- 1124/10/03(木) 22:19:59
家族ぐるみの付き合いだった。親が幼馴染同士だとかで、物心着く頃には遠くの親戚よりよっぽど近しい関係にあった。早々に孕んだ私の親とは違い彼らはなかなか恵まれなかったようで、私のことを実の子のようにかわいがってくれていたことをよく覚えている。
私が高学年に上がる頃、漸く実った彼らの愛の結晶は、彼女の腹の中ですくすくと成長していった。そうして十月十日の後に生まれ落ちた子と、出産を無事乗り越えた彼女への見舞いに訪れた時、私はふにゃふにゃで真っ新な赤ん坊を抱いた。その瞬間に私は悟った。この子は、羂索なのだ、と。
まだお名前決めてないのよ、迷っちゃって。母となった彼女がそう言って笑うので、私は咄嗟に口走った。
「羂索」
聞き慣れない言葉だからだろう、きょとんとした彼らと両親に向けて、そして腕の中の赤ん坊に言い聞かせるように、もう一度。
「この子は、羂索がいい」
その言葉の意味を教えれば、ふたりはいい名前だと気に入ったらしかった。両親には相変わらずの博識だと褒められた。
それから年月は経ち、あの子が中学に上がろうという頃。私とあの子の両親が事故で亡くなった。飛行機の墜落だった。羂索のことは私が預かっているからと彼らに勧めた、ダブルデートならぬダブル夫婦旅行でのことだった。
あまりに呆気のない別れで、私は薄情にも涙のひとつさえ流すことなく葬儀を終えた。記憶があることも要因だろう。対して羂索は、それはもう泣きじゃくり、食事もまともに取れないほど沈み込んでいた。毎日のように遊んでいた宿儺たちとも会うことを拒んで、当然卒業を控えた学校にも登校しない。
その落ち込み様を見た私はーー好機だと思った。酷い奴だと自分でも思う。
既に成人し安定した収入も得ていた私は当然の如く羂索を引き取り、毎日毎日傍に寄り添った。優しい温もりで包み込み、甘やかな言葉で心を解きほぐした。その甲斐あってか暫くすれば立ち直り始め、学校にも通えるようになり、なんとか卒業式への出席はかなった。
だからその慰めの延長線上にあったのだ。知識の浅いあの子に気持ち良さを教え込み、私の腕の中で善がらせるのは。もう13になった、平安の世なら充分婚姻できる歳じゃないか。
「羂索、あいしているよ」
幼い寝顔を晒す羂索へ、囁きと共に口付けを落とす。それが私の毎夜の日課だった。 - 2124/10/03(木) 22:23:58
- 3124/10/03(木) 22:25:06
天羂純愛SSスレですよろしくおねがいします
- 4二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 22:26:55
たておつ!!純…愛…??そうかな…そうかも…
- 5二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 22:36:38
なんで親はこれ放置してるんだと思ったらどっちも…亡くなってたのか……
- 6124/10/03(木) 22:58:29
(独占(束縛)型と言いつつ他の型も混ざってるなということには気が付いております……メインがそれだということでどうかひとつ……)
- 7124/10/03(木) 23:04:16
差し出された真白の手を、羂索はーー
「巫山戯ないで」
パシンと振り払った。それでもなお顔色ひとつ変えない天元をキッと睨み付ける。震えそうな唇をキツく噛み締めた後、努めて冷静に言葉を吐き出す。
「弁明、できるのならしてよ。ちゃんと聞くから」
盗撮も、盗聴も、収集も。しかし天元は緩く首を振った。
「そんなものはない。君の知った全てが釈明の余地などない事実だ」
「っ……!」
途端じわじわと溢れ出す涙。どこかで期待していたのかもしれない。誤解だと、これには正当な理由があるのだと。……あんなものに、そんなものがあるわけはないのに。
羂索は戦慄く唇を開いて、震える声で思いの丈を叫んだ。冷静に、冷静に、そうは思っても、とてもではないが取り繕うことなどできはしなかった。
「君にとって私はなんなんだ、天元!自分の思い通りになる人形が欲しかったのか!?だから中学に上がってすぐの私に手を出したのか!?」
「羂索」
「愛してるなんて全部嘘だったんだろう!!」
一陣の風がふたりの間を吹き抜けていく。それを合図にしたかの如く、鴉たちが一斉に飛び立っていった。人の気配どころか動物の気配さえ遠ざかり、消える。沈黙ーーそして、静寂。
無意識のうちに呼吸を止めていたことに気付いて慌てて酸素を吸い込んだ。急激な供給に驚いた体は拒絶反応を起こし咳き込む。背を摩ろうと動いた天元を、羂索はゲホゲホと続く咳の合間に鋭い声音で突き放した。
「来ないで!!ゲホッ、触ら、ゴホッ、ないで!!」
天元の動きがピタリと止まる。辺りに羂索の苦しげな咳と呼吸音だけが響いた。
暫くして漸く治まった羂索は、口元を拭うと、改めて天元を見る。どこか悲しそうな表情を浮かべていて、言い過ぎてしまった、と良心がチクリとした。責めたいわけじゃない、ただ理由を聞きたかっただけなのに。 - 8124/10/03(木) 23:04:36
「てんげん、」
拳を握り締める。深く息を吸い込んで、語気を強めないように、感情を昂らせないように、そう言い聞かせて。
「君は私を、愛玩人形にしたかったのか」
「違う」
即座に返る否定。羂索は続く言葉を待った。
「私は君を人形だなんて思ってはいない。嘘偽りなく愛しているんだ。君に囁いた愛は全て本心だ」
「……中学に上がったばかりで手を出したのは」
「自制心が効かなかったんだ。君があんまりかわいいものだから」
「……なんで盗聴とか、あんなこと、」
「君の全てを把握しておきたかった」
再び天元の手が伸ばされる。羂索の頬を包み込んで、愛おしげな眼差しを注いで。
「君は私のーー私だけのものだから。私の知らない君が存在して、それを何処の馬の骨とも知れぬ輩が知っている、なんてことは許せないんだ」
吐息が肌を擽るほどに近付いた唇が、妖しく弧を描いた。
「ーーだから帰ろう、羂索」
もう二度と、外界への希求など持たぬように。 - 9二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 23:41:34
天羂純愛とても嬉しい
前スレの宿儺の言い方的に天元は前世から羂索にヤンデレてたのかな? - 10二次元好きの匿名さん24/10/03(木) 23:41:52
10まで保守
- 11二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 04:37:28
あかん反省してないぞこのヤンデレ
羂索!!もうちょい!!もうちょい話し合わないと籠の鳥にされるぞ!! - 12二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 09:15:26
どうする羂索…ひやひやドキドキする…
- 13二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 18:46:33
保守
- 14二次元好きの匿名さん24/10/04(金) 22:17:39
天元…完全に羂索を籠の鳥にするつもりだ…!
羂索の性格は知ってるだろうに、前世の反動か執着が凄いな…もしかして天元、何か妙なのに呪われてる? - 15二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 06:44:24
マジで愛が歪んだ呪いになってる…
- 16二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 16:46:34
天元様……
- 17124/10/05(土) 16:50:14
本心なのだろうと思った。紛れもなく、全て。愛しているという言葉も、誰よりも知っていたいという欲も。
羂索は頬に添えられた天元の手に自身の手を重ねた。
「帰ろう、羂索。私たちの家に」
畳み掛けるような言葉。思わず頷いてしまいそうになった羂索を遮るように脳裏に過ぎった、宿儺の言葉。
ーーいいか、絆されるなよ。ここで貴様が妥協してしまえば、この先ずっと何ひとつ変わることはない。
今回発覚した所業に恐怖と嫌悪を抱くなら、簡単には許してはいけないと。絶対に二度としないと確約するまでは頷いてはいけないと。そう言われたのである。瞬きをひとつ、それから羂索は天元の手を柔く握って、そっと頬から引き剥がした。
天元は何ひとつ変わるつもりなどないのだ。謝罪の言葉も、これからはしないという約束の言葉も、彼女の口からは一切出てはこないのだから。
一歩、また一歩と下がった羂索は、相も変わらず微笑みを浮かべる天元に向けて、言い放った。
「別れよう」
一瞬ーーほんの一瞬。天元の微笑みが歪んだのを、羂索は見逃さなかった。すぐに取り繕われたその下で、いったいどんな感情が渦巻いているのか。想像するだけで身震いしてしまいそうな自身を奮い立たせて、羂索はなおも言い募った。
「一度別れよう、天元。私たち、きっと、距離を置いた方がいいんだ。だってずっと一緒にいたんだよ」
物心着いた時には既に傍にいた。天元が学生の頃は常にとはいかなかったが、時間の許す限りずっと一緒だった。
だから離れた方がいいのだと羂索は思った。羂索は天元の手が届かない世界を深くは知らないし、天元もまた羂索から長く目を離したことがない。一度経験してみたら変わるんじゃないか、羂索は天元の庇護下を離れて生きてみる、天元は羂索から意識を遠ざけて他に注目してみる、そうすればこの歪みも治るんじゃないか。
「嫌いになったからとか、他に好きな人がとか、そういうのじゃないよ。でも、ほら、お互いのために……」
「油断も隙もないな」
溜め息を吐いた天元は、距離を詰めて羂索の"額"に手を伸ばした。親指でぐいっと拭うように撫でる。もはやその顔から微笑みは消えていた。
「宿儺たちに誑かされてしまったのか」
「ちがっ」
「今更離れるなんてそんなこと、許すわけがないだろう」
「てん、」
「かつて置いていかないでくれと縋ったのは君の方なんだからな」
「え……?」 - 18124/10/05(土) 16:50:29
否定を挟む暇さえなく並べられた言葉の羅列に、羂索はぴたりと固まった。全く身に覚えのない話だ。いや、幼少期の事ならば記憶になくてもおかしくは……?天元が羂索のことで記憶違いをしているとはとても思えなかった。
なんの事だか分からず軽く混乱する羂索に対してふっと笑った天元がまあしかし、と続ける。
「彼らのことも忘れるくらい愛せばいいだけだな」
ーー思わず逃げ出してしまうほどに天元の微笑みは恐ろしく、羂索はもう戻れないのだと悟ったのであった。 - 19二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 16:55:52
あっまずいバッド一直線…逃げ切れ羂索!!!すっくん!すっくん助けて!!!
- 20二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 19:10:06
愛の伝道師!!頼む!!今すぐここに来てくれ!!
- 21二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 21:08:09
天元がここまで悪化したのって羂索の過去の事故(額の怪我のやつ)が関係してたりする…?目を離した間に大怪我したのが天元のトラウマになって両親の事故死も相まって過激になってる的な…