【ダイススレ】自分の分身のオリキャラをC.Eに放り込んでみた5

  • 1スレ主24/09/11(水) 19:03:13
  • 2スレ主24/09/11(水) 19:04:22
  • 3スレ主24/09/11(水) 19:05:03
  • 4スレ主24/09/11(水) 19:06:00
  • 5スレ主24/09/11(水) 19:06:37
  • 6スレ主24/09/11(水) 19:07:09
  • 7スレ主24/09/11(水) 19:33:49

    https://bbs.animanch.com/storage/img/3746516/943

    https://bbs.animanch.com/storage/img/3746516/944


    ウィル・ピラタ

    13歳

    162㎝

    ナチュラル


    本スレの主人公。

    ビルドダイバーズ系の世界からC.E.に転移してきた後ヤマト家の居候になり、戦争に巻き込まれる。

    自由のシュラよりも高い操縦技術と、ガロード並みの精神力でC.E.を逞しく生き抜いている。

    愛機はガンダムAGE-2マグナムに、[スターフォックス]シリーズの

    主役戦闘機アーウィンの機能を持たせたAGE-2アーウィン。

    現在三人のヒロインと関係を持っており、纏めて潰れたカエルにできる絶倫&ベッドヤクザ。


    股間のアグニのサイズは20+dice1d20=2 (2)

    まだ成長dice1d2


    1.する

    2.しない

  • 8二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 19:35:09

    このレスは削除されています

  • 9スレ主24/09/11(水) 19:36:17

    >>7

    股間のアグニはまだ成長dice1d2=1 (1)


    1.する

    2.しない

  • 10スレ主24/09/11(水) 19:42:14

    https://bbs.animanch.com/storage/img/3746516/949


    キラ・ヤマト

    16歳

    165㎝

    コーディネーター


    最初にウィルと関係を持ったヒロイン。

    C.E.にやってきて路頭に迷っていたウィルを放っておけず自宅に連れてきたのが切っ掛けで義姉として仲を深める。

    ウィルが精神安定剤になっており、抱き着いて匂いを嗅いだり、抱き枕にして一緒に寝ている。

    バストサイズはD。まだ成長dice1d2=1 (1)


    1.する

    2.しない

  • 11スレ主24/09/11(水) 19:50:00


    ラクス・クライン

    17歳

    158㎝

    コーディネーター


    ウィルと関係を持っているヒロインその2にしてプラントの歌姫。

    宇宙で遭難していたところをウィルに救助され、一目惚れ(?)したらしい。

    現在はウィルとキラを同志として、戦争を終わらせるための活動をする決意をした。

    バストサイズはdice1d4=3 (3)


    1.B

    2.C

    3.D

    4.E

  • 12スレ主24/09/11(水) 19:57:44


    クララ・ソシオ

    14歳

    160㎝

    ナチュラル


    ウィルと関係を持つヒロインその3。

    ウィルと同じ世界出身で、初めてGBNにログインしたウィルに声をかけたのが切っ掛けで、

    共に高難易度ミッションをクリアしてきた相棒。

    お互いに好意を持つも進展がなかったが、C.E.に来てから一気に進む。

    バストサイズはGとマリューやミーアに匹敵するレベル。

    愛機はファーブニルをギャプランに近づけた改造機リンドブルム。

    その後同じ学校の先輩・後輩だという事が分かり、リアルでも付き合いを持つ。

  • 13スレ主24/09/11(水) 20:03:57


    ジェームズ・ピラタ

    28歳

    191㎝

    ナチュラル


    ウィルの叔父で元の世界では書類上の保護者。

    ジェームズの愛称はジム、ジミーになるはずだが、皆は何故かジャックと呼んでいる。

    元自衛官で柔軟な思考を持つクラン[アルコンガラ]の指揮官。

    超弩級万能戦艦グレートフォックスの船長(軍人では無いので艦長と呼ぶと怒る)

    将来は喫茶店経営をするのが夢。

  • 14スレ主24/09/11(水) 20:08:46


    アルマ・アルティ

    18歳

    185㎝


    チームのメカニック担当。リアルでは工業系大学生。

    GBNではメカニック系のスキルと情報分析系のスキルを習得している。

    時折グレートフォックスの設備で機体を勝手に改造するマッドメカニック。

    愛機はGファルコンから合体機構を排除し、ジム頭のモビルスーツに変形できるようにした

    索敵・火力支援機ガンファルコン。

    いつの間にかフレイ・アルスターと師弟兼恋人関係になっている。

  • 15スレ主24/09/11(水) 20:15:03


    フレイ・アルスター

    15歳

    162cm

    ナチュラル


    正史から外れた運命を辿る少女。

    最初は父親の影響でコーディネーターに差別的な思想を持っていたが、

    アークエンジェルでの経験で思想を改めた。

    現在はアルマにメカニックとしての手ほどきを受けつつ、戦闘時は

    ドラグーンとして運用できるようにしたスカイグラスパーを操作してサポートを行う。

    いつの間にかアルマに恋愛感情を抱いた。

  • 16スレ主24/09/11(水) 20:21:05


    ラドル・ダガ

    15歳

    155㎝

    ナチュラル


    チームの新参者で、高い空間認識能力と並列思考能力を持つ。

    その能力を生かしてオールレンジ攻撃や、長距離狙撃を得意とする。

    いわゆるマルチロックが必要な戦いが得意なタイプ。

    愛機はヘッジホッグの分離機構を廃し、全身に搭載されたビーム砲を

    ビームサーベル発振器を兼ねたファンネルに改造したうえ。

    ァンネルミサイルを搭載、単体でGフォートレス形態に変形できるヘッジホッグジェネラル。

    今のところ固定砲台としての役回りが多いため、影が薄い。

  • 17二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 20:30:28

    このレスは削除されています

  • 18二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 22:23:39

    保守

  • 19二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 05:07:52

    このレスは削除されています

  • 20スレ主24/09/12(木) 10:17:16

    キラはラクスとバルドフェルドと共に乗り込んだ車で、過ぎ行くプラントの景色を眺めていた。
    一体、自分たちはどこに向かっているのだろうか。ラクスが言うには、
    キラに損はさせないという話であったがーー確証が得られないキラはやきもきした気持ちのままで。
    そんなキラを乗せた一行の車は、とあるビルの一角で緩やかに停止する。ふと外を見れば、
    何人かのザフト兵士の姿が見えて、キラは咄嗟に窓から身を伏せて隠れるような仕草をした。
    そんなキラにお構いなく、ラクスは扉を開け放って笑顔を向ける。

    ラクス「こんにちは。さぁ、どうぞ」

    ラクスに導かれるまま、乗り込んできたザフト兵士。呆気に取られたが、
    その兵士の顔を見た途端、キラは目を見開いた。

    キラ「ウィル!?」
    ウィル「キラねぇ、元気だったか?」
    キラ「元気だったかって……」

    まるでついこないだ会ったような態度を見せるウィルに困惑していると、
    隣に座っていたバルドフェルドが意地悪そうな笑みを浮かべてウィルに話しかけた。

    バルトフェルド「たしかに、君にもらったものは大いに役だったよ。
    いけ好かない奴だったが、お前さんを匿うとは大した奴だ」
    ウィル「政治ごとは興味がないから、あとの尻拭いはまかせる、だそうだ」

    そう言って肩をすくめるウィルに、バルドフェルドは愉快そうに笑い声を上げた。

    バルトフェルド「はっはっは!こりゃあ手厳しいな」

    そう会話が盛り上がったところで、ラクスは真剣な表情をしたまま、口元に人差し指を当てた。

    ラクス「静かに。今はこちらに集中を」

  • 21スレ主24/09/12(木) 10:17:45

    ラクスたちが到着したのはーーザフトの設計局だ。
    ザフト兵に連れられるまま、敷地内から施設の中へと入っていく。
    エレベーターで深く、深く降りていく。そしてたどり着いた場所は、モビルスーツを格納するハンガーだった。

    キラ「これはーーアーウィンとガンダム…?」
    ラクス「ちょっと違いますわね。これはZGMF-X10A、コードネームはフリーダム。
    でも、ガンダムの方が強そうでいいですわね。
    アーウィンは研究名目で運び込まれましたが、プロテクトが強すぎてお手上げだそうですわ」

    キラは機体を見上げたまま、ラクスの言葉を聞いていく。
    フリーダムと呼ばれた方は、どこかストライクを彷彿とさせるシルエットと、大きな背中の翼が特徴的で、
    まるで機械仕掛けの天使の様な印象を感じられた。

  • 22スレ主24/09/12(木) 10:18:17

    ラクス「奪取した地球軍のモビルスーツの性能を取り込み、
    ザラ新議長の下、開発されたザフト軍の最新鋭の機体だそうですわ」

    そう説明するラクスに、キラは振り返って視線を向ける。

    キラ「これを、何故私達に?」
    ラクス「今の貴方達には、必要な力と思いましたの」

    即答するラクスが、今度はフリーダムとアーウィンを見上げた。

    ラクス「想いだけでも…力だけでも駄目なのです。
    だから…お二人の願いに、行きたい場所に、望む場所に、これは不要ですか?」

    想いだけでも。
    戦いなんて嫌だ。けれど戦わなければ大切なものは守れない。

    力だけでも。
    守るために手に入れた強大な力。けれど、その力で多くの人を傷つけ、悲しませる。

    だから、どちらかだけではダメだし、両方を持っていてもまだ足りない。
    その先にある、もっと大切なものを、自分たちは見つけなければならないーー。

  • 23スレ主24/09/12(木) 10:18:53

    ウィル「キラねぇ」

    ハッとして、キラはラリーを見た。彼の目はいつもと変わらないままで、
    迷いもなく、淀みもない。ウィルはいつもキラを守り、行く道を真っ直ぐに指し示してくれた。

    だからーー。

    ウィル「行こう。俺たちの使命を果たすために」

    生き残る。生きて、使命を果たす。
    この戦争を、地球とプラントを、ナチュラルとコーディネーターを、
    お互いを滅ぼし切る前に止める。この戦争を終わらせるためーー。

    そのときだった。ダ扉が蹴破られ、そこから不躾な足音が響き渡ったのは。

    全員がさっと音の目を向け、驚きに跳ね上がる。

    そこから洗練された動きで一気に駆け寄ってきたのは、武装した数名の男達だった。
    見慣れない黒色のノーマルスーツを着用し、暗視ゴーグルまで着用した大仰な装備。
    男達はステージまで一気ににじり寄ると、ウィル達を包囲するようにしてその動きを止めた。
    男達が構えている銃口は、ラクスへと向けられている。
    暗殺用に仕向けられた迷彩装備、訓練が徹底されたであろう無駄のない動き
    ──それらから判断するに、現れた者共は明確に素人ではない。

    その男と面識があるのか、ラクスはその面妖を認めた途端
    ──彼女にしては極めて珍しく──たしかな嫌悪をその表情に滲ませていた。
    それは時間にしてほんの一瞬、瞬きする程の時間も無かった。ラクスの方もすぐに
    取り繕って表情を隠してしまったが、極めて少女らしい人間的で生理的な拒否感に違いなかった。

  • 24スレ主24/09/12(木) 10:19:48

    アッシュグレーの短い髪、顔には宗教的にも思える動物模様のタトゥーが彫られ、
    野太い眉毛はコブラのような蜷局を巻いている。少年向けの漫画作品に登場する
    陳腐な悪役そのままと云った風な風貌は、率直に云って気味が悪いと云えた。

    ラクス「ザフト軍特務隊〝FAITHフェイス〟所属、アッシュ・グレイさんですね」
    アッシュ「憶えてらっしゃるとは、光栄ですなぁ。国家反逆罪の凶悪犯、ラクス・クラインさんよう」

    ラクスは心中、この男にだけは凶悪犯と呼ばれたくないと思った。
    目の前にいる男は、そういう男だったのだ。誰何するウィルとキラに、ラクスが密かに耳を打つ。

    ラクス「ザフト特殊部隊の長。『合法的に殺人ができる』──たったそれだけの理由から
    パイロットに志願した危険人物です。生粋の殺人快楽主義者……とでも云うのでしょうか」

    酷い云われようだが、大方事実である。

    そこから火蓋が切って落とされ、無遠慮な銃声がパーティホールを激震させた。
    ザラの配下とクラインの配下、二分化された〝プラント〟の派閥が激しく対立し銃撃戦を交わす。
    ウィルもまたラクスの護衛達の援護に回るが、彼女が援護するまでもなく、
    地理的不利を被っていたアッシュの部下達はほとんど一方的に打ち斃されていった。

  • 25スレ主24/09/12(木) 10:20:08

    しばらくすると、その場は静寂に包み込まれた。パトリックの配下で、
    その場に立っている者はいなくなっていたのだ。クライン派の兵士達は安堵し、
    構えた銃をおもむろに取り下げ始める。その中のひとり、
    赤髪の青年マーチン・ダコスタが、安堵のため息を漏らした。

    ダコスタ「よし、終わったな」

    ダコスタは銃を下ろし、退避していたラクスの許まで向かい始める。

    ウィル「……!?」

    けれどウィルは、そのとき、やけに妙──というより、嫌な胸騒ぎを感じていた。
    ──なんだ……?電撃のような刺激が頭の中を駆ける。ウィル自身の立っている、
    あるいは見ている場所ではない〝どこか・・・〟──別の空間を空から俯瞰しているような、
    気配を通じて把握したような感覚に囚われたのだ。

    ウィル「アイツ、は──?」

    不可思議な感覚に裏付けるように、ウィルはパーティホールを見回した。
    そして、射殺された敵兵の数があまりに少ないことを理解したとき、
    彼は先の感覚が、紛いものの類ではないと確信する。

  • 26スレ主24/09/12(木) 12:06:09

    次の瞬間、凄まじい爆発音が轟き渡った。
    大量の火薬が詰め込まれた噴進弾が撃ち込まれたのだろう。

    ウィル「モビルスーツまで用意してたのかよ」

    聞き捨てならない予見に、ラクスは愕然とするしかない。彼にはこうなることが判っていたのか?
    撃ち倒した男達はあれで全員ではなく、外にも別動隊がいることを──?
    ──そう云えば、アッシュの姿を見なかった……。
    今になって、ラクスは思い知る。歯噛みしながら、悔いたような表情を浮かべる彼女に、しかし、
    ウィルはそっと手を差し伸べた。この場にあっては何よりも頼もしいその手に気付いて、
    ラクスはハッと顔を上げる。

    ウィル「何をするつもりかは知らないがな、お前を死なせたくねぇ」

    気が付くと煙幕が立ち込める。だが火気を含んだ黒煙とは違う。
    視覚や嗅覚、強烈なまでに五感を刺激してくるその煙は──催涙ガスだ。

    ウィル「キラねぇ!フリーダムに!」
    キラ「分かった」

    ウィルは小慣れたようにシート後方の収納スペースからパイロットスーツを掴み取り、
    ぐいとそれとラクスに手渡す。

    ウィル「シートの後ろに」
    ラクス「……!わかりました」

  • 27スレ主24/09/12(木) 12:09:11

    キラ「Nジャマーキャンセラー?凄い!ストライクの4倍以上のパワーがある…ウィル!そっちは!」

    自分用にOSを書き換えるキラは、乗り込んだフリーダムの性能に驚きながらも、
    隣のアーウィンに乗り込んだウィルに問いかけた。

    ウィル「オールグーン……行けるな?キラねぇ!」
    キラ「うん!ーー想いだけでも…力だけでも…!」

     

  • 28スレ主24/09/12(木) 12:14:47

    アッシュ・グレイは銃撃戦には参戦せず、思わぬ伏兵がいると判った時点で
    屋内の部下達を見捨て、そそくさと退散していた。彼は賢明にして狡猾な男でもあり、
    あらかじめ外で待機させていた軍用ジープに乗り込んでいたのだ。
    補助席には彼の身長ほどある無反動砲が準備され、
    彼はにやりと笑ったのち、その大きく重い砲身を肩に抱え上げた。
    まずは圧倒的な砲撃を撃ち込んでみせる。ピュウと高い音を鳴らした後、豪快な爆発が巻き起こり、
    辺りは一気に火の海と化した。ラクスが用意した伏兵達を、これにて一網打尽にすることができただろう。

    アッシュ「うっひゃー!たまんねェなァ、オイィ!」

    破壊衝動を満たしたことで満悦するアッシュは、ついで部下達に指示を出す。

    アッシュ「催涙弾を投げ込め!生意気な小娘共を、屋敷の中から炙り出せ!」

    確実に目標を仕留めることができるなら、手段は問わない。
    催涙弾を屋敷の中に投げ込んだ後、アッシュはやがて、待機させていた部隊からの報告を耳にする。
    どうやら中にあったモビルスーツで脱出したようだと。

    アッシュ「モビルスーツ隊を前に出せ! 外に待機中の奴らにも打電しろ!」

    ──もう容赦はしない!絶対に抹殺してやる!
    そのときのアッシュの眼は、まるで餓えた野獣のようだった。

  • 29スレ主24/09/12(木) 19:31:29

    闇色の空へ飛翔したフリーダムとアーウィンは、展開するザフトの新型モビルスーツ部隊と対峙した。

    ZGMF-600〝ゲイツ〟──

    ビームライフルとビームサーベルを携行する〝ジン〟の後継主力機だ。
    地球軍から奪取した技術をフィードバックした高性能汎用機。
    これに乗り込むのはザフトの特殊部隊だが、モビルスーツが舞い上がるのを認めていた。

    『ラクス・クラインは間違いなく〝あそこ〟にいる!仕留めるぞ!』

    通信にて心を通わせた特殊部隊員は、そこからビームライフルの照準を固定した。
    しかしそんな兵達の中にも、相手の機種の圧倒的な威容を前に、云い知れぬプレッシャーを憶える者もいた。

    ウィル「コロニー内で撃つんじゃねぇ!」

    ザフトの量産機は、これまでは実銃と実剣しか持ってこなかったはずだが、目下の〝ゲイツ〟
    という機種はまるで新しい玩具でも手に入れたかのようにビームライフルを嬉々として連射していた。
    その怒りをぶつけるように、アーウィンはスラッシュハーケンを、フリーダムはビームサーベルを正確に
    コックピットに当てていく。

    ラクス「……!宇宙へ出ましょう。やはり、このような場所での戦闘は望ましくありませんわ」

    ノーマルスーツに身を包み、シートに傍らに身を折っていたラクスが助言する。
    ウィルは頷き、そこから機体を反転させた。抜き打ちにフットペダルを強く踏み込み、
    展開する敵部隊を振り切るようにプラントの天頂──はるか高々度へ飛び去って行く。

  • 30スレ主24/09/12(木) 22:05:39

    『目標を逃がすな、撃ち落とせ!』

    機動性でも強化されたゲイツも、慌てて後を追った。だがやはり新型のフリーダムと速度特化型の
    アーウィンに追いつけるはずもなく、ザフト兵達は連携しつつ三機分のビームライフルを苦し紛れに斉射し続けた。
    空中を通り過ぎたビームは、これを避けた二機を横切って最果てにあるプラントの内壁、
    分厚い自己修復ガラスへ着弾する。そのガラスは、ある程度の熱量にも耐久できるよう設計されているが、
    ビームの連射を受け切るほどのものではない。溶け落ちてしまえば空気が漏れ、
    そこは大きな宇宙空間への入り口になるだろう。それを見たキラの顔色が変わった。

    ──プラントの全てを壊す気か、こいつらは!?

    かつてのトラウマが刺激され、素早く機体を反転させていた。
    急に回頭し、こちらに向かって来る二機を認め、男達は会心の笑みを浮かべる。
    狙い通りだ、と云わんばかりの下衆な笑みを。

    『両脇から挟み込む!散開しろ!』
    『了解!』

    ──隙だらけだ!

    確信と共に、二機のゲイツが挟撃してかかる。
    しかしアーウィンの両腕から伸びた長大なビーム刃がゲイツを両断した。

  • 31スレ主24/09/12(木) 22:06:57

    ──これで、終わりではない……!

    安心している暇はなかった。襲ってきた連中は、もっと大勢いた。
    何かしらの増援が来ることを予感したウィル達は、そのまま機体ごと宇宙への脱出を図った。
    燦然と輝く星屑の〝海〟が、彼女達を歓迎する。
    だが、殆ど同時にその瞬間、遠方にきらりと何かが反射したように映った。ウィルは反射的に対応し、
    機体を半身にして急速上昇させた。すると案の定、下方より迫っていた〝何か〟が、それまで
    アーウィンが浮かんでいた空間をひと凪ぎにした。

    ウィル「なんだ!?」
    ラクス「あれは……!?」

    黒く、そして禍々しい機体──

    地球軍から奪取した〝イージス〟とそっくりの形状をしたモビルアーマーが、
    突き抜けるような高速で宇宙を駆け巡っている。ダークブラックに塗装された四本の鋭利な鉤爪
    ──それらを自在に操り、巧みな重心移動によって方向転換を繰り返しながら、
    そいつは瞬く間にまたもアーウィンとフリーダムを強襲する。

    その見慣れない風貌を認めた途端、ウィルは歯噛みする。

    ウィル「新型か──!」

  • 32スレ主24/09/13(金) 06:53:16

    形状は〝イージス〟とそっくりと云った。だが違う。少なくとも、その全長は〝イージス〟の三倍近くある。
    ダークブラックとバイオレットのツートーン。純粋なる闇から醸成されたような暗憺たるカラーリングは、
    それ自体が宇宙空間では迷彩のように機能して、深淵的な黒い背景に溶け込んで
    輪郭や全貌を捉え切ることすら難しく感じさせる。その大きすぎる、規格のサイズ感も相まって。

    アッシュ「いいな、いいな!見苦しくあがいてみせろォ!」

    ZGMF-X11A〝リジェネレイト〟──

    パイロットはアッシュ・グレイ。パトリック・ザラが開発を命じたファーストステージシリーズのうち
    三機目に相当する機体であり、大西洋連邦から奪取した〝イージス〟の形状を参考に開発が進められた。
    様々な特殊機構を実験的に搭載したことにより、機体の規格が已むを得ず大型化した経緯を持つ。
    見ると、巨大な〝リジェネイレイト〟の後方、増援であろう複数のジン・ハイマニューバやゲイツ
    の混成部隊が確認できた。おおかた退避した後、そそくさとモビルスーツに乗り込んだMS小隊と見える。
    敵部隊はアーウィンとフリーダムを一斉包囲し、ひとえにビームライフルを構え出した。
    多勢に無勢とはこのことであるが、そんな部下達をアッシュは高らかに手で制した。

    アッシュ「こいつらはぁオレが殺戮する!お前達は手ェ出すな!」

    アッシュは、自機の長大な両腕と両脚の先端からロングビームサーベルを出力し、迎撃の構えを取ってみせた。

    そうして宇宙空間に同時に描かれる、四本の鋭利な〝光の弧〟──

    その想定以上の雄大さ、迅速さに、ウィルは直感的な戦慄を憶えた。彼は咄嗟に機体に制動を掛けさせ、
    結果的にその判断……いや直感は賢明なものと云えた。そうしていなければ、
    今頃は鋭利な斬撃の餌食となっていたからだ。目の前の敵は、ただ図体が巨大なだけなのではない──

    キラ「疾い……!?そんなっ、あんなにも大きいのに!」

  • 33スレ主24/09/13(金) 18:00:13

    元より宇宙空間・無重力下での運用を想定しているリジェネレイトは、
    全身各所に配備されたスラスターによって高度な姿勢制御を可能としており、
    その巨体と重量を補って余りある機動性を獲得していたのだ。
    機体の特性自体も、砲撃戦よりは白兵戦に主軸を置いているのだろうか? なんにせよ、
    機体の運動性だけをみれば、そいつはそいつと比べて二回りも小柄なフリーダムにも劣らない
    ──いや、変形機構を有する分、あるいはフリーダム以上に高い機動性を有しているかも知れない。

    ラクス「大きい機種の方が、素早いなどと──?そんな話があるのですか!?」

    ラクスは驚くが、なるほど、核エンジンを搭載するモビルスーツであり、
    在来機種よりも遥かに画期的な機体性能を持っているということか。

    ウィル(性能差は、ほぼ無いだろうな)

    ウィルそのままドッツライフルを構え、リジェネレイトにビームを掃射する。
    対するリジェネレイトもまた、咄嗟に掲げたロングビームライフルで反撃する。

    宙域で衝突した光条同士が、真空中に真白い閃光を走らせた。

  • 34スレ主24/09/13(金) 20:33:58

    アーウィンとフリーダムは容赦のない射撃をリジェネレイトに浴びせかけながら、
    どうにかして距離を詰めて来ようとする大型敵機の巨大な影をいなし続けた。
    その判断は、正しかった。圧倒的巨体に裏付けられたリジェネレイトの長大な四肢──
    イージスのように四肢そのものを刃として叩きつけに来るロングビームサーベルは、
    じつに広範囲をカバーしていた。

    ウィル(──アレに近づくのは、自殺行為だ)

    見る限り、リジェネレイトは格闘戦を得意とする一方、腰部備え付けのロング・ビームライフル以上に
    射撃系の武装を持っていない。つまり、中・遠距離からの反撃能力に圧倒的に乏しいと云えた。
    どのみち格闘戦で勝てる相手ではないのだから、ここは距離を開いて、射撃に徹するだけでいいのではないか。
    アーウィンもフリーダムも射撃戦を得意とするなら、なおのこと。

    フリーダムが全身の火器を一斉発射するハイマッハバーストを行うが、リジェネレイトは難なく躱す。
    しかしその隙を付いて、アーウィンはスマートボムを眼前で爆発させる。

    アッシュ「な、なんだとォ!?」

    PS装甲で覆われたリジェネレイトに爆風そのものは通用しない。
    しかし衝撃を防ぐことはできず、動きが止まる。
    その隙を付いて、アーウィンとフリーダムはライフルで撃ち抜いた。

    アッシュ「ぐぅおあああっ!?」 

    断末魔と共に、次の瞬間──リジェネレイトが爆散した。
    奇妙──そう奇妙な、背部のバックパックだけを残して。
    ラクスはそのとき、勝利を確信したが──

  • 35スレ主24/09/14(土) 04:22:20

    アッシュからの通信は、そこで途切れたりはしなかった。
    驚きに目を開くフレイの頭上、通信機には男の哄笑が響き続け、
    それは、かの男がまだ生きている証拠だ。しかし、なぜ──?

    ──リジェネレイトは、跡形もなく爆散したはずなのに!

    訝しむウィル達の前に、そのときジンの増援部隊が現れる。そのMSは数機がかりで見慣れない〝卵〟を
    ──いや、正確にはMS格納用のカプセルを運んでいた。大気圏突入の際に用いられる、
    MS用の降下ポッドに酷似しているが……?

    その瞬間、宇宙に放り投げられたカプセルが押し開き、その内部から〝四本脚の黒獣〟が産み落とされた。
    それはさながら獣の孵化の瞬間だった。見届けたウィル達がそれぞれ露骨に微妙な顔になったが、
    よく見れば、卵の中から現れたのは全く新しいリジェネレイトの本体パーツだ。

    アッシュ「ハッハーッ!何度でも再生・・してみせろ!リジェネレイトォーーッ!!」

    アッシュは爆散したリジェネレイトの背部バックパックを操縦し、これをたった今〝卵〟から
    孵った新たなボディにドッキングさせた。
    つまりリジェネレイトのコクピットは、一見すると本体のように思えるリジェネレイトの本体にはない。
    所在しているのは、あくまでもそのバックパック──コア・ユニット内に秘匿されているのだ。
    やっとの思いで爆散させたボディだが、これは何度でも交換可能なパーツのひとつに過ぎない。
    増援部隊が運んできた〝卵〟から産み落とされる予備パーツが残っている限り、
    本体をどれほど破壊しようが、アッシュ本人には文字通り痛くも痒くもないのである。

    ウィル「在庫がある限り復活できるわけね」
    ラクス「ゆえにリジェネレイト(再生)ですか」

  • 36スレ主24/09/14(土) 13:12:59

    ZGMF-X11Aリジェネレイト──

    大西洋連邦から奪取したイージスと、ほぼ同一の構造をしたモビルスーツ。
    実用化された可変機構をザフトにおいて初めて搭載した機種であり、独自のフレームをして、
    実に三つ──高速巡航形態、強襲形態、人型機動形態──もの形態へと変態を遂げることが可能。

    また、パイロットが搭乗するコクピッドは本体ではなく、単独航行能力を有する
    コア・ユニットの内部に存在している。実際にウィルが騙されたように、
    他に例を見ないこの画期的な機体構造は、初見の人間に対しまず間違いなく
    急所──すなわちコクピッド──の所在を誤魔化す効果を持っているのだ。

    あらゆる常識やコストを度外視した機体──リジェネレイトに関しては、四肢を持った人型部分などは
    交換可能なパーツに過ぎず、この機体は、
    そうして予備パーツの在庫がある限りは、何度だって再生を繰り返すことができる。

    アッシュ「なかなかしぶといッ」

    本当にその言葉を云いたいのはウィルであろうに、アッシュはさらに言葉を続けた。

    アッシュ「──ラクス・クラインは戦況を攪乱させ、戦争を長引かせる!
    その女は死人・・を増やそうとしているのだ!それをなぜ守ろうとする!?」

    通信機から、呪うような叫びが聞こえる。
    しかし、それよりも先にラクス当人が、彼女の中の信念を持って応答していた。

    ラクス「死人を増やそうなどとは思っていません。
    わたくしは──わたくし達は、この戦争を一日でも早く終わらせようと志しているのです!」

  • 37スレ主24/09/14(土) 16:08:41

    アッシュ「だったらザフトに就けば良い!アンタもコーディネイターなら、
    コーディネイターのためになることをやれや!それもプラントの歌姫なら、
    なおのことプラントのために活動するのが当然だろうがぁ!」

    ナチュラルを殺戮すれば、それで戦争は終わる。

    確信を叫びながら、アッシュはロングビームライフルを放つ。
    アーウィンは、ローリングシールドでこれを弾き飛ばした。
    急回転するコクピッド内で、それでもラクスは、凛とした真っ直ぐな声色を貫いた。

    ラクス「国の間にも、人の間にも制約というものが存在します。
    それは各々の平和を維持する上で必要なことです。
    ですが、それはときに人を銘々の都合に縛り付け、人の内なる自由な意志と行動を阻害します」

    人類が人類として辿り着くべき未来のためにやるべきことは、
    決して、ナチュラルの殲滅などではない。彼女は力強く説いた。

    ラクス「本来ならば阻止できることも、人は弱く、己の立場ゆえに見過ごしてしまうことだってある
    ……ですからどこにも属さぬわたくし達が必要となってくるのです。
    わたくし達ならば、世界が間違った方向に進むことを止めることもできます!」

  • 38スレ主24/09/14(土) 18:17:01

    すかさずアーウィンとフリーダムが反撃に出る。流星のようにリジェネレイトへと飛び込み、
    駆け抜けざま、尖鋭な肩先の装甲を切りつけた。アッシュは慌てて機体を振り返らせ、反転させた。

    アッシュ「──結構!だが、自分で自分を崇高だと勘違いした無法者共が、
    連中の信念とやらのために政治に武力を持ち込む! 世間じゃそれを、テロイズムっていうんだぜ!」
    ラクス「今のプラントのためにも、必要なことなのです!」
    アッシュ「立場を弁えなさいよ!アンタが奪ったフリーダムのせいで奪われた命に泣く連中が
    プラントにあるのに、共に嘆きもしない、癒しを与えもしないアンタが
    プラントの歌姫ぶるんじゃないの!?そんな自己陶酔で戦争が終わるなら世話ないわ!」

    鮮やかにMA形態へ移行後、鉤爪でアーウィンへと襲い掛かる。
    巧みな重心移動、そして目を見張る高速飛行による突貫を、アーウィンはすれすれのところで回避した。

    ラクス「あなた自身の快楽のため、戦争や軍隊を手段に
    しているあなたには、理解してはもらえないのでしょう……!?」
    アッシュ「オレの殺しの趣味は、あくまで個人的なものだ。
    手前らの利益のため戦争を引き起こす連中に比べれば、なまぬるいもんさ」

    アッシュ・グレイが戦争に求めるものはひとつだ。それは「より多くを殺戮する」こと
    ──戦時下において、ザフトはプラントの技術が結集する場所であり、
    次々と強力な武器が開発される組織でもある。
    だからこそ、彼はプラントでパイロットをやっているのだ。
    より強力な兵器を以て、より大勢の殺戮を行う──ただそれだけのために。
    モニター越しに映るアッシュは、ラクスから視線を外した。餓えたような視線は、
    彼女の傍らに坐す対戦者当人、ウィルとキラへと向けられた。

  • 39スレ主24/09/14(土) 21:25:37

    アッシュ「そんな女を『守る』価値が本当にあるのか?
    いたずらに武力をかざし、お前達の戦争を引っ掻き回そうとする、そんな女を?」

    問われ、キラは言葉を噤む。

    ──もしかしたら、ラクスだって間違っているのかもしれない。

    ──いや、間違うことだってあるのだろう。

    どれだけ聖女のように思えても、ラクスだってひとりの人間だ。どこまでいっても、
    どれだけ高度な遺伝子調整を重ねても、人間が神になることはあり得ない。
    だからウィルとキラは、自分で正しいと思えたことをするだけだ。誰かに心中するのではなく、
    共感を憶えた者の志に自分の力を貸す。今はそれしかできなくても──きっと、いつかは。

    アッシュ「ナチュラル共を滅ぼせば、とりあえず戦争は終わったんだぜ?」
    キラ「ナチュラルもコーディネイターも同じ人間だ……!
    みんな泣いて、みんな笑う──違いなんてないから、きっと分かり合える」
    アッシュ「他に道があるか、ええ?その他に道があるって思う考え方
    ──そんな無責任な理想論が戦争を長引かす元凶なんだって、わかるんだよ!」

    それは意図せず両陣営の人間と係わってきたからわかる。
    地球軍でもザフトでも、そこにいるのは同じ人間だった。
    地球でも宇宙でも、そこで暮らしているのはみんな同じ人間だったのだ。
    しかし、アッシュはこれを高らかに笑い飛ばす。──ナチュラルもコーディネイターも同じ……?

    アッシュ「違うな──!違うから、戦争ドンパチやってんだ!」

    ナチュラルとコーディネイター。かつて異なる人種との融和の道を
    模索する中で、いつか生まれた軋轢こそが戦争に発展した。
    思想、宗教、人種──異なる立場に置かれた者同士が相容れることは、人の世において絶対にあり得ない。

  • 40スレ主24/09/14(土) 21:26:39

    アッシュ「パトリック・ザラの云う通り、コーディネイターは進化した種なのだ!
    俺達のような選ばれた人間コーディネイターには、
    過去の繁栄と地球上に取り残されたナチュラル共を間引く権利がある!」
    ウィル「権利?何が!お前がコーディネイターなのは、お前が偉いからじゃない!」
    アッシュ「うッ……!?」

    それは本当に当たり前のことで、それゆえにアッシュは反論することができなかったという。
    心の動きが、機体の動きにも反映されたらしい。アッシュが言葉を失うと同時に、僅かにリジェネレイト
    の動きが鈍った。その一瞬を見逃さず、ウィルはドッツライフルで敵機の右脚を腿口から吹き飛ばした。

    ウィル「ただ恵まれただけとも気付かずに、つけ上がった男は!」
    アッシュ「うるせぇぇぇぇっ!!」

    激高したリジェネレイトがロングビームライフルを応射する。
    アーウィンとフリーダムは機体を回頭させ、光条を掻い潜った。

    アッシュ「あの男は知らないのです。真のコーディネイターとは、
    人と人、そして地球と宇宙を紡ぐ〝調停者〟であることを」

    真のコーディネイター。それは調整された者ではなく、調停する者。
    ──現在と未来を紡ぐ、時代の紡ぎ手のことを指す。

    遺伝子操作による様々な希望を見込まれ、実際に宇宙へと上がって来たコーディネイターたる
    先駆者達には、本来は人類の〝祈り〟や〝願い〟が託されていた。……託されていた筈だった。

  • 41スレ主24/09/14(土) 21:27:18

    ラクス(『時代の最先端に立ち、より良き未来を先導する先駆者であれ』──かのジョージ・グレンの
    崇高な理想と祈りは、いつしかコーディネイターこそが
    新たなる始祖とする、強烈な選民思想にすり替わってしまった……)

    だからこそ、パトリック・ザラが掲げる選民思想を、ラクスは肯定することが出来ない。
    ナチュラルとコーディネイターを区分する必要など存在しない。

    だからこそ、三人は怯まなかった。

  • 42スレ主24/09/15(日) 04:18:02

    ハイマッハバーストとギロチンバーストをリジェネレイトへ────ではなく、
    それまで観衆のようにウィル達を俯瞰し、その撃墜を待っていたであろうジンやゲイツ
    ──ザフトのモビルスーツ部隊へと浴びせかけ殲滅あいた。これを目撃したアッシュの顔色が変わる。

    アッシュ「て、てめぇらぁ!?」
    ウィル「さっきから、邪魔……!」

    強かな逆撃を被った彼らとて、コーディネイターの中の特殊精鋭部隊である。
    しかし、そのような肩書も何の価値もない。彼らは為す術もなく、自身の部下達はおろか、
    彼らが大切そうに保管していたリジェネレイトの予備パーツすら破壊し尽くしてゆく。
    アッシュは激怒と共に何とか食い止めようとした。しかし巧みな連携を前になす術が無い。
    激しく動揺する彼であったが、その間に彼の注意から逸れていたアーウィン本体の急接近を許していた。
    両手に光刃を抜き放ちながら、視界の外からアッシュへと突撃する!

    アッシュ「──ちぃっ!」

    斬撃をかわし、大きく後退したリジェネレイトの機体は次の瞬間、ふいに陽炎のように揺らいで宇宙へ消えた。

    ──ミラージュコロイドステルス……!?

    その迷彩効果は、ニコルのブリッツでも確認された現象だ。なるほど、ザフトはやはり地球軍から奪取した
    ブリッツの特性を、ファーストステージシリーズの中ではリジェネレイトに反映させたということか。

    ──正攻法では勝てない。そういう判断か。

  • 43スレ主24/09/15(日) 14:29:24

    アッシュ「ハッハー!無尽蔵に再生するだけが、この機体の取り柄だと思ったかよ!?」

    一方的に部下達がやられている。

    ──ならば、こちらもまた一方的に攻撃してみせるまでだ! 

    アッシュは意図どおり、自身の姿を完全に闇に溶け込ませながら、ほとんど一方的に射撃を浴びせ続けた。
    しかし物体が移動する事で影響を受ける宇宙塵の動きを観測する事で間接的に敵を捉えるシステムを
    搭載したアーウィンならば、正確に位置を確認することなど容易。
    おまけに半ば一方的に掃射される火線に対し、その発射角から敵の予測空間を割り出すのは
    ウィルとキラにとって造作も無いこと。
    アーウィンがスマートボムを、フリーダムがクスィフィアス・レール砲を放つ。
    現在のリジェネレイトでは防ぐことは不可能だ。なぜならフェイズシフトと
    ミラージュコロイドステルスは性質上、同時併用することが叶わず、
    実弾を防ぎたい場合には必ずステルス機能をオフにしなければならない。

    アッシュ「──何ッ!?」

    思ったとおり、射線上にいたであろうリジェネレイトは即座にステルスを解除してフェイズシフトを展開、
    その巨大すぎる黒い機影を現わした。両腕で全身を抱え、放たれた質量弾頭を全て弾き飛ばすことに専念した。

  • 44スレ主24/09/15(日) 19:18:17

    予備パーツが撃滅され、再生力という最大のカードを封じられたアッシュには、
    もう二度と迂闊な被弾や損傷は許されない。
    巨大すぎる規格の機体。たしかにそれは素早さでカバーされ、巨大ゆえに敵に圧迫感を
    与えもするが、体積の広さから云えば、被弾率とて在来機の比ではないのだ。

    ウィル「種が分かれば大したことないな」

    動きが止まったことで、アーウィンに本体のバックパックを撃ち抜かれ、
    リジェネレイトは爆散するのだった。

  • 45二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 21:04:58

    保守

  • 46二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 09:00:47

    保守

  • 47スレ主24/09/16(月) 09:41:13

    リジェネレイトを撃退することに成功したウィル達は、ラクスが控えさせていたクライン派の友人ら、
    マーチン・ダコスタらの無事を確認するため、用意されていた新造艦[エターナル]に向かった。
    ウィル達はそこで、ダコスタと合流することができた。彼らの中では殆どの人員が無事だったようだが、
    特殊部隊に用いられた催涙ガスや重火器等の手痛い逆撃を被り、重症の者も中にはいた。
    ダコスタもまた負傷者のひとりであり、バズーカの衝撃に吹き飛ばされたのち、
    右腕を大きく火傷しているようだった。

    ダコスタ「ラクス様!?本当に良かった!」

    だが、みずから怪我などどこ吹く風と云った様子で、赤髪の彼はラクスへと真っ先に駆け寄ってきた。
    頭を地に付けるような勢いで、その頭をラクスに下げる。

    ダコスタ「申し訳ありませんでした!我々がついていながら、このようなことに……!」

    深々と謝られたラクスであるが、彼女もまた迂闊だったと反省を口にし、彼らには労いと
    相応の感謝を述べて返していた。元より、無理を承知で彼らを連れ出したのは彼女の方だったようでもある。

  • 48スレ主24/09/16(月) 09:41:53

    そうしてラクスとひと通りの会釈を済ませた後、ダコスタはその足をウィルとキラに向けた。
    先にラクスに見せたものと同様、心からの謝意を以て深々と頭を下げてくる。

    ダコスタ「本当に面目次第もなかった。君達には、感謝の念でいっぱいだ」
    キラ「えっと…」

    謝られたキラの方は困惑を露わにしたが、ラクスと違って、
    ウィルはこういうときに優しくなかった。

    ウィル「護衛なら、護衛の仕事くらいちゃんとしろ。なんで嗅ぎつけられたんだよ?」

    可愛げのない物言いであったが、ウィルとしては云わずにはいられなかった。下手すればラクスは殺されていた
    ──それを恩着せがましい物言いだと云わせない程度には、護衛を務めたダコスタ達は役に立たなかったからだ。
    男である以上、一度抱いた女には情が湧く。故に腹立たしかった。
    今、エターナルの医務室で、思い思いに傷を癒しているラクスの護衛達。俗に云うクライン派とやらが
    全体でどれほどの規模なのか、ステラは知らない。知らないが、仮にも正規軍を敵に回すのに
    モビルスーツ程度も用意できないのなら──ラクスにどれだけ可愛い顔で無茶なお願いをせがまれたとしても
    ──そもそも彼女を外出させるべきではなかったし、それでラクスが止まらないなら
    羽交い締めにしてでも止めさせるのが、本来の護衛の役割であるはずなのだ。

    ダコスタ「耳が痛いな」
    ウィル「次は防諜ぐらいはちゃんとしろよ」
    ダコスタ「次なんて、ない方がいいさ」
    キラ「それは、そうですね」

  • 49スレ主24/09/16(月) 09:42:37

    ダコスタから視線を外し、ウィルは真っ直ぐに、ラクスの方を見据えた。

    ウィル「……これから、どうする?」

    委ねるように、ラクスへと訊ねた。

    プラントの最高権力者の娘でありながら、敵対組織の人間を匿い、軍の新兵器を与えた。
    明確な背信行為としてザフトに一報されることになるだろう。

    ラクス「わたくし達はふたたび地下に潜って、多くの人に呼びかけます。
    この無益な戦争を止める術は、他にないのかと──」

    そうなのだ──ラクス・クラインは結局、直接的に戦う力など持たない。
    平和の歌姫として、彼女がやることはいつだって種を撒くことだ。思考の種──と云ってもいい。

    ──戦争において、何が善で、何が悪なのか?

    これを考えることを放棄した人間は、妄信に憑りつかれるままに、
    己と異なる信念を持つ者を滅ぼす道を選ぶだろう。それは実に一方的で、排他的な武断思想。
    ブルーコスモスやプラント過激派を見ていればよく分かるものでもある。

  • 50スレ主24/09/16(月) 09:43:10

    ラクス「今のプラントは最早、完全にパトリック・ザラの手の内にあります。──政策も、思想も」

    保守派のトップであったシーゲル・クラインが失脚した今、
    ザラ派のトップであるパトリックは必然的にプラントの独裁者となった。

    そうして彼の叫んだ『ナチュラル殲滅』の煽り文句のまま、アスランを筆頭とするザフトの義勇兵達
    ──ひいてはプラント国民すべてが思考放棄に陥れば、このさきプラントは破滅の道を突き進むことになるだろう。

    ラクス「あの人の言葉には、多大なる影響力があります。求心力があります。多くの兵は民は、
    盲目的に彼を信じ──彼の思想こそが己の思想と同じなのだと……楽な在り方を望みます。
    ですが、それではいけません。ひとりひとりが正義を考え、迷い、そうして歩んでゆかねばなりません」

    ラクスは、彼らに疑問を投げかける気でいる。本当にナチュラルを滅ぼすことだけが正義なのか
    ──人々が考えることを止めてしまう前に、世の中に訴えかけて行こうとしているのだ。しかし──

  • 51スレ主24/09/16(月) 09:47:09

    ウィル「馬鹿かテメー」


    ウィルはラクスdice1d3=2 (2)


    1.の両頬を思いっきり引っ張った

    2.の頭をハリセンで叩いた

    3の両のこめかみを拳で挟んでグリグリした

  • 52スレ主24/09/16(月) 17:17:14

    スパーン!と小気味よい音が響く。

    ラクス「痛いですわ」
    キラ「何処に持ってたのそのハリセン」

    クスがこれからやろうとしていることは、確かに良いことなのかもしれない。正しいことなのかも知れない。
    ──でも、それはあんまりにも遠すぎるお話だ。

    ウィル「何が間違ってて、何が正しいかなんて、分かる奴なっていない。
    ……だから、他人の言葉を聞く。他人に頼ろうとする。
    明かりも道標も無い中で歩き続けられるほど人は強くないからな。
    だからこそ、他の道を示してやらないといけない」

    だからこそ民衆は、パトリック・ザラの言葉を信じる。あるいは穏健派のトップであった、
    シーゲル・クラインの言葉を信じた。そして、その中には
    ラクス・クラインの言葉を借りる者も現われるはずだ。

    ただ批判するだけの虚しさを、人は知らなければならない。間違いを指摘するだけの愚かさを。

    ──間違いを喚き立てるのではなく、間違いに答えを示すこと。

    たとえそれが、正解でなくても良い。しかし、それを行うには、曲がりなりにも資格が必要だ。
    確固たる発言力を持った人間が発信しなければ、たとえどんなに正しい意見も意味を持たない。

  • 53スレ主24/09/16(月) 17:34:34

    ウィル「それがお前の役割なんじゃないのか?」
    ラクス「わたくしがシーゲル・クラインの娘である以上、わたくしの答えを口にすれば、
    それが正解だとおっしゃる方も現れます。それではきっと、意味がないのです」

    ラクスは、渋ったように続けた。

    ラクス「ですからわたくしは、誘導はいたしません。ただ種を蒔くだけです、
    後はひとりひとりが芽吹き、葉を育て、花を開かせる」
    ウィル「責任放棄だろ、最初ぐらいは誘導しろよ」
    ラクス「それは人身御供です。そういうものではありませんか?」

    ラクスは渋面で返す。

    彼女は、たとえ自分が居なくても人々が自発的に立ち上がる世界を見据えている。
    それは先を見据えたものであることは確かだが、しかし、同時にいささか遠すぎる話だ。

    ウィル「夢見すぎだバーカ。種は蒔くだけじゃ都合よく咲いちゃくれねぇよ。後は知らぬ存ぜぬなんざ──」
    ラクス「──残酷、と?」
    ウィル「成長に必要なものを与えることも、種を蒔いた奴の責任だからな」
    ラクス「……」
    ウィル「人を迷わせるだけの存在なんて、ただの疫病神だぞ」

    傍らのダコスタは、唖然としたという。あのラクス・クラインが、
    このときばかりは返す言葉を失っていたというのだから。

    ラクス「ではすこしだけ、貴方方に指示を出すことにしましょう」

    ラクスは、決して誘導はしない。他者に対して求めることをしない。
    だがウィルに云われ、初めて彼女は、みずからの意志を口に出すのだった。

  • 54スレ主24/09/16(月) 19:46:21

    地球軍。

    アラスカ地上本部。

    本部から僅か数キロ離れた海上沖ーー。

    マリュー「ウォンバット、てぇ!」
    「ミサイル、来ます!」
    「弾幕!回避!」

    アークエンジェルを筆頭とした守備隊は、迫り来るザフトの軍勢に対して、
    その数では大幅に劣りながらも何とか防衛網を構築し、迎え撃っていた。

    だがーー。

    「右舷フライトデッキ、被弾!オレーグ、轟沈!」
    マリュー「取り舵!オレーグの抜けた穴を埋める!ゴットフリート、てぇ!」
    「尚もディン接近!数6!」

    状況は悪くなる一方だ。マリューは奥歯を噛み締めながら、
    真綿で首を絞められていくような予感を振り払って指揮を続ける。
    だが、現実は非道だ。押し寄せるザフトの大群は数を増やすばかりで、こちらの援軍は姿すら現してくれない。

  • 55スレ主24/09/16(月) 19:46:37

    マリュー「グレーフレームは!?」
    「孤立した守備部隊の援護に!しかし、この陣容じゃ対抗し切れませんよ!」

    出撃したトールは、航行不能になった友軍艦や、
    戦闘継続困難となった船の護衛、そして孤立しつつある味方の援護に飛び回っている。
    ほかの戦闘機部隊も数を減らしつつあり、友軍艦の穴や綻びも目立ち始めていた。

    「くっそー!やられたもんだぜ司令部も!」

    そう毒づくオペレーターに、サイは震える声をなんとか押さえつけて、唯一の希望である援軍のことを聞いた。

    サイ「主力部隊は全部パナマなんですか!?」
    「ああ、そう言うことだね!こっちが全滅する前に、来てくれりゃぁいいけどな!」

    パナマが襲われると想定して、主力はすべて向こうだ。こちらの異変に気付き、戻ってきてくれればいいがーー。

    その僅かな希望に縋って、守備隊は決死の防衛戦を展開していたが、
    マリューは言い様のない不安と不信を募らせつつあった。

  • 56スレ主24/09/17(火) 05:39:28

    キラ「ウィル……」


    キラはフリーダムでアーウィンに掴まりながら、ウィルに問いかけた。


    ウィル「何?」

    キラ「さっきラクスと二人きりになってたよね、したの?」

    ウィル「時間なかったからdice1d10=9 (9) 発付き合ってもらった」


    不機嫌さを隠さないキラに、ウィルはサラッと答えた。


    ウィル「そもそも何で惚れられたのか分かんないんだよな。

    アイツの好みは[黙って俺に付いて来い]なリーダー気質のはずだ。

    俺みたいに[知るか、勝手にやってろ]みたいなのじゃなくてな」


    落ち着いたら自分もしてもらおうと思うキラであった。

  • 57スレ主24/09/17(火) 08:38:57

    「バリアント、1番2番沈黙!艦の損害率、30%を超えます!」
    「イエルマーク、ヤノスラフ、轟沈!」

    いよいよもって不味くなってきた。補給と整備すらままならないままのアークエンジェルは、
    対抗手段を徐々に失いつつあり、友軍艦のSOSも引っ切り無しに通信に流れてきている。

    マリュー「司令部とのコンタクトは?!」
    「取れません!どのチャンネルもずっと同じ電文が返って来るだけですよ
    !各自防衛線を維持しつつ、臨機応変に応戦せよ、って…」

    これほど粘っているというのにーーマリューは刻々と自分の嫌な予感に近づきつつある状況に、
    内心で舌打ちをしながら、どうするべきか打開策を頭の中で考えていく。
    ローエングリンで敵を薙ぎ払う?しかし、撃てばこちらにも負荷はかかる。
    そうなった時に攻め切れなかった敵に撃たれたらアウトだ。
    しかし、このまま防戦一方では結果は分かりきっている。

    ノイマン「既に、指揮系統が分断されています!艦長…これでは…」

    ノイマンからの苦しい声が響く。とにかく今は自艦を守り、
    防衛網を死守することしかできない。そんな中で、最悪の情報が飛び込んできた。

    「後方より敵機接近!敵の増援です!」

  • 58スレ主24/09/17(火) 08:39:17

    マリュー「ヘルダートをーー」

    マリューがミサイルでの応戦を指示しようとした時だった。
    アークエンジェルと敵機の間を、一機のモビルスーツが横切る。

    トール「うおおおあ!!やらせるかよぉおお!!」

    何とか友軍を安全域まで護衛したトールは、間一髪のところでアークエンジェルに戻ってくることができた。
    傷付いた友軍艦に、まるでアリのように群がるディンやグゥルに乗ったジン。
    それらをトールはたった一人で蹴散らし、追い払ったのだ。
    照準はディンならば羽、ジンならばグゥルに定める。コクピットを狙うよりも、空を飛ぶ手段さえ奪ってしまえば、
    相手は海に落ちるしかなくなるわけで。トールが撃ち抜いた敵のほとんどは海に落ちた。
    友軍艦が離脱したのを見送った時、上空で旋回するトールは、
    落ちた敵のモビルスーツに浮き輪を投げる地球軍兵士を見た。
    彼らもまた、こんなくだらない戦いを終わらせたいと願う仲間だ。
    背後から撃たれたとは言え、まだ地球軍には道徳心を忘れていない人たちがいる。
    それがわかれば、トールは味方を救う力が湧いてきた。

    トール「アークエンジェルはやらせない!!」

    トールは機体を立て直しては、ミサイルハッチを開けて再び突っ込んでいく。

    トール「このぉおお!!」

  • 59スレ主24/09/17(火) 16:26:05

    ボロボロになったジョシュアの格納庫で見つけたスピアヘッドに乗り込んだムウとナタルは、
    海上沖で戦闘を繰り広げるアークエンジェルを何とか捕捉することができた。

    ムウ「よっしゃぁ!まだ粘ってたな!こちらフラガ、
    アークエンジェル応答せよ!アークエンジェル応答せよ!くっそー!」
    ナタル「少佐!右翼から火が!」

    ナタルが怯えたように複座から叫び声を上げる。
    もともと被弾していたものを無理やり飛ばしているのだ。エンジンの調子もすこぶる悪い。

    ムウ「見りゃわかるよ!!」

    ムウは怒声を上げて返事をすると、不安的な出力に揺れるスピアヘッドを傾けて、
    アークエンジェルに近づいていく。

    サイ「友軍機接近!被弾している模様!」

    いち早く察知したサイが報告する。マリューもブリッジから外を見たが、
    今にも落ちそうなふらふらした飛行で飛んでくるスピアヘッドが見える。

    マリュー「着艦しようとしているの!?そんな無茶な…!」

    しかし、見捨てるわけにはいかない。マリューはすぐさまハンガーにいるマードックへ通信を回した。

    マリュー「整備班!どこかのバカが一機、突っ込んで来ようとしているわ!退避!」

  • 60スレ主24/09/17(火) 18:17:48

    わかってますよ!!とマードックは手動でアークエンジェルの格納庫を開けていく。
    ゲートを開け切った鼻先には、もうスピアヘッドが墜落しそうな勢いでこちらに突っ込んでくるのが見た。

    ムウ「どいててくれよ!皆さん!うおらぁ!」
    ナタル「しょ、少佐!!?む、無茶だあああああああああ!!?」

    いや、もはや墜落といっても差し支えのない強引な不時着。ナタルの甲高い悲鳴がコクピットに響き渡り、
    強靭なワイヤーで受け止められたスピアヘッドは、バブルキャノピーを割りながらも、何とか止まることができた。
    すぐにフレイがハシゴをかけてパイロットの様子を見に行ったがーー。

    フレイ「フ、フラガ少佐!?バジルール中尉も!!」

    驚くフレイが見たのは、しこたまコンソールに頭を打ち付けたムウと、
    気絶しそうになっているバジルールの姿があった。
    ムウはふらつくナタルをフレイと共に何とか下ろしてから、そのままブリッジへと直行する。時は一刻を争うのだ。

    ムウ「艦長!」
    マリュー「少佐!?バジルール中尉も!?あ、貴方たち一体何を!?転属は…?」

    突然入ってきたムウたちに、マリューは最近はあまり見せなくなった、心底驚いた顔を向けた。

    ムウ「そんなことはどうだっていい!それより、すぐに撤退だ!
    くそったれ!こいつはとんだ作戦だぜ!守備軍は、一体どういう命令受けてんだ!」

    ムウは怒りに満ちた声で、自分の見てきたものをマリューたちに伝える。

    ムウ「いいか!よく聞けよ!本部の地下に、サイクロプスが仕掛けられている!データを取ってきたが、
    こいつが作動したら、基地から半径10kmは溶鉱炉になるってサイズの代物だ!!」

    それは、マリューの想像を上回ったーー最低最悪な事態の始まりだった。

  • 61スレ主24/09/17(火) 21:34:03

    ムウ「この戦力では、防衛は不可能だ!パナマからの救援は間に合わない!やがて守備軍は全滅し、
    ゲートは突破され、本部は施設の破棄を兼ねて、サイクロプスを作動させる!」

    マリューは、ムウから聞いた内容に衝撃を受けたが、
    考えれば考えるほど、この無茶苦茶な戦闘状況と辻褄があうのだ。
    まるで当てにされてもいない。各員が臨機応変に防衛せよという、まるで他人事のような命令。

    それもそうだ。

    すでにアラスカを脱出した軍の高官からしたら、自分たちの戦いなど他人事に他ならないのだから。

    ムウ「それで、ザフトの戦力の大半を奪う気なんだよ!それがお偉いさんの書いた、この戦闘のシナリオだ!」

    くそったれが!命を何だと思ってやがる!!そうムウが吐き捨てた姿に、マリューは悲痛な目を向ける。

    ムウ「俺はこの目で見てきたんだ。司令本部は、もう蛻けの殻さ。残って戦ってるのは、
    ユーラシアの部隊と、アークエンジェルのように、あっちの都合で切り捨てられた奴等ばかりさ!」

    その言葉に、マリューは最後まで堰き止めていた何かが外れたような気がした。
    信用、軍としての機能、そして戦争を終わらせるために戦っている者達。
    アラスカを早々に逃げ出した彼らはーー軍に、必死に戦う若者達に、
    戦争を憂う軍人に向かって、唾を吐きかけ、捨て駒になれと言ったのだ。

    マリュー「どこまで…どこまで腐っているというの…!!」

    バン!!と艦長席の肘掛に拳を落とすマリュー。
    怒りを露わにするマリューに続くように、アークエンジェルの士官達も驚愕の声を上げた。

  • 62スレ主24/09/17(火) 21:35:38

    「俺達はここで捨て石になれと!?」
    ミリアリア「こ、こういうのが作戦なの…?戦争だから…私達が軍人だから
    …そう言われたら…そうやって終わらなきゃいけないの…?」
    サイ「ミリィ…」

    このままでは、自分たちは囮になって、ザフトを道連れにしてサイクロプスの火に焼かれるのを待つだけだ。

    果たして、それでいいのか?

    ハルバートン提督に託されて、ここまで戦ってきた自分たちの終わりが、そんな呆気ないものでいいのか?

    軍人としてーー利用されてーー殺されていいのか?

    トール『諦めるな!』

    暗い空気に苛まれていたアークエンジェルのブリッジに、トールの大きな声が響き渡った。

    ミリアリア「トール…!」

    ミリアリアがモニターを見ると、トールはまだ空中戦を繰り広げていた。
    ハイG旋回の負荷に歯を食いしばりながら、トールはアークエンジェルに向かって叫んだ。

    トール『ーーくっ!!キラや、ウィル……ボルドマン大尉は諦めなかった!!
    だから、俺は最後まで足掻く!!生きて!使命を果たすんだ!!』
    ジャック『そうですね、私達は軍人でありませんから命令に従う義務はありません。
    いえ、たとえ軍人であっても、こんな命令になど従えませんよ』

  • 63スレ主24/09/17(火) 21:36:07

    トールとジャックの言葉を聞いて、マリューは思い出した。

    そうだ。自分たちは託されたのだ。
    多くの者から何かを預けられて戦っている。
    使命を引き継いで、それを果たすために。

    ならば、今ここで自分ができる最善の行動とは?マリューは目を閉じると、
    傍に置いていた帽子を深くかぶって、大きく息を吸った。

    マリュー「ーーザフト軍を誘い込むのが、この戦闘の目的だと言うのなら、
    本艦は既に、その任を果たしたものと判断する!!」

    勇ましくそう言うマリューの姿に、ムウもナタルも、胡散臭い船長の姿がダブって見えた。

    マリュー「アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスの独断であり、乗員には、一切この判断に責任はない!!」

    彼女は覚悟したのだ。
    船を預かる者として。1軍人として。そして、戦争を終わらせることを願う者としての覚悟を。

    ナタル「ラミアス艦長…」

    声をかけたナタルに、マリューは振り返って笑みを向けた。

    マリュー「付いてきてくれるわよね?」

    その言葉に、ナタルもムウも、アークエンジェルクルー全員が敬礼で答えた。

    ナタル「当然」
    マリュー「では、本艦はこれより、現戦闘海域を放棄、離脱します!
    僚艦に打電!我ニ続ケ。機関全速、取り舵!!」

  • 64スレ主24/09/18(水) 05:18:11

    「キラねぇ!アークエンジェルの位置は!!」

    地球圏に到着したウィル達は、自分たちが降りるための適正コースを模索していた。
    アーウィンは単独で大気圏突入が可能だが、闇雲に大気圏に突っ込んでも、
    肝心のアークエンジェルがいない場所に行ってしまってはなんの意味もないのだ。

    キラ「位置アラスカ!適正コース!このままーーえ!?この反応は…!!」

    キラの驚いた声に、ウィルはどうしたと返事をすると、
    しばらくの沈黙のあとに、キラは焦った様子で計測した反応の正体を伝えた。

    キラ「戦闘中よ!!それも大部隊相手に!」

    その言葉を聞いて、ウィルの操縦桿を握る手に力が篭る。ド派手な帰還になりそうだ。

    ウィル「どうやら鉄火場に突っ込んでいくことになりそうだな!!」

    青く光る地球に向かって降りていくフリーダムとアーウィン。
    その途中で一機のシャトルとすれ違ったが、キラはそんなことも気づかずに通信先のラリーに頷いた。

    キラ「もとより覚悟の上よ!!」
    キラ「上等!!しっかり掴まってろ!!」

    その言葉を皮切りに、フリーダムを乗せたアーウィンは大気圏に突入し始め、
    機体を包むエネルギーフィールドが赤く染まり始めるのだった。

  • 65スレ主24/09/18(水) 11:16:36

    アークエンジェルを旗艦にした守備隊の脱出劇は困難を極めていた。
    持ち場を放棄したとはいえ、引き返せばザフトの追撃と、サイクロプスの熱が待っている。
    そのため、守備隊に残された脱出経路は、ザフト軍を正面突破し、安全圏に逃れることだ。
    だが、敵もそこまで甘く通してくれるはずもない。

    「10時の方向にモビルスーツ群!」
    「クーリク、自走不能!ドロ、轟沈!64から72ブロック閉鎖!艦稼働率、43%に低下!」

    揺れが収まらないアークエンジェルは、まさに風前の灯だった。
    アルコンガラ隊も必死で援護してくれているが多勢に無勢。
    守備隊も次々とザフトに襲われていく中で、
    エンジンに損傷を受けたアークエンジェルもまた、その翼を折られつつあった。

    カズィ「ううわぁぁもう駄目だぁぁ!!」
    「落ち着け!バカやろう!」

    あまりの恐怖に頭を抱えるカズイを、背中越しに座るオペレーターが一喝する。

  • 66スレ主24/09/18(水) 11:17:05

    ナタル「ウォンバット!てぇ!機関最大!振り切れぇ!!」
    トール『このぉおお!!』

    敵陣突破。その言葉しかない。トールもディンを筆頭とした攻撃隊と激戦を繰り広げながら、
    アークエンジェルの周辺から離れないように飛び回っている。

    しかし、限界は近づきつつあった。

    ノイマン「推力低下…艦の姿勢、維持できません!」

    ノイマンが必死に舵を操ろうとした時だった。

    一機のジンが、弾幕をくぐり抜けてアークエンジェルのブリッジに迫ったのだ。
    黒光りする銃口が向けられて、マリューは目を見開く。

    ナタルが何かを叫んで、ムウがインカムを外してこちらに駆けてくるのが見える。

    逃げ出そうとする者。

    死を覚悟する者。

    そして、それでもーーー

    こんなところでやられるわけには……!!

    マリューの中にその言葉が波紋のように広がったとき。

    空から閃光が走ってきた。

  • 67スレ主24/09/18(水) 11:17:41

    構えていたはずのライフルは熱で溶けて爆散して。

    気がついたらアークエンジェルのブリッジの前に、一機のモビルスーツがいた。

    ムウ「なんだ!あのモビルスーツは!?」

    青と黒を基調にし、大型の可変翼を持ったそのモビルスーツは、神々しく光を瞬かせながら、
    大空を舞うために、翼を広げてその場に存在を知らしめた。

    キラ『こちら、キラ・ヤマト!援護します!』

    そして、懐かしい声がアークエンジェルの艦内に響き渡ったのだった。

  • 68スレ主24/09/18(水) 14:54:10

    キラ『こちら、キラ・ヤマト!援護します!今のうちに退艦を!』
    マリュー「キラ…さん…?」

    アークエンジェルに届いた映像を見て、誰もが固まっていた。
    ブリッジの目の前に降り立ち、翼を広げてアークエンジェルを守ったそれに乗っていた人物が
    ーー紛れもなく、自分たちの知る人物であったから。

    ミリアリア「キラ…?」

    ミリアリアの戸惑うような声が響くと、サイが嬉しそうに目を細めた。間違いない。
    見間違えるわけがない。ザフトのノーマルスーツを着ているが、彼は間違いなく、自分たちが知る友人だ。

    サイ「キラだよ!」

    キラ!生きてたのかよ!こんちくしょう!とブリッジから喜びの声が上がると、
    クルー全員が沸き立つように喜び合う。

    キラはその様子を見て、ホッと胸を撫で下ろす。よかったーー今度は間に合った。そして、キラは前を向いた。

    まだ戦いは終わっていない。すぐ近くでは大気圏を突破してから別れたウィルが、
    孤軍奮闘するグレーフレームの援護に向かっていた。

  • 69スレ主24/09/18(水) 21:10:06

    戦闘を繰り広げるトールの目の前を、見覚えのある影が横切った。

    白と紫陽花色の装甲、二対四枚の両翼にスラスター、そしてスラスターから零れる緑色の光。
    その機体ーーアーウィンは、モビルスーツ形態に変形すると、折りたたまれていた翼を展開して、
    大気圏内用の飛行形態へと変形した。

    ウィル「トールだな!今のうちに早く離脱を!」

    トールは、コクピットに備わる通信モニターに映った人物を見て驚愕した。
    パイロットスーツはザフトのものであったが、その顔と目を見間違えることはない。

    トール「ウィル…?」

    死んだと思っていた相手が、いきなり現れた。それも見たこともないモビルスーツを連れて。

    ムウ「お前…ウィルか!?」

    キラの通信を受けて、まさかと思い、CICでの通信を使ってムウがアーウィンに通信を繋げる。
    見知った顔を見て、ウィルは安心したのか嬉しそうに笑った。

    ウィル「ムウさん!?良かった……無事だったんですね!!」
    ムウ「ばっかやろう!!そりゃあこっちのセリフだ!!心配かけやがって!!」
    トール「ウィル!!」

    三人はその再会を心から喜んでいた。特にムウは、目尻に涙まで浮かべてウィルの無事を喜ぶ。
    あんな簡単に死ぬやつではないと思ってはいたがーーまさかこうやって戻ってくるとは思いもしなかった。

  • 70スレ主24/09/18(水) 21:11:29

    すると、ウィルは戸惑うザフト機を牽制しながら、トールの方を見て問いかける。

    ウィル「トールか!!ボルトマン大尉も一緒か!?」

    そう問いかけるラリーに、トールは表情を曇らせる。

    トール「いや…ボルドマン大尉は…」

    暗く言葉を濁したトールに戸惑い、ウィルはムウの方を見たが、ムウも顔を悲痛に歪めて首を横に振った。
    そうかーーと、ウィルは顔を伏せて瞑目する。

    ウィル「トール」

    そして顔を上げて、トールに微笑みかけた。

    ウィル「よく頑張った。ここから先は任せろ」
    トール「…わかった!」

    トールは込み上げてくるものを必死に噛み殺して頷く。
    悲しむのはまだ後だ。今は、目の前の状況をどうにかするのが先だ。
    ウィルは機体を旋回させて改めて今の状況を精査し始めた。

    キラ「マリューさん!早く退艦を!」

    突然の二人との再会に呆気にとられていたマリューは、キラの声を聞いて冷静になるように自分を律し、
    今の状態を明確に伝えるために、思考を整理しながら口を開いた。

  • 71スレ主24/09/18(水) 21:12:00

    マリュー「ーー本部の地下に、サイクロプスがあって、私達は…囮にっ…!作戦なの!
    知らなかったのよ!だからここでは退艦出来ないわ!もっと基地から離れなくては!」
    ウィル「アークエンジェルの損害は!?外から見たら酷い有様だぞ!!」
    ジャック「状況は最悪だ!損傷がひどい!稼働率も40パーセントを切った!
    曳航できてもこのまま範囲外に逃げられるかどうか…!!」

    ウィルの言葉に答えたのは、再会に喜ぶ心を抑えていつもの声色に戻った、
    グレートフォックスの船長であるジャックだ。

    ムウ「守備隊には俺たちと同じように、切り捨てられた連中も多くいる!このまま見捨てるわけにも…」

    ムウが言うように、ここに残っているのは非主流派や、反ブルーコスモスの人間。
    サザーランドからしたら目障りな捨て駒でしかない人員ばかりだ。
    仮にアークエンジェルだけ逃げ切れたとしても、足が遅い彼らは間違いなくサイクロプスに巻き込まれるだろう。

  • 72スレ主24/09/18(水) 21:12:35

    ウィルは少し思考を巡らせてから言葉を紡ぐ。

    ウィル「ムウさん!そのサイクロプス、データは取ってきたんですか?!」
    ムウ「あ、あぁ!概略図だが、規模を測定するための配置データならある!」
    ウィル「制御ユニットはそこから割り出せますね!?敵の情報は!!」
    ムウ「メインゲートに取り付かれたところだ!突入されるまでもう時間は!ーーまさか!?」

    ムウの驚いた声と、マリューの「えっ」という間の抜けた声が通信機越しに聞こえてくる。
    地球に降りてきて早々だが、この危機的状況を打開するにはこれしかない。

    ウィル「逃げられないなら、止めるまでだ!!」

    ウィルはなんと、アラスカ本部に突入してサイクロプスを止めようと提案したのだ。

    ナタル「むーー無茶だ!?状況から見て、起爆スイッチを握ってるのは
    アラスカ本部の上層部の人間……いつ作動するかもわからないのに!」
    ウィル「なら、ここで諦めるか?!」

    悲観的なナタルの言葉に、ウィルは一喝する。

  • 73スレ主24/09/19(木) 04:43:15

    ここで諦めて、逃げられるかわからない道を進むか、
    それとも、諦めず足掻き全員が助かる道を選ぶか。まだザフトの主力は、アラスカのゲートで止まっている。
    姑息な連中のことだ。半分以上が誘い込まれない限り、サイクロプスは起動しないだろう。
    つまり、チャンスは今しかない。

    ウィル「俺はゴメンだ!!もうたくさんだ!!だから戻ってきたんだ!!」

    ウィルはそう叫ぶと、ザフト機を蹴散らしてアーウィンを旋回させる。
    アラスカ本部を行き先に定めた。今は議論してる時間すら惜しい。

    ウィル「俺はアラスカ本部へ!隊長は持ち込んだデータ解析を!!
    トールとキラはアークエンジェルの援護!!アーウィンなら間に合わせられる!!」
    キラ「了解……って、トール!?」

    キラがフリーダムを舞いあがらせようとした最中、トールが引き止める間も無く脇を抜け、
    飛び出していったウィルの機体に追従していく。

    トール「俺も行く!!この機体ならついていける!!それだけ広大な装置なら、二手に分かれた方がいい!!」
    ウィル「よぉし!落ちるなよ!!マリューさんとジャックは脱出した守備隊の救助を!!」

    それだけ言い残して、ウィルは追従するトールと共にアラスカ本部へと機体を飛ばしていくのだった。

  • 74スレ主24/09/19(木) 10:35:03

    キラ『ザフト、連合、両軍に伝えます!アラスカ基地は、間もなくサイクロプスを作動させ、自爆します!』

    ウィルたちを背に、キラはフリーダムの翼を展開すると、すぐにマルチロックシステムを起動させる。
    ハイマットモードになったフリーダムは、四つの武器を展開するや、閃光を走らせてザフトの
    モビルスーツの武器や腕を破壊し、戦闘力を奪い取っていく。

    キラ『両軍とも、直ちに戦闘を停止し、撤退して下さい!繰り返します!アラスカ基地は
    間もなくサイクロプスを作動させ、自爆します!両軍とも直ちに戦闘を停止し、撤退して下さい!!』

    広域放送で呼びかけながら、キラはフリーダムを舞いあがらせた。
    その声はアークエンジェル艦内にも響き渡る。

    フレイ「この声は…!」

    ハンガーでトールの帰りを祈っていたフレイが、顔を上げた。この声は間違いなくキラだ。となるとーー

    クララ「アラスカに飛んでいった機体ーーまさか」

    クララは胸を高鳴らせる。
    どうか、どうか、自分の描いた思いが本当であるように願う。フレイはキラが生きていたことに喜び、
    今まで聞いたこともない黄色い声を上げている。

  • 75スレ主24/09/19(木) 10:35:20

    そんなアークエンジェルのブリッジで、敵の戦闘力を奪う戦いをするフリーダムを
    見つめながら、マリューはその背中に見とれていた。

    マリュー「キラさん…」

    彼女は一体、どこで何を見て、あの戦い方と力を手に入れたのか。
    淀みも迷いもないキラの声に、マリューは心に浮かんだ疑問に揺れるばかりだった。

    『下手な脅しを!!』

    そんなフリーダムに、ディンが迫る。キラはすぐにフリーダムを反転させて、ディンと相対した。

    『このおおお!!訳の分からないことをおお!!』
    キラ『止めろと言ったろ!死にたいのか!』

    接触回線で、自分と変わらない若い声がディンのコクピットに響くや否や、フリーダムはディンの
    ライフルを弾き飛ばした。フリーダムは即座に宙返りでショットガンを躱し、
    ビームサーベルを抜き放って無防備になったディンへ迫った。

    『なにぃ!?ううわぁぁ!!』

    フリーダムのビーム刃は本体を斬らず、翼を切り落した。
    墜落していくディンを、フリーダムは後方にいる二機のディンの元へと蹴り飛ばした。

  • 76スレ主24/09/19(木) 18:55:31

    ズタズタになった守備隊の防衛網を抜けた、シグーとジンで構成されたデルタ隊は、
    アラスカ基地の代名詞とも言える地下都市[グランド・ホロー]に続くゲートを確保しつつあった。

    『こちらデルタ隊!たった今ゲートを突破した!これより内部へ侵攻をーー』

    隊長機であるは、後方の司令部に通信を飛ばしていると、
    今まで適切な経路を指示していたオペレーターが何かを感知したようだった。

    『待て、デルタ隊。後方より熱源二つーーこれは、戦闘機とモビルスーツか?速いぞ』
    『ああ?外の守備隊は全員が降伏した筈だが…』

    後方の部下が肩をすくめてそう答える。

    確かに、指令系統も崩壊した外の戦車隊などの多数が白旗を上げたことで、
    デルタ隊は欠員を出すことなくここに辿り着けた訳だが、そんな後方から敵機が来ているだと?

  • 77二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 20:15:23

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  • 78スレ主24/09/19(木) 20:16:02

    『地球軍の戦闘機とーーあれはなんだ!?』

    振り返ると、グランド・ホローに続く狭い通路トンネルの中を、大型戦闘機と
    灰色のモビルスーツ。がこちらめがけて突っ込んできていたのだ。

    ウィル『聞こえるかザフト兵!!アラスカ本部に突入するな!
    この基地の下にはサイクロプスが仕掛けられてる!!』
    『なにぃ!?』
    『でまかせを!』

    部下たちが噛み付くようにそう言うが、広域通信で喋りかけてきた相手は気に留める様子もなく、
    シグーとジンの頭上を飛び越えていく。

    ウィル『ただちに戦闘を中止して離脱しろ!アラスカ基地はすでに地球軍にとっては
    戦略的価値なんて残っていない!いいか!!離脱するんだぞ!!』

    部下のジンがライフルを構えたが、2機は鋭く旋回するとメインゲート脇にある
    封鎖された通路トンネルへミサイルやビーム兵器を打ち込み、空いた隙間から飛び込んでいった。
    それも目にも留まらぬ速度で。

    『は、速い!捉えられない……!!』
    『奴ら、あんな狭いトンネルに突っ込んでいったぞ!!追うか!?』

    やけに好戦的な部下に、隊長は叱咤を飛ばす。こちらの任務はあくまでグランド・ホローの制圧だ。それにーー。

    『バカ言え!あんな狭いところで、あの速度で飛べるわけないだろ!?俺だったら1分も保たない!!』

    見る限り、モビルスーツが一機通れるかどうかの狭さだ。そんなところに高速域で突入などすれば、
    いくらモビルスーツとは言え一溜まりもあるまい。
    そう答えたもう一人の部下の言葉に、隊長はただ頷くだけだった。

  • 79スレ主24/09/20(金) 05:38:43

    ジャック『概算だが、ザフト勢力のグランド・ホローへの侵攻率をHUDに表示した』

    ジャックの言葉に続くように、ウィルとトールが目にするディスプレイに、新しいゲージが追加される。
    すでに5パーセントと表示されているゲージが、サイクロプス起動までのカウントダウンだ。

    ジャック『この侵攻率が50パーセントを越えるまでに発動機を最低5箇所、破壊してくれ!』

    トールは機体を維持しながら、なんとかトンネル内を突き進んでいる。ウィルが提供してくれた
    閉所の飛行訓練などをシミュレーションでは行なっていたが、実際にやってみれば感覚が大違いだ。

    長く続く通路上で街灯や表示板を避けながら、二人はトンネルを突き進んでいく。

    ジャック『一つ目がもう近くに迫ってきている。発動機と言っても巨大な蓄電池の様なものだ。
    破壊すれば膨大な電力が放出されるため、機体の電子機器になんらかの影響が及ぶ可能性がある。
    その時は機器ではなく、目視に頼って飛行してくれ』

  • 80スレ主24/09/20(金) 13:38:42

    「本当にサイクロプスが地下にあるのか!?」

    地下施設の防衛をする戦車隊は、通信を聞いていた若い士官の言葉に驚きを隠せないでいた。

    「あぁ、俺たちは見たんだ!ここに残されたのは、主流派じゃない奴らばかりだし」

    キラの通信を聞いた士官は、確認のために最寄りの指令詰所に向かってみたが、中はもぬけの殻で、
    すでにサイクロプスの遠隔起爆のシークエンスが開始されていることに気がついたのだ。

    「くっそー!サザーランドの奴め!地上にいる邪魔者を餌にしてザフトを葬るつもりかよ!」

    隊のメンバーが怒りをあらわにして、停止している戦車の履帯を蹴り上げる。

    ここには、前線の防衛で傷ついた負傷兵も運び込まれているというのに、その全てがザフトを
    おびき寄せるための餌でしかないとは
    ーー上層部の連中は、どうやら自分たちの命など微塵も興味がないのだろう。

  • 81スレ主24/09/20(金) 18:00:52

    「だが、アークエンジェルの凶鳥がいる!彼らが今、
    この地下でサイクロプスを止めるために飛んでいるんだ!!」

    通信を聞いていた士官には希望があった。なんと、
    噂に名高い凶鳥がサイクロプスを止めるために、こちらに来ていると言うのだ。

    「はぁ!?嘘だろ、ここは地下だぞ!?」
    「ああ、しかもグランド・ホロー外周の、物資搬入トンネルの中を飛んでるらしい」

    その情報を聞いて、隊のメンバーは更に目を剥いて驚いた。

    「正気か!?あんなところ、飛ぶようなスペースがあるのか!?」

    搬入トンネルとはいえ、あそこは陸路からの物資を配達するための通路でしかない。
    あるのは整備された舗装道路を通すためのトンネルくらいだ。

    そんな中を戦闘機並みの速さでで飛んでいるだと?それを想像しても、正気とは思えなかった。

    そんな中で、戦車隊の隊長はある決断を下す。

    「信じられないが、彼らが飛んでいるなら、我々にもやれることをやるしかない!」

  • 82スレ主24/09/20(金) 19:51:50

    しばらくして、グランド・ホローに侵入してきたザフトのモビルスーツは、
    背に備わるスラスターを吹かしながら都市部へと降下してきた。
    よし、前進と、戦車隊が建物の陰からモビルスーツ部隊の前へと姿を現して行く。
    何機かのジンが戦車隊に銃口を向けたが、隊長機であるシグーが手を上げてそれを制した。
    出てきた戦車隊の全てが白旗を掲げていたのだ。

    『侵入したザフト軍!直ちに引き返せ!!ここにはサイクロプスがある!!
    溶鉱炉に飛び込んでるようなもんだぞ!!』

    隊長はハッチから身を乗り出すと、戦車に備わる拡声器を使ってザフトのモビルスーツ部隊に呼びかけた。

    『ちぃ!!でまかせを言ってるだけだろ!?』

    そう接触回線で話すザフト兵たちだが、デルタ隊のメンバーが、
    ざわざわと自分たちの置かれている状況の不味さを理解し始めていた。

    『しかし、彼らの教えてくれている情報ーー搬入トンネルに飛び込んでいった
    凶鳥の言ってたこと…辻褄は合います!』
    『だが、敵拠点の中心部だぞ?!』

    そう言う部下たちに、隊長は自分が今まで感じてきた違和感を伝える。確かに、
    敵の守りも手薄で、統率も取れていない。
    地球軍最大の地上拠点だと言うのに、ここまで来るのに何ら苦労はなかった。
    確かに、我々には誘い込まれたようにも思える。

    『くそ!味方すらも囮にしてーーナチュラルどもめ…なんて作戦を立てやがる!!』

    ダンっとコクピットに手を打つジンのパイロット。彼が見たのは、
    安全を確保した戦車隊の兵士たちが建物の中から負傷兵を運び出している姿だった。

  • 83スレ主24/09/20(金) 21:19:46

    狭いトンネルを飛び抜けるアーウィン。掠りそうになる機体をなんとか維持しながら、
    ウィルは目的の場所を目指していた。

    ウィル「トール!!遅れるなよ!」
    トール「言われなくとも!!」

    反対側から突っ込んでいるトールも、ウィルと同じように経路を進んでいた。
    すると、長く続いた細いトンネルの一部が開けた場所へと飛び出た。

    ウィル「見つけた!!一つ目の発動機!!」

    外周部の壁に埋まる発動機を確認すると、二人はそれぞれに備わった兵装を展開して、発動機に狙いを定める。

    ジャック『破壊しろ!だが、破壊後の電波障害には留意しろ!』

    アーウィンのチャージショットと、グレーフレームのガルーダストライカーに
    備えられたミサイルが火を吹き、その火線は真っ直ぐと発動機を捉えた。

    ウィル「よぉし!直撃だ!」

    ほぼ中心を撃ち抜いた攻撃により、発動機は火を噴く。そして内包された電力が行き場を失い、
    ひらけたトンネル内に凄まじい電力が放出されていく。さながら、雷をその身に受けたような衝撃だ。

  • 84スレ主24/09/20(金) 21:20:06

    トール「う、うわぁああ!?ディスプレイが!!」

    放電を受けて機体は傾き、復帰してもディスプレイの表示がまるで砂嵐のようになっている。
    戸惑うトールにウィルは声を発した。

    ウィル「落ち着け!前をよく見ろ!機器に頼らず目で飛ぶんだ!」
    トール「りょ、了解!!」

    コックピットハッチを開き、トールは機体を飛ばした。ウィルのアーウィンも、
    少なからず影響を受けており、モニターに視界を頼るコクピットは、時折映像が乱れていたが、
    ウィルは映像から距離感を頭にインプットし、機体を狭いトンネルへと突っ込んでいく。

    ジャック『侵攻率が20パーセントを超えた!残り6つ!!目標の破壊を急いでくれ!!』

    ジャックの焦る声に了解と返して、二人は更に奥地へと進んでいく。
    サイクロプス起動までの、残された時間は僅かだ。

  • 85スレ主24/09/21(土) 08:01:00

    誰がやり始めたのか。

    いつの間にか、グランド・ホローに侵入していたザフト兵たちは、
    負傷した地球軍の兵士たちの脱出の手伝いをしていた。

    『とにかく乗せられるだけ乗せろ!グランド・ホローから脱出するんだ!!』

    どこかから持ってきた大型搬送車の荷台に、負傷兵を詰め込むだけ詰め込んで、
    ジンがそれを両手で抱えてグゥルに乗り込むと、グランド・ホローの外へと飛び立っていく。

    『無理だ!!今から出てもサイクロプスの効果範囲からは逃げられない!!』

    負傷兵の誰かがそう言ったが、シグーに乗る隊長はそんな泣き言を拡声器で一喝した。

    『黙っていろ、ナチュラル!!俺たちは諦めない!!
    こんなところで死んでたまるか!!俺には故郷に残ってる家族がいるんだ!!』

    家族を残して自分はここにいる。こんなところで死ぬ気など、隊長には更々無かった。

  • 86スレ主24/09/21(土) 08:01:30

    負傷兵の救助のためにジンから降りていた部下が、白旗を上げている戦車隊の兵士にふと言葉をこぼした。

    『血のバレンタインーー俺はあの日に、恋人を亡くした。正直に言えば…お前たちを憎んでるが…』
    『それを言うなら、俺やこいつも、エイプリルフールクライシスで家族を亡くしたんだ』

    お互い、知らないところで傷ついている。知らないところで癒えない傷を抱えて、
    この戦争に加わっているのだ。三人がそれぞれ目を合わせていると、ザフト兵が疲れたようにため息をついた。

    『よそう。俺たちが辞めない限り、こんなことが続くんだ。くそっ!胸糞悪いぜ!!』

    とにかく、今はここから逃げることが先決だと、ザフト兵はジンに乗り込むと、
    満載になった負傷兵の搬送車を持ち上げて、グランド・ホローから後退していく。

    『怪我人から順に搬送しろ!大丈夫だ!凶鳥がやってくれる!!』

    そう言って現場の指揮をする戦車隊の隊長は、心の中で願った。
    神よ。もしこの世界に貴方がいるのなら、どうか。どうか。我らに時間をお与えください。

  • 87スレ主24/09/21(土) 16:10:35

    ジャック『残り目標2!破壊確認!侵攻率、40パーセント!!』

    互いが二つ目、計4つを破壊したウィルたちは、電子機器を狂わせながらも更に奥へと機体を飛ばしていく。

    ウィル「飛ばせ飛ばせ!!ここで死のうが、間に合わなければ全員死ぬぞ!!」

    ウィルの言葉を受けて、トールも更に速度を上げていく。ここで間に合わなければ、自分たちだけではない。
    アークエンジェルやグレートフォックス、取り残された守備隊も全滅する。

    この瞬間、この時に、彼らの全てが懸かっている。

    トール「うおりゃああああああ!!」

    急げ。

    急げ急げ急げ!

    逸る気持ちをグッとこらえて、トールは正確な操縦でトンネルの中を飛行していく。
    最後の目標まで、あと少しだ。

  • 88スレ主24/09/21(土) 23:08:55

    パナマの暗い司令船の中で、ウィリアム・サザーランドはザフトの
    動向を見つめながら、卑しい笑みを浮かべていた。

    そうだ。集まってこい。宇宙の野蛮人たちめ。

    そちらが必死に制圧しようとしているそこなど、もはや何の戦略的価値はない。
    残してきたのは、サザーランドが厄介だと思っていたハルバートン側の将官たちだけだ。
    彼らを葬れれば、地上から宇宙にシフトしていくであろう戦いを、
    自分の手の中で操ることができる。戦争が終われば、権力は思うがままだ。

    「そろそろですな、よろしいですか?」

    ザフトの侵攻具合が半分に達しようとしている頃合いで、サザーランドは各上層部の人間たちに目配せをした。
    彼らもサザーランドと同じように、サイクロプスの起爆キーを手に持っている。

    サザーランド「この犠牲により、戦争が早期終結へ向かわんことを切に願う」

    そして、自分にとっての輝かしい未来へのスタートを。

  • 89スレ主24/09/22(日) 08:25:28

    もう限界だ!と泣きそうな声を出すトールに、ウィルは落ち着けと怒声を発する。

    ジャック『侵攻率、48パーセント!!』

    ギリギリ首の皮だ。いつ足元からサイクロプスが発動するかもわからない。
    けれど、ここで諦めたら全てが終わる。

    まだ動いている。まだ飛べている。

    まだ生きている。

    だから、ウィルは足掻くと決めた。

    これから先を、少しでもマシにするために。

    ウィル「目標確認!!見つけた!!」

    トールも同タイミングで最後の発動機を捕捉している。

    トール「ターゲット、ロック!!」

    目標の射程距離まであと少しだーー!!

    遠くでは、サザーランドたちが起爆キーをスイッチに挿入していく。

    サザーランド「蒼き清浄なる世界の為に」

    ターゲットアイコンが赤へと切り替わった。ウィルとトールが同タイミングでビームを放った。

    ウィル「当たれええええ!!」

  • 90スレ主24/09/22(日) 17:12:33

    「3、2、1………」

    パナマのオペレーターのカウントがゼロになった。全員がモニターを注視する。
    サザーランドはニヤリとほくそ笑んだ。

    だがーーー。

    ジャック『最終目標、破壊確認!!発動機の電力不足で、
    サイクロプスの出力は足りていないぞ!!繰り返す!サイクロプスは不発だ!!』

    間に合った。ウィルとトールは深く息を吐いて、コクピットシートに体を埋める。
    しかし、まだ油断はできない。残り二つの発動機には、起爆シークエンスが入っているのだ。

    ウィル「残り一つも破壊するぞ!トール!!」
    トール「わかった!!」

    二人は機体をグンと加速させると、最後のエリアにあった発動機も完全に破壊したのだった。

    「な、なぜだ?サイクロプスが……」
    「そんな、バカな!!」

    サザーランドは不発に終わったサイクロプスを見て、司令を下すテーブルに拳を叩きつけた。

    なんということだ。どこまでも忌々しいコーディネーターどもめ。どんな手段を使ったかわからないが、
    そちらがサイクロプスを食い止めたというならばーーーこちらにも奥の手はある。

    サザーランド「すぐにミサイル艦を呼び出せ!!」

    サザーランドはその時、後の彼の命運を大きく分ける、悪魔の決断を下したのだった。

  • 91スレ主24/09/22(日) 21:04:47

    『やった!!やったぞ!!サイクロプスが止まった!!メビウスライダー隊がやったんだ!!』

    グランド・ホローが沸き立つ中、ジャックとムウは、
    まだモニターの中でトンネルを飛行するラリーたちに意識を集中していた。

    ジャック『いや、喜ぶのは早い!!ウィル!!もう少しでブレイクポイントだ!!
    ウィル!トール!!聞こえるか!?』

    そう声をかけるが、返ってくるのは発動機からの放電影響を受けた雑音だけだ。
    それはウィルとトールも同じであり、お互いの通信をする手段が、最後の最後で失われてしまっていたのだ。

    ウィル「くそ!電子障害で通信機もダメか!!トール!!ちゃんと避けろよ!!」
    トール「ウィル!!どうか避けてくれよ!!」

    二人が交差するポイントはすぐそこだ。それまでに通信の回復は間に合わない。
    ウィルとトールは真っ直ぐに前を見据えてトンネルを突き進んでいく。

    ジャック『交差する!!3、2、1ーーー!!!』

    互いが迫ったのは、ほんの一瞬だった。
    グレーフレームの頭上すれすれを、ウィルのアーウィンがクリアしていくーー。

    その瞬間は、世界の全てが止まっているかのように思えた。

  • 92スレ主24/09/22(日) 21:52:13

    トール「イィイイヤッホォオオオウ!!!!」

    トールが歓声を上げて二人はついにすれ違った。
    一つになり、離れていく反応を見て、今度こそジャックとムウたちは歓声を上げたのだった。

    ムウ『やったぁ!!』
    ジャック『ふぅーー…見事だ、二人共』

    搬入トンネルを飛び出した二人を待っていたのは、負傷兵を運んでいるザフトのモビルスーツ隊だった。

    『ホントだ!!本当にやりやがったぞ、あの大馬鹿野郎ども!!』
    『あんな狭いところに平然と入っていけるなんて…なんて技量だ』

    地球軍の兵士も、ザフトの兵士も、それぞれの立場を忘れたかのように、
    偉業を成し遂げたウィルとトールに賞賛を浴びせていく。

    『信じられねぇ…これが凶鳥…』
    『なぁお前ら、こんな狡い手を使う地球軍なんか辞めてザフトに来ないか?歓迎するぜ!!』

    軽口すら叩くザフトのパイロットたちや、ウィルたちに口笛を吹いて賞賛する負傷兵たち。
    そこにはもはや、敵と味方という垣根など存在しなかった。
    全員の脱出を確認した地球軍の将官が、広域通信で地球、ザフトそれぞれに宣言をした。

    『アラスカ基地は放棄!地球軍、ならびにザフト軍も戦闘停止!速やかに撤退だ!!』
    『ここは奴らに免じて戦いはやめだ!』
    『いつか会えたら、一杯奢らせてくれ!!』

    鳴り止まない歓声の中で、ザフトと地球軍に囲まれた二人は、
    アークエンジェルとグレートフォックスが待つアラスカ沖へ、ゆっくりと飛んでいく。
    だが、戦いはまだ終わっていなかった。

  • 93スレ主24/09/23(月) 09:03:42

    サイ「全軍、撤退を開始ーーーいや、待って下さい。これは…?パナマより、複数の飛翔体を確認!!」

    負傷兵やザフトのモビルスーツを受け入れるアークエンジェル。
    そのブリッジで異変を察知したサイが、搬入作業を見守るマリューへ声を荒げて報告した。

    マリュー「なんですって!?」
    サイ「この速度……弾道ミサイル!!」
    ウィル『モルガンか!!』

    周辺警戒も兼ねてアークエンジェルの外を飛んでいたアーウィンから、
    ウィルが顔を強張らせて、打ち上げられたミサイルの正体を見抜く。

    ムウ「モルガンってーーまさかあのミサイルか!?」

    ムウが驚愕の声を上げる中、いち早くミサイルへ向かって飛び上がったのは、キラのフリーダムだった。

    マリュー「キラさん!?」
    キラ『くっそーー!もうやめろー!!そこまでして、敵を滅ぼしたいのかーー!!』
    ウィル『トール!!まだ行けるな!?あのミサイルを落とすぞ!!』
    トール『了解!!あのミサイルはボルドマン大尉の仇だ!!』

    フリーダムに続いて、アーウィン、グレーフレームもモルガンの迎撃に向かう。
    補給と応急修理を得たアルコンガラ面々も後に続く。
    マリューはすぐに広域通信を開いた。

    マリュー『撤退中の全部隊に告げます!!パナマ方面から放たれたミサイルは、強力な対地ミサイルです!!
    直撃したら、島の形が変わるほどの威力を有してます!!迎撃可能な隊はミサイルの撃破を!!繰り返します!!』

  • 94スレ主24/09/23(月) 09:04:22

    その声を聞いた、補給を受けていたイザークたちのディン。
    彼らもこの戦いに参加していたのだ。

    イザーク『あのミサイル…!!』

    その威力を肌で感じていた三人は、コクピットに滑り込んで、大空へと舞い上がっていく。

    『撃ち落とせー!!』

    誰かの号令が。ザフト軍と地球軍の艦船からハリネズミのような迎撃砲が、
    飛来してくるモルガンの群れへと放たれていく。

    『くそー!!サイクロプスを止めたと思ったのに!!』
    『パナマにいる奴らは、どうあっても俺たちを消したいようだぜ!!』

    アルコンガラや、イザークたちの奮戦のおかげか、空には大きな青白い玉がいくつも浮かび上がったが、
    撃ち漏らしたミサイルが次々とアラスカへ着弾していき、土地の形を大きく変えていくのが見えた。

    『とにかく撃て!!残弾全部吐き出せ!!撃ち落とせ!!銃身が焼き付いても構わん!!』
    『対空ミサイル!!斉射〝サルボー〟!』
    『ザフトも地球軍も関係ない!今は生き残ることだけを考えろ!!』
    『撃て撃て撃て!!』

  • 95スレ主24/09/23(月) 09:04:36

    海上に集結していた二つの軍勢は一致団結して、ミサイルの迎撃に全神経を集中させていく。
    各艦では、負傷兵の受け入れが急ピッチで進められていた。

    『撤退だ!!急げ!!』
    『急げ急げ急げ!!』

    そんな中、1発のミサイルはアラスカ基地のほぼ中心点に着弾。
    それはモルガンの威力を表した揺れから、さらなる大きな揺れへと変貌していく。

    「アラスカ基地に直撃!!これは…うわぁ!!」

    大規模な熱量を観測したオペレーターのデータを見て、マリューは戦慄した。
    モルガンが直撃したのはーー地上最大規模の地球軍拠点が誇るーー巨大な武器庫だ。

    マリュー「基地の武器庫に打ち込んだのか!?総員!対ショック姿勢!!」

    そう叫んだ瞬間、二つの勢力は大きな揺れに襲われーーーアラスカには巨大な爆発の煙が空高く上がるのだった。

  • 96スレ主24/09/23(月) 15:49:57

    1.完全に修理できた。

    2.中破だったので修理を兼ねたアップグレードを施した。

    3.M1アストレイのパーツを継ぎ足して間に合わせた。

    4.大破だったので修理不可。


    キラのストライクdice1d4=1 (1)

    イージスdice1d4=3 (3)

    デュエルdice1d4=3 (3)

    バスターdice1d4=1 (1)

    ブリッツdice1d4=1 (1)

  • 97スレ主24/09/23(月) 20:44:16

    「何をしている!ジブラルタルからも応援を出させろ!」
    「無人偵察機じゃ駄目だ。今欲しいのは詳細な報告なんだよ!」
    「そんな話は聞いてないぞ!どこからの情報だ、それは!」

    地球からプラントの作戦本部に戻ってきたアスランは、
    錯綜する情報に混乱するザフトの将校たちを目にしながら、自分が目指す目的地に向かって歩みを進めていた。

    アスラン「失礼します!」

    たどり着いた場所は、プラント最高評議会の議長に就任した人間が座する議長専用の執務室だ。
    中に入ると、父であるパトリック・ザラを中心に、ザフトの上層部の人間がずらりと顔を揃えているのが見える。

    パトリック「ハァ…ともかく、残存の部隊をカーペンタリアに急がせろ!」
    「は!」
    パトリック「浮き足立つな!欲しいのは冷静且つ客観的な報告だ!クライン等の行方は!」

    議長の鋭い言葉に反応して、控えていた側近が頭を下げて報告する。

    「まだです。かなり周到にルートを作っていたようで。思ったより時間が掛かるかも知れません」
    パトリック「……司法局を動かせ。カナーバ等、クラインと親交の深かった議員は全て拘束だ」
    「し、しかし…ザラ議長閣下…」
    パトリック「スパイを手引きしたラクス・クライン!
    共に逃亡し行方の解らぬその父!漏洩していたスピットブレイクの攻撃目標!」

    バンッと机を叩いて怒声を上げる議長の様子は、明らかに冷静さを欠いていた。
    ここに来るまでに聞いたオペレーション・スピットブレイクの出来事。
    目標をパナマに定めていたのを急遽、アラスカに変更したザフトの電撃的な作戦だったが、
    地球軍はあろうことか、アラスカ本部でサイクロプスを起動させる暴挙に出ようとした。
    しかし、間一髪のところで地球軍側の凶鳥がサイクロプスを停止させ、
    難を逃れたというがーーー例のミサイルのせいで状況が掴めなくなってしまっているのだ。

  • 98スレ主24/09/23(月) 20:45:15

    パトリック「何よりも、スピットブレイクの目標がバレ、あまつさえもサイクロプスなどという
    非道な兵器を持って待ち構えていた地球軍!それが不味いのだ!アラスカが攻撃目標だったと、
    どこから情報が漏れたかわかるか!?子供でも解る簡単な図式だぞ!あのクラインが裏切り者なのだ!」

    父であるパトリック・ザラの怒りは収まらず、顔を上げて報告した側近たちを睨みつけるように低い声で唸る。

    パトリック「なのにこの私を追求しようとでも言うのか、カナーバ等は!!
    奴等の方こそ!いや、奴等こそが匿っているのだ!そうとしか考えられん!」
    「…解りました!」

    敬礼を打って早々に退室していく将校や側近たち。その脇を抜けて、アスランは恐る恐る、自分の父に話しかけた。

    アスラン「ち、父上…」

    そんなアスランに、パトリックは深いため息をついた。

    パトリック「なんだ、それは」

    まるで他人に向けるようなーーまるで、自分の思うように動く駒を
    眺めるような目つきで、アスランに細めた視線を向けた。

  • 99スレ主24/09/23(月) 20:45:51

    その目に気がついたアスランは、戸惑いながらも敬礼を打って、
    パトリックの息子ではなく、ザフトのパイロット、アスラン・ザラの仮面を被った。

    アスラン「あ、いえ、失礼致しました!ザラ議長閣下!」

    それに満足するようにパトリックは頷くと、さっきのやり取りから目の前の
    パイロットがどれほど察せられたかを期待して、言葉をかけていく。

    パトリック「状況は認識したな?」
    アスラン「は!…いえ、しかし、私には信じられません。
    ラクスがスパイを手引きした等と…そんなバカなことが…」

    すると、パトリックはテーブルに設けられた起動キーから、
    監視カメラの映像を、アスランに見えるように表示していく。

    パトリック「見ろ。設計局の極秘地下工廠の、監視カメラの記録だ」

    そこには、見知らぬザフト軍服を着た人間と、微笑みながら話をするラクスの姿が映っていた。

    パトリック「フリーダム奪取、及び凶鳥の奪還はこの直後に行われた。
    証拠がなければ誰が彼女になど嫌疑を掛ける。お前がなんと言おうが、これは事実なのだ」

    アスランが言葉を発する前に、パトリックはまるで洗脳するかのように、強い力でアスランの心を掌握していく。

    いつものように。

    自分の妻がナチュラルどもに殺された、あの時のように。

    パトリック「ラクス・クラインは既にお前の婚約者ではない。
    まだ非公開だが、国家反逆罪で指名手配中の逃亡犯だ」

  • 100スレ主24/09/23(月) 20:46:25

    そういうと、パトリックはプラント最高評議会議長としての
    署名をしたザフトの命令書を、アスランの前に差し出す。

    パトリック「アスラン、お前は奪取されたX10Aフリーダムの奪還と凶鳥の再度鹵獲、
    パイロット、及び接触したと思われる人物、施設、全ての排除にあたれ。工廠でX09Aジャスティスを受領し、
    準備が終わり次第任務に就くのだ。不可能な場合は、フリーダムと凶鳥は完全に破壊せよ」

    機体だけではなく、施設も、人物も…?湧いた疑問に従って、アスランは震える声で父にその真意を聞いた。

    アスラン「接触したと思われる人物、施設までをも全て排除…ですか?」
    パトリック「凶鳥…忌々しいが何の情報も引き出せなかった上にあの性能だ。仮に量産されれば
    多大な脅威となる。それにX10Aフリーダム、及びX09Aジャスティスは致命的だ。
    あの二機は、ニュートロンジャマー・キャンセラーを搭載した機体なのだ」
    アスラン「ニュートロンジャマー・キャンセラー…?
    そんな…何故そんなものを!プラントは全ての核を放棄すると…!」

    母を殺したのはナチュラルだが、放った核も許してはならないと強く言ったのは父のはずだ。
    故に、二度と核を使えなくするニュートロンジャマーという楔を地上に放ったというのにーー。
    それで地上に起こる被害に目を瞑ったというのに…!!なのに…!!

    パトリック「勝つ為に必要となったのだ!あのエネルギーが!」

    揺れるアスランの心をパトリックは感じ取ることなく、
    激情に任せて執務用のテーブルに拳を落としながら叫んだ。
    しばらく沈黙が続き、パトリックは深く息を吐いて、アスランの肩に手を置いて、優しげな笑みを浮かべた。

    パトリック「お前の任務は重大だぞ。心して掛かれ」

    だが、そこにはアスランが見てきた父の眼はなく、
    議長という役目を担った、冷たく張り付いた瞳しか見えなかった。

  • 101スレ主24/09/23(月) 23:39:30

    スピットブレイクに参戦したザフト隊長はdice1d2=2 (2) の父親


    1.ホーク姉妹

    2.ミーア

  • 102スレ主24/09/23(月) 23:41:35

    イラスト募集中です

  • 103スレ主24/09/24(火) 08:18:54

    太平洋沖。

    アラスカ、パナマからも離れた海上では、モルガンの脅威から生き延びた地球軍とザフト軍の混在艦隊が、
    その傷ついた互いの傷を癒やすために、手を取り合っていた。

    「とにかく、怪我人の手当てが先だ!地球軍の医療班はこっち!ザフトはあっちだ!」
    「薬はナチュラルとコーディネーターで成分が違うから、取り間違いには要注意だぞ!」

    両軍に残った僅かな医療船は接舷しあい、互いに不足している薬品や治療器具を融通しあって、
    傷ついた兵士たちの治療に専念している。

    「大丈夫だ、これくらいの怪我どうってことない!コーディネーターの底力を見せてやれ」
    「ほら、水だ。ゆっくり飲め」
    「ああ、すまない」

    さっきまでは考えられなかったなと思いながら、怪我をしているザフト兵に水を飲ませる地球軍の兵士。
    今は互いに助け合う時だと、誰もが理解していて、そこにいがみ合う気持ちなど存在しなかった。

    「海に放り出された奴らの捜索だが…」
    「今、手隙のディン隊が捜索に出てくれている。何かあったらそちらの周波数に連絡を」
    「助かるよ」

    モルガンの衝撃で海に投げ出された両軍の兵士もいる。すでに何班にも別れた戦闘機と
    モビルスーツの捜索隊が編成されており、発見し次第、地球軍の海兵隊が小型艇で救援に向かっていた。

  • 104スレ主24/09/24(火) 08:19:39

    「各整備班は船の整備だ!動かせるやつだけを何とかするぞ!牽引船は応急修理だけにしろ!」

    船の修理も、手を動かせる者達が自然と加わっていて、両軍の工作兵達が隣同士で船を修理したり、
    協力して点検などを行なっていた。

    そんな状況の中、傷ついたアークエンジェルとグレートフォックスのハンガーには、
    地球軍とザフトの小型VTOL機が着艦しており、それらを降りたそれぞれの指揮官が挨拶を交わした。

    ハインズ「地球軍、ユーラシア連邦所属のハインズ・ボルドマン中佐だ」
    PJ「ザフト軍所属の、パトリック・J・キャンベルです。PJと呼んでもらって構いません」

    敬礼した二人に、艦を預かるマリューとナタルも敬礼で答えた。

    マリュー「第八艦隊所属のアークエンジェル艦長、
    マリュー・ラミアス少佐。副官のナタル・バジルール中尉です」

    形式ばった挨拶を交わしていると、ハインズを乗せてきたVTOL機を
    操縦してきたトールが、おずおずとハインズの前に歩みを進めた。

    トール「あの…ボルドマン中佐って…」

    そう問いかけるトールに、ハインズは向かい合って優しく微笑んだ。

    ハインズ「ああ、アークエンジェルに所属していたアイザックは、私の息子だ」

    それを聞いたトールの顔に、深い影が差した。前髪で目元が隠れるほどに俯いて、ハインズに敬礼を打つ。

    トール「ボルドマン中佐…お…自分は、ア、アークエンジェル所属、トール・ケーニヒ准尉です!」

  • 105スレ主24/09/24(火) 08:20:38

    それを聞いていたPJが、「まさかトンネルに入ったパイロットか?」と聞くと、
    トールは言葉を発さずに頷く。それを聞いて彼はマジかよと顔をしかめた。

    「おいおい、あの飛び方で准尉だと?冗談キツイぜ」

    きっと佐官クラスのベテランだと思っていたのに、
    とPJは自分のパイロットとしての自信が崩れ落ちてしまったような気がした。

    けれど、それは自分の力ではないんです、とトールは言葉を紡ぐ。

    トール「ボルドマン大尉に、自分は育てられました……彼のおかげで、俺は…」

    ハインズはアークエンジェルが到着した時に、自分の息子の最後の一報を聞いていた。
    彼もパイロットであり、自分もそうであった。その覚悟はしていたがーー。

    ハインズ「そうか。息子が君を…」

    トールの敬礼を見て、ハインズは改めて息子はもう居ない思い知らされた。
    自分に憧れて戦闘機パイロットになった息子。
    本心では、そんな道に進んで欲しくないと思いながらも、
    どこかで喜んでいる浅はかな自分がいて、ハインズはこの日までそんな自分を恥じていた。

  • 106スレ主24/09/24(火) 08:21:42

    ハインズ「見ての通り、私は目を悪くしてな。空は諦めたがーーあいつは私と同じように空が好きなやつだった」

    ハインズはパイロットの命とも言える眼と、それを補正する眼鏡にそっと手を添えた。
    色素の判断ができなくなった彼の意思を継いで、アイクは戦っていたのかもしれない。
    そう思っていたが、そんなことは無かったのだと、ハインズは安心してトールに微笑む。

    ハインズ「アイクは、これと決めたことに対して妥協しない奴だった。
    そんなアイツが君を選んだんだ。きっと満足だったろう」

    彼はきっと渡せたのだろう。
    若い頃、自分が息子にした事と同じように。
    技術ややり方では無い。
    空を飛ぶ者の心の在り方を。

    ハインズ「今の君を見ればわかる。アイクの決断は、本望だったはずだ。
    だから君は誇れ。息子から引き継いだものをな」

    涙を湛えた目で顔を上げたトールを見て、その姿にハインズは、アイクの面影を確かに見たのだ。

    トール「はい…ありがとうございます……!!」

    肩を揺らすトールの肩を叩き、僅かに抱き寄せてからハインズは父の顔から、将校の顔へと戻った。

    ハインズ「で、だ。これから我々はどうする?それに彼らのこともある」

    ハインズが見る視線の先。

    マリュー「キラ・ヤマト少尉と…ウィル・ピラタ准尉のことですね」

    そこには、フリーダムと、格納されたアーウィンが静かに佇んでいた。

  • 107スレ主24/09/24(火) 17:58:19

    キラ「間に合って、本当に良かった」

    フリーダムから降りたキラは、集まってくれたアークエンジェルのクルー達を見て、安心するようにそう呟いた。

    サイ「お前……一体どうして?ほんとに…ほんとに…幽霊じゃないんだな?足はついてるよな!?」

    真っ先に駆けつけたのは、サイとカズイ、ミリアリア、そしてフレイと、キラの学友たちだった。

    キラ「サイ…フレイ…カズイ…ミリアリア…」
    カズィ「よく生きてた…お前…本当に良かった」
    ミリアリア「ほんとに……キラなのね…」

    全員がキラを抱きしめる。そんな彼らにキラは戸惑いながら、困った笑みを浮かべた。

    キラ「…うん、ただいまって言えばいいのかな」

    そう呟いたキラに、フレイは全く!!という風に腰に手を置いて顔をしかめた。

    フレイ「当たり前じゃない!もう!全く!心配したんだから!」

    そうだそうだ!心配かけやがって!とマードックやノイマンたちが、キラの頭を
    撫で回してしっちゃかめっちゃかになっていく。
    ひとしきり落ち着いてから、キラは全員に向き直って頭を下げた。

  • 108スレ主24/09/24(火) 17:58:35

    キラ「ごめんなさいーーでも、ありがとう」

    笑顔で答えるキラに全員が暖かな気持ちになっている時、キラの後ろに格納されている
    アーウィンのコクピットから、ザフトのノーマルスーツ姿のウィルが姿を現した。

    サイ「ウィル!!」
    ウィル「おう、良かったな。何とかなったよ」

    ワイヤーウィンチで降りてくるラリーに全員が近づこうとしたが、
    パタリと足が止まる。ふと、ウィルが横に目をやると。

    ウィル「クララ」

    そこには俯いたクララが立っていた。彼女はおぼつかない足取りでウィルの元へ歩み寄っていく。
    全員が静かになる中で、ウィルは両手を広げて彼女を抱き留めようとしてーーーーー

  • 109スレ主24/09/25(水) 00:04:15

    完全に無防備だった顔面に、手袋越しの全力正拳突きを食らうのだった。

    ウィル「おごふぅ!!!」

    クララから繰り出された遠慮なしの全力全開の打撃に、ウィルは
    無防備だったその体をハンガーに叩きつけられて、ピクリとも動かなくなってしまった。

    「「「ええぇええ!!?」」」

    驚愕したアークエンジェルのクルーたちを放っておいて、
    クララは「まだ私のバトルフェイズは終了してないわよ!」と言わんばかりに、
    完全に白目を剥くウィルの首根っこを持ち上げて、今度は平手を打ち込んでいく。

    クララ「バカ!バカ!!バカ!!!バカァ!!!!」

    しばらく呆けていたキラとフレイは、気を取り直すとすぐに、
    ウィルに馬乗りになっているクララを取り押さえようとした。

    キラ「し、死ぬ!!待って!?クララ待って!?ウィル死んじゃうから!!死んじゃう!!」
    フレイ「クララ!お、抑えて!抑えて!!」

    しばらくもがいていると、ピタリとクララの動きが止まる。何事かとキラがクララの
    顔を覗き込むと、彼女は怒ったままの表情で、瞳から涙をハラハラと落としていたのだ。

    クララ「うえええーん……ほんとに死んだと思ったんだからぁぁあぁばかぁああ!うわぁああああん!!」

    そう泣きじゃくって気絶するウィルの胸元に顔を埋めるクララ。
    その様子を不満そうに見ていたキラは、ふとフレイと目があって、可笑しそうに笑うのだった。

  • 110スレ主24/09/25(水) 00:04:51

    マリュー「キラさん!ウィル君…は置いときましょう!」
    ムウ「ウィル…は、まぁいいや!無事だったかキラ!」
    ナタル「いえ、ダメでしょう!?」

    そんな三者三様な反応をしながらやってきたマリューたちに、キラは改めて向き直った。

    キラ「ラミアス艦長、隊長、バジルール中尉…皆さんに、お話ししなくちゃならないことが沢山ありますね」

    そう静かに言うキラに、マリューやアークエンジェルのクルーたちも頷く。

    キラ「私もお聞きしたいことが沢山あります」
    マリュー「そうでしょうね」
    ムウ「なぁ、お前とウィルは、ザフトに居たのか?」

    ムウの問いかけに、キラは頷いて答えた。

    キラ「…ザフトというより、プラントにですね。それに私もウィルも、
    ザフトではありません。うまく説明はできませんけど」
    マリュー「…分かったわ。とりあえず話をしましょう。あの機体は?私たちはどうすればいいの?」

    マリューの質問に、キラはフリーダムを見上げた。

    キラ「整備や補給のことを仰っているのなら、フリーダムは今のところは不要でしょう。
    アーウィンはウィルが目を覚ましてからグレートフォックスに運ぶとして…」

    マードック「フリーダム?っていうのは、なんなんだ?バッテリーの補給とか、いらねぇのか?」

    首をかしげるマードックやフレイの疑問に、キラは少し考え込んでから意を決して答えた。

  • 111スレ主24/09/25(水) 00:05:05

    キラ「細かい日常点検は従来のモビルスーツと変わりませんが
    ……あれには、ニュートロンジャマー・キャンセラーが搭載されています」
    マリュー「ニュートロンジャマー・キャンセラー?」

    聞き直して、アークエンジェルのクルーやマリューたちは互いの顔を見合わせた。
    その名前が通りのことならばーーー地球に打ち込まれたニュートロンジャマーを
    打ち消す効果があるということか?ならばーー。

    ムウ「じゃぁ核で動いてるってこと?そんなもんどっから…」
    キラ「ーー艦長たちが、フリーダムのデータを取りたいと仰るのなら、
    お断りして、私はここを離れます。奪おうとされるのなら、敵対しても守ります」

    真っ直ぐとした目でそう言うキラに、マリューは思わず顔を硬らせる。

    マリュー「キラさん…」
    キラ「それがーーあれを託された、私の責任です」

    そう答えるキラに何かを感じたのか、マリューは頷いてすぐに指示を出した。

    マリュー「解りました。機体には一切、手を触れないことを約束します。いいわね?」
    キラ「ありがとうございます」

    とにかく、今は状況を整理するのが先決だ。マリューはキラたちを交えて、
    地球軍とザフトの両軍との話し合いの場に向かうのだった。

  • 112スレ主24/09/25(水) 08:05:59

    キラ「ーーそれが作戦だったんですか」

    クララが張り付いたままのウィルを医務室に運んだあと、マリューに案内されたキラは
    ユーラシア連邦のハインズと、ザフトのPJが待つアークエンジェルのブリーフィングルームに案内されて、
    今回の作戦内容を、両軍側からの意見を交えて説明を受けたところだった。

    マリュー「ええ…状況から見れば間違いないし……私達には、何も知らされなかったわ」
    ムウ「アラスカ本部はザフトの攻撃目標が、アラスカだってことを知ってたんだろうさ。
    それもかなり以前から。でなきゃ地下にサイクロプスなんて仕掛け、出来るわけがない」

    マリューとムウの見解に、ハインズも頷く。

    ハインズ「きっと、どちらかに内通者が居たのだろうな……あるいは両方か……」
    PJ「都合のいい話すぎるからな。ザフトにとっても、そして地球側にとっても」

    地球軍側からすれば、ザフトがアラスカに来ると分かれば戦略を立てられるし、
    ザフト側も電撃作戦として、各隊の統率よりも敵陣を突破することに躍起になるだろう。
    どちらにしても、隙が多く生まれ、不審な点があっても誤魔化しが効くカバーストーリーを、
    いくらでもでっち上げることができる。

  • 113スレ主24/09/25(水) 08:06:45

    しかし、問題はどちらに利があるかだ。

    今回の件では、アラスカで不穏分子…または非主流派の目障りな存在を消し去りつつ、
    ザフトの勢力を根こそぎ刈り取ることができる、サイクロプスを用意した地球側に利があっただろう。
    となれば、内通者は地球軍側か……どちらにしろ、
    ザフトと地球軍を股にかけたダブルスパイがいることは確かだろう。

    なんとも気にくわない話だ。

    キラ「それでアークエンジェル、マリューさん達は、これからどうするんですか?」

    キラからの問いに、マリューは少し考え込む。

    マリュー「たしかにーーーこのまま地球軍にって話にはならないわね」
    ハインズ「Nジャマーと磁場の影響で、今のところ通信は全く。PJたちのザフト軍はともかく、
    地球軍側は各艦の応急処置をして、自力でパナマまで行くんですかって話だな」
    ムウ「それで?両手を上げて歓迎してくれんのかねぇ、いろいろ知っちゃてる俺達をさ」

    ハインズとマリューにそう言葉をかけるムウに、二人は何ともいえない沈痛な面持ちになる。

    ムウ「パナマに逃げ込んだサザーランドたちは、サイクロプスの不発で難を逃れた俺たちを、
    例の弾道ミサイルで消そうとまでしてきたんだぞ?」

    一体何を考えてるやら……大して頭を使わなくても、彼らがやろうとしていることは、薄々想像がつく。

    ムウ「そんな船が生きたまま地球軍の懐に帰還するとなれば……」
    マリュー「少なくとも、命令なく戦列を離れた本艦は、敵前逃亡艦、ということになるんでしょうね」

    きっと……いや、確実に事実無根な罪を上塗りされて。

  • 114スレ主24/09/25(水) 08:06:55

    ムウ「そして原隊に復帰しても、軍法会議からの銃殺刑。良くて罪状が追加される訳ねぇ…あーやだやだ」

    ムウの見解に一同が首を縦に振る。つまり、この船に帰るべき基地も場所も、
    最早無いのだ。マリューは疲れた様子で椅子に座り込んだ。

    マリュー「なんだか…何の為に戦っているのか解らなくなってくるわ」

    アラスカに着けば、ハルバートン提督の意思を地球軍に伝えることができると信じていたのに。
    まるで用済みだと言わんばかりの仕打ちだ。本当に、提督が望んだストーリーなのだろうか?

    すでにパナマに逃げた地球軍の上層部に対して、不信感を抱いているマリューには、
    到底受け入れられないことばかりだった。

    キラ「マリューさん。こんなことを終わらせるには、何と戦わなくちゃいけないと思いますか?」

    ふと、投げかけらたキラの言葉に、マリューは「え?」と首を傾げた。

    キラ「何のために戦うのか。どうやってこの戦争を終わらせるのか…。
    私達はーー私は、それと戦わなくちゃいけないんだと思います」

    そう呟くキラの瞳はーーここではない、どこか遠くを見つめているように見えた。

  • 115スレ主24/09/25(水) 16:36:18

    ザフトと地球軍の即席艦隊は、未だに休息の時を迎えられずにいた。

    負傷兵の収容など、緊急を要する事の処理はできたが、肝心の点検作業などを後回しにしていた為、
    二つの勢力の心臓部とも言える整備クルーは、目が回る忙しさで作業に従事することになった。

    「整備が終わったモビルスーツは、グレゴリアからモンテールに移動。
    余剰品は全てザフト艦のスプレッドに搬入だ」
    「あぶれたモビルスーツは、甲板にしゃがめて格納だ。
    こっちにモビルスーツ用のハンガーなんて無いんだからな!」

    地球軍の誘導員がディンを誘導して、甲板上に均等に格納していく。パイロットは降りるなり
    疲れたようにへたり込んだり、補助クルーから水分補給用のボトルを受け取ったりしている。
    その格納されたモビルスーツの下では、ザフトと地球軍の作業着を着たクルーたちがぐるりと円を組んで、
    今後の段取りなどの打ち合わせを行っていた。

    「とにかく、今は人手が足りん。とにかくそのマニュアル通りに、既製品の交換を手伝ってくれ」
    「まかせろ。これくらいなら目隠ししてもできる」
    「とにかく人手だ人手!!手を貸せ!!あと飯!!」

    各班に分かれてそれぞれが点検作業に入る。給仕をするクルーも、代わる代わる入ってくる
    腹を空かせたクルーの食事を用意するために、てんてこ舞いだ。
    そんな中で、日常消耗品などが入ったダンボールを運んでいたイザークは、
    モビルスーツの配線チェックをするニコルの足元に、大雑把にその荷物を降ろした。

  • 116スレ主24/09/25(水) 16:37:00

    イザーク「ニコル!とりあえずこの船のリストはこれで全部だ。確認しておいてくれ。
    ディアッカはあっちの手伝いだから、戻ってきたら休むように」

    ニコルがイザークが親指で刺す方向を見ると、
    そこには各ディンのパラメータチェックをするディアッカの姿が見えた。
    イザークは地球軍からの輸送物資を運び終えて、疲れた体を物資コンテナの上に下ろすと、
    さっき貰った水で喉を潤していく。

    いくら海上とはいえ、赤道に近いここは暑さがキツイのだ。

    二コル「なんだか、変わりましたね。イザーク」

    水を煽る彼に、ニコルは配線チェックのプログラムを走らせながら、何となくそう呟いた。

    イザーク「ふんっ!そんなことはない!ただ……必要だと思うからやってるんだ」
    二コル「前なら、ナチュラルなんぞの手伝いなどできるか!
    馴れ馴れしくしやがって!くらい言ってたと思うのですが?」
    イザーク「ぐっ…まぁ…たしかにそうだ」

  • 117スレ主24/09/25(水) 16:39:34

    赤面しながらも、自分の在り方を認めるイザークに、ニコルは微笑む。

    二コル「変わることは良いことだと思いますよ。僕も、それにディアッカも」

    それからしばらく、潮の音とニコルが叩くキーボードの音だけが鳴り響き、二人の間に沈黙が降りた。

    イザーク「俺たちは戦争をしてるんだぞ!なのに………くそっ!なんなんだよ…!」

    そう言って、イザークは飲み終えた水が入っていたボトルを
    握り潰して苛立ったーーというより、戸惑った目で甲板を睨みつけた。

    イザーク「ナチュラルなど俺たちコーディネーターに劣る存在だと信じて、
    悪だと信じて戦ってた。だと言うのに!くそっ!!」

    なのに、彼らはーーナチュラルはーー物資搬入を手伝った時に、「ありがとう」と言ってくれたのだ。
    あれだけ憎み合っていたナチュラルとコーディネーターなのに。なのに、なぜ?感謝の言葉を言えるのだ?
    なぜ、敵と信じて戦っていた相手と酒が飲めるんだ?同じ釜の飯を食えるんだーーー?

    そして、なぜ俺も、そんな日々を良いものだと心の中で思ってしまってるんだ!?

    ザフトの赤服というプライドと、アークエンジェルでの生活。
    自分の目で見てきたもの。その差異が激しすぎて、イザークは自分の心に湧いた矛盾を処理しきれずにいた。

  • 118スレ主24/09/25(水) 18:48:45

    そして、なぜ俺も、そんな日々を良いものだと心の中で思ってしまってるんだ!?

    ザフトの赤服というプライドと、アークエンジェルの日々と自分の目で見てきたもの。
    その差異が激しすぎて、イザークは自分の心に湧いた矛盾を処理しきれずにいた。

    二コル「僕たちも、何も知らなかったら、あのままサイクロプスに
    巻き込まれていたのでしょうか……あの兵士たちと同じように……」

    ニコルの静かな声に、イザークはハッと顔を上げる。自分たちの直面する
    ーーこの戦争の不明瞭さを、それを見て見ぬ振りをしてーーこれからも自分は戦っていけるのか?

    イザーク「何が正しくて…何が間違っているか…か……」

    ただ、状況に流されて、プライドと自尊心に従って戦っていた
    イザークの心に湧いたその疑問にーー簡単に答えは出なかった。

  • 119スレ主24/09/25(水) 19:55:57

    マリュー「オーブ?」

    キラを解放したマリューたちは、そのままブリーフィングルームでこれから先のことを話し合うことにした。
    ムウの発した言葉に、マリューは疑問の声を上げて、ナタルはさらに顔をしかめる。

    ムウ「ああ。PJたちはともかく、俺たちは軍に戻りたいって気分じゃないだろ?」

    そう言うムウに、マリューを含める地球軍側の士官たちは、戸惑いながらも頷く。

    ジャック「敵前逃亡なりとでっち上げて銃殺刑、は確定でしょう」
    ハインズ「我々も軍の部隊として機能させるには、なによりも補給と救援が急務となるな。PJはどうだ?」

    ハインズの問いに、PJはやや肩をすくめてから首を横に振る。

  • 120スレ主24/09/25(水) 21:44:08

    PJ「我々はカーペンタリアへの帰投命令を伝令としては受け取っているが……まだ返事はしていない」

    一応、生存している節は伝えてはいるが、航行不能が多いということで合流はまだ難しいと答えてはいる。
    向こうとしても、救援班を出したいらしいが、サイクロプスとモルガンの影響で指揮系統が
    ズタズタになったあげく、何機かがモルガンに巻き込まれたので、そちらの対応に必死なのだろう。

    それに、PJには気になることがあった。

    PJ「キラ・ヤマトーーあの少女が言ったこと。それに今回のこと。あのままアラスカ本部に侵攻していたら、
    我々も無知のまま、サイクロプスに焼かれるか、例のミサイルに粉砕されるかの運命を辿っていたんだ」
    ハインズ「内通者や、ザフトも一枚岩ではないということか」
    PJ「ああ。正直、我々の隊の者でも、宇宙に不信感を覚えてる者もいるからな」

    不信、不明、不明瞭ーーーわからないことだらけだ。
    この戦争は、一体どこに向かって、何を成そうというのだろうか。

    ジャック「真に戦わなければならないものは何か、確かにそうですね」

    ジャックの言葉に、マリューたちは何も答える事はできなかった。

  • 121スレ主24/09/26(木) 09:26:12

    父との謁見のあと、アスランは何気なく訪れたオペラハウスで、
    偶然にもラクスにあげたピンクのハロを見つけ、その中へと歩みを進めていた。

    片手に銃を携えて。

    オペラハウスの劇場に入ると、そこには瓦礫をモチーフにした背景の中で歌う、ラクスがいた。
    アスランは戸惑いながらも、舞台へと足を進めていく。

    ラクスの透き通るような歌が聞こえる。

    それはまるで、走馬灯のように記憶を蘇らせていきーー

    〝これは昔、友達ーー親友に!大事な親友に貰った、大事な物なんだ…〟
    〝私は……私は今でも、彼を大切に思ってる。いつも心から。だからーー〟

    ふと、あのオーブで最後にキラを見た時を思い出した。幾度も剣を交えたというのに、
    まだ友達と言ってくれるキラに、自分は銃を向けた。

    〝何を今更!討てばいいだろう!お前もそう言ったはずだ!お前も俺を討つとーー言ったはずだ!〟
    〝この分からず屋!アスラン!ここで私達が殺しあっても、戦争は終わらないのよ!!
    人が死んでいくのよ!これからも!この先も!!〟
    〝だがーー俺には…俺にはこれしか残っていないんだ!!母を殺された憎しみで、
    引き金を引いた俺には…もうこれしか!!〟

    それしか言えなかった。そんな自分を庇ってまで

  • 122スレ主24/09/26(木) 09:26:42

    ーーあの光の中に消えていったキラにーー俺は何をすればいいーーどうすればーー何が正しいと言うのだ!!

    母の無念を晴らすために、核にまで手を出した父に従えばいいのか?
    ザフトの軍人らしく、何も考えず、何も聞かず、何も知らないまま、
    ただ戦って、地球のナチュラルを滅ぼせばいいのか……?

    自分は一体ーーどうすればいいんだ?

    そんな答えのない問答を繰り返していると、手に収まっていたハロが飛び出して、
    歌い終わったラクスの元へと飛び跳ねていく。

    ラクス「あら~ピンクちゃん!やはり貴方が連れてきて下さいましたわねぇ。
    ありがとうございます。ーーーお久しぶりですね、アスラン」
    アスラン「ーーラクス」
    ラクス「はい?」

    いつもと変わらない様子のラクスに、アスランは戸惑う心のままに、声を出して問いかけた。

    アスラン「……どういうことですか?これは」
    ラクス「お聞きになったから、ここにいらしたのではないのですか?」
    アスラン「では本当なのですか!?スパイを手引きしたというのは!何故そんなことを!?」
    ラクス「スパイの手引きなどしてはおりません」

    アスランの言葉を、ラクスは真っ直ぐとした声で否定した。

  • 123スレ主24/09/26(木) 14:43:45

    ラクス「私は、キラとウィルにお渡ししただけですわ。
    新しい剣を。今の彼らに必要で、彼らが持つのが相応しいものだから」

    キラとウィル…?

    キラ……?

    アスランには、ラクスが言った言葉の意味が理解できなかった。

    アスラン「キラ…?何を言ってるんです!キラは…あいつは…俺が……」
    ラクス「生きていますよ、アスラン。貴方は彼を殺してはいません」

    優しげに微笑むラクスに、アスランは肩の力が抜けていくような感覚に陥る。
    そんなーーあの光の中でーーキラは生きていたのかーー?

    ラクス「キラは、貴方を心配していました。無事なのだろうかと……ずっと」

    その言葉を聞いて、アスランは自分の中にある自己嫌悪の思いに思考を混乱させた。
    片手に収まっていた銃をラクスに向けて、大声で叫ぶ。

    アスラン「うぅ…嘘だ!一体どういう企みなんです!ラクス・クライン!
    …そんなバカな話を…俺は……俺は……!アイツを!!」
    ラクス「言葉は信じませんか?ではご自分で御覧になったものは?
    戦場で、久しぶりにお戻りになったプラントで、何も御覧になりませんでしたか?」

  • 124スレ主24/09/26(木) 14:45:55

    ハッと顔を見上げると、そこには優しげなラクスの笑顔はなく、
    真っ直ぐとした目でこちらを見るーーアスランの知らないラクスの顔があった。

    アスラン「ーーラクス」
    ラクス「アスランが信じて戦うものは何ですか?戴いた勲章ですか?
    お父様の命令ですか?そうであるならば、キラは再び貴方の敵となるかもしれません」

    そう言って、彼女はやや顔を下げてから溢れる雫のように呟く。

    ラクス「そして私も」

    ラクスとーー敵になる。その意味を噛み砕いて飲み込んで
    ーーアスランの中で、何かが音を立てて崩れたような音がした。
    俺は、何をーー母の憎しみを晴らすために
    ーー親友ともーーそれに婚約者ともーー剣を交えることになるというのかーー?
    戸惑うアスランに、ラクスは容赦なく真実の言葉を投げた。

    ラクス「敵だというのなら、憎しみに任せて私を、その憎むもの全てを討ちますか?ザフトのアスラン・ザラ!」
    アスラン「俺…俺は…」

    気がつくと、銃を持っていたアスランの手は下がっていた。
    俺はーー今の俺はーーー一体誰だ?
    父の命令に従い、フリーダムとそれに関わる全てを破壊する殺戮者か?
    ただ命令に従うだけのザフト兵ーーアスラン・ザラか?

  • 125スレ主24/09/26(木) 22:34:49

    若いザフト兵は焦るように、ラクスに耳打ちをした。

    「もうよろしいでしょうか、ラクス様。我等も行かねば…」
    ラクス「はい。貴方の隊長をお待たせるわけにもいきませんからね。
    ではアスラン、ピンクちゃんをありがとうございました」
    ハロ「マイドマイド」

    それだけ言って、アスランの横を過ぎ去ろうとするラクスをーー。

    アスラン「ラクス!俺は……俺は……」

    呼び止めたアスランは、上手く言葉が見つからずに、しどろもどろにラクスと壇上の床へ視線を彷徨わせる。

    ラクス「キラは地球です」

    言わなくてもわかるーーそう言うように、ラクスはアスランの方に振り返って言葉を紡いだ。

    ラクス「アスラン。貴方は、貴方の心に従いなさい」
    アスラン「俺の……心」
    ラクス「父親の言葉でもなく、ザフトのアスラン・ザラでもない。貴方の心に」

    自分の心にーー従う。そんなラクスの言葉が、アスランの思考の中で反響していく。

    アスラン「俺は……」
    ラクス「私は、その答えが出た先で待っておりますから」
    アスラン「ラクス…!」

    その言葉を最後に、アスランの前からラクスたちは姿を消していたのだった。

  • 126スレ主24/09/27(金) 05:02:49

    『A55警報発令、放射線量異常なし。進路クリアー。
    全ステーションで発進を承認。カウントダウンはT-200よりスタート』

    ザフト設計局の工廠。フリーダムやアーウィンとは別口のそこでは、
    X09Aジャスティスの発進準備が着々と進められていた。

    〝殺されたから殺して、殺したから殺されて、それでほんとに最後は平和になるのかよ!〟
    〝アスランが信じて戦うものは何ですか?〟
    〝貴方は貴方の心に従いなさい〟

    『T-50。A55進行中』

    コクピットの中で、アスランはこれまで見てきたもの、感じたもの、
    それで自分が何を思い、何を成したいのかを必死に考えていた。
    そして、きっとそれは、難しいことではないのだろう。
    自分は、あまりにも遠回りをしてしまった。長い、長い遠回りをしたのだ。

    だからーー。

    アスラン(キラ…俺は、お前に話をしなきゃならないことがたくさんあるんだよな)
    『X09A、コンジット離脱を確認。発進スタンバイ』
    アスラン(だから、聞かせてくれ。お前の思っていることを……お前が何を成そうとしているのか)

    送電用のケーブルが外され、灰色だった機体が赤く染め上げられていく。
    きっと自分が選ぶ道は険しいものだろう。だが、進まねばならない。

    この思いにーー答えを出すためにも。

    『進路クリアー、我等の正義に星の加護を』
    アスラン「了解、アスラン・ザラ、ジャスティスーー出る!」

  • 127スレ主24/09/27(金) 15:12:21

    オーブにアークエンジェルが入港する。

    その一報を受けて、カガリは気がついたら走り出していた。アラスカ基地での一件は、
    近隣諸国であるオーブもある程度の情報は入手していたし、生き残った守備隊の存在も察知はしていた。

    アークエンジェルがオーブにやってくるのも想定の範囲内とも言える。

    カガリが駆け出した理由が、入港してくるアークエンジェルのクルーのリストだった。
    そこには、死んだと思っていた人物の名が記されていたのだからーー。

    カガリ「キラ!!」

    アークエンジェルから降りてきた士官の中に混ざっているキラを見つけて、カガリはすぐに飛びついた。

    キラ「カガリっ…ぅうわ…!」

    キラは急に飛びついたカガリを受け止めようとしたものの、バランスを崩して通路に腰を落としてしまう。
    起き上がってカガリを見ると、彼女は泣きじゃくった顔を上げてキラに怒鳴った。

    カガリ「ぅ…このバカァ!お前…お前…ぅぅ…死んだと思ってたぞ!このやろう!」

    そう言って、カガリは再びキラの胸元に顔を埋める。
    しばらく肩を揺らすカガリの頭を撫でてから、キラは小さく「ごめん」と呟いた。

  • 128スレ主24/09/27(金) 20:33:46

    そんなキラたちの行く先では、アークエンジェルから降りたマリューたちが、
    出迎えにきてくれたウズミや、オーブの首脳陣と挨拶を交わしていた。

    マリュー「私どもの身勝手なお願い、受け入れて下さって、ありがとうございます」
    ウズミ「事がこと故、各艦のクルーの方々には、しばらく不自由を強いるが、
    それはご了解いただきたい。ともあれ、ゆっくりと休むことは出来よう」
    マリュー「ありがとうございます」

    そう敬礼するマリューに、ウズミは複雑そうな面持ちで言葉を続ける。

    ウズミ「ーー地球軍本部壊滅の報から、再び世界は大きく動こうとしている。
    一休みされたら、その辺りのこともお話ししよう」

    これからあなた達が何を選ぶのかもね、と言うウズミに、マリューは何も答えられずにその場に立ち尽くしている。

    ウズミ「見て聞き、それからゆっくりと考えられるがよかろう。貴殿等の着ているその軍服の意味もな」

  • 129スレ主24/09/28(土) 04:38:23

    PJ「では、我々はこれで」

    オーブ近海。領海線の手前で、地球軍のハインズはザフトの代表者であるPJと握手を交わした。

    ハインズ「すまないな、色々と。世話になったよ」
    PJ「お互い様ってやつですよ」

    そう答えてくれるPJに、ハインズは表情を曇らせた。彼は、これからカーペンタリアに帰投する予定だ。
    ザフトと地球軍。さすがにオーブにこれだけの勢力を匿う力は無い。
    それにPJ達にはザフト軍人としての考えもある。このまま離反して共にーーというわけにもいかなかった。

    ハインズ「しかし……辛いものだな、PJ。我々はひと時であったとはいえ、わかり合うことができたと言うのに」
    PJ「我々にも、守るものがあるとしかーー答えられません」

    そう答えるPJも、どこか悲しげな表情だった。二人は改めて握手を交わして、互いの健闘を祈った。

    ハインズ「そうだな。それを守るために、互いに存分に生きよう」
    PJ「ええ。そうですね」

  • 130スレ主24/09/28(土) 13:55:09

    ハインズとPJ以外にも、見送りにやってきた地球軍人とザフト軍人が、それぞれ想い想いの別れを告げていた。

    「向こうに帰っても元気でな」
    「お前に一杯奢ってもらったこと、俺は忘れないぜ」

    あるいはパイロット同士で。

    「ああ、元気でな…次会うときは、平和な時がいいな」
    「そうだな、お前もお袋さんに、ちゃんと顔を見せるんだぞ」

    あるいは作業員同士で。

    「お前もな。ーーじゃあな」

    そう言って離れていく。次会うのは再び戦場かもしれない。
    しかし、ここで心を通わせあったことはーー決して嘘ではないのだから。

  • 131スレ主24/09/28(土) 19:31:25

    オーブ領海へ入り、離れていく地球側の守備隊を眺めながら、ニコルは呟いた。

    二コル「このまま戻っていいんですかね、僕たちは…」

    さっきまで手を振ってくれていた相手の軍人。そんな彼らに見送られた自分たちは、
    カーペンタリアに戻る。きっと、パナマ進攻部隊に加えられる事になるだろう。
    ふと、後ろに腰を下ろしていたイザークが立ち上がると、船の奥へと入っていこうとした。

    二コル「イザーク」
    イザーク「命令には従わなきゃならないだろ」

    呼び止めたニコルの声に、イザークは背を向けたまま、抑揚のない声でそう言って、船の奥へと消えていった。

    二コル「イザーク!だけど!」
    ディアッカ「ニコル。わかってるよ、あいつも」

    そんなイザークを追おうとしたニコルを止めたのは、ディアッカだった。

    二コル「ディアッカ…でも」

    そう言って落ち込むニコルに、ディアッカはため息をついて言葉を続けた。

    ディアッカ「納得できないけど、納得できるまで立ち止まれないのが、俺たちパイロットの辛いところだよな」

    生きるのも殺すのも、殺されるのも上層部の胸一つーーあーヤダヤダ。そう言って日陰になっている
    甲板で寝転がるディアッカを見て、ニコルはこの先に待つ異様な雰囲気に息を飲むのだった。

  • 132スレ主24/09/29(日) 05:33:38

    カズィ「ねぇこれで…これからどうなんの?」

    アークエンジェルの食堂で、ひとまずの休息に入っていたキラの学友達。
    その中のカズイは、全員が食事を口に運ぶ中で、ふとそんなことを呟いた。

    ミリアリア「え?」
    カズィ「俺達、もう軍人じゃぁないんだよね?
    軍から離れちゃったんでしょ?アークエンジェル。だったら…」

    そう弱々しい声で言うカズイに、スクランブルエッグを頬張ったトールが、淡々とした口調で答えた。

    トール「敵前逃亡は軍法では重罪。時効無し」

    バジルール中尉も言ってたでしょ?とミリアリアも付け加える。軍から離れたとはいえ、
    軍属であることは変わりない。見つけ出されたら、
    全員もれなく銃殺刑という悲惨な運命が待っているだろう。

    カズィ「…俺さ、実はこれ持ってるんだけどさ、前の除隊許可証」

    そう言って、カズイはポケットから、低軌道戦前にナタルから貰っていた除隊許可証を取り出す。
    もちろん、ここにいる全員が持っているものだが、カズイ以外は思いもつかなかったものだった。
    カズイにとって、キラが残る、みんなが残るからというので、ここまで踏ん張ってきたが、
    そこに自分の命を賭してーーという気概が、自分の中にない事を薄々感づいてはいたのだ。

  • 133スレ主24/09/29(日) 05:34:22

    カズィ「ずっと考えてたんだ。俺…俺は…本当はどうしたいんだろうって…」

    アフリカのときも。紅海の時も。そしてソロモン諸島ーーアラスカ。

    凄惨たる戦場で、自分の命すらも危険に晒されてーー。

    カズィ「あの光景を見てさ…なんか、それがわかったような気がしたんだよ」

    そう申し訳ないようにいうカズイの言葉に、誰も否定的な言葉は向けなかった。
    わかっているからだ。ここにいて、本当に自分の命を危険に晒してもいいのだろうか、と。

    トール「カズイの気持ちはよくわかるよ……けど、俺は残るつもりだ」

    そんな重苦しい空気の中、食事を食べ終えたトールが、真っ直ぐとした声色でそう言った。

    トール「俺にとってーーこの船で受け継いだものを、俺は捨てることはできないんだ」

    この船で過ごした日々、モビルスーツに乗った日々。そしてーーボルドマン大尉と過ごした日々。
    その全てが、今の自分を形作っている。これを捨ててまでアークエンジェルを降りようなど、
    トールには考えられなかった。

    トール「俺やキラは、みんなとはちょっと思いが違うだろ?だから、みんなもそこはよく考えた方がいいぜ?」

    それだけ言ってトールは立ち上がると、食堂の外へと出て行ってしまった。

    何のために、この船に、戦場にいるのかーー。

    サイとミリアリアは、その疑問にまだ答えを出せなかった。

  • 134スレ主24/09/29(日) 16:44:21

    アークエンジェルの修理を見守りながら、キラはカガリに、
    これまであったことを話し、カガリもキラに、ソロモンでの戦いの後のことを話していた。

    キラ「そっか。アスランに会ったんだ」

    カガリの言葉に、キラは少し暗い声で頷く。

    カガリ「お前を探しに行って見つけたのーーあいつだったんだ。
    滅茶苦茶落ち込んでたぞ、あいつ。お前を見殺しにしたって、泣いてた」

    そう言うカガリも、辛そうな顔をしていた。おそらくアスランも、負った傷がそれぞれに深いのだろう。

    キラ「あの時は、どうしようもなかった。私も…きっとアスランも」

    あの爆発があったとき、キラは咄嗟にアスランを退がらせることしかできなかった。
    それが最善のことだと思えたし、それが正しいと信じたからーー。

    カガリ「小さい頃からの友達だったんだろ?」

    アスランから聞いたのか、カガリの問いにキラは頷いて、懐かしそうに目を細めた。

    キラ「アスランは昔から凄くしっかりしててさ、私はいつも助けてもらってた」
    カガリ「なんで…その…アスランと戦ってまで、地球軍の味方をしようとなんて思ったんだ?」
    キラ「え?」

  • 135スレ主24/09/29(日) 16:44:36

    カガリの唐突な疑問に、キラは目を見開く。

    カガリ「いや…だってさ、お前…コーディネイターなんだし、そんな…友達と戦ってまでなんて…なんでだよ」

    〝お前はコーディネイターだ!僕達の仲間なんだ!〟

    戦闘中に何度も言われたアスランの言葉がフラッシュバックする。たしかにコーディネーターとしては、
    自分はアスラン達の仲間だろう。それにアスランとは正真正銘の親友同士でもある。

    だからこそ、だ。

    キラ「私はーーウィルが…ヘリオポリで出来た友達が居たから。
    やれるべきことをやる。大切なものを守るために戦う。ただ、それだけを考えて戦ってたんだ」

    〝私は君を撃ちたくない。けど、君が私の大切な人や、
    友達を傷つけると言うならーー私は、君と戦う。大切な人を守るために〟

    ラクスを引き渡したときに、一緒に来いと言ってくれたアスランに向けた言葉。その言葉に嘘はない。
    アークエンジェル、そしてアルコンガラの仲間。彼らを守りたいと心から思ったから、キラはそう答えた。

    キラ「けど…」

    そこで、キラは今になってわかった自分の浅はかさを憂いた。

    キラ「ほんとはーーーほんとのほんとは、私がアスランを殺したり、
    アスランが私を殺したりするなんてこと、ないと思ってたのかも知れない」

    溢れるように呟くキラの言葉に、カガリは何もいえなかった。自分もそうだったから。戦争は止められる。
    自分は死なない。そんなアテにならない自信で、アフリカの地で戦っていたのだからーー。

  • 136スレ主24/09/29(日) 19:37:18

    翌日、マリューたち指揮官クラスに呼び出されたキラは、
    ウズミを含めたオーブ首脳陣との会談に臨むことになった。
    マリューたちとともに会議室へ入室すると、
    ユーラシア連邦のハインズを含めた指揮官たちも顔を揃えている。

    ウズミ「サイクロプス…そしてモルガン、か。しかし、
    いくら敵の情報の漏洩があったとて、その様な策、常軌を逸しているとしか思えん」

    事のあらましを聞いたウズミは、呆れるような、
    憂いるような目で、各指揮官が出した資料を眺めながら息をついた。
    なんとも、杜撰な作戦とも言えよう。まさに人の命を生贄に捧げた作戦だ。

    マリュー「立案者に都合がいい犠牲の上に。机の上の…冷たい計算ですが」
    ハインズ「それでこれか…」

    そう言って、部屋にある全員が、モニターに映し出されている映像に目をやった。

    『守備隊は最後の一兵まで勇敢に戦った!我々はこのジョシュア崩壊の日を、
    大いなる悲しみと共に歴史に刻まねばならない。だが、我等は決して屈しない。
    我々が生きる平和な大地を、安全な空を奪う権利は、一体コーディネイターのどこにあるというのか!』

    そこには、パナマ基地で演説をする地球軍上層部の人間が映し出されている。
    後ろに控えるメンバーの中には、ウィリアム・サザーランドの姿も見て取れた。

  • 137スレ主24/09/29(日) 19:37:55

    『この犠牲は大きい。が、我々はそれを乗り越え、立ち向かわなければならない!地球の安全と平和、
    そして未来を守る為に。今こそ力を結集させ、思い上がったコーディネイター共と戦うのだ!』
    ナタル「サイクロプスとモルガンの件は、マスコミに圧力をかけているのか……そもそも公表されてないのか」

    ナタルの推測はおそらく当たっているだろう。先日からラジオやテレビ、
    軍の通信網まで、徹底した箝口令が敷かれ、サイクロプス、モルガンの情報は闇に葬られている。

    ハインズ「少なくとも、ここにいる守備隊の生き残りは、皆戦死したことになってるのは間違いないな」

    ハインズの言葉に、巡洋艦グレゴリアの艦長は、バシッと手のひらに拳を打ちつけて苛立ったように声を荒げた。

    「ふざけるなよ…!証拠隠滅のためにミサイルまで撃ってきたくせに!!」
    「俺たちが戻っていたら銃殺刑どころか、賊軍として味方に撃ち殺されてたかもしれんな」
    「解っちゃいるけど堪らんねぇ」

    そこでモニターを切ったウズミが、改めて地球軍側へと視線を向ける。

    ウズミ「大西洋連邦は、中立の立場を取る国々へも、一層強い圧力を掛けてきている。
    連合軍として参戦せぬ場合は、敵対国と見なす、とまでな。無論、我がオーブも例外ではない」
    カガリ「奴等はオーブの力が欲しいのさ」

    後ろで控えていたカガリが呆れたようにそう言うのを、ウズミは視線だけで黙らせる。

  • 138スレ主24/09/29(日) 19:38:22

    ウズミ「御存知のことと思うが、我が国はコーディネイターを拒否しない。
    オーブの理念と法を守る者ならば、誰でも入国、居住を許可する数少ない国だ。
    遺伝子操作の是非の問題ではない。ただコーディネイターだから、ナチュラルだからとお互いを見る。
    そんな思想こそが、一層の軋轢を生むと考えるからだ」

    生まれの違い、民族の違い、種族の違い、大昔から戦争の発端など、あまり変わらないものだ。

    ウズミ「カガリがナチュラルなのも、キラ君がコーディネイターなのも、
    当の自分にはどうすることもできぬ、ただの事実でしかなかろう」

    生まれや民族、そういったものを選んで生まれてくる生命はいない。生まれたときから人は違うのだ。
    しかし、それを超えて人は分かり合える。助け合った地球軍とザフトのように。

    だがーー。

    ウズミ「なのに、コーディネイター全てを、ただ悪として、敵として攻撃させようとするような
    大西洋連邦のやり方に、私は同調することは出来ん。一体、誰と誰が、なんの為に戦っているのだ」

    誰に利があり、誰が損をし、何を求めて戦うのだ。今のあり方は、
    ただいたずらに互いの種族を疲弊させ、滅ぼし合おうとしているようにしかウズミには見えない。

  • 139スレ主24/09/29(日) 22:38:15

    マリュー「しかし、仰ることは解りますが…失礼ですが、
    それはただの、理想論に過ぎないのではありませんか?」

    マリューの率直な意見に、ナタルも頷く。

    ナタル「それが理想とは思っていても、やはりコーディネイターはナチュラルを見下すし、
    ナチュラルはコーディネイターを妬みます。それが現実です」
    ウズミ「解っておる。無論我が国とて、全てが上手くいっているわけではない。
    が、だからと諦めては、やがて我等は、本当にお互いを滅ぼし合うしかなくなるぞ」

    何も全てを許し合うことはない。折り合いをつけるのが大切だとウズミは言う。
    互いの意思を折らずに押し通すなどーー肉食獣の縄張り争いのように単調で、理がない戦いだ。
    折り合いをつけられるから、人は戦争と呼んでいる。そうでなければ、それは殺戮だ。

  • 140スレ主24/09/29(日) 22:38:46

    ウズミ「そうなってから悔やんだとて、既に遅い。それとも、それが世界と言うのならば、
    黙って従うか?どの道を選ぶも君達の自由だ。その軍服を裏切れぬと言うなら、手も尽くそう」

    そう言ってウズミは、立ち並ぶマリューたちを見渡した。軍に従い、戦うと言うならば
    ーー彼らのあり方を尊重しよう。しかし、心から今を憂いるなら、選択は他にもたくさんある。

    ウズミ「君等は、若く力もある。見極められよ。真に望む未来をな。まだ時間はあろう」

    そう静かに言うウズミに、各指揮官は何も答えられなかった。誰もが正しい答えを探しているのだ。

    そんな中、キラは真っ直ぐとした目でウズミに問いかける。

    キラ「ウズミ様は、どう思ってらっしゃるんですか?」

    この果てしのない憎しみで成り立つ戦争を。その問いかけに、ウズミは少し瞑目してから、答えた。

    ウズミ「理念や信念を守るためには、ただ鑑賞や芸術のために
    剣を飾っておける状況ではなくなった。そう思っておるよ」

  • 141スレ主24/09/30(月) 08:02:35

    パナマ基地。

    北米大陸と南米大陸の境にある、パナマ運河付近にある地球連合軍の基地だ。

    マスドライバー施設[ポルタ・パナマ]がある基地で、月面プトレマイオス基地に対する補給路の一つであり、
    C.E.17年に大西洋連邦と南アメリカ合衆国の共同国家プロジェクトとして建設された。

    『ハラルド隊、ハリソン隊発進完了。セリザワ隊、クリューガー支援隊、発進開始します』

    東アジアのカオシュン宇宙港、アフリカのビクトリア宇宙港が陥落し、
    地球連合軍に残された最後の大規模宇宙港。

    そのパナマ運河の沖合。

    地球軍の基地から目と鼻の先に集結していたザフト軍は、パナマ基地攻略作戦に向けて、
    着々と準備を推し進めていた。

    「しかし、これだけの戦力でパナマを落とせだなどと、本国も無茶を言う」

    集まったザフト勢力を眺めながら、作戦司令官はそんなことを口走る。
    先のアラスカ基地への電撃作戦[スピットブレイク]が失敗に終わり、受けた混乱は計り知れない。
    昨日合流した生き残りの突入部隊も、少なからず損害は出しているし、
    火器管制やモビルスーツの整備も間に合っていない。
    そんな浮き足立った状態でパナマの基地を抑えに行くとは
    ーープラントの最高評議会も無理難題を言ってくれるものだ。

  • 142スレ主24/09/30(月) 12:42:01

    「しかたありますまい。調子に乗った奴等の足下を掬っておかねば、議長もプラントも危ない」

    そう答える他の指揮官の言葉に、わかっていると司令官は返す。地球軍にとって、
    ここが最後の宇宙と地上の橋渡し場だ。今潰しておかなければ、後々に厄介なことになるのは目に見えている。

    「宇宙への門を閉ざし、奴等を地球に閉じこめる。その為にもパナマのマスドライバーは潰しておかねば……」
    「グングニールは?」

    そう問いかけると、モニタリングしていた下士官が頷いて答える。

    「予定通りです」

    グングニールは、強力なEMP発生装置であり、電離層の乱れを引き起こす事により、
    通信や精密機器を使用不能にする対電子機器用特殊兵器。
    パナマに閉じこもるモグラ叩きには打って付けの兵器だ。

    しかし、それを運用するにも問題はある。

    「降下までにグングニールの目標地点を制圧できるかね?」

    その問いかけに、司令官は僅かに帽子を深く被って呟く。

    「ーーーアラスカの二の舞を演じることだけは避けねばな」

  • 143スレ主24/09/30(月) 22:14:36

    マリュー「なんですって!?パナマが!?」

    オーブの諜報部から受けた連絡に、マリューは驚愕した声を上げる。
    確かに、パナマにザフトの目標が移るとは考えてはいたが、いくらなんでも早すぎる。

    ウズミ「未明から攻撃を受けている。詳細は、まだ分からんが」
    ムウ「やはり目的はマスドライバーか……くそ!」
    マリュー「アラスカで…あんなことがあったのに…!」

    ムウの苛立つような声も尤もだ。ここで地球軍の最後のマスドライバーを取られたら、
    地上組は後がなくなる。それこそ形振り構っていられなくなるほどに。

    キサカ「地球軍の主力隊も、今はパナマだ。ザフトも必死さ。君等には、複雑だな」

    そう言うキサカの顔も複雑だった。
    なにせ、もしもパナマが陥落したら、地上に残っている最大のマスドライバーは、オーブの物になるのだから。
    その一報は瞬く間のうちに広がり、アークエンジェル艦内のみならず、避難してきた守備隊にも伝わることになる。

    ハインズ「PJたちは!?」
    キサカ「時間的にも、合流していておかしくないはずだ」

    ハインズの元に集った地球軍の下士官たちは、伝えられた情報に思わず顔をしかめていく。

    「くそー!!アラスカであんなことがあったのに……ザフトは何を考えてやがる!!」
    「おちつけ!!とにかく、今は情報を待つしかないだろう!!」

    しかしながら、アラスカで総崩れになった指令系統が建て直されていない今、
    パナマの地球軍主力部隊とザフトがぶつかれば、泥沼の戦闘が起きることは明白だ。
    そうなれば、傷つくのは誰だ?否応無く戦線に向かっていく
    ザフトの兵隊たちの顔が、彼らの脳裏から離れようとしなかった。

  • 144スレ主24/09/30(月) 22:14:54

    「中佐!!彼らのことを知らないふりなんてできませんよ!!」

    スピアヘッド部隊の空母であるスプレッドの艦長が、ハインズの前に出てそう叫んだ。
    周りを見ても、今にも飛び出して行きそうな面構えをした下士官ばかりだ。
    ハインズは深く息をついて、地球軍の帽子を被ってから姿勢を正した。

    ハインズ「ーーー動ける艦を集結し、パナマに向けて出る。私はウズミ様と交渉する。
    各艦はSOS信号を!白旗を上げ、ザフト、地球軍双方の救出にあたれ!敵対するなら撃て!これは命令だ!」

    了解!!という答えで、オーブのドックは騒がしくなっていく。
    あとは、指揮官である自分の仕事だ。
    ハインズは責任を取るため、すぐにオーブの首脳陣へ繋がるホットラインへ連絡し、
    これから自分たちが向かおうとする意味と、行く先をウズミに伝えるために喉を唸らせるのだった。

  • 145スレ主24/10/01(火) 06:50:39

    「敵モビルスーツ部隊、第2防衛ラインへ到達!」
    「第3中隊!第3中隊!どうした!?応答せよ!」

    ザフトがパナマに侵攻して僅か一時間。地球軍主力部隊は劣勢に立たされていた。
    いくら指揮系統が乱れているとはいえ、相手は自由度が高いモビルスーツ、
    こちらは戦車と高射砲、良くて戦闘ヘリと戦闘機部隊だ。
    物量で押し返そうとしても、向こうの方が戦闘に対してのレスポンスが遥かに良い。

    「くっそー!第13独立部隊を展開しろ!」

    そこでパナマの司令官は決断を下した。その指令を聞いて、側近が複雑そうに表情を歪める。

    「よろしいのですか?」

    その問いに、司令官は当然だと答える。すでに上層部の連中は宇宙へ逃れている。となると、
    自分が宇宙に向かうためには、何としてもこの基地を死守し、ザフトを追いかえさなければならない。
    彼にとって背水の陣だ。手段を講じるために思考を巡らせる暇はなかった。

    「何のために作ったモビルスーツ部隊だ!奴等に我々の底力を見せてくれるわ!」

    そして同時刻。

    『コースクリア!グングニール、投下されます!』

    パナマの遥か上空にある軌道上では、惨劇を引き起こす悪魔の兵器の投下準備が完了しようとしていた。

  • 146二次元好きの匿名さん24/10/01(火) 12:56:31

    保守

  • 147スレ主24/10/01(火) 16:09:27

    PJを含めたアラスカ突入部隊は、パナマ沖合に集結していたザフト軍に合流したのち、
    制圧目標地点を確保するための、上陸作戦を言い渡されていた。
    モビルスーツの機動性に物を言わせてパナマ基地沿岸部に上陸したPJが操るシグーは、
    同僚のジン2機と共に、異様な空気に満たされたパナマ基地へ続く森林区域を見渡していた。

    何度か、こういった空気を味わったことはあったが、この空気が漂う場所では決まって良いことなど無かった。
    例えば戦車部隊に待ち伏せされたり、隠れている歩兵部隊が設置した罠に遭遇したりと。

    「キャンベル隊長…これは…」
    PJ「迂闊に飛び込むなよ。何があるか分からん」

    冷や汗を流す同僚を落ち着かせつつ、PJたちはゆっくりと森林区域を進んでいく。

  • 148スレ主24/10/01(火) 19:10:57

    すると、自分たちから南に逸れたところで、逃げる戦車隊をなぶり殺しにするように
    ライフルを放つジンが、意気揚々と森林区域を突き進んでいるのが見えた。

    「ふん!叩き甲斐のないーーなんだ!?」

    レッドアラート。それに気づいた段階で手遅れだった。
    森の影から放たれた緑色の閃光にジンの上半身が包まれると、
    パイロットの叫びが聞こえる間も無く、ジンは爆散した。

    「あれはっ!モビルスーツ!?」

    僚機のジンがカメラで捉えたのは、明らかに人型を模した影だった。
    PJは素早く機体を翻して、現れた人型の影にライフル弾を打ち込むと、影は容易く倒れて爆散した。

    PJ「ストライクとか言う地球軍のモビルスーツか?」

    何も知らない他のジンも集まってくる。しかし、それが罠だと気がついたのは、
    先ほど目にした人型の影に、辺りを囲まれている光景に気付いた時だった。

    PJ「いや、違う!こいつらは……!!」

    その瞬間、四方八方から緑色の閃光が走り、取り囲まれたPJたちに襲いかかってくるのだった。

  • 149スレ主24/10/01(火) 21:26:22

    ストライクダガー。

    ザフトの前に現れたのは、地球連合軍初の量産型モビルスーツであるダガーの簡易生産型だ。
    小型で取り回しの良いビーム兵器を標準装備している事により、ザフトのモビルスーツに対して
    大きなアドバンテージを持った機体は、操縦面もGAT-X型に比べて大きく改善されていた。

    OSもナチュラルが操縦可能な新型を搭載。
    これによって、低錬度のパイロットでも充分に性能が発揮できるようになっている。

    『へ!もう好きにはさせないぜ!』

    教導訓練も途中ではあったが、ナチュラル初のモビルスーツとあって、与えられた第13独立部隊の士気は高かった。

    『調子に乗るなよ!コーディネイターが!』

    取り囲んだ陣形から逃げ出したジンに、ビーム刃を展開したストライクダガーが迫り、
    今まで手こずっていたジンをあっけなく撃破していく。
    しかし、相手もやり手がいる。すぐに状況を理解した隊長機であろうシグーは離脱しながら、
    僚機の退路を確保するために、練度の低い機体を優先的に狙って行っているのが分かる。

    しかしだ。

    こんな短期間の教導で、自分たちはザフトのモビルスーツと渡り合えている。
    勝てる。憎きコーディネーターどもに。
    その湧き上がる勝利への渇望と憎悪がパイロットたちを鼓舞し、モビルスーツを躍動させていく。

  • 150スレ主24/10/02(水) 04:34:55

    「ほぉ、地球軍のモビルスーツ部隊。フォスター隊の前面に展開されたな?」

    モニターを眺める司令官は、その突発的な事態にも関わらず冷静さを保っていた。たしかに、
    地球軍が量産型のモビルスーツを建造している情報は、ザフトの諜報部から連絡を受けていたし、
    あれだけ脅威となったストライクを有した足つきがアラスカにたどり着いたのだ。
    その豊富な戦闘データを元に、急造したモビルスーツのOSを間に合わせたのだろう。
    しかし、それも想定の範囲内。作戦内容に変更は無かった。

    「ーーかえって有り難いですな。地球軍、虎の子のモビルスーツ、共にグングニールの餌食にして差し上げよう」

    多少のEMP対策が施してあるといっても、程度は知れたものだ。
    それすら食い尽くすグングニールが発動すれば勝負は決する。

    そして、その駒はすでにチェックへと差し掛かっていた。

    しかし、司令部が状況を予測していたとしても、そのしわ寄せが来るのはいつも前線で戦うパイロットたちだ。

  • 151スレ主24/10/02(水) 09:16:28

    「くっそー!!地球軍のモビルスーツだと!?情報には無かったぞ!!」

    PJを含めたザフトのモビルスーツ隊は、連絡に無かった地球軍のモビルスーツ相手に動揺を隠せずにいた。

    「でえぇえええい!!」

    そこで活躍したのが地球軍から奪取したGの操縦経験や、ストライクとの
    戦闘経験があるイザークやニコルやディアッカ達だった。
    押され気味なPJたちよりも前に出た彼らは、押し入る地球軍のストライクダガーを次々と撃破して行く。

    イザーク「舐めるなぁ!ブリキのモビルスーツがぁ!」

    ストライクや流星に比べたら動きが単調だ。ニコルたちも素早い反応で
    ストライクダガーから放たれるビームライフルの閃光を躱して、コクピットにライフルを打ち込んでいく。

    そんな地球軍とザフトの激戦が繰り広げられる最中ーー。

    「よし!キャニスター12番装着完了!たっぷり喰らえナチュラル共!」

    地上に降りたグングニールは、ひとりのジンのパイロットの命と引き換えに起動されたーー。

  • 152スレ主24/10/02(水) 19:11:45

    起動したグングニールから強烈な電磁衝撃波が発生した瞬間、事態は決した。
    ザフト側の兵器はEMP対策を施しており影響を受けないが、
    連合軍は即時に施設、兵器が使用不能となったのだ。

    『機体が!』
    『動かない…!動きません!隊長!』

    まるで糸が切れた人形のように立ち尽くすストライクダガーたち。
    そして司令部やマスドライバーすらも、強力な電磁波の影響を受けて、全てがブラックアウトしていく。

    「決まったな……艦隊、艦砲射撃開始!目標は敵司令部だ!!」

    その指令がザフト全軍に通達される。動けなくなった敵の中枢部を、
    パナマ運河に展開したザフトの艦隊で制圧するのが、今作戦の最後の仕上げだ。

    PJ「なに!?艦砲射撃だと!?グングニールは!」

    その一報を受けたPJは、驚愕して伝令に来たジンの肩を掴み、
    接触回線で声を荒げた。湾岸部から来たパイロットも戸惑った様子で頷く。

    「はい!正常に作動し、パナマ基地の指令系統はもう…」

    グングニールが発動した以上、パナマの電子機器はすでに使い物にならない。
    Nジャマーでレーダーの目さえ潰されて、頼りの電子機器すら潰したというのにーー。
    PJはバンっとコクピットのモニターに拳を打ち付けた。

    PJ「勝負は決した。なのに撃つのか…我々は…!」

    その懺悔のような呟きは、遠くから放たれた艦砲射撃の砲音と、
    地球軍の司令部が轟音を上げて破壊される音によってかき消されていくのだった。

  • 153スレ主24/10/02(水) 20:58:52

    そうして、パナマの攻略作戦は終了した。

    グングニールの電磁衝撃波の影響で、パナマのマスドライバーも
    超電磁レールが破壊されており、これで地球軍の宇宙へかかる橋は全て落とされたことになる。
    電子機器も破壊されたので、満足にコクピットも開けない
    ストライクダガーを前にして、PJは今後のことを考えていた。
    宇宙に上がるすべを無くしたとはいえ、地球軍はこんなにも短期間で自分たちと張り合える
    モビルスーツを用意したのだ。しかも、実弾に頼るライフルではなく、ビーム兵器の量産も成功させている。
    今はとにかく、パナマの状況の確認と、停止した地球軍のモビルスーツの解析が先だ。

    そんなことを考えていた時。

    ジンのライフルの撃鉄が弾けた。

  • 154スレ主24/10/02(水) 20:59:43

    思わず、銃声がなった方向に視線を動かすとーーー1機のジンが、
    無防備に立つストライクダガーのコクピットを、ライフルで蜂の巣にしていたのだ。

    「はっはっはっは。いい様だな、ナチュラルの玩具共!!」

    広域通信で発せられた声。
    抵抗もできず、コクピットから血を流して倒れるストライクダガー。

    なにを……やっているんだ……!!

    そうPJが声を荒げようとした瞬間、隣にいたもう1機別のジンが、
    ストライクダガーに構えていたライフルの引き金を引く。

    「血のバレンタインで、姉が死んだんだ!報いを受けろ!ナチュラルどもめ!」

    それを皮切りに、至る所で銃声が鳴り始めた。

    なんだ?

    なにが起こっている。

    なにをしている。

    一体ーーーなにをーーーしているんだ!!!

  • 155スレ主24/10/02(水) 21:01:54

    PJ「やめろ!敵はもう動けない!勝負はついた!」


    そう言って棒立ちのストライクダガーを撃とうとするジンを、

    僚機とともに押さえつけて止めようとするが、接触回線から相手の反論する声が聞こえてきた。


    「なんだとぉ!?貴様ぁ!ナチュラルの味方をするのか!?裏切り者め!」


    その声に、冷静さなど無い。まるで狂気に取り憑かれたような声だ。

    到底、ザフトの軍人とは思えない憎悪にまみれた声に、PJは驚きを隠せずにいた。


    PJ「違う!こんなことをして、何になるんだよ!!」


    何もならないはずのにーーーそれでも、放たれた最初の一撃から狂気は湧き上がり、止められなかった。



    「はん!ナチュラルの捕虜なんか要るかよ!」


    白旗を上げて施設から出てくる地球軍の兵士たち。中には負傷兵もいる。

    そんな相手に銃口を向けるジンを、アラスカから生き延びたジンが横から割って入って阻止した。


    PJ「やめろ!相手は人間だぞ!!」

  • 156スレ主24/10/02(水) 21:04:25

    武器も持たず、降伏しているんだぞ!!それを撃つのか!!正気か!!!
    そう叫んでも、相手は聞く耳を持とうともしなかった。

    「ナチュラルに人権なんかあるかよ!!」
    「そうだ!あいつらは滅ぼさなければならないんだ!!」

    そこにあったのは凄まじい憎悪だった。
    最初の一発が始まりのように、決壊したダムのように。
    投入されたザフト兵たちの心にある憎悪が溢れ出したように思えた。
    彼らには最早、軍規も何も無かった。条約を無視し、投降する兵士たちに発砲する。
    それはもう戦争ではなく、一方的な虐殺だ。

    PJ「お、お前たち……なにを……」

    狂気に塗れていくザフト兵を目の当たりにしたPJは、止めることすら忘れてしまいそうになった。

    そんな中ーー。

    二コル「やめて下さい!こんなこと……こんな……!!」

    ニコルの声が、広域通信であたりに広がる。気がつくと、アラスカの生き残りたちと、
    憎悪に暴走するザフト兵の間で争いが起こっていた。
    邪魔をするならお前たちも敵だ!!誰かのそんな怒声が響き、こちらにも凶弾が飛んでくる。

    PJ「くそ!!見境なしかよ!!馬鹿どもが!!」

    僚機とともに飛び上がったPJは、改めて混迷するパナマの様子を見渡すことになる。
    あるところでは、並べられた地球軍の兵士たちがライフルで撃ち殺され、
    あるところでは歩き廻りながら逃げ惑う兵士を撃ち殺していくジンがいる。

  • 157スレ主24/10/02(水) 21:05:09

    ディアッカ「くそぉ!やめろよ!!お前ら!!」

    ディアッカもディンで接近して、虐殺を行うジンを取り押さえる。
    しかし、相手は向こうの方が多い。一機止めても他がすぐに兵士たちに襲いかかっていた。

    イザーク「俺たちは……赤服の俺たちは……こんな……くそっ、くそぉおおおお!!!」

    イザークは叫びながら、殺戮を楽しむジンのライフルを打ち抜き、
    頭部を破壊したりと、行動不能に追いやるように行動していく。
    アラスカを生き延びた誰もが、その暴走を必死に止めようとしていた。

    その時、僚機から信じられない通信が入った。

    「隊長!!島の南東から飛翔体が!!」
    PJ「何!?」

    パナマの南東ーーー山脈地帯を挟んだ場所から、何かが打ち上げられていくのが見えた。
    あれは、基地から発射されたものではない。そもそも、電子機器を破壊された
    パナマ基地からミサイルを発射するなど不可能だ。

  • 158スレ主24/10/02(水) 21:05:30

    となれば、答えは最悪の回答に行き着く。
    PJはすぐに広域通信でザフト軍へ呼びかけた。

    PJ「こちら、パトリック・J・キャンベル!聞こえている全機に告げる!!モルガンが来る!!
    繰り返す!!モルガンが来る!!残存戦力は緊急上昇!!高度を上げて離脱せよ!!」

    それを聞いたアラスカの生き残りたちはすぐに持ち場を放棄し、
    グゥルや僚機のディンに掴まってパナマの沖合や上空へと大急ぎで退避していく。

    ディアッカ「イザーク!!」
    二コル「あのミサイルをまた!?」
    イザーク「パナマにはまだ兵士がいるんだぞ!?」

    イザークたちも上空へ避難するが、眼下では狂気に飲まれ、
    殺戮を楽しむザフト兵たちがまだ残っているのが見えた。
    そして、一定高度に上がったと同時。パナマと、
    ザフト指揮官たちが乗る艦隊の真上で、まばゆい光が花火のように広がった。

  • 159スレ主24/10/03(木) 07:35:49

    「よろしかったので?」

    パナマを脱し、宇宙へと逃れたサザーランドに

    結果を報告しにきた側近は小さな声で問いかけると、サザーランドは何でもないような顔で答えた。

    サザーランド「あそこまで制圧されれば、我々にとっての戦略的価値はあるまい。
    それならばーー尊い犠牲をもってして、成果を残して貰わねば…ね」

    結果を見て、彼は満足する。

    パナマは見事にザフトを釘付けにし、そこに放たれたモルガンによって、
    のうのうとパナマを制圧しにきたザフト軍を一掃できたのだが。

  • 160スレ主24/10/03(木) 16:35:12

    ハインズが許可を取り付けて出航したユーラシアの救助隊は、
    変わり果てたパナマの姿を目撃することになった。

    「あ、あぁあ……」

    島の形は変わり、そこにマスドライバーや、軍施設があった形跡はほとんど残っていない。
    まるで写真で見た核が打ち込まれた後のような、そんな凄惨たる状況が眼前に広がっている。

    「こんな……こんなことが……!!」

    ここまでするのかーーー地球軍は。

    こんな酷いことを、平然とできるのかーー。

    そんな思いが誰もの中にあった。こんなことが許されるのかと。
    その光景を見て、誰もが生存者は絶望的だと思い始めていた時。

    「おい!向こうに救難信号が出ているぞ!!」

    通信官が甲板に駆け上がってきて、そう叫んだのだった。

  • 161二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 21:23:47

    保守

  • 162スレ主24/10/04(金) 04:25:57

    キラはアークエンジェルが鎮座するドッグの端で一人、フリーダムのデータと格闘していた。
    いくらアラスカで戦闘が出来たとはいえ、まだパラメータ設定の
    細かいところの微調整は必要であったし、なにより、キラ自身がフリーダムの特性を完全に把握できていない。
    普段ならウィルが手伝ってくれるのだが、アーウィンの整備とクララの相手で忙しかった。
    行き交う人々の靴音と、キラが操るキーボードのタップ音だけが響く中。

    ムウ「キラ、少し良いか?」

    顔を上げると、そこにはムウが立っていた。

    キラがどうぞと横を開けると、ムウは座ってキラに買ってきたばかりの缶コーヒーを差し出した。

    ムウ「お前ら二人が戻ってきてくれて、俺は嬉しかったよ。何もしてやれなかったこんな隊長だけどな」

    コーヒーを煽りながら、ムウはそんなことを弱々しく呟く。
    マリューやアークエンジェルのクルーの前では毅然とした態度を崩さないムウも、
    きっとモルガンの直撃の後、アラスカで色々なものを見たのだろう。
    その横顔には、見るからに疲労の影が浮き出ていた。

    ムウ「キラ、お前は一人でも戦う気か?」

  • 163スレ主24/10/04(金) 13:54:57

    そんなムウの言葉に、キラのキーボードを叩く手が止まった。
    その言葉の意味を、きっとキラは推し量っているのだろう。
    アラスカでの戦闘、パナマでの戦闘。この局面に来て、地球とプラントとの
    戦いの在り方は大きく変わろうとしている。
    そんな中で、地球軍から離脱した自分たちが出来ることは何かを、考えているのかもしれない。
    キラは端末を閉じて、ムウと向き合って答えた。

    キラ「出来ることと、望むことをするだけです。それにウィルも、戦ってくれます」
    ムウ「アイツも、か」

    まるでわかっていたような口調でムウは小さく笑った。ウィルもきっとわかっている。
    フリーダムを受け取った時から、そんな簡単な答えではないと言うことを。

    キラ「私達も、このままじゃ嫌だし、私自身、それで済むと思っていませんから」

    大きな変化の波が来る。この戦争を続けていく先に待つものを、キラは薄っすらとだが捉え始めていた。
    自分は、それを何とかして止めなければならない。止めなかったら、
    大変なことになるーー人類を二分する戦いじゃ済まない、もっと大きな闇が溢れ出すことになるーー。

    カガリ「キラ!」

    話していたキラとムウの元にやってきたのはカガリだった。
    いつものラフなシャツとカーゴパンツ姿の彼女は、親指で後ろをさしながらキラに伝える。

    カガリ「エリカ・シモンズが来て欲しいってさ。なんか見せたいものがあるって」

  • 164スレ主24/10/05(土) 01:06:16

    カガリ「戻られたのなら、お返しした方がいいと思って」

    エリカとカガリに連れられてやってきたのは、アストレイのOS調整をしていた第六工廠だ。
    大きな格納庫に入ったキラたちは、そびえるモビルスーツをみて思わず目を剥いた。

    キラ「ストライク…!それに、ブリッツとバスターも!!」

    まるで新品同様となったストライク。その隣には回収され、修繕されたバスターとブリッツの姿もあった。

    エリカ「イージスも回収はしたのだけど、あれはフレームも特殊で、
    何より破損状態が酷かったから、余剰品として保管してるわ。
    デュエルも損傷が酷すぎるから新造した方が早い状態ね」

    そう答えるエリカは、こっちよと案内して、ストライクの内部パラメータのデータをキラたちに見せる。

    エリカ「モルガン直撃後に回収したのよ。一応、貴方のOSを載せてあるけど、
    その、今度は別のパイロットが乗るのかなぁと思ったもんだから」

    そう困ったように言うエリカに、キラは思わず苦笑いを浮かべた。
    それもそうだ。自分はつい先日まで戦死扱いだったのだから。

  • 165スレ主24/10/05(土) 01:10:12

    キラ「では、例のナチュラル用の?」

    キラの問いかけにエリカは頷く。あれからオーブなりにも手を加えて、その完成度はかなり上がっている。
    ストライクを動かすにしても、申し分ないレスポンスを発揮できるだろう。

    カガリ「私が乗る!」

    全員が考え込む中で、真っ先に声を出したのはカガリだった。

    カガリ「あ、もちろんそっちがいいんならの話だけど」

    そうおずおずと言った感じで言うカガリに、キラは付いてきていた
    アルコンガラのみんなや、アークエンジェルの下士官たちに目をやる。

    キラ「トールは乗らないの?」
    トール「俺はパス。今はーー俺はこのままがいい」

    そう感慨深く言うトールに、キラはそっかと頷く。
    きっとトールは、ボルドマン大尉の思いを考えているのだろう。
    それにグレーフレームはアルマの手によって大幅な改造が施されている。

  • 166スレ主24/10/05(土) 01:10:52

    具体的に言えばフレームと装甲はガンダリウム合金セラミック複合材に変更。
    マグネットコーティングと施したフィールドモーター方式のムーバブルフレームとなり、
    スラスターはアルコンガラでも使用されているプラズマエンジンに変更。
    バッテリーも後に登場する大型MAに匹敵する大容量の物に変更され、
    ストライク形式のストライカーパック用プラグも増設されている。

    ハッキリ言ってストライクを大幅に上回る総合性能を獲得している。 

    では、アークエンジェルでも持て余すからーー。とマリューが声を出そうとした時。

    トーリャ「いいや、駄目だ」

    トーリャがぴしゃりとカガリの提案を却下する。パイロットになることに
    浮き足立とうとしていたカガリは、出鼻が挫かれたのか、不満そうにトーリャを睨みつけた。

  • 167スレ主24/10/05(土) 01:11:06

    カガリ「なんで!」
    トーリャ「ーーー俺が乗る」

    その言葉に、その場にいる全員が声を無くした。

    トール「えー!?」
    マリュー「ちょ、ちょっと…准尉!」
    トーリャ「じゃないんじゃない?もう…。マリューさん?」

    驚きを隠せないマリューにトーリャは答える。それに、
    とトーリャはストライクを見上げながら思うのだ。
    ここにたどり着くまでに多くの犠牲を払って来た。
    連合は自前の量産モビルスーツの配備に成功し、
    ザフトも高性能な量産機を次々と配備している。
    最早これまで使って来た改造鹵獲ジンでは力不足だ。 

    この機体をモノにできたのならばーー、自分はきっと、今度こそ、守りたいものを守れる。

    そんな気がしたのだ。

  • 168スレ主24/10/05(土) 04:19:40

    キラ「いきなり私と模擬戦は、いくらなんでも早すぎると思いますけど…」
    トーリャ「うるせー!生意気言うんじゃないよ!いくぞ!」

    その後、ソードストライカーを装備したストライクに乗るトーリャが、
    調整を兼ねたフリーダムとの模擬戦を、数十時間に渡って繰り広げることになるのだったーー。

  • 169スレ主24/10/05(土) 13:29:52

    「見ればわかるでしょ!!担架を早く持ってきて!!」

    急遽出航し、翌日の朝に戻ってきたユーラシア連邦で構成された救援隊は、被弾したザフト艦や
    損傷したモビルスーツ、そして負傷したザフト兵を向かった人数の倍乗せて、オーブへと帰還を果たしていた。

    「重症者はタグをつけてある!このリスト順に運び出してくれ!」
    「医療班が来るぞ!さっさと退くんだよ!!」

    入港した空母スプレッドからは、ノーマルスーツ姿の者や、
    艦内で応急手当てを受けたザフト兵が、重症ランク順に運び出されていく。
    そんな中でも、やはり一刻を争う状態の負傷者もおり、
    その横では負傷兵の血で汚れた地球軍兵士が力強く、相手の手を握り励ましながら治療に当たっていた。

    「大丈夫だ!この程度なら死にはしない!お袋さんに顔を見せるんだろ!!気張れ!」

    そんな喧騒に包まれるドックの中で、地球軍兵士は、救助されたザフト兵から
    パナマ基地であった出来事を聞いて、苦虫を噛み潰したように顔をしかめる。

    「くそぉ……!!ザフトも、地球軍も無茶苦茶しやがる!!」
    「どうなってるんだよ……この戦争は……」

  • 170スレ主24/10/05(土) 13:30:28

    誰もがそんな不安に苛まれていた。

    パナマの惨状を目の当たりにしたスプレッド艦長からの報告を
    聞き終えたハインズは、疲れたようにこめかみに手を添える。
    写真から見てもわかるように、パナマ基地には最早基地と呼べる機能は残っていない。
    それどころか、地形がわずかに変わってしまうほどの爆発だったのだ。
    残っていた地球軍兵士も、それを虐殺していたザフト兵たちも、
    指揮していた者たちも、モルガンの炎で焼かれてこの世を去っているのだろう。
    生き残っていたPJと予想外すぎる再会を果たしたハインズは、
    彼の証言から、パナマがこの世の地獄と化していた様相を想像した。
    ただ、その想像を絶する狂気は味わった者にしかわからない。想像はできても、
    それを共感することは不可能だ。しかし、少なくとも、PJを含めた生還者の皆が、
    心身ともに相当のダメージを負っていたのは一目でわかった。

    とにかく、今は彼らの精神面と肉体面の休息が必要だ。そうハインズが考えていると、
    部屋にノックが鳴り響く。一声で答えると、先ほど連絡を取った人物が姿を現した。

    ハインズ「ウズミ様」

    立ち上がって敬礼をするが、ウズミはやんわりと手で制した。ハインズが与えられた
    臨時執務室はドッグ近くの部屋で、そこからは運び出されていくザフト兵の姿もはっきりと見える。

    ウズミ「辛いものですな…こういう事は」
    ハインズ「すいません、我々の無茶を聞いていただいた上に、負傷者の搬入まで許可していただけるとは」

  • 171スレ主24/10/05(土) 20:04:21

    事実、オーブは自分たちの行動を後押ししてくれていたのも確かだ。
    オーブ領海線に帰還してからはすぐ救急艇がやってきて、危険な状態であった
    ザフト兵たちの治療を開始してくれたし、ドックの搬入もすぐに対応してくれた。
    出航時、もし地球軍、またはザフトに捕捉され砲撃されても、こちらは手助けはできないと言われた時は、
    戻るまでが自分たちの使命だと思っていたが、ここまで手を貸してくれるとはハインズは考えてもなかった。

    ウズミ「私は、オーブの理念と在り方に従ったまでですよ。それに、貴方方の行動、私は誇りに思います」
    ハインズ「そう言って頂きありがたいです」

    柔らかく微笑むウズミに一礼すると、彼はザフト兵に肩を貸す
    地球軍兵士の姿を見て、感慨深くため息を漏らしてから、呟いた。

    ウズミ「貴方方は、この戦争の先にーー何を見ますか?」

    果たして、パナマの出来事が戦争と言えるのだろうか……いや、この戦争自体が、
    そう言った方向に転がり落ちて行っているようにハインズには思えた。
    だが、自分たちは地球軍の制服を脱げていない。
    これを脱ぐことに、抵抗を感じている自分がいるのも事実だった。

    ハインズ「まだ……わかりません。ただ、ひとつだけ言えることはあります」

    ウズミはこちらに目を向ける。その目に臆さず、ハインズは真っ直ぐと言葉を紡いだ。

    ハインズ「ーーこの戦争の行き着く先は、深い闇だと言うことです。人の業が生み出した、底知れぬ闇へ……と

  • 172スレ主24/10/06(日) 07:48:26

    地球軍、プトレマイオス基地。

    地球連合軍の月面基地の1つでプトレマイオス・クレーターに建設された軍事拠点であり、
    最大規模の連合宇宙軍基地。複数の艦隊が駐屯している。
    地球連合宇宙軍の総司令部であるため、月本部とも呼ばれる。

    「何たる様だこれは!ジョシュアが成功しても、パナマを落とされては何の意味も無いではないか!」

    その基地内の会議室では、月本部の上層部とパナマから上がってきた
    地上の上層部との会議が行われていたが、事態は深刻だった。

    「パナマポートの補給路が断たれれば、月基地は早々に干上がる。それでは反攻作戦どころではないぞ!」
    「ビクトリア奪還作戦の立案を急がせてはおるが…無傷で
    マスドライバーを取り戻すとなると、やはり容易にはいかぬ」

    アラスカ基地とパナマ基地が「ザフトの攻撃」により壊滅した今、宇宙で展開する拠点は窮地に立たされている。
    補給路が寸断されれば、武器、弾薬、人員だけではない。水も食料も、更には空気すらも枯渇していく。

    「オーブは…オーブはどうなっている!」

    そういった彼らには、もはや体裁はなかった。一刻も早く、この危機的状況を打開しなければならない。

    「再三徴用要請はしておるが、頑固者のウズミ・ナラ・アスハめ!どうあっても首を縦に振らん」

  • 173スレ主24/10/06(日) 15:54:45

    そう苛立ったようにいう上層部の人間を見ていたウィリアム・サザーランドは、その重たい口をゆっくりと開く。

    サザーランド「それは中立だからか?いかんな、それは。皆命を懸けて戦っているというのに。人類の敵と」
    「サザーランド大佐。そういう言い方はやめてもらえんかね。我々はブルーコスモスではない」

    そう言う月の指揮官に、サザーランドはわずかに眉間に力を込めてから、穏やかな表情の仮面をかぶる。

    サザーランド「これは失礼致した。だがーーこの期におよんでそんな理屈を
    振り回しているような国を、優しく認めてやる必要があるのか?
    もう中立だのなんだのと、言ってる場合じゃない」
    「オーブとて、歴とした主権国家の一つです。仕方あるまい」
    サザーランド「地球の一国家であるのなら、オーブだって連合に協力すべきだ!違うか!」

    ダンっと拳を落として、サザーランドは力説する。
    宇宙からの脅威に対抗するには、地球の連合諸国が協力し合わなければならないと。

    「今はともかくマスドライバーが必要だ。早急に。どちらかが、或いは両方か」
    「それはそうだが…」
    「皆様にはビクトリアの作戦がある。ならば分担した方が効率いいーーーそれに」
    「アズラエル氏の用意した「新兵器」。あのお披露目には打ってつけだろう」

  • 174スレ主24/10/06(日) 19:21:09

    今、地表上の情勢は混沌としている。

    アラスカ基地の次に重要な戦略目標は連合パナマ基地は結果的に成功したのだが、
    それは電磁波兵器を使った奇襲が有効だったからであり、その切り札を切ってしまったのは痛い。
    電磁波兵器は一度目ならたいそう有効でも二度三度は使えない。防護手段の開発においてザフトが
    先行するのは当たり前だが、連合も直ちに追従してくるだろう。その技術自体は大したハードルではない。

    おまけにザフトは味方ごとモルガンで吹き飛ばすという、
    連合の大胆な策にはまり大きな痛手を受けてしまった。
    地表におけるモビルスーツを含む兵器の半数は失われてしまい、そんな有様では
    快進撃など今後不可能だ。つまり当初目指した急戦での決着が難しくなった。
    一度の失敗でこうなるとは……元々生産力では綱渡りだったのだ。

    ただし、ザフトがパナマ基地を攻略したのには意味がある。
    これで連合は完全にマス・ドライバーを失った。

    宇宙とのやりとりは片道になった。もはや連合が物資を宇宙に送ることはできない。
    これでは再建途中のアルテミス要塞、そして月面最大の連合軍基地である
    プトレマイオス基地への補給もままならないではないか。連合の宇宙拠点が軒並み干殺しにされてしまう。
    そして宇宙艦を送ることもできない。パナマ基地のマス・ドライバーは本来その機能はないが、
    転用可能との目算があり、アラスカ基地の自爆はそれを前提としたものだ。
    今、連合がいくら宇宙艦を建造しても宇宙に送ることはできず、
    ザフトとの戦争で土俵に乗ることさえ無理となった。

    連合が戦いに勝つためには絶対にマス・ドライバーが必要となる。

  • 175スレ主24/10/06(日) 23:01:30

    連合はザフトの持つマス・ドライバーを奪わねばならなくなったが……
    アジアのカオシュン基地のものは、ザフトの最大地表基地であるカーペンタリア基地から近過ぎる。
    もしここを狙えば乾坤一擲の大勝負になってしまうだろう。

    最後に残された可能性、それはアフリカのヴィクトリア基地のものである。
    これはせっかくアーク・エンジェルが陥とし、連合のものとしたのにもかかわらず、
    既にザフトによって奪い返されている。
    その当時はアラスカ基地もパナマ基地も健在で、連合にとって戦略的価値が低いと見なされてしまったからだ。

    連合は再度奪還を目指すが……これが簡単にはいかなかった。
    ザフトだって馬鹿ではなく、連合の意図を理解して備えている。
    地政的な理由も大きい。ヴィクトリア基地は海岸の近くにはなくアフリカの中央にある。
    そこを攻めるには陸上戦力を送らねばならないが、それができないのだ。
    ザフトのジブラルタル基地がまさに要所を占めており、
    連合がヨーロッパ方面からアフリカに進軍しようにも阻まれる。
    逆の中東方向から向かうのは……それもまた無理だった。
    スエズから南下しようにも途中でザフトの砂漠の虎が襲撃してくる。
    大幅に増強されたバルトフェルドの砂漠の虎は、連合軍を迎え撃って通らせない。
    得意の砂漠で戦わせたら砂漠の虎はほぼ無敵である。

  • 176スレ主24/10/07(月) 08:24:35

    連合はついに禁じ手に手を出す

    もう一つだけ、地表にはマス・ドライバーが存在する。
    中立国オーブのものだ。
    そこでオーブを連合の属国にしてしまい、そのマス・ドライバーを使おうとした。
    名目はいかようにも付けられる。ザフトの攻撃が迫っているとでっちあげ、保護してやろうとでも言えばいい。
    これまでオーブは独自に宇宙開発を進め、ヘリオポリスやアメノミハシラといった自国製の宇宙拠点を持ち、
    そのためにマス・ドライバーを所有していた。それが仇となったのだ。

    「速やかに連合に加わり、傘下に入られたし。国家主権の一時放棄を勧める。
    これは全てオーブの安全と発展のためである」

    連合からオーブへ通告されるが、ただの脅迫であることは隠しようもない。
    オーブという国家の消滅、そして中立という概念の破棄を迫っている。

  • 177スレ主24/10/07(月) 16:32:26

    ウズミ「断れば軍事侵攻か……どこまでも連合は傲慢だな」

    そうオーブのウズミ・ナラ・アスハ国家元首は呟く。
    連合の要求はさほど強いものではなく、連合に入ってもとりあえずは
    マス・ドライバーの自由な使用と軍事技術の供与くらいなものだ。

    しかし、それで済まないことは目に見えている。

    連合に組み入れられたら、オーブはナチュラルとコーディネイターが仲良く共存する楽園ではなくなる。
    ウズミは連合軍の背後にブルーコスモスという強硬派が存在することを気付いており、
    いずれオーブ国内が小さな戦場と化してしまうのは目に見えている。
    連合の一部になった時点で国民は守れなくなるのだ。

    かといってのらりくらりと先送りにすることもできない。

    いくらオーブ側が交渉を申し込んでも連合は応じない。連合は落としどころを全く考えず、
    あくまでオーブが素直に要求を呑むか、軍事で決着をつけるか、
    どちらかしか考えていない。マス・ドライバーを手に入れるのがもはや既定路線である。
    いくら筋の通らぬことと声高に叫んでも、もはや大西洋連邦に逆らえる国もない。ユーラシアは既に疲弊し、
    赤道連合、スカンジナビア王国など、最後まで中立を貫いてきた国々も既に連合に組み伏せられている

  • 178スレ主24/10/07(月) 16:48:09

    「ウズミ様……」

    官邸の執務室では、幾人かの有識者とオーブ名家の当主たちが集まり、今後の方針に関して話を続けていた。

    ウズミ「陣営を定めれば、どのみち戦火は免れぬ」

    言い訳にも聞こえるだろうが、事実だ。現に今は、ザフトからカーペンタリアでの
    会談の申し入れがきている。おそらく、ザフトに協力した時の対価とそれに伴う補償の話であろう。
    しかし、ここからカーペンタリアに行ったとしても、48時間以内に地球軍に対抗できるザフト部隊を、
    このオーブに揃えるなど不可能だということは、誰の目からも明らかだった。
    連合の要求を蹴れば戦いになり、もしも戦えば……結果は目に見えている。
    技術的に優れたモルゲンレーテ社を抱えるオーブといえども連合の物量を撃退できるはずがない。

    「解っております。しかし…」
    ホムラ「ともあれ、オノゴロ島全域に避難命令を…ヤラフェス島には外出禁止令を」

    狼狽える当主陣に、ウズミの後ろに控えていたホムラが口を開く。

    「ホムラ代表…」
    ホムラ「子供等が時代に殺されるようなことだけは、避けたいものだが……」

    どこか遠くを見ながら、ホムラはこのオーブのいく先がどこになるのか、思いを巡らせているのだった。
    大きな流れに押し流され、中立国オーブはその崇高な理念と共に消え去る運命なのか…… 

    だがせめて抵抗はしよう。

    それは連合へ利することがないよう、マス・ドライバーを破壊することと、
    モルゲンレーテ社の情報を消すことである。オーブにとって痛手となるものだが、
    中立の理念を見せなくてはならない。

  • 179スレ主24/10/07(月) 20:35:10

    「おーい!全クルー集合だってよ!」

    アークエンジェルとグレートフォックスとユーラシア連邦艦隊、そして救助されたザフトの部隊が
    入港するドッグの大型ミーティングルームには、連絡で伝えられた
    各陣営の兵士たちがすし詰めになるように集まっていた。

    『間もなく、政府より重大な発表があります。
    国民の皆様はどうか、どなたもこの放送をお聞き逃しのないようご注意下さい』

    ミーティングルームに複数設置されたモニターには、緊急速報と名を打たれた臨時ニュースが映し出されており、
    国民やこの場に集まったクルーたちへ、記者会見の準備をする様子が生中継で放送されている。

    そんな中、正面の壇上にマリュー、ナタル、ジャック、ハインズ、PJと、各勢力を代表する面々が並んで現れた。

    ハインズ「現在、このオーブへ向け、地球連合軍艦隊が侵攻中だ」

    ハインズの一言に、その場にいる全員がざわめき出した。地球軍がオーブに?そんな疑問を
    抱くものはここには居ない。アラスカとパナマの地獄を知っているからこそ、
    あの地球軍がここに侵攻してくることに容易に納得できてしまったからだ。

    マリュー「目的はオノゴロ島のモルゲンレーテとマスドライバー。
    地球軍に与し、共にプラントを討つ道を取らぬというのならば、ザフト支援国と見なす。それが理由です」
    「なんだそりゃぁ…」
    「ふざけてやがる…」

    ハインズに続いたマリューの言葉に、全員のざわめきがさらに大きくなっていく。パナマであれだけのことを
    しておきながら、尻拭いを中立に押し付けるのか。それも逆らえば武力で無理矢理奪い取るなど
    ーーやっていることに、もはや軍としての規律や道理など存在しなかった。

  • 180スレ主24/10/07(月) 20:36:05

    ジャック「オーブ政府は、あくまで中立の立場を貫くとし、現在も外交努力を継続中ですが、残念ながら、
    現状の地球軍の対応を見る限りにおいて、戦闘回避の可能性は、絶望的と言わざるを得ません」
    PJ「オーブは全国民に対し、オノゴロ島の都市部、及び軍関係施設周辺からの退去と、ヤラフェス島全域に
    外出禁止令を命じ、不測の事態に備えて、防衛態勢に入るとのことだ。
    回避不能となれば、明後日0900時に、戦闘は開始される」

    そのPJの言葉で、ミーティングルームがシンと水を打ったように静まり返る。つまりはーーそういうことだ。

    マリュー「我々もまた、道を選ばねばなりません」

    マリューの言葉が、この場にいる全員に、
    自分たちがある意味での分岐路に立っているということをはっきりと自覚させていく。

    マリュー「現在、アークエンジェルを含めたユーラシア連邦艦隊、
    ならびにパナマで救助されたザフト軍は、陣営も立場も定かでない状況にあります。
    この事態に際し、我々はどうするべきなのか。命ずる者もなく、
    また我々もあなた方に対し、その権限を持ち得ません」

    今の自分たちは明確な軍属にいる軍人ではない。
    ザフト組が集まる壁際に立つイザークは、ゆっくりと瞑目して、自分の立場を見返していた。

    オーブを守るべく、大西洋連邦と戦うべきなのか。またはそうではないのか。

    いや、一人の人間として、この状況でどんな答えを出すべきなのか。それを問われているような気がした。

    ハインズ「我々は皆、兵士としてではなく、個人で判断せねばならん。よってこれを機に、
    この艦隊を離れようと思う者は、今より速やかに退艦し、オーブ政府の指示に従って避難してくれ」

  • 181スレ主24/10/07(月) 21:08:45

    ハインズの言葉で、誰もが息を飲んだ。

    ジャック「地球軍兵も、ザフト兵も、分け隔てなくオーブは引き受けてくれるとのことです。
    また帰国や原隊復帰を望む場合も、可能な限り手を尽くしてくれるとのことです」

    ここだ。ここで自分の答えを出さなければーーもう後戻りはできない。現実を見ずに
    また陣営に分かれて戦うのか、それとも現実を見て真に戦わなければならないものを見極めるか。

    道は二つに一つだ。

    そんな中で、アークエンジェルの艦長であるマリューは、
    ジャックとハインズとPJの前に出て、アークエンジェルのクルーたちに敬礼を打った。

    マリュー「この場を借りて、アークエンジェルクルーに伝えます。
    私のような頼りない艦長に、ここまで付いてきてくれて、ありがとう」

    そう言って微笑むマリューに、目を背けるものは少なく、毅然と真っ直ぐとした瞳で敬礼を返したクルーたち。

    オーブの戦いは目前に迫っている。

    だが、まだ答えを出せない者も多くいるのだった。

  • 182スレ主24/10/08(火) 08:05:51

    カガリ「キラー!」


    ミーティングが終わった後、フリーダムの調整や、アサギたちが訓練する

    アストレイの微調整のために工廠へ向かっていたキラを、オーブの正装姿のカガリが大声を上げて呼び止めた。


     


    キラが振り返ってカガリを受け止めると、カガリは戸惑った様子で

    キラの名前を呼び、その手は微かに震えているように思えた。


    キラ「ちょっと落ち着きなよ。そんな服着てる人が慌ててると、みんなが不安がるよ?」

    カガリ「え!?あっ、そ…そうか…そうだな。いやでも…オーブが戦場になるんだ!…こんなこと…」


    目に見えてカガリは困惑していた。それもそうだ。自分の国が、これから戦場になるかもしれないのだ。

    恐れない方がおかしい。震えるカガリに、キラは優しい声で語りかける。


    キラ「でも正しいと思うよ。私は」


    キラの言葉に、カガリが驚いたような顔をした。たしかに、オーブのとった道は、一番大変だと思う。


    けれど正しい道だ。


    正しい道、正しい真実に向かうことは、決して間違っていないのだ。


    それで深く傷つこうとも、それで大切なものを失うことになっても。


    カガリ「キラ…」

    キラ「だから、カガリも落ち着いて。出来るかどうか分かんないけど、

    〝私達〟も守るから。カガリのお父さん達が守ろうとしているオーブって国をさ」

  • 183スレ主24/10/08(火) 18:41:23

    サイ「そっか。カズイ、降りるんだな」

    あのミーティングのあと、アークエンジェルから退艦するクルーは少なからず居た。
    その中には、サイたちがよく知る学友であるカズイも。

    カズィ「…サイは降りないの?」

    見送りにきたサイやミリアリア、トールを不安そうな目で見渡しながらカズイは弱々しく呟く。
    その言葉にサイは首を横に振った。

    サイ「俺は残るよ。キラやトールも……フレイだって放っておけないし。
    それに攻撃されんのオーブなんだし。今、俺にも出来ることあるから。
    さっき、家にも電話して、そう言ってきた」
    カズィ「けどさぁ…あ、ミリィは降りるよね?女の子なんだし…」

    そう言って今度はミリアリアに目をやるが、彼女も困ったような笑みを浮かべて首を横に振る。
    ミリアリアも、トールを放っておけないし、気持ちとしてもサイと同じだった。
    それを見て肩を落とすカズイに、サイはため息をついて肩に手を掛ける。

    サイ「カズイ」
    カズィ「な、なんだよ」
    サイ「他の奴のこと、もう気にすんなよ。自分で決めたことなら、それでいいじゃんか。みんな違うんだから」

  • 184スレ主24/10/08(火) 20:00:37

    カズィ「けど…俺だけ降りるって言ったら…みんな臆病者とか卑怯者とか…俺のこと思うんだろ!?
    ウィルみたいな二歳も年下の子供でもズタボロになるまで戦ってるのにさ!
    どうせ、そうだろうけどさ…でも…だって俺、出来ることなんかないよ…戦うなんて!
    そんなことは出来る奴がやってくれよ…!!」

    そう泣きそうな声で零すカズイの言葉は、ずっと隠してきた本心だった。ずっと本心をひた隠して、
    アフリカも、ソロモン諸島も、アラスカも戦ってきた。
    けれど、割り切れもしないし、その想いは大きくなる一方だ。
    誰もが使命のために殉じられるわけじゃない。自分の命が大切なんだとカズイはサイの目を見て訴えかける。

    その言葉に、サイの隣にいたトールは「卑怯者なんて思わねぇよ」と優しく微笑む。

    トール「解ってるよ。向いてないだけだよ、お前に戦争なんてさ。カズイは優しいから」
    カズィ「トール…」

    そう言って、トールもカズイの肩に手を掛ける。別れる時は笑顔だろ?
    と言ってトールは笑うと、サイもミリアリアも微笑んだ。

    トール「平和になったら、また会おうな。それまで、生きてろよ」
    カズィ「サイ…。みんな…俺…ごめん」

    何もできない、弱い自分でごめん…そう言ってカズイは、
    みんなに支えられながら涙を流して、アークエンジェルを降りていくのだった。

オススメ

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