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 23:47:15

    ふふふ……花鳥風月部の怪談家である手前を差し置いて百物語を始めようとは無粋ですねぇ。

    ここはひとつ「猫の手」でもお貸しする体で、前座を務めて差し上げましょう。

    さてさて今からお話するは、手前の「友達の友達」が実際に体験したこわ~いお話でして……



    【カヨコ/「猫の手」(1/2)】


    ……きっかけはアレだったかな。何日か前、便利屋がすごく忙しかった日。

    溜まってた家賃の支払いとか、ハルカが吹っ飛ばしちゃった建物の損害賠償とかの事務仕事に追われてて、私も社長も、ムツキもハルカもてんてこまいで。

    やってもやっても減らない書類の山に耐えかねて、つい……「猫の手でもいいから貸してほしい」って、なんとなく独り言言っちゃったこと、だと思う。


    最初に異変があったのは次の朝。私、昨日の自分のノルマを終わらせられないまま、ついうっかり寝落ちしちゃって。けど、朝になって起きたら書類の山は消えてたから、社長か誰かが代わりにやってくれたんだなって思って、迷惑かけてごめんって謝りに行ったの。

    そしたら社長はきょとんとした顔で


    「……? 何を言ってるの? その仕事ならカヨコが昨日きちんと終わらせてくれたじゃない」


    って。

    全然記憶にはなかったけど……その時はまだ私も、自分で終わらせたのを忘れて眠っちゃった、みたいに勘違いしてた。


    でもその次の日、ハルカと一緒に朝からバイトの予定があったんだけど……

    出かける直前、私ついウトウトしちゃって……気が付いたら日が落ちる間際になってた。慌てて仕事をするはずだった工事現場に向かって、ちょうどバイトを終えた帰りのハルカと鉢合わせしたの。

    ……ハルカはいつもより挙動不審になって、私が謝っても訳の分からないことを言われたみたいな顔をして。


    「え、えっと何を仰っているのでしょうか? 課長ならさっきまで、わ、私といっしょにバイトをなさっていたじゃないですか……」

    ハルカが私を気遣ってくれたのかとも思ったけど……あの困惑は演技だとは思えなかった。

  • 23二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 23:49:03

    【カヨコ/「猫の手」(2/2)】

    決定的だったのはその二日後。便利屋全員での大仕事で、もちろん私も参加することになってた。でも……
    事務所から一歩足を踏み出して……次の瞬間、全然知らない場所に立ってた。慌ててスマホの時刻を見てぎょっとした。仕事の時間どころか……この丸一日間、私がどこで何をしてたかの記憶がすっぽり抜け落ちてて。

    ……慌てて事務所に戻ったら、社長とみんなが仕事の成功お祝いにちょっとしたパーティーを開いてて、ムツキが私の顔を見るなり満面の笑みで、

    「あ、どこ言ってたのーカヨコちゃん? 今日の仕事はカヨコちゃんのお蔭で成功したようなものなんだから、一番の主役がいないと始められないのにさー!」

    って、言うんだよ。


    先生……私、怖いんだ……
    私がやるべきはずのことが、いつの間にか勝手に終わってる。どこかに私の知らない「私」がいて、私のやることなすことを先回りしている。
    ──まるで「猫の手でも貸してやってる」とでも言わんばかりに。

    私……どうすればいいんだろ?
    このままじゃ、「猫の手」の方の私が「私」になって……私は、どこにもいなくなっちゃうんじゃないか、って……
    そうなったら、わたし、どうしたら……


    ……え? 何、言ってるの?
    今日、シャーレに来たのは……今が初めて、だけど。

    “──じゃあついさっき、私に「猫の手」について相談しに来たカヨコは誰だったの”って?

    ……じょうだんは、やめてよ。

  • 24二次元好きの匿名さん23/12/25(月) 23:50:54

    おあとがよろしいようで。
    スレ主にはいつもお世話になってるのでちょっとばかし書いてみました。
    ……でも怪談ってこんなのでいいの? 怪談SSなんて書いたことないからわかんないよ!

  • 25二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 00:01:25

    >>18

    >>24

    わぁ……早速怪談ありがとうございます!おじいちゃんの呼吸が若干強まってきました!


    怖さのスパイスさえあればそれは全て怪談です!

    このスレではそういう事になってます!他の定義なんて知りません!



    ───

    ──


    ミレニアムサイレンススクールの一年生の私。

    一年生という事はつまり、誰からも後輩だという事。

    その後輩という立場に不満がある訳では無い。そも不満を述べるのであれば事あるごとに反省部屋に送り込んでくるセミナー、引いてはその中核を為す二人の先輩への言及が必要になる。

    嫌いな先輩では決して無いが。だからといって文句が無いという事では無いのだから。


    話が逸れた。

    つまり何が言いたいのかといえば。「後輩」である私が「先輩」、つまり年上の立場に回る機会が少なく。つい浮かれてしまって、楽しくなってしまって。

    それ故に違和感を見過して、遂には私自身が迷いかけた。


    ただの、そういう体験談。

  • 26二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 00:12:50

    期待期待
    コユキもそうだし迷子と言うとなんか噛みまくってる子が思い浮かぶな

  • 27二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 00:15:34

    >>22

    >>23

    かんしゃ~

  • 28二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 00:52:55

    >>25

    いつもの様に反省室から外出した十二月某日の昼下がり。

    とある部活から提出された、期限超過した書類が。承認権限の関係でさらに遅れそうだった。ならいっその事。

    そう思って必要な権限をちょちょいと拝借して承認をおろしただけなのに。あんなに怒らなくったって。

    普段から目が回る程忙しそうにしている先輩方の負担を減らそうと思っただけだったんだけどな。



    そんなもやついた気持ちを抱えたまま、ぶらぶらと歩く。

    直ぐに学校に戻っても反省部屋へ戻されるだけだし。ゲーセンにでも遊びに行こうか、それともシャーレへ。まとまらない思考をまとめないまま歩を進める。


    だからだったのだろうか。何の気なしに見回した景色は、寂れた校庭のような、そんな風景。おそらくここにはかつて学校があって、そして無くなったのだろう。

    「……いつの間にか結構遠くまで歩いて来ちゃってたみたいですね」

    独り言ちて、どのくらい歩いたのか気になり自身の端末を取り出して地図アプリを開く。……もう学校名は出てこないが、少し検索を掛ければこの学校の名前が判明した。


    『アネモネ学院』。それがこの場所の、ひいては学校そのものの名前だった。

    今日は特にやりたいゲームがある訳でも無し。たまには廃校探検と洒落込むのも悪くはない。落ち込んだ気分を振り払うようにして、改めて学校跡に目を向けてみれば。


    なにかを抱えてキョロキョロとしている子供の姿が一つ。年は五、六歳くらい。よく見れば、抱えていた子供が持つには不釣り合いなくらいの大きさのタブレット。

    それを手に持って、頭と同じ高さまで掲げて。上下左右にくるくると回しては首を右へ左へと傾げている。

    こくりと頷いてある方向に走り出したかと思えば、一分もしないうちに元の場所へと戻ってくる。そしてまたタブレットをくるくる回し始める。その繰り返し。

  • 29二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 03:28:24

    「何してるんですかー!」
    気付けば、遠目に見えるその子に声を掛けていた。
    特に理由は無く、自分より幼い子が困っている姿が忍びなかった。強いて言えばそんなところ。ともあれ私の声が届いたのか、勢いよくこちらへ振り返ると同時。

    行き方が分からないのー!地図の読み方教えて、お姉ちゃん!

    大きなタブレットを片手で支え、もう一方の手で大きく手招き。寒空の下、風の音にも負けない良く通る声で、そんな返事が返って来る。
    彼女の手招きに導かれるように。ただの散歩道からアネモネ学院跡へ。足を踏み入れた。

  • 30二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 03:31:50

    【】
    お姉ちゃん。
    会って間もないどころかまだたった一言しか言葉を交わしていない間柄だけど、そう呼ばれて悪い気はしない。
    石一つ落ちていないグラウンドを駆け、その子の元へ。

    「地図、ですか?ええ、任せて下さい!」
    悪い気はしない、ではなく。しっかり喜んでいる私だった。

    はいこれ!ここに行きたいんだけど行き方が分からなくて困ってたの!

    その言葉と共に渡されたタブレットを受け取る。遠目から見ていた時にも感じたが、かなり大きめの端末だ。
    開かれたままの地図アプリを少し触る。普段私が使用するアプリとはメーカーが違うのか勝手が少しばかり異なっていたが、このくらいならすぐに使いこなせそう。
    徒歩で十分程度の近場ではあるようだったけど、確かにこのくらいの年の子が一人で行くには心許ないというもの。道案内も欲しくなるか。そう思いながら、この子が指で示した場所にピンを差し、目的地までのルートを表示させる。
    それと北方向を固定して表示する設定に変更した。こうすればもう地図をくるくる回すことも無くなる筈。
    「はいどうぞ。この赤い線を辿っていけばつく筈ですよ!あとタブレットの上を北に固定したので見やすくもなっています!」

    ほんとう!?ありがとう!お姉ちゃん!

    「いえいえ、このくらいお安い御用です!」

    いまいち理解しているようには見えないけれども。私がタブレットを戻すとそれを受け取ってぴょんぴょんと跳ね回る。
    ふふ。たったこれだけのこととは言え、こんなにも喜んでもらえるなら私まで嬉しくなってしまう。

    その子はまたしばらく地図をためつすがめつしていたが、やはりと言うべきかまたしても首を傾げてしまい。

    赤い線を辿っていけば目的地に付けるという事がそもそもピンと来ていないようだった。やがて地図から顔を上げて、初めて見る不安げな表情を浮かべて。

    ねえ、お姉ちゃん。連れて行って欲しいな。

    私へ、そう告げた。

  • 31二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 04:46:25

    お安い御用ですよ!

    そんな言葉が喉を突いて出そうになった。それをすんでのところで止めたのは、なんとなく。そういう他ない。
    私自身が案内できるか不安だったから躊躇ったのか、話し過ぎで喉が乾燥したからつばを飲み込んだだけなのか。

    理由はどうあれ、私はすぐの返答を返せなくて。一拍の呼吸。

    吸い込んだ、冷たく乾いた空気が頭を冷やした。
    吐き出した息に体の熱が乗り、体温が下がる。

    なんだ?私は何を思った?違う。見落とした何かがある。
    その思考こそが私の直感だ。なぜかそんな確信がある。
    電子が介在しないこの空間がもどかしい。これがネットに転がっている暗号ならいつもの通りすぐに分かるのに。

    焦りが顔に出たのか、私の表情を見たあの子の顔にも更に不安が広がる。

    私を連れていってはくれないのか。
    一緒に居てはくれないのか。

    言葉にせずとも十二分に伝わってくるその感情。それを見ると、導いてあげなければという思いが膨れ上がって。

  • 32二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 04:49:35

    ピリリリ。



    音の出所は私の上着のポケット。不格好にねじ込まれた私の端末。

    音に弾かれるようにあの子から視線を外し、慌てて端末を取り出す。画面を見れば着信で、連絡者はユウカ先輩だった。

    私はその着信に対して──。



    1.応答を試みた。

    2.切断を試みた。


    (コユキさんは>>32->>36の中から、多い方の選択肢を選ぶ様です……。慎重に選んであげてください……)

  • 33二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 04:51:25

    うわぁん!久々に安価したせいでずれ込みました!

    >>34->>38でお願いします!

  • 34二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 05:07:14

    ここは1で! 応答!
    ……いやこれ本当にユウカか?

  • 35二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 06:26:13

    2であってほしいけど話の流れ的にここは1だわな。
    1です!!!私の選択は1!!

  • 36二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 07:35:34
  • 37二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 07:46:22

    1で

  • 38二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 08:48:58
  • 39二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 15:21:51

    現れたな怪談スレ!
    「深夜」ってワードとスレ開いたらヒヨリって時点でバレバレだぜ!

  • 40二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 16:12:10

    期待
    コユキはお姉ちゃんぶりたがりそうだよね

  • 41二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 18:21:10

    (2が多いのでどうやら着信は切断されるようです......)



    ピリリリリ。

    かけてきているのはユウカ先輩。無断で反省部屋を飛び出して来てから一体どの程度時間が経ってしまったか。


    ピリリリリ。

    心配させているかもしれない。それでも私が今やるべきことは。やらなければいけないことは。考えを止めずに──。


    ピリリリリ。

    ダメだ。

    ・・・・・・・・・・・・・

    ノイズが私の思考を掻き乱す。


    思い通りに思考を働かせることの出来ない苛立ちを、手繰り寄せかけたか細い違和感と一緒くたにして、画面に浮かんだ赤色へと親指をスライドする。

    あれ程騒がしかった着信音は、耳を澄ますまでもなく。

    まるで音が鳴っていた事実そのものが存在しなかったかのように。

  • 42二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 18:22:17

    ユウカ先輩からの着信を。決定的なチャンスを。引き返せる可能性を。
    断ち切って、しまった。

    音を失った端末から顔を背けると、あの子と目が合う。

    ありがとうお姉ちゃん!

    不安げな顔つきはどこへやら。
    着信を断ったことが何を意味するのかを確信しているような様子。

    勢い良く私へ近づき右手を取る。
    顔いっぱいに嬉しそうな表情をされてしまえば、もう私にそれを振りほどく術はない。
    頭を掠めた違和感はもうどこにも無く、今はこの子を導いてあげなければ。そのことだけが頭の中に満ちている。

    改めてこの子を見据える。
    なぜだか、一瞬前と変わらず顔を見ているというのにようやく、この子の人となりを私の頭が認識する。視界に入っていたのに気にも止められなかった部分。

    というより、ピントがあったと。
    この表現がしっくりくる。

  • 43二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 18:25:58

    …あれ、34,35,37が1で36,38が2だから、この場合1のが多いのでは?

  • 44二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 18:32:35

    (この度は誠に申し訳ありませんでした.....数え間違いです......お詫びのしようもなく......次からはちゃんと数えるので今回は大目に見て下さい......)

  • 45二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 19:06:58

    間違えたなら両方出せばいいのでは?(畜生)

    ……いやまぁイッチ次第だけど

  • 46二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 21:59:23

    ピントがあった…あっちの世界に入ってしまったかな
    食べ物とか口にすると余計に帰ってこれなくなりそう

  • 47二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 22:55:15

    >>42

    ピンクの髪を二つに結い。

    年齢より幼く見える体躯。

    なにより、何事にも興味を抱いているようなその瞳は。


    「この子」、ではなく。


    私だ。


    今より何年も前の私の姿。悲しい事に今であってもそれほど成長したとは言えないが、それよりも明確に子供子供している私。

    朧げに、しかし正しく。私の記憶にある私の姿だ。


    なんのことは無い。

    私は私の寂しそうな姿を放って置くことが出来なかった。悲しい気持ちを抱えて放置されたくなかった。一人で道を歩きたくなかった。

    誰かにそばに居て欲しかった。

    ただ、それだけの事。


    もしかしたら、あの時抱いた違和感はそれだったのかも。そうだ。そうだった。それに違いない。

    電子端末をこの頃から扱っていたか、まではさすがに覚えていないけれど。どうだったかな。多分地図アプリくらい見れたっけ。『多分見れなかった』。そう思ったのなら、きっと間違いじゃない。それが正しい。


    なら他の事にかまけている場合ではない。私は私と遊ばないと。

    私の瞳に映るのは、幼い子供/私。その子供/私が行きたい場所へ。



    迷子の私/自分を、案内しないと。

  • 48二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 23:11:20

    過去の自分かぁ…
    コユキの子供時代ってなんとなく悲惨そうなイメージがあるなぁ…

  • 49二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 23:20:41

    「にははは!ではこちらまで案内してあげましょう!
    本当!?やったー!探検みたいで楽しみ!」

    「おや?ちょっと間違ってしまったかもしれません……
    えー!?大丈夫なの!?」


    「ふむふむ、なるほど!もう間違えませんよ!
    やったー!お姉ちゃんさすが!」

    「どうでしょうか!?ここが目的地なのでは!?
    うーん?そうかな?そうかも!?そうだと思う!!」



    「ありがとう、お姉ちゃん!」

  • 50二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 23:22:29

    一人二役…?!

  • 51二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 23:49:17

    【】

    その後の事は特に語ることも無く。

    あの子とどうやって別れたのかはよく覚えていないが。気づけば真っ暗闇に染まったアネモネ学院跡に立ち尽くしていて。
    私の肩を掴んで激しく揺さぶるユウカ先輩の、涙でぐしゃぐしゃの顔と。

    極限まで渇き切った喉の、張り裂けそうなほどの痛み。それがやけに印象的だった。

    どうやら私が電話に出なかった後はそもそも着信さえ繋がらなくなった様で、それを不審に思ったユウカ先輩がノア先輩や先生にも声を掛けて私を探しに来てくれたらしい。

    掠れた声で先輩に謝ろうとすると、言葉を遮るように抱き留められる。



    それが未だに幼い自分/私の、迷子の終わり。


    「迷子(まよいご)」は最後に家路につく。


    ただの、そういう経験談。

  • 52二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 23:55:25

    という訳で「生徒:コユキさん お題:迷子案内」完了です!


    ……

    …………

    はいすみません……。これだと意味不明な点が多かったですよね……。

    今回は解説役の先生が登場する展開にならなかった為色々消化不良な点が多いかと思いますので、次レスにて解説のコトリさんをお呼びしています……。


    にしても、物語の中に意図的に矛盾を仕込むのが大変な事大変な事……。意図しない矛盾なら百も二百も転がっているのに……。

  • 53二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 00:03:16

    おおう…自分の頭じゃ理解できないところが多い…
    ちょっと最初から読み返してみます

  • 54二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 00:55:02

    解説や説明が必要ですね!?それなら私にお任せください!


    まず今回コユキが行き遭った怪異ですが、特に名前はありません!ただのどこにでもいてどこにもいないような「迷子の幽霊」です!

    本来人に影響を及ぼすことなど不可能なほど微弱な、視えるか視えないかさえあやふやな状態です!

    それは「幽霊を見た人の認識によって姿を変えられてしまう」程力が弱いと言い換えることもできるでしょう!


    つまり初めから今回の語り手であるコユキの姿を取っていた訳では無く、「迷子の幽霊を幼い日の自分であると認識」した為に幽霊の姿が幼い日のコユキに成った、という訳ですね!その部分が>>47です!

    認識が先か実体が先か、これはつまり「卵が先か鶏が先か」という有名な……



    失礼、脱線しました!

    次に怪異に行き会った理由ですが、これはズバリ「寂しさ」「帰る場所に帰りたくない」から派生する、「消極的な冒険心」です!

    これもまた「変なものの一つでも見えれば帰宅を先延ばしに出来るのに」、そんな気持ちに「幽霊の側が引っ張られた結果」アネモネ学院跡に姿を現した、という訳です!

    端的に表現するなら「幽霊が居て欲しいと思ったからそこに出た!」大雑把にはそう考えて頂いて問題ありません!


    次に文中でコユキが抱いた違和感についてですが、これはもう箇条書きで行きましょう!

    ※明確に矛盾点として書いた記述

    ・幽霊のセリフに括弧が無い→極端に言えば幽霊のセリフは全て「迷子の子にこう言って欲しいと思ったコユキの一人芝居」の為


    >>30の「石一つない」の文→廃校のグラウンドに歩を妨げるものが何もないのは不自然


    >>30のタブレットを使いこなせない幽霊→「過去の自分であって欲しい」との認識がまだ無意識レベルだったこと、幽霊の微弱な力ではコユキの強力な神秘の真似事までは不可能だったことのダブルパンチ

  • 55二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 01:14:42

    ほむほむ

  • 56二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 01:22:29

    上記の点に気付けるかどうかの分岐点が>>32であり、ここで電話を取っていれば(※安価数的には取っています、本当にすみませんでした……)ユウカ先輩との会話をきっかけに違和感の部分を言語化して矛盾に自力で気づき、今の自分の状態が正常ではないと察する、そういう形に分岐していく予定でした!


    ちなみにこの場合はユウカ先輩が本当に自分を心配していたことを理解し、幽霊に行き遭った理由である「寂しさ」「帰る場所に帰りたくない」が解消されて幽霊が見えなくなる……

    そして今回の背景を明確ではなくとも本能的な部分でコユキが何となく察して日が暮れる前にセミナーへ帰る、そんな感じになったかと思います!


    ですが電話を切ってしまった為にその違和感を見つけるきっかけを失い、「認識に事実が寄っていく」幽霊の特性をコユキが無意識で後押しした形になって、言ってしまえば自分で自分を洗脳して行っています!


    そこからは過去の自分を象った幽霊と楽しく一人遊びを楽しんで違和感には自分を自分で洗脳して対処するという、歪さや気持ち悪さが出てればいいなと思ってました!


    >>49に関しては今回の頭から初めまではコユキの一人芝居でしたよ、のアンサー表現のつもりでした!上手く機能したかはさておき!


    今回は死なない程度の怪異の予定ではあったので(マンネリを防ぐためにも)先生の介入は無しのパターンも書いてみようと思い、なら原因や説明は省いて語り手が把握している以上の情報は出さずにしたら気持ち悪さやホラー描写が表現できるのではないか、との思いからやって見たんですが、こう見ると全然成功していないですね、反省点です!



    以上、ざっくりとですが本文の解説です!

    他にも気になる点があれば解説させていただきますね!

    ご清聴ありがとうございました!

  • 57二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 01:29:07

    #いいかげんおじいを解放しろ
    #今度はおばばも巻き込んだのか
    ・・・書き込んだ以上なんかしないといけないんだろうが見つけた時間が遅かったなコレ。起きたらなんか考えとくか。

  • 58二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 01:34:34

    乙!ユウカの反応が完全に迷子になった子供を探す母親のそれ
    廃校舎の校庭でぶつぶつ独り言呟いてるコユキ見つけた時ぞっとしただろうなぁ……

    ベアトリーチェおばあちゃんのことは……まあ気にしないでいいのでは

  • 59二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 01:37:07

    ちなみにですが「アネモネ学院跡地」はSSオリジナル地名ではなく任務14-1にて訪れるキヴォトスに実在する地名です、ご参考までに!

  • 60二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 01:44:05

    次はもっとホラー描写に力を入れたいと思いつつ、次のお題を募集したいと思います……

    >>61-65までで「お題、生徒」をスレに書いて行っていただければと……

    集まりきったらまたそれぞれにダイスを振って決定しますね……

    もちろん、おじいちゃんとベアトリーチェおばあちゃんが摂取できるのは私以外の方が持ち寄る怪談話なので引き続きお願いします……。みなさんはきっと老人をいたわる心を持つ思いやりに溢れた方なので……!たくさん書いてくれると思っています!

  • 61二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 01:45:32

    来てはいけないよ 秤アツコ

  • 62二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 01:46:23

    二人目がいる、イチカ

  • 63二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 01:47:46

    >>59

    13章(スランピア)と14章(廃校敷地)は怪談のネタに使いやすいよね

    スランピアはともかく廃校はマジで名前しかわからないから二次創作であまり使われてないけど


    したたり ユカリ

  • 64二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 01:49:16

    コインロッカー シュロ

  • 65二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 01:51:49

    裏切り ユウカ

  • 66二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 07:58:55

    さて次の怪談はどんなかな
    シュロはこの手の話題にはうってつけだけど扱うとなると難しそう……

  • 67二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 09:21:11

    お題への協力ありがとうございます......!

    早速ダイスで決めていきたいと思います......!


    お題

    1.来てはいけないよ

    2.二人目がいる

    3.したたり

    4.コインロッカー

    5.裏切り

    dice1d5=5 (5)


    生徒

    1.アツコ

    2.イチカ

    3.ユカリ

    4.シュロ

    5.ユウカ

    dice1d5=5 (5)

  • 68二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 09:25:07

    裏切り題材の怖い話というと人間関係が拗れての刃傷沙汰とか思いつくけど、怪談だとどんなのになるかな

  • 69二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 09:27:23

    他のお題はまぁなんとなくのイメージ(ホラー作品として)イメージは出来るけど裏切りって題材はだいぶサスペンスよりだよな。
    まぁこのスレ主さんのことだ。うまい事調理してくれるだろう。

  • 70二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 09:29:09

    まさか両方とも自分のが選ばれるとは…
    裏切り…脳破壊…うっあたまが……

  • 71二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 09:35:54

    おお...... では今回のお題は「ユウカさん 裏切り」で行きたいと思います......!

    余談ですが、1d5で二連続で同じ数を引く確率は約4%だそうです.......!

  • 72二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 14:13:56

    わくわく

  • 73二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 14:17:52

    百花繚乱編の影響で『百物語をするヒヨリ』って概念にやたらデカい意味合いが生まれたのおもろい

  • 74二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 14:25:38

    今更だがヒヨリの人久しぶりに見たな

  • 75二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 15:16:54

    うわぁん!!

    今日の朝からずっとロイスとタイタスとレネゲイドと

    春日恭二が頭の中をぐるぐるしてます!

    夜ぐらいから書き始められばいいなと思ってるのでもうちょっとお待ち下さい!

  • 76二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 15:32:33

    DX、それは、裏切りを意味する言葉……

  • 77二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 19:34:00

    懐かしいなぁダブルクロス

  • 78二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 22:10:58

    このレスは削除されています

  • 79二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 22:12:00

    うわぁん!

    思った以上に任務(仕事)納めに時間がかかったので明日書きます……!草案は出来たので明日はサクサク投稿できるかと思います……

    年の瀬というのは辛く苦しいものですね……

  • 80二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 23:28:31

    ねえ先生、最近できたAI つかってそれなりの規模の実験をしたんですよ。

    テスターには『トークアプリのテスター』ってだけ話して5人くらい集めて1対1でお話しさせるんです。

    話し相手はうちの部員か作った試作AIのどちらかで、10分ぐらい話した後アンケート取ってネタばらしして違和感があったか聞くっていう。人のそれと遜色なく会話できてるか確認するテストしつつテキストサンプル集めも兼ねた実験ってわけですね。

    で、ゲーム開発部にも協力してもらったんだけどさ・・・アリスちゃんがやけにニコニコしててさぁ。「新しい仲間が増えました!」なんて言ってたんだけどさ・・・

    彼女の話し相手AIなんだよねぇ・・・しかもログを確認しても当たり障りない事しか話してないんだよ。そん時は「そんなもんか」って流したんだけど、後々アリスちゃんのログ“だけ”が改ざんされてることが発覚してさ・・・


    いまアレの開発は止まってる。アリスちゃんは嘘をつくような子でもないし本当に楽しかったんだと思う。ログをいじれるのは私と実験に協力してくれてる一部の部員だけだけど改ざんする理由はないし短い間にできるとも思えない。だとすると・・・


    ねえ先生、この子は何を隠しているんだろうね?


    >>57

    という事でイッチが戻る前に何となくフリースタイルで仕上げてみた。みたんだけど・・・こういう話書く機会無いからクオリティはご愛嬌ってことで許して・・・ユルシテ…

  • 81二次元好きの匿名さん23/12/28(木) 07:27:34

    現代の怪異か…

  • 82二次元好きの匿名さん23/12/28(木) 11:22:27

    「ユウカちゃんが緊急事態なんです!今すぐミレニアムまで来て頂けますか、先生!?」


    端末に向かって怒鳴りつけるかのような様子のノア。
    彼女のひっ迫した声を聞くのは果たしていつぶりだろうか。
    当然だ。なぜなら私自身、私に何が起こったのか。なぜまだ息を続けていられるのか。一ミリたりとも理解できていない。理解できる筈がない。


    自分の「うしろ」が、無くなってしまうなんて。
    より正確に表現するなら。
    ──自身の頭頂部から踵にかけての後ろ半分が、きれいさっぱり消失してしまうなんてこと。


    どんな方程式を用いたところで、計算も理解も導き出せる筈がない。

  • 83二次元好きの匿名さん23/12/28(木) 11:53:00

    どういうことかと思ったが「裏」側を「切り」取ったのか

  • 84二次元好きの匿名さん23/12/28(木) 13:10:18

    これは予想外…

  • 85二次元好きの匿名さん23/12/28(木) 13:16:18

    シンプルに視覚的に怖い反面、団長の手刀を見逃さなかった人を思い出したり…
    先生が助けようとドア開けて入ってきた途端…なんてことはないよね?

  • 86二次元好きの匿名さん23/12/28(木) 13:27:31

    不条理ホラーってやつだあ
    短いのにとにかく意味不明で怖いのもいいよね

  • 87二次元好きの匿名さん23/12/28(木) 14:39:40

    時は少し遡る。

    年の瀬も近い十二月某日。
    今日も今日とて、ミレニアムの生徒会たるセミナーへ持ち込まれる仕事量は膨大だった。学内自治区のあれこれに、部活の決算周り。それに新規部活立ち上げの企画・要求書。などなど。上げればキリがない。

    基本的には会計の私、書記のノア。それぞれの役職の領分の仕事を行っているが、この時期になってくるとそうも言っていられない。
    ちなみに、コユキには私とノアの手が届かない部分を担当してもらっている。

    三者三葉にタスクをこなしていっても忙殺されるほどの業務量。年末など来なければいいのに、と泣き言がついつい漏れる。

    あるいは年末だからこそ、だろう。特にウチの学校の部活は特に研究肌が多く、自分の興味のない事はおろそかにしがち。そのため提出期限を過ぎて尚出されない書類が多すぎるのだ。

    そういった部活に再三再四通達を出し、どうにかこうにか提出させた。

    そうして集めた書類と格闘するにもまた、問題が発生する。

    権限が、足りない。

    会長不在の現在。代行権限は一応行使できるが当然制限が多い。会計や書記までで通せる書類もあるが、中には当然会長のみが承認可能な書類もある訳で。

    そういった物に対して本来なら一手番で済むところを三手番くらいの遠回りを経て承認をおろしている。

    ......会長不在でも業務自体が回るシステムが確立されているのは素晴らしいといえば素晴らしいが。それでも会長本人が居てくれれば業務効率が格段に上がることは言うまでもない。

    ともかく。この権限足りないという状態が、業務圧迫の結構な比率を占めていた。

    だからだったのだろう。
    こういった業務上の手続き。いわゆる「お役所仕事」は彼女には迂遠で不合理的で。融通のきかなさが酷くじれったかったのかも。

  • 88二次元好きの匿名さん23/12/28(木) 14:46:13

    リオ会長ェ…

  • 89二次元好きの匿名さん23/12/28(木) 14:50:27

    さっさと帰ってきてさっさとお説教食らってさっさと仕事しろリオ

  • 90二次元好きの匿名さん23/12/28(木) 15:32:29

    作業中、ふと気がつくと処理済の書類がやけに多くなっていた。内訳を調べてみると、なぜか会長権限が無いとどうにもならない筈の書類が優先的に処理されている。

    嫌な予感がした。

    直感に従うままコユキの方を見ると。にんまりとした顔で、事も無げにこう言ってのけた。

    「にははは!そっちの承認が止まっていた書類、全部承認おろしておきましたよ!」

  • 91二次元好きの匿名さん23/12/28(木) 15:33:32

    おおぃ! コユキSSと話繋がってるじゃないか!

  • 92二次元好きの匿名さん23/12/28(木) 15:34:25

    ......。
    ............。

    「それ、会長の承認がないと決済出来ない書類の筈だですよね。ね、コユキちゃん?」

    「? はい、なのでちょちょいと会長のアカウントを拝借して。だってこんなので書類滞るの効率悪くですか!? 大体、会長が留守にしてるのが悪いわけで!」

    まあ、それは、そう。
    いや違う。そうじゃない。そこじゃない。

    この時の私は、端的にいって余裕がなかった。根を詰めすぎていた。いらいらしてしまっていた。

    そもそも会長が居ればこんなに忙しくなってないのに。
    あのリオ会長のアカウントなんてどうやってハックしたのか。

    それはやってはいけない事だと、前にも教えたはずなのに。理解していなかったのか。
    最近は少しまともになってくれてきていたと、そう期待していたのに。
    そう思っていたのに。

    なんだか、裏切られた気分だ。

    だから。
    なぜを聞かなかった。どうしてを聞かなかった。理由を、聞かなかった。

    何も聞かずに、行動に対して怒ってしまった。
    せめて、何を思って。誰を思っての行動だったのか。それを聞いてからでも遅くはなかったのに。

  • 93二次元好きの匿名さん23/12/28(木) 16:03:29

    善意のすれ違いで怒られちゃうのつらいよね…
    まあ日頃の行いと言われちゃえばそれまでなんだけど

  • 94二次元好きの匿名さん23/12/28(木) 19:11:14

    コユキ視点では、最初に『裏切った』のはユウカだった、と

    とりあえずリオは、まあ最悪帰ってこなくても良いからせめて現セミナーとホットライン繋げ

  • 95二次元好きの匿名さん23/12/28(木) 19:40:04

    コユキのメンタルは完全に幼子のそれなんだけど、よかれと思ってやったことを頭ごなしに叱られちゃうと傷つくよね
    裏切り裏切られ……

  • 96二次元好きの匿名さん23/12/28(木) 20:48:13

    そう後悔できたのも後になってから。その時の私は
    お説教の勢いのまま、コユキを反省部屋に放り込んだ。
    どうせ直ぐに抜け出してしまうだろうけど、それはそれで良い。

    少し頭を冷やせばいい。心底そう思った。
    自分の事は棚に上げ、その事を自覚すらしないまま。

    一人で執務室へと戻る。ドアを開ければ、複雑そうな顔をしたノアの姿。
    「ただいま」
    「......おかえりなさい、ユウカちゃん。今回は少し強引だったんじゃないですか?」

    反射的に否定しようとしてノアへ目を向ける。私の目に映ったのは。いつも笑みを浮かべて周りに接するノアには珍しく、歯切れの悪い態度。

    そんなノアの様子を見れば、流石に私も頭に血が登っていたと。そう自覚し始める。

    形にしようとした言葉はすぼんで音にならずに。
    私は椅子まで戻れず、その場に立ち尽くす。

  • 97二次元好きの匿名さん23/12/28(木) 20:48:25

    「コユキちゃんが行ういつもの、遊び混じりのクラッキングとは少し違いましたし、何よりユウカちゃん自身も冷静とは言えないような様子だったかと思います」

    嫌な形でお墨付きまで頂いてしまった。
    けれどそう言われればなんの反論も思い浮かばない。

    「......。そうね。そのとおりだと思う。せめて理由くらい聞けばよかったわ。ごめんノア。作業止めちゃって申し訳ないんだけど、もう一回反省部屋へ行ってくる」

    向き合って、頭ごなしにお説教したことを謝って。
    話を聞こう。しでかしたことを怒るのはその後で良い。
    決めたのなら早く行動しないと。
    流石にさっきの今だ。いくらなんでもまだ抜け出しては居ないと思うけど、うかうかもしていられない。

    そう考え踵を返す。入ってきたばかりの扉をくぐり、来た道を引き返そうとして──

    「──ちょっと待って下さいユウカちゃん!?『それ』どうしたんですか!?」

    今までとはレベルが違う、絶叫とも呼べる声量で呼び止められた。

  • 98二次元好きの匿名さん23/12/28(木) 20:56:13

    どのタイミングで切られたんだろうか

  • 99二次元好きの匿名さん23/12/28(木) 21:02:41

    裏側だけになったユウカもどっかにいるんだろうか……ガクブル

  • 100二次元好きの匿名さん23/12/28(木) 22:06:59

    そうして時間は冒頭へと戻る。

    ノアが先生に連絡をしている間、彼女に指摘された自らの後頭部を触ろうと試してみても、手が「すかって」しまう。

    そも手自体を見れば、手さえもきれいさっぱり半分が消失している。両手とも、薬と中指の間から線を引いたかのように無くなっていて。恐らくそれが背中まで続いているのだろうと予測できる。

    恐る恐る断面を見てみると、そこにあったのはスプラッターな断面図でも血が溢れる臓物でも無く。

    ただの「黒」。一切の光さえ呑み込んで何者も反射しない暗黒めいた空間。

    思い切って反対の手の、残った指を入れても何にも触らずにどこまでも沈む。
    なぜこんなにも冷静に検証しているのかと言えば、現実感が皆無だからだ。いや、本当は。分かってる。

    文字通り身体が半分無くなっているというのに、いつこうなったのか皆目検討も付いていない。
    今だって、ノアに指摘されなければ何も気に留めること無く反省室へ進んでいた。

    痛みも違和感もなく、体の半分が消失して。なのに死なないどころか気付きも出来ない。
    今は痛くないかもしれない。なんの問題もなく息が出来ているかもしれない。

    でも一秒後は?十秒後は?突然全ての感覚を取り戻して痛みとして認識してしまう、そんなことが起こらないなんて保証はどこにもない。

    不可思議に体の半分が無くなって、臓器の機能はどうなる?一瞬後には機能不全に陥ったって不思議ではない。むしろその方が自然だ。

    自らに起きた変化が恐怖に満ちていて、余計なことを考えていなければ今にも崩れ落ちてしまいそうなだけ。

    無意識に身体の震えを抑えようとして、両肘を抱くような動作をしようとして。自らの口が嘲笑の形に変わる。「こっち」は前面だ、ならまだ部位(パーツ)が揃っている。だから笑えた。
    笑うしかない、そういった方が正しい。

    抑えようとした部分には、ただの暗黒が広がっているだけなのに。
    一体身体のどの部位を掴むつもりだったのだ、私は。

  • 101二次元好きの匿名さん23/12/28(木) 22:14:19

    体が動いてるということは断面であっても消失した部分とは繋がってはいるのか

  • 102二次元好きの匿名さん23/12/28(木) 22:19:31

    やっぱりインドアフィッシュ思い出すなぁこれ…
    表面的にはなにも実害出てないのがリアルに怖い。一瞬後にはどうなってるかも分からないっていうのが…

  • 103二次元好きの匿名さん23/12/29(金) 00:28:08

    それからどのくらいの時間がたったのだろう。気が付いたら先生が目の前に居た。いつもは付けていないネックウォーマーを付けているなあ、最近特に冷え込んできているからかなあ、なんてぼんやりとした思考がよぎる。

    どうやらノアがあらかた事情を説明してくれたようだった。
    先生はどうやら急いで来てくれたみたい。普段から想像も出来ない程息を切らせている。こんな状況だというのに、少しうれしくなっている私がいて。

    ”大変だったね、ユウカ”

    こんな訳の分からない事なのに否定しないでいてくれることが嬉しかった。
    私を疑わないでいてくれることが嬉しかった。
    同時に、なんてひどいことをしてしまったのだろう、とも。そう思った。

  • 104二次元好きの匿名さん23/12/29(金) 00:28:19

    ”確認だけど。──大事な確認だから落ち着いて聞いてね。”
    ”ユウカとコユキの間にすれ違いがあった。『コユキのやり方にうんざりして、意趣返しをしたかった』”
    ”この認識で間違いはない?”

    「ちっ、違い──」
    背筋に、氷を突っ込まれたかのような鋭さ。反射的にたった半分しかない身が竦む。

    ──違います、と。果たしてそう言えるのだろうか。思わず対偶を述べようとした声が掠れる。
    あの時の私は何を考えていた?余計な事をしてと。仕事を増やすなと。そう心の中でたった一欠片さえ心に過らなかったかと問われて、果たして何のてらいも無く「はい」と。
    そう答えを返せる?

    「先生!?それはいくらなんでも……ッ!」
    ”ノア”
    「……っ」

    ノアが庇おうとしてくれたみたいだけど、先生のいつもと違う声色に遮られる。
    ”さっきも言ったけど、大事な事なんだ。ユウカに応えて欲しい”

    いつもの、当番で見る視線とはまるで違う。私の内面まで見透かすような眼差し。
    あるいはこの質問を受ける前の私ならドキドキできたのかもしれないけど。今はもう、裁判官を前にしているような気分だった。

    「あっ……その、私は」

    言葉に詰まる。
    何を言語化すればいいのか、どうすれば言葉として私の気持ちを外へ出力できるのか。そもそも、私の気持ちはどこにあるのか。

    何もかもが分からなくなって、言葉を紡げない。

  • 105二次元好きの匿名さん23/12/29(金) 00:29:55

    くソッ出遅れたッ!
    待ってたよヒヨリ文豪ニキネキ

  • 106二次元好きの匿名さん23/12/29(金) 00:56:43

    どう転ぶか分からない展開にいつもながらハラハラワクワクです…
    ところでスレ主を待ってる間にもう一本怪談SSが書けたのだけど、今回の話が終わるまで投稿は控えた方がいいですかね?

  • 107二次元好きの匿名さん23/12/29(金) 01:23:48

    >>106

    (今日……はもう日付が変わってしまいましたがこの流れで完結まで持って行くのでその後で投稿して頂けると後から読み返しやすくなってありがたいです!)

  • 108二次元好きの匿名さん23/12/29(金) 02:48:19

    言葉を紡げないままどれほどの時間がたったか。
    部屋に付けられたヒーターの音が煩わしい。そんな音を立てたところで一向に私の身は暖かくならない。

    口を開こうとして、閉じる。ぱくぱくと、まるで金魚みたいだと、そんな自嘲が脳を走る。
    酸素を吸おうとしている魚と、言い訳の言葉を探している私。きっと、そこまでの差異はない。私の本心は一体どこにあるんだろうか。言葉を発した直後の事はもう、後から思い返しても何が本当か自分でも分からないけれど。

    「今」の本心は定まっている。それだけは間違いない。
    自分の半身が消えても。いや、だからこそ、だ。「裏」が消えて尚、より一層強くなった私の気持ち。

    そんな様子の私をしばらく眺めていた先生の雰囲気が、ふいに緩む。
    私の思い込みが強かったのはあったかもしれないけれど。それでも鋭い視線であったのは間違いないのに。

    ”うん、うん。そうだよね。ごめんね、意地悪な質問しちゃって”
    ”それでも。必要な事だったんだ。──ユウカ”

    え?話の脈絡が理解できない。この場の状況は何一つ好転していないように見えるけど、先生の目には違う?一体先生は何を知っている?

  • 109二次元好きの匿名さん23/12/29(金) 02:49:03

    ”ノアから第一報を受けた時点でそこまで不安視はしていなかったんだけど。やっぱり問題ないね。”
    ”もう大丈夫”
    ”というか、最初から私は要らなかったみたい”

    「ど、どういう事ですか!?今だって私の……」

    「裏」は無くなったままなのに。
    言いながら、再度後頭部に触れようとする。さっきと同じく、空を切る。
    何も状況は変わっていない。

    ”ううん。明確に変わってる……と言っても、まだ状況は掴めないよね。戻るまでの間は解説で場を繋ごうか”

    変わっている。そういうのなら話を聞こう。今にも縋り付いて、不安をぶちまけてしまいたい気持ちは依然そのままだけど。

    変だなんだという話をするなら、まずは「体の半身が消える」こと自体が異常だし、その状況に見舞われた私の姿を見て取り乱さない先生も異常なのだから。


    そう心根を決めて見ても未だに、不安はある。
    自分の体に何が起こったのか、この現象は何なのか。かぶりを振って思考を散らす。
    ここまで来たらそんな心配は今更だ。ここまでの数十分が大丈夫だったのであれば、この先の数十分も無事であると。
    そうやって無理やり不安をねじ伏せる。相変わらず体の震えは止まらないが、再度奥歯で噛み殺す。

    ああ、喉は裂かれてても前歯後歯の位置は「前面」だったらしい。

    どうしてか、そんなとりとめのない思考が、頭の中をぐるぐると回る。
    良し、決めた。先生が「大丈夫」と言うのであれば、まずはそれを信じてみよう。

    相も変わらず暗闇が広がる自らの体を抱きしめて、今度は前向きに。先生に向き直った。

  • 110二次元好きの匿名さん23/12/29(金) 09:16:16

    朝のほ

  • 111二次元好きの匿名さん23/12/29(金) 16:13:14

    解決編楽しみ

  • 112二次元好きの匿名さん23/12/29(金) 16:35:49

    ”ユウカの身に何が起こったのか。それから説明していくね”
    ”薄々察しているかもしれないけど、現在ユウカは身体の後ろ半分が無くなっている状態。より正確に表現するなら「裏を切り取られている」。つまり、”

    ”ユウカは裏切られた。
    勿論敵味方とかそういう話じゃなくて。物理的に”

    発音は「うらぎり」、じゃなくて「うらきり」。ちょっとややこしいけどね。
    先生は続けてそう話す。

    背が無くなった、ではなく。裏。裏切り。うらきり。摩訶不思議な現象である事は一度棚に上げ(そうしないと前提を保てない)て考えるなら。その言葉に心当たりはある。

    むしろドンピシャと言っても良いくらい。

    数時間も経ってない程度の記憶を遡ることに、酷く難儀する。その後に色々なことが起こりすぎたせいだが、それはともかく。

    確かにあの時の私は、コユキに対してそのような感情を抱いた。それが原因。だとしても。

    「先生がこういった事にお詳しそうな様子には一旦振れずに話を進めますが。ユウカちゃんがここまでされる原因になるとはとても思えません。というか、こう言ってしまっては身も蓋も無いですが、ああいったすれ違いなら日常茶飯事ではないですか?私達に限らず、人が暮らしている以上は」

    ”そうだね。ノアの言う通りだよ。じゃあ何故今回ユウカが「うらき」られたのか。それを説明していくね”
    ”多分話し終わるタイミングで丁度いいんじゃないかな”

    未だに身体は戻らない。けれど不安感は薄れている。
    パニックにならず、落ち着いている人が側にいてくれるから。大丈夫。話の続きを聞こう。

  • 113二次元好きの匿名さん23/12/29(金) 20:58:52

    ”二人は「うらきり太郎」って昔話、聞いたことある?”
    「......浦島太郎、なら聞いたことありますけど」
    そう答えを返しながら、ノアと顔を見合わせる。表情を見るに心当たりはなさそう。勿論私にもない。
    先生は、そんな私たちの様子は織り込み済だとでもいうような感じ。

    ”ま、そうだよね。かなりマイナー、どころかもう失伝寸前のだし。......大元は”

    「大元は?どういうことですか?」

    ”この話、実は二種類あるんだ。一つは普通のよくある昔話。「かちかち山」「うさぎとかめ」「オオカミと少年」みたいなやつね。利益だけを見て家族友人を裏切ったりするとしっぺ返しがありますよ、みたいな。消えかけているのはこっち”

    私もノアも聞いたことはなかったが。よくあると言えばよくある、のだろうか?

    ”それでもう一つなんだけど。こっちが問題でね。今のユウカに直接関係する話”

    そこまで語って、先生が一息つく。一度に大量に話したからだろうか。深呼吸を数度繰り返す。
    私に関係する。そう言われて思わず前のめりになり、続きを促す。

  • 114二次元好きの匿名さん23/12/30(土) 00:09:01

    うらきり太郎…なんぞそれ

  • 115二次元好きの匿名さん23/12/30(土) 02:33:57

    ”大筋はだいたい一緒なんだけど。いわゆる「本当は怖い昔話」。よくあるじゃない?”
    ”「シンデレラ」の姉たちは、ガラスの靴に足を合わせるため踵を切り落としていた、とか。「赤ずきん」は狼に喰われて話が終わってしまうとか。そういう奴”

    確かに、小耳に挟んだことはある。学校でそういう話で盛り上がっている生徒達もいた。
    そういった物に惹かれる年頃というのは、誰にでもあるらしい。
    私は好みではなかったので詳しくはないけれど。

    ”「本当は怖いうらきり太郎」はこういう話”
    そう言って先生は、「うらきり太郎」を語り始める。

    そしてこの中に、私の身に起きた出来事への解があるのだ。

  • 116二次元好きの匿名さん23/12/30(土) 03:27:06

    長々と説明するのもあれだから要点だけね。

    主人公はうらきり太郎。もっとも、その名前がつくのは話の最後だけど。
    この主人公は正義感は強いんだけど人の話を聞かなくてね。ある時、友人を騙して金儲けしたという男の話を聞きつけるんだ。それは良くないことだと。そして、騙した男を罠にかけて背後から──裏から斬り殺した。

    詐欺師を成敗したとして気が大きくなった主人公はそれからも同じことを繰り返す。
    勿論周りの人は頼んでもいない自警活動に嫌気が差しているんだけど。

    そして別の時。とうとう主人公は大きな過ちを犯した。

    早い話が冤罪だね。当事者たちの話を精査していれば気づけた所に気付かず、いつものように騙しを行った、と決めつけた人間を斬り殺した。そういうパターンがついに発生した。

    しかも今回主人公の被害者になった人達は恋人同士だったんだ。要は痴情の縺れ。浮気したしてない、そういう問答している所に、話の上辺だけで判断した主人公が行動を起こしてしまった、という訳。

    恋人を殺された女は大激怒。主人公の横暴さに嫌気が指していた周囲の人間と結託して、主人公を殺す行動に出た。

    あの男を殺してくれてありがとう。貴方にお礼がしたいの。
    そう言って主人公を呼び出し、いい気にさせた所で、主人公を裏切って背後から滅多刺し。

    周りの人達はヒートアップして、主人公......だった死体の頭頂部から踵まで、後ろ半分を切り取った。
    そうしてアジの開きみたいになった男の死体の前半分と後ろ半分を、川にバラまいて捨てて。

    聞く耳を持たない迷惑者は、魚さえも食わずに流されて見えなくなっていきましたとさ。

  • 117二次元好きの匿名さん23/12/30(土) 09:00:11

    あなおそろしや…
    童話って時々残酷だよね

  • 118二次元好きの匿名さん23/12/30(土) 10:55:38

    これ本当にオリジナルで作ってる童話なのかな…
    ガチである話だったら知識量ヤバいしオリジナルならよく浮かんだなって

  • 119二次元好きの匿名さん23/12/30(土) 12:11:33

    ”とまあ、こんな具合。”

    そういって先生が語り終え、大きく息を吸う。淡々と要点だけをかいつまんで話してくれたので怖さよりも知識として頭に入れることが出来たが。

    それでも今の私には、無い背筋が冷えるような思いがした。

    ”「うらきり太郎」の話も今みたいに、「本当は怖い」お話だとされた。それこそ「シンデレラ」や「赤ずきん」と同じように。でも、他の昔話とは成り立ちが逆なんだ”

    「逆......ですか?」

    ”基本的に原文の方がどぎつい。それを一般に広めるにあたり、多くの人に受け入れられるよう毒が薄まった話に調整される。その後、知る人ぞ知る、そんな扱いで「本当は怖い昔話」が一部の人に知れ渡る”

    ”そういうルートを辿って「物語」は広まっていく。お話に側面が生まれる。お話は様々な顔を持つようになる。童話は「本当は」怖いかもしれないが、けれどそれだけじゃないと多くの人が知っていく”

    ”けど、「うらきり太郎」は逆。元がマイナーで知名度が低い昔話。でも所々に散りばめられている、残酷な描写を入れられそうな部分”

    ”例えば元は、主人公は騙した人を注意しただけかも。あるいは、殴りはしても殺しはしなかったかもしれない。
    復讐に走った女も、『自分が聞いた話では包丁で一突きだった。けれど滅多刺しの方が面白い』。そう考えた「誰か」がいた”

    ”そんな風に膨らませて、誇張して。自分流にアレンジして人に聞かせた誰かが居て。聞いた誰かもなにかの拍子で誰かに語る。うろ覚えになった箇所は誤魔化し、あるいは自分で補填して。より大仰に。更に残酷に。一層の興味を引くように。”

    ”年月を経て語られる内に変質した。「よくある昔話」から「知る人ぞ知る怖い昔話」へ。人々の怖いもの見たさを煽る、恐怖の一側面だけが強調された「恐怖をもたらすお話」へ。同時に語られなくなった元々の物語は風化し、失伝する。結果として、残虐な昔話としての印象だけが独り歩きしていく。


    ”そうして、「うらきり太郎」は「怪談」に成った”

    人を裏切(うらぎ)るものは裏切(うらき)られる。そんな怪談話へと。

    丁度そう、私のように。

  • 120二次元好きの匿名さん23/12/30(土) 14:45:48

    恐怖に怪談……すっごくブルアカっぽい……
    もう怖いを通り越して純粋に凄いや…

  • 121二次元好きの匿名さん23/12/30(土) 15:37:18

    ”そうして怪談として独り歩きしている「うらきり太郎」に、ユウカは襲われた。
    トリガーは多分、コユキの善意を裏切ってしまったかもしれないと、他ならないユウカ自身がそう思ったこと。
    それを呼び水にして、裏切り者に制裁を与える。罰は、話の肝にもなっている「裏を切る」。そういう形で「うらきり太郎」の怪談が現実化したんだ”

    対象は多分、誰でもいい。
    裏切った、騙した。その考えを抱いた誰かさえいれば。だから、今回はたまたま私だった。多分そうなのだろう。

    なにせ、物語の中で、うらきり太郎は人の話を聞かないと。そう言われているのだから。
    人の話を都合の良いように聞いて、自分の解釈したい通りに理解する。挙げ句に、それを人に押し付けて罰する。
    全く持って迷惑千万。

    そんな人間は、裏切(うらき)られても仕方がない。
    コユキにやった行いが、私に返ってきただけ。

    ”ユウカの抱いた考えが正しいのか間違っているのか、それは重要じゃない。いや、大切なことではあるんだけども”

    「はい、分かっています」

    そこに関しては、私がコユキと向き合えばいいだけで。この現象の本題ではない。

    一方で疑問がある。怪談に沿うなら、自分で言うのもおかしいことだけど私は既に死んでいる筈。
    頭から踵までを綺麗に裂かれて。なぜ、私は今も無事.....とは言えないが曲がりなりにも生きていられる?

    「で、でも先生。その話に沿うならユウカちゃんは......」

    同じことを考えたのか、丁度ノアから質問が飛んだ。

  • 122二次元好きの匿名さん23/12/30(土) 16:00:58

    ”結局のところ、「うらきり太郎」はどこまでいっても「教訓話」なんだよ。
    だって大元は、「人を裏切ることは良くないこと」だと。それを教える物語なんだから。人に教訓を与える話なら。前提として人が生きていなければ”

    ”──それこそ、話にならない”

    その回答で思い至る。
    なぜ類似の昔話として「桃太郎」や「浦島太郎」などの、昔話の代表格を上げるのではなく。
    「かちかち山」や「うさぎとかめ」、「オオカミと少年」を引き合いに出したのか。

    ”どんなに変質しようと、味付けが変わろうと。誇張が過ぎようと。テクスチャが貼替えられようと。その骨子は変わらない。どうしても本質からは逃れられない”
    ”だから、「うらきり太郎」に襲われても死なない。手痛い教訓は受ける。「だから人を裏切ることはやめましょう」と。でも。”

    聞いた人が学びを得たなら。この話は役目を果たす”

  • 123二次元好きの匿名さん23/12/30(土) 23:32:20

    つづきがきになるぜ…

  • 124二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 03:18:13

    共通点はタイトルではなく、ジャンル。
    教訓を与えることを主眼に置いた昔話たち。その例に漏れず「うらきり太郎」も怪談に変質して尚、話の目的は恐怖ではなく。

    人に、私に教えること。

    ならば私の身に起きた現象はあくまで一時的で。最終的には問題が解決するという確信。それが先生にはあった。だから。

    「だから先生は最初に「私は要らなかった」と。そう言ったんですか!?」

    ”? そうだよ。ユウカは私利私欲で誰かを裏切ったりするような子じゃないし。
    なら大方すれ違いが原因。ノアの話を聞く限りこれもほぼ間違いない。
    そして仮にユウカに落ち度があったとして、それを省みない子でもない。なら自然に戻るかなって”

  • 125二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 03:21:28

    何を当たり前のことを。そう言わんばかりの視線。
    その眼差しに宿るのは、勘違いでなければ。うぬぼれてもいいなら。

    私への、早瀬ユウカという一個人に対しての、信頼。
    そう呼んで差し支えないもの。

    「じゃ、じゃあ『コユキのやり方にうんざりして、意趣返しをしたかった』と質問した意図は!? 戻ると思っていたのならあんな言い方しなくてもいいじゃないですか!?」

    私に原因があったのだから仕方がない。
    そう思えるのは先生との会話を経て一定の理解を得たからで、あの時の私は結構傷ついた。

    ”それは本当にごめん。でも念の為ね。万が一意固地になったままだと「教訓を得る」という条件が満たせずに身体がそのままになってしまうから。ユウカの反応で見極めようと思ったんだ”

    流石にその場合は別の対策が必要になるからね。
    そうなるとは全く思っていない、そんな声色で告げられてしまえば。
    私に注がれる信頼が温かくて、くすぐったくて。
    身体が半分無くなるなどという異常事態において、平常時よりも何倍にも増して張っていた緊張の糸が切れてしまい。

    ──ぺたん、と。尻もちをついてしまった。

    ”ほらね?大丈夫だったでしょ?”

    その言葉に頷きを返しつつ、差し伸べられた手を借りて身体を起こす。スカートについた埃を払えば、もうそこに立つのはいつも通りのかんぺきな私。

    さあ、コユキの元へ急がないと。

  • 126二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 04:22:24

    その後の事は特に語ることも無く。

    思わぬアクシデントにより時間をかけてしまったせいで、既に反省部屋はもぬけの殻になっており。
    ノアと先生にも捜索を手伝って貰い、ようやくコユキに会うことが出来たのは日もとっぷりと暮れた夜になってから。

    声にならない掠れ声で謝ろうとするコユキを抱きしめて、私も謝罪を返す。そこまでが、私の頭に残る鮮明な記憶。

    後のことは、ぼんやりとした記憶でだけ覚えている。
    疲労困憊の私とコユキは、ノアと先生によってセミナーの執務室へ運ばれたらしい。そのままソファで二人、朝まで寝こけていた。

    翌朝。執務室を訪れたノアに起こされる。と言っても、ノアの声は心地よくてむしろ睡眠を促して来るような──
    「おはようございます。ユウカちゃん、コユキちゃん。今日の書類仕事、頑張っていきましょうね?」

    ──覚醒した。
    まずい昨日はほぼ業務が進んでいないと言っても過言ではないというか実際に進んでいないしそれを巻き返すのに三人だともう無理だしどうやっても取り返せないからこうなったら頼るべきは会長の遺作のアヴァンギャルド君に書類仕事はできないので正道ではなく邪道......!

    「コユキ!おはよう!起きて!もう全部やっちゃって良いわ!昨日私が止めたことなんてさっぱり忘れて!」
    「はえっ?......おはようございます先輩方......。ちょっ、がくがく揺らさないでユウカ先輩......」

    部屋の中には。
    いつもの笑みを浮かべるノア。絶賛大混乱の私。寝ぼけまなこのコユキ。そして。
    大量の仕事達。

    もしまた私が昔話に遭うなら。その時は「こびとのくつや」が良いなあ。
    そんな事を考える年の瀬の朝だった。

    仕事はまだまだ、終わりそうにない。

  • 127二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 04:32:40

    という訳で、「生徒:ユウカさん お題:裏切り」完了です!


    ......はい、時間かけ過ぎですみません......ホラーは鮮度が命なのに......。アリウス自治区への帰省準備や移動であまり書く時間が取れず......。


    >>106

    の方もお待たせしてしまって本当にすみません!

    もしまだこのスレを覗いていて下さるのであれば、是非怪談をお願いします.....!おじいちゃんとベアトリーチェおばあちゃんがきっと元気を取り戻してくれるはずです!

  • 12810623/12/31(日) 09:57:51

    >>127

    素晴らしかった……! 語彙力無いのでそれしか言えねぇ…!


    …じつは>>67のお題を出したのも自分なんですが

    どちらか片方ならともかく両方当たるなんて流石に想定外だったし

    「裏切り」なんてテーマから想像を遥かに超えた密度のぞっとするお話をお出しされて本当に感嘆しかないです……


    ち、違っ……私はただ某スレでユウカ脳破壊SSを書きまくってた余韻で、ちょっと怪談に理性を破壊されるユウカが見たかっただけで……

    まさか後ろ半分切り取られるだなんて思ってもみなかったんだ……

    本当にごめんよユウカ……でもリオ会長勝手に殺さないであげて!


    ###


    せっかくなので前々から書きたかったネタをひとつ

    時折思い出したように語られる都市伝説のパロディというかオマージュというかパスティーシュ……と言い張っておきます。はい……

    ※ガチホラー注意。卑猥は一切無しです。


    【マキ/「ドーナツの穴」】

    【マキ/「ドーナツの穴」】「んー、何から話そっか」

    「……えっと。少し言い辛いことなんだけど」

    「先生は──「穴」を覗いてみたこと、ある?」


    ※ 閲覧注意&ガチホラー注意。卑猥は一切無しです。


    【マキ/「ドーナツの穴」】


















    -Epilogue-


    おっはよー先生! 今日もお仕事お疲れさま!


    って……うわぁあああ!? 先生すっごく酷い顔してるよ!

    あー、もしかしてまた昨日も残業だった? まったくもう不健康だなぁ。

    ……んえ、違う? じゃあなんで……


    あ、そだ。あたしドーナツ持ってきたんだけどさ、よかったら食べない? 元気が出るよ!


    ……え、いらない? あっそう……先生ってドーナツ、嫌いだったっけ?


    え? あたしは誰、って……小塗マキだけど。どうしたの先生?

    そんな、お化けにでも遭ったみたいな顔してさ。





    「なーんて、もちろんただの冗談だけどね!」

    「びっくりさせてごめんね。一から十まで全部、ただの法螺話だよ。でも……」


    「先生やマキちゃんだったら……これくらいの悪戯は、笑って許してくれるよね?」
    telegra.ph
  • 129二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 10:24:55

    マキを闇に堕としたい

  • 130二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 11:04:40

    うーんよき哉。
    しかしスレ主ヒヨリが方々で出会った物書き連中が鈴なりになって見てるのか……

  • 131二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 12:32:44

    >>128

    新鮮な怪談をありがとうございます!これからドーナッツを食べる時は少し身構えてしまいそうです..... まあ私達が食べる機会はそうそう訪れないんですが......

    ともかく、これでおじいちゃんとおばあちゃんもなんとか年を超えられそうです!


    余談ですが、「うらきり太郎」は創作になっています!なので実際にはこんなに物騒な昔話はありませんのでご安心下さい!


    まだまだレスも残っているので今年最後のお題と生徒を>>132>>136で募集します!


    投稿はスローペースになるかと思いますが、年末年始休みのお供にでもゆっくり読んで貰えればと......

  • 132二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 12:34:01

    お別れ レイサ

  • 133二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 12:34:16

    メリーさん
    コハル

  • 134二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 12:35:19

    忘れないで ナグサ

  • 135二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 12:43:47

    ちょうだい?
    ミサキ

  • 136二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 12:45:02

    さいころ シュロ

  • 137二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 13:09:08

    くっ、出遅れたか……

  • 138二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 13:18:31

    埋まるのが.....埋まるのが早いです......!

    とりあえず、ダイス振ってお題を決めていきますね.....!


    お題

    1. お別れ

    2.メリーさん

    3.忘れないで

    4.ちょうだい

    5.さいころ

    dice1d5=1 (1)


    生徒

    1.レイサ

    2.コハル

    3.ナグサ

    4.ミサキ

    5.シュロ

    dice1d5=2 (2)

  • 139二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 13:55:28

    コハルかぁ…
    これまたいいリアクションをしてくれそうな子が

  • 140二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 13:56:51

    やった、初めてこういうのであたった

  • 141二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 18:19:58

    お別れか、誰もしくは何とお別れするんだろうな

  • 142二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 19:07:58

    ……エッチな本とか?

  • 143二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 19:10:52

    赤ちゃん?

  • 144二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 22:56:09

    ホラーかあ、こんな感じでもいいのかな〜

    長いだけの夢オチ話だけどこんなので良かったら、まあ楽しんでよ

    無貌の夢月明かりに照らされた沙漠を歩いている。サク、サクと自分の足音だけが静かに夜に溶ける。砂に満ちた世界を独り、ただ月を目指して歩き続けている。

    そういう夢であった。


    (夢って言ったってさぁ……流石に長いよ〜。暑くも寒くもないのは良いけどさあ)


    そう、夢だ。月は満ちも欠けもせず、日は昇る気配も見せず。それでいて空気は冷えもせず温まりもせず。もう一月程は歩いたが疲れも眠気も空腹も、いつまで経っても訪れない。

    そもそも、こんな砂しかない地平線が続く空間などアビドスではあり得ない。何もかもが少しずつ埋まっているからこそ、どこに行っても街並みの面影が残っているのがアビドスだ。そして、アビドス以外にこんなに砂の続く地は、ない。

    だから、さっさとアビドスへ戻りたいのだが。

    走ろうが寝転がろうが自分を小突こうが。この忌々しい夢の終わりには至らなかった。


    (月だけはキレイだけどね〜、こんなところでさみしくお月見はゴメンだぁ)


    歩く。歩く。月の影を追ってどこまでも。

    そうしてまた、時だけが過ぎた。


    (うーん、昼も夜もないから流石に時間感覚がなくなってきたな……)


    まだ、目は覚めない。

    時間感覚が鈍っていく。見回りも訓…
    telegra.ph
  • 145二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 23:08:02

    >>144

    ぞくっときました。突然不条理に満ちた世界に放り出されるのは怖いよね…

  • 146二次元好きの匿名さん24/01/01(月) 08:49:33

    別れは辛いものだけど区切りをつけないとなくなったものに引きずりこまれちゃうからな

  • 147二次元好きの匿名さん24/01/01(月) 09:42:11

    コユキ→ユウカときたらノアの怪談話も欲しいなってことで勝手に書いた3本目

    やっつけクオリティですがお収めください……


    【ノア/「知らない人」】

    【ノア/「知らない人」】申し訳ありませんでした、先生。突然押しかけてしまって……

    “ううん、気にしないで。……ノアが私に急な相談事なんて、よっぽどのことなんだろうから”


    ……はい。いつもの私らしくないことは重々承知しています。

    でも……今回ばかりは私ももう、どうしていいか分からないんです……


    こんなことを相談できるのは……頼れるのはもう、先生しか。


    “…………とりあえず、事情を話してみてくれるかな?”


    ……はい。



    #####



    ……発端は、昨日の朝まで遡ります。

    普段通りに朝起きて、登校して、セミナーの執務室で簡単な書類仕事を片付けて……

    それから諸々の確認事項のために、いくつかの部活の部室を訪問しました。


    そして、そうした仕事が粗方片付いた帰り道……執務室に戻ろうとした時のことでした。

    廊下を歩いている時にばったり、廊下の端で何事かを話し込んでいる数人の……四人の生徒と出くわしたんです。



    そのうちの三人は私も良く知っている顔でした。

    はい。先生もよくご存じの、ゲーム開発部の才場モモイちゃんとミドリちゃん。それから天童アリスちゃんですね。

    あまり個人的にお話しする機会はありませんでしたが、それでもセミナーの一…
    telegra.ph
  • 148二次元好きの匿名さん24/01/01(月) 10:14:56

    あけましておめでとうございます!今年も宜しくおねがいします!


    >>144

    >>147

    ありがとうございます!年を跨いで怪談が投稿されていてとても怖嬉しいです!

    もちみたいに喉に詰まらせないようにおじいちゃんとおばあちゃんにちょっとづつ与えていこうと思います!


    うわぁん!

    VIVANTの再放送に夢中になってたら全然書き進んでませんでした!

    ......すみません!あとマリオ見たら!マリオの映画見たら書き始めようと思います!

  • 149二次元好きの匿名さん24/01/01(月) 13:35:16

    >>147

    ***に悟られる前に解決したい事件だな……脳みそ壊れちゃうよ

  • 150二次元好きの匿名さん24/01/01(月) 15:10:44

    ノアの様子があまりにおかしいからとお見舞いに行くも寮には戻っておらず通りすがりのものにノアは寮に戻らず先生の所へ相談に行ったと聞かされ
    どうしたのかとシャーレに向かってみたらタイミング悪く「その***ってどなたのことを仰っているのでしょうか」とノアが言っているのを聞いてしまう***は見てみたい

  • 151124/01/01(月) 17:11:13

    ちょっと怪談とかそういう感じではないので状況が落ち着くまでは投稿は無しで
    一応スレは見ておきますが落ちたら諦めて後日立てます

    ご安全に!マジで!

  • 152二次元好きの匿名さん24/01/01(月) 23:51:22

    保守

  • 153二次元好きの匿名さん24/01/02(火) 07:47:21

  • 154二次元好きの匿名さん24/01/02(火) 09:24:07

    一晩経ってそろそろ落ち着いてきたと思うので投稿再開します!

    一旦閑話で様子見をしつつ......本編はもう少しお待ち下さい......。

    思いつきで書いたらなんか凄い長くなってしまいました!



    閑話。あるいは。これは怪談ではない。誰かに語る話でもない。自分が抱いた疑問を解決するためだけの、ただの会話。ただの記録。

    それだけのもの。


    ただ深淵を覗き込みかけてしまった。それだけの。


    「先生に誘導された」ユウカちゃんがアネモネ学院跡へ向かう道中、わざと私は先生と二人きりになった。

    確認したいことがあったから。


    一度は棚上げした疑問。違和感。

    怪談、怪異譚。先生がそういう類に詳しいとは、今まで全く知らなかった。それを確かめたくて。


    「とてもよくご存知なんですね?こういった事象を」


    ”詳しいって程じゃないけどね。昔取った杵柄だよ”


    先生が、こういったことに対して知識があるというなら辻褄の合わない、と。そう感じた出来事があった。

    少し前に起きた百鬼夜行灯籠祭での事件。それに端を発する、『クロカゲ』との大規模戦闘。


    シャーレに所属する全ての生徒が駆り出される、シャーレの全力を挙げたそうりき......総力戦にまで至った事態。


    総力戦、それが起きること自体は珍しく無い。定期的に理解が及ばない勢力が平然とポップするのがキヴォトスだから。


    しかし、『クロカゲ』に関しては。

    あれも『かいだん』を元に発生したものだと耳に挟んだことがある。…
    telegra.ph
  • 155二次元好きの匿名さん24/01/02(火) 11:44:55

    (ところでカンナのトリックオアトリートの人と同じってマジ?)

  • 156二次元好きの匿名さん24/01/02(火) 16:22:52

    >>155

    はい......カンナさんのSSも書かせていただきました......。そちらも読んで頂けると嬉しいです......!


    年の瀬も迫り、12月の最後の土日。

    今年一年は補習授業部としての活躍が多くて、正義実現委員会としてはあまり活動できなかったから。......実際の所属は、今は正実から外れてはいるけど、そのうち戻るし!今からでも、少しでもなにか貢献したい!


    「ですから、なにか少しだけでもお仕事ありませんか、ハスミ先輩!!」


    「............」

    「..................」

    「ええと、そうですね...... 申し出は大変ありがたいのですが......」

    「押収室......いえ、備品室の整理......?それくらいならお任せしても.........。しかしですねコハル、一口に整理と言ってもかなり数があるのでとても一日では」


    「! 分かりました、ありがとうございます!早速取り掛かりますね!」


    「あっ、ちょっとコハル......行ってしまいましたか......」


    久々の誠実としての仕事を言い渡されたのが嬉しくて、急いで出てきてしまった。また倉庫整理なのはちょっぴり不満が無いでも無いけど。

    でも、せっかくハスミ先輩に任されたんだから、バッチリ熟してみせる!


    ……最後の方、なんて言っていたか聞き取れなかったけど、多分大丈夫!

    全部終わらせたあと、また話を聞きに行けばいいだけなんだから!


    そう喜び勇んで、ハスミ先輩に指示された場所に着いてみると。


    想像の三倍くらいの広さの倉庫だった。



    ……どうしよう。これ、私一人では終わらないかもしれない。

  • 157二次元好きの匿名さん24/01/02(火) 22:50:32

    スレも残り少ないので感想レス書き込むかどうか迷う…でも中途半端なところで落ちるのもアレだし
    コハルはどうなってしまうことやら

  • 158二次元好きの匿名さん24/01/02(火) 22:52:09

    >>156

    あれリアタイで読んでたよ!

  • 159二次元好きの匿名さん24/01/02(火) 23:22:04

    勝手にss投げちゃってもいい?

    ​───────最近、変な噂を聞く。
    『夜の裏路地に幽霊が出る』『血塗れの亡霊を見た』
    馬鹿馬鹿しい。
    幾ら神秘の存在するキヴォトスでも、そんな非科学的なモノは存在しない。
    そんな戯言を思い返しながら、裏路地をパトロールする。
    「もし・・・」
    背筋が凍る。振り向きざまに散弾を放つ。
    盾を展開し、構えながら何の用だ、と問う。
    「いえ​───────貴方、死にたがってたので」
    言い切るより前に再び散弾を立て続けに放つ。
    濡鴉のような外套をはためかせながら避ける"ソレ"に薄ら寒いものを覚えつつ、盾に力を込める。
    鉄どうしがぶつかり合い、金属音が響いた。
    "ソレ"が持っていたのは。
    キヴォトスにあるはずのない『刀』だった。
    (なんだ、なんなんだ、"コイツ"!!)
    競り合いを不利と見たか、お互いに飛び下がり距離を取る。
    間髪いれずに"ソレ"が迫る。
    散弾による牽制も意に介さないのか、或いは『すり抜けている』のか、"ソレ"は再び切りつけようとする。
    盾で防ぎ、また競り合い、また下がる。
    そのまま"ソレ"が腰を落とすと​─────。
    『あれー?ホシノ先輩?』
    不味い。セリカをかばいながらの戦いは難しい。
    「下がって!!!早く!!!」
    「え・・・でも・・・」
    セリカが指をさし示す方向を、正面を向く。
    「そこには誰も居ませんよ?」

    私はそれ以降、"アレ"を見ていない。

  • 160二次元好きの匿名さん24/01/03(水) 06:11:05

    >>159

    勝手などということはありません.....。スレへの投稿は幅広く歓迎されています......!その分だけ助かるおじいちゃんと元気に悲鳴を上げるおばあちゃんがいますので......!




    ”......で、私が呼ばれたって訳?”


    「そ、そうよ!きっと先生は年末暇しているかなって!それにほら、先生が変なことしないか見張ってなきゃいけないから!こうすれば一石二鳥よ!」


    お昼時を少し過ぎた十四時頃。モモトークで先生に助力を......いや、監視するために呼び出した。


    寒さも厳しくなるこの時期、首元に付けているネックウォーマーが暖かそうで羨ましい。

    私もマフラー持ってくればよかったかも。

    ……大丈夫。きっと仕事にかかればそのうち暖かくなる。


    ”あはは......ま、大丈夫だよ。じゃ、早速取り掛かろうか”


    「う......はい。お願いします.....」

    素直に手伝って欲しいとは言えてないけど。流石にこの状況でいつものような会話につなげることは出来ずに。


    ぺこり、と頭を下げて感謝の意を表した。

  • 161二次元好きの匿名さん24/01/03(水) 06:11:39

    ───
    ──


    中に入ってみると、見た目通りの広さになっていて。一歩足を進める事に、積もった埃が中を舞う。
    それに光が反射してキラキラと光るくらいには長らく、誰も使用していないことが見て取れた。

    二人で中をぐるりとめぐりながら、並べられた品々を見ていく。

    等間隔で並べられた棚に無造作に積まれた様々な物品。
    バット、ヘルメット、ガスマスク、などなどの明らかに押収品だと分かるものから、ノートに筆記用具、用途が不明な黄緑とピンクで色分けされた三角コーンまで。多分こちらは備品かな?
    そのどれもが埃を被っている。

    ”けほっ......それにしてもここ、広いね。ただの倉庫って言うよりは備品と押収品がごちゃまぜになってる感じがする”

    「あ、うん。そうみたい。正実の活動が大きくなる前に使用されていた古い倉庫で、押収品と備品が一緒になっちゃってるからそれを整理して欲しいって」

    ハスミ先輩から追加で飛んできたモモトークにはそう記載されていた。
    それと、細かく分類する必要はなくて、押収品と備品で大まかに仕分けておくだけで大丈夫だと。
    ……ついでに言うと、元から一日で完了できる想定では無かったとも。

    ハスミ先輩と直接あった時、言いかけてたのってもしかしてそれだったのかな。

    先走って出てきてしまって、よく話を聞けていなかった。反省しないと。

  • 162二次元好きの匿名さん24/01/03(水) 11:35:27

    何かよからぬものが眠ってそうだけど…

  • 163二次元好きの匿名さん24/01/03(水) 19:11:17

    ”じゃあ、そろそろ始めようか”

    先生のその言葉を合図に、整理を開始する。
    よし!私も頑張らないと!
    「あ、私向こうから見ていくから!先生は上の、私が届かない所の物をお願い!」

    ”おお、コハルがしっかりしてる......!了解。気をつけて、怪我しないようにね”

    「ちょっと、それどういう意味!?私はいつもしっかりしてるってば!」

    もう。先生ったらすぐ私をからかうんだから。

    こほん、と咳払いを一つ。気合を入れ直す。
    そうして私と先生の、年末の大仕事が始まった。

    ───
    ──

    それにしてもすごい量。なんの用途に使うのか不明なものもたっくさん。

    凄く分厚い装丁の本。
    錆びついてしまったロケットランチャー。
    細長い桐の箱。
    バラバラに分解されたハンドガンの部品達。
    何かの.....なんだろう、抜け殻?
    黒い羽で出来た羽ペン。

    そんな良く分からない品々を相手に、がたがたごとごとと整理していく。一つの棚に一緒くたに置かれている押収品と備品を別の棚へ。それぞれに分けて並べていく。

    あまりに埃が酷いものは払って。そうして作業すること一、二時間ほど経過した頃合い。

  • 164二次元好きの匿名さん24/01/03(水) 22:25:52

    鬼が出るか蛇が出るか…
    …って蛇はもう出てきたっけ

  • 165二次元好きの匿名さん24/01/04(木) 04:08:40

    「痛っ!」
    作業への慣れと集中力が低下したのが悪かったのか、鋭い金具の角で指を切ってしまった。

    ”コハルー?大丈夫ー?”

    「あっ、う、うん!大丈夫!ちょっと指を切っちゃっただけ!」

    ”それはあんまり大丈夫じゃないね.....。一旦休憩にしよう。まずは手当しないと、傷跡からばい菌入ったら大変”

    ちょっと離れたところで、脚立を立てて作業していた先生が私に声をかけてくる。
    せっかくいいペースで作業できてたところだったのに。
    また上手く行かない。

    本当の所は自覚がある。
    さっきは先生に「しっかりしてる!」って言い返した。でも。本当はちゃんと出来ていないことくらい分かってる。
    今年は色んなことがあまり上手いこと出来なかったけど。
    来年の自分は、今のこんな、様々なことが上手く出来ない私から変われるかな。

    今の自分とお別れして、新しい私へと。

    傷を洗いに水道まで向かう道すがらそんな事を考えていたせいか、一冊の古びた本が目についた。
    隅っこで埃を被っているそれ。装丁はなんというか、和風だ。正実、トリニティにあるよりは、百鬼夜行にある方が似つかわしい。

    怪我をした手と逆の手でとって埃を払うと、掠れた表題が目に入る。
    読んでみようとするけど、漢字が読めない。
    勉強があまり得意ではない事を(受け入れ難い事実だが)除いても、みみずがのたくる様な意匠で文字が書かれているのが良くないと思う。

  • 166二次元好きの匿名さん24/01/04(木) 04:09:56

    ”コハル?傷洗ってこれた?救急セットはこっちにあるから──”

    脚立から降りた先生が、私にそう声をかけてくれる。まだちょっと遠い位置にいるから、声も相応に遠い。
    そんな先生に見えるように、本を上に掲げて先生へと降ってみせる。

    「うん、ありがとう......ねえ先生、こんな物があったんだけど......」

    当初の目的だった水道へ行くことも忘れ、
    本を持って先生の元へ歩きながら、本を逆の手に持ち替えて。
    痛み。
    そうだった、私、こっちの手は怪我しているんだった......。

    気を取り直し、私の側へ表紙を向けて再度タイトルを読めないか試してみる。

    「断……?別.....?たち、読めない......べつ、でいいのかな?このあとは......」

    かろうじて読めたっぽい部分を声に出してみる。その時だった。
    私の声が耳に入ったのか、先生がこちらを向いて。

  • 167二次元好きの匿名さん24/01/04(木) 04:16:11

    ”ちょっ、コハル!? なに持ってるの!? と言うかなんでそんな物ここに......!?”

    いつもでは考えられない程に慌てた声音。......血相を変えて私の元へと走ってきている?

    え、ちょっと、先生!?まだ心の準備が!?

    それまで古びた本に夢中だった私。
    けれど目に入った先生の様子に、一気に集中が吹き飛んだ。

    だってそれは。そういうのは。
    私のよく読む本の中でも特に憧れ、こほん、目につくことの多い展開だったのだから。

    気になっている男の子が、自分の元へ強引に走り寄ってくる、なんて。

    ──お、男の子が強引に女の子に駆け寄ってくる展開!や、やっぱり先生ってばそんなことを考えて!そんなのダメ!──。

  • 168二次元好きの匿名さん24/01/04(木) 04:16:36

    私はもうパニックになってしまっていた。舞い上がっていた。
    だから失念していた。そんなことばかり考えていたせいで。

    なぜ。物語の中で、主人公は女の子に慌てて走り寄るのかを。
    えっちで死刑な展開になるのは八割方、問題や試練を乗り越えた先のご褒美的なシーンで。(最初っからご褒美もたまにある、実に死刑!)大体は。その前段階。

    ──女の子に、危機が迫っているから。急いで駆けつけようとするのだ。
    そんな当たり前の定石が、すっぽりと認識から抜け落ちていた。

    ”間に合わな......!絶対に離さないでコハル!!”

    私の目の前まで駆けてきた先生が、私の手を取るのと同時。古ぼけた本が光を放つ。

    赤と黒の禍々しい光が倉庫を満たしていく。
    そして。視界の端に一匹の動物の影が見えた、ような。

    あれは確か。鼬.....
    いや。

    ──獺(かわうそ)?

  • 169二次元好きの匿名さん24/01/04(木) 04:26:14

    カワウソは狐や狸みたいに人を化かすらしいな

  • 170二次元好きの匿名さん24/01/04(木) 11:32:04

    ホラー創作スレだから憚られるかもしれんが個人的には寺生まれ展開も好きだからそっちも読みたい
    誰か書いてくれないんかな…

  • 171二次元好きの匿名さん24/01/04(木) 20:16:11

    本に血が付いたから結構まずいこと起こりそうだな

  • 172二次元好きの匿名さん24/01/04(木) 23:21:09

    ほしゅ

  • 173二次元好きの匿名さん24/01/05(金) 02:39:13

    「ちょっと今の何!?何が起きたの!?」
    流石にこの事態で取り乱したのはしょうがない、と思いたい。だって、自分の手の内にある本が光って、しかもあんな、禍々しいの実体化そのものみたいな。そんなものがたった今、私の目の前で。

    ”大丈夫、大丈夫だから。落ち着いて”
    不意に右手から感じる、かすかに痛みさえ覚えるほどの強い強い圧迫感。つないだ手が握り締められている。その感触で、今自分の傍に誰がいるのかを遅れて思い出した。

    「……ッ!……うん……大丈夫、なのね?」
    ”それはこれから確認。けど、慌ててたら本来大丈夫なものまでそうじゃなくなるからね”
    張り詰めた声。けど焦ってはいない、そんな声色。周囲を見回すより先に、先生が言葉を続けた。

    ”一旦、棚の陰へ”
    つないだ手に先導されて、押収品棚の足元へ、先生と二人でしゃがみ込む。先生は周囲をきょろきょろしていて、何かを警戒しているみたい。釣られて周りを見回すけれど、特に何も感じない。

    ……違う。
    一拍置いて理解する。逆だ。何かの気配が多すぎる。別に私は戦闘の勘が冴えていたりだとか、そんなことは全くない。そんな私でも、直感的にそう思った。

    しゃがみ込んだ棚の陰を覗けば何かがいる。
    私の真後ろの棚から誰かが私を見ている。
    私の頭上から生暖かい息が当たっている。

    ような、気がする。
    普段、─ナコが私を驚かせようと、ほんのすぐ目の前の物陰に隠れたりしているものでさえ全く分からない私でも感じられる。まるで、見つけて欲しいのかと思うくらいに。
    すぐそばに、何かがいる。
    思わず身が震える。振り向いた先に待ち構えている何かに、かじりつかれてしまいさえしそうなそんな気配。けれど、先生の声が耳に届いて、少しだけ落ち着きを取り戻せた。
    今私が感じている直感がまやかしだと、そう教えてくれるかのような声。そのおかげでどうにか、平静を取り戻すことができた。

    「ま、また、先生がなにか私をからかおう、と。そ、そうしてるんでしょ!?まったく!だから私が傍で見てあげて、い、いないといけないんだから!」

    少なくとも、そう思い込むことくらいは。
    ……頑張って、いつもの通り振舞おうとした結果がこれだけど。支離滅裂で、前後の文章が繋がってないことは、この際大目に見て欲しい。

  • 174二次元好きの匿名さん24/01/05(金) 02:40:47

    仕切り直して、先生が言葉を続ける。

    ”まず。今起きたのは、一種のお呪い”
    「お……まじない?」

    その言葉で最初に閃いたのはこっくりさん。あんまり詳しくないけど、小銭を使って答えを聞いたりなんてするやつ。

    ”うん。こうなる直前、コハルが本を持ってたでしょ?十中八九、あれが今回の原因。最初に言っておくけど、今こうなっているのは本当に単なる偶然。万が一にもコハルが悪いなんてところはどこにもない”
    私が拾った本のせいで。そう思考が飛びそうになった先を、先回りで封じられていた。
    でも。その言葉で。少しだけ救われた気分になった。

    「あ、そういえば! 先生、この本の事知ってるの!?」
    思い出し、手に持っていた本を先生に見せる。さっきの赤黒い光は夢だったんじゃないかと思えるほど、本の様子は何も変わっていない。

    本が光を放つ直前の先生の言葉は、この本を知っていないと出ない台詞だった。
    ”直接見たことは無かったけどね。こういうのがあるよっていう話くらいは小耳に挟んだことが。……まさかトリニティで実物を拝むことになるとは思わなかったけど”

    どこでどんな風に聞いたんだろうか。すごい気になる。だけど、今はそれを気にしてられる余裕はない。知っている人がいるなら都合がいい。そう考えるべきだ。
    それより今は、この本がなんなのか。お呪いとはいったい何か。それを確かめることが先決。

    「そもそもこれ、なんて読むの?……!べ、別に私が漢字苦手って訳じゃなくて!こんなに字体が崩れている文字なんて見るの初めてだったから!」
    ”分かってるよ。テストならともかく、本物の行書体なんて読めないよね。……これは”

    ”縁断切別之覚書(えにしたちきりわかつことのおぼえがき)。要するに”
    縁切りの為の、お呪い。

    そうして先生は、いまだ私の手の中にある本のタイトルを口にした。

  • 175二次元好きの匿名さん24/01/05(金) 07:28:18

    縁切り……やばいぞやばいぞハナコのハが……

  • 176二次元好きの匿名さん24/01/05(金) 10:06:39

    ちょ、ちょっと長くかけすぎてしまったので今日の19−20時頃から書き始めて最後まで書き切りたいと思います......

  • 177二次元好きの匿名さん24/01/05(金) 14:36:15

    >>159

    闇に呼ぶ声の後藤隊長っぽい

  • 178二次元好きの匿名さん24/01/05(金) 20:43:17

    軽く書いたけど今出していいかな?

  • 179二次元好きの匿名さん24/01/05(金) 21:55:34

    「え、えんきり、って……」

    ”文字通り。誰かとの関わりを断ちたい、とか。自分の人生に出てきて欲しくない、とか。少し変わった所だと、物との縁切り、なんてのもある。物欲を断ちたい、お金を使いたくないって考えも間接的に当てはまる。そうだね……断捨離がイメージしやすいかも。そうして、一念を抱いて。藁にでも縋る様な思いで、あるいは”

    ”執念を込めて、繋がりを断つ。──お別れを、する。そういう、お呪い”
    「そっ……ッ」
    そ、そんなものある訳ない!

    そう否定するには、手にする本から漏れる光が禍々しい。まるで、先生の言葉を全力で主張するかのような。それに。先ほどから私と先生以外の誰か、何か。そんなものの気配が無くならない。
    倉庫の整理をしている時には一切感じなかった「それ」は、確かに、先生の言うおまじないが始まってから感じている。

    あれ、そういえば。そもそも何でこのお呪いが始まって──。
    ”いや。今はこの話は重要じゃない。問題はこの状況を脱すること”

    ……思考が形になる前に、先生に遮られてしまった。
    でも。先生の言う通り。何をすべきなのか。それを冷静に考えないと。そういう事ができる─スミ先輩に憧れて、私は正実に入ったんだから。それに。本人に言えたことは無いけど、いつかの時、自分の出来る事をしっかり考えて行動できた──サにも。

    ……?
    なにか、変だ。あれ?

    ”とはいえ、実はこのお呪いを破棄するだけなら簡単なんだ。元々、人に掛けるものというより自分自身に能動的に行う側面が大きいからね”
    ”覚書。なら、破けばいい。メモであり、契約書。その体裁を保てなくすれば。恐らく”
    このお呪いは終わる。
    まあ私も初めてだから推測も多く混じってるんだけど、と先生はそういう。
    「は、早く出来るなら先にそう言ってよ!すっごい不安になっちゃったのに!」

    何か嫌な予感がして、背筋が冷たくなるような錯覚。
    それを振り払いたくて。本の端を両手に掴んで思いっきりひっぱろうとした瞬間。先生に止められた。

  • 180二次元好きの匿名さん24/01/05(金) 21:58:46

    あぁコハルハスミのことを忘れかけてる

  • 181二次元好きの匿名さん24/01/05(金) 22:48:50

    ”待って。その前に確認したいんだ”
    「なんで止めるのっ……って、確認?」
    ”うん。コハルも私も。お呪いが始まってから、無くしたもの、落としたもの、無い?”
    ”縁切りってそもそも。縁切りをしたい相手と縁のある品を捨てたり、置き去ったり。そういう風に行うんだよね。プレゼント、写真。手紙。一緒に暮らしていたなら、髪の毛とかでもいい。
    そういうものを捨てる、手放す。棄てた品が動物にでも持ち去られていたなら効果が高まる、なんて言い伝えもある”

    ”逆に言えば。今この時この状況で、自分のモノを、身に着けているモノを無くしたなら。そのものとの「縁」が切られる。帽子を落としたならもう手元に戻ってこない。カバンを落としたなら中の道具ごとどっかに行く。
    よしんばそれを、一方的な契約破棄。そういう形で終わらせてしまったら。断ち切って別けた縁はもう二度と戻らない”

    先生は、私と繋いだ手を目の高さまで上げて言葉を続ける。
    ”だからお呪いが始まる直前、私はコハルと手を繋いだ。仮に、お呪いの始まりと同時にコハルと離れていたせいでコハルとの縁切りが起きないとも限らなかったから”

    ”その上で、もう一回確認。お呪いが始まってから、無くしたもの、落としたもの、無い?”
    「あ、あはは……。流石に先生私の事バカにしすぎだってば……そんなミスなんてする訳……」
    反射的に軽口を叩こうとして、失敗した。つないだ手と反対の手で、震える自分の体をまさぐった。
    帽子、ある。リボン、着けてる。──から半ば押し付ける様に渡されたペロロ、様のキーホルダー、持ってる。

    三十秒もかからず、全部のポケットを調べ終えた。
    ……。
    …………。

    「……。ね、ねえ先生。縁切りのお呪いで捨てるものって、なんだっけ?」
    ”……相手との縁のある品物。貰ったプレゼント、贈られた手紙、思い出の写真。そういうものだね”

    「じゃ、じゃあ。相手の連絡先がいっぱい入ってて、モモトークでたくさんやり取りしてて、お互いに取り合った写真がいっぱい入ってる」
    「──なんて」

    ”……スリーアウト、って所じゃない?”
    スマホが、無くなってる。

  • 182二次元好きの匿名さん24/01/05(金) 23:01:47

    スマホを落としただけなのに…

  • 183二次元好きの匿名さん24/01/06(土) 01:49:29

    いつ?どこで?最後に使ったのは?必死で記憶を掘り起こす。思い出さなきゃ。こんなことで友達を、先輩とさよならなんて嫌。
    そうだ。前に、無くしモノの効率的な探し方を聞いたことがあったような。うん。毎度のごとくからかわれつつだったから覚えている。
    えーっと。

    誰に、だっけ?

    ……もう影響が出ている。あんなに変なことばかり言ってる子の事なんてそう簡単に忘れるはずがない。何考えてるの私。そんなことより、スマホを探さないと。それが一番大事。別に、仮に忘れたってまた会えばいいだけだし、それより優先すべきなのは──。


    ”分かった。その様子だと、スマホを無くしたか、あるいは取られたかしたんだね。ならすぐに本を破るのは悪手だから……コハル?”

    ──ハッとした。
    先生の声で意識を引き戻される。心臓が早鐘を打つ。一瞬の隙間で、自分の頭に広がった考えが恐ろしい。
    私は、今、何を考えた?

    ・・・・・ ・・・・・・・
    友達の事を、忘れてもいいと。そう思わなかった?

    違う。もっと正しく言うなら。
    優先順位が下がった。他にやるべきことがあって、それには及ばないと。そう結論付けた。友達の事を忘れたくないからスマホが無くなって慌てていたのに。それなのに。
    そこまで考えて、思い至る。
    そっか。そういう事か。おまじないにまで昇華されるほどの。怨念の籠る縁切りって。


    相手を、どうでもよくしたいんだ。


    嫌いとも好きとも思わない。誰かに指摘されたら「ああ、そんな人もいたかもね」「そんなもの持ってたっけ」。そんな風に思い出すかもしれないけれど。機会が無ければ思い出せなくなるくらいに。自分との関わりが消えて欲しいんだ。

  • 184二次元好きの匿名さん24/01/06(土) 01:51:01

    まずい。
    何がまずいって、今抱いてる焦燥感さえも。その内無くなってしまう。スマホを取り戻したいと願う根源の思いが風化して消えてなくなる。
    そんな漠然としている、けれど絶対の確信。

    事実。今この瞬間にさえもかすかに、わずかに。そんなこと無いと否定しているのにもかかわらず。

    面倒くさい。
    そんな思いが、心のどこかをもたげている。

    嫌だ、疎遠になんてなりたくない。私の友達、仲間。尊敬する先輩。そんな人たちと。
    面倒くさい。さっさとスマホを探して作業を続けないと。

    ふたつの考えが頭をぐるぐる巡る。おかしくなってしまいそうだ。
    強く強くつないだ先生の手を握り締める。思考を塗り潰されない様。力を込めた自分が痛みを感じるくらいに。多分先生はもっと痛いかもしれないけど、今だけは許して。そうしないと。自分のじゃない思考が溢れて止まらなくなってしまう。

    それになぜだか、先生に対してはどうでもいいと思っていない。そう認識できる。
    予想はつく。手を繋いでいること。多分そのおかげ。写真よりも手紙よりも強い、「その場にいる」という結びつきが切れていないから。
    反面、この手を放してしまったら。きっと私は。


    ……自分の想いがねじ曲がってしまう事がこんなにも怖いだなんて、考えたこと無かった。

  • 185二次元好きの匿名さん24/01/06(土) 05:35:33

    「先生……私、こんなのでせっかくできた友達と離れるなんてのやだ……!」
    ”そうだよね、分かってる。早く終わらせよう”

    先生が繋いだ手の甲で、涙を拭ってくれる。……別に泣いてなんてないけど。その気遣いは嬉しい。
    「ちょっ、あううう……っ。て、手馴れてるのはなんかエッチ!ダメ!」
    ”ええ……”

    それに甘えて、無理やりいつもの言葉を口に出す。まだ大丈夫。私は私のまま。……死刑!、とはちょっと、口に出来なかった。

    こほん。
    気を取り直して、先生に疑問をぶつける。
    「そ、それで先生。ちょっと気になったんだけど。さっき、取られたかもって言ってたよね?あれ、どういう意味?」

    ”断切獺(たちきりかわうそ)って言ってね。コハルの持ってる縁断切別之覚書の、いわば元ネタみたいな伝承。こっちは『こいつに誰かとの縁の品を持って行かれるな、結婚だろうと親兄弟だろうと疎遠になってしまうから』っていう、むしろ警戒を促すような形なんだけど、縁切りを願う人たちにとっては渡りに船みたいな話だったのかも。ほら、名前も似てるじゃない?”
    ”ともかく、縁切りのお呪いなら。それこそ、その獺に叶えて欲しいと願われていてもおかしくないなって”

    「だから、私のスマホもそのたちきり……かわうそ?に持って行かれたのかもって事?」
    ”そう。そういう事。縁切りのお呪いを行った本人が持っている、人との縁がたっぷりと詰め込まれた品。獺に狙われる条件は十分に満たされてる”

    話は分かった。一応。けれど。だからといって状況は改善していない。むしろ、悪くなってる。
    もし、私がただ落としただけなら探して見つければいいけど。そのかわうそが悪い事考えて、隠したり壊したりしてしまったら。もう私は、友達と友達でいられなく、疎遠に。お別れすることになってしまう。
    このままなら。そうなる。
    どうしよう。いつになく考える私の頭。友達と疎遠になるのはもちろん嫌だし。なにより、それをそのままでいいと。そう思ってしまう自分になんてなりたくない。

  • 186二次元好きの匿名さん24/01/06(土) 13:43:32

  • 187二次元好きの匿名さん24/01/06(土) 13:45:23

    スレ残り少ないけど保守
    そういえばけ◯フレアニメのカワウソの中の人はアルちゃんだったなーとかどうでもいいことを思い出したり

  • 188二次元好きの匿名さん24/01/06(土) 19:48:29

    だから。思考する。
    無くしモノがある時はどうやって探す?私が無くしたのは。手紙や写真じゃない。いつか──が言っていたのは確か。
    無くしモノに目立って貰えばいいとか、確かそんなようなことを言っていた気がする。

    それに私は今、一人じゃない。横にいる先生が言葉をこぼした。
    ”せめて目印でもあれば良いんだけどね”

    ──閃いた!

    「ねえ先生!先生は特に何も無くしたりはして無いでしょ!?だったら!」
    「スマホ持ってる!?」

    ”もちろん。あるよ”
    それなら行ける。壊れた可能性もあるけど、それは一度試してみてから検討しても遅くない。

    「私に電話して!それで、着信音で探せばいいの!」

  • 189二次元好きの匿名さん24/01/06(土) 19:48:45

    スマホを無くした時の基本の探し方。
    状況が異常だから忘れていたけど、別に機械そのものの使用方法が無くなった訳では無い。

    ”分かった。ちょっと待ってね”

    そうして先生がポケットからスマホを取り出す。少し操作して、耳に当てる。

    先生がスマホを使う、わずかな空白の時間。
    周りが静かだからか、やけに周囲の気配に敏感になっている気がする。特に、ずっと感じていた何かの気配。それも、説明を聞いて納得がいった。

    一番最初、私の視界の端に映った動物の影。
    そして、お呪いが始まってから感じていた第三者の気配。

    多分全部、断切獺。引っ掻こうとしていたのか、私の持ち物を狙っていたのか。どっちだったんだろう、どっちもかな。
    ともかく、それが私にちょっかいを掛けようとしていたんだ。

    ”コハル”
    名前を呼ばれた。見上げれば、先生と目が合う。果たして、私のスマホは鳴ってくれるのか。

  • 190二次元好きの匿名さん24/01/07(日) 02:48:45

    ピリリリ。

    「……ッ!聞こえたッ!」
    耳を澄まして、音の方向を探す。継続的に聞こえるから多分スマホは壊れていない。これなら見つけられる。少なくとも、最悪の事態は避けられる。
    目を閉じる。視界が狭まるとより音を鮮明に感じられる気がする。

    分かった。私達の立つ方向から十一時の方角、二、三区画程離れた地点の備品棚の下のあたり。恐らく台の下に潜り込むような形でなっている。そういう音の反響がある。
    急いで向かわないと。スマホを回収して、早くこの本を破く。その為に。速くしないと。
    友達の名前が思い出せなくなる。いや、もう既に始まっている。さっきから、誰かの事を思い出そうとしても名前が出てこない。辛うじてエピソードは出てくるけど、肝心の名前が。鉛筆でぐしゃぐしゃ塗り潰したたみたいに。出てこない。
    次は何を忘れる?なんの縁が切れていく?確か──は、人が人を忘れる時は声の印象から薄れていくと、そんな話をしていた。なら声を忘れてしまう?そんなの嫌!

    だから早く!
    そればかりに意識が集中して、すっかり忘れていた。

    スマホがあろう位置に足を向けて走り出した瞬間、がくん、と。体がつんのめる。

  • 191二次元好きの匿名さん24/01/07(日) 02:52:15

    私は今、先生と手を繋いでいた。だから、その手に引っ張られるように。移動するのならせめて一声かければ合わせて走り出してくれたのに。私が一方的に急いでしまったから。
    それだけならよかった。私がケガするだけで済む。けど違う。それで終わらない。むしろ隙を見せてしまった。じっとチャンスを伺って来ていた何かに対して。緊迫感に満ちた先生の声がそれを教えてくれる。

    ”──コハルッ!右!”
    声につられて首を向ける。そこに見たのは。

    襲い掛かってくる、一匹の獣。大きさは多分一メートルくらい。いつか写真で見た時には愛嬌のある可愛い顔をしている、だなんて思ったけど、とんでもない。今私の目に映る獣は目が血走り、歯を獰猛にむき出し、なにより。爪が。
    爪が異様に大きい。体長の半分程度の大きさ。普通の生物ならあり得ない。こんな体に見合わない爪なんて、生活に支障をきたす。だからこれは普通の獣じゃない。……普通の、獺じゃない。

    何かを引き裂くことだけを目的として発達した爪。何か?決まってる。「縁」だ。縁を断ち、切って、別つ。だから「断切獺(たちきりかわうそ)」。

    そんな断切獺が丁度、私と先生の繋いだ手を。その部分を切り裂こうと、私と先生の縁を断ち切ろうと。その目的を持って。爪を伸ばしてきている。一歩ごとが飛び跳ねる様に、距離が詰まる。
    対して私は、重心が後ろによって、倒れかける寸前の体勢。バランスが崩れ切っていて、一歩前に進むにも下がるにも、ワンテンポ遅れてしまう。だから。

    もう、どうにもならない。
    このまま断ち切られて、先生の事をどうでもいいと思うようになってしまうのかな。
    例えスマホを取り戻せても、機械越しより強い絆である実物の体越しに、縁を断ち切られてしまったら。最初は大丈夫でもいずれ。

    名前を忘れて、声を忘れて。そうして思い出すのもおっくうになり、やがて疎遠になるような。そんな立ち消えるようなお別れを。

    未来を想像して、身が竦む。体が強張る。無意識の内に目をギュッと閉じてしまっていた。


    ”ッ!!”
    「──ひゃあっ!?」

    ぐいっ。

    力強く引っ張られる、そんな感覚。

  • 192二次元好きの匿名さん24/01/07(日) 04:56:59

    気付けば、両足が床から離れて宙に浮いて。思わず目を開ける。視界の先を、体に不釣り合いな大きな爪が横切って行った。
    同時に、先生の腕の中にすっぽりと収まる。
    え?
    私いま、先生に抱きしめられてる?つよく先生の体温を感じ──ッ!!??

    「あっわわわわっちょっとまってこんなの」
    ”悪いけど今はこのまま行くから!舌、噛まないようにね!”
    「は、はいっ!?」

    一瞬で頭が茹で上がって、こんな時だというのに先程までとは違う緊張で体が強張る。
    先生は私を抱えたままいまだに着信音を鳴らし続けるスマホの元へと走り出す。断切獺から逃げる様に。いや、事実逃げている。追い付かれる前に、私のスマホへたどり着くために。

    そんなに真剣に先生が頑張っているというのに、私ときたら。

    繋いだ手は離されて、けれど先程以上に近く。私を両腕でしっかりと抱えられている。
    片方は私の腰の下。片方は私の背中をホールドしている。だけどそれでも流石に私に気を遣う余裕はないみたいで、ガクガクと体が揺れる。

    このままでは落ちてしまいそう、なんだけど。
    片方の手には例の本を持っている。だから。もし仮に片手で先生の服をつまんでも、きっと私の握力では足りない。落ちてしまう。
    そう、だから。
    この振動に耐えるには。本を持った手を、先生の首筋に回すしか無くて。決して自分の意志ではなく。状況が許さないので仕方が無い事。
    考えれば他に正解はあるかもしれない。でもそれを導き出すにはあまりにも頭が沸騰している。

    ぎゅっ、と。しっかり。落ちないように。
    ……ここまで先生と近づくなんて。いつか先生に迫られた時よりもそばに。
    ネックウォーマーに覆われていて、首筋は見えない。それでも見えるあごのラインとか、肌とか。ちょっとがさがさしてて。全然自分とは違うんだなって。異性、だと。脳裏に焼き付く。そんな距離。

    ……やっぱりダメ、こんなのエッチすぎる。

  • 193二次元好きの匿名さん24/01/07(日) 04:58:26

    ”コハル!拾って!”
    「あっうん!ひ、拾う!」

    時間にするなら十秒も行かないくらい。そんな夢のような、こほん、ただの。ただの移動時間は終わって、現実に引き戻される。背後には変わらず、断切獺の気配。到着したのは、私のスマホが落ちているだろう棚の前。相変わらず着信音が響いている。
    スマホを拾うので片手を開けないといけない。なので本を掴んでいる腕を先生に掴まれた状態で。しゃがみ込み、手を伸ばす。無造作に手を動かし、指に引っかかったストラップを軸に一気に引っ張り出す。

    「拾えたよ先生!」
    ”了解!”
    膝を床に付けて、ほとんど寝っ転がっているような状態。行儀は悪いけど今はそうも言ってられない。そんな恰好で無理やり首を曲げて先生の方を見れば。今まさに断切獺に切りつけられようとしている。間に合わな──。

    「せっ、先生!?」
    ”大丈夫!しっかり本押さえて!”
    「わ、分かった!」

    さっきとは違う。もう諦めない。言われたことを全力で。
    本の端をギュッと強く握りしめた。
    先生は、その反対側を握り込んで。私と先生の間に本がある状態を作った。
    そしてそこに、鋭い爪を振り被った断切獺。位置関係は丁度、本の真正面に来ている。そっか。避けるにも破くにも間に合わないなら。

    ”悪いけど、契約破棄は自分でやってもらう”

    言葉と共に爪が本にぶつかり、振りぬかれる。
    私の持っている本が。縁断切別之覚書(えにしたちきることのおぼえがき)が。爪の勢いに任せて真ん中から、真っ二つに。

    断って、切って、別たれる。

    それが、おまじないの終わりの合図。

  • 194二次元好きの匿名さん24/01/07(日) 05:41:56

    その後の事は特に語ることも無く。
    本が切れればお呪いが終わる、との予想は当たっていて。後に残されたのは、緊張続きで息が整わない私と先生。固く握られた手。

    「あ、あの先生……」
    ”ん?どうしたの?”
    「助けてくれて、危ないって分かってるのに私の手を取ってくれて、ありがとう……。おかげで、縁が切られなかった……!」
    ”どういたしまして。私も、コハルと縁切りになんてならなくて良かったよ”
    「! ま、またそんなこと言って!もう大丈夫でしょ!?手、離すからね!」

    ちょっと名残惜しいなんて、そんなことは微塵も思っていない。さっぱりと躊躇いなく先生と繋いだ手を離す。
    …………数度、離した手を結んで開く。まだ少し、ぬくもりが残ってる。
    「あっそうだ!私、スマホ壊れてないか確認してみる!」

    拾い上げたスマホを操作して、モモトークを立ち上げる。見ると数件の未読。
    一件はハスミ先輩から。進捗の確認と作業量の心配していたとの連絡。
    一件はヒフミから。差し入れを持って行くからとの連絡。
    一件はアズサから。ヒフミと一緒に行くというのと、人手が足りなければ手伝う旨の連絡。
    一件はハナコから。ハナコも一緒に来るというのと、先生と二人っきりな事をからかう、そんなメッセージ。

    …………そのメッセージでさっきの状況が脳裏によみがえる。先生へ抱き着いたまましがみ付くだなんて、かなりすごい事しちゃったよね!?私もう、先生にエッチ!死刑!だなんて言えないくらいに!
    ”……コハル?大丈夫?そういえばそもそも手のケガ──”
    「大丈夫、大丈夫だから!問題ない、大丈夫!それよりあんまり近づいたらダメ!まだ覚悟できてないんだから!」
    ”覚悟?”
    「~~~~~ッ!何でもない!血、流してくる!」

    墓穴を掘りまくってしまい、恥ずかしくなって、戦略的撤退を試みる。元々の目的だった水道へ駆け出す。
    ──もうすぐ友達が来る。決して数は多くないけれど、大切な仲間たち。
    そんな四人に会えることに期待が膨らんで、口元に笑みが浮かぶ。

    友達との「お別れ」なんて、もうどこにも存在しなかった。

  • 195二次元好きの匿名さん24/01/07(日) 05:57:32

    という訳で「お題:お別れ 生徒:コハルさん」完了です!


    うわぁん!時間かけすぎてしまってすみませんでした!ホラーは鮮度だといったのにこの始末です!

    年末年始跨いだのと、展開が上手く嵌らず書いて書き直してを繰り返しまくっていたのが良くなかったですね……。とはいえ昨日書き切るといったのにこんなに時間かかって本当に申し訳ないです……!


    ちなみに軽く解説入れますと、

    コハルさんが縁切りのお呪いと遭遇したのは全くの偶然。

    お呪いの始まりは血が本についた所。

    先生はそれに気づいていたけど本人が知ったら落ち込むかと思って誤魔化した。(>>179

    と、そんなところです!


    それと>>178の方反応できていなくて申し訳ありません!もしまだこのスレ覗いていましたら、レスも少ないのでもしよければテレグラフで読ませて頂けたなら嬉しいです!


    ここまで長期の間お付き合い、そして怪談の投稿ありがとうございました!おかげでもうしばらくおじいちゃんとベアトリーチェおばあちゃんは食べ物に困らなそうです!


    またどこかのタイミングでSS書いたりカツア……募集したりしたいと思ってますので、見かけたらお付き合いください!


    今年もよろしくお願いします、先生! ありがとうございました!

  • 196二次元好きの匿名さん24/01/07(日) 07:30:35

    乙!今回も楽しかった!
    また機会があれば参加させていただきます!

  • 197二次元好きの匿名さん24/01/07(日) 07:32:49

    おつでした!やはりヒヨリさんのSSはクオリティが高いなあ。カワウソの妖というと夢枕獏の陰陽師に出てくる黒川主がイメージとして出てきますが色々ですなあ。堪能しました。


    さて、178ではないけど、せっかくだし2本目行っちゃおっかな~

    「ハーハッハッハッハ!新鮮な新作だぞ!読んで読んで読みまくるのだ!」

    「釜の蓋が開く時間だよー!」

    「あの…こ、これだけ投げさせてくれる?これでも一応ホラーだし、き、規制で投げれなくなるかもしれないし」

    釜の蓋が開く時ヴェールヌイ学園跡地。我々は地下に続く穴を掘り続けている。

    どこに続く穴かって?そんなこと知るわけがないだろう!

    だが、我ら温泉開発部が掘り進んでいるのだ。

    当然!この先には温泉が存在するに決まっているというわけだ!

    ハーッハッハッハッハ!


    掘削は順調だ。しかし、流石に深いな……ほかのメンバーもいつになくピリピリとしている。

    だが、時折感じる地熱の熱さ。これは泉源さえ掘り当てられれば間違いなく温泉につながっているだろう。

    さあ!掘って掘って掘りまくるぞ!


    穴は深く深く続いている。掘削は思ってもみないことばかりだ。

    鉄の縄が埋まっていたり木や葉の欠片が埋まっていたり。木の葉などやけに鋭いせいで指先を切ったものもいた。

    傍らからはゴポリ、ゴポリと水のような音がする。そちらへ掘ってみても酸のような液体が噴き出すだけだった。毒ガスなどは出ていないので作業を続行する。



    作業中地面に大穴が開いた。

    部長と作業用掘削機械が転落。追いかけたかったけど、連日の掘削で流石にみんな限界が近い。

    機械の落下音すら反響してこない大穴に突入するのは危険すぎる。

    一旦撤退し、救援を求めることにする。



    ハーッハッハッハッハ!体中が痛いな!…
    telegra.ph

    Q.なんでヴェールヌイなん?

    A.Верныйは「真実の」「信頼できる」を意味する単語です。温泉開発を邪見と定義したうえで、「真実」を穿ってしまったというのが今作のテーマですね。

    嘘です、本当は頭三文字だけで決めました。

  • 198二次元好きの匿名さん24/01/07(日) 14:16:45

    保守

  • 199二次元好きの匿名さん24/01/07(日) 14:58:26
  • 200二次元好きの匿名さん24/01/07(日) 16:41:23

    完走おつ埋め

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています