- 1二次元好きの匿名さん21/10/01(金) 20:34:45
注意事項
このSSはウマ娘の世界観の独自解釈が含まれています。
タイトルの通りナリタトップロードが主人公で、心情描写されます。
史実ネタです。
2000年有馬記念の包囲網にナリタトップロードが参加している描写がありますが、競走馬であるナリタトップロード号が望んで包囲網に参加したということを描写しているわけでは全くもってありません。
ナリタトップロードが同世代のウマ娘を敵視する描写がありますが、上記に同じ、競走馬であるナリタトップロード号が他馬に対し敵意を向けていたということを描写しているわけでは全くもってありません。ただ、どうしても名前を持つウマ娘が他のウマ娘に対し悪感情を持つ描写となっております。
この物語は二次創作です。このSSで登場するナリタトップロードは、競走馬であるナリタトップロード号、今後ウマ娘化された際に登場するナリタトップロード、他のSSや二次創作に登場するナリタトップロードとは全く別の存在です。これはあくまでスレ主の妄想の中の物語であることをご留意頂けると幸いです。
上記のことを確認し、それでも構わない方はお読み頂けると嬉しいです。 - 2スタート21/10/01(金) 20:35:01
『第47回有馬記念体勢完了!ゲート開いた!今スタートしました!綺麗なスタート十四人切っています!さて…』
今日、この有馬記念に私は投票数第一位で出走した。喜ばしいことだ。皆が私の走りを認めてくれたということ……になるのだろうか。そこまで考えて、心にちょっとした違和感を抱く。有馬記念に出走する為の票は言ってしまえば人気投票だ。そんな投票に、今新人気鋭のウマ娘が多数登場する中で、一番になれた。そして、そのずっと前からも、私は何故だか沢山の人に愛されていた。多分それは、オペラオーすら凌ぐほどに。何故、皆私のことを好いてくれたのだろう。GI勝利は今のところ一回。苦手なものも多くて、回避することだってあった。でも、負け続ける私のことを、皆応援してくれた。とても有難いし嬉しい。だからこそ分からない。
みんなはどうだったっけ。強くて輝いていたみんな。
私はみんなのことを思い出していた。 - 3アドマイヤベガとの思い出21/10/01(金) 20:35:35
「アドマイヤベガ。リハビリは順調?あっ、アドベさんって言った方が良かったかな
?」
「ちょっとやめて。」
「あははっ、冗談だよ。」
アドマイヤベガは菊花賞の後足を痛めて暫く休養していた。一時期は結構危うかったそうだけど、今は回復傾向にあるという。
「そっちこそ体の調子はどうなの?今度、有馬記念に出るんでしょ?」
「悪くないよ!菊花賞の後少し疲れ抜けなかったんだけどトレーナーさんが良い感じに取ってくれたんだ、流石トレーナーさん!」
「なら貴方は大丈夫そうね。」
「貴方はって……あぁ、オペラオーのことか。」
「はぁ、何でオペラオーは今からあんなにレースに出てるのよ。」
「どうにも、菊花賞の作戦指示はオペラオーのトレーナーさんによるものだったみたいで、それを知った彼女のお父さんが大目玉!オペラオーはトレーナーさんの正しさを証明しようと躍起になってるらしいよ。」
「へぇ、オペラオーも躍起になったりするの。」
「って設定の物語を考えてるんだって言われた。」
「何それ。……でも、本当に全部"設定"なの?」
「え?」 - 4アドマイヤベガとの思い出21/10/01(金) 20:36:03
「実は此間オペラオーが来て、いつも通り帰らせようとしたんだけど、突然フッと静かになって。だからちょっとだけ心配になって『何?』って聞いたら『来年、ボクが一度でも負けたら、ボクはトレーナー君と離れ離れになってしまうかもしれないんだ。どうにかそれは避けたい。』って。」
「……でもそれも、即興なんじゃない?」
「あの時は、いつもの歌劇というより、その合間の人生のようだった。だから私は本当のことだと思う。その後すぐにいつもの歌劇に戻ったから帰らせたけど。」
少し、驚いた。彼女はいつも戯けていて、彼女自身が楽しそうだから構わないのだけど、でも、私勝手に全てをただの舞台装置だと思ってるんじゃないかって解釈してた。だから、トレーナーが変わっても悲劇だと盛り立てるだけで変わること自体は特に何とも思ってないんじゃないかって。よくよく考えたら、そんな訳がない。トレーナーはウマ娘のパートナー、人生に大きく関わってくる。だからこそ、自分で望んだトレーナーと離れたくなんかないに決まってる。
「何だか悪いことしたな。」
「?」
「あぁ、ごめん独り言。」
でも、だからってあんなにレースに出まくるような無茶は駄目だ。あんな事を繰り返しているとオーバーワークで倒れてしまいそうだ。今度の有馬記念、オペラオーも出るみたいだし、彼女に先着して諭してあげないと。
「ねぇ、そろそろ私、リハビリ始めるから。」
「あ、ごめんごめん!もう退散す……ちょっと待って!最後に一ついい?」
危ない、忘れるところだった。今日はアドマイヤベガに聞きたいことがあってここに来たんだった。
「リハビリ終わったら、またレースに出てくれるよね?」
「?当たり前でしょ、そうじゃなかったらリハビリなんてしないし。それに、確かにダービーは取れたけど、あの子に贈るにはまだ足りないから。」
「そっか!良かった!じゃ、私行くね!また三人で走ろう!」
「……うん。」
ああ、良かった!これでまた三人で走れる、これでまた三強で戦える!楽しみだなぁ! - 5直線21/10/01(金) 20:36:36
『一周目、スタンド前、坂を上がってくるところで…』
この時はまだ、私は二人と対等のライバルだと思ってた。いや、本当にライバルだったんだと思う。二人のスピードやスタミナに羨むことはあっても妬むことはなかった。結局その時の有馬記念は先着されたけど、彼女のスタミナに敬意を評していたし、その後クラシック級最優秀ウマ娘に選ばれていた時も素直に祝福していた。この時はまだ、私は親に大切に育てられて、素直に成長したウマ娘だったのに。
次の年走っても走ってもオペラオーに勝てなくて、オペラオーの背中を越せなくて、ドトウが現れて、私は対抗ウマ娘ですらなくなって。抱いたことのない黒い感情が止めどなく溢れて、悔しくて恨めしくて妬ましくて憎くて。
今でも思い出すのは、あんな事をしてしまった後悔と、その前にドトウと話した記憶。 - 6メイショウドトウとの思い出21/10/01(金) 20:37:19
また勝てなかった。京都大賞典も、天皇賞秋も。テイエムオペラオーは去年の勝ちきれなさは何処へやら、全戦全勝の記録を伸ばしている。その一方、今度は私が勝ちきれなくなっていて、23325と見事に微妙な成績だ。どうにかしてこの一年、少しでもいいから勝利を得たいのに。何だか菊花賞でオペラオーに勝ったのが嘘みたいだ。……本当は、オペラオーはずっと手を抜いていたんじゃないだろうか。そんな考えが頭を過る。本当は、最初からオペラオーにとって私は取るに足りない存在で、ただ演出の為に勝たせてもらっただけなんじゃないかって。有り得ない、そんな訳ない、そんなこと考えたくない。だってもし本当にこの憶測が本当だったら、あの菊花賞は。
「トップロードさん?」
「!?」
「あ、ごめんなさいごめんなさい急に声をかけちゃってごめんなさいぃ!」
「……メイショウドトウ、さん。」
「は、はい!」
何でこんな事を考えている時に限ってオペラオーに深く関係する子に会うんだろう。
メイショウドトウ。今年の宝塚記念で現れたウマ娘。周りの人間はその時の成績からただのGII大将と評価していた。私はその宝塚をTVで覗いていた。……悔しいけど良い走りをしていた。その時は私も負けられないななんて思っていたのに。 - 7メイショウドトウとの思い出21/10/01(金) 20:37:46
「……そういえば、こうやって話すの、初めてじゃない?」
「あ、そうですね!」
実は最近オペラオーを見ると体が震えるようになった。何故だかは知らない。でも近づこうとするだけで心臓がバクバク騒いで過呼吸になる。だから近づけなかった。そして、よくオペラオーの近くにいるドトウと話せる機会も無かった。
「トップロードさん、大丈夫ですか?」
「え?」
「えっと、最近ひどくお疲れのようですし、心配です。」
「そうなの?ありがと。……あはは、でもよく私のこと知ってたね。私、今までメイショウドトウさんに勝てた事ないのに。」
「えぇ!?知ってるに決まってるじゃないですか!クラシックでは、オペラオーさんとアヤベさんとトップロードさんの三人で三強だったんですし!」
ああ、確かにそういう風に言われていたこともあった。でも今は……。
「私、勿論オペラオーさんも憧れなんですけど、お二人にも憧れているんです。」
「え?」
どうして。いや、確かにアヤベさんは多くのウマ娘の憧れであるダービーを勝ち取っているし憧れる気持ちは分かる。でも何で私も?
「私、オペラオーさんのライバルになりたいんです。ライバルになるには、オペラオーさんに勝つ必要があると私は思うんです。」
「あ……。」
そうだ、確かにドトウはオペラオーのそばまで迫っているが、まだ勝利したことはない。その一方で、私やアヤベさんは確実にオペラオーに対して勝利を挙げている。だって、三冠レースは三人とも皆勤して、そして一冠ずつ分け合ったのだから。でも、それは。
「オペラオーさんはアヤベさんや、トップロードさんと切磋琢磨してここまで強くなった。私も、オペラオーさんにとって貴方たちと同じような立場に立てるくらい強くなって、そしてオペラオーさんに勝ちたいんです!」
切磋琢磨。本当に?私はオペラオーと互いに高め合えていたの?
「ねぇ、ドトウ、さん。」
「?」
「オペラオーは、クラシックの時、本気で走っていたと思う?」 - 8メイショウドトウとの思い出21/10/01(金) 20:38:14
何を聞いているんだ、私は。そんなこと聞いてどうするんだ。彼女はオペラオーのフォロワー、肯定することしかできないだろうに。それどころかこんな質問をされたら傷ついてしまうだろう。こんな、誰も幸せになれない質問なんてするべきじゃない。
「あ、ごめん、今の……。」
「きっと、いえ、絶対本気でしたよ。」
ドトウは断言し、私の目を見つめる。いつも狼狽えているような瞳をしているのに、こういう時に限って真っ直ぐだ。
「オペラオーさんは、どのレースも勝つ為に走っています。相手を侮る為に手を抜いたりはしないです。そんな、美しくないことはしません。」
「……。」
「オペラオーさんは美しさを探求する方でしょう?きっと、私なんかよりトップロードさんの方がよく知ってると思います。」
……ああ、忘れてたなぁ。そうだ、彼女は自身を一番美しいと思っている、そして、その美しさを自ら愚弄する真似なんてする訳が無いんだ。
「オペラオーさんは、美しく勝とうとしていました。勿論、菊花賞のときも。そんな、オペラオーさんに、トップロードさんは勝ったんです!勝てたんですよ!とっても凄いことなんです!」
「……うん、分かった。私馬鹿だったね。ありがとう、ドトウ。」
「!……はいぃ!お役に立てて光栄ですぅ!」
ドトウが嬉しそうにニコニコと笑った。私にとって、私よりドトウの方がよっぽどオペラオーのライバルをしてると思うが、それでも、オペラオーに勝ったことのある私だって、また勝てるはずなんだ。ライバルのはずなんだ。ライバルのはず、なんだと、良いなぁ。 - 9カーブ前21/10/01(金) 20:38:54
あの時は確かにドトウの言葉に救われていた。でも、あれからまた経った後、顔だけ知っていたトレーナーに話しかけられた。オペラオーに勝ちたくないかって。その時は、ステイヤーズステークスで、オペラオーとは別のウマ娘に負けてまた心が荒んでて、どうにかして今年中に一勝は手にしたかった。ドトウと話したことも忘れて、馬鹿な私はその悪魔の契約に乗ってしまった。
そんな契約を結んで、良いことなんてある訳がなかった。オペラオーは人と人との隙間を突いて、あっという間に私達に背中を見せた。遥か前で契約とは関係のなかったドトウと最終決戦を繰り広げて、左には契約に参加してなかった緑のウマ娘が鋭い末脚を出していた。私はただ馬群に沈んでいった。結果、オペラオーは前代未聞、史上初のシニア級中長距離GI完全制覇を果たして、ドトウもオペラオーと対戦したGIで全て2着というこれまた史上初の記録。私は去年の有馬記念より順位を落としただけだった。
終わってからドトウと話した内容が何度も何度も脳内で再生するようになり、それが私を責め立てた。笑える。この一年、オペラオーへ抱いていた恨み節は、全てただの醜い私の嫉妬だった。私は彼女たちのライバルである資格すら自ら捨てたのだ。
『ナリタトップロード、淡々と三番手を進みます。一馬身差、内を突いて…』
もう、レースに集中しないといけないのに。私の苦手な重めの馬場と、この有馬記念という舞台が私を記憶の世界へ誘う。
私にとって最悪な一年が終わってから、オペラオーは調子を落とした。初戦の重賞を落として連勝記録は止まって、天皇賞春は獲ったけど、宝塚記念はドトウの執念が勝利して、GI連勝記録も止まった。本人は特に気にする様子もなく、勝者を讃えた後、いつものように「悲劇のボクも美しいだろう?」と言うばかり。
だからこそ、あの日オペラオーが見せた思いがずっと脳にこびりついている。 - 10テイエムオペラオーとの思い出21/10/01(金) 20:39:31
目が覚めると、そこはレース場の医務室だった。どうやら私は気絶していたらしい。覚えているのは、よくGIで走っている黒髪のウマ娘がタックルしてきて、多分オペラオーに向けて放ったんだろうけど、なんか私に当たったこと。私は倒れて競走中止、気を失う前にオペラオーが酷く心配した様子で私を見ていたこと。
「やぁ、目覚めたようだね。」
「……オペラオー。」
すぐ近くに彼女がいる。今さら気づいたけど、最近はオペラオーの近くにいても体が緊張する様子はない。いや、まだ少し汗は普段より流れるし、心臓も早いけど、前と比べれば随分と軽い。
「心配したよ、体は大丈夫かい?どこか痛む所はあるかな?」
「……体は、転んだ擦り傷とぶつけられた時の軽い打撲くらい。だから大丈夫だよ。」
「なら良かった。いや、良くはないな。事故なら仕方ないが今回は人災だ。キンイロくんはしっかり叱られてもらわねば。」
そう言うオペラオーの顔はいつもより演技がかってないように見える。これがいつかアヤベさんの言っていた演技の合間の人生の部分なのだろうか。
「……怒ってる?」
「はは、そうかもしれないね。覇王たるもの、いつもどっしりとした面持ちで構えるべきなのだろうけど、今回は、ボクではないウマ娘が巻き込まれている。それもロード君がね。流石のボクも少し憤っているよ。」
「へぇ……。」
「彼女のトレーナー君が画策したのか、それとも彼女の独断かは判断しかねるが、二度と起きないようにしてもらわないとね。」
そう言っている彼女の顔も、一応笑ってはいるのだが、いつもの笑みよりほんの少し不恰好だ。本当に少し、怒ってくれているのかもしれない。 - 11テイエムオペラオーとの思い出21/10/01(金) 20:39:57
「……優しいね、オペラオーは。私のことも気にかけてくれるんだ。」
「?当たり前じゃないか。君はボクの大事なライバルなんだから。」
「え。」
驚いた。今になってまだ、私のことをライバルと言ってくれるのか。私はあんなことを……あ、そうか。きっと私も包囲網に参加してたことに気づいてなかったんだ。確か、私が最終直線でよろけた所をオペラオーは突いて先頭へ躍り出た。だから、私は参加してないって思われたんだ。
「……違うよ。」
「?」
「もう私はライバルなんかじゃない。その資格がない。だって私、去年の有馬記念の包囲網に参加してたから。」
そこまで言って、涙が出てきた。本当はもっと早く言うべきだったのに言えなかったのは、何だかんだ誇らしかったのだ。自分がオペラオーのライバルだったこと。でももうそれも終わり。オペラオーは私と縁を切るだろう。私は手切れの言葉を待っていた。
「知っているさ!」
「え。」
「いやぁ、あれは素晴らしかった!ボクの快進撃を食い止める為集った精鋭達!彼女らによるボクへの徹底マーク!そして最後に勝利する最も強く美しいボク!良い公演が出来たと感じているよ。」
オペラオーの顔は、いつもの笑顔。いや、さっきまでの顔つきと比べると、目が光り輝いている。
「ボクはどんなことでも受けて立つさ!正攻法だろうが搦め手だろうがね!それで君が速く強くなれるなら遠慮なくするといい!あ、でも故意による暴力は止めておくれ。君なら大丈夫だろうけどね。」
……勝てない。心底、そう思わされた。この憎悪を受け入れないでくれ。そんなものを向けられたら傷つくと言ってくれ。そんな、神様みたいなこと言わないで。
「……大丈夫じゃ、ないんじゃない?私、暴力に手を出してもおかしくないよ。」
震えた声で絞り出す。最後の惨めな負け惜しみだった。 - 12テイエムオペラオーとの思い出21/10/01(金) 20:40:20
「ハーッハッハ!そんな訳ないさ!あの一年、君がボクを敵視していても、ただの一度もボクに当たったりはしなかったのがその証拠だろう?」
「!」
嘘、気づいていたの?これでも表ではいい子を演じていた。それに多少粗があってもオペラオーは持ち前のプラス思考で良いように解釈してると思ってた。でも、バレていたなら、何で離れなかったんだ。
「どうして気づかれたんだ、と言った面持ちだね。分かるさ。きっと君は不安だったのだろう?ボクを敵視しながらも、美しいボクと離れたくはないと悩んでいたのだろう?」
それは自意識過剰だと言い捨てることは簡単だったが、今回に限ってこの予測は完全な的外れではないのが悔しい。
「大丈夫だとも!ボクは敵視されたくらいで君の元を離れたりはしない。寧ろ君はボクにとって重要なウマ娘だからね!」
「え?」
重要?私が?私は彼女の演劇にあまり誘われたことがないし(まぁ去年の暮れから今年にかけては、オペラオーを見るだけで体を崩してた。だからオペラオーのことを避けまくっていたため、誘われようが無かったのだが。)、彼女が公演と表現しているレースだって彼女の勝ち負けに関われていたのはかなり前の話だ。
「ハハ、君にとってボクはライ……ああ、君の言葉を信じるなら、ボクはライバルではなく完全なるヴィランなのかな?まぁそこは君に任せよう。」
「……。」
「そしてボクにとっても君はボクへ敵対感情を持ってくれるライバルでありヴィランさ!二つの感情を持って戦ってくれるのは君だけなんだよ。ともかく、ボクらは互いにレースで不可欠な関係にあるということさ!」
「!」
……そうか、彼女は私のこの思いを神様みたいに受け取った訳じゃない。ライバルとして、敵役として、受け取ってくれてたのか。……なら。
「……確か、今年の有馬記念に出走した後、ドリームトロフィーの方に行くんだっけ。」
「ああ、そうだね。」
「今の私は君のライバルなんて見に余る。私にとっても、君にとっても、ライバルになれてない。」
「ふむ。」
「……だから、私、もう一年ここで頑張る。オペラオーのライバルになれるように実力をつける。一年後の有馬記念で、君のライバルになれたか、見ててほしい。」
「それは素晴らしいね、ロード君!分かった、ボクも君をライバルと呼ばないようにしよう。一年後を楽しみに待っているよ。」
「うん、……待ってて。」 - 13ゴールまで後……21/10/01(金) 20:40:59
『第三コーナーのカーブ!さぁこの辺りで抜け出したのは…』
あの時の有馬記念、オペラオーのトゥインクルシリーズでの引退レース。彼女は生涯最低の5着だった。それでも、最後まで入着したオペラオーの背中を見て、私は『凄いな、よくここまで頑張ったなぁ。』と思った。クラシック期以来出来なかった素直な賞賛だった。
あれから今日まで何度も何度も思い出してきた。アドマイヤベガと話した記憶、メイショウドトウに励まされた記憶、テイエムオペラオーと約束した記憶。そして、もう一つ。いつかのレースの帰り道、偶然聞いてしまったこと。テイエムオペラオーは運が良かったからあの記録が達成できた、世代が弱かったから達成できたという声。電車の中の知らない人が話していた記憶。
……悔しかった。オペラオーに勝てないことが悔しかった。何度も何度もその背中を追った。私は卑怯な手も使ってしまった。その道程は決して褒められたものだけじゃない。でも、それでも、頑張ってきたんだ。勿論私だけじゃない。アドマイヤベガもメイショウドトウも、そしてテイエムオペラオーだって沢山練習した。走ってきた。戦ってきた。その過程を、その結果を、あんな言葉で否定されたくはなかった!
オペラオーは強かった!ドトウだって、アドベだって!そして……私だって!
証明するんだ、私たちは決して弱くなかった。何度も負け続けた私の足で!
『ナリタトップロード早めに仕掛けた!』
「ぁぁあああああっ!」
足を仕掛ける。先行だったからか、それとも馬場のせいか、とにかく足が重い。逃げ出した子の前が遠い。後ろにはJCでオペラオーを負かしたあの子がいる。隣の黒髪のウマ娘が、物凄い末脚で軽々と私を抜かす。毎年有馬では先行して、抜かされて、どんどん沈んでいった。でも、でも、今だけ踏ん張れ私!約束したこと、証明したいこと、全部、全部出すんだ!
「はぁぁぁあああああっ!!」
ゴールまで!!
『捉えてかわしてゴールイン!』 - 14有馬記念の後21/10/01(金) 20:42:31
……結局、私は四着だった。こういう時、勝てないのが私だなぁ。
「ははは……。」
情けなくなってうっかり漏れ出た乾いた笑いは、
「トップロードぉ!!!!」
「!?」
「凄かったね!」
「よく頑張った!」
「有馬記念初の掲示板入りだぁ!」
「走ってくれてありがとう!」
観客の歓声に掻き消えた。
あ、そういえば、確かにそうだ。今まで有馬記念は掲示板にすら入れなかったけど、入ってる。四着、去年のオペラオーより高い着順。 - 15有馬記念の後21/10/01(金) 20:42:41
「ハーッハッハッハ!」
「!」
観客の歓声に混じる高笑い。あぁ、聞き間違えるはずがない。この笑い声は。
「ここまで、見に来てくれたんだ。」
オペラオーだ。彼女は観客席からこっちに来た。ファンの人も気を利かせて彼女への道を作ってくれている。
「当たり前じゃないか!君が来てくれと言っただろう。」
「あー、確かに見ててとは言ったけど、わざわざ来てくれるとは思わなくてさ。」
「それにドトウもアヤベさんもいる!」
「え!?」
「凄かったですぅ!四着おめでとうございます!」
「うん、凄かった。おめでとう、トップロード。」
そう言って二人もこちらに寄ってくる。まさか二人も見に来てくれるとは。
「あはは、ありがとう。これで何とか私もドリームトロフィーに出られるかな。」
「出れますよぉ!私も去年四着でしたけど出れましたし!」
「私も何とか出れたし、トップロードも出れると思う。」
それは純粋に嬉しい。少しは私とみんなの実力を証明できた気になれる。それに久しぶりにアドマイヤベガと走れるかもしれないし……。でも、その前に。
「ねぇ、オペラオー。」
彼女に聞かないと。
「私を、またライバルだって、認めてくれる?」
「ハーッハッハッハ!当然だとも!」
「!」
「君はボクの大事なライバルさ。ロード君。」
「……そっか!」
レース後二回目の笑顔は、何故だか目が熱かった。
終わり - 16二次元好きの匿名さん21/10/01(金) 20:43:57
いいじゃない…
- 17121/10/01(金) 20:49:37
- 18二次元好きの匿名さん21/10/01(金) 20:50:58
- 19二次元好きの匿名さん21/10/01(金) 20:51:27
稀に見る良質なSS感謝します
- 20121/10/01(金) 20:53:38
- 21二次元好きの匿名さん21/10/01(金) 20:53:45
最高です!ありがとうございます!
- 22二次元好きの匿名さん21/10/01(金) 20:57:32
この世代好きなので供給ありがたやありがたや…
しかもキングヘイローにもさらっと言及されている…
世代交代に抗ったトップロードが次代の王シンボリクリスエスに完敗するも有馬初の入着するのが美しい - 23121/10/01(金) 20:59:59
- 24121/10/01(金) 21:02:04
- 25二次元好きの匿名さん21/10/01(金) 21:47:09
滅茶苦茶良かった、読んでて目頭が熱くなった
阪神大賞典を省いたのは有マを焦点にしてたからかな?いやでもドリームトロフィー行くこと考えたら世代交代云々は野暮か - 26二次元好きの匿名さん21/10/01(金) 22:02:46
感想本当にありがとう
そうですね、有馬記念をメインに据えてたので寄り道しすぎたくなかったのとこのウマ娘世界の中ではみんな力を付けてドリームトロフィーに行くんじゃいの精神でこんな形にしました
何だそれは関係ないするトプロちゃん大好き
- 27二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 00:58:08
- 28二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 03:29:48
なんていうか、綺麗なものだけではなくてもそれはそれでいいよねって……
読んでてちょっととある曲を思い出しました - 29二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 07:29:38
- 30二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 07:34:45
- 31二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 08:06:00
白状します。寝取られ物だと思って開きました
良いSSでした - 32二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 12:47:00