【SS】【※♂トレ】ファイン「流れ星、綺麗だったね♪」

  • 1二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 22:12:18

    「あんなに星が降るところなんて初めて見た!」

    ファインモーションの声には興奮が滲んでいる。火照り弾む心臓を抑えるように、両手を胸の上で重ねているが、その足取りはぴょこぴょこと跳ねている。耳の動きも、心做しか忙しない。

    幼子のようにはしゃぎ回る愛バを、トレーナーはにこにこと見つめていた。

    「何かお願い事はした?」
    「あっ、忘れてた……。とっても綺麗だったから……」
    「そうだね。本当に綺麗だった」
    「トレーナーは?お願いしたの?」
    「したけど、内緒」
    「えぇっ、教えてよぉ」
    「こういうのは口に出すと叶わなくなっちゃうからね」
    「そうなの?」

    人差し指を唇に当てたトレーナーの瞳は、微かにからかう様な光を湛えている。

  • 2二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 22:13:25

    ファインも彼の真似をして、小首を傾げた。

    「でも、銀河鉄道は見えなかったね」
    「銀河鉄道かぁ」
    「あのお話大好き。とっても優しくて、あったかくて、悲しくて。ねぇ、また貸してくれる?」
    「良いけど……。ファイン、新しいのを買おうか?あれ、汚いだろう」
    「ううん、いいの。古い本って何だか、素敵じゃない?」
    「ああ。……それは少し、分かるかな……」

    ファインのトレーナーは文学を嗜んでおり、トレーナー室にも何冊かの本が、入れ代わり立ち代わり我が物顔で机の上に鎮座していた。それは太宰治であったり、江戸川乱歩であったり、谷崎潤一郎であったり……彼らの本も、一度手に取って開いたことはあるが、古めかしく難解な異国の言葉にささやかな畏怖を感じてしまい、ものの数行で諦めてしまった。

    しかし、トレーナーの見ている世界を少しでも覗いて見たかった。異国の夢を、見てみたかった。

  • 3二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 22:14:10

    そんな折に勧められたのが、児童文学である“銀河鉄道の夜”だった。トレーニングの合間や、休日の暮れに、トレーナーとぴったりくっついて、紡がれた言葉の意味を教えて貰いながら、銀河を走る列車に揺られた。頁を繰る悦びに震える指先も、寄り添う体温も、甘美な陶酔も全て覚えている。何もかも、ファインにとって初めてだった。

    「小さい頃は毎日外に出て、空を眺めていたものだなぁ。銀河鉄道が通らないかと思って」
    「ふふ、トレーナーもそんなことしてたんだ」
    「あんなに焦がれたのは初めてだったよ」
    「私も乗ってみたいなぁ、銀河鉄道。……ねぇトレーナー、今度二人で電車に乗ってどこかへ行こう?」
    「二人、……二人かぁ。せっかくだし、エアシャカールと行ってきたらどう?」
    「あ、それもいいかも……。でも、トレーナーとはあんまりお出かけしたことないから……」

  • 4二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 22:15:04

    「ねぇねぇ、それなら、四人でお出かけしよう?私と、トレーナーと、それから、シャカールと、シャカールのトレーナーさんと……」
    「はは、それは楽しそうだね。その顔ぶれだと、ファインがジョバンニで、エアシャカールはカムパネルラかな」
    「ええっ、そうかなぁ。トレーナーは誰になるの?」
    「ザネリ」
    「えー!トレーナーは私のこといじめたりしないじゃない。それなら、シャカールのトレーナーさんはどうなっちゃうの?」
    「ああ……。……そうだなぁ……。……燈台守でいいんじゃないかな」
    「燈台守!?……でも、ちょっと似合うかも……」

    蒼く冷えた甘い空気に、軽やかな談笑が木霊する。花束を解きほぐしたような星々が、夜道を彩っていた。ファインは自身の肩を、そっとトレーナーの方に寄せ、密やかに囁いた。秘密をうちあける時のように。

  • 5二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 22:15:49

    「トレーナー。私達、ずっと一緒にいようね」

    男にしては細く、優雅な指先に自身の指をそっと絡める。冷えきって石のように冷たいそれを溶かすように、両手で包み込んだ。

    「ずっと?」
    「うん。ずっと」
    「ずっとかぁ。じゃあ、アイルランド語の勉強を始めないと」

    少年のようなすべすべとした声が、ゆったりと夜空に消えていった。その音の行く先を辿るように視線を上げると、遅刻をしたらしい流れ星が、ちかちかと瞬きながら急ぎ足で駆けて行く。トレーナーがぽつりと呟いた。

    「人は死んだら星になるんだ」
    「えっ?」
    「知ってるか?」
    「うん、そのお話は知ってるよ。小さい頃、お兄様がよくお話してくれたもの」

  • 6二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 22:16:41

    「その後、星になった人はどうすると思う?」
    「えっ?えっと……」

    トレーナーがどういった解答を求めているのか分からず、ファインは首を傾げた。薄い唇が、柔らかな弧を描く。

    「正解は無いよ。ファインだったらどうする?」
    「私だったら……?」

    目を閉じると、天鵞絨のような闇が広がる。

    私がお星様になったら。

    兄は、星になった人は天上で地上の人々を見守ってくれているんだと教えてくれた。だから、もしお祖母様やお爺様が亡くなっても、何も悲しむことは無いんだよ、と。

    だけど、もし、自分が星になったら───

    「……寂しくなって、会いに行っちゃうかも……」

  • 7二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 22:17:36

    懐かしい喧騒に、華やかな談笑に惹かれて、疾風のように星々の間を縫いながら、大好きな人の元へ落っこちていくのだ。

    「それが流れ星なんだって。……俺も、兄がよく話してくれたよ」

    囁く声は、二人を秘密をそっと閉じ込めるようで。ファインの心臓が、はっと春の夜のようにときめいた。重なる指先に力を込める。

    「ねぇ、トレーナー」
    「ん?」
    「もし、もしの話だけど、トレーナーがお星様になったら、私に会いに来てくれる?」

    トレーナーの目が、猫のように丸くなる。ぱち、ぱちと瞬き、ちょっとくすぐったいような顔つきで微笑んだ。

    「ああ、きっと会いに行くよ」
    「本当に?」
    「本当だよ」

  • 8二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 22:18:35

    耳元を鳥の羽で撫でられているような、幸せな夢を見ている時によく似ている心地よい浮遊感に包まれた。

    ファインの脳裏に、二人の少年の幻燈が映し出される。

    「僕もうあんな大きな暗の中だってこわくない。きっとみんなのほんとうのさいわいをさがしに行く。どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んで行こう。」
    「ああきっと行くよ。ああ、あすこの野原はなんてきれいだろう。みんな集ってるねえ。あすこがほんとうの天上なんだ。あっあすこにいるのぼくのお母さんだよ。」
    「カムパネルラ、僕たち一緒に行こうねえ。」ジョバンニが斯う云いながらふりかえって見ましたらそのいままでカムパネルラの座っていた席にもうカムパネルラの形は見えずただ黒いびろうどばかりひかっていました。

    ───不意に水を浴びたように心が震えた。

    「……ファイン?どうかした?」

  • 9二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 22:19:32

    トレーナーは、きょとんと無邪気な疑念を顔に漂わせながら、足を止めたファインの目を覗き込んだ。幽玄な夜の灯りに照らされた頬が、いやに青白い。

    「トレーナーは、」

    決して泣くまいと絞り出した声は、情けなく震えている。

    「トレーナーは、遠くへ行ったりなんかしないよね?……カムパネルラみたいに、私を置いていったり、しないよね……?」

    ファインのトレーナーは、同年代の男性と比較して脆弱だった。なるべく彼女の目につかないようにしてはいるらしいが、何度か薬を飲んでいる所を見かけたし、過度のストレスを与えられると喘息のような症状が発作的に起こる。人よりは弱っちいが大したことは無いと彼は嘯くものの、ファインは時折、どうしようもなく恐ろしくなることがあるのだ。

    すぐに砕け散ってしまいそうな、ガラスの瓶に閉じ込められたの時のような、妙に心もとない気分。

  • 10二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 22:20:30

    黒い上着を羽織ったトレーナーが、このまま夜空に溶けて行ってしまいそうで。

    爪先から、凍りついていくように力が抜ける。薄荷によく似た、彼の匂いに包まれる。ファインの手は、縋るようにトレーナーの背に回された。小鳥のようにぶるぶると震える身体が厭わしい。

    「どこへも行かないよ」

    トレーナーの手のひらが、ファインの柔らかな髪を撫でる。その温かさが、上下する胸が、その奥で弾む心臓が、恐怖に締め付けられたファインの心を、緩やかに解きほぐしていく。

    「……ファイン」
    「……なぁに」
    「ラーメン食べに行こうか」
    「へっ?」

    思わず頓狂な声を出して、体を離す。

  • 11二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 22:21:03

    「お腹空いただろう」
    「空いたけど……。でも、ラーメンは……」

    レースを終えた日や、ハードなトレーニングをこなした時の、ご褒美と決まっている。なるだけ減量に響かないようにと、トレーナーが打ち出した苦肉の策だった。

    「それは、ほら。分かりやすくするためだからね。毎日だと流石にって話だから。たまにだったら構わないんだよ」
    「う、うぅ……。本当にお腹すいてきちゃった……」

    ファインの腹がくぅ、と子犬のように唸りを上げる。トレーナーは堪らず笑い声を上げた。彼らしい静かな、しかし、若々しい生命力に満ち溢れた声だった。

  • 12二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 22:22:48

    ロマンチックなやり取りして欲しい!という願望から生まれた産物です。ロマンチックとは。初ファインちゃんでした。普段はシャカールに狂ってます↓(※全て♂トレ)


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    変なところあっても許して

  • 13二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 22:24:04

    ちょっとした手のひら文学小説を読んだ気分♪ありがとうございました。

  • 14二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 22:24:44

    凄く、とても「綺麗」な文章って思った 本当に星空を見ているようなキラキラしたSSだ

  • 15二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 22:25:11

    あまりデカい声では言えないが、個人的に今1番実装して欲しいのはファインです

  • 16二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 22:25:23

    天然ゆるふわお嬢様とはちょっと違った一面が見られてめちゃくちゃ好きですありがとう

  • 17二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 22:26:02

    またきみかあ…うれしいなあ

  • 18二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 22:26:11

    他所の国の文学にハマる異国の少女…素晴らしい!

  • 19二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 22:30:26

    君のトレウマは健康にいい

  • 20二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 22:35:15

    「はしゃぎ回る愛バを〜」から「トレーナーの瞳は」の辺りがトレーナー視点とファイン視点を行き来しててちょっと混乱してしまいました。
    それはそれとしてめちゃくちゃ好きです。文学を絡めて物語作るのはしゅごい……

  • 21二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 22:53:43

    イイ……

  • 22二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 22:56:39

    >>15

    もっとデカイ声で言うんだ俺も協力する

  • 23二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 22:58:58

    これは良質なトレファイ

  • 24二次元好きの匿名さん21/09/24(金) 23:32:41

    頭のおかしいシャカ狂とばかり思っていたが、ファインにも狂い始めるとは…

  • 25二次元好きの匿名さん21/09/25(土) 00:12:58

    2人のやり取りがちょっと銀河鉄道掠ってるの好き。
    体に気をつけて毎秒投稿してください。

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