- 1二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 08:43:22
「闇より出でて闇より黒く、その汚れを禊ぎ祓え」
帳を下ろす、そして中に入る。
何度やったかも忘れたこの動作は、補助監督もなしに任務へと赴いている私──姫川影子・二級術師には、最早日常生活の一つとなっている。
最初の頃はなんで自分だけで……とも思っていたけれど今や仕方ないというか、なんというか。
『授業の出席日数を減らしても進級できるようにしろ? 無茶言うなぁ……あ、でもお前二級だったな。なら──』
私の単独任務には補助監督を回さない、代わりに私はある程度授業をサボるのを見逃して貰う……という一種の契約に近いものを先生と結んでいる。
担任の日下部先生はかなりため息を吐いてるけど、なんだかんだ私にある程度の任務を代わって貰えたりするのは嬉しいんだろう。
私、等級は二級でも実力は一級並み、って一級術師の人からも褒められたことあるしね。 - 2二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 08:45:42
「さて、と……まぁ、サボった授業分きっちり終わらせて、後はダラダラしますか」
私は軽く”のび”をして、今自分のいる位置、病院の玄関口から半径50mほどの探知を始める。
……私の術式──【破壊呪術】の拡張効果……のまた副次効果の一つ。
私が五感で捉えたり、逆に私を物越しにでも五感で捉えている存在を探知することが出来る。
例え私の脳が認識していなくても、視界に入れた、聞いた、嗅いだ……と、ただ客観的に私が「捉えた」という事実があれば、探知の対象に入る。
で、私側から届くのは50m程……なので、50mほどの探知ってワケだ。
「……まだ誰もいないか。うーん、にしてもひっろいなぁ、ここ」
今回私は行方不明者が続出している廃病院こと、福島総合病院に来ていた。
……ちなみに、福島総合病院って名前のくせに福島県じゃなくて群馬にある。なんでだよ。
無駄に広いし、帳だって下ろしてるし、廃病院だし……どうせ誰も立ち入らないなら、術式で建物ごとぶっ壊そうか──なんて思ったけど。 - 3二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 08:49:27
「こんだけ広くて大きいと、最悪ショックで気絶どころか死にかねないしな―……」
私の通っている呪術高専ほどじゃないにしろ、かなりの建物のサイズだ。
そうなると話は変わってくるワケで……私の術式は壊した物に応じて、その痛みが私にも返って来るというひっどいものなのだ。
だからまぁ、建物側を壊しちゃいけない理由があるにしろないにしろ大きすぎるとまず私が嫌になる。
端から少しずつやっていくのなら何とか耐えられるけども……こんなに大きな病院となると、本当にショック死しかねない。
嫌だよ、華のJKがこんな廃病院でショック死して倒れてる光景とか。
「しかし……うーん、呪力の残穢はないし……これは、呪詛師案件かな? 嫌だなー、人壊すのは」
呪霊には残穢を消すなんて知能持ちは少ないって話だし、事件がこれだけ起きてて呪い関係ありませんってのは無理があるし。
そうなると呪詛師がいるってことになるのが当然だとして…手n準一級くらいの相手までなら何とかなりそうだけど、一級の中でも上澄みくらいだったらどうしよ。
最悪逃げることはできる、だろうけど……問題はその後なんだよね、逃げたとしてもその先がない。
高専に戻ったとして先生方に頼むのは本末転倒と言うか、授業サボりを見逃して貰ってるのに反するし、私で勝てない相手を同級生に頼ったところで、って感じだし。
そうなるとフリーの術師……とは言っても、私お金あんまりないしなぁ……。 - 4二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 08:53:07
「よしっ、相手が残穢を消すだけ消せて、強さの方は別にあんまり強くない人であることを祈ろう!」
そんなぐだぐだな方針を決めたところで、私は病院内の探索を歩いて始めることにした。
術式の探知効果のおかげで、割と大雑把な探索でも何があるか、呪力の反応と一緒に手繰れば探索はかなり早く済むだろう。
……まぁ、あまりにも広い場所だから時間かかるけど……! 何もないよりかはマシだ!
「っ、と?」
一階の探索を大雑把にし終えたところで、探知に反応アリ、呪力だ。
場所は階段、つまり二階……急いで二階へ駆け上がると……そこにはいた、呪力の塊が。
何級かはわからないけど……呪霊! - 5二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 08:56:13
「は゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛い゛ お゛へ゛や゛も゛ど゛り゛ま゛し゛ょ゛う゛ね゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛」
「……ビミョーにナースっぽいし……ハァ」
私にも気付いていないみたいで、等級はかなり低いっぽい……だったら、術式は使わない。
愛用の呪具で、ぶった斬る!
私は胸ポケットから鉄扇の呪具を取り出して、腰を落として構える。
「ふっ!」
「あ゛ぁ゛ぁ゛っ゛!」
こっちに目もくれていなかったその低級呪霊に向けて素早く一歩踏み込み、私は右手に持っていた鉄扇で一太刀浴びせる。
案の定脆いというか、大したことはなく……呪霊は紫色の血を噴き出すと朽ち果てるように消え、跡形もなくなる。
その呪霊に遺っていた僅かばかりの負の感情は、私の持っている鉄扇の呪具・影怨へと宿り、力に還元される。 - 6二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 08:58:47
「ふー……さて、と。流石に行方不明者が出るのはこの呪霊のせいじゃないよね……このレベルじゃ、痕跡消すような真似なんて出来ないだろうし」
呪霊を従えている存在がいる、そうなるとそういう術式の使い手か、純粋に呪霊をボッコボコにして従わせる実力がある人か。
……前者なら多対一を強いられるだろうから、相性はあんまり良くないかもしれないな……私の術式、多対一にはあんまり向いてないし。
そのために呪具を持ってたり、ある程度ステゴロでも戦えるように鍛えはしたけど……なぁ。
体術に関しては2年生の中でも下から数えた方が早いくらい弱いんだよなぁ、私。
「さて、この先鬼が出るか、蛇が出るか……」
「蛇だよ」
「知ってたさ」
今度は蛇型の呪霊が私の死角になる位置から飛び出してきた──けれど、術式効果で50m以内に入れば、必ず探知できる。
それ故、私は振り向きざまに鉄扇を薙いで蛇型呪霊を切り裂いて消滅させる。 - 7二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 09:08:02
「ほぉ、凄い。まるで達人の技だ」
声のした方向を向くと、ポケットに手を突っ込みながら全身を呪力で覆ってガードしている、スーツ姿の男が突っ立っていた。
……どう見たって呪詛師だろう、普通の人間や術師がわざわざ私に近づくのにそんなこと出来ないし、しないだろう。
ただ、一応質問だけは投げかけておく。
「……あなたがここで色んな人を行方不明にした呪詛師? そうだった場合は何が目的なの?」
「隠しても仕方がない、まさにその通りだ。俺の実験のために人間が必要でね。ここは人目につかないから、丁度いいのさ」
「そう。実験、ね」 - 8二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 09:17:24
その男はパッと見何かを持っているワケでもないし、ポケットに手を突っ込む状態から姿勢を変えようとしていない。
見る限り、呪力量は大したことない……けど、呪力で全身を覆ってる以上、私の破壊呪術も直接触れて使わなきゃ作用しないだろう。
仮に遠距離からくらわせるとしても、まずは全身を覆ってる呪力を破壊して、その後にもう一度体を覆うよりも先に破壊をくらわせればやれるけど。
問題は、あの呪力を壊した時の痛みで出来る隙を突かれないかどうかってところなんだよなー……。
「ふむ……その制服は呪術高専の物か。一人でいるところや、その呪力量や反応速度……二級、ってところかな」
「わかるんだ。眼ぇ良いんだね」
特級の五条先生みたいに、特殊な眼でも持っているのか……それとも、何となくの推論か。
どっちにしろ、等級が当たってるのは事実だし……私に仲間がいないのはバレバレっぽいな。
「では、早速君でどんな実験をしようか考えながら嬲らせて貰うとしよう」
「さいです、かっ!」
男はポケットに手を突っ込んだまま、顎で私の方を指す。
すると、今度はまた何か呪霊が突っ込んできた! う、馬っぽい人間というか、馬と人間が混ざった感じ!? - 9二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 09:26:46
「ひ゛ひ゛ぃ゛ん゛」
「キッショ……悪趣味すぎで、しょっ!」
私は真っすぐに突っ込んでくる馬人間呪霊を左へのステップで避け、呪力を込めた蹴りで壁へと叩きつける。
すぐ様に男の方に向き直る──と、また呪霊がやって来た! 今度は……虫っ! 蜂の呪霊!? 気持ち悪っ!!! しかもいっぱいいるし!
「くっそ……破壊!」
触れたくないし、呪具越しでも嫌だ──と思ったので、私は術式を発動させた。
本来ならば私が触れたものに限定……しかし、術式の拡張によって、私が触れなくても術式は発動する。
私が見た、嗅いだ、聞いた、感じた、そのまた逆でも、あらゆる方法で私と微弱でも縁を結んだ存在に、術式は作用する。
遠隔、破壊呪術。
私がただ破壊すると念じただけで、私に近づいていた虫の呪霊は爆ぜて消える。 - 10二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 09:28:26
「ほぉ、触れずに壊したか。素晴らしい」
「っ──! ぐ、ぁ……」
けど、その代償で私の全身には凄まじい痛みがやってくる。
……これが、術式そのものに紐づいているような縛りと言っても過言ではない。
おそらく、痛みを感じないような人でも痛いって思うような何かが返って来るのだろう。
それにしてもやけに痛い……破壊した物に応じた痛みが来る術式の性質を考えると……結構な等級の呪霊なのか。
「今の……一級呪霊? 随分と無駄遣いするんだね……」
「あぁ。別に問題ないとも、俺の術式で操っていたワケではないからね」
「……は?」
「それよりも。君、ガードしないとね」
「っ、まさか……!」
男はポケットから手を出して、私の前に翳してくる。
嫌な予感、言葉では言い表せない何かが私の背中に走った気がした──故に。
私は全身を呪力で覆い固めた上で、腕を前に出してクロスさせる。 - 11二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 09:55:04
「破壊」
「っ──!」
マジ、か。
遠隔でも使える破壊呪術を、今目の前で私に使ってきたのか。
……同じ破壊呪術の使い手……いや、そんな偶然を考えるよりも。
「まさか、あなたの術式は……コピー?」
「惜しいね。俺の術式はコピーなんてそう大したものじゃあない……特級術師の乙骨じゃないんだから」
乙骨くん……とはまた違うのか。
じゃあなんだ、今どうやって私の破壊呪術を真似したって言うんだ。
拡張した術式まで真似られるというのなら、コピー以外に何が……。
「じゃあ、術式の開示と行こう。俺の術式は【貸与】でね。本来ならば何かを貸し与え、その分オマケ付きで返してもらう術式なんだけど……術式反転、及び反転術式って……知ってるかな?」
「……術式反転で、他人の術式を借りたのか……!」
「正解。術式反転、借用。ちょっと知り合いに呪霊を操る呪詛師がいたものでね、その術式を借用して、この近辺の呪霊を操っていたんだ」
「今の、私の破壊呪術も……!」
「そうそう。話が分かる子は嫌いじゃない……ってことで、君の術式を借りた分、オマケ付きで返してあげよう」
男はニヤニヤ笑いながらそういうと、私に向けて指をさした。
返される……何か、私に変なものが与えられたりなんて──!? - 12二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 09:55:24
「はい、返却」
「っ──! が、ああっ……!」
私は破壊呪術を使っていないハズ……なのに、痛みが私の全身に駆け巡った! 術式を使った時と、同じ。
なんで、なんで……! なんで、今私に破壊の痛みがやって来る……!?
「不思議そうな顔をしているけど、言ったじゃないか。オマケ付きで返す、ってね」
「っ……! このっ、最ッ低だね、あなた……!」
「ははっ。今まで実験で壊してきた者もみーんなそう言っていたねぇ。
術式は使えない、呪いも見えない。
そんな非術師たちが悶えながら、ゆっくりゆっくりと体がバラバラになっていくのは面白かったよ。
時々術式で生命力を貸与してやったりしながら、人体構造のお勉強をさせてくれるのは楽しかったよ。
良い声も録音できたし、出来れば君の声も収録して、夜寝る前に聴いてリラックスしたいねぇ~……」
私は痛みを堪えながら、眼前のゲス野郎を睨みつける。
術式の研究をしたいとか、そういうわけじゃあなくって、人体の解剖をするために……。
そんなことのためだけに人を攫って、壊していたっていうのか……。
コイツみたいなのが、そんなことをするせいで、私も、他の皆も……平和な日常なんて歩めず、呪術師なんてやらされてるのか……! - 13二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 09:55:43
「あなたは、生かしておいちゃいけない……!」
「ははっ。呪術師の世界でなら誰だって言うことだろ、ソレ。
まぁいいさ、かかって来るなら俺は逃げさせて貰うよ。
流石に術式反転でもう呪力かなり使ってるし……痛みがあっても君ほどの身体能力の持ち主を相手にするのはキツいし、ね」
男は人に嫌がらせをするだけして楽しんだ、って態度でその場から軽快な小走りで去ろうとする。
……生きて帰れる、同時に私を生きて見逃すだなんて、随分と生ぬるい実験屋だ。
せめて最後に私の足でも潰しておけば、良かっただろうになぁ! - 14二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 09:56:45
「くたばれ……破壊!」
「効かないよ。呪力でちゃんとガードし──!?」
最初に遠隔の破壊呪術を使う、それで男の呪力のガードを剥がして、その隙に私は呪力を足に集中させて強く強く地面を蹴る。
そうすることで、破壊呪術の痛みがやって来るのと大体同タイミングで私は空中にその身を投げ出し、走るのと違ってフォームを崩すことなく奴の懐へもぐりこめる。
「は、速っ──!」
痛みに耐えて、耐えながらも奴の懐に潜り込んだところで、私は拳を強く、強く、呪力を出来るだけ込めた上で握りこむ。
この男を殴れるんだったら、痛みなんて……忘れ去る勢いで、歯ぁ食いしばって耐えてやる! 全力の一撃を、拳に乗せてねじ込む!
「くたばり……やがっ、れぇぇぇ──ッ!!!」
「がっ……! ハ……!」
呪力による防御も出来ない状態、生身で防具なんて何も持っていないそのどでっ腹に、私の拳を叩きこんだ。
──その瞬間に空間は歪み、私の呪力は……私の髪のように、黒く、黒く光った。
去年のクリスマスイブに経験した、私が呪力の核心に近づいた必殺の拳撃!
「黒ッ閃!!!」 - 15二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 09:57:14
「ぼぉぉっ! が、ぁっ……! なん、だ……いま、のは……!」
「……ハハッ。なーんだ、反転使える癖に、黒閃知らないんだ」
男は内臓でも潰れたか、漫画でも見ないようなほどの血を吐き出して悶えていた。
……痛みやダメージで集中できなくて、反転術式すら使えない状態なのか。
だったら、念入りに潰しておいてやろう。
もう二度とこんな真似が出来ないように、徹底的にぶっ壊してやる。
コイツの成果も、尊厳も、全部、まとめてぶっ壊す。
「……っ、あ、あぁっ……来、るな……!」
「……破壊」 - 16二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 09:57:36
私は男が最後の抵抗と言わんばかりに纏っていた呪力を触れて破壊する。
次に足の腱、手首と逃げる手段を封じるように壊したところで、男の首根っこを掴んで引っ張る。
「身柄は高専に引き取ってもらうからさ……あなた一人で息を引き取られたら困るんだよね。だから……この世から逃げないでよ?」
「あ、あぁっ、わ、わかっ、た……」
さっきまでの飄々とした態度が嘘のように震えた男を引っ張りながら、私は懐から携帯を取り出し、帳の外に出てから電話をかける。
……対呪詛師案件かつ、敵の身柄を確保した場合に限っては補助監督などの利用を許されている。
だから、私は呪詛師の案件は嫌いだ。
補助監督をつけずに単独で任務をやるから授業をサボれる……だのに、結局この案件だと補助監督を利用するんだから。
「あー、もしもし? 私です、姫川です……あの、補助監督をおひとりお願いできませんか? はい。呪詛師、捕まえたので……あー、今結構危篤です。危ないです、呪詛師が」 - 17二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 11:16:31
「おう、姫川。任務ご苦労」
「あ、はい。ありがとうございます、先生」
むかつくスーツの呪詛師をボコボコにして、捕まえて、高専に身柄を引き渡してから数日後。
補助監督の利用はしちゃったけれど、呪詛師の身柄関連での利用だったからセーフってことのようで。
無事に日下部先生の任務を代行出来たということで、私のおサボりは許されたのだった。
「……ところで、先生。あの呪詛師、何かわかったりしました?」
「いや。特に有益な情報はなかったな、ただ廃病院を根城にし数十人の非術師を拷問して命を弄んで呪霊へと変え、借りたという呪霊を従える術式で好き勝手していたらしいが……その呪霊を操る術式を借りた相手のことはよくわかってないんだとよ」
「へー……単なる快楽的な犯人だったんですか」
「おう、単独犯だったからか誰かが助けに来るなんてこともないみたいだし、これで一件落着ってワケだ。
呪霊も徘徊させてたのはわずかだったらしいから、もうあの病院を調査するのは新しい呪霊が生まれるまではないな」
日下部先生の言葉を受けて、私はほっと胸をなでおろし安心する。
病院の探索は大雑把かつ急いでたから不十分だったし、自分はキチンと仕事を完遂できたとわかったからだ。 - 18二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 11:16:51
「そうですか……それじゃ、私もう帰りますね」
「おいちょっと待て、確かに今日やこないだの分の出席免除はしたがまだサボりの負債はあるんだぞ、もう新しい任務に出たって──」
「それは明日にしておいてください。今日は、アニメ『のこぎり侍』と『突撃の巨漢』のブルーレイ買わなきゃなので」
「ネットでポチれ」
「それはなんか買ったって感じしないので却下です」
抗議する先生の言葉を背に、私は高専を出て……アニメショップへと足を運ぶ。
人気アニメのブルーレイディスクなんだし、初回限定の特典だって欲しいから、直接足を運ばなくっちゃね。
……と、やや駆け足で最寄りの場所にあったところへと足を運ぶ、と。
「あ、あったあった。あっぶなー、ラスイチじゃん」
私が買う前に売り切れたら……なんて思ってたけど、無事に買えて良かったー。
と、ラスイチのブルーレイに手を伸ばした時、私の手はちょっとゴツい手とぶつかっていた。 - 19二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 11:17:29
「ありゃ……」
「む」
「……お爺さん、ここは未来ある女子高生に譲るべきだと思うんです」
「はっはっは、世には年の功というものもある。そちらこそ譲ったらどうだ」
着物姿、ヒゲが特徴的でどこか見たことのあるお爺さんが、ブルーレイを手に取ろうとしていた。
けど、私はここで譲るわけにはいかない、譲ったら多分三日くらい部屋に籠って後悔する!
「ぐぬぬぬ……よし、こうなったらジャンケンしましょうジャンケン、それで──」
「コレの会計を頼む」
「あえぇ!?」
ぴゅーん、って言葉がお似合いだった。
そのお爺さんは私が一瞬手を離した隙に消えたかのような速度でブルーレイを持って行ってしまった。
そしてレジ前……やられたっ、私が捉えられないって早すぎでしょ。
どんな健康お爺さんなワケよ……。
「あー、もう……こうなったら、八つ当たりであちこちの呪いでもなんでも祓ってやろ。そしたら、沢山サボれて……沢山遊べるか」
手ぶらでアニメショップを後にした私は高専への道を歩き出す。
正直、術師なんて嫌だし、やっていたくないし、とっとと逃げたいとも思ってる。
けど……今は、今ばかりは、まだ呪術師でいてあげようかな、とも思う。
だから、今日も私は、サボるために任務に赴くのだ。
終わり - 20二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 11:24:08
姫川ちゃんかわいい
小説書くの上手いですねー、尊敬します
面白かったです! - 21二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 11:29:05