- 1二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 21:53:38
※モブトレーナー注意(トレ×ウマではない)
「2分48秒、2分43秒、2分41秒……駄目ね、このタイムは」
トレセン学園に設置されたトラックの芝コースを走り終え、ストップウオッチの示す記録を見る
「ペースを一定に保つのは難しいものね……」
一周2400メートルのトラックを一定のペースで保って走る。言うは易し、行うは難しとはよく言ったもので、体力が余るとどうしてもペースが早くなってしまう。しかし、最初のタイムと3周目で7秒もの誤差は流石に見逃す事はできない。7秒というタイムは、あまりにも大きすぎる
「……もっと、走らなきゃ」
足はまだ残っている。もう3週だ。練習で同じコースを走っているのにペースを保てないのに、本番でペースを保てるわけがない。せめて5秒……いや、2秒にまで縮めたい
「……ふっ!」
私はどちらかというと差しや追込と呼ばれる走り方を得意としている。故に、足を溜めながら走る技術を高めるべきなのは明らか
ペースを保てれば、より足を溜めやすくなる。けど、ペース配分を走りながら考えるのは難しい
風の噂では、ミホノブルボンと呼ばれるウマ娘は1秒単位でのラップ走法を行えるそうで、その精密な走りからサイボーグとも呼ばれているようだ。他のウマ娘が出来て私が出来ないなんてのは甘え。意地でもモノにしないと
「はぁ、はぁ……2分43秒、2分40秒、2分50秒……ッ」
不規則なタイムに焦りが出る。2周目は知らぬうちに掛かり気味になり、その疲労によって3周目のタイムが遅くなってしまったのだろう
もう少し、もっと走らないと。休む暇なんてない - 2二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 21:58:57
「そこの君!」
唐突に、声を掛けられた。振り返ると、そこに居たのは見知らぬ男の人だった
「……どちらさま、ですか?」
「通りすがりのトレーナーだ。少しだけ見ていたが……君、少し抱え込みすぎだ。部外者が口出しするものじゃないが、まだ走るつもりなら少し身体を休めてからにしなさい」
何も知らない部外者が偉そうに、と思ってしまった。しかしトレセン学園に所属するトレーナーは選りすぐりのエリート。そんな人間がつい口出しする程、今の私は危なっかしいのだろう。冷静になれ、ここは素直に言う事を聞こう
「……分かりました」
「本当は担当でもない娘にアドバイスするのはあまり良くないんだけど、怪我はもっと良くないからさ。整理運動も忘れずにね、俺はもう行くからな」
そう告げると、そのトレーナーの男性は立ち去る。ふと、電話を取り出すと、何やら慌ててる様子を見せている。何かトラブルでも起きたのだろうか? しかし深入りするのも野暮だろう
整理運動をこなし、近くのベンチに座って休憩をとろう……とした時、また別の誰かに声をかけられた
「おや、アヤベさん! 今日のトレーニングは終わりかい?」
声を掛けてきたのはテイエムオペラオー。最近しつこく絡んでくるウマ娘で、世紀末覇王を自称している。面倒臭い娘に絡まれちゃった……
「……関係ないでしょ。放っておいて」
「いやいや、今のキミはとても放っておいておけないさ。足は赤いし、震えている。休憩しているのも君の意志ではない、そんなところだろう?」
くっ……やりにくい。変な所で鋭いんだから - 3二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 22:06:39
「貴女には関係ないわ」
「今回に限っては大アリだとも!」
……どういうこと? 私の疲労がこの娘の得になるのかしら。レースで有利になるとか……? いや、この娘は良くも悪くも真っ直ぐだ。そんな小賢しい事を考えてはいなさそう
「特別サービスだ! さあアヤベさん、そこの覇王の安息所で横になるといい」
指さされた方向を見ると……見ると……え、なにあれ。薔薇の塊が見える
「はーっはっはっはっは! あまりの美しさに声も出ないかな? いいや無理もない。この覇王の安息所で休息をとれば、あらゆる疲労や病も恐れをなして逃げ出すだろうからね!」
よく見ると、病院などで見る診療台だ。それを薔薇で派手に彩ったものだった。趣味が悪すぎる……え、まさかアレに寝そべるの?
「……アレに寝そべるのだけは無理。今ここで寝たほうがマシ」
「遠慮する必要はない。さあ、その身を預けたまえ!」 - 4二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 22:15:07
あそこで横になるのだけは無理、恥ずかしすぎる。そう思って抵抗しようとしたが、足に力が入らない。あれよあれよと運ばれ、診療台に乗せられてしまう
「……誰も通らないことを願うわ」
ボソリと呟く。が、ここはトレセン学園のトラック。自主練しに来る娘が誰も居ないなんて確率は低いだろう。もう、どうにでもなれ
「アヤベさん、まずはうつ伏せになってもらうよ。ほら、そこに顔を置くといい」
……よく見ると、診療台に頭を乗せる部分があった。うつ伏せでも呼吸に苦労はしないよう、穴が空いている造りになっている
「今日のボクは世紀末覇王であり整体士覇王。 さぁ、その身を委ねるがいい!」
また何か変な影響を受けたのだろうか? いや、そんなのはどうでもいい。おそらく素人であろうこの娘に整体? しかもこの感じだと脚に?
「待って、本当に待って。すごく不安になってきたんだけど」
「ん? ああ、問題ないさ。ドトウはボクの整体が心地良いと言っていたからね。流石はボクだろう?」 - 5二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 22:28:32
ドトウは気を遣っただけなんじゃ、あるいは尊敬してるオペラオーにマッサージされたから勘違いしてるだけなのでは。そう思ったが、もう抵抗する気力もなくなってきた。動かない脚が憎い
「ひっ……!?」
「よっ……と。ふむ、問題無いとは思うが、痛かったら言っておくれよ」
オペラオーの手が太腿に当てられる。彼女の体温が低いのか、あるいは私の脚が熱をもっているのか、ひんやりとした感触で思わず悲鳴をあげてしまう
「ふむ……脚は熱を持ってるだけかな? しかし、抵抗できなくなるくらいに脚を酷使するのは頂けないね。ボクのライバルが自滅によって退場するなど絶対にあってはならないのだから」
芝居がかった口調でたしなめられる。くっ、トレーナーどころか同じウマ娘にまで……しかもオペラオーに指摘されるなんてかなりの屈辱だ
「今のキミは……ここが最も疲労しているはずだ」
「ひゃっ!? ちょ……まって……!」
脹脛を強めに突かれる。くすぐったさと僅かな痛み、それ以上に心地良さが広がる。この娘、まさか本当にマッサージが上手いのかしら……?
しかしくすぐったい。思わず笑ってしまいそう
「ふっ……ふっ……!」
しまった、いつになく真剣な状態になってしまっている。そういえば、この娘はお芝居に生きていても、一つの物事をふざけて行う性格ではなかった。まずい。何がまずいかって、どんどん心地良さが染み渡ってきていることだ。脹脛しか揉まれていないのにこれはまずい
「す、すとっぷ……ちょ、駄目ぇ……」
意識がかすれていく。癪たけど、この娘のマッサージの技術は本物だ。ドトウが称賛したのはお世辞じゃなかったのだろう、そう思いながら意識を手放した - 6二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 22:39:05
覚醒したときには、汗だくのオペラオーが満足げにこちらを見下ろしている姿が目に移る。いつのまにやら仰向けになっていた
「目が覚めたようだね、アヤベさん。キミ、脚はもちろん肩の凝りも凄まじかったよ。まるで覇王の進行を防ぐ強固な要塞、流石のボクでも苦労したよ」
……肩まで揉まれてたのか。まるで意識がなかった。それだけ上手かったのだろうけど、なんか、屈辱だ
「軽く肩を回してみてくれ。その時、ボクの素晴らしさが全身に染み渡るはずさ!」
そう言われ、軽く肩を回す。ん、なんだろう……すごい、軽い
「その様子だと、どうやら凝りは完全に消え去ったようだね。流石ボク、整体士としても最高の実力……まさにゴッドハンド! 神の腕そのもの!」
実力を認めるのは本当に、本当に悔しいけど、そのおかげで身体が全体的に楽になってるのは事実。最近肩凝りが酷かったから、有り難くも思っている
恥ずかしすぎる診療台から降り、オペラオーに向き合う
「……その、ありがとう。凄く楽になった」
「これくらいは整体士覇王として当然の事さ、はーっはっはっはっは! さあこの腕をまた他の者達にも披露するとしよう!」
満足気に高笑いすると、診療台を押しながら去っていく。まさか整体士覇王とやらを名乗るために態々診療台を……? というか、あの診療台使わない方が絶対に人は来るのでは?
そう思いながら遠くへ行くオペラオーを見送る。いつのまにやら動く脚と、軽くなった身体でもう一度だけトレーニングを行おうと考えた - 7二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 22:40:32
終わりです。整体すごいですね、身体が軽くなる
そう思ったのでオペラオーを整体士覇王にしてみた。実力はあるのにセンスのせいで人が来ないのがオペラオーらしさかな、と
前回のアヤベさん。毎日投稿したかった……
【SS】ゲームセンターアヤベさん|あにまん掲示板この作品と時系列が繋がっていますカレンチャンを持っていないため、エミュがいつも以上にブレていると思われますそれでも良ければ読んでいただけると幸いです(今から執筆します)https://bbs.anim…bbs.animanch.com - 8二次元好きの匿名さん21/10/02(土) 22:50:47
ありがとう。アヤベさん好きになりそう
- 9二次元好きの匿名さん21/10/03(日) 02:27:05
オペアヤベは肩こりにも効く