- 1二次元好きの匿名さん22/05/23(月) 19:01:51
- 2二次元好きの匿名さん22/05/23(月) 19:02:07
夕方の冷たい空気が頬を撫でる。体育館を一歩出れば、音楽は遠く、人影もまばら。扉を一枚挟んだだけだというのに、つい先刻までいた場所とは別世界なのかとすら思わせた。アタシたちはふたり揃って一言も発さないまま、熱を帯びた身体を風に晒しながら興奮の余韻に浸っていた。
「……ネイチャちゃん」
先に沈黙を破ったのはアタシだった。このままだと、興奮と共に覚悟まで冷めてしまうような気がして。
「何?」
彼女は此方を向き、次の言葉を待っている。しかし、言葉を紡ごうとすれば、たちまち冷たい空気が口の中に流れ込んで舌を凍らせてしまう。まるで、続きを言うな、と教えているように。……そんなはずはない。そんなのはアタシの勘違いだ。そうは思っていても二の句が継げないのは、……ただ、アタシがそれを口にすることを躊躇っているだけ。
「話が、あるの」
それでもぎゅっとこぶしを握り、なんとか声を絞り出す。
「……そう」
その態度は、どこか悲しそうだった。まるでアタシが何を言うのか知っていて、その返事でアタシを傷つけてしまうことまで知っているみたいに。“みたい”ではなく、……そうなのだろう。きっと彼女はアタシの気持ちに気づいている。気づいた上で、アタシの口から告げられることを望んでいる。そうしなければ、何も応えられないという風に。
「マヤは、……アタシは……」
喉の奥が乾いている。声も心なしか上擦っていた。それでも止めるわけにはいかない。ここで止めてしまったら、もう二度と伝えられないだろうという、確信めいたものすらあった。
「キミのことが……好き」
彼女は、やはり悲しそうだった。悲しそうに微笑んでいた。何も言わず、ただ微笑むその表情は、全てを受け入れようとしてくれていた。 - 3二次元好きの匿名さん22/05/23(月) 19:02:21
「……わかってる。わかってるよ。ネイチャちゃんがマヤの気持ちには応えられないって。……でも、それでも。どうしようもなく、好きなの。キミのことが、大好きなの……」
堰を切って出るそれを、彼女は黙って聞いてくれた。視界が滲む。目の前の景色がぼやける。冷えた頬を熱い雫が流れていく。
「……マヤノの気持ち、嬉しいよ」
彼女はそう、一言だけ口にした。それはとても優しく、とても残酷な響きをしていた。
ふと、身体が柔らかな熱に包まれる。一心拍置いて、自分が抱きしめられているんだと気づいた。
「アタシは、……マヤノの“友達”だから」
“友達”だから、気持ちには応えられない。でも、“友達”だから、これからも仲良くしよう。言葉こそなかったが、彼女の体温がそれを告げていた。
「う……」
それからは、ずっと泣いていた。未練を残さないように、目から全て流してしまいたかった。彼女はそんなアタシを、ずっと抱きしめてくれていた。 - 4二次元好きの匿名さん22/05/23(月) 19:06:49
マヤネイ!そういうのもあるのか
- 5二次元好きの匿名さん22/05/23(月) 19:18:41
互いに好き合ってるけど好きの形が違うやりきれなさ…美しい
- 6二次元好きの匿名さん22/05/23(月) 19:21:14
マヤネイとはまたいいものだ
- 7二次元好きの匿名さん22/05/23(月) 19:27:31
青春という夢の終わりって感じがしてすこくしんみりする……良作をありがとう!
- 8二次元好きの匿名さん22/05/23(月) 20:21:27
明るい子ほど悲恋が似合う
- 9二次元好きの匿名さん22/05/23(月) 22:10:58
マヤノには失恋を経験してほしいけど、それと同じくらい幸せにもなってほしい
- 10二次元好きの匿名さん22/05/23(月) 22:44:51
恋に恋する子の初めての片想いからしか得られない栄養がある
- 11二次元好きの匿名さん22/05/24(火) 01:31:28
こういうのもすき…
- 12二次元好きの匿名さん22/05/24(火) 12:51:36
めっちゃ好き