- 1二次元好きの匿名さん22/04/25(月) 21:20:29
暖かな日差しが差し込む一室には、カチコチという秒針の音と静かな呼吸音だけが聞こえている。
ファインモーションは座布団を枕に眠っているトレーナーを眺めると、目の前にあるささやかな幸せに微笑んだ。彼女にとっては、彼がただそこに居て、同じ屋根の下で生活を共有していることだけでも、十分すぎるほどに大きな幸せなのだ。
彼女は目を細めると時計を確認して、二人がけのソファから腰を上げると、先ほどまで目を落としていた文庫本を本棚に片付けた。棚の大部分は学術書や資料ファイルに占拠されていた。それらの多くは、彼女が走ってきた軌跡そのものだった。
ファインモーションは思い出を一瞥すると、クローゼットへと向かった。その足取りは、どこか軽やかなものだった。
親善大使として公務に追われる中で、なんとか都合をつけた休日は、いかに貴重なものといえようか。これから久々に旧友たちと顔を合わせるとあって、彼女のしっぽは上機嫌に揺れる。
薄手の外套を羽織って、姿見を確認する。耳飾りは問題なし。お団子もよくまとまっている。
ダイニングテーブルへ向かうと手頃な紙を一枚手に取って、ペンを走らせる。トレーナーに宛てて、自身が戻ってくる予定の時刻を書き残した。そして、もう一度トレーナーへと目を向けると、彼を起こさないように気をつけながら、小さく声をかけた。
「いってきます」
ファインモーションはこの言葉が好きだった。“行ってくる”ということは“帰ってくる”未来があるからだった。帰宅して玄関を開ければ彼が待っていて、二人の暮らしがそこにはある。いくつもの困難を乗り越えてようやく手にした喜びは、確かにここに存在している。彼女はその現実を噛みしめると、頬を緩ませた。鹿毛のしっぽが、一段と大きく揺れた。
街へと一歩を踏み出すと、爽やかな風がコートの裾をなびかせた。陽の光に柔らかく照らされた植栽には、青々とした新芽が顔を出していた。往来に出ると、たくさんの通行人や車が行き交っている。毎日繰り返される“普通”の街並みだったが、彼女には“特別”に思えた。人々はみな、日が暮れると家族が待つ家に帰っていく。彼女は自身がその人々に含まれていることも、愛する人が出迎えてくれることも、どれもが“特別”であり、かけがえのない幸せだと感じていた。
ファインモーションは、なんでもない日常を愛していた。 - 2二次元好きの匿名さん22/04/25(月) 21:21:16
サンキュー
- 3二次元好きの匿名さん22/04/25(月) 21:36:29
前作
フラッシュがさ|あにまん掲示板あの有マ記念で手帳を破り捨ててドイツ旅行をしたあと、改めてこれからのスケジュールを立てるんだよねもちろんトレーナーさんと一緒の未来を思い浮かべるんだけど、ふたつの道があってどちらを選べばいいかわからな…bbs.animanch.comファインで書くのは二作目だからこれまでのパターンと始め方を変えてみた
でも変えなくてもよかった気がする
- 4二次元好きの匿名さん22/04/25(月) 21:41:26
- 5二次元好きの匿名さん22/04/25(月) 21:45:03
良い…
- 6二次元好きの匿名さん22/04/25(月) 21:48:26
すまねぇ…俺の語弊力では凄く良いとしか言えねぇんだ…