紙飛行機トレーナー[ss版]

  • 1122/05/02(月) 22:44:03

    数多くの名トレーナーを輩出している名門の家に生まれ、周囲の期待に応えて中央のトレーナーになったが、彼が本当になりたかったのは、幼い頃から夢見ていた飛行機のパイロット。
今やその夢は叶わず、少しでも心の寂しさを紛らわせようと紙飛行機を折って飛ばすことにした。
元々手先は器用であったし、小さい頃からよく作っていたのでそれなりの代物は作れた。
威勢良く飛んでいく飛行機の背を見て、無邪気に夢を語り、そのたびに親にトレーナーとして生きることの道を説かれた幼き日のことを思い出す、そんな鬱屈とした日々を過ごしていた。
彼はよく、トレセンの中庭で紙飛行機を飛ばしていたが、その様子を見て低学年の生徒たちの人だかりができることもあった。
紙飛行機に目を輝かせ、楽しそうに遊んでいる彼女らを見て、彼はまた寂しそうな顔をするのだ。

紙飛行機ばかり作って担当を持たない彼のことを、同僚のトレーナー達はいつしか「紙飛行機トレーナー」と呼ぶようになっていった

  • 2122/05/02(月) 22:44:22

    彼が、人生を変える出会いをしたのは、彼がトレセンに来て3年の月日が経った頃だった。
    その頃になると、サブトレーナーとしての仕事も板についてきて、生来の真面目さと要領の良さで先輩のチームトレーナーの男からも重宝されるようになっていた。
    5月の初め、ゴールデンウィークの隙間日を縫うように選抜レースが開催されていた。
    そろそろ担当を持った方がいいとチームトレーナーに勧められていた彼も、この選抜レースへと足を運んでいた。
    幾人かのウマ娘たちの走りを見た後、男は心底退屈であった。
    どうにも心を動かされる子がいない。
    優秀な成績を残したトレーナーは担当ウマ娘と出会った時に「ビリビリ」を感じることが多くあるらしい。
    彼もその「ビリビリ」を今か今かと待っていたが、陽が傾き、最終組が出走しようというところに来てもそれがくることはなかった。
    目星自体は何人かつけてはあるが、それは他の優秀なトレーナーもそうで、トレーナー同士の争いに彼は勝てるビジョンが見えなかった。

  • 3122/05/02(月) 22:44:42

    悶々とする男を置き去りに、ついに最終組のレースが始まってしまった。
    先頭を走るのはストライド走法で走る栗毛のウマ娘。フォームも綺麗だし、かなりの有望株だろう。
    その後ろを付けているのは芦毛の子だ。歩幅こそ栗毛の子よりも短いが、ピッチが早い。フォームが崩れ気味ではあるが、十分に素質を感じる走りだ。
    3番以降も似たような感じではあるが、1、2位の走りがよく目に留まった。

    そんな中、彼は「ビリビリ」と衝撃を感じた。
    初めは、誰を見てそれを感じたのか分からなかった。目を凝らし、対象を探す。

    いた。

    5番目に付けている鹿毛のウマ娘。彼は彼女に「ビリビリ」を感じていた。
    特になんの変哲もない、例年の平均通りの体格、走り方ではあるが、彼女は他の子と比べても明らかに歩幅が大きかった。ピッチこそ遅めではあるが、その強烈な大きさの一歩は間違いなく強い武器になる。
    彼にはもう、鹿毛の彼女しか目に写っていなかった。

  • 4122/05/02(月) 22:45:04

    レース終了後、彼は人目も憚らず彼女をスカウトした。
    本来であれば、後日行うのが通例ではあるのだが、彼はもう居てもたってもいられなかった。
    彼女の方も、最初こそ驚いていたが早期の担当契約に喜びを隠せないでいた。

    それから二人を取り巻く環境は目まぐるしく変わっていった。
    何よりも大きいのは二人だけのトレーナー室ができたことだろう。
    少し手狭なトレーナー室にはレースの資料や、ウマ娘に関する医学本がこれでもかと詰め込まれていた。

    初めての担当を持った彼は、彼女と円滑なコミュニケーションを図るため、知恵を巡らしたが、結局は自分の素でぶつかるのが手っ取り早いと、彼女の前で紙飛行機を折って見せた。
    彼女も自身のトレーナーが「紙飛行機トレーナー」と呼ばれているのを友人伝いに聞いており、彼の早技に感嘆の拍手を送った。
    それが嬉しかったのか、彼は毎日のように紙飛行機を一つ折り、それを彼女にプレゼントしていた。
    彼は100円均一の折り紙をよく使っていたが、金色と銀色の折り紙だけは得別な時だけと、机の引き出しに閉まって折らないでいた。
    彼はいつか、彼女が重賞に勝った時にこれを使ってとびきりのを作ろうと考えていた。

  • 5122/05/02(月) 22:45:23

    しかし、物事はそううまくいくものではないということを彼は失念していた。

    端的に言えば、彼女の花が開花することはなかった。
    新馬戦こそなんと勝つことはできたが、重賞はおろか、オープン戦すら勝つことができなかった。
    なんとか彼女を勝たせようと、彼も自らの持つ力と知識を総動員したが、それでどうにかなるほどレースの世界は甘くなかった。
    結局、彼はオーバーワークのさせすぎで彼女の足を壊し、夢や目標を奪ってしまった。
    彼女がこの学園を去る日、彼女を見送ったのは彼一人であった。
    彼はそれに驚愕した。今まで彼女には友達がいて、応援してくれる仲間がいると勝手に思い込んでいた。しかし実際は、引っ込み思案の彼女はクラスに馴染めず、友達すらできていなかった。
    彼はそれを知らなかった。いや、知ろうとしなかった。
    彼は自分のことで手一杯で、彼が本当にしなければいけなかったことから目を逸らし続けていたのだ。

    最後に振り返った時、彼女は彼にこう言った。
    「ありがとうござました。お世話になりました」

    彼がどんな表情で、どんなふうに返したのか、それを知るものはいない。

  • 6122/05/02(月) 22:45:42

    ここ、トレセン学園には数多くのユニークなトレーナーたちが存在している。
    特技が凄いもの、精神性に特別なものがあるものなど、個性にも多種多様なものがある。
    そんなトレーナーたちの中でも、低学年の生徒に人気のトレーナーがいる。
    彼のあだ名は「紙飛行機トレーナー」
    トレセン学園の中庭にてよく紙飛行機を飛ばしている男だ。
    彼の作る紙飛行機はよく飛ぶと評判で、低学年の間では密かなムーブメントになっていた。
    そんな彼には現在担当がおらず、彼に担当してもらおうとする生徒も少なからずいるようである。

    彼が次にどんなウマ娘を担当するかは彼にもわからないが、きっと彼はまた後悔し、前よりも良きトレーナーとなるだろう。

    丁寧に折られた金色の紙飛行機が彼の手からふわりと飛んでいった。

  • 7122/05/02(月) 22:46:04

    というわけでやっつけクオリティーでございます

  • 8122/05/02(月) 23:22:42

    こっちも見てね


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  • 9二次元好きの匿名さん22/05/02(月) 23:29:09

    良かったです

    さっきのスレも見てましたが筆が早いですね


    このスレもそうなのかな

    復活!お久しぶりだ!|あにまん掲示板bbs.animanch.com
  • 10二次元好きの匿名さん22/05/02(月) 23:29:52

    いいSSじゃないか……

  • 11122/05/02(月) 23:42:06

    >>9


    あー、はいそうです

    今年から色々始めた結果やる時間がなくて手をつけてないやつですね……

  • 12二次元好きの匿名さん22/05/02(月) 23:58:08

    大事にとっておいた金色の折り紙を特に何もない時に消費しているのが最高に好き

  • 13二次元好きの匿名さん22/05/03(火) 09:40:03

    あげ

  • 14二次元好きの匿名さん22/05/03(火) 21:41:49

    紙飛行機トレーナーがいつか担当を持つ日がまた来るのかな...

  • 15二次元好きの匿名さん22/05/04(水) 09:06:03

    >>14

    だいぶ重症だし、しばらく無理じゃない?

  • 16二次元好きの匿名さん22/05/04(水) 09:23:47


    最後の金の翼は彼が新しく担当した子が重賞勝ち出来たから飛ばしたのかと思ったけど違うのか

  • 17二次元好きの匿名さん22/05/04(水) 21:10:11

    >>16

    いいねそれ

  • 18二次元好きの匿名さん22/05/05(木) 09:11:12

    このレスは削除されています

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