- 1二次元好きの匿名さん24/05/27(月) 20:38:18
夜の闇の中を走る電車、その車内にオレとトレーナーはいた。
今は温泉旅行の帰り道。旅行といっても泊まりは無し、風呂に入り用事が済ンだら速攻帰る。それだけ。
事の発端は今日のトレーニング終わりにミーティングをしていた時の事。トレーナーがデスクの引き出しからメモを取り出した際、1枚の紙切れがひらりと落ちた。拾い上げたそれはいつぞや商店街の福引きで当てた温泉旅行券だった。温泉旅行よりも、特賞の当選確率の方が興味深かったオレはすぐさま温泉への興味を失っていたが
「それ、まだ使ってなかったのか?」
もうとっくに使っているもンだと思っていた為に半ば呆れながら聞いた。
「タイミングがなくて…」
と苦笑いするトレーナー。
確かにシニア級に入ってからはオレもコイツもとにかく忙しかったが… - 2二次元好きの匿名さん24/05/27(月) 20:38:31
いや、これは良い機会かもしれない。
一つ思い付いたことがあったのでこの弾丸旅行を敢行した。
別に宿泊しても良かったンだか今から外泊届けの手続きをするのは面倒クセェ。
フジならある程度融通を効かせてくれるだろうが、なんだかオレがトレーナーとの旅行を楽しみにしてるみてェに思われそうでやめた。 - 3二次元好きの匿名さん24/05/27(月) 20:38:45
「温泉、貸し切り風呂があるからそこを使ってくれ」
旅館に着くなりトレーナーにそう言われた。
別に入るつもりは無かったが、貸し切りならまぁいいかとオレも入浴したンだが...
最近は専らシャワーで済ませていた為か、久しぶりの入浴はなかなか悪くない。
風呂から上がりロビーに向かうと、先に上がっていたであろうトレーナーがいた。
…我ながら気の抜けた顔をしていた気がするが見られちまっただろうか…
睨み付けながら「もう上がってたのか」と聞くと
「あんまり長いと湯あたりしちゃうから」と答えるトレーナー。 - 4二次元好きの匿名さん24/05/27(月) 20:39:03
嘘だな。どうせオレを湯冷めさせないように早めに上がったンだろう。
…ったく、それじゃあ付いてきてやった意味ねェだろうが。
「じゃあ帰ろうか」と旅館の外に歩いていくトレーナーの背をもう一度睨む。
そう、付いてきてやったのだ。コイツの為に。
だがこれはこれから先もウマ娘とその担当トレーナーという関係を続ける以上
「必要最低限の関わりだ。」
「一度リセットする必要がある。」
これ以上の仲良しこよしなンて必要ねェ。
3年という短いようで長過ぎた時間はオレ達を確かに変えた。
「…正直、お前を理解したと思う瞬間がある」
さっきの嘘に気付いたのもそうだ、根拠なンかねェ、ただコイツならそうするだろうなとそう思ったからだ。
「だが理解するのもされたと思うのも御免だ」
「"この先"を考えたら思い込みの予測変換は捨てるべきだろ」
旅館から駅へ向かう道中そうトレーナーに伝えるとあろうことかコイツは
「君はやっぱり、真面目な子だな」
なンて言いやがった。
「そういうのをやめろって言ってンだよ」
「分かった、でも…」
呆れたように言うオレにトレーナーが続ける。 - 5二次元好きの匿名さん24/05/27(月) 20:39:16
「また、努力してもいいだろ?」
その言葉を聞いた途端、胸の内が温かくなる。
…あぁそうだ、コイツはそういう奴だった。オレが何度拒絶しても、決して諦めなかった。実の親ですら諦めたオレを理解することを。
「やめろって言っても聞かねェだろ」
微笑みながらそう返す。柄じゃねェ、なにやってンだオレ…
「電車、無くなるかもしンねェぞ、急げ。」
口を真一文字に結び直し先を歩き始める。
だが自然とまた口角が上がる、あぁクソ…とっとと治まりやがれよ… - 6二次元好きの匿名さん24/05/27(月) 20:39:30
そして今に至るわけだが、一つ疑問がある。それはオレがトレーナーの隣に座っていることだ。
何故だ?車内は人が疎らで座席はいくらでも空いている。トレーナーが先に車内に入り「席、沢山空いているな」なんて他愛のないことを言いながら適当な場所に座った。その隣にオレが座ったンだ。
意味分かンねェ…何故わざわざコイツの隣に…?
それに分からねェことはもう一つある。
オレは今スマホを弄っているわけだが、最初は車内でデータの整理でもするつもりだった。だが集中できねェ…さっきの、トレーナーの言葉を思い出しては、SNSや適当なネット記事を開いては閉じを繰り返すだけ。
何故だ...?何故…?と脳を無理矢理動かし思考していると次第に瞼が重くなってきた。
(眠ィ…そうだ、眠いからか、そうに違いねェ…トレーナーの、さっきの言葉なンか関係ねェ…眠いから…だな)
段々と強くなってくる睡魔には勝てず、オレはそれを受け入れた… - 7二次元好きの匿名さん24/05/27(月) 20:39:42
向かいの席の窓の外、暗闇の中を時折街灯の灯りが走る様をぼうっと眺めていると、左肩に何かの重みが加わった。
視線を向けると紫のフードと先がギザギザとした黒い耳、その耳に付けられたシルバーの耳飾りがチャリ…と音を立てる様が見えた。
シャカールが俺の肩にもたれ掛かって来ていた。
「シャ、シャカール?」
普段の彼女からは到底考えられない行動に、動揺しながらも声を掛ける。
だが返事は無い。代わりに返ってきたのは静かな寝息だった。
寝てるだけか…急な温泉旅行だったけど、リラックス出来たのかな…
手から滑り落ちそうになっていたスマホをそっと握らせて彼女の膝の上に置く。起こさないように、そうっと。
ふと、向かいの窓をみる。鏡のようになったそこには、穏やかな寝顔のシャカールが居た。
以前、日本ダービーが近付いて来た時、彼女の同室のメイショウドトウに言われことを思い出す。
「よく…悪夢を見てるみたい、なんです。」
「パッて、夜中に急に飛び起きちゃうんです。」 - 8二次元好きの匿名さん24/05/27(月) 20:39:58
悪夢…それは彼女の「女神」から啓示された、日本ダービーを僅か7cmの差で敗れ三冠の栄光を逃し、その後一切の勝利もなく歴史の中に埋もれ、忘れ去られるという残酷な運命。
だがそれを覆らせたんだ、シャカールが自身の手で。
今まで何度も挑み、敗れ続けた悪夢を意地で振り払い、その後も挫折や恐怖を味わいながらも人々に自らの存在を証明し栄光を掴んだ彼女に漸く、安心して眠られる時が来た。
果たして俺は彼女の役に立てていたのだろうか。
有馬記念を制し、歓声に包まれながら、何も言わず小さく笑みを浮かべ、ただ、こちらを見ていたシャカールを思い出す。
きっと、少しくらいは役に立てたのだろう。
もしそうなら、俺にとって最高の栄誉だ。
暗闇の先に街の灯りが見えてきた。
だが到着にはもう暫く掛かるだろう。
「おやすみ…シャカール…」
起こさないように小さく声を掛ける。
彼女の穏やかな時間を邪魔しないように。 - 9二次元好きの匿名さん24/05/27(月) 20:42:35
2作目のトレシャカSSです。(厳密には2作目ではないのですが)
恋愛ではないと思うのですが、シャカールが大分丸くなってると思います。
文章力の低さ、解釈違い等あると思いますが何卒… - 10二次元好きの匿名さん24/05/27(月) 21:02:10
あなたは"薬指シャカール"の作者さんですか?
温泉旅行の僅かに縮まった距離感、いいよね…少なくとも彼女がトレーナーへ身を預けれる様になったことはこれからのぴょいに大きな影響を( - 11二次元好きの匿名さん24/05/27(月) 21:12:43
- 12二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 05:34:40
いつも素敵なトレシャカSSをありがとう
- 13二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 05:46:24
ぐっすり眠れるようになったシャカールが尊い
- 14二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 06:19:24
ほーん、ええやん
- 15二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 08:14:42
アッ尊い♡
- 16二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 19:20:31
因みに、「厳密には2作目ではない」と言った理由はこちらのスレ
トレ×シャカの可能性をずっと考えていたんだ|あにまん掲示板シャカ→トレへの恋愛感情が発生する確率は確かに低い…だがここで禁断のトレ→シャカを創造することによって行けるのではないかと気が付いたんだ。例えばシャカールの将来を心配するトレーナー。もちろん彼女は賢い…bbs.animanch.comに書いたものがあるからです。
スレタイと関係無い内容にうえに、独自設定モリモリ、そもそも他の方の立てたスレですが、こちらも読んでいただければ光栄です。