- 1二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 00:39:33
オペラオー達の最後の有マ記念を見届けてから、どうも胃のあたりに違和感を覚えている。言葉にし難いけど、なんとなく嫌な感じ。ただ、胃もたれとかそういったものは無いし、極端に不健康な食生活も送っていないはずだ
まぁ、私も引退した身だし、自分の生きたいこれからを……妹の分まで生きようと、そう決心した
「あ、アヤベさん! お久しぶりですぅ〜」
声を掛けてきたのはメイショウドトウ。オペラオーと仲良く引退し、今はオペラオーと共に舞台役者としてデビューしたそうだ。引っ込み思案のこの娘が舞台役者とは、今でも信じられない
「久しぶり、ドトウ。相変わらず元気そうで良かった」
「アヤベさんこそ、昔よりキラキラしてますよ。どこが、と言われると表現に困りますけど〜……」
キラキラ、か。私は、今まで背負い込み過ぎたのかもしれない。だから無意味なプレッシャーを受けていたり、怪我が頻発していたのかもしれない。オペラオーみたいに自信満々に立ち振る舞う姿や、ドトウみたいに芯の強さがあれば……と、たられば言ってても仕方ないわね
「キラキラしてるように見えるのは、きっと貴女達のおかげでもあるわ。素直になれるようになって、走り以外で生きる理由を見つけられた。ふふ、感謝してもしきれないわね」
鬱陶しいときや迷惑を被る事もあるけど、トレセン学園でオペラオーと過ごした期間は間違いなく宝物だ。ふふ、またオペラオーのオペラに出てみても良いかもしれないわね
「ねえ、ドトウ。今、オペラオーに連絡取れる? もし、予定が合うなら私を__」
彼女のオペラに、出してほしい。その言葉が出せなかった
「アヤベさん? アヤベさん! しっかりしてください、アヤベさん!」
凄まじい腹痛に、立っていられない。意識を辛うじて保っているが、もはや周りの景色も認識できない。息が、できない
「ドト、ウ……だい、じょうぶ……」
「もしもし! 救急です! はい、トレセン学園前です。番地は__」
ああ、おどおどしていたドトウも、すっかり電話対応出来るようになったんだなあ。うれしいなあ。私に妹が居たなら、こんな感情をずっと抱けていたのかな。ごめんね、情けないお姉ちゃんで。また、迷惑をかけちゃったよ - 2二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 00:51:07
アヤベさんが倒れた
ドトウからの報せを聞いたボクは、信号も速度制限も忘れて彼女が搬送された病院へと駆け付けた
待合室では、同伴していたのであろう我が友、メイショウドトウが待機していた
「症状を聞く余裕も、ありませんでした。緊急手術らしい、です」
震える声で現状を報告するドトウ。ああ、どうしてなんだ。ようやくアヤベさんも自身の道を歩み始めようとしていたのに
「アヤベさん、笑っていました。動揺する私を心配させまいと、最後まで。わたし、わたし……」
ぽろぽろと涙を流すドトウ。ああもう、アヤベさんらしいな
なら、ボクも覇王らしく振る舞おうではないか。ボクまで打ちのめされていたら、アヤベさんに襲いかかる災厄はますます力をつけてしまうだろう
「はは……はーっはっはっは! 何を怯えているドトウ。彼女が、アヤベさんは死んじゃいないし、死ぬ事はない。何故ならばボクの臣下だからだ、友だからだ。ボクの許可無しにあの世には行かせない。安心しろドトウ、ボクはまだ、アヤベさんを連れて行かせるつもりはない」
恐れるな、ボク。アヤベさんだって必死に戦っている。脇役となったなら、鼓舞してアヤベさんという主役を盛り上げなければならない
「そうだ……そうですよね、オペラオーさん。私達が恐れていたら、駄目ですよね! アヤベさんだって戦ってるんだから!」
そうだドトウ。ボク達はアヤベさんを行かせたくはない。だから、アヤベさん。戻ってくるんだ - 3二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 00:56:14
がんばれー!
- 4二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 00:56:57
どれだけの時間が経っただろうか。明るかった外は、すっかり暗くなってしまった。だが、アヤベさんが戻ってくるその瞬間までは、その時間が一瞬のようにも思えた
手術室のランプが消える。だが、未だ戻っては来ない。嫌な予感が脳裏をよぎる。しかし考えてはいけない。考えてしまっては、アヤベさんざ連れて行かれるように思えてしまうのだ
昔のボクなら、全盛期の覇王たるボクであれば、悲しく思いこそすれど、それも運命と割り切っていたかもしれない。だが、ボクは世紀末覇王にしてアヤベさんの友。そんな運命という魔物、ボクが粉砕してみせる
「アヤベさんは大丈夫です! 倒れた時も大丈夫と言ってたんですから! 絶対に絶対に大丈夫なんです!」
ドトウも涙ながらに叫ぶ。当然だ、ドトウの背中を押したのもアヤベさんで、アヤベさんの背中を押したのもドトウだ。ボク以上に強い想いがあってもおかしくはないだろう
一瞬が永遠か。そう思えるほどの時間が経った後、一人の医師がこちらに声をかけてくる
「アドマイヤベガ様の友人でしょうか」 - 5二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 00:58:31
うわあ……不穏…………
- 6二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 01:01:21
重い夜食きたな…
- 7二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 01:04:46
「結論から述べます。手術は成功しましたが、アドマイヤベガ様は今夜が峠です。乗り越えられるかどうかは、彼女の肉体次第でしょう」
どういうことだ、手術は成功したのではないか。成功したなら助かるのではないか
「アドマイヤベガ様は胃破裂を起こしておりました。それにより身体の免疫機能と呼吸の働きが大幅に低下しており、今夜を耐えられるかどうか、という現状です。面会謝絶状態ではありますが、ガラス越しでしたら彼女の様子を見る事はできます。如何でしょうか」
症状はなんとなく理解した。だが、ボクは彼女の姿を見るわけにはいかない。何故ならば___
「アヤベさんは、眠っている姿を見られるのを好まないのさ。だからボクが次に会うのは、いつもどおり軽口を叩き、しかし優しく笑うアヤベさんだ。ドクター、気遣い感謝するよ。だけど、ボクはここで待つ。何日でも、何ヶ月でも。アヤベさんが起きる日まで待つさ」
「私もオペラオーさんと同意です。寝顔を勝手に見てしまえば、私達こってり絞られちゃいますもの」 - 8二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 01:08:48
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- 9二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 01:09:40
胃破裂!?またなんというか危ない病気を。
- 10二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 01:10:48
支援
- 11二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 01:11:09
待ってた
- 12二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 01:11:14
「承知しました。しかし、ここで待つのでしたら食事や飲み物が必要でしょう。必要となったらいつでもお呼びください。世紀末覇王様の望みの物を提供しましょうとも」
なるほど、あの医師はボクの、ボク達のファンだったのか。アヤベさんの症状も恐らく話してはいけないものだったのだろう。だからこそ、こうやって一人で声をかけにきた
しかしボクは突っ撥ねる。アヤベさんは怒るととても恐ろしい。故に、怒らせないようにするべきだ。普段のボク達ならそうするだろう
「お医者さまの言うとおりですねぇ。私達が飲まず食わずでいても、アヤベさんはきっと怒るでしょうし」
ああそうだ、アヤベさんは優しくて厳しくて、そして世話焼きだ。ボク達はいつもどおりにして、いつもどおりに待っていればいいんだ
寝坊助なアヤベさん。君を劇場に招待する算段が台無しじゃないか。早く起きたまえ - 13二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 01:12:04
見てるこっちもドキドキしてきたおぺらおー!あやべさん!がんばえー!!
- 14二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 01:12:38
- 15二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 01:21:46
私は、夢を見ていた。満天の星空を見上げながら、原っぱを駆け回る。その隣には、双子の最愛の妹が居た。ああ、楽しいな。ここでずっと星空のもとを駆け回りたい
「お姉ちゃん、夏の大三角って知ってる?」
もちろん知っているよ。ベガ、アルタイル、デネブの3つの一等星を結んで出来る、大きな大きな三角形
「でも、ひとつでも欠けてしまえば、大三角にはなれないし、仲良く手を繋いでいた一等星さんたちも、片手が空いてしまうよね」
そうね。ふふ、夏の大三角の線を手とみなすなんて、可愛らしい所もあるのね
「お姉ちゃん。お姉ちゃんは、ベガなんだよ。最も天高く浮かんでいて、最も光り輝く一等星。消えちゃったら皆悲しむよ」
……どういうこと? 私には、何を言っているのか……
「お姉ちゃんはまだ、ここに来るべきじゃない。魂の決めた運命なんて、ひっくり返しちゃえ。貴女はアドマイヤベガ、一際輝かなければいけない一等星のウマ娘なんだから!」
待って、行かないで。私を置いていかないで
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。私は、ずっとずっと、先の未来で待っているから。いま、お姉ちゃんを星空のもとで待つ人の為に輝いてあげて」
その言葉と共に、私の意識は薄くなる。そこに居た妹の姿が、声が、分からなくなってくる
そして、意識は闇へと沈み、再び光へと戻ってきた - 16二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 01:27:27
「ん……ここ、は」
ベッド……に寝ている? おかしいな、私はさっきまでドトウと話していて……いや、倒れて……あれ、記憶が曖昧だ
「……! 先生、アドマイヤベガさんの意識が快復しました!」
私の名前を呼ぶ女の人。え、意識が快復? どういうこと?
もしかしてここ、病院?
「あのウマ娘二人を止めろ! 意識が快復したと知った瞬間、物凄い勢いで病室に向かってくる!」
「まだ絶対安静なんだぞ! 面会謝絶だ!!」
男の人の怒鳴るような呆れるような、そんな声が耳に入る。もしかしなくても、そのウマ娘はとやらは……
「はぁ……まったく、いつまでも人騒がせなんだから」
夢の内容はほとんど忘れてしまった。だけど、一つだけ覚えていることがある
「私はアドマイヤベガ。一際輝かなければいけない、一等星のウマ娘」
そう呟くと、どこかで誰かの、しかし愛しい笑い声がした気がした - 17二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 01:28:54
終わりです
アドマイヤベガは胃破裂によってこの世を去ってしまいました。ならば、ウマ娘として転生したのならば、望まない運命くらいはひっくり返してやりたい、そんな思いで書きました
一日に2本書くのは大変でした - 18二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 01:30:09
良かった、アヤベさん…。ドキドキしました、ありがとうございます。
- 19二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 01:30:09
史実を打ち抜く展開良い...しゅき♡
- 20二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 01:30:34
- 21二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 01:31:05
うんうん、いい作品だった
だがあえて言わせてほしい…
トプロおおおお!!!
お前なんでウマ娘化してねえんじゃああああああ!!!!!! - 22スレ主21/09/28(火) 01:31:50
私はナリタトップロードのウマ娘実装を全力で応援します
- 23二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 01:34:41
史実なんよ……
- 24二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 01:35:21
ハピエンで良かった
- 25スレ主21/09/28(火) 01:37:15
あ、ちなみにさっきまで書いてたやつです
繋がりはないですが、諸々の経験を経て今回の話に繋がるんだろうな、という脳内設定
【SS】お昼ごはん、作るか|あにまん掲示板久々の連休。いつもはトレセン学園のカフェテリアでご飯を食べてるけど、今日は連休が重なったのと、生徒の帰省が多かった為かお休みだ。私の調査不足が原因とはいえ、既に空腹はピークだ。ウマ娘の体質上、私の食欲…bbs.animanch.com - 26二次元好きの匿名さん21/09/28(火) 01:38:22
運命はぶち壊してナンボやね 乙です