- 1124/04/21(日) 13:28:16
久しぶりに母校を訪問したら、順平君という男の子を保護した。
その子との日々を綴っていく。
仕事中に落としてしまったので立て直した。
事の経緯とか
順平君という子を保護した|あにまん掲示板久しぶりに母校を訪ねたら、なんかテロ的なヤバい事が起きていたらしく、バタバタしてて今日は危ないから帰って欲しいと言われたでも最近面白いことも無くて刺激が欲しかったから、こっそり校舎内に忍び込んで昔の教…bbs.animanch.com - 2124/04/21(日) 13:29:05
順平君が来てからは寝る前に映画を観るのが日課になっていた。
だから今日もそうしようとしたら、順平君が遮って
「ゲームしていいですよ」
と言ってきた。
なんて事だ。ゲーマーCOした所為でこの子に気を遣わせてしまっている。
これは由々しき事態だ。 - 3124/04/21(日) 13:29:38
「子供が大人に気を遣うもんじゃないよ」
「そういうんじゃないです。ゲームしてるとこ見てみたくて」
独り言言いながらゲームするから見られるのは正直恥ずかしくて渋ったていたら、
「あんなに熱く語ってたら気になるじゃないですか」
だってさ。
自業自得だけどやっぱり恥ずかしい、でもそのうち見せるようになる一面だろうし、腹を括る事にした。
……何よりゲームやりたいし。
「……マジで驚かんどいてね?」
と一応注意喚起はしておく。
「大丈夫ですよ」
と言われたけど果たして引かれずにゲームを終えることが出来るのだろうか。 - 4124/04/21(日) 13:30:18
閃いた!
アクションをやったら絶対騒いで煩いから、“自分で運命を変えられる映画”として名高いDBHをやる事にしよう。
多分これなら映画好きの順平君も楽しめる筈だ。
トロコンの為に前の周回とは違う選択肢で進めていったら、家族みたいに一緒に頑張ってきた仲間が自分を犠牲にして主人公達を逃がす展開になって主人公と一緒にガチ泣きしてしまった。
ティッシュで涙を拭きながら、完全にゲームの選択をミスったと思った。
「ごべ……感情移入じずぎぢゃゔがら゙…」
鼻声涙声で謝る。
「すごい感受性豊かですね」
順平君は苦笑しながら言った。 - 5124/04/21(日) 13:30:49
「このゲームどうだった?」
鼻を擤んで涙を拭いてから訊いた。
「本当に映画観てるみたいでした。今のゲームの映像って綺麗ですね」
順平君は目を輝かせながら言う。
「Proの方だから余計に綺麗に見えるだろうね」
「Proとかあるんですか?」
「映像処理能力が高いやつでね、内蔵メモリもSSDに換装してあるからカクつきも少なくなってるよ」
そう返したら、順平君はよく分からなそうな顔をして
「そうなんですね…」
と言った。
興味ある事になると熱くなって語るオタクの悪い癖が出てしまった。 - 6124/04/21(日) 13:31:19
そんな事より、大事な話がある。
順平君と過ごす日々は楽しいが、現実は楽しいだけでは進んで行けない。
「明日休みなんだけどさ、1回順平君の家に行こう?」
そう言うと、順平君は不安気な顔をした。
「…え……?」
「そんな不安な顔しないで?これからどうしていくにも、やっぱり保険証とか転居届とか必要だと思うんだよね」
そう、彼のこれからを考えれば、できるだけ早い内に少なくとも住所の移動だけでもしておいた方がいい。 - 7124/04/21(日) 13:31:48
「で…でも……」
順平君は口ごもっている。
「大丈夫。ちょっと入って印鑑とか持ってくればいいだけだし、役所には着いて行くし」
学校での事は公にはなっていない。警察が張っているなんてことも無いはずだ。だから、きっと問題無い。
小刻みに震える体を抱きしめ、頭を撫でる。
「大丈夫。大丈夫だから…」
怯えなくていい、怖がらなくていいと想いを込め、大丈夫だと繰り返す。
この子が怯えずに、怖がらずに生きていけるように、私が守らなければ。 - 8124/04/21(日) 13:32:23
もしかしたら寝る前に言うべき事では無かったかもしれない。
かと言って当日急に言い出すのもそれはそれでよくないだろう。
そう思って言った事だったのだけど。
順平君の部屋を覗けば、やはり苦しそうな顔で眠っていた。
余計な事を言うんじゃなかったと後悔した。
せめて寝ている時だけでも心安く居て欲しいのに。
静かに部屋に入り、順平君の頭を撫でる。
これも日課のようになっている。 - 9124/04/21(日) 13:33:06
個人の部屋を持たせたのに続けるのはいい事ではないかもしれないが、これをした後は寝顔が安らかになるからどうにもやめにくい。
私の術式が悪夢を食べられるようなものであればよかったのに。
苦しそうな寝顔を見る度にそう思うが、そうだったらこの子は生きていない事を考えると、このままでよかったのだと思い直す。
しばらく頭を撫で続けて、順平君の寝顔が安らかになってから自室に戻る。
ベッドに潜ってスマホで各種必要なものを検索しておさらいをする。
順平君の知人に会ってしまった時の対応とかもしっかりシミュレーションしておかなければ。 - 10124/04/21(日) 13:35:38
学校関係者には叔母と答えればいいだろう。
でも、呪術高専とやらの事は何もわからなかった。
私も順平君から聞くまで知らなかったし、きっと秘匿された存在なんだろう。
彼らがどういう動きをしてどう関わってくるかわからないから、きっと順平君も不安なのだろう。
願わくば、彼らとは出会いませんように。 - 11124/04/21(日) 13:36:21
嫌な予感や起こって欲しくない物事ばかり当たったり起こったりするのは、もうお決まりというかお約束というかそういうモノなのだろう。
順平君の家に行こうとしたら、家の前に誰かが立っていた。
それを見た瞬間に咄嗟に順平君が身を伏せたので、会いたくないか見られたくない人なんだと知れた。
とりあえず離れた所に車を停めて鍵を預かり、後部座席に移動してもらってから順平君にタブレットを持たせた。
これなら身を伏せていても寝ているのと変わらないはずだし、タブレットとスマホでやり取りも出来る。 - 12124/04/21(日) 13:40:17
意を決して家の前に立っていた人物に声をかけた。
「こんにちは」
「えっ!?」
声をかけられた人物は結構な高さと勢いで飛び上がって、珍しいピンクベージュの髪を揺らしてこちらを振り向いた。
随分と可愛らしい顔立ちの男の子だが、振り向く瞬間に一瞬だけ見えた鋭い眼差しと身のこなしで、この子が一般的な社会に身を置いているのではないと知れた。
そして、その服に付いている金色の渦巻きの意匠のボタン。
順平君が言っていた、呪術高専の者に違いない。
しかも、あの友達になれそうだったと言っていた、虎杖君かもしれない。
だって、ピンクベージュと黒のツーブロックの髪型の学生なんてそうそういない。 - 13124/04/21(日) 14:23:56
順平君の話を聞くに攻撃的な子ではなさそうだから、こちらも極力好意的に、でも警戒は解かずに会話を試みた。
身内の家の前に知らない人が立っていたら、警戒するのは当たり前の話なんだから。
「この家がどうかしましたか?」
「あっ、いや……。と、友達ん家で遊ぶ約束してたんすけど、なんか居ないみたいだなーって…」
ポリポリと淡い色の髪を掻きながらバツの悪そうな声で虎杖君(仮)が答えた。
「…順平君のお友達?」
「え?順平知ってんですか?」
「知ってるも何も…甥っ子だもの」
私は接客業で長年培った演技力でもってサラリと嘘をついた。 - 14124/04/21(日) 21:32:14
「えっ!?おねーさん順平の叔母さんなの!?」
虎杖君(仮)は酷く驚いて聞き返してきた。
家を訪ねてくる身内がいるなんて聞いてないはずだから然もありなん。
「うん。今日仕事でこっちに来たけどもう終わったし時間もあるから、姉さん家に寄っていこうかなって思ってね。じゃあ、失礼するね」
そう言って玄関に向かったはずなのに1歩も動けなかった。
後ろから手首を引かれたからだ。
「……あの…ちょっと、待って……」
私の手首を掴んでそう言う虎杖君(仮)の顔は、残暑で茹だる熱気の中、色を失っていた。
ああ、この子も知っているんだった。順平君のお母さんがどうなったか。 - 15124/04/21(日) 21:33:35
「ごめん…ちょっと、痛い……」
「え、あ、すんません…そんなに強く掴んだつもりなかったんすけど……」
私が痛みを訴えると、虎杖君(仮)はぱっと手を離してくれた。
開放された手首は、予想通りくっきりと赤い手の痕が付いていた。
実際には全く痛くなかった。
私の肌は刺激に弱い為、ちょっとした事ですぐに赤く痕が付くだけだ。
虎杖君(仮)は困ったように眉尻を下げた顔でこちらの様子を伺っている。
「大丈夫。私治せるから」
「え?」
私は自分の術式で痕を消した。
少しリスクはあるが、ここで多くを語るよりはわかりやすいだろう。
呪力を使うとその痕跡が残るらしい。そしてそれは指紋のように一人一人違っているという。
これで色々と察せるはずだ。
順平君が居た場所に有ったそれと、今の私のそれが一致したはずだから。 - 16124/04/21(日) 22:06:45
「…あの時……あそこに居た……?」
やっぱりわかったんだ。
私は一歩踏み出して虎杖君(仮)の額に手を当てる。
「大丈夫?暑い中立ってたから具合悪くなった?少し上がって休んでいく?……私は順平君がどうなったか全部知ってる。もちろんお母さんの事も本人から聞いてる」
「!!」
驚愕で二の句を継げずにいる虎杖君(仮)に、体調を気遣う振りで耳打ちする。
この子には話してもいいと思った。
でも、ここでは誰が見て聞いているかも分からない。
「どうする?……詳しい話聞きたかったら付いてきて」
後の言葉は彼以外には聞こえないように声を潜めて言った。
「……じゃあ、お言葉に甘えて、お邪魔します!」
虎杖君(仮)は力強い眼差しでこちらを見て答えた。 - 17124/04/21(日) 23:59:02
「どうぞ」
初めて入る家だけど、勝手知ったるように鍵とドアを開け、そのまま支えて虎杖君(仮)を中に招いてからドアと鍵を閉める。
ふう、と大きな溜め息が出た。
「とりあえずごめん。君がどんな人か分からなかったから嘘ついてた。虎杖君、だよね?」
「ホントに順平から話聞いてるんだ……」
「うん。映画の話で盛り上って、そのあとここで一緒にご飯食べたって。その後……」
「それも、知ってるんだ……」
言葉を切って目を伏せた私を見て、虎杖君の表情が曇った。 - 18124/04/21(日) 23:59:42
「そう、だね………でも、順平君は無事だよ。私が死ぬ気で治したから」
「!?どう…やって……?」
「さっき見たでしょ?私の術式。対象の時間を少し巻き戻せるの。普段は落として割ったお皿とかを直すのに使ったり、ちょっとした怪我治すのに使ってたんだけど、あの時は初めて人一人丸ごと対象にして限界まで時間戻したからしばらく動けなくなっちゃって大変だったよ」
「そっ…かぁ……ありがとう……」
虎杖君は涙ぐんで私にお礼を言った。
「大事な甥っ子を助けるのに理由なんか要らないでしょ?とりあえずここで立ち話もなんだし、座って話そう?」
好奇心で首を突っ込んだ赤の他人って事は黙っておこう。ややこしいし。 - 19124/04/22(月) 06:49:26
“虎杖君には順平君が生きてる事話したよ
これから私と暮らしてる事も話すつもり”
“叔母と甥の設定はそのままにしておくけど”
ダイニングに向かいながら順平君が持つタブレットにメッセージを送る。
すぐに既読がついて、順平君から返事が来た。
“わかりました
待ってます”
私はお節介と思いつつもさらに続けた。
“虎杖君に会わなくていいの?”
またすぐに既読がついて、今度は少し間を置いて返事が来る。
“わかりません”
“そっか
何かあったら電話して”
そう送って部屋に入る。 - 20124/04/22(月) 14:26:23
「ちょっと座ってて」
虎杖君にそう言って、外から見られないようにカーテンを閉めた。
部屋は少し蒸し暑かったから冷房をつけた。
冷房効率を上げるためにカーテン閉めるなんて当たり前の事だ。
何も怪しい所などありはしないだろう。
椅子に座り、テーブルを挟んで向かい合った。
少しの沈黙の後、私から口を開いた。
「何から聞きたい?」
「とりあえず……今、順平はどうしてるのか、聞いてもいい?」
何よりもまず順平君の事を聞くなんて、本当に心配していたんだ。
やっぱりこの子は順平君と会わせた方がいいのかもしれない。 - 21124/04/23(火) 01:20:11
「あの日から私の家で暮らしてる。役所で色々手続きが必要だから今日は着いてきてもらって、今は車で待ってる」
「そうなんだ…」
「私個人としてはね、君と順平君を会わせたい。やっぱり同性の友達は必要だと思うし、あまり映画を観てこなかった私より話も合うだろうし」
私のその言葉に、虎杖君は俯きがちだった顔をバッと跳ね上げた。
「それはっ…俺も……俺も、会って顔見て話したい……。ちゃんと、自分の目で無事なの確認したい」
「わかった。じゃあ順平君の返事待ちだね」
私はそう言って順平君にメッセージを送った。
“虎杖君、順平君に会いたいって”
すぐ既読が付いた。ややあって、返信が来た。
“やっぱり僕も虎杖君に会いたいです”
“わかった。もう少し待ってて”
そう送ってから、虎杖君にそのことを告げた。
「順平君も会いたいって」
虎杖君の強ばっていた顔が綻ぶのを見て、自然と笑みが浮かんだ。 - 22124/04/23(火) 11:03:32
「ちょっと待っててね!保険証とか役所で必要なものとか持ってくるから!」
「あっ、待って!」
そう言って席を立って部屋を出ようとしたら、またしても一歩も動けなかった。
そして手首には掴まれた感触。デジャヴだなぁ。
「どうしたの?」
振り返りながら尋ねると、同じように席を立った虎杖君を見た。
「いや…まだ聞きたい事あるから……」
「あ、そうかごめん。早く会わせてあげたくてちょっと浮き足立ってた」
苦笑しながら謝って椅子に座ると、虎杖君も手を離して椅子に座った。
「はい、じゃあ仕切り直しだね。なんでも聞いて」
ぱんっと手を打ってウインクした。
せっかく和らいだ雰囲気を壊したくなくて、殊更軽く、明るく振る舞った。 - 23124/04/23(火) 11:04:41
「…お姉さんはなんであそこに居たの?」
尤もな質問だ。でも想定の範疇だった。
「今日と同じようにここに来たらさ、なんかみんな避難させられててね。聞いたら里桜高校でテロみたいなことが起きてるって言うじゃない?自分の母校だし、何より甥の順平君がそこに通ってる。あの子に何かあったらって思ったら居ても立ってもいられなくて……」
「でも、“帳”……えっと、黒い膜みたいなのあったでしょ?」
「それにはびっくりしたけど、足を止めたり引き返する理由にはならなかったよ。なんか普通に通れたし。それで、用務員さん?に止められたんだけど、無視してこっそり校舎に入って順平君の教室に向かってる途中で倒れてる順平君を見つけたの」
「その時って……」
虎杖君は口ごもっていた。彼らの中でしか通じない用語を置き換える言葉を探しているのだろうか。
「うん。不思議な姿してた。でも、苦しそうな息と声が聞こえて、その声に聞き覚えがあったら、駆け寄らない理由はないでしょ?」
「そっか……」
「そう。順平君も私を見て呼んでくれたし、間違いないと思って、生まれて初めて全力で術式を使ったの。そしたら呪力切れ起こして鼻血とか出て頭痛とか吐き気までしてきてまともに動けなくなっちゃっんだけどね」
「お姉さんまで死んじゃったら意味無いじゃん…」
虎杖君はちゃんと私の事を順平君の叔母だと信じているようだった。 - 24124/04/23(火) 11:06:53
「だって私今まで呪術師とかと関わったことないんだもの。自分の持ってる力が呪術って事も知らなかったし、術式も呪力も順平君から聞いた言葉だし。さっきも言ったように壊したもの直したり軽い怪我治したりにしか使った事ないから、限界まで術式使ったらどうなるか知らなかったんだよ。まあ、例えそこで死んでても私は後悔はしなかったけど」
これは完全に純粋な嘘偽りの無い本音。
私はあそこで殺される猫になってもよかった。
大人になって上手い使い方が出来るようになるまでは、奇異の目で見られ忌避される象徴で人目を忍んでコソコソ使うしか無かったこの力が人の命を救えるなんて、なんて痛快な話だろう。
「……でも…でも、そうなったら順平はもっと後悔するだろ……?ダメだよ、そんなの」
虎杖君は沈痛な表情を浮かべて絞り出すような声で呟いた。
母を喪って、よく訪ねてくる叔母も自分を助ける為に命を落とした、という状況を想像したのだろう。
実際には赤の他人だから大した心的ダメージは無いだろうが、叔母甥の設定上では確かに酷い追い打ちになりかねない。
ここは素直に反省しておくことにした。
「それは……そうだね。軽率だったと思ってるよ。でも、そうなったのがいつかも分からないし、別の怪我もあるかもしれないから元の姿に戻っても限界まで巻き戻すしかなかったんだ……」
「そう…だよな……でも、生きててくれてよかった。順平も、お姉さんも…」
この子も本当に優しい子だ。 - 25124/04/23(火) 18:56:59
「ありがとう。心配してくれて、私達が生きてる事を喜んでくれて……。……ごめんね……」
私は手を伸ばして虎杖君の頭を撫でた。
淡い色合いに似合いのふわふわした柔らかい感触だった。
虎杖君は黙って目を閉じて撫でさせてくれていた。
おそらく普段の彼ならやめさせたりするのだろうが、私の謝罪の意図を、意味を理解しているのだろう。
順平君は呪術界にとっては罪人だ。そして順平君を庇い彼らから隠している私も同罪だ。
つまり、私と順平君は、共犯だ。
そして今、虎杖君もそれに巻き込もうとしていた。
順平君幸せの、いや、私のエゴの為に彼を巻き込んでいいのかの呵責は勿論あった。
私は順平君の安否確認をダシにして、あの子を心配している虎杖君に見逃してもらおうとしているのだ。
「…巻き込んで…ごめん……」
思わずまた謝罪が零れた。
震える手がテーブルに落ちて、ごとりと音を立てた。 - 26124/04/23(火) 18:58:36
「いや、俺が自分で選んだ事だから。後悔してないし、恨んでもない。巻き込まれてなんかない。だから……」
虎杖君は私の目を真っ直ぐ見て、そう言った。
その眼差しがあまりに眩しすぎて、私は目を細めた。
あまりの眩しさに、視界がぼやけた。
でも、視線を逸らす事も目を閉じる事も、私はしなかった。
彼からは逃げない。そのうち、そう遠くない内に全部本当のことを話そう。そう心に誓った。
「……だから、泣かんで?」
虎杖君が続けた言葉にハッとした。
私のバグり散らかした涙腺はまた未成年の前で涙を垂れ流していたようだった。
「っは……っ、はは……今日、花粉多かったのかな…」
いつの間にか詰めていた息を吐き出して、今までとは違う見え透いた嘘をついた。
「……あー、たしか花粉って一年中飛んでるんだっけ?」
虎杖君はそんな私のバレバレの嘘を受け入れてくれた。 - 27124/04/23(火) 23:54:52
こんなに優しい子をエゴに巻き込むなんて、本来は許される事では無い。
だから、順平君と虎杖君、この2人の優しい子を不幸にしない為に、出来得る事は全てしなくてはいけない。
それがこの私に許された唯一の道だ。
これを全う出来ないのなら、私という存在に生きる価値や意味など無い。
決意と覚悟を固め、席を立った。
「必要なものとってくるからちょっと待っててね」
順平君に保険証等の場所を聞いて鞄に入れ、虎杖君の元に戻った。
「おまたせ……」
「……うん、…ああ、ちがうちがう!ちゃんと良い人だった!麦茶とか出してもらったし!うん、もう少し休ませてもらってから戻るよ!心配かけてごめん!じゃ、また後で!」
「……今の……」
私に言葉に虎杖君が振り返った。 - 28124/04/24(水) 08:21:03
「大丈夫!余計なことは言ってないから!お姉さんも順平も、高専に引き渡したりなんかしないから安心して!」
周囲が明るくなったと錯覚するような笑顔だった。
「……ありがとう。順平君は、私が責任もって幸せにする。君も私達の事で不幸にさせない。約束するよ」
「こっちこそありがとう。ずっと気になってたからさ。順平がいなくなってて、そこに知らない残穢が残ってて、どうなったんだろうって。だから本当に気にせんで?」
「……わかった。じゃあ、行こっか」
「オッケー」
そうして私達は順平君が待つ車へと向かった。 - 29124/04/24(水) 14:42:27
「虎杖君!」
「順平!」
車内から虎杖くんを見るなり車から降りてきた順平君と、順平君の姿を見るなりとんでもないスピードで駆け寄った虎杖君が抱き合っていた。
「ホントに順平なんだな!無事で…無事でよかった…!ごめん、ごめんな……!俺……俺、あの時なんにもしてやれなくて、自分じゃどうにもできなくて、そんで後から行ったらお前いなくて、知らん人の残穢だけあって、どうなったんだってずっと思ってた!だから生きててよかった!」
「虎杖君は何も悪くないよ!君は僕を助けようとしてくれたじゃないか!それに、真人さ…あいつの力は特殊だから普通の攻撃は効かないし、それは治す時も同じだったんでしょ?だから謝らないで。あの時、形を変えられて意識が朦朧としてたけど、僕を助けようとしてくれたのはわかってた。それだけははっきり覚えてる。何も体だけの話じゃないよ。その前の君の言葉で僕の心はちゃんと救われたんだ。だから、ありがとう…!」
「ゔん……っ!」
そんな会話をしながら抱き合う2人を、私は少し離れた所から見守っていた。 - 30二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 22:30:39
優しい世界をまだ見ていたいので保守
- 31124/04/25(木) 01:45:48
とりあえず虎杖君にタブレットのアカウントを教えて、順平君と連絡を取れるようにした。
これで日中でも虎杖君と楽しくやり取り出来るだろう。
「ふふっ」
「え?どったの?」
「なにかありました?」
私が仕事から帰った後、虎杖君とこんな話をした、と楽しげに話す順平君を想像して思わず笑いを零してしまった。
「いや、楽しそうな2人を見てたら私も楽しくなっちゃっただけ。……まだまだお話させてあげたいけど、そろそろ役所に行かないとだから、虎杖君、ごめんね」
「あ、悠仁でいいっすよ!お姉さん!あと順平もな!」
「じゃあ私も一でいいよ」
「わかった!じゃあね!一さん!順平!」
「気をつけて帰ってね、悠仁君」
「またね!悠仁君!後で連絡するから!」
そうして悠仁君は順平君に駆け寄った時のようにものすごいスピードで去っていった。 - 32124/04/25(木) 01:46:53
「……悠仁君めちゃくちゃ足速くない?呪力使うとあんな速くなるの?」
「あれ多分呪力使ってないですよ」
「え……?」
聞き間違いかな?
「オーラみたいなの見えなかったでしょ?」
「うん」
「だから普通に走ってるだけだと思います」
聞き間違いじゃなかった。
「……素であの動き出来てんの?超人では?」
「すごいですよね……」
「すごいね……」
私達は少しの間、呆然と悠仁君が去っていった方向を見つめていた。 - 33124/04/25(木) 12:58:51
放心状態が解けた順平君が口を開いた。
「…行きましょうか、……一姉さん」
聞き間違いじゃなければ、「一姉さん」と呼ばれた気がした。
思わず聞き返した。
「え?今……なんて呼んだ?」
「悠仁君には叔母と甥って言ってあるんでしょう?だったら他人行儀に“あなた”とか“一さん”って言うのも変かなって……」
なんて嬉しい!
設定の為とはいえ、順平君自身の意思でそう呼びたいと思ってくれるなんて! - 34124/04/25(木) 12:59:29
「あ、なら敬語も要らなくない?」
「そこまではまだ難しいですよ…」
「順平君礼儀正しいもんね、それもそっか。じゃあ追々、だね」
「はい、追々って事で」
「甥だけに」
「ダジャレじゃないですか……」
「言葉遊びは日本人の嗜みだよ」
呆れた声を出す順平君にドヤ顔で返した。
「ダジャレ言いたいだけじゃないんですか?」
「あ、バレた?」
「バレバレです」
「「ふっ、あはははっ」」
2人で同時に吹き出して、それでさらに笑った。
ああ、やっぱりこの子は笑顔が可愛いなぁ。 - 35124/04/25(木) 23:16:24
「あ、でもさ、年齢とか年の差的には普通に“叔母さん”でいいんじゃない?」
「え?その方が違和感ありますよね?だから“一姉さん”にしたんですけど……」
私がそう言うと、順平君は怪訝な顔をした。
……これはいつものやつかもしれない。
「……幾つに見えてるの?」
「24、5歳ですよね?」
予想通りの答えだ。ここ数年それ以上の年齢を言われた事が無い。
「アラサーからアラが取れてる正しくおばさんだよ……」
「え!?いや、なんで悲しそうなんですか?若く見える方がいいじゃないですか?」
「よくない……実年齢より上に見られたい……」
生まれてこの方実年齢より下に見られた事しか無い者だけにしか分からない悲哀がある。
「若く見られたい人がほとんどなのに贅沢なんじゃないですか?」
「それもよく言われる……」
無い物強請りではある。でも、大人に見られたい気持ちは子供にこそ理解できるはずだと思うんだけど。 - 36124/04/25(木) 23:16:45
「仕方ないですよ。ほら、一姉さんは言動もこど…若々しいですから!」
「待って今“子供っぽい”って言おうとしてたよね?」
「え?気のせいじゃないですか?」
「絶対違う」
食い下がる私を躱すように順平君は助手席に乗り込んだ。
「さあほら行きますよ!役所は閉まるの早いですからね!」
「それはそうだけど誤魔化されてる感パない……」
私はぶつくさ言いながら運転席に座ってキーを回し、役所へと向かった。
転出届の手続きは滞り無く終わった。あとは帰ってこっちの役所で転入届を出せばいい。 - 37124/04/26(金) 08:41:03
それと、とても大事な事がひとつ。
「……順平君がよければ、なんだけど……私の養子にならない?私の方は条件満たしてるし、順平君も17歳だから順平君本人の希望さえあれば出来るんだけど……」
「……え?」
「今日持ってきた保険証はそのうち使えなくなるでしょ?だから、私の扶養に入って社会保険証発行してもらうのがいいんじゃないかなって」
「それは…そうですけど……」
順平君は悩んでいるようだった。それも仕方が無い。いきなりこんなこと言われてはい分かりましたと即決で言える方がおかしいのだ。
「結論はすぐに出さなくていいよ。これからの人生に関わる事だからね。ただ、こんな選択肢もあるよって知って欲しかっただけだし」
目下一番重要だった住民票の移動が出来たのなら、心配事なんて無いようなものだ。
順平君が望めばバイトも就職もここから通えるようになる。
住所の、戸籍の存在はそれだけ大事だ。 - 38二次元好きの匿名さん24/04/26(金) 08:53:40
結婚の条件も満たしてると思うけど……まぁ、流石にちょっと無茶だよな
- 39二次元好きの匿名さん24/04/26(金) 10:09:35
- 40124/04/26(金) 11:33:33
役所の駐車場でそんな話をしていたら、ずんずんと近づいてくる人影があった。
見れば、顔にガーゼとかを貼り付けた茶髪の少年が息も荒くこちらに向かってきていた。
「吉野!テメェ!!」
「…伊藤……」
その声と姿に順平君はびくりと身を強ばらせた。
ああ、こいつか……。
こいつが順平君の心を殺し続けて心身に消えない傷を負わせた糞餓鬼か。
わたしは順平君を背中に庇って糞餓鬼と対峙した。
「あ?なんだババア、どけよ。俺はそいつに用があんだよ」
「どく訳ないでしょ?大事な甥っ子に何するつもり?」
「うるせぇな!俺はそいつのせいで左腕がまともに動かなくなったんだよ!何発でも殴んねぇと気がすまねぇんだよ!」
糞餓鬼は何処までも糞餓鬼だ。それだけの事をしてきた癖に全部棚に上げてやがる。
「は?自業自得でしょ?あんたがしてきた事考えたら命有るだけ恩情なんだけど?一生片腕の不具抱えて生きるくらい受け入れなさいよ」
「…っのクソババア!」 - 41124/04/26(金) 11:34:49
私の顔目掛けて飛んできた拳がぶつかることは無かった。
目の前には半透明の巨大クラゲがフワフワと浮いていたからだ。
「澱月……ありがとう、順平君」
「う、うわぁぁ!」
不意に叫び声がしてそちらを見ると、糞餓鬼の右腕が爛れて変色していた。
「順平君、待って!」
私は順平君に待ったをかけて、糞餓鬼を治療した。
「な……」
恐怖と驚愕で言葉を失う糞餓鬼に、淡々と告げる。
「腕、痛くないでしょ?動くでしょ?今の毒の分は治した。私にはそういう力があるから。もし、お前がこれ以上順平君に危害を加えるつもりなら、私は容赦しない。お前の骨を折って、爪を剥がして、ボロボロになるまでお前を痛め付ける。ああ、煙草も押し付けようか。でもお前は警察にも病院にも行けないよ?全部治すから。お前の体と脳に痛みと恐怖の記憶がこびりつくだけ。それが嫌なら、二度と私達に近付くな」
「……っ!」
糞餓鬼は顔を引き攣らせ、時折よろけてつまづきながら走り去って行った。 - 42124/04/26(金) 16:13:09
捨て台詞も吐けないくらいビビり散らかしてくれて重畳。
どう見ても言い逃れできない完全な脅迫だったけど、まあこれで安心だ。
「ふー、順平君、助けてくれてありがとう」
私は息を吐いて澱月を撫でながら順平君の方に振り向いた。
順平君は顔面蒼白で私の肩を掴んだ。
「危ない事しないでください……!あいつは…、あいつは人の事何とも思ってないんですから!誰だろうが平気で殴る蹴るするんですよ!?」
「そうだろうね。でも大丈夫だよ。踏んできた場数が違うもの。イキった糞餓鬼の鼻っ柱へし折るくらいワケ無いよ。こっちはゾンビ戦法出来るんだから。即死以外はかすり傷だよ。私は順平君を守る為ならどれだけ傷…」
「怪我する前提じゃないですか!ダメですよ!約束してください!たとえ僕を守る為でも、自分を傷付けるような真似はしないでください!」
順平君を守る為ならどれだけ傷付いても構わない、と最後まで言わせては貰えなかった。 - 43124/04/26(金) 16:31:33
「……約束は、出来ない。努力はする」
「それじゃあほとんど意味が無いですよ……」
私の返答に、順平君は消え入りそうな声を出した。
しかし、出来もしない約束を交わすような不義理を順平君に対して行えるはずもない。
「あー、今回みたいに敢えて殴られに行くような事は二度としない!絶対しない!ね!だから…」
「……!やっぱりわざと殴られようとしてたんですか!?」
しまった墓穴掘った。
自分を大事にしろと言い募る順平君を何とか宥めて、自分たちが住む市への帰路についた。 - 44124/04/26(金) 23:32:10
市役所で転入届を出した後、外食をして家に帰ってからも順平君は考え込んでいたようで、いつもより口数が少なくなっていた。
「そんな考え込まなくていいよ。養子縁組はあくまで選択肢のひとつだし、今答え出す必要は無いよ。住民票さえ移せたなら普通にこのままだっていいんだから。熟考する程の事じゃないよ」
「熟…」
養子縁組のことで考え込んでいると思った私の言葉に、順平君の顔が凍りついた。
一体どうしたのだろう。
「だから……だから僕は馬鹿だって言われるんだ……」
そう言って頭を抱えた順平君の肩に手を置いて尋ねた。
「順平君?どうしたの?誰にそんなこと言われたの?」
「まひ…と…さ……」
真人。
順平君の人生をめちゃくちゃにした呪霊。 - 45124/04/26(金) 23:33:32
そいつが順平君に与えてくれたものも確かにある。
心を救う言葉、力、出会い。
だが、奪ったものの方が大きい。
家族、希望、居場所、有り得たはずの未来。
それに、もし私が好奇心に負けて侵入しなかったら、あの場で順平君は……順平君は、噛み終えて吐き出されたガムのようにそのまま捨て置かれていたのだ。
ズタズタに引き裂かれた心で絶望しながら、迫り来る死に怯えながら倒れ伏したまま短い生涯を閉じる所だった。
そして、不要な心の傷を抱えて生きる事を余儀なくされた者の苦しみなんて、そいつは理解しないだろう。
許せない。
だけど、私には戦う力なんて無い。
私に出来る事は、順平君が奪われた物を僅かばかり用意する程度だ。
居場所と、未来。
これなら用意出来る。
ここでなら、順平君は自由に生きられる。
そのはずなのに、私の浅慮で嫌な事を思い出させてしまった。
自分の失言に舌打ちしたい気分だったが、順平君を持ち直させるのが先だ。 - 46124/04/27(土) 08:25:46
私は順平君を抱きしめて言った。
「順平君は馬鹿なんかじゃない。私の古い言い回しとかも聞き返さずすぐに理解して返してくれるし。順平君となら、私の言葉そのままでストレス無く会話出来る。馬鹿…つまり知識のない者には出来ない事だよ。そいつが頭良い事は確かではあるだろうけど、心の隙をついてやったことに馬鹿だのなんだの言う方が間違ってる」
「でも…」
「利用するために耳障りのいい言葉ばかり使うような、そんないやらしい奴の言ったことなんて気にしちゃダメ」
「いやらしいって……」
「いやらしいよ!帰る前にちらっと見えたけどエガちゃんみたいなカッコしてたもん!」
「ふはっ、それは…いやらしいかもしれないですね」
順平君は思わず吹き出した。
「でしょ?」
私も笑いながら返した。
余計な事なんて忘れて、くだらない話で笑い合って。
今の私達には、順平君には、何より必要な事だから。 - 47124/04/27(土) 12:54:36
それから寝る前の映画を観て、感想を言い合って寝る時間になった。
お休みと言って寝室に入るけど、私は基本眠れないから部屋でまんじりともせず過ごした。
順平君が眠っただろう時に部屋に入り、寝顔を確認した。
今日は色々あったから心配していたが、寝顔は安らかなものだった。
今日のところは安心して眠れそうだ。
それに、明日からはきっと日中悠仁君とやりとりして楽しく過ごせる事だろう
次の休みにはスマホを買おう。
いつまでもタブレットでは使いづらいだろうし。
今までの平穏だけど面白味のなかった日常は変わって、先の楽しみが増えた。
順平君にもそうでありますように。 - 48124/04/27(土) 22:54:05
今日も足取り軽く帰宅して夕飯を作った。
昼の内に順平君が食材を買って来てくれるからとても助かる。
順平君と食卓を囲んでいたら、やはりというかなんというか、悠仁君とのやり取りを嬉々として語ってくれた。
楽しそうに話す様子に、えも言われぬ幸福感で満たされる。
やっぱり2人を会わせてよかった。
「あの…今度の映画の事なんですけど……」
夕食を済ませて風呂から上がって髪を乾かしていたら、順平君がおずおずと話しかけてきた。
「ん?どしたの?」
「28日公開の映画を観に行くじゃないですか。その話を悠仁君にしたら、悠仁君も同じ日に同じ映画観ようと思ってたらしくて……それで、もしよかったら一緒に観たいな、って……」
「え!?マジで!?いい!めっちゃいい!大歓迎!!今すぐOKの電話して!」
「え、え!?今すぐですか!?」
「イエス!ジャストなう!」
若人の青春の予感に、心が“これこれ!こういうの期待してたんだよ!!”と色めき立った。 - 49124/04/27(土) 23:43:46
「もしもし、悠仁君?いきなりごめん、えっとね…さっきの話、いいって!」
「……うん。悠仁君は新幹線でこっちに来るそうです」
「え、そうなの?わざわざこっちに来てもらうの悪くない?」
「……地元がこっちらしいので、里帰りついでだそうです」
「なるほど……あ、悠仁君迎えに行ったら、あとはお若い2人でって退散した方がいい?」
「お見合いじゃないんですからそんな変な気を遣わないでくださいよ!」
私たちの会話が聞こえていたらしく、電話口から悠仁君の笑い声が聞こえた。 - 50124/04/28(日) 07:36:25
そして悠仁君に何かを言われた順平君がタブレットをテーブルに置いて画面をタップした。
『お、聞こえてるー?』
悠仁君の声だ。
「聞こえてるよ」
「大丈夫だよ」
『おっけ』
「悠仁君こっちが地元だったんだね!」
『そっす!ていうかこっちのセリフでもあんだけど』
私の言葉に悠仁君はそう返してきた。
「私は就職してからはこっち住んでるからね。郊外だけど。でもすごい偶然だよね」
「僕もびっくりした」
『ホントなー』 - 51124/04/28(日) 14:21:36
「新幹線で来るなら映画はPARC〇2で観る?わざわざモールまで行かなくてもいいよね?」
『そういえば映画館入ってんだっけ。あんま行ったことないから忘れてた』
「タゲ層違うからねぇ、悠仁君には合わなかったでしょ」
『マジそれ。L〇FTとかEBe〇nSの方行ってたわ』
「わかるー…」
私はハッとして順平君の方を向いた。
「…順平君も数ヶ月後にはこの会話に参加できるように連れ回すからね。覚悟の準備をしておいて」
「え、は…はい」
『言い方www』
「何時頃帰る予定なの?」
『新幹線とはいえ日帰りはキツいから一泊する予定だよ』
「どこ泊まるか決めてるの?」
順平君の問いに悠仁君は否と答えた。
「え?まだだけど」
私と順平君は顔を見合せ、頷いた。 - 52二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 02:14:16
優しい世界保守
今さらだけど姉さんめちゃくちゃ壊れ術式持ってるな…… - 53124/04/29(月) 08:32:07
「ウチくる?」
『行く行く!ってホントにいいの!?』
「もちろん!ね、順平君!」
「はい!」
『じゃあ俺が晩飯ごちそうしよっかな!とっときのメニューあんだよね!』
「お、悠仁君はお料理男子か」
『そこまでじゃないけどそれなりに作れるよ!』
「楽しみだねぇ」
「そうですね」
私たちはまた顔を見合せて、今度は笑いあった。
「とりあえず食材は映画の後の帰り道でいいよね?私達は駅までは車で行くし」
『うん、それでいいよ』
「よし、じゃあ決まり!楽しみに待ってるよ!おやすみ!」
「僕も楽しみだよ!おやすみ悠仁君」
『俺も俺も!じゃあおやすみ!』 - 54二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 09:43:57
この平和な世界が続いてくれるといいな
- 55124/04/29(月) 14:39:18
「どうしようテンション上がって寝れないかも」
「気が早すぎますよ!あと4日あるんですよ?」
「限界来たら寝落ちするから大丈夫」
「それ大丈夫って言わなくないですか?」
「まあ基本3~4時間寝ればいいし?」
私の発言に順平君はギョッとしたようだった。
「え…それ本当に問題無いんですか?」
「逆にそれ以上眠り続けるのが出来ない。よっぽど体調悪くない限りはね。だから心配しないで」
「安心できる要素が見当たらない……」
「そんな事より悠仁君の寝床用意しないと。あのソファベッド使えばいいけど枕とタオルケットは欲しいよね……アマプラでポチるか…」
「そんな事で流していい話じゃないですよ…」
順平君は溜息をつきながらスマホで注文している私を眺めていた。 - 56二次元好きの匿名さん24/04/30(火) 01:12:53
ただのショートスリーパーなのか?術式の副次効果だったり何らかの天与呪縛だったりするんだろうか
- 57124/04/30(火) 02:05:00
それからの数日は飛ぶように流れた。
途中パートのおばちゃんに「見たわよ〜若い男と一緒に居たでしょ!」なんて言われたから、また甥っ子として説明しておいた。
順平君が1人の時に根掘り葉掘り聞かれても困るだろうし、親が亡くなって日が浅いから私以外の家族のことは聞かないようにと釘を刺した。
そしたら、私が親を亡くした甥っ子を育てていると聞きつけたパートのおばちゃん達から、沢山貰って余っている野菜やら多く作ってしまったというおかずやらを貰うようになった。
正直助かるので素直に受け取っているが、やはりおばちゃんは耳が早い。
家に帰ってからは、何度か悠仁君と話して当日の計画を詰めていった。 - 58124/04/30(火) 02:06:55
そうして迎えた映画公開日当日、私達は元伊達前(悠仁君にはステンドグラス前と伝えてある)で待ち合わせをした。
3階の改札の辺りを見ていると、見覚えのあるピンクベージュの髪が見えた。
「順平君、あそこ。見えた?」
「見えました!」
私が指さした方向を見た順平君が大きく手を振った。
それなりに距離があるから声を出しはしなかったけど、悠仁君も気付いて手を振ってくれた。
そしてそのまま手すりに手をかけて飛び降りようとして、ハッとしてやめてエスカレーターで降りてきた。
「お疲れ様!今心臓に悪い事しようとしたでしょ!」
私がそう言うと、悠仁君はポリポリと頭を掻きながら言った。
「いやー、つい癖で直降りしようとしちゃった」
「もー、思い留まってくれてよかったよ」
そう言って笑い合う2人を見ながら私はある言葉が引っかかっていた。
「……つい癖で?」
呪術師って階段とか使わず降りるのがデフォなの?
そう思わずにはいられなかった。 - 59二次元好きの匿名さん24/04/30(火) 14:05:28
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