- 1二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 21:35:11
「あぁ姫よ…ならぬ、ならぬのだ!
…ごめん。次のセリフなんだっけ?」
「『私とお前は血を分けた兄妹!』
ですよ。」
「私とお前は血を分けた兄妹!
愛する事など、あってはならぬのだ!」
「あぁ!王子!
私のこの想いは、血の隔たりすら
オーディンの駆るスレイプニルのように
飛び越えてしまいます!
どうか!私の愛を受け止めて下さい!」
「……えー、と…」
「『ならぬ!やはりならぬのだ!』」
「ならぬ!やはりならぬのだ!
…ごめんやっぱり台本見ながらでいい?」
「ウフフ♪どうぞ~♪」
薫風吹き始める4月の末頃。
トレセン学園はファン感謝祭を迎える。
毎年様々な催しがなされるが
今年の最大の目玉は
オペラオーが主演を務める
ミュージカル形式の劇だった。
『セリフ…声に出して言うのは
結構恥ずかしいな…』
グラスの提案で、トレーナーは
その劇の練習相手を務めていた。
ついさっき台本無しで相手をすると
大見得を切ったものの
相手役の王子の台詞が読みづらいのも
あってか、うまく演じる事が出来ない。 - 2二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 21:35:47
『これを完璧に演じるんだから
俳優とかは凄いよなぁ…』
改めて演者の苦労を考えながら
トレーナーは台本を読み返した。
「それにしても…大抜擢じゃないか。
ヒロイン役だなんて。」
「フフ♪
演技の審査を頑張りましたからね~♪」
「オペラオーが言ってたよー。
鬼気迫る演技を見せてくれたって。
その時の演技も見たかったなぁ…」
「お褒め頂きありがとうございます~♪」
グラスの役は、
敵国の王子に恋する姫君。
ヒロインという重大な役と
いうだけあって、台詞の量も多いが
グラスはそんな事を苦労と思わず
演じているように見えた。
「…楽しそうに演じるよね。グラスって。」
「だってお姫様の役ですよ?
女の子なら誰だって楽しく演じる
ものですよ♪」
「…それもそうか。
だけど、それにしたって
なんだかイキイキしてるように
見えるけどなぁ。」
「来週には本番ですからね~
気持ちが入るというものです♪」
「…まあ、そりゃそうだよね。
…よし!そろそろ始めるか!」 - 3二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 21:36:16
「……」
『……あなたが相手だからというのも
あるのですけど、ね…』
「…?
どうしたの?」
「いえ~何も♪では再開しましょう♪」
「了解。
じゃさっきの所の続きからしよっか。」
「はい♪」
完 - 4二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 21:47:49
続けたまえ
恋が「成就」するシーンまで練習したまえ - 5二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 23:10:36
続きです。
それから暫くは台詞合わせの練習に
打ち込んだ。
グラスは台本を相当に読み込んでいる。
読んでいるこちらの台詞さえ完全に
把握している程だ。
「…そろそろ休憩入れない?
詰めすぎても演技がぎこちなくなる
と思うしさ。」
「ええ…そうしましょう。
トレーナーさんも大変そうですしね?」
「…ばれてたか~」
「フフ♪何時間も付き合って頂き
ありがとうございます♪」
「それはどうも。
俺が直接出る訳でもないけど
君にはいい演技をして欲しいからねー。
…ところでさ。」
「なんでしょうか?」
「なんでお姫様役をやろうと思ったの?
こう言ったら失礼かも知れないけど
グラスが自分からお姫様の役を
やろうとするなんて珍しいなって
思ってさ。」 - 6二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 23:11:26
グラスの顔が少しうつむいた。
「……少し恥ずかしいのですが…
…私と、その、お姫様が似ているような
気がして…立候補したんです。」
「……確かに似ているかもね。
自分の気持ちに素直に向き合って
行動に移す所なんかは
特にそうだと思うなぁ。」
「……そこ以上に思ったのは…
…届かないモノを欲している所です。」
「…届かない物?」
「はい。
どれだけ近くで欲しい素振りをしても
手に入る事は決してないモノを…
彼女は欲しているように見えました。」
「…そう…か…といってもさ。」
トレーナーはパラパラと台本をめくり
最後のシーンを指差す。
王子が姫君の手を取る挿し絵の描かれた
ページには物語の結末が書かれていた。
「このお姫様は最後は王子様と
結ばれるんだろ?」
「…だからこそなんです。」
「…?」
「だからこそ
手に入らないと思っていた物を
手に入れる事こそ
このヒロインの役を務めたかったんです
私も、そのモノを手に入れられると
信じたくて…!」 - 7二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 23:11:46
「……そんなに欲しいなら
買ってあげようか?
財布が許してくれる範囲の物なら。」
「……残念ですけども
[トレーナーさん]が手に入れる事は
出来ないモノなのですよ♪
そのモノというのが。」
「…それは残念だなぁ…
劇の練習頑張ったご褒美で
プレゼントしようかと思ったのに…」
『……ひどい人。
こちらの気も知らないで…』
「…?どうしたの?」
「いえ~♪何でもありません♪
…次は動作もつけて練習しましょう?」
「…オーケー。分かったよ。」
「では始めましょう。
台本の2ページから…」
完 - 8二次元好きの匿名さん21/10/03(日) 00:33:39
うむ……素晴らしい…
- 9二次元好きの匿名さん21/10/03(日) 00:34:59
私性合
- 10二次元好きの匿名さん21/10/03(日) 00:35:13
トレーナー殿…セリフを忘れるタイミングがなんとも…
- 11二次元好きの匿名さん21/10/03(日) 10:39:09
続き。これで最後です。
劇の練習は動作をつけた
本格的な物になっていた。
時刻は17時。
かなりの時間を費やしたというのに
グラスの演技には冴えすら見える。
『相当頑張っていたんだな…』
レースのためのトレーニングも
こなしながらだというのに
グラスは一度も弱音を吐かなかった事を
トレーナーは覚えていた。
演技にも熱が入る。
場面はついにエンディングを迎えた。
「あぁ王子!
ついに私達は結ばれるのだわ!
私達の愛は、難行を越えたのだわ!!」
グラスの腰に手を回し、顔を近づける。
「あぁ、いつの日にかと夢に見ていた!
君と堂々と手を繋ぐ事を!
君との口付けを……待ってグラス。」
「…何ですか?」
「…流石にしないよね?この場では」
「何をですか?」 - 12二次元好きの匿名さん21/10/03(日) 10:39:46
グラスの手はしっかりと
背中を掴んでいる。
「………その…口付けを…」
「あら?
トレーナーさんがしたいのなら
どうぞご自由に♪」
いたずらっぽくグラスが目を伏せる。
綺麗な碧眼が挑発的に
こちらを見つめている。
一瞬、トレーナーの心が乱れる。
「……フリだけにしておくよ。」
「………グズ。」
「え?」
「何でもないですよ♪
……分かりました。では…」
グラスが後ろ頭に手を回し出した。
「グラス…?」
顔が近づいてくる。
目の奥の瞳がハッキリと見える程にまで。
理性がアラームを鳴らしていた。
このまま行くと教え子と…。 - 13二次元好きの匿名さん21/10/03(日) 10:40:33
「なんて、冗談です♪」
いつのまにかグラスは頭から手を離し
立っていた。
汗が額を伝うのを感じた。
トレーナーはホッと息をついた。
「…やめてくれよ。ビックリするから…」
「フフ♪ウブな反応だったので
からかってしまいました♪
ごめんなさい。」
「もう…変にドキドキさせないでよ…」
「ウフフ♪
演技をするのもここまでですし
そろそろ練習も終わりにしませんか?
もうそろそろご飯の時間ですもの~♪」
「…ハハ。そうだね。
練習続いてお腹も減ってきたしなぁ。」
「腹が減っては戦は出来ぬと言いますし
たくさん食べて明日のトレーニングに
備えましょう♪
…演技の方はどうでしたか?」
「かなりいいと思うなぁ。
このままでも十分出来そうだよ。」
「フフ♪ありがとうございます。」
各自で片付けに入る。
グラスにも言った通り、既に
腹と背中がくっついてしまいそうな程
お腹が減っていた。 - 14二次元好きの匿名さん21/10/03(日) 10:41:14
「…トレーナーさん。」
「…何?」
「…私とキスするのは嫌ですか?」
「…?…その、嫌いとかじゃなくて…」
「…なら、私がオペラオーさんと
キスするのはどうですか?」
「嫌も何も、君は演技として
キスするんだろ?
嫌とかそういう事じゃなくて…
仕方ない事だろ?」
「…そうですか…
…その…嫌では無いのですね?」
「…………まあ……はい…」
「…分かりました。
ありがとうございます。」
「あ、あぁ、どうもありがとう。」
なんだったのだろう。
トレーナーは台本をバッグに
しまいながら少し考えた。
演技の面が物足りなかったのだろうか?
彼女の本気に応えてあげるべき
だったのかも知れない。
グラスが椅子を片付けた後
二人揃ってトレーナー室から出る
扉に向かって歩き出す。
夕日が照らした扉は二人の身長差を
影として写しだしている。 - 15二次元好きの匿名さん21/10/03(日) 10:41:38
『…なんで俺モヤモヤしているんだろ…』
グラスを異性として見た時が
無いといえば嘘になるだろう。
サラサラの栗毛と澄んだ青い目。
ウマ娘だけあって、整った顔をしている。
教え子という事実がなければ
あのとき間違いを起こしていた
かも知れない。
そんな事を考えて
ドアノブを触ろうとした時だった。
「……トレーナーさん。」
「…?なに…?」
………………ぷはっ。
「………………え?」
「…今のは演技ですからね?
トレーナーさん…♪」
「へ…………は…え…」
「それではありがとうございました~♪」
背伸びした唇は、柔らかかった。
グラスはそそくさと外に出る。
いきなりの不意討ちで
トレーナーの顔は真っ赤になっていた。
『…トレーナーさんを
手に入れるにはまだですかね~♪。
……また、[演技]をする事に
なるのでしょうか?』
完 - 16二次元好きの匿名さん21/10/03(日) 10:42:47
- 17二次元好きの匿名さん21/10/03(日) 11:18:39
うおおお!リードするグラスちゃん大好きなんだ…ありがとう
- 18二次元好きの匿名さん21/10/03(日) 11:26:41
共に腹を切らしてくれ
- 19二次元好きの匿名さん21/10/03(日) 11:35:18
いいぞ!グラス!もっと攻めろ!!!
- 20二次元好きの匿名さん21/10/03(日) 13:15:33
コイツエロデース!
- 21二次元好きの匿名さん21/10/03(日) 14:53:22
エル…
- 22二次元好きの匿名さん21/10/03(日) 20:29:09
めっちゃいい…こういうグラス好き
- 23二次元好きの匿名さん21/10/03(日) 20:32:29
拙者もお供致します
- 24二次元好きの匿名さん21/10/04(月) 08:31:03
- 25二次元好きの匿名さん21/10/04(月) 20:32:35
- 26二次元好きの匿名さん21/10/04(月) 20:38:23
羨ましいにきまってんだろ!!
- 27二次元好きの匿名さん21/10/05(火) 01:52:20
おつ
たのしかった