- 1二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 16:41:46
- 2二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 16:42:20
世界終わったな
- 3二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 16:42:34
面白そうじゃん
- 4二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 16:43:35
も…もう駄目だ…!お終いだ…!
- 5二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 16:44:41
一番渡しちゃいけないやつに超人来てて草
- 6二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 16:47:27
でも宿儺が高羽ほど超人活かせるだろうか
- 7二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 16:50:08
**第1話:受肉とバナナ**
闇夜を切り裂くように、乾いた悲鳴が響いた。杉沢第三高校の古びた百葉箱。そこに封印されていたはずの特級呪物「両面宿儺の指」が、オカルト研究会の生徒たちの手によって解き放たれてしまったのだ。漏れ出した異形の気配は、瞬く間に校舎を飲み込もうとしていた。
「先輩っ!」
常人離れした身体能力で壁を蹴り、窓枠を掴んで校舎内に飛び込んだのは、ピンク色の髪をした少年、虎杖悠仁。彼の目に飛び込んできたのは、おぞましい姿に変貌した呪霊と、それに捕らえられた友人たちの姿だった。
絶望的な状況。現場に駆けつけた呪術高専の生徒、伏黒恵も、出現した複数の呪霊を相手に苦戦を強いられている。
「逃げろ、虎杖! お前には関係ない!」
伏黒の声は悲痛だ。だが、虎杖は動けない。目の前の恐怖と、友人を救いたい一心の間で体が竦む。自分だけが逃げるなど、できるはずがない。
ふと、彼の視線が床に転がる奇怪な指に向けられた。赤黒く、禍々しい呪力を放つ、乾燥したミイラのような指。伏黒が言っていた。これが全ての元凶、「両面宿儺の指」。
『呪力には呪力しか対抗できない』
伏黒の言葉が脳裏をよぎる。選択肢は、ない。目の前の友人を、そして伏黒を助けるには、これしかない。
覚悟を決め、虎杖は指を拾い上げると、躊躇なく己の口へと放り込んだ。
ゴクリ、と喉が鳴る。猛毒のはずの指が、体内で急速に何かと融合していく奇妙な感覚。意識が遠のき、全身を焼くような激痛と、それ以上の圧倒的な力が、まるで栓を抜かれたように体を満たしていく。 - 8二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 16:51:25
「―――っ!」
虎杖の体が激しく痙攣し、その顔貌が変貌を始める。額に、頬に、黒い幾何学的な紋様が蛇のように浮かび上がり、普段は固く閉じられているはずの第二の目が、額と両頬でカッと見開かれた。
「グフッ、グフフフ…! いや、ププッ! プププププ…!」
漏れ出たのは、低く、しかしどこか間の抜けた、こらえきれないような笑い声だった。体の主導権は、千年前に死んだはずの「呪いの王」に乗っ取られていた。
呪霊が、新たな獲物と認識したのか、その異様な笑い声に誘われたのか、虎杖の姿となった宿儺へと襲いかかる。巨大な口が、その体を丸ごと飲み込もうと迫る。
「おっとっとぉ!」
宿儺は、まるで慌てふためいた三流芸人のような大げさな素振りで、ひょいとその場を飛び退いた。その瞬間、誰もが予期せぬことが起こった。
**ズデーンッ!!**
呪霊が、何もないはずの床で派手に転倒したのだ。よく見れば、その巨体が滑った地点には、何故か巨大な黄色いバナナの皮が、これみよがしに落ちている。
「……は?」
伏黒は呆然と呟いた。何が起きた? 術式か? だが、こんな…こんなふざけた術式があるというのか? 特級呪物の化身が、バナナの皮で呪霊を転ばせる?
「プププッ! 見たか小僧! これぞ様式美! すべての笑いの原点にして頂点! 伝統芸能よ!」
宿儺は腹を抱えるようにして高笑いしている。その指が示す先で、呪霊はバナナの皮で滑った物理的なショックからか、あるいはその状況のあまりのシュールさに存在意義を見失ったのか、ボフンという気の抜けた音と共に霧散して消えた。後には、なぜか一枚のバナナの皮だけが残っている。
「……なんなんだ、こいつは……」 - 9二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 16:52:22
感じ取る呪力の総量は、紛れもなく特級に匹敵する、いや、それ以上の途方もないものだ。凝縮された力は肌を刺すほど。しかし、その振る舞い、その術式と思しき現象は、あまりにも「呪いの王」という禍々しいイメージとかけ離れていた。
伏黒の混乱をよそに、宿儺は満足げに腕を組み、新たな受肉の器となった虎杖の体を確かめるように見回している。
「ふむ、悪くない体だ。多少手狭だが、まあ及第点だな。しかし、千年ぶりの現世、随分と様変わりしたものよ。さて…まずは手始めに、この時代の『お笑い』とやらを査定してやるとするか! 小僧、貴様は面白いのか?」
宿儺の目が、状況を理解できずに立ち尽くす伏黒に向けられる。
その時、校舎の屋根が吹き飛ぶほどの衝撃と共に、一人の男が音もなく舞い降りた。目隠しをした、長身の男。
「やあ。思ったより派手にやってるね。状況はどうかな、恵?」
特級呪術師、五条悟。その規格外の気配に、伏黒はわずかに安堵の表情を見せる。しかし、宿儺は怯むどころか、待ってましたとばかりにニヤリと口角を吊り上げた。
「おっと、噂をすれば影、とはこのことか! これは面白くなってきたぞ! 大物登場ってやつだな!」
五条は、その規格外の呪力と、目の前で起きたであろう不可解な現象(バナナの皮含む)の残滓を「六眼」で捉え、興味深そうに眉をひそめた。
「へえ…これはまた、面白いことになってるね。君が宿儺か。噂とはだいぶ、いや、全く違うみたいだけど」
「いかにも! 我こそは呪いの王! そして抱腹絶倒のエンターテイナー! 両面宿儺なり! さあ、そこの最強さん、お手並み拝見と行こうじゃないか! まずは一発ギャグで勝負といこうか!」
そう言って宿儺は、なぜかどこからともなく取り出した大きな赤いピコピコハンマーを構えた。
伏黒は頭を抱えた。これは悪夢だ。どう考えても、とんでもなく厄介で、理解不能な存在を、この世に呼び覚ましてしまったのかもしれない。彼の呪術師としての常識が、目の前の現実によって粉々に打ち砕かれようとしていた。
(続く) - 10二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 16:52:54
術式って人格に影響及ぼすんだな…
- 11二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 17:02:58
**第2話:最強のツッコミ**
「まずは一発ギャグで勝負といこうか!」
宿儺がどこからともなく取り出した巨大なピコピコハンマーをブンブン振り回す。その姿は、千年の時を生きた呪いの王というよりは、学園祭の出し物にはしゃぐ高校生のようだ。しかし、その身に纏う呪力の奔流は紛れもなく本物。肌を粟立たせるほどの密度と圧力が、ふざけた言動とのギャップを際立たせる。
「……恵、下がってて」
五条は目隠しの上からでも分かるほど面白そうな表情を浮かべながら、伏黒に指示を出す。彼の「六眼」は、目の前の存在が放つ異様な呪力と、それが生み出すであろう不可解な現象の本質を捉えつつあった。
「悠仁。10秒だ。10秒経ったら代わって貰いな」
「え? でも…」
「大丈夫。僕、最強だから」
有無を言わさぬ五条の言葉に、虎杖の中の宿儺がケラケラと笑う。
「クックック! 威勢がいいな、現代の最強! よかろう、10秒くれてやる! その間に貴様を腹筋崩壊させてくれるわ!」
言葉が終わるや否や、宿儺はピコピコハンマーを振りかぶり、五条目掛けて突進した。その速度は常人なら目で追うことすらできない。だが―――
**カコンッ**
ピコピコハンマーは、五条に触れる寸前で虚空を叩いた。まるで透明な壁に阻まれたかのように。五条の術式「無下限呪術」。術師に近づくほど無限に遅くなる空間が、宿儺の物理攻撃を完全にシャットアウトしていた。 - 12二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 17:04:57
「ほう? これが噂の『無限』か。なるほど、物理的な打撃は通じん、と。芸がないな、実に面白くない!」
宿儺はピコハンを放り投げると、パンッと柏手を打った。その瞬間、五条の真上の空間が歪み、巨大な金ダライが出現した。古典的だが、それ故に普遍的な笑いのアイコン。
**ガシャーン!!**
しかし、タライもまた五条の頭上に到達する寸前でピタリと停止し、そのまま床に落下して虚しく転がった。
「ふむ…『面白くない』攻撃はダメか。ならばこれはどうだ?」
宿儺が指を鳴らす。すると、五条が着ている黒ずくめの高専制服が、一瞬で煌びやかなサンバの衣装に変わった。羽飾りが揺れ、露出度の高い、およそ最強の呪術師には似つかわしくない出で立ち。
「……ハハッ」
五条は自身の姿を一瞥し、軽く笑みを漏らした。
「なるほどね。君の術式は、『面白い』と思ったイメージを現実にすることか。タチが悪いにも程があるけど、嫌いじゃないよ、そういうの」
六眼は、宿儺の術式が彼の主観――「ウケる」という確信――に強く依存していることを見抜いていた。物理法則や呪術の常識を捻じ曲げる、まさに「超人(コメディアン)」の力。
「小僧、貴様も笑え!」
宿儺が伏黒を指差すと、伏黒の口角が本人の意思とは無関係にぐにゃりと上がり、引きつった笑顔を形成した。
「やめ…!」
伏黒が抗議しようとした瞬間、今度は宿儺の足元がおぼつかなくなり、派手にすっ転んだ。しかしすぐにムクリと起き上がり、「今の見えてた? ワザとだからな! 隙あり!」と叫びながら、今度は指先に集中させた呪力で五条の頬に落書きをしようと迫る。これもまた、無下限呪術に阻まれる。
「遅い遅い。君の『面白い』は、僕の無限の前ではただのスローモーションだよ」
五条は高速移動で宿儺の背後に回り込み、デコピンの要領で軽く弾いた。
「ぐふっ!?」
宿儺は予想外の衝撃に、今度は本当にバランスを崩して床を転がる。 - 13二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 17:06:03
宿儺は予想外の衝撃に、今度は本当にバランスを崩して床を転がる。
「やるな貴様! ツッコミのキレがいい! だが、まだまだ!」
宿儺は起き上がりざまに、背景を熱帯のジャングルに変えたり、突然クイズ番組のセットを出現させたりと、矢継ぎ早に「面白い」イメージを叩きつける。しかし五条は、時に無下限で防ぎ、時に体術でいなし、時に「そのボケは古いね」と冷静にツッコミを入れながら、全ての攻撃(ボケ)を完璧に捌いていく。
まるで、練度の高いボケ役(宿儺)と、全てを見通す最強のツッコミ役(五条)による、異次元のコントのようだ。
伏黒は、最早どこから突っ込めばいいのか分からず、ただただ頭痛をこらえていた。
そして、目まぐるしい攻防(コント)が繰り広げられる中、約束の10秒が経過した。
「…あれ?」
虎杖の意識が浮上する。顔や体に刻まれていた紋様は消え、額と頬の目も閉じている。目の前にはサンバの衣装を着た(ように見えたがすぐに元の服に戻った)五条先生と、疲労困憊の伏黒、そして散らばった金ダライやバナナの皮(いつの間に?)が。
「…何が起きたんだ?」
五条は目隠しを少しずらし、満足げに虎杖を見つめた。
「うん、合格。君、面白いね。宿儺の器になれるだけじゃなく、あのトンデモ術式に耐えうる精神力まで持ってるとは。しかも、ちゃんと戻ってこれる」
五条は続ける。
「宿儺の術式は『超人』。彼奴が面白いと確信したイメージを実現する、最悪の現実改変能力だ。防御不能、回避不能、しかも効果範囲も威力も彼奴の『ウケたい』気持ち次第。並の術師なら精神崩壊か、笑い死にするレベルだよ」
五条は少し真剣な表情になる。
「でも、今のところ君はその暴走を抑え込める。千年に一人の逸材…いや、災厄かな。どっちに転ぶかは君次第だ」
「え…えぇぇ!?」
虎杖は自分の身に起きたことの重大さと、宿儺の術式の意味不明さに混乱するしかなかった。
伏黒は深くため息をついた。両面宿儺が、ただ強いだけの呪いの王でなかったこと。そしてその術式が、殺意よりも厄介な「笑い」を振りまくものであること。これから始まるであろう、前途多難すぎる日々に、早くも胃が痛くなるのを感じていた。
(続く) - 14二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 17:09:46
以外に平和やん
- 15二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 17:10:54
虎杖も超人刻まれる事になるんだよな…超人VS超人ちょっと見たい
- 16二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 17:11:23
案外平和??
- 17二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 17:16:18
これギャグ漫画じゃないか?
- 18二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 17:26:35
**第3話:少年院のドタバタ劇**
英集少年院。本来そこにあるはずのない、歪んだ空間。特級に分類される呪胎が潜むその場所は、高専一年生トリオにとって、あまりにも危険な任務だった。
「クソッ…!」
伏黒恵は式神・玉犬(白)を失い、目の前に現れた特級呪霊の異様なプレッシャーに冷や汗を流していた。釘崎野薔薇は床下に引きずり込まれ、安否も不明。そして虎杖悠仁は―――
「ぐあああっ!」
虎杖は、腰の呪具で反撃を試みるも、呪霊の素早い一撃によって左手首から先を吹き飛ばされていた。激痛と出血。だが、それ以上に彼の心を苛むのは、己の無力さと、仲間を危険に晒してしまったという後悔だった。
「虎杖っ!」
伏黒が叫ぶ。鵺を召喚し、呪霊の注意を引こうとするが、格の違いは明らかだった。
「…伏黒」
虎杖は、滴り落ちる血を見つめながら、覚悟を決めた顔で言った。
「悪いけど、俺、コイツに代わるわ」
「馬鹿言うな! 宿儺が出てきたらどうなるか…!」
「でも、このままじゃ全滅だ! 釘崎も助けられねぇ!」
虎杖の瞳には、恐怖ではなく、決意の色が宿っていた。
「俺が合図したら、釘崎を連れてすぐに逃げろ。コイツ…いや、宿儺なら、あの呪霊なんて余裕だろ」
伏黒は唇を噛む。最悪の選択肢。だが、現状を打開するには、それしかないのかもしれない。
「…分かった。必ず、回収に来る」
伏黒は式神・蝦蟇を召喚し、釘崎が引きずり込まれた床下へと向かわせる。
程なくして、気絶した釘崎を抱えた蝦蟇が戻ってきた。
「よし…行けっ!」
伏黒が叫んだ瞬間、虎杖の体が再び黒い紋様に覆われた。 - 19二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 17:27:14
「クックック…待たせたな、雑魚ども」
両面宿儺が、虎杖の体で不気味に笑う。しかし、その目はどこか退屈そうだ。
「やれやれ、こんな三流の化け物に手間取るとは。現代の術師はレベルが低いにも程があるぞ」
特級呪霊が、新たに出現した強大な存在に警戒し、奇妙な鳴き声を上げる。
「ほう? やる気か? いいだろう、少し遊んでやる」
宿儺がパチン、と指を鳴らす。
その瞬間、特級呪霊の頭上に、教室で使うような巨大な黒板消しが突如出現した。
**ゴフッ!?**
黒板消しは正確に呪霊の頭頂部に落下し、チョークの粉のようなものを派手にまき散らす。呪霊は目を白黒させ、よろめいた。
「なんだその反応は! 面白くないぞ! もっと派手に驚け!」
宿儺は不満げに叫び、今度はどこからともなく巨大なハリセンを取り出す。
「ツッコミがなってない!」
宿儺は目にも止まらぬ速さで呪霊に接近し、ハリセンでその体を思い切り叩いた。
**スパァァァン!!**
魂に響くような、乾いた音が響き渡る。特級呪霊は、まるで漫画のキャラクターのように目を回し、星を散らしながらその場に崩れ落ちた。そして、まるで最初から存在しなかったかのように、ボフンという軽い音と共に消滅した。後には、なぜか一枚の座布団だけが残されている。
「…なんだ今の」
伏黒は、開いた口が塞がらない。特級呪霊が…ハリセンで祓われた…? - 20二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 17:28:31
「ふん、前座にもならんわ」
宿儺は興味なさそうに鼻を鳴らすと、虎杖の失われた左手首に目をやった。
「おっと、これは見栄えが悪いな。笑えん」
宿儺が手首の断面に軽く息を吹きかけると、まるで早送りの映像のように、手首から先がニョキニョキと生えてきて、あっという間に元通りになった。痛みも出血もない。
「ほら、くっついた! 拍手!」
宿儺は自分で拍手している。伏黒はもはや反応する気力もなかった。
「さて…」
宿儺の目が、建物の外へ脱出した伏黒と、彼に抱えられた釘崎に向けられる。
「貴様だな、伏黒恵。面白いものを持っていると聞いたぞ」
瞬間移動したかのように、宿儺は伏黒の目の前に立っていた。その手には、いつの間にか抜き取られた虎杖の心臓が握られている。ドクン、ドクンと脈打つ、生々しい心臓。
「なっ…!?」
「この小僧の心臓だ。これを人質にすれば、貴様も本気を出すだろう?」
宿儺は心臓を弄びながら、愉快そうに笑う。
「さあ、始めようか! 我を楽しませてみろ、伏黒恵!」 - 21二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 17:29:53
伏黒は絶望的な状況を理解した。虎杖を人質に取られた。そして、目の前の存在は、ただ強いだけではない。予測不能で、常識が一切通用しない、最悪のエンターテイナー。
「玉犬(黒)! 鵺!」
伏黒は残った式神を繰り出す。黒い犬と怪鳥が、宿儺に襲いかかる。
「甘いな!」
宿儺は軽々とかわすと、玉犬(黒)の頭にパーティ用の三角帽子を被せ、鵺の翼に「初心者マーク」のステッカーを貼り付けた。式神たちは混乱し、動きが鈍る。
「大蛇(おろち)!」
伏黒が最後の切り札を出すが、巨大な蛇が出現した瞬間、宿儺が指を鳴らすと、大蛇はなぜか蝶ネクタイを締め、シルクハットを被った執事のような姿になり、「お呼びでしょうか、ご主人様?」と丁寧にお辞儀をした。
「クソッ…ふざけやがって!」
伏黒の攻撃はことごとくギャグに変えられ、まともにダメージを与えられない。
「どうした? もっと面白いことはできんのか? その程度か、貴様の『面白い』は!」
宿儺は、伏黒が追い詰められ、必死になる様を心底楽しんでいるようだった。
伏黒は奥歯を噛みしめる。こうなれば、あの術式を使うしかない。たとえ相打ちになったとしても…! - 22二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 17:30:12
伏黒が印を結び、全身の呪力を練り上げようとした、その時。
「…やめろ…伏黒…」
宿儺の体から、虎杖の声が漏れた。黒い紋様が薄れ、虎杖の意識が浮上し始めていた。
「ほう? この状況で戻ってくるとはな。根性だけはある小僧だ」
宿儺は少しだけ感心したように呟いた。
「もう…いい…」
虎杖は、心臓のない胸を押さえながら、苦しげに息をする。
「伏黒…釘崎を…頼む…」
彼の視線が、心配そうに見つめる伏黒に向けられる。
「長生き…しろよ…」
それが、虎杖悠仁の最後の言葉だった。彼の体から力が抜け、その場に崩れ落ちる。
「……チッ」
宿儺は、死んだ虎杖(の体)を一瞥し、心底つまらなそうに舌打ちした。
「一番盛り上がるところで水を差しおって。これだから素人は困る」
彼は伏黒に向き直る。
「まあいい。今日のところは幕引きとしよう。だが覚えておけ、伏黒恵。貴様の『面白いもの』、いずれ必ず見せてもらうぞ」
そう言い残すと、宿儺(の気配)は虎杖の亡骸からフッと消え去った。後に残されたのは、静寂と、友人の死という受け入れがたい現実だけだった。
伏黒は、崩れ落ちた虎杖の体に駆け寄る。温もりは、まだ残っている。しかし、胸の鼓動は、永遠に聞こえることはない。
(続く) - 23二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 17:31:42
シリアスなのかギャグなのかよくわからんな
- 24二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 17:35:11
>伏黒恵は式神・玉犬(白)を失い
ちくしょう!助からなかった!
- 25二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 17:52:49
**第4話:生得領域大喜利(不謹慎編)**
意識が浮上する。しかし、そこは冷たい解剖台の上ではなかった。虎杖悠仁が目を開けると、目の前にはどこまでも続くかのような広大な空間が広がっていた。積み上げられた無数の骸骨が、まるで観客のように彼を取り囲んでいる。そして、その中央にはやけに立派なステージがあり、眩いスポットライトが降り注いでいた。
「よぉ、やっとお目覚めか、小僧」
声のした方を見ると、ステージの中央に一人の男が立っていた。虎杖の体に刻まれていたものと同じ黒い紋様を持つが、なぜかビシッとしたタキシードを着こなし、手にはマイクを持っている。両面宿儺だ。
「ここは…?」
「俺様の生得領域よ。まあ、お前さんにとってはあの世ってやつだな。心臓、無かったろ?」
宿儺はニヤリと笑い、虎杖が最後に感じた胸の空虚感を的確に指摘する。
虎杖は自分の胸に手を当てる。服の上からでは分からないが、確かにあの時、宿儺は自分の心臓を抉り出したはずだ。
「…じゃあ、俺は死んだのか」
「現状はな。だが、特別にチャンスをやろう」
宿儺は芝居がかった仕草でマイクを掲げる。
「貴様、なかなか面白い反応をする。それに、あの伏黒恵とかいう小僧、あれは逸材だ。もっと近くで観察してやりたい。だから、貴様を生かしてやることにした」
「…は? 生き返らせてくれるってのか?」
「ああ。ただし、タダでとはいかん。契約だ」
宿儺は指を一本立てる。
「条件は二つ。一つ! 俺様が『契闊(けいかつ)』と唱えたら、1分間、この体は俺様専用のステージタイムとなる! その間、俺様が存分に『面白いこと』を披露するのを邪魔するな!」
「はあ!? ふざけんな! その間に何されるか分かったもんじゃ…」
「まあ聞け。そして二つ目! 貴様はこの契約を結んだこと自体を忘れる!」
「ますます胡散臭ぇ!」 - 26二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 17:53:34
虎杖が反発するのも無理はない。あまりにも一方的で、危険な匂いしかしない契約だ。
「嫌だね! そんなの!」
「ほう? ならこのまま朽ち果てるか? それもまた一興だが…ちと退屈だな」
宿儺はつまらなそうに肩をすくめる。
「…分かった! じゃあ、こうしようぜ!」
虎杖は叫んだ。どうせ死んでいるなら、無茶の一つでも通してみせる。
「俺と勝負しろ! もし俺が勝ったら、無条件で生き返らせろ!」
「勝負だと? 面白い! 何で勝負する? 殴り合いか? それとも…」
宿儺の目がキラリと光る。
「…ギャグ対決だ!」
虎杖はヤケクソ気味に叫んだ。相手がふざけた奴なら、こっちもふざけた土俵で勝負してやる。
「プププッ…! ギャグだと!? いいだろう! 受けて立つ! 千年前から磨き上げた俺様のユーモアセンス(という名の悪趣味)、その身に刻むがいい!」
宿儺は大喜びでその提案を受け入れた。ステージ上に、なぜか回答者席と司会者席、そして巨大な「大喜利」と書かれたフリップが出現する。観客席の骸骨たちが、カタカタと骨を鳴らして期待に満ちているように見えた。 - 27二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 17:54:58
「では第一問!」
司会者席に座った宿儺(いつの間にか衣装も変わっている)が、厳かに問題を読み上げる。
「『こんな呪術師は嫌だ』。どんな呪術師?」
虎杖は必死に頭を捻る。嫌な呪術師…任務に支障が出るような奴か?
「え、えーっと…呪霊相手に、怖がって泣き出しちゃう」
なんとか無難な回答を出す。会場(骸骨たち)は「まあ、嫌は嫌か…」と微妙な反応。
「凡庸! まるで毒にも薬にもならん回答だな! 嫌われることを恐れているのか? 芸人の風上にも置けんわ!」
宿儺は虎杖を嘲笑い、バシッとフリップを叩く。
「正解はこうだ! 『被害者の遺族の前で、『いやー、今回は手間賃に見合わない雑魚でしたわー』とか平気で言う奴』!」
その瞬間、会場に一瞬、気まずい沈黙が流れた。骸骨たちも「うわぁ…」「それはアウトだろ…」「最低だな…」とヒソヒソ声が聞こえる。しかし、そのあまりの不謹慎さと、言い放った宿儺の悪びれない態度に、一部の骸骨が耐えきれず「プッ」と吹き出し、それが伝染するようにクスクス笑いが広がり、最終的には「不謹慎だけど言いそう!」「最低すぎて逆に面白い!」という歪んだ爆笑に変わっていった。
「なっ…! 最低だぞお前!」
虎杖は本気で顔をしかめる。人の心がないにも程がある。 - 28二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 17:55:37
「第二問!」宿儺は虎杖の抗議など意にも介さず、楽しそうに続ける。「『特級呪霊が思わず二度見。何があった?』さあ、小僧!」
虎杖はもうヤケクソだった。不謹慎には不謹慎で対抗…いや、できない!
「えっと…目の前の人間が、急に全裸になって踊り始めた!」
苦し紛れの回答。これも骸骨たちの反応は鈍い。
「発想が貧困だな! ただの下品なだけではないか! もっとこう、人間の業(ごう)の深さ、愚かさを突かんか!」
宿儺は呆れたようにため息をつき、自信満々にフリップを示す。
「正解はこうだ! 『大勢の人間が悲鳴を上げて逃げ惑う大惨事の現場で、スマホ片手に『見て見て!超ヤバいんだけど!ウケるwww』とか言いながら、泣き叫ぶ子供を背景に自撮りしてる奴がいた』!」
会場は再び静まり返った。今度こそ、笑いは起きないかと思われた。骸骨たちもドン引きしている様子だ。しかし、宿儺が「どうだ? 人間とは実に滑稽な生き物だろう?」と悪魔のように微笑むと、そのあまりの悪意と皮肉に満ちた光景に、一部のひねくれた骸骨が「確かに…人間ってそういうとこあるよな…」と呟き、それがまた奇妙な共感を呼び、最終的には「やめろぉ!」「でも的確ぅ!」「人間のクズ!…面白い!」という、もはや倫理観が崩壊したかのような爆笑へと発展した。 - 29二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 17:56:15
「お前…本当に最低だな…!」
虎杖は心の底から宿儺を軽蔑した。こんな奴に体を明け渡す契約など、絶対に結びたくない。だが、大喜利では二連敗。勝負はついてしまった。
「…参りました」
虎杖は吐き捨てるように言った。
「クックック! 分かったか、小僧! これが俺様の『笑い』よ!」
宿儺は満足げに立ち上がり、元のタキシード姿に戻る。
「では、契約成立だ。第一条件、『契闊』で1分間のステージタイム。第二条件、契約の忘却。そしてオマケだ。第三条件! その1分間、俺様は誰も殺さんし傷つけん! …まあ、俺様の不謹慎ジョークで精神をやられる奴がいても、それは自業自得だがな!」
宿儺が高らかに宣言し、指をパチンと鳴らす。
すると、虎杖の胸に、禍々しい紫色のドクロマークが浮かび上がり、すぐに消えた。心臓が再生した感覚と共に、言いようのない嫌悪感が胸に残る。
「さあ、現世に戻るがいい、小僧。せいぜい俺様を楽しませるための道化を演じろ」
宿儺の嘲笑と共に、虎杖の意識は急速に現実世界へと引き戻されていった。
解剖台の上で、虎杖悠仁は再び目を開けた。胸には傷一つない。しかし、頭の片隅には、何かとてつもなく嫌な約束を忘れてしまったような、重苦しい感覚だけが残っていた。
(続く) - 30二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 17:57:52
とりあえず一旦ここまででまた深夜か明日にスレが残ってたら
- 31二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 17:57:56
この宿儺は全世界笑わせたいのか?
- 32二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 18:07:29
なんか口調軽いな…
生き方がまるっきり違そうだしそりゃそうか - 33二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 18:13:52
絶対お笑いに向いてないのに笑いを期待される伏黒可哀想…
- 34二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 19:07:19
確かに宿儺の口調が軽すぎるので次からは調整するね
- 35二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 19:28:30
この宿儺はブラックジョークとかをよく好むタイプかな?
- 36二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 19:52:30
>予測不能で、常識が一切通用しない、最悪のエンターテイナー。
>「一番盛り上がるところで水を差しおって。これだから素人は困る」
若干羂索みを感じさせつつ根本は快・不快で生きてる宿儺らしさがあるけどどちらにせよ最悪で草
- 37二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 00:22:28
渋谷の地下深く、塵芥と血の匂いが立ち込める中、虎杖悠仁の肉体は再びその主を変えた。枷場姉妹、そして漏瑚によって無理矢理に飲み込まされた合計15本の指。膨大な呪力が奔流となり、千年の時を超えて呪いの王を呼び覚ます。
「クックック…! ケヒッ! 久方ぶりの受肉、悪くない」
黒き紋様が皮膚を走り、虎杖の顔貌がわずかに変貌する。ただ、その瞳の奥に宿る光だけが、絶対的な存在感を放っていた。両面宿儺。その口から漏れるのは、禍々しさよりも、どこか歪んだ愉悦に満ちた声だった。まず視界に入ったのは、縋るような目でこちらを見る枷場姉妹。
「ほう…貴様らか。この俺に指図しようというのか? つまらんな。実に、面白くない」
宿儺が指を鳴らす。パチン! その瞬間、姉妹の服は強制的に黒いエナメル質のバニーガールの衣装に変わり、頭にはウサギの耳のカチューシャが装着された。羞恥と困惑に顔を赤らめる間もなく、二人はまるでスポットライトが消えるように、フッと音もなくその場から姿を消した。宿儺にとっては、目障りな舞台装置を片付けたに過ぎない。
「さて…」
宿儺の視線が、次に一体の呪霊へと向けられる。頭部が火山の形状をした、漏瑚。
「貴様か、火山頭。なかなかどうして、ふざけた面(つら)をしている。良いだろう、興が乗った」
宿儺は漏瑚の持つ指の本数と、その内に秘めた力を値踏みするように見つめる。
「俺に一撃でも入れられたら、あるいは、俺様を心底『面白い』と思わせることができたなら、一時、貴様らの茶番に興じてやろう。だが…俺を退屈させればどうなるか、分かるな?」
漏瑚は、その不遜な態度と、明らかに自分を格下と見ている宿儺の言葉に激昂する。
「舐めるなよ、呪いの王がッ!!」
灼熱の火山弾が宿儺目掛けて放たれる。しかし―――
**ポンッ! ポポンッ!!**
宿儺に届く寸前、溶岩弾は全て軽快な音を立てて弾け、大量のポップコーンへと変わった。バター醤油の香ばしい匂いが辺りに漂う。
「ほう、味は悪くない。だが、決め手に欠けるな」
宿儺は舞い散るポップコーンの一つを掴み、口に放り込みながらこともなげに評した。 - 38二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 00:23:13
漏瑚は畳み掛けるように炎を放つが、それらは色とりどりのシャボン玉となり、宿儺の周りを儚く漂っては消える。地面からマグマを噴出させれば、それは何故かチョコレートフォンデュに変わり、甘ったるい香りを放つ。
「芸がない! 芸がないぞ火山頭! その生真面目さが貴様の限界か! もっと捻らんか! 意外性こそがエンターテイメントの極意ぞ!」
宿儺は渋谷の街を駆け抜けながら、漏瑚を翻弄する。漏瑚が高速で追えば足元にバナナの皮が出現し、術式を発動しようと印を結べば巨大な金ダライが寸分の狂いなく頭上に落下する。これらは宿儺の術式「超人(コメディアン)」における基本的な「前フリ」。これ自体で強敵を仕留める威力はないが、これらの「面白いこと」のイメージを積み重ねることこそが、真の「オチ」――必殺のギャグを繰り出すための必須条件なのだ。宿儺は、漏瑚をいたぶりながら、着実にその布石を打っていく。
「クソッ…! なぜ当たらん! なぜこのような…!」
漏瑚は己の力が通用しない現実に焦燥と屈辱を募らせる。
「飽きた」
突如、宿儺の声の温度が消えた。
「貴様のワンパターンな攻撃には飽いた。実に、つまらん」
追い詰められた漏瑚は、最後の切り札に賭ける。全身の呪力を練り上げ、渋谷の一角を更地にするほどの破壊力を持つ「極ノ番」を発動せんと構える。
「これで終わりだ、宿儺ァァ!! 極ノ番―――」 - 39二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 00:23:56
「―――やかましい」
宿儺の声と共に、漏瑚の発動は強制的に中断させられた。否、中断ではない。宿儺が、漏瑚の最大火力を「究極につまらないオチ」と断じた瞬間、その術式の発動イメージそのものが霧散したのだ。
「ふむ、十分だ。『前フリ』は上々。観客(たとえ死体であろうと)もそこそこ温まっただろう。それに、今は一対一。この状況ならば、あの鬱陶しい『縛り』にも抵触せん」
宿儺は満足げに呟く。彼の術式における「究極のオチ」は、無闇に連発できるものではない。状況と、それまでの「前フリ」の積み重ねが必要不可欠なのだ。
「見せてやろう、本物の『火力』というものを。貴様の矮小な炎とは格が違う、真のエンターテイメントのフィナーレを」
宿儺は右腕をゆっくりと掲げる。その指先が、まるで空間に何かを描き出すように動いた。
「**■**」
宿儺が言葉にならない音を発すると同時に、空間に満ちていた「爆笑性の粉塵」――ポップコーンの燃えカス、シャボン玉の残滓、チョコの飛沫、バナナの破片、金属粉――が一斉に励起する。一粒一粒が、強制的な爆笑と破壊の呪力を秘めた微細な爆弾。
そして、宿儺は静かに、しかし確実に告げた。
「―――『呵(カ)』」
それが着火の合図だった。
**ドッッッッッッッカアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!**
粉塵が一斉に連鎖爆発を起こす。空間そのものが歪むほどの超高熱と衝撃波と共に、抗いようのない強制的な「爆笑」のエネルギーが津波のように漏瑚を襲う。視界を埋め尽くす閃光の中で、漏瑚の体は内部から沸騰し、膨張し、引き千切れんばかりに捩じ上げられる。 - 40二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 00:24:46
「グ…ギャハッ…! ア゛ッ…ハハハハハハハハハハ!!!!!」
漏瑚は、苦痛とも歓喜ともつかない、狂った断末魔の爆笑を上げながら、その存在を構成する呪力ごと爆散していく。体が焼け爛れ、骨が砕け、内臓が飛び散るその瞬間まで、彼は嗤い続けることを強制された。爆心地には、巨大なクレーターと、しばらくの間、陽気なファンファーレのような音が鳴り響いていた。後に残ったのは、破壊の痕跡と、空間に漂う微かな甘い匂い、そして圧倒的な虚無感だけだった。
「…………」
宿儺は、静まり返った空間を見渡し、一つ息をついた。
「貴様のその糞真面目さは、ある意味で最高の『前フリ』だったぞ、火山頭」
それは、強者への敬意か、あるいはただの気まぐれか。
その時、宿儺の背後に音もなく一つの人影が現れた。千年前からの宿儺の側近、裏梅。
「お待ちしておりました、宿儺様」
裏梅は深く頭を下げ、その顔には再会を喜ぶ色が浮かんでいる。
「お目覚めになられたのですね」
「ああ。少し寝すぎたようだ」
宿儺は裏梅を一瞥し、口の端を上げる。
「小僧(虎杖)が死にかけていたところに、わざわざ指を食わせに来た痴れ者がいてな。手間が省けたわ」
「そうでございましたか。では、これより…」
「いや」
宿儺は裏梅の言葉を遮る。
「まだだ。もう少し、この小僧の体で観劇といく。それに…面白い玩具を見つけた」
宿儺の視線は、先ほど眠らせた伏黒恵がいるであろう方向へと向けられる。
「裏梅、貴様は先に行け。準備を進めておけ」
「…御意」
裏梅は再び深く頭を下げると、音もなくその場から姿を消した。
宿儺は一人、破壊された渋谷の街を見下ろす。
「さて、次はどの道化が俺を楽しませてくれる?」
その目は、次なる「面白いこと」を求めて、爛々と輝いていた。
(続く) - 41二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 00:28:22
**第6話:狂咲笑花、嗤う終焉**
火山頭(漏瑚)を圧倒的な「笑い」の力で消し去った宿儺は、ふと、遠方で膨れ上がる異様な呪力の気配を感知した。それは、自身が興味を抱く対象――伏黒恵のものと酷似しているが、遥かに禍々しく、制御不能な気配。
「ほう…? あの小僧、面白いことを始めたようだな」
その頃、伏黒恵は渋谷の一角で絶体絶命の窮地に陥っていた。連戦による消耗に加え、呪詛師・重面春太の不意打ちを受け、致命傷を負っていた。意識が朦朧とする中、伏黒は己の死を悟る。だが、ただ死ぬわけにはいかない。この憎き呪詛師だけでも道連れに…!
「『布瑠部由良由良(ふるべゆらゆら)』―――」
伏黒は最後の力を振り絞り、印を結ぶ。それは、十種影法術における禁断の儀式。歴代の術師ですら誰も調伏できた者がいないという、最強の式神を呼び出すための「調伏の儀」。自身が死ぬことを前提に、その場にいる重面を強制的に儀式に巻き込む捨て身の策だった。
空間が歪み、重面の背後に巨大な影が出現する。圧倒的な威圧感と共に姿を現したのは、八握剣 異戒神将 魔虚羅。頭上の法陣が不気味に回転し、その場にいる全てを破壊し尽くさんと動き出す。
「な、なんだコイツは!?」
重面は突如現れた異形の存在に恐怖し、逃げ出そうとするが、調伏の儀に巻き込まれた以上、逃れることはできない。魔虚羅は出現と同時に、まず手近な脅威である重面を認識し、その巨腕を振り下ろす―――かに見えた。 - 42二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 00:30:30
その時、上空から凄まじい速度で何かが降ってきた。両面宿儺である。
彼は、伏黒の命の危機と、魔虚羅という規格外の存在の顕現を正確に把握していた。
「ケヒッ、間に合ったか。危うく最高の観客を失うところだったわ」
宿儺は一瞬で状況を把握する。瀕死の伏黒、狼狽える呪詛師・重面、そして圧倒的な存在感を放つ魔虚羅。
「オマエにはやってもらわねばならんことがある。ここで死なれては興醒めだ、伏黒恵」
宿儺は伏黒に近づこうとするが、魔虚羅がそれを阻むように立ち塞がる。重面は宿儺の登場に一瞬安堵するも、次の瞬間には自分もこの異常事態に巻き込まれていることを悟り、恐怖に顔を引き攣らせる。
「ふむ…調伏の儀か。くだらんな」
宿儺は伏黒を一瞥し、次に重面を見た。
「伏黒恵が◯ねば儀式は終わるが、それではつまらん。貴様もこの場にいる以上、儀式の参加者扱いか。ならば好都合」
宿儺は重面を無視し、魔虚羅へと向き直った。
「死に体の貴様(伏黒)に代わり、俺が味見してやろう。その切り札、どれほどのものか。光栄に思うがいい」
本来、複数人が参加した時点で無効となる調伏の儀だが、宿儺は自らも「儀式の参加者」として介入することで、伏黒の死による儀式の終了を防ぎ、かつ魔虚羅を破壊するつもりだった。
「さあ、始めようか。俺を楽しませてみろ、八握剣」
重面は、宿儺と魔虚羅という二つの規格外の存在に挟まれ、ただ震えていることしかできない。 - 43二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 00:31:27
魔虚羅が動く。退魔の剣が、呪いの王を滅せんと振り下ろされる。しかし―――
**フニャッ**
宿儺に届く寸前、鋼のはずの剣が、まるでゴムのように弾力を持って歪み、宿儺の額を優しく叩いた。
「…詰まらん。貴様の得物は玩具か?」
宿儺は心底つまらなそうに吐き捨てた。魔虚羅は構わず拳を繰り出すが、これもまた宿儺に触れる直前に巨大な猫の手のクッションに変わり、「にゃーん」という気の抜けた効果音と共に宿儺の頬を撫でる。
「芸がないな。もっと捻らんか。俺を退屈させるなよ?」
宿儺の声には苛立ちが混じる。魔虚羅は宿儺の術式――「面白い」と確信したイメージの具現化――を解析し、その「面白さ」を無効化、あるいは別の形で上書きしようとしている。頭上の法陣が回転を速める。
宿儺が魔虚羅の足元に巨大な落とし穴をイメージする。しかし、穴は出現せず、代わりに地面から巨大なびっくり箱が飛び出し、中から「ワッ!」と書かれたプラカードを持った小さな魔虚羅(デフォルメ)が飛び出した。
宿儺が魔虚羅の頭上にタライを降らせようとする。しかし、タライは落ちてこず、代わりに魔虚羅の頭上に天使の輪が輝き、背中からは純白の羽が生えた。神々しい姿だが、その状況はあまりにもシュールだ。
「ほう…面白い。俺のイメージを逆手に取り、別の『滑稽さ』で返礼するか。悪くないぞ、式神」
宿儺は初めて魔虚羅を認め、面白そうに口角を吊り上げた。だが、その目は笑っていない。
「だがな、貴様のその適応という芸当…見飽きた」
魔虚羅が投げつけた瓦礫が、宿儺に当たる寸前に色とりどりの花束に変わる。宿儺はその花束を掴むと、無造作に握り潰した。
「興醒めだ。興醒めの極みだぞ、貴様。これ以上、俺の『面白い』を邪魔立てするな」
宿儺の纏う空気が変わる。遊びは終わりだ。絶対的な呪力の奔流が、周囲の空間を歪ませる。
「貴様のような無粋な存在に相応しい、終幕を用意してやろう」 - 44二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 00:33:41
宿儺は両腕を広げ、その顔に愉悦と狂気が入り混じった表情を浮かべた。
「領域展開―――『狂咲笑花(きょうしょうしょうか)』」
瞬間、世界が悪意ある嗤い(わらい)に塗り潰された。
これは通常の領域展開のように、結界で相手を閉じ込めるものではない。結界を閉じずして生得領域を具現化する神業。キャンバスを用いず空に絵を描くに等しいとされる、異次元の結界術。相手に逃げ道を与えるという縛りと引き換えに、その効果範囲は眠る伏黒を巻き込まないギリギリの半径140メートルにまで及ぶ。
渋谷の中心部が、悪夢そのものを強制的に体感させる狂気の劇場へと変貌する。
空気は重く粘り気を帯び、壊れた蓄音機から流れるような、途切れ途切れの甲高い笑い声と、地鳴りのような低い呻き笑いが空間を支配する。空からは、腐臭を放つ赤黒く湿った紙吹雪が降り注ぎ、地面はグニャグニャと歪み、まるで巨大な怪物が苦悶しながら笑い転げているかのように脈打つ。
破壊されたビル群は、苦痛に歪んだ巨大な顔のように見え、その窓や壁の亀裂からは、絶え間ない、引き攣ったような、喉を引き裂くような「嗤い声」が響き渡る。それは最早、生物の声ではない。コンクリートが「アハハ」と軋み、鉄骨が「ヒヒヒ」と歪み、ガラスが「キャハハハ」と甲高く砕け散る。有機物も無機物も、この狂気の空間では等しく断末魔の「嗤い」を上げ、存在そのものが内側から崩壊していくのだ。
「ア゛ア゛ア゛ア゛!!!! ヒィィィイイイ!!! ギャハハハハハ!!」
「グ…ギギギギ…!! ハハ…ハハハハハッ!! ア゛ッッ!!」
「キィィィィ!! ハハッ、ハハハハハハ!!!」
領域内の全ての人間は、抗いようのない強制力によって「嗤い」の発作に襲われる。それは歓喜や面白さから来るものではない。ただただ、体が、魂が、存在そのものが、強制的に嗤わされるのだ。目玉が飛び出し、血管が切れ、血と涙と涎を撒き散らしながら、腹が捩じ切れ、内臓を破裂させ、骨がきしむ音を立てながら、それでも嗤い続ける。狂った嗤いの中で肉体はグシャグシャに崩壊し、原型を留めない肉塊へと成り果てる。まさに、狂った嗤いの中で万物が咲き乱れ、共に死に絶える地獄絵図。 - 45二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 00:35:14
魔虚羅も、この領域の例外ではなかった。その巨体が、まるで不随意な痙攣を起こすようにガクガクと震え、口元が醜く歪み、引き攣った甲高い「嗤い声」のような異音を喉の奥から漏らし続ける。強制的な嗤いの力が、その存在構造を分子レベルで侵食し、破壊していく。
しかし、魔虚羅は最強の式神。頭上の法陣は、この筆舌に尽くしがたい地獄の中でも回転を止めない。「狂った嗤い」という概念、この破滅的な現象そのものに適応しようと、必死に抵抗を試みる。その抵抗は、嗤いの合間に漏れる機械油のような異音、体の異常な振動、制御不能な痙攣として現れ、より一層その姿を醜悪なものにしていた。
「ほう…まだ形を保つか。しぶとい。実に、実に―――」
宿儺は魔虚羅の醜悪極まりない抵抗を観察し、心底つまらなそうに言葉を切った。
「―――見苦しい」
領域展開による強制的な崩壊ですら、この式神を完全に破壊するには時間がかかる。あるいは、この狂気そのものに適応され、さらに醜悪な存在へと変貌するかもしれない。
「飽きた。貴様との悪ふざけは、もう終わりだ」
宿儺は右手をスッと前に出した。その指先が、まるでテレビのリモコンを操作するように動く。
「消えろ。最も滑稽で、陳腐な終わり方でな」
宿儺が「最高に面白くない、ありきたりなエンディング」を確信した瞬間。
周囲に突如、古いブラウン管テレビがいくつも出現した。その全てに、ノイズ混じりの魔虚羅の姿が映し出されている。魔虚羅の巨体が、まるでそのテレビ画面の中の映像のように、急速に中央に向かって縮小し始めた。画面の映像が乱れるようにノイズが走り、奇妙な断末魔の「嗤い声」が途切れ途切れに響く。そして、完全に消滅する直前、一瞬だけ、ノイズが晴れたクリアな映像の中で、魔虚羅がこちらに向かって親指を立てている(サムズアップしている)姿が映し出された。次の瞬間、「プツン」という味気ない音と共にテレビの電源が切れ、魔虚羅の存在は完全に虚空へと消え去った。後には、砂嵐の画面を映すテレビだけが残ったが、それもすぐに消えた。 - 46二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 00:35:31
「…………」
宿儺は、静まり返った空間(ただし、まだ耳障りな嗤い声の残響と歪んだ音楽は微かに聞こえる)を見渡し、満足とも不満ともつかない、虚無的な表情で息をついた。
「さて…」
宿儺は眠る伏黒恵の元へ歩み寄り、額の冷却シートを剥がすと、その傷口にテレビの砂嵐のような模様の絆創膏を貼った。すると、傷はノイズが消えるように跡形もなく消え去った。
「存分に眠るがいい。いずれ、貴様には最高の舞台を用意してやる」
そして、宿儺は虎杖の体を見下ろし、嘲るように言った。
「さあ、小僧。お前の出番だ。この最高の喜劇(カタストロフ)の跡を、その目に焼き付けるがいい」
宿儺の気配が消え、虎杖悠仁の意識が浮上する。
彼が目にしたのは、物理的な破壊だけではない、狂った嗤いの残響と死臭、そして存在そのものが歪められたかのような、悪夢のような渋谷の惨状だった。
(続く) - 47二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 01:29:35
やっぱ性格変わってません?
- 48二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 10:46:17
ほしゅ
- 49二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 10:56:19
なんでこの術式と面白いものみたい!でこんな邪悪になるんですかねぇ……
笑い死にを物理で起こすな… - 50二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 18:05:35
ほ
- 51二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 19:14:59
**第7話:不条理の幕開け**
「―――覚えているか?面白いものが見れると 言ったろう 小僧」
伏黒恵の貌(かんばせ)で、両面宿儺が嗤う。黒い紋様がその肌を走り、瞳の奥には千年を生きた呪いの王の歪んだ愉悦が宿る。
「ア……アアアアアアアアアアア!!!!!」
虎杖悠仁の絶叫が、破壊された街に木霊する。目の前で親友が、最も忌むべき存在に乗っ取られた。その絶望的な現実に、怒りが彼の全身を駆け巡る。
「宿儺ァァァ!!!!」
虎杖は理性をかなぐり捨て、伏黒宿儺へと突貫する。渾身の右ストレート。しかし、宿儺はそれをこともなげに受け止め、虎杖の予想以上のパワーに僅かに目を見開いた。
「ほう…? 少しはマシになったか、小僧。そうか、貴様もあの時の…」
宿儺は何かを合点がいったように呟く。
「伏黒を…返せ!!!」
虎杖の打撃が続く。だが、宿儺はそれを捌きながら、指を鳴らした。パチン!
虎杖の足元に突如、巨大なバナナの皮が出現する。古典的だが、それ故に効果的な妨害。
「ぐわっ!?」
虎杖は無様に転倒する。その隙を逃さず、宿儺は虎杖に近づき、その胸倉を掴み上げた。
「鬱陶しいな。少し黙っていろ」
宿儺が虎杖の額にデコピンをしようとした、その瞬間。
キンッ!
鋭い金属音と共に、宿儺の腕が弾かれた。デコピンの指先は、寸でのところで現れた黒い刀身によって阻まれていた。
「…離せ。そいつから」
低い声と共に現れたのは、禪院真希。フィジカルギフテッドとして覚醒し、人間離れした速度と力、そして特級呪具「釈魂刀」を手にした彼女は、宿儺の存在を正確に捉えていた。 - 52二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 19:15:31
「ほう? 禪院の女か。呪力ゼロとは、実に物好きよな。俺の術式も効きが悪い。面倒だ」
宿儺は忌々しげに舌打ちし、虎杖を放り投げる。
真希は宿儺の言葉に反応せず、即座に斬りかかる。釈魂刀が空を切り、宿儺の急所を狙う。宿儺はそれを紙一重で躱し続けるが、真希の速さと、呪力がない故に自身の「面白い」イメージによる干渉が効きにくい事実に、わずかに眉をひそめた。物理的な悪ふざけ――バナナの皮や金ダライ――は通用するが、それだけではこの女を仕留められん。
「チッ…!」
宿儺が苛立ち紛れに影から「蝦蟇」を呼び出そうとする素振りを見せる。しかし、なぜか出現したのは巨大なピンク色のアフロヘアーのカツラだった。カツラはフワフワと宙を舞い、宿儺自身の頭にスポンとかぶさる。
「……?」
一瞬、宿儺の動きが止まる。伏黒恵の魂が、無意識に抵抗しているのだ。虎杖や真希といった「仲間」を本気で傷つけようとすると、術式の精度が落ち、イメージが暴走する。宿儺の呪力出力が、伏黒の魂によって強制的に下げられている。酷い時には、意図したイメージの1割も具現化できん。
「伏黒…!」
虎杖はその隙を見逃さない。転倒から即座に立ち上がり、真希と連携して宿儺に襲いかかる。
真希の斬撃が宿儺の防御をこじ開け、虎杖の重い拳が叩き込まれる。
「鬱陶しい…! この小僧(伏黒)の魂が…邪魔をするか…!」
伏黒宿儺は初めて明確な不快感を露わにする。 - 53二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 19:16:02
「だが、芸がないわけではないぞ!」
宿儺は二人を直接狙うのではなく、周囲の環境そのものを己の舞台に変えることを選択した。
「足元に気をつけろ!」
宿儺が叫ぶと、虎杖と真希の立っていた地面が、突然巨大なトランポリンのように変化した。
「うおっ!?」
「チッ!」
二人は強制的に跳ね上げられ、体勢を崩される。宿儺はその隙を見逃さない。
「『満象』!」
宿儺がイメージしたのは象の質量。しかし、伏黒の抵抗か、出現したのは象の着ぐるみを着た大量のペンギンだった。ペンギンたちはよちよちと歩き回り、トランポリンで跳ねる二人をさらに混乱させる。
「ふざけやがって!」
虎杖はペンギンを蹴散らし、真希は超人的な体幹でトランポリンとペンギンの中でも体勢を立て直し、再び宿儺に肉薄する。
「まだだ!」
宿儺が手を叩くと、空から大量のアヒルのおもちゃと、なぜか熱々のたこ焼きが降り注ぐ。視界を遮られ、熱いたこ焼きを避けながら戦うという、極めて不条理な状況。
「しつこい!」
真希は釈魂刀でアヒルとたこ焼きを薙ぎ払い、一直線に宿儺の懐へ飛び込む。
虎杖もまた、怒りを呪力に変え、たこ焼きを顔面に受けながらも突進する。
「少しはマシになったか。だが…」
宿儺は二人の猛攻を捌きながら、内心で舌打ちする。伏黒の魂の抵抗が予想以上に厄介だ。このままでは埒が明かん。
「…そろそろ、興が醒めてきたな」
伏黒宿儺がポツリと呟いた、その時だった。 - 54二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 19:17:14
「―――そこまでです、宿儺様」
冷たく、しかし絶対的な威圧感を伴う声と共に、戦場に絶対零度の気配が満ち始める。裏梅の到着である。
「裏梅か。手間取ったわ」
「申し訳ありません。ですが、もうよろしいでしょう」
裏梅は冷静に告げると。
「『霜凪(しもなぎ)』」
瞬間、虎杖と真希の足元から凄まじい冷気が吹き上がり、二人は反応する間もなく巨大な氷塊の中に閉じ込められた。身動き一つ取れず、意識も凍てつくような絶対零度の呪力。
「ぐ…! くそ…!」
氷の中から、虎杖の悔しそうな声が微かに聞こえる。真希は無言で氷壁を内側から殴りつけているが、びクともしない。
「さて、行くぞ、裏梅。『浴』の準備はできているな?」
「はい。いつでも」
宿儺は、伏黒の魂を完全に沈めるための儀式を行うべく、裏梅と共にその場を去ろうとする。
「待て! 宿儺ァァァ!!」
虎杖が氷の中から叫び、氷壁にヒビを入れようと力を込める。
伏黒宿儺は、その姿を嘲笑うように振り返った。
「実に滑稽だな、小僧。その足掻き、かつて播磨にいた術師によく似ている。だが、どれだけ喚こうが無駄だ。」
そう言い残し、伏黒宿儺と裏梅は、静かにその場から姿を消した。後に残されたのは、氷の中に囚われた虎杖と真希、そして親友に体を乗っ取られたという絶望的な現実だけだった。
(続く) - 55二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 19:38:19
誰だよ このスレが平和って言ったの…
本家と違って倫理感が無いから クトゥルフ神話的な狂気の世界になっているよ - 56二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 20:10:39
第8話:仙台狂騒曲、愛と不条理の開幕
虎杖と真希を氷漬けにした後、宿儺は伏黒恵の魂を沈め、肉体の支配をより強固にするための儀式「浴」を完了させた。今や、この肉体と「十種影法術」という新たな玩具は、より宿儺の意のままに近付いていた。だが、宿儺の目的はそれだけではない。伏黒恵の心を完全に砕くこと――そのために、義姉・津美紀の肉体を乗っ取った古代の術師「万(よろず)」を、この伏黒の手で始末する必要があった。
羂索の呪霊をタクシー代わりに、宿儺は万がいる仙台結界へと降り立った。その瞬間、桁違いの呪力の奔流が、結界内の強者たちを震撼させる。烏鷺亨子は怯え、そして石流龍は冷や汗を流しながらも、不敵な笑みを浮かべていた。
「おいおい…これは、スイートが過ぎるってもんだろ」
強者との戦いを渇望する石流は、宿儺の前に立ちはだかった。
「退くか? 退かないのか? つまらん選択をするなよ」
宿儺は石流を一瞥し、値踏みするように問いかける。
「退く理由がねぇだろうが!」
石流は恐怖を闘争心で塗り潰し、攻撃の意思を示す。だが、それより早く、宿儺が軽く指を鳴らした。パチン!
**ピヨピヨピヨ…**
石流の頭上に、漫画のようなデフォルメされた黄色いヒヨコが数羽現れ、彼の周りを回転し始めた。
「…は?」
あまりに拍子抜けする現象に、石流は一瞬動きを止める。
「すまんすまん、見くびっていた。貴様ほどの強者なら、もう少し捻った『前フリ』が必要だったか」
宿儺は嘲るように笑う。しかし、その言葉は石流には届いていない。宿儺が「面白い」と確信した次のイメージが、既に現実を侵食していたからだ。
「いや、待て。やはりシンプルな方が面白いか。『三枚おろし』、実に滑稽だろう?」
宿儺が呟いた瞬間、石流は己の身に何が起きたのか理解できなかった。痛みすらなかった。ただ、視界が三つに割れ、世界が奇妙な角度で回転していく。次の瞬間、彼の頭部は、まるで魚を捌くように、綺麗に三枚に分断されて崩れ落ちた。あまりにもあっけなく、あまりにもグロテスクで、しかしどこか間の抜けた、宿儺の術式「超人」による死だった。
「さて…邪魔者は消えた。本命のお出ましか」
宿儺は、石流の亡骸には目もくれず、本来の目的地である体育館へと歩を進める。そこには、待ちわびたように一人の女性が立っていた。伏黒津美紀の姿をした、万。
(続く) - 57二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 20:11:52
**第9話:愛憎不二、仙台スタジアム狂詩曲**
ユアテックスタジアム仙台。かつて乙骨憂太らが死闘を繰り広げたその場所は、今、千年越しの歪んだ愛憎劇の舞台と化していた。伏黒恵の肉体を乗っ取った両面宿儺と、その義姉・津美紀の肉体に受肉した古代の術師・万(よろず)。
「あら、そっちの子(伏黒恵)にしたのね、宿儺♡」
万は恍惚とした表情で宿儺を見つめる。
「ああ、こっちの方が面が良かったものでな。それに、貴様を殺すには、この体と術式が一番『面白い』だろう?」
宿儺は嘲るように笑う。伏黒の心を折り、万の歪んだ愛に応える(?)ために。
「嬉しいことを言ってくれるじゃない! さすが私の宿儺!」
万は頬を染め、構築術式で黒い液体金属を生成し、戦闘態勢に入る。
「いいわ、宿儺! もし私が勝ったら…結婚する! これは縛りよ♡」
「好きにしろ。どうせ貴様はここで死ぬ」
宿儺は冷たく言い放ち、最初の「ボケ」を繰り出す。影から呼び出したのは、玉犬の着ぐるみを着た巨大なアヒル。アヒルは「グワッグワッ!」と鳴きながら、万へと突進する。
「もう、相変わらずお茶目なんだから♡」
万は液体金属の鞭でアヒルを一蹴。同時に宿儺へと肉薄し、鍛え上げた体術で猛攻を仕掛ける。宿儺はそれを余裕で捌きながら、万の愛の告白(「貴方を殺すのは私でありたい わからぬか?これが愛なのだ!!」)を聞き流す。
「生きていたらあなたは私に何をくれる?」
万の問いに、宿儺はニヤリと笑う。
「全てくれてやる。貴様が望む『面白い』結末をな」 - 58二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 20:12:48
万は狂喜し、液体金属を無数の棘に変えて宿儺に襲いかかる。宿儺はそれを紙一重でかわし、指を鳴らす。パチン! 万の足元の芝生が突然ヌルヌルしたローションのような液体(イメージ)に変わり、万は体勢を崩す。
「きゃっ♡ もう、意地悪なんだから♡」
しかし万は即座に体勢を立て直し、液体金属を巨大なハンマーに変形させて宿儺を殴りつける。宿儺はそれを巨大なピコピコハンマー(イメージ)で受け止め、甲高い音を響かせる。
「なぜ使わぬ!なぜ使わぬのだ宿儺!!貴様のそのふざけた術式の『本気』を!!私を笑い殺すほどの『最高のギャグ』を!!」
万は叫ぶ。宿儺が繰り出す攻撃が、どこか手加減されているように感じたからだ。伏黒の魂の抵抗か、あるいは単なる宿儺の気まぐれか。
「ざっけんじゃないわよ!!」
激昂した万は、切り札である「虫の鎧」を全身に構築。漆黒の、しかしどこか滑稽さも感じる昆虫型の鎧を纏い、スタジアムの空を縦横無尽に飛び回る。その速度とパワーは宿儺を凌駕し、短時間で二度、宿儺に有効打を与えた。
「ほう…ようやく舞台が温まってきたか」
宿儺は不敵に笑う。
「だが、その鎧、デザインが少々古臭いな。もっとこう…デコレーションが必要だろう?」
宿儺が指を鳴らすと、万の鎧に大量のピンク色のリボンやフリル、そして電飾(イメージ)が強制的に装着された。
「なっ!? やめなさい! 私の完璧なフォルムが!」
万は羞恥と怒りで顔を赤らめるが、動きそのものには影響はない。電飾をピカピカさせながら、さらに激しく宿儺に襲いかかる。 - 59二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 20:13:27
「鬱陶しい蝿だな」
宿儺は万の高速機動に対応するため、スタジアム全体を自身の「面白い」イメージで侵食し始める。地面が突然巨大なトランポリンになったり、観客席から大量のボール(イメージ)が降り注いだり、陽気なサンバのリズムが鳴り響き、強制的にステップを踏ませようとしたり…。スタジアムは宿儺の作り出したカオスな空間へと変貌していく。
「まだまだ教えてあげるわよ 愛を!」
万は不条理な妨害をものともせず、宿儺への愛を叫びながら攻撃を続ける。そして、ついに宿儺を捉え、渾身の一撃を叩き込もうとした瞬間、最後の切り札を切る。
「領域展開!『三重疾苦(しっくしっくしっく)』!!」
万が構築した「真球」を基点に、必中効果を持つ領域がスタジアムを包み込む[3]。触れることのできない「真球」による絶対的な攻撃が宿儺を襲う――はずだった。
「ケヒッ…! これか。これが貴様の愛の形か。実に独りよがりで、実に―――つまらん!!」
宿儺は領域の中心で嘲笑う。
「ならば見せてやろう。俺様の愛の形…いや、『笑い』の形を!」
宿儺は領域展開で対抗するのではない。ただ、確信する。
「この領域は、絶対に『面白くない』。故に、存在しない」
その絶対的な「面白くない」という確信が、万の領域のルールを上書きする。必中効果を持つはずの真球は、なぜか巨大なビーチボールに変わり、フワフワと宿儺の周りを漂うだけ。万の領域「三重疾苦」は、宿儺の不条理な現実改変能力によって、その効果を完全に無効化されたのだ。
「な…ぜ…?」
万は愕然とする。自身の切り札が、まるで子供の遊びのように扱われたことに。 - 60二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 20:14:43
「終わりだ、万」
宿儺の声は冷たい。だがその瞳の奥には、歪んだ愉悦が浮かんでいる。宿儺は、万の頭上に巨大な金ダライをイメージした。それは、宿儺が最も好む、古典的で、しかし確実な「オチ」の形。
金ダライが万の頭上に寸分の狂いなく落下する。
ガシャーーーーン!!!
万の体は、しかし砕け散るのではなく、まるでギャグ漫画のキャラクターのように、ペラペラになって地面に倒れた。
「……あ……」
死の間際、万は宿儺が自身の術式(構築術式)や弱点(呪力効率の悪さ)、そしてその歪んだ愛の形すらも理解した上で、この結末を選んだことに気づく。
「…私のこと…そんなに…知ってたの…?」
それは、驚きであり、歓喜であり、千年越しの恋が成就した瞬間の恍惚だった。宿儺に殺されることこそ、彼女の望みだったのだから。
「…これ……あなたに……」
消えゆく意識の中、万は最後の力を振り絞り、構築術式を発動する。それは、かつて宿儺が使っていたという伝説の呪具「神武解」――ではなく、どこからどう見ても安っぽいプラスチック製の「**ピコピコハンマー**」だった。
「…私だと思って……後生大事に…使ってね……♡」
万は満足げな、恍惚とした笑みを浮かべながら、光の粒子となって消滅した。後に残されたのは、宿儺への歪んだ愛の証である、一本のピコピコハンマーだけだった。
「……フン」
宿儺は、残されたピコピコハンマーを一瞥し、心底つまらなそうに鼻を鳴らした。
「くだらん」
しかしその手は、確かにそのハンマーを拾い上げていた。伏黒恵の魂に、さらなる絶望を刻みつけるために。
(続く) - 61二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 21:03:32
**第10話:開演前夜、最強たちの茶番劇**
日本海溝、深さ8000メートル。羂索が万全を期して施した幾重もの封印と監視網。しかし、その悪意ある牢獄は、現代最強の術師を永遠に閉じ込めておくことはできなかった。
「……マジでどうなってんだよ君は」
羂索が呆然と呟くその視線の先に、五条悟は何の前触れもなく立っていた。獄門疆に囚われる前と同じ、黒い高専の制服姿。目隠しは外され、その六眼が静かに目の前の"夏油傑"を捉えている。
「どう?久しぶり?お寛ぎ頂けたかな?」
羂索は夏油の顔で、余裕綽々といった体で茶化してみせる。
「オマエさ」
五条の声は静かだが、底冷えするような怒りが滲んでいた。
「もっと言葉を選んだ方がいいんじゃないか?」
青い瞳が鋭く光る。
「今際の際だぞ」
五条の周囲の空間が歪み、術式順転「蒼」が発動されようとした。その強大な引力が羂索を捉え、空間ごと捻じ切ろうとした、その刹那。
「―――待て」
冷ややかな声と共に、新たな二つの影が降り立つ。伏黒恵の肉体を得た両面宿儺と、その側近である裏梅。宿儺は五条の「蒼」を、まるで舞台に割り込む観客のように、軽く手を振って霧散させた。その際、なぜか周囲に大量の紙吹雪が舞った。
「来たか」
宿儺は五条の復活を当然のこととして、むしろ待ちわびていたかのように、伏黒の顔で歪んだ笑みを浮かべた。
「…なんだ オマエもいたのか」
五条は宿儺の姿――自身の生徒である伏黒の変わり果てた姿――を確認し、その怒りをさらに深くする。 - 62二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 21:04:06
「しばらく見ないうちに変わったね、恵」
五条はあえて伏黒の名を呼び、一瞬で宿儺との間合いを詰める。五条の拳が宿儺の顔面を捉えようとするが、当たる寸前、拳は巨大なピコピコハンマーに変わり、ポコンと軽い音を立てる。宿儺もまた、伏黒の影から出した式神(のような何か、アヒルの着ぐるみ?)で応戦しようとするが、五条に触れる前にシャボン玉となって弾け飛んだ。二人の最強が、互いの「面白さ」の格を測るように、一瞬だけ不条理な火花を散らす。
「覚えているか。小僧の体をものにしたら真っ先に殺してやると言ったこと」
宿儺は五条のピコピコハンマーを払いながら、嬉々として告げる。
「クックッ…こっちの小僧(伏黒)になってしまったが、殺すことには変わりない。最高の見世物にしてやろう」
「悠仁から逃げた奴が尻まくってみっともねぇなあ!間抜け!」
五条は宿儺の隣に控える裏梅へと視線を移し、容赦なく挑発する。
「貴様ッ!」
主を侮辱され、裏梅が激昂し、氷の術式を発動しようとする。
「てめぇは誰だよ」
五条は裏梅の存在など歯牙にもかけず、デコピンの要領で指を弾いた。瞬間、裏梅は漫画の吹き飛ばされ方のように、「ア゛ーーーーッ!!」という叫び声(なぜかエコーがかかっている)と共に、綺麗な放物線を描いて空の彼方へと飛んでいき、小さな星となってキラリと光った。
「…さて、邪魔な小道具は片付いたか?」
五条は再び宿儺と羂索に向き直る。
「待て宿儺」
羂索が慌てて宿儺の前に出る。
「彼と戦う前に私との約束を果たしてもらう」
「はぁ?」
五条は呆れたように声を上げる。
「宿儺様とあろう方がそんなお母さんに縫ってもらった雑巾みたいな脳みその指図を聞くんですか〜?ウケる〜!」
五条は腹を抱えて笑うフリをして、さらに二人を煽る。
「まぁ僕としても宿儺と戦う前にやること(傑の体の弔い)をやっておきたい…けど、あー面倒くせえ。何かしらの縛りだとは思うが、ここまで宿儺がそこの胡散臭い奴に肩入れしてるとはな…」 - 63二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 21:04:27
「…………」
宿儺は少し考える素振りを見せる。五条悟という最高の役者とのショー。そのメインイベントを最高に盛り上げるためには、舞台装置(羂索の計画)も必要か。伏黒の魂を完全に弄び、この肉体を完璧な「舞台」とする時間も稼げる。
「いいだろう、羂索。貴様の道化芝居に付き合ってやる。最高のショーのためには、前座も必要だからな」
「はぁ〜ったく…」
五条はため息をつき、今日の日にちを確認する。「11月19日…か」
「じゃあ12月24日でいいだろ。クリスマス・イブ決戦だ。ロマンチックだろ? お前らには似合わんがな!」
「はっはっロマンチシズム?イブに私たちが予定を合わせるなんて気色悪いな」
羂索は嫌悪感を露わにする。
「命日が2つもあったらややこしいだろ」
五条は、親友・夏油の命日を示唆し、静かに、しかし絶対的な自信を持って告げる。
「…勝つ気かい?」
羂索は呆れたように問う。
五条はかつて虎杖と交わした会話――力を取り戻した宿儺なら少ししんどいかもしれない、でも負けない――を思い出す。そして、最強の術師は、自信に満ち溢れた笑みを浮かべて断言した。
「勝つさ」
その言葉を最後に、五条は姿を消した。宿儺と羂索も、それぞれの目的のため、一時解散する。
宿儺は去りゆく五条の気配を感じながら、伏黒の顔で獰猛な笑みを浮かべた。
「クックック…! 楽しみだ。貴様がどんな『面白い』を見せてくれるのか。せいぜい俺様を退屈させるなよ、五条悟。最高のエンターテイメントを期待しているぞ」
呪術界の存亡を賭けた、世紀のエンターテイメント(あるいは悲劇)の幕開けまで、あと約一ヶ月――。
(続く) - 64二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 22:00:45
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- 65二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 22:01:34
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- 66二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 22:03:05
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- 67二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 22:04:15
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- 68二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 22:20:15
ごめん五条もギャグバトルしてるのはなんか違うから前編から書き直してもらう!