キヴォトスには!!

  • 1二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 12:48:50

    もう誰も残っていません!
    本官だけです!
    みんな、みんないなくなってしまいました!
    コンビニもファミレスも、派出所も病院も、空っぽです!
    誰も彼もが、私を残していなくなっちゃいました!

    私ひとりを残して。

  • 2二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 12:49:56

    キリノ*テラー誕生秘話…?

  • 3二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 12:51:24

    守れなかったんだね…

  • 4二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 13:01:20

    目を覚ます。顔を洗う。ゼリー飲料で空腹を満たして、洗った制服を身に着け、銃をホルスターに収める。
    毎朝繰り返されるルーティーン。そんなことをしても、意味なんてないとわかっていても、しがみつかずにはいられない無駄な行為。

    「おはようございます!今日も一日、市民の安全のために頑張りましょう!」

    鏡を前に、宣誓。私を見る瞳は濁っていて、自分が自分を責め立てているようだった。
    外に出て扉の鍵を閉め、パトロールを始める。無線機は鳴らない。スマホは充電されていても通知なんて来なくなって久しい。
    いつものパトロールコースを、ゆっくり、ゆっくり進む。
    ゴミ一つない綺麗な道路。見慣れた銃撃戦の痕跡をマークして、次の補修個所をリストアップする。

    誰も彼もがいなくなってから、一日は恐ろしく長くなった。
    やることを見失えば、おかしくなりそうだった。
    だから、パトロール以外にも、街の保全作業をするようになった。
    もう行われることのない銃撃の痕を、パテやコンクリで埋めて、綺麗に均すのもその一環。

    けれど、考えてしまう。この作業は、誰かが確かにいた足跡を消し去ってしまう行為で。
    これが全部終わった後、自分がどうなってしまうのか。それが、恐ろしくて。
    奇妙な動悸に襲われかけて、かぶりを振る。考えないように、忘れてしまえるように。

    「今日も町は清潔、安全です!」

    大きな声で叫んでみても、うるさいと叱ってくれる人はいない。
    朗らかに笑ってくれる人もいない。
    虚しく青空に消える自分の声に押し潰されそうになって、涙がにじむ。
    パトロールを続けよう。自分に殺されないように、必死に足を動かす。

    業務日誌には、同じ文面が綴られるようになって久しかった。
    『今日も 何もない 素晴らしい一日でした』

  • 5二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 13:11:33

    誰もいなくなった街ってどこからか砂や埃が飛んでくるんだよね。そのうち落ち葉が吹き溜まりに積もって、紙や新聞紙が飛んでくるようになる。野鳥や小動物がいろんな隙間に巣を作るときに木の枝の代わりに材料にするんだ。糞が落ちて植物の種が運ばれ根を張るようになる。虫が飛び交うようになれば立派なコンクリートジャングルの完成よ。

    そんな中でピカピカにアイロンがけされた制服でパトロールするキリノテラーは見てみたい。

  • 6二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 13:17:05

    なんかこのキリノ*テラーは先生が別の滅びたキヴォトスに飛ばされる展開で無表情なキリノが
    「警告します」みたいに銃を構える展開が起きそうに感じた

    このキリノたぶん無名の司祭が現れた際に生きてた住民と勘違いするけどなんか不審なことやりだした際にその辺に落ちてた鉄パイプとかで殴り○しそう

  • 7二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 14:02:55

    逆に銃の腕が百発百中になるだよね…

  • 8二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 14:08:29

    良い天気だ

  • 9二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 14:09:55

    >>7

    逆に空に向かって撃ったら予測できないところから当たるのも良い

  • 10二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 14:12:25

    これでも起きたのか?

    SCP-3519 - SCP財団scp-jp.wikidot.com
  • 11二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 14:21:38

    金色の巨大な狼とか
    砂漠を飛ぶピンク色の鷹とか
    トリニティ上空にいる翼の生えた生命体とか

    いないかな?

  • 12二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 18:25:14

    このレスは削除されています

  • 13二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 18:25:45

    >>11

    いない可能性が高い


    まあそういうのがいる場合ミレニアム辺りに行けばまだ人がいそう

    ただ百鬼夜行には真っ赤な龍とかツノのついた巨人、トリニティには翼付きのなにかだけではなく黒猫も1匹(赤い豹も1匹?)いるかも

  • 14二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 19:18:05

    最初の朝は、本当に唐突だった。
    異様なまでの静寂が朝の帳を押し潰し、目覚まし代わりのスマホのアラームがそれをつんざいて鳴り響いていた。
    朝のニュースは映らなかった。両隣の住人は起きだす気配もなかった。
    確かな違和感が背後に忍び寄っていることに気づきながら、それに目を瞑って町に繰り出して。
    誰もいなくなってしまった、キヴォトスに出会った。

    それから、どれくらいが経っただろう。
    恐怖と、孤独と、不安と、そしてそれらに磨り潰される絶望でおかしくなりながら。
    ゆっくりと砂と木々に覆われていく、かつての都市部を必死に取り戻そうとして。
    やがて、その行いが何の意味も持たないことを見せつけられる。
    どれだけ頑張っても、一人の力で都市をそのまま保存することなんてできない。
    まして、ただの警察官が。何のノウハウもない警官が、そんなことをできるはずもなくて。

    「……今日も、街は静かです」

    とっくに電池の切れたボイスレコーダーに、それを吹き込む。
    電気はずっと前に使えなくなった。変電所が壊れるか何かしたのだろうけれど、私にはわからなかった。
    ただ、夜の寒さや暑さに耐えながら、文明の利器に変わるものを探したり、残された保存食や缶詰、期限の切れていない食べ物を探して歩くようになるまで、そう時間はかからなかった。
    キヴォトスには、今日も誰もいない。
    それでも、私は。
    『本官』は、この地を守る警察官として、必死に覚えた手入れによって綺麗に整えられた制服を身にまとい。
    今日も木々の生い茂るビル群の中を歩く。
    野生の動物が、時折本官を興味深そうに眺めるのを、ただ何の感慨もなく見つめ返した。

    「本官は、街を守るのです。皆の笑顔を、平和を」

    「みんな、みんな、どこにいったんですか」

    いつものように。答えは返ってこない。

  • 15二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 19:38:17

    一夜にして消えたのか……

  • 16二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 19:47:57

    美しい…形容し難い吐き気を感じる…

  • 17二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 19:49:03

    1の時点でハイライトがないのか

  • 18二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 20:06:24

    「今日のご飯は鯖の味噌煮の缶詰です!とっても膨らんでいますが、缶詰は封が空いていなければ食べられるはずなので!」
    「では開けてみますね!けほっ、ガスが、凄いですね……。でも、匂いはそんなに悪くありません!」
    「レトルトのご飯も準備したので、今日は鯖の味噌煮丼です!なかなか豪勢になったんじゃないでしょうか!」

    充電の切れたスマホが立てかけられている。
    そのスマホの手前で、大きな声で騒ぐ私がいる。
    時折、発作のようにこんなことをしていた。配信とか、録画とか、そういうものの真似事をして。
    ご飯は美味しい。いつもの保存食でも、ガス缶が手に入ったから温めて食べられる。
    その温かさが、千切れそうになる精神を繋ぎ留めていた。
    繋ぎ留められて、しまっていた。
    いっそ擦り切れて、自分の首でも撥ねてしまえれば楽だったろうに。真っ直ぐで強固だった精神は、苦しみ捻じれ切っても、尚その強さを失えずにいる。

    食事は美味しい。
    美味しいだけだ。美味しさを共有することができない現実を、押し付けられて苦しむだけだ。
    それでも、お腹は空いて、食事を作る手は淀みない。
    死にたくない。生きていたい。この街を、守る使命がまだ残っている。
    どんな敵にだって立ち向かえる。この絶望を終わらせられるなら、皆が戻ってきてくれるなら。

    何もわからず孤独になったあの日から、夢に見なかったことはなかった。
    目を覚ませば、また自分の部屋のベッドで目を覚まして。
    やかましいアラームで起こされたら朝のニュースを見ながらご飯を食べて。
    学校へ行ったら同僚や上司と話をして。パトロールでは市民の皆さんと交流しながら平和を守る。
    そんな、当たり前の日々が戻ってこないだろうか。

    「……どーなつ、たべたいなぁ」

    あの子が好きだった、あのお菓子が無性に食べたくなった。

  • 19二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 20:17:38

    キリノ曇らせが美しいなんて僕のデータにないぞ!?

  • 20二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 20:19:26

    アイ・アム・レジェンドって映画思い出したわ

  • 21二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 20:20:10

    どうしようキリノ可哀想だけどこれはなかなか
    誰かが独裁スイッチでも押しまくったみたいな惨状だ…

  • 22二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 20:22:39

    美しい…これ以上の芸術はs(色々略)

  • 23二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 20:54:15

    気が付くと、お腹が空かなくなっていた。
    疲れもしない。日が暮れるまで、日が昇るまで、歩き続けても立ち止まることがなかった。
    私はおかしくなっている。なにもわからないのに、そんなことばかり理解できる。
    でも、それがなんだというのだろう。私がおかしくなって、何が不便なのだろう。
    どうせ誰もいないのに。毎日毎日、パトロールという徘徊を続けて、誰とも知れぬ何かを探す日々に、何の意味があるのだろう。
    それならいっそ。自分も消えてしまいたかった。
    どうして一人だけ残されたのか。局長や、SRTの生徒や、他の、もっと何かが出来る人たちが残されていれば。
    もしかすると、他の人を呼び戻す方法も見つかったかもしれない。
    だけど、現実はそうじゃなくて。私は何をすればいいのかもわからないまま、今日も生きている。

    "────キリノ?"

    ありえない、声を聞いた。
    何年、この都市を這いずり回ったかわからない。気が付けば、制服ではなく汚れの目立たない、ポケットの多い黒のロングコートを愛用するようになっていた。
    かつて私を彩ってくれた制服は、部屋のタンスの中に丁寧に収まっている。
    そんな私を、変わってしまった私を、呼び止める声を聞いた。

    「せ、ん、せい……?」

    いるはずのない人が、いた。
    わたしは、ソレに銃を向けて──

  • 24二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 20:55:59

    や、やめろ…

  • 25二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 21:05:38

    このレスは削除されています

  • 26二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 21:10:05

    "やっぱり、キリノなんだね"
    「く、くるな……」

    当たらない。

    "落ち着いて、私だよ"
    「ちがう!」

    当たらない。

    "キリノ、何があったか話してみて。力になれるか、わからないけど"
    「だまって、だまってください! きえて、わたしにきぼうをみせないで!!」

    当たらない。当たらない。当たらない。当たらない!
    狙っているはずなのに、私のへたくそな銃撃はまるで吸い寄せられるようにソレの周囲を抜けていく。
    消さなければいけない。
    無理なんです。私は、耐えられない。
    このまま虚しい時間が過ぎ去るのは良い。それは、慣れてしまったから。
    いっそ殺してほしいと願いながら、いつまでも都市が緑に覆われていくのを見続けるのが、私の役目なのかもしれないから。

    でも、でも、もしも目の前に、一筋の糸を垂らされて。それが失われたとき、私は壊れてしまう。
    だから消えてください、私は、あなたを、希望を受け入れたくない。
    縋ったら消えてしまう夢を見せるくらいなら、いっそ殺してください。

  • 27二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 21:12:17

    "キリノ"

    「こな、いでえぇ……」

    "何があったかわからないけど"
    "話をしよう。大丈夫だから"

    いつの間にか、ソレは、先生は目の前にいて。
    私の手の中の銃には、先生の暖かな手が覆いかぶさっていた。

    「せん、せい……」

    ああ、希望がやってきてしまった。

  • 28二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 21:16:03

    キリノ一人が残されたのか、それともキリノ一人だけどこかに飛ばされたのか

  • 29二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 21:20:30

    普段元気な子の絶望はガンにも効く

  • 30二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 21:42:18

    「本当に、先生なんですね……」
    "ここは、キヴォトスなんだよね……? 一体、何があったの?"
    「わからないんです。もう何年も、何十年も? ええと、あの、凄く時間が過ぎてる気がするんですけど、よくわからなくて。いきなり皆いなくなって、それからずっと、ずっと一人で、あの」
    "落ち着いて、ゆっくりでいいから"

    先生の優しげな眼差しに見守られるまま、これまでのことをゆっくり話していく。
    そうして分かったのは、先生は私の知っている先生とは少し違うということ。
    ……いなくなってしまった先生ではなかった。皆がどこに行ったのか、それはわからなかった。
    けれど、先生は違う先生でも、やっぱり先生で。
    ずっと人と話さずにいたせいで、会話が上手く出来なくなっていた私を、しっかり誘導して話をしてくれた。

    "そっか。……一人で、ずっと頑張ってきたんだね"
    「……」
    "街がこんな風になるまで、ずっと一人で。……本当に、よく頑張ったね。キリノ"
    「せん、せい……! 私は……!」

    言葉にならない声を漏らしながら、先生の胸に顔をうずめる。
    そういえば、気づけばもう先生と同じくらいの背になっている。……それくらい、時間が経ったということなのだろう。
    結局、私は一晩、先生に抱き着いて泣きつかれ、そのまま眠ってしまったようだった。
    ……誰かが傍にいるというのが、こんなに心安らぐなんて、初めて知った。

    もう、一人は嫌です。

  • 31二次元好きの匿名さん24/05/12(日) 22:35:57

    >>30

    美しい

  • 32二次元好きの匿名さん24/05/13(月) 00:07:20

    曇らせとか以前に普通に面白い
    どうなるんだろ…

  • 33二次元好きの匿名さん24/05/13(月) 00:35:20

    それから、私と先生はこのキヴォトスを歩き回った。
    私と違って普通の人間の先生は、私の歩く速度についてくるだけで精いっぱいだから。
    ゆっくり、はぐれないように。
    伸ばしっぱなしでほったらかしになっていた髪は、先生が一つに結んでくれた。こういう時のために、といつも髪ゴムを持ち歩いているらしい。
    野生の動物が襲ってこないとも限らないので、銃は常にすぐ抜ける位置に保持している。

    「……先生、なにかわかりますか?」
    "人がいなくて、荒れている以外は、普通の街だね……。逆におかしく感じるくらい"
    「そう、ですよね……。私もいろいろ探しましたけど、結局何も見つけられませんでした」

    ついさっきまでいたはずの人たちが、その場で煙のように消えてしまったとしか思えなかった朝。
    あの日から、家の中などは極力触らないようにしてある。
    木々の成長であれ始めてはいても、そこはあくまで他人の部屋なのだから。
    『本官』がそれを妨げるわけにはいかなかった。

    「そういえば、先生はなぜここに……?」

  • 34二次元好きの匿名さん24/05/13(月) 07:56:25

    続きに期待

  • 35二次元好きの匿名さん24/05/13(月) 14:26:05

    >>20

    映画『アイ・アム・レジェンド』もその原作たる『地球最後の男』(作:リチャード・マシスン)も人間の成れの果てだった生物が闊歩している世界が舞台だけど、果たして今作は…?


    …ところで、キヴォトスに乾電池は存在しないんでしたっけ?

  • 36二次元好きの匿名さん24/05/13(月) 14:37:06

    この世界に入り込んでキリノの目の前で先生を有無を言わせず元の世界に送り返したい
    その後帰還した先生の世界の自分と入れ替わる方法をキリノに教えてから爆発四散したい

  • 37二次元好きの匿名さん24/05/13(月) 14:38:23

    >>36

    元凶がよぉ……

  • 38二次元好きの匿名さん24/05/13(月) 20:01:42

    >>36

    なるほど今一人取り残されているキリノはそうやってこの世界に送られた可能性があるのか

  • 39二次元好きの匿名さん24/05/13(月) 22:23:55

    キリノがこんなシリアスに曇らせられるのを見ることになるとは思わなかったよ…

  • 40二次元好きの匿名さん24/05/13(月) 23:21:53

    ”私もよくわからないんだ”
    ”シャーレで仕事を片付けていたら、ここにいてね”

    先生にも、詳しいことはわからないようだった。
    ただ、先生がいた場所は普通のキヴォトスで、こんな風に荒れてもいなければ、人がいなくなってもいないと。
    それでますますわからなくなってしまった。
    一夜で私以外の誰もがいなくなったこと。
    そして今、先生が唐突に現れたこと。
    そのどれもが理解できない。目を背けていたことが、目の前に出てきてしまう。
    どうして、誰もいなくなってしまったんだろう。

    「……先生は、帰り方はわかるんですか?」
    ”それもなにも。……まあ、なんとかなるよ。一人じゃないから”

    一人じゃないから。
    あっけらかんと言ったその言葉に、思わず泣きだしそうになった。
    それと同時に、こうも思った。

    この人は、私の孤独を本当の意味で理解してはいないんだな、と。

    そんなことを想うべきじゃ、ないのに。

  • 41二次元好きの匿名さん24/05/14(火) 01:43:25

    絶望はそう簡単には癒えないか

  • 42二次元好きの匿名さん24/05/14(火) 01:55:47

    viewers:1っていうショートムービー思い出したわ

    折れかけの心を何とか繋ぎ留めながら孤独に彷徨うこの感じ

    グランプリ作品『viewers:1』「リモートフィルムコンテスト」【GEMSTONE】 第6回


  • 43二次元好きの匿名さん24/05/14(火) 08:23:06

    先生が来たことが良い方向に働くといいけど…

  • 44二次元好きの匿名さん24/05/14(火) 17:50:11

    待機

  • 45二次元好きの匿名さん24/05/14(火) 19:30:08

    最後はいつもの楽しい日常に戻って泣きそうなくらいの笑顔になって欲しい

  • 46二次元好きの匿名さん24/05/14(火) 23:25:49

    それから、また何日も、彷徨う日々が続いた。
    パトロールではなく、明確な、何かを探す日々。
    でも、不思議と心は軽かった。軽い、ということにした。
    先生が一緒にいるからだろうか。……それとも、吐き出す相手がいればそれでよかったのだろうか。
    どちらにせよ、その日々は今までよりもずっとましな日には違いなくて。

    「今日も、なにも見つかりませんでしたね……」
    ”そうだね……。明日はもう少し遠くまで行ってみようか”

    私の部屋に戻ってきて、二人で缶詰を開けながら話し合う。
    暖かいご飯はお預けだ。ガス缶には限りがあるし、外で火を燃やすわけにもいかない。……この期に及んで、まだ私はかつての街の在り方をそのまま残したいと考えているのだろうか。
    どうせ、外には木々が生い茂り、森なのか街なのかわからなくなりつつあるというのに。

    「……このまま、何も見つからなかったら」
    ”大丈夫、諦めないで。きっとなにか”
    「やめてくださいよ!! そんな風に、分かったようなことを言って!!」

    先生の宥める言葉に、思わず言葉が口をついて出た。

    ”……ごめんね。軽率だった”
    「あ、や、ち、違います、ごめんなさい、私、酷いことを、ごめっ、ごめんなさっ」

    そんなこと言うつもりじゃなかったのに。
    言っても仕方のないことだから、怒っても意味のないことだから、言わないようにしていたのに。
    思わず立ち上がり、開けた缶詰をそのままにして、部屋から逃げ出した。
    先生が手を伸ばし、声を上げるのも無視して。
    暗がりに沈んだキヴォトスを、私たちがいたはずの街を走っていく。

  • 47二次元好きの匿名さん24/05/15(水) 00:34:54

    「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
    走って、走って、走って。
    振り切るように足を動かし、辿り着いたのは、ところどころが木々で崩壊した母校。
    ヴァルキューレ警察学校の本校だった。
    「……はは、行くところなんかない、ってことなんでしょうか」
    乾いた笑みをこぼしながら、なんとなしに学校に入る。
    ツタに覆われた受付を通り過ぎて、教室や事務室を一つ一つ見て回って。
    昔、自分が歩いていた場所を辿るようにして、自分のデスクだった場所にたどり着く。
    「写真が……」
    デスクに置いてあった写真は、もう変色して自分以外がにじんでしまっていた。
    ファイルに入った書類が手を付けられないままほったらかしになっている。日付は、自分が一人ぼっちになった前日だった。
    「結局、これやらなかったですね……」
    ドタバタしていて、手を付けることを忘れていたんだと、誰にでもなく言い訳をしながら。
    木々の浸食でデスクの上が少々手狭になっていることを除けば、以前のままのデスクがそこにある。
    座って、居眠りでもしてみようか。上司から怒鳴りつけられて、この夢から覚めるかもしれない。
    「……それこそ、夢ですね」
    古くなってギイギイとうるさい椅子に腰かけて。
    少しだけ、昔の思い出に浸ることにした。浸ろうと思わなければ、思い出すことも出来なくなった、古い古い思い出に。
    ほんのちょっぴり思い出したら、また歩きはじめるから。
    今は、少しだけ。余裕のない心を休めさせてほしかった。

  • 48二次元好きの匿名さん24/05/15(水) 00:42:49

    美しい……
    真の芸術とはこういうもののことを言うのだ

  • 49二次元好きの匿名さん24/05/15(水) 00:54:16

    大丈夫?寝ている間に先生元の世界に戻ってたりしない?

  • 50二次元好きの匿名さん24/05/15(水) 03:41:16

    普段天真爛漫でギャグ属性の子が心壊れる寸前まで追い詰められちゃってるのは私に効くのでどうか救いをくれ…!

  • 51二次元好きの匿名さん24/05/15(水) 04:06:07

    あまりにも良すぎる

  • 52二次元好きの匿名さん24/05/15(水) 04:14:57

    やっぱり色彩や司祭のせいなんだろうか

  • 53二次元好きの匿名さん24/05/15(水) 08:33:06

    せめて幸せな夢を…

  • 54二次元好きの匿名さん24/05/15(水) 08:57:13

    >>53

    でも空想の中で幸せを手にしちゃうと現実の虚しさに気づいてしまうからな…うっかり自殺しかねない

  • 55二次元好きの匿名さん24/05/15(水) 12:38:43

    >>54

    もしかしてブルックってやばい?

  • 56二次元好きの匿名さん24/05/15(水) 12:40:56

    >>55

    もしかしなくてもやばい

    何がやばいって楽になる方法があるのにそれをあえて選ばない心の強さ

  • 57>>3524/05/15(水) 16:16:20

    >>56

    >楽になる方法がある

    …そっか

    ヨミヨミの実による蘇生の能力はもう使い切ったから、後は海に身を投げれば…


    >それをあえて選ばない心の強さ

    目的意識って大切だよね。

  • 58二次元好きの匿名さん24/05/15(水) 16:43:23

    >>57

    でももうキリノには先生しかいないんだ

    その先生も知っている先生じゃないんだ

  • 59二次元好きの匿名さん24/05/15(水) 23:13:11

    『ねえねえ■■■、ちょっとドーナツ買いに行かない? 平気平気、ちょっといなくても誰も気づかないってー』
    『■■■、報告書が上がっていないんだが。……ほう、忘れていた? ほう??』
    『■■■ー』
    『■■■』

    「っは……!?」

    ……悪い夢、いえ、いい夢だったのかもしれません。
    もう思い出せないと思っていた、大切な人たちの顔を、ほんの少しだけ見ることが出来た。
    名前を呼んでもらうことは、できなかったけれど。

    「……もう朝。戻って、先生に謝らないと」
    「その前に、少しお話をしていきませんか。中務キリノさん」
    「誰っ!!」

    聞こえた声の方向へ、とっさに銃を向ける。
    そこにいたのは、黒いスーツにひび割れた顔を持った、見たことのない──

    「……くろ、ふく?」
    「ククク……。お久しぶりですね、ご壮健で何よりです」

  • 60二次元好きの匿名さん24/05/15(水) 23:23:02

    >>59

    なんだろうこの黒服の何か知ってるけど絶対に黒幕ではなさそう感

  • 61二次元好きの匿名さん24/05/16(木) 00:06:28

    黒スーツの男。黒服と呼ぶその男とは、かつてどこかで会ったことがあった。
    ……どこで?どこであった?私は、どうしてそのことを忘れて……。

    「混乱されているところ申し訳ありませんが、もうあまり時間がありません。貴女には思い出していただかなければならない」
    「ま、まって……。私は、あなたとどこで……?」
    「かつて、このキヴォトスからすべての神秘が失われたあの日。……私は貴女と契約しました。貴女の神秘を保護し、この事態を究明する間、このキヴォトスを侵略者から守り通すことを。そしてその力も貸し与えた」
    「……ああ、なんで、なんで私は、忘れて!」

    彼の言葉に、私の記憶が再生される。なんで忘れていたのか。そうだ、私は。
    本当に、『このキヴォトスを守るため』だけに生きていたんだ。

    「思い出せましたか、中務キリノ」
    「……最悪な気分」

    今まで普通に連続していると思っていた記憶の隙間に、別のページが挟まっていたような強烈な違和を感じた。
    これは、そうだ。私が、あの孤独に絶望したあの日の記憶だ。

  • 62二次元好きの匿名さん24/05/16(木) 00:07:05

    『……残っているのは、貴女だけでしたか。こんにちは、中務キリノ』
    『だ、誰ですか!? 人、人が、ああよかった、誰もいなくて!!』
    『落ち着いてください』

    「あの日、この現象が異次元からの攻撃だというところまでは掴んでいた私は、唯一生存していた貴女と契約を交わしました。……そして、ようやくこれを解き明かすことが出来たのです。中務キリノ、貴女の時間稼ぎのおかげで」

    黒服が行ったのは、私にこのキヴォトスを守り、『異次元からの攻撃』とやらを解析する時間稼ぎをさせることだった。その為に私はその時の記憶を一時的に封印し、そして黒服に私の『神秘』を調整してもらった。
    『恐怖』と呼ばれる、神秘の反転した形をあえて半端な形で顕現させ、その漏れ出る力をもって、キヴォトスへの攻撃を抑え込むものだった。
    断る理由などなかった。私に力があって、キヴォトスを守れるのなら。皆を取り戻せるのなら。

    「貴女の現在の状態は非常に危険です。大人と子供の境界線を踏み越えつつある。二十五年という年月が、コインを垂直に立たせるような不安定な形で成立させた貴女の存在を揺らがせている」

    黒服は一度言葉を切り。

    「あの先生は、攻撃の一種です。貴女の揺らいだ力を完全に崩すために、外から引き込まれた第三者でしょう。先生自身にその認識はないでしょうが」
    「……先生も、敵なの」
    「いいえ、先生自身は敵ではありません。ですが、貴女の精神を揺らすための攻撃として利用されているのは間違いないでしょう」
    「ですが、これはチャンスでもある。……私とあなた以外に知的生命体の存在しなかったこのキヴォトスに、新しい存在が出現したのです。敵はその成果を確認しにやってくるはず」
    「敵?」
    「無名の司祭。かつて存在した神を崇める者たちですよ。この現象も、あの者たちの手によるものでしょう」

    その言葉に、私の中でどす黒い感情が膨れ上がるのを感じた。
    ヘイローがちかちかと揺れて、黒服が一歩だけ距離を取った。

    「落ち着いてください、それはまだ早いのです。……とにかく、先生と合流し、今後の計画をご説明します」
    「……どうしてそこまでするの? アナタはキヴォトスを出て行けばすむんじゃない?」
    「ククク……。整頓した自分の研究デスクがぐちゃぐちゃにされた挙句、コーヒーとホイップクリームでデコレーションされたりすれば、誰でも怒って当然でしょう?」

  • 63二次元好きの匿名さん24/05/16(木) 08:44:14

    一気に展開が動いたな
    先生と黒服の共闘来るか…?

  • 64二次元好きの匿名さん24/05/16(木) 12:18:24

    この一筋縄では行かなそう感とこれからは我々のターンだ感好きすぎる

  • 65二次元好きの匿名さん24/05/16(木) 20:21:01

    25年は長い

  • 66二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 00:50:11

    狙った球が当たらない神秘利用して退けたんかね?

  • 67二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 02:38:38

    >>65

    中務キリノ(40)か…

    アリだな…

  • 68二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 08:52:25

    この黒服も"攻撃"の一種ではないのか?

  • 69二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 18:39:32

    >>68

    だとしても、もうそれに縋るしかないだろうな

  • 70二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 00:20:58

    「先生」
    ”キリノ! よかった、無事……っ!”

    黒服と共に私の部屋まで戻ると、先生は私を見てほっとしたように息を吐き。
    それから、その横に立つ表情の見えづらい彼を見て、即座に懐へ手を伸ばした。

    「先生、止めてください。彼は味方です」
    ”味方……? キリノ、何かされていない? 大丈夫?”
    「ククク。一応あなたとは初対面のはずなのですが、そちらの私もやはり変わりないようで……」

    やれやれとばかりにかぶりを振る黒服。
    彼をじっと見つめていた先生も、私がなにもされていないとわかると、懐に差し込んだ手を抜いてくれた。

    ”……黒服、なぜあなたがここにいるんだ”
    「私としては、同じ言葉を先生に返したいところですね。私は彼女と契約し、この事態の打開のために動いています。先生はなぜここに?」
    ”気が付いたらここにいた。……それしかわからない”
    「おおよそ予測通りですね。先生、あなたは今『大人のカード』も持っていないのではないですか?」
    ”……!! どうして、それを……”

    先生が目を見開く。私も驚いていた。
    先生が持っている『大人のカード』。その力は、先生の指揮でもどうしようもない相手に対して使われるという。
    かくいう私も、以前に一度目にしたことがあるけれど。
    それがない、というのは。

    「例のタブレットもお持ちではない様子。……やはり、彼らにとってあなたはいわば爆弾のようなものですね」
    ”爆弾? 一体何を”
    「確認は終わりました。中務さん、行かなければいけない場所があります。戦闘の可能性がありますので、準備を」
    「……説明してくれないの?」
    「……ああ、すみません。何分、これほど長く人と話さなかったのは久しぶりでしたので」

  • 71二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 00:54:27

    待機

  • 72二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 12:02:14

    ほしゅ

  • 73二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 12:20:22

    ああキリノの目の前で先生を…ってやつか

  • 74二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:39:59

    やってきたのは、アビドス。
    広大な砂漠が広がっていたこの地も、今では木々が点々と生い茂るほどに緑化が進んでいる。
    砂嵐は依然として吹き荒れるらしいけれど、外から入り込む植物たちが大地を潤す力の方が強いようで、徐々に砂漠の面影はなくなりつつあった。

    「結局説明されていないんだけど……」
    「端的に言えば、ここが敵の本拠地です」
    「端的過ぎる……」
    ”ここはアビドス? なぜここに……”
    「ウトナピシュティムの本船」

    黒服の一言に、先生が目を見開く。
    うとなぴ、なんですか……?一度では聞き取れず、困惑しているのは私だけのようで。
    二人はさっきまでの確執──先生が一方的に警戒しているだけなのだけれど──がなかったかのように会話を始める。

    ”この世界にも、アレが?”
    「ではそちらにもあったようですね。知っているということは、あの船の力も理解されているのでは?」
    ”実際に使ったからね。……でも、あれを動かす方法がここにはないはず”
    「ええ。現に、ウトナピシュティムの本船は既に存在しません。先んじて、無名の司祭が破壊しました。彼らはすでにアトラ・ハシースの箱舟を独自に所有し、このキヴォトスへの攻撃に用いています」
    ”じゃあ、なぜここに?”
    「それはもちろん──」

    ──ようやく姿を見せたな、ゲマトリアの生き残り。

  • 75二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:50:27

    新しいゲマトリア登場か

  • 76二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:52:36

    >>75

    いやゲマトリアの生き残りってのは敵から黒服へかけた言葉というだけではないかな…?

  • 77二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 23:01:46

    困ったな、めちゃくちゃ続きが気になる

  • 78二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 00:16:58

    声のした方へ、視線が向く。
    そこには、何かがいた。
    白いローブを纏い、無機質な白い仮面を被ったなにか。

    「お初にお目にかかります、無名の司祭。私は、まあ黒服とでもお呼びください」
    「知っている。愚かな探究者よ、この世界に存在する不純物よ」
    「ククク、まったくその通り。我々ゲマトリアのさがでして、気になったものは解き明かさなくては気が済まないのです」
    「貴様がいなければ、『忘れられた神々』を今度こそ根絶できたのだ。よくもここまで邪魔をしてくれる」

    撃鉄を起こす。
    静かに銃口を持ち上げ、目の前の仮面の何かへ向ける。
    生まれて初めて、誰かを殺したいという純粋な思いがあふれ出る。

    「お前が、皆を……!」

    ──これが何者か、などどうでもいい。
    ──どうか、お願いだから。

    引き金を絞る。

    ──死んでください。

  • 79二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 00:17:32

    撃ち放たれた弾丸は、仮面の真横を通り過ぎ、虚空に消える。
    この期に及んで、私の弾丸は敵を穿つことはなかった。
    人質でもいれば当てることができるけれど、相手は一人だけ。どこを狙えばいいのか、見当もつかない。

    「愚かな」
    「いいえ、これで良いのですよ。彼女はこれこそが良い」

    嘲笑うような仮面の言葉に、黒服も似たような声音で仮面に、無名の司祭にぶつける。
    それはどういうことなのか、黒服に視線を送れば、心なしか笑みが濃くなった気がした。

    「無名の司祭。アトラ・ハシースの箱舟が用いた多次元解釈を転用し、このキヴォトスから『神秘』の影響を受けた者の存在を『上書き』した者たち」
    「そうだ。我々は『忘れられた神々』をその存在ごと抹消した。だが、理解できぬ。貴様は、なぜ」

    白い仮面が、私を睨む。

    「単純なことでしょう。ただでさえ借り物のレプリカであるその力では、彼女を抹消しきるだけの出力を得られなかったというだけのこと」
    「なぜだ。貴様は何者だ、何者でもない『神秘』の残りかすの分際で」
    「私、私は……?」

    仮面の言葉に、私も困惑した。
    私が何か、なんて自分で分かっているはずもない。
    けれど、その言葉に今度こそ、黒服が大きく裂けるように笑ったのが見えた。

    「残りかす? とんでもない、彼女こそこのキヴォトスにおける最高純度の『神秘』ですとも。それを察しているからこそ、あなた方も『別の世界の先生を引きずり出して、目の前で消し去る』などという回りくどい手を使おうとしていたのでしょう?」
    ”私を……?”

  • 80二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 00:30:45

    「希望を与えられ、それを奪われる。その瞬間こそ、人間は一番美しい顔をする」ってことか…
    えげつないねぇ

  • 81二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 08:10:44

    >>80

    ファンサービスやめろ

  • 82二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 14:00:38

    >>78

    まあ…そうなるわな…

  • 83二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 19:47:54

    「彼女への攻撃は意味を為さなかった。ゆえに、確実に葬り去るために彼女の精神を砕き、自ら死に至らしめようとする。それが他の世界からの先生の召喚であり、意図的に彼女と引き合わせた理由でしょう」
    ”……私は、キリノを苦しめるためにこの世界に連れてこられたということ?”
    「憶測にすぎませんが、そう的を外してはいないでしょう。そのためにこうしてわざわざ姿を現したのでしょう? 自らの手で確実に先生を葬り去るために」
    「もはや貴様の研究に価値などないのだ。おとなしくそこで、この世界で最後の『忘れられた神々』が失われる様を見ているがいい」

    無名の司祭は心なしか浮かれた声音だった。
    しかし、黒服の方も似たような声音で、懐から一本のペン型注射器を取り出す。
    中に入っている薬品はよく見えないけれど、少なくとも同じようなものを見たことはなかった。
    黒服はそれを無造作に私に手渡してくる。

    「……これは?」
    「切り札です。長きに渡り貴女を研究し、この事態をひっくり返し研究デスクの上をきれいさっぱり整頓するための一手ですよ」
    「何をしようと無駄なことだ。さあ、今こそ死をもってその価値を証明するがいい」

    司祭の言葉に続いて、木々の間からワラワラと機械が湧き出てくる。
    今まで見たことのない、宙に浮いたタコのような何かだ。
    それらは一斉にその銃口を私たちに──先生に向けると、

    「やらせない」

    隣り合った機会達を狙って引き金を引く。
    弾丸の機動は異様な角度をもってねじ曲がり、近くの機械をぶち抜いていった。
    狙った相手に当たらなくても、別の相手を狙えば『誤射』出来る。標的が複数ある時に使える裏技のようなものだけれど、その命中精度は抜群だ。

  • 84二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 19:48:59

    「有限の弾丸で無限の兵隊を相手にどこまで粘れるものか。せいぜいやってみるがいい」
    「ククク……。中務キリノ、先生、まずはこれを叩いて本体の船へ、『アトラ・ハシースの箱舟』へ行きます。準備はよろしいですか」
    「そのなんちゃらって箱舟にたどり着けばいいんですね」
    ”シッテムの箱がなくても、指揮は私がどうにかするから。……黒服、あなたは”
    「私も自衛程度なら何とかなりますので。無駄に長年研究に明け暮れていたわけではありませんから」

    その言葉と共に、黒服が手元から何かの機械を取り出し、敵の兵隊に向けてボタンを押す。
    すると、向けられた機械は吹き飛んだり、ショートしたりして行動不能になっていった。

    「ソニックドライバーと言います。なかなか面白いでしょう?」
    ”く、カッコいい……”
    「先生、ふざけてる場合じゃありませんよ!?」
    ”うん、わかってる。じゃあ行こうか、二人とも”

    その言葉と共に、私たちは共に前進を始めた。
    まだ、この世界をどうにかできる手段はわからない。
    けれど信じるしかない。少なくとも、あの仮面に一発叩き込むまで諦めるわけにはいかないから。
    今は、絶望しているほど暇じゃなくなった。

    「ククク、先生の指揮に入る日がこようとは」
    「黒服もまじめにやってください」
    「ククク……」

    懐かしい気分だけど、昔のそれとは少し違う。
    今の私は大人で、先生も黒服も大人なのだ。
    これは、あの日いなくなってしまった子供たちを助けるための、大人の戦い。
    私は、今日やっと、大人としての責任を初めて背負うことができる気がした。

  • 85二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 20:00:39

    もうずっとこれ

  • 86二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 22:15:36

    >>84

    肉体はほぼ据え置きで精神が先に『大人』になったキリノか………

    美しい!!!

  • 87二次元好きの匿名さん24/05/20(月) 07:31:29

    最後の一文すき

  • 88二次元好きの匿名さん24/05/20(月) 11:55:16

    もう「子供」に戻ることは出来ないんだよね

  • 89二次元好きの匿名さん24/05/20(月) 21:56:32

    待機

  • 90二次元好きの匿名さん24/05/21(火) 00:03:18

    撃つ。撃つ。撃つ。
    「リロード」
    ”黒服”
    「ええ、カバーします」
    入れ違いざま、黒服の手にした機械で敵が吹き飛ぶ。
    リロードを済ませ、さらに前へ。
    進め。進め。さらに前へ、もっと前へ。
    ”十時、敵団体二つ。黒服、牽制”
    先生の指示が飛び、ほぼ同時に黒服の機械、ソニックドライバーによる無音の打撃が一団を崩す。
    そこ目掛け、私が弾丸を撃ち込み、道を開けていく。
    「その箱舟とやらは、あとどれくらいなんですか!」
    「もう少しで見えてくるはずですよ。そこ、来ています」
    ”見えてる。射線が通ってない、十秒で空くから準備”
    「了解!」
    進め。進め。もっと前へ、もっともっと前へ。
    後ろを見ている余裕はない。私たちの目的は、前にしか存在しない。
    立ち止まることなく、淀みなく流れる川のように歩き続ける。走り続ける。

  • 91二次元好きの匿名さん24/05/21(火) 09:12:04

    >>90

    保守

    いやー大人ってカッケーな本当

  • 92二次元好きの匿名さん24/05/21(火) 17:54:32

    軽い気持ちでこのスレを見つけたけど
    つい身入ってしまった
    続きを全裸待機

  • 93二次元好きの匿名さん24/05/21(火) 22:19:46

    待機

  • 94二次元好きの匿名さん24/05/22(水) 01:19:58

    寝る前保守
    がんばれ先生
    がんばれ黒服
    がんばれキリノ

  • 95二次元好きの匿名さん24/05/22(水) 09:48:08

    保守
    続き待ってるぞ

  • 96二次元好きの匿名さん24/05/22(水) 20:48:59

  • 97二次元好きの匿名さん24/05/23(木) 00:09:33

    (スレ主です。最近お仕事がやばすぎて書く時間が取れていません。明日にはなんとか進めたいので、よければ保守をお願いします)

  • 98二次元好きの匿名さん24/05/23(木) 06:01:42

    保守

  • 99二次元好きの匿名さん24/05/23(木) 08:32:43

    このレスは削除されています

  • 100二次元好きの匿名さん24/05/23(木) 18:55:14

  • 101二次元好きの匿名さん24/05/23(木) 19:11:31

    素晴らしい良質SSスレだぁ……!

  • 102二次元好きの匿名さん24/05/23(木) 22:36:51

    そして。
    「……理解できぬ。なぜそこまで進み続ける。なぜそこまで諦めぬ」
    ようやく、そこへ辿り着いた。
    私は服も肌も血だらけで、息も切れ始めている。
    黒服の方も多少手傷を負ったのか、切れたスーツの隙間から不定形の黒い何かが見え隠れしていた。
    けれど、先生に傷はない。私も黒服も、それを最優先に立ちまわったし、先生もそれを理解してくれた。
    だから、私たちは誰一人欠けることなくここへ来た。
    「中務キリノ、準備はよろしいですか?」
    「大丈夫」
    ”……キリノ”
    「そんな顔しないでください、先生。私は、これでいいと納得していますから」
    戦闘の合間に、黒服から聞かされた薬の効果。
    それを使えば、確かに事態を覆せる可能性はある。すべて、推測でしかないけれど。
    でもその代わり、使えば私はもう二度と……。
    「……何をしようと、無駄なこと。今一度お前達もろともテクスチャを貼り換え、この都市をあるべき姿に──」
    司祭の言葉を聞き流し、私は注射器の先端を首に押し付ける。
    そうして、一つ、息を吸い。

    「──彼女の射撃が当たらない理由、彼女だけがこのキヴォトスに生き残った理由。それらに着目し、私は彼女の神秘を徹底的に調べ上げました」
    「そうして、たった一回分だけ、まるで奇跡のように生み出された『昇華薬』。それは、中務キリノ専用に調整された、神秘と恐怖を両立させるための薬剤です」
    「すでに神秘を持ちながら、恐怖を表面化させつつある彼女がそれを使えば。彼女はその両面を同時に発露させ」
    「彼女に秘められた力を解き放つ、『崇高』に至るでしょう」

    注射器のボタンを押し込んだ。
    ぷしっ、と圧力のかかる音がして。
    私の全てが、表に現れる。

    「彼女の神秘は『運命操作』。神秘では、あるべき運命を逸らし。恐怖では、あらゆる定めを順守させるもの」
    「ククク……。彼女には『ノルン』とでも名付けましょうか」

  • 103二次元好きの匿名さん24/05/23(木) 23:02:53

    更新乙
    エンディングがどうあれ楽しみにしておきます

  • 104二次元好きの匿名さん24/05/24(金) 07:38:17

    全てが終わったらキリノはどうなるのか、皆を見守る存在になるのかな

  • 105二次元好きの匿名さん24/05/24(金) 18:14:22

    気になるので保守を

  • 106二次元好きの匿名さん24/05/24(金) 22:40:33

    待機

  • 107二次元好きの匿名さん24/05/25(土) 06:42:18

    >>97

    ソニックドライバーって、『ドクター・フー』の?

  • 108二次元好きの匿名さん24/05/25(土) 14:41:37

    保守。たのしみ

  • 109二次元好きの匿名さん24/05/25(土) 20:14:44

    素晴らしい...素晴らしいスレに出会えた...!

  • 110二次元好きの匿名さん24/05/25(土) 22:29:06

    正直かなり続き楽しみにしてる

  • 111二次元好きの匿名さん24/05/25(土) 23:31:21

    >>107 (そうです。正確にはそれに似た何か。スレ主が好きなので)


    「なんだ、それは。理解できぬ、そんなものは存在してはならない。お前は、お前はなんだ」

    アトラ・ハシースを利用した現実改変。多次元解釈による現実の上書き。

    それらを再び起動させた『はずの』司祭が、困惑した声を上げた。

    現実は、変わらない。書き変えは発生しない。司祭は『行動しなかった』。

    「……その機能を使う運命を書き変えました。もう、その力は使わせません」

    「ふざけるな、それほどの力を吐き出して自我が保つわけがない。『生徒』のテクスチャが持つはずがない」

    「ええ、ですから彼女に残された時間は、三分しかありません」

    黒服が言った。でも、それでいい。私はそれを選んだのだから。

    大切なのは、苦しみ抜いた経験よりも、今どうするべきかという選択。

    今この瞬間、私がどうすべきなのか。それを私は選択したのだ。

    「三分後、彼女は自我を失いこのキヴォトスの運命を司る存在になるでしょう。運命を紡ぐ『崇高』に昇華するのです」

    「でも三分ある。だから」

    息を吸う。もう、そうすることもなくなってしまうだろうから、目いっぱい深く。

    深く吸って、大きく吐いて。それから。


    dice1d2=1 (1)

    1 私は、全ての運命が起こらなかったことにした。

    2 私は、全ての運命が途絶えなかったことにした。

    3 ■■■■■■■■■■■。

  • 112二次元好きの匿名さん24/05/25(土) 23:38:26

    >>111

    おお……

    崇高ってすげーな


    (1d2じゃなくって1d3じゃね?)

  • 113二次元好きの匿名さん24/05/25(土) 23:46:53

    >>112 (崇高ってよくわからないけど多分神様みたいなもんだからうちではこうとします。あとダイスはこれであってます)


    私は全てを巻き戻すことにした。

    上書きされた事実も。失ってしまったなにかも。全て、全て、私の存在と引き換えに元に戻す。

    ”キリノ、ダメだ。そんなことをしたら!”

    「止めないでください、先生。私の、最後のわがままです」

    きっと私は消えてしまうだろう。良くても、私という存在ではなくなってしまうだろう。

    それでも、どうかこの結末を変えられるのなら。出発点からそれを変えられるというのなら。

    手を伸ばしてみる価値はある。

    「先生、黒服、つきあってくれてありがとうございました」

    力が溢れる。溢れて、体を割いて出てこようとするほどに膨大なそれが、私の体にひびを入れる。

    どうか、どうか。次の先生はうまくやってくれますように。

    運命を捻じ曲げるこの力を、貴方ならきっとうまく使ってくれるはずだから。

    ”キリノ!!”

    「なるほど、完全に『最初から』というわけですか」

    「そう。そして世界はもう一度始まる。私がいない『キヴォトス』、私がいない世界で。もう一度、先生に始めてもらうために」

    「ククク、最後の最後で回帰を選ぶとは……。ですが、それもまた貴女の選択です。契約を交わしていない以上、その力の使い道は貴女だけのものですから」

    黒服が笑う。先生が泣いている。ああ、まるでバッドエンドのような絵面だけれど。

    でも大丈夫。私は、貴方と一緒ではないけれど、こちらの貴方と一緒にいるから。

    だからさようなら。そして願わくば、二度と出会わないことを祈ります。

  • 114二次元好きの匿名さん24/05/25(土) 23:48:28

    「……おはようございます、先生。居眠りですか?」
    彼が目を覚ます。新しいスーツ、新しいネクタイ、新しい革靴。
    連邦生徒会にやってきた、新しい/懐かしい先生。キヴォトスの助けになる小さな巨人。
    その懐には、他とは違う特別な大人のカードが収められている。
    外にいたころ、見たことのない女性に受け渡されたそのカードには、糸を紡ぐ女性のマークが刻印されていた。

    END1 新しい大人のカード

  • 115二次元好きの匿名さん24/05/26(日) 00:33:30

    あぁ...素晴らしいです...!とても素晴らしい...!

  • 116二次元好きの匿名さん24/05/26(日) 00:36:01

    無事完結してよかった
    これだよこれ、上物もSSって奴はよぉ
    お疲れ様っす

  • 117二次元好きの匿名さん24/05/26(日) 00:44:11

    最後の分岐であと2つENDがある感じなのかね
    ひとまず乙です、面白かった

  • 118二次元好きの匿名さん24/05/26(日) 00:46:33

    完結おつでした 素晴らしかったです……!!

  • 119二次元好きの匿名さん24/05/26(日) 10:50:33

    いちおう保守

  • 120二次元好きの匿名さん24/05/26(日) 11:34:11

    おお…寝て起きたら完結してた…素晴らしい作品をありがとう…

  • 121二次元好きの匿名さん24/05/26(日) 14:00:25

    完結おつ!
    これ、キリノ外の住人になったってことか………?

  • 122二次元好きの匿名さん24/05/26(日) 23:16:06

    ほす

  • 123二次元好きの匿名さん24/05/27(月) 04:56:24

    保守

  • 124二次元好きの匿名さん24/05/27(月) 16:36:44

    保守

  • 125二次元好きの匿名さん24/05/27(月) 19:17:23

    残り二つも楽しみにしてます!

  • 126二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 01:48:53

    ノルンということは、他のENDは現在と未来に関わることでしょうかな

  • 127>>3524/05/28(火) 11:42:51

    >>126

    「ノルンって3柱1組だろ」と怪訝に思ってたけど、その発想は無かった……

  • 128二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 22:04:57

    一応保守

  • 129二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 22:14:04

    (スレ主です。現在多忙のためもうしばしお待ちください。ちなみに1レス目以外ノープランです)

  • 130二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 22:15:20

    >>129

    (つまり手前らは次スレを待ってろ、このスレは落として構わんということですね?)

  • 131二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 22:20:40

    続きがあるってだけでもありがてえっすよ、気長に待つね

  • 132二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 10:18:12

    私待つわ
    いつまでも待つわ

  • 133二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 21:01:16

    気長に待ちます

  • 134二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 21:43:33

    キリノ*テラー(?)の容姿、腰くらいまでの髪にニットのキャミソールにボロボロのジーパン、その上に黒いロングコート羽織ってる感じで想像した
    そしてシロコテラーみたいな暴力的なスタイル

  • 135二次元好きの匿名さん24/05/30(木) 00:02:44

    >>134

    多分だけど尻が本当にデカそう

オススメ

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