- 1◆SbXzuGhlwpak25/05/04(日) 12:57:45
「……ありえない……この私が……」
愛という存在は知っていた。
愛という仕組みを把握していた。
子を囮にして親をおびき出す。あるいは番《つがい》である男女の片割れを餌に、もう一人を呼び出す。
何故自分も死ぬとわかっているのに誘い出されるのか。疑問に思ったコトもなくはないけど、そんこコトはどうだっていい。
理由なんか必要ないじゃない。ただそうなる。それだけのコト。
──愛を初めて実感できたのは、今から八十年前になる戦場でのコトだった。
美しいと思った。
七崩賢である私が、他人の魔法を。魔法を扱う所作を。
たなびく銀の髪の一つ一つが輝いて見えた。太陽の光を反射する水面《みなも》のようにきらめいていた。
魔族への殺意に満ち満ちる翡翠の瞳は、私の心に消えない傷痕《おもい》を刻み込む。
葬送のフリーレン。
私に愛を教えてくれた女。
人生初となる経験に、一瞬ではあったけど我を忘れる。
その隙を百合の間に挟まる男こと勇者ヒンメルは見逃さず、手負いとなった私は撤退するしかなかった。
あと少しだけ彼女と同じ場所にいたい。
そんな切ない想いすらかなわずに、私は血を流しながらせめてもとフリーレンの魔力を感知しながら離れるしかできなった。
振り返っても彼女の姿は見えなくなり、ついには魔力の感知も届かなくなって──頬を伝う涙が、私が恋に落ちたのだと教えてくれた。 - 2◆SbXzuGhlwpak25/05/04(日) 12:59:37
あれから八十年。
彼女のコトを片時も忘れなかった。
百合の間に挟まる男の死から二十八年。
私は彼女との逢瀬の準備を始めた。
そして今、彼女が目の前にいる。
夢にまで見た彼女が、私に服従するためにやって来てくれた。私だけを愛するために。
それなのに、そのはずなのに、天秤が、天秤の傾きが……っ!!
「アウラ、ノンケになれ」
なんで、なんでそんな酷いコトを言うの……?
私に愛を教えてくれたのはフリーレン……あなたじゃない。
「私は私のカップリングを、ヒンフリしか認めない」
でもショタヒンメルを年上のお姉さんが優しく手ほどきするフリヒンは例外かなと、残酷な宣告が続く。
今さら彼女への想いなしでの人生なんか考えられないのに、ほかならぬ彼女自身から想いを否定された。
膝が震えるせいで視界が揺れ、こぼれ出る涙で世界がにじむ。
ああ、そして今、服従する魔法(アゼリューゼ)が発動して私は……私は彼女への想いを──ッ - 3◆SbXzuGhlwpak25/05/04(日) 13:01:57
「──────────」
…………………………あれ?
「……どうしたアウラ?」
フリーレンが首をかしげながら私の様子をうかがう。
怪訝《けげん》そうなのに愛らしさをまるで隠せていない、私の愛しい人。
今も、これからも、ずっとずっと大切な私の想い人。
「……なったんじゃない」
私に愛を教えてくれたのは、フリーレンだった。
「あなたが女だから好きになったんじゃない……っ」
そこに性別は関係ない。
たとえフリーレンが男であったとしてもかまわない。
それでも私の想いは変わらないのだから。
「フリーレン、あなただから好きになったのよ!!!」
「なん……だと……?」 - 4◆SbXzuGhlwpak25/05/04(日) 13:04:33
呆然と立ち尽くすその姿に、ようやく自分の想いを届けられたのだという高揚感が湧きあがる。
これほどの気持ちは七崩賢に任じられた時も、初めて魔王様に拝謁できた時でも味わえなかった。
今の私は、アゼリューゼすら無効化できる!!!
「フリーレンッ!」
気が付けば前へと駆け出していた。こんなにも軽やかに足が動いたコトはない。
フリーレンは顔を強張《こわば》らせてあとずさりするけど、かまわない。彼女が一歩下がるなら、私が二歩前へ進むだけ。
そしてついに、手を伸ばせば届く距離にまで近づけた。あんなにも恋焦がれた彼女の、目の前の距離まで。
あとはもう、私がするコトは一つだけ。
これでようやく、夢が叶う── - 5◆SbXzuGhlwpak25/05/04(日) 13:06:59
「……アウラ?」
──心底不思議そうなフリーレンの声が、夜明け前の静かな平野に鳴り響く。
しかしアウラは答えない。
ぎゅっと目をつむって、小刻みに体を震わせながらあごを前へと突き出している。
いや、よく見れば唇も前へと突き出しているではないか。
アウラは、フリアウ派だった。
リバカプは断じて認めないフリアウ原理主義者であった。
普段はつれない態度のフリーレンに、夜はされるがままに愛されるのが理想だった。
一見するとフリーレンが主のようだが、アウラが他に目移りするそぶりを見せただけで気が気でなくなる関係性を求めてアゼリューゼを磨き続けた。
こうしてアウラは無防備な姿をフリーレンにさらし続ける。
なんかこう、物凄い高揚感のせいで、自分の切り札が通じなかったコトなど忘れているのだ。
アウラの奇行を理解できないフリーレンはしばらく動けなかったが、やがて隙だらけであるコトに気がつくと──
「…………………………魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)」
ガッシ!ボカッ! アウラは死んだ。まぞーく(笑)
~おしまい~ - 6◆SbXzuGhlwpak25/05/04(日) 13:07:45
最後まで読んでいただきありがとうございました。
私はノンケです。
普段はウマカテでSSを書いています。
私はノンケです。
イラムラする時はウマカテで師範代スレを、ワンピカテでシャンバギスレを立てています。
私はノンケです。
フリーレンで一番叡知なのはクヴァールだと知っています。
私はノンケです。
それではさようなら。
あにまんでのおきてがみ(黒歴史)
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