【SS】吸血ウマ娘ゴールドシチー【再投稿】

  • 1二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 09:28:13

    深夜に立てて思いっきりスレ落ちる時間忘れてたので再投稿しました。見てくださった方申し訳ない(もしくは何か引っかかったかも)


    吸血ウマ娘スレ|あにまん掲示板ある時からウマソウルが変質して生まれるようになった存在人間の血を吸わないと飢餓感に襲われるようになる人間には感染しないウマ娘の血を吸うと感染させてしまう吸血ウマ娘の血はまずい、悪魔の実とかそのレベル感…bbs.animanch.com

    このスレに感銘を受けて書きました

    *流血表現注意

  • 2二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 09:28:52

    コンコンコンッ

    夜のトレセン学園、灯のついたトレーナー室にノック音が響く。どうぞと応えると、静かにドアが開いて担当しているウマ娘、ゴールドシチーが入ってきた。

    「トレーナー…その…」
    「…いいぞ」

    目を伏せて細々と呟く彼女に優しく声をかける。彼女がゆっくりと近づいて来る間に上着を脱ぎ、シャツ一枚になる。そして左肩を出して首元に貼ってある絆創膏を剥がした。

    「…ごめんっ」
    「─っ」

    彼女は一言、そう呟くとソファに座っている自分に抱きつく様に身を任せた。そして口を開き、大きく異様に伸びた2本の牙を自分の首元に突き刺す。えぐられる感覚とともに痛みが走る。皮膚が破れ、血管が切れて血が出る感覚を上から潰す様に、彼女がそれを吸い上げる。吸血行為、そう呼ぶしかない行動をとる彼女の身体を支えるようにと抱きしめた。その身体は冬の寒さで凍えきったかのように冷たく、まだ暑い夜には異常の体温だ。それに呼応するかの様に自分の身体から力が抜ける。慣れたつもりではいたが過剰に血を抜かれる事に身体は追いついていない。それでも彼女を落とさないようにしっかりと抱きしめた。

  • 3二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 09:29:26

    「……ん、ふぅ……ふっ…はぁ…ありがと」
    「もう大丈夫か?─っと」

    行為を終えた彼女が立ち上がった後、止血の為にタオルを取ろうと自分も立ち上がろうとしたが目眩がする。血が少ないのか、身体がふわふわする。

    「っ!トレーナー…!」
    「なに、大丈夫さ…ちょっと目眩がするだけ…」

    ふらついた身体を彼女が支えてくれた。こちらを覗き込んでくる顔は悲しげで、それでいて怯えていた。

    「それよりそっちこそ。この前から1週間も開いたろ?体調は大丈夫なのか?」
    「…大丈夫。アンタに迷惑は…掛けたくないから…」

    歯切れの悪い彼女の口調は明らかに無理をしている。血が足りていないのだろう。初めての吸血行為、あの時から血を吸う量は日毎に増えていた。こちらがそれに気づくと同じように彼女も自覚していた。それから彼女は我慢するようになった。自分でなんとかする、そう言ったのは彼女の性格故であろう。吸血行為の頻度は下がって行った。だがそれに比例する様に彼女の体調は悪くなっていく。

    「…やっぱり、もうやめにする」
    「…それはダメだシチー。寧ろ頻度を上げた方がいい。明らかに生活に支障が出てる」
    「だからって、これ以上はアンタが…!」
    「今日、ユキノビジンがここへ来たんだ。君の様子がおかしいって…」
    「……っ!」
    「なんとか隠し通したけど、君が他のウマ娘を避けているのは時期にバレる。何かあった後じゃ遅い」
    「……でも…」

  • 4二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 09:30:14

    ギリっと伸びた牙を食いしばり、こちらを支える手に力が入る。悔しくてたまらないのだろう。日中のトレーニングはほんの少ししか出来なくなってきた。日焼け止めを塗って走ってはいるが体調不良も相まって彼女は満足に走れていない。走るのが好きな彼女の為には、自分は血を提供するしかない。彼女の支えから離れ、タオルを取って首元に当て、ソファに座り直す。そして彼女の方を見て話した。

    「………シチー、俺は君を支えたい。君が走る為には、これは必要な事だ」
    「………」
    「強要はしない。でも、無理はしないでくれ。ちょっとでもキツくなったらすぐに来てくれ」
    「……わかった」

    彼女は小さく頷いた。覇気の無い、冷たい声だ。

    「…今日は、ここで寝かせて」
    「…部屋には、行かないのか?」
    「うん…先輩にも、迷惑かけれないし…」

    そうか、と言ってソファの隅に寄る。彼女は隣に座り、身体をこちらに預けてきた。肩にもたれかかった状態で目を瞑る。止血した首元はまだ炎症を起こして熱く、彼女の冷たい身体がそれを冷やす。泥の様に眠った彼女の目元には涙が、頬を伝ってこちらの肩に流れてくる。ずっと冷たい、氷の様だった。

  • 5二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 09:30:56

    数週間、吸血行為をしてから日にちが経っていた。会う度に体調のチェックはしている。無理をしているのかもしれないが、彼女の身体は良好だった。なんとか立て直したと安堵する。でも、心のどこかでは理解していた。こんな日常はそう長く無いと。

    コンコンコンッ

    あれから久しぶりに夜のトレーナー室にノック音が響いた。この時間帯、誰が来るのかは想像がつく。前と同じ様にどうぞと応えてドアが開くのを待つ。

    「……?」

    ドアが中々開かない。振り向いて確認すると誰かいる気配はある。立ち上がってドアへ向かって歩く。ドアの窓越しに見えるのはシチーの姿だった。

    「シチー…?」

    ドアを開いて声をかける。彼女は俯いたまま喋らない。

    「シチー…どうし─」
    「あ…あ…」

    口が開いた。チラリと彼女の牙が見えた次の瞬間─。

    「あ、ああああああああああああ!!!!」

    彼女がこちらを突き飛ばした。一瞬にして視界がぼやけ、背中に衝撃が走る。尋常じゃない力で突き飛ばされてそのまま転倒していた。

    「ぐっ………シ、シチーどうしたっ!?」
    「あああああ…あ、あああああ!!!!」

  • 6二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 09:32:00

    明らかに様子がおかしかった。目は焦点が合わず、しかしこちらを完全に捉えている。獲物を見る目、狩りをする野生動物の様に彼女はこちらを見ている。極限まで我慢した彼女のリミッターは完全に外れていた。

    「落ち着けシチー!気を確かに保て!」
    「う、うう…うあああああ!!!!」

    雄叫びを上げてシチーが飛びかかって来る。上体を起こして呼びかけた自分をいとも簡単に押し倒す。仰向けになった自分の上に跨った彼女はこちらの両手をガッチリと掴んだ。ウマ娘の怪力と、リミッターの外れた彼女。振り解く事は不可能だった。

    「シ、シチー、待っ─」
    「あああああああああ!!!!!」

    こちらの静止を振り切り張り裂けそうな甲高い声を上げて口を開ける。2本の鋭い牙がこちらを見ている。

    がぶり。

    「ッ!ぐぁッ!」

    上顎と下顎が首筋を挟む。鋭い牙が深々と突き刺さる。気が飛びそうな痛みに声も満足に上がらない。身体から何かが抜ける感覚、肉がえぐられ中身を削がれる感触。まるで音を立ててるかの様に血が噴き出す。

    「フーッ!フーッ!フーッ!」

    耳元で荒い鼻息が聞こえる。血を見て興奮しているのか、或いは血を吸うのに夢中になって息がろくにできていないのか。吹き出した血を彼女は吸い上げる。噴き出す血の勢いよりも強く、もっと血が出る様に何度も牙を立てる。牙が肉をえぐる度に自分の身体がビクンと波打つ。肩に流れ落ちた血を彼女は夢中で舌を這わす。本来ならくすぐったいであろう感触は殆ど無い。痛みも感じなくなるくらい身体が麻痺してきた。

    (…シチーが生きてくれるなら)

    意識が遠のく中頭にはぼんやりとそんな感情が芽生えた。受け入れよう、そう思って目を閉じる。自分が居なくなったら彼女はどうなるのだろう、支えてくれる人は沢山いる。何とか生きては行けるはず。

  • 7二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 09:51:15

    (………?)

    ふと、肩に感触があった。さっきまで自分の肩にはシチーの体重と、肉をえぐられる激痛、流れ出る生暖かい血の感覚しか無かった。激痛により麻痺した身体はもう殆ど感覚がない。だがさっきまでには無い感覚が遠くなった意識を目覚めさせる。

    (何か…冷たい…)

    身体中からは先ほどからずっと汗が出ている、血が足りなさすぎて寒気もある。そんな冷え切った身体でも分かるくらい冷たい何かが肩に流れている。

    「うっ…ああ…うう…」
    「……シチー」

    泣いていた。彼女の目から涙が溢れている。涙が頬を伝って自分の身体に落ちてきていた。

    「………」

    そういえばいつのまにか両手の拘束が解けている。彼女は自分の両肩を掴んでいた。爪が食い込むほどしっかりと掴んでいるその手、その身体は震えている。

    (抵抗しているんだ…)

    口元も緩んできている。相変わらず流れ出る血を吸ってはいるが、牙を立てる事は無くなった。血をある程度摂取したからだろうか、微かに意識が戻ってきている。

    (何を…こんなところで…!)

  • 8二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 09:51:48

    自分を鼓舞する。遠のいていた意識を無理矢理引き戻す。動かせる様になった右手、ほぼ感覚が無くなった左手を弱々しく動かす。震える彼女の身体を両手で力一杯込めて抱き寄せる。

    「大丈夫…大丈夫だ…シチー…」
    「ああ…うう……」

    嗚咽しながら血を飲む彼女に語りかける。

    「俺はどこにも行かない…君を必ず支え続ける。決めただろ?走るのを辞めないって。俺も決めたんだ。君が走るのを支え続けるって…。君が何処へ向かって走っても必ず追いかける」
    「うう………あう…」

    しばらく抱き寄せたまま、2人とも動かなかった。ようやくシチーが血を飲むのを止めた後、彼女は前と同じ様に泥の様に眠っていた。

  • 9二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 10:05:22

    「………ううん…」
    「…………起きた?」

    彼女の目が覚めたのはどのくらい後だっただろうか。外はまだ月が出ており、夜のままだ。抱き合った状態で寝てしまった彼女をどかす体力も無く、何とか止血をしようと右手で首筋を抑えていた。

    「……っ!トレーナー…あ、アタシ…なんてことを……!」

    意識を取り戻したシチーはその場から飛び起きる。彼女が目を覚まして初めに目に飛び込んできたのは血塗れのトレーナー、そして無惨にもえぐられた首筋だった。

    「…シチー、大丈夫。何とか…身体は動くさ」

    弱った身体を起こし、彼女と向き合う。だが彼女は完全にパニック状態だった。

    「ああ…アタシ、アタシは……ッ!」
    「っ!シチー…」

    シチーはトレーナー室から逃げる様に飛び出した。廊下を走る足音はどんどん遠ざかっていく。すぐにでも追いかけたいが身体が思い通りに動かない。

    「…まあ、まずは自分の身体だな」

    フラつきながら立ち上がり、机の上のスマホを取る。

    「…まだ、誰か起きてるだろ」

    連絡帳から職員の連絡先を開く。医務室に運んでもらう為、同僚に電話をかけた。

  • 10二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 10:24:25

    「シチー!?シチー!」

    河川敷。街灯が僅かな明かりでこの場所を照らしていた。もうすぐ夜が明ける。人影は見えないが直に誰かが歩いてきてもおかしくない。そんなところに付いた血も綺麗に落とさず、包帯で応急措置された傷跡を晒したまま歩き回れば誰かに通報されてしまうだろう。同僚には何とか誤魔化したが見ず知らずの他人には説明のしようが無い。通報されるのはシチーも同じだ。彼女の制服には自分の血がベッタリと付いている。口元も真っ赤になっているだろう。

    「…!シチー!」

    おぼつかない足取りで河川敷を下りる。暗くてよく見えないがそこに彼女が座っているのを発見した。川の向こう岸、その向こうを眺めている。その元へ急いで駆け寄った。

    「シチー、大丈夫か─」
    「来ないで」

    静かに、しかしはっきりと彼女は言った。思わず足を止めてしまう。月の光で照らされた彼女の顔は目元が腫れており、泣いた跡が付いている。

    「………」
    「…ゴメン、ほんとアタシってサイテーだよね」

    自嘲するように彼女は呟く。今までの事を悔やむように。

    「あれから耐えてた、耐えてるつもりだった。誰にも迷惑かけないようにって。自分で何とかするって…。でもさ、急に来たんだよね。身体がいう事を聞かない。視界がボヤけてきて、何も考えられなくなってきて」

    こちらを見ずに彼女は喋り続けた。

    「気がついたら、トレーナー室の前に立ってて、ノックしてて、アンタが出てきて…それからは……」

    思い出したかの様に彼女は黙った。思い出したく無い事を思い出している。自分もまだ明確に覚えている。首筋が僅かに痛む。

    「…アタシさ、覚えてるんだよ…全部。アンタにやった事、突き飛ばして、噛み付いて、夢中で血を啜って…全部覚えてるの。意識…あったんだよあの時…なのに…なのに…!」

    再び彼女の目に涙が溢れ出す。全部覚えていた。意識はあった。それでも身体は制御を効かなかった。

  • 11二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 10:37:53

    「ここさ…夕日が綺麗だったんだよ。アタシがよく来てた場所。夕日が見たくて、アンタに届けられた夢を見るのが好きで。…でも、もう見られない…アンタと見たかった夢は見れない…!こんな身体じゃ、満足に日のある場所にいられない…!」

    彼女の思いが溢れている。スマホに保存された夕日の写真、彼女のお気に入りで、消せない写真。 

    「もう…アタシ、ここに居られない。アンタと一緒に走れない…!こんな、こんな化け物になるくらいならいっそ…!」
    「シチー」

    彼女の言葉を遮って歩み寄る。こっちに来る自分に気がついてシチーは咄嗟に立ち上がる。

    「ダメ…!これ以上アンタといたら、またあんな事をしてしまう…!そしたらアタシは、今度こそ…!」
    「言ったろ?俺は君を支え続ける。君が走るのを辞めさせない。夢を諦めさせないって」
    「…!だったらどうすんのさ!アンタやみんなを犠牲にしてまで叶える夢なんかいらない!そんなの…叶えていい夢なんかじゃ無い…」
    「だったらどうするかって?じゃあこうしよう」

  • 12二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 10:46:53

    シチーが眺めていた方向と逆の方向を指さす。彼女はそれにつられてさした方向を見る。そこにあったのは─。

    「あっ…」
    「夢ってのはさ、別にちょっと変わっててもいいんじゃないか?夕日を目指さなくても…同じ様なものなら見れるんじゃ無いか?」

    指さした方向からは朝日が昇っていた。暗がりの空を明るく照らす、新しい光りだった。

    「走るのはレースだけじゃ無くていいさ。君の好きなものは誰も邪魔しない。レースに出れなくても、モデルが出来なくても、君の居場所は必ずある。見つからなくても、俺が必ず見つける」
    「……」

    呆然と立ち尽くす彼女をまた抱き寄せる。冷え切った彼女の身体にもう慣れてきた。

    「誰だって夢を持っていいんだ。誰だって目指していいさ。君の夢は絶対に叶えさせる。どこへでも行くさ」
    「…いいの?アタシもう、トレセンに居られないよ…?アタシを支えるって…アンタもここに居られなくなるよ…?」
    「それでもいいさ。立ち止まったらその都度考えよう」
    「…ほんと、アンタってお人好しだよね。そんなにお人好しなら…いつか破滅するよ?」
    「それで誰か救えるなら本望だ」
    「フフッ、何それ…決め台詞?」

    ようやくシチーは笑ってくれた。久しぶりに見た気がした。朝日に照らされたその笑顔はとてもキレイだった。

  • 13二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 10:52:55

    数日後、ウマ娘ゴールドシチーはターフから姿を消した。それだけでなく、雑誌の表紙からも消えた。それぞれの業界からは様々な憶測が芽生え出した。怪我をした、病気になった、走りに専念した、モデルに専念した─同じ時期に消えた1人のトレーナーと何処かへ行った。
     彼女をよく知る人たちに聞いても明確な答えは聞けなかった。知ってて口にしないのか、或いは本当に知らないのか。
     




     数ヶ月後、トレセン学園にこんな噂が立った。月に一度、満月の夜にトレセン近くの河川敷に行くと1人のウマ娘が走り込みをしている。彼女を目撃したと言う複数の人達は揃ってこう言った。月明かりに照らされたその姿はとても勇ましく、そしてキレイだったと。



    おしまい

  • 14二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 10:53:28

    なっが…酒の勢いで書いたけど何やってんだろ俺

  • 15二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 10:56:50

    >>14

    待ってました

    美しい…よい…とてもよい…

  • 16二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 12:51:20

    堕ちてもなお、夢は続くか…
    いいね!

  • 17二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 12:53:08

    素晴らしいべ、ぷりんとあうとして飾りたいべ

  • 18二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 12:54:10

    めちゃくちゃ良かったです!

  • 19二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 14:04:45

    貴方が神だンべ~~~!

  • 20二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 16:18:43

    想像以上にいろんな人に読んでいただきびびっております
    ありがとうございます

  • 21二次元好きの匿名さん21/09/26(日) 19:06:42

    必死に必死に必死に我慢して
    その上で暴走して襲ってしまうのは
    解釈一致です!

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