SS 宿儺おじさんと夏休み

  • 1二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 18:04:32

    宿儺おじさんと夏休み

    青い夏 目覚まし代わり 蝉時雨 


    呪いの王、両面宿儺は縁側に寝転んで、庭を歩く雀の戯れをなにとなしに眺めていた。血を吸おうと近づく蚊を八つに割いては吹いて飛ばす。


    (まさかこの体のまま生まれ変わるとはな…)

    二面四臂の怪人として平安の世を生きた最強の呪術士も予想外のことに少々困惑している。魂が転生の旅に出て自我も解けて新たな存在へと変わるのだろうと思っていたが、魂や記憶どころか肉体までほぼそのまま放り出されるとは思ってもいなかった。


    なにしろ腕四本の大男が全裸で急に出現したので田舎町の役所は騒然となった。結局のところ記憶喪失の身元不明人という扱いになり、役所が身元引受人として彼の生活を保障することとなった。

  • 2二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 18:05:33

    「犯罪の被害者とかかもしれないよね。それにほら、多様性の時代じゃない?」
    老齢の町長はそう言って四本腕の大男を受け入れることにした。


    ちょうど農繫期であったため手持ち無沙汰であった彼は戯れに伸びきった草むらに腕を振るってみたところ、広範囲に背丈ほどまで伸びていた草むらが一瞬にして刈られていった。どうやら術式すらそのままのようだが、今の彼には呪いを振りまくほど腹の底に呪詛がたまっていなかった。

    一瞬の草刈りを町人に目撃されて以来、耕運機など比較にもならないような一瞬の仕事に魅了された町人たちの依頼に、しぶしぶながら付いていく呪いの王であった。


    報酬として新米を捧げられるようになってから、自らの身の変わりぶりに独り嗤う。「腕おじ」と子供たちに呼ばれるようになったが、存外気をよくしている自分に気づかないフリをするのもそう長くは続かないだろう。


    そんな折、豊穣神扱いされつつある両面宿儺の住む東屋のインターホンを鳴らす者がいた。


    「誰だ」
    「お久しゅうございます」

  • 3二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 18:06:20

    「裏梅か!」
    平安の世を生き、時を超えて現代でも共に戦った忠実な従者の裏梅。しかし、宿儺は驚く。

    「なぜ童の姿に・・・?」「私も何が何だか・・・・」
    役所の者に連れて来られた裏梅の姿は童そのもの。7~8歳といったところであった。


    老齢の町長は裏梅もまた記憶喪失の子供であり、宿儺の関係者であると踏んだがそれは正解であった。触れると凍傷になりかねない冷気を発することに関しては

    「ほら多様性の時代だし、ね?」と語っている。


    こうして田舎町の一角で大男と幼女が一つ屋根の下で再び暮らすこととなった。

  • 4二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 18:08:24

    丸くなってやがる!

  • 5二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 18:08:51

    老齢の町長グッジョブ

  • 6二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 18:09:45

    「ただいま戻りましてございます、宿儺様」

    裏梅は年恰好に合わせ、また現代の知識を得るために学校を通うことになった。
    受肉体であった時に現代知識は確保したものの、魂の回廊を歩き再度現世の地を踏む際に幾らか抜け落ちてしまったようで、それを補うためにも学業に専念した方がいいと言ったのは、意外にもかつて暴虐の限りを尽くした呪いの王その人であった。


    「うむ。聞こう。」'腕おじ'こと両面宿儺は優しさすら感じられる温かな目で従者の幼女を見つめた。

  • 7二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 18:10:42

    「はっ、まず"さっちゃん"とやらが名家の娘だ何かと噛みついて来るので明日には霜凪を打ち込む所存でございます」「やめろ」

    「また、"けんちゃん"とやらが毛虫を投げて来ましたので、不覚にも悲鳴を上げてしまいました。よって次こそは霜凪を打ち込もうと思っております」「やめろ」

    「加えて、一度家に帰りランドセルを置いて再び公園に集まるよう通達を受けました。童らしく集団遊戯に興じるのだろうと思われます。つきましては・・・」「良い。俺のことはかまわん。行ってこい。夕餉は役所の女が持ってきた魚を焼いてやる。暗くなる前に戻って来い。」

  • 8二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 18:16:22

    腕おじは草

  • 9二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 18:22:57

    多様性わろた

  • 10二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 19:09:57

    「っ!・・・御意!」

    らんらんと顔を輝かせ家を走り出ていく裏梅。肉体の状況に精神が引っ張られているのか、どうも幼子のような振舞いが印象的になっている。

    主人であった宿儺はいまや庇護者のようになっている。力いっぱいに走り去っていく裏梅を腕を組んで見守る。その口角がゆるく持ち上がっていることに本人も気づいていたが、抑えることはなかった。


    「さて、魚を・・・む、ガスがつかん・・・竈」

  • 11二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 19:11:59

    腕おじが楽しそうに生きててよかった

  • 12二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 19:13:03

    竈は魚消し炭になるやろ

  • 13二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 19:37:37

    裏梅が年相応な生き方してるだけで幸せだよ俺

  • 14二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 20:01:19

    ・・・・・・

    「ご報告いたします。"みっちゃん"とやらが飼っているスローロリスなる小猿が子を産んだとのこと。ことによっては猿脳が手に入るやもしれません」「やめろ」

    「クラスで動物を飼っていないのはうちだけだと嘲笑されました。その場で霜凪してやろうと思いましたが、踏みとどまりました」「偉い」「明日やります」「やめろ」

    農作業を終えた呪いの王。家に帰るなり学校から帰宅したばかりの裏梅に報告を受ける。このところ裏梅はその日の出来事をすべて報告している。

  • 15二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 20:02:25

    ちゃんと教育ができてる宿儺様笑う

  • 16二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 20:25:59

    「動物か。次第によっては飼ってやらんことはない。希望はあるか」「それについてはあてがございます。少々ご足労いただくことになりますが・・・」「相変わらず痒いところに手が届く」

    殺して奪うばかりが自らの存在意義ですらあった両面宿儺であったが、思うところあって裏梅の案内するまま村はずれの森奥深く、小さな廃屋までやってきていた。

    「で、こいつか」「はっ」「あ”あ”%あ”#あ”~」

    「世話はもちろん私が致します。宿儺さまのお手を煩わせることはございません」「呪霊だぞ」「猫です」「・・・・そうか」

    「よかったな、ミチナガ。宿儺様のお許しを頂いたぞ。」「あ”あ”%あ”#あ”~」「・・・・」
    昔聞いたような名付け。どこか腑に落ちない宿儺であったが、ミチナガを大切に抱いて帰る裏梅の後ろ姿を見て一応は沈黙する。

    「やはりそいつは・・・」「猫でございます」

    「・・・・そうか」

                  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

  • 17二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 20:31:32

    押し切ったな

  • 18二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 20:53:54

    多様性に理解のありすぎる町長草

  • 19二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 21:04:53

    普通に文が上手いな・・・

  • 20二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 21:22:52

    「あ”あ”%あ”#あ”~」
    (こいつ、何を食うんだ?いや、そもそも飯は食うのか?どうみても呪霊だが猫なのか?・・・・・・なぜ俺はイラついている?)

    裏梅が学校に行っている間、閑農期に入り畳の上で暇を持て余す両面宿儺。従者の幼女が拾ってきた猫もどきは縁側の日向で丸くなっている。

    庭の烏骨鶏が短く、それでいて小気味よく鳴く中秋の昼下がり。秋風は涼やかに呪いの王の頬を撫ぜる。

  • 21二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 21:35:35

    「ただいま戻りましてございます」
    多少日が西に傾き始めたあたり、裏梅が学校から帰ってきた。

    「あ”あ”%あ”#あ”~」
    「いい子にしていたか、ミチナガ。宿儺様のお手を煩わせてはいないな?」

    愛玩動物を撫でまわす裏梅を微笑ましく見守る宿儺だったが、刹那、違和感に気づく。

    「裏梅・・・皮背嚢のその泥はどうした・・・誰にやられた・・・・?」
    呪いの王に数か月ぶりの緊張が走る。

  • 22二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 21:38:22

    そこそこのスパンで緊張走ってんな

  • 23二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 21:44:13

    これ高専術士との戦いからちょっとしか経ってないのか

  • 24二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 22:09:59

    このレスは削除されています

  • 25二次元好きの匿名さん24/10/05(土) 22:10:26

    「申し訳ございません。"ケンちゃん"とやらが毛虫では飽き足らず、今度は卑劣にも泥団子を浴びせかけてきまして・・・氷入りの泥玉を投擲することで応戦したのですが、被弾に気づいておりませんでした・・・」
    「その小僧を八つ裂きにしてやろうかと思ったが、まあいい。どうとでもなる。」

    自らの快不快を行動基準にしてきた宿儺にとって、本来ならば従者である彼女が傷つけられたことは些事である。しかし、呪いの王は明確に憤っていた。腹の底に憤怒の怒りが溶岩となって煮えたぎっている。

    その怒りが、終生得ること叶わなかった父性によるものだと、彼は気づていない。いや、自分自身に気づいていないフリをし続けている。
    生前は呪いの炎で自らを焼いた。その呪わしい生涯に父性が芽生えたなどと喜劇にもならない。

    その前世を茶番劇としないため、両面宿儺は自らを騙し続けるのであった。

  • 26二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 09:33:36

    いいねいいね

  • 27二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 19:09:37

    ケンちゃん気になる子にいじわるしちゃうタイプの男子か?
    呪術世界だとそういう奴は多分何も得られず終わるぞ

  • 28二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 19:12:44

    ええ~これすき

  • 29二次元好きの匿名さん24/10/06(日) 20:45:09

    大丈夫?これそのうち耐えられなくなった裏梅が人に術式使っちゃって孤立するとかじゃないよね?

スレッドは10/7 08:45頃に落ちます

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