父ラブリーデイの夢を叶える為に、一頭の馬が立ち上がった＿＿＿。

1二次元好きの匿名さん24/04/14(日) 21:31:23

令和の時代に生まれた、とある黒鹿毛の牝馬。母はフラワーシップ、父はラブリーデイ。母の全兄は言わずと知れた芦毛の怪物、ゴールドシップ。血統表の遠くに「星旗」という昭和の世を彩った史上稀に見る名牝がいる。
良血馬として生を受けた彼女に待っていたのは、「重圧」だった。期待され、当たり前の様に用意されていた筈の輝かしい未来は、全てのその「重圧」を乗り越えた先にあるものだのだ。....彼女は嘆いた。「私にはクラシックを戴冠する夢がある！」と。
そう、彼女が受けている圧とは「宝塚記念戴冠」である。叔父ゴールドシップは三連覇を控えた宝塚記念にて、まさかの出遅れ。惨敗もいいところな負けっぷりを見せた。そして、その叔父が敗れたレースに勝利したのが彼女の父、ラブリーデイだったのである。
時を経て、3歳の秋に彼女は「ラブリーシップ」という名前を貰った。捻りもクソもない安直な名前＿＿。やっぱりネタ配合じゃねえかアホ＿＿＿＿。血迷ったな出口牧場＿＿＿。頼むから金返してくれ＿＿＿＿。何故この一族はゲート難しかいないのか＿＿＿。心無い言葉が、彼女を襲う事もあった。

2二次元好きの匿名さん24/04/14(日) 21:32:07

それでも彼女は諦めず、叔父の無念を、父の願いを、母の愛を背負って、宝塚の舞台に舞い降りた。

宝塚記念当日。ターフに降り立ち、今まさにゲートインをしていた周りのライバルは皆、人気投票で一位に押し上げられた彼女を訝しんでいた。こんな良血だけの小娘に一体何ができるというのか？人気だけで一位に押し上げられた小娘
の実力などたかが知れている。....しかし、彼女はそんな冷たい視線に屈するどころか、むしろ力を得ていた。
「ああ、私はこの栄誉ある舞台に立てている」「私の強さを証明するには上出来の場」「人気投票一位とは中々分かっているじゃない」＿＿＿＿と。
一足先にゲートに入ったラブリーに、同じく一足先にゲートインした隣の枠のステラヴェローチェが話しかけてきた。
「大丈夫かラブちゃん？アイツらの視線とか気にしたらあかんよ。」
「貴方は「3・3・４の貴公子」ステラヴェローチェ先輩！」
「なんでや！！阪神関係ないやろ！！」
二頭はしばし見つめ合って、そして笑った。二頭とも緊張の糸がほぐれた様である。
「.....ステラさん、私ね。本当はちょっと怖かったの。.....小林さんは「無理しなくていい」って言ってくれたんだけど、やっぱりどんなレースも出るからには勝ちたいし。...強い人達がいっぱいいるこの舞台で、私も、ステラさんと肩を並べれられるような馬になりたいの！だから、貴方には...いや、貴方達には絶対に負けない！！！」
「......そうかい。なら、こっからは俺とラブちゃんは敵同士やな。....勝っても負けても、恨みっこなしやで。」
「はい！」

人々の期待と、夢と、願いを背負って、全員がゲートインする。
さあ、次の英雄よ。雄姿を胸に持って、奮い立て。
今年も、伝説が始まる。

「ラブリーシップが立ち上がったぁぁぁぁ！！！！！！！！！」

後に須貝調教師は、このレースを振り返ってこう語ったという。
「夢は終わらない。そんなレースだった。」

ステラヴェローチェの初G1制覇に終わったこのレースは、後に「564億円事件」と名付けられたのだった。