【ssスレ】チリ婦人とドッペル婦人 3スレ目

  • 1二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 13:32:33

    ※こちらのssはsvキャラの性格が反転した本編後の世界が舞台です。


    概要やインスピレーション元は前スレを参照ください。


    ↓前スレ

    【ssスレ】チリ婦人とドッペル婦人 2.5スレ目|あにまん掲示板前スレ(2)が消えとる!という訳で、はばかりながら立てなおしました。↓前々スレにもある通り、この世界は登場人物たちの性格や立ちふるまいが反転した本編後の世界です。(アオハルは除く)https://bb…bbs.animanch.com

    10まで保守でき次第、キリのいい所まで直投下→ライトニングでまとめる方式で行きます。

  • 2二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 13:36:11

    おっ続きだ

  • 3二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 13:37:45

    ↓序章。世界観を詰めこんだ短編2つ。


    チリ婦人、ヤブからアーボック | Writening「へえ、なかなかやるじゃねえか」 「ネモこそ。ただの口が悪い引きこもりじゃなかったんだね」 「言うねえ。負けてから吠えづらかくんじゃねえぞ」 アカデミーの広場。即席のバトルコートでにらみ合うネモとアオ…writening.net

    チリ→精神年齢が9歳児のアホの子。愛車は緑のミニクーパー。


    ポピー→しっかり者で口うるさい保護者。時々黒さを見せる


    アオキ→人情に厚い熱血漢。仕事とチャンプル住人とのふれあいが生きがい。業務をサボったら承知しませんよ!


    ハッサク→クールで痛烈な皮肉屋だが、いざと言う時には優しさをチラ見せするタイプ


    オモダカ→感情に素直なよわよわ乙女。精神年齢が近いチリが大好き。


    革命戦士カキツバタ(に振り回されるネリネ) | Writening「おぅ、ネリネじゃねぇかぁ!」 昼休みまえの廊下。後ろから声をかけられたネリネは、食堂に向かう歩みを止めて、直立不動でカキツバタに向き直った。 「お疲れ様です、先輩!」 「そんな、堅くならなくていい…writening.net

    カキツバタ→長○力。


    ネリネ→活発でひたむきなアホの子


    アカマツ→ドライ。料理は上手いが、フライパン握るなら本を読む。


    タロ→なれなれしいギャル。アカマツに片思い。


    スグリ→紫髪がデフォ。ガラや口は悪いが、根は素直で物分かりがいい。休学中の気弱な姉がいる。

  • 4二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 13:38:27

    保守

  • 5二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 13:40:44
  • 6二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 13:56:32
  • 7二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 14:04:03
  • 8二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 14:09:34

    書き始めた時は、アホチリに振り回される本編チリちゃんを書くだけのつもりだったのが、

    どうせなら・せっかくだから……と他のキャラも書くたびに、いつの間にやらどんどん無駄に壮大な長編になってしまいました笑


    このスレ(part8)が正真正銘エピローグとなります。コメント&見守ってくださる方々には感謝しかありません。

  • 9二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 14:32:22

    主です。10近いので、次レスからエピローグ投下して行きます。

  • 10二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 14:40:08

    ↓part8(終)
    「……何故、ですの?」
    愕然としたポピーの呻き。
    「なん……なん?チリちゃん、腹決めとるで……?」
    目を泳がせるAチリも動揺を隠せない。
    「……超常現象の白い霧とやらは、やっぱりマユツバかい?」
    落胆が混ざるタイムのボヤき。キハダやハッサクも、訝しく顔をしかめながら周りをキョロキョロと見渡している。
    「も、もしかして、メンバーが足りないとか!?向こうの世界の池には、フトゥー博士もいたりして!」
    「いや、フトゥーさんなんて人、チリちゃん知らへんかったよ!それに、ウチらの知っとる博士――こっちのオーリムさんは、ハルトが言うには何年も前にこの世を去っとんねん!」
    来れようがない。レホールの言葉を否定するAチリ。
    「写真!A世界のチリよ!あの写真を見てみろ!!」
    彼女を囲む人ごみの中から飛ぶ、ジニアのするどい呼びかけ。Aチリは、袴のポケットから写真を取り出した。
    水色のバトルコートを背景に、Aポピーと撮った1枚。
    「ドッペルさん、ちょっと見せてみて!」
    「我にも貸せ!」
    Aチリから写真を受け取ったレホールが、食い入るように観察しだした。どよめく一行の中から、ジニアも踊りでてくる。
    ポピーと頬ずりするAチリ。ぼやけていた彼女の姿は、今では鮮明に取り戻されていた。しかし、よくよく見ると。
    「……ドッペルさんの身体、完璧には戻ってないわね」
    くたびれたカッターシャツ、緑色の髪、黒いタイとサスペンダー。Aチリの全身には、コートの壁に刻まれているはずの、縦横の直線が浮かんでいる。彼女の姿は、まだ完全には像を結んではおらず、わずかに背後が透けているのだ。
    「ここにいる全員が持つテラスタルオーブ。そして、オーブに埋め込まれた小さなテラスタル結晶が1ヶ所に集まって、バラバラだったそれぞれの思いが、今では巨大な1つの願いごとになっている……」
    「もう1人のチリを元の世界に帰したい、という願いか?」
    「そういう事」
    気立てのいいレホール。己の研究欲が第一のジニア。性格は正反対の2人が、息のあったやり取りで仮説を立てていく。

  • 11二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 14:52:17

    「……我が友・フトゥーいわく。
    Aの世界とBの世界。互いの祈りが寸分の狂いもなく一致しなければ、Aチリを帰す事はできない」
    「……って事は!」
    「……この中に、Aチリに対して大きな未練を残している者が存在する」
    「……と、ジニア先生は推測するわけね!」
    「そうそう我は……って、セリフを盗るんじゃない」
    えへへ、とお茶目に微笑むレホールに、ムッとしたジニア。しかし話し終えた2人の視線は、一同の最前列――Aチリのもっとも近くに佇む、1人のトレーナーを見つめていた。
    「(・ω・`三´・ω・)」
    2人の研究者につられた全員の目が刺さり、キョロキョロと顔を動かすBチリ。
    「……チリさん。ドッペルさんが、最後にアナタのお願いごとを叶えてくれるって!」
    白い歯を見せ、Bチリにニッコリと笑いかけるレホール。思いがけない彼女の提案に、Aチリは己の分身をキョトンと見張った。
    「( 'ω')」
    真顔で一点を、Aチリの瞳を見つめること数秒。
    「……(`・ω・´)」
    Aチリと瓜二つのキリッとした睨みをきかせたBチリの懐から、モンスターボールが取り出された。
    「そうか!A世界のチリを引き止めていたのはお前か!」
    合点が行ったジニアが、両手をさすりつつニッタリと華やいだ。――もう1人の自分と勝負してみたい!
    「ドッペルさん!ジムバッジを8つ集められた今!あなたはポケモンリーグに挑む資格を得られました!!」
    いつになく精悍なBチリの面持ち。彼女の意図――願いを察したポピーが、スラックスの足下から高らかに口上を述べる。
    「そうよ、ドッペルさん!チリさんも!強大なトレーナーどうしのぶつかり合いは、思いがけない現象を生む!霧を発生させる最後のピースは、2人のチリさんどうしの戦いかもしれない!」
    人差し指を立て、ハッコウシティで導きだした推論を復唱するレホール。
    「そうです!2人とも、悔いを残しちゃダメ!
    チリ、これが本当のラストマッチ……になる事を祈りましょう!チャレンジャーを、もう1人のアナタを全力で迎え撃ってください!」
    「(`・ω・´)b」
    正面から肩を叩くオモダカに、Bチリが力強くサムズアップ。
    「相手は自分自身、ですか!以前に営業で訪れたジョウトのお寺にも通じる教えですね!」
    「まあ今回は、(物理)とでも付けたほうが正確でしょうね」
    妙に感心しているアオキ、それを茶化すハッサク。

  • 12二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 15:25:10

    2人のチリを囲んだ一同は、
    まるで2人のチャンピオンが戦ったアカデミーの広場を模すように、大きな円形にスペースを確保した。
    「……しゃあなし。思いっきり可愛がったるさかい……」
    「( ¯꒳¯ )……ヒッコシノ?」
    持ち場についた双方。2人のチリは、それぞれの手袋を同時に引きしめた。
    「せいぜい、きばりや!!」
    「(`・ω・´) キバリヤサン!」
    ……微妙に異なる口上。カッターシャツと紺の着物が、いっせいに振りかぶった。
    「ドオー!いてこましたれ!!」
    「ドー!!」
    今までの勝負で、もっとも勢いづいたAチリのスイング。ドオーの鼻息も格段と荒い。ちなみに。Bチリの普段の投球は、幼い少女のトスを思わせるような緩やかな内股の下手投げである。
    「( ¯꒳¯ )……myドオー……」
    だが、Aチリのフォームを見て色気が湧いたのか。Bチリも、ボール一回転して投げようとした。のだが。
    「イッテコ……( ゚д゚) フオォッ!?」
    スポッ!
    見よう見まね。加減も付けずに回ってしまったせいで、Bチリの手からボールがすっぽ抜けた。
    ポコン!ポコン!ポコン!
    「ああもう!だから、あれほど女の子投げにしておけと!」
    首を上下左右に動かすギャラリーの中から、ポピーが毒づいた。
    岩、地面、「あいたっ!」アオキの額、看板、木の渡し。また岩。のんきな音を立てて弾みまくったボールは、Bチリの頭上に差しかかった。
    「(;ˊ꒳ˋ ) イ、イエス!」
    ホッと息を吐いたBチリが、ボールを受け取ろうと両手で皿を作った。瞬間。
    「ドオッ……!」
    「(⊙д⊙) ホォッ!?」
    Bチリの目前に迫ったボールの中心から光が放たれ、彼女めがけてドオーが降ってきた。とっさに身をかわしていなければ、あわや下敷きだ。
    「ほんま……ほんまに……自分よく無事でおれるな……」
    額から何本もの線を振らせ、ワナワナと戦慄を浮かべているAチリ。
    「ドッ!ドッ!」
    ドキドキとへたりこんだBチリに向かって、Bドオーがプンプンと湯気を立てた。

  • 13二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 17:20:20

    「:( ;´꒳`;) ソ、ソーリー……」
    「ドっ!」
    ひとしきり主を叱ったらしいBドオーは、まったくもう!と言わんばかりにツンと頭を反りあげると、相手のAドオーへとヨチヨチ振り向いた。
    「ドオー……」
    「あ、ああ……気にせんでええよ!そっちのチリちゃんに怪我なくて良かったわ……」
    ぺこりと頭を地面に近づけるBチリの切り札。
    「き、気をつけてくださいドッペルさん!チリさんは、手持ちに指示をハッキリ出しません!」
    群衆の中から、アオイの叫び声。Aチリの脳内は、この世界に来た日、ミニの車内でアオキに聞かされたBチリの特徴を思い出した。やたらと勝負だけは強い理由。それは、指示を出さない(出せない)主人に代わって、手持ちが死にものぐるいで頭脳を働かせるから。
    「(`・ω・´) ウー、ハッ!」
    さっそくBチリは、怪しげに呻きつつ、自分の足下とAドオーとを交互に指さしている。
    「ド、ド?」
    「(`・ω・´) プッシュウウ、ドカーン」
    まとめた五本の指を、ロケットのようにAドオーへと差す。Bチリはアクアブレイクを表現しているのだが、Bドオーは激しくかむりを降った。
    「( ; ˘-ω-) オーライ。ウーン……」
    アクアブレイクは却下。アゴをつまんで考え込んだBチリは、数拍ののち。
    「\( ´ω` )/」フリフリ
    見上げてくる切り札へと、今度は奇妙なダンスで答えた。
    「き、気ぃ抜けるなあ……ん?待てよ」
    Bチリは、腰をカクカクと左右にシェイクさせる動き。Bドオーが力強く頷いた。
    「ドオー、来るで!」
    「ドッ!?」
    主から掛けられた突然の発破に、Aドオーが戸惑う。自分のドオーと技の構成が同じならば、「揺らす」技は1つのみ。
    「じしんや!」
    「( ≖_≖) イェス!」
    目を細め、自慢げのBチリ。Bドオーが左右の半身を交互に上げながら大地を鳴らす。
    「ド……!」
    「くっ、威力はホンマモンやな……!」
    「(*^^*) センキュー♪」
    「ドオッ!」
    ドヤ顔で仰け反るBドオーの身体。素っとんきょうな主を補いなれているからか、Aドオーに比べて人語や場の雰囲気を理解しており、いくらか聡明なようだ。

  • 14二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 19:37:07

    反転チリちゃん、ドオーも中身反転してんのか

  • 15二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 23:36:03

    しえん

  • 16二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 05:41:14

    保守

  • 17二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 10:53:26

    あげほ

  • 18二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 17:55:04

    >>13

    効果はばつぐん。Bドオーの体力は半分近くに減った。

    「よう見抜いたな!せやねん。チリちゃんのドオーは『ちょすい』持ちや!」

    「(* ˊ꒳ˋ*) ミートゥー!」

    「ドオオオオ!!」

    華やぐ主人に、「バラすなああ!!」と青筋を浮かべながら、Bドオーの頭部が横ゆれした。

    「ほなら、遠慮なく行くで!隆起せえ、ドオー!ウチらもじしんや!」

    地球儀が輝く。Bチリのドオーに劣らぬほどの揺れ。限界まで目を開き、四つん這いになって耐えるBチリ。ギャラリーたちも懸命に支えあっている。

    「ドー!」

    テラスタルによって威力が倍増されたじしん。効果はばつぐんだ!だが、揺れがやむや、Bドオーの全身がツヤリと光った。

    「た、たべのこしかいな?」

    「(。 ー`ωー´) ンー、ドウデショオ」

    Bドオーは、どうぐによるわずかな回復のおかげで、相手と体力を並べた。

    「上等や。ドオー!もう1発じしん!」

    「ド!」

    「……ハッ!」

    「(* ˊ꒳ˋ*)……oh、ナーイス!」

    主人のボディランゲージを待たず、自発的に「まもる」を張ったBドオー。

    「\( ・`ω・´)/」フリフリ

    大マジメな目つきで相手を睨みながら、今度はBチリが腰振りダンス。

    「ドオー、こっちもまもる!」

    お次はAドオーの障壁が揺れを耐えしのいだ。

  • 19二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 20:03:21

    「\( -`ω-)/」フリフリ
    「ドオッ!」
    ダンスが興に乗ってきたのか、はたまた本人は至って真剣なのか。Bチリの腰振りは止まらない。持ち主をキッと見上げ、ブンブンと拒否したBドオーは、またもや自分で「まもる」を発動した。
    「じしん!……くっ、自分なかなか賢いなあ」
    Aチリの賞賛は、はたしてトレーナーに向けてか切り札へ対してか。「まもる」と「じしん」を交互に唱えるAチリの指示。一方のBドオーは、背後――もはや意味不明な振り付けと化したダンスを踊りまくる主人を、叱りも一瞥さえもせずに、独断で「まもる」と「じしん」を発動し続けている。
    本来は鈍感でのんびり屋なはずのドオーが人間くさく頭脳を回し、指示する立場であるはずのトレーナーが真剣にふざけ倒す。
    「プッ……ナハハ。おもろいコンビやなあ!」
    勝負中、ふだんは一切とぎれない緊張の糸がゆるみ、シュールさのあまりAチリは吹き出した。
    「せやけど、勝負は勝負。勝ちはウチがいただくで!」
    ニカッと笑ったAチリ。何度目か分からないAドオーのじしん。まもるを使い切ってしまったBドオーは、威力が増した効果ばつぐんを、ふたたびモロに受けてしまった。
    「ヾ(・ω・`;)ノ Are you オーケー?」
    「ド……!!」
    持ち物による回復も追いつかず、満身創痍で全身を震わせるBドオー。
    「(;`・ω・´)……ドオー! リュウ・キセイ!!」
    Aチリとそっくりな決めゼリフだが、イントネーションがおかしい。意を決したBチリは、ついにテラスタルオーブを取り出した。
    「(((( ;゚д゚))))アワワワワ」
    オーブの反動がのしかかり、電動カミソリよろしく激震するBチリの細い身体。彼女が危なっかしく四方につんのめるたび、観客の中から数人の腕が伸びかけた。
    「ε-(´∀`;)……ホッ」
    額を拭ったリーグの手袋から、光が詰まったオーブが高々と宙に舞う。Aドオーと生き写し。燦然とそびえる地球儀。やっぱじめんよなあ、と深くうなずいたAチリ。Bチリお得意の女の子投げ。今回はコントロールバッチリであった。

  • 20二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 20:37:05

    「乁( ⌯ᾥ⌯ )厂」フリフリ
    ほっぺたの真横で両手を曲げ、首を水平に横ゆれさせるBチリ。
    「しゃあない。もう1発は覚悟しとる」
    Aドオーも、すでに「まもる」は使い切っている。が、Aチリの読みが正しければ、テラスタルした「じしん」が自身のドオーに直撃しても、相手の切り札とおなじく体力はわずかに残るはず。

    Bドオーのじしん!

    そして、読みどおり。ゼエゼエと息をはずませながらも、Aドオーは耐えた。何度も大揺れした池。だが、「じしん」になど慣れきったAチリは、仁王立ちで動じない。
    「( ゚д゚) タ、タエタ!?」
    「よっしゃ、勝ち筋が見えたで!」
    Aチリのドオー、Bチリのドオー。どちらも体力はコンマ1ミリ。ビシッとBチリを指さす紺色の着物。
    「このターンが正念場……や……で……」
    ……だったが、目の前に突然あらわれた異変に、威勢のよかった語気がにわかに萎えた。
    「……ど、どないしたん?」
    「( °-°) ……エッ?」
    2人のチリ。Aドオー。そしてギャラリーの一同までもが、キョトンと向いた。
    「……ド、ド……ウ……ウプッ……!」
    一斉に注目をあつめたのは、Bチリの足下で苦しんでいる切り札。
    「わ、技のダメージのせい、でしょうか……?」
    「うーむ。あの症状は、船酔いに似ているな」
    「食中毒にも近い。お、おそらくチリさんのドオーは、えずいているのかもな……」
    コルサ、グルーシャ、キハダを皮切りに、勝負を無言で見守っていた一同が、めいめいにざわつき出した。
    「チリ!な、何か悪いものでも食べさせましたか!?」
    「((((( ;゚д゚))))) ノーノーノー!!」
    最前列のオモダカからの問いへ、ちぎれんばかりに首を振るBチリ。勝負が中断している間にも、Bドオーはゲッソリとやつれながら呻いている。何やら口をモゴつかせながら。
    「ち、ちょいまち。いったん休戦や!ほら、ドオー。お口アーンやで、アーン!」
    「ヴォエッ……」
    小走りでかがみ込んだAチリに、Bドオーが大口を開いた。そして、中にくわえられた物を見たとたん、疑問が一気に消しとんだギャラリー。そして目を見開いたAチリまでもが、「ああっ!!」と合唱した。

  • 21二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 21:21:21

    「ハァ……チリさんの、おマヌケ!!ドオーも吐きたくなるはずです!!!」
    しこたまに怒りをにじませた、しかし、あまりのアホらしさに口元を緩めている、アオキ渾身の怒鳴り声。
    「そ、そういえばチリ……少し前の実技試験で、確かその子に……」
    「( ゚д゚) ハッ!!」
    おずおずと出されたオモダカからの助け舟。Bチリの鈍い脳内も、ようやく答えを導いたらしかった。Bチリのドオーが、体力をこまめに回復していたワケ――Bドオーに主人が持たせていたどうぐは、たべのこしではない。
    「( ゚д゚)」
    驚きの形相のままフリーズしたBチリ。彼女の9歳児なみの脳みそは、だんだんと原因を思い出していった。いつだったか。とあるチャレンジャーを迎え撃った時。チャレンジャーの得意な戦法やタイプなどなどの諸事情から、あえてテラスタルせず戦おうと、Bドオーから催促されて持たせたどうぐ。今の今まで持たせ(持ち)っぱなしだったのを、主従ともども、すっかり忘れ去っていたどうぐ。
    「くろい、ヘドロや……」
    呆然とBドオーの口内を見つめたAチリは、途切れとぎれに漏らした。
    「(´- ̯-`) oh......ノーウ……」
    切り札の傍らに、ガックリと膝をつくBチリ。
    その瞬間、「ウブッ…… 」とえずいたきり、
    Bドオーはグッタリと横たわり、口を開けたまま目を回して気絶した。
    「わーっ!アカンアカン!!ほら!はよ取ってやり!」
    「ヽ(´Д`;ヽ≡/;´Д`)/」
    長手袋が汚れるのもかまわず、口からヘドロを掻きだすAチリ……のよこで右往左往するBチリ。

  • 22二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 21:22:16

    「チリ姐さん、やっぱぬけてんな……!
    くろいヘドロなんざ、じめん単体になっちまえば毒に決まってんじゃねえか!」
    「ま、まあまあ……きっとチリさんだって、必死に考えて……」
    「必死に考えていたのは、どうみても手持ちのほうだったろう……」

    2匹と1匹めがけ、ワラワラと密集するパルデア勢。

    紫の頭をワシャワシャと撫でたスグリや、ひかえめに苦笑いするゼイユ、呆れてジト目のブライアも彼らに加わった。

    「イヒヒ、キーヒヒヒヒ!!い、いや、失礼!ぶ、侮辱する気は……アヒャ、アヒャヒャヒャ!!」
    2人のチリを見下ろして腹をかかえるハッサクにいたっては、Bチリのアホさ加減がツボにはまり、この1週間で最高の笑い声を上げている。

    「しょ、勝負あり……みたいね」
    岩のそばで隣あいながら、レホールとジニアが、喧騒を遠まきから眺めている。

    「そのようだな。しかし、こちらのチリのやつ、未練は果たせたようだぞ!……ほらレホール、見てみろ!」

    喜色満面でジニアが指さした先。

    「……あっ!!」

    夜の闇に溶け込んでいたはずの池の水面は、勝負が進むにつれて、あの日の夜のごとく鮮やかに輝きだしていた。

  • 23二次元好きの匿名さん24/04/30(火) 00:17:45

    いよいよ帰るか・・・

  • 24二次元好きの匿名さん24/04/30(火) 07:39:14

    保守

  • 25二次元好きの匿名さん24/04/30(火) 15:03:20

    >>22

    「みんな、見て!理事長たちが見た光ってコレよね!?」

    喜びを爆発させたレホールの一声。Bチリのドオーは無事ボールに収められ、我に返った一同は、皆がみな、池を照らしだす七色の光に魅せられている。

    「キーヒャヒャヒャ!実験は成功だああ!!」

    両腕を広げたジニアは、天を仰いで高らかに笑いたおしている。

    「間違いありません……という事は」

    「……別れの時が、きましたのね」

    「(。・_・`。)………」

    「う、ううゔゔ!ドッペル婦人……!自分は、やはり寂しいです!」

    「ふふ。互いに年老い、天寿をまっとうした後にでも、奈落への入り口で再会いたしましょう」

    好き好きに独りごちるオモダカと四天王。ハッサクの独特な送辞に、Aチリは困り笑った。そして。

    「ほなら、ホンマのホンマにさいなら……チリちゃんもな」

    「…………(˶ˊᵕˋ˵)」

    未練がなくなったらしいBチリは、いつもの幼げで晴れやかな笑顔をようやく取り戻した。

    「……な、なあ自分、何か光っとるで?」

    「(*˙꒫˙* ) ソッチモ」

    「お、おふたりだけでなく、ポピーや他の皆さんも……」

    2人のチリと7人のジムリーダー。4人の親友とスター団、四天王にオモダカ。さらにはアカデミーの教師たち、ブルーベリー学園の姉弟……。総勢30人以上の衣服の懐や腰が、赤く、青く、そして緑に……池の広い水面とまったく同じ緩急をつけながら、虹色の光を放っている。

    「もしや……共鳴している、のか?」

    各々の手に乗せられたテラスタルオーブの輝き。いつもなら人知を超えた現象のたぐいを唾棄するブライアも、池と30数個のオーブが織りなす神秘的なイルミネーションに見とれている。

    「多分そう。テラスタル水晶が、ワタシたちのお願いを聞き入れてくれたサインに違いないわ」

    パッチリとした眼差しを池に向けたまま、オーブを胸に抱きよせたレホール。

    そして、いよいよ。

    湯だつような蒸気の音とともに、白い霧が上がりはじめた。

  • 26二次元好きの匿名さん24/04/30(火) 15:12:03

    「それでは、ほまれ栄えあるパルデアトレーナーの皆さん!ドッペル婦人の帰還を祝して!バンザーイ!」
    涙をいっぱいに溜めたアオキの音頭。
    「\(*`・ω・´)/ バンザーイ!!」
    「バ、バンザーイ……ジ、ジジくさい事させないでくださいな……」
    ノリノリのBチリ、ボヤくポピー。
    「ばんざーい。ふふ。ミス・ドッペルゲンガー、アナタの行く末に幸あれ」
    「ぐしゅっ……バンザーイ……ううう……」
    ハッサクからの激励。涙腺が決壊しているオモダカ。
    バンザーイ!バンザーイ!!
    四天王たちの万歳の輪は、あっという間に、Aチリを囲む30数名全てに広がった。そして、池からわき上がった、濃く白い霧も。
    「寮の部屋は空けといてやる!またいつでも来いコノヤロー!」
    「ドッペルちゃああん!リップ、アナタの事ずっーと大好きよおお!!」
    「ヽ(;▽;)ノバイバイ!バイバーイ!!」
    鳴りわたる万歳の間から呼びかけが聞こえる。だが、どんどん濃くなる霧のせいで、誰が何をさけんでいるのか、もはやうっすらとしか判別できない。
    「おおきにー!ウチの方こそ、みんな大好きからなああ!!」
    よく通るコガネ訛りの答辞。池の風景は消え、Aチリの視界はくすんだ白一色だ。
    「チリチャン!バイバーイ!」
    「ばいばいやでー!チリちゃああん!!」
    「バイバ……あああっ!」
    もう1人の自分……らしき雄叫び。
    「どないしたああん!?」
    と尋ねるが早いか、
    「(*´罒`*)シシシシシシシシ」
    あのイタズラっぽい、歯から漏れだす笑いを立てながら、BチリがAチリの懐に飛びこんできた。
    「なんな……あっ、それ!!」
    2人の目の前に浮かんだのは、2台のスマホ。
    「(*^^*) チーズ♪」
    「チリちゃんのスマホ!」
    パシャリ!
    横並びのチリたちを画面に写しながら、2台のスマホは同時にシャッターを切った。正真正銘、この世界で最後の記念写真。チャンプルタウン以来、ずっと託しっぱなしだったAチリのスマホは、ようやく紺の袴のポケットに収まった。

  • 27二次元好きの匿名さん24/04/30(火) 15:13:40

    「……チリチャン」
    撮影が済むなり、もう1人の自分へと力いっぱいに抱きつくBチリ。

    「ん?どうしたん?」
    Bチリを正面から受け止め、背中を抱きかえしたAチリは、緩みかけた目柱にフタをした。

    「……友だちに、なってくれる?」
    「!」
    カタコトではない、いつにも増してハッキリした口調。
    「な、なに言うとるん。チリちゃんら、もうとっくに、友だち、やんか」
    涙腺が不意をつかれ、Aチリがクシャリと顔を寄せた。
    「自分ズルいって……気持ちが、鈍ってまうやろ」
    Bチリの顔は見えない。だが、Aチリの肩ごしからは、かすかにしゃくり上げ、鼻をすする音が聞こえる。互いのハグが、ますます強まった。
    「チリさん!いけませんッ!今度はアナタが消えてしまうかも!!」
    「チリ、チリ!!気持ちはすっごく分かります!でも、でも、こらえてちょうだいッ……!」
    顔中をしとどに濡らしたアオキとオモダカが、Bチリを引きはがした。引きずられながら、Aチリへと両手を伸ばし続ける彼女も、目を真っ赤にして泣きはらしている。

    「さようならドッペル婦人!さようならああ!!」

    「ミス・ゲンガー!うわああん!!」

    「バイバイ!バイバーイ!!バイバーイ!!!」

    「おーーーい!チリちゃああん!自分、アホやあらへんよおお!!

    ずっと、ずうううっと、そのまんまでおりやあああ!!!」

    大勢の万歳。アオキとオモダカの泣き声。そして、Bチリの絶叫。

    もう1人の自分への激励をさけぶと同時に、Aチリの意識は真っ暗になった。

  • 28二次元好きの匿名さん24/04/30(火) 16:59:52

    ……かった……しんぞ……動いて……ちゃああん……さまして……
    チリの意識は、聞き覚えのある声で浮上した。暗闇だった目の前が、しだいに満天の星空へと変わっていく。ぼやけていた彼女の視界は、カメラのピントが合うかのごとく、じっくりと鮮明になった。
    「ち、チリ……ちゃん?」
    星空の右端から、皿のような瞳が覗きこんでくる。
    「チリちゃん……チリちゃああん!!」
    呆然と紺の着物をゆさぶったポピーが、仰向けに横たわるチリの胸に顔をうずめた。
    「ああああん!!いきてて、よかったあああ!!」
    くぐもった叫び声で号泣するポピー。彼女に釣られたのか、暑苦しいテノールでむせび泣く男の声も聞こえてきた。
    「ゔゔゔ……!小生は、正直……もうダメかとっ………!!しかし、ポピーくんのおかげで、諦めずに、すみまじだっ……!」
    皮肉屋と同じ声。だが、抑揚が何倍も豊かだ。ポピーを胸にうずめたままギョッと見開き、チリは上体を起こした。木の渡し。立て札。ぼんやりと光る七色の池。
    「う、うぼおおおおおいおいおい!!よくぞ、よくぞご無事でええ!!」
    泣きじゃくるポピーに負けじと、四天王の長が顔を覆った。
    「ハ、ハッサク……さん?」
    感動屋の泣き上戸を唖然と見やるチリ。たった今まで接してきた彼とは、立ち振るまいが真逆だった。
    「言ったろう?オカルトを舐めちゃダメってさ」
    最前列で泣きわめくハッサクの横に、悠々と進みでたラッパー。ライムが彼の背中を優しくさする。
    「ジニア先生。長い付き合いになりますが、1、2を争う大手柄ですよ……!」
    静まり返った群衆の中から、クラベルの静かな拍手が鳴る。先ほどまでと同じく、チリを円形に取り囲んだ一同。大まかにチリが目で追ったかぎりでは、人数もメンバーもほとんど同じだ。
    オモダカと他の四天王。ジムリーダーやアカデミーの教師陣に、キタカミの姉弟とブライア。
    そして元スター団――もっとも先ほどの彼らとは違い、全員が素顔に制服姿ではあるが。
    「ウチ、戻れたんか……」
    「そのようですね。チリ、おかえりなさい」
    チリは、一瞬だけ眉をしかめた。
    感情に素直なはずのオモダカが、真顔はそのままに、口元をクスリとしか緩ませていないではないか。チリは、まるで寝起きのように焦点の合わないまなざしで、周囲を見回した。

  • 29二次元好きの匿名さん24/04/30(火) 17:05:35

    「アオキさん、あの甲冑の重さって何キロやったかな……」
    「……?自分に骨董品の趣味はありません」
    暑苦しかったアオキも、猫背や表情をピクリとも動かそうとしない。
    「そ、総大将。相撲大会は?」
    「すもう?ハイダイさんなら詳しいはずですが……」
    口調こそ戸惑っているが、相変わらずポーカーフェイスのオモダカ。
    「正直、マユツバだと思ってたけど。とりあえず、僕たちが心配してたのは確かだよ」
    キタカミ地方は温暖だ。しかし、防寒着に身をつつんだグルーシャは汗ひとつかいていない。
    「安心して、チリちゃん。オモダカちゃんはクールビューティーだし、ハッサクさんのお口もチョベリバじゃないから」
    「それに、わたしもこの通り無事だぞ!五体……えっと」
    「……満足」
    「そう!五体満足だ!ハハハ!!」
    目を閉じ、ため息をつくリップ。おおらかに笑うキハダの姿も、白衣にスニーカーではなく、黒いジャージにシューズだ。
    「……チリちゃん、帰ってこれたんや……みんなのおかげで……!」
    状況を理解するにつれ、赤い瞳がウルウルと揺れた。
    「ポピー!ポピー!!」
    胸にしなだれたポピーを、強く抱きしめるチリ。
    「ごめん、ごめんなポピー……チリちゃん、黙って消えてもうて……」
    「いけないのはポピーです……ひどいこと言って、ごめんなさい……!」
    組み合う2人に、ハッサクの号泣がますます大きくなっていく。「やれやれ」と苦笑まじりに彼を撫でつづけるライム。ひとしきり抱きあったチリは、ポピーを引き離すと、思い出したように袴のポケットをまさぐった。
    「せや。ポピー、これ!」
    「これは……!」
    残った涙をぬぐい、差し出された写真を受け取るポピー。それは、完全に像を取り戻したチリとポピーが頬ずりしている、あの写真だった。
    「捨てたこと、ずっとこうかいしてましたの」
    「そう思うて、持っといてよかったわ」
    笑顔で華やいだポピーの肩に、チリが両手を置いた。
    「ただいま、ポピー!」
    「おかえりなさい、チリちゃん!」
    曇りのない晴れやかな目どうしが合わさる。2つのパルデアリーグは、ようやくあるべき形を取り戻したのだった。

  • 30二次元好きの匿名さん24/04/30(火) 17:16:12

    「総大将。四天王のみなさん。それに、集まってもらったジムリーダーやら他のみんなも……。どえらい迷惑かけてすんませんでした」

    スクッと立ったチリは、目の前のオモダカ、そして周りの一同に深々と頭を下げた。
    「いいえ。貴女の無事が分かっただけで、胸を撫で下ろす思いです」
    目を細めたオモダカが微笑を浮かべる。その柔和な笑みには、もう1人の彼女を彷彿とさせるような優しさが滲んでいた。

    「あの〜……わたし、さっきから気になってるんですけどぉ……」
    群衆の合間から、カエデの手が挙がる。
    「チリさんの横にあるお荷物、中に何が入ってるんでしょう?」
    人差し指をアゴに当てたカエデに、周りの何名かも同調する。
    「言われてみれば。いつものスタイリッシュなシャツとサスペンダーはどうした?」
    「紺色の着物に袴……さながら、ホウエン地方の達人のごとし……」
    「テラスタルの結晶による神隠し……!もしやハルトくんから耳にした、鬼さまと男についての口伝にも関係が!?」
    面白い話のタネになる、と本能で直感したらしいコルサやシュウメイ、ブライアは、目を爛々と輝かせながら身を乗り出している。
    「あー……おいおい説明しますわ」
    目を横線にしたチリは、大きなバッグとアタッシュケースを、それぞれ肩がけと右手に持った。

    「……そうですね。先生のみなさんや生徒がたには帰宅していただくとして、
    ジムリーダーと四天王は、速やかにリーグへと集合しましょう。もちろんチリも。
    ポピーの親御さんにも、定時を超える旨、許可は取ってあります」

    眉間を指でおさえたオモダカが、目を閉じたままテキパキと指示を出した。オモダカを先頭に、池を去っていく一団。
    「待って欲しい!その集まり、私も参加させてもらえないだろうか!?」

    「あっ、先生!引率なのに置いて行かないでってば!スグ、あんたも来なさい!!」
    「わ、わや……」

    一行の後ろに追いすがったブライアと姉弟。
    30名以上の大所帯が消えてまもなく、水面から光が消えた。ふたたび夜にまぎれた池には、水の清らかな流ればかりが鳴り響いている。

  • 31二次元好きの匿名さん24/04/30(火) 17:27:58

    月刊オーカルチャー増刊号!

    『トップトレーナー・C氏が語った!もう1つの平行世界(パルデア)!?』

  • 32二次元好きの匿名さん24/04/30(火) 23:07:29

    元の世界だって分かる書き分け力よ

  • 33二次元好きの匿名さん24/05/01(水) 01:14:41

    >>31

    「そうでしたそうでした!ここでラリーさんが……アハハ!」

    「( ˙-˙ )」


    もう1人の自分が去ってから数日。

    (年中とぼけているとは言え)Bチリは、いつにも増してボンヤリと日々を過ごしていた。


    「( ˙-˙ )」

    「……チリ……」


    今日もこうして、面接(おままごと)と実技試験の合間にアカデミーを訪れている。


    「大丈夫です!また必ず会えます!わたくしの予感って、よく当たるでしょう?」


    2人のチリが、ほんのわずかの間だがシェアしていた教師寮の部屋。

    己のスマホでちゃっかりと録画していたAチリのジム巡り。

    寮のベッドで腰がけながら、オモダカと2人に鑑賞するのがBチリの日課となっている。


    「そ、そうだ!ジムチャレンジの期間が終わったら、みんなで旅行に行きましょう!気分転換しに!ね?

    そうねぇ……わたくしはアローラ地方がいいなあ……」

    Bチリを元気づけようと、彼女の頬に顔をすり寄せて、つとめて明るい態度でおどけてみせるオモダカ。


    「( ˙-˙ )」

    だが、心ここにあらず。

    浮かんだスマホに真顔で見入るBチリの頭には、まるで長い冒険や旅から帰ってきた後のような、Aチリとの思い出や、もう会えないのだろうという寂しさが、グルグル駆けめぐって反響しているようだった。


    「チリ。アローラには、マラサダっていう食べ物があるんですって!それに、パルデア地方にも負けないぐらい大自然も豊かで……」

    いつもの陽気なBチリに何とか戻ってもらおうと、大げさな身ぶり手振りでオモダカが語りかけていると。

    「理事長、こちら?」

    規則正しいノックが3回。

  • 34二次元好きの匿名さん24/05/01(水) 01:16:40

    「は、はい!」
    「チリさんに届け物があるの」
    「届け物……?はい!ど、どうぞ!」
    「失礼するわねぇ」
    ドアが開き、アカデミーの天然マダムことミモザがフワリと入ってきた。

    「この間のキャンプ、行けなくてごめんねぇ?保健室でお昼寝してたら、すっかり真夜中になっちゃってたの……」
    「お気遣いなく!……それで、チリにお届け物って……?」
    「うふふ。こーれ♪」
    おっとりと首をかしげたミモザ。セーターの両腕に掛けられているのは、クリーニングのビニールで包まれた衣服が1枚。
    「……こ、これって!」
    相手と同じ姿勢で受け取ったオモダカは、
    伸ばした2本の腕を竿がわりに掛かっているソレを、目を丸くしてソレを見つめた。

    「用務係の人が取っておいてくれたみたいよぉ♪この部屋に忘れてあったんだってぇ」
    黒いスーツが、穴が空くほど衣服を凝視している。
    「ありがとうごさいます!ねえねえ、チリ!ほらほら!これ!」
    喜色満面で寝室に駆けこんでいったオモダカ。
    「助かったなら何よりだわぁ〜♪お洋服がないと、スッポンポンで過ごさなきゃだもんねぇ♪」
    ふにゃりと笑ったミモザは、「バイチャ♪」と言い残し、右手をかざして退室した。

    「チリ!チリ!見てください!ほら、これ!」
    Bチリは、ベッドの上で変わらず虚無の表情。
    しかし、何度もしつこく肩を揺らしてくるオモダカに辟易し、スラックスの太ももを「( -᷄ω-᷅ )」と見やった。

    「ほら!彼女のですよ!」
    「( °o°)……ホオオ……」
    Bチリの、驚いたり感じ入った時のクセ。嘆息した彼女も、オモダカと同じく衣服を凝視した。

    スラックスの両ももを橋わたししている衣服は、くたびれた灰色のシャツだったからだ。

  • 35二次元好きの匿名さん24/05/01(水) 01:17:57

    「とびっきりの置き土産ですね!」

    「(;▽;) イエス!イエス!」

    首が飛ばんばかりに縦ゆれする。ジム巡りのため、色違いのシャツに着替えた際に忘れていった物。

    Aチリが無数の「あかし」を持って帰ったように、Bチリも、かけがえのない思い出の「あかし」を受け取った。

    ビニールをひっぺがし、Aチリのシャツに頬ずりするBチリ。

    たとえ存在が離れ離れになったとしても、「心」が揺るがなければ、また会える。

    ――また会えた!きっとトップは、とんでもねぇ神様に違いない!

    涙目になりながらベッドを転がり、くしゃくしゃになっていくシャツに抱きついて戯れるBチリ。

    そんな様子を、自身も鼻をすすりながら、横に腰かけたオモダカは、慈母のような微笑みで見つめていた。

  • 36二次元好きの匿名さん24/05/01(水) 01:22:56

    ※終わり!

    「チリ婦人とドッペル婦人」は以上です。長かった……!健康な生活を保つための日記がわりにしていました笑

    長々とお付き合いいただいた方々に感謝!それから、前で次スレの誘導を張ってくださった方にもお礼申し上げます。

    思いついた単発ネタなどをライトニングで貼ったりするかもですが、このスレはここで一旦ひと区切り。

    残りのレスは「ジャマだ!」「ことある毎に浮上しやがって!」などなどの罵詈雑言、このまま落とすなど気ままにお使いください。

  • 37二次元好きの匿名さん24/05/01(水) 01:27:54

    主です。明日にでも改筆&修正したライトニングまとめを貼って、自分の書き込みは終わりにします。

    追ってくださった方々、コメントをくださった方々などなど、本当にありがとうございました。また、どこかのスレで(もしくは新たなssスレで)お会いしましょう。

  • 38二次元好きの匿名さん24/05/01(水) 09:13:12

    毎日の楽しみが終わってしまうのは悲しいけど面白かった!
    最初に見た時から追ってたけどいっちばん発端は2ヶ月以上前だったんだな…

  • 39二次元好きの匿名さん24/05/01(水) 17:20:23

    いいSSスレだった!

  • 40二次元好きの匿名さん24/05/01(水) 17:54:07

    何回かレスしたけど、そこにキャラがいるみたいに活き活きしてたよ

  • 41二次元好きの匿名さん24/05/02(木) 00:00:23

    いま読めた
    反転してるけど根幹?は変わってないなあって思ってすっごくすごい

  • 42二次元好きの匿名さん24/05/02(木) 00:37:47

    >>39

    >>40

    >>41

    ありがとうございます……!


    主です。


    ライトニングまとめを載せようかと思っていましたが、仕事疲れでコピペする余力もなく……


    支部にも、より違和感を少なくすべく同時進行で改筆・推敲していた(自分の中で)完ペキ版を投稿していますので、


    垢のリンクを貼って代わりにします……


    けつあつ主にポケモンSV二次創作の者。ssや小説を書くのが趣味です。

    こちらでは、ちょっぴりダークだったりシュールな作風を投稿します。複垢持ち。

    投稿する文章のジャンルや毛色で使用を分けています。

    ↓正気なのを書く垢

    https://www.pixiv.net/us…
    www.pixiv.net
  • 43二次元好きの匿名さん24/05/02(木) 00:43:39

    それから、前スレに貼った、次お目汚したいなあ……と10%だけボンヤリ考えている予告編をば


    【※予告編?】真剣勝負、しろ!! in ガラル | Writening『勝負の道に 魂こめ〜た♪ 1人の男が 今日も行く〜♪』 ここは、ガラル地方。 交代制で務めるキルクスタウンの親子も含め、 無敵のチャンピオン・ダンデと全てのジムリーダー、 そしてリーグ委員長・ローズ…writening.net

    反転したグルーシャさんが、元の性格や立ち振るまいはそのままのガラル地方に乗りこむお話……


    あくまで、概要をつめこんだパイロット版()ですので、本文では人物関係や時系列などに変更があるかも……

  • 44二次元好きの匿名さん24/05/02(木) 08:57:17

    inガラルめっちゃ気になる
    またスレか支部に出てくるの待つわ

オススメ

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