- 1二次元好きの匿名さん22/04/04(月) 16:21:59
いつもと違う表情が見てみたい。
最初はそんな軽い気持ちだった。
「なぁ、どんな反応が来るか気にならないか?」
そんな子供じみたアウラムの提案に苦笑するイヴ。
「ふふ、確かに気になるかも」
少年少女から見てニンギルスという青年は、憧れだった。集落一番の槍の名手で、いつでも冷静沈着。森の防衛巡回で幾度となくハプニングに見舞われたが、彼が狼狽えるどころか傷を負う姿さえ見たことがない。
少年はライバルとして。
少女は兄として。
そんな頼れるニンギルスのちょっとした違う側面を見てみたかったのだ。
「そうか、おめでとう。仲良くやれよ」
2人の想定に反して、ニンギルスの反応は希薄だった。強いて言うなら、いつもあまり見ない笑顔がちらと浮かんだくらいだった。
ニンギルスがその場を去った後、拍子抜けしたように2人は顔を見合わせた。
「ガッカリだな、あの鉄仮面」
「本当にね。兄さん、全然動じてない」
何も起きなかった、と落胆しながらもいつもと変わらぬ日常へと戻っていった。
少なくとも、表面上では。 - 2二次元好きの匿名さん22/04/04(月) 16:22:45
少しずつ、3人の時間が少なくなっていった。というより、3人でいるとニンギルスが席を外すようになった。
アウラムとの戦闘訓練もいつも通り。
イヴへの過保護もいつも通り。
ただ、3人になるとそれとなく離れて行くことが多くなり、アウラムとイヴは訝しんだ。
「もしかして、気を遣ってるのかな」
あの無表情の下に色々な感情が隠れていたのか、とイヴは推測する。
「そういうふうには見えないけど、もし困惑してるのなら、ちょっと面白いな」
アウラムは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
悪戯で済めばよかったのに。
ある日戦闘員に欠員が出て、アウラム、イヴ、ニンギルスの3人が巡回任務に当たることになった。
久々の合流だったが、ニンギルスはいやに他人行儀というか、ぎこちない。
巡回中も、ニンギルスが前線に1人。アウラムはイヴを護衛する陣形を取らされた。
少し前は背中合わせで闘っていたのに、とアウラムは不満げな表情を浮かべる。
そんな折、突如クローラーの大群が前線にいたニンギルスを襲撃した。
逆立ちしようとアウラムは前線へと駆けたが、孤軍奮闘するニンギルスは振り返り、叫んだ。
「お前はイヴを守れ!」
アウラムはその声に固まり、イヴの方を振り向く。
数匹のクローラーがイヴへと襲い掛かろうとしているのが見え、踵を返した。
イヴを守りながら戦うアウラムだが、2人は焦燥を隠せない。
ニンギルスはアウラム達の数倍の群体を1人で相手取っている。数刻の間に、ニンギルスは傷だらけになっていた。
「兄さん!これ以上は無理しないで!」
たまらずイヴがニンギルスの元へ駆け出し、アウラムが後ろを警戒しながら後を追った。
視界の先ではニンギルスが槍を杖にして膝をつき、満身創痍といった様子でクローラーと対峙しており、クローラーはその鋭い爪を振り下ろそうとしていた。
「危ない!」
間一髪でアウラムはクローラーの爪を剣で弾いた。
その隙に、イヴは傷だらけのニンギルスを抱き寄せ、治癒の魔法を掛ける。
ニンギルスは口を開こうとしたが、顔を顰めて黙り込み、イヴの治癒を享受した。 - 3二次元好きの匿名さん22/04/04(月) 16:23:20
「なぁ、なんで最近よそよそしいんだよ」
ニンギルスに肩を貸して歩くアウラムはぶっきらぼうに尋ねた。辺りに積み上がっているのはクローラーの亡骸。蠢く音は聞こえないので、何とか窮地を脱したらしい。アウラムの声が森の静寂の中に響いた。
「...大した理由じゃない」
ニンギルスの呟きに、イヴは声を荒げる。
「こんなにボロボロになってるのに、今更隠し事なんてやめてよ!」
少し声が震えている。いつもほとんど傷を負わない兄がここまで追い詰められた様子を見て参っているようだった。そんな妹を見て、ニンギルスはバツが悪そうに顔を伏せる。
「本当に、大した理由じゃないんだ」
ぽつり、と語り始める。
「...お前らが付き合い始めた、って聞いた時、嬉しかった」
「え?...うん」
「でも、何か複雑な気分になった。ライバルのアウラムが戦いより恋愛を選んだ、とかイヴが誰かを好きなった、とか。大事にしている2人が仲良くなってくれて嬉しい、とか」
「う、うん」
「だから...お前ら2人を前にするとよく分からないこと口走りそうだし、恋人ができたイヴに今まで通り過保護に扱うのも変だと思って」
「俺達を後ろに置いて前線で命を張ってたのは?」
「大事な2人が、付き合ってるから、守りたい、と...」
徐々に歯切れが悪くなる言葉が気になり、ニンギルスの顔を両脇の2人が覗き込む。夜で、その上俯いているにも関わらず、その顔が紅潮しているのがよく分かった。目線を逸らし、歯を食いしばり、自らの本心を打ち明ける羞恥に耐えるその表情は、アウラムは勿論妹であるイヴでさえ初めて見るものであり、思わず2人は笑ってしまった。
帰りの道中でアウラムは付き合っていることが嘘であることをバラし、イヴと共に謝った。
ニンギルスは目を丸くした後、安心したような、スッキリしたような顔で、つまらない冗談はもうやめろ、と軽口を叩いた。
形はどうあれ、アウラムとイヴは、ニンギルスのいつもと違う表情を見ることに成功したのだった。
これは、ある物語の前日譚。
勇気ある少年。選ばれし少女。強き青年。
その3人が巻き込まれることになる、星の勇者と世界の崩壊、そして再誕の物語。
運命が廻り始める全ての原点である『聖杯』との邂逅を果たす、一週間前の出来事である。 - 4二次元好きの匿名さん22/04/04(月) 16:23:46
みたいな話が好きです。
誰か書いてください! - 5二次元好きの匿名さん22/04/04(月) 16:24:07
出来てんじゃん!
- 6二次元好きの匿名さん22/04/04(月) 16:25:25
この後切腹したり刃交えたりした
- 7二次元好きの匿名さん22/04/04(月) 16:26:17
もう付き合っちゃえよ!
- 8二次元好きの匿名さん22/04/04(月) 16:27:59
最高。ありがとう……ホント……ありがとう……
- 9二次元好きの匿名さん22/04/04(月) 16:33:19
凄く仲良くて好き
- 10二次元好きの匿名さん22/04/04(月) 16:33:21
でもこの後3人ともひどい死に方をする
- 11二次元好きの匿名さん22/04/04(月) 16:35:15
この後ニーサンが俺に任せてイヴを守れするの悲し過ぎて好き
- 12二次元好きの匿名さん22/04/04(月) 16:35:37
これは今は付き合ってないけど将来的には付き合うと考えてよろしいか?なお本編
- 13二次元好きの匿名さん22/04/04(月) 16:38:13
- 14二次元好きの匿名さん22/04/04(月) 16:40:32
こんなのイヴが自殺したとき兄さんお労しくなるじゃん…
- 15二次元好きの匿名さん22/04/04(月) 16:47:24
元からお労しいからセーフ
- 16二次元好きの匿名さん22/04/04(月) 17:57:25
ロボになったことについてはあんまり悲しまなさそうなんだよなニーサン
ガチャガチャいうから落ち着かないな…くらいのコメントしかなさそう - 17二次元好きの匿名さん22/04/04(月) 18:34:12