【SS】閉ざされた大地【独自設定・妄想あり】

  • 1二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 10:22:30

    【注意】
    独自設定・独自解釈・妄想で補完した烙印ストーリーになります
    公式からストーリーが公開される前に脳内設定を供養しようとおもいます
    公式からの情報や個人の考えを否定する意図は一切ありません
    大筋ではカードと設定資料を規準にしていますが、実際のカードと描写がズレる場合があります
    また一部鬱展開やエログロ等不快な表現を含む場合があります
    あまり書き溜め出来ていない見切り発車なのですが、可能な限り最後まで書きたいです
    以上前置きが長くなりましたが、それでもOKでしたらぜひ楽しんでいただければ幸いです
    本編は次からです

  • 2二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 10:23:24

    『深淵』と呼ばれる大陸の北端、荒廃した大地に存在する、大陸唯一にして最大の国土を誇る大国。
    ―――名を、『教導国家 ドラグマ』

    土地からの恵みもほとんど無く、しかし住まう民達は慎ましくも逞しく生活を営んでいる。
    その国の中央、大聖堂へと続く大通り……の、横の通り、日々の僅かな食料と、さらに僅かな嗜好品を売買する屋台が並ぶ街道を、金髪の少女が歩いている。
    白銀の甲冑に身を包み、ソレをものともしない軽やかな足取りで歩く少女に、民達は微笑みを向け、少女もそれに応える。
    毎日繰り返される、少女と民達の日常。

    「あ、聖女様!パンを焼いたんです。ぜひ……っ、あっ」

    『聖女』と呼ばれるその少女に嬉しそうに駆け寄り、しかし数歩手前で転んでしまう子供。

    「大丈夫ですか!?怪我は……、擦り傷ですね。痛みますか?」

    少女は転んだ子供に駆け寄り、その場にしゃがみ込む。
    泣くのを我慢しているその子供をその場に座らせ、怪我を確認する。
    幸い、膝に擦り傷が出来る程度で済んでいた。
    涙目の子供は自分よりも、手に持ったパンが潰れていないか心配する。

    「大丈夫です。……聖女様に、召し上がっていただきたくて。……よかった、無事みたい。」
    「あなたの勇気のお陰ですね。さ、腕を。」

    聖女は子供の腕にある『聖痕』に手を翳す。
    黒かったソレは白く光り、それと同時に少女の額も輝き、膝の擦り傷が治ってゆく。
    傷が完全に消えたのを確認すると、子供を立ち上がらせ、頭を撫でる。

    「はい、終わりました。走るなとは言いませんが、ちゃんと足元を見てくださいね?
    ……パンも、ありがとうございます。大切にいただきますね。」

  • 3二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 10:26:54

    笑顔で頷く子供と、2人を見守る民達。
    子供は少女にパンを手渡し、頭を下げ、笑顔で走り去る。
    今度は転ばないようにと、手を振る少女。

    「聖女様。」
    「聖女様。」
    「奇跡だ。」

    民達は口々に少女を称え、少女もそれに応える。
    毎日繰り返される、少女と民達の幸せな日常。
    口にしたパンは、味がしなかった。

  • 4二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 10:27:47

    大聖堂に辿り着いた少女は、目の前を歩く、2人の男を連れた長髪の女性を見つけると、嬉しそうに駆け寄る。

    「お姉様!……フルルドリスお姉様!あっ」

    躓いた少女を、姉と呼ばれた女性が抱き留める。

    「『走るなとは言いませんが、ちゃんと足元を見てくださいね?』」
    「見ていらっしゃったのですか!?」

    驚愕と羞恥を隠そうともせずに、顔を赤くする少女に彼女――フルルドリスはコロコロと笑う。

    「いや、すまない。くくっ、とても立派だったよ。」
    「もーっ、お姉様のいじわる。」
    「すまない。急ぎの公務も無いし、お詫びに髪を結ってあげよう。おいで?」
    「……許します。」

    微笑ましいやり取りを見守っていた付き添いの2人は、フルルドリスに目配せされ、慣れたようなため息をついた。
    ……どうやら、公務よりも優先する事らしい。

  • 5二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 10:29:48

    side:フルルドリス

    ―――少女が大聖堂に到着する数分前

    呼び出され、礼拝の間についた私は、膝をつき、頭を下げて『アイツ』――大神祇官を待つ。
    やがて奥から現れた大神祇官は、私にいくつかの近状報告を求める。
    取るに足らない定例行事。
    要件は終わったかと、立ち去ることを告げた私に、

    「アレの様子は?」

    ……温度を感じない問いかけに、なんとか動揺を隠す。
    そうだ、聞かれるのはわかっていた事だ。

    「……民からの憶えも良く、聖女然として振る舞っております。」
    「時は近い。間違っても邪教の徒になど近づけるな。」
    「はっ。もちろんです。」
    「下がれ。」

    礼拝の間を出て、深くため息を付く私を、心配そうに見る2人。

    「フルルドリス様、その……」
    「言うな。ふふっ、そう気に病むな。……そうだな、気晴らしに髪でもいじらせてもらうか」
    「いえ、公務が残っています。」

    この優秀な付き人を、どう説得するか。
    それが、目下の課題である。

  • 6二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 10:33:39

    「こら、あんまり動かないで」
    「ふふ、だってー、とっても幸せだなって。」

    椅子に座り、ご機嫌な様子で笑う少女と、その髪を櫛で梳くフルルドリス。

    「……幸せ」
    「そうです。民達が笑っていて、国が平和で、大好きな人が一緒にいてくれる。とっても幸せです!」
    「なぁ、もっと自分のことも考えていいんだぞ。」

    少女は少し首を横に振る。

    「これまで育てていただいたのですから、それ以上は望みません」
    「だが、アイツは……」
    「お姉様、不敬ですよ。」
    「……そうだな。さ、終わったよ。……この後、呼ばれてるから一緒に行こうか。」
    「はい。……えっ」

    突如、窓の外の空気が震える。

    「なんだ、あれ……」

    バルコニーに出た2人が見上げた先、空には大きな、とても大きな亀裂が生じ、見たこともない/とても馴染み深い『穴』が空いた。

  • 7二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 10:34:28

    side:????

    そう、時は近い。もうすぐ、もうすぐだ。
    虚空に手を広げる大神祇官を見ながら、仮面の下から笑みが溢れる
    直後、空気が震え、空が裂ける。

    「さぁ、開幕だ。」

  • 8二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 10:35:56

    しばらく空を眺めていた2人だったが、『穴』から巨大な、質量を持った火球が降ると、フルルドリスは弾かれた様に部屋に戻り、甲冑を纏う。

    「テオ!アディン!居るな。民の避難が最優先だ。各部隊に指示を出したら2人は私と合流しろ!」
    「「はっ!」」

    端的な指示に廊下から応え、走り去る2人の従者の足音を確認すると、フルルドリスはバルコニーに戻り、足の『聖痕』に力を込める。

    「お姉様、私は……」
    「此処に居ろ!部屋に入って大人しくしてるんだ!」
    「でも……」

    少女の返答を待たず、甲冑を纏ったフルルドリスは火球に向かって飛び立つ。

    「……っ」

    残された少女は、部屋に戻り……、自らも甲冑を身に付け、鎚を手に部屋を後にした。

  • 9二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 10:37:41

    side:フルルドリス

    文字通り一直線に火球に向かうフルルドリス。
    近づくと、中には大きな生物の影が見える。

    (……銀色の、竜?)

    伝承に聞く存在に近いソレに、しかし怯まず、雷撃を纏わせた剣で斬撃を与える。
    フルルドリスの一撃は、おそらくは片目に直撃し、火球は起動を変える。
    悲鳴のような鳴き声を上げ、真下に落下した銀色の竜を眺める。
    この辺りならもう避難は済んでいるだろうと。

    「……え?」

    しかし、銀色の竜の落下先には、見慣れた少女が居た。

  • 10二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 10:40:42

    「……確か、この辺に落ちた筈……」

    街に出て空を見上げていた少女は、フルルドリスが切り捨てた火球の落ちた先へと、恐らくは逃げ遅れた住民の避難と救助のために向かっていた。
    落下の衝撃のせいか、辺りには炎と砂埃が舞い、視界が悪い。
    それでも、熱源へと歩を進める少女。

    そして、炎の中心に辿り着き、砂埃が晴れると、
    ―――片目に傷を負った、白髪の少年が蹲っていた。

    「……おま、えは?」

    牙を向き、誰かと問う少年に、少女は、

    「エクレシア」

    鎚を構え、自らの名を告げ、問いかける。

    「『聖女』エクレシアです。あなたは――何者ですか?」

  • 11二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 10:59:57

    独自設定「聖痕と医療」
    ・ドラグマでは怪我や病は聖痕によって治るため医療知識は概念レベルで失伝しています。
    ・聖痕は基本的に生まれたときに大神祇官から与えられ、そうでない生まれつき聖痕を持つものが聖女となります。
    ・聖痕に大神祇官か聖女が力を分け与えることで治癒力を上げることが、この国での「治療」となります。

  • 12二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 13:49:22

    side:■■■■

    視界に映るのは、一面の赤だった。

    何処だここは
    熱い
    落ちている
    なにか、
    痛い
    墜ちる

    次に見た景色は、灰色の煙。

    いたい
    あつい
    なんのおとだ

    顔を上げ、はじめてみたそれは、とてもきれいな白だった。

  • 13二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 13:50:18

    「あなたは――何者ですか?」

    目の前の少女を眺めていた少年は、左目を押さえながら倒れ込む。
    その最中、無意識に、呻くようにつぶやく。

    「しろ、い、……はじめて、みた」
    「ちょっと、あなた大丈夫ですか?……って、怪我!目、怪我してるじゃないですか!」

    エクレシアは少年に駆け寄り、肩を揺すりながら呼びかける。
    不規則ではあるが呼吸を確認すると、彼女はとりあえず安堵の息を漏らし、
    ――背後の集団に気付く。

  • 14二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 13:58:18

    仮面を付け、長く鋭い爪を携えた一団、『神徒』
    大神祇官の指示を代行する者達である。
    彼らが現れた意味を、エクレシアに理解できない訳が無かった。

    「聖女様。ソレは邪教の徒です。お引渡しください。」
    「待ってください!彼は怪我をしています。まずは治療を……」
    「聖女様。教義をお忘れですか?繰り返しになりますが、ソレは邪教の徒です。」

    教義。忘れるわけが無い。物心付く頃から何度も読んでいるのだから。
    なるほど、この者が邪教の徒なら、確かにいくつかの教義に抵触する。
    エクレシアはもう一度、傷ついた少年を見て立ち上がり、神徒達に鎚を向ける。

    「この者は怪我人です。治療を。」
    「ご乱心を。ならば少々乱暴な手段を取ります。」

    長い爪を構え、2人を取り囲む神徒達。
    そこに割入る新たな足音。

    「あんたが噂の聖女様?随分お人好しだねぇ?」
    「あまり喋るな。目標を回収次第撤退するぞ。」
    「……じゃあ、もっと早く出るべきだったろ。」

    現れたのは、仮面を付け武装した、様々な獣人の集団だった。

  • 15二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 14:08:32

    傷が痛み気を失いそうになり、しかし痛みのせいで気絶出来ない。
    朦朧とした意識の中で顔を上げると、自分を庇うように片膝立ちのエクレシアと、2人を挟んで退治する2組の集団がいた。
    この場での争いを望まない少女の訴えを、表情の無い仮面で受け流す前方の白い集団と、今にも暴発寸前といった様子の後方の集団。
    痛みのせいで状況の把握が出来ない……いや、そもそも自分には「状況を判断するだけの知識」が存在しない。

    「……うぅ、」
    「あっ、目を覚ましたのですね。……えっ」

    少年のうめき声に、エクレシアが気を取られ振り向いた瞬間、その背後から長く鋭い爪が振り下ろされ、
    ――それを防ぐために、大きな翼を持った仮面の男が後方から割り込む。
    エクレシアは少年に咄嗟に袖を引かれ、抱きかかえられる形となる。

    「あの、えっと、……ありがとうございます……?」

    礼を言われきょとんとする少年に、仮面を付けた猫耳の女が嬉しそうに語りかける。

    「やるじゃないか、少年。そのまま抱えて下がってな!」
    「こっちだ!」

    気付くと2組の集団は入り乱れ、武器を交えている。
    2人は呼ばれた声に従い後方に下がる。

  • 16二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 14:09:33

    「貴方達は……?」
    「俺達は『鉄獣戦線』だ。自己紹介は後に回したいんだが、害意はねえよ。」

    エクレシアの問いに白い毛並みの男が答える。

    「悪いがこの場を切り抜けて、少々お付き合い願いたいんだが、構わんか?……くっ!
    おいっ!無事か!俺達で先導するから、一先ずこの国から出てくれ!」

    そう叫びながら襲い来る爪を弾き、彼も戦闘に加わる。
    しかし、

    「させるとでも?」
    「ぐぁっ!?」

    突然、少年の背後から仮面の男が現れ、少年の脇腹を蹴り飛ばす。
    仮面の男はエクレシアの額に手を翳すと、空間に亀裂が生じ、空に現れたのと同じ『穴』が現れた。

    「なにを、あっ、ぁあああああああああああっっっっ」

    額の聖痕が輝き、悲鳴を上げるエクレシア。
    文字通り壁となり『鉄獣戦線』を阻む神徒達。

    エクレシアの額から聖痕が浮かび上がり、その輝きが『穴』に吸い込まれる寸前、横から割り込んだ少年に奪われる。
    気を失い、その場に倒れるエクレシアを見た少年は、手にした『聖痕』を飲み込み、その姿を変えた。

  • 17二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 14:11:51

    現れた竜に、その場にいた者達全てが、目を奪われ動きを止める。
    少年の立っていた場所に現れたその竜は先程の銀色の竜とは全く異なる姿をしている。
    その姿は獣に近く、長い牙と黄金の角を持ち、大地を踏みしめる四肢の先には燃え盛る鋭い爪、そして大きな翼。
    そしてその腕には、自らの爪が当たらないように、エクレシアが抱えられていた。

    先に動いたのは鉄獣戦線の主力達だった。
    竜の前方に陣取り、退路を確保する。

    「やるじゃないか、少年。……私達がわかるか?」

    先程と同じ言葉を投げる猫耳の女。

    「飛べるなら早々に離脱しろ。おっかねえのが来るぞ。」

    白い毛並みの男が、そう言った直後。
    走る紫電とそれを受け止める翼の男。

    「エクレシアああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

    叫び斬り掛かってくるフルルドリスを抑えながら、翼の男が号令を発する。

    「総員撤退。少年と聖女の安全が最優先だ。飛べる者達は先導しろ。
    ……リズ、ルガル、お前達も退け。この女は俺が抑える。」

    エクレシアを抱えた竜は、翼を持った者達に従い、その場から去っていった。

  • 18二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 14:31:30

    side:シュライグ

    「また貴様か、――シュライグ!」

    名を呼ばれた翼の男は、後ろに飛んで距離を取り、フルルドリスを見据える。
    互いに武器を構えるが、シュライグ側の戦意はかなり希薄である。

    「落ち着け。お前と争うつもりはない。」
    「……ふざけるなよ。エクレシアを奪ったんだ。今までの小競り合いの様にはいかんぞ!!」

    斬りかかるフルルドリスの剣を受け止め、シュライグは周囲を見渡す。
    2人を取り囲む神徒達は、いつでも参戦出来る様に構えている。
    シュライグは、剣を横に流し、取れていた仮面を付け直し叫んだ。

    「リズ!頼む!!」

    声に応え飛来するいくつかの球体。
    そこから発せられる閃光と煙に紛れ、シュライグは離脱を図る。
    ――それと同時に、フルルドリスに紙切れを渡す。

    「聖女の無事は保証する。ここに来い。」
    「待て、貴様……」

    煙が晴れる頃には、2人の影は跡形も無かった。

    「……退けと言っただろう。」
    「居る前提でいた人が言っても意味無いわよ?」

  • 19二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 16:17:47

    「……起きたか。調子はどうだ、坊主。……いや、お前喋れるのか?名前は?」
    「なまえ……?」
    「おお、良かった。言葉はわかるのか。俺はルガル。よろしく頼むぜ。」
    「ルガル……。俺は……うっ、……駄目だ、何もわからない。」

    頭を抑える少年を、ルガルは心配そうに覗き込む。

    「記憶喪失ってやつか?『ホール』から生物が降ってくること自体稀だってのに、会話出来るなんて恐らく類例がねえな。」
    「ホー、ル…?」
    「お前が落ちてきた穴だよ。なんか色々降らす穴なんだが……、まあ、詳しくはキットに会った時にでも聞いてくれ。」
    「……わかった。……ここは、どこだ?俺は……?」

    知らないことが増える一方で、混乱していた少年は、頭を振ってから現状をルガルに問う。
    ルガルはわざとらしく両手を広げ、語りはじめる。

  • 20二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 16:18:05

    「ようこそ。ここは我ら『鉄獣戦線』のアジトだ。歓迎するぜ。お前の正体は俺達にもわかんねえよ。竜の姿だったのに、ここに着くなり蹲ったと思ったら、急に縮んで倒れちまったんだよ。」
    「竜の、……っ、そうだ、彼女は!?」

    少年はベットから飛び降り、ルガルに詰め寄る。

    「お前が抱えてきた聖女サマなら、リズ……あの猫耳の、わかるか?あいつが面倒見てるぜ。まだ起きてはいないが、特に問題は無いらしい。」
    「そう、なのか……。」
    「ウチのリーダーから、その辺含めて諸々の話をしたいんで、起きたら連れて来るように言われてんだ。行けそうか?」

    少年は頷き、ルガルと共に部屋を出た。

  • 21二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 21:01:23

    少年が案内された先は、芝生に覆われた、明るい中庭だった。
    端の木陰では、猫耳の女が座っていて、その横でエクレシアが眠っている。
    その前に立っていた翼の男がこちらに振り向き、猫耳の女が顔を上げる。

    「来わね、ルガル。この陰気野郎、病み上がりを会議室に箱詰めにしようとしたのよ?」
    「リズ、煩いぞ。……少年、よく来てくれた。俺はシュライグ。一応ここのリーダーをやっている。そこの煩いのはフェリジットだ。」

    差し出された右手を眺める少年に、背後からルガルが助け舟を出す。

    「リーダー、どうやらコイツは記憶が無いらしいんだ。」
    「……記憶喪失か?いや、もしかしたらそもそも……」
    「細かい話は聖女様が起きてからにしたら?」
    「……すまない。」

    考え込むシュライグとそれを嗜めるフェリジット、謝罪をする少年。
    訪れた沈黙を破ったのは、フェリジットの手を叩く音だった。

  • 22二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 21:40:16

    「わざわざ明るい外にしたのに、雰囲気暗くなったら世話無いわ。……今回も無事に帰還出来たし、皆はもう宴だなんだ言ってるけど少年は、
    ……この娘が起きるまで待つかい?」
    「ああ」

    少年の即答に、フェリジットは目を丸くする。
    そして立ち上がって少し伸びた後、笑いながら少年の背中を叩いた。

    「やっぱりアンタ、いい男だ!じゃ、任せるよ。あたしは腹ペコなの。先にいただくわ。」
    「幸い時間はある。今後についても話し合っておけ。……名前も2人で相談しろ。少年だの坊主だのいい加減呼びづれえんだ。」
    「名前は大切な物だ。ゆっくり考えろ。彼女が起きて、落ち着いたら、食事にしよう。……この鳥に言えば俺達の元まで来れる。話はその時に。」

    シュライグは機械の鳥を少年に渡し、3人で中庭を出て行った。
    少年は少し考え、少女が横たわる木の根元に座り、静かに目を閉じた。

  • 23二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 21:41:10

    本日はここまでです。
    続きは明日の夜頃からの予定です。

  • 24二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 22:16:25

    >>9

    誤字修正

    ×起動

    ○軌道

  • 25二次元好きの匿名さん24/06/13(木) 08:25:57
  • 26二次元好きの匿名さん24/06/13(木) 18:58:01

    少年が目を覚ますと、隣にエクレシアが座っていた。
    同じ木に寄り掛かって目を閉じていたが、少年が目覚めたのに気付くと、そちらを向いて微笑んだ。

    「……おはようございます。よく休めたようで何よりです。」
    「おはよう。……だいじょうぶ、なのか?それに、その、」

    すまない。と、少年が続ける前に、エクレシアは頭を横に振る。

    「謝らないでください。現状をまだ完全には理解できていませんが、私の行動の責任は全て私の物です。」
    「そういう、もの、なのか……?」
    「はい。そういうものです。」

    エクレシアはにこにこと笑いながら立ち上がり、少し歩きながら腕を上に伸ばす。

    「ここは、あの方々……鉄獣戦線の拠点ですよね。つまり私は国に背いた逃亡者です。」
    「そう、なのか。」

    内容の割に、その声色はどこか朗らかですらある。

    「そうです。あーあ、お姉様になんて言われるかなー。ふふ。」
    「たのしいのか?」
    「どうなんでしょうか。今までの生活も間違いなくとても幸せでした。でも今はとても、……そうですね、楽なんです。」

  • 27二次元好きの匿名さん24/06/13(木) 18:58:52

    「……らく?」

    エクレシアは両手を広げて回っている。

    「はじめて、教団に背いて。……多分はじめて自分の意思で行動しました。そのきっかけになってくれた貴方には、感謝すらしてます。」
    「よかった、のか?」

    エクレシアは答えずに少年の前まで戻り、その場に座る。

    「むり、させて、いるんだろうな。すまない。」
    「何故、そう思うのですか?」

    俯いているエクレシアの顔は、少年からは見えない。

    「つらそうに、みえる。」
    「……そう、ですね。わかりません。わからないんです。少し寂しさもありますし、楽なのも本当です。色々誤魔化そうと無理してるのかもしれません。
    ……本当に、はじめてのことで混乱してるんです。」
    「すこし、やすんだ、ほうが、いい。俺も、もうすこし、やすみたい。」

    少年はそう言うと、その場で寝そべり、丸くなって寝息を立てはじめる。
    エクレシアはポカンとしてそれを眺める。

    「え、この流れで貴方寝るんですか?……まあ、そうですね。悩んだからって好転するような状況でもありませんよね。」

    そう言うと、再び木に寄り掛かり、自分も目を閉じた。

  • 28二次元好きの匿名さん24/06/13(木) 20:15:50

    次に少年が目覚めた時、何故か自分の頭の下にはエクレシアの脚があった。
    驚き飛び起きると、エクレシアも目を擦りながら欠伸をする。

    「あれ、おきたのれすね……。」
    「あ、ああ。」

    寝ぼけて呂律が回っていないエクレシアに、少年が答える。

    「……もう、だいじょう、か?」
    「おかげさまで、なんだかとても良く寝た気がします。……やっぱり、疲れていたみたいです。」
    「……おきたら、あいにくるように、いわれている。」
    「ああ、そうだったんですね。……でも、その前に。」
    「……?」

    立ち上がって歩き出した少年を呼び止め、自分の隣を手で叩き、座るように促すエクレシア。
    少年は不思議そうな顔で、指示に従う。

    「……どう、した?」
    「お礼を言えてなかったので。……よく憶えてはいないのですが、私を助けてくれたんですよね?」
    「……わからない。じぶんが、なにをして、ああなったか、わからないんだ。」
    「それでも、私が今ここに無事でいるのは、貴方のお陰なのだと思います。
    ありがとうございました。」

    礼を告げたエクレシアは、横に座った少年に、満面の笑みを向けた。

    「それともう1つ。……自己紹介、やり直しましょう。」

  • 29二次元好きの匿名さん24/06/13(木) 20:32:15

    「私はエクレシアです。」
    「……エクレシア。」
    「そうです。憶えてくださいね?」
    「ああ。」

    自分の名前を繰り返し呟く少年を笑顔で見つめ、

    「……貴方は、何者ですか?」

    はじめて会った時と、同じ問いを投げる。

    「……わからない。きおくも、なまえも、なにも、ないんだ。」

    少し悩み、絞り出されたかのような答えに、しかしエクレシアは優しく微笑む。

  • 30二次元好きの匿名さん24/06/13(木) 23:21:15

    「……貴方は今、真っ白なんですね。」
    「しろ……?」
    「そうです。これから、色々な物を見て、触れて、憶えて。そうやって、色々な事を新しく体験できるんです。」
    「……」

    少年は黙って、話を聞いている。

    「名前も無いって言ってましたよね。
    ……いつか、貴方が何かを思い出しても、今と違う何かになったとしても、私と出会った貴方はまっさらで、とても優しい男の子です。だから貴方にこの名を送ります。」

    少年の瞳を見つめながら、祈りを込めてその名を告げる。

    「――アルバス。真っ白な少年の旅路が、その瞳に映る世界が、どうか良きものでありますように。」

  • 31二次元好きの匿名さん24/06/14(金) 08:26:43

    夜頃再開します

  • 32二次元好きの匿名さん24/06/14(金) 19:23:43

    独自設定2「アルバスの知識量」
    ・会話等で聞いた言葉は、固有名詞を除いて、基本的に理解できています。
    ・記憶に関しては自身の出自が不明で、フルルドリスに斬られた前後が一番古い記憶になります。

  • 33二次元好きの匿名さん24/06/14(金) 21:12:05

    「……アルバス」
    「はい。……どうでしょうか?」
    「そう、なのって、いいのか……?」
    「もちろんです。むしろ、せっかく考えたのだから、使ってもらわないとです。」

    少し頬を膨らますエクレシアに、少年――アルバスは、柔らかい微笑みを返す。

    「ありがとうエクレシア。」
    「気に入っていただけたならよかったです。」

    エクレシアは満面の笑みで立ち上がり、手を差し出す。

    「では、行きましょうかアルバス。」
    「……ああ。」

    アルバスも立ち上がり、差し出された手を握り返した。

  • 34二次元好きの匿名さん24/06/15(土) 07:57:34

    少し歩き、中庭から出る直前、エクレシアは立ち止まり、振り向いて話しかけてくる。

    「……アルバス、何処に向かうかご存知ですか?」
    「この鳥に聞けば、シュライグ……ここのリーダーの居場所まで、案内してもらえるらしい」

    そう言って、シュライグから渡された機械の鳥を見せる。

    「この子にですか?……リーダーのとこまで、お願いします。」

    エクレシアの声に反応したそれは、翼を広げ飛び立ち、少し先で一度振り向き、2人を待つ素振りをする。

    「……行くか?」
    「行きましょう。」

  • 35二次元好きの匿名さん24/06/15(土) 08:01:51

    side:フルルドリス

    「――巫山戯るな!!大神祇官に合わせろ!」
    「聖女様。これは決定事項です。今から大神祇官様にご意見なさっても、覆らないでしょう。」

    凄まじい剣幕で神徒に詰め寄るフルルドリス
    鉄獣戦線の襲来と、彼らによる『聖女』エクレシアの誘拐という前代未聞の大事件は、国中を大混乱に陥れ、
    ――最高権威である大神祇官の下した決定は、元聖女エクレシアの追放と、彼女の討伐対象指定だった。

    「元聖女は国を裏切り、邪教の徒と共に逃亡。教団からの除名、並びに最優先討伐対象と指定。これは覆りません。」

    淡々と、神徒は先日通知された内容を繰り返す。

    「よって、聖女様は国民の平和とこの国の秩序のため、速やかに対象の討伐を。これも大神祇官様の決定です。」
    「ことわむぐっ、」
    「お待ち下さい、聖女様は親しい間柄であった元聖女の行動に動揺なさっているのです。平和と秩序のため、直ちに教義に則って実行なさるでしょう。では、失礼いたします。」

    フルルドリスが剣の柄を握った瞬間、背後に控えていたテオが彼女を羽交い締めにし、アディンが場を取り繕い、場を後にする。
    神徒は、何も言わずにそれを見送った。

  • 36二次元好きの匿名さん24/06/15(土) 08:04:14

    「フルルドリス様、落ち着いてください。落ち着いて、落ち着けって。」
    「テオ、言葉遣い。……しかし、言う通りですよ。あそこで剣を抜いても何も解決しません。」
    「わかってる。わかってるんだ!でも……」

    なんとか落ち着きを取り戻したフルルドリスに、アディンが説得を続けようとする。

    「エクレシア様の件も、もう少し対策を考えましょう。この国で生活する以上は大神祇官の命令は絶対です。つまり――」
    「そうか、私も国を出ればいいのか。」
    「「は?」」
    「2人には今まで世話になったな。……逃げられた事にするため、気絶してもらいたい。大人しくしてろ。」

    フルルドリスは何の躊躇もなく甲冑を脱ぎ捨て、掛けてあった外套を被ると、鞘の付いた件を手に2人に詰め寄る。
    テオは顔を手で覆い天を仰ぎ、アディンはため息を吐く。

    「なんでウチの主様はこう思い切りがいいんだ。……気絶は勘弁です。」
    「はぁ。まあ、それしかないでしょうね。旅支度は出来ています。行き先の候補はありますか?」
    「……。本当に優秀だな、お前たちは。一応アテはある。」

    フルルドリスは、先日シュライグから渡された紙を取り出し、2人に見せる。

    「恐らくあいつらの拠点までの地図だ。とりあえずここに向かう。」

  • 37二次元好きの匿名さん24/06/15(土) 08:12:17

    独自設定3「通信手段」
    ・科学的な手段での遠距離通信の手段は今のところ存在しません。
    ・生物またはロボット等による手紙及び映像記録の受け渡しが主です。
    ・近距離の無線等は存在します。

  • 38二次元好きの匿名さん24/06/15(土) 08:17:18

    目的の部屋の前に辿り着いたアルバスとエクレシアは、扉の前で途方に暮れている。
    ここまでの道中で宴の会場を通った際に、そこに居た構成員達に様々な食べ物を渡され、両手が塞がってしまったのだ。
    しばらく顔を見合わせていると、ここまで連れてきてくれた機械の鳥が、嘴で扉を叩き、中からフェリジットが扉を開ける。

    「やっと来たわね。……随分歓迎されたみたいね。」
    「……はい。あの、」

    笑顔で迎えてくれるフェリジットに対し、エクレシアは困ったような笑みを返す

    「なんだ食い物持参したのか。こっちにもあるんだが。」
    「残ったら保存に充てるから気にするな。……宴の食事が残った憶えはないが。」

    部屋には大きなテーブルとそれを囲むソファーがあり、笑うルガルと若干渋い顔のシュライグが座っている。
    テーブルには食べかけの料理が並んでいて、そこに自分たちが持ってきた物を並べたエクレシアは、

    「……もっと、嫌われてると思っていました。」

    そんな言葉を漏らした。

    「なんだかんだ子供好きなんだよ、アイツら。」

    ルガルは笑いながら、2人に座るように促す。
    2人はテーブルを挟んで3人の対面に座る。

    「……遠慮せず食べてくれ。」

  • 39二次元好きの匿名さん24/06/15(土) 08:18:19

    シュライグに言われ、エクレシアは置いてあったパンを手に取る。
    パンには太めのソーセージが挟んであり、上にはチーズがかかっている。
    両手で持ち、少し眺め、正面から齧り付くと、中からは肉汁が溢れてくる。
    少し冷めているせいか、味が濃く、恐らくマスタードであろう辛味がある。
    これまで味わったことが無い類の味覚に夢中になってしまい、気付くと1つ食べ終わり、次を手にしていた。

    目を輝かせ、しかし行儀よく咀嚼をする彼女を眺めていたアルバスは、自分もと厚切りの肉が刺さっている串焼きを手に取る。
    どうするものかと悩んでいると、ルガルがジェスチャーで「横からかぶりつけ」と促してきた。
    言われた通りに、串を横に持ち、先端の肉を口に入れる。
    塩と胡椒で味付けられているそれはとても柔らかく、食事というものにはじめて触れた自分にも、「美味しい」というものなのだとわかった。

    エクレシアは、いくつめかの料理に手を伸ばしたところで、腕を組んでにまにましているフェリジットと目が合い、手を止め顔を赤くする。

    「……失礼。あの、本題に入りたいのですが、」
    「飲み物とデザートもあるわよ?果物大丈夫?」
    「果物があるんですか!?」
    「!?ぐっ、ごほっ」
    「アルバス!?大丈夫ですか!?」

    急に大声を出すエクレシアに、アルバスは少し驚き、むせてしまう。
    そんな彼に、ルガルは笑いながら水を渡す。

    「落ち着け、……どっちもだ。ゆっくり飲めよ。……アルバス。」
    「ああ、……ありがとう、ルガル。」
    「ごめんごめん、そんなに食いつくとは思って無くて。とりあえず林檎と葡萄と……どうする、絞ろうか?」
    「いえ、あの、……」

    エクレシアは少しバツが悪そうに、腕を組み目を閉じているシュライグと、呼吸を整えたアルバスを交互に見る。

  • 40二次元好きの匿名さん24/06/15(土) 08:38:39

    視線に気付いたシュライグは、軽く頷く。

    「……そうだな、まあ食べながらで構わないので、それぞれ名乗ってくれ。
    ……俺はシュライグ。この鉄獣戦線のリーダーだ。」
    「フェリジットよ。リズとかリズ姉とかお姉ちゃんとか呼んでね。」
    「もうちょっとなんかあんだろ……。俺はルガルだ。」

    先に3人に名乗られたエクレシアは、姿勢を正し、自らも名乗る。

    「私はエクレシアです。教導国家ドラグマの聖女、……元になりますが。聖痕も剥奪されたので、恐らくは逃亡者として討伐対象になっているはずです。それで……」

    そして、自分以外の4人の視線が集まり、

    「俺は、アルバス。……今は名前以外に語れることは無い。」

    彼は初めて、他人に名を告げた。

  • 41二次元好きの匿名さん24/06/15(土) 12:48:46

    「まあ、さっき呼ばれてたしな。……いいじゃないか、名前一つ有れば十分だろ。」
    「ここではそんなに珍しいことじゃない。……連れてきた手前、2人とも構成員として面倒を見るつもりなんだが、構わないか?」
    「まずは活動内容を説明しなさいよ。」

    フェリジットに言われ、シュライグは鉄獣戦線の活動について語りはじめる。
    ドラグマに対抗するための組織であること、種族を問わない同盟であること、民に危害を加えるつもりは無いこと。
    そして、

    「最終目標は、ドラグマの解体だ。」

    彼は最後に、そう宣言した。

  • 42二次元好きの匿名さん24/06/15(土) 20:00:48
  • 43二次元好きの匿名さん24/06/15(土) 21:18:46

    「解体……」
    「奴らの外部に対する弾圧を辞めさせ、囚われた仲間の解放する。そのためには最低でも最高権力者の捕縛ないしは討伐。されに一部教義の改定は必須だ。」
    「あたし達だって、なるべく平和的に済ませたいんだ。無関係な民衆に被害を出すつもりも無いしね。」

    考え込むエクレシアを見ながら、シュライグは続ける。

    「……参加しろと言うつもりはない。話せる事があるなら情報はもらいたいが、それで今後の待遇を変えるつもりもない。」
    「あの場から連れてきたのも、一応は保護目的だ。子供を戦わせるつもりもねえしな。」
    「手伝ってくれるならもちろん大歓迎よ。後方支援なら仕事は山程あるわよ。」

    エクレシアは顔を上げ、隣を見る。

    「……私は、可能な限り彼らに協力しようと思います。アルバスはどうしますか?」
    「……俺は今現在特に目的もない。ここに居ていいなら助かるし、その分の仕事はしたいと思う。」

    シュライグは少し表情を緩ませる。
    「……そうか。なら、改めて歓迎しよう。ようこそ『鉄獣戦線』へ。足りないものがあれば言ってくれ。可能な限り用意しよう。」
    「エクレシアはあたしと来てもらうわ。……装備を新調しましょう?」
    「アルバスは、俺と一緒に組織を回って、やれそうな仕事を探すか。」
    「私、一応敵国の人間だったのに、いいのでしょうか……?」

    歓迎一色なことに動揺したエクレシアが、シュライグに問い掛ける。
    シュライグは真面目な顔で答える。

    「問題ない。君自身もそうだが、あのフルルドリスとの交渉の機会を得られただけで、十分過ぎる成果だ。」

  • 44二次元好きの匿名さん24/06/16(日) 00:03:13

    「そういえば」

    2人を連れ、それぞれ部屋を出る前に、フェリジットが思い出したようにシュライグに言う。

    「キットとの定期連絡そろそろでしょ。今回は誰が行くの?」

    シュライグは、少し考え、仲間に指示を出す。

    「ああ、それがあったな。……丁度いい。ルガル、2人にある程度の野営の知識を教えてやってくれ。」
    「そりゃあいい。……アルバス、エクレシア。確かに2人とも、こんな穴蔵にいるよりは、外の世界を歩いたほうがいいな。」
    「リズは2人分の旅支度を頼む。」
    「はいよ。」

    急に何かが決まり困惑する2人に、フェリジットが説明する。

    「キットってのは、あたしの妹よ。ここから少し離れたとこにある砂漠で『ホール』の研究してるんだけど、そろそろ近状報告の時期なのよ。」
    「それを、今回は2人に任せたい。……頼めるか?」

    シュライグの言葉に、2人は顔を見合わせ、

    「どうしますかアルバス。正直、私は少しやってみたいです。一緒に来てくれますか?」
    「俺も、……いや、俺でいいなら、一緒に行きたい。」

    共に頷き、シュライグを見る。

    「「任せてください!!」」

  • 45二次元好きの匿名さん24/06/16(日) 10:21:29

    ――数日後

    アルバスとエクレシアは旅支度を済ませ、鉄獣戦線のメンバーに挨拶をする。

    「いいか、保存食はあるが、あまり頼るなよ。」
    「水はちゃんと加熱しなさい」
    「変なモノ食うなよ」

    不思議そうな顔をするエクレシアと、それに対し苦笑いをするアルバス。

    「なんでみんな食い物の心配をするんでしょう?」
    「……ここまでの食生活が原因では?」
    「そ、そんな事無いです!……無いですよね?」

    聞かれた面々は、答えずに笑っている。

    「では2人共、任せたぞ。目的地はこの鳥……メルクーリエが教えてくれる。」
    「キットによろしくね。」
    「行って来い!」

    見送る声に、2人は手を振りながら応え、歩き出す

    「「行って来ます!!」」

  • 46二次元好きの匿名さん24/06/16(日) 16:10:32

    「……エクレシア、丁度目印になりそうな場所があるし、今日はそこで休もう。日が落ちる前に野営の準備をしないと。」
    「あ、あれ、なにかの骨……でしょうか……?そうですね、あの付近で今日は休みましょう。」

    見える位置にある目立った建造物を目指す2人。
    旅を始めて初日の、時間は昼過ぎ頃。
    アルバスは戦線で教わった事を思い出していた。

    『いいか、不慣れなうちは絶対に手間取る。余裕を持って支度しろ。時間が余ったらその分休めばいいんだ。』
    『「無理だ」って思った頃にはもう手遅れだったりするのよ。ましてや女の子と一緒なんだから、無理させちゃ駄目よ。』
    『まだ先は長いと言うことは、それだけ旅も続くんだ。無理せず余裕を持て。急ぐ必要はない。』

    ……大分甘やかされている気がしなくも無いが、確かに一人では無いし、進んだ場所が休めるとも限らない。
    目的地に辿り着いた2人は、荷物を置き座り込む。

    「なかなか歩きましたね……。まだ大丈夫かと思ったのに、疲れました……。」
    「少し休んだら、近場で薪と食料を探そう。」

    そう言って、2人は大きな骨に寄り掛かり、目を閉じる。

  • 47二次元好きの匿名さん24/06/16(日) 16:46:56

    「アルバス。アルバス起きてください。」
    「エクレシア……。っ、どのぐらい寝てた!?」

    エクレシアに揺すられ、アルバスは目を覚まし、辺りがもう暗くなりはじめてる事に気づく。
    急いで荷物を確認するが、幸い持ち物は無事だった。

    「もうすぐ日が落ちます。……すみません、私もたった今目覚めました……。」
    「それはお互い様だ。……反省は後回しだ。確か火起こしに使える道具を持たされてたな。枝を集めて焚き火の用意を。俺は水と食料を……」
    「無理は禁物です。今日は持ち物で済ませましょう。それで明日の朝、少し補充してから出発すれば大丈夫です。」

    方針を決めた2人は、火を起こし、焚き火を前に座り込む。
    エクレシアは鞄からパンを出し、半分をアルバスに渡す。

    「どうぞ。」
    「……すまない。」
    「はじめてなのでしょうがないです。それに、」

    エクレシアは空を見上げ、

    「私も、こういうのはじめてなんです。」

  • 48二次元好きの匿名さん24/06/16(日) 16:47:11

    「……そうなのか?」
    「はい。ほとんど国の外に出たことが無かったので。」
    「……そうか。」
    「だから、アルバスと一緒です。」

    そう言って、微笑むエクレシアに励まされたアルバスは、地図を見て、明日の予定を立てる。

    「……そうだな。なら、今日は早めに休んで、朝早くから行動しよう。湖があるからそこを目指して、水を補充しよう。」
    「はい!」
    「……交代で寝た方がいいのか?」
    「何かあったら、この子が起こしてくれます。……実は、さっきも起こしてくれました。」

    エクレシアはメルクーリエを撫でる。

    「なら、任せるか。……おやすみ。」
    「はい。おやすみなさい。」

  • 49二次元好きの匿名さん24/06/16(日) 20:59:43

    side:????

    「あなたは――何者ですか?」

    少し前に墜ちて来た俺は、旅の一座に拾われた。
    見世物として繋がれていた俺は、姿を変えることで鎖を抜け、大きな街に入り、油断した隙を狙い逃げ出した。
    滞在期間を過ぎれば諦めるだろうと、潜伏先を探し、入った建物には先客が居た。
    その先客――少女は、俺に問う。

    これが始まり。
    長い長い舞台の幕開け。

  • 50二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 02:33:55

    「うわぁ、凄いです……、凄い!アルバス、見てください!」
    「エクレシア、あまり走ると、また転ぶぞ……?」
    「大丈夫です!……それよりほら、見てくださいって!」

    少し先を歩いていたエクレシアが、戻って来てアルバスの手を引く。
    2人は少し走り、辿り着いた先は地面の切れ目と、更にその先に広がる一面の砂漠。
    そして、そこから生えるいくつかの建造物と、ここまででにもあった巨大な骨。

    「……凄いな。」
    「ここが……ゴルゴンダ……」

    アルバスは少し下を見下ろし、

    「……足場もあるし、この崖を降りるのか。エクレシア、大丈夫そうか?」
    「大丈夫です。さ、行きましょうアルバス!」

    2人は崖を降りはじめる。

  • 51二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 04:37:33

    「わっ!」
    「大丈夫か!?」

    踏んだ場所が少し崩れ、バランスを崩しかけるエクレシア。
    アルバスは心配そうに、手を差し出す。

    「ほら、こっちだ。」
    「ありがとうございます……。なんか、慣れてます?」
    「ルガルが崖登りとか教えてくれた。」
    「私も、訓練受けるべきでした……。」

    荒れた道程を、手を取り合い楽しそうに下る2人。
    ……その様子を見る、遠くからの視線に、2人は気付かない。

  • 52二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 13:02:40

    夜頃再開します

  • 53二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 19:47:05

    「こっちでいいんでしょうか……?」
    「……らしいが、入っていいんだろうか。」

    メルクーリエに導かれ、辿り着いた先は乱立する建造物の1つだった。
    辺りを探り、入口を見つけ中を覗くと、暗い空間に、所々に砂が吹き込んだ形跡と、散らばった鉄板等が目に入る。

    「……失礼しまーす!誰かいますかー!」

    エクレシアの声が、内部で響く。

    「返事はないな。……それに、結構広いぞ。」
    「入りますよー!……行きましょうか。」

    恐る恐る中に入り、手を繋ぎ先に進む2人は、室内が暗いせいで、辺りに蠢く黒い煤を見落としてしまう。

  • 54二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 19:48:30

    少し進んだ所で、先を歩くアルバスが立ち止まる。

    「エクレシア。」
    「……やはり、そうですね。見られてます。」

    繋いでいた手を離し、辺りを見回しす2人。
    アルバスは懐からナイフを取り出し、エクレシアは落ちていた鉄の棒を拾う。
    武器を構え、背中を合わせ、警戒を強める。

    突如、空を切る音がし、2人にロープが巻き付く。

    (殺気が無いせいで気付けなかった!?)

    「アルバス!?大丈夫……、ちょっと、もぞもぞしないでください、ど、何処触ってるんですか!?」
    「エクレシア、暴れないでくれ、あっ」

    ロープを切ろうと動いたが、共に気が動転しているせいで、アルバスはナイフを落としてしまう。
    背中合わせに拘束され、座り込んでしまった2人を、いつの間にか無数の気配が囲んでいた。

  • 55二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 19:49:41

    「……も」
    「も?」
    「もぅ嫌ですーっ、おねぇさまぁーっ、なんで、ぅ、うわぁぁん!!」
    「エクレシア……」

    これまでのストレスが積み重なり、限界に達したエクレシアは、とうとう泣き出してしまう。
    あまりの事態にどうすればいいかわからないアルバスは、逆に少し冷静さを取り戻し、周囲の気配を観察する。
    そこに居たのは、金属の身体を持つ謎の存在だった。
    ガチャガチャと音を鳴らして動き、2人を取り囲んでいる。
    拘束は彼らの仕業だろうが、泣き出したエクレシアを見てオロオロしている辺り、悪意あっての行動では無いらしい。
    どうしたものかと、途方に暮れるアルバスの耳に、別の声が入ってくる。

    「なになに、なんの騒ぎ……、って、メカモズ!……もしかして君達、戦線の連絡で来た人?」

    謎の存在を掻き分け、2人の目の前に現れたのは、猫耳の少女だった。

  • 56二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 21:55:55

    規制怖いので1度保守

  • 57二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 23:17:55

    「もー、駄目だよ。相手に女の子も居るんだから、乱暴なことしちゃ。」

    猫耳の少女は、腰に手を当て前屈みで、彼らに説教をしている。
    その後ろで拘束を解かれた2人は、座ったままそれぞれの反応をする。
    エクレシアは両手で真っ赤な顔を覆い、俯いている。
    アルバスはそれを気遣い、話しかけようとするが、

    「エ、エクレシア……?その、えっと、……。」
    「アルバス。貴方は気遣いが出来るとても素晴らしい男の子です。なので、場合によっては放置することも気遣いだと学んでください。」

    エクレシアは顔を隠したままアルバスの言葉を遮る。
    2人の間に重い沈黙が漂いはじめた頃、猫耳の少女がこちらを向いた。

    「おまたせおまたせ。あたしはキット。聞いてるかもしれないけど、リズねえの妹だよ。ヨロシクね!」
    「……よろしくお願いします。」
    「……よろしく。」

    2人は挨拶を返し、預かっていた手紙や記録媒体を渡す。
    キットは手紙を読みながら2人を見比べ、更に手紙を読み続ける。

  • 58二次元好きの匿名さん24/06/18(火) 01:28:58

    手紙を読み終わったキットは、目を輝かせて2人に近づき、

    「君がホールから出てきたアルバス君?北の方ですごい反応が有ったからなにか墜ちたのかなと思ったらまさか意思疎通できる生物なんて前代未聞なんだけどよろしく早速だけど少し調べさせてもらってもいい?竜になれるの?左目なんで怪我してるの?記憶ないんだよね会話は支障なかったって書いてあったし何処かから引っ張ってるのかな……。」

    そして、その勢いのまま、呆気に取られているアルバスからエクレシアの方を向き、

    「君があの国の聖女だったエクレシアちゃんだね?同じぐらいの女の子あんまり居ないから仲良くしてくれたら嬉しいんだけどその前に色々ときいていい?聖痕取られたって書いてあったけどその前後で身体に変化とか有った?聖女ってことは生まれつき持ってるタイプだよねというかあの国まともに調べられてないから聞きたい事山程あるんだけどこの神徒?って人達ホール出現させたって本当?それに……あっ、」

    更に言葉を続けたが、若干引き気味の2人を見て、少し頭を掻く。

    「あ、ごめんごめん。いきなり不躾だったね。話したくないこともあるだろうし、順番に教えて欲しいんだけど……」

    キットは振り向き、そこに居る者達について説明をする。

    「この子達はスプリガンズ。このゴルゴンダで、……何してるって説明し辛いんだけど、それを含めて彼らに気に入られて欲しいから、悪いけど少し付き合ってね。……よし、準備済んだら呼ぶね!」

    走り去るキットを眺めながら、スプリガンズ達とその場に残される2人。

    「……凄かったな。」
    「一人でずっと喋ってましたね……。」

  • 59二次元好きの匿名さん24/06/18(火) 02:10:07

    「……安全、なんだよな?」
    「この砂漠にはでかい化け物が住んでてね。定期的にホールを伴って現れるんだけど、」

    機械を弄りながら、キットはアルバスに説明する。

    「今の一連の話に安全な要素ひとつも無いですよ!?」
    「いやアレ自体はまあ自然現象だって割り切って良ければ問題ないんだけど、そのホールが偶に残留するの。」

    横から口を挟むエクレシアに、大丈夫大丈夫と続け、

    「で、そこまでコレで飛んでって、なんかお宝見つけてきて。」
    「急に雑になったな……。」
    「彼ら、宝石や貴金属が好きみたいですもんね。身に付けたりしてましたね。」

    キットは顔を上げ、大笑いする。

    「そーなの。それと戦線の活動資金にもなるからね。もちろん、気に入ったものは自分で持ってっていーよ。」
    「運転、初めてなんだが……」
    「大丈夫ですよアルバス。何事も挑戦です!」

    運転席のアルバスは、大きな溜息を吐いた。

  • 60二次元好きの匿名さん24/06/18(火) 02:27:29

    「飛んだ……。」
    「……よし、運転と動作は大丈夫そうだね。じゃ、これゴーグル。そのまま、上から出たとこがスタート地点だから。そこで合図を待ってて。」

    キットにゴーグルを渡され、それを装着したアルバスは、竜の様な乗り物を操り、上昇してスタート地点を目指す。
    建物の外に出ると、少し離れた骨と骨の間にロープが張られている。
    アルバスはそこまで移動し、少し待機する。
    僅かに浮遊してるせいか、周囲には砂が巻き上がっている。

    「……ゴーグル、有ってよかったな。」
    「そうですね。」

    独り言のつもりで零した言葉に思わぬ返答があり、アルバスは驚愕して後部座席を見た。
    そこには、同じくゴーグルを装着したエクレシアが、こちらを見つめていた。

    「エクレシア!?なんで乗ってるんだ!?」
    「気付いて無かったんですか!?」

    どうするべきか悩んでいる間に、建物の屋根が開き、そこからマイクを持ったキットが現れる。

  • 61二次元好きの匿名さん24/06/18(火) 02:40:58

    「ゴキゲンヨーウッ、ヤロードモッッッ!!!!!!!!!」

    辺りの建物にスピーカーが仕込んであるらしく、全方向からキットの声が響く。

    「キット、あんな感じなのか……」
    「ノリノリですね……。」

    周りではスプリガンズ達が楽しそうに手を叩いている。

    「スプリガンズ入団テスト!本日のチャレンジャー!
    我らが戦線のルーキー!!アルバス!エクレシア!2人が駆るのはぁぁぁぁ!『鉄駆竜スプリンド』だああああ!!!!!!!!!!!」

    声に合わせ、爆発音がして花火が上がる。

    「派手だな」
    「派手ですね。……ん?」

    そして、大気が揺れ、機体に影が掛かりる。
    2人がそちらを見上げると――そこには巨大な船が降ってきた。

  • 62二次元好きの匿名さん24/06/18(火) 03:03:08

    「出たぁぁぁああああっっっっっっ!!!!!!!!!!!挑戦者を迎え撃つは、我らがキャプテェェェェェン、サルガァァァァァス!!!!!!!!!!!」

    船の先端では黄金の鎧がこちらを見下ろしていた。

    「2人は、サルガスの操縦する『エクスブロウラー』の攻撃を避けながら、目的地を目指してもらいまああああああああぁぁぁす!!!!!!!!!」
    「「は!?」」

    2人の抗議をかき消すように花火が上がり、赤いランプが3つ灯る。

    「さぁぁぁぁぁんんんんんんんんっっ!!!!!!!!!」
    「……やるしか無いか。エクレシア、後ろ見れるか!!」

    アルバスは機器を弄りレーダーを起動させ、

    「にぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!」
    「はい!任せてください!」

    機体を浮上させ、ハンドルを強く握り、

    「いいいいいいいぃぃぃぃちぃぃぃっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
    「最初は少し飛ばすから掴まっててくれ!!機体が安定したら後方頼む!」
    「はい、え、掴まるって、えっと、どこに……」

    座席越しに腰に手を回され、

    「スタアアアアアアアァァァァァァトオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!」
    「エ、エクレシア!?!?」
    「アルバス、まえ、前見て、体勢戻して!!!うわああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」

    砲弾の様に回転しながら、スタートを切った。

  • 63二次元好きの匿名さん24/06/18(火) 12:59:33

    保守です

スレッドは6/19 00:59頃に落ちます

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