- 1二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 22:02:25
- 2二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 22:02:49
am07:52
冬の朝日が差し込む部屋で男は鼻歌交じりに料理をしていた。
レタスを千切って水にさらし、トマトはくし切りに。
片手で卵を割ってボウルに落とし、鼻歌に合わせてかき混ぜる。
バターをフライパンに引いて、溶いた卵を落とす。
じゅうじゅうと音を立てて卵液が泡立つのを眺める。
かちっと男の背後でケトルの音が鳴った。
オムレツの様子を見ながら、ドリッパーにお湯をゆっくりと注ぐ。
バターと珈琲の匂いが混ざって立ち込める部屋のドアが開く。
空色の瞳をこすりながら、葦毛色の少女がのそのそとした足取りで入ってくる。
男はその様子を見てくすりとわらった
――おはよう、もうすぐできるからね。 - 3二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 22:03:06
am09:04
おそろいのお皿を二つ並べて、水にぬれた手をぬぐいます。
トレーナーさんは、難しい顔をしてソファでタブレットとにらめっこ。
「お皿、洗い終わったよー」
おー、って気の抜けた返事。ぴくぴくと耳を動かせば微かに聞こえる誰かの歓声。
きっと、レースの映像を見ているのでしょう。
てくてくと、近づきまして、ぴったりと隣に座ってみます。
座りやすいようにずれてくれたおかげでお尻に小さなぬくもりを感じます。
だけど、それだけ、視線はずーっとタブレットのままです。むぅ、研究熱心。
せっかくのお休み、それもちょっぴり早起きしたのに、これではもったいない気がします。
「とーれーなーさーん-」
太ももをつんつん、尻尾で頬っぺたをこちょこちょ。
それでも視線は動きません。
「もー……」
きっと私のためにしてくれていること、だから、邪魔をしすぎるのはよくありません。
けれどもけれども、それとこれとは別。もっと構ってほしいわけで。
トレーナーさんの腕をちょっぴり持ち上げて。身体をくぐらせます。
膝の上にあおむけでごろん。下からトレーナーさんの顔を見上げます。
困ったような笑顔を浮かべた後、大きな手が私の頭に伸びてきます。
視線はタブレットに戻したけれど、やさしい手が何度も何度も髪をといてくれます。
「にへへ~」
まぁ、今はこれで勘弁してあげましょう。 - 4二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 22:03:18
am10:36
ぽかぽか、うとうと。もう一回眠るのもいいかな~なんて思っていたころ。
よし、っとトレーナーさんがつぶやきます。
どうやら、やるべきことは終わったようです。
タブレットを充電器につないで、すっかりほどけた私の髪に両手をうずめます。
どこかにいく?と聞いてくるけれど、今はもうお昼寝気分です。
ごつごつした指が私の頭をなぞって、その心地よさに瞼はどんどん重くなります。
「むぅ~……」
心地はいいけど、眠るにはちょっと邪魔です。
腕を伸ばして、ごつごつした首をまきとって、えいっ
視界一杯にトレーナーさんの顔を広がります。
「セイちゃん、今はお昼寝気分でーす……だから、お昼寝しよ?」
それもいいな、とつぶやくトレーナーさん、じゃあ、おやすみなさい。 - 5二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 22:13:56
pm01:02
今日は私がお昼ご飯を作る日。
エプロンをつけて、包丁をくるり。
玉ねぎ、にんじん、ピーマンを小さく刻んでまとめてフライパンにどーん。
おまけに解凍したシーフードミックスも入れて換気扇をパチリ。
じゅうじゅうと音を立てて湯気が吸い込まれていきます。
火が通ってきたら、黄色い麵をぽいぽいと入れて焦げ目がつくまで、蓋をして。
その間にセイちゃん特性のソースを作っておきます、付属の粉に醤油とソースを足してお水で割って。
それをフライパンにじゃーっと流し込んでかき混ぜます。
吸い込まれなかった香ばしい匂いが届いたのか、トレーナーさんが焼きそばか、とつぶやきます。
色がついた焼きそばをお皿によそって、余熱の残るフライパンに卵を、ぽとり。
大きな一つ目を、それぞれのお皿に盛って完成です。
「おまたせしましたー、セイちゃん特製焼きそばで―す」
ほかほかの匂いにトレーナーさんのおなかがくぅと鳴きました。それでは、手を合わせて、いただきます。 - 6二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 22:29:41
pm01:39
どこか行きたい?
ジャージャー流れる水音に紛れてトレーナーさんが聞いてきます。
「うーん……」
急に言われると少し困ります。
さっきの冷蔵庫の中身を考えるとお夕飯の買い物もしたいので、釣りに行くには時間が足りません。
お昼寝をするのもいいですが、さっき寝てたからあまり眠くないです。
「ひょわぁぁっ!?」
考え込んでいる私のうなじにひやりとしたものが当たります。
振り向くと、お皿を洗い終えたトレーナーさんがひらひらと手を振っていました。
太い指が左右に揺れるのをみて、ぴんっと思いつきます
「トレーナーさん、お買い物、行きましょう」 - 7二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 22:35:55
pm02:16
箱みたいな車に乗って、やってきたのは釣具店。
白い床を、真っ白な照明が照らしています。
「んー、なにも?とりあえず、ぐるーっとみてみよー」
何か買うのか、と聞かれたので首を振ってこたえます。
なんとなく、トレーナーさんの手首をつかんでてくてくと、店内の散策を開始です。
壁際に並んだカラフルなロッドの列。むき出しで売ってる分お値段は相応。
竿にもいろいろあるんだな、とトレーナーさん。
「そうそうー、おさかなに合わせてロッドもリールも変わるからねー……ちなみにセイちゃんがほしいのはー?」
ちらりと、レジ近くに並んだショーケースのほうに視線を向けます。
そちらの値段はトレーナーさんも知っているのか、苦笑しながらいつかな、とつぶやきます。
言質とったり。
リールの棚を抜け、ルアーの群れを渡り、やってきたのは衣服コーナー。
そういえば、とトレーナーさんがつぶやきます。
「ベスト、ですか…?……確かにちょっとくたびれてきてたけど…」
せっかくなら、買っていけばと。お財布を見せてくれます。
それなら、買っていくのも悪くありません。ですが、せっかくなので。
「トレーナーさんの分も買おうよ、おそろいのやつにしましょー?」
なんて、おねだりをしてみます。 - 8二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 22:43:49
pm03:05
おそろいのベストを車に残して、大型スーパーに入ります。
「今日は何作りますー?」
うーん、と悩んだ様子のトレーナーさん。
私と同じで献立に悩んでいるようです。
「すきやきー」
適当に食べ物の名前をつぶやくと、キッシュとかえってきました。
ゆ、ゆ……
「ゆどうふ?」
少し悩んで今度はふぐちりと返ってきます。むぅ贅沢。
「リゾットー」
鳥南蛮…ソバ。
「苦しくないー?」
あるからセーフとトレーナーさんは笑います。
そうこうしているうちにカートはお肉コーナーの前へ。
徳用ひき肉100g118円也。
「……ハンバーグ!」
決まったね、とトレーナーさんが笑いました。 - 9二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 22:51:44
pm04:24
「ただいまー」
誰もいないお部屋に声をかけます。ダッシュで手を洗って、ソファーにだいぶ。
歩きまわった疲労がじんわりと溶けていきます。
尻尾をゆらゆらゆらしてリラックスしていると、冷蔵庫に食材を詰め終えたトレーナーさんがやってきました。
「にゃははー、ソファはセイちゃんが占拠しましたー。座りたければどかして―――ぐぇ」
ずっしりとした重みが私の背中にのしかかってきます。
ぐりぐりと背中に押し付けられる感触がとても痛いです。
「トレーナーさん、おーもーいー」
じたばたともがいてみるけれど、トレーナーさんは、笑って素知らぬ顔をするばかり。
そういうことするならセイちゃんにだって考えはありますからね?
ぐっと、腕に力を込めてトレーナーさんを乗せたまま四つん這いになります。
そのまま向きを変えてソファーの背もたれに、どーんっ。
ソファと私でトレーナーさんをはさんでしまいます。ついでに尻尾の先でぺしぺし往復ビンタ。
「どーだー、まいったかー」
付け合わせに人参のグラッセを用意することで、手打ちとなりました。 - 10二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 22:59:21
pm05:36
ぬっちぬっち、ぬっちぬっち。ひたすらにハンバーグの種をこねつづけます。
テレビでは毎週見ている釣り番組が始まっています。今日は磯でイカをつっているようです。
ぺたぺた、ぺたぺた。捏ねたハンバーグの形を整えていきます。
イカかー。エギングで釣るのだったらそれ用のがいるのかな、値段どれくらいだろう……あ、スマホ触れない。
ぱんぱん、ぱんぱん。丸めたハンバーグを何度も手のひらにたたきつけて空気抜き。
あ、道具の名前出た……これ、結構高かったような……
ぺたぺた、ぱんぱん。ボウルの中身がすべて丸いお肉の形になったころ、キッチンから香ばしい匂いが漂ってきます。
「トレーナーさーん、なにつくってるのー?」
ぐでーっとソファから後ろ向きにたずねると、オニオングラタンと返ってきました。なんとおしゃれな。
トレイにハンバーグを乗せて、私もキッチンに突入します。
コンソメのおいしそうな香りがふわりと鼻をくすぐります。
「おー、美味しそう……って、ナニコレ?」
スプレー缶のような見慣れない道具にトレーナーさんは短くバーナーと答えます。
何に使うのでしょうか。お鍋の中でゆっくりと煮立っていく琥珀色に、くぅくぅとお腹が鳴りました。 - 11二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 23:06:11
pm06:15
大きなハンバーグに、にんじんのグラッセ、オニオングラタンスープに、コブサラダにはオーロラソース。
ちょっぴり豪華なお夕飯です。向かい合って座って、手を合わせて、いただきます。
ハンバーグをお箸で割るとじゅわっと漏れ出た肉汁がソースの上に広がっていきます。おいしそう。
ふー、ふーっとよく冷ましてから、パクリ。お肉の味が口いっぱいに広がります。おいしい。
続けて人参のグラッセをぱくり。バターと甘さのいっぱい詰まったカロテンの味が広がります。
「ほわぁ……幸せ……」
それはなにより、とクールにつぶやくトレーナーさんは、もりもりとサラダを口に運んでいます。
真似して私もサラダを口に運んでみます。虹色にお化粧したキュウリが、温まった舌をひやりと冷やしていきます。
しゃきしゃき、ごくり。お口をリフレッシュしたので再びハンバーグ……の前に。
カップの上に乗った焦げたチーズに目を向けます。
スプーンを手にしてチーズをつんつん、柔らかいチーズはとろりと溶けて、琥珀色のスープに沈んでいきます。
ゆらゆら泳いでいた玉ねぎと一緒にすくいあげると、ほわりとコンソメの匂いが漂いました。
よーくさまして、一口。…………
「………トレーナーさん」
自信作なのか嬉しそうな表情のトレーナーさんに、真剣な目を向けます
「結婚しよう」
卒業したらな、とすげない返事
「いけずー……一世一代の告白だったのに。」
私のふくれっ面に、トレーナーさんは楽しそうに笑っています。
釣られて私もにっこり。今日の夕飯は幸せ味でした。ごちそうさま。 - 12二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 23:15:51
pm07:34
「……うーん、ちょっと高いなー」
スマホに映っているのは、イカ釣り用のロッド。リールは使いまわせそうなのがあるのでいいとして。
二本で二万円は少し悩みます。
どうしたー?と洗剤の匂いを漂わせたトレーナーさんがのぞき込んできます。
ぐっと、手だけ掲げてトレーナーさんにスマホの画面を見せます。
二つ合わせて、二万か、まぁ安いな。とつぶやくトレーナーさん。
「そうなんですかー?なら、買って――」
だめ
「けちー」
他にできる釣りもあるだろう、と笑うトレーナーさん。
それはそのとおりなのですが、ちょっと釣ってみたくなったんですよ。なので…
「イカ刺し……」
む、とトレーナーさんが唸ります。
「炙りイカ……」
むむ、とさらにトレーナーさんが唸ります。もう一押し
と、いったところで、ぴー、ぴーっとお風呂が焚きあがったアナウンスが部屋に響きました。
「にゃは、先お風呂頂いちゃいますねー。スマホはご自由にどうぞ!」
ぽんっとスマホを押し付けて、お風呂場にダッシュです。
揺さぶりは甘かったけど、うまく行けば、新しいロッドと予定をゲットです。 - 13二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 23:22:52
pm09:08
マットの上でぐにーっとストレッチ。
お風呂で温まった体を柔らかくほぐしていきます。
すごいな、とお風呂上りのトレーナーさんがつぶやきます。
その手には甘い香りの漂う猫のマグカップが二つ。
一つに口をつけて白いひげを生やしています。
「こーんな、ことも、できるよー?」
上体をぐいっとそらして後頭部に足をぺたり。
コップを置いたトレーナーさんがぱちぱちと拍手を送ってくれます。
「よっと、お粗末さまー?どうだった?」
ひとしきりの柔軟を終えて、トレーナーさんの前で軽くジャンプ。
トレーナーさんの目から見た私の身体の寸評を聞きます。
「んー、それじゃ、明日はちょっと別メニューでやってみるね」
すっかり冷めたカップに口をつけます。表面にはった膜を唇でハムハム。
甘いミルクの味が広がります。
それ飲み終わったら、もう寝ようか。と、トレーナーさん。もう休日も終わりです。
なんとなくもったいない気がして、トレーナーさんのスウェットの裾をつまみます。
「今日は、寝たくないな……?」
寝なさい。はい。 - 14二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 23:33:05
pm09:58
トレーナーさんと、私の匂いの混ざったベッドにダイブ。
隣では床に敷かれたお布団が並んでいます。
「一緒に寝ませんかー?」
だめ。そうですか。
手元のリモコンを操作して常夜灯に切り替えます。
オレンジ色の真っ暗ななか、お布団の中に沈み込みます。
もうすぐお休みは終わってしまいます。
なんだかもったいないなと思っているとトレーナーさんがぽつりとつぶやきました。
空いた時間で、釣具店に行かないか。
「ほぇ?」
ちょっと脈絡をつかむのが遅れて、気の抜けた声が出てしまいました。
イカ用のロッド、買ってさ。次のお休み一緒に釣りに行こう。なんて、素敵な提案をしてくれます。
「にゃは、いいですねー。………うん、とっても」
さっきまで、もったいないと思っていた気持ちはどこへやら、次のお休みが楽しみで仕方なくなってしまいました。
今日は一日、とてもいい日でした。
あとはぐっすり眠って幸せな夢の世界を楽しむだけ。
それじゃあ、トレーナーさん
「おやすみなさい」
私の声はオレンジ色の中に溶けていきました。 - 15二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 23:33:45
セイちゃんと休日【終】
- 16二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 23:34:56
最高の休日だった
これで明日からも頑張れる
ありがとうありがとう… - 17二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 23:37:21
このレスは削除されています
- 18二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 23:37:40
日常の描写がほんと細やかで丁寧で、情景がふっと浮かんでくるのよね
セイちゃんとトレーナーの機微もすごくよく伝わってくる
本当に惚れ惚れするいいSSだぁ…(恍惚) - 19二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 23:38:29
これって続編とか…期待しちゃっても?
- 20二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 23:42:10
めっちゃ良かった
穏やかな日常っていうかなんというか...「結婚しよう」にも「卒業したらな」って返すのもうハッピーエンドが確定してて好き - 21二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 23:42:44
続編はないです。なんか一日ぼんやり過ごしたいなーって思って書いただけなので
- 22二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 23:46:17
この雰囲気がセイちゃんに合っててとても良き…
- 23二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 23:50:40
- 24二次元好きの匿名さん22/01/23(日) 23:52:30
ほんわかセイトレイチャイチャ好き
- 25二次元好きの匿名さん22/01/24(月) 00:03:48
しばらくSSの投稿をとめるので自己顕示欲ついでに過去に書いたもののなかで印象に残ってるものを置いておきます。
セイちゃんといちゃいちゃあれこれするやつ
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オアーッ漂流日誌の人!貴方か!
- 28二次元好きの匿名さん22/01/24(月) 08:41:11
夜にこんないいものが……
- 29二次元好きの匿名さん22/01/24(月) 18:49:39
今日はやたら疲れちゃったから読み直して癒されよう…