- 1改変ネタ注意24/06/07(金) 23:10:21
- 2改変ネタ注意24/06/07(金) 23:11:10
ヴァルキューレ警察学校に進学して幾日か経ち、カリキュラムとして車両の運転を習得した頃。
『非番の時に同期達と集まって、どこか怖いところでも見に行こう』という話になった。
別に心霊や怪談の類に興味があったわけではなく、どちらかといえば夜中に人目につかない場所で騒ぎたい、というべきか。
林間学校やキャンプ場で、グループを組んできゃあきゃあ言いながら歩き回る、その延長線上。
要は心霊スポットに行きたかったのではなく。ただ単に、肝試しがしたかったのだ。
当然、場所選びもかなり適当なものだった。
心霊スポットを目指すのなら、まずは目的地が決まっているが、この場合は逆になる。
少なくとも人家が無く、車で行けて、暗いが危険は無い。そんな条件に当てはまる場所を、目的地として探し出す。
怖いところというには情緒もなにもないが、まあ、条件を満たす場所は限られるため、行き先自体は割とすんなり決まったという。
- 3改変ネタ注意24/06/07(金) 23:12:13
シラトリ区から2、3駅ほど離れた駅を出発点に、山手に向かい車でおよそ30分。
舗装や整備はされているが、特に近道や裏道でもなく、人の通りの少ない小さな山の中。
宅地造成されたものの、放置されている区画があった。
別に何か事件があったり、隔離されていた集落跡だったり、そんな話は全く無くて。
景気のいい頃に集合住宅か何かを作る話があったものの、特に建物が建つことも無く。
ちょっと開けた山道みたいになっている、本当にそれだけの場所だった。
人目を気にせず騒ぐにはちょうど良かったので、テスト明けになる2週間後の土曜日に、何人か集めて行ってみることになった。
声のかかった同期の中から集まったのは五人程度。
先述の駅に集合し、一つの車で乗り合わせ、出発したのは夜の十時過ぎだった。
- 4改変ネタ注意24/06/07(金) 23:13:04
目的地までの30分程の移動時間、車内は誰からともなく怪談話の大会のようになっていた。
とあるマンションのエレベーターの話とか、廃墟になったホテルがどうとか。
それこそ肝試しに行った学生グループや、山の中にある心霊スポットの話をしだす人もいて、車内は盛り上がっていたという。
街灯の間隔もまばらになってきて、対向車どころか自分たち以外に人の姿が見えないような道をぐねぐねと進み。
あと少しで目的地、集合住宅なんかを立てるために造成地にしたところで放置されてる、ひとけのない山の麓あたりに着くというところで。
彼女の隣に座ってた子がふとこぼした。
「ねえ。そこって、家を建てようってところで何年も放置されてんだよね」 - 5改変ネタ注意24/06/07(金) 23:14:07
うん、と私も同乗している人達も答えた。
山を切り開いて家を建てようってとこまで行ったが、そこから工事とかはされてないみたいだと。
「そこって、事件が起きたり、人が死んだりはしてないんだよね」
もちろん無い。
そういう場所には行かないようにしようという話だったのだ。
「うん、じゃあ。
なんで途中で建てるのを止めたんだろう?」 - 6改変ネタ注意24/06/07(金) 23:15:08
同乗していた友達が、ぼつぼつと当てずっぽうの推論を並べだす。
開発途中で不景気になり、工事が取りやめになったのでは?
いやいや、ここはやっぱり工事中に誰か死んだってパターンでしょ。
なんでそんな大事故が新聞にも載らないんだよ。
皆が適当に会話を流し、車は真っ暗な山道を進む。
先の話がひと段落して、二、三回ほどカーブを通った頃だろうか。
なだらかな山道を進み、助手席側の窓の向こうに、その場所が見えてきた。 - 7改変ネタ注意24/06/07(金) 23:15:56
一旦エンジンを付けたまま停車し、全員で車を降りて、一度現状を確認してみることになった。
停めた車の助手席側、つまり山道を登って左を向くと、そこには立ち入り禁止を示す簡素な立て札があり。
その先が、大きく開けた広場みたいになっていた。
雑に放置された原っぱ、と言った方が近いかもしれない。
ゆれる草は太腿のあたりまで伸びていて、彼女達が来た道以外の三方向は全て木々に囲われている。
草原と山林の境界線は明白で、一軒家には少々広いが集合住宅程ではない、そんな広さで区切られていた。 - 8二次元好きの匿名さん24/06/07(金) 23:16:08
久しぶりの怪談系ネタだ
- 9改変ネタ注意24/06/07(金) 23:17:02
奥まで入る必要はないだろう、という話になった。
目的となる廃墟や祠があるわけではない。何の曰くもない造成地だ。
そもそも立入禁止なのだから、目標もなく分け入るだけの理由が無い。
結局、この立札を肝試し用の目印にしよう、ということになった。
もう一度車に乗って少しだけ山道を降りて、そこを拠点に、ひとりずつ車からこの広場までを往復する。
広場に着いたら、そこまで行った証拠として、立て札の写真を撮ってから戻ってくる。
肝試しの流れは、その場の思い付きで、そういう風に決まっていった。
看板の場所から車が見えないように、二回程度道を曲がって降りた先に車を停めて。
じゃんけんで決めた順番通りに、一人ずつ、肝試しがスタートした。 - 10改変ネタ注意24/06/07(金) 23:18:04
彼女の順番は3番目、真ん中での出発だった。
懐中電灯やスマホのライトはあるものの、静かで真っ暗な山道だ。
車のエンジンも切られてしまえば、自分の足音と虫の声しか聞こえない。
僅かな草の擦れる音に大仰に固まってしまい、(ペアだったら絶対笑われてたな)なんて考えていたという。
ようやく目的地の看板の前に着いた時も、その先にある草原が、つい先ほど皆と見た時とどこか違うように感じられた。
一人分の心許ない光量しかない状況で、穴のような真っ黒の草原を前に、早く帰るべく彼女はさっさと証拠写真を撮ることにした。
ピントを合わせることもなく、だいぶブレた状態だったが、彼女は早歩きで坂を下っていった。
- 11改変ネタ注意24/06/07(金) 23:19:07
彼女を含め、皆だいたい7、8分程度で戻ってきたが、怖がるような素振りを見せなかった子でも、車に乗った時にはどこか安心したような表情を見せた。
写真も、ブレていたり真っ暗だったり、はっきり映らないものを1枚だけという子が大半だった。
彼女の次に、来る時の雑談で「なんで途中で建てるのを止めたんだろう」と言っていた子が出発して、残った面子で撮りなおせだの行きたくないだの、ふざけながら盛り上がって。
出て行った子は、10分過ぎても戻ってこなかった。
- 12改変ネタ注意24/06/07(金) 23:20:29
先にも言った通り、車の場所から看板までは往復7、8分程だ。
立ち止まったり早足になったりするとしても、そんなに離れていない以上、大きく差が出ることはない。
車の面々がそのことに気づき、足をくじいたりしただろうか、などという話が出始めて。
出発してから15分ほど経った頃に、ようやく車に戻ってきた。 - 13改変ネタ注意24/06/07(金) 23:21:11
特に変わらず歩いて戻ってくる様子に、車内も少しほっとした空気が流れた。
懐中電灯のスイッチを切って後部座席に座った少女に、遅かったね、などと声がかかる。
しかし、本人はどうも怪訝な顔で、生返事を返すばかり。
何かあったかと彼女が聞こうとする前に、その子は独り言とも話し声ともつかない声量で、ねえ、と話し出した。
それこそ、あの広場のことを質問したときみたいに。
「ねえ、あそこにある立て札ってさ。
あれって、仕方なく書いたんじゃないかな」
- 14改変ネタ注意24/06/07(金) 23:22:15
よくわからない言葉に、皆から疑問の声が上がる。
脈絡も無い話だし、そもそも立入禁止看板自体、仕方なく立てるものではないのか。
そんな社内の困惑をよそに、少女の話は続く。
「いや、っていうのもさ、あそこに着いて立て札を撮ろうとして。
うまく撮れなくてズームしたりライトで照らしたりしてたんだけど、なんか看板の上の部分に、変なとこ見つけてさ。
看板の右上と左上のすみっこが、なんか変に照り返してて、よく見るとテープ付けしてたの。
それも看板の裏側から、っていうか、見ている側の反対に何か貼って、貼ったテープの残りがこっちに出てるような感じ」 - 15改変ネタ注意24/06/07(金) 23:22:58
「気になって看板の裏側に回り込んだらさ。
テープで紙が貼りつけてあって。
多分油性ペンだと思うんだけど、下手糞な字で、
『ここにいてくださいますか』
って書かれてたの」
- 16改変ネタ注意24/06/07(金) 23:24:05
「あれのこと、立入禁止の看板って呼んでたけど、多分、あっちの方がほんとうなんじゃないかな。
ほんとはあっちを伝えたくて、でもそれをそのまま看板にしちゃうと変に思われるから、仕方なく山道の方にも立ち入り禁止って書いたのよ」
「――あの紙、そんなに汚れてなかったんだ。
もっと土とか付いてたり、紙自体剥がれたりしてもおかしくないのに、あれ、と思って。
何か理由を考えようとした時にさ、後ろから、『あのね』って、含み笑いみたいな声が聞こえてきたの」 - 17改変ネタ注意24/06/07(金) 23:24:45
「振り返ったら、ひとみたいなのがまうしろにたってて、
『どうしてもつじつまをあわせたいんだって』
って、笑いを堪えながら言ったのよ」
「そこで私、ああ、ってやっと分かって。
だから何回写真を撮っても顔しか映らないんだなあって」
- 18改変ネタ注意24/06/07(金) 23:25:29
なあ、とそこで叫ぶように言ったのは運転席の同級生だった。
肝試しは中止にして帰ろう。
もう夜も遅いし、さっさと帰った方がいい。
ひきつった作り笑いでそう言うと、全員いるのを確認し、有無を言わさず街へと車を走らせた。
- 19改変ネタ注意24/06/07(金) 23:26:20
その後は別に、体調を崩したとか学校に来なくなったなんて話もなく、その子も当時の話をしなければ特に変なこともないので、付き合いは続いているという。
元々特に曰くもない場所だから、当たり前と言えばそうである。
ただ。
彼女が肝試しから帰ってきて、疲れからすぐに眠った翌朝。
一緒に肝試しに行った子とのモモトークでのトーク画面に、自分の送信取り消し表示がびっしり並んでいて。
その後に同じようなことが起きたりはしてないんですけど、でもあれはちょっと不気味でしたね、と彼女は言った。 - 20改変ネタ注意24/06/07(金) 23:27:38
以上になります。
改変元:「まかりくがい」(著者:梨)
まかりくがい | オモコロめったなものだすなここはよつかどひとがきくおもしろやわかまつさまのえだのさかえるはもしげるおもしろやomocoro.jpお付き合いいただきありがとうございました。
- 21改変ネタ注意24/06/07(金) 23:33:42
- 22二次元好きの匿名さん24/06/07(金) 23:34:43
うへ〜無いのに怖いよ〜
- 23二次元好きの匿名さん24/06/07(金) 23:42:23
乙
この場合投下というより紹介乙? - 24二次元好きの匿名さん24/06/07(金) 23:43:36
やっぱりカヤじゃねぇか!
- 25二次元好きの匿名さん24/06/07(金) 23:52:43
- 26二次元好きの匿名さん24/06/08(土) 00:13:59
- 27二次元好きの匿名さん24/06/08(土) 00:27:58
理由もなくカリフォってるのを見たらそら「ここにいてくださいますか」ってお願いするよ
- 28二次元好きの匿名さん24/06/08(土) 00:49:40
- 29二次元好きの匿名さん24/06/08(土) 00:52:42
これがひとみたいなのですか
- 30二次元好きの匿名さん24/06/08(土) 01:48:40
「陸奥行くぞ〜」
- 31二次元好きの匿名さん24/06/08(土) 02:47:11
- 32二次元好きの匿名さん24/06/08(土) 08:46:35
やっぱり梨さんのアレか…まさかカリフォがオチとは思わなかったけどww
梨さんの怪談って読者にまで呪いを向ける構成が印象的なんだが、キヴォトスに持ち込んだら神秘付与されてガチの呪いになったりする? - 33二次元好きの匿名さん24/06/08(土) 09:19:53
何も無いところに架空の被害者をでっち上げて怪異のような何かを生み出すのは本当に出来そう