SS 宿儺おじさんと夏の思ひ出

  • 1二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 11:44:15

    寛延二年皐月の十日余りの一日、藤原家の末座に縁を有する中堅貴族・蘆原家長(あしわらのいえなが)は書台に肘をついて庭先の池に浮かぶ蓮を眺めていた。蓮の傍らには波紋と戯れる亀の姿も見て取れる。

    蘆原はここ数日、公務もおぼつかないほどに心が乱れていた。

    「四本腕の怪人、とな・・・。すでに数多の手練れぞ返り討たれける・・・。名も知れぬとは、なんともはや・・・」
    無論、悩みの種とは後の呪術界最強の男・両面宿儺の存在であるが、蘆原の心を怪しく揺らめかせる仕儀は他にあり。

  • 2二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 11:45:38

    「四本・・・」

    千年の時を超えても未だ流行性癖とは言えぬ四本腕愛好癖。その先駆けとなる特徴な性向がこの独身の若貴族にあったことを、このときは誰一人知る由もない。

    これより四年の年月を経て両家から妻を娶る蘆原だが、その妻は閨に入る前に着物を重ね着て四本の腕を再現していたとの顛末、女房たちの手記に記されたがその手記も壇ノ浦の戦火の中で焼失して久しい。

  • 3二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 11:46:48
  • 4二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 11:47:52

    蘆原が悩まし気な溜息を吐いてからちょうど千年後、両面宿儺はとある田舎町の東屋にて縁側に寝転び大きなあくびを見せていた。

    例年に比べて雨が少なく太陽の照りが強い夏。

    裏梅が切って並べた傍らのスイカも、瞬く間にぬるくなり爽やかさを幾分失ってしまっていた。
    蚊すら飛ばない猛暑の中、もはや池の水は湯へと変じ、蛙も跳ばず水の音はしない。セミの声すら岩にしみ入らず暑さの異常さを際立てている。

  • 5二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 11:48:02

    宿儺おじさん!!懐かしい!

  • 6二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 11:50:19

    宿儺の手元には家電量販店の特価セールを知らせる一枚のチラシ。その中の一角にある大きな文字。

    「日立、東芝、ぱなそ・・・?まあいい、いずれにせよ氷室が安く手に入るのならそれに越したことはない。」

    即断即決。両面宿儺は迷わない。

  • 7二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 11:52:01

    数刻後には巨大な冷蔵庫を一人で持ち上げて帰宅してきた宿儺。そんな彼の姿を出迎えたのは誰より忠実な従者・裏梅であったが、その表情は驚きと何かに満ちていた。

    「すく・・・な・・・さま・・・?」
    「む、裏梅。見ろ、たいそうな氷室だ。」

    「・・・・・・そ、そのようですね」
    「なんでも、野菜室とやらに入れておけば野菜の味を保ちつつ日持ちを延ばせるらしい」

  • 8二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 11:53:16

    「・・・ギリッ・・・」
    「夜間の節電や最適な温度の自動設定、人間の欲というのはバカにはできん。ケヒッ」

    上機嫌で冷蔵庫を配置する宿儺。試しに晩酌に使っていた酒を冷やす。
    「ほう、もう冷え始めたか。殊勝なことだ。ケヒヒッ」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さようで・・・ございますか」

    少し寝るといって自室に戻っていった宿儺の後ろで裏梅は冷蔵庫を強く睨みつけていた。

    「おのれ・・・・・・お の れ 日 立 !!」

  • 9二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 11:54:18

    裏梅にライバル登場か

  • 10二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 12:00:56

    翌日、宿儺の朝食はどこかぬるさを感じさせるものであった。キンと冷えていてほしいものがどこか冷たさが足りないようなものばかり。宿儺はすでにその意図に気づいていた。

    「む、この酢の物はもっと冷えておらねばな・・・。裏梅」
    「はい、宿儺さま」
    もはや何を言わずとも要求にこたえる裏梅。

    「氷室ではこうも手軽にその場で冷やすなどできん。相変わらず痒い所に手が届く。こと冷却に関してはお前に勝るものなど存在しないだろうな」
    「恐悦至極にございます」

  • 11二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 12:02:12

    当然、料理の達人たる裏梅が食材の温度に気が回らないはずもない。これは主に褒めてもらいたいがために裏梅ができる精一杯のアピールである。味は完璧に整えてからの好みの分かれる一手。宿儺が“より冷たいもの”を望むことを切に願っての仕掛け。

    いわゆる呪術的マッチポンプ。

    宿儺にはもちろんお見通しであったが、付き合ってやるだけの度量を持ち合わせるのが呪いの王たる所以だろう。

  • 12二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 15:42:51

    「日本の夏は、いやもう、ホントに」
    「フフフ、何を言っているんだい、花?私は砂漠の国の生まれだよ?灼熱はむしろ懐かしいくらいさ。それに平安の頃に日本の夏は経験しているからね」

    両面宿儺が田舎町で暑さに辟易しているそのころ、東京の呪術高専では来栖花が天使となにやら会話していた。

    「いやなに、私としてもこれからこの時代を生きるのだから、夏を迎えるのは当然のことさ。むしろ花はこのところ冷房の中にばかり居るね。少し運動した方がいい。なに、熱いと言っても砂漠の故郷に比べればそよ風の中に居るようなものさ。さあ、外出といこう」

  • 13二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 22:05:21

    天使?天使?!流石に洒落にならない気温だからやめたげて…
    そして新作凄く嬉しい、このシリーズ好きなんだ…

  • 14二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 22:31:51

    腕おじお久しぶりです!!
    冷蔵庫に嫉妬する裏梅かわいい
    華ちゃん&天使の動向も気になる

  • 15二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 03:40:39

    実際平安時代と今って相当気温違うだろうな

  • 16二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 09:10:29

    「あっつ・・・・・・」
    「だから言ったのに・・・」

    「いやどうなっているんだい、花?これはもう人が住めるような温度じゃないよ?猛暑の呪霊が生まれてもおかしくないくらいに・・・いやホントに・・・あっつ・・・
    故郷より暑い・・・なんだこれ・・・あっつ・・・あっつい・・・・」

    ぐだりと溶けるようにうなだれる来栖と天使。
    とはいえ、いくら猛暑への呪詛を吐いても気温が下がるはずもなく。

    「水辺に行きたい・・・」
    「プール行きたい・・・」

    二人の意思が合致するのは当然の成り行きであった。

  • 17二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 09:18:09

    そこはやはり年頃の少女である。
    来栖の次の一手は友人である野薔薇と真希に声をかけてのレジャー計画であった。野薔薇を通して小沢優子にも声がかかり一同の海浜公園行きは決定事項となった。

    幸いにして、先の大戦以来、呪霊の発生は落ち着き、ある程度の周期や対策を見込むこともできるようになっている。
    若者たちから青春を奪うものは何もなかった。

    そして、そこは再び年頃の少女たち。
    自らの青春に華を添えるべく、男子たちを数名強制招集するのも当然の流れであった。

    もちろん虎杖・伏黒両名の都合などお構いなしである。

  • 18二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 18:29:09

    水着回の予感……!!
    どうしようあの子やあの方のキュートだったりセクシーだったりする水着を期待してもいいんですか!?

  • 19二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 22:37:38

    天使即落ち2コマで草

  • 20二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 08:27:28

    保守

  • 21二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 13:48:26

    「おら、なんか言うことあんだろ男子ども。女子の水着だぞ?分かってんだろ?コラ」
    「「・・・・・」」

    半ば強制連行に近い形で連れてこられた虎杖・伏黒両名だが、さすがに女子が水着まで見せているのに正面きって不平を言うわけにはいかない。とはいえ、釘崎野薔薇の堂々たる肢体の魅力をかき消さんばかりの気迫は男子二人をして閉口させるばかりであった。

    「釘崎さんってスタイルすご・・・」
    「頑張ってんのよ。優子もいいじゃない!」
    小沢優子の弁はあくまで率直なものである。白のビキニをまとった釘崎。その溌溂としたプロポーションは同性である小沢からしても極めて魅力的に映る。些か布面積が少ない気もするがそれも彼女らしいといえばそれまでか。

    対する小沢優子。青を基調としたタンキニはいかにも涼やかな印象を与える。筋肉質とまでは言わないまでもある程度絞られた肉体。本来彼女は病的な痩身を経験した身だが、少なくともこの姿からはそんな印象は受けない。虎杖の視線を気にして頬を赤らめるその様はまさに青春の具現であった。

  • 22二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 13:57:49

    「どう・・・かな」
    質問なのか分からないほどに上がらない語尾。そこには彼女のどことない自信のなさが表れているようであり、また虎杖に答えを求める自身を自嘲するような色合いも含まれている。

    「なんかわかんねーけどさ!小沢、めっちゃ明るくなったよな!水着、似合ってるぜ!」
    両手を頭の後ろに組んで朗らかに笑う虎杖。背後で腕を組んで頷く伏黒と釘崎。

    飾らないその言葉はそのまま虎杖の人格の表象である。だからこそ、小沢優子はいっそう頬を赤く染めるのであった。

    「花?ちょっと攻めすぎじゃないかな?」
    「いや一応パレオで隠してるし・・・」

    天使のその言はもっともなものであった。パレオとビキニの合わせ技とはいえ、上半身はただのビキニである。それも装飾こそ多めだが、なかなかに際どい布配置のデザイン。スタイルの引き締まった彼女の魅力を十分に解き放ってくれるものだが、当の本人もいっぱいいっぱいといったところか。

    「どう・・・ですか?」
    「ん・・・・・えっと・・・・ニ、ニアッテマス」

    ぎこちない返答を見せた伏黒に、来栖はあくまで口角を上げて喜ぶのだった。

  • 23二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 14:03:39

    「真希さんは?」
    「ちょっと遅れて来るって」
    「乙骨先輩来るんだろ?」
    「狗巻先輩は任務終わって直接来るらしいわ」

    先輩勢の都合を早々と共有する虎杖ら一行。
    そんな一行の背後から近づいてくる二つの人影。

    乙骨とは違う強烈な気配に思わず振り向く面々。小沢優子は何のことだか分かっていないが、何かが起きたことは理解できたのか、彼らと同じように振り向いた。
    高専術師らの視線の先にあったのは・・・。


    大ぶりの麦わら帽子を浅くかぶり、サングラスをかけ焼きとうもろこしをほおばる両面宿儺と裏梅の姿であった。

  • 24二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 14:12:52

    醤油の焼ける香ばしい匂い。

    米食民族の魂の根源を揺さぶるようなその香りはやはり米やキビなどの穀物との相性が抜群に良い。
    多少の焦げ目を適度につけつつ、炭火で遠間からまんべんなく熱を届けた後、近間で一気に焼き上げた逸品。
    夏の海でしか出会えない珠玉の焼きもろこしである。

    がぶりとくらいつけば一気に広がる醤油の香り。一瞬遅れてやってくるもろこし特有の甘味。
    高級なもろこしであれば甘味が強く、むしろ手頃な値段のものであれば淡白な味わいとなる。
    宿儺がかぶりついているのは手ごろな価格のものである。そのため焦がし醤油の中に溶け込んだニンニクと八角の香りがより直接的に鼻腔を抜ける。

    すでに裏梅は二本目に入り、口の周りが汚れているが、この日ばかりは宿儺も好きにさせているようである。実のところ、裏梅は宿儺に口元を拭いてもらう一瞬を従者の身にあるまじきことながら何よりも幸せな瞬間として、意図的に口元を汚していたのだが、今回ばかりが当てが外れていた。

    「・・・・・・・・・・・・」
    「・・・・・・・・・・・・」

    高専術師らと遭遇したものの、宿儺も裏梅も何も語らない。
    焼きもろこしとは、黙ってかぶりつくのが最適解なのである。

  • 25二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 15:11:20

    女子たちの水着にいいねいいねしてたら麦わらグラサンすっくん&うらーめに持ってかれた
    とうもろこし超美味しそう

  • 26二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 19:19:52

    相変わらず旨そうな表現で書かれるから本当にお腹すいてくる…

スレッドは7/11 05:19頃に落ちます

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