- 1124/12/22(日) 07:47:14
- 2124/12/22(日) 07:47:26
■ざっくりあらすじ
ゲヘナ自治区へとやってきた鬼怒川カスミは、犯罪結社をひとつにまとめて犯罪カルテルを作り上げる。
自らの好奇心が赴くままにゲヘナ学園の侵攻を目論むも、開戦すらすることなく一瞬で全てが無に帰した。
ゲヘナの禁忌をおかした鬼怒川カスミと犯罪カルテルの参画組織に与えられるのは苛烈な報復。
かくして、封鎖されたゲヘナ自治区で悪夢のような鬼ごっこが幕を開けた。
- 3二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 07:47:40
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- 4124/12/22(日) 07:48:10
- 5124/12/22(日) 07:50:44
とりあえず10まで埋め
- 6124/12/22(日) 08:01:40
二日目、7時2分。
ブルータルカイのリーダーが次に目を覚ましたのは、鉄さびの臭いがする何処かの自動車解体工場だった。
朝日に眩んで目を擦ろうとして――手首の激痛に息が止まった。
「――っがぁ!!」
両手首が完全にあらぬ方向を向いていた。その痛みによって思い出すのは恐怖ではない。怒りだ。
「あのガキぃ……! 怪我が治ったらバイクに括って引きずり回してやる……!!」
足首も折られていたが、それでも肘と膝は無事だ。
まだ這うことはできる。何もできないわけじゃない。それで充分だ。
(まず無事な組員を探す。見つけたら俺を担がせる。車でも良い、とにかく足があればまだ終わりじゃねぇ!!)
痛みに耐えながら何とか解体工場の敷地内から出ようと這い続ける。 - 7124/12/22(日) 08:02:02
その無駄な抵抗はたった五分も続かなかった。
「…………なに逃げようとしているんですか?」
「っ!!」
生徒が俺を見下ろしていた。確か万魔殿だ。制服からしてヒラの部員。怒りのままに叫んだ。
「おい! てめぇ覚悟しろよ! 俺をこんな目に合わせやがっ――がぁっ!?」
部員は何も言わずに俺の首に鋼鉄製の太いワイヤーを巻いた。
それからまるで犬でも引きずるようにワイヤーを引っ張って何処かへと連れて行く。
部員から零れたのは、どこまでも冷たい声だった。
「覚悟するのはあなた方ですよ? うちの可愛い新入りをさらったばかりかイブキちゃんまで傷付けた。それを許す人が、万魔殿にいるとお思いで?」
「……っく、くびが。ぁ、かはぁっ――!!」
「全員再起不能にする、とマコト議長は仰いました。そしてブルータルカイのメンバーはあなたで最後です」
(最後だと――!? 全員、全員やられたのか――!?)
ワイヤーを引っ張り上げられ、無理やり顔を上げさせられる。
目に映った光景は、これまで見てきた最悪そのものだった。
「り、リーダー、た、助けてください……リーダー!!」
「ひ、嫌だぁ……あぁ、こんな、こんな……」
「ぐすっ……ぅぅ、あぁぁぁぁ……」 - 8124/12/22(日) 08:02:18
最初期から俺に着いて来てくれた十数人の部下たちが両手と両足を縛られて転がされていた。
足の先には鋼鉄製の太いワイヤーが括られており、その末端は一つのバイクに繋がっていた。
そしてそのバイクは、廃車用の巨大シュレッダーの前に置いてある。
これから何をされるのか、分からない奴なんて何処にもいなかった。
「よく来たな。たしか、バイカーギャングのリーダー……だったか」
朝日が人影に遮られる。影から見えたのは冷酷な瞳だった。
「お前たち以外は既に"処置済み"だ。そしてお前たちに施す"処置"は、お前たちで完了する」
「お、おい……お前、自分が何をしているのか分かっているのか!? こ、こんな……」
「それはこちらの台詞だ。ブルータルカイのリーダー、ダンプ・リカレロ。お前は自分が今まで何をしてきたのか自覚すべきだったのだ」
「や、やめろ――! 俺に触るんじゃねぇ!!」
目の前の悪魔が話す傍らで道具を準備し終えた部員たちが俺の手足を縛っていった。
足にかけられたワイヤーを引きずられ、部下たちの元まで身体を運ぶ。ワイヤーの先端がバイクに括りつけられる。
「お前たちにとって大切なのは足、だったか。なに、膝まで少し"噛まれる"だけだ。三日ほど野ざらしにされるが、一年も入院すれば再び歩けるようにはなるだろう。大人しくしていればの話だが」
「なに……言ってんだ……? あた、頭おかしいんじゃないか、お、お前……」
「正気だとも。そしてお前たちは二度と走れなくなる、それがお前たちに与えられる現実だ」 - 9124/12/22(日) 08:02:30
バイクがクレーンで持ち上がる。シュレッダーの中へと落とされる。処刑人がシュレッダーの電源前に待機する。
「い、嫌だ……やめてくれ……。な、何でもする! 金でも酒でもいくらでもくれてやる!! 俺たちは使えるはずだ! ブラックマーケットに流していた物資を半分、いや全部! 全部くれてやったって構わない!!」
「――やれ」
「やめろぉぉぉおおお!!」
合図ひとつで電源が入り、シュレッダーが作動する。
すぐにバイクが破砕され、それに合わせて足に括られたワイヤーがぴんと張って俺たちを引きずり始めた。
「ああああああ!! "止まれ"ぇええ!! "止まれ"ぇええええ!!」
足がシュレッダーの側面を沿うように上がっていく。逆さ吊りになる。シュレッダーの開口部まで足が上がり続けて、内部の歯が踵を掠った。
最速最大のバイカーギャング、ブルータルカイ。
"ノンストップ"ダンプは無尽の刃に足を縫い留められて苦しみ続けた。
----- - 10124/12/22(日) 08:02:41
うめ
- 11二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 08:07:06
忍者と極道の極道側と同じ言い分だな
お前達がそこまでされるいわれは、少なくともゲヘナの秩序組にとっては十二分にあるんだよ - 12二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 08:18:22
スレ画に期待。マコトがそういう人物を集めたとはいえの万魔殿の2年生もイブキ大好きなのか…
- 13124/12/22(日) 09:25:57
二日目、9時36分。
鬼怒川カスミに巻き込まれてゲヘナへの侵攻を余儀なくされたトリニティのギャングたちは今、ゲヘナ自治区を走っていた。
「ちくしょう……! 何なんだよこの街はぁ!!」
「最初から教授になんて関わるべきじゃなかったんだ! 全部お終いだ俺たちは……!」
たった三時間で無理やり全戦力を掻き集める羽目になり、何が何だか分からないまま全力でゲヘナへ向かわされるという狂った状況。そこから自治区に入った瞬間起こったのは、白髪の生徒による襲撃だった。
いったい何と戦っているのかも分からないままリーダーも誰もが制圧され、早々に逃げ出していた自分たち二人だけが今もこうして逃げ続けている。
しばらく走っていると、路地の方から誰かが出て来たのが分かった。
そして顔を見た瞬間、考えるよりも先に叫んでいた。
「てめぇ教授ぅ!! よくも俺たちを嵌めてくれたなぁ!!」
走り寄って胸倉を掴み上げる。その時、ここまで一緒に来た構成員が制止した。
「待て、様子がおかしくないか?」
「あ……?」
胸倉を掴まれている教授は、まるで今掴まれていることに気が付いたと言わんばかりに虚ろな目をこちらへ向けた。
「……あぁ、トリニティのギャングか」
「お、おい……何があったんだよ……」 - 14124/12/22(日) 09:26:11
人を食ったように笑う教授に何度腹が立ったかも分からない。殴ってやろうかと何度も思って、その度リーダーから「稼いでくれている間は、な?」なんて止められ続けていた。その会話を聞いた隣で教授が笑うのだ。「当然だとも」と。
あの時の面影はもう、どこにもない。
まるで別人だ。姿かたちだけが同じの、空っぽの人形。
その様子に思わず掴んだ手を離してしまう。そして教授は虚ろに笑った。
「トリニティ自治区には戻れなかったんだな。私の方こそ聞かせてもらおう、何があった?」
「……連邦生徒会が校境を封鎖していたんだ。いまゲヘナ自治区には誰も入れないし、誰も出られない」
「は、ハハハ……! 連邦生徒会を直接動かしたのか! しかも完全密閉? そんなもの、最初から準備していたとしか思えないじゃあないか!! ハハハハハハ!!」
狂ったように笑う姿はもはや憐れみさえ浮かんでくる。
何とも言えない表情を浮かべると、教授は笑って背中を向けた。
「着いてこい。私たちは眠っていたゲヘナを叩き起こしてしまったんだ。そしてどうなったか、君たちにも見てもらいたいんだ」
出て来た路地へと戻っていく教授に目を向けて、俺たちは顔を見合わせた。
しかして着いて行かないわけにもいかず、その後を追う。
そして見てしまった惨状は、きっと知らない方がよい景色だったのかも知れない。
「な、なんだよ……これ……」
綺麗な道路が伸びる路上では呻き声で溢れていた。
向こうまで続く電灯のひとつひとつには車輪引きでもされたかのように両手も両足もへし折られたマフィアが磔にされている。
通りの先には山のようなものが見えて、それが同じく手足を折られた人の山だと気付いた瞬間、血の気が引いて倒れそうになった。 - 15124/12/22(日) 09:26:24
「ゲヘナは本気で私たちを潰しにかかっている。あと三日間逃げ切れば見逃してくれるかも知れないが、まぁ、タイムアップは望めそうにもないな」
「……ふ、ふざけんなよッ!! 全部お前のせいじゃねぇか! なんで俺たちが巻き込まれなきゃいけねぇんだ!!」
「旨い汁を啜った仲だろう? 私に預けた金はもう戻らない。仲間は全員再起不能にされる。君たちも、私も、もう今まで通りの生活には戻れないのさ」
「う、嘘だ……」
絶望に頭を抱えて膝を突く。
その肩を叩きながら教授は静かに笑みを浮かべた。徐々に調子を取り戻してきたような、そんな笑みを。
「だが、ひとつだけ逃げ道は残っている。今すぐ隣の学区へ逃げればいいんだ」
「だからトリニティは――」
「違う、レッドウィンターだ」
「――っ!!」
聞いた事があった。
レッドウィンターとゲヘナの校境は雪原が広がっており、迂闊に踏み込めば遭難の危険もあるのだという。
そしてそれは、例え連邦生徒会が道路や電車での移動を遮断したとしても雪原だけは封鎖できないことを意味した。
「下水道を通って雪原に一番近い街まで移動する。それから地上に上がってレッドウィンターへ亡命する。そうすれば私たちのことは追えなくなる」
「いや待てよ! 地上に上がって雪原に向かって校境を越える!? 隠れるところなんてないぞ!?」
「だって――もうそれしかないだろう……!?」
教授が顔を歪めて笑う。
調子が戻って来たんじゃない。もうどうしようもないことを悟って、それでも何とかするしか無いから笑っていただけだった。笑うしかない状況ってだけだった。 - 16124/12/22(日) 09:26:35
「……さぁ、覚悟は出来たかな? 私たち二人だけでも何とかここから脱出するんだ!」
「ちっ、そうするしかなさ――」
いや、待て。今なんて言った。"私たち二人"? いや、もう一人いるだろ。
そう思って振り返ろうとした瞬間、教授が悲鳴を上げた。そして何かが物凄い勢いで突っ込んできて、教授の襟首を捕まえて、そのまま路地の奥へと消えていった。
『ひ、ひぃぃぃ! や、あ、ぃぎっ!? が、ああ――』
何かを叩きつけるような音。それから電動のこぎりでも動かしたかのような銃声が聞こえて、それからはもう、何も聞こえない。教授が路地から出てくることはなく、代わりに白髪の少女が路地から出て来た。
頬についた血を拭って現れたその人物には覚えがある。
あの時トリニティのギャングに襲撃をかけて壊滅させた異常存在だ。
「な、……え? ちょ、ま――」
意識が飛んだ。後のことはもう、分からない。
----- - 17124/12/22(日) 11:05:13
二日目、15時27分。
汚水の流れる下水道を、佐古組の組長を担いだ部下が歩いていた。
傍には四名の組員、計五名。奇しくも鬼怒川カスミが取ろうとしていた方法と同じやり方でゲヘナから逃げ出そうとしていたのだ。
そうして向かう先はトリニティ方面。自治区の完全封鎖を知らぬが故に、自覚しないまま袋小路に入り込んでしまっていた。
籠った熱気と悪臭が詰まったこんな場所だが、ビルが倒壊してから今まで無事だったのも真っ先に下水道へ潜り込んだおかげでもある。
だからこそ彼らは知らない。いま地上で起こっている惨事を。ビルを焼き切った怪物がギャングたちの手足を折って回っていることも。
「組長、済みません。交代させてください」
「仕方あるまい。ほれ、そこのお前。屈め」
「はい」
足元を流れる汚水に触れないよう、慎重に組長を担ぎ直す。
汚水は足の甲まで浸るぐらいの嵩となって行く道を流れ続けていた。何が混ざっているかについてはあまり考えたくないところである。
そんな時だった。進行方向の先からばしゃり、ばしゃりと汚水を踏む音が聞こえてきたのは。
「おお、誰か迎えに来たんじゃな! おい、さっさと歩け! もうこんな場所一秒だって居たくはない!」
組長が安堵したかのように笑って自分を担ぐ部下の頭を叩く。 - 18124/12/22(日) 11:05:28
早足で歩いて行くと、暗闇の先から聞こえた声に血の気が引いた。
「はぁ、ちゃんと臭い取れるかしら……」
「我慢しろ。ちっ、戻ったら私が使っている香水を分けてやる。今回だけだからな」
「前にくれたやつはないの?」
「はぁ!? サミュエラのことを言っているのなら値段を調べろ! 私の貯金をいくら使ったと思っている!?」
姦しい声と共に見えたのは五人の生徒だった。
先頭を並び歩く片方はゲヘナの生徒会長。そしてもうひとりはビルを叩き切った生徒。
迎えは迎えでも死神の迎えに違いなかった。
「ヒナ。居たぞ、部下が五人で組長一人、数もぴったりだな。銃は撃つなよ。下水の整備計画は手間がかかる」
「分かった」
「お前ら全員儂の盾になれ!!」
組長が叫ぶと同時に四人の部下が前に出た。組長を担いだ一人は踵を返して走り出す。
ヒナは手にした銃を槍のように突き出して、ひとりの喉を銃口で潰した。続いて棍棒のように銃を振り回し二人目の側頭部へ銃底を叩きつける。拘束しようと腕を伸ばした組員のタックルをバックステップで寸で避けて、下がった顎に膝を一撃叩き込んだ。残った一人に銃口を向け、引き金を引くと同時に弾丸の嵐が下水の中に吹き荒れる。
瞬殺――その様子にマコトが声を上げた。
「なぁんで撃ったのだ!? 分かったと言ってまだ二十秒も経っていないぞ!?」
「……あ」
「『……あ』じゃないわぁ!! 弾は外しておらんだろうな!?」
「あー、全弾命中。壁に傷は無いみたい」
「なら良い……。あとは、逃げた二人だな」
マコトが呟き、ヒナは早速悶絶する四人の処置に入った。
手足を折って投げ捨てる。そのうちのひとりを掴んで、マコトを見た。
そこに言葉はなく、マコトはただ頷いた。そしてヒナはひとりを抱えて逃げた暗闇の先へと走っていく。 - 19124/12/22(日) 11:06:10
組長が聞いたのは、背後から凄まじい勢いで近づいてくる水の音だ。死神の手が背中に追い縋ろうとしている。
「もっと早く走らんか!! 追い付かれたら何されるか分からんのじゃぞ!?」
「し、しかし……!!」
「言い訳はいらん! こんなと――」
瞬間、風を切るような音と共に組長の背中に衝撃が走った。呻き声を上げて自分を担いでいた部下もろとも吹き飛ばされて全身が汚水に浸る。投げつけられたのは手足の折れた部下だった。
「ひ、ひぃぃぃいい!!」
暗闇の向こうから紫紺の瞳を宿した魔王がやってくる。組長は悲鳴を上げながら先ほどまで自分を担いでいた部下を呼ぼうとして、その姿が無いことに気が付いた。
「わ、儂を置いて行くつもりかぁ!! 貴様にどれだけ目をかけてやったと――」
「もういいかしら?」
ごしゃり、と振り下ろされた銃底が左膝関節を粉砕した。
「がぁぁぁぁああ!!」
容赦なく振り下ろされ続ける銃底。右肘、左肘、右膝。四肢を破壊されて悶え苦しむ。暴れて汚水が口に入り、鼻の奥へと突き抜ける悪臭に堪えかね胃の中身を吐き出した。
「マコト、組長をやったわ。ひとり逃げたけど、仕留めたら戻るから」
「そうだな。念のため集計も取り直そう。取り逃しが無いかの確認は必要だ」
それからヒナは逃げたひとりを追いかけて走っていった。残ったのはマコトとマコト率いる万魔殿の部員三名。手にはワイヤーを持っていた。
「よし、縛り上げろ」
「はい!」
「な、何をするつもりじゃ……!!」
「動くなよご老体。ピンが抜けたら爆発するかも知れないだろう?」
「なっ……!?」 - 20124/12/22(日) 11:06:27
組長は身動きが取れないよう縛り上げられて仰向けに寝かされた。流れる汚水が口の端から口内へと入り、必死になって首だけ上げて逃れようとする。
固定具を速乾ボンドで壁面につけ、そこにワイヤーと指向性爆弾を取り付け組長の身体と結び付けた。
「お前はお前の価値基準によって人権の有無を決めていたな? ならば私がお前の価値を決めてやる。貴様のような外道は下水を流れる汚物と変わらん。故に、貴様については無期限で汚水に浸ってもらおう」
「な、なんじゃと……!?」
「首を上げていれば汚水が口に入ることもなかろうが、喉が渇いたのなら首を下げてたらふく飲めるな。なに、溺れる心配は必要ない。ここの下水への流入量は我々が調節してやる」
マコトは発信機を組長の上に置いた。
「これが貴様の命綱だ。裏社会の医者たちはお前のことが大層気に入っているようでな。お前も、そして他のギャング共も、ちゃんと治療してもらって頭の天辺まで借金に浸かると良い」
「き、貴様――っ」
「おっと暴れるなよ? 発信機が水で壊れれば本当にお前は死ぬまで汚水に浸かり続ける。そして下手に暴れれば貴様に繋がった爆弾が爆発する。そうなれば下水の整備が必要だ。整備が始まれば終わるまでは誰もお前を助けに来られない。医者がお前を回収する時間はお前が決めろ」
「わっ、儂を誰だと思っている――!! 一介の生徒会風情が! この儂を!!」
「警告はしたぞ? 佐古組組長の海老丸。貴様は散々生徒たちを自らの勝手な基準で玩具にしてきたようだが、このゲヘナに貴様が勝手にして良い存在など一片たりとも存在しない……!!」
怒号が下水道に響き渡り、そしてマコトは終わったと言わんばかりに息を整え静かに言った。
「帰るぞ」
「はい!」
万魔殿がその場を立ち去る。たったひとり汚水に浸って拘束された組長が叫んだ。
「だ、誰か……! 誰かいないのか!! 儂を助けろぉぉぉおおお!!」
ゲヘナ自治区最古のヤクザ、佐古組。
組長、海老丸は汚水流れる下水に取り残されて苦しみ続けた。
----- - 21二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 11:27:12
特段惜しくないヤツが亡くなったな・・・
- 22二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 12:40:07
ブラックラグーンでもこうはならん 流石ゲヘナ
- 23124/12/22(日) 14:10:21
二日目、15時35分。
全ての建物の陰が怖い。何処からともなく現れる空崎ヒナに蹂躙され続け、いつしか暗がりそのものが怖くなっていた。恐怖で頭がおかしくなっていた。私が誰も居ない昼間の路上のど真ん中を隠れることすらせずに歩いていることがその証拠だろう。
視界の端で、白い影が見えた。
「ヒィィィィィ!!」
腰を抜かして頭を抱えて震える。
何も起こらない。恐る恐る目を開けると、そこには白いビニール袋が風に巻かれて浮いているだけだった。
(……だ、駄目だ。もう、無理だ。これは)
呆然として再び震える足で立ち上がり、また歩き出す。
まだ二日だ。こんなのがあと三日も続くだなんて耐え切れるわけがない。
レッドウィンターへ逃げる。それが出来なければ完全におかしくなるまで甚振られ続ける。
喉も乾いて空腹で、無人のコンビニを何件か通り過ぎるが怖くて入れない。
爆弾が設置されていたら吹き飛ばされて、空崎ヒナがやってくる。
道路の端の水溜まりを啜って、何とか飢えを凌ぎ続ける。恐怖だけが私の足を動かし続ける。 - 24124/12/22(日) 14:14:39
「マンホール……マンホール……」
確かこの辺りに目的の場所へ通じるマンホールがあったはずだと探し続けて幾分。
手には蓋を開けるためのリフター代わりに先の曲がった鉄筋を握っていた。さっき見つけたものだ。よろよろと歩いて、ようやく探していたマンホールを見つけ出す。
(……もし、蓋を開けた先にヒナがいたら)
(いや、近くのごみ箱の中で隠れているかも知れない)
(突然空からやってくるんじゃ……ビルに突入してきたあの時みたいに……)
「ひ、ヒヒ……ヒヒヒヒヒ……」
訳の分からない妄想なのに身体の震えが止まらない。
鉄筋をマンホールの蓋に差し込み、少しずつ持ち上げる。蓋の端を円周の淵に乗せ、開いた隙間に手をかける。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ……ッ!!」
恐怖で手が震える。浮かんだ妄想を振り払う。掴む手に力を入れて一気に蓋をひっくり返した―― - 25124/12/22(日) 14:15:48
「――――」
ヒナがいた。
マンホールから手が伸びて、私の胸倉を掴んだ。
「あ…………」
下水道に引きずり込まれて、それから少し覚えていない。
----- - 26二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 14:17:31
いるのか・・・(困惑
これ実はカスミの体に発信機がついてたりしない? - 27二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 14:24:36
はぁいジョージ
- 28二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 14:25:41
- 29124/12/22(日) 14:49:39
■日目、■時■分。
目を覚ます。身体を起こす。ぐっしょりと汚水に浸った服からぽたぽたと水が滴った。
目の前には外へ続く梯子があって、その隣には気絶したヤクザの組員がひとりだけいた。
「…………」
引きずり込まれた。いるはずのない妄想は妄想じゃなかった。どんな妄想も現実だった。
服から滴る水の音が反響する。反響。暗闇――
「……ぁぁああぁあああ!! もういやだぁあああああ!!」
レッドウィンター方面へ向かって下水道を走り出した。
「助けて!! 誰でもいいから助けて!! 嫌だ! もう嫌だ!! ああああああ!!」
半狂乱のまま走り続けた。途中何度か転んで汚水を飲んだがどうでもよかった。ただひたすらに走り続けた。
ずっと、ずっと暗闇の中を。もうどれだけの時間走ったかすら分からない。空崎ヒナが前から来るのか後ろからなんて分からない。何でも良い。もうなんでもよかった。
もう既に自覚はしている。これまでのツケを支払う時が来たのだ。これまで私が刹那的な快楽を求めて行った全てのツケが。けれども、こんなことになるなんて微塵たりとも考えては来なかった。
今まで私は自分が世紀の大罪人として相応の裁きを受けるのだとばかり考えていて、少なくとも助かるためにこんな暗い下水道を泣き叫びながら走るような終わりことは無いはずだった。
違った。現実はどこまでも違ったのだ。
犯罪者が脚光を浴びることはないし、私はただ暴力の痛みに屈するだけの小娘だった。何でもないただの人だったのだ。 - 30124/12/22(日) 14:55:37
声が枯れるまで叫び続けて、足が動かなくなるまで走り続けて、汚水の中へと倒れ込んで――
――――
――
どれぐらい寝ていたのか。意識が戻って、もう何も考えることすらせずに歩き出した。
「…………あ」
気が付けば、目の前には目的の梯子があった。
ここを登って街に戻れば雪原までもう少しだった。
梯子を掴んで足をかける。登る。ゆっくりと蓋を開ける。
その中に一切の思考はない。考えるだけの体力も精神も完全に擦り切れていた。
蓋を開けて顔を覗かせると、そこはちらほらの自治区の住人がいる路上だった。
突然マンホールから出て来た私をぎょっとした目で見ている。もしくは汚水に浸って悪臭を放っているからか。
ぼんやりとしたまま、雪原へふらふらと足が動いた。
その足はようやく、積もる雪を踏みしめた。
----- - 31二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 14:57:59
とりあえず「ゲーム」には勝った・・・?
- 32124/12/22(日) 15:43:43
そこはただ寒く、誰も居ない雪原だった。
雪の上に足跡を残す度に、ただただ私は後悔し続けていた。
ゲヘナ学園――いや、学校組織に犯罪結社をけしかけるという前代未聞の禁忌をおかしてしまったことに。
ただ結果だけを求めて人々を追い詰めその理性を試し、剥き出しになった感情を無聊の慰めとする悪であった。
利害関係を整理して、時には捻じ曲げ、本来ならば敵対するしかないような相手であってもこの手の内へと収め続けた。
これは自分にしか出来ないことだ。他の誰にも真似できない私の特技。
目の前にいる相手をひたすら観察し続けて、今何を考えているのか、何をしたらどう反応して、じゃあこう言ったらこう思うのだろうと相手のことを一心に考えられる。何が嫌で何をされたくないかなんて手に取るように分かる。だから関係に亀裂を入れることも修復することもその全てが容易であった。
だからだろうか。コントロール可能な人心に入れ込むことなんてただの一度としてなかった。
やろうとすれば誰からも好かれるように振る舞うことだって出来たし、その逆も簡単だ。それは私自身を対象としなくてもいい。他の誰かを好きにさせたり嫌いにさせたり、やろうとは思わないが出来るという確証ならあった。
そんな私が誰かを利害以外で信じるなんて有り得るだろうか?
それが利害関係でしか関係性を構築できない私自身の問題だった。
情は鎖だ。社会に属する皆がその鎖を確かな重みとしていた。皆は鎖を錨として、確固たる社会基盤の中で地に足を付けていた。
私にはそれが出来なかった。人の心の機微なんて手に取るように分かるからこそ、私は私の心の機微を何一つ信用できなかった。嬉しい、楽しい、そんな感情が胸に湧いたときでさえ常にもうひとりの自分が私を見ている。それは自分でそう思おうとしているだけなんじゃないかと醒めた目で見続けるのだ。 - 33124/12/22(日) 15:44:00
刺激が欲しかった。そんなこと考えないぐらいの大きな刺激が。
自分の中に潜む虚無感を完膚なきまでに爆破できるようなものを求め続けた。
いつしか私はその感情の発露を人に求めていた。何度も何度も理性の岩盤を爆破して、その中に隠れた願いで自分の胸に空いた穴を塞ごうとしていた。
最初から無意味だったのだ。一時は満たされても器の底には大きな穴が空いている。どれだけの願いを胸に満たしても漏れ出てしまって、また新たな標的を探して歩き続けた。
そんな私が、そんな私が、だ。これまで自分がやってきたように追い詰められた私は遂に自覚してしまった。
私の岩盤の向こうには何もなかった。私だけの宝物なんて何処にもなかった。虚無だ。この寂寥とした雪原を見るが良い。誰もいない。音すら雪に吸われて消える。ただ寒く、冷たい白の世界。これが私の正体だ。
「違う……本当は何処かにあったはずなんだ……。最初はもっと違ったはずだったんだ……」
宝物を探すと言って人の願いを剥き出しにして来た。爆破と称して破壊を繰り返してきた。
けれども今、たった今気づいた。願いとはひとりだけの世界には生まれない。あの風紀委員の二人組だってそうだ。他者に嫉妬して金銭を求めた。相方が大事でその身を捧げた。万魔殿のイロハだって先輩の役に立ちたいという願いがあった。
願いとは良きにせよ悪しきにせよ、誰かが居て初めて生まれるのだ。
そして私は爆破と称して多くの心を無理やりに暴いていった。きっとその時に壊してしまったのだ。本当だったら見つかったはずの私の宝物は、私自身の行いによって何もかもが失われてしまったのだ。
「どうして今まで……気が付かなかったんだ……」 - 34124/12/22(日) 16:00:39
都合の良い話だと分かっている。けれどもし、もしもまだやり直せるのなら、私がレッドウィンターに辿り着けたのなら、もう……辞めよう。ただ大人しく過ごそう。私の特技に近い道なんて見出してはならない。虚無感に呑まれるのか何かを見つけられるのかなんて分からないけれど、それでも、卒業まで静かに過ごそう。
ちらちらと雪が降り始めていた。
遠くに見える陽の光が雪の丘陵の輪郭を写し取る。あれを越えれば、レッドウィンターまでもう少しだった。
「…………あれ」
気のせいだろうか。遠くに見える丘陵が徐々にせり上がっているように見えた。
大地が隆起するように、その影が徐々に高くなっていく――
「あぁ…………」
それは丘陵の影ではなかった。
横隊を組んで進撃する戦車大隊だ。
戦車に紛れて中央には一台の装甲車が並走し、そのボンネットには空崎ヒナが立っていた。 - 35124/12/22(日) 16:00:52
その口が僅かに動いた。声は聞こえずとも分かる。ヒナは言った。『ゲームオーバー』と。
「あぁ…………ぁぁあああああ!!」
足を引きずりながら踵を返す。ヒナの合図で数多の砲声が鳴る。私の周囲に着弾して炸裂する。解けた雪と泥が全身に降りかかる。
「あーー!! あーーーー! ああああああ!!」
もはや殺されゆく獣のような絶叫を上げながら足を引きずってよろよろと戦車から逃げようと歩く。
爆轟が鼓膜を揺さぶり爆炎が容赦なく雪を溶かしていく。私の声も、姿も、何もかもが砲撃の音に飲み込まれていく。
そして、一発の砲弾が私の足元の地面へ着弾した。
爆発。身体が吹き飛ばされ、意識も何もかもが白の中へと消えていった―― - 36124/12/22(日) 16:08:33
「……終わったな。帰るぞ、全部隊撤収」
戦車大隊に紛れていた装甲車の中でマコトが気だるげに指示を飛ばす。
ゲヘナ学園へと帰投する戦車。後に残ったのは雪だけだった。
ゲヘナ侵攻を目論み数多の犯罪組織をまとめ上げた稀代のフィクサー。
ニヤニヤ教授は深雪の彼方に消え去った。もう二度と、帰ってくることもなく。
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「……あの、マコト先輩」
「どうしたイロハよ」
私が思わず声をかけると、マコト先輩は普段と変わらぬ様子で私を見た。
今回の事件は過去に前例が無いほどの重大な事例となるだろう。
ゲヘナに巣食っていた病理を切除するような、あまりに大規模な事件だった。
首を突っ込んだ私もそうだが、面接に組み込まれているイブキだって被害に遭った。
レルモ・ファミリーは闇医者に預けられたとのことだったが、まだゴールデンウィークが始まって三日目。バイカーギャングのリーダーはまだ野ざらしにされているし、ヤクザの組長もまだ汚水に浸っているらしい。
この辺りの大人についての処分に関してはまだ分かる。けれども、黒幕だった教授については……同情してしまう私が甘いのか。
あれだけ風紀委員長に嬲られ続けて、こんな最期を迎えるのは……少しだけ恐ろしく感じた。
だから聞くまでもないことをつい、こうして聞いてしまうのだ。
「教授のことは……殺しちゃうんですね」
「キキッ…………は?」
「え?」 - 38124/12/22(日) 16:23:40
急に真顔になったマコト先輩に私も驚いて声が出た。
「いやいやイロハ。人殺しなどやってはいけないのだぞ……?」
「え、あの……いや帰るんですよね? このまま。教授を置いて。私たち」
「そうだが……?」
「あの傷で放置してたら明日の朝には死んでませんか?」
「……いいか、イロハ。お前はひとつ重大な勘違いをしている」
「……はい?」
マコト先輩が真剣な目で私の肩を掴んだ。そしてゆっくりと息を吐いてこう言った。
「私たちはギャングじゃないんだ。ちゃんと人命は保障するし、何ならちゃんと"適任"なのがあいつを見つける――というか、既に向かわせてある」
「だ、誰を……?」
「キキッ、それはな――」
----- - 39二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 16:47:15
そういやここのマコトは[検閲により削除]も一度は救おうとしてたな