六平×北原による脳破壊で産まれた悲しき怪物OGURI

  • 1◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 13:38:20

    「アアアアアアアアアアアアアァァァッッ!!」

     それは、絶望に打ちひしがれた者の声。
     それは、絶望に打ちひしがれてもなお立ち上がり、理不尽を打ち砕かんと力を求める声。
     そして、渇望して得た力を振り落とそうにも振り落とせない悲哀の声。

     慟哭であった。

     少女は声を上げる。上げ続ける。言葉として体裁を為さない感情のままの迸《ほとばし》りは、どんな言葉よりも彼女の想いを世界に訴えていた。

     愛する人がいた。恩人もいた。
     有馬記念でのラストランを終え、愛する人と結ばれるのだと信じて疑わなかった。給料三カ月分で用意したダイヤモンドの塊を見て、彼は最初は驚き、そしてはにかみながら受け取ってくれるのだと想い描いていた。

     そして、愛する人を恩人に奪われた。

    「ああ──────────嗚呼」

     無垢なる少女の心を壊すには、それは残酷なまでに十分であった。
     しかし少女は、無垢ではあったが無力ではなかった。怪物とまで呼ばれた少女には、その気にさえなれば想い人を強引に取り戻せる力がある。

     そう、強引にだ。
     誰かを傷つけるということは、どれだけ強い力を持っていようが彼女には夢にも思えないコトであった。まして奪った相手は自分たちの恩人なのだ。

  • 2◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 13:39:01

     どれだけ歯がゆかっただろうか。なりふり構わなければ、愛する者を自分の腕の中に取り戻せるというのにっ!
     何度となく葛藤し、幾度となく後悔し、やがて夢と現が交じり合い──壊れてしまった少女から、力があふれてしまった。

     府中にそびえ立つおよそ50メートルはあろう巨大な姿。
     怪物、オグリキャップの誕生である。

    「オグリ……いったい何が」

     この世全てに届けと慟哭するオグリを、呆然と見上げる姿があった。
     北原穣──彼こそがオグリの想い人であり、ノンケの処女である。

     北原はノンケの処女なのに何故、六平×北原が産まれたのか。
     何故オグリは今にも口から熱線を放ち、府中を火の海に沈ませかねないのか。
     それを語るために少しだけ時を戻そう──

  • 3◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 13:39:53

    ※ ※ ※



    「六平さんと北原さん……仲良いよね」

     それはクラフトユニヴァの何気ない一言から始まった。

    「ええ、昔から仲が良いらしいです」

     笠松時代から両者を知るベルノライトは軽い調子で受け答える。
     相手はオグリの所属するチームの先輩で、付き合いもそれなりに長くなってきた。そこに警戒などあろうはずがない。

    「……仲が良すぎるって思わない?」

    「え?」

     話の流れが途端に怪しくなり、ベルノは辺りを見渡す。幸か不幸か付近に人はおらず、話を聞かれる心配もなければ助けを求めるコトもできない状況であった。

    「……叔父と甥の仲が良いのは自然なコトじゃないですか?」

    「独身の……成人男性同士がですよ。二人とも、若い頃はそれなりにモテたはずなのに……二人そろってずっと独身」

     心なしかクラフトユニヴァの瞳が妖しく蠢いているコトもあり、ベルノは差しさわりの無い言葉を選ぶ。しかしクラフトユニヴァの『逃げけん制』がそれを許さない。
     
    「いえ、まあ……二人そろって独身なのは不思議に思いますけど」

  • 4二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 13:41:57

    いいわね
    好きよ

  • 5◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 13:43:10

     クラフトユニヴァの言わんとするコトはわかる。
     北原は背が高い上に中年とは思えないスラリとした体型をしており、うだつこそ上がらないがよく見れば整った顔立ちをしている。今でもモテては不思議ではないし、若い頃となれば言わずもがな。
     六平にいたっては中央の名トレーナーとしてその名を知られ、少し──いやかなり怖い容姿をしていたがそこが良いという女性はいくらでもいたはずだ。
     そんな二人がそろって独身のままという事実を、一度も不思議に思わなかったと言えば嘘になる。

     六平だけなら、結婚に興味がなかったのだろうで話は済む。しかしそんな六平のすぐ傍に、これまた独身でそれなりにモテていたはずの北原がいる。
     
     叔父と甥による禁断の関係──邪推の余地は、十二分なまでに存在していた。

    「きっとまだ少年だった頃の北原さんを、六平さんが──」

    「少年だった頃のキタハラがどうした?」

    「大丈夫……痛くしないから、すぐに気持ちよくなるからと──オグリちゃん?」

     北原の話題ならば聞き逃さないオグリイヤーを持つオグリキャップが、そこにひょっこりと姿を現す。二人とも話題が話題だけに周囲に気を払っていたつもりだが、ベルノは唐突にバイオ兵器をちらつかせられて少なからず混乱しており、クラフトユニヴァもついに語る場所を得た真実の披露に熱が入っていた。迂闊《うかつ》である。

    「少年だった頃のキタハラがどうしたんだ?」

     まさかオーガニック素材の違法取引が行われていたとは夢にも思わないオグリは、推しの話題なのかと目を輝かせる。その瞳には一切の邪念が無く、よりにもよって身内のオーガニック素材を摂取していた腐女子に良心があれば、罪悪感から目を逸らさずにはいられなかっただろう。

  • 6◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 13:45:17

    「ええっと……そう、北原さん! 当たり前だけど北原さんにも少年だった頃がある『少年の頃から北原さんと六平さんは愛し合っていたのではないかと……話していました』──クラフト……さん……?」

     身内のオーガニック素材を取り扱っている現場を、これまた身内に目撃されてしまったのだ。ベルノはただ単に違法取引に巻き込まれてしまった被害者にすぎないが、こういった話にまったく耐性の無さそうなオグリの耳に入れるわけにはいかないとクラフトユニヴァに目配せする。最悪の場合は共犯になる覚悟まであった。

     しかしクラフトユニヴァはベルノの悲壮な決意に応じなかった。これは両者の罪の重さと業の深さが原因である。
     ベルノは話を振られた側であり、いうなれば被害者である。今回の件は注意不足で終わる話であった。
     
     一方のクラフトユニヴァは違う。彼女は学園という学び場でオーガニック素材を、それもよりにもよって血縁関係にある老人と壮年男性による組み合わせを取り扱い、それを純粋無垢な少女の耳に入れてしまったのだ。彼女に残された道は、辞世の句を読むか、純粋無垢な少女を冥府魔道に引きずり込むかである。
     そして彼女は常々、共に冥府魔道を歩む同志を探し求めていた。うす暗がりを、おっかなびっくり進む程度にしか嗜《たしな》んでいないベルノとは、業の深さがあまりにも違い過ぎたのだ。

    「……? 二人は親戚で仲が良いんだ。愛し合っていたのは昔からだと思う」

    「うん、そうだよねオグリちゃん! 家族愛って良いよね!」

    「その愛は家族愛だけ……でしょうか?」

    「クラフトさん!!」

  • 7◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 13:47:15

     オグリのように純粋無垢な少女が腐敗を知ればどうなるか。理解できないなりに、そういうのもあるんだなと流してくれるのならば問題ない。しかしトラウマになるほどの強烈な拒絶反応や、耐性が無い故に一瞬にして侵食される事態もあり得る。オグリを腐敗から遠ざけようとするベルノは必死な想いから、悲鳴にも近い声でクラフトを制止した。

     しかしクラフトは止まらない。止まれなかった。止まるんじゃねえぞ。
     後の取り調べでクラフトユニヴァは止まらなかった理由について、次のように語る。



    「『キャベツ畑』や『コウノトリ』を信じている可愛い女のコに……無修正のポルノをつきつける時を想像する様な下卑た快感……です」



     興奮して止まれなかったのである。

    「強面《こわもて》の自分に無邪気に懐いてくれる甥っ子も……日に日に手足が伸びてたくましくなっていく。失われていく瑞々しさに、得体のしれない焦燥感を覚える六平さんに対して……北原さんは鎖骨や生足が見える無防備な姿を晒し──ついに!」

    「ついに?」

    「聞いちゃダメ、オグリちゃ──むぐぅ」

  • 8◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 13:49:04

     同じウマ娘でも出走ウマ娘とスタッフ研修生ではパワーに歴然とした差がある。
     ベルノの口を易々と手で押さえると、クラフトは『北オグ』や『沖スズ』を信じている可愛い女のコに、真実の愛を口にした。

    「我慢できなくなって六平さんは……××な××を×の××××へ××に……×××で、さんざん北原さんを××××させたあげく──」

    「???」

    「 ム リ ヤ リ 凸 凹 × ! ! ! 」

    「 ! ! ? 」

     初めて耳にする単語の羅列に目を丸くするオグリだが、クラフトの形相《ぎょうそう》から禍々しいナニかを感じ取った。
     そしてそのナニかとは、自分のキタハラと六平との関係に起因しているというのだ!

    「そんな……キタハラが、六平と愛し合っているというのは……」

     そんなはずが無い。
     自分では想像も理解も及ばない形で二人が愛し合っているなど、そんなはずが無い。
     六平は自分の恩師で、そしてキタハラは……キタハラは私を──ッ!

    「あ、オグリちゃん待って!」

    「ふふ、フフフフフ……」

     拘束されていたベルノだが、クラフトは無垢な少女を穢した快感から放心したコトで力が緩み、ようやく抜け出すコトができた。
     しかしその時にはオグリは駆けだしており、ベルノの声は届かない。
     駆けるオグリの行く先にいたのは当然──

  • 9◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 13:50:17

    「おう、オグリ。どうしたそんなに急いで──オグリ?」

     ノンケの処女である北原穣が、地鳴りと共に現れたオグリを不思議そうに見つめる。
     トレセン学園内で駆け足で移動するウマ娘は珍しくもなんともない。しかしレースでもないのに鬼の形相を浮かべながらとなると、北原でなくとも身構えてしまうだろう。

    「キタハラ……キミには、キミは……っ」

    「お、俺が? 俺がどうした?」

    「キミは六平を……あ、愛しているのか?」

    「…………………………へ?」

     この時の北原の対応について、多くのトレウマ学者が批判している。オグリキャップの壮絶な勘違いを誤解の余地なく否定しつつ、自分が一番愛しているのは担当ウマ娘であるコトをほのめかすべきであると。アプリトレーナーの多くがそうであるようにスパダリでなければならないと。

     しかしそれはあまりにも酷な批判である。当時(1980年代後半)BLは今のように市民権を得ておらず、おそらくBLの存在すら知らない者が多数であったはず。ちなみにかの有名な『あーん!スト様が死んだ』事件は1988年であり、そのインパクトの大きさからBLや夢女子は当時はまだ一般的でなかったコトがうかがえる。

     ましてや相手はあの純粋無垢なオグリである。オグリに『貴方は同性愛者で叔父と禁断の関係にあるのですか?』という趣旨の質問されるなど、誰が想定しようか。

    「ああ、俺はろっぺいさんを愛してるよ」

    「──────────っ」

  • 10◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 13:51:43

     こうして北原はあっさりと特大地雷を踏みぬいた。
     オグリキャップの前で、担当ウマ娘の傍で、自らを同性愛者だと宣言した。トレウマ学者の怒りもやむなしである。

     オグリは一瞬、体が軽くなったような浮遊感に襲われた。ついで深海の底にいるような寒気と重圧を覚える。
     視界がぶれ、手足も震え、吐き気もこみ上げてきた。

    「オグリ……? どうしたオグリ!」

     慌てて体を支える北原の手。やがてこの薬指に、自分が贈る指輪を付けてくれるこの優しくて暖かい手に、六平は何をしたのだろうか?
     
     熱いモノが、頭から流れてくる感触がする。涙ではなかった。見開かれたままの眼は乾いていて、そこからは何も流れ出ていない。
     耳からであった。ぶれる視界が、酩酊する感覚が。それらが自分の脳がグチャグチャに壊れるような錯覚を与え、脳があたかも耳からこぼれ出ているような幻覚に包み込まれる。

    「あ、ああ──────────嗚呼」

     こうして六平×北原による脳破壊で産まれてしまったのだ。
     


    ──悲しき怪物OGURI



    『アアアアアアアアアアアアアァァァッッ!!』

    「これはいったい……何なんだ」

  • 11◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 13:52:37

     目の前でオグリの巨大化を見てしまった北原は、呆然とただOGURIを見上げ続ける。
     普段とは様子が違ったとはいえ、自分の一言がきっかけでこうなったとは夢にも思うまいこのクソボケめ。

    「北原さん! これはいったい……!?」

     ここで慌てて駆け付けたベルノが合流する。ベルノがオグリから目を離して一分足らずでの出来事であった。事の発端に居合わせたとはいえ、何がどうしてこうなってしまったか想像がおよぶわけが無い。

    「わからん! どうしてか知らないがすごくショックを受けて、それから巨大化してしまったんだ!」

    「ショックを受けて? オグリちゃん、北原さんに何か質問しませんでしたか?」

    「ん、ああ。俺にろっぺいさんのコトを愛しているかって聞いたな」

    「そ、それに何て答えたんですか!?」

    「愛してるよって普通に答えたけど……」

    「んあああああああああああああぁぁぁっっ!!!」

    「ベルノ!?」

  • 12◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 13:54:12

     やるせない気持ちでベルノは力いっぱい地団太を踏む。そりゃそうだ、北原はオグリの恋心に気づいていないしBLにいたっては存在すら知らないだろう。だからといってあまりにも最悪な回答に怒りを覚えざるを得なかった。

     そしてこの怒りは自分自身にも向けられていた。親友であるベルノは、当然オグリの淡い恋心に気がついていた。しかし年齢差と今はレースに集中して欲しいという想いから、レースを引退しても気持ちが変わっていないようなら二人の仲を取り持とうと考えていた。後回しにしたツケがこの事態だとすれば、あまりにもあんまりな結果である。

    「どうしたベルノ? 何かオグリが巨大化した心当たりが……ベルノ?」

    「北原さん……」

     北原を見上げるベルノの目は、完全に追い詰められてヤケになった者の目であった。
     巨大OGURIが生み出す影に覆われてなお爛々と輝く瞳は、共に地獄に落ちる道連れを探し求めていた。

     オーガニック素材を取り扱った罰は甘んじて受けます。
     だから北原さん、貴方には──

    「オグリちゃんを元に戻す手段が、たった一つだけあります」

     貴方には、未成年の教え子に手を出してもらいます。

  • 13◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 13:55:58

    ※ ※ ※



     OGURIは声をあげていた。悲しみと怒りがないまぜとなったやるせない想いを込めて、府中の空へ轟かせていた。
     どれだけ叫んでも、悲しみは減らない。どれだけ嘆いても、怒りはおさまらない。けれど、声をあげ続けなければならなかった。少しでも体内を渦巻く激情を吐き出していないと、次の瞬間には破裂しそう。

     彼女は楽器だった。失恋を奏でる大きな楽器。楽器としての役目に没頭するコトで、かろうじて破壊衝動を抑えられている。

     震え怖じよ、世界の崩れるLove song

    「オ……グリィ……っ」

     その歌の調べに。

    「オグリイイィ! 聞こえるかオグリイイイイィ!!」

     府中全てに響き渡る悲恋歌に、ノイズが生じた。
     OGURIに比べればあまりにも小さな声。どれだけ声を振り絞ってもかき消されるしかない音量を、OGURIは聞き逃さなかった。何故ならOGURIのオグリイヤーは、北原の声を聞き逃しはしないのだから。

  • 14◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 13:56:59

    『キタハラ……? どこにいるんだ?』

     声はすれど姿は見えない。

    『ん? ここはどこだ?』

     そのうえ、いつの間にか知らない所に自分がいた。

     脳を徹底的に破壊されたオグリは悲しみと怒りに支配され、自分が巨大化していたコトなど気づきもしなかった。
     高さ50メートルの視点は、見慣れた府中を別世界へと彩りを変える。

    「オグリイイイイィ! ここだあぁ! 俺はここにいるぞぉ!」

     そんなOGURIの足元から声がした。ここに自分がいるんだと懸命に訴える声が。

    『キタハラ……なのか?』

     ぱかプチのようなサイズに困惑するが、この声と仕草はキタハラで間違いなかった。

    『どうして小さくなってしまったんだ? それにベルノまで』

     風圧で北原がよろめかないように気をつけながら片膝を着けば、一緒にベルノがいるコトもわかった。
     何故かOGURIは、北原と数年ぶりに再会できたような心境であった。実際は数分前に会ったばかりなのだが、今のOGURIは耐えようのないほどの長く辛い絶望と悲哀の果てに生まれている。時間の感覚も捻じれて壊れてしまった。

  • 15◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 13:58:03

    『キタハラ……キタハラァ…』

     久方ぶりの北原を前に、OGURIの瞳から涙がこぼれる。これまでは激情に振り回されていたが、こうして落ち着いて想い人を見ていると、ようやく悲しみが追いついてきたのだ。

    『キタハラ……わ、私は……キタハラと六平の仲を、お……応援……』

    「聞いてくれオグリ!」

     涙で歪もうとする顔を、なんとか笑顔にかたどろうとする。それは自分の幸せよりも想い人の幸せを優先した、痛ましくも美しい泣き顔。そのまま二人をことほごうとするのを、北原は必死になって遮り、伝えた。



    「俺は女子高生が好きなんだ!!」



    『……………………キタハラ?』

     府中の中心で、愛《ロリコン》を叫ぶ中年男性がそこにいた。
     よりにもよって女生徒ばかりのトレセン学園で、女生徒を指導する立場にあるトレーナーがだ。

     断っておくが北原はロリコンではない。女子高生が好き程度でロリコンなら平均的な男性は全員ロリコンですよ。多数派の男性をわざわざロリコンと言い換える必要はありますでしょうかとはタツ兄のセリフだが、そういうのを抜きにしても北原はロリコンではない。

     では何故ロリコンだと大声で宣言したのか。

  • 16◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 13:59:29

    『いいですか北原さん。オグリちゃんは今、信頼を寄せていた北原さんが同性愛者なうえに叔父の六平さんと肉体関係あると勘違いして、そのショックで巨大化しちゃっています』

    『え? は? う、ううん?』

    『巨大化するほどのショックです。生半可な言葉では信じてもらえないでしょう』

    『待って……』

    『北原さんは大きな声で、自分は女子高生が大好きなんだと伝えてください』

    『待って待って待って……』

    『オジサンが女子高生を好きなのは当然です。その当然を声を大にして宣言するコトで、北原さんの性的嗜好が普通なんだとオグリちゃんに伝えるんです』

    『ベルノオ!』

     カルストンベルノオが原因である。
     教え子のオグリが目の前で巨大化した上に、そのきっかけが自分と叔父が禁断の関係にあると誤解したからだと聞かされれば、誰だって正常な判断ができなくなるだろう。そこに解決する手段は一つだけだと言い含められれば、白昼堂々と女子高生が好きだと宣言するもやむなし。

    『キタハラ……ッ』

     OGURIは女子高生であった。怪物である前に一応は女子高生である。本気で走ると地鳴りもすれば芝を抉って足跡を残しだってする。それでも花も恥じらい食われる女子高生であった。
     そんな自分を前に女子高生を好きだと宣言したのは、キタハラの奥ゆかしい告白以外の何物でもない。

  • 17◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 14:00:37

     思えばキタハラは、慣れ親しんだ笠松を離れるコトになるにも関わらず、何年も頑張って勉強して中央のトレーナーとなってくれた。もはやこれは、自分に一生を捧げるプロポーズといっても過言ではない。
     それなのに自分はキタハラの一世一代のプロポーズに気づかないどころか、恩人である六平を間男だと勘違いしてしまった。そんな察しの悪い自分を見限ることなく、再びこうして告白してくれる!

     キタハラ! 好きだ!! 大好きだ!!!

    「うおっと! お、オグリ……?」

     OGURIは北原がケガなどしないように細心の注意を払いながら、そっと手のひらに乗せる。そして北原を自分の顔の前へと運び込んだ。
     膝を着いた態勢とはいえOGURIの顔の高さは周囲の建物よりも高い。いったい何事だと集まり始めた人々に見られながら、北原はあまりの高さにぺたんと腰が抜け、乙女座りとなってしまう。

     そうして北原と目と鼻の距離になったOGURIは、そっと目をつむった。

    「……どうしたオグリ?」

     北原にはOGURIの意図がわからない。
     女子高生を好きだと叫んだ自分を蔑むどころか感じ入ったように見つめたかと思えば、今度は目の前で目をつむる理由がまるでわからなかった。

     と、そこに。

    「キース! キース!」

     足元から聞こえてくる必死になって振り絞った声。

  • 18◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 14:02:00

    「……きーす?」

    「キスです! キスするんですよ北原さん!」

     声の正体はベルノのキスコールであった。

    「何言ってんだお前!?」

    「女の子の呪いをとくのは王子様のキスって決まってるでしょ!」

    「うおぉうじさまあぁ?」

     王が健在ならば壮年はおろか老年の王子も存在しうる。が、これとそれとは別問題である。二十年前ならばいざしらず、自分が少女の王子様になれるとは北原は夢にも思わない。
     でも今は、そんなコトはどうでもいいんだ。重要なコトじゃない。
     恋する少女にしてみれば、想い人はそれだけで王子様なのだから。

    「キース! キース!」

     北原の塩対応にもめげずにベルノはキスコールを続ける。それは一連の事態への罪悪感もあったが、親友の恋を叶えたいという純粋な想いが何よりも強かった。そこに──

    『キース! キース! キース!』

    「!?」

     周囲からも湧き起こるキスコール!
     最初は何事かと見守っていたトレセン学園の生徒たちだが、目の前で繰り広げられているのがトレウマであると気がつくや否やコールに参加した。
     トレセン学園とは畢竟、婚活会場である。

  • 19◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 14:02:42

    「キース! キース!」

     偶然通りがかった六平も、姪孫《てっそん》を見れる機会だと事情も知らないままキスコールに加わった。

    「キース! キース!」

     偶然通りがかった一般通過生徒会長も、魚を片手にキスコールへと加わる。

    「ナリタトップロード反対! 脳破壊は悪! 純愛(♂)こそ至高!」

     これからメジロ家地下帝国に一週間収容されるコトとなるクラフトユニヴァが必死な抵抗を試みるが、もはやトレセン学園を渦巻くキスコールを止めることなどできやしない。

    『キース! キース! キース! キース! キース!』

    「……なんなんだいったい」 

     四方八方からのコールは最早逃げ場のない圧力であった。救いを求めて前を向けば、そこには依然としてしおらしく目をつむったままのOGURIがいる。まるでキスを待っているように見えるが──いや、けっして待ち望んでいるわけではないはずだ。

     OGURIも元に戻りたくて、藁にもすがるような気持ちで呪いをとくキスを試そうとしているにすぎない。頬が紅潮しそわそわとした様子だが、きっとこれはキスに不慣れだからだ。いい歳したオジサンが勘違いするなと北原は必死に自分へと言い聞かせる。

     意を決した北原は身を乗り出すと、そっと唇を重ね合わせた。およそ三十倍近い体格差ではあったが、唇の柔らかな感触をOGURIは確かに感じ取る。

  • 20◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 14:03:53

     想い人からの告白、そしてキス。NTRで破壊された脳が急速に蘇り、いきいきと活動を再開する。
     絶望も悲哀も、憎悪さえそこにはない。ただ愛のみがあった。

    「光が……っ。オグリちゃん……!」

     行き場を失いあふれていた力があるべき場所へと戻っていき──目を焼かんばかりの光が収まれば、そこには身長167㎝に戻って幸せそうにはにかむオグリと、呆然と立ち尽くす北原の姿があった。

    「……キタハラ」

    「ん、あ……えっとな、オグリ」

     さっきのは医療行為みたいなモノだよな。それにサイズ差は人間とハムスターぐらいあったし、ハムスターとキスしてもそういうコトにはカウントしないよな?

     北原がとっさに思い浮かんだ言い訳は、オジサンなんかとキスするコトになったオグリを気遣うものであった。彼女が今の出来事をキスだと受け止めずに済むようにと。
     しかしオグリは、カサマツの星オグリキャップは、トレーナーのそのような愚行を許しはしなかった。

     言いよどむキタハラをよそに、オグリはポケットに手を伸ばす。そこから取り出されたのは小さなケース。
     オグリはケースをパカリという小気味いい音を響かせながら開いてみせる。そこには光り輝く物が入っていた。

    「オグリ……どうしたんだこれ?」

     それは、指輪と言うにはあまりにも大きすぎた。
     大きく分厚く重く、そしてバランスがおかしかった。指輪ではなくネックレスにすべき大きさのダイヤモンドがついていた。

    「キタハラ……これが私の給料三カ月分だ」

    「さん……かげつ?」

  • 21◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 14:05:36

     指輪、給料三カ月分。
     その二つから自然と思い浮かぶフレーズに、北原は硬直した。そんな緊張と恥じらいで固まったに違いないキタハラの左手を、オグリはそっと握って薬指を浮かび上がらせる。

    「これがキミの想いへの、私の答えだ。どうか受け取って欲しい」

     薬指にかかるズシリとした重さに。照れくさそうに、そして誇らしげに自分を見上げる笑顔に。そのあまりにも純粋な想いに──

    「ふ、ふつつかな男ですが……どうかよろしく」

     気がつけば北原は受け入れていた。
     一度は離れ離れにはなったが、互いに想い続けていた。離れていても、互いにいつかはと研磨琢磨した。そしてようやく願いは叶い、再びレースへ共に挑めるようになった。
     それは、親愛であったかもしれない。しかし一度違う形で受け入れてみると、驚くほどすんなりと北原の胸に収まった。
     大切な存在が、より大切になっただけのコト。不都合なんて、ありやしない。

  • 22◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 14:06:27

    『えんだあああああああああああぁ!!』

    「いやああああああああああああぁ!!」

     二人の愛の成就に周囲からは祝福と合唱が、黒服に連行されるクラフトユニヴァからは脳破壊による悲鳴が鳴り響く。こうして少女の脳破壊は防がれ、府中の中心で愛が実った。
     北原の腰を抱き寄せるオグリと、いいんだろうかこれで本当にいいんだろうかと降ってわいた幸運と倫理観の板挟みで視線が定まらない北原を中心に、いつまでも終わらない拍手と喝采が鳴り響く。



    ──しかしゆめゆめ忘れてはならない。脳が破壊された者たちは、どんな小さな隙間からでもNTRに話を結び付けようとする。

     そして思い出そう。狭間の地では、朱きエオニアは二度咲いた。
     朱い花が咲く度に腐敗は進行する。
     三度目に、きっと腐女子は女神(コトリサバス)になる。

  • 23◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 14:06:59

    ※ ※ ※



    ──メジロ家地下帝国


    「師範代さんは……自分をノンケだと思い込んでいる。そう思いませんか?」

    「知りませんよお……」

     地下帝国に一週間収容となったクラフトユニヴァと、一日の収容で許されたベルノライト。
     二人の会話を某皐月賞ウマ娘(託児所荒らしによるショタ性癖破壊罪で二週間収容中)が耳にしてしまい、虚ろなる焔が誕生するコトになるが──それはまた別の物語。



    ~おしまい~

  • 24◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 14:08:04

    最後まで読んでいただきありがとうございました。
    私は単行本派なので中央のトレーナーとなった北原の姿はまだ読んでいません。

    しかし17巻では大量の六北と、六北を見て何故か胸がざわつく師範代が描写されている事は容易に予想できます。
    自分をノンケだと思い込んでいる師範代は失恋の自覚がないまま普段より深酒をしてしまい、千鳥足でうっかり裏路地に迷い込むとそこに待ち受けていたチンピラたちの華麗な連携プレイで男男男されるのは確定的に明らかです。
    私の中にいるユリユリが間違いないじぇと言っています。

    嘘だと思うのなら来月18日に発売予定の17巻を買って一緒に確認しましょう。
    発売日までに心の中にユリユリを宿しておいてください。


    次に書くかもしれないSS

    ①スズカさんが沖トレに「復縁を前提に別れましょう」と別れを切り出すお話
     なお二人は別に付き合っていない

    ②黒沼トレーナーに「巨乳JKが好きだ」という自白を強要するブルボン

    ③坊がまだ童貞と知って怒り狂うイナリワン

    ④ネイチャへの恋心を自覚したネイトレが、この想いは墓場まで持っていこうと決意するお話

    ⑤ハッピーミークが激怒するお話

  • 25◆SbXzuGhlwpak24/11/24(日) 14:08:34

    あにまんでのおきてがみ(黒歴史)

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    規約ギリギリセーフを狙ってアウト判定されたSS

    インガオホー

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  • 26二次元好きの匿名さん24/11/24(日) 14:09:06

    お疲れさまです
    超大作のスレだったし、語呂回しが面白すぎる

スレッドは11/25 02:09頃に落ちます

オススメ

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