SS 宿儺おじさんとハロウィーン

  • 1二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 11:35:20

    残暑と呼ぶにはあまりに強い盛秋の暑気にあてられたのか、片田舎の一角には季節外れの狂い桜が僅かな花弁を見せている。

    呪いの王・両面宿儺は庭に立ち、七輪の火に風を送っていた。
    (まさかこの体のまま復活して、そのまま年を越すとはな・・・)

    戦いにまみれ、怨嗟を振りまき、呪いを漲らせて生き抜いた前世。新宿決戦にて敗れた宿儺は魂の回廊を歩きながら、自我も溶けて別の存在へと変わっていくのだろうと思っていたが、なんの因果が働いたのか、前世の肉体そのままでふたたび現代に放り出されたのであった。

    田舎町の役場前に突如として全裸で現れた四本腕の大男。当然役場は騒然としたが、老齢の町長は、
    「多様性の時代だし、ね?」
    と、呪いの王の存在を受けて入れた。

    宿儺の方も、前世までとは違う、別の生き方を模索してみるとして、この田舎町の成員の一としての生を受け入れたものの、彼にとっての衝撃はその数日後のことであった。

    あてがわれた東屋のインターホンが来客を告げる。
    元々、この東屋に訪れるのは老齢の町長と役場の若い女のみ。そのどちらとも気配が異なる。しかし、どこか懐かしい気配。宿儺は問いかけた。

    「誰だ」
    「お久しゅうございます」

  • 2二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 11:36:18

    「裏梅か!」

    平安の世より共に在り、前世においても現代の呪術師たちと対峙して共に戦った忠実なる従者である裏梅。懐かしいその声に少しばかり機嫌を良くして玄関の戸を開けると、そこに居たのは、7~8歳程度の童の姿となった裏梅であった。

    役所の女に連れられてやって来た彼女。宿儺と共に魂の回廊を歩いているときにそう願いでもしたのか、それとも何か別の要素が働いたのか、皆目見当もつかないが、宿儺の従者裏梅は童の姿で現代に復活したのである。

    復活の際に影響があったのか、宿儺と違い裏梅の方は現代に関する知識の多くが抜け落ちているようであった上、肉体年齢に引っ張られたのか、裏梅の精神もまた所々に幼さが見られるのもあり、宿儺は裏梅に学校に通うことを提案し、裏梅もまたその提案を受け入れた。

    と、様々な悶着を経て、呪術高専東京校の面々とも関わり合い、「腕のおじさん」こと両面宿儺と、「氷の子」こと裏梅の田舎町での生活が始まるのであった。

  • 3二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 11:37:46

    数度の対話を経て乙骨ら高専生たちと和解した宿儺。和解といっても宿儺の方にはもはや前世までのような腹の底に渦巻く呪詛の澱が無くなっていたため、交戦の意志はない。


    乙骨ら高専呪術師の方はといえば、一度は命の取り合いを経た仇であるはずだが、不思議なことに彼らの方にも積極的に宿儺を憎もうとする意力が湧いてこない。彼らが“呪術師”であることも当然その理由の一つだったろうが、その心理に至るまでの道のりで一役買っていたのは、日車であった。


    曰く、一度死刑が執行された者にもう一度死刑をかけることはない、とのこと。


    実際の法運用においては議論の余地があるが、少なくとも両面宿儺に対しては一度はその命脈を断ち、憐みをかけ、その上で自死を選ぶに至った経緯を考えれば、もう一度彼と戦ってその命を奪うことには、積極的になれないのもまた人情。


    史上最強の呪術師がときたま協力すらしてくれるほどに穏やかになっているのなら、せいぜい力になってもらおう、というのが彼らの出した結論であった。


    上層部にこそ多少の反発はあったが、五条と親しかった生徒たちや同僚の日下部が同意している以上、老害が茶を濁すことなどできはしない。中でも家入の啖呵に上層部の内の数人は失禁し、数人は新たな扉を開き、高専女性職員の中には女色の道に堕ちた者も少なくないというが、ことの真偽は全くの不明である。


    SS 宿儺おじさんと夏休み|あにまん掲示板宿儺おじさんと夏休み青い夏 目覚まし代わり 蝉時雨 呪いの王、両面宿儺は縁側に寝転んで、庭を歩く雀の戯れをなにとなしに眺めていた。血を吸おうと近づく蚊を八つに割いては吹いて飛ばす。(まさかこの体のまま…bbs.animanch.com
  • 4二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 11:37:46

    腕おじ続編!?ヤッター!!

  • 5二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 11:38:33

    その日、宿儺は庭に出て七輪で魚を焼いていた。今回は役所の若い女が老齢の町長と共に上等な太刀魚を持って訪ねてきた。
    四本の腕がそれぞれ意志を持っているかのように動き、適切な方向から風を送る一方で、塩を振る手、大根おろしを作る手など、それだけで完成された一種の芸術であった。

    その手際を見ていた近隣の者は、
    「なんて美しいんだ・・・!」
    と、一人こぼしたが、その声が宿儺の耳に届くことはない。
    宿儺が魚を焼く傍らで裏梅はしゃがみこんで、冬ごもりの準備に慌ただしく動き回るアリの群れをじっと見つめている。
    普段であれば自らが宿儺の夕餉をこしらえようとするところだが、昼下がりから上物の地酒で気をよくした宿儺は七輪の準備から魚の骨抜きまで実に楽し気にこなしている。

    そんなときにまでしゃしゃり出るほど、裏梅は無粋ではなかった。

    裏梅の視線の先では、細かく砕かれた氷砂糖のかけらを働きアリたちが懸命に運んでいた。

  • 6二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 11:38:59

    焼きあがった太刀魚。骨抜きは既に済んでいる。調味料は塩のみ。それでいて絶妙な火加減で脂の一滴に至るまで完璧に閉じ込めている。

    箸をあてれば確かな存在感を返しつつもほろりと崩れる魚の身。白米の上に乗せる。米が魚の脂を適度に吸い取り、香りはさらに立体的に立ち昇る。

    ゆっくりと口に運ぶ宿儺。大きく口を開ける裏梅。

    同じタイミングで天を仰ぐ二人。
    同じタイミングでため息をつく二人。

    ジュースと日本酒、飲み物の違いはあれど、東屋の二人はいま、至上の幸福を味わっている。

  • 7二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 11:39:54

    別の日、宿儺は裏梅を連れて町を歩いていた。道中、裏梅は実に様々なことを話している。地を這いまわる虫の話から秋の稲穂に学校の級友に至るまで。中には新任の教師が悪童に苦しめられていたため、悪童の私物を凍らせて制裁をしたとのことまであった。曰く、犯人が自分だとは気づいていないはず、とのことだが、実際はどうであろうか。

    その年は夏が長引き秋の中腹に至ってもいまだに夏日が連続する異常な気象が見えたためか、人々は恐怖を感じ、その念は大小さまざまな呪霊を生み出していた。
    田舎町においても例外ではなく、老齢の町長からの依頼もあり、宿儺と裏梅はひそかに町を練り歩いて治安の維持に努めている。

    まさか自分が警らになるとは前世までなら考えもしなかったが、鼻息を荒くして張り切っている裏梅を見るのは存外悪くない気分な宿儺であった。

  • 8二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 11:40:32

    「宿儺様」
    「ああ。やってみろ。」「御意」

    見たところ術式を持たない二級呪霊であろうか。見敵必殺よろしく、ほぼノータイムで攻撃を撃ちこむ裏梅。当然、一瞬にして霧散する呪霊だが、宿儺の講評は少々厳しい。

    「お前の術式は確かに広範囲攻撃に秀でている。だが、面での制圧のみに頼るな。芯を捉えて点で貫くよう意識しろ」
    「はっ」

    「次だ」
    「はっ」

    「呪力の芯を乱すな。次だ」
    「はっ」

    呪術師としては極めて高度な教育であり、おそらく大半の術師はその片鱗すら掴めはしないだろうが、父と娘のようなその様はまるで、自転車に乗る練習をしているようであった。

  • 9二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 11:42:11

    そして今までであれば住民たちには謎の踊りをしているようにしか見えなかっただろうが、呪いの王の呪力に浸っているのからなのか、それとも何か別の要因が動いているのか、ちらほらと呪いを知覚できるものが増えてきていたため、宿儺と裏梅が何かをしているという噂が住人の間でめぐり始めていた。

    しかし、多様性を重んじるこの田舎町の住人は殊更それを暴き立てようとまではしない。

  • 10二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 11:43:02

    また別の日、裏梅と宿儺はイオンモールにやってきていた。
    圧倒的物量を誇る巨大量販店と圧倒的呪力量を誇る最強の呪術師、いわば夢のコラボレーションももう幾度めか。すでに宿儺も裏梅もルーティンルートを決定しつつある。

    そんな中、裏梅の目にとまったのは同年代とおぼしき女児たちの手に握られた謎の杖であった。同年代といっても裏梅の方が1000歳ほど年上ではあるのだが、それはご愛敬。

    「ご覧ください、宿儺様!わらべ共が光物を握っております!いかにもわらべらしい!滑稽なものです!」

    意気揚々と語る裏梅に宿儺は実に自然に聞き返す。
    「ほしいのか?」
    「っ!」
    想いもしなかった宿儺の返事に、裏梅は言葉ではなく表情で答える。

  • 11二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 11:52:20

    続編嬉しい!!!

  • 12二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 11:53:39

    それからあれよあれよと、併設映画館まで足を伸ばしたかと思えば、女児向け映画を観ることになった二人。
    ずらりと並ぶ女児とその家族たちの列に四本の腕の大男が混じる様は本来不自然なはずだが、宿儺は自然に溶け込むよう努めていた。

    女児向けを標榜するだけあり話の筋は単純明快で、ある日突然力に目覚めた主人公が仲間たちと共に秩序を破壊せんとする悪敵を撃ち滅ぼすため奮闘する、といったもの。どこか見覚えすらあるような筋書きである。

    宿儺は意外にも真面目に鑑賞していた。

  • 13二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 11:53:59

    (なぜわざわざ敵前で戦闘形態へと・・・それに敵もなぜその隙を狙わない?いや、待てよ・・・縛りか・・・?敵の眼前に来るまで戦闘形態に移行しないことで必然的に相手に先手を譲る危険を冒す、且つ隙の多い変身動作を挟む上、名乗り向上まで加える・・・・術式効果を底上げするには十分すぎるな。確かにこのやり方なら術式の開示を経ずともそれ以上の強化を得られるだろう。その上、完全顕現を残すことでダメージの回復手段まで確保している。おそらくは通常状態での戦闘が可能ならばそのまま戦い、継戦が必要なら適宜戦闘形態に移行してダメージを回復するように使い分けるのだろう。見事だ・・・。監督は・・・”宮原直樹”か。優れた術師かもしれん、覚えておくか。)

    上映後、帰路にて裏梅は興奮気味に語る。
    「宿儺様!あの魔法少女とやら!おそらくは敵前で戦闘形態に移行することによりあえて危険を冒して術式効果を底上げしているのでしょう!名乗り向上も同様の縛りかと!宿儺様のご指導には比べるまでもありませんが、なかなか有意義な戦術!参考になります!」

    (俺と同じようなことを考えているな)

    その日は家に帰るまで、いや、床につくまで延々と語り続ける裏梅であった。

  • 14二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 11:54:39

    この町の住人、適応力高すぎない?

  • 15二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 12:06:19

    翌日、裏梅は朝餉の準備を済まし、宿儺と共に食卓を囲みながら、ふとつぶやいた。

    「宿儺様」
    「?」

    父性が全身からみなぎるのを自覚している宿儺は、既に裏梅の発言を全肯定する準備を整えている。

    「我々は、もしかすると魔法少女なのではないでしょうか?」
    「そうだな。我々は魔ほ・・・ん?」

    己の発言を中断することなど今までなかった。前世を含めても平安の世までさかのぼっても、宿儺の言を遮るものなどあろうはずがなかった。

    まったく想定外であった裏梅の問いかけ。呪いの王に数か月ぶりの緊張が走る。

    「魔法少女とは力を行使し、敵と戦う者たちでございました。我々もまた日夜悪さをする呪霊を狩ってこの田舎町を守護しております。であれば私はもう魔法少女でございましょう。いわんや宿儺様をや。」

  • 16二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 12:06:57

    (俺は魔法少女だった・・・?)


    困惑しつつも訂正しようとする宿儺。

    「待て、裏梅。少女とは年若い女児のことだ。魔法少女となれば魔法を行使するだけなく少女でなくては成立しない。俺は男だぞ。年若くもない」
    「それに関しましては、考えがございます。少々お目汚しとなってしまいますが・・・こちらをご覧ください」
    そう言って、懐から小さなノートを持ち出す裏梅。開けばそこにはいわゆるマスコットキャラクターと呼ばれる様々な者たちがプリントアウトされ、裏梅なりと解釈が書き込まれていた。

  • 17二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 12:07:26

    「魔法少女には常に“マスコットキャラクター”とやらが付き添います。彼らによって魔法少女は力を得、彼らに導かれ魔法少女は戦うのです。そして、彼らは少女ではなく性別は判然としません。」

    「昨日遅くまで何かしていると思えばコレか・・・。いや、待て、裏梅。まさか俺は・・・」
    「はい。宿儺様はマスコットキャラクターでございます。私に力をお与えくださり、導いてくださるマスコットキャラクターでございます。」

    (俺はマスコットキャラクターだった・・・?)

    こうして魔法少女☆裏梅とマスコットキャラクター☆両面宿儺による田舎町の防衛活動が始まるのだった。

  • 18二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 12:08:17

    幼児の発想に振り回されるお父さんで草

  • 19二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 12:10:07

    魔法少女アニメを呪術的な観点で分析する元呪いの王改め現腕おじが面白すぎる
    ステッキ(呪具)を振り回す氷属性魔法少女裏梅と最強のマスコット宿儺のハートフルストーリーめちゃくちゃ楽しみです

  • 20二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 12:17:31

    その日、宿儺と裏梅は人通りのない夜道をゆっくりと目を凝らすように歩いていた。老齢の町長が言うには、何もないはずのあぜ道でケガをする者が増えているとのこと。農業に慣れ親しんだ田舎町の者があぜ道でケガをするほど転ぶ、というのはもちろんおかしいことではないが、多発するとなると何らかの原因があるはず。

    しかし、探せど探せどそれらしい原因は見えてこない。そこですでに豊穣伸扱いされつつあった「腕のおじさん」こと宿儺に相談があったのだった。

    そしてその判断は正解だったと言わざるを得ない。暗がりからぬらりと現れたのは体躯の大きな呪霊であった。呪力のない者には見えるはずもない。

    「宿儺様、変わった形のかたつむりでございます」
    「あれはタニシだな。農業害虫の呪霊・・・いかにも田舎町らしい。裏梅、やってみろ」
    「はっ」

  • 21二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 12:18:03

    いくら肉体が幼くなった影響で前世での戦闘力の多くを失っているとはいえ、一介の野良呪霊ごときが史上最強呪術師の従者たる裏梅に敵うはずもない。一度瞬きする間もてばいい賞賛に値するだろう。よって、この“やってみろ”というのは訓練した通りに的確な技で仕留めろという題である。
    元気よく返事をした裏梅は、ざっ・・・と足音を鳴らして宿儺の前に立ち・・・、

    「 変 身 !」
    「!?」

    突如として裏梅の周りに発生する極小の氷のつぶて。「氷塵」とでも呼ぶべきだろうか、月光を受けて煌めくオーロラのヴェール。内心うろたえる宿儺。

    氷の粒子は徐々に形を成していき、裏梅の体を包みこむ。その意匠は平安の頃を思い起こさせる巫女装束のようでもあり、前世まで彼女が常用していた割烹着のようでもあった。おそらくは裏梅の想像力によるものなのだろうが、それこそが彼女の渾身の兵装であることに宿儺は全く気付いていない。

    「煌めく氷刃!裏梅!」
    「!!??」

  • 22二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 12:18:40

    名乗り向上まで完璧であった。腹部の口すらも閉口して困惑する宿儺。しかし、当の裏梅本人は真面目そのものである。その上で、もうひとつ宿儺を困惑させる事実があった。

    (呪力量も出力も跳ね上がっている・・・やはり敵前での変身は危険を冒すことによる縛り・・?)

    考え込む宿儺の前で決めポーズをする裏梅。ちらちらと宿儺の方を見ながら反応を待っているが、鈍感な父性とは実にうらめしいものである。

  • 23二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 12:19:28

    肉体年齢に精神も引っ張られたのだろう。今の裏梅はまさに正しく女児そのものであった。もしかすると、平安の頃より宿儺に仕えた彼女・・・その頃は“彼”だったかもしれないが、千年の旅路を経て魂が転生するに至ってもなお宿儺に付き従った彼女は、宿儺の傍で無邪気に在りたかったのかもしれない。そんなことを言えば、前世までの彼女はきっと怒るだろう。

    無量空処を受けたかのように困惑する宿儺を後目に、呪霊との戦いに移る裏梅。もちろん危険な場面などあるはずもない。そもそも圧倒的戦闘力差があったのだから。ほんの数秒で戦いが終わることに少々不満げな裏梅。

    「やはり変身の際の隙については対策を講じねばなりませんね・・・」
    「うむ、そうだな。」
    兵装を解除しながら反省を述べる裏梅と応じる宿儺だったが、今日のところはそのまま帰途に就くことにした。道中、宿儺の脳裏には・・・、

    (やはり俺はマスコットキャラクターだった・・・?)

    という疑問がこびりついて離れなかった。

  • 24二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 12:21:09

    すくおじ「なめるなよ!俺は・・・"マスコットキャラ"だぞ!」
    小僧「・・・?」

  • 25二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 12:49:15

    また別の日、宿儺は役所の女から裏梅の様子を尋ねられ先日の裏梅魔法少女化事件をかいつまんで話すと、女児はみな通る道ながら実際に超常の力を持っているとなると、もはやそれは本物と言ってもいいのではないかと返された。

    役所の女は帰り際、いくつかの手続きをしていった。その中には家で映画を観ることができるものもあった。現代人であればサブスクの一言で通じるが、虎杖の記憶にも伏黒の記憶にもサブスクの内容はあまり多くなかったため、必然宿儺にも未知の領域である。

    それからしばらく映像を観るために置いていかれた端末に触れもしなかった宿儺だったが、裏梅の方は自力で解読に成功したようで、宿儺とともにいくつかの映画を鑑賞することができるようになっていた。

    宿儺の膝に抱えられ、両腕に包まれ、毛布にくるまりながら手製のポップコーンをつまむこの瞬間を、裏梅はこのうえなく愛している。しかし、それを言えるはずはない。主人の膝に乗って飲食を喫するなど恐縮の極み。従者としてあるまじき幸福を、裏梅は心の奥底に大切に抱え込むことにしていた。

  • 26二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 12:49:47

    実際のところ、宿儺は“映画”という文化に関しては虎杖の中に居たときに多少経験したものの、そのほとんどは人間をミミズのようにつなげるグロテスクな実験を映したものばかり。早々に興味を失っていた呪いの王。

    しかし、一流の情熱とはいつの世も停滞を打破するもの。いくかの名作を鑑賞するにつれ、だんだんと映画の魅力に気づいていく宿儺。
    いつもであれば、何かに夢中になっている裏梅を宿儺が微笑ましく見守るのが流れであったが、今回は映画に夢中の宿儺を裏梅が見守っている。

    裏梅の笑顔が宿儺を幸せにするように、宿儺の笑顔もまた、裏梅に無上の幸せを与えてくれるものであった。

  • 27二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 17:25:19

    続編だ!!!

  • 28二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 17:30:00

    わーい宿おじ続編!!スレ民宿おじ大好き

  • 29二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 17:32:06

    純粋に文が綺麗ですき

  • 30二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 18:20:37

    このレスは削除されています

  • 31二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 20:11:02

    腕おじプリキュア観てて草

  • 32二次元好きの匿名さん24/10/28(月) 22:55:59

    >>21

    見当違いな事言ってたらゴメンなんだけど

    前世まで彼女が着用していた割烹着って、サブスクとか現代の言葉を知らない宿儺がそう表現してるだけで実は魔法少女ライクなフリフリエプロンの可能性が…?

  • 33二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 07:20:32

    決めポーズでお父さんの反応待ってる裏梅かわいい

  • 34二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 08:54:20

    夏の日ならば豊かに萌える水芭蕉も、秋の暮れともなれば静かに次の春を待つばかり。透き通った秋空には穏やかな太陽が柔らかく輝いている。

    両面宿儺は縁側で横になり、自身の腕を枕にして寝入っていた。薄い布をかぶったような柔らかな日差しが呪いの王に安らぎを与える。
    千年変わることのない陽光は、時渡りの身にとってこの上ない安心をもたらしてくれるもの。前世までなら気づかなかったであろうこの世の美を嚙みしめる余裕が、いまの宿儺にならある。

    そんな宿儺のそばを通りがかった裏梅。
    寝入っている宿儺の姿を見て、ごくりと唾を飲み込む。呪術師としての強さの象徴、自らにとっての安心感の源泉、付き従うべき敬愛する主人・・・

    そんな宿儺の寝姿を見る裏梅。そろりと足音を消しつつ、宿儺に近づく。

  • 35二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 10:11:10

    腹のあたりに何かの気配を感じふと目を覚ます宿儺。

    薄目を開けて見れば、裏梅が宿儺の腕を持ち上げ、まるですっぽりと布団にくるまるようにして横になり始めた。
    あくまで宿儺を起こさないように、こっそりと。
    主人の腕の中でぬくもりを感じるなど従者としてあるまじき幸福。

    裏梅は宿儺が起きる前に退散する腹づもりである。
    眠っている父の腕の中にもぐり込む幼い娘のように、宿儺のささやかな体温を愉しむ裏梅であった。

  • 36二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 11:07:55

    宿儺にバレまい、起こすまいとする裏梅であった。彼女はそのつもりだった。

    しかし、誤算があった。
    裏梅にとって宿儺の体温がもたらす安心感は彼女自身の目算をはるかに超えて至福であったのである。
    その結果、裏梅の意識は三度の呼吸を待たず夢の世界へと飛び込んでいくことになった。

    宿儺としては裏梅が主人である自分にバレないように親愛を込めていることを十二分に看破している上に、そもそも近づいてきた時点で起きていた。
    裏梅が宿儺を大切に思うのと同じように、宿儺もまた裏梅を大切に扱っている。

    従って、裏梅の厚意を否定しないためにも、彼女が起きるまで自分が起きるわけにはいかなくなってしまった。
    見下ろすと、裏梅の頬は脱力しきって、重力に負けてもったりと形を変えている。

    宿儺の脳裏には鏡餅が連想されていた。

  • 37二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 13:25:59

    裏梅かわいい

  • 38二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 13:27:08

    裏梅かわいいよ裏梅

  • 39二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 14:54:22

    すやすやと眠る裏梅を見て、宿儺はふと何かに思い至ったような表情を見せた。

    愛しい眠り姫を起こさないように慎重に、慎重に、ゆっくりと裏梅の顔に指を近づけていく。
    あとほんの少しというところで、宿儺は指を止めた。

    思い出したのである。

    呪いの王である自分の血まみれた両手。臓腑を焼かんと渦巻く呪詛。そんな己がこんなにも愛らしい幼子に触れてよいものなのか。
    宿儺の人生の中では片手で数える程度にしかない呵責。

    しかし、その呪詛の鎖も今の宿儺には無力であった。今の彼は確かに呪いの王でもあるが、この田舎町の平和を守る魔法少女☆裏梅を導くマスコットなのだから。

    ついと触れる裏梅の頬はどこまでも柔らかく、どこまでも温かかった。

  • 40二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 15:04:44

    「・・・・・?」
    ふと目を覚ました裏梅。気づけば宿儺の腕の中に潜り込んで1時間は経っている。夕餉の支度をするには少々早いが、宿儺にバレては恥ずかしい。いそいそと腕の中から這い出して、自室へと向かう。

    宿儺は己のたぬき寝入りが筒抜けていなかったことに安堵し、自室へと離れていく裏梅の小さな足音により一層愛おしさを深めるばかり。

    時を渡った前世は呪いの王を終わらせるための旅、そして、今世は呪いの王が人間になるための旅なのかもしれない。
    ガラにもないことが頭によぎった宿儺は、ふっと小さく笑い、自身の手をじっと見つめるのだった。



    雨の気配が近づいていた。

  • 41二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 17:13:57

    裏梅可愛い
    そしてマスコット自称する宿おじおもろすぎる

  • 42二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 22:03:13

    相変わらず文が綺麗で裏梅がかわいい

  • 43二次元好きの匿名さん24/10/29(火) 22:04:01

    前作もそうだけど、読んでると「裏梅かわい・・・」しか思考がなくなるんだよな

  • 44二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 02:02:35

    裏梅が起きようとしたところで離れないようにギュッと力を込めるイタズラ腕おじも見たかったな

  • 45二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 07:51:25

    今世の腕おじの腕は愛娘を守ったりナデナデするためにあるんだね

  • 46二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 14:15:17

    「う、腕のおじさん!」

    その日、学校が終わった午後の太陽を背景に、ひとりの少年が宿儺の家を訪ねてきた。
    幼さの残るその顔立ちには何かしらの決意の色が読み取れるが、その真意は分からない。
    頬はほんのりと赤く染まり、目は恐れと緊張をたたえながらもしっかりと宿儺を見据えている。

    「こ、これ!」
    「・・・・?」

    少年が手渡してきたのは透明のビニール袋に入ったチョコレートとクッキー。おそらくは手製なのだろう。拙い印象を受ける。

    「こ、これ!裏梅さんに渡してください!」

    そう言って、名前も言わずに走り去っていく少年。宿儺は何か苛立ちのようなものを覚えながらも、同時に少年の人を見る眼を高く評価したい心持であった。

  • 47二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 14:59:05

    「ただいま戻りましてございます」

    裏梅が帰宅した後、宿儺は彼女に件の話をした。

    「それはいつも私に付き従っているおのこ共の一人でございますね、宿儺様。普段から私に忠誠を誓い、給食の果物を献上する者たちが居るのです。」
    (・・・・・)

    この小さな女王様はすでにクラスの中で確固たる地位を確立しているのだろうと、宿儺は感心すると共に、級友たちと上下関係を築くのは良くないとたしなめた。

    宿儺のたしなめによって、裏梅はその深遠な意志を読み取り、さらに目を輝かせて尊敬の念を深めるのだった。

  • 48二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 16:11:01

    これは将来有望な少年

  • 49二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 21:43:16

    田舎町の女王やってる裏梅かわいいw
    それをちゃんとたしなめる宿儺に目頭が熱くなる
    そうだよな…何が良いことで何が悪いことかわかってるからこそ前世で完璧な呪いの王やれたんだよなこの人…

  • 50二次元好きの匿名さん24/10/30(水) 23:36:21

    すっくん変なとこで真面目よな

  • 51二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 07:58:19

    裏梅も少年も可愛いよ

  • 52二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 10:20:26

    裏梅の級友が宿儺にクッキーを渡した事件、通称「裏ク事変」から数日。田舎町の東屋には感動に打ち震える呪いの王の姿があった。
    肺腑の奥からほとばしるような激情を膨大な呪力で押さえつけはするものの、それでもなお両面宿儺の全身には言い知れぬ強い感動が脈打っているような感覚が満ちている。

    もちろん、それを顔に出す宿儺ではない。
    いつもように威厳のある表情をして、佇んでいる。そんな彼の視線の先、ほんの1m先のところには・・・、

    ハロウィーンの仮装に身を包んだ裏梅が居る。

    小悪魔然とした羽や尻尾にふわりとたなびく衣装の装飾。以前の魔法少女裏梅の戦時兵装とはまた趣が違う。
    敬愛してやまない宿儺に衣装をみてもらえる喜びでにこにこと笑顔を絶やさない裏梅。
    そんな裏梅を見て、宿儺は一言。


    「・・・天使・・・」


    同時刻、呪術高専東京校の一角。
    「「・・・?」」
    「どうした、来栖、天使」

    「ううん、なんでもない」「ああ、なんでもない」
    「伏黒あんた、華に変なことしたんじゃないでしょうね」
    「んなわけないだろ」

    何かに呼ばれた気配を感じた来栖と天使だったが、その正体に気づく日はまだ来ない。



    田舎町には雨雲が近づいてきていた。

  • 53二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 15:25:34

    「それでは宿儺様、行ってまいります」
    そういって、裏梅は静かに戸を閉めて行った。

    曰く、町内の子供たちが近隣の家を練り歩いて菓子を集めるとのこと。
    宿儺の脳裏には托鉢が浮かんでいたが、どうやら物を乞うというよりは、脅迫および強奪の形に近いのだという。
    それを仮装した子供たちが行うという点に、宿儺は現代人の狂気を感じ思わず腕を組んでうならざるを得ない。

    (仮装はおそらく魔法少女と同類の何らかの縛り・・・菓子を脅し取るという行為を力の無い子供だけで成り立たせる無理難題をあえて課すことによる何らかの術式効果の底上げが意図されている、といったところか。
    守っているていの物をあえて奪わせて品位を高め、神への供物とする儀式は数多い。おそらくはその類のものだろう。)

    全くの手探り状態から納得のいく推論に至るまで、ほんの数瞬。この短い時間で答えを得る才気こそ両面宿儺の真の強さなのかもしれない。

  • 54二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 15:30:33

    裏梅が言うには、宿儺の家にも来るとのこと。
    彼女はすでに自分で作った簡素な菓子を自室に用意していたが、宿儺はそれを断り、自らが菓子を作りに振舞うので、心配はいらない旨を言い伝えた。

    主人が他ならぬ自分に菓子を作ってくれる。

    無上の喜び。
    裏梅の表情はまるで暗闇に陽光を得たかのように明るく輝く。それを見る宿儺もまた至福であった。

    「さて・・・」
    鍋と大量の牛乳を用意する呪いの王。挑むは懐かしき平安の美食。

    " 蘇 " である。

  • 55二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 15:37:45

    何度か焦がしそうになりながらも、一応は納得のいくものができあがった呪いの王。
    味見してみると、1000年の旅路が想起される。

    異形の忌み子として迫害された人生、臓腑の底を焼く己の呪い
    ただひたすらに戦い抜いた激戦の日々
    そして・・・、

    「・・・・」
    当時はこうも大切には思っていなかったはずの裏梅との出会い。

    「やっ」
    「!?」
    一瞬、羂索の顔が浮かんだ気がしたが、目を開けてもそこには皿の上に蘇が置かれているだけであった。

    すでに日は傾きかけている。
    しかし、待てども待てども、裏梅ら子供たちが宿儺の家のインターホンを鳴らすことはなかった。



    田舎町にはどんよりとした重い雨が降り始めていた。

  • 56二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 15:45:14

    最後の一文が不安を煽る…

  • 57二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 17:03:25

    蘇に対する子供たちの反応気になる
    あと羂索もやっぱりこの世界のどこかにいるんだろか

  • 58二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 18:52:34

    「こんなところか・・・」
    拙いながらも人生ではじめてラミネートフィルムを使って自らの感性で可能な限り"かわいらしさ"を追求した装飾をこらして蘇を包み込んでいた。

    四本腕というのはラッピングにおいて絶対的なアドバンテージとなる。四方から折り目正しく畳み込んでいくその繊細な技はキャンパスを用いずに絵を描くような、まさに神業であった。

    安物の壁掛け時計が時を刻む音だけが響く。

    そわそわと玄関で待っていた宿儺であったが、夕日が玄関から入り込み始めた辺りで違和感に気づく。
    いくらなんでも遅すぎはしないか、と。

    小さな田舎町である。
    近隣を回るのにそう時間は要らないはず。にもかかわらず未だ気配すらない。
    いくら雨が降っているとはいえ、雨がっぱに傘まで持たせている上、肉体年齢に精神が引っ張られているとはいってもそもそも裏梅は大人のようなもの。雨ごときがトラブルになるはずもない。

  • 59二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 20:03:12

    誰もいない所で神業披露した後ソワソワしながら待ってる腕おじかわいい
    …のに雲行きが怪しくなってきましたね

  • 60二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 20:15:24

    このレスは削除されています

  • 61二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 23:33:37

    時々カットインしてくる羂索は何なんだろう

  • 62二次元好きの匿名さん24/10/31(木) 23:52:49

    裏梅に何が起こったんや…

  • 63二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 08:37:00

    裏梅……大丈夫だよね…?

  • 64二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 09:12:07

    時刻は多少遡り、宿儺が四本の腕を駆使して牛乳を4本、鍋に同時投下する神業を披露しているのと同時刻、裏梅は近隣の級友たち3人と合流し、計4人で近隣の家を回り始めたところだった。

    肉体年齢に引っ張られて些か童子のような心境になっているとはいっても、やはりそこは一度は大人になっている身。今回はあくまで子供たちの引率としてふるまうつもりである。そう律してお菓子の香りに踊る心を押さえつけ・・・きれない裏梅であった。

    最初に訪れたのは老齢の町長の自宅。といっても町長は仕事で不在。代わりに老齢の夫人が出迎え、手製のよもぎ餅を手渡してくれた。子供たちの仮装を見て夫人は一言。

    「多様性ですねぇ」
    と、穏やかに言うのだった。

    次の家に向かう道中、もらった餅を両手で持って口いっぱいに頬張る裏梅一行。
    あぜ道の十字路を超えた辺りで視界に変化があった。
    いや、正しくは「変化」どころではない。雨が来ているとはいえ、昼間のだだっ広い田んぼのあぜ道を歩いていたはずの一行は、いつの間にか深夜の学校の教室のようなところに居たのだから、変化というよりは”転移”というべきだろうか。

    窓の外を見ると、真夜中の校庭に、じっとりと重い雨が降り注いでいた。

  • 65二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 09:20:06

    裏梅の脳裏に浮かぶのは、当然ながら「領域展開」の四文字。
    しかし、校舎の外まで延々と広がる夜の世界を見る限り、数十キロ先まで続いている。そんな広大な領域など宿儺であろうと・・・

    (いや、宿儺様にできないことなどない。そうだ、宿儺様なら半径100kmの領域だろうと1000kmの領域だろうと余裕だ。何なら10万kmくらいいけるだろう。さすがは宿儺様)

    となれば、何らかの術式の効果で異空間に転移させられたと考えるべきなのだろう。裏梅は瞬時にその推論に至った、さすがに級友たちはそうもいかない。

    「なに、なに」
    「ふぇ」
    「は?は?」

    動揺する子供たち。
    彼らの混乱に関わらず、子供たちの耳にじっとりとした重い口笛の音が聞こえてきた。

  • 66二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 09:28:57

    十中八九、呪霊である。

    この田舎町にあった土着の信仰、というか恐怖を吸い上げていた呪霊は宿儺によって二十重に切り刻まれ、消滅している。ともなると、この呪霊はおそらくは「神隠し」そのものに対する恐怖から生まれた呪霊なのだろう。

    裏梅の推論はまさに正鵠を射たものであった。しかし現状の理解と問題の解決は決して同義ではない。

    幽霊の正体見たり枯れ尾花、というが、その正体とやらが枯れ尾花ではなく、本当に幽霊だった場合の対処など誰にも分からないのだから。
    相手の姿が見えず、おそらくは相手からもこちらの位置を捕捉できていない。つまりは、領域の主である呪霊と招かれた側である裏梅たちのかくれんぼのようなものなのだろう。

    捕まれば何らかのペナルティ、と考えるのが自然。問題は脱出条件は何かということと、今の裏梅の力で倒せる相手かどうかということ。

    こうして、呪霊の腹の中で裏梅たちと呪霊のかくれんぼが始まった。

  • 67二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 15:52:56

    このレスは削除されています

  • 68二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 18:32:55

    このレスは削除されています

  • 69二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 21:06:24

    >>65

    流れるように無限に宿儺のハードルを上げていく裏梅かわいい

  • 70二次元好きの匿名さん24/11/01(金) 22:12:45

    両面宿儺と従者裏梅というより、愛娘の仮装を見て「天使…」って言っちゃうお父さんしかいなかったね。

    それにしても不穏すぎる…腕おじ無双来る?

  • 71二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 08:49:32

  • 72二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 09:29:27

    「裏梅さま、うしろの方からなんか変なのが近づいています」
    「うむ、気をつけろ」
    「はっ」

    「ねえ、裏梅ちゃん、私たち大丈夫なのかな・・・」
    「案ずるな、息をひそめてついてこい」

    「裏梅さま、前の方はかいだんとか教室とか変なかんじになっています。ここぼくたちの学校じゃありません」
    「うむ、ゆめゆめけーかいをおこたるな」
    「はっ」

    級友たちそれぞれに的確な指示を出しつつ、行動する裏梅。すでにリーダーシップの掌握は済んでいるため、地主の孫だという"みっちゃん"との軋轢も起こらない。

  • 73二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 09:39:47

    恐らく領域の主であろう呪霊は黒いヘドロを煮詰めて、形だけ小奇麗にまとめたような姿をしていた。
    にやにやと薄笑いながら口笛を吹きつつ、一室ずつ勢いよく戸を開けて、中を改めている。

    「裏梅さま、ろうかの端っこからだっしゅつ、またはかいだんで一かいまでおりてしょうめん口からだっしゅつ、というのはどうでしょうか」
    「やめておけ、どうせ出られん、空間がゆがんでいる」
    「はっ」

    「お前たち」
    そう声をかけて裏梅は小さな氷塊をいくつか作り出した。

    「魔法のステッキだ。いざとなったらこれで殴れ」
    「魔法は・・・」
    「出ない」

    「ビームとかは・・・」
    「出ない」

  • 74二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 09:49:37

    「脱出条件の達成か、外部からの干渉か。いずれにしてもそのまま工夫もなく出れる空間じゃないだろうな」
    あくまで淡々と語る裏梅。その様子は子供たちにとって恐怖心を和らげる効果を持っていた。

    突如として超常の世界に放り込まれた者としてはまるで日常であるかのように冷静にふるまう者がリーダーであるだけで嬉しいものである。
    しかも、そのリーダーは魔法少女でもあった。ともなれば、恐怖心よりも心強さが上回るのもおかしなことではない。


    そのはずだった。
    少なくとも、裏梅自身はそう考えて力強く振舞っていた。

    しかし、幼い子供たちにとって、恐怖心というのは一度乗り越えればそれでしまいになるものではなく、一瞬一瞬新しい恐怖が襲い掛かり続けるものなのである。
    どこかで限界が来るのは当然であった。

  • 75二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 09:54:19

    「う・・・う・・・うぇ・・・お母さん」

    地主の孫”みっちゃん”は恐怖心に負けてしまった。隣に控えていた男子二人は慌ててなだめるが、分かっていてもそう簡単に涙は止まらない。

    決して大声で泣き叫んだわけではない。
    しかし、領域の主に位置を報せるには十分だった。

    「くるぞ!!」
    叫ぶ裏梅。その言葉を言い終わる前に背後に突如として現れる呪霊。

    裏梅を捕らえようと伸びる呪霊の両腕。

  • 76二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 10:13:51

    刹那。

    裏梅の眷属と化していた二人の男児は主人を守るため、裏梅が授けた魔法の鈍器を呪霊の腕めがけて振り上げた。
    裏梅ステッキは一流のさらに上澄みの術師が呪力を込めて作り上げた呪物である。

    一般人である彼ら男児であっても、呪霊の腕を弾くくらいのことはできる。
    一瞬生じたその隙に大技を食らわせ逃亡を図る裏梅たち。

    「よくやった。あとで踏んでやる。今は隠れるぞ」
    「「はっ」」

    「みっちゃんもよく耐えた」
    「う、うん」

  • 77二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 10:16:19

    >>76

    ナイスチームプレイ!


    ん…ご褒美が…あれ?

  • 78二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 10:53:00

    >>73

    脳筋ステッキ草

  • 79二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 11:03:43

    「弱体化しているとはいえ、霜凪を突破するには時間がかかるだろう。その間に脱出条件を探るぞ」
    「「はっ」」「う、うん」

    「この手のは大体"特定の場所の到達"か"特定の道具の入手又は破壊"が脱出条件と相場が決まっている。まずはそれらしい場所を探すぞ」
    「「はっ」」

    (外に降る雨も気になるが、あれはこちらからどうできるものではないからな・・・。宿儺様なら・・・うん、宿儺様なら天候を変えるくらい容易いか。いや、もしかしたら太陽を作り出すくらいのこともできるかも・・・いや、できる、間違いなく宿儺様ならおできになる。むしろ天体の操作も容易いだろう。さすがは宿儺様だ。従者として誇らしい限りだ。

    ・・・
    早く脱出しないと、宿儺様が私をお助けにいらっしゃるかもしれん。雨の中主人を出張らせるのは良くない・・・が、そうなったら・・・こう、嬉しいな・・・)

    「う、裏梅ちゃん・・・?なんでにやにやしてるの?」
    「魔法だ、気にするな」

  • 80二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 13:36:13

    頼れるリーダー裏梅
    ヒロインみっちゃん
    よく出来た下ぼ…頼りになる少年たち
    これなら突破できそうで安心!

  • 81二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 15:55:10

    裏梅たちが会敵したの時を同じくして、宿儺は雨具を羽織り、田舎町を走り回っていた。
    本来であれば何ともない程度の運動量のはずだが、息は弾む。いや、より正しくは息切れしている。

    それは間違いなく呪いの王が何か大切なものを心配していることの証であり、同時に今世の宿儺が呪いを振りまく呪詛の塊などではなく、血の通った一人の人間であることをも証明するものであった。

    田舎町のどこを見ても裏梅の姿は見えない。
    あぜ道にかかった辺りで、宿儺は裏梅の呪力の残滓を感じ取る。

    「!」

  • 82二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 15:55:31

    「!」

    実際には残滓と呼ぶにはあまりに弱弱しい僅かなゆらぎ。蝶の羽ばたきが産毛を撫でるようなごく微小な違和感を“それ”と断じて、両面宿儺は久方ぶりに呪詞を唱え始める。

    「龍鱗 反発 番の流星・・・」

    ゆっくりと腕を伸ばす。辺りには誰もいない。目撃者すらいないだろう。
    威力はいらない。不要な破壊範囲も無用。
    薄皮をほんの一枚断ち切るだけの繊細な一太刀。


    世界を断つ斬撃


    「やはりか・・・」

    新宿での決戦の時のような強撃ではなく、薄いヴェールを取り払うような宿儺の斬撃によって、秘匿された空間への入り口が開いた。夜の校舎。その舞台へ呪いの王・両面宿儺が足を踏み入れる。

  • 83二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 15:56:00

    「裏梅さま、りかしつも、おんがくしつもしらべました。これでぜんぶです」
    「うむ、怪しいところはないな・・・となると、“特定の場所への到達”の線は無しか。かといって、“何か特別な道具”というのも見つからない。やつともう一度接触する必要があるかもしれん」
    「えっ、やだ、やだよ、裏梅ちゃん!」

    「大丈夫だって、みっちゃん、おれたちと裏梅さまがいるって!ほら、まほうのステッキだってもらっただろ?」
    「それまほう出ないじゃん!ぶつだけじゃん!」

    「いや、これは魔法のステッキだ。魔法少女の私が出したのだから魔法だ」
    「いや、でもまほうは」
    「出ない」

    「ダメじゃん!!」

  • 84二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 15:56:36

    思わず大きな声を出してしまった地主の孫“みっちゃん”だが、すぐに自分がしくじったことに気づいて、両手で口を覆う。

    「“みっちゃん”、上出来だ。上手くやつを呼べたぞ。うまい演技だったな」
    「えんぎじゃない!」

    突如“みっちゃん”の背後の空間がゆがみ、その中から呪霊が姿を現した。しかし、奇襲であった前回とは違い、今回は裏梅たちが意図して呼び寄せている。先手を取ったのは裏梅たちであった。

  • 85二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 15:57:41

    「囲め!末端から殴れ!私は頭をやる!」

    裏梅の号令によって手足のように動く男児たち。呪霊が動く前に脚と腕を武骨な氷塊改め裏梅の魔法のステッキで打ち据える。
    当の裏梅自身は、頭部とおぼしき箇所に鋭い氷柱を差し込もうとしていた。



    相手の膂力の方が上だったか、無造作に振り回された腕に跳ね飛ばされ、校舎のガラスを破って外に飛ばされてしまった。
    幸い、キャットウォークに着地してすぐさま戦線復帰を試みる裏梅だったが、校舎の外に雨に当たったその瞬間、体に違和感を覚えた。

    (!?・・・呪力の制御が乱れる・・・この雨の影響か!?)

  • 86二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 15:59:25

    呪霊の脚は男児たちの攻撃によって破壊されていたが、そこはやはり幼い子供たちである。司令塔の裏梅と距離を取らされてしまうと次の行動を起こすことができない。
    男児の意地として残された女児を守るべく前に立つ二人。

    脚を破壊された呪霊の動きは緩慢だが、呪力の行使を乱された裏梅がたどり着くよりも前に子供たちは呪霊の手にかかるだろう。

    絶望。

    裏梅も平安の頃は迫害され、心休まるときなど宿儺に仕えているときだけであった。
    今世でようやく手に入れた穏やかな暮らし。実年齢は離れていても、決して憎からず思っていた級友たち。そんな友の命を目の前で蹂躙される絶望が裏梅の視界を暗く濁す。

    そんなとき、裏梅のはるか後方から声が聞こえてきた。その声はこう言っていた。



    「龍鱗 反発 番の流星」
    と。

  • 87二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 17:13:29

    僕らの腕おじキター!
    みっちゃんにツッコミの才能を感じる
    ご褒美に踏んでくれる魔法少女は個人的には大す…ゲフンゲフン
    いや教育に悪いからやめさせるべきそうですよね宿儺様

  • 88二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 17:39:33

    腕おじ待ってました!!
    男子たちが立派な下僕に成長している

  • 89二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 18:22:01

    このレスは削除されています

  • 90二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 18:22:23

    このレスは削除されています

  • 91二次元好きの匿名さん24/11/02(土) 21:34:07

    >>79

    裏梅の中で宿儺様の出来る事が神スケールになっている件

    いや神業言われてたからやればできるのか…?

  • 92二次元好きの匿名さん24/11/03(日) 07:10:23

    まさか詠唱で安心する日が来るとは……。

  • 93二次元好きの匿名さん24/11/03(日) 13:54:58

    超強い敵が味方になると心強い現象の一種かな
    超強いどころか元ラスボスだけど

  • 94二次元好きの匿名さん24/11/03(日) 14:07:59

    宿儺登場でこんなに希望を見出したの初めてかも

    友達(そのうち2名は下僕と化してる)を大切に思ってる裏梅優しいね、可愛いね
    魔法のステッキ可愛いね🪄➰‪‪⭐️

    そんな裏梅に攻撃した呪霊は絶許

  • 95二次元好きの匿名さん24/11/03(日) 19:39:10

    すごく今更なんだけどこの田舎町の住民適応力がマコラ並みで好き

  • 96二次元好きの匿名さん24/11/03(日) 22:10:31

    裏梅たちが囚われた時刻は明るい昼間の時間帯だった。そこから一気に真夜中の空間へと放り込まれた。
    宿儺が裏梅を探しに出たのも多少時間が経ったとはいえ、まだ夕日が出ている時間帯で、分厚い雨雲から落ちる雨粒を雲間から差し込むオレンジ色の夕日が、斜めから照らしていた。

    そして、今

    裏梅の後方から呪詞の詠唱と共に、夕日の光が夜の闇を切り裂いて出てきた。その神々しい光を背に配して降り立つは、なにより頼もしいあの姿。

    「あ・・・ああ・・・」
    裏梅は何と無しに涙ぐみ、再度顔を輝かせて強く叫ぶ。

    「 宿 儺 様 !! 」
    「伏せていろ」

    瞬きを百分割するより短い時間。それこそ、刹那の一瞬であった。
    宿儺の四本の腕には裏梅の級友たちの姿が。前世までの彼なら一瞥すらくれずになます切りにしていただろう、小さな命を守ったのは、決して気まぐれではない。

    ちなみに、地主の孫”みっちゃん”は後世において世界的ブームとなる四本腕おじさんフェチというコンテンツの立役者となるが、その原点については語ることがなかったため、今回の件との関連は皆目見当もつかない。

  • 97二次元好きの匿名さん24/11/03(日) 22:21:11

    「?・・・?」
    呪霊の様子はまさに困惑の一言であった。
    己の巣の中で完全に飲み込むことができたであろうかよわい命が、なぜか逃げおおせている。

    己の領分を超えた不条理は、生まれたばかりの彼にとっては理解できるものではない。

    しかし、答えの出ないその施策も長くは続かなかった。
    再び獲物を取り戻そうと動き出したその体を、見つめているのは他ならぬ自分の眼。
    極端な形態変化の能力を持たない彼が、自分の体を客観的に見るということ。

    それすなわち、頭と胴体が分かれているということに他ならない。

  • 98二次元好きの匿名さん24/11/03(日) 22:35:31

    「神隠し」そのものへの恐怖心。

    その形なき負の心は決して消えることはない。本来都会の方が呪霊の質は高く悪辣さも増すものだが、こと「神隠し」については田舎町の方が圧倒的に関心が強い。
    その負の感情が呪力をまとい、ハロウィーンの伝承と合わさって「夜の学校」という子供たちにとっての恐怖の象徴を吸い上げ、たまたま裏梅たちの近くで産まれたのだろう。今後もいずれこのような呪霊は現れ続けるだろう。

    近くを通ったのが裏梅たちだったのは、幸いだったのかもしれない。生まれた時点で当然に異空間を持つこの呪霊。成長すればより厄介な存在へとなっていただろう。しかし、すべては過去形で済む。

    宿儺によって、事件は解決したのだから。
    いつの間にか雨は上がり、雲間から夕陽に染まったの赤い空が陽光を差し込んでいる。領域から解放された宿儺と裏梅たちだったが、宿儺が四人の手を引いてあぜ道を歩いていくその様は、雨に濡れた田と柔らかな夕日に彩られ、一幅の絵画のようですらある。南の空には虹がうっすらとかかっていた。

    その日の夜、宿儺の寝室を訪ねてきた裏梅。まくらをぎゅっと抱きしめ、おずおずとやってきた彼女を、宿儺は何も言わず迎える。気丈に戦った彼女も恐怖は感じていたのかもしれない。

    自らの布団の中で丸くなって眠る裏梅の傍らで宿儺もまた眠りに入る。

    今日は寝酒も控えめにする呪いの王であった。

  • 99二次元好きの匿名さん24/11/03(日) 22:54:48

    みっちゃんの幼い心に四本腕おじさんフェチの術式が刻まれてしまった…
    あの状況で神のように登場されたら脳焼かれるよねわかる
    そして一緒の部屋で寝たがる裏梅が可愛すぎる

  • 100二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 00:12:08

    みっちゃん腕おじ教に入信してるの草
    にしても主従尊いな……

  • 101二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 08:04:33

    腕おじいっぱい腕あるから皆と手を繋げるのいいね

  • 102二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 11:27:12

    神隠しの呪霊は領域が裏梅抑えつけるレベルだし一応特級クラスではあったのかな(といっても虫くんレベルが関の山だろうけど)
    裏梅がこの件踏まえて腕おじに「自分も領域展開したい!」っておねだりしてたら可愛い

  • 103二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 11:32:03

    後日、学校で再会した裏梅と級友たち。
    「息災か、みっちゃん。先日は災難だったな」
    そう告げる裏梅は、あの日の男児ひとりに馬乗りになっている。

    ちなみに、裏梅の上履きは傍らに控えるもう一人の男児が胸元で温めているため、抜かりはない。

    そんな裏梅に対して、地主の孫"みっちゃん"は顔を赤らめつつひそひそと話しかけた。

    「あのさ、裏梅ちゃん……うでのおじさんてさ、えっちだよね……」
    「ゑっち?」

    「てれびでやってたの…きれいな人はえっちなんだって……」
    「確かに。宿儺様は逞しくまた何より美しい。間違いなく"ゑっち"だな」

    今世に生まれ変わる際、裏梅は肉体年齢に引っ張られて大人としての記憶を多く失ってしまっている。氷見汐梨の記憶にもあったはずの単語だが、いまの裏梅には新出単語としてしか聞こえない。

  • 104二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 14:18:41

    少年少女の性癖が歪む瞬間を見てしまった
    腕おじ、娘が可愛いのはとてもよくわかるけど早くしないと取り返しがつかない事になるよ
    裏梅がというより周りが

  • 105二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 14:38:43

    その日の夜、食卓を囲む裏梅と宿儺。その一日にあったことをつぶさに話す裏梅と穏やかにそれを聞く呪いの王であった。

    食卓には秋の味覚がいくつか並んでいる。中でも栗御飯は会心の出来であったか、宿儺の箸ががぜん進んでいることに秘やかな満足感を覚える裏梅。

    食事もそろそろ終わりに差し掛かったとき、裏梅はふと思い出したように口を開いた。
    「そういえば宿儺様」
    「?」
    タイミングが悪く、口がいっぱいになっていたため、もぐもぐと口を動かしつつ宿儺は視線だけで返事をする。

    「宿儺様は大変ゑっちでいらっしゃいますね」
    「!!??」

    そう告げて食器を片付けに台所へと消える裏梅を、生涯で最も混乱しながら見送る宿儺であった。

  • 106二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 15:55:35

    「高専の女どもか!?奴らの影響か!?天与呪縛の女か!?藁人形の女か!?裏梅に要らぬ知恵を吹き込んだな!?」

    全くの濡れ衣であるが、宿儺の中では完全に悪者扱いとなった高専の女子陣。実際には裏梅は褒め言葉としてしか使っていないが、そんなことを宿儺が知るはずもなし。

    「痴女どもめ……!」

    以前の彼なら殺意に任せて敵を狩りに行くか、無関係の者で鬱憤を晴らすところだろうが、そうしない辺りにも今生の両面宿儺という者の人となりが表れている。

    が、怒りは怒り。

    ほぼ使っていない半ば置物と化した携帯電話を手に取り、慣れない手つきでメールを打つ。その相手は……



    「ん、宿儺からだ」
    「何よ、あんたらまだイチャついてんの?」

    「えと……

    題名:小僧
    本文:覚えておけ

    だって……」

  • 107二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 17:20:40

    謂れのない怒りが虎杖に降りかかる!

  • 108二次元好きの匿名さん24/11/04(月) 20:38:50

    虎杖見事なとばっちり
    現代語も裏梅の頭の中では平安の発音になってるのかわいいね

  • 109二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 00:30:57

    とばっちりすぎて笑うwww

  • 110二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 07:54:54

    可哀想な小僧ww

  • 111二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 09:33:15

    ハロウィーン当日、呪術高専東京校の面々はここ数日の忙殺極まる仕事量に辟易していた。
    午前の数時間のみ、間があったものの、昼食を取る暇もなく午後には任務に行かねばならない。

    「これで何連勤だっけ・・・」
    「30から先、数えてねえ・・・」
    「48だ。気ぃ抜き過ぎんなよ、お前ら」

    虎杖らは今日も揃って任務に赴いている。
    領域展開を習得した伏黒・虎杖の両名に加え、両面宿儺討伐の功労者である釘崎たちに、もはや生ぬるい現場は回ってこなくなっていた。この日も正面に眼前には等級判別不可の呪霊が一体。ほか低級呪霊が数体。

    人が群れれば呪霊が増える。世の常なのかもしれない。
    もはや淡々と仕事をこなすしかない3人。といっても、今回の相手は今の3人にとって緊張感を取り戻させるほどの相手ではなかったようで、帰りの車内で伊地知は"明日と明後日は休みであること"と"帰り路沿いに高級スイーツ店がある"ことを告げて、彼らの労をねぎらうのであった。

  • 112二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 09:40:28

    そうしてやってきた久方ぶりの休日。

    幸か不幸か、一級年上の乙骨らも連勤明けで戻ってきていた。虎杖たちには新しく入学してきた後輩らもいるのだが、どうやら彼らは今日明日と任務で出張っているらしい。
    数か月ぶりの懐かしい空気感を味わう面々。

    彼らも年若き学生たちである。肉体だけでなく心にも潤いが欲しい。

    そんな欲を感じ取ったのか、それとも自分自身の欲なのか定かではないが、口火を切ったのは虎杖だった。
    「なー、過ぎちゃったけどさー。せっかくだし、ハロウィンっぽいことしねぇ?」

    その提案、まさに正しく皆の心を掴んでいる。
    急遽、仮装してのお菓子パーティーを催すことになった面々。

    忘れてはならない。過労は冷静な判断力を失わせるということを。
    決して忘れてはならないこの鉄則を、年若い彼らはまだ知らなかった。

  • 113二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 09:49:26

    近所の量販店で仮装衣装を購入し、徳用品の菓子を大量購入。大きな袋を携えてのっしのっしと列をなして歩いていく様は働きアリのようであった。

    帰投後、各自の部屋へと戻り、仮装に着替えて年長である乙骨の部屋に集合という運びとなった。
    正直なところ、少々手狭ではあるが、むしろその距離感が彼らには心地よいのだろう。

    そして彼らの動きを遠巻きながら見つめる者が一人。
    「華・・・彼らと一緒に参加しなくていいのか?」
    「う、うん・・・だって、恥ずかしいし・・・」

    「そうか・・・だが、そうは言ってられないようだ。すまない、気づいてはいたんだが・・・」
    天使にそう告げられ振り返る来栖華。その視線の先には、にやにやと笑う釘崎・真希両名が近づいてきていた。

  • 114二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 09:56:13

    ノックの音。

    部屋の主である虎杖は安っぽい被り物を手に持ってノックの主が誰かと問う。声は釘崎のものであった。
    戸を開けるとそこには、

    「・・・・・何よ」

    やたらと露出度の高いナース姿の釘崎が立っていた。


    ・・・・・・・

    少々手荒なノックの音。
    音だけで真希だと気づく乙骨。もはや声をかけるまでもなく戸を開いた乙骨の眼に飛び込んできたのは、

    「・・・・・・なんだよ」

    やたらと露出度の高く、ボディラインが強調されたキョンシー姿の真希であった。


    ・・・・・・・
    控えめなノックの音。
    伏黒は誰だと問うも、声が小さく聞き取りずらい。確認のため戸を開けるとそこには、

    「・・・・あの・・・・いや、違うんすよ・・・」

    なぜか敬語の来栖華が、やたらと露出度の高い小悪魔衣装で立っていた。

  • 115二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 10:06:48

    「真希さんたちも居んのよ。集合の前におかしくないか、アンタでちょっと確認するだけ。勘違いすんな」
    と釘崎。

    「後輩どもの目に毒かもしんねーだろ。ちょっと確認してくれ」
    と真希。

    「いや・・・あの・・・ほんと・・・これ自分チョイスじゃなくて・・・ちがうんすよ」
    と来栖。

    三者三様。それぞれの説明だが、過労に脳を侵されていない来栖だけは羞恥心が正常に稼働している。

    それに対する男子三名は、

    「ん!いいじゃん!釘崎そーゆーのも似合うんだな!」
    と虎杖。
    「ままま真希さん!?あ、あの、足見えすぎ・・・とか・・・えっと!」
    と乙骨。
    「どうせ釘崎だろ。寒そうだな、待ってろ、なんか羽織持ってくる」
    と伏黒。

    これまた三者三様であった。
    一連の流れをパンダと狗巻は影からにこにこと見守っている。

  • 116二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 10:25:02

    なるほど

  • 117二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 10:38:23

    乙骨の部屋に集合した面々。
    和気あいあいと宴が進む。

    ジュースを注ぐ者、お菓子をつまむ者、互いの仮装をからかい合う者、ひたすらに赤面している者

    思い思いの姿で久方ぶりの休みを満喫する。
    そんな折、虎杖の携帯が鳴った。

    「虎杖、あんた携帯鳴ってるわよ」
    「ん、宿儺からだ」

    「何よ、あんたらまだイチャついてんの?」

    「・・・・なんか宿儺めっちゃ怒ってる・・・。痴女ども許さないって」
    「なんだよ、痴女って。痴女の知り合いでも居んのか?おい、どうした憂太。さっきからずっと前かがみじゃねえか」
    「い、いや」

    「ソーセージ!ミートボール!」
    「棘、おまっ!さすがにそれは!」

    数瞬後、自らの露出度の異常さに気づいた釘崎と真希だったが、男子たちが普通に接している以上、ここは宴が終わるまで羞恥心を押し隠し平静を装うことにした。男子たちは虎杖以外内心その変化に気づいていたが、それを口に出すほど野暮ではないようである。

    「来週も休みあるらしいし、久しぶりに行くか。経過観察。どうせ俺らしか出来ねえし。」と伏黒に問う虎杖。
    「すじこ」
    「そうだね。狗巻くんのいう通り、僕らも同行するよ。話ときたいこともあるし。」と乙骨。

    こうして再び、呪術高専東京校の因縁の面々が宿儺の家を訪れることになった。
    ちなみにこのとき宿儺は、自らが与えた菓子である”蘇”を裏梅が額縁に入れて自室に飾っていることに気づき、苦笑していた。

  • 118二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 11:38:58

    羞恥心を押し隠す3人見たいな・・・イラストで見たいな(強欲)

  • 119二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 19:29:32

    釘崎真希さん華ちゃんの衣装は
    前前世で全裸の女に抱きつかれてもスン…としてた宿儺様が痴女扱いしそうなレベルなんだろうな
    実にけしからん(いいぞもっとやれ)

  • 120二次元好きの匿名さん24/11/05(火) 23:57:29

    >>大きな袋を携えてのっしのっしと列をなして歩いていく様は働きアリのようであった。


    ここめっちゃ可愛い

  • 121二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 08:09:31

    高専の皆さんも可愛いのがとてもいいよね

  • 122二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 10:50:35

    東京から特急で3時間半、さらに私鉄を乗り継いでようやく件の田舎町に着いた乙骨ら呪術高専一行。

    今回の訪問の目的は、”害意の無くなったとされる両面宿儺の定期経過観察”である。
    言ってしまえば、宿儺の素行調査のようなもの。その性質上、宿儺自身には今回の訪問を告げていない。
    いわば抜き打ちである。

    ちなみに、この訪問は任務の延長線上にあるとされ、手当てが支給されるが、それには伊地知の尽力があったのだが、伊地知はそれを誰にも告げていない。これも大人としての矜持である。

    まずは聞き込み。乙骨は以前訪問したの際に近隣住民に顔を売っていたため、比較的スムーズにことが運ぶ。
    パンダのぬいぐるみが自立行動している様を見た住民たちは最初こそ多少驚いたものの、「多様性~!」とはしゃぐばかりでそれ以上は特になし。

    「宿儺さん?ああ、こないだも刈り入れ手伝ってくれてさ、助かったよ~」
    「腕おじ?この前アメくれたよ!」
    「う、うでのおじさん?えっとね・・・えっとね・・・おじさんね、えっちなんだよ・・・ないしょだよ?」
    「腕おじさんさまはこの町の平和を守ってくださいます。裏梅さまとともに町をまもるマスコットです。」

    意外というか、幸いというか、宿儺の品行評はまさに優等生どころか、現代人よりもだいぶ善意的であった。

  • 123二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 11:00:35

    「なんか拍子抜けすんな・・・」「しゃけ」
    真希と狗巻は率直にこぼす。いくら和解したとはいえ、相手はあの呪いの王。多少の狼藉はご愛敬と言わんばかりに田舎町を支配していてもおかしくはない。そこまでいかずとも、地域社会との交流を断って、世捨て人のように暮らしているようなイメージを持っていたため、肩透かしもある意味では当然か。

    「虎杖、伏黒、あんたら元ルームメイトでしょ。なんか無いの?」
    「ルームメイトて」
    「冗談でもやめてくれ」

    「堕天が献身的に・・・?まさかそんなことが・・・いやしかし住民が嘘を言っているようには・・・」
    流れで同行していた天使も腑に落ちない様子である。

    そうして聞き込みを続けつつ、宿儺の家へと向かった一行。
    目的地である宿儺の棲み家こと"両面宿儺様と裏梅に到着した虎杖たちが目にしたのは、頑固おやじのように門の前腕を組む宿儺の姿であった。


    「なあ、あれ・・・怒ってるよな」と虎杖。
    「あれ・・・?な、なんで怒ってるの?」と乙骨。

    「来たか、変態どもめ。お前らのような教育に悪い悪漢どもに、この家の敷居を跨がせるわけにはいかん」と青筋を立てた宿儺が言い放つ。

  • 124二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 11:18:25

    みっちゃん内緒だよ言いながら腕おじエッチ布教に余念がない

  • 125二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 14:32:47

    うでのおじさんはえっちなんだよ、て…スルーしていい発言なのか高専のみなさん!結果オーライだけど

  • 126二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 14:38:02

    このレスは削除されています

  • 127二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 15:20:22

    「な、なに怒ってんだよ!宿儺!」
    「とぼけるな小僧」

    「ちょ、落ち着いてくださいよ!」
    「貴様もか乙骨憂太」

    宿儺の怒りは理不尽な憤慨というよりは、むしろ娘への悪影響となり得る不埒の悪漢に対する義憤であった。
    呪術高専の面々は緊張極まる状況に冷たい汗を感じているが、どこかコミカルな匂いも漂うため、どうも戦意が昂らない。
    しかし、当の宿儺はすでに”出来上がっている”様子。

    「貴様らがそこまで醜く弁明するとは思わなかったぞ。そこまで言うなら、それを見せてみろ」
    そう言って虎杖と乙骨のスマートフォンを指さす。

    「ん?スマホ?」
    「これでいいんですか?」

  • 128二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 15:31:39

    慣れない手つきであるが、どうにかスマホを操作する宿儺。絶え間なく動く指、力強く固定する腕・・・四本腕であることはスマホを操作する上で圧倒的なアドバンテージとなる。

    「っ!!
    ・・・・小僧・・・乙骨憂太・・・これは一体なんだ?」

    宿儺が見せたその画像は、先日のハロウィーンパーティーにて撮影したもの。
    飲料を持ってはしゃぐ虎杖の隣には紅潮しつつも過激な衣装の釘崎が、乙骨の傍には悪の女幹部のような妖艶さを奔らせている真希が、伏黒の隣にはもはや布面積の方が少ない来栖が侍っていた。

    まさに乱痴気騒ぎである。

    飲料はただのジュースだが、グラスに注がれてはカクテルとの相違も分からない。宿儺の目には完全に反社会的集団の奇祭にしか映っていない。もはや彼の頭にあるのは、裏梅が学校から帰る前に、裏梅の視界にこの教育に悪い者たちが入る前に高専呪術師らを追い返すことのみ。

    「初めてだ!この俺に義憤を背負わせたのは!!」
    猛々しく吼える宿儺。

    「クソッ!!やるしかねえのかよ!?」

    呪いの王・両面宿儺と高専呪術師たち。
    互いの運命に何も作用しない不毛な戦いの幕はすでに上がっている。

  • 129二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 16:02:00

    元呪いの王の未だかつてない義憤による不毛な戦いに吹いた
    ところで虎杖君乙骨君、君達のスマホに保存してある写真をお裾分けしてはもらえないだろうか
    いやいや変な意味じゃなく呪いの王に反社会的集団の奇祭と思われるレベルの光景がどんなものか気になるだけだからね?

  • 130二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 18:24:01

    遠距離戦では斬撃を飛ばせる宿儺相手では分が悪い。

    乙骨・虎杖両名が距離を詰める判断を下したのはほとんど同時。それでいて乙骨の方が半歩ほど早く踏み出したのは経験の差に由来するものだろう。
    虎杖の三歩めが設置するかしないかのタイミングで、後方にいた面々も瞬時に散開して宿儺の視界をばらけさせる。

    広範囲の破壊力を持つ御廚子の斬撃を警戒しての動きだが、宿儺の次の一手は呪力強化した鉄拳によるシンプルな一撃であった。半ば鉄槌の打ち下ろしに近い軌道をとって接近した虎杖を縫い留める。
    両手を十字に組んで受け止めた虎杖の両足が地に深く刺さるも、その目に翳りはない。

    虎杖の被弾と同時に深く沈み込んだ姿勢で宿儺の左側に回る乙骨。
    納刀したまま大きめの縦振りで一瞬視界を遮るも、宿儺への有効打にはならず。
    しかし、その直後、宿儺は顔面に大きな衝撃を感じる。両面宿儺へのファーストコンタクトを成功させたのは・・・、


    乙骨が遮った視界を縫うように接近した、鬼人・真希の膝蹴りであった。

  • 131二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 18:41:31

    膝蹴りの衝撃によって一瞬視線をかち上げられた宿儺。顔の方向自体を持ち上げられたため、複眼での捕捉も一旦途切れる。

    その刹那の間隙に差し込まれる無数の釘。シンプルな物理的攻撃ながら宿儺の腕を二本防御に使わせることに成功する。
    それによって、鉄槌の拘束から逃れた虎杖の打撃が宿儺へと届く。
    しかし、もはや受肉体でない宿儺には通常の打撃としてのダメージしかない・・・かと思いきや、一瞬遅れて二重の衝撃が宿儺の立ち位置をずらし、両足を伏黒の影に落とすことに成功した。

    宿儺は術式を使えない。

    ここにはまだ収穫していない作物もあれば、裏梅と級友たちが毎日通る道路もある。
    雪が積もったらかまくらを作る約束をしている。年が明けたら餅を搗く約束もある。

    宿儺を術式を使う訳にはいかない。しかしそれでも、呪いの王は負けるわけにはいかない。

  • 132二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 19:42:38

    空気の面を捉えられる宿儺に対して落とし穴による拘束は一瞬の目くらまし程度にしか機能しない。

    沈む前に瞬時に影から脱出したところを虎杖に打撃される。むろん、いまの宿儺にとってはここまでに食らったどの攻撃も大した打撃にならない。
    が、変態たちに囲まれ攻撃されていると感じている宿儺は苛つくばかり。

    「小僧ぉぉぉっ!!!」

    怒りに燃えつつも、あくまで手加減は忘れない呪いの王。高専の面々もあくまで宿儺を冷静にさせ話を聴取することを念頭に置いているが、彼らの方は手加減する余裕などない。
    かたや実力的に、かたや精神的に手心を加えているわけである。

    争いは悲劇しか生まないが、この戦いは悲劇すら生まない。

    と思われていたが・・・

  • 133二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 19:53:29

    弾き飛ばされた虎杖。足元にあった石ころを踏み越えて再度宿儺へと接近する。

    乙骨や真希、伏黒と戦いつつ虎杖への警戒を怠らないのはさすがの一言。
    しかし、一瞬、宿儺の動きが止まった。

    いや、一瞬ではない。

    明らかに一呼吸分は動きが止まっている。その視線の先には虎杖が踏み散らした小石が散らばっている。
    刹那、両面宿儺の脳裏に映る存在する記憶。

    ---------------------------------------------------
    「宿儺様!みごとに丸い石でございます!黒々と美しい!この力強さは宿儺様のようですね!では、この石の傍らに小さな青い石を・・・こちらはわたくし、裏梅でございます!宿儺様の石とわたくしの石でございます!」

    家の前の小さな河原で遊んでいた裏梅が元気よく、嬉しそうに石を並べている。自分は主人とともに、いつまでも、いつまでも一緒に居るのだと、さも嬉しそうに話す裏梅の姿を見守る宿儺は、もはや呪いの王でもなんでもなく、一人の父親そのものであった。
    ---------------------------------------------------

    その小石たちは今、無残に踏み砕かれている。
    宿儺の石も裏梅の石も、粉々に砕かれている。

  • 134二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 20:16:53

    あっ

  • 135二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 20:49:12

    あ〜……

  • 136二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 21:05:51

    完全に「これはお父さんの石!」ってやつじゃん!小さい子供がやるやつじゃん!

  • 137二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 21:55:04

    あちゃ〜〜〜

  • 138二次元好きの匿名さん24/11/06(水) 23:21:13

    ……灰原
    この先の展開についていけそうか? 辛くないか?

  • 139二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 00:59:22

    まさに地雷踏み抜いちゃったか

  • 140二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 07:55:13

    不毛な戦いからとんでもない悲劇起こっちゃった

  • 141二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 08:45:42

    砕かれた小石にふらふらと歩み寄る宿儺。高専術師たちは警戒を高めつつ一旦攻撃を止める。乙骨は改めて抜刀し、釘崎は狙撃手のように釘を構えてはいるが、一時停止の様相である。

    「裏梅」

    優しく名前を呼ぶ。何度も、何度も。半ば必死で小石に向かって反転術式をかけるが、心を持たぬ無機物である路傍の石を再生するなどできるはずもない。宿儺は脳にまとっていた最低限の呪力の防御すら解いて反転術式をかけ始めたが、狗巻はその隙を見逃さなかった。

    『 動 く な 』

    その瞬間、一瞬だがぴたりと止まる宿儺の両腕。急に動きが止まったため、大事に持ち上げられていた小石の破片は掌から零れ落ちる。”宿儺様!””宿儺様””宿儺様…””宿儺様!!”・・・裏梅との思い出が走馬灯のように駆けるが、宿儺は、目の前で地に落ち今度こそ完全に砕け散る小石を見ていることしかできなかった。

    「裏梅っ・・・裏梅!・・・・

    うらっ」

    両面宿儺の心はもう―――

  • 142二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 08:56:20

    茫然自失としている両面宿儺の様子を見守る面々。何が起こっているのかいまいち判然としない。そこに駆け寄ってきた一縷の希望。
    「宿儺様!」
    彼女こそ、この町の守護者であり宿儺の従者であり、魔法少女と化した裏梅その人であった。

    「貴様ら!一度ならず二度までも宿儺様を寄ってたかって!お慈悲につけこんで責め立てるとは悪辣極まりない!宿儺様が手を出されるまでもない、ここは私が成敗してくれる!」
    意気込む裏梅だったが、「かまわん、俺がやる」と宿儺は制止する。
    そして、裏梅に耳打ちした直後、立ち上がった宿儺が言った一言は、

    「 変 身 」の二文字であった。

    裏梅の生み出した氷による装束を身にまとい、あでやかに変身していく呪いの王。
    「魔王の再臨・両面宿儺」
    名乗り向上はごく静かに落ち着いた雰囲気であったが、みなぎる呪力はその強さを物語っている。

    魔法少女・宿儺の爆誕である。


    「「「「「????????」」」」」
    高専術師たちは何が起こっているのか全く理解できていなかった。

  • 143二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 09:23:48

    宿儺は術式を使わなかった。

    にもかかわらず、激闘が繰り広げられたのは他でもない、裏梅の補助による魔法少女化に因るところが大きい。
    領域展開を習得している乙骨・伏黒・虎杖の三名は宿儺の領域を警戒して最後まで領域展開を使うことがなかったため、必然的に乙骨と虎杖そして真希を前線での近接格闘に据えて、要所要所で伏黒が影を使ってのサポートを担う。

    釘崎は本来の運用ではないものの、釘を打ち飛ばすことで隙を作る狙撃手のような役割を担い、宿儺が無防備だったため先ほどの一撃を反動無しで遂げられた狗巻は再度の隙を伺っている。ちなみに、パンダはもはや宿儺に通用する攻撃力を持たないため、狗巻に貼りついているのみ。

    そんな布陣を魔法少女☆宿儺は高速機動によってかき乱し、虎杖を蹴り、虎杖を投げ、虎杖を殴る。伏黒や乙骨も多少当てられはしたものの、虎杖は執拗に攻撃を受けるのみ。

    激戦は続くかと思われたが、裏梅の教育をめぐって始まった戦いを終わらせたのも、皮肉なことに裏梅の言葉であった。
    「宿儺様!ちなみに、なぜ戦っておられるのでしょうか!」
    「なぜ・・・なぜ・・・?」

    この場で戦っている全員が戦う理由を理解していなかった。
    不毛な戦いを終わらせた裏梅は、やはりこの町の平和を守る魔法少女なのである。

  • 144二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 10:11:43

    バトル描写ガチガチで草
    動きがイメージしやすくて空気感伝わってくるけど、不毛な戦いなんだよねw

  • 145二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 10:20:00

    最初にキレてたのは痴女(誤解)相手だったのに小僧フルボッコで草
    まあ裏梅の石踏み砕いちゃったから仕方ないか…

  • 146二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 12:07:10

    喧々諤々の大論争の末、誤解は解けた。しかし、誤解が解けたとはいえ、宿儺の義憤は収まらない。
    裏梅の"ゑっち"発言事件、通称”裏ゑ事変”の黒幕が釘崎と真希そして来栖でないことは分かったが、彼女らが破廉恥極まりない恰好で乱痴気騒ぎを催していたことは疑いようのない事実。

    数分後、東屋の居間に座して並ぶ女子たち三人、そして正面には宿儺が正座で対峙していた。
    真希ら三人も正座である。真希は最初こそ膝を立てて座っていたが、乙骨とパンダにたしなめられ座り直した。
    ちなみに、宿儺は薄い敷物を使い座布団に座っていないが、女子たちには裏梅お手製の座布団が与えられている。宿儺なりの優しさなのかどうか、それは裏梅だけが分かっている。

    「正気か、貴様ら。足首をさらすだけでも恥じらうべきめのこ共が、こともあろうか男児の前で柔肌をさらすとは」
    「いや、あれはコスプレ…」
    「仮装とでものたまう気か?仮装ならば肌を晒す理由などあるまい。それもなんだあの恰好は。腿が見える程度なら俺もここまでは言わん。だが足の付け根を越して辛うじて陰部を隠す程度の布しかないのは論外だ。胸元も多少の布を残して肩だの腋だの晒して恥ずかしいとは思わんのか。
    どのツラ下げてこれから男子の前に行くつもりだ。女の恥じらいというものを知らんのか」

    三人の女子たち、彼女ら自身も内心攻めすぎたと思っていたが、まさか平安の昔から蘇った呪いの王に現代的感覚で痴女扱いされるとは思いもしていなかった。理路整然と論破されるとかえって羞恥心をえぐられる。これが一般人であれば強気に出て黙らせることもできるだろうが、宿儺相手ではこの漢気娘たちも黙って赤面せざるを得ない。

    来栖華に至っては若干涙目にすらなっていたが、天使の方は宿儺の弁を聞いて”一理ある”と見識を深めるのだった。

  • 147二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 13:38:08

    頑固お父さんになってる宿儺に腹筋が痛くなった
    痴女(誤解)コスは変に布がある分万の全裸よりヤバいのだろうか

  • 148二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 16:30:32

    呪いの王に説教されるという世にも珍しい体験を経た女子三人。
    釘崎は納得いかぬとった様子で虎杖を叱責する。

    「何のために先にアンタに見せたってのよ!なんで私が両面宿儺に痴女扱いされて説教されなきゃいけないワケ!?」
    「い、いや、普通に似合ってたし・・・てか俺だけ先に見せたの?なんで?」

    虎杖の何気ない問いに釘崎は軽い腹パンチで答える。そのやり取りを見ていた乙骨ら上級生たちは和やかに微笑むのみであった。
    経過観察の様子ではなんら問題ないということで、そのまま帰っても良かったのだが、

    「今日は泊まっていくのか!?」
    と、問う裏梅の目の輝きに勝てる者など宿儺を含めて誰一人いなかった。

    外には少し早めの木枯らしが小さな渦を巻いて東屋の庭を彩っている。

  • 149二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 16:37:48

    両面宿儺と鍋をつついた者など、1000年歴史を振り返っても恐らく居はしない。冷え込む天気にぴったりだと裏梅は張り切って食事を用意した。

    「小僧、肉ばかり食うな。本当にお前はつまらんな」

    「真希さんもうちょっと左つめて」
    「宿儺様、春菊が煮あがっております」「かまわん、食え」
    「来栖、汁はこのくらいでいいか?」「あ、はい」

    実に賑やかな鍋の席。酒こそないが、虎杖らは心から愉しんでいた。
    生を呪い、命を啜る、竜戦虎争の呪詛の日々。
    呪術師になった時点で平穏などとは別れを告げねばならなかった。そんな日々の中でも最も深い爪痕となった両面宿儺との戦い。

    血で血を洗うなどと生ぬるいものではない。命で命を、呪いで呪いを侵し合う修羅の巷を生き抜いた彼らに与えられた褒美は、最強の敵との心からの和解であった。

    月は煌々と照っている。田舎町の空に雨の気配は全くなくなっていた。

  • 150二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 16:46:54

    宴が終わり、女子たちにおもちゃにされながら風呂に入った裏梅。
    男子たちは近所の公衆浴場へと出向き、そこで両面宿儺の一本宿儺を目撃し敬服する。

    夜には枕投げ、布団に入っては裏梅のトークが始まり、宿儺がいかに偉大な存在であるかの話、平安の頃に初めて宿儺と出会ったときの思い出、このところ学校で宿儺がブームになりつつあること、などなど裏梅は寝静まるまでひたすらに話し続けた。

    深夜、縁側に座り、手製の蘇を肴に辛めの一献を喫する宿儺の元に来栖華がやってきた。
    「・・・・・・」「華、いいのか」
    「来栖華、と天使か。謝罪はせんぞ。命の取り合いだった」

    「ええ、それはいいんです。こちらも貴方を殺すつもりだったから・・・」
    「そうか」

    「そんなことより、恵・・・伏黒恵さんの記憶を見たんでしょう?」
    「む」


    「こう、性癖とか・・・そういう情報、欲しいなって・・・・」「華!?」


    その言葉を聞いた宿儺は久しぶりに邪悪な笑みを浮かべ、ひそひそと耳打ちする。
    天使もまた、このときばかりは黙って宿儺の話を聞くのみであった。

  • 151二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 16:51:19

    勝手に性癖をバラされる伏黒カワイソ…

  • 152二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 17:04:22

    伏黒の性癖見たのか宿儺……

  • 153二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 19:49:21

    伏黒の性癖…!?
    え、普通に気になるんですが??

  • 154二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 20:46:06

    「察するに、露出度の高いあの破廉恥な服で伏黒恵に言い寄ったが、手ごたえ無しといったところか」
    「堕天、策があるのか。華は内心極めて恥ずかしいのを懸命に耐えて挑んだんだ」

    「ケヒッ・・・伏黒恵にその手の誘惑は効かん。いや全く無意味ではないが、効果的ではない」
    「じゃあ、どうすれば・・・!?」

    「伏黒恵のフェティシズムは身体特徴や視覚的刺激にはない」
    「え?じゃあ目隠しして直接やっちゃえば・・・」「華?」

    「いや、かと言って無理矢理する/されるというのも奴の趣味ではない」
    「じゃあダメか・・・」「華?」

    「奴の関心はむしろ”人格”の方にある」
    「キャラ萌えってことですか・・・」「華?」

    「奴は”善人”フェチだ」
    「えええ、難しい・・・」「何を言う華、君は善人だよ」

    「奴を落とすには自分の確固たる信念と善性を如何に伏黒恵に感じさせるかが勝負となるだろう」
    「信念と善性・・・」「しかし堕天、あまりに抽象的な概念すぎないだろうか?なにか手本はないのか?」

    天使の問いかけに対し、宿儺は不本意といった様子でつぶやいた。
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・小僧・・・」と。

  • 155二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 20:52:15

    いや草
    まあね…善人ツートップの片方は腕おじがね…

  • 156二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 22:36:10

    痴女スタイルは恥ずかしがるのにアプローチ案がほんのりおかしい華ちゃんとツッコミ天使カワイイ
    宿儺のアドバイスは的確だけど、伏黒君が華ちゃん=善人と知れば知るほど
    善人✕善人カプを後方で眺めたいタイプの伏黒君は虎杖✕来栖推しになる可能性があるのでは
    流石に華ちゃんの気持ち知ってる今はそんな事にならないとは思うが

  • 157二次元好きの匿名さん24/11/07(木) 22:56:10

    途中天使が「華?」としか言ってないのがじわじわくるwww

  • 158二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 08:25:05

    頑張れ華ちゃん!

  • 159二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 12:06:12

    「さしあたり、日常的な出来事を共有することだな・・・。手癖で作った料理を振舞う、並んで洗濯物を干す、いくらでもあるだろう」
    「いい・・・すごくいい・・・」

    (まさか堕天に恋愛相談を行い、的確な助言が返ってくるとは・・・世も変わるものだ)

    夜は深い。
    月は東屋の屋根にくっきりと、雲の影を描いている。

    伏黒恵は警戒を解いてはいなかったため、睡眠がかなり浅かった。それは乙骨も同じこと。布団の中では秘かに抜刀している。

    虎杖と釘崎は前回の訪問とは違い深く寝入っていた。上級生である狗巻は妙に裏梅に懐かれ、パンダと共に裏梅を布団でくるんで寝ているが、実際には狸寝入りでありいつでも不測の事態に対応できるようにしている。真希も同様である。

    来栖が階下の宿儺と会話しているのを感じ取ったのは起きていた全員だったが、内容まで聞き取れたのは五感の鋭い真希だけ。狗巻と共に裏梅をくるみながら、自身の性癖を詳らかにされる恐怖を感じ、この件については何も語らぬことに決めるのだった。

  • 160二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 12:19:07

    宿儺と来栖と天使と真希に善人フェチがバレれていることを知らない伏黒恵さん(16)

  • 161二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 17:36:58

    まあ割と露骨な性癖なのよね。

  • 162二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 18:10:25

    「それはそれとして小僧はFA〇ZAを愛用していた。それも高身長な女ばかり。18歳以下にも関わらずだ。たしか日車…といったな。奴に死刑にしてもらえ」
    「恵は何か見てないんですか」

    「伏黒恵はFA〇ZAよりもDL〇iteの試供品を眺めていたな。動画よりも絵の方が好みのようだ。といってもどれも関心は薄いようだったがな。まあ、”何かに打ち込む女とその女を影ながら想っている男”といった流れのものは目に留まる時間が長かったようだ」

    非常に具体的な性癖展開に来栖はメモを持ってくることを忘れた自分のうかつさを深く悔いて歯がみする。

    「明日は早い。もう寝ろ」

    少々ぶっきらぼうに言い放ち、酒を片付けに厨房へと戻る宿儺。その後ろ姿にはもはやかつての邪悪さはなく、新しい生き方を歩む一人の男の哀愁と情熱だけがまとわれている。

    「すくなさま・・・」むにゃむにゃと寝言で宿儺を呼ぶ裏梅の鼻にはちょうちんが浮かんでは消えていた。

  • 163二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 19:27:15

    小僧はそういうサイトの18↑かどうかの質問で迷いなくYES押すタイプだろうしな

  • 164二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 20:51:37

    使ってるサイトまでバラされるの怖いな
    華ちゃんメモんなw

  • 165二次元好きの匿名さん24/11/08(金) 22:13:56

    まあ確かに伏黒はあんま関心なさげに画像あさって作業的に抜いてそう

  • 166二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 08:36:48

    >>162

    >非常に具体的な性癖展開

    領域展開みたいに言わないでくれ笑う

  • 167二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 11:33:01

    翌日朝、虎杖は布団と戯れながら惰眠を貪っていたが、庭から漂ってくる香ばしい匂いに誘われ、はっと体を起こす。
    釘崎も同様であったのか、寝起きの顔を見るなと理不尽に叱られてしまう。

    庭に立つのは東屋の主、両面宿儺とその従者、裏梅。
    宿儺の前に展開された四枚のフライパン。その下には裏梅が近隣の者から借りてきたガスコンロがある。

    虎杖や釘崎たちを夢の世界から叩き起こしたかぐわしい香気の正体はフライパンの熱に溶かされたたっぷりのバターと黒糖であった。黒糖が焦げる甘やかな香り、乳製品特有のバターのふくよかな香り。香りの爆弾を放出するその様はまさに両面宿儺の最終奥義のように見て取れたが、驚く高専術師たちを見て裏梅は、
    「宿儺様はまだ本気を出していない」
    と、誇らしげに語るのだった。

    数分後、すでに下ごしらえを終えていた食材が投入され、珠玉のフレンチトーストが若者たちの心を強くつかんだ。
    乙骨は内心、皆とここに住みたいとすら思ったが、それを口に出すような無粋はしなかった。

  • 168二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 12:38:03

    太陽が南に傾いた辺りで、高専術師たちは東屋を発つことになった。
    裏梅は狗巻やパンダの手を引いて延泊をねだったが、思いのほかすんなりと聞き分け、宿儺と並んで見送る。

    「待て」

    歩き出した高専術師たちを後ろから呼び止めて、宿儺は東屋の奥へと消えた。
    再び姿を見せたそのときには宿儺の手にはいくつもの小包が。

    「ん?なに?なにこれ?」
    虎杖は困惑する。

    「イタズラされてはかなわん」
    「はぁ?・・・・・・・・・・・・・あっ」

    にやりと笑う宿儺と虎杖。彼らが何を思ったか、語るは些か野暮が過ぎるか。

    季節は廻る。
    秋は過ぎる。寒さ厳しい冬がまた来るが、百折不撓の彼らの心が凍てつくことなどあり得はしない。

    「虎杖ー!任務行くわよー!」「悪い!今行く!」

    部屋を出る虎杖。机の上にはラッピングされた”蘇”が置かれていた。


    ~宿儺おじさんとハロウィーン 完~

  • 169二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 13:13:10

    ~エピローグ① 宿儺おじさんとコラボカフェ~

    「宿儺様、僭越ながらこの裏梅、お願いがございます」
    「む、かまわん。言え。小遣いか?気にするな、役所の爺と女が実入りの良い依頼を持ってきた」

    「駅前に魔法少女こらぼかふぇ、なるものができたそうでして」
    「まほ・・こら・・ん?」

    「恐縮ながら、宿儺様と共にあの店を訪問できればうれしく思います。少々ご足労いただくことになりますが・・・」
    「・・・出かける用意をしろ・・・」

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    「おい給仕!宿儺様は”うっかりポリスのふわふわハンバーグ”をご所望だ!慌てず慎重にかかれ!」
    「裏梅、あまり大声は・・・いや、いい」

    生き方を変えたことを若干後悔する宿儺だが、喜んでいる裏梅を見るのは存外悪くないと、軽いため息を吐きつつ、汚れてもいない裏梅の口を拭き取ってやるのだった。

  • 170二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 13:40:41

    今回もほのぼのしていい話だった

  • 171二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 13:58:29

    乙骨先輩もう隣に別荘建てちゃいなよ
    特級の給料ならいけるいける

  • 172二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 15:06:50

    「早く持ってこい」じゃなくて「慎重にかかれ」なの裏梅の料理人として態度が表れてるな

  • 173二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 21:14:51

    もうエピローグか……このスレのおかげで大変癒されたよありがとう

  • 174二次元好きの匿名さん24/11/09(土) 21:18:54

    夏休みに引き続き展開も描写もとても素敵でした……ご飯のシーンがたくさんあってうれしい

  • 175二次元好きの匿名さん24/11/10(日) 07:36:02

    次があればまた彼らの日常が見たいです
    クリスマスとか年越しとか

  • 176二次元好きの匿名さん24/11/10(日) 16:00:05

    特典コンプするまでコラボカフェ通ってほしい

  • 177二次元好きの匿名さん24/11/10(日) 16:28:56

    とても好き……今回も良かった…寂しくなるね
    またいつか見れたらいいな(建前)
    イベント毎にやって欲しい!!!!(本音)

  • 178二次元好きの匿名さん24/11/10(日) 19:23:40

    登場する料理がどれもこれも美味しそうなんだよな…
    腕おじ料理のレシピ本出してくれ必要だろ

  • 179二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 02:11:45

  • 180二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 10:12:59

    ~エピローグ② 宿儺おじさんとぐらびあさつえい~

    「こ、こんにちは・・・」
    「・・・?」

    宿儺は近隣の面々とは意外に上手くやっている。敬語など一切使わず、腰の低い態度などおくびも見せないが、傲岸不遜というような圧迫感もなく、むしろ圧倒的な強者を前に飾らず居られる不思議な違和感が田舎町の者たちを癒していた。
    言うなれば”子供の頃会っていた親戚のおじさん”の雰囲気である。特に愛想を振りまくわけでもなく、目に見えて優しいわけでもないが、こちらが困っているときはすぐにやってきて手を貸してくれ、最後の重要なところは自分で決めるよう背中を押してくれる存在。それがこの田舎町での宿儺の評である。そのアンビバレンツはとくに老人たちには懐かしく、親世代には和ましく、子供たちには安心感の化身とも言えた。

    しかし、そんな宿儺を困惑させる事態がひとつ。
    町の女児たちの中で宿儺の写真を求める児童が日に日に増えてきているのである。裏梅は、「宿儺様の偉大さ、精悍さを同じ町で浴び続ければ、幼い童どもならば心酔し忠誠を誓う者が現れるのは必定ございます」と、膝に抱かれつつ宿儺の腹部の口に餅を食べさせる楽しさにはまりながら答えている。

    そして、今朝、複数名の女児たちが連名で手書きの嘆願書を持って訪ねてきたのである。その要件は至極単純。

    「お、おじさんの・・・ぐらびあしゃしんがほしいです・・・」

  • 181二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 10:23:35

    千年前の戦いでも、五条悟との戦いでも、高専術師たちとの最後の戦いのときにも感じなかった緊張感。背に冷たい汗が滲むのを自覚する呪いの王。しかし、宿儺はこの感覚に覚えがあった。

    千年前の新嘗祭。五穀豊穣の祈りを受ける側として参加したが、全裸の痴女に乱入されたあのときと同じ困惑。
    しかし、今回はなんといっても裏梅の級友たちである。そうでなくとも生き方を変えると誓った以上、あの頃のように悪逆に振舞うつもりはなく・・・・。

    結果として、千年の歴史を揺るがす、史上初の両面宿儺グラビアデビューが鮮烈に決まったのであった。

    カメラマンはみな拙い女児たちであるが、まるで地主でも背後に居るかのように、みな高価なカメラを持参している。
    シャッターを切るごとに息が荒くなっていく女児たち。腕を振り乱して雄々しく構える宿儺。ひたすらに興奮してはしゃぎ回る裏梅。何事かとやってきた近隣の住民たち。老齢の町長や役所の女まで加わり、両面宿儺のグラビアデビューは翌月の町会報の一面を飾ることになった。

    それを見た宿儺はもう一度即身仏になることを真剣に検討し始めていたが、自室にこもった裏梅は会報を額縁に入れつつ満面の笑みで一言。

    「絶景絶景」

    裏梅の自室の壁には”蘇”と”宿儺のグラビア”が並んで佇んでいる。

  • 182二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 13:51:13

    平安屈指の強者である全裸痴女と同じ緊張感を与える裏梅の級友達つよい
    この町のふるさと納税品に腕おじの写真集ありませんか

  • 183二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 20:10:15

    >>180

    腹の口くんにお餅食べさせる裏梅かわいい

  • 184二次元好きの匿名さん24/11/11(月) 23:35:35

    裏梅のすくおじ大好き感がほんとかわいい

  • 185二次元好きの匿名さん24/11/12(火) 00:05:45

    >>159

    ていうか乙骨今回も抜刀してるの草

    寝てる態勢はいくらか危なくない?

  • 186二次元好きの匿名さん24/11/12(火) 08:24:28

    よく考えたら真希さんは虎杖と伏黒の性癖から普段使ってるサイトまで知ってしまったんだよな
    真希さんなら気にしないかとも思うが翌朝ちょっと目が合わせられなかったりすると面し…気の毒

  • 187二次元好きの匿名さん24/11/12(火) 12:06:12

    ~エピローグ③ 宿儺おじさんとパンプキンパイ~

    今年の冬は冷えるだろうと居間の天気予報が不穏な予言を発している傍、庭に出ている両面宿儺は大きめの鉄鍋を火にかけていた。
    もくもくとした水蒸気の柱が東屋の庭に立つ。宿儺の隣には裏梅がちょこんと立ち、鍋に入れる食材を手際よく宿儺に渡してるが、本人はこれから何を作るのか宿儺から聞かされていない。

    飛天を思わせる長柄のひしゃくで鍋をかき混ぜる宿儺。火の光は宿儺の顔を下から照らし、いかにも魔女然とした雰囲気である。
    呪力でもこもっているのか、神秘的に光っているようにも見える橙色のとろみがついたスープ。

    かぼちゃを甜菜糖と湧き水で煮込み、いや、煮詰めることで宿儺はパンプキンペーストを生み出そうとしている。それを裏梅はまだ知らない。
    宿儺の目的は漠然としていた。ことの発端は前日、裏梅が熱心に見ていた料理本の一ページが宿儺の目にも留まったことに起因する。

    その瞬間、宿儺の脳内に流れ出した存在しない記憶
    --------------------------------------------------------------------------------
    「宿儺様!美味でございます!」
    はふはふと空気を含みながら、温かいパイにかじりついて笑顔で言う裏梅。
    「口まわりについているぞ」
    厳格かつ穏やかに微笑み、上等な手布で裏梅の口もとを拭いてやる自分。
    「宿儺様!恥ずかしゅうございます!」
    と裏梅。
    「はっはっは」
    と自分・・・。
    ---------------------------------------------------------------------------------

    いつのまにか宿儺は近所のスーパーにやってきていた。

  • 188二次元好きの匿名さん24/11/12(火) 12:20:33

    そうして帰宅してきた宿儺の両腕の中にはかぼちゃが積まれている。
    宿儺は料理をするとき、庭を利用することが多い。七輪を愛用していることが主な要因だが、その癖は大鍋を扱う今回も役に立った。十分に時間をかけて煮詰めたかぼちゃのペースト。

    居間の方では昨晩こっそりと練っておいた小麦粉を使ったパイ生地が、焼く前から既に微かだが香ばしい匂いを発している。よどみない動きで調理を進める宿儺のとなりについて回る裏梅だが、今日はあまり構ってもらえないことを寂しく思うも、それをおくびほども見せない完璧な従者ぶりである。

    延長コードに繋がれて庭に引っ張り出されたオーブン。天板に水を張り、あらかじめ加熱を始めておく。冷蔵庫から出したばかりのバターは多少硬いものの、呪力強化された宿儺の腕力の敵ではなく、かぼちゃペーストとともに、生地へと包み込まれていく。
    仕上げに黒糖のかけらをほんの少し削り入れ、生地の表面にはグラニュー糖。

    宿儺は四本の腕を同時使用して見事な多重調理を成功させていた。オーブンの中ではふっくらと膨らんでいくパイ生地。バターの香りが漂う。グラニュー糖の焦げた匂いは甘やかで食欲をそそる。

    完成、実食、笑顔、抱擁。

    全てを終えて後片付けをする裏梅と宿儺の表情が実に晴れやかなものであったことは言うまでもない。

  • 189二次元好きの匿名さん24/11/12(火) 12:50:42

    ありがとう>>1

    また腕おじ宿儺SSを書いてくれて

  • 190二次元好きの匿名さん24/11/12(火) 13:23:54

    パンプキンパイの描写めっちゃ美味しそうで昼ごはん食べたばっかなのにお腹減ってきた
    存記の腕おじと裏梅可愛すぎかよ

  • 191二次元好きの匿名さん24/11/12(火) 15:35:01

    すくおじってか、すくパパ

  • 192二次元好きの匿名さん24/11/12(火) 20:46:36

    十年後くらいに裏梅が恋人連れてきたらえらいことになりそうなパパかわいい

  • 193二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 07:47:35

    スレ主の文章マジで好き
    また会えるのを楽しみにしてます

  • 194二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 17:57:18

    >>192

    めちゃくちゃ強いか腕4本ないと恋も何も始まらなそうだからパパ安心していいと思う

  • 195二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 18:55:34

    ほんとこの主従癒しのかたまり
    ごちそうさまでした

  • 196二次元好きの匿名さん24/11/13(水) 20:57:18

    この裏梅ポケモンやったらカイリキーに「すくなさま」って名前付けそうでかわいい

  • 197二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 08:39:13

    >>194

    裏梅高嶺の花どころかエベレストに生えてるレベルだな!ヨシ!

  • 198二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 11:15:04

    ~エピローグ④ 宿儺おじさんと・・・~

    「裏梅」
    「はっ、ここに」
    田舎町の東屋の居間に立つ宿儺。名を呼ばれた裏梅はすぐに片膝をついて姿勢を正すが、童の姿ではどうもちょこんとした可愛らしい空気感をかもしてしまう。

    「なにか欲しいものはあるか」
    「欲しいものでございますか・・・、この裏梅、宿儺様のお傍に侍ること以上の幸福を知りません」
    「そうか・・・」

    呪いの王・両面宿儺は久方ぶりに手詰まり感を覚えていた。もうひと月半もすればやってくる催し事、クリスマス。虎杖や伏黒の記憶を断片的に持っている宿儺だが、彼らも別にクリスマスを満喫した記憶など乏しいためか、どうするものかは分かっても何をするべきかはまるで見当もつかない。
    平安生まれの宿儺ともなれば、西洋の催しなど分かるべくもない。それでも一応、「良い子には贈物を与える」というのが習わしであるのは知っている。そして、宿儺にとって裏梅は間違いなく「良い子」である。

    しかし、当の本人が何も欲しがってはいないのだから、宿儺としては困ったもの。実際のところ、裏梅にとっての最適解は毛布を羽織った宿儺の膝に抱かれ、頭を撫でられつつ食事をして腕の中で眠ることなのだが、男性である宿儺が幼女の精神を分析するなど困難の極みであったし、裏梅も宿儺が自分に贈物をしようとしているなど露ほども思わない。むしろ、自分が腕によりをかけて宿儺にケーキとターキーを、いやもはや満願全席を用意しようと意気込んですらいる。

  • 199二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 11:15:14

    互いに決まり手がなく途方にくれていたところだが、裏梅には別の悩みがあった。それは自身の体調についてのこと。このところ、裏梅の肉体は時に大きく成長して数日後元に戻ったり、逆に幼児後退してはまた戻ったりと不安定になっていた。以前呪霊に攻撃を受けた際の後遺症であるためいずれは落ち着くものの、肉体年齢がこうも安定しないのは不便極まる。宿儺は気づいているものの、女児の肉体変化に口を出さない礼儀を、呪いの王は備えていた。

    そんなある日、朝餉のたくあんをぽりぽりとかじる宿儺の耳に、二階の裏梅の部屋から彼女の悲鳴が聞こえてきた。湯気を上げるアサリの味噌汁をそのままに、急いで階上にあがり、勢いよく戸を開ける宿儺。そこには、

    「へ!?す、宿儺様!?///」

    16~17歳ほどに肉体が大きくなった裏梅の姿があった。呪霊から受けた術式の効果が切れるまでの期間限定とはいえ、魔法少女から女子高生へと進化をとげた裏梅と呪いの王・両面宿儺の暮らしは始まったばかり・・。

    To be continued ・・・

  • 200二次元好きの匿名さん24/11/14(木) 13:06:26

    未来永劫かわいいと確信できる二人と
    最高すぎるTo be continued ・・・をありがとう!
    期待してる!!

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