- 1二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 02:15:41
「どうしてお姉ちゃんなの?」
「あたしだって走りたかった」
「お姉ちゃんが代わりになれば良かったんだ」
やめて。あの娘がそんなことを言うわけがない。そんなことを言うはずがない
理解している。これは夢だってことを。自身に対して覚えていることであり、断じて亡き妹が語りかけてるわけではないということを
だけど、胸が苦しい。苦しくて、逃げ出したくて、泣きたくてたまらない
「泣いて許されるとでも思ってるの? あたしはそんな甘くないよ」
やめて。存在したかもしれない姿で、声で、言わないで。妹を侮辱しないで。そんなことを言うはずがない
「許さないから」
嫌だ。やめて
「そんなお姉ちゃんの脚なんて、こうしてしまえばいいんだ」
黒い影に包まれた妹が……否、妹を名乗る何かが私の脚に手をかけ、そして___ - 2二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 02:17:02
「やめてっ!」
そう叫ぶと同時に、風景が切り替わる。見慣れてしまった病室で、見慣れた世界だ。先程の不愉快なシーンは、やはり夢だった
「はぁ……はぁ……はぁ……」
理解していても動悸が止まらない。恐ろしい夢だった。だが、それ以上に恐ろしいのは、そんな夢を見てしまった自分自身だった
夢は深層意識の表れだというらしい。妹の為にと思いながらも、心の奥底ではその妹に罰される事を望んでいるかのような、そう思っているかもしれない自分が怖かった
「私は、まだ、輝かないといけないのに……こんなこと、考えてる余裕はないのに」
冷や汗が止まらない。寒くなり始めたばかりなのに、額から汗が吹き出る
怪我によって動きにくくなった脚をさすりながら、心を落ち着けようとする
「どひぇぇぇ〜〜〜!!」
そう思っていると、なにやら病室の外が騒がしい。何事……いや、あの声は恐らくメイショウドトウで、またドジを踏んでいるのだろうか、などと呑気に考えてるいると病室のドアがバキッと音を立てて吹き飛ぶ - 3二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 02:17:38
「流石だドトウ、誰よりも鮮烈で強烈な挨拶をこなすとは! ボクも倣うとしよう!」
騒がしいのがもう一人……テイエムオペラオーが来た。吹き飛んだ扉の上に飛び乗り、ポーズを取っている
「お見舞いに来たよ、アヤベさん! 怪我の調子はどうだい?」
脚の怪我は順調に治ってるけど、それより前に精神がやられそう。胃薬もらえるっけ……
嫌そうな顔を向けたと思ってるけど、この娘は気にしないかのように近付いてくる
「これはお見舞いのメロンとオペラオー長編小説、そしてアヤベさん復帰後のオペラの台本だ。療養生活は退屈だろう? この台本を読めばボクのオペラの素晴らしさに、アヤベさんの脚の方から治りたがるはずさ!」
「ありがたく頂戴するわ。これがあれば寝れない夜はなさそうね」
「おや、アヤベさんにも眠れない夜があるのかい?」
にも、ということは、この娘も夢見が悪かったり眠れない夜があったりするのだろうか - 4二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 02:18:30
「あぁ、ボクもボク自身の美しさに見惚れて、つい夜更しをしてしまうこともあるのさ。ああ、美しいとはやはり罪……なんて背徳的なボク……」
そんなことだろうとは思った。そんなのと一緒にされたくはない
……ただ、オペラオーがこちらに向ける視線がいつになく真剣だ。この娘は妙な所で勘が鋭い。私が先程まで不愉快な夢を見ていた事に気付いたら、また変なことに巻き込んでくるかもしれない
「アヤベさん。随分と汗だくだけど、どうかしたのかい。それに、何かに怯えているようにも見える」
「あ、しまっ……」
やってしまった。ドトウの声がした時点で、平静さを完全に取り戻すべきだった。せめて額の汗くらいは拭っておくべきだった
この時期にそれだけの汗をかくなんて普通じゃない、それくらいはこの娘でも分かるだろう - 5二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 02:19:41
「恐ろしい夢でも見ていたのかい?」
何故、ここまでこちらの事を理解している。体調が悪いとかではなく、こちらの夢見の悪さを何故指摘できる?
「どうして気付いたかって? それはね」
オペラオーが指をすっと、私の顔へと近付けてくる。思わず目を瞑ると、瞼のあたりを優しく拭い取られる
「これだけの涙を流している事に気付かないほど、覇王は愚かではないよ」
うそ、私、そこまで
「……安心したまえ。たとえどんな闇が襲い掛かろうとも、ボクは夢の中で戦おう。そして夢の中のアヤベさんを苦しめる物を打ち倒してみせよう。世紀末覇王の側近を苦しめる物には、夢であっても容赦はしないからね」
ギュッと、抱き締められる。私より小さく細い身体で、しかし温かく屈強な精神が私を包み込むように感じた。涙腺が壊れ、とめどなく涙が溢れてくる
その時、ふと温かい感触が足元に広がる - 6二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 02:20:59
「アヤベさん……大丈夫ですよ。私達が居ます。寂しかったり、苦しかったら、私達が一緒に居ますから。偉そうになっちゃいますけど、その、抱え込まないでくださいぃ〜……」
すとん、と、何かが落ちた気がした。胸の苦しみが、息苦しさが減った気がした。どうしようもないくらいに温かくて、心地良くて。私は、そのまま意識を手放してしまった
また、夢を見ていた。見たこともない女の子が目の前に立っていて、しかしその女の子は私が良く知る人物であった
「お姉ちゃん」
ああ、またか。また、こんな夢を。妹が絶対に言うはずがない言葉を喋る夢
だが、今日は違った。また新たな人影が増えたのだ
「やあやあ! ボクこそは世紀末覇王にして夢の守護者! アヤベさんの妹を名乗る不埒者め、覚悟しろ!」
現れたのはテイエムオペラオー……の、姿をした何者かだった。え、何この夢。いつもと違う
「あなたにお姉ちゃんの何が分かるの」
「分かるとも! アヤベさんの妹が、アヤベさんを苦しめるわけがないことくらいはね」
芝居がかった口調で妹を名乗る少女と相対するオペラオー。なんか、気のせいか少女の口調も演技がかってきてる気がする
「ならば決闘だオペラオー。私が勝ち、この姉の夢を支配してみせよう」
「望むところだ妹を名乗る魔物よ。ボクとアヤベさんの正しさをここで示そう!」
私の夢なのに、私が蚊帳の外。え、なんなの本当に。私の深層意識ってこれ? どうやっても悪夢しか見れないの私?
もう、寝よう。夢の中だけど、放置されてる間に寝ておこう。付き合っても疲れる - 7二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 02:21:17
「ん………ん?」
夢の中で眠ったと思ったら、また見慣れた病室だった。傍には、私に抱き着いたまま寝ているオペラオーと、足首を思い切り握りしめてるドトウが居た。待ってドトウの掴む力強い痛い痛い痛い
「痛いってば!!」
思わず叫ぶと二人が飛び起きる
「はっ……すまない、ボクとしたことが眠ってしまったようだ。フフ、やはりボクの美しさは罪……夜更しによる眠気を起こしてしまうなんてね」
さっきの話はつい最近の出来事というか、昨日起きたことなのね。なんというか、らしいというか
メイショウドトウは寝ぼけているのか、ぽーっとしている。さっきは少しだけカッコいいと思ったのに、その面影が……いや、何考えてんの? 私
ふと、病室のデジタル時計を眺めるとトレセン学園の門限が近付いるのがわかった
「はいはい、貴女達はもうすぐ門限でしょ。お見舞いは有り難いけど、面倒事になるから早く帰りなさい」
ベッドから身体を起こし、強引に二人を立たせる。時間を見て事態に気付いたのか、慌てた様子を見せている。特にドトウはまたドジをやらかしそうなほど慌てている
「また明日来るよ、アヤベさん! それまでに台本を読んでおいてくれたまえ!」
「お、お大事にぃ〜!!」
二人はパタパタと駆け出していく。台本は……まぁ気が向いたときに読んでおこうか
なにはともあれ、今日は少しだけ良い夢を見れそうだ - 8二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 02:21:55
終わり。無限列車編が着想になりました
- 9二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 02:23:30
- 10二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 02:24:45
アヤベさんの夢の中なのにオペラオーが強すぎてアヤベさん本人が蚊帳の外になるの好き
- 11二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 02:25:25
こんな上等なブツをキメたらゆっくり眠れそうだぜぇ
- 12二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 02:29:22
オペアヤベを見ないと眠れなくなってしまった
- 13二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 02:49:44
ありがとう…
- 14二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 08:48:05
毎度毎度美しい
- 15二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 08:58:36
ちくしょう……どうして俺のトレーナー室にはオペラオーもドトウもアヤべさんもいないんだ……
引きてえ…… - 16二次元好きの匿名さん21/09/27(月) 10:37:10
本当に最高です…。ありがとうございます。