「俺たちは別の世界に転生し三人兄弟として生まれ変わったわけだが」part92

  • 1125/09/03(水) 20:30:09
  • 2125/09/03(水) 20:34:32
  • 3125/09/03(水) 20:47:27

    開始まで少々お待ちを

  • 4125/09/03(水) 21:07:15

    それでは再開


    ―二人の間に沈黙が流れる。

    ―曇天のなか、徐々に細かな雪が地上へと落ちてくる。今年は例年より遅めの雪の為、今はまだ薄く地面を覆うだけに留まるだろう。

    ―鋏を持つマユの手が震える。それは寒さ故なのか、それとも緊張の為なのか、ギルバートには知る由もない。しかし、どちらであろうと、彼には関係がなかった。

    ―ギルバートはゆっくりと鋏を持つマユの手を、自身の両手で包み込む。体格差もあり、小さな彼女の手はすっぽりと隠れてしまった。


    ギルバート「冷たいね」

    マユ「……鋏は取らないんだね」

    ギルバート「取って欲しいの?」

    マユ「……」

    ギルバート「じゃあ取らない。君の語る未来になろうともね」

    マユ「……そう」

  • 5125/09/03(水) 21:17:29

    ギルバート「嬉しい?」

    マユ「…まあ、『はい』と言いましょう」

    ギルバート「素直じゃないね」

    マユ「素直になって欲しい?」

    ギルバート「ちょっとぐらいはそうなってほしいけど、ありのままの君が好きだよ」

    マユ「……よくもまあ、恥ずかしげもなくそんなこと言えるね」

    ギルバート「本心だから」

    マユ「その割には告白する前はちょっと恥ずかしそうにしてたじゃない」

    ギルバート「それは君に迷惑がかかると思ってたからだよ」

    マユ「嘘。いや、半分ぐらいの嘘ってところかな?」

    ギルバート「はは……やっぱり隠し事は良くないね。そうだよ。君のことがあまりにも好きなせいで、どうしても緊張が勝ってたんだ」

    マユ「へたれー」

    ギルバート「君がそれを言うの?」

    マユ「私は女の子ですから」

    ギルバート「因果関係がよくわかんないな?」

    マユ「そうやって細かい所を気にする男の子は嫌われちゃうぞー?」

    ギルバート「君に好かれていればそれでいいかな」

    マユ「……勝ちを譲ってくれてもいいんじゃない?」

    ギルバート「今のに勝ち負けがあったの?」

    マユ「ありましたー」

  • 6125/09/03(水) 21:33:23

    ギルバート「なら、勝ちは譲らないよ」

    マユ「負けず嫌いとは、君も男の子だねぇ」

    ギルバート「そうだよ。僕だって少しぐらいは君に勝ちたいんだ」

    マユ「それは暗に私の方が強いと言っているということでよろしくて?」

    ギルバート「うん。なんたって、恋は盲目だから」

    マユ「……ちょーっと含みのある言い方は何なんですか?」

    ギルバート「ごめんごめん。……でも、もし君よりも強ければ、悪いことから君を遠ざけられていたのかな?」

    マユ「……そういうのは、強いとか弱いとか関係ないから安心してよ」

    ギルバート「それは……どう安心すればいいのかな?」

    マユ「奥さん、諦めという安心の仕方もあるのですよ?」

    ギルバート「その安心の仕方はちょっと嫌だな……それと、僕の場合、奥さんじゃなくて旦那さんになるんじゃ……」

    マユ「おや、もうすでに結婚後のことまで考えておりましたか」

    ギルバート「まあ、そこまで行けるのであれば行きたいよね」

    マユ「……ツッコミが欲しいですの」

  • 7125/09/03(水) 21:42:30

    ギルバート「なんで?」

    マユ「このままでは収集が付かないからね」

    ギルバート「僕はこのままでもいいけど」

    マユ「風邪ひいちゃうよ?」

    ギルバート「……確かに君が風邪を引くのは嫌だな。そういう未来が見えてるなら猶更早く戻ったほうが良いよね」

    マユ「……そういう未来は見てないよ。逆に長引けば長引くほど、美味しいスープにあり付けるから、そっちの方がいいと言っておこうかな?」

    ギルバート「そっか。なら、もう少し二人でお喋りしてようか」(と言って、マユに渡されたマフラーを首から解き、マユに優しく巻き付ける)

    マユ「着けたままでもよかったんだよ?」

    ギルバート「彼女が寒そうにしてるのに、彼氏が付けたままだと体裁が悪いだろう?」

    マユ「言われてみれば確かに」

  • 8125/09/03(水) 21:54:26

    ―そんなことを言いながら、二人はしばらくの間口を開かずに寄り添い合う。
    ―互いの体温と呼吸する音。たったそれだけだったが、今の二人にはそれだけで十分だった。
    ―未来のことは決まっている。死が二人を分かつこともまた、定められた運命というもの。
    ―しかし、それならば今を大切に生きよう。いずれ来る悲しみに心が砕かれないように。
    ―それに、例え死が二人を分かつとも、二人の愛は終わらないのである。

    ―だって、そうでしょう?何せ君は、それを見て来たのだから。

  • 9125/09/03(水) 22:07:28

    ―こうして二人は真の意味で結ばれることになる。とっくの昔に赤い糸で結ばれていた二人だったけどな。

    ―とはいえ、彼女にとってはかなりの決断になったのは確かだ。

    ―好きだとは言え、彼、ギルバートと結ばれるとどうなるかを知ってしまっていたからね。

    ―とはいえ、この時の彼女には他に選択肢がなかったとも言える。

    ―え?それはなんでかって?それに関しては、ちょっとだけ続きを見て行こうか。

    ―これは、その日の夜の事。1時間以上外に居て、冷え切った体をスープとかお風呂とかで温め終わった後の事だ。

  • 10125/09/03(水) 22:14:34

    マユ「はあ、なんか疲れたけどすっきりしたぁ」

    酒吞童子『おめでとう。ようやく重い腰が上がってよかったじゃない』

    マユ「うん、そうだね。私もようやく覚悟を決めたよ」

    酒吞童子『それにしてもああいう言い方でよかったの?あの子と結ばれると貴女死んじゃうんじゃなかった?本当のことを話せば、切ってくれそうだったけど?』

    マユ「私は死ぬことよりも彼と添い遂げることを選んだのです。言わせないでよ、恥ずかしい」

    酒吞童子『貴女が死ぬと私ってどうなのよ』

    マユ「ああ、心配しないで。私が死ぬ前に貴女の肉体はちゃーんと返してあげるから」

    酒吞童子『いいの?』

    マユ「いいの。問題ないのは"見た"し」

    酒吞童子『そうなの。本当に未来視って便利ね』

    マユ「……本当にね」

    酒吞童子『あら、なにか含みがある言い方』

    マユ「なんでもないよ」

  • 11125/09/03(水) 22:23:14

    マユ「それじゃあ私寝るからね」

    酒吞童子『そう。私も眠るわ。おやすみなさい』

    マユ「おやすみ」


    ―心の中が静かになる。酒呑童子は眠るのが早いから、お休みを言ったタイミングで寝入ったのだろう。

    ―私は宣言通り部屋の電気を消して布団の中に潜る。体が寝ている間に冷えないように、布団の中にすっぽりと埋まって。

    ―目を閉じて、見えるのは暗闇……ではなく、遠い未来の話。

    ―私には隠し事がある。

    ―それは、ヤマトくんの未来が見えるようになったあの日、私の未来視が今まで以上に強力になっていたということ。

    ―そしてその結果、今まで見えていなかった未来まで自在に見ることが出来るようになったということ。

    ―そう、今まで曖昧だったヤマトくんを選んだ時と、そうじゃない時に起きる未来で何が起きるのか、はっきりと見えてしまっていたんだ。

  • 12125/09/03(水) 22:42:18

    ―ヤマトくんを選んだ場合、私はヤマトくんとの間に生まれた息子、シンを守るために異世界の怪異を退治した後、その怪異が来た道を塞ぐために、自らの魂を使って封印を施す。

    ―そして300年。別の場所へとつながった道が開くまで、その場所に縛られ続けることとなる。

    ―ヤマトくんを選ばなかった場合は、それが起きない。その代わりに"ヤマトくんが死ぬ"。

    ―私と結ばれなかったヤマトくんは、生涯独身だけど、二人の子供を養子に迎える。それは、彼の兄が遺した忘れ形見。そして、前世の記憶を持つ不思議な子供たち。

    ―彼らは上の子が大学に進学したタイミングで、二人同時に前世の記憶を思い出す事件が発生する。そして、その事件が切っ掛けで、ヤマトくんは亡くなってしまう。

    ―その死が連鎖して、ヤマトくんの養子くんたちは二人ともある封印の要となるために、自らの魂を使うことになる。

    ―それは、私の死因と同じ。この世界線では私が封印を施さない代わりに、彼らが代わりにやってしまうんだ。

    ―私は縁を切っている関係上、その事件には駆けつけられない。もし駆けつけられたとしても、事が終わった後のことになる。

    ―そう、これが私の後悔。

  • 13125/09/03(水) 22:50:20

    ―要するに、私は自分を犠牲にするかヤマトくんを犠牲にするかの選択を迫られていたんだ。

    ―それが分かったとき、本当は私の中での答えは決まっていた。

    ―けれどそれは、両親との約束を破ることになるから、ずっと踏ん切りがつかなかった。

    ―だから、約束を破って良い言い訳が欲しかった。

    ―後はもう流れるまま。鋏を渡そうとしたのは、とっくに見ていた未来だったけど、ちゃんとこの目で彼の覚悟を見たかったからに過ぎなくて、彼が私との縁を切らないのは、わかっていたことだった。

    ―この話をしなかったのは、彼が私の命を優先することをわかっていたから。だから、話さなかったし、今後も話すつもりはない。

    ―というか、誰にも言わずに墓まで持っていくつもりだ。

  • 14125/09/03(水) 23:03:53

    ―それに、この選択は別に悪い事ではない。この選択をすることで、ヤマトくんは長生きするし、養子になった二人も少なくとも必ず短命になるということは無いはずだ。記憶を思い出すタイミングがかなり早まるから、それで苦労することにはなりそうだけど。

    ―けど、結局この二人は私の死後ヤマトくんの所に引き取られることになるからちょっと面白い。

    ―それから……これは非常に重要だけど、私はこれから死ぬまでの人生は、とても幸せに過ごせるのが確定する。

    ―生まれた息子がかなりのトラブルメーカーになっちゃうから、平穏とは程遠い人生にはなるけれど、それでも幸福なら構わない。

    ―それに、"ズル"を仕込むことは出来そうだから。

    ―瞼の裏に流れいた未来の映像を止めて、暗闇に沈み、眠りにつく。

    ―今日は、よく眠れそうだ。

  • 15125/09/03(水) 23:05:03

    と言ったところでマユの過去編はここまでとなりますが、次の話に映る前にもう少しなにかやるかも……?

  • 16125/09/03(水) 23:12:41

    因みにマユとギルバートが結ばれなかった未来は、part29~32で青い鳥に改編された現実がそれに近くなります。細かい所が違うので、完ぺきに同じというわけではないですが。

  • 17125/09/03(水) 23:14:31

    明日はお休みになると思います

  • 18二次元好きの匿名さん25/09/03(水) 23:57:20

    お疲れ様でした

スレッドは9/4 09:57頃に落ちます

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