【閲覧注意】悠仁と同居している2

  • 1二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 00:02:40

    やあ、よく来たね。

    私と悠仁のハウスへようこそ。

    まずはこの反重力機構を受けるといい。


    ……なんだ、まだ生きているのか。しぶといね。

    「ごめんなさい」?

    へえ、どうして謝れば許されると思ったのかな。


    近頃、家の周りを嗅ぎ回っていたのは君だね。

    おおかた私と悠仁を引き離そうという魂胆なんだろうけど、無駄だよ。


    悠仁は私と離れたくないし、私は今のところ悠仁と離れるわけにはいかない。

    君達が許そうが許すまいが関係ないんだよ。

    母子とはそういうものなんだからさ。


    ……ん?

    ああ、悠仁。急に抱きついてくるから驚いたよ。

    そうか、もうそんな時間……今日のメニューは何かな。

    悠仁はいつもリクエストに沿って面白いものを作ってくれるからね、私も最近は悠仁の食事が楽しみなんだ。

    この体も、きっと喜んでいると思うよ。


    そうだね、早く食べに行こう。

    ……でも、その前にゴミ袋を持っておいで。私は先に居間へ戻っているから、『これ』を片付けたら来なさい。


    返事は?


    ……ふふ、助かるよ。

    悠仁は本当にいい子だね。

  • 2二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 00:03:39

    このレスは削除されています

  • 3二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 00:04:17

    流れるように俺くんが死んでる……

  • 4二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 00:04:31
  • 5二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 00:06:29

    前はゴミ袋に詰めるまでは自分でやってたのに今回は片付けからやらせてる…

  • 6二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 02:10:55

    このレスは削除されています

  • 7二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 03:40:33

    こうして悠仁が立派なヤングケアラーに育っていくんですね…

  • 8二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 03:59:46

    先生と伏黒早く来てくれ

  • 9二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 04:08:05

    >>7

    ヤングケアラーなんて言葉に収まってたまるか!

    死体に構ってないで早く一緒にご飯食べよう母ちゃん大好き呪物蠱毒小僧やぞ!

  • 10二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 07:44:51

    「返事は?」の圧がこええよ…悠仁を開放しろ

  • 11二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 12:27:08

    「この体も」って言ってないかコイツ
    からだ喜ぶ毎日の習慣的な意味にでも解釈してんのかな虎杖悠仁くんは

  • 12二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 12:29:20

    でもこいつの事だから五条と伏黒に遭遇しないよううまく立ち回りそうなのがまた

  • 13二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 17:26:05

    記録───2012年5月
    宮城県仙台市 〇〇小学校
    近隣の介護施設に務める「窓」が目視で呪霊の出現を確認
    高専に通報
    数分後、呪霊の気配消失

    「消えた?呪霊が?」
    「言っとくけど、高専の術師が着いたのは通報から30分後だからね。現場の残穢から1級相当と推定、その術師は2級だったから撤退。で、僕にお鉢が回ってきたってわけ」
    「……逃げるにしても理由が不明、隠れてるなら最悪。調査の結果次第では、1級術師だと物足りないかも」
    「そういうこと。杞憂だと思うけどね」

  • 14二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 17:26:25

    新幹線「はやぶさ」の車内。
    任務内容のまとめられたコピー用紙の束をぺらぺらとめくりつつ、五条は駅の売店で買ったペットボトル飲料を開けた。
    たちまち漂う甘ったるい匂いに、隣席で伏黒は顔をしかめる。
    「恵も飲む?」
    「いらない」
    『懐かしの東京ミルクセーキ バニラパンケーキ味』という字面だけでも胸焼けしそうなパッケージを横目で睨みつけて、小さな手は缶コーヒーのプルトップを開けた。

    「あ、そうだ。恵、これだけは覚えておきな」
    「……何」
    「仙台行ったら喜久福はマストバイだよ」
    「寝るから着いたら起こして」

  • 15二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 18:11:45

    マジで頑張ってくれ五条と伏黒

  • 16二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 18:14:52

    この悠仁って小1くらいか?

  • 17二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 23:24:05

    「悠仁、しばらくの間は外に一歩も出ないこと。買い物も駄目。何かあれば私に言いなさい。呪術師がうろつくだろうからね」

    その日、朝食を食べ終わった後で、私は悠仁を呼びつけた。

    「じゅ、……?」
    「呪術師。この間、話さなかったかな」
    「え、えっと……『じゅれい』をやっつけてる、すごい人たち、だよね?」

    悠仁に呪霊の存在を明かして以降、私は気が向けば呪術界に関する最低限の知識を教えるようにしていた。
    呪力の操作や戦闘の知識を除いて。
    もとより教えるつもりはほぼなかったが、いざ悠仁と話す段になると、思考の一部としてすら不自然なほど浮かばない。まるで、そこだけ切り取られたかのように。
    となると、おそらくは虎杖香織のせいだろう。彼女の基準では、悠仁が戦えるようになることは『母親から離れてしまう』ことに繋がるらしい。
    いやはや、親のエゴは恐ろしいね。

    「悠仁は、呪術師が好き?」
    「……わかんないけど、かっこいいと思う」
    「そう」

    空になったコーヒーのカップをちゃぶ台に置き、私は悠仁の手を引いた。幼い体は、されるがままに私の膝へと乗り上げる。

  • 18二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 23:24:36

    「でもね、彼らは時に人も殺すんだよ」
    「……え?」
    「呪術師はとても怖がりなんだ。少しでも人に害を成そうとする者がいれば、有無を言わせず排除しようとする。裁判だって開かれない。暗くて狭い部屋に閉じ込めて、ひとりぼっちで死なせてしまうんだ」

    悠仁の薄い腹を撫でながら、言い聞かせるように囁く。シャツ越しに触れるそこは、数多の呪物を孕んでいるとは思えないほどやわらかく、人肌のぬくもりを感じさせた。

    「彼らは、この間の小学校の件を調べに来たんだと思うね」

    腕の中に収まった体が、ぎくんとこわばった。

    「覚えているかな。今の悠仁は、人間よりも呪物に近い。小学校のこともある。呪術師が悠仁を見たら、きっとすぐに捕まえて……殺してしまうかもしれない」

    悠仁の手が何かを探るように動いて、やがて私の服の裾をつまむように握った。関節が白くなるほど握り込んだ指は、小さく震えている。

    「私は、悠仁をそんな目に遭わせたくないんだよ。わかってくれるね?」

    しきりに頷く悠仁の目は、他の何も映していなかった。ただひたすらに、私だけを見つめていた。

    私なりに、できる限りのことはするつもりだよ。
    子を守るのが母親というものだからね。

  • 19二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 03:12:47

    母ちゃん(元凶)への依存度高くて興奮する

  • 20二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 04:24:34

    本編でネグレクトしててほんとよかったなってなるスレ

  • 21二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 13:36:09

    うわぁ…‥w

  • 22二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 14:19:57

    仙台駅で五条たちを待っていたのは、一見して60代ほどに見える補助監督の女性だった。
    元々こちらの出身で、多忙な五条に先んじて現地入りしており、活動拠点の用意などを済ませてくれたらしい。先程まで目を通していた資料も、彼女が作ったものだという。

    「まあまあ、こんなところまでようこそお越しくださいました。補助監督の入谷と申します」

    半分以上歳の離れた子供への態度にしてはいやに丁寧だったが、場の誰も指摘しなかった。五条に連れ回されるうち、伏黒もこういう対応には慣れていた。
    天下御免の御三家、その一角を担う人間。加えて、3人しかいない特級術師の1人。手の届かない雲の上の存在と考えるのか、やたらとかしこまる輩も多い。
    もっとも伏黒にとっての五条は、この世でムカつく人間ランキング万年不動の堂々1位だったが。

    「お疲れでしょう、まずはお車までご案内しますね。よろしければそちらもお持ちしますが……あの……」
    「ん?ああこれね、お土産。さっき買ったやつ。地元民なら知ってるでしょ、喜久福」

    入谷の目が点になるのを、伏黒はたしかに見た。

  • 23二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 14:20:19

    それ見ろ困ってんじゃねえか、と反抗的な目つきで睨め上げた伏黒に、五条は何を勘違いしたのか「恵も欲しかったの?言えばよかったのに」などとほざいてくる。
    こんな適当人間が人類最強なんだから、つくづく世界は不平等だと思う。五条から視線を外し、口をむっつりと真一文字に結んだ。

    「で、どんな感じ?」
    「すぐに現場へ入れるように手配してあります。幸いにも校長の協力を取り付けまして……」

    駅前ということもあり、なかなかの人通りだった。事務連絡を交わしながら車へと向かう五条と入谷、その後ろを伏黒はせっせと足を動かしてついていく。
    誰のものとも知れぬざわめきが、すれ違いざまに子供の耳へと入っては抜ける。

    「……さん、行方不明なんだって?」
    「そうなのよ、奥さん可哀想で見てられなかったわ……」
    「やあね、最近は物騒で……」
    「案外、よその女の人と出ていったんだったりして……」

    やだあ、とクスクス笑う声を振りきるように歩いた。
    伏黒の足下で、影がほんの一瞬揺らめいた。

  • 24二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 14:24:16

    解像度の高さよ

  • 25二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 14:29:05

    偶然か小ネタ程度だと思うけど母子の話で入谷が出てくるのじんわりと嫌

  • 26二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 23:14:54

    ───五条悟が来ている。

    予想外の報せに、私の背を冷たい汗が伝った。悠仁の匂いに釣られた呪霊の登場は、思いのほか大事と捉えられたらしい。
    だからっていきなり特級、それも六眼を連れてくるなよ。まったく、いつから呪術界はそんなに勤勉になったんだろうね。

    閉じた携帯を手の中で弄びつつ、考える。
    この状況、もっとも避けたいのは私と悠仁の存在の露見だ。

    まず私。
    あの眼で『私』を判別できないのは既に実証済みだが、困ったことに当面の間は虎杖香織の肉体から乗り換えられない。
    よって、姿を見られる可能性はできるだけ排除したかった。

    そして悠仁。
    こちらは六眼に捕捉されたが最後、よくて監禁、悪くて処分といったところだろう。考えただけでうんざりする話だった。
    そもそもとして、悠仁はまだ宿儺の器として役割を果たしていない。さらに言うと、今の状態でもし悠仁が殺された場合、虎杖香織の残滓が私にどう作用するかが未知数。
    どちらの意味でも、あの子を今失うのは早すぎる、というのが正直なところだった。

  • 27二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 23:15:49

    とはいえ、本人にはよく言い含めてある。悠仁がうっかり外に出てしまい、五条悟やその仲間と接触する……という可能性は除外していいだろう。
    こんなこともあろうかと、家には元々ちょっとした仕掛けを施していた。悠仁が自分から家を出ない限り、向こうから探知されることはないはずだ。これでも結界術には一家言ある身なのでね。

    したがって、今警戒すべきは向こうからのアプローチのみ。
    当初の想定とはズレたものの、呪術師を退けるための手は既に打ってある。あとは五条悟の動向に合わせて、適宜動くとしよう。

    ……それにしても面倒臭い。
    こんなことなら学校なんて行かせるんじゃなかったな。

    内心ぼやいたところで、携帯が鳴った。

    『かあちゃんへ
     おしごとおつかれさま
     今夜はビーフストロガノフだよ
     かあちゃんのリクエストうれしい
     がんばってつくるね
     ゆうじ』

    まあ、仕方ないね。
    子どもの尻拭いも母親の仕事と考えよう。

  • 28二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 23:20:32

    邪悪……

  • 29二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 23:39:41

    健気な小僧に涙が出ますよ

  • 30二次元好きの匿名さん24/04/30(火) 07:49:14

    羂索ほんとお前さぁ…!

  • 31二次元好きの匿名さん24/04/30(火) 17:05:35

    元気に外走り回ってそうなスレ画小僧がほとんど軟禁状態とかかわいそうだろうが!もっとやれ!

  • 32二次元好きの匿名さん24/04/30(火) 17:58:50

    「事件当時、教室には在籍児童『31人全員』が出席していたそうです。幸いにも怪我人はゼロ、ただし体調不良を訴えた生徒が若干名いたとのことで……ああ、こちらです。どうぞ」

    ちょうど二人を案内したところで、入谷の携帯が鳴る。すみませんと何度も頭を下げながら、彼女は足早にその場を離れていった。

    「1級が暴れたにしては綺麗じゃん」

    教室をぐるりと見回し、五条は開口一番そう言った。伏黒も同意見だった。
    事件発生当日、学校側を説得してどうにか保存させたというそこは、机や椅子が派手に散らばっている以外に目立つ異変がない。
    『人間が暴れた後、と言われたほうがまだ説得力がある』光景だった。

    1級推定の呪霊が『数分間、ポルターガイスト的現象を引き起こした』のちに消失。資料にはそのように記載されていた。
    呪霊の発生から消失までの間、教室に『呪霊が見える者は誰もいなかった』。つまり、目撃者が目撃者の体を成していないということになる。
    案件の凶悪さに対し、あまりにも頼りない記録だった。

    「場所が違うってことは?」
    「ないね。残穢はベッタベタについてるし」

    サングラスを下ろした青い瞳が輝く。四方八方に視線を走らせる姿は、整った顔立ちもあいまって、人の形に設えられた探査機械のようだった。 

  • 33二次元好きの匿名さん24/04/30(火) 17:59:26

    六眼をもってすれば、この残穢を辿って倒すのは容易い。ただそれでは、1級クラスという大物の発生理由がわからないまま終わってしまう。
    呪霊を祓うだけではなく、発生の根本原因も探ること。それが今回の任務の要諦だった。

    「あー、でもなんだこれ……?」

    五条が誰ともなしに呟いた直後、ぱたぱたと忙しない足音が廊下に響く。

    「すみません、別件の連絡がありまして。それで五条特級術師、ちょっと……」

    教室の隅へ手招きされる五条をよそに、やることもない伏黒は教室を歩き回る。
    薄っぺらいスローガンの張り紙に、アニメのキャラクターがプリントされた体操着袋。学校なんてどこも変わらないんだなと冷めた感慨を抱きつつ、たわむれに机の数を数え始めた。
    1、2、3、……15、16、17、……29、30、31、……32。

    「……あれ?」

    何かが引っかかる、と思った瞬間に目眩がした。反射的に目を閉じ、こめかみを押さえる。
    抱いた違和感が少しずつ霧消していく。違う、待て、それはたぶん忘れてはいけないもので───

    「恵ぃー」

    ───間延びした声が耳へ入ると同時、我に返った。
    先程まで何を考えていたのだったか、『思い出せない』ままに五条を見やる。

    「そろそろ一人で、聞き込み調査とかやってみたくない?」

    有無を言わせぬ微笑みは、伏黒の嫌いな笑い方だった。

  • 34二次元好きの匿名さん24/04/30(火) 18:16:08

    うーんめちゃくちゃ認識阻害されてる
    おのれ羂索

  • 35二次元好きの匿名さん24/04/30(火) 19:26:57

    最初はかわいそかわいい悠仁目当てに見てたのに話が面白くて普通に引き込まれてる

  • 36二次元好きの匿名さん24/05/01(水) 01:39:37

    本編が2018年だから2012年だと小4か

  • 37二次元好きの匿名さん24/05/01(水) 08:25:49

  • 38二次元好きの匿名さん24/05/01(水) 13:13:32

    保守

  • 39二次元好きの匿名さん24/05/01(水) 18:56:38

    悠仁が学校で騒ぎを起こした日、その深夜。
    私達は、母子で同じ布団に寝ていた。
    冷めた丼を完食し、満腹と疲労でうつらうつら船を漕ぎ始めた悠仁に「今日は一緒に寝ようか」と声をかけた結果がこれだ。
    目をいっぱいに見開き、紅潮する頬を隠しもせず「ほんとうにいいの?」と声を震わせる。見たこともない悠仁の反応に、そういえば同じ寝床に入ったことは一度もなかったな、と私は気がついた。

    まあ、唐突な親子愛に目覚めたわけではないんだけどね。

    大口を開けてよだれを垂らした呑気な寝顔。そのこめかみのあたりに目を凝らして、待つ。
    やがて、そこが蜃気楼のように揺らめいた。

    「駄目だよ」

    意識していなければ見落としかねない微かな呪力に向けて、私は声をかけた。刹那、蜃気楼の動きが止まる。

    「その子供は違う。私に従えないなら、契約を破棄したとみなし、相応の報いを受けてもらうことになる。君の知能なら『縛り』についても理解しているだろう?」

    呪力を帯びた不可視の存在は、しばし不満げにゆらゆらと揺れていたが、やがて諦めたように霧消した。
    私と『あれ』は呪術的契約によって結びついている。視界から失せたとしても、おおまかな動きは捕捉できる。
    呪霊の気配が家から失せたところで、悠仁から視線を外した。

    特級仮想怨霊「獏」。
    夢と現実の狭間にのみ息づく存在。私が時を渡る中で契約した呪霊のうち、ある意味ではもっとも呪いらしい呪いだった。

  • 40二次元好きの匿名さん24/05/01(水) 18:57:13

    高専ではとかく一括りにされがちな仮想怨霊だが、個々の成り立ちによって性質が異なることは意外に知られていない。
    例えば、伝承や伝説が元になったもの。なかでも、確固たるモデルと呼べる存在がいないタイプ。
    人の口から口へと伝わるうちに生まれた、根幹があやふやな呪霊は、時代を経るにつれて姿形や術式の内容が変化することがある。
    「獏」もそのひとつだ。

    近年になって提唱された、夢が『記憶の整理に必要なプロセス』とする学説。それが広く人口へ膾炙したことに伴い、「獏」の術式解釈もまた大きく変化した。
    すなわち、夢を食らう存在として生まれた架空生物は、現代においては『特定の記憶を食うことができる』側面を併せ持っている。

    この家を起点とし、「獏」に街を一巡させ、悠仁の匂いを辿らせる。
    そして、そのことごとくを食いつくすよう指示した。

    いささか大掛かりな方法を取る羽目になったが、結果としては成功の部類に入るだろう。元々の術式効果範囲からして、記銘される前……整理段階にある記憶には確実に作用したと考えている。
    知名度の高さからくる呪力目当てで拾った呪霊が、まさかこんな形で役に立とうとは思ってもみなかった。

    これで『あの日の悠仁に関する記憶』は消えた。
    あとは『悠仁のいた痕跡』を消せばいい。

    子供特有の高い体温が、布団の中にこもっていた。「獏」が誤って悠仁に入る可能性を考えての共寝だったが、用も済んだ以上は暑くて仕方がない。
    私はさっさと体を起こした。掛け布団の隙間から夜の冷たい空気が流れ込んだのか、隣からむずがるような声が上がる。

    部屋を出る間際、「かあちゃん」と小さな声がした。
    こちらをじっと見つめる悠仁に「おやすみ」と声をかけ、私はドアを閉めた。

    子育てに大切なのは、子供の自立心をいかに養うかだ。
    母親と子供の間でも、線引きは大事だと思わないかい?

  • 41二次元好きの匿名さん24/05/01(水) 18:59:21

    虎杖が不憫でならねぇよ

  • 42二次元好きの匿名さん24/05/01(水) 19:39:32

    香織さんもうちょい気合い入れて…

  • 43二次元好きの匿名さん24/05/01(水) 21:27:18

    一緒に寝れるって喜んでたのにあんまりだ
    母の心とか無いんか

  • 44二次元好きの匿名さん24/05/01(水) 23:20:48

    ドア閉められたあとの虎杖を想像しただけでこころがしんどい
    救いはないんですか?

  • 45二次元好きの匿名さん24/05/02(木) 07:54:22

    一夜くらい一緒に寝てやれよ!!!!

  • 46二次元好きの匿名さん24/05/02(木) 08:42:49

    やはり虎杖に必要なのは爺ちゃん
    爺ちゃんしか勝たん

  • 47二次元好きの匿名さん24/05/02(木) 08:45:49

    呪霊の設定本当にありそうですごいと思った(小並感)

  • 48二次元好きの匿名さん24/05/02(木) 13:16:41

    やっぱ悠仁の健全な発育には爺ちゃんが必要不可欠だよ
    早く元気になってメロンパンから孫を取り返

    し…死んでる…

  • 49二次元好きの匿名さん24/05/02(木) 20:41:53

    「青森の神社だか寺だかで、ちょっとトラブってるらしいんだよね。サクッと祓って戻ってくるから、その間に呪霊の発生条件を探っといてよ。
     資料ざっと見た感じ、今のところは教職員の証言しかない。
     てことで、問題の教室にいた生徒にもレッツ聞き込み!恵とちょうど同い年だしさ、色々と話してくれるかもよ?それじゃ頑張れ少年探偵団!一人しかいないけど!」

    以上、回想終わり。
    苦虫を数十匹は噛み潰した顔で、伏黒は住宅街を走る車中にいた。運転席のミラー越しに、心底申し訳なさそうな入谷が見える。

    「ごめんなさいね、どうしても急ぎの案件で……大人相手の聞き取りは一通り終わっていますし、あとは私がやっても」
    「いえ、俺がやります。大丈夫です」

    補助監督に任せたとあっては、それこそ五条に笑いものにされるのがオチだ。
    呪術師としての義務感だとか、そんなものは二の次だった。今はとにかく、あの軽薄な男の鼻を明かしてやりたい。
    子供じみた反抗心を抱えながらも、伏黒はひとまず体調不良の生徒が出た家庭を中心に回るよう入谷に頼んだ。平日ならともかく、今日は週末。ほとんどの児童が在宅しているだろうと考えてのオーダーだった。

    「わかりました、でも無理は禁物ですよ。疲れたり、体調が悪くなったりしたらすぐ言うこと。いいですね?」

    聞き分けの悪い子供をあやすような物言いに、内心憤慨しながらもしぶしぶ伏黒は頷いた。

    それが、数時間前の話。

  • 50二次元好きの匿名さん24/05/02(木) 20:42:35

    「なにが起きたのか全然わかんなかった」
    「『机がひとりでに振り回されてた』んだ、こうやって、竜巻みたいにぶんぶんって!『誰もさわってない』のに!」
    「先生たち?『机をとりおさえようとしてた』よ。……ここだけの話ね。あわあわしてる先生たち、ちょっとウケた」
    「さいきん変わったこと?『別になかったと思う』けどなあ」

    徒労。
    後部座席へ腰を下ろした伏黒の頭に、その二文字が浮かんで消えた。
    子供特有の、事実と意見を混同した針小棒大な物言い。そこから必要な箇所だけをピックアップして聞き流せるスキルを、伏黒はまだ持ち合わせていなかった。
    それならそれで、何がしかの情報が得られていれば疲労感もいくらか報われたかもしれない。が、結果はご覧の通りである。
    疲れきった呪術師の見習い一人と、気遣わしげに眉を下げた補助監督一人。それが聞き込みの成果だった。

    「近くのコンビニかスーパーを見つけ次第、停めますね。欲しいお飲み物やお菓子があったら言ってくださいな。なんでも買ってきますから」
    「……ありがとうございます」

    ついさっきまで鬱陶しさすら感じていた入谷の心遣いが、今は身にしみた。
    背もたれに体を預け、五条から渡された資料を膝に置く。事件の経緯をもう一度読み直せば、何か見落としたことにも気づけるかもしれない。
    ぺらぺらとページをめくる中で、ふと目に留まった箇所があった。

    「『次の日にやってる』んですね、聞き取り」
    「え?……あ、え、ええ。当日は生徒も先生も、ひどく気が動転しているようだったので。『一夜を挟んで』落ち着いてから話を聞いた方がいいかな、と。私の勝手な自己判断ですけども……」

    そういうものか、と伏黒は思った。
    今まで五条に同行した現場では『事件が起きたその日のうちに聞き取りを終えている』のが普通だった。てっきりそのように決まっているものと思っていたが、伏黒の勘違いだったらしい。

    後日、五条に聞いてみようかと考えかけて、やめた。
    まともに教えてくれるビジョンがどうにも浮かばなかったので。

  • 51二次元好きの匿名さん24/05/02(木) 20:44:29

    完全に認識阻害されてますねこれは

  • 52二次元好きの匿名さん24/05/02(木) 20:56:24

    頑張ってくれ伏黒
    座学10でなんかこう違和感を、なんか、こう…!

  • 53二次元好きの匿名さん24/05/02(木) 21:15:24

    お菓子買ってあげるって言われる伏黒可愛い

  • 54二次元好きの匿名さん24/05/02(木) 21:17:15

    >>52

    伏黒はかしこいから聞いた生徒数と机の数の差にも気づ


    に…認識阻害されてる…

  • 55二次元好きの匿名さん24/05/02(木) 23:36:27

    五条が調べてたら認識阻害を弾いて助かってたのかな
    たまたま別の仕事が入らなかったら

  • 56二次元好きの匿名さん24/05/02(木) 23:42:04

    たまたま入った別の任務がたまたまじゃない可能性出てきたな

  • 57二次元好きの匿名さん24/05/03(金) 10:47:25

    前スレで入学式から一度も登校してないってあったけどせいぜい1年生かなと思ってたんだよ
    2012年で4年生ってことは少なくとも丸3年以上同世代と触れ合うことも無く(頭を抱える)

  • 58二次元好きの匿名さん24/05/03(金) 12:21:24

    おいなんとかしてくれグッドルッキングガイ

  • 59二次元好きの匿名さん24/05/03(金) 21:52:39

    あれは何年前の話だったか。
    虎杖倭助が健在だった頃、不審な人影が家の周りをうろついていたことがあった。パーカーのフードを深めにかぶっており、顔は見えなかったものの、年若い印象を抱かせた。
    昔気質の老人は、その手の輩は脅かせばいなくなるだろうと考えたらしい。不意討ちでこっぴどく怒鳴りつけたところ、人影は慌てて逃げ帰ったと夕食の席で聞いた。

    ああ、ちなみにこの頃は虎杖倭助が主な食事当番だったよ。なにしろ私が台所に立とうものなら、箸をつけずに悠仁を連れて駅前の居酒屋へ行ってしまうんだからね。
    さすがに酒を飲ませることはなかったようだが、子供の教育にはあまりにもよろしくないものだから、母親として泣く泣く譲歩したというわけさ。

    失礼、話を戻そうか。
    ところが、この人物は案外粘着質だった。
    次の日も、その次の日も、人影は家の周りに出没した。しかも、ご丁寧に虎杖倭助が不在のタイミングを見計らって。
    何をするでもなく、こちらの様子をうかがう気配が毎日見え隠れするんだ。さすがの私もいい加減に鬱陶しくなってね。
    どうしたものかと考えあぐねていたところで、先に動いたのは向こうの方だった。

    その日、悠仁は玄関先で石積み遊びをしていたと思う。私はあの子が見える場所で、洗濯物を畳んでいた。
    畳んだ服をタンスに収め、戻ってきたところで、件の不審者が悠仁のそばに座り込んでいるところに出くわした。

    「おにいちゃん、だれ?」
    「誰でもいいだろ。な、カード見せてやろうか」

    こちらに気づいていないのか、普通の会話よりやや大きな声量で悠仁に話しかけている。
    暗い興奮の滲み出た、うわずった声だった。

    「なんのカード?」
    「何でもあるぜ。レアなのいっぱい持ってんだ。おとなしく俺の言うこと聞けたら、何枚かあげるからさ。な、来いよ」
    「え、あ、でも、かあちゃんにいわなきゃ」
    「平気だよちょっとぐらい。来いって」
    「やだ、かあちゃん、かあちゃ……」

    乾いた音がした。
    私の目の前で、悠仁の頬が叩かれた。

  • 60二次元好きの匿名さん24/05/03(金) 21:53:11

    気づけば、呪霊を呼び出していた。人ほどの大きさの、モグラに似た形の呪霊は、赤子が地面を這う羽虫を叩き潰すような動きで掌を振り下ろした。
    我ながら短絡的な真似をしたなと考えていたが、今にして思えば、虎杖香織の残滓はあの時から作用していたのかもしれないね。

    背後から悠仁を抱き上げ、くるりと体の向きを変えさせる。
    何が起きたかもわからないうちに地面の染みになった『それ』なんて、直視した日には一生のトラウマものだろう。私にもそれくらいのデリカシーはあるんだよ。

    「怖かったね、悠仁」

    少し赤くなった頬を指の背で撫でてやると、きょとんとしていた顔が次第に歪んでいく。
    大声で泣きわめく悠仁をあやしながら、私は『これ』の掃除方法に思いを馳せていた。虎杖倭助が帰ってきたら、面倒どころではない事態になる。

    「あのっ」

    表の往来から呼びかけられたのは、まさにその時だった。
    見られた、と考える前に呪霊が動く。先程と同じように片手を振り上げ───その腕が『止まった』。
    モグラは首を傾げながら、あちらこちらへ視線を走らせている。まるで、『目の前にいるモノが見えていない』かのように。

    私は、改めてその人物に目をやった。
    老婆、と呼ぶにはいささか若い女だった。おそらくは60くらいだろう。年の割には姿勢が整っている。若い頃から意識して体を動かしてきた人間特有の、しなやかな体つきだった。
    場数を踏んだ呪術師によくある体躯だった。

    「私、わたし……ありがとうございます……」

    人目もはばからず、口元を抑えてぼろぼろと涙をこぼしながら、彼女は深々と頭を下げた。

    「その男を『殺してくださって』本当に、ありがとうございます……っ!」

    女は、入谷と名乗った。

  • 61二次元好きの匿名さん24/05/03(金) 21:54:24

    五条と伏黒に同行してる補助監督かな?

  • 62二次元好きの匿名さん24/05/03(金) 22:00:26

    ひぇ〜…

  • 63二次元好きの匿名さん24/05/03(金) 22:04:03

    やっぱり母子話で"入谷"は地雷だったんじゃねぇか!!

  • 64二次元好きの匿名さん24/05/03(金) 22:32:25

    やっぱり入谷といえば鬼子母神よね♡

    てかこれって内通者…ってコト!?

  • 65二次元好きの匿名さん24/05/04(土) 09:59:54

    保守

  • 66二次元好きの匿名さん24/05/04(土) 15:59:06

  • 67二次元好きの匿名さん24/05/04(土) 18:53:33

    入谷が運転する車は、スーパーマーケットの駐車場に滑り込んだ。東京では見たことのない店名だった。

    「すぐに戻りますから、こちらで待っていてくださいね」

    足早に駆けていく背中を見送り、伏黒は窓越しに空を振り仰ぐ。晴天には綿菓子のような雲がいくつも浮かんでいたが、見ている間に少しずつ形を変え、やがて一方向へと揃って流れていった。

    雲の流れが早い時は天気が変わりやすい、と教えてくれたのは津美紀だったか。
    「仙台は週末雨だって言ってたよ!傘持っていった方がいいって」としつこく口にしながら、彼女は大人向けの折り畳み傘を伏黒の任務用リュックにねじこんでいた。
    今頃、津美紀は何をしているのだろう。あの古びたアパートは、子供一人で過ごすには広すぎる。

    「……玉犬」

    胸に湧いたもやつきを振り払いたくて、式神を呼び出した。大型犬サイズには少々窮屈な車内だったが、白い犬はぶんぶんと尾を振って伏黒にすり寄ってくる。
    やわらかな毛並みをしばらく撫でていると、にわかに玉犬が頭を上げた。リアウィンドウを向いた顔が、何かを追いかけるように動いている。
    つられて、伏黒も同じ方角を見やった。

    数メートル離れた先の、スーパーに面した広い車道。ひっきりなしに行き来する車の合間を縫うように、何かが地面を転がっていた。
    少し遅れて、同じ方向へ走っていく子供がいる。明るく目立つ髪色の子供は、転がり続ける『それ』を追いかけて、勢いそのまま往来へ足を踏み出す。
    向かってくる車など、まるで見えていないようなそぶりで。

    伏黒は、とっさに車から飛び出していた。

    「おい!」

    叫びながら走る横を、白が猛烈な勢いで駆け抜ける。地面を蹴り、今にも車に轢かれそうな子供に飛びかかった。
    シャツの襟ぐりを優しく噛み、体ごと歩道へと引き倒す。そのまま伏黒のもとへ戻ってくるかと思いきや、何故か少年の匂いを熱心に嗅いでいた。

  • 68二次元好きの匿名さん24/05/04(土) 18:54:01

    「取ってこい」

    やむなく玉犬の片割れも呼び出す。黒い犬の式神は、車から車へと器用に飛び移って『それ』を回収し、伏黒の下へ持ち帰ってきた。
    砂埃にまみれた布。色味やデザインからして女物、それも大人用のパジャマに見えた。おそらくは、この子供の家族のものだろう。
    天気が変わる前触れで、今日はやたらと風が強い。おおかた飛ばされた洗濯物を追いかけてきたってところか、と伏黒は推察した。

    「……気をつけろよ。『たまたま風が吹いた』からよかったものの、ちょっと間違えたら轢かれてたぞ」

    どうせ『見えてない』のだから、雑な言い訳でも問題ない。人間は自分に都合がいいように認識を歪める生き物だ。
    決して口が上手いとは言えない伏黒にとって、五条から学んだ数少ない有用な処世術のひとつだった。

    地面に尻餅をつき、目を瞬かせて往来を眺めていた少年は、伏黒の言葉にようやく我に返ったらしい。ズボンについた砂利を払いながら立ち上がり、目の前に突き出されたパジャマを受け取る。

    「ありがと……かあちゃんのなんだ。ほんとは家から出ちゃだめって言われてんだけど、どうしても取りに行きたくて、ほっとけなくて……」

    その手が、伏黒の指先をほんの少しかすめた途端。
    全身が総毛立った。
    吐き気がするほどの呪物の気配。それも、何故今まで気づかなかったのかわからないくらいに混ざりあった、おぞましい塊。
    それを腹に抱えたナニカが、目の前でにこにこと笑っていた。

    「でっかい犬だな!おれのことも、かあちゃんのパジャマも、たすけてくれてありがと!……なあ、おれ、あんまり犬って見たことなくて……さわってもいい?」

    母親の寝間着を大事そうに抱きしめた子供は、伏黒の両隣をちらちらと見ている。
    目の焦点が、玉犬にしっかりと合っていた。

  • 69二次元好きの匿名さん24/05/04(土) 19:01:02

    会っちゃった どうなるんだこれ

  • 70二次元好きの匿名さん24/05/04(土) 19:15:08

    ワクワクしますねぇ

  • 71二次元好きの匿名さん24/05/04(土) 19:17:18

    どうなるんだこれ

  • 72二次元好きの匿名さん24/05/04(土) 19:24:12

    >犬をあまり見たことがない

    虎杖を解放しろ

  • 73二次元好きの匿名さん24/05/04(土) 19:25:26

    入谷戻ってこなくていいぞ

  • 74二次元好きの匿名さん24/05/04(土) 19:38:07

    さっさと帰ってこい六眼

  • 75二次元好きの匿名さん24/05/04(土) 21:36:04

    初めて描いた漫画がこれとかウケる

  • 76二次元好きの匿名さん24/05/05(日) 08:21:08

    >>75

    めっちゃ素敵…

  • 77二次元好きの匿名さん24/05/05(日) 11:28:25

    >>75

    こんな可愛い子が呪物の坩堝と化してるギャップ良い…

  • 78二次元好きの匿名さん24/05/05(日) 20:16:45

    >>75

    ありがとう、悠仁の屈託ない笑顔がよく描けているね


    ところで悠仁には家を出るなと言い含めておいたはずなんだけどな

    あとで話をしないといけないね

  • 79二次元好きの匿名さん24/05/05(日) 20:17:59

    「オマエ、名前は」
    「ん?いたどりゆうじ!」
    「この犬が見えてんのか」
    「見え……?え、だって」

    何かに気づいた様子で、子供は───虎杖は口をつぐんだ。ひどく怯えた表情を浮かべ、ぎこちなく伏黒から一歩下がる。
    反対に、伏黒は一歩距離を詰めた。主の警戒心が跳ね上がるのに合わせ、玉犬もまた牙を剥く。

    「『呪物』って言葉を聞いたことはあるか?」

    刹那。
    弾かれたように虎杖が逃げ出した。

    「待て!」

    一瞬遅れて地を蹴った伏黒は、内心舌を巻いた。
    コイツ、疾い。
    みるみるうちに引き離されていく。五条にからかわれるレベルの身体能力ではあるが、それでも学校の同級生に遅れを取ったことはないというのに。
    あっという間に小さくなった人影が、角を折れて消える。自分の足ではもう追いつけない。

    「行け!」

    端的な命令に、2つの影が走り出した。
    いくら足が速かろうと、玉犬の鼻を欺くことはできないはずだ。特に白は先程、彼の匂いをしつこく嗅いでいた。それに賭ける。
    右に折れ、左に曲がり、まっすぐ進んで再び左へ……式神との繋がりが、行くべき道を教えてくれる。
    住宅街のやや奥まったエリア、荒い息を整えながら曲がった角の先で、ようやく伏黒は自身の式神に追いついた。
    2匹は、道の真ん中で円を描くようにうろついている。主に気づくとたちまち駆け寄り、揃って甲高い鳴き声を上げた。

    「どうした?アイツの匂いは?」

  • 80二次元好きの匿名さん24/05/05(日) 20:18:18

    白は耳を伏せ、上目遣いで伏黒を見上げた。
    それが答えだった。
    辺りを見回す。虎杖、という表札の家は───『ない』。

    (さっきのは偽名?いや、たぶん違う。とっさの知恵が回るタイプじゃなさそうだった)

    どこを向いても、昭和の雰囲気が色濃く残る家屋が立ち並ぶ空間。この中のどこかに逃げ込んだのは確実だろうが、現時点では手がかりがあまりにも少なすぎる。
    何より、今回の件と関係があるわけでもない。

    「……ひとまず、戻るか」

    しおれている玉犬の頭を撫でて、伏黒は来た道を引き返した。
    駐車場に着くと、車のそばで誰かと電話している入谷が見えた。遠目にもわかる青ざめた顔色で、フェンダーに半ばもたれかかるようにして立っている。
    もしや具合が悪いのだろうか、と様子を見ながら近づいたところで、入谷と目が合った。

    「伏黒くん!」

    道行く人が振り返るような大声を上げて、入谷は伏黒に駆け寄った。迫力にたじろぐ少年の前へしゃがみ込み、携帯を片手に握りしめた状態で、小さな両肩を掴む。
    しわの目立つ手が震えていることに、その時初めて伏黒は気がついた。

    「……よかった、無事で、本当に良かった……」

    まなじりには涙すら浮かんでいた。
    無断で車から離れたのは確かに心配させたかもしれないが、それにしても大袈裟すぎやしないか。伏黒は内心で首を傾げたものの、口には出さなかった。
    恐怖と、そこから解き放たれた安堵が、入谷の全身から溢れ出ていた。まるで『幼い子供から目を離して、ひどい目に遭ったことがある』かのような。

    「すみません、何も言わずに出てしまって」
    「大丈夫ですよ、こうして無事に帰ってきてくれたんですもの……そうだ、お電話が繋がってるんです。五条特級術師から、伏黒くんに」

    差し出された携帯の画面には「通話中」の文字が踊っていた。

  • 81二次元好きの匿名さん24/05/05(日) 20:18:57

    「あ、恵?聞いたよ、なんか迷子になってたんだって?
     ……冗談だっての。任務終わったよ。2時間位でそっち戻れるから、例の学校に集合ね。
     そう、拠点のホテルじゃなくて学校。迎えはいらないって補助監督に言っといて。うん、よろしく。
     で、初めての聞き込みはどうだった?
     ……ふーん。いいよ、それ含めて報告して。僕の方でも、わかったことがあるからさ。
     あ、そうそう!お土産あるから楽しみにしててね。いやーマジでウケるよ、どうすんのこれって感じだから。じゃ」

  • 82二次元好きの匿名さん24/05/05(日) 20:19:21

    認識阻害手ごわいな~

  • 83二次元好きの匿名さん24/05/05(日) 20:54:01

    追いつけないとわかったらすぐに玉犬を使い、初対面で「とっさの知恵が回るタイプじゃなさそうだった」と見破る
    さすが座学10だ
    頼むぞ伏黒

  • 84二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 06:55:38

    玉犬グチャッとされないかヒヤヒヤした

  • 85二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 17:02:32

    ほしゅ

  • 86二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 19:21:37

    悠仁に、伝えていなかったことが2つある。

    1つは、家に結界を張っていること。塀ごと家を囲んだそれは、外部から内部を視認できない「帳」の応用で、対象者以外には別の家屋に見える効果を付与している。
    たいていの術師では『虎杖という表札の家を探そうとしても見失う』ばかりだろう。

    そしてもう1つは、私が『結界に誰が出入りしたのか』把握できるということだ。

    「おかえりなさい、かあちゃん」

    私は、黙って玄関の戸を閉めた。靴を脱ぎ、上着をハンガーにかけたのち、居間に腰を下ろしてテレビをつける。

    「かあちゃん?」

    夕方の情報番組には、最近売り出し中のお笑い芸人が出ていた。事務所のゴリ押しだとはっきりわかる実力だった。
    キャスターやタレントの薄っぺらい笑い声が、家の中に寒々しく響く。

    「……か、かあちゃん!お水いる?それともコーヒー?」

    私は頬杖をついてチャンネルを回し始めた。
    つくづく思うが、この時間帯はどこも大して面白いものをやっていない。もっと他局との差別化を意識して番組作りに励むべきだと思うね。

    「かあちゃ……ねえ、かあちゃん……」

    ああ、たまには教育番組でも見ようかな。あの局は、なかなかどうして侮れない題材を取り上げていることが多い。
    それに、飽きやすい子供にも興味を持たせようとする工夫には目を見張る物がある。ああした試行錯誤の跡が随所にうかがえる番組は、私も好ましく思うよ。

    「……ごめんなさい!」

    悠仁が私にすがりついてきたのは、ちょうどその時だった。

  • 87二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 19:22:23

    膝に乗り上げるようにして、私の腹部へ抱きついてくる。

    「ごめんなさい、ごめんなさい、かあちゃん!おれ悪いことしました!ごめんなさい!ゆるしてください!ごめんなさい!ごめんなさい……」
    「悠仁」

    両頬に手を添え、私は帰宅してから初めて悠仁と視線を合わせた。一目でわかる顔色の悪さに、ぐらぐらと揺れる瞳、それから運動後のように上がった息。典型的なパニックの発作が出ていた。

    「悪いこと、って?」
    「い、家から、でちゃった……かあちゃんに、でちゃだめって言われてた、のに……」
    「どうしてそれを、もっと早く言わなかったのかな。隠し通せると思った?」
    「……ぇ、あ……ちが、……」
    「何?」
    「ちが、わ、ない……でも、」
    「お水かコーヒー、だっけ。私の機嫌を取ろうとしたのも、そのせいかな」

    悠仁は強くかぶりを振った。首がもげそうな、という例えを彷彿とさせる動きだった。

    「そう」

    私は、風呂場の方へ顔を向けた。視界の端で、悠仁が不安げにこちらを見上げるのがうかがえる。

    「悠仁。シャワーを浴びてきたらどうかな」
    「へ?」
    「走ったか何かしたんだろう。少し汗をかいているような気がするけど」
    「あ、うん……」
    「話の続きは、出てきてからにしようね」

    いささか拍子抜けした顔で、しかし悠仁の足は言いつけどおりに部屋を出ていく。
    遠くでドアが閉まる音を聞き届け、私は立ち上がった。

  • 88二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 19:22:38

    向かう先は風呂場、正確にはその出入り口だ。
    脱衣所から見て外開きになるあの扉は、いささか建付けが悪く、開閉に少し手間がかかる。
    そこへ、大人が体重をかけたらどうなるか。

    ドアに背中をもたせかけ、少し経った頃。
    板を一枚隔てた向こうで、声変わり前の甲高い悲鳴が聞こえた。

    約束を破ったなら相応の報いがある、と教えるにはどうすればいいか。
    母親なりにひとつ思いついたものがあってね、どうしても試してみたかったんだ。

  • 89二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 19:24:41

    クズ!!!!外道!!!!恵ー!悟ー!早くー!

  • 90二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 19:27:12

    こいつほんまコントロールうめぇな(褒めてない)

  • 91二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 19:37:38

    高専早くー!!!早く保護して執行猶予付けて早くー!!!

  • 92二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 19:40:59

    何をされてるんや…

  • 93二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 19:49:30

    >>92

    少なくとも体罰を伴う虐待として脱衣所に閉じ込められてますね…

    それも事前の告知がないので「何故かドアが開かない!」という恐怖だけがあり、しかも「嘘をついたこと」と「脱衣所に閉じ込められること」に因果関係が皆無なため教育的効果も当然ながら皆無

    ただただ「お母さんの言うことを聞かないと無視されたり閉じ込められたりというような怖いことが起こる」という恐怖によるコントロールをしてるだけ

  • 94二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 20:05:51

    外道

  • 95二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 21:16:42

    ここで人を◯すとか呪術でグロいものを見せるとかじゃなく生々しい虐◯するの怖すぎる

  • 96二次元好きの匿名さん24/05/07(火) 00:22:09

    先生頼む早くか弱き存在を保護して

  • 97二次元好きの匿名さん24/05/07(火) 08:52:37

    スレ主の文章と引きが上手い…更新されるたびにヒヤヒヤとドキドキとワクワクが止まらん…

  • 98二次元好きの匿名さん24/05/07(火) 19:50:32

    かあちゃん!かあちゃん!
    やだ、やだ、やだごめんなさいかあちゃんごめんなさいごめんなさい、わるいこでごめんなさい、やだ、ごめんなさい、たすけて、たすけて、かあちゃん!

    半狂乱の叫びと、必死に扉を叩く音。
    あまりの勢いに蝶番が軋み始めた。生まれを考えればさほど不思議ではないが、つくづく剛力な子に育ったものだ。

    「ドアは壊さないでね」

    呼びかけると、乱打はぴたりと止んだ。「かあ、ちゃん」とすすり泣くような声が戸の隙間から漏れ聞こえる。

    「うん、何かな」
    「じゅれ、じゅれいが、おふろにいる……おれのこと、じっと見てる……やだ、やだ……」
    「それは困ったね。どうしたんだろう、家の中に出たことなんて一度もないのに」
    「おれが、わ、わるいこと、したから」

    私は思わずため息をついた。
    こうもたやすく誘導できてしまうと、いっそ面白みがなくて困る。まあ、素直な方が躾は楽で助かるけどね。

    「悠仁はそう思うの?」
    「た、たぶん……約束まもれなくて、それで……かあちゃんのこと、ちょっと、こわいって思って、だから、じゅれいが出たのかなって……」
    「……ああ、なるほどね。あの話を覚えていたのか」

    そんなことを考えていた直後に、予想外の答えが降ってきた。思わず笑いが滲み出る。
    幼稚で自己中心的なものの見方を利用し、悠仁に自責の念を持たせるところまでは想定通り。ただ、子供は子供なりに案外、筋の通った論理を持たせようとするようだ。
    『人が人を恐れることで、呪霊が生まれる』。かつて悠仁に話してやったことだが、きちんと記憶されていたらしい。

    「えらいね悠仁、よくその話を───」

    扉の向こうで、再び悲鳴が上がった。

  • 99二次元好きの匿名さん24/05/07(火) 19:50:59

    『私の指示があるまで動かないようにと命じた』はずなんだけどね。これだから知恵のない低級は扱いにくいんだ。よほど悠仁が美味しそうに見えたのかもしれないが。

    ドアをノックしても、名を呼んでも、引きつった声しか聞こえてこない。
    仕方なく、先程まで寄りかかっていた扉を開けた。同時、支えを失った何かが転がり出てくる。
    悠仁だった。

    「かあ、ちゃ」

    廊下へ這いつくばるようにして、こちらを見上げる悠仁の顔は、ぐずぐずに泣き濡れている。
    先程まで着ていたシャツやズボンどころか、下着すら見当たらない素っ裸だった。おそらくは、風呂場へ入ってすぐ呪霊の存在に気づいて飛び出したのだろう。

    私は、脱衣所の中に顔を向けた。
    巨大なクモを思わせる見た目の『それ』は、子供の腕ほどもある太さの脚を伸ばし、脱衣所に踏み込んで悠仁を威嚇していたらしい。
    が、私に気づくと狼狽えたようなそぶりを見せた。さすがに契約者のことは認識できているみたいで何よりだよ。

    「悠仁、まっすぐに立って呪霊を見返してやりなさい。大丈夫、いい子にしていれば何もしてこないよ」

    私の後ろに隠れようとした悠仁を捕まえ、羽交い締めじみた形で立ち上がらせる。両脇から腕を抜き、悠仁のそばにしゃがみこんで、すぐさま両肩を押え込んだ。
    生まれたままの姿で立つ子供を、私が斜め後ろから支えるような格好になっている。

    「思うんだけどね。悠仁が悪い子だから呪霊が来たというなら、いい子になればアレも立ち去るのではないかな」

    鋭い牙に似た外顎が、呪霊の口元でカチカチと鳴る。子供のはらわたなど容易に噛みちぎれそうなそれを、悠仁は真っ青になって見つめていた。

    「さて、じゃあ悠仁はどうすればいいと思う?」

    震える唇が、開いた。

  • 100二次元好きの匿名さん24/05/07(火) 19:54:13

    恐怖による服従が洗脳の基本すぎてこえーよ
    手慣れすぎだよ

  • 101二次元好きの匿名さん24/05/07(火) 19:54:51

    ただ閉じ込める以上に最低なことやってた

  • 102二次元好きの匿名さん24/05/07(火) 19:55:44

    五条!!マジで早く来てくれ頼む!!

  • 103二次元好きの匿名さん24/05/07(火) 19:56:04

    マジで最低だよ羂索…

  • 104二次元好きの匿名さん24/05/07(火) 19:59:25

    読み終わって「ほんまコイツ…」って声出たわ

  • 105二次元好きの匿名さん24/05/07(火) 20:27:13

    この年頃のガキなら恐怖とかの負の感情で呪力纏ったりしそうな気もするけど…その辺も羂索がなんかしてるか

  • 106二次元好きの匿名さん24/05/07(火) 22:28:50

    九相図ファイヤーでなんとかしてくれよ頼むよお兄ちゃんだろ

  • 107二次元好きの匿名さん24/05/07(火) 22:52:01

    実際お兄ちゃんがこの惨状見たら領域展開できるくらい覚醒しそう

  • 108二次元好きの匿名さん24/05/08(水) 09:48:37

    保守

  • 109二次元好きの匿名さん24/05/08(水) 16:35:39

    保守

  • 110二次元好きの匿名さん24/05/08(水) 21:03:10

    「……あ、あさに、せんたくものを干してね。でも、かあちゃんのパジャマが、お昼ぐらいにとんでっちゃって……それで、まよったけど取りにいきたくて、そとに出たんだ……こないだ、かあちゃんがいっしょに寝てくれたときのパジャマだったから……」

    今日あった出来事を、私に包み隠さず話す。
    「いい子」でいるために必要なことを、悠仁はそれだと考えたらしい。
    いまだにパニックが残っているのか、行きつ戻りつする話題に適宜口を挟んで軌道修正する。そうして、おおむね事態が明らかになったところで、私は舌打ちをした。

    悠仁を追いかけたという「何もないところから犬を出した子供」は、禪院の十種影法術───五条悟が連れ回しているという少年で間違いないだろう。よりにもよってピンポイントでかち合うとは、さすがに参るね。
    こうなると、悠仁の存在に気づかれるのも時間の問題だった。彼らの『同行者』による工作は、特級レベルに太刀打ちできるものではない。『彼女』が口を割る可能性は低いが、術師としての腕や場数はあちらの方が上だ。確実に露見する。

    そして忌々しいことに、この期に及んでも私は『悠仁から離れるという選択肢を取れなかった』。
    『肉体の乗り換えを考えることすら不可能』。『俎上に載せようとしても、端から思考がほどけていき、何を考えていたのか思い出せなくなる』。五条悟が首を突っ込む前ならともかく、いまや厄介な足枷以外の何物でもなかった。
    偶然から生まれた在野の呪い、虎杖香織の愛が果てるまでを見届けたい気持ちはある。が、それはあくまでも一時的な暇潰しとしての話で、私の悲願を諦めてまで優先されるべき事象かといえば否だ。
    しかし、この肉体がそれを許さない。

  • 111二次元好きの匿名さん24/05/08(水) 21:03:25

    いっそ、五条悟が首から下だけ消し飛ばしてくれれば好都合なものを───と戯れに考えたところで、不意に気づく。

    ああ、『その手』があったな。

    浮かんだ『案』は思考の中枢に息づき、いつまでも消える様子はない。虎杖香織の呪縛を掻い潜れるかが懸念点だったが、彼女の基準ではセーフ、ということだろう。
    それとも、もしかしたら母親にとっては幸せなことだったりするのかな。考えるだにおぞましい話だけどね。

    五条悟より先に動く。
    それがこの場での最善手。
    であれば、私が今やるべきことは何か。

    ちょうど罪の告白を終えた悠仁の眼前で、私は呪霊を退かせた。恐怖の源泉が消えたことで、ようやく人心地ついたらしい。小さな体が震え、くしゃみがひとつこぼれる。
    「よく話してくれたね」と頭を撫でると、悠仁はうっとりと目を細めた。安全地帯にいると信じきっている、あまりにも無防備な表情だった。

    「でもね、次に約束を破ったら、私にもどうなるかわからない。私は悠仁との約束を違えたことはないはずだ。だから悠仁も、私との約束を守れるね?どんな時でも、私の言うことを聞けるね?」

    何度も頷く子供の肩から手を下ろし、立ち上がる。

    「じゃあ、この家を出ようか。呪術師が来る前に」

    ままごとの終わりは近い。
    母親らしく、最後まで悠仁を導いていくつもりだよ。

  • 112二次元好きの匿名さん24/05/08(水) 21:13:24

    わざと五条達とカチあって五条の手で自分を殺させるとか
    脳みそ無事なら大丈夫だろうし悠仁は一生のトラウマで五条の生徒になるとかもなくなるだろうし

  • 113二次元好きの匿名さん24/05/08(水) 21:20:03

    >かあちゃんがいっしょに寝てくれたときのパジャマだったから

    脳は途中で出ていったのにそれでも…

    健気すぎて泣きそうになりましたよ 

  • 114二次元好きの匿名さん24/05/09(木) 07:06:18

    >>112

    うっわぁ…………wドン引きだよ羂索…

  • 115二次元好きの匿名さん24/05/09(木) 09:15:02

    香織さんもっと頑張って羂索の加虐性も抑え込んでくれないかな

  • 116二次元好きの匿名さん24/05/09(木) 17:54:57

    この羂索の所業が加虐性から来てるかは微妙なところ
    倫理観をドブに捨てた上で効率的・効果的に子供をコントロールできる手段を試しているだけっぽいというかなんというか

  • 117二次元好きの匿名さん24/05/09(木) 22:05:01

    件の教室に五条が現れたのは、伏黒の到着から十数分後のことだった。

    「お疲れー恵、はいお土産。さあ伏黒選手、人生初聞き込みの感想をどうぞッ」

    遅刻への文句をつけようとした口元に、マイク代わりの何かが突き出される。
    札をぐるぐるに巻かれた、円筒状の物体だった。大きさといい形状といい、ラップの芯を思い起こさせる代物だったが、見るからに禍々しい雰囲気が漂っている。
    伏黒は、胡乱な目つきで五条を眺めやった。

    「……どうしろと?」
    「ノリ悪っ。これね、今回のトラブルの種。なんてことない、ただの呪物だよ」
    「はあ」
    「封印自体はそこそこしっかりしてるんだけど、肝心の札がもう古くってさ。高専に帰るまで保つか微妙なところなんだよね。万一剥がれちゃった場合を考えて、対処できる僕が持って行く羽目になったわけ」
    「そんな物をいきなり目の前に出すなよ」

    無愛想にツッコミを入れる伏黒を、何がおかしいやら入谷は微笑ましげに見守っている。津美紀がときどき見せるものとよく似たまなざしだった。
    意識した途端に気恥ずかしくなり、視線を振り切るように「とにかく、」と伏黒が声を張り上げた、その矢先。

    部屋の三人全員が、同じ方角を一斉に向いた。
    空気が揺れる。気配が溢れる。

    「もしかして、例の推定1級かな?」

    呑気な五条の台詞を裏付けるように、呪霊が姿を現した。
    虚空に浮かぶ巨大な金魚。鱗の代わりに、おびただしい数の目や口が全身に生えている。うちいくつかの眼球は、五条の姿を映していた。
    否───正確には、その手に収まっている呪物を。

    「ィい、なあァ……ぁのコの、ズるィ……」
    「なるほど、『エサ』目当てに出てきたわけだ」

    手の中で呪物を転がしながら、五条はにんまりと笑った。

  • 118二次元好きの匿名さん24/05/09(木) 22:05:30

    「二人とも、教室の外まで出てくれる?新技の構想中でさ、ちょっと試してみたいことがあるんだよね」

    サングラスの奥で、青い両目が物騒に輝いている。
    困惑した顔の入谷を促し、伏黒は黙って廊下に出た。ああなると、こっちの言うことなんて聞きやしないのだ。

    待つこと20秒ほどで、風船が弾けたような音が響く。「終わったよー」と教室の引き戸が開いたのは、その直後だった。1級案件とは思えない、実にあっけない祓除だった。
    五条はどこかつまらなそうに首を傾げ、片手を握っては開く動作を繰り返している。

    「もうちょっと耐えられると思ったんだけどな」
    「アンタの基準で測るのやめろよ。……それより、今のが」
    「任務対象で間違いないでしょ。呪力の質がここの残穢と同じだったからね」

    ところで恵、気づいた?
    漠然とした問いかけに、しかし伏黒は頷く。

    『この呪霊は、呪物に反応して現れた可能性が高い』。

    『五条、伏黒、入谷の三人が教室に揃っていた』という条件は、初めて小学校に来た時と変わらない。にもかかわらず、呪霊は今回だけ出現した。
    相違点は『訪問した時間帯』と『呪物の有無』の2つ。だが、このうち『時間帯』が呪霊の発生要因である可能性は低い。
    なぜなら、何も起こらなかった初回訪問の時刻は10時前後。事の発端であるポルターガイスト的現象が発生したとされる時間と、まるきり同じタイミングだったのだから。

    「呪物に釣られて出てくるのは珍しくもないけど、さっきのヤツはよっぽど鼻が利いたんだろうね。これ、僕の目で見ても、ほんのちょーっと封印が解けかけてる『かも』ってレベルなのに。並のやつじゃ気づけないよ」
    「でもそうなると、呪霊発生当日にこのクラスへ呪物を持ち込んだ奴がいるってことになる。聞いて回った限りじゃ、そんな情報なんて」

    伏黒の脳裏に、ある人物が像を結んだ。
    聞き込みを終えた時に遭遇した子供。呪物を腹に抱えていながら、実際に接触するまで何の気配も感じさせなかった少年。
    あの子供、たしか『見た目は同い年くらいではなかったか』?

  • 119二次元好きの匿名さん24/05/09(木) 22:19:38

    何度も書かれてたけど本当にもうほとんど呪物なんだなぁ

  • 120二次元好きの匿名さん24/05/10(金) 07:35:42

    ほし

  • 121二次元好きの匿名さん24/05/10(金) 07:51:44

    虎杖と伏黒の話し方が全然違うんだよな
    伏黒の方が大人びてるんだろうけど虎杖が年齢以上に幼く見える気がする

  • 122二次元好きの匿名さん24/05/10(金) 09:03:00

    伏黒の機転に悠仁の人生がかかっている…!

  • 123二次元好きの匿名さん24/05/10(金) 19:10:35

    伏黒頑張ってくれ…!

  • 124二次元好きの匿名さん24/05/10(金) 19:13:36

    >>121

    伏黒は小学校にも行ってるし五条や津美紀との関わりもあるけどこの悠仁はまじで世界に母ちゃんしかおらんし外界と隔絶されてるからなあ……唯一の外界との接点だった爺ちゃんは死んじゃったし……

  • 125二次元好きの匿名さん24/05/10(金) 19:33:11

    なんだこれ...超面白いじゃねえか...!

  • 126二次元好きの匿名さん24/05/10(金) 22:51:34

    ほしゅ

  • 127二次元好きの匿名さん24/05/11(土) 00:15:18

    いや、と首を振る。
    いくらなんでも飛躍しすぎだ。今の状況に引っ張られて、連想ゲーム形式で印象的な記憶を掘り出しただけ。根拠なんてひとつもない、思いつきにもほどがある。
    たまたま年の頃が近い子供が、たまたま呪物の気配を纏い、たまたま同じ街にいて───

    ───そんな偶然があり得るのか?

    (……もしそうだとしても、『クラスの出席簿に「いたどりゆうじ」の名前はなかった』はずだ。転校生の話も、生徒からは聞いていない。第一、それなら最初に教室に入ったあの日の時点で……何か……クソ!なんで『思い出せない』んだ)

    『何かを見た』はずなのだ。前提が覆るような『何か』を。
    眉間に深い皺を寄せ、唇を噛みしめる。記憶の欠落に煩悶する伏黒の横で、五条は「あ、忘れるところだった」と、おもむろに手を叩き。

    「あのさ、今ここで術式解いてくんない?」

    入谷を見ながら、だしぬけに不可解なことを言い出した。
    伏黒は思わず顔を上げた。こわばった表情の女性が、五条の鋭い視線に捕らえられている。

  • 128二次元好きの匿名さん24/05/11(土) 00:15:34

    「……なんて、おっしゃいました?」
    「だから術式解けって。もうバレてんの、そっちが元術師だってことはさ」

    この場で唯一の特級術師は、薄く笑みを浮かべていた。

    「術師あがりの補助監督はゴロゴロいるよ。でも『最前線から退いてるのに四六時中呪力練ってるやつ』なんて、まずいない。呪術師やってた時のクセがいつまでも抜けないとか、理由はまあまあ思いつくけど、どうも気になったから調べさせたんだ」

    伏黒は、五条がしょっちゅう絡んでいる『後輩』のことを思い出していた。駆け出しの補助監督で、事あるごとに彼に呼びつけられては顔色を悪くしている青年を。

    「そしたらビックリ!疑ってくださいと言わんばかりの術式が出てきたってわけ。大変だったらしいよ、珍しく恨み言なんて吐かれちゃったもん。閲覧に上層部の許可が必要なプロフィールって、なかなかの大物だよね」

    なあ、言えよ。

    「そこまでして、何を『隠したい』わけ?」

    次の瞬間。
    入谷の姿が、伏黒の視界から消えた。

  • 129二次元好きの匿名さん24/05/11(土) 00:22:58

    六眼流石ですねぇ!

  • 130二次元好きの匿名さん24/05/11(土) 00:23:41

    サンキュー五条フォーエバー五条
    その調子で呪物ヒタヒタ小僧を助け…られますかね…

  • 131二次元好きの匿名さん24/05/11(土) 07:06:43

    しごでき五条先生!!

  • 132二次元好きの匿名さん24/05/11(土) 14:30:09

    五条!!五条!!!五条!!!!信じてたぞ!!!!!

  • 133二次元好きの匿名さん24/05/11(土) 22:35:11

    ほしゅ

  • 134二次元好きの匿名さん24/05/11(土) 23:06:27

    彼女は、とある術師の家系に生を享けた。
    攻撃力皆無の術式、くわえて女という非力な性別。
    その二重苦のために、物心ついた頃にはもう「失敗作」とレッテルを貼られていた。そして彼女もまた、自らをそのように認識していた。

    高専在学中、彼女に転機が訪れる。たまたま視察に来ていた上役の一人から「君にしか頼めない仕事がある」と持ちかけられたのだ。
    手垢のついた人心掌握の囁きは、世間知らずの少女の耳に甘く響いた。家族を見返したいという年頃の反発心も手伝って、一も二もなく頷いていた。

    おりしも高度経済成長期の真っ只中。爆発的に高騰する地価を利用した、土地成金と呼ばれる新興の金満家が巷に溢れていた頃である。
    潤沢な資金や人脈、そして地位を有する彼らとのパイプを、呪術界は少なからず欲していた。

    縁を結ぶのに、必ずしも友好的である必要はない。
    術師の中では見劣りする存在も、非術師にとっては立派な脅威たりえる。
    初仕事を終える頃、彼女はその2つを嫌と言うほど思い知らされていた。

    相手方に子供がいれば、そちらを優先。いなければ細君でも可。
    呪術界に有利な条件を飲ませるための『材料集め』が、彼女の仕事だった。
    『術式』を活用した拉致や監禁はお手の物、指示があれば拷問じみた真似もさせられた。できませんと泣いて拒むと、等級の高い任務への出向をほのめかされた。
    やがて、唯々諾々と従うことを覚えた。

    「君のような人間でも、我々の役に立てるんだ。今後ともよろしく頼むよ。……ああそれと、我々は呪詛師ではないんだ。間違っても彼らの命を奪うことがないよう、気をつけてくれたまえ」

    上役の言いつけ通り、最後の一線だけは超えないように努めた。代わりに、子供の血や泣き声を山ほど浴びた。
    トラウマで一歩も外に出られなくなってしまった御曹司や、どこぞの精神病院に連れて行かれた令嬢の話を風のたよりに聞いたが、何の感慨も抱くことはなかった。
    何もかもが、どうでもよくなっていた。

  • 135二次元好きの匿名さん24/05/11(土) 23:06:47

    「ここまでの君の労に報いようと思ってね。私の息子と籍を入れる気はないか?我が家の血を混ぜることができれば、君のご家族も喜ぶと思うが」

    そうして『人脈作り』が一通り終わったタイミングで、彼女はお役御免と言わんばかりに放り出された。素行不良の庶子を体よく押し付けられながら。
    愛のない婚姻と同時に呪術師をやめさせられ、補助監督として働くうちに妊娠が発覚した。数多くの子供たちの心身に傷を負わせた自分に、子を産む資格がないことは承知していたが、逆らうのも面倒だった。
    可哀想に、腹の中にいる子供もきっと碌な人生は歩めない。いっそのこと、お産で二人とも死んでしまえばいいのだ。この子にとっても、もしかしたらそれが一番の幸せかもしれないじゃないか。
    そう思っていた───のに。

    「おめでとうございます、元気な女の子ですよ!」

    生まれてきた我が子を見て、女は十数年ぶりに涙を流した。
    ちょっと力を入れればすぐに死んでしまいそうな、あまりにもか弱い存在。この子を守れるのは自分だけだと、突きつけられたような気がした。

    身勝手なのはわかっている。犯した罪が消えるわけじゃない。きっと娘を愛するほどに、自らの過ちを悔いる葛藤と戦うことになる。
    だがきっと、その苦しみこそが自分への罰なのだ。そう信じて、女は取り戻した心のままに動いた。

    実家と絶縁し、夫と別れ、母一人子一人で暮らし始めた。呪術界で働く以上、完全に繋がりを断ち切るのは難しかったが、娘に術式の発現がないと知るやいなや、向こうから先に手を引いてくれた。

    呪術のじの字も知らぬままに成長した子供は、やがて愛する相手と結婚し、男児をもうけた。共働きの夫婦に代わり、彼女が孫の面倒を見ることもあった。
    穏やかな生活を、昔の自分に見せてやりたかった。

    そんなことを考えたのがいけなかったのだろうか。
    幼い孫が、年上の少年から『口に出すのも憚られる行為』を受けたのは、彼女がふと目を離した隙のことだった。

  • 136二次元好きの匿名さん24/05/11(土) 23:15:57

    モブの設定も練られている…だと…!?

  • 137二次元好きの匿名さん24/05/11(土) 23:26:46

    鬼子母神なら最終的には改心するから味方に…と思ったけど入谷にとっての釈迦ポジ羂索だな アカンわ

  • 138二次元好きの匿名さん24/05/11(土) 23:52:25

    今日お買い物に行ったらさ、花屋さんとか和菓子屋さんとかに「母の日」って書いてあんの。あーそんな時期かってほっこりしたけど、うっかりこのスレ読んで地面にめり込んでる…母……

  • 139二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 07:08:09

    入谷さん羂索に協力する酷い女と思ってたけど過去が壮絶すぎて泣く

  • 140二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 07:32:00

    “何度も子供を標的にしてきたであろう男”を“殺してくれてありがとうという女”ってなぁ…
    やっぱり羂索に与する理由はそういうのだよなぁ

  • 141二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 17:35:20

    入谷さん……( ; ; )

  • 142二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 18:09:46

    このレスは削除されています

  • 143二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 18:10:19

    だが思い出して欲しい
    入谷がやってることは結局子ども(悠仁)のためにはなってないことを

  • 144二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 22:05:47

    子供は、人目につきにくい雑木林で発見された。着衣のほとんどを剥ぎ取られ、体のあちこちに痣を作り、震えながら泣いていたという。
    何が起きたかは、誰の目にも明らかだった。

    体液を含め、自分の痕跡を徹底的に秘匿している。かくも慎重な振る舞いには、強い計画性が見て取れる。
    お孫さんは「知らないお兄さん」に誘われたと言っている。この手の犯行は何日も前から目をつけるのが定石だが、心当たりはないか。

    事情聴取の最中、彼女はずっと耳を塞ぎたかった。どうして気づけなかったのだろう、と自責の念ばかりがとめどなく溢れ出た。
    かつて誰かに味わわせた痛みを、今になって自らが受けている。
    『因果応報』の言葉が、何度も浮かんでは消えた。過去の自分を殺したい気分になったのは、久しぶりのことだった。

    そこからは、何もかもがあっという間だった。
    孫は、幸いにも体の怪我については治る目処がついた。しかし心の怪我はどうにもならなかった。親に体を触られることすら怖がり、特に父親を避けるようになった。
    その父親は、最初のうちこそ家族を支えていた。しかしいつまでも明るい兆しが見えてこないのに嫌気が差したのか、しょっちゅう妻と口論するようになった。
    そして妻……彼女の娘は、自分自身を強く責めた。夫が疲弊しているのも、息子が被害に遭ったのも、自分のせいだと考えるようになった。
    それは絶対に違う、何もかも私が悪いのだ───女は幾度となく必死に言い募ったが、とうとう耳に届くことはなかったらしい。

    「お母さんごめんなさい 今までありがとう 元気でね」

    ある日送られてきた短いメールが、最期の言葉になった。その夜、警察から「親子揃って発見された」と連絡があった。
    ささやかな幸福は、かくして見るも無惨に瓦解した。

    彼女に残された道は、もはやひとつだけだった。

  • 145二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 22:06:34

    補助監督として積み重ねてきたスキルを駆使し、片っ端から情報を集めた。時には、あの忌まわしい『仕事』での経験も活用した。なりふり構ってなどいられなかった。

    最終的に浮かび上がったのは、隣町に住む男子高校生だった。県下屈指の進学校に通っており、友人や知人からの評判も上々。
    ただし、家庭環境には疑問符がついた。「父親の怒鳴り声や物を投げる音が聞こえる」と警察に相談した近隣住民もいるらしい。

    これだ、と直感的に思った。
    数日尾行して、確信はさらに深まった。休みの日、何をするでもなくぶらぶらと散策する子供は、よく見ると就学年齢前後の子供にばかり視線を走らせていた。

    件の高校生は、やがてとある民家の周りに出没し始めた。
    その家には、小さな男の子がいた。ちょうど孫と近い年頃だった。

    今の彼は、あくまでも容疑者でしかない。
    だから、『行為』に及びかけたところで介入する。自白を引き出した後は、せめて生まれてきたことを後悔させるくらいに痛めつけてから殺す。
    それが遺された自分にできる唯一のことと、彼女は固く信じていた。

    そして遂に、少年は男児に話しかけた。敷地から連れ出そうと試み、思い通りにならないと見るや頬を張った。
    彼女は、すぐさま物陰から飛び出した。
    同じ悲しみが繰り返される前に止める。そして、最後には自分も───

    『元気でね』

    ───娘からのメールをふと思い出した、刹那。
    突如現れた呪霊が、眼前の憎い仇を圧し潰した。目を白黒させる彼女の視界に、新たな人影が入り込む。

    「怖かったね、悠仁」

    そう言って子供を抱き上げた女性は、呪霊をはっきりとその目に捉えていた。

  • 146二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 22:06:54

    この人だ。
    この人が、やったのだ。

    高専では見覚えがない術師だとか、どういう術式を使ったのかだとか、そんな瑣末事は気にならなかった。
    微笑みながら我が子をあやす、額に痛々しい縫い目を走らせた母親。
    その姿は彼女の……入谷の目に、救いの羂索(なわ)を垂らした菩薩のごとくに映った。

  • 147二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 22:12:12

    うっっっっっわ…………………

  • 148二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 22:21:12

    アカン

  • 149二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 22:27:28

    “なわ”じゃなくて“わな”なんだよな〜〜〜!

  • 150二次元好きの匿名さん24/05/13(月) 07:40:05

  • 151二次元好きの匿名さん24/05/13(月) 14:22:20

    これで悠仁の保護じゃなくて羂索の崇拝に傾いちゃったから鬼子母神になれなかったんだなぁ

  • 152二次元好きの匿名さん24/05/13(月) 21:35:03

    おらわくわくすっぞ!

  • 153二次元好きの匿名さん24/05/13(月) 23:48:06

    入谷の術式「死角視面(ブラインドバインド)」。
    概念としての“盲点”を人為的に作り出し、任意の存在を認識から除外する。ありていに言えば、人目につかず何かをしたり、何かを隠したりするのにうってつけの術式だった。

    ただし、デメリットも多い。
    まず、盲点は一度にひとつしか作れない。つまり、一度に認識から外せるのは、一人もしくは一つだけ。
    そのうえ、効果範囲も狭い。例えば、室内にいる複数人から認識されないようにはできるが、屋外の人混みで誰からも認識されずに過ごす、といったことはできない。
    そしてとどめに『彼女の術式を知っている者には通じない』という最大の欠点があった。

    「僕の目の前でよくやるね」

    伊地知が五条へ送ったデータには、プロフィールの補足資料として「死角視面」の詳細が添付されていた。彼女をスカウトするにあたり、当時の上層部が行った事前調査の報告書らしかった。
    そのすべてに、五条は目を通している。
    したがって、伏黒が気づいた時、そこには教室の出入り口付近で入谷の腕をねじあげる五条の姿があった。

    「何を、」
    「捕まえちゃった。どこに行こうとしたんだか」

    静かな教室に、関節の外れる音が響いた。声にならない悲鳴を上げてしゃがみこんだ入谷は、荒い息の下から五条を睨みつけて笑う。

    「……ふ、ふふ。やはり知っていたんですね。もう少し痛めつけてはいかがでしょう?もしかしたら、一言二言は吐くかもしれませんよ」
    「やだな、僕に人殺しさせたいわけ?どうせ元から話す気もないくせに」

    何かがひしゃげるような音と共に、入谷の絶叫が伏黒の耳をつんざいた。宙を舞った赤い飛沫が、教室の白い壁に模様を描く。

    「おい!」
    「恵、昨日と何か変わったところない?あるとすれば、たぶんこの教室だと思うんだけど」
    「……は?」
    「いいから探す。早く早く」

  • 154二次元好きの匿名さん24/05/13(月) 23:48:32

    入谷の術式は『一度に一つの対象しか隠せない』。
    だからまずは、現時点で入谷が設定している盲点を何らかの形で解除させ、彼女自身など別の対象に術式を使わせる。
    その状態で術式のコントロールに意識を割けないようにし、元の対象に盲点を設定し直すことを防ぐ。
    両目的をクリアした今なら『入谷が本来隠したかったもの』がオープンになっているはず。それが、五条の即興で立てた作戦だった。

    「恵にしか頼めないんだよ。僕の目じゃ、そもそも間違い探しの『間違ってる方』が見えないんだから」

    「死角視面」の欠点が、ここに来て逆に五条の足枷になっていた。六眼を使おうにも、感知できるのはせいぜい「死角視面」の起動の有無止まりであって、何に対して盲点を設置しているかまでは判断できない。
    思いがけない下剋上のおかしさに、五条はけらけらと笑った。

    「……説明、後でちゃんとしろよ」

    いらだちの滲み出た声で、それでも伏黒は動く。こと呪術に関して彼の見立ては外れない、というある種の信頼があった。
    教室をざっと見渡す。記憶の中の風景を無理やり掘り起こし、その都度照らし合わせながら、目につくものをひとつずつ観察していく。
    黒板、教卓、壁の掲示物、椅子、それに机───

    「あ、」

    ───31人のクラスに、32個の机。
    どうしても思い出せなかった記憶の欠片が今、埋まった。
    伏黒は、ズボンのポケットに畳んで入れていたコピー用紙を引っ張り出す。聞き込みの際に使っていた、生徒の氏名・住所をリスト化したものだった。

    (今なら、見つけられるんじゃないか?)

    「死角視面」の存在自体も知らないままに、伏黒は奇妙な確信をもってリストの名前に目を通していく。
    そして。

  • 155二次元好きの匿名さん24/05/13(月) 23:48:46

    「……これ。なんて、読めば」
    「ん?とら……違う、『いたどり』かな。『いたどりゆうじ』くん、じゃないの」

    すべてが、一本の線で結ばれた。

  • 156二次元好きの匿名さん24/05/13(月) 23:49:48

    冴えてるよ伏黒!!!!

  • 157二次元好きの匿名さん24/05/13(月) 23:53:08

    羂索がこの状況予期して既に動いてるのが怖いよな

  • 158二次元好きの匿名さん24/05/14(火) 07:44:10

    >>157

    そういえばそうだった…

  • 159二次元好きの匿名さん24/05/14(火) 17:20:44

    恵偉い!!偉いんだけど……羂索がなぁ…

  • 160二次元好きの匿名さん24/05/14(火) 19:42:56

    五条、伏黒も応援したいのに羂索も応援したい
    心が二つある~

  • 161二次元好きの匿名さん24/05/14(火) 22:10:39

    「呪物をいくつも呑んでる子供、ねえ」

    伏黒から一通り話を聞いて、五条は珍しく考え込んでいた。

    「ありえない、なんて言ってる場合じゃないか。そもそも恵は実際に対面してるわけだしね。乗っ取られてそうな様子は?」
    「なかった、と思う」
    「マジか。いいね、逸材じゃん」

    心なしか声音が弾みつつある五条をよそに、伏黒の手は入谷の上腕部をきつく縛り上げていた。
    両腕が使えない彼女をせめて止血したい、と言い出したのは伏黒だった。原型をとどめないほど捻り潰された片腕はともかく、失った血は反転術式ではどうにもならない。
    最初は拒んでいたものの、黙って応急手当を始めてからは、入谷はうってかわって大人しくなった。青ざめた顔で伏黒へ向ける視線には、いくばくかの申し訳なさと、遠い記憶を懐かしむような光があった。出会って数日の子供に向けるにしては、首を傾げる距離感だった。
    『この人は、自分を通して誰かを見ている』。そういう眼差しに、伏黒はいくつも心当たりがあった。彼女に津美紀を思い出したことが、今は無性に恥ずかしかった。

    「やめてください。俺はあなたの家族じゃない」

    だから咄嗟に、そう口走っていた。入谷はしばし言葉を失っていたが、やがて自嘲気味な笑みを浮かべ、力なく首を振った。

    「……そうね。ええ、そうですね。ごめんなさい、伏黒くん……」
    「で、その『いたどりゆうじ』くんとは一体どういうご関係?さっき逃げ出そうとしたのだって、おおかたその子に伝えに行こうとでもしたんじゃないの」
    「さあ、どうかしら……あなたには絶対に教えない、ってことだけは確かね。ふふ……」

    眉間に皺を寄せながら、彼女は目を閉じた。額には脂汗が浮かんでいる。いくら五条が手加減したとはいえ、歳を重ねた体にはさすがに堪える苦痛だったのだろう。

    「じゃ、そろそろ行こうか。ここで粘ってても意味なさそうだしね」
    「この人どうするんだよ」
    「あー、そこに置いといて大丈夫。すぐ動けない程度には痛い目見せたから。青森に残ってる補助監督にも、大至急こっち来いって連絡したし」

  • 162二次元好きの匿名さん24/05/14(火) 22:11:05

    言うなり、五条は伏黒の首根っこを掴んだ。そのまま窓の方へずんずんと向かっていく。予想外の展開に、伏黒は手足を必死にばたつかせた。

    「待っ、降りる!」
    「この方が早いでしょ。補助監督はあの通りだし、タクシー呼ぶのも面倒だし。ほら、暴れない」
    「…………」
    「蹴るなって。玉犬が近いところまで行ったんだって?案内してよ。つーか今のままじゃマジで落ちるから落ち着きな」

    教室の窓を開け、足をかけたサッシを軽く蹴る。子連れの青年は、重力を無視して虚空へ飛び出した。

    ところで五条には、ひとつ引っかかっていることがあった。
    『報告された被害と、当の呪霊の能力が噛み合わない』のだ。

    非術師ばかりの現場で『ポルターガイスト的現象』という言葉を使う場合、呪霊による家具・家財の投擲があったことを指す。事実、今回も『机がひとりでに振り回されてた』などの証言がいくつもあった。
    しかし、あの呪霊は魚の形をしていた。攻撃手段も、噛みつくか体当たりするかの2通りしかない。等級は高いくせに絡め手を使わない、実に単純な脳筋タイプの呪霊だった。
    つまり例の1級は、『ピンポイントで机を振り回すような繊細な攻撃をやらないタイプ』なのだ。入谷が証言を捏造した可能性も考えたが、伏黒が聞き取りをして矛盾がなかったというのであれば、それも除外される。

    (……何かを見落としてる?それとも『最初から気づくための手がかりすらない状態』なのか?)

    そこに絡んできた、呪物をいくつも腹に収めているという子供の存在。呪物というものは一般人、それも幼い身でやすやすと入手できるものではないはずだったが。

    「親の顔が見てみたい、なんて案件にならないことを祈るよ」

    軽口を叩きつつ、高度を落とす。
    住宅地の中心からやや外れた位置。露骨に怪しい結界の張られた家は、すぐそこまで見えていた。

  • 163二次元好きの匿名さん24/05/15(水) 05:34:10

    もっと親の脳見ろ

  • 164二次元好きの匿名さん24/05/15(水) 07:29:57

    五条…!!頼むぞ五条…!

  • 165二次元好きの匿名さん24/05/15(水) 17:09:11

    ほし

  • 166二次元好きの匿名さん24/05/15(水) 23:01:09

    「結果的には、恵もいい線いってたってことだね」

    日が暮れて暗くなり始めた町は、存外死角が多い。誰にも見つかることなく、電信柱の陰へ隠れるようにして降り立った二人は、揃って同じ方向を指差した。

    伏黒は、玉犬が彷徨っていたあたりを。
    五条は、六眼で捉えた『結界のある家』を。

    そういうわけで現在、二人は五条が指した家の前に立っていた。
    表札には『虎杖』ではなく、この国ではごくありふれた姓が書かれている。少なくとも、伏黒の目にはそう映っていたのだが。

    「結界の張り方でこっちの視覚をごまかしてるな。見る角度で絵が変わるカードあるでしょ、仕組みとしてはたぶんアレの応用。こんなの普通思いつかないっての」

    五条は呆れたように首を振り、表札の下に鎮座するインターホンを押した。

    「まあ、間違いなくここでしょ。こんな胡散臭いもの張ってたら、見つけてくださいって言ってるようなもんだし」

    話しながら、待つこと数秒。
    返事がないので、もう一度。

    「こんばんはー。ちょっとお宅の『いたどりゆうじ』くんに聞きたいことがあるんだけどー」

    五条は声を張り上げながら、敷地内へ我が物顔で踏み込んでいく。そして伏黒が止める間もなく、そのまま玄関の戸に手をかけた。

  • 167二次元好きの匿名さん24/05/15(水) 23:01:28

    戸は、二人を招き入れるかのように、あっさりと開いた。
    思わず唾を飲み込んだ伏黒の前で、五条はニヤッと笑い。

    「入るよ」

    そう告げて戸を全開にした、まさにその時。
    『はからずも嗅ぎ慣れてしまった臭い』が、二人の鼻をついた。

    サングラスの奥の瞳が音もなく細められた。靴を脱ぐのも惜しいと言わんばかりに、土足のまま上がり込む。一抹の申し訳なさから目を背けて、伏黒も靴のまま五条の後に続いた。

    昭和の香りが残る家の中は、人の気配が感じられなかった。上がり框と地続きになっている廊下を抜けた先、ひとつの部屋の前で、青年は立ち止まっている。
    追いついた伏黒は、五条を押しのけるように部屋の中を見て───言葉を失った。

    ちゃぶ台やテレビ、それにタンスが置かれた、畳敷きの居間。
    その中で『血だまりに沈む、首のない女の体があった』。

    「これ、どういう状況?」

    五条の珍しく固い声が、伏黒の耳をすり抜けていった。

  • 168二次元好きの匿名さん24/05/15(水) 23:02:49

    これ悠仁の前で伏黒と五条を「母ちゃん」を殺した犯人と誤認させるとか……

  • 169二次元好きの匿名さん24/05/15(水) 23:03:00

    いやほんとどういう状況なんだ
    小僧は無事なのか

  • 170二次元好きの匿名さん24/05/15(水) 23:05:43

    羂索は虎杖から離れたいんだし高専に保護させる方向でいくんじゃないか
    わからん
    ワクワクしますねぇ

  • 171二次元好きの匿名さん24/05/16(木) 07:47:34

    毎日更新楽しみにしてる 

  • 172二次元好きの匿名さん24/05/16(木) 17:42:36

    まじで毎度ワクワクしながら読ませていただいてますわ…

  • 173二次元好きの匿名さん24/05/16(木) 19:08:02

    >>167

    羂索視点も見てぇ~!

  • 174二次元好きの匿名さん24/05/16(木) 23:44:12

    ───時間は、少し遡る。

    「悠仁は、私に何かしてほしいことはある?」

    呪霊の立ち回りのせいで散乱した服を拾い集め、あたふたと短パンに足を通す悠仁は、私の問いかけに顔を上げた。

    「かあちゃんに?」
    「縛り、というものがあるんだ。単なる口での約束より、もう一段階上の概念でね。とても簡単に言えば、絶対に破ってはいけない約束を『縛り』と呼ぶんだけど」

    突然の話題転換に、子供はわかったようなわからないような顔で頷く。日頃ならもう少し丁寧に話を繋ぐところなんだが、なにしろ今日は時間との勝負だから仕方ない。

    「悠仁に、どうしても手伝ってほしいことがあってね。万が一に備えて、ひとつ『縛り』を結んでおきたいんだよ」

    一言ずつ、噛んで含めるがごとくに話す。その耳の奥へ、深く染み込んでいくように。

    「『私のことは秘密にする』、そして『私の言うことには必ず従う』。悠仁には、この2点を誓ってほしい」
    「さっき約束したのに、それじゃだめなの?」
    「駄目だね。あれでは足りない」

    ……だから悠仁も、私との約束を守れるね?どんな時でも、私の言うことを聞けるね?……

    悠仁が相手なら、この口約束でも問題なかっただろう。ただ、『これからやろうとしていること』を考えると、縛りを結ばないのはさすがにリスクが高すぎた。
    もっと言えば、今後、悠仁が高専に捕まる可能性もゼロではない。『私』という存在に繋がる道筋は、ひとつでも多く潰しておきたかった。

    「ただ、これでは私ばかりが得をしてしまう。だから、代わりに私も、悠仁のやりたいことを叶えると約束するよ」
    「やりたいこと、って……なんでもいい?」
    「私にできることなら」

    悠仁は天を仰いでうんうんと唸り始めた。

  • 175二次元好きの匿名さん24/05/16(木) 23:45:16

    まあ、最初から自由に決めさせるつもりはないんだけどね。

    他者間で交わす縛りの場合、『双方さえ承知していれば、客観的に見て足し引きが釣り合わないもの同士でも成立する』という側面がある。
    だから、こんなこともできてしまうわけだ。
    先程の悠仁の告白を思い出しながら、私は口を開く。

    「『また一緒に寝る』、というのはどうかな」

    はたして、悠仁は目を輝かせた。

    「ほんと?」
    「本当。どうだろう」
    「それがいい!やった、やった!」

    子供は頬を紅潮させて、私の腰に抱きついてきた。その体をやんわり引き剥がして、その場にしゃがみ込む。

    「じゃあ、確認するよ。『私は今度、また悠仁と一緒に寝てあげる。その代わりに、悠仁は私のことを秘密にするし、私の言うことには必ず従う』。この縛りでいいかな」
    「『いいよ』!」

    返事を言葉尻にかぶせる勢いで、縛りは結ばれた。
    興奮気味の悠仁はもう一度抱きついてくるものと見えたが、その手前で止まる。両手をもじもじとすり合わせながら、照れとも恥じらいともつかない表情を浮かべた。

    「あのさ……おれの方から、かあちゃんと『しばり』はむすべないのかな」
    「そうだね、今の悠仁では力不足かもしれないね」

    うそぶくと、目の前で眉がハの字を描く。たちまちしおれてしまった子供の手を取り、居間へと戻りながら「何を縛りにしたかったの?」とさりげなく尋ねた。

    「えっと……ずっといっしょにいてほしい、って」

    私は黙って肩をすくめた。まったく無知というのは恐ろしいね。そんな縛りを結ぶまでもなく、虎杖香織はとっくの昔から悠仁の一番近くにいるのにさ。

  • 176二次元好きの匿名さん24/05/16(木) 23:48:07

    端からみたら明らかに縛りの内容が釣り合ってないのに悠仁の中では釣り合ってるんだろうな
    切ねえ

  • 177二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 07:28:19

    不穏…
    いやずっと不穏だが

  • 178二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 17:44:06

    少なくともこの悠仁がそばにいて欲しいのはお母さん(羂索)なのにな……香織さんだからじゃなくてお母さんだから一緒にいて欲しいんだろうに…ほんとこいつはさぁ……

  • 179二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 18:57:46

    >「それがいい!やった、やった!」


    無邪気に喜ぶ小僧想像したら胸が痛い

  • 180二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 23:03:52

    >>175

    無邪気だね...虎杖悠仁...

  • 181二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 23:09:23

    悠仁を居間に残し、私は台所に赴いた。
    虎杖倭助がいつか気まぐれに買ってきた中華包丁と、悠仁が日頃から愛用している牛刀包丁を取り出し、踵を返す。
    悠仁の手にひとまず牛刀の方を握らせ、私はなるべく穏やかに告げた。

    「じゃあ、これで『私の首を切り落としてくれるかな』?」

    悠仁は、ぽかんと口を開けていた。何を言われたのかわからない、という顔で座り込んでいる。
    その表情が、じわじわと歪んでいった。

    「や、」

    すかさず片腕で悠仁を抱き込み、もう片方の手で口を塞いだ。言いかねない、と思って待ち構えていたのは正解だったらしい。

    「しー……私からの指示に『それ』はもう言えないんだよ、悠仁。縛りに反する。指切りげんまん、嘘ついたら針千本のます……アレと同じだね」

    それでも何事かを言い募るので、「いや、だめ、と言わないなら手を離すよ」と囁いた。激しく頷いたところで、口を開放してやる。
    途端に目を潤ませながら、こちらの胸元へすがりついてきた。

  • 182二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 23:09:46

    「なんで、だって、そんなの、かあちゃん死んじゃう」
    「大丈夫だよ。ほら悠仁、おいで」

    私の膝をまたぐようにして座らせると、子供の目線はこちらよりも高くなる。
    前髪を軽くかきあげ、私は悠仁を見上げた。

    「触ってごらん」

    縫い目に、おそるおそる指が伸ばされる。割れ物に触れるような手つきで、悠仁の両手が私の額をなぞった。
    やがて「あ、」という声とともに、皮膚が軽く引っ張られる感触を覚える。

    「かあちゃん、なんか……いと?みたいなのがある」

    私は無言で微笑みかけ、頷いた。私と悠仁の間では、それで十分だった。
    ぷつ、ぷつ、と額から小さな音が鳴る。悠仁の指でつままれた糸の端が、視界の上に現れる。
    いくらかの怯えと、隠しきれない好奇の視線が、私の額に注がれていた。

  • 183二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 23:10:03

    虎杖香織の呪縛には抜け穴がある。
    それを発見したのは、ごく最近のことだった。

    例えば、私が仮に「この体を離れたい」と考えたとしよう。
    ……ああ、もう何を考えていたのか思い出せなくなった。この事象から逆算して、おおかたの想像はつくけどね。

    では、やり直しといこうか。
    「この家を出て」「外に歩いていき」「たまたま出くわした人物を刺し」「それを乗っ取ってやろう」と考えたら、どうなると思う?

    ……今、私の頭には「この家を出て」「外に歩いていき」「たまたま出くわした人物を刺す」という思考までが残っている。

    つまり、こういうことだ。
    虎杖香織は『あくまでも「悠仁から離れる」ことに直接関連する思考にしか対応しない』。その動作をひとつずつ分割して考えた場合、彼女は最後の一手───おそらく私は「刺した相手に乗り換えよう」とでも考えたのだろう───だけを、私の中から消去する。

    虎杖香織の意に沿わないことを考えると、それはたちまち拡散・消滅させられてしまう。
    ゆえに、『目的』へ至るまでの動作を細かく分け、その動作の完遂のみで思考を抑制する。「何かをする」と決めたら、そこから先は考えないように努める。
    正直コツを掴むのに骨は折れたが、一度慣れてしまえばあとはどうということもない。
    これにより、ある段階までは私自身の意志で、私の『目的』に沿って動けると気づいたのさ。

    ただ、最後の一手……肝心の『目的』に関しては、どうしても私では完遂できない。
    そこで、悠仁だ。
    虎杖香織の残留思念が影響するための窓口にすぎないのだから、その行動にはおそらく彼女の枷は作用していない。
    だから、私にできるところまで悠仁を誘導する。

    「悠仁に額の傷を触らせる」ところまでは成功した。そこからの指示も、私は『微笑み』『頷く』だけでいい。あとは悠仁が察して動いてくれる。
    今までさんざん刷り込んできた成果が出た、というわけだ。

    さて、どうなるか。
    ひときわ強く引っ張られる感触とともに、悠仁の手から垂れる1本の糸が見えた。

  • 184二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 23:14:12

    すごい!ずっと最悪が更新されてる!

  • 185二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 23:14:37

    なんてことさせようとしてんだコイツ

  • 186二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 23:24:07

    ネグレクトされた本編の方がマシだったという地獄

  • 187二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 07:17:31

    このどこまで出来るか考察し試すのが羂索らしいな
    虎杖かわいそう

  • 188二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 09:11:22

    悠仁----!!!

  • 189二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 17:34:04

    悠仁(T ^ T)

  • 190二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:17:58

    糸を引き抜いた反動で頭蓋がズレた途端、悠仁は反射的に手を引っ込めた。裂け目から滲み出た液体が、額をひとすじ伝い、眉間を滑り落ちていく。

    「……い、いたくない?」
    「ちっとも」

    笑みを浮かべたままで、軽く首をかしげる。その拍子にぐらついた『それ』を、悠仁はしげしげと眺め、やがて指で押し上げるように触れた。

    「お、おお……?」

    感嘆と驚嘆の間にあるような声を漏らしながら、子供は少しずつ私の額をこじ開けていく。片手の指でおっかなびっくり持ち上げていたものが、手の全体で支えるようになり、やがてもう片方の手も頭蓋の縁に添えられる。
    硬膜と脳の隙間を、家のわずかに澱んだ空気が吹き抜けていく。溢れ出た髄液が滴り落ち、音を立てて、畳にいくつもの染みを残していく。
    やがて、とうとう悠仁の瞳に『私』 そのものが映った。

    あまりに長い、沈黙があった。
    悠仁は、今までに見たことのない表情を浮かべていた。あらゆる感情が飽和したような顔つきで、虎杖香織の頭蓋を抱えたまま、何も言わずに『私』を眺めていた。
    焦れた私が口を動かしかけた、その時。

    「……じいちゃんが、言ってた」

    一瞬早く、悠仁が独り言のように言葉を紡いだ。

  • 191二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:18:15

    「あれはかあちゃんじゃない、って。『そと』はおなじでも『なか』がちがう、べつの生き物なんだ、って。……もしかして、これが『なか』?」
    「『これ』とは失礼だね。私は私だよ」

    思っていた言葉がそのまま『私自身の口』から飛び出したことに、一番驚いたのは私だった。どうやら虎杖香織の体から半ば『はみ出している』今なら、彼女の残留思念から一時的に解放されるらしい。
    己の思考を小細工なしに流れ出せる快適さを噛み締めながら、私は悠仁の前で『脳と直結した口元』を緩ませた。

    「かあちゃんじゃないの?」
    「そうとも言えるし、そうでないとも言えるかな。ただ、君を産み、今日に至るまで育てたのは『私』だよ。虎杖香織ではない」

    およそヒトとも呼べぬ『私』に何を言い出すか、と半ば面白がりながら待っていたのだが。
    悠仁は、何故か安心したように「そっかあ」と息を吐いた。
    そして。

    「なら『かあちゃん』が、おれの本当のかあちゃんなんだね」

    『私』を見て、笑ったのだ。

  • 192二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:19:07
  • 193二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:21:11

    そりゃそうなんだけど悠仁もう壊れてんだよな

  • 194二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 23:10:41

    立て乙

  • 195二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 23:19:48

    羂索から解放されても原作開始時の根明陽キャにならなそうなのが

  • 196二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 23:25:48

    や、優しい性根はそのままだから…

  • 197二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 00:19:39

    >>192

    ラストか、なんかさみしくなるな

  • 198二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 08:37:55

    裏梅

  • 199二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 09:54:08

    うめ

  • 200二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 09:55:04

    200なら虎杖が幸せになる

オススメ

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