【閲覧注意】悠仁と同居している3(終)

  • 1二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:18:36

    悠仁の初語は「まんま」だった。


    「まんま、つったら普通は飯のことだろ」


    虎杖倭助が何杯もビールをあおりながら言った次の日、悠仁は見事に「ママ」と言ってのけた。私の顔を見ながら。

    老人はその日、心なしかいつにも増して不機嫌だった。虎杖仁は、私達に挟まれながら幸福そうに笑っていた。


    そこから「かあちゃん」に変わったのはいつだったか、さすがに私も覚えていない。アニメかドラマにでも影響されたのかもしれないね。

    息子の『失踪』に伴い、子守を引き受けていた虎杖倭助は、日中テレビを見ていることも多かったから。


    「じっちゃ、ごはん?やる!」

    「ゆうじもタオルたたむ!」


    ただ、そのせいか言語の発達は妙に早かった。さらに、こちらのやることをしきりに気にして、何でも真似をしたがった。

    暇だったんだろうね。近所の子供とは遊ばせなかったし。


    「かあちゃん、おはよ!」


    ある朝、満面の笑みでトーストと端が焦げた目玉焼きを差し出された。視界の端には、手伝ったと思しき虎杖倭助の苦々しい顔があった。

    それから、朝食作りは悠仁の仕事になった。


    「いつもありがとう、かあちゃん」


    そして、昨年のちょうど今頃。帰宅した私に、悠仁がはにかみながら赤い花を渡してきた。

    花は、毎日悠仁が水を替えていたおかげで、ちゃぶ台の上を2週間ほど彩っていた。

    母の日の出来事だった。


    ……ああ。そういえば昔、九児の母にしてあげた子がいたな。

    思えば、彼女は我が子と言葉も交わさずじまいだったんだね。

    ふふ、可哀想に。

  • 2二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:19:32
  • 3二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:22:47

    たておつ

  • 4二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:25:35

    立て乙
    こいつ…どの口で…

  • 5二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:36:42

    こいつ…💢

  • 6二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:39:45

    脹相ブチ切れ不可避

  • 7二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 23:09:08

    カーネーションもらっておきながら悠仁に花瓶の水替えさせてんのお前お前お前お前

  • 8二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 23:15:41

    この…ッ
    こいつ…ッ
    しか言えない

  • 9二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 23:31:53

    本当の本当に最悪 それでも悠仁の母なんだ…と苦々しい気持ちになる

  • 10二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 23:48:56

    スレタイに(終)がついてる
    毎日の楽しみが終わってしまうのか

  • 11二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 08:13:09

    悠仁がほんとに可哀想……このママはさぁ……

  • 12二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 14:55:47

    スレ主の作るお話の感じが好き

  • 13二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 21:43:50

    「おれのごはん、食べてくれた」

    「家のことやると、たすかるって言ってくれた」

    「がっこう行けなくて、じいちゃんが死んじゃって、かなしかった」

    「でもかあちゃんは、いつもそばにいてくれた」

    「だから、おれ、ずっとさびしくなかったよ」

    「ぜんぶ『かあちゃん』がしてくれたことなんでしょ?」

    「そしたら、『そと』じゃなくて『なか』のかあちゃんが、本当のかあちゃんってことだよね?」

    ひたむきな傾慕を孕んだ視線は、まっすぐにこちらへ向けられていた。

    こんなに滑稽な話があるだろうか?
    術式を有していても呪術とは無縁だった女が、不慮の死に際して、我が子を呪ってでも近くにいたがったというのに。
    当の子供は、その体に間借りしているモノの方を母親として考えているわけだ。
    今の悠仁は、おおかた『虎杖香織の肉体を着ぐるみ程度にしか捉えていない』のだろう。よりにもよって、彼を待ち望んでいた『本当の母親』の方を。

  • 14二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 21:44:03

    く、と喉が鳴った。
    正真正銘、イカれている。宿儺もたいがい正気を疑うようなことをやっていたが、悠仁はもしかするとそれ以上の───

    「はは。報われないね、君は」

    幼い子供の中で慟哭する女を想像しつつ、私は悠仁に頭蓋を返すよう促した。

    ───聞いているかい、虎杖香織。
    悠仁に首を切らせる案を思いついた時、君はこちらの思考を妨害しなかったね。その理由を、ずっと考えていたんだ。

    思うに、『実母を殺した』という行為が悠仁の一生の傷になり、それによって永遠に悠仁と共にいられると判断したんじゃないか?
    生前の君の願望はともかく、今の半ば呪いと化した君はそう思ったのだろう、が。

    残念だったね。
    君の入る余地なんて、最初からなかったんだよ。
    この子はもう、私のものだ。

  • 15二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 21:46:54

    ………………キッッッショ…

  • 16二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 21:49:23

    ヒエッ…

  • 17二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 22:34:02

    小沢ちゃん回で出された、ガワではなく仕草ややっていたこと、内面を評価する虎杖がこんな風に出力されるんだ…って感動してるよ

  • 18二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 22:44:20

    うえぇ…………

  • 19二次元好きの匿名さん24/05/20(月) 00:05:36

    うっっっっわぁ………w

  • 20二次元好きの匿名さん24/05/20(月) 06:43:46

    ほし

  • 21二次元好きの匿名さん24/05/20(月) 13:15:55

    保守

  • 22二次元好きの匿名さん24/05/20(月) 19:32:02

    >>14

    羂索もいかれてるでしょ!

  • 23二次元好きの匿名さん24/05/20(月) 20:45:07

    「ここ?」
    「そう、そこが椎間板といってね。骨の隙間から刃を滑り込ませれば切れるはずだ」

    仰向けになった私の胸元にまたがり、悠仁はせっせと包丁を動かしていた。一定のリズムで、見上げた天井が揺れる。耳の奥で、肉や繊維を断つ音が響く。

    「かあちゃんだけ出して、連れてくのはだめなの?」
    「悠仁も豆腐を触ったことはあるだろう?『私自身』はあれと同じくらいの柔らかさなんだよ。潰さずに持ち運べるかい?」
    「……それは……むりだね……」

    答える悠仁は、どうも気がそぞろだ。先程から、しきりに玄関の方をちらちらと見やっている。
    『まだ脳と繫がっている』片手を伸ばし、子供の頭をこちらに向けさせた。

    「大丈夫、まだ呪術師は来ていないよ。さ、今のうちに」

    張り詰めていた悠仁の面持ちが、わずかに緩んだ。頷き、再び私の首へ牛刀包丁を突き入れる。
    その拍子に、太めの血管を貫いたらしい。引き抜かれると同時、隙間から生暖かい液体が溢れ出る感触に、思わず顔をしかめた。

    取り急ぎで用意した道具は、刃の薄さと刃渡りの不足もあり、刺しては抜いてを何度も繰り返す羽目になっていた。
    こうなると、いっそ日本刀でも用意すればよかったかもしれないね。悠仁の膂力なら、ひとたび振り回すだけで事足りただろうに。

  • 24二次元好きの匿名さん24/05/20(月) 20:45:48

    やがて、包丁を傍らに置く音がした。悠仁の『真っ赤になった手』が、同じ目線の高さまで私を持ち上げる。

    「できた!これでいいの、かあちゃん?」
    「切れたならなんでもいいよ。ところで、早いところ後始末まで済ませてくれると助かるんだけど」
    「うん!」

    拙いながらも、こちらの教えた通りに『断面の処置』まで終わらせたところで、悠仁は私をリュックに詰めた。ファスナーが閉まると、狭い空間はたちまち仄暗い闇に包まれる。
    一瞬の浮遊感、のちに軽い衝撃。リュックごと背負われたものと理解し、私は囁きかけた。

    「さて、悠仁はこれから何をするんだったかな」
    「うらからにげる。『あたらしい体』をみつける。あとは、えっと……」
    「状況が変わったら私にその都度教える」

    そうだった、と恥ずかしげな含み笑いがこぼれる。それに合わせて、リュックが小刻みに震えた。

    「うらのドアあけたよ」
    「周りは確認した?」
    「うん、だれもいない。はしるね」
    「気をつけなさい」

    声を潜めて交わす言葉。それだけを拾えば、普通の親子の会話のように聞こえるのかもしれない。

    「あんしんしてよ。かあちゃんは、おれがまもるから!」

    悠仁の誇らしげな声の向こうで、インターホンが聞こえたような気がした。

  • 25二次元好きの匿名さん24/05/20(月) 21:03:45

    何させとんねん羂索ボケという気持ちvs母親の首切り落とす悠仁に興奮する気持ち

  • 26二次元好きの匿名さん24/05/20(月) 21:16:17

    人の目をしっかり見てお話しできる悠仁くんが脳バレ後は目を一切見ずに額を見て母ちゃんとお話ししてそうでとても良いなと思いました(小並感)

  • 27二次元好きの匿名さん24/05/20(月) 21:23:51

    もう戻れないんスか

  • 28二次元好きの匿名さん24/05/20(月) 21:42:36

    頸落とすのも人間の頭部持ち歩くのも普通の子どもには無理だろうに悠仁は体力あるからできちゃうね…

  • 29二次元好きの匿名さん24/05/20(月) 22:34:34

    >>24

    五条達なら本来は直近に切られたものだとわかりそうだけど、羂索のやらせた断面の処置によって何か変わるのかな...

    関係ないかも知れないけど

  • 30二次元好きの匿名さん24/05/21(火) 07:10:39

    ほしゅ

  • 31二次元好きの匿名さん24/05/21(火) 15:42:36

    軽い気持ちで見に来て最初から一気読みしちゃったよ
    ヤベーけど凄い
    絶望しか見えないがラストどうなるのか楽しみ

  • 32二次元好きの匿名さん24/05/21(火) 23:45:35

    夜を迎えたばかりの住宅街は、騒然としていた。
    古びた家には規制線が張られ、近くには警察車両が何台も停まり、制服姿の人々がひっきりなしに出入りしている。

    虎杖家の塀によりかかり、その光景を見るともなしに見ている伏黒の隣へ、音もなく現れた人影があった。
    五条だった。

    「いなかったよ」

    端的な台詞に、伏黒は目を伏せる。
    だろうな、と息を吐いた。

  • 33二次元好きの匿名さん24/05/21(火) 23:46:08

    ───衝撃の光景からいち早く立ち直ったのは、やはり五条の方だった。

    「恵、ここ探しといて。僕は外を……」

    身を翻しかけたところで、青年の動きが不意に止まる。伏黒は眉根を寄せたが、すぐにその理由に気づいた。
    わずかに聞こえる、床板の軋む音。
    それが、少しずつ大きくなってきている。

    「構えな」

    腰を落とす。足に力を込めて。手は掌印の形に。何度も練習してきた姿勢へ、小さな体はすぐさま反応した。

    (この期に及んでまだ誰か出てくるのかよ!?)

    半ばヤケクソに、伏黒は胸の奥で毒づいた。子供一人を追いかけていたはずが、随分な大捕物になったものだ。
    足音は、止まることもなく順調に近づいてくる。張り詰めた空気の中、人影はいよいよ姿を現し───

    「君たちか。不法侵入したって通報があっ……た、の、……」

    警察官の制服を着た、ガタイのいい男が立っていた。
    その視線は、五条も伏黒も見ていない。二人をすり抜けた先にある、床に転がった『それ』へ向けられている。

    「あ、やべ」

    五条が、この場面における台詞の選択を致命的に間違えたのと。

    「……何やってるんだ!そこを動くな、いいか、絶対に動くんじゃないぞ!」

    瞬く間に青ざめた警官が無線を取り出したのは、ほとんど同時のことだった。
    めんどくせーことになった、と五条はうんざりして呟いた。

  • 34二次元好きの匿名さん24/05/21(火) 23:47:24

    「僕ら、別に怪しい者じゃないんだけど」
    「土足で上がり込んでどの口が言う!」
    「ごめんねー外国暮らしが長いもんでさ」

    興奮状態の警官を適当にあしらいつつ、五条は伏黒に向けて片目を閉じてみせた。無線で応援を呼んでいる男からは見えない位置で、掌印を組んだままの手を指さし、その指を彼方へ向ける。

    問題の『いたどりゆうじ』について、この状況では調査もままならない。補助監督が到着さえすれば『彼らの上司』からの口添えで解放されるだろうが、それではあまりにも遅すぎる。
    ならせめて、今動けるもの───式神でも何でも動かすしかない。主人から離れての活動はまさに訓練の最中であり、さほど遠くまでは行けないとわかっていたが、背に腹は代えられなかった。

    はたして伏黒は、持ち前の察しの良さを存分に発揮した。
    影から二色の犬がずるりと現れる。二匹は連れ立って廊下を駆けていったが、黒い方だけは開けっ放しの玄関から外へ飛び出していった。役割分担、ということらしい。
    残された白の歩き回る音は、静かな家の中で存外大きく響いたが、警官はいっこうに気づくそぶりもなかった。予想通り『見えていない』側の人間なのだろう。

    (これで少しでも手がかりが掴めればいいんだけどね。……まあ、難しいだろうな)

    冷めた推測を抱きながら、五条は先程から気になっていた質問をぶつけた。

    「ねえ、ところでさ。さっき不法侵入がどうとかって言ってなかった?」

    警官は五条を睨みつけるようにまじまじと見つめていたが、やがて頭をかきながら口を開く。

    「……ここらではあまり見かけない、子連れの青年が入っていくのを見た、と通報があってな」
    「へえ、それってどんな人からのタレコミ?」
    「守秘義務がある」
    「じゃ、当ててやるよ。60代くらいの女じゃない?」

    警察官の手が一瞬止まったのを、蒼い瞳は見逃さなかった。

    まったく、見上げた忠誠心だ。
    小学校の教室、その片隅で痛みに耐えながら電話をかけたのだろう補助監督を思い、五条は思わず苦笑した。

  • 35二次元好きの匿名さん24/05/21(火) 23:55:27

    ここで呪霊とか呪詛師じゃなくて警察が来る方が足止めには効果的だもんなクッソ

  • 36二次元好きの匿名さん24/05/22(水) 00:59:38

    スレ主頭いいな

  • 37二次元好きの匿名さん24/05/22(水) 07:42:33

    保守

  • 38二次元好きの匿名さん24/05/22(水) 17:22:56

    頭良すぎるだろ………

  • 39二次元好きの匿名さん24/05/22(水) 18:48:24

    >>34

    五条達はここからどう動くかな

  • 40二次元好きの匿名さん24/05/22(水) 22:44:04

    警官の要請に従い、サイレンを高らかに鳴らして現れた応援は、端から五条と伏黒を───というより主に五条を───犯人扱いしてはばからなかった。
    青森からの補助監督が虎杖家へ乗りつけるのがもう少し遅ければ、当代最強の無下限術師は被疑者扱いで留置所に押し込まれていたかもしれない。
    小学校で五条が連絡した時、彼はちょうど東京に帰る途中の新幹線に乗っていたのだという。そのまま仙台で降り、急ぎタクシーを飛ばしてきたらしい。
    入谷を『確保』した関係で時間がかかり申し訳ない、と頭を下げたスーツ姿の男に、五条はにべもなく告げた。

    「『電話』、繋いであるよね?」

    かくして、二人はあっさり解放された。
    おそらく一生顔を合わせることもない『上司』の命令で、明らかに怪しい人物を放免する羽目になった警官たちは、揃って釈然としない表情を浮かべている。
    対照的に、五条はせいせいしたと軽く首を回していた。

    「玉犬は?」
    「まだ戻ってない。ここから10メートルくらい離れたところにいるはず」
    「了解。じゃ、ちょっと見てくるね」

    足早に出ていく五条を見送る伏黒の、その肩へおもむろに手が置かれた。警察官のひとりだった。

    「僕、ここだとちょっと他の人の迷惑になるから、お外に出てよっか」

    そういうわけで、伏黒は五条と式神が戻るまで、警官や鑑識官のやりとりを眺めながら待っていたのだった。

    五条の陰から顔を出した黒い犬は、今回もひどく落ち込んでいる。帰ったら白と一緒に思う存分ブラッシングしてやろうと思いつつ、ひと撫でした後に影へ戻した。

    「僕が見つけた時は、マンホールの蓋を引っかいてたよ」
    「は?」
    「匂いがそこで途切れたんだろうね」

    地面を軽く爪先で蹴りながら、五条は口元を歪めた。笑っているようにも見えた。

  • 41二次元好きの匿名さん24/05/22(水) 22:44:32

    「『いたどり』くんなのか、その子を連れ去った第三者なのかは知らないけど、どうも下水道を辿っていったらしい。僕相手に逃げようってんなら、まあそこそこ効果的な手ではあるよ。空から見下ろして探すのも考えてたけど、アスファルトの下まではさすがに覗けないし」
    「だったら六眼で痕跡を辿れば、」
    「やったよ。下水道にも入った。でもぜーんぜん駄目。呪物呑んでるって言ってたよね?それ由来の呪力漏出もまるでナシ。恵の言うような量を腹に収めてるなら、少なからず残穢が残ってるんじゃないかと思ったんだけど。よっぽど優秀な『器』……いや、『檻』と言った方がいいのかな。『いたどり』くんは」

    初動の遅れがとにかく痛かったね。
    そう締めくくり、五条はいささか乱暴に壁へ背を預けた。
    仙台に来てからずっとこうだ。良いところまで来ているのに、あと一歩のところで届かない。苛立たしさばかりがこみ上げる。
    まるで『誰かの筋書きの上で踊らされているような』感触は、五条にとっても初めての経験だった。

    「で、恵の方は何かわかった?」

    頷きはするものの、伏黒は何かを言い淀んでいる様子だった。視線で促すと、子供は観念したように口を開く。

    「……警察の人が話していたのを聞いた。遺体は『いたどりゆうじ』の母親の可能性が高いって。侵入者の痕跡は俺とアンタの分だけ。ただ、子供が一人で裏口から出ていった跡がある」

    それと、もうひとつ。

    「遺体の近くに転がってた中華包丁。まだ分析はしてないけど、指紋のサイズが小さいって言ってた。……子供みたいだって」

    『呪物を呑んだ小学生の子供が、母親の首を持ち去り、五条悟からも逃げおおせた』。
    にわかには信じがたい推論が、言い知れぬ気味の悪さを伴って、二人の間を漂った。

  • 42二次元好きの匿名さん24/05/22(水) 23:39:07

    寄生脳なんてものがいるなんて思わないもんな普通

  • 43二次元好きの匿名さん24/05/23(木) 01:29:36

    これ虎杖悠仁が母親殺しの容疑者で指名手配されるんじゃ?
    事実だし隠蔽まったくしてないもんな
    虎杖悠仁の幸せはもう一般社会では無理になったかぁキッツ

  • 44二次元好きの匿名さん24/05/23(木) 08:14:53

  • 45二次元好きの匿名さん24/05/23(木) 08:56:46

    先が気になりすぎる

  • 46二次元好きの匿名さん24/05/23(木) 15:49:54

    こんな奇怪な現場見たことあったのかな伏黒くん

  • 47二次元好きの匿名さん24/05/23(木) 19:40:20

    少年法的なアレで実名までは公開されないだろうけど…

  • 48二次元好きの匿名さん24/05/23(木) 22:39:54

    「なら、連れ去りって線は消えるかな。状況から見て、自分で一から十までやったって方がありえそうだ」
    「呪物に乗っ取られた可能性も、」
    「ないよ。受肉体なら一挙手一投足に残穢が滲み出るもんだけど、あの現場にはどれも見当たらなかった。恵の話からしても、完全に抑え込んでるんだろう」

    五条の言葉は、届いた端から伏黒の耳をすりぬけていく。

    ───でっかい犬だな!おれのことも、かあちゃんのパジャマも、たすけてくれてありがと!……───

    脳裏には、屈託のない笑顔が浮かんでいた。
    あの子供をおぞましいと感じた、自分の感覚に嘘はない。
    それでも、母親を害するようなタイプには見えなかった。寝間着を胸に抱く手つきには、確かに母への愛情があったと思う。

    (本当にアイツがやったのか?さっきの小学校みたいに、俺はまた何か見落としてるんじゃないのか……?)

    手を顎に添え、伏黒は考え込む。『そもそもの前提が間違っている以上、どれほど悩んだところで真実には辿り着けない』とは、知る由もないままに。

    「後味悪い案件はよくあるけど、こういう類のスッキリしないやつはいつぶりかな」

    五条の独り言を最後に、場には沈黙が落ちた。警官たちの飛び交う声だけが、夜の住宅街を支配している。

    「五条特級、すみません。今お時間いいですか?」

    空気を破ったのは、駆け寄ってきた補助監督だった。

    「何?」
    「次の任務について、高専から連絡が……」
    「あー、はいはい」

    じゃ、そろそろ東京に戻ろうか。
    五条の口から出た言葉に、伏黒は耳を疑った。

  • 49二次元好きの匿名さん24/05/23(木) 22:40:26

    「なん、」
    「忘れてるかもしれないけど、今回の任務は小学校の呪霊の調査・祓除だよ。問題の呪霊は祓った。呪霊が出た原因もわかった。ついでに内通者もあぶり出した……のはオマケだけど、当初の目的は一応クリアしてるからね」

    飄々とした声音を崩さないままに五条は返す。暗がりの中、両の瞳をサングラスの奥に隠した表情からは、何も読み取ることができなかった。

    「で、そこの家で起きた事件は警察の預かりになるから。『いたどりゆうじ』くんは、母親を呪殺したわけでもなければ、呪物に乗っ取られたわけでもない。
     てことで普通の殺人事件扱い。僕らの出る幕ナシ。これ以上ここにいてもやることないし、しかも僕を待ってる呪霊がいる。てことで、帰るよ」
    「……その当の本人はどうするんだよ。呪物山ほど呑んで逃げてるのに、まさか野放しにするつもりか?」

    虎杖悠仁の処遇を問う伏黒へ、しかし五条は首を傾げた。

    「んなわけないじゃん。恵、なんか勘違いしてない?今回の母親殺しの捜査に僕らは加わらない、ってだけの話だよ」
    「……は?」
    「網はでかい方が魚も引っかかりやすくなるよね」

    言って、おもむろに五条は歩き出した。「車どこ?」と問われた補助監督が慌てて先導する。
    いくばくか間をおいて、伏黒もその後を追う。子供がついてきたのを見計らって、五条は再び話し始めた。

    「全国に網を張る。具体的には、高専から通達を出す。彼を見つけたら高専までご一報ください、てな具合にね。
     呪詛師……とは呼べないかもしれないけど、扱いとしては、いわゆる指名手配ってことになるのかな」

    そして虎杖悠仁を追うのは、高専だけではない。

    「たぶん『あっち』も近いアクションを起こすんじゃないかな。彼も大変だよ、一夜にして高専と警察の両方から追われる人気者になっちゃうわけだ」

  • 50二次元好きの匿名さん24/05/23(木) 22:40:50

    伏黒は、最初で最後の邂逅を思い出していた。
    怯えを孕んだ目で、あっという間に走り去った少年。追われることに恐怖するまなざしは、逃げることに慣れていない者のそれだった。
    これからその子供が送るであろう、表からも裏からも逃げ隠れする生活を思った。

    「……もし、高専が先に『いたどりゆうじ』を捕まえたら、頼みがあるんだけど」
    「うん?」
    「会わせてほしい。できる?」

    気づけば、そんなことを口走っていた。
    何を話したいわけでもない。ただ、もう一度会って確かめたいと、ふと思ったのだ。
    オマエは本当に母親を殺したのか、と。

    「へえ。ずいぶん入れ込むね?」
    「できないならいい」
    「拗ねんなって。いいよ、会わせてあげる」

    頭の上に、大きな掌が降ってきた。髪をぐしゃぐしゃと掻き回す手から逃れるように、軽く首を振る。
    ちょうどその時、伏黒の携帯が涼やかな音を立てた。
    津美紀からのメールだった。

    『だいじょうぶ?
     何時に帰ってくるの?
     起きて待ってるから教えて!』

    寝ろよ、と返事して携帯を閉じた。
    すぐさま鳴り響いた通知音を無視して、伏黒は補助監督の車に乗り込んだ。

  • 51二次元好きの匿名さん24/05/23(木) 22:56:50

    香織さんはすでに死んでるし羂索は死んでないから悠仁は一応誰も殺してない
    そんなん警察にわかるはずがないので高専側で確保して欲しいけどろくなことにならないだろうなという信頼と実績〜

  • 52二次元好きの匿名さん24/05/24(金) 00:14:18

    羂索が全ての元凶なのにもうこうなってしまったら早く新しい体を得て悠仁を守ってくれと祈るしかないという 警察・高専どっちに捕まっても明るい未来は待ってなさそうだ 千年生き抜いた羂索が頼りなんだ……

  • 53二次元好きの匿名さん24/05/24(金) 00:48:35

    すでに伏黒さんの善人センサーに反応があるんだ
    大丈夫さ
    だよな?

  • 54二次元好きの匿名さん24/05/24(金) 07:29:01

    >>50

    悠仁高専保護ルートがあるのか⁉あってくれ!

  • 55二次元好きの匿名さん24/05/24(金) 12:38:19

    なんもかも羂索が悪いのにその元凶を頼りにしないといけないという絶望
    倭助さんが病床で怪しい母親に孫を託すしかなかった心情を思うと苦しい

  • 56二次元好きの匿名さん24/05/24(金) 19:52:23

    >>55

    そうか悠仁がどうなるかわからない状態で羂索に縋るしかない今感じてるこれが倭助じいちゃんの気持ちなのか

  • 57二次元好きの匿名さん24/05/24(金) 23:10:35

    休日出勤はクソだ。
    男は心の中で愚痴をこぼした。今日だけで何度その台詞を繰り返したか、数えるのはとうに諦めていた。

    とっぷりと日が暮れた住宅街に、人の気配はない。通り過ぎた何軒かの家では、からっぽの駐車スペースが口を開けている。きっと、家族揃ってどこぞへ出かけたのだろう。
    世間一般の動きとズレている自分を、否応なしに思い知らされた。

    『仕事ね、ええ、そうでしょうね。あなたはいつもそればっかり。本当は、子供のことなんてどうでもいいって思ってるんでしょ?』

    昨夜の夫婦喧嘩が、不意に脳内で蘇った。
    静かにヒートアップしていく妻の声は、結婚してから幾度となく刷り込まれてきた憂鬱の音色だった。あれが耳の奥で再生されると、途端に足取りが重くなる。

    「……仕方ねえだろ、仕事なんだから……」

    ぼやきは、聞く者もないままに夜の暗がりへ溶けた。
    子供たちには悪いことをした、と思っている。数ヶ月も前からドライブの予定を決めていたのに、後から決まった用事に上書きされてしまえば、当然腹も立つだろう。
    それが証拠に、日課となっている「いってらっしゃい」の声も、今日はなかった。

    ただ、妻になじられるのだけは我慢ならなかった。こちらを頭ごなしに否定する、嫌味っぽい彼女の怒り方には、いつも男としてのプライドをへし折られるような心地がした。
    そのせいか、昨夜は男も怒りを爆発させた。聞くに堪えない言葉の応酬を交わした果てに、お互い意地の張り合いとなり、今朝は一言も話さないまま家を出た。

    そして今、男はいくらか冷静になった頭で、気まずさを抱えながら帰路についている。
    自分の発言を謝りたい気持ちと、相手の発言を許したくない気持ちの間で揺れる心。一歩ずつ歩みを進めるたび、相反する感情は、彼の胸をいたずらにざわつかせた。

    今日だけは、家に帰りたくない。
    なんとかして、妻と顔を合わせずにすむ口実はないものか。

  • 58二次元好きの匿名さん24/05/24(金) 23:12:51

    彼は本気だった。周囲の環境から、自分の願いを叶える材料を無意識に強く探し求めていた。
    ───だからこそ、『それ』にも気づいてしまったのかもしれない。

    「────、………」
    「ん?」

    男は、ふと足を止めた。
    この住宅街には、小さな公園が作られている。男の家からは3分ほど歩いたところにあり、その中を通り抜けて駅へと向かうのが彼の通勤ルートだった。
    そして今、公園の出入り口が見える距離まで近づいている。夜ともなれば当然、静まり返っているのが常。

    その公園から『話し声が聞こえた』ような気がしたのだ。

    (……そんなわけないだろ。何かの聞き間違いだ。ほら、例えば近くの家で、酔ってデカい声で喋ってるとか……)

    「───で、───から……」

    思い込もうとしたそばから、再び声がする。
    ワイシャツの下で、肌の粟立つ気配がした。

    男は、幽霊の類なぞ信じていない。ただ、『暗がりから聞こえてくる正体不明の話し声』は、ヒトとしての本能的な恐怖心を呼び起こした。

    靴が、地面を蹴った。歩き出した彼の歩幅は、いつの間にか大股になっていた。公園への出入り口は、みるみるうちに近づいてくる。
    怖がっている暇があるなら、さっさと突っ切ればいい。どうせ気のせいに決まっている。
    自分自身へ言い聞かせながら、いよいよ当の公園に足を踏み入れた時。

    「においついちゃったね」
    「仕方ないだろう、あそこを通ればそうもなるさ」

    公園の出入り口から少し離れた水飲み場。
    そこに、一人の男児がいた。

  • 59二次元好きの匿名さん24/05/24(金) 23:17:15

    おいおい死んだわこいつ

  • 60二次元好きの匿名さん24/05/24(金) 23:19:17

    死ぬとは限らんよ
    死ぬより酷い目にあうだけかもしれん

  • 61二次元好きの匿名さん24/05/25(土) 08:13:30

    生首と話してるところを目撃するだけで済むといいね 目撃者は消されそうだけど

  • 62二次元好きの匿名さん24/05/25(土) 18:06:12

    逃亡の足取り掴まれたくないだろうしどんな消され方をされてしまうのか…
    消されるのはまぁ確実ですね!

  • 63二次元好きの匿名さん24/05/25(土) 18:12:34

    乗っ取るかもしれん

  • 64二次元好きの匿名さん24/05/25(土) 18:33:32

    これじゃん

  • 65二次元好きの匿名さん24/05/25(土) 18:35:38

    妻とこの先一生顔を合わせずにすみそうで良かったね

  • 66二次元好きの匿名さん24/05/25(土) 18:42:12

    よくねぇ!

  • 67二次元好きの匿名さん24/05/25(土) 20:14:04

    こちらに背を向けており、顔は見えない。ただ、おそらくはよそから来た子供だろう。夜の暗がりでもはっきりとわかる不思議な髪色に、少なくとも男は見覚えがなかった。
    それが上半身だけ裸になって、手や足を洗う蛇口の下に頭を突っ込んでいる。見た限りでは、水で髪の毛を洗っているように見えた。

    (こんな時間に、何を……?)

    子供は、男の存在には気づいていないようだった。洗い終わったのだろう髪の毛を乱暴に掻き回し、水気をざっくり払いながら、その手を鼻へ近づけている。

    「……とれた……かも。わかんないや。かあちゃんはへいき?くさいのついてない?」
    「ああ、悠仁のリュックがあったからね」
    「へへ、ならよかった!」

    奇妙な光景だった。
    大人の声はすれども、姿は見えない。携帯のスピーカーモードでも使って話しているのだろうか。
    そうだとして、何のために?

    (気味が悪い。親は何やってんだよ。喋ってる暇があるなら迎えに来て、家の風呂にでも入れてやればいいのに)

    まがりなりにも子を持つ親として、不快感があった。
    あとで通報でもしておこうか───と考えたところで、男の頭にひとつのアイデアが浮かんだ。

    (……もしかして、この子を警察まで連れて行けば『時間的にはちょうどいい』のか?)

    妻の就寝時間は、遅くても0時半。彼女はひどく寝付きがいい。つまり、それさえ過ぎてしまえば、妻と対面することなく堂々と帰宅できる。

    なけなしの小遣いで過ごしている男にとって、居酒屋もスナックも軽い気持ちで入れる場所ではなかった。それ以外の時間潰しに使えそうな場所も、たいして思いつかない。
    ゆえに、男はのろのろと帰路についていたわけだが、ここに来て予想外の光明が見えてきた。

  • 68二次元好きの匿名さん24/05/25(土) 20:14:57

    (今は11時半。この子を連れて、駅前の交番まで引き返す。それからなんやかんや事情を訊かれれば、あっという間に時間も経つだろ)

    打算を内包した思いつきの善行に、男の気分はいくらか上向きつつあった。
    可哀想な子供をダシにするのか、という良心の声は届かない。彼の頭はもう『妻が就寝するまでの時間をいかに潰すか』という思考に熱中していた。

    男は、靴の爪先を子供の方へと向けた。そのまま1歩、2歩、と近づいていく。

    「うえ、服くさい。ほんとにどうしよ」
    「悠仁はどうすればいいと思う?」
    「……服、かう?おかねはもってきたから」
    「悪くないね、でも服屋はこの時間には閉まっているよ」

    子供はこちらに気づいた様子もなく、母親と呑気に喋り続けている。
    その口が、ふと「あ、」と声を上げた。傍らのリュックサックへ両手を伸ばし、中から『何か』を取り出す。

    男は最初、サッカーボールだと思った。子供の手の大きさと比べて、そのくらいのサイズに見えたのだ。
    少年は『それ』を胸に抱くようにして、片手で軽くはたき始める。

    「かあちゃん、砂ついてた。おれのリュックの置きかたがわるかったのかな、ごめんね」
    「そう。ありがとう、気が利くね」

    ボールが、母親の声で喋った。
    いや───違う。
    『あれはボールじゃない』。

  • 69二次元好きの匿名さん24/05/25(土) 20:15:09

    夜の闇に慣れた目が、少年の腕の中にあるモノに焦点を合わせる。合わせてしまう。
    『目と鼻と口がついて髪が生えたボール』なんて、男は知らない。
    思い当たる可能性は、ひとつだけ。

    「ひ、」

    男の喉から鳴った音を、子供は聞き逃さなかった。

  • 70二次元好きの匿名さん24/05/25(土) 20:23:53

    服屋開いてないんか困ったなぁ
    せや!ちょうどそこにおる子持ちのオッサンの家から頂戴しよか!

  • 71二次元好きの匿名さん24/05/25(土) 20:25:07

    もう悠仁が表でも裏でも生きていけ無さそうなんですがそれは

  • 72二次元好きの匿名さん24/05/25(土) 20:48:51

    喧嘩でもなく呪詛師でもなく改造人間でもない他人を傷付ける虎杖なんて嫌だぞ
    どうにか踏みとどまれ虎杖〜

  • 73二次元好きの匿名さん24/05/26(日) 06:07:53

    悠仁にとってのハッピーエンドにせめてなってくれれば……

  • 74二次元好きの匿名さん24/05/26(日) 13:39:25

    羂索何とかしてくれ()

  • 75二次元好きの匿名さん24/05/26(日) 20:03:48

    弾かれたように声の主を見やる首の動きには、人形じみた印象があった。見開かれた瞳が炯々と輝き、男を捕らえて離さない。

    「悠仁。『やってくれるね』?」
    「……うん」

    リュックサックに『それ』をしまう一瞬、視線が外れた隙をついて男は逃げ出した。
    あの子供に捕まったら死ぬ。直感的な恐怖が、彼の足を動かしていた。

    公園を抜け、街灯に照らされた夜道を一心不乱に走る。パニックになった頭とは裏腹に、両の脚は正確に家への帰り道を辿っていた。
    あれほど厭わしかった妻に、今はどうしようもなく会いたかった。

    (君が厳しい家計をやりくりしてくれてることは知ってる。子供と過ごす時間を大切にしていることも知ってる。
     ……本当は、今日の仕事だって他のやつに投げることもできた。それを面倒臭がったのは俺だ。君を、子供達を、最初に尊重しなかったのは俺だ……!)

    運動不足の肺が悲鳴を上げる。視界がブレる。たった3分の道のりが、恐ろしく遠くに感じられた。

    (頼むよ神様。無事に帰れたら、ちゃんと謝るから……俺が悪かったって、埋め合わせさせてくれって言うから……!だから、たすけ、)

    胸に、軽い衝撃が走った。

    男は、ゆっくりと視線を下に向けた。
    『後ろから追いかけてきていたはずの子供』は、いつの間にか彼の正面に回っていた。腕をまっすぐに伸ばし、縦に2つ並べた握りこぶしで、男の胸元を突き上げている。

    『その手に包丁の柄が握られており、刃の部分はすっかり自分の体の中に収まっていた』のだと男が理解したのは、包丁が引き抜かれる瞬間だった。

  • 76二次元好きの匿名さん24/05/26(日) 20:04:01

    ワイシャツがみるみるうちに赤く染まっていく。足から力が抜ける。
    地面に膝をつき、子供にもたれかかるように倒れ込んだ。その小さな手で、両肩を支えられたような気もする。死に際の幻覚かもしれなかったが。

    「ごめんなさい」
    でも、かあちゃんの『おねがい』だから。

    男が最期に聞いたのは、耳元で囁かれる小さな懺悔の声だった。

  • 77二次元好きの匿名さん24/05/26(日) 20:07:53

    「……これでよかった?」
    「うん。いいね、思っていたよりも手際が良い。やっぱり悠仁は体を動かすのが上手だ」

    家と家の隙間を貫く、細い路地。そこに引きずり込んだ死体を、二人で眺めていた。私の首はリュックから取り出され、悠仁に後頭部を預けるようにして抱かれている。

    「ケガさせちゃったけど……」
    「この程度なら問題ないよ。いつまでもこの格好でいるわけにもいかないからね。むしろ、ちょうどいいところに来てくれた」

    正直なところ、虎杖香織の体から完全に脱却できるなら誰でもいい。所詮は『本命』までの繋ぎにすぎない以上、選り好みする意義も見出せなかった。

    「しかも、見たところ既婚者のようだ。もし子供がいれば、服の替えも期待できるんじゃないかな」
    「……うん」

    乗り気な私に対して、悠仁はひどく沈んでいた。理由はおおよそ察しがつく。
    私が『処理』したものを片付けた経験はあっても、悠仁自身の手で『処理』するのはこれが初めてのはずだ。私を抱える手から伝わる震えは、子供の少なからぬ動揺を証していた。

    「悠仁。私とその男と、どちらが大切かな」

    頭上から「え、」と戸惑うような声が降ってきた。少しの沈黙の後に、小さく息を吸う音がした。

    「……かあちゃんのが、だいじ」
    「ああ、それを聞いて安心したよ。私と『縛り』を結んだことを後悔しているんじゃないか、と思ったからね」

    悠仁の腕全体が大きく震えた。

  • 78二次元好きの匿名さん24/05/26(日) 20:08:30

    ヒエッ……

  • 79二次元好きの匿名さん24/05/26(日) 20:23:40

    毎回最悪を更新していく…

  • 80二次元好きの匿名さん24/05/26(日) 20:54:25

    もう駄目だあ

  • 81二次元好きの匿名さん24/05/26(日) 22:36:49

    何てこったい!

  • 82二次元好きの匿名さん24/05/26(日) 22:58:06

    悠仁……そこまで「かあちゃんがすべて」になってしまってたのか……もう「悠仁は母親と幸せに暮らしました」以外幸せになる道ないやん

  • 83二次元好きの匿名さん24/05/26(日) 23:16:22

    原作の一番の功労者は虎杖倭助だった…?

  • 84二次元好きの匿名さん24/05/27(月) 08:27:12

    悠仁ぃ……

  • 85二次元好きの匿名さん24/05/27(月) 17:05:26

    救いは無いんですか…?

  • 86二次元好きの匿名さん24/05/27(月) 19:36:33

    悠仁が幸せになれるかどうか安息の地を得られるかは羂索次第なんだよな……こんなことになるとは……

  • 87二次元好きの匿名さん24/05/27(月) 22:29:29

    私は、そしらぬふりで話を続ける。

    「先程、言い忘れたんだけど。『縛り』は、双方の合意により破棄……なかったことにもできる。悠仁がもし望むなら、そうしても」
    「やだ!」

    激しい反発が、夜の静寂によく響いた。
    その声の大きさに、本人が一番驚いた様子だった。慌てて周囲を見回し、「……それは、やだ」とかぼそい声で言い添える。

    「何故?私の言う通りに動くのは嫌なんだろう?」
    「いや……じゃ、ない。だって『しばり』って、ぜったいに守ってほしい『やくそく』なんでしょ?かあちゃんと、おれは、それでつながってるんでしょ?
     だったらおれ、まもれる。がんばれるよ」

    それに、と。
    悠仁は私を抱き込むようにして、こちらの顔を見下ろした。引きつった表情筋で、それでも懸命に笑おうとする顔が、逆さまになって見えた。

    「かあちゃんは、おれがまもるって言った。おれのは『しばり』じゃないけど、あのことばをウソにするのは、やだ。
     もし、このひとが『じゅじゅつし』にでんわしたら、すごくこまる。……おれは、かあちゃんのほうがだいじだから……もうこわくないよ。だいじょうぶだよ。かあちゃんの役に、たてるよ」

    ───だから、ひとりにしないで。

    必死に言い募る台詞の端々から、そんな要求が透けて見えた。ここまで寂しがりに育てた覚えはないんだけどね。
    もしくは、住み慣れた家を離れた影響で不安定になっている可能性もある。いずれにせよ、今の私には都合が良かった。

    「そこまで言うなら、『この先』も悠仁に任せていいかな」
    「……うん、やる」

  • 88二次元好きの匿名さん24/05/27(月) 22:29:44

    私を片腕に抱え直した悠仁は、空いた手でリュックの中をまさぐった。先程使ったばかりの牛刀包丁や、途中で適当な家から取ってこさせたノコギリなど、ひとつひとつ取り出しては路上に並べていく。

    「あのさ、かあちゃん」

    『準備』のさなか、おもむろに悠仁は口を開いた。

    「何かな」
    「『あたらしい体』は、おとこでもいいの?かあちゃんなのに、おんなのひとじゃなくていいの?」
    「いいんだよ、むしろ男性体の方が私には合っていてね」
    「ふーん……」

    何かを考え込むように、悠仁は軽く首を傾げながら地面を眺めていた。しばらくそうしたのち、再び視線を戻す。

    「じゃあ、もともとの……いま、かあちゃんが『入ってる』あたまのところはどうするの?」
    「どうもしないよ。もう用はないからね、隠すなり捨てるなりするだけさ」
    「……なら、えっと、かあちゃんにおねがいがあって……」
    「うん?」

    必要な道具をあらかた並べ終えた悠仁は、私を両手で持ち替えた。2つの顔が向かい合うように、こちらを同じ目線の高さまで持ち上げる。

    「……もとの体に、おはか作っちゃダメ?いままで、かあちゃんに体を使わせてくれて、ありがとうって……」

    私は思わず吹き出した。
    頭上に疑問符を浮かべて私を見つめる悠仁に、なんでもないと笑いかける。

    「ふ、くく……墓、墓か。そうだね。うん、目立たないように作るならいいよ。きっと『彼女』も喜ぶだろう」

    そうかな、と悠仁は嬉しそうに笑った。

  • 89二次元好きの匿名さん24/05/27(月) 22:30:05

    「……市で発見された女性の遺体について、行方がわからなくなっていた頭部が今日、新たに発見されました。
     警察によりますと、本日午前6時過ぎ、▲▲山の山中にて『飼い犬が人の首のようなものを掘り出した』と通報がありました。鑑定の結果、先日遺体として発見された虎杖香織さんの頭部であると判明した、とのことです。
     ▲▲山は遺体の発見現場から10kmほど離れた場所にあり、何者かが持ち去って遺棄したものと見られています。
     警察では、何らかの事情を知っている可能性があるとして、虎杖香織さんの長男の行方を追っています……」

  • 90二次元好きの匿名さん24/05/27(月) 22:33:03

    お墓壊されちゃった

  • 91二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 00:46:28

    悠仁…

  • 92二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 07:58:56

    お墓が……

  • 93二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 15:48:39

    悠仁がニュースを見たら……いや羂索が見せないかな 余計な情報だろうし

  • 94二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 23:10:05

    >>93

    見ないならまぁギリ……

  • 95二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 23:27:32

    悠仁は本当にいい子だ。

    朝一番で乗り込んだ東京行き新幹線の車内では、私の言いつけを守って、帽子を深くかぶり大人しくしていた。
    ちょうど私の小腹が空いたタイミングに合わせて、駅構内で買った弁当を差し出してくる。「かあちゃんと同じのにした」と、やたら嬉しそうな顔で弁当を頬張っていた。

    仙台とは比べるべくもない人の波を目の当たりにした時には、ひどく狼狽して「かえろう」と抱きついてきた。これだけの人がいるところで小学校のようなことが起きたら、と想像したらしい。
    「私がいれば大丈夫だよ」と答えて落ち着かせたが、しばらくはこちらの服の裾をつまんだままだった。

    ホテルのチェックインまでの間、渋谷を中心に『下見』をしていた時は、人混みの中で必死に私の後を追いかけてきた。そして、時々私の手を軽く引いては「あたま、へいき?いたくない?」と声をかけてきた。

    夕食はファミレスにした。仙台未上陸のチェーン店だった。
    悠仁は生まれて初めて食べるパフェを気に入ったらしく、次の層へ突入するたび「かあちゃん、これ!これおいしいよ!」と何度もスプーンを差し出してきた。

    ホテルに入り、あとは寝るだけの状態でテレビを眺めていると、後からシャワーを浴びた悠仁が「……きょう、いっしょにねてくれる?」と言い出した。
    私が「また今度ね」と返すと、それ以上食い下がることもなく頷き、「おやすみなさい」と隣のベッドへ潜り込んだ。

  • 96二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 23:27:52

    そして今朝、悠仁は静かに眠っている。早朝から身支度を済ませた私に気づきもしない熟睡ぶりだった。
    今日ばかりは言いくるめるにも骨が折れるだろうと考えていたが、このまま寝てくれるなら手間が省ける。
    親孝行な子供で何よりだよ。

    部屋のメモパッドを数枚ちぎり、今後の指示を書きつけて、枕元に置いた。これで、悠仁一人でもこちらの予定通りに動いてくれるはずだ。
    私とて、伊達酔狂で東京観光をさせたわけじゃない。悠仁には、まだやってほしいことが残っているんだ。
    あとは、この子の逃げ足の速さ次第といったところかな。

    私は、その場で軽く伸びをした。久しぶりの開放感だった。
    虎杖香織から解き放たれた今、思考の赴くままにどこへでも行ける。ようやく、獄門疆の探索に集中できるわけだ。
    目指すは国外。目星をつけている場所がいくつもある。さて、何年かかることやら。

    先払い制のホテルを選んでおいて正解だったな、と思いつつ、私は部屋を出た。
    まだ夢の世界にいる悠仁のために『Please Don't Disturb』の札をドアノブに吊り下げて。

    ……何か文句があるかい?
    私は母親だぞ。

  • 97二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 23:28:29

    【終】

  • 98二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 23:30:52

    袈裟に着替えた夏油が表に出てくると、ちょうど菅田と信奉者の一人が話し込んでいるところに出くわした。

    「駄目よ、夏油様はお忙しいんだから」
    「存じております!それをなんとか、少しだけでいいんです。あの子と話をしていただけないかと……」

    おや、と青年は片眉を釣り上げた。
    菅田に食い下がっているのは、信奉者の中でもごく一握りの存在───呪いが見えるものの、術式を持たない者達のひとりだった。そのくらいのレベルであれば、夏油も少しは個人として識別する気になってくる。
    今、彼の目の前で話しているのは、信奉者たちの中でも古参組に数えられるメンバーだった。たしか、あまり自己主張しないタイプの人間だったと記憶している。
    それが一体、どういう風の吹き回しやら。
    気づけば、夏油は声をかけていた。

    「どうしたんだい、朝から騒がしいようだけど」
    「夏油様!いえ、何でも……」
    「何でもないってことはないだろう。水臭いな、私に隠し事なんて」

    菅田はこういう物言いに弱い。案の定、唇を引き結んで黙り込んでしまう。その隙をついて、信奉者は「夏油様、」と声を上げた。

    「何かな」
    「実は、その……今、こちらの一室をお借りしておりまして」
    「ああ、構わないよ。それで?」
    「子供を一人、そこで寝かせているんです」
    「……うん?」

    予想外の展開に、夏油は思わず妙な声を上げた。それをどう捉えたやら、信奉者は慌てて言葉を繋げる。

    「今朝、ここの門を開けたら、その子が飛び込んできたんです。慌てて止めに入ったのですが、すごい力で……『ここにおいてください、なんでもします』と、必死に頼み込んできまして」

  • 99二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 23:31:27

    その手の輩はたいして珍しくもなかったが、子供というのは夏油も初めてのパターンだった。親が入信した後で子供を連れてくることはあれど、子供が飛び込んでくるというのはまずない。
    思索を巡らせながら、夏油は続きを促した。

    「尋常ではない気迫で『ここに置いてくれ』の一点張りでした。靴も服もひどく汚れていましたから、不憫で……ひとまず落ち着かせようと中に招いて、お茶と菓子をあげたんです。そうしたら、安心したのか眠り込んでしまって……」
    「勝手なことを……!」
    「まあまあ」

    いきりたつ菅田を抑えつつ、夏油は首を傾げる。

    「それで?私はその子に会って、どうすればいいのかな」
    「その……これを夏油様に渡してほしい、と預かっておりまして」

    信奉者が取り出したのは、折り畳んだメモだった。見たところ、残穢の気配はない。何かの仕掛けが施されているわけでもなさそうだ。
    止めようとする菅田をよそに、彼は紙を開いた。

    「……ふーん、なるほどね」

    一読したそれを袂に放り込み、夏油は信奉者に微笑みかける。

    「事情はわかった。いいよ、その子が目を覚ましたら私に教えてくれるかい」
    「は、はい!ありがとうございます!」

    深々と何度も頭を下げる信奉者をその場に残し、夏油は身を翻した。その後を、慌てて菅田がついてくる。

    「申し訳ありません、私の監督不行き届きで」
    「いいさ。むしろ謝るのは私の方だよ、君達にばかり手間をかけさせている」
    「そんな……」

  • 100二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 23:31:46

    お気遣いなく、と女はうやうやしく頭を下げた。髪に隠れたその奥で、彼女の頬はわずかに赤く染まっていた。

    「ところで夏油様。先程の件、いったい紙にはなんと……」

    菅田が問いかけると、青年はメモを指の間に挟み、ひらひらと揺らしてみせた。

    「『この子には呪霊が寄ってきます。好きなように使ってください』……だってさ。十中八九嘘だろうけど、試してみてもいいとは思わないかい?」

  • 101二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 23:32:07

    【完】

  • 102二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 23:33:16

    >……何か文句があるかい?

    >私は母親だぞ。

    文句しかねえ~~~~

    しかもちゃっかり夏油にマーキングしてるし

  • 103二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 23:33:34

    終!?完!!?!??!?

  • 104二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 23:37:44

    盤星教の誘蛾灯&夏油用ビーコンENDじゃないですかヤダ〜

    ほんとにヤダーッ!!

  • 105二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 00:55:55

    救いのない地獄だった😭

  • 106二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 00:59:12

    最悪な気分になったのでこの後なんやかんやあって幸せになったと勝手に妄想しとくわ
    サンキュースレ主ファッキューメロンパン

  • 107二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 01:04:09

    夏油の体を乗っ取る時に再会する感じかこれ? うわ〜っ……

  • 108二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 09:24:33

    うおわぁーーーー!!!救いis何処?!羂索貴様ァー!!
    スレ主さんお疲れ様でした、めっちゃ面白かったです!!

  • 109二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 20:41:14

    同居編が終わりで次は新宿百鬼夜行(夏油NTR)編が来るって言って…
    母ちゃんと一緒に寝るって縛りも果たしてねぇじゃん…

  • 110二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 20:45:54

    夏油をかあちゃんと呼ぶ少年が出来上がるのか

  • 111二次元好きの匿名さん24/05/30(木) 08:44:38

    そうだ 言い忘れるところだった
    私と悠仁の物語を読んでくれてありがとう

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています