- 1124/07/14(日) 16:21:42
- 2124/07/14(日) 16:22:48
ここだけひとりぼっちになると死んじゃうくらい寂しがりな羂索がしあわせになるスレ
- 3二次元好きの匿名さん24/07/14(日) 16:23:57
釣りスレだと思ってたのに!!!今日は天元と羂索の話していいのか!?!?!?ありがとう!!!!!
- 4二次元好きの匿名さん24/07/14(日) 16:29:37
- 5二次元好きの匿名さん24/07/14(日) 16:31:16
>ひとりぼっちになると死んじゃうくらい寂しがりな羂索
かわいい
>しあわせになる
うれしい
幸せが確定しているスレほど良いものはありませんね
続けてください
- 6124/07/14(日) 16:33:38
朝告げ鳥の鳴く頃に起き出した羂索は、隣がもぬけの殻であることに真っ先に気が付いた。未だ頭に居座っていた眠気はあっという間に霧散する。
「何処に行ったんだ」
寝癖も乱れた服も直さず部屋を飛び出した。荒々しい足音を立てて残穢を追う。すると辿り着いたのは。
「何をしてるんだ、天元」
「ん?ああ、おはよう羂索。よく眠れたみたいだね」
「……おはよう。で、何をしてるんだ」
「何って、見ての通りだよ」
天元の手元には出来たてのご飯。
「そんなこと、下働きにやらせればいいじゃないか」
「雇ってないよ」
「雇え」
天元は仕方のない子だと言いたげに首を振った。
「君と私の暮らすこの邸に、他の者が住むことになるが」
「……」
まるで考えていなかったと顔に書いてある羂索は、それから苦虫を噛み潰したような表情になった。
「今の提案は忘れろ」
「そうしよう」
さあ朝ご飯にしようか。悔しいかな、天元の作ったご飯は自分の作ったものよりも美味しいのだった。 - 7二次元好きの匿名さん24/07/14(日) 16:53:44
は?なに?可愛すぎんか????
幸せになるんですよね?!崩れないんですよね?!天元様が寂しがり屋な羂索を置いていってそのせいで嫌でも寂しい状況に慣れなきゃ行けなくなる羂索は存在しないってことでいいんですよね?! - 8二次元好きの匿名さん24/07/14(日) 16:54:50
しあわせになる(崩れないとは言っていない)
仮初の幸せが崩れていく様はもうお腹いっぱいなんだよ… - 9二次元好きの匿名さん24/07/14(日) 16:56:24
やめろぉ!!!!!!この世界の天元様は引きこもらないし日本国民全体を守ることを選ばないし羂索の事を置いていかないはずだ!!そうですよね…?
- 10二次元好きの匿名さん24/07/14(日) 16:57:22
ひとりぼっちになると死んじゃうんだぞこの羂索は!!!
見たくないと言えば嘘になりますね - 11二次元好きの匿名さん24/07/14(日) 17:22:34
羂索が天元と幸せになれるスレ…!!大好き
- 12124/07/14(日) 19:01:17
「次からは私も手伝う」
朝を食べ終わった頃、箸を置いた羂索がそう申し出た。
「手伝う?」
「朝食作りだ。私だって料理くらい」
「寝ていてもいいんだよ」
「君は起きてるじゃないか。それも随分と早くに」
今朝の羂索は決して寝坊助ではない。極普通の起床時刻。それでもご飯はもう食べるだけとなっていた。つまり、天元は相当早くから目覚め活動を開始しているということ。
「私はいいんだ。私にとって眠りはそれほど重要ではないからね」
「またそうやって……いいか天元、私は君を友人だと思っている。友人だぞ、祀りたいわけじゃないし奉仕をさせたいわけでもない。そして私にとっての友とは対等な存在だ」
天元は目を瞬かせた。念を押すように羂索は言葉を続ける。
「君が早く起きて食事の支度をするのなら私も同じようにする。君にだけ負担を押し付けるわけにはいかない。それでは対等ではないから」
「しかし君には」
「私には眠りが必要だと言うなら、天元、君も一緒に寝るんだ」
「我儘な子だね」
ふ、と微笑む。
「分かった。君の言う通りにしよう」
起きた時に私がいないとどうやら寂しいようだから。そんな言葉は飲み下して、胸の中でふわふわと溶けていった。 - 13二次元好きの匿名さん24/07/14(日) 19:27:57
幸せな天羂、必要だろ
- 14二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 00:07:41
素晴らしい天羂の気配
隣に寝ている天元が次目を開けたらいなくなってしまってるんじゃないかと不安で寝つけない羂索はいるってことですか - 15124/07/15(月) 00:39:33
今更なんですけど、時代考証とかは大目に見ていただけると助かります。
一応ググってはいますが、ネット上の知識を表面だけ拾い集めただけのハリボテに過ぎませんので……ご容赦ください。 - 16二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 00:40:37
平安に詳しい人の方が少ないから時代考証なんてガバガバでいいんだ
続けてくれ読みたいから - 17124/07/15(月) 00:41:33
ありがとう
- 18124/07/15(月) 01:01:05
井戸から汲んだ水を盥に注ぐ。たっぷりと溜まったら、二人の衣服を担いだ羂索が裾をたくし上げた。
「私がやるよ」
「いや、二人でやろう」
「そんなに大きくないでしょ」
「実は盥も二つあるんだ」
悪戯が成功した子どものような笑顔で言うと、天元は少し待っていてくれと言い残し奥へと向かう。暫くして戻ってきたその手には確かに瓜二つの盥が。
「はじめから持ってきてよ」
「ふふ」
拗ねたようにそっぽを向く羂索の頬をつついて、それから、再び井戸の水を汲み上げ始める。つんとしていた羂索も、二回目からは水を注ぐ作業を手伝った。
一つ目の盥と同じくらいに注がれた頃、天元は担がれた衣服を半分受け取った。冷たい水へと足を浸す。
「さて、頑張ろうか」 - 19二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 11:28:47
穏やかだね……
ただ現在が平安時代であることに不安を感じている
しあわせになるんですよね?しあわせは続くんですよね? - 20二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 11:45:32
平安の羂索と天元のSSってだけで警戒するようになってしまった…………でも今のところ不穏じゃないし……スレタイ回収したらしあわせになりそうだし……
- 21124/07/15(月) 16:33:34
時間というのは無情にも瞬きの間に過ぎていく。火灯し頃に夕食を終えた二人は、就寝のために隣合って体を横たえていた。
「……ねえ、今度、都の方へ遊びに行かないか 」
「珍しいね。君は朝廷が好きではないだろう」
「都だからって朝廷に結び付けるのは短絡すぎるんじゃないか」
「それはそうだ」
羂索の返しにゆるりと瞬きをした天元は、静かに首肯した。それを見た羂索が少々食い気味に言葉を重ねる。
「何時にしようか。あんまり暑くても寒くても旅には向かないから、」
「羂索」
どこか不安を滲ませて矢継ぎ早に紡いでいた羂索は、落ち着いた天元の声に口を噤む。
「もう夜も遅い。今日は眠ろう」
天元の白い手がとんとんと優しく隣を叩く。そこで漸く無意識のうちに上体を起き上がらせていたことに気が付いた羂索は、渋々といった様子で仰向けになった。
「おやすみ、羂索。良い夢を」
微笑んで、それから、羂索の腹の辺りに手を置く。一定の間隔で優しく叩かれると、意識がふうわり宙に浮くような、心底落ち着くような。
「おや……す……」
全て言い終える前に、羂索はすとんと夢の中へ落ちていった。 - 22二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 16:34:46
寝かしつけたすかる
- 23二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 17:01:32
不安…?あっ、あの、あの……
- 24二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 17:09:07
チギャウ…チギャウ…シアワセ…シアワセ……
- 25124/07/15(月) 17:10:46
小夜中の頃、むくりと起きだす影がひとつ。照らすのは月明かりばかり、恐らくはまだ丑三つ時にすらなっていないだろう。影ーー羂索は、小さく息を吐いた。隣に目を向ければ、穏やかな寝息を立てる天元。
「よかった……」
まだいる。此処にいる。そっと手に触れて、他より低めの体温ーー羂索も死体を乗っ取っている身なので天元のことは言えないのだがーーを感じる。確認して胸を撫で下ろした羂索は、再び横になった。
流石に起きるにはまだ早いようだ。瞼を閉じて、夢路へ……はっと目を開ける。このまま眠って、次に起きた時、天元が隣にいる保証など何処にもない。羂索が起床するより早く、誰時の頃には既に消えてしまっているかもしれない。
一度過ぎった思考は簡単には消えてくれず、結果、羂索は夜もすがら起き続けていたのだった。 - 26二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 17:11:26
羂索………?
- 27二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 17:12:20
まだいるってなんだよ!!!!!!
この羂索、ただ寂しがりなだけじゃなくてすでに一度何かを失った悲哀がありませんこと…? - 28二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 17:14:41
思っちゃった……羂索、しあわせになるとは言われてるけど天元様と、とは言われてないんだよね……いや最近人の心ォ!スレを見過ぎて余計な警戒をしてるだけかもしれんけど…
- 29二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 17:16:03
なんでこんなに不穏に感じるんだ…いや気のせいならそれでいいんだけど…
- 30二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 17:16:16
みんな人心無な羂索と天元のスレを見すぎて怯えてるだけなんだ
きっとこのスレではずっとずっと穏やかに過ごせるはずなんだそうだと言ってくれ - 31124/07/15(月) 18:29:53
明け烏の声を聞きながら、天元は徐ろに瞼を開いた。僅かに明るい空と未だ夜の気配を残した空気の冷たさを感じ、穏やかに一日の始まりを受け止める。身を起こして欠伸をひとつ。ぐぐっと伸びをする。睡眠が重要でないとはいえ、眠れば人と同じく凝り固まった体を解したいと思うもの。
「……羂索?」
此処に至って漸く隣の羂索が既に起きていることに気が付いた。
「おはよう。今朝は随分と早起きだな」
「ん……おはよう」
掠れた声にほんのり充血した目。
「まさか、ずっと起きていたのか」
「……寝てたよ」
「嘘は良くないな、羂索」
ぴしゃりと被せられ目を逸らす羂索に、天元は溜め息を吐いた。
「全く……君には眠りが必要だと言ったろう。またいつもの好奇のためかな」
「……」
「言わないとわからないよ」
「……って」
「うん?」
「寝たら、天元が、私を置いていなくなるんじゃないかと、思って、」
思いも寄らない言葉に目を瞬かせる。それから、やっぱり、溜め息を吐いた。それも先程よりずっとずっと深く。その反応にはさすがにむっとする羂索の、薄らと隈のできた目の下をなぞり、天元は柔く微笑んだ。
「お腹は空いているかな」
「は?……そんなに空いてないけど」
「そうか。なら、もう一眠りといこう」
どさりと大の字になって寝転ぶ天元。明るさの増してきた空を見遣り迷う素振りを見せた羂索だったが、此処においで、と誘われるまま腕枕をされる。
「手を繋いでいよう。そうすれば君も安心だろう」
私は何処にも行かないよ。
後頭部に回された手に優しく抱かれ、反対の手で右手を繋がれる。
「今度こそ、ゆっくりおやすみ」 - 32二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 18:31:08
>私は何処にも行かないよ。
言ったな!?!?
- 33二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 18:32:30
言質とったはい縛り!!!!!!!!!
- 34124/07/15(月) 21:04:28
「あーもう!使いづらいな!」
二人仲良く布を縫っていたのだが、羂索が突然叫びだした。布も針も放って寝そべる。布は兎も角針は刺さると危ないので拾い上げた天元は、困った子だと言いたげに笑う。
「どうかしたかな」
「聞いてよ天元!」
自身も手を止め訊ねる天元へと、身を起こした羂索がぐっと距離を詰める。
「この体さあ!利き手が左なの!」
「ほう」
「つい癖で右手使おうとすると全っ然上手く動かせなくって!だけどそうと言って左腕使おうにも違和感覚えて仕方ないの!」
「なるほど」
「焦れったい〜!」
再び床に身を投げ四肢をじたばたとさせる羂索に、天元は微笑ましげな眼差しを向ける。
「私が知る中で一番器用な君でも難しいことがあるんだね」
「……私は別に……器用というか、回数を重ねて慣らしてるというか……」
急に褒めを入れられて照れてしまった羂索はもじもじとしつつ、しかし自分の放った言葉で開き直ったらしい。
「ま、回数こなせばこのくらいそのうち慣れるね」
「ふふ、流石は羂索」
「う、うるさいな……!」 - 35二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 21:05:53
利き手が違うからやりづらいのいいな…
褒められて照れちゃうの可愛い… - 36二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 21:13:21
この羂索もしかして二週目的な感じか…?いや、天元様の可能性もあるな
- 37124/07/16(火) 07:01:56
「やあ宿儺」
「なんの用だ」
「そう邪険にしないでおくれ」
羂索の手を引いて、天元は宿儺の邸を訪れた。随分と立派になったものだ、と胸中で感心しながら、宿儺の前に腰を下ろす。半歩後ろを歩いていた羂索もまた隣に座った。
「寂しんぼな羂索のために皆で宴を開こうと思ったんだ」
「ハア?」
不平の声は宿儺ではなく、羂索。
「何言ってるの、宿儺には大事な大事な話があるって、」
「それは嘘だ」
「ハア?嘘?」
「そう。ふふ、騙して悪かったね。でも、宴を開いて皆で騒ぐのは嫌いじゃないだろう?」
「……別に、嫌いではないけど」
「と、言うわけだ。宿儺」
「何が「と言うわけ」だ戯け。俺を巻き込むな」
「君は羂索の友人だからね、真っ先に声を掛けなければと思ったんだよ」
「友人などではない。不愉快だ」
「ええ……それは普通に傷付くよ宿儺。私は君を友と思っているのに!」
「勝手にしろ。俺は思わん」
「天元聞いた!?酷くない!?」
「うん、やはり君たちは仲がいいね」
「「どこがだ/今の遣り取りで!?」」
結局三人で飲んで食べて騒いでと、宴と呼ぶには少人数だったが、羂索は楽しい時間を過ごしたのだった。 - 38二次元好きの匿名さん24/07/16(火) 17:26:04
お茶目な天元様だ!サラッと羂索に嘘ついてて草
でもかわいい嘘なうちはまだいいんだよ……このままでいてくれ…… - 39二次元好きの匿名さん24/07/16(火) 17:35:45
何だかんだで付き合ってくれるすっくん優しいな…
- 40124/07/16(火) 23:06:07
またコロナが流行ってるみたいなのでみなさんご自愛くださいね……
- 41二次元好きの匿名さん24/07/16(火) 23:09:24
ありがとうスレ主…
- 42124/07/16(火) 23:09:33
「宿儺が新しく料理人を召し抱えたらしいよ」
出掛けていた羂索が帰宅早々にそう告げた。天元はその情報に意外そうな顔をして瞬きを繰り返す。
「今までの従者は全員気に食わなくて殺してしまっただろう」
「そうそう。だから結局自分で全部こなしていたんだよね」
呪いの王と呼ばれてるのに家事とか完璧なんだよ宿儺って、と、羂索は笑う。機嫌を損ねた相手を容赦なく殺し、時にはそのまま喰らってしまうものだから、そんな意外性が生まれるのである。勿論、羂索と天元以外に知る者はいないのであるが。
「今度の料理人は何時までもつかな?」
心做し楽しそうな羂索に対し、天元はどこか思案顔で目を細めた。
「さて……」
「見に行こうよ」
人の不幸は蜜の味、とはよく言ったもので、羂索は完全に面白がっていた。見に行くまでに殺されちゃったりしてね、と斬れ味鋭い冗談を口にする羂索。
「いや……案外、生涯の従者になるかもしれないよ」
「……宿儺が死ぬまで付き従う、ってこと?」
生涯。これまでの者は召し抱えられた中で死んでいるから生涯従者だった、と言えるかもしれない。だが、そうではなく、宿儺の方の生涯と天元は言いたいらしい。
まさか、と羂索は笑った。ありえない、あの宿儺がずっと傍にいることを許すなんて、あの宿儺の機嫌を損ねないでいられるなんて。
けれど天元は柔らかな笑みを湛えるばかりだった。
「さて、どうかな」 - 43二次元好きの匿名さん24/07/16(火) 23:11:24
天元様……?
- 44124/07/17(水) 00:06:42
【閑話】
羂索はなるべくなら天元の傍を離れたくはないと思っている。目を離した隙にいなくなっていたらと考えたら居ても立ってもいられなくなるほどだからだ。
しかし、未知なるもの、己の見識及ばぬものに興味を惹かれるのもまた事実。旺盛な好奇心は羂索の生まれ持った性なのである。
だから羂索は時折ひとりで出掛けるが、その際には必ず簡易的な式神を天元に付けるようにしていた。視覚聴覚の共有はできない、ただ異変があれば主に伝わる、その程度の効力を持つだけの式。それでも己の内に巣食う不安と天元への信頼とを天秤に掛けた時、この式の存在が大きく信頼の方へと傾けるのだ。少なくとも、私の意識がある中で消えたりはしない、と。
今日も今日とて好奇の赴くままに未知の探求へと繰り出している羂索の式神に見守られながら、天元はそっと息を吐く。
「相変わらず心配症だね」
勝手に居なくなったりだなんてしないよ。そう独りごちながら、天元は今日も羂索のしたいようにさせている。 - 45二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 08:01:44
ほしゅ
- 46二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 13:53:41
天元と羂索もしかして逆行してる…?天元は記憶有りだけど羂索は漠然とした感覚でしか憶えてない、的な…
- 47二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 21:15:02
万のストーカー行為とか見てケラケラ笑う羂索とやれやれする天元とかもいるのかな…
- 48二次元好きの匿名さん24/07/18(木) 06:45:38
ほしゅ
- 49124/07/18(木) 12:49:29
好奇で宿儺の邸を訪れた羂索は驚いた。
「う、うらうめ、……だ」
新しい料理人目当てだったのだが、そうと紹介されたのがこの年端もいかぬ少年……少女?だったのである。まだ性差も表面化していない歳の子どもを従者だと紹介され、上から下までましまじと見詰めたあと、羂索は改めて宿儺の方へと顔を向けた。
声にしない疑問を読んだのであろう、うらうめ、と名乗った子どもの頭に手を置き機嫌良さげに言う。
「これは存外気が利くのだ」
へえ?と羂索は心の中で独りごちる。宿儺にしては意外な言葉だ。うらうめは嬉しそうにはにかんだ。
「料理人なんでしょ?」
「そうだ」
「まだ全然餓鬼だけど……」
「がきじゃない!」
「腕はある。将来性もある。充分だろう」
普段の宿儺からは思いも寄らないほどの高評価。当のうらうめは、その希少性を知ってか知らずか頬を上気させて誇らしげだ。
「だから言ったろう?」
何故か天元まで誇らしげなのは羂索には謎だった。 - 50二次元好きの匿名さん24/07/18(木) 12:50:55
主に褒められて嬉しい裏梅可愛いなぁ…!
- 51二次元好きの匿名さん24/07/18(木) 22:16:07
マジでこの羂索と天元が離れ離れになってほしくない
ずっと一緒にのんびり暮らしてくれ
裏梅が宿儺の料理人になったってことは新嘗祭も来るってことかな?万にも会うのかな
平安組が賑やかになると天元が離れる日がいつか来そうで怖い このまま……このままでいてくれ…… - 52124/07/19(金) 01:42:42
折角だからと、半ば強引にご相伴に与ることとした羂索と天元は、口にした途端二人揃って目を見張った。
うらうめーー裏梅と書くらしいーーがひとりで作ったのだという料理。あの歳で手伝いもなく、という時点で驚嘆に値するのであるが、更に驚くべきはその出来栄え。羂索はもちろんのこと、貴族や皇族の口にするような食事にも造形が深い天元でさえ感嘆してしまうほど。
これは確かに宿儺が気に入るはずだと納得の羂索は、あの小さな体でどうやって仕上げているのかと興味を唆られていた。
「……どうだ、うまいか」
満ち溢れる自信と幾許かの不安を宿した顔で、裏梅が二人に問う。
「美味しいよ、とても。君の腕は素晴らしいな」
天元の言葉に小さくほっと息を吐いた裏梅は、僅かに緩んだ口許をさっと引き結んだ。どこまでも宿儺の従者足らんとしているらしい。まだ幼い子が懸命に大人ぶろうと背伸びしているようで微笑ましい気持ちになりながら、天元は残りを口に運んだ。
「……あ、もしかして術式?料理特化なの?」
「やけに黙り込んでいると思えば。そんなことを考えていたのか」
「だって、気になるでしょ」
しかし羂索の憶測はそれこそ黙々と食べ進めていた宿儺によって否定される。
「残念だが外れだ。マ、応用は利くがな。料理の腕は自前のものだ」
「へえ」
ますます興味深そうに裏梅を見遣る羂索と、褒めの言葉にもにゅもにゅと唇を動かす裏梅。
その後、羂索と羂索に引っ張られて来た天元が、裏梅の料理目当てに宿儺の邸へと頻繁に入り浸るようになるのであった。 - 53二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 08:05:13
裏梅かわわ……
- 54124/07/19(金) 17:26:34
黄色の花が風に揺れていた。山菜を摘みに来ていた天元と羂索はそれに気が付いて手を止める。
「おや、蒲公英」
「珍しいね、この時期に」
見回しても咲いているのはこの一輪のみで、周辺にちらほら見掛ける茎の先端は白く綿毛になっている。完全にこれだけが時期を外してしまっているようだ。
「どうする?摘んでいく?」
蒲公英は実に優秀な植物で、花も葉も、茎から根に至るまでもを食すことができる。春には二人の食卓に並ぶ定番だった。
しかし、天元は首を横に振った。
「やめておこう。これはひとつしかないから」
「変な時期に咲くのが悪いでしょ」
「そう言ってやるな」
柔らかな笑みを浮かべたまま、さらりと花弁を撫でる。
「唯ひとりであっても、凛と咲いている。全く美しいことじゃないか」
天元へと向けていた目線を蒲公英に戻した羂索は、もしもこれが私であったなら、と夢想をした。私はきっと三日と耐えられず枯れ果ててしまうだろう。ひとりは、寂しいから。
「……天元」
皆まで言わずとも、天元は掌の行く先を蒲公英の花びらから羂索の手の甲へと移す。するりと絡められる指。そうだ、私はひとりではない、この蒲公英とは違うのだ。まるで自身に言い聞かせるように胸中で呟いた羂索は、しっかと繋ぎ返した。
そんな二人の周りを、ふわりふわりと、真白の綿毛が舞っていたのだった。 - 55二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 23:33:50
寂しがり屋羂索可愛すぎる……
- 56二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 08:06:38
羂索の精神がやわこいと平和なんだね…
綿毛に囲まれているのに蒲公英を孤独だとするのは本当は1人じゃないのに1人だと思ってしまうってことなのかな…
天元がそばにいてくれるっていうのも定期的に自分に言い聞かせないと不安なんだろうか… - 57二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 19:11:39
天元様の同化の日がいつか来るの怖〜……
- 58二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 19:17:39
羂索の心が少し弱い方が世界は平和なのか…庇護欲掻き立てられるし、天元がそばにいなかったら変な奴らホイホイしそう
- 59二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 23:46:21
この世界の今後はどうなるのか……
人々に「永遠にこの国の結界の要となってほしい」と願われる天元なんか見ちゃったら羂索ぶっ壊れそう - 60二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 23:55:35
蒲公英は周りが世代交代して枯れていく中で一輪だけ永らえ続ける姿を羂索(もしかしたら本編の羂索)に重ねたのかなと思った
- 61124/07/21(日) 00:33:50
以下センシティブなネタになります。
閲注付けたので大丈夫とは思いますけど……問題があったら一度消してテレグラフとか使います。 - 62二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 00:36:23
センシティブ待機
- 63124/07/21(日) 00:40:57
「天元!天元!大変なんだ!」
慌ただしく駆け寄ってきた羂索が、天元の袖を縋るように握る。その顔を見た天元は珍しくぎょっとした。
「どうしよう、天元……死ぬのかな」
真っ青になって、今にも揺れる瞳から涙が零れ落ちそうだ。天元はそんな羂索の背に手を伸ばし、安心させるように摩る。そうして目線を合わせて囁いた。
「まあ落ち着きなさい。何があったのかな」
「血が、」
「血?」
「股座から、血が……」
きょとりと目を瞬かせた天元は、感慨深げに上から下へと羂索を眺めた。困惑した様子で見つめ返す羂索。
「な、なに」
「いや……そうか、君ももうそんな歳か」
滲んでいた涙を指先で拭ってやり、拾った頃より随分と近くなった頭を撫でる。いつからか目を合わせるために屈んでやることもなくなっていた。羂索はもはや少女の殻を破り羽化せんとする時期に来ているのだ。
「いいか、羂索。それは病気ではない。君が死ぬことはない」
けれども、天元の声音は幼児に言い聞かせるようなものだった。天元にとってはどれほど成長しようと羂索が子どもであることに、庇護対象であることに変わりはないのである。
「それが来たということは、君は子を産める体になったということ。大人になったんだよ、羂索」
おめでとう。
その言葉に更なる涙が溢れだしたのが何故なのか、それは幾年が経とうとも羂索本人にさえわからないことだった。 - 64二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 00:43:04
思っていたよりずっと羂索が幼かった…
初潮もまだだったの…?ひぃ… - 65124/07/21(日) 01:06:33
初潮の報告を受けてからの天元の行動は早かった。どこからか手に入れてきた布を羂索に渡し、着用するように言う。
「なに、これ」
「月帯(けがれぬの)と言ってね。これと股座の間にこの布を挟むんだ」
「ふうん」
はじめての経験にわからないことだらけな羂索は極めて素直に従った。
それから白湯を持ってきたり火鉢を用意したり、とかく体を冷やすなと少々口煩いほどで、しかしまあ随分と甲斐甲斐しい。腹部を襲う鈍い痛みに耐えながら、言われた通り楽な姿勢をとっていた羂索はふと天元に問う。
「籠っていないといけないのか?」
羂索の腹に衣を重ね少しでも温かくなるようにしていた天元は、その疑問に少し困ったように笑う。
「そうだね。穢れとされているから、続く七日ほどは籠りなさい」
平安の世においては、妻が月経期間と知られると夫さえ出仕に制限を掛けられたり寺社参拝を拒まれたりとしていた。期間中は専用の小屋に隔離をするのだが、もちろん天元にそのつもりは一切なかった。
「穢れねえ。まあ血が出てるんだから仕方ない、か」
羂索は天元の言葉を飲み込み咀嚼し、自分なりに納得したようだ。
「いつかは穢れ扱いをされない時代が来るといいんだが……なかなか難儀なことだ」
「女の体って不便」
はーあ、と溜め息を吐いた羂索のお腹を優しく摩り、君も何れは子を宿し慈しみ育むのかな、と、天元は未来に思いを馳せる。些か寂しいような、しかしそれを遥かに上回るほど喜ばしい。これが子の巣立ちを見送る親の気持ちか、と。 - 66124/07/21(日) 10:05:38
「天元はこれが来たところを見たことがないな」
はじめての大変な七日間を漸く終えた羂索は、ふと思ったことを口にした。拾われて以来、天元がこの事象に遭っているところを見たことがなかった。勿論、羂索に気取られぬよう処理していた可能性も無きにしも非ずだが、隠す必要性を感じられなかった。
そんな羂索の純粋な疑問に、天元はなんでもない顔で答えた。
「私には来ないんだ」
「え?」
「術式の関係でね。私は不死だから」
長命な種は子が少ないという。長命を超えた不死であるなら、確かにありえない話ではなかった。
羂索は少々気まずそうにもごもごと口を動かしたあと、ぽそりと呟く。
「それじゃあ、君は、子が……」
そんな羂索に対し、天元は実にあっけらかんと肯定する。
「そうだね」
でも、
「私には君がいるからね、羂索」
その言葉に羂索は目をまん丸くして、それから照れたようにそっぽを向いた。その頬が赤く染まっていたのを、天元は優しく見つめていた。 - 67124/07/21(日) 14:41:15
皆さん熱中症にも充分気を付けましょうね。
水分補給と塩分補給、それから涼しくして過ごしましょ。
ちなみに私は軽く夏バテ気味です……まちがいなくろうどうのせいです。 - 68124/07/21(日) 14:48:12
「天元!天元!大変なんだ!」
何時ぞやに聞いた科白だな、と思いながら、天元は駆け寄ってくる羂索を待った。当時とは違う体を使うーー元の体を脱ぎ去ってしまった羂索を。そのことに一抹の寂寥を覚えながらも、羂索という本質は変わらないのだからと微笑んで迎える。
「何があったのかな」
勢いそのままに抱きついてきた羂索は、がばりと顔を上げて叫ぶ。
「変なのが出てきたんだ!」
「変なの?」
「その……ま……魔羅、から、」
「なるほど」
「え?」
まだ全てを伝えていないのに心得たと言わんばかりに頷く天元に戸惑う羂索。まだ効率よく乗っ取り先の記憶を読み取れないのか、それとも体の持ち主も未経験のことだったのか、と人知れず憶測を立てる天元は、そんな羂索の頭を、少々背伸びをしながら撫でた。
「それはね、羂索。子種だよ」
「子、……」
途端ぼふりと真っ赤になった羂索に、おやおやと笑う。
「体を乗っ取るのは平気なのに、そんなところはうぶなんだね」
「う、うるさい!」
「ははは」
異様に熱を持つ頭を抱え、羂索は猫の子のように走り去っていった。そんな背を、天元は見えなくなるまで微笑ましく見詰めていた。 - 69二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 14:54:00
初潮と精通を経験する羂索、いいな…
- 70二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 21:52:45
ここの羂索は本当にまだ子供なんだな…可愛い、健やかに育ってほしい
- 71124/07/21(日) 23:40:38
時は流れーー
「……そんなこともあったね」
「うるさいなあ。何時の話をしてるのさ」
「さて、何年前だったかな」
「五十年は前だよ。これだから老人は」
「すまないね。永く生きているとどうにも時間の感覚が分からなくなってくる。それに君も体を変えるから」
「私のせいだって言いたいわけ?責任転嫁も甚だしいな」
「いや、おかげで長く共に居られる。嬉しいよ、羂索」
「……ふん」
「しかし、男の体ばかりを選ぶね。何か理由があるのかな」
「そりゃそうでしょ。女の体じゃ力は弱いし穢れの期間は籠ってなくちゃいけないし物凄く辛い時もあるし、なにより女じゃ好奇を満たすには不自由すぎる。不便なばかりで利点なんてなんにもない」
「そうか。まあ、君の言うこともわかる」
「そうでしょそうでしょ」
「けれど……君の胎で育まれたややを、この腕に抱いてみたかった、と、思う私もいる」
「……」
「……いや、もしもそんなことがあれば、の話だ。君が嫌なら無理にとは言わない」
「どうせ乗っ取った体の子どもだよ」
「そうだね」
それでも、君が慈しんだことに変わりはないじゃないか。
微笑む天元がむず痒く感じて目を逸らした先、彼岸の訪れを告げる曼珠沙華が一面に咲き誇っていた。 - 72二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 01:25:44
あれっ
もしかして羂索の初潮と精通は天元様の過去回想だった…? - 73二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 08:17:18
平和よ続いてくれ…!
- 74二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 19:24:52
不穏はやだ…不穏はやだ…このままがいい…
- 75二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 20:32:31
花が出てくる度びくびくしちゃうのは他の不穏スレに自分が毒されてるだけだよね…?違うよね…?
- 76124/07/23(火) 07:23:02
「猫を飼うといい」
天元が唐突にそう零した。突拍子のない発言は今に始まったことではないから、羂索は道中摘んできた竜胆の花を活けながら話半分に聞いていた。
「猫は良い。四六時中は構っていなくても良いし、気紛れに頭を擦り付けてくる様は癒されるぞ」
その時のことを思い出しているのか、目を瞑り僅かに緩んだ口許。その様子に羂索は呆れたような息を吐いた。
「……猫は貴族の特権じゃないか」
「そうだったか?」
「感覚狂ってる?呆けないでよ?」
希少だがその愛らしさ故に皇族や上位の貴族たちさえ虜にしているとは風の噂。そんな彼らと同様に愛でた経験があるらしい天元が、途端に遠い存在のように感じられてしまって、羂索は思わず早口で捲し立てる。
「だいたいさあ!私が相手したいのは畜生なんかじゃないわけ。言葉を交わせなくちゃ意味ないの!わかる?」
今度は天元の方が呆れーーというより、仕方のない子だと言わんばかりの目を向ける番だった。
「我儘だな」
「うるさいよ」
まあしかし、よくよく考えてみれば羂索自身に猫のようなところがあるので、確かに勧めるのは間違いだったかもしれないと思う天元だった。 - 77二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 18:15:26
同族嫌悪(?)しちゃう羂索可愛いね…他の可愛い猫を見付けたらシャーッ!!ってしてそう
- 78二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 02:07:20
ほし
- 79二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 08:12:41
ほ!
- 80二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 19:17:32
保守
- 81二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 19:39:58
- 82二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 19:45:03
うわうわうわうわうわ……………
- 83二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 22:38:12
更に追加で
たんぽぽ→「愛の神託」「幸せ」「神託」「真心の愛」
綿毛→「別離」
綿毛にも花言葉があるとは知らなかったな…… - 84二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 08:11:03
割とマジでこの世界の天元と羂索は別れないものだと思って読んでるから別れないでほしい
マジで……頼む…… - 85二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 08:14:32
わ、わたげ………
- 86124/07/25(木) 16:39:13
筆が遅くて申し訳ない。
花言葉ってひとつの花にも複数あるのでおもしろいですよね^^ - 87124/07/25(木) 16:44:22
寒い、とひとこと呟いて天元に引っ付いた羂索は、髪に雪を引っ掛けて、舞い散る最中を歩き回ってきたとみえる。黒髪に白がよく映えていて、天元がその様を微笑ましく見詰めていると、漸く震えが治まったらしい羂索がねえねえと突っついた。
「聞いた?」
「うん?」
「まーた宿儺が大暴れしたらしいよ」
この寒い中元気なことだよねえ。呆れたように振る舞っているが、ふふふと零れる笑みは寧ろその逆、心底愉しんでいるのが見て取れた。
「嬉しそうだな」
「わかる?」
そう言って悪戯っ子のように笑う。
本来の年齢は既に忘れてしまうくらいに歳を重ねているが、使っている肉体のせいだけではなく、生来の無邪気さが羂索を随分と幼く見せていた。天元にとってはいつまでも拾った頃から変わらぬ幼子であるが、天元に限らず、関わる者の殆どは羂索をどこか子どものような感覚で見ている。勿論、歳相応に狡猾で悪どい面も持ち合わせているが、呪術師なんていう生き物は大概そんなものである。
「今回は朝廷の、なんていったかな……藤原のところの……忘れちゃった。なんとかって部隊を壊滅させたんだって。凄いよねほんと。宿儺って」
「嗚呼……精鋭部隊だろう」
天元の相槌に頬を膨らませ、知ってたの?と不服そうだ。そんな頬を指先で突つき、天元は柔く微笑んで言う。
「知っていたわけではないよ。だが、藤原と言えば此処暫く朝廷の実権を握っている一族だろう。彼らの配下となればそれ相応の実力者が集っているに違いないと思ってね」
「それもそうか。……誰が言い出したんだかわからないけど、流石は呪いの王って感じ」
「呪いの王、か……術師に成るべく生まれてきたような男だからね」
「ま、天使あたりは怒髪天を衝く勢いだろうけど」
怒り狂う天使を思い浮かべたのか、羂索は面白がるようにくつくつと喉を震わせたのだった。 - 88二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 16:47:42
同化回数的に平安の時点で天元様って既に500年生きてるんだよな…
- 89二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 16:48:57
意味深な^^…幸せになるんですよね?!ねぇ!
- 90124/07/25(木) 22:19:31
ふたりで火鉢を囲んで朝を待つ。降り頻っていた雪は漸くやみ、雲の切れ間から月明かりが射し込んでいた。
今日は大晦日である。大晦日の夜は歳神様を待つために一晩中起きていなければならないという習わしがあった。天元は兎も角、羂索もまた案外とそういった事柄は律儀に守っている。常日頃から呪術に触れ続けている身であればこそ、こういった行事を疎かにはできなかった。呪いは、神は、実在しているからである。
静寂に満たされた空間に、突如としてくしゃみの音が響いた。一度では終わらず、二度、三度、と繰り返される。
「寒いか?」
「うん、まあ……」
幾ら火鉢を置いているとはいえ、先刻まで雪が、それも粉雪程度のものではない、本格的な降りがあった今宵である。ふるりと身を震わせた羂索は、更に暖を取ろうと天元に抱き着いた。
「今宵は随分と甘えん坊だな」
「うるさいなあもう。寒いだけだって」
「そういうことにしておこう」
「そうもこうもないから!」
寒さは人を心細くさせる。天元の一般よりは冷たいけれどもしっかりとした人肌の温もりに触れた羂索は、口ではそう言いつつ、確かな安心感を覚えていた。
天元は一層の温もりを与えんとして羂索の体を確と抱き締めた。頭を胸元に押し付け、背中まですっぽりと覆い被さる。
「……天元こそ、甘えたがりなんじゃないの」
「ふふ、そうかもしれないな」
こうして新たな年は静かに、ふたりの元へと訪れたのであった。 - 91124/07/25(木) 23:24:00
ここまで書いておいてなんですけど、長々と地の文書いててすみません……読みにくいとかくどいとかあったら言ってください。改善します。
- 92二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 23:25:07
全然そのままでいい。情報量が多くて読み応えあっていい
- 93二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 09:55:55
めっちゃ好きなんでこのままで大丈夫ですよ!
- 94二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 20:43:21
星
- 95二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 20:50:21
いっぱい読めて幸せです
- 96124/07/26(金) 23:21:29
ありがとうございます……!では今後もこの形で書かせていただきます。
大筋の流れは決めているので、もう暫くお付き合いください。 - 97124/07/27(土) 00:30:10
雪を踏み締めながら、羂索は天元と手を繋いで歩みを進めていた。足裏に伝わる冷たさと掌から広がる温もりとの差に風邪を引きそうだと思った。そんな心内を知ってか知らずか、天元は指先だけでなく腕ごと絡めるように繋ぎ直した。
ふたりの向かう先は宿儺の邸である。迎えた新たな年、折角なら常より豪華で美味しい料理が食べたいよね、という話になったのだ。ふたりの中で、美味しい料理と言えば裏梅、という共通認識が出来上がっていた。初邂逅から随分と経つが、料理の腕は日に日に上達しているようで、お邪魔する度更に美味しくなったご飯を頂戴している。
この頃になると、元日を含めた五節会の儀式には御節供と呼ばれる祝いの料理を神に供え、宴で食すしきたりが生まれていた。勿論、朝廷で行われることであるので庶民には関係がなく、そういった場からは離れている天元にとっても無縁のことではあったが、楽しいことならば乗っかってしまおうというのがふたりである。
「……裏梅は知ってるのかな」
そういえば、という風にぽつりと零す。小さな声だったが、雪に覆われた世界では大きく響いて聞こえた。
「さて。しかし、知っていようといまいと、宿儺の為に豪奢な料理は常に準備しているだろう」
「違いないね」
すると今度は、ぐう、と大きな腹の虫。
「おや、待ちきれないようだね」
「う、うるさい!」
鼻頭まで赤く染まったのは、寒さ故か羞恥故か。道のりはまだ遠く。 - 98二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 08:10:10
ほす
- 99二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 17:20:17
可愛いね羂索( ^∀^)
- 100124/07/27(土) 21:24:57
「やあ宿儺」
邸に足を踏み入れたふたりは慣れたもので、迷うことなく宿儺の面前へ赴く。
昼日中から裏梅の酌により雪見酒と洒落込んでいた宿儺は、現れたふたりにあからさまに顔を顰めてみせた。主人の反応を見、即座に術式を使い追い払おうと臨戦態勢へ移った裏梅は、しかし他ならぬ宿儺が片手で制したため平静へと戻った。
「なんの用だ」
重厚な声が落とされる。天元は微笑み、実に落ち着いた様子で返した。
「先ずは新たな年を迎えたことを祝おうか。明けましておめでとう、宿儺」
「くだらんな」
天元の言葉を鼻で笑い、盃をぐいっと煽った。空になったそこへ、すかさず裏梅が酒を注ぐ。ふくよかな香りがふうわりと広がり、当然の事ながらかなり上等な酒だなと羂索は思った。
「それで、本題だが」
「おせちを食べよう!」
天元の言葉を継いだ羂索は満面の笑みでそう提案した。おせち?と裏梅は首を傾げ、宿儺は呆れ返った顔で溜め息を吐いた。
「貴様ら、随分とこれの飯を気に入ったらしいな?」
「そうだね、裏梅の作る料理は絶品だ。皇族や貴族の食すものを味わったことのある私が言うのだから間違いない」
「そうそう。だから、折角の元日だし、裏梅が作る渾身のおせちを食べたいよねって話になってさ」
「元日もおせちも只の口実だろうが戯け共」
それがなくとも来ては喰らっていくだろう貴様らは。そんな呆れ果てた様子の宿儺にも、ふたりは悪びれることなく。
どうやら懸念した通り知らなかったらしい裏梅に御節供ーーおせちの説明を勝手に始め、宿儺の方を気にしていた裏梅もその豪華さと特別感溢れる料理にそわそわとし始め、結局宿儺が裏梅に作るよう命じたのだった。
余談だが、はじめて作ったとは思えぬほど美味なものであり、ふたりと、なんだかんだで宿儺も、大満足したのであった。 - 101二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 08:20:45
団欒してるねぇ
- 102124/07/28(日) 16:26:53
梅の花が東風に吹かれ揺れている。まだ積もった雪が辺りを白く染め上げており、更に降り頻ることさえある初春のある日のことである。
天元が梅を見詰め来たる春へと思いを馳せていると、羂索がどこから調達したのかひと目で上等とわかる酒を引っ提げて帰ってきた。梅見酒をしよう、そう言って御猪口を取り出す。
「まだまだ寒いけど、これが咲いていると春だなって感じがするね」
隣合って互いに酒を注ぎ合いながら、そうぽつりと零す。火鉢はまだまだ欠かせないし、毎夜引っ付いて眠る日々だが、季節は確かに巡っているのである。もう少しすれば雪融けが始まり、蕗の薹が顔を出し始めるだろう。
不意に強く吹いた風に身を震わせては天元に笑われて、羂索はむっと唇を尖らせた。
「仕方ないじゃないか、寒いんだから」
「ふふ、そうだな。もっとくっついていようか」
距離を詰め、風から守るように肩を抱く。
「それじゃ君が寒いだろ」
対抗するかのように羂索も天元の肩へと腕を回し、酒を酌み交わしているだけだというのに、何故か肩を組む状態になっていた。そんな奇妙な状況に顔を見合わせ、ふふっと吹き出すふたり。
「もう、これじゃあお酒が呑めないじゃないか」
「折角君が手に入れてきた酒だ、それでは困るな」
互いの肩から手を外し、けれども体は風など通る隙間もなく引っ付いている。じんわりと伝わる温もりと、喉を通る酒の熱さが、ふたりの体を温めていた。
「……最近では桜が主流になってきていると聞いたが、矢張り私は梅が好きだよ」
ちらちらと風に舞う粉雪に紛れて、鮮やかな紅が庭を彩っていた。 - 103124/07/28(日) 20:46:26
【閑話】
羂索は梅の花が好きである。何故なら天元の気に入りだからだ。毎年梅が花開くと懐かしむように優しい目で眺めている。だから羂索はこの時期になると上等な酒を手に入れて、ふたりで梅見酒をするのである。
しかし、近頃の朝廷では梅より桜を愛でることが多くなったらしい。何代か前の帝が桜の花見を催して、それから貴族たちの主流となりつつある。また遷都の折御所の内裏に植えられたという左近の梅は、枯れてしまったあと同じ梅ではなく桜が植えられたという話も、羂索は風の噂に聞いていた。
人の世とは、心とは、移ろうもの。仕方のないことであるし、それもまたおもしろいと、羂索は思っている。
故にこっそりと貴族たちの花見の宴に参加し、密かに桜を鑑賞するなんてこともした。確かに素晴らしいものだと思う。枝いっぱいに咲き誇る花は壮観で、風に吹かれて舞い散る様はさながら春の精が踊っているかのよう。あの様を美しいと感じない者は滅多にいないだろう、そう確信するほどに。
けれども羂索は、まだ、天元を桜の花見には誘えていない。自分よりずっと永く生きる彼女に、懐古をやめて新たな文化を愛でようとは、流石に言い出せないでいるのだった。
「……来年は、来年こそは、誘おう」
桜の花弁に姿を隠されながら、ひとり、今年もそう決心するのである。 - 104二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 22:48:22
誘えないまま終わるとかはないよね…?
- 105二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 08:11:10
桜も梅もミックスでお花見しちゃえばいいじゃない
だからすぐ誘おう今誘おう今から来年の予約をしよう羂索 - 106二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 18:42:07
ほしゅ
- 107124/07/29(月) 23:29:20
雨が降っている。連日止まぬ長雨は毎年のことであるが、羂索を悩ませる種であった。
頭に手を遣り顬をぐりぐりと押す。そんなことで和らぐのなら苦労はしない。それでもやらずにはいられない。反転ではどうにもならない頭痛が、羂索の抱える毎年の悩みだった。
この時期に限らず雨の日はなりやすいけれども、特に連日連夜の雨は頭痛から解放してくれず、晴れ乞いの儀を行いたいと思うほど。とは言えこの雨が、米作を筆頭に様々な方面にとって大切な恵雨であることは知っているので、結局我慢する他ないのである。
うー、と唸りながら天元の元へ。書物を広げていた天元は、そんな羂索を見るなり膝上を空けて、そこをとんとんと叩いた。
「おいで」
「……読んでいたんだろう」
「構わないよ」
横に置かれた書物と空けられた膝上を交互に見遣って、それから、緩慢な動作で頭を預けて寝転んだ。
天元の右手が頭を撫で、左手がお腹をとんとんと寝かしつけるように軽く叩く。それで治まるものでもないが、しかし心はほんのり軽くなった。うと、と閉じてはゆるりと上げられる瞼。
「術式のせいもあるのかな」
微睡みの中にいる羂索の安寧を妨げぬようにか囁き声で落とされた科白に、うん?と少しだけ首を傾げる。
「君の脳は外界の変化に敏感なんだろう」
「困ったものだよ……ほんと、」
「ふふ、まあ、そうだな、君にとっては」
けれどね、羂索。
「こうして弱った君を甘やかし、寝かしつけるのは、私の特権だからね」
もう暫くは、このままでいてくれと思うよ。
そんな言葉は、既に健やかな寝息を立て始めていた羂索には、届くことはなかった。 - 108124/07/29(月) 23:33:59
平安組の過去が明かされる前にと少し焦り気味のスレ主です……
- 109二次元好きの匿名さん24/07/30(火) 08:25:00
- 110124/07/30(火) 12:17:34
- 111二次元好きの匿名さん24/07/30(火) 19:43:20
後半は大事だから念押ししたんやね…分かるよ(分かるよ)
- 112二次元好きの匿名さん24/07/30(火) 20:43:45
はぐらかされているような……気のせいか!
- 113124/07/30(火) 22:59:01
【閑話】
暫く眠りに着いた羂索を優しく撫でていた天元だったが、相当に深い睡眠だと悟ると、横に置いていた書物へと再び手を伸ばした。羂索に当たらぬよう持ち上げて読み進める。
少し前だったか、朝廷で大流行したという恋愛長編物語。その写しである。並の貴族ですらなかなか手に入れること叶わぬという高価な一品だが、天元が望めばものの数日で届けられた。この長雨では外出も儘ならないので、良い機会と読み始めたのである。
随分と読み進めた頃ーーと言ってもかなりの大長編であるのでまだまだ中程にすら達せていないーー天元は溜め息と共に呟いた。
「……これは羂索にはまだ早いな」
緻密な心情描写に数多も納められた歌、詳細に書かれた朝廷内事情。どれを取っても、天元からすればまだまだ未熟な面のある羂索への教材に相応しいと、噂を聞いた時には思っていたのであるが。しかし想像よりも……
「生々しすぎる。こんなものは読ませられない」
書物を閉じて横に退かす。そうしてまた羂索の頭を優しく撫でるのであった。 - 114二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 08:01:15
年齢にもよるが…少し過保護っぽいのかわいいなぁ
- 115二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 18:58:08
後日、掃除中にうっかり見付けて好奇心のままに読んで「あばばば…!?」ってなる羂索がいるかも知れないのか…良いね
- 116二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 20:34:46
源氏物語かな?すぐに読めるの流石天元サマ…
- 117二次元好きの匿名さん24/08/01(木) 07:53:26
羂索がたまたま発見して読んじゃってるのをみて君にはまだ早いって取り上げてほしいな…
- 118二次元好きの匿名さん24/08/01(木) 17:44:50
- 119二次元好きの匿名さん24/08/01(木) 18:32:49
- 120二次元好きの匿名さん24/08/01(木) 20:15:16
ここら辺読んだ天元が「もしもこの子がこんな品定めじみた真似を男達から受けたら…」と想像して、一人プンスコ!してる天元とか過保護だけどちょっと可愛いな
- 121二次元好きの匿名さん24/08/01(木) 22:40:12
まあ源氏物語をめちゃくちゃ大雑把かつ超絶簡単に言うと「マザコン拗らせたヤリチン(ただしイケメン)のうだうだ恋愛物語」だからな……天元様が読ませたくないと思うのもわかる
- 122124/08/01(木) 23:44:54
【閑話-弐】
「なにこれ」
ふたりで広い邸の掃除に励んでいる最中、羂索は見覚えのない書物を見付け、当然の如く手に取った。好奇の塊のような羂索が、家内で見知らぬものを見付けてそのままにしておくはずもないのである。
「それはーー仕舞っておきなさい、羂索。君にはまだ早いからね」
その科白に羂索は不満そうにして口を尖らせた。
「まだ早い、って……あのさあ、私のこと幾つだと思ってるわけ?まァ、もう歳なんて数えてないけどさ。それでも五十は超えてるよ?わかってる?」
「ふふ、私にとってはいつまで経ってもかわいい幼子だ」
「また子ども扱いして」
天邪鬼を発動した羂索は、天元の制止も無視して読み始める。ざっと目を通しているためか読むのが早い。
「こら、やめなさい」
「うるさいなあもう。これ、朝廷で噂の恋愛物語?貴重品でしょ。よく手に入れられ、た、ね、……わ、ぁ……」
途端に顔を真っ赤に染め上げた羂索から問題の書物を取り上げた天元は、だから言ったろう、と溜め息を吐いたのだった。 - 123二次元好きの匿名さん24/08/01(木) 23:47:31
50年生きてる割にわぁ…ってなっちゃうの本当に天元に大事にされてたんだなって…
- 124二次元好きの匿名さん24/08/02(金) 08:57:04
ほしゅ
- 125二次元好きの匿名さん24/08/02(金) 18:05:21
天元から大切に大切にされてるから、恋愛小説にだって初な反応するのか…1人にしたら変な男が寄ってきそうだ
- 126二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 00:02:34
読んでて面白いんですけどねえ、源氏物語。和歌が丁寧に作りこまれてるし。心理描写も丁寧だし。
- 127二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 10:13:25
ほし
- 128二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 20:50:24
ほ
- 129124/08/03(土) 23:58:47
幾日ぶりかの晴れ間が見られた夜のこと。
雲の切れ目はそう長くは続かず、先程まで柔く照らしていた月明かりはすっかり隠されてしまっていた。雨がないだけ僥倖だ、そんなことを思いながら闇に閉ざされた廊下を歩む。呪いの本領は宵闇であり、それらを相手取ることの多い呪術師もまた自然と慣らされていく。前線に立つことの少ない羂索であっても同様だった。
ふ、と、視界の隅を光が横切ったような気がして足を止めた。天元の結界に守られたこの邸でよもや呪霊の侵入があるなどとは夢にも思わないが、万が一ということもある。野党の類の可能性もあった。
果たして後方へ向けられた羂索の目に写った光の正体、それはーー
「天元!」
どたどたと駆け込んできた羂索を、こうも元気な姿は久方ぶりに見るな、と思いつつも、静かな声で落ち着きなさいと諌めた。静謐を湛えた天元の姿に不満そうな顔をした羂索だったが、それもすぐに持ち直し、興奮の為か上擦った声で天元に告げた。
「蛍だ!」
あとは眠るだけといった状態の天元の手を引いた。仕方のない子だ、そう独り言ちて天元は大人しく着いていく。
先程の廊下、そこから見渡せる庭先に、幾つも飛び回る蛍の光。その様はまさしく闇夜に浮かぶ幻想と呼ぶに相応しい。連れられた天元も感嘆の息を吐く。
「毎年見ているけれど、矢張り美しいね」
「全くだ」
同意しながら、うっとりと眺める羂索の横顔をちらりと盗み見、いつかは君も蛍のように身を焦がす恋をするのだろうか、そんなことを思う天元だった。 - 130124/08/04(日) 01:05:42
裏梅の術式が氷を精製するものだと知ったのは、全く偶然のことだった。宿儺の元へ遊びに行く道すがら、狩った獲物を凍らせて持ち帰ろうとする裏梅と出会したのである。なるほど確かに応用が利く。料理の上でも、戦闘面でも。
そんなわけで今日、天元と羂索は、宿儺の邸へ涼みに訪れていた。
然しもの呪いの王といえどこの暑さは堪えるようで、裏梅の精製した巨大な氷柱を幾つも並べて涼んでいた。裏梅が朝廷に召し抱えられていたなら夏場は貴族共の引っ張りだこであったろうな、と半ば氷の館と化している宿儺邸を見て思う天元だった。
羂索はというと、
「裏梅さ、暫く私たちのところに来ない?涼ませてよ」
「断る!」
そんな遣り取りを交わしていた。宿儺は我関せずといった風だ。
閑話休題。
氷にぺたぺたと触っては楽しそうな羂索を後目に、天元は持ってきたものを掲げて提案する。
「削り氷を食べよう」
中身は超高級品の甘葛だった。天元の元には時折そういった類のものが献上されることがある。それは天元を信奉する者たちによってだったり、貴族によってだったり、更には皇族によることもある。そんなわけなので、必ず手に入るとは断言できないが、貴重品であっても比較的入手は容易いのである。
恐らくは宿儺も、その気になれば容易に手に入れられるだろうが、そこは邪魔する身として持参したのであった。
「なんだ、珍しく気が利くではないか」
あの宿儺が。羂索は驚いて氷から体を離しまじまじと見詰めてしまった。
「ちょうど切らしていてな、日が落ちる頃にでも手に入れに向かおうと思っていた」
……どうやら今宵に何処ぞの貴族の邸が襲われる事態を防ぐことになったらしい。まあ遅かれ早かれ程度のことであろうが。
斯くしてこの場に、大盛り削り氷甘葛掛けが配られる運びとなったのだった。 - 131二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 10:16:46
みんなで氷囲んで涼んでるのかわいいな…
- 132二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 21:35:50
ほ
- 133二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 22:12:10
最近尋常じゃ無いくらい暑いから、これ読んでたら無性にかき氷食べたくなった…飯テロ
- 134124/08/04(日) 23:53:32
足先を浸ければ、止めどなく流れる水が徐々に体を冷やしてくれる。蝉の声を背後に聴きながら、天元と羂索はふたりきり、薄着になって清流で涼んでいた。
もう少し川上に行くと流れが早すぎて浸かるには危ないが、此処はちょうどの早さで澄んだ水が心地好く、また座りやすくもなっていた。時折木々の間を抜けて風が通る。
「あ、魚」
ぴょんと跳ねる小さな魚を目敏く見付け、羂索は身を乗り出した。すかさず天元が羂索の手を握り引き戻す。
「こら、あまり覗き込むと危ないだろう」
「このくらい大丈夫だって。心配しすぎでしょ」
それよりほら、魚、取ろっか?と、天元の心配を他所に今日は焼き魚かなと考えている。そんな羂索に溜め息を吐いて、天元は立ち上がった。
繋いだ手を引かれて先程魚が跳ねた辺りへ進む。すると眩しい水面とはまた違った光り方をするものが見え、ふたり同時に水中へと手を突っ込んだ。魚はしかし、ふたりの手の間を抜けてあらぬ方向へ泳いでいってしまった。
「あはは、逃げられてしまったね」
言葉とは裏腹に楽しそうに笑う羂索に、天元もつられて笑みが零れる。
結局ふたりは日が沈むまで魚取りに夢中になって、途中骨を覚えたのか、見事に五匹も捕まえたのだった。勿論その場で焼いて美味しく頂いたのである。 - 135二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 09:36:40
⭐️
- 136二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 18:53:05
2人でキャッキャしながら魚取りしてるの可愛いな…塩多めな焼き魚食べたい
- 137124/08/05(月) 23:05:40
暑さも和らいできた頃、珍しく天元が牛車を借りてきた。誰から借り受けたのか羂索には言わなかったが、相当な御仁であろうことは、車の豪奢な様子、なによりそれが檳榔毛車(びろうげのくるま)と呼ばれる高級車であったことから見受けられた。
「紅葉狩りに行こう」
そう言って羂索の手を引くのである。
天元は丁寧に牛車の乗り方を教え、羂索は素直にその通りにした。腰を落ち着けて漸く出発となり、牛がそろそろと歩きだす。あまり急いてくれるな、と事前に伝えていたので非常にゆったりとした歩みである。
「なんだかんだではじめて乗るよ」
牛車は皇族貴族の乗り物で、呪術師も武士団も使うことはできなかった。もし貴族の誰かと鉢合わせ乗っていることが知られたら、無礼だなんだと引き摺り下ろされかねないのである。羂索は天元の元にいるので多少の融通は利くものの、それでも単独で、となったらわからない。
そのことをよくよく分かっている天元は頷き返した。
「そうだろう。滅多には乗れないものだから、君にとって良き経験になると思ってな」
「経験ね、うーん……乗り心地はそんなに……」
正直に顔を顰める羂索に、天元は想定していたとばかりに言う。
「これでも良い方だよ。速度を出していないから」
「え?」
「暴れ牛の引く車なんかだとこの私ですら酔ってしまうくらいだ」
「えっ」
絶句した後、顔を青くさせて思わずといった風で流石に嘘でしょと漏らす羂索に、天元はただ笑うのだった。 - 138124/08/05(月) 23:59:48
揺られること暫く、此処から先は徒歩でしか行けないと告げられたふたりは車から降りた。その大きさ故に山道などの狭い箇所は通ることが出来ないのである。
ぐぐっと伸びをした羂索は、牛飼童がすぐそこにいるにも関わらず、全く憚らない声量で言った。
「もう二度と乗りたくはないね!」
天元のおかげで酔うことはなかったが、乗り心地はお世辞にも良いとは言えず、進み具合も遅い、なんだって貴族たちはこんなものに乗るのやらと首を傾げていた。自分たちで走った方が速いじゃないか、と。
散々な感想の羂索に苦笑いを零した天元は、そっと囁く。
「帰りもあるが」
「あっ」
すっかり忘れていたようで、気まずいような顔をした羂索。
「ふふ、冗談だよ。帰りは歩こうか」
そう言うと控えていた牛飼童に帰っていいと告げて、羂索の手を握った。彼らは牛車を転回させ来た道を戻っていく。
「良かったわけ?」
「ああ、勿論。はじめからそう話をつけてある」
目的地で帰されたとなれば牛車の持ち主は顔に泥を塗られたと認識してもおかしくはない。いや、確実にそう思うだろう。流石に天元に対して、貴族間にーー場合によっては皇族間でもーーあるような蹴落としは仕掛けてこないだろうが、今後何かあった際にこういった助力を受けられなくなる可能性がある。だから借り受けた時、はじめから行きだけで良いと伝えていたのである。
そうと聞かされた羂索はむっと唇を尖らせた。
「揶揄ったの」
「すまない」
「もう!」
そっぽを向いてずんずん進んでいく。けれども繋がれた手が解かれることはない。微笑ましく見詰めながら、羂索に引かれるまま歩みを進めていく天元であった。 - 139二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 08:13:35
かわいい…
- 140二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 19:28:06
かわいい〜……
楽しく紅葉狩りしてね…… - 141二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 20:36:03
精神幼女羂索可愛い…!!
- 142二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 21:13:26
天元が羂索のことをよく見て理解してずっと一緒にいてくれるってこんなに優しい世界なんだなぁ…
- 143124/08/06(火) 21:45:46
紅が視界いっぱいに広がる。決して下品な血の色ではない、上品に染め上げられた色合いのそれを眺め、ふたりは思わずと言った風で嘆息した。
「相も変わらず美しいな」
ぽつりと零された科白に、羂索は目線を天元へ送る。天元は気付いているのかいないのか、紅葉を見詰めたままだ。興奮によってか心做し頬が赤らんでいるように見える。
暫くして、漸く視線がかち合った。天元は口許を緩ませる。
「ふふ、私ではなく上を見なさい」
「わかってるよ」
そうは言ってもやはり羂索の目は上向かず、じ、と天元に向けられている。流石に疑問に思ったのか首を傾げ、どうかしたかなと問いながら、羂索の頬へと手を伸ばした。つつ、となぞる指先に、擽ったそうにして身を捩る。
「……観に来たことがあるの」
「うん?」
「相も変わらずって……誰と来たの」
観念したように呟かれた言葉。天元は目を瞬かせ、それから、口元を押さえて笑いだした。稀に見る大笑いである。そんな反応にむすっとした羂索を見、やはりくふくふと笑う。
「かわいらしいな、君は」
「ハア?」
「私と来た者に妬いてしまったんだな。ふふ、実に愛らしい」
「べっ、別に……妬いてなんか……」
「ふふ、ふふふ、私の羂索。共に来たのは君がはじめてだよ」
両の手で頬を包み込む。
紅葉狩りが盛んになったのは平安の都へ移ってからであるが、それ自体は遙か前から行われていたものである。天元は同化さえしていない頃、ひとりでこの山を訪れたのだった。
真っ直ぐと見詰め一切の偽りなく告げられた言葉に、羂索は目を泳がせる。
「かわいい羂索。君にもこの壮観な眺めを見せてあげたかったんだ」
そうまで言われては、羂索は耳まで赤く染め上げて、どちらが紅葉なんだかわからないくらいになってしまったのであった。 - 144二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 21:50:27
うわぁーーーー?!?!?!
と、尊い………私の羂索って言った?!言ったよねぇ?!ぐわぁー!!!(尊死) - 145二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 21:55:29
紅葉の花言葉ってこんなにあるんだ…
「調和」「美しい変化」「大切な思い出」「遠慮」「遠慮」「隠退」「保存」「自制」「隠栖」「謹慎」 - 146二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 07:57:54
ひえ…尊さで溶ける…
- 147二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 18:06:57
尊さの過剰摂取で指先から溶けた…本望だよ、ずっと仲良く幸せでいてくれ…(切実)
- 148二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 23:10:49
ほしゅ
- 149二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 11:03:07
尊すぎて灰になったわ
- 150二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 20:38:33
羂索に文とか和歌が届くようになったら嬉しく思いながらも影でしっかり差出人を調べ上げそう…そして案の定、天元目当てで羂索に近付こうとしてる事を看破して秘密裏にめちゃくちゃ相手家に圧をかけるんだ…可愛いあの子の心を弄んで利用しようとする奴は絶許天元
- 151124/08/08(木) 22:46:40
初冬のある頃、羂索は奇妙な噂を耳にしていた。宿儺が先の新嘗祭で、朝廷に召し抱えられた女術師に惚れられたというのである。
とうとう討伐を諦め和睦の方向で動くらしいというのは聞いていたが、まさか新嘗祭に招くとは。その時点で相当面白いが、更に惚れた腫れたの話が尾鰭のように付いてくるのだ。こんなに面白いこともそうはないだろう。
そして羂索は、面白い話には目がない。
「宿儺〜」
邸に顔を出した羂索を、げんなりといった風の顔で裏梅が出迎えた。否、出迎えなどという優しいものではない、初手が氷凝呪法である。結界術を駆使して猛攻を凌ぐと、漸く裏梅の手が止まった。
「顔を見るなり酷くない?」
「面白がっているだろう貴様」
「面白がっているよ?」
「貴様ッ!」
再び氷が降り注ぎそうになって、羂索は慌てて制止をかけた。
「何をどうしてそんなに殺気立ってるのさ」
羂索の言葉に、これを見ろ、と差し出された紙。香が焚き染められたそれは見るからに恋文だった。なるほど?と受け取ってーー他人宛の文を勝手に見るなど常識が欠如した行為だが、今更であるし、この場にそれを指摘する者はいないのであるーーはらりと広げられたそこに書かれた愛の羅列に、くらり眩暈を覚えた。
「……ええ、なにこれ……」
然しもの羂索も引いた声が漏れる。
「これらが毎夜の如く送られてくるのだ!あの女め!」
「ああ……それはそれは」
裏梅が鶏冠になって、更に面白がる者へも怒りが飛び火するのも無理からぬことであった。
これは思っていたより状況がずっとおもしろ……ではなく、宿儺に惚れた女術師は相当おもしろ……でもなく、頭のぶっ飛んだ輩に好かれてしまったようだと、羂索にしては非常に珍しく、当事者である宿儺と迷惑を被っている裏梅をおもしろが……ではなく、同情したのだった。 - 152124/08/09(金) 00:59:44
そういえば、と羂索は思い出す。私、恋文なんて貰ったことない。
今は男の体を使っているので然もありなんだが、女として過ごしていた頃、それこそ術式を使う前の元の体の時でさえ、羂索は恋文の類いが届いたことがなかった。
「そんなに私って魅力がないかな」
帰ってくるなりそんなことを言いだした羂索の頭を撫でてやりながら、天元が穏やかに返す。
「そんなことはない。君は魅力に溢れているよ」
「だったらどうして恋文のひとつも送られないのさ」
不満です、と言いたげに頬を膨らませる羂索を見詰め、天元は当時の記憶を思い起こしていた。
歳頃の娘が天元の庇護下にあるという噂は貴族の間で水面下に広まっていた。直接天元に依頼ができる者は限られていて、そんな極僅かな者さえ相当なことがなければ接触はできない、それほどの存在であった天元を、上手くやれば取り込めるかもしれない、そんな可能性を彼らは見出したのである。
幸か不幸か、羂索自身に呪術師としての才覚があったこともそれを助長させた。天元の愛し子は呪術師として申し分なく、特に天元と同じく結界術の腕は相当なものだ。故に彼女だけでも取り込むことができれば……と、そんな邪な思考で以て文を綴った男たち。
羂索宛のそれらを、天元は全て検閲した。検閲し、身元を特定し、徹底的に調べ上げた。中には呪術に関係なく、本当に羂索と遣り取りをしてみたいというような者もいたが、多くはその先の欲に目が眩んだ輩だった。
天元は激怒した。必ず、羂索の心を弄ばんとする不埒な輩共を除かねばならぬと決意した。
そんなわけで、天元は手っ取り早い方法を用いることにした。天元の庇護下にある者へ手出しをした者は島流しに処す、と、帝直々に勅命を下させたのである。天元が皇族の、それも現帝の権力を行使させるようなことは非常に、まっこと非常に稀であったので、天元の機嫌を損ねてはならぬと考えたのか、直訴状を出した数日後には下されたのだった。
そんなわけで、それ以来羂索の元へ恋文が届くことはなくなり、羂索もまた男の体ばかりを使うようになったので、水面下で起きた騒動は当人の耳に入ることなく風化していった。
「……ふふ、少しやり過ぎてしまったかな」
「なんの話?」
「いや、」
天元は緩くかぶりを振った。
「なんでもないよ」
何方にせよ、羂索が知る必要はないのである。 - 153124/08/09(金) 01:02:41
頂いたレスから広げたお話がちょくちょくあります。
ありがとうございます。 - 154二次元好きの匿名さん24/08/09(金) 02:53:41
帝直々の勅命…?!結構ガチで怒ってらっしゃる…
- 155二次元好きの匿名さん24/08/09(金) 13:29:57
ほ
- 15615024/08/09(金) 16:36:13
- 157二次元好きの匿名さん24/08/09(金) 16:38:10
メロス天元様…
- 158二次元好きの匿名さん24/08/09(金) 16:49:56
皇帝も黙らせられる系メロスとか最強やん…
- 159二次元好きの匿名さん24/08/10(土) 01:43:14
ほ
- 160二次元好きの匿名さん24/08/10(土) 08:31:59
激怒天元様…
- 161二次元好きの匿名さん24/08/10(土) 16:55:06
万のラブレター攻撃、絶対同情なんてしてない羂索で笑う
- 162二次元好きの匿名さん24/08/10(土) 22:44:34
これこの先も羂索に声かけてくる奴ら片っ端から牽制するやつだ
男だったの!?でも男ならワンチャン直接行けるか……?みたいな感じで街中で声をかけてきた男が背後に驚くほど冷たい目線を感じたと思ったら気づいたら島流しされてるやつだ - 163二次元好きの匿名さん24/08/11(日) 10:10:05
ほしゅ
- 164124/08/11(日) 16:39:10
【閑話】
幾年前のことか、かの天元が歳頃の娘を庇護下においてかわいがっているらしいとの噂が実しやかに囁かれていた。それは次第に、当人もまた呪術、特に結界術に精通しているなんていう尾鰭が付いて、出世を狙う男たちは彼女を手に入れようと躍起になったものだ。
しかしそんなある種の競い事は、突然の幕引きを迎えた。帝が勅命を下したからである。天元の庇護下にある者へ手出しをした者、例外なく島流しに処すーーこれには誰しもが黙らずを得なかった。出世が狙いだというのに、島流しとなってしまったら本末転倒なのだから。
それから彼女についてを口に出すことすら憚られるようになり、自然噂は風化していった。
さて、そんな彼女であるが、私は偶然にも彼女を目撃することとなった。否、彼女は女性ではなかった。美しい顔立ちをしてはいたが、あの体格は紛れもなく男である。
全く、噂というのは当てにならぬ。私はがっくりと肩を落としたが、しかしすぐさま持ち直した。男であるならば、女性を口説き落とすよりかは難易度が下がる。先ず友の立場を得、その後は……そうだな、妹と夫婦になるよう仕向ければ、益々我が家は安泰となろう。
おおよその構想を立て、再び視線を二人へ戻すと、そこには彼しかいなかった。私が彼を噂の君だと断じたのは、隣に、一度だけ相見えること叶った天元が親しげにして立っていたからだ。おや、と目を彷徨わせた私の肩を、とん、と叩くもの。
「僅か数年で勅命を忘れてしまったのか」
背筋をひやりとしたものが流れ落ちる。
「あの子を自らの欲の為の駒にしようとは、よもや考えてはおるまいな」
「い、いない!そのような、こと、など……!」
「そうか」
肩から重みが消える。心の臓が未だ嘗てないほどに煩い。金縛りにでも遭ったかの如く身を動かせない。顬を伝う汗。ぽたり、と。
はっと顔を上げると、その先には既に彼らの姿はなく。幻でも見ていたのかもしれない、物の怪にでも化かされたのか、そう思いながら重たい体を引き摺って帰路に就く。
ーー翌朝、都から遠く離れた辺鄙な島への左遷が言い渡されることになるなど、この時の私は思いもしなかったのである。 - 165二次元好きの匿名さん24/08/11(日) 18:27:26
この天元、モブ君の背後に瞬間移動を…!?脳内にドラゴンボールの瞬間移動音が響いたw
羂索も突然シュバッ!って消えた天元に「あれ?」ってなるも「どこ行った?」と思う前にはまたシュバッ!って帰って隣に立ってるから「見間違い?」ってポカンとしてそうw
- 166二次元好きの匿名さん24/08/11(日) 20:06:35
- 167124/08/12(月) 01:16:44
羂索が件の女術師と邂逅を果たしたのは、然程遠くない時分であった。雪が散らつく中、例の如く天元と共に宿儺邸に遊びに来た羂索は、ちょうど宿儺への愛を叫びに来ていたらしい彼女ーー万と、ばったり遭遇したのである。
「宿儺!!!今日こそ結婚よ!!!」
聞こえてきた第一声がこれであったので、すぐさま先客の正体に心当たりがいった羂索は、徐ろに天元と顔を見合わせた。
「おもしろ……じゃなくて、大変そうだね」
「ふふ、人の恋路に首を突っ込むほど野暮ではないが」
そうは言うものの天元も楽しそうにしている。幾つになっても他人の色恋沙汰はおもしろいものなのだ。ふたりは目だけで互いの思考を共有し、なんの躊躇もなく、今まさに求婚が行われている現場へと足を踏み入れたのだった。
さて、そこにいたのは心底面倒臭そうな顔で座るこの邸の主と、長い髪を靡かせて嬉々として愛を語る全裸の女。全裸である。裏梅は席を外しているようだ。この事態を放置したまま外出するとは考えられないので、恐らく女が来る前から食糧調達にでも出向いているのだろう。
羂索と天元は、あの宿儺が死んだ目をしていることにすっかり驚いてしまって、声を掛けるのが遅れてしまった。
「誰よあんたたち」
虚無に至っているらしい宿儺を差し置いて、然も此処の住人ですとばかりの顔で女が言った。今の肉体が男の羂索は兎も角、天元は女であるからだろう、随分と険がある。
「……私は天元。この子は羂索だ。君が噂の術師だね」
天元の名乗りに目を瞬かせた女は、ああ!と声を上げた。
「あんたが天元!名前は知ってるわ!そっちのは知らないけど」
「知ってもらえているとは光栄だよ。宿儺の相手で忙しいかもしれないが、この子とも仲良くしてあげてくれ」
「ハ?」
羂索の意思そっちのけで勝手に話を進める天元に思わず不服の声が漏れたが、聞こえていないのか気にしていないのか、女はしょうがないわねえ、と笑った。
「私は万!宿儺の正妻になる女よ!仲良くしてあげるわ!」
因みにこの間、宿儺は誰にも気取られず姿を消しており(あの巨体でありながらなんとも巧妙なことである)、気付いた万が絶叫しながら探し回り始め、羂索と天元は主なき邸で勝手に寛いだあと勝手に帰宅したのであった。 - 168二次元好きの匿名さん24/08/12(月) 11:22:51
万だ!宿儺さえ絡まなければまともに友達やってくれそう
家主いないのに好き勝手くつろいで帰る2人好き - 169二次元好きの匿名さん24/08/12(月) 12:24:30
羂索はまぁそうだろうけど、天元様も結構図々しくて好き…いや、天元様が図々しいからそれ見て育った羂索も図々しくなったのか?どっちだ…
- 170124/08/12(月) 13:14:26
【閑話】
羂索とはどういう人間ですか?
「勝手に俺の友を名乗り厚かましくも押し掛けてくるに留まらず、剰え俺に頼み事をしてくる不遜な奴だ。……ああ、それから」
「私だけならば兎も角、宿儺様にさえ絡んでくる鬱陶しい奴だ。なまじ強さもあるだけに追い払えん。だが……いや、だからこそ、か」
「正直私、彼奴のことそんなに知らないのよね。知り合ったばかりだし。まあ聞く限りだと」
「ふふ、言うまでもないな」
「「「「究極の寂しがり屋」」」」 - 171二次元好きの匿名さん24/08/12(月) 13:22:48
寂しがり屋なのが周知の事実になってるのおもろいし可愛い
- 172124/08/12(月) 19:09:42
季節外れの犬鬼灯が咲く庭で、式を一匹拾った。それはどうやら天元宛の遣いらしい。ふよふよと浮かぶ式を連れて羂索は天元のいるであろう部屋へと顔を出した。
「おや」
「朝廷からの遣いだってさ」
「そうか」
暫しの黙考。
「……そういえば此方からの連絡を忘れていたな」
「なにやってんの」
「つい」
呆れの眼差しに苦笑いで返した天元が式を掌で受け止めると、ぽんと軽やかな音を立てて文へと様変わりした。ふむふむと読み進めていく天元。
羂索は今の式を再現しようと試み、難なく成功させていた。外出時にいつも天元に付けている式のほんの応用だった。
「なるほど」
「帝はなんて?」
「帝かどうかはわからないだろう」
「帝でしょどうせ。其処らの貴族程度が君に文を繋げられるわけがない」
「ふふ、そうかな。まあしかし、うん、これは確かに帝からだった」
「召集命令?」
「端的に言えば。なに、そう難しい依頼ではないよ。単に結界を張ってほしいというだけのものだ」
「ふうん」
文を畳んだ天元へ、羂索がひとつ提案する。
「私も行っていいかな」
たとえば、先に否定はしたものの何処ぞの貴族からの依頼だったのなら、天元も快く同行を許可してくれただろう。羂索の腕を見込んでのことであるし、更なる向上のためになるとも考えて。
しかし今回ばかりはいけない。帝との謁見は、まだ、羂索には遠いものだった。
「すまないが、今回は留守を頼みたい」
羂索は幼子のように頬を膨らませた。その様を優しく見つめながら、静かに言い聞かせるのだ。
「できるね、羂索」 - 173二次元好きの匿名さん24/08/12(月) 19:11:06
はー待て待て待て待て
待ってくれ - 174二次元好きの匿名さん24/08/12(月) 19:12:57
待てよ
待ってくれよ…ねぇほのぼの時空じゃなかったの?不穏な雰囲気ほぼなかったじゃん、ねぇ
帝?頼むよ帝!!! - 175二次元好きの匿名さん24/08/12(月) 19:14:35
違う違う違う違う………まだ遠いものだった、ならいつか天元様と一緒に謁見する機会があるはずだもん違うもん
- 176二次元好きの匿名さん24/08/12(月) 19:19:19
いやいやあんだけ過保護に羂索を守ってる天元様が離れてくわけないじゃん。ねぇスレ主さん?
- 177二次元好きの匿名さん24/08/12(月) 19:24:56
犬鬼灯の花言葉「真実」「嘘つき」
季節外れに咲いているってことは… - 178二次元好きの匿名さん24/08/12(月) 19:25:54
ねぇ!ねぇ!!!!!!
- 179124/08/12(月) 19:34:11
ひとり残された羂索は、天元を見送るなりそそくさと宿儺の邸へ遊びに来ていた。帝の召集とあれば、日帰りは兎も角、二日三日で帰ってこられるとも思えない。いつものように式を付けることも許されず、真の意味でひとりきりで何日もを過ごすのは、羂索には耐えられそうになかった。……全くの無自覚ではあったけれど。
留守を任せたいとは言われたものの、結界が張ってあるのだから構わないだろう。天元とて、羂索がひとり大人しく邸で待つとも思っていないのである。
無遠慮に足を踏み入れた羂索を迎えたのは、誰のものとも知れぬ血潮を全身に浴びた状態で腰掛ける宿儺だった。常人であれば腰を抜かしていたろうが、羂索は寸の間目を見開かせただけで、すぐさま何事もなかったかのように声を掛けた。
「やあ宿儺。随分と暴れたみたいだね」
どこか遠くを見ているようだった宿儺の目が羂索を捉える。
「……羂索か。何の用だ」
「暫く泊めて?」
片目を瞑り手を合わせる。奥から身を清めるための水を持ってきた裏梅がちょうどその言葉を聞いていて、気安く頼む羂索へすぐさま怒りの声を浴びせた。
しかし当の宿儺は気にした様子もなく、片手を上げて忠実なる従者を制する。それだけの動作で裏梅は鎮静し、恭しく宿儺へ水を差し出す。
「喧嘩でもしたか?」
揶揄い混じりに言いながら、立ち上がって豪快に頭から水を被る。逆立てている髪が水気を含んで垂れる。水も滴るいい男、心の中で呟いて、羂索は不満げに口を尖らせた。
「してないよ。帝の召集でね、私はまだ駄目だって言うから。酷くない?」
「ケヒ、寂しがりめ」
「違うよ!」
そんなんじゃないから!と抗議するが、宿儺は、そして裏梅も、心做し生暖かな目を向けるのだった。
「……で、泊まっていい?泊まってくからね」
「好きにしろ」
斯くして天元不在の期間、羂索は宿儺邸に居候することが決まったのである。 - 180二次元好きの匿名さん24/08/12(月) 19:35:59
よかったね…よかったね…
こんな寂しがりだから天元様も帰ってくるよね??? - 181二次元好きの匿名さん24/08/12(月) 20:42:35
頼むから帰ってきて天元様!
- 182二次元好きの匿名さん24/08/12(月) 20:47:53
寂しがり屋な羂索を残すぐらいなら、解呪しないと目覚めない系の呪いを掛けた状態で獄門僵にでも封じて手元に置くくらいしてくれ…!
1000年も一人でお留守番なんて可哀想だろ!! - 183124/08/12(月) 23:39:55
とすん、と音が鳴る。
「百発百中じゃないか」
真ん中を貫く一本を囲うようにして射られた五本の矢は、まるで五芒星を描くが如く。等間隔であることからして狙ってのことだろう。
「さっすが私の旦那様だわ!!」
黄色い声を上げる野次馬の存在をいないものとして視界にすら入れない宿儺は、主の対応に従い平静を装う裏梅の差し出した湯呑みをぐいと煽った。同じく湯呑みに口を付け舌を湿らせた羂索が、しみじみと呟く。
「呪術だけでなく、武芸全般に秀でているなんて、全く、君のような者を努力の人と言うのだろうね」
世間では呪いの王だなんだと持ち上げられていて、羂索と天元もそう思ってはいるが、実のところ宿儺ほどに努力と研鑽を欠かさない術師は他にいないということも知っている。勿論、持って生まれた天賦の才による部分も大いにあるが。
そんな、含みの一切ない心からの賛辞を、宿儺は鼻で笑うだけだった。
「私もやってみよーっと」
宿儺が湯呑みと交換で裏梅に手渡した弓矢……ではなく、自身の背丈に合った弓矢を手に取り構える。体格も桁違いの宿儺が扱うそれは、幾ら体躯の良い体を使えども羂索には少し、いやかなり、難しい。
的を目掛けて射掛ける。真っ直ぐと飛んだ矢は見事に命中し、とすん、と音を奏でた。
「なんだ、貴様も上手いではないか」
「いやいや、年の功ってやつだよ。真ん中は逸れてしまったし」
矢張り久しく使っていないと腕が鈍るね。羂索はそう言ってからからと笑った。 - 184二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 08:55:08
天元がいないとちゃんと年長者の羂索いいね〜
天元帰ってくるよね?ね?頼む頼む頼む - 185二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 11:03:15
実際宿儺が誰よりも努力家だってことふたりはちゃんと知ってそうよね
高貴な者たちのおあそびって感じしてなんか…いいな…… - 186二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 13:44:11
天元の留守が長引いて寂しさと不安で不安定になった羂索なら「天元様がお呼びですので一緒に参りましょう」とか言われたらホイホイ付いて行っちゃったりしそう…普段は知らない人に付いてってはダメって言い聞かされてるけど、究極の寂しがりだから、寂しさがキャパオーバーしたら簡単に誘拐されちゃう精神幼女なんだ…
- 187二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 15:23:18
>普段は知らない人に付いてってはダメって言い聞かされてる
この時点で幼女なんだよなあ
- 188124/08/13(火) 16:08:23
居候の身であるので、少しばかりは裏梅を手伝うことにした羂索は、とりあえず獣を狩るため森に出ていた。というより、料理を筆頭に家事諸々は裏梅によって独自に定められた基準があるようで、なかなか合格が出せなかったため、まあ狩りくらいならば文句を言われることもなかろう、というわけである。
「いくらなんでも厳しすぎるでしょ……あれだけの基準を設けなきゃいけないとか、そりゃ今までの従者は殺されるわけだ……」
不平を垂れながらも納得し、改めて裏梅の持つ宿儺従者適性の高さを実感していた。それはそれとして矢張り厳しすぎる。
雪の散らつく中をゆったりと歩きながら、何を狩ろうかなと考える。マ、最悪人間持って帰ればいいや、なんていう邪悪極まりない思考に辿り着いたそのとき。
「……羂索様」
木立の向こうから呼び掛けられた。聞き馴染みのない声だ。こんな雪山、それもすぐ近くに宿儺の邸があるような場所で、只人がやって来るとは思えないし、そも羂索の名を知る者など限られている。
呪霊にせよ術師にせよ、聞こえなかったふりに限る。羂索は何食わぬ顔をして、自然な動作で方向転換をした。
「羂索様、」
それでも尚、声は追い縋った。仕方ない、と細く息を吐く。呪霊ならば祓うまで、術師ならばーー狩りの手間が省けて丁度いいかもしれない。
臨戦態勢に移ろうとした羂索へ、声の主は相変わらず姿を現さぬまま告げた。
「天元様が、お呼びにございます」
「え」
思わずそんな声が漏れる。それに気を良くしたのか気が大きくなったのか、更に早口に捲し立てた。
「羂索様をお連れするように、と、天元様が。共に参りましょう。雪見の酒もございます」
「天元が……?」
「共に参りましょウ」
迷いが生じる。
「ユきみノさケモ」 - 189124/08/13(火) 16:09:36
ーー「解」
キン、と音が鳴った。声の主を隠していた木が斬り倒され、その先には、
「全く……惑わされるなぞ貴様らしくもない」
呆れた目で見下ろす宿儺が立っていた。足元には「ユき、テんゲン、ツレ、れ、レれ、」と壊れたように繰り返す呪霊の残骸。宿儺が呪力を込めて足を振り下ろせばあっという間に霧散していった。
「飼い慣らされていたな。大方、貴様が天元に贔屓されているのを気に入らん術師の仕業だろう」
詰まらん小細工だ、そう吐き捨てた宿儺に、何故この場にいるのかだとか何故助けてくれたのかだとか、聞きたいことはいろいろとあったのだが。
「ありがとう、宿儺。助かったよ」
一先ず礼を言うのが先である。宿儺は何も言わず、ふいと背を向けて歩いて行ってしまうので、慌てて羂索は追いかけたのだった。
余談だが、結局帰り道で宿儺が狩った熊が食卓に出されることとなり、裏梅から「貴様何もしていないではないか」とちくちく口撃されることとなったのだった。
「不可抗力だよ!」 - 190124/08/13(火) 16:12:43
文字数制限あるなんて知りませんでしたビックリ
- 191二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 19:02:39
この宿儺、もしかして天元から羂索のこと頼まれてたりする…?
- 192124/08/13(火) 19:40:04
- 193124/08/13(火) 19:41:47
- 194二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 19:44:42
- 195124/08/13(火) 19:48:14
- 196二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 21:41:23
うめ
天元と羂索はずっと一緒にいるんだよ… - 197二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 09:30:58
うめうめ
- 198二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 12:24:43
うらうめ
- 199二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 12:25:26
早く帰らないと羂索泣いてしまうよ…
- 200二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 12:26:16
200なら天元はちゃんと帰って来る