ここだけモザイク世界線 6

  • 1二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 00:06:38

    ※注意

    1がひたすらSSを書いているスレです。


    前スレ

    ここだけモザイク世界線 5|あにまん掲示板※注意1がひたすらSSを書いているスレです。前スレhttps://bbs.animanch.com/board/685644/以下初期設定。〇ドラルクΔとは違う世界線の吸対所属のクソ雑魚ダンピールおじ…bbs.animanch.com

    以下初期設定。


    〇ドラルク

    Δとは違う世界線の吸対所属のクソ雑魚ダンピールおじさん。

    本編世界よりも新横の治安が多少良いので悠々自適に公務員生活を謳歌している。

    以前は吸対のカナリアとして活躍していたが、最近優秀な新人が入ったのでもっと楽ができるぞーと息巻いていたところに謎の吸血鬼コンビのお世話係に任命されてしまった。

    アルマジロのジョンとはいつも一緒。たまに酷い悪夢を見て寝不足になるのが最近の悩み


    〇ロナルド

    突然ドラルクの前に現れた謎の吸血鬼コンビの片割れ。

    日光やにんにく、そして銀とあらゆる弱点が通用しない恐るべき吸血鬼だが何故かセロリが苦手。

    吸血鬼としての能力は非常に優秀で、大抵の能力は使えるみたいだが、ここ一番の場面ではなぜか銃か拳を重用する癖がある。

    過去に致命的な失敗をしたとのことで表情が険しい。

    ドラルクの後先考えない行動によく口を出しがちで、特に夜の勤務時間時はヒナイチともどもひな鳥のようにドラルクについてまわる。

    ドラルクが就寝中などにヒナイチとふらっと出かけてはボロボロになって帰ってくることがある。しかし何をしているのか絶対に話してくれない。


    〇ヒナイチ

    ドラルクの前に現れた吸血コンビの二人目。

    ロナルド程は弱点に耐性を持っておらず、特に日の光に弱い。

    日光に関しては「素質が無いのに無理やり転化した代償」とのことで、髪の赤色も若干濁ってしまっている。

    代わりに夜の闇において彼女を捕まえられるものはいないほど俊敏であり、また二刀流の達人でもある。

    ロナルドとは兄妹のように仲が良いが別に実の兄妹でもなければ恋人とかでもないらしい。

    たまにロナルドともども泣きだしそうな顔でドラルクを見ている時がある。

  • 2二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 00:07:06

    〇半田
    吸対所属のエース。とにかく仕事ができるのだが、真面目過ぎて余裕がない所がある。
    同じダンピールで先輩にあたるドラルクには懐いているようだ。
    新たに表れた吸血鬼コンビには大いに警戒しているのだが、なぜか軽口をたたきやすく内心ホッとしている。なぜだろう?

    〇ヒヨシ
    レッドバレットの異名を持つ腕利きのハンター。妹が一人いる。
    無類の女好きだが過去に盛大にやらかしたこともあり、ある程度自制している。
    最近現れた吸血鬼が自分に似ているのが妙に気になる。あの半分でも身長があればな……。

    〇ミカエラ
    吸対所属のエースその2であり、人間。半田の先輩筋にあたり、弟が一人いる。
    きっちりと制服を着こなし真面目に職務に当たっているが、最近現れた吸血鬼がその事に茶々を入れてくるので困惑している。
    何が問題なのだ!

    〇ケン
    突然ハンターギルドに現れ、ハンターをやりたいと言い出した謎の吸血鬼。
    催眠と結界の二重使用という極めて高度な技術を持つ。ロナルドとヒナイチは以前からの知り合いのようで、たまに共同で戦ったりもしている。
    何故か吸対所属のミカエラをよく茶化す。

    〇ディック
    「揺らぐ影」の二つ名を持つ古き血の吸血鬼。
    ロナルドとヒナイチがピンチになるとどこからともなく現れ、変身能力で場をかき回して去っていくタ〇シード仮面的存在。
    2人に協力するのは何か目的があるようだ。以前、息子がいたらしい。

    〇カズサ
    神奈川県警吸血鬼対策部本部長。
    人員不足だった新横吸対の為に、渋るイギリス吸対から人材を引っ張ってきた人。
    人員の一人はクソ雑魚ダンピールおじさんだったが十分働いてくれるのでオッケー。
    (ヒナイチを見て)おや、そこの吸血鬼のお嬢さん、オレの顔に見覚えがあるのかい?

  • 3二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 00:07:22

    〇ジョン
    ドラルクと永遠を誓う愛すべき〇。

    最近嫌な夢を見るんだヌ。黒い何かがドラルクさまに襲い掛かるんだヌ。
    そして、まるで存在をすする様にドラルクさまが消えていくんだヌ。

    ヌンは何もできなかったヌ。
    見ることしかできなくて、そしてヌンの体もぼろぼろと塵になっていくんだヌ。
    ……夢はいつもそこで終わりヌ。


    基礎ルール
    ・御真祖とフクマさんが存在していない
    ・そもそも竜の一族が存在していない。ノースディンは存在している。ドラウスたちは人間としてなら存在しているかもしれない
    ・記憶の持ち越しは元から吸血鬼か人→吸血鬼のみ。記憶のない吸血鬼もいる
    ・記憶を持ち越した者は、家族との血縁関係や友人関係がなかった事になる。
    ・吸血鬼が人間かダンピールになっている場合は確定で「何か」があった。
    ・本編で複数能力持ちだった吸血鬼のうち何人かは一部の能力が消えている場合がある(例、イシカナがタピオカの能力しか持っていない)
    ・一部の人間にもうっすらと記憶の残滓が残っている場合があるが夢のようにおぼろげ。
    ・存在が丸々消えている吸血鬼もいる(例、へんな)
    ・ロナルドヒナイチは頻繁に「何か」と戦っている

    ・「それ」は竜の臭いに惹かれている

  • 4二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 00:09:24

    前回のあらすじ
    怒涛のエッチ祭り
    パパ不憫

    黄色の 気配が する !

  • 5二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 00:12:57

    小話的なおまけ

    「やっほ~~!新横浜のみんな~!こんにちは~!!新横浜警察署公認チャンネルことどらどらチャンネルはっじまるよ~!」「ヌ~!!」

    「うんうん!みんな今日も元気にやってるかな?毎週月曜日に吸血鬼対策課のキュートフェアリーことどらどらちゃんがお届けするこの癒しの時間も、今日で三回目!というわけで本日はスペシャルゲストをお呼びしてるんだ!ヌー君連れてきて~!」「ヌ~~!」
    「はい、スペシャルゲストの、ロナル子ちゃんです!わーパチパチパチ」「おいドラ公」
    「ごめんねしょくん、じゃなくてみんな~!ちょっとロナル子ちゃん緊張しちゃってるみたいだからちょっと待ってね!ジョンよろしく!」「ヌーヌーヌーヌヌーヌー」

    「なんなんだよこの謎撮影空間はなんで俺がいきなりバ美肉させられてるんだよそもそも公務員が堂々と副業やるんじゃねえバカ野郎!」
    「何って新横浜警察署公認ヌーチューブチャンネルどらどらチャンネルに決まってるだろうが!そして私は公認マスコットキャラクターのどらどらちゃん!!公認広報だから副業カウントはいりませ~ん!スパチャも取ってないし文句言われる筋合いゼロ~!!」
    「どういう狂気に走ったら仮にも警察署の公認チャンネルがガリガリおじさんのバ美肉キャラクターを公式マスコットにする必要があるんだ頭沸いてるにも程があるだろ!!」
    「聞き給えロナルド君、私だって自分の人生は精一杯生きたい。職業選択で趣味の幅が狭まるのは悲劇にも近しいのだよ。というわけで広報課から若者たちに防犯意識に対しての啓蒙を高めると言いくるめて予算を分捕ってきた」
    「意識高い動機で適当に誤魔化してるが100%お前の趣味じゃねえか」
    「何をいう、カズサ本部長などノリノリで許可したぞ」「したのかよ」

    「だいたい防犯意識って何を教えるんだよ。ガリガリおじさんの怪しい駅前勧誘の断り方講座か?」
    「それはそれで需要ありそうだがウチ(吸血鬼対策課)だぞ?吸血鬼に対する簡単な防衛策を教えてるに決まっとるじゃないか。それでロナルド君、吸血鬼の癖に防衛策について詳しいだろ」「癖には余計だけど、まあ」
    「その知識を生かして動画にも出演してほしいというわけだ」
    「理由自体は真っ当なのが納得いかねえ……。だけどオレまで美少女する必要はないだろ!?そのまま出せよ!!」

  • 6二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 00:14:08

    「あるに決まってるだろ!このチャンネルのコンセプトは癒し空間なんだぞ!!男二人で事務的に講座するよりかは美少女二人の方が癒し度が違うだろうが!まあ普段の私でも十分癒しになるが、これはまたちょっと需要が別!」
    「知らねえよ素直にヒナイチ出せよ!!」「ヒナイチ君はびっくりすると言動が放送事故起こすからダメ」
    「こんなところまで足をひっぱってくるのかあのチンは……!」
    「というわけでぶつくさ文句言ってないでさっさと出ろ出ろ!!ライブ中継だぞ今!!」
    「何が悲しくておっさんと二人で美少女なりきりしなくちゃならないんだ!!」

    「みんな~!お待たせしたね!あらためてスペシャルゲストのロナル子ちゃんだよ~!」
    『キャーどらどらちゃーん!』『今来たよー!』『ロナル子ちゃん!!』『ヌーを出せ』

    「ロナル子ちゃん皆にご挨拶してあげて」「……えっと」
    (ほれ皆期待してるぞ)(うぅ……!)

    「ろ、ロナル子です~!みんな、よろしく~……?」
    『かわい~~!!!』『ロナル子ちゃんかわい~~!!』『スパチャ投げたい』

    「あっ、えっと……」「それじゃあさっそくロナル子ちゃんに質問しちゃおっか!ロナル子ちゃんは吸血鬼退治について詳しいんだけど、皆こういう吸血鬼にあったらどうしたらいいのっていう質問とかないかな?」

    『台所に下等吸血鬼が出やすいんだけど、予防策とかありますか?』
    「下等吸血鬼?ならニンニクを観葉植物に置いたりすると普通なら予防になるけど、この街九十九吸血鬼化しやすいから悪化したら無理せずにVRCか退治人呼んでね」

    『下等吸血鬼に噛まれて化膿したんですけど、適当に消毒して放置したんですけど大丈夫ですか』
    「ダメだよ!ちゃんと病院行って!悪化して仮性吸血鬼の症状が出たりすることもあるから危ないよ!」

    『街を歩いてると変態吸血鬼に絡まれやすいんですがいい魔除けとかありますか』
    「それはあたしも知りたいです」「どらどらちゃんも知りた~い」

    『ロナル子ちゃんはどんな武器使いますか?』
    「銃とかハエ叩きとかあと拳とかかな?」「ロナル子ちゃん暴力って素直に言ったらどうかな?」

  • 7二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 00:15:07

    「やめんかVがとれる!!Vがとれるあだだだだだっ!!!」
    「騒がしくてごめんね、他に質問あるかな?」

    『頑張れって言ってほしいです』
    「えっ、……が、頑張ってね!心から応援してるよ!!」

    『推せる』『ロナル子ちゃん推せる』『レギュラー化して』『ヌーを出せ』
    「ファ~~~???このチャンネルのメインパーソナリティーはカンペキキュートなどらどらちゃんなんだが???」
    『中身出てる出てる』『畏怖~!!』『俺はどらどらちゃん一筋だよ』
    「みんな!どらどらちゃんの輝きによそ見しないでくれたまえよ!まだまだどんどん質問答えちゃうぞ~!」



    一通りの生配信が終わって機材を置いて二人と一匹が一息つく。
    「ぶっつけ本番だったが意外に形になったじゃないか。なあジョン」「ヌァー(喉が枯れた)」
    「そしてどうだいロナルド君、感想は?」
    「やばい」「うん?」

    「へんな扉開きそうで、やばい」
    「……そんな泣くほど怯えることか?」
    「うるせえバカこんな自分の可能性気づきたくなかったわ!!」

    ロナルドが動揺で騒いでいると、ドラルクの配信室の部屋のドアにノックの音が響く。

  • 8二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 00:15:35

    「ドラルク隊長、良いですか?」
    「希美くんじゃないか、どうしたんだい」
    希美は複数の紙袋をどさっとおく。中にはそれなりに値段がしそうな菓子折り一式が入っていた。

    「これは……?」
    「他の課の方からどらどらちゃんねるに差し入れだそうですよ。ほら」
    希美が手を刺す方向をロナルドは顔を出してみてみる。そこにはがんばれどらどらちゃん!というタスキを付けたおっさんたちがキラキラとした目で配信室の方を眺めていた。
    ついでにロナル子ちゃんへも見えた。
    ロナルドは何も言わずに扉を閉める。

    「結構いいお菓子ありますよ隊長」「ヌー!!」
    「食べ過ぎちゃダメだよジョン。スパチャの代わりかな」「なあ、ドラ公。この状況は大分不味い奴なんじゃないか?」
    「うーん、袖の下扱いで突っ込まれる前に抑制しないとだな……」
    「そっちじゃねえよ」


    ヌン(完)

  • 9122/07/18(月) 00:20:41

    廃病院編前からどらどらちゃんネタ書きたかったんですけどネタ出すタイミング完全に逃してこんな時期になりました。
    そろそろ終わりに向けて色々頑張ります

  • 10二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 00:42:53

    スレ立てありがとうございます
    どらどらちゃんとロナル子ちゃんにスパチャを投げたい

  • 11二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 01:21:40

    隊長が楽しそうで何よりです

  • 12二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 08:32:26

    遅くなったけと、スレ立て乙!
    ロナル子ちゃんはあんまりかわってなさそう。
    銀髪碧眼派手目な美少女。
    周りの反応が気になる。

  • 13二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 09:15:49

    スレ立て&更新乙です!
    ロナル子ちゃんは中身のいい子さはそのままに外身がかわいくなってるから人気だろうな…。
    続き楽しみにしてます!

  • 14二次元好きの匿名さん22/07/18(月) 20:52:19

    保守

  • 15二次元好きの匿名さん22/07/19(火) 00:22:52



    時刻は昼間だというのに、太陽の消えてしまったおかしな街をドラルクが走り続ける。
    吸血鬼なので夜目は利くし感覚的に不自由はしないが、それにしたっていきなり太陽が消えてしまうのは流石に困惑の方が勝る。
    曇り空などでは説明がつかない完全な消失、塗りつぶされたと言えばいいのだろうか。日食だって太陽の輪郭くらいは分かるものである。
    それらの事象もまるでない。日常から急激に非日常に叩き落されたような感覚だけがあった。

    途中でちらほらと非常用の懐中電灯で周囲を照らす人々を見る。
    まだ混乱が収まっていないようで、ちらほらと何が起こっているのか議論する声も聞こえる。
    いつ収まるのかと不安がる声も聞こえる。
    原因の分からぬ事象に泣きだす声も聞こえる。
    不安が原因か、何かに対して怒りだす声も聞こえる。

    全ては不安と、理由の分からない恐怖。

    この新横浜という町の空気が、恐ろしい何かに飲み込まれようとしているのをドラルクはひしひしと感じていた。

    ドラルクが退治人ギルドに何とかたどり着くと、店の周辺には避難してきた人々と退治人たちが集まっている。

    「ショットさん、マリアさん!」
    「「ドラルク!」」

    「一体何が起きてるんだね」
    「ついさっき集まったばかりでまだ俺達も全容が分かってないぜ」「駅前通りでへんな化け物が出たらしいけど、まだ確認してる最中みたいだ」
    「駅前通りか……、ロナルド君は来ていないのか?」
    「ロナルドは見てないな」
    「まったくこんな時にどこほっつき歩いてるんだあの若造は」「ヌー……」

    ドラルクがそのようにブツブツと文句を言っていると、ドサッという何かが倒れた音が聞こえてきた。
    「次は一体なんだね!?」「ヌヌ!?」

  • 16二次元好きの匿名さん22/07/19(火) 00:23:37

    マリアとショットが音がした方に駆け寄ると、保護をしていた一般市民の一人が倒れ込んでいた。
    「一体何があったんですか?」
    ショットが倒れた人の隣にいた市民に話を聞く。
    「突然喋るのを止めてぼうっとしたかと思ったら、いきなり糸が切れたように倒れちゃったんです!」
    「おーい!誰か担架持ってこい!」

    倒れた人が運ばれていくのを、ドラルクは黙って見守る。
    担架で運ばれている顔を見ると、明らかに異常性があるのが見て取れた。
    目は焦点が合わず開けっ放し、口は半開きで魂でも抜けてしまったかのようだ。

    (なんだ?)

    そして、それに気が付いてしまった。

    半開きの口から、チロチロと薄羽のような黒い何かが動いているのが見える。
    動きはやがて大きくなり、そしてはたはたと口からゆっくりと飛んでいった。


    蝶だ。黒い蝶が飛んでいる。

    蝶が口から飛び立つと、担架で運ばれていたその人物はガタガタっ!と強い痙攣をはじめ、口から泡を吹き始めた。
    「うわぁ!?」「大丈夫ですか!?」「てんかんか?早く病院連れてけ!」

    さらなる異常事態の発生により現場は小さなパニックになっていく。
    ドラルクなどビックリするあまり砂になってしまった。ジョンが泣いて砂を集めてくれる。
    ドラルクは再生しつつもまだ落ち着かない心臓を手で抑えながら、見たものを整理するために声に出した。

    「あれ、口から出てったよな……?」

    嫌な予感がした。それも猛烈に。

  • 17二次元好きの匿名さん22/07/19(火) 00:25:58

    ギルドマスターが担架の上で痙攣をした人物の初期対応を試みている。
    遠くから救急車のサイレンが迫ってくるのが聞こえた。

    「もうすぐ救急車が来ますからね」
    ギルドマスターが気安めの気付けの言葉をかける。
    当然、返事は返ってくるはずもない。
    だが、口がもごもごと動いた。

    「! 大丈夫ですか、意識がありますか?」
    マスターが肩を軽く叩いていく。
    返事の声は、口からは聞こえてこない。その代わり、

    ドロッとした黒い粘膜が、その人物の口からこぼれ出てきた。




    ドラルクの出来事より少し時間は遡る。

    太陽が隠れ、髑髏がはい出たあと、ロナルドは必死に走っていた。
    武々夫の首根っこをひっつかむと、髑髏の視線を建物で切りながらなんとか事務所の方へと向かって行く。

    「なんでオレまで走らなきゃいけないんスかロナルドさん!」
    「アレに近づいちゃダメだ!俺もよくわかんねえけど!アレはダメな気がする!!」
    「ワヤワヤじゃん!!」「そうだよ!ワヤワヤだよ!!だって見たことねえもんあんなの!!」
    ロナルドはわっと涙目になりながら叫ぶ。
    得体のしれない巨大な髑髏にひたすら凝視されていたのだ。
    まるで食われる前にじっくりと様子見をされている獲物のようでロナルドは本当に怖かった。

  • 18二次元好きの匿名さん22/07/19(火) 00:27:10

    「それで俺たちどこ行くんスか!?」
    「とりあえず事務所行く!何が起こるにせよ武器ねえと無理だ!拳による暴力が効くかもわかんねえ!」
    「じゃあオレヴァミマ戻ってもいいスか?親父の様子見ときたいし」
    「あっ、そうだな。俺も着替えたらすぐヴァミマ行くよ。武々夫たちはどっかに避難しないとだろ」
    「うっス」

    合流を約束して二人はそれぞれ別行動に入る。
    ロナルドは事務所の入っているビルの階段を駆け上がっていき、ドアを勢い良く開けて同居人の名前を叫んだ。

    「おいドラルク、ジョン!!いるか!?」
    「ロナルドさん!おかえりなさい!」「ビ!」
    「ドラルク達なら出かけたぞ、グブブ」
    死のゲームやメビヤツ、キンデメがそれぞれ出迎えの言葉をかける。
    ロナルドは上着を脱ぎながらどたどたと室内に入っていく。

    「なんてタイミングで出かけてんだあのバカ!!どこ行ったか知ってるか」
    「ギルドにいくって師匠が言ってました!」
    「ギルド?クソ、RINEは反応悪い……!」
    スマホのメッセージの更新を試みるが全く更新が反映されない。
    それどころかまともにネットワークに繋がっていないようだった。
    ロナルドはさっさと装備を整え、メビヤツから帽子を受け取る。

    「俺また出るけど、なんかあったら……、RINEと電話は無理だから、メビヤツ空にビーム売ってくれ」「ビ!」
    メビヤツはやる気満々で頷いた。
    「狼煙としては物騒すぎないか、グブブ」
    「しょうがねえだろ緊急事態だ!なんかあったらちゃんと連絡するか逃げろよ!」
    「水槽の存在に無茶を言うな」「んじゃあ行ってくる!」「話を聞け」

    ロナルドはキンデメのツッコミを無視しつつも嵐のように事務所から出ていった。
    武々夫と合流する為、事務所からそう遠くはなれていないヴァミマに走っていく。

  • 19二次元好きの匿名さん22/07/19(火) 00:28:19

    ロナルドが急いでヴァミマの自動ドアを開けると、店内から黒い蝶数十羽が入れ替わりに横切っていた。
    「うわっ……?なんで店にこんなに蝶が」


    「ロナルドさんっ!!」

    突然の叫びにロナルドはビクッと体を強張らせる。
    名前を叫ばれたからではない。
    その声音が、まるで悲鳴のように聞こえたからだ。

    「武々夫、どうしたんだ……?」
    今の声は、自分の聞き間違いじゃなければ武々夫の筈だ。
    嫌だ、と直感的にロナルドは思った。
    確認がしたくない。見たら嫌なものが、そこにあるような気がしてならない。

    「ここです、こっちに来てください」
    「わかった」

    それでも、逃げるわけにはいかない。
    武々夫の声は店の奥の方の一面のドリンク棚の方から聞こえた。
    ロナルドは意を決して、店の奥へと足を踏み入れていく。

    奥に入ると、店内の白熱灯に照らされ、座り込んでいる武々夫の後ろ姿がみえる。

  • 20二次元好きの匿名さん22/07/19(火) 00:29:04

    「な、なんだ。無事じゃねえか」
    ロナルドは少しだけホッとした。何か怪我でもしたのかと思ったからだ。

    「一体何がおき……」
    そして話を続けようとして、武々夫の前にあるものに気が付いた。


    「ロナルドさん、これ、何でしょうね」
    武々夫が生気のない声で尋ねてくる。

    武々夫の前には服があるように見えた。
    ヴァミマの、店員服。名札には店長の文字が刻まれている。


    もちろん、服だけがあるわけではない。
    さっき入り口で横切った黒い蝶が、3~4羽さらにそこから飛び立った。

    白くて硬いものが見える。ところどころ、筋肉が付着していて生々しい。

  • 21二次元好きの匿名さん22/07/19(火) 00:29:22

    それでも、随分綺麗に食べたものだ。
    見てしまった現実と、そのおぞましさと、湧き上がってくる怒りで、ロナルドは胃にあるものを吐き出してしまいそうだった。


    __骨がある。

    大人一人分の骨が、武々夫の前に倒れている。
    さっきまで働いていたのであろう制服を着た状態で、倒れている。
    制服はボロボロで、大量の血液が付着している。

    どうやってかは分からないが、きっとそのまま貪り食われたのであろう。


    「なんで……、なんでだ?なんで親父が?」
    武々夫は骨を抱え込んだまま、呟く。
    本当に分からない謎に直面したかのように。

    その疑問に返事をすることは、ロナルドにはできなかった。


    続く

  • 22二次元好きの匿名さん22/07/19(火) 07:13:37

    ヒェ……

  • 23二次元好きの匿名さん22/07/19(火) 08:49:59

    BBOたちはいつまでもギャグ要員だと思ってたのに……そんな……

  • 24二次元好きの匿名さん22/07/19(火) 13:56:16

    ずいぶん悲惨なことになってるな…これがあのシンヨコの姿か?続き楽しみにしてます

  • 25二次元好きの匿名さん22/07/19(火) 22:43:08

    人は食われるってことか?じゃあ吸血鬼はどうなるんだ…

  • 26二次元好きの匿名さん22/07/19(火) 23:24:09

    もうホラゲーの導入みたくなってる……

  • 27二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 00:06:24



    ゴポリ、ゴポリ。

    担架に運ばれたその人物からとめどなくヘドロのようなものがこぼれていく。
    口からこぼれていくヘドロは止まらず、滴る水のように地面に全て落ちていった。

    「焦らずに担架を置いて離れてください!」
    ギルドマスターが担架を運んでいる人々に指示を出す。
    担架は速やかに地面に置かれ、異常が起きている人物から皆離れていく。
    ヘドロは変わらず地面を汚していく。そして、口からこぼれたヘドロは口内から始まり顔全体、首、胴と徐々に体が黒に飲み込まれていき、とうとう全身にまで染め上げられてしまう。

    「なんだ、これは」
    ギルドマスターも見たことが無い現象に戸惑いを隠せない。

    染め上げられたヘドロからクチャ、クチャという嫌な咀嚼音が聞こえたかと思うと、全身にまとわりついていたヘドロが徐々に乾いていくように体から落ちて中身の人の体が見えてきた。

    そこには端的に言ってしまえば、骨と衣服のぼろきれだけが残っていた。


    「うわぁああああ!!!」「きゃあああああ!!」
    あまりの衝撃に避難してきた市民がパニックを起こして逃げまどいはじめる。

    「落ち着いてください!離れないで!」「ダメだそっちにいっちゃ!」
    しかし一度起きてしまったパニックはなかなか落ち着かせることはできない。
    皆黒いヘドロに逃げまどってギルドから離れていく。

    ドラルクはその騒ぎの中も身じろぎせずに、担架の上の骨を凝視する。
    ジョンがその光景を見ないように、手でおおいながら、その経過を見ていた。

  • 28二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 00:07:09

    残された骨に、黒い蝶が一羽、ひらひらと降り立っていく。
    蝶は二羽、三羽、四羽……いつの間にか数十羽の黒い蝶が、骨に張り付いていた。

    骨にびっしりと黒い蝶の大群で覆われたかと思うと、またひらひらと蝶は上空へ飛び上がっていく。
    跡には骨が一つも残されていなかった。
    吸収されてしまった。完全に。

    蝶が舞う。
    蝶の大群が、ギルドの上空を飛んでいる。

    ドラルクには、その大群が一つの大きな怪物に見える。
    そして、自分をじっと見ているように感じられた。

    自然と、足が動く。
    「ドラルク!?」「どこ行くんだよ!」
    「すまない、ちょっと用事が出来た!」

    逃げなければいけない。
    理屈はない、ほとんど直感での行動だった。

    ここで逃げなければ、もっと巻き込んでしまう気がする。
    貧弱な足をがむしゃらに動かす。
    頭上を見ると、蝶の大群が自分を補足しているのが見えた。

    足は素早い方だが体力がない。
    その事を恨めしく思いつつも足を動かすしかない。

  • 29二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 00:07:52

    どこに逃げればいいのだろうか。
    ぜえぜえと息が上がっていく。
    後ろを見るのが怖い。

    振り向いたが最後何かにぱっくりと食われてしまいそうだという考えが、頭から離れない。
    「ヌヌヌヌヌヌ!」
    走る事に必死なドラルクにジョンが指をさして制止する。

    「どうしたんだい、ジョン」「ヌヌ!!」
    ジョンが必死に指をさす方向をみると、そこには黒いヘドロの塊が差し迫っていた。
    「っ、塗り壁の代わりも可能とは驚いたな!百鬼夜行でもするつもりかな!?」
    軽口を叩いてみるが大ピンチである。
    前門のヘドロ、後門の蝶。

    ドラルクに対処するための攻撃方法などあるわけもない。
    もし自分が襲われたらどうなってしまうのだろうか。
    いつも通り塵になるのは確定として、あの蝶に全て回収されてしまうのか?
    その後の事など考えたくもなかった。

    しかしそうこうしているうちにヘドロはドラルクに覆いかぶさろうと近寄ってくる。
    蝶はもうすぐそこまで近づいてきている。
    万事休す。

    ドラルクはジョンを庇うように抱えこんで次に起こるであろう出来事に覚悟した。

    ……。

    ……攻撃がこない?

    ドラルクが恐る恐る薄目を開けた。

  • 30二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 00:08:28

    ズバンッ!!という音ともに、襲い掛かろうとしていたヘドロが倒れていく。
    ヘドロの後ろには、二刀流を構えた凛々しい赤毛の少女がいた。

    「ドラルク!?大丈夫か!」
    「……ヒナイチ君!」「ヌヌヌヌヌン!!」

    一人と一匹は見知った少女の姿に安堵し、破顔する。
    「いやよくやってくれた!もう駄目かと思った!」「ヌー!!」
    「そちらも無事でよかった!どうしてここにいたんだ?」
    「ギルドの方に一度避難していたんだが、私を狙っているような嫌な予感がしてね。実際追われて逃げていたんだ」
    「丸腰で無茶をするな……。ロナルドはいないのか?」
    「あのゴリラとは全然連絡がつかないんだ。ヒナイチ君は見てないの?」
    「私もとくには……、!」

    ヒナイチはドラルクの後ろを見てピクリと反応する。
    蝶の大群だ。

    「ここもあまり安全ではなさそうだな。一緒に逃げようドラルク」
    「どこかいい所があるのかい?」
    「人気のない所に行こう。ほら、前にアラネアを追いつめたあの工場地帯。あそこなら人気もなくて私も動きやすい」
    ヒナイチはドラルクの腕をぎゅっと掴む。
    「……、ああ。分かった、ヒナイチ君がそういうのなら」





    「ドラルクとジョンが蝶引き連れて逃げてった!?」
    呆然自失状態の武々夫を無理矢理引きずり、なんとかハンターギルドにまでたどり着いたロナルドは次のトラブルに頭を抱えていた。
    「ああ、なんで一人で逃げるんだろうと思ってたら、ドラルクを追いかけるようにして蝶も移動してったんだ。正直場が混乱してたから助かったが、あいつ大丈夫なのか心配だぜ」

  • 31二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 00:09:17

    「そっか……。こっちも、死人が出たんだな」
    ロナルドはヘドロで汚れた空の担架を見つめる。
    話を聞いた限りではさっきの店長も同様の現象が起きていたのだろう。
    自分たちにだって、何時降りかかるか分からない。
    「武々夫の奴、大丈夫かな?」
    ショットは変わり果てた様子の武々夫を見て心配した様子でつぶやく。
    「わからねえ、まだ整理がついてないだろうから、そっとしといてやってくれ」「……ああ」

    「ごめん、ショット。ギルドが忙しい所悪いんだけど、俺ドラルクのあとを追ってみる。ジョンの事も気になるし」
    「いや、大丈夫だ。行ってやってくれ。あいつに何かあっても寝覚めが悪いしな」
    「ありがとう」
    ロナルドがドラルクの痕跡を追おうとすると、ギルドに新しい避難民が集まってきていた。
    避難民にちらほらと白い制服姿が引率として混ざっているのが見える。
    制服姿の一人がロナルドに気が付くとぴょこぴょことこちらに近づいてきた。

  • 32二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 00:09:37

    「ロナルド!無事だったか!」
    「ヒナイチ!良かった連絡つかなくて心配したぜ!」
    「ああ、通信機器がまともに使えなくてこちらも困ってた所だ」
    「他の吸対の皆は?」「それぞれ出払ってはいるが皆無事だ。隊長や半田たちは新横浜公園の方に避難引率をしていると思う」
    「そっか、良かった」「ところでドラルクは?」

    「ドラ公とはまだ合流出来てねえんだ。ギルドに来てるって伝言があったからこっちに来たんだけど、あのバカ何かに逃げてたらしくて」
    「逃げてた?大丈夫なのかそれ」
    「わかんねえ、だから今から探しに行くところなんだけど」
    「なら私も一緒に行こう。はぐれている市民の避難誘導もしたいし」
    「ああ、ヒナイチが来るなら百人力だぜ」

    ロナルドはヒナイチとともにドラルクが向かった方向へと進んでいく。

    進む先にはまだ、街灯が街をぽつぽつと照らしてくれている。
    しかしかろうじて生きているその灯は酷く頼りなく、すぐにでも掻き消えてしまいそうに見えてならなかった。


    続く

  • 33二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 00:30:02

    ヒナイチが二人居るぅ…
    ガチホラー怖いです今日もありがとうございます

  • 34二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 07:10:51

    ん? あれ ヒナイチ……??
    これロナルドとドラルクのところに二人ずついる……? この時すでに「アレ」が吸血鬼の能力を発現してたのか……? それでヒナイチが二人に……??

  • 35二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 11:22:58

    めちゃくちゃホラーだあ…状況はヤバいけどワクワクしてしまう…
    続き楽しみにしてます

  • 36二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 21:58:05

    二人のヒナイチのうちどちらかが偽物…ゴクリ

  • 37二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 23:10:19



    ドラルクとジョンはヒナイチに引き連れられてどんどん人気のない場所へと進んでいく。
    抱えられたジョンが少し眠たげに瞼をこすっている。
    「ジョン、眠たいのか?」「ヌ……」
    「本当だったら昼を回ったくらいだものね」

    時刻はもう少しで夕方に差し掛かろうかくらいの時間だ。
    吸血鬼や夜行性のジョンにしてみれば本来は眠っているはずの時間、人間に例えるなら朝日も昇っていないような早朝に該当する時間なのだ。まどろんでしまうのも仕方ない。

    ドラルク自身、こんな時間に出歩いているのは不思議な感覚だった。

    「太陽まで隠れてしまって、本当にどうなってしまうんだろうな。この街は……」
    ヒナイチの顔が少しふさぎ込む。終わりの見えない不安と怪異に参ってしまっているようだった。
    ドラルクは何を言うか迷い、それでも自分の結論を言ってしまう。
    「楽しくなくなってしまったら離れてしまえばいいのさ。いつまでも嫌な場所に執着したってしょうがないよ」
    「……薄情なこと言うんだな」
    「私はいたい所にジョンと一緒にいるのがモットーだからね。苦痛になるような事ならとっとと手放すとも」
    ドラルクは未練なんか無いといった様子でせせら笑った。
    しかし、ヒナイチはドラルクの抱える矛盾を見逃さなかった。

    「なら、どうしてこんな事になるまでお前は新横浜を離れなかったんだ」

    「楽しくないならすぐ離れるんだろ?なのにどうしてお前はここを離れない」

    「離れるタイミングは、いつだってあったはずだ」

  • 38二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 23:10:53

    ドラルクは黙った。
    そうだとも。逃げるタイミングはいつだってあった。

    それこそ父がいなくなった段階で、吸血鬼が行方不明になっていく過程で、ドラルクはこんな致命的な状況になる前に逃げられたのだ。
    それが出来なかったのは、ひとえに

    「頭でどちらが賢い選択か理解していても、それが面白いと感じるかはまた別さ。私は残った方が面白いと思ったから残っただけだよ」
    ヒナイチはそのあまりにもひねくれた言い回しに苦笑する。
    「なんだ、お前にだってちゃんと愛着があるんじゃないか」
    「こんな変態だらけのゴッサムシティに愛着~!?もはや腐れ縁のようなものだよこの街とは。まあ他にはない街なのは確かだけど」
    「じゃあ、なおのこと元に戻せるように頑張ろうな」
    ヒナイチはドラルクに笑いかけた。

    「ほら、もうすぐ工業地帯の方につくぞ。気を引き締めような、ドラルク」

    ドラルクが前の方を見ると、人気のない工業地帯が見えてくる。
    ジョンがドラルクのジャボをぎゅっと握り締める。

    向かう先の工業地帯には、先回りしてきたと思わしき黒い蝶の大群があった。





    ロナルドとヒナイチは夜の街をあてどもなく歩き続ける。
    「あいつ本当にどこに行ったんだ?」
    「早く見つけないと……。ただでさえ吸血鬼も危ないのに」
    「それにしたって手がかりがな」

  • 39二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 23:13:06

    ロナルドは周辺を見渡す。
    さっきまではちらほらいた人影も、今ではすっかり消えてしまっている。
    それはそうだ、あんな出来事あったら迂闊に一人で出歩く事など出来ない。ギルドやどこかに皆避難しているはずだ。

    ロナルドはそこでふっとヴァミマで起きた一部始終を思い出してしまい、口元を抑えた。
    先ほどは呆然自失状態の武々夫を介抱していたので、何とかパニックを起こさず事態の対処に当たれたが、それにしたってショックは大きかった。
    「大丈夫かロナルド?」
    「いや、ちょっとな」
    ロナルドはヒナイチに一部始終を話すか迷う。
    ヒナイチだって店長の事は知っている。今その事実を教えるべきか。

    「……さっき、人の白骨死体を見つけたんだ」
    ロナルドは、誰とは言わないことにした。

    「白骨死体!?いったいどこにあったんだ!」
    「コンビニの方で、店員さんの服と白骨だけ残して後は何にも残ってなかった。体が食われたか、溶けたって言えばいいのか?とにかく凄く変な死に方をしてて怖かった」
    「そうか……、すでにそんな被害が」
    ヒナイチは青ざめた様子でその報告を噛みしめた。
    「大丈夫か?」「私は大丈夫だ……いや」

    「ロナルド、私は不安で仕方がない。事態はもう、私たちの手にを得る範囲をとっくに超えてしまってるんじゃないか?」
    それは、ロナルドも薄々と感じていた。
    いくらロナルド達新横浜の退治人が腕利きばかりだとしても、こんなバカげた規模の吸血鬼など見たことがない。
    この事態を本当に解決できるのだろうか?
    解決の糸口すら見えず、不安で心がいっぱいだった。

    「だからって、この街を放ってなんておけるのか?ポンチだ変態だ騒ぎながらも、皆ここで生きて暮らしてるんだ。捨てられるわけなんかないだろ。今まで通り暮らすことが無理でも、せめて何が原因かは探らなきゃ、いなくなった奴らが浮かばれねえ!」
    ロナルドは心のままに本心を叫ぶ。ロナルド様が全部解決してやると言いきれたらどんなに良かったか。
    だが嘘でもそんなことは言えなかった。無力感が、心に重くのしかかる。

  • 40二次元好きの匿名さん22/07/20(水) 23:13:31

    「……そうだな。私もそう思う」
    ヒナイチは自分の手のひらをぎゅっと握り締めた。

    「街を必ず取り戻そう、ロナルド」「おう」
    ヒナイチとロナルドは拳の裏側どうしでハイタッチをする。
    それはお互いに対する鼓舞の意味合いが強かった。
    可能かは分からない、だが、目標は大きく持たなければ届くことは無い。

    二人が意識表明をしていると、ロナルドの視界の端に蝶の大群が移動するのが見えた。
    「おいヒナイチ!あの蝶!」
    「なんだ?蝶がどうかしたのか?」
    「さっきの白骨死体の近くにいた蝶なんだ、何かの手がかりになるんじゃないか?」
    「!……あの蝶の大群、アラネアと戦った時の工業地帯方面に向かってる!」

    「行こう!もしかしたらそこで何か起きるかもしれねえ!」


    続く

  • 41二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 06:58:51

    ドッペルゲンガーと本人があったら……という都市伝説が脳裏を過ぎった

  • 42二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 11:22:07

    ドラルク狙い撃ちされてるなあ…

  • 43二次元好きの匿名さん22/07/21(木) 21:53:53

    保守

  • 44122/07/22(金) 07:36:21

    すいませんIP規制中です。ちょっとお待ちください

  • 45二次元好きの匿名さん22/07/22(金) 07:45:05



    ヒナイチが慎重に様子をうかがいながら工業地帯にぽつぽつとある建設途中の物陰にドラルクを誘導していく。
    一帯の中心地には黒い蝶の群れがちらほらと羽を休めており、異様な雰囲気を醸し出していた。

    「動きはないが、どう仕掛けるべきか迷うな」
    「ヒナイチ君、まさかあの蝶に攻撃するつもりかい?」「ヌァ!?」
    「そのつもりだが?」
    ヒナイチはさも当然といった様子で腰の刀に手をかける。

    「それは……、戦闘が門外漢の私が言うのもなんだが、無茶じゃないか?あの黒い蝶が何をしてくるのかだって正確には分からないんだし」
    「心配してくれるのか?だが大丈夫だ。すべて切り払ってしまえば問題ない」
    「いやだから、ここで直球暴力は止めとけって言ってるの!」
    ドラルクは焦れたように叱り始めた。

    「いつものポンチどもだったら別にそれでもいいんだよ。だけどあの蝶は違う。明らかにこの怪奇現象と連動してるし、人だってすでに亡くなってる。絶対に考えなしに動くべき時じゃない!」
    ヒナイチはドラルクの珍しい忠告にきょとんとした顔をしている。
    「分かった。せめて何か作戦を立てて攻撃しよう」
    「結局暴力か本当に分かってるのかい!?」
    「分かってる。だが、立ち止まっていても解決策は無いんだ。あの蝶を攻撃することで何かのアクションが起こるのであれば、試してみる価値はあるはずだ」
    凛々しい笑みを浮かべるヒナイチは実に頼もしく感じるが、ドラルクにはなんだかそれにそのまま乗ってはいけないような気がしてならなかった。

    とりあえず言い出しっぺは言い出しっぺだ。ヒナイチが行動を起こしやすくする為の策を練る。
    何かいい道具とか無かっただろうかとハンマースペースを探るが……、あった。

    ドラルクは一つの小瓶を取り出す。
    「なんだそれは?」「ヌヌ?」
    「お爺様特製吸血鬼引き寄せ香水~!これをシュっと吹きかければあら不思議!下等どころか高等吸血鬼だって吹きかけた場所になんとなく気になって集まるという謎香水だ!どういう仕組みなのかは知らん!」
    「よくもまあそんな都合のいい香水持ってたな」
    「ちょっと使う用事があってね」「?」

  • 46二次元好きの匿名さん22/07/22(金) 07:48:20

    本来は、父を探すために使っていたものだ。
    もはやそれどころではなくなってしまったが。

    「だがちょうどいい道具なのは確かだ!さっそく適当な場所にシュっと吹きかけてあの虫けらどもを蜜に群がるカブトムシがごとく集めるぞ!」
    ドラルクは香水瓶をもって息巻く。作戦開始である。



    対応手段に乏しいドラルクが使用しては危ない、吸血鬼を引き寄せる効果があるので下手をすれば動けなくなるかもしれないなどのもろもろの事情を考慮して、香水を吹きかける役目はジョンに任せることになった。
    「いいかい、ジョン、無理そうだったら即座に逃げるんだよ」
    「何かあったら私もすぐに助けにいくからな」
    「ヌン!」
    ジョンは香水瓶を抱えこんで勢いよく返事をした。

    ジョンが蝶から少し離れた場所にある、石材置き場に向かってそろそろと歩いていく。
    気づかれぬように無事たどり着くと、ジョンは両手で抱えられるほどのサイズの小瓶を持ち、身体全体を使ってシュシュっと2~3回香水を吹きかけた。
    ジョンは瓶を抱え直して即座にローリングでドラルク達の方へと帰還していく。

    ドラルクがジョンを抱え込むと、固唾をのんで蝶たちの動向を見守った。

    しかし、意外な事に蝶は香りの方向には集まらない。

    「あれぇ!?」「ヌー!?」
    「そんなバカな、お爺様特製だぞ!?私が前に使った時など蚊やらアブラムシやらキッスやら散々吸血鬼ホイホイだったというのに」
    ドラルクはもう一度黒い蝶たちを凝視する。
    かすかにだが吸血鬼だと自分の感覚は言っている。だが、なにか混ざっているように見えるので純粋に吸血鬼かというと怪しいのも確かである。

    なぜだ?ドラルクがさらによく観察しようと前のめりになっていると、後ろに立っていたヒナイチがぐらりと揺れたような気がした。

  • 47二次元好きの匿名さん22/07/22(金) 07:51:51

    「ヒナイチくん?どうしたんだい?」
    「大丈夫だ、気にしないでくれ」
    だが、ドラルクにはヒナイチの顔色が悪くなっているように見えた。
    「その顔色じゃとてもじゃないが戦闘ができるようには見えないぞ。やはり一度切り上げた方が」
    「大丈夫だ」
    ヒナイチが短く切り捨てる。言葉に、温度がこもっていない。

    「ヌ、ヌ?」
    ジョンがヒナイチの様子に怯えたように、少しだけ後ずさる。
    そして、足元の小石に躓いて転んでしまった。
    「ジョン!」「ヌァッ!」
    ジョンは香水瓶を抱えたまま前方に倒れる。
    その弾みで、シュッ、ともう一度香水が吹かれてしまった。

    ドラルクは慌ててジョンと香水瓶を抱え込んだ。
    「大丈夫かい、ジョン?とりあえず一回離れよう。なあ、ヒナイ」

    ヒナイチの首が、ぐりんと勢いよく回り、香水が吹きかけられた場所を凝視している。

    「ヒナイチくん」
    「大丈夫だ」
    ドラルクに声をかけられたことで、またぐるっとヒナイチの視線はドラルクの方向に向けられる。
    ヒナイチの目は開き切っており、瞬きを一度もしない。

    ドラルクは、無意識に一歩後ろに下がる。
    「どうして私から離れようとするんだ、ドラルク?」
    「いや、なんでだろうね」
    「ダメじゃないか、私から離れたら危険だぞ」
    徐々にヒナイチの声の温度が元に戻って、ドラルクに歩み寄ってくる。
    だからといって、今見た異常を無かったことにはできない。

  • 48二次元好きの匿名さん22/07/22(金) 07:53:40

    ドラルクは踵を返してヒナイチとは逆方向を走り出した。
    「逃げようとするなんてひどいじゃないか!」
    後ろから聞こえる声が、どう聞いたっていつものヒナイチの声にしか聞こえないのが恐ろしい。

    だからと言って、足を止めてはいけない。
    後ろを振り返ってもいけない。
    今見た異常と自分の中の警戒心を、無視してはいけない。

    だが、ドラルクにも自分の限界は分かっていた。
    ドラルクの肩が何かに触れる。そしてグイっと引っ張られ、こう耳元でささやかれた。

    「0いてic@ない;:eくれよ」

    次の瞬間、ドラルクの右肩に激痛が走る。
    ドラルクは何とか後ろに体をわずかにひねって、自分にできる力いっぱいであるものを地面に投げつけた。

    ガシャン!というガラスが割れるような音とともに、引っ張られていた肩の違和感が無くなる。
    ドラルクはその隙を見逃さず、走る、走る、走る。
    投げたものは、先ほど使った吸血鬼寄せの香水瓶。あとで爺に感謝しなければならない。
    アレが効いたと言う事は、やはり吸血鬼だったのだろう。

  • 49二次元好きの匿名さん22/07/22(金) 07:54:41

    撒けたと感じたドラルクは入り組んで薄暗い建築途中のビルの鉄骨にわずかに体を預ける。

    「ヌヌヌヌヌヌ……!」
    ジョンは涙を浮かべながら心配そうにドラルクの様子をうかがう。だが、返事が出来ず軽く撫でてやる事しかできない。

    右肩が痛い、息が苦しい。
    こんな痛み感じたことが……。

    そこでようやくドラルクは自分の身体の異常に気が付いた。

    ドラルクは恐る恐る肩の痛みに触れる。
    触ると染みるような激痛が走る。触った感触は生々しく、わずかに水気があった。
    手を目の前に出してみれば、白い手袋には赤黒い血液がこびりついている。


    死んでいない。

    感じたことが無い痛みなのは当然だ。いつもなら即座に死んで復活し、痛みはすぐに消えてしまうのだから。
    なのに今、死んでいない。

    ドラルクはへなへなとその場に座り込み、深いため息とともにうずくまる。

    知りたくもない終わりの合図が、足音を立てて近づいてくる。


    続く

  • 50二次元好きの匿名さん22/07/22(金) 10:32:22

    怪異が親しい人の姿をとって襲い掛かってくるのは王道だけどやっぱり恐ろしいですね それがバレる瞬間も含めて
    ドラルクもちょっとの攻撃でもう能力取られてるっぽいのが怖いですね…

  • 51二次元好きの匿名さん22/07/22(金) 12:00:22

    相手が狡猾なうえに性能も強めで厄介極まりないな…力を持ってる敵がドラルクの不死性?すぐ生き返れる能力?持つのはだいぶやばい
    続き楽しみにしてます

  • 52二次元好きの匿名さん22/07/22(金) 23:32:04

    保守

  • 53二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 01:00:33



    座り込んだドラルクの周りに、少しずつ少しずつ蝶が集まってくる。
    「ヌー……」
    「大丈夫だジョン、この程度の蝶の数じゃ大したことはできやしないさ」

    ドラルクは不安げに体を震わせるジョンをなんとか宥める。
    蝶がこれ以上増えたら、という仮定は話さなかった。
    自分の心を偽ってでもジョンを安心させる。それくらいしか今はできない。

    「でも、あんまり集まられたらさっきの偽物にバレてしまうかもしれないね。移動しようか」
    「ヌ、ヌヌヌヌヌヌヌヌヌ?」
    「本当に大丈夫だとも、ゆっくりだったら動けるよ」
    ドラルクは鉛のように重い身体を無理矢理立たせる。

    (……ッ!)

    走る激痛に声をあげそうになるが、歯を食いしばって堪えた。
    ジョンには悟らせてはいけない。
    主人たる自分が真っ先にくじけては、ジョンにも被害が及んでしまう。
    たとえ自分がクソ雑魚だとしても、信じてくれる使い魔に対してそんな情けない事をするのは許せない。

    ほとんど矜持の問題だった。
    ドラルクは自分のマントをバサッと脱ぎ、汚れた手袋を全て投げ捨てる。わずかな布の重みが今は煩わしい。

    「ハァ、……っ」
    傷ついた肩を動かさぬよう庇いながらドラルクは歩き出す。

  • 54二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 01:01:49

    建設途中の鉄骨の森の、さらに奥へと進んでいく。すると、

    『ドラルクさん、大丈夫ですか?』

    後ろから、行方不明になっていたへんな動物の声が聞こえる。
    ドラルクは足を止めなかった、振り向きもしなかった。

    『砂の同胞!』

    また別の効きなじみのある声が聞こえた。
    ゼンラニウムはVRCごと行方不明になっている。こんなところにいるわけがない。
    無視して歩き続ける。
    だが、


    『ドラルク』

    ドラルクは、とうとう足を止めてしまった。

    父の声だ。
    聞き間違える筈もない。

    『怪我をしているじゃないかドラルク!パパに見せてごらんよ!』

    ああそうだ、お父様ならそう言うだろう。
    あまりにも自分の知っている父の言い草で、ドラルクは罠だと分かっているのにどうしても振り返りたい衝動に駆られた。

    きっと見てはならないものだ。振り返ってはいけない。
    しかし首は自分の意思とは裏腹に、後ろを振り返ろうとしてしまう。

  • 55二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 01:02:55

    「ヌヌヌヌヌヌ!!ヌ゛ヌッ!!」
    その行動をジョンがドラルクの服を引っ張って必死に制止する。

    ドラルクは振り返る事にギリギリで持ちこたえるが、足が進まない。

    『どうしてこちらを見てくれないんだい、ドラルク?パパ悲しいよ、ウェーン!!』

    どうしてこんなに本人そのもののように話せるんだ。
    本当に腹が立って仕方がないっ!
    できる事なら後ろを振り返って殴りたかった。こんな時にゴリ造がいればさぞ痛快に暴れ倒してくれるだろう。

    ドラルクにあるのはこんな事になってしまった悲しみと、それを遥かに上回るマグマのように湧きたつ怒りだった。

    だが、その怒りはもうどこにもぶつけることはできない。

    ドラルクの背中にさらに衝撃が走る。
    大きな刃物でざっくりと背中を撫で斬られたように感じた。
    背中を切られた反動でそのまま地面に叩きつけられる。

    「グハッ!!」

    地面に叩きつけられた衝撃と、背中と肩の痛みの相乗効果により、ありとあらゆる激痛に全身が苛まれる。
    全身がカタカタと震えはじめ、息を吸ってもヒューヒューと抜けるような感覚に囚われうまく吸えない。
    「ヌヌヌヌヌヌ!ヌヌヌヌヌヌ!」
    ジョンが必死にドラルクの名前を呼んでいる。
    その声で意識が途絶えそうになるのをなんとかこらえた。数回浅い息を繰り返し、自分の背後にいたであろう攻撃してきたそれを見る。

    黒だ。
    身体は霧とか、モヤではない。はっきりとした漆黒の人型のシルエット。
    顔部分のみが、モザイクがかかったように酷くボケて見える。

  • 56二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 01:03:51

    手には鋭い血でできたような刃が生えていた。これで斬られたのかと、痛みでぼんやりとした頭で薄い思考を巡らせる。

    「それ」は、人型からシルエットを変えていく。
    たこ足のような触手をいくつも生やし、地面に捨て置かれたドラルクを器用に掴み取る。
    「うわぁああッ!!!」
    腕を乱暴に捕まれ全身を持ち上げられたことによってドラルクはとうとう叫びをこらえきれなくなった。
    何が原因かもはや分からない激痛に次ぐ激痛によって涙が止まらない。
    痛みが酷すぎていっそ死んでしまえればと願ってしまう。だが体は死どころ再生も始まらない。

    「ヌーーー!!!」
    ジョンが泣きながら必死に触手を叩く。しかし「それ」はまるで意に介さない。
    「…ジョ…げっ……ぅああああ」
    痛みと嗚咽で言葉が上手くつむげない。逃げてくれジョン。
    こうなっては何もかもが遅すぎるが、それでもジョンにはひどい目にあってほしくない。

    ドラルクを捕らえた触手の内の一本が、形を崩したかと思うと、人間の手に形を変えた。

    (なにを、する、つもりだ)

    触手から出た手は、ドラルクの右胸を軽く撫でる。
    その手つきだけで、もうさらなる嫌な予感しかしない。





    一方、ロナルドとヒナイチは黒い蝶を頼りに、建設途中の鉄骨の森までたどり着いていた。
    妙に黒い蝶が多い場所があったのを見つけてそこに駆け寄ってみると、鉄骨の柱付近にドラルクのマントと手袋が脱ぎ捨ててある。

  • 57二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 01:04:33

    「どちらも血まみれだ。大丈夫なのかドラルクは?」
    「あのクソ砂ならいつもだったら塵になるだけだろ。だけどこの出血量はもしかしたら他に怪我人がいるのかもしれねえ!探さねえと!」
    「ああ。ほかに手がかりは……、ロナルド、これ!」

    ヒナイチが指さした地面をよく目を凝らしてみると、かすかにだが足跡がわずかに残っている。
    「よし、辿ろう」

    二人はさらに鉄骨の森の奥の方へと走って進んでいく。
    慎重に他の手がかりはないかと、周囲に注意を張り巡らしている最中の事だった。


    『うわぁああッ!!!』

    ヒナイチとロナルドは顔を見合わせる。
    ドラルクの叫び声だ。

    悲鳴のする方向に向かって二人は全力で走り出した。あまりにも尋常じゃない叫びだった。
    ロナルドは走り出しながら銃を握り、ヒナイチもいつでも抜刀ができるように刀に手を伸ばす。

    『ヌーーー!!!』
    走っている最中に、今度はジョンの必死な叫び声が聞こえる。声のした場所がさっきよりも近い。
    どうにか間に合ってくれと祈るような気持ちで、二人は走った。

    鉄骨の間を縫って走りつづけ、ようやく二人はそこにたどり着く。

    そこにいたのは、黒い何か。
    最初ははっきりとした人型のシルエットに見えた。
    だが、その形を見ているにつれてどうしようもない違和感を覚え始める。
    何人かの影が重なっているかのように、輪郭の端々がモザイクの様にボケている。
    特に顔は、何十にも何かが重なって全く焦点が合わない。

  • 58二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 01:04:53

    そして、その黒い何かは次第にたこ足の様に触手を生やした謎の化け物のようにも見えると気が付く。
    触手の化け物が、一本の触手を伸ばして何かを掴んでいる。

    怪我と血の汚れでひどく薄汚れたドラルクが、その触手によって掴まれている。

    ロナルドはほとんど勘でその伸ばしている触手に向かって銃を数発撃った。
    ブチブチッと肉々しい硬さの何かに当たった音がしたが、触手は特に気にした様子もない。
    別の人間の手の形をした触手を、掴んでいるドラルクに近づける。

    ロナルドは自分のできる全速力でさらに駆け抜け、銃を撃ち続ける。

    効け、効いてくれ、その手を離せ、力を緩めろ!!


    その願いは届かない。

    人の手の形をした触手は、ドラルクの右胸を一撫でする。
    そして手のひらを何かを鷲掴むような形で緊張させたかと思うと、ドラルクの胸目掛けてその黒い手をズブリと沈めた。


    「___っ!!!」

    ドラルクの声にならない絶叫が、ロナルドの鼓膜に強く響いた。



    続く

  • 59二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 01:21:31

    なんか色々心にくる…
    無力なジョンの叫びとか、父親の声に振り返りそうになるドラルクとか、多分誰にも知られないところで食われてるナギリとか…
    あと落ちてたマントが想像よりかなりのトラウマっぽくてつらい
    続き楽しみにしてます

  • 60二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 03:45:38

    乙です…。
    むり、つらい。
    みっぴきのことでしんどいのはもちろん、いつの間にか喰われてるナギリもつらい…。
    今回分を読んで2時間ちょっとで、目の前で喰われる辻田さんを全く助けられず絶望した後喰われたカンタロウとかいたのかなとか、単独で喰われたならカンタロウが廃人になったのかなとか、神在月先生とかがいつまでも探し続けてその日が来たのかなとか、色んなパターン考えたけどどれもむりつらい…。

  • 61二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 06:57:23

    偽物だったのはドラルクについてった方だったか……
    一番怖いのは「わからないこと」だとはいうが、この「アレ」はまさにそのパターンやん……
    この「アレ」が一体なんなのか未だにはっきりしてないっていうのが……

  • 62二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 10:14:46

    ギリギリさん…嘘だと言って…

  • 63二次元好きの匿名さん22/07/23(土) 18:29:33

    ここからさらに地獄がお出しされるんでしょう……?(震え声)

  • 64二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 00:03:16

    保守

  • 65二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 00:06:57




    その手はドラルクの右胸を深く深く抉っていく。
    ドラルクは見たこともないような苦痛にひどく歪んだ形相で叫び続け、その絶叫は痛々しさのあまり聞くに堪えない。

    ロナルドは状況の恐ろしさに完全にパニックを起こしていたがそれでも走る事を止めなかった。むしろパニックを起こしていたからこそ近寄れたのかもしれない。
    無我夢中でドラルクを襲う黒い何かに飛び掛かり、なんとか引き剥がそうと力いっぱい触手を引っ張るがまるで動じる様子が無い。
    どれだけ力を込めても触手を引きちぎる事も壊すことも出来ず、ただ無情にドラルクの苦痛の叫びを聞き続ける事しかできない。

    「やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、」
    それでもロナルドは腕を止めない。
    諦めない。
    どれだけ冷静な自分が無理だと断言していても、ここだけは譲ってはいけない。

    「やめてくれっ!!!!」

    こんな酷い事をしないでくれ。
    こんな目に合うほどの悪人じゃない筈だ。
    こんなに苦しんでいる顔を見たくない。

    子どもの様に叫び、駄々をこね続けても状況は一つたりとも変わらない。
    ロナルドは一本の触手によってすげなくはたき落とされる。
    地面に叩き落とされ、それでも再び飛び掛かろうと起き上がったロナルドは、とうとうそれを見てしまった。


    ズブッ

    ドラルクの右胸を抉っていた腕が引き抜かれた。
    ドラルクの叫びがぱったりと消えてなくなる。

  • 66二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 00:07:57

    元々生気なんざ無縁な顔色だが、もはやそういう次元の話ではない。

    ドラルクの全身が糸が切れたように痛みによるこわばりや、掴まれていることで生じる体の緊張が一切なくなっている。
    あれほど苦痛に歪んでいた顔も、泣き叫んでいた声も、今は何も発することもなければ動くこともない。
    まるで、電池の切れた人形のようだ。


    そしてドラルクから引き抜かれた黒い手には、キラキラと赤黒く輝く何かが握られている。

    宝石、だろうか?

    赤黒く生き物のように脈動する宝石のようなものが握られている。

    「それ」は、手で宝石をつまみ上げるとモザイク状の顔の口部分をばっくりと大きく引き裂く。

    そしてそのままばくりとスナック菓子でも放り込むかのようなしぐさで、「それ」は宝石を食べてしまった。

    ドラルクの体が掴まれた状態で砂時計の砂が落ちるかのような勢いで地面に塵となって零れ落ちていく。
    見慣れた光景なのに、なぜかいつものように蘇る気がまるでしない。

    突風がどこからともなく吹き上げてきたかと思うと、塵はすべて綺麗に風に吹かれ、その場には跡形もなくなる。

    そして気が付けば、黒い「それ」は幻のように完全に消えてしまった。

    残されたのは見ていることしかできなかったロナルドと、日本刀が完全に折れて倒れているヒナイチと、地面に雑に放っておかれたジョンだけ。

    「……ジョン」
    ロナルドがふらふらとジョンの元に近寄る。

  • 67二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 00:08:41

    ジョンはピクリとも動かない。
    「ジョン」
    ロナルドがジョンの体を揺さぶっても、ジョンは愛らしい返事を一つも返してくれない。

    ジョンの体が冷たい事に気が付いた。

    「ジョン」

    ロナルドがもう一度ジョンを揺さぶるが、身体は固く、ぼろっとジョンの片腕がクッキーでも割れるように簡単に取れた。

    「__っ」

    一度形を失えば、崩壊はもう止まらない。
    あんなに愛らしかったアルマジロの体は砂細工が崩れていくように、塵となって零れ落ちていき、完全に形を無くした。

    吸血鬼と使い魔は運命共同体なのだよ!と、説明していたのはいつだったか。

    この現象が意味する現実と、失われてしまった者たちの事を考え、ロナルドは嗚咽を上げた。





    「なにもできなかった」

    ヒナイチが荒み切った目で残されたジョンの塵を見つめている。
    ヒナイチの得物である二本の日本刀は綺麗に折れており、ギリギリまで奮闘したのが見える。
    手や顔もはれ上がっていたり白い吸対服が汚れで灰色になっていたりと、頑張ってくれていたのだと言う事はロナルドには痛いほどに分かった。

    結果は伴わなかったが。

  • 68二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 00:09:28

    「ちゃんと戦ってくれてたんじゃねえか」
    「それだけじゃ意味が無い」
    「そんなこと言うなよ。お前はやるだけやったって」

    形だけの空虚な言葉の応酬だった。
    いつものロナルドなら、ヒナイチなら、もう少し相手の事を考え、真心を込めて慰めたりも出来た筈だ。
    けれど今の二人には、そんな余裕が微塵もない。だから、あっという間に決壊する。
    ヒナイチがギリッと歯を食いしばった。

    「意味が無いだろ!!」

    「……なんにもできなかった。私の技は、何一つ通用しなかったし!!何も止めることが出来なかった!!」

    「私にもっと力があれば、あんなこと止められたのにっ!」
    「無理だろ」
    ロナルドが恐ろしく冷酷な口調で言い切った。

    「力も技もあったって無理だろ。この状況になった時点で詰みだ。俺もお前も」

    「あーあ、あいつとっととこの街から逃げればよかったんだ。爺さんのところにいれば、しばらくは安全は確保できたろ。ほとぼりが冷めるまでそこにいりゃあ良かったのに」
    「なんてこと言うんだ。それにこの街はまだ……」

    「それが現実だろっ!!」
    ロナルドはとうとう吐き捨てた。

    「そうだよ俺もお前もなんにもできなかった!技でも暴力でも何一つアレを止められなくて誰も助けられなかった!!それが現実!俺たちに「アレ」に対抗できる手段はない!!そして、まだアイツは……「アレ」はこの街にいる」

    「ドラルクも死んだ!ジョンも死んだ!見殺しにすることしかできなかった!!へんなやVRCも学校も全部消えて、ヴァミマの店長だって死んじまった!!でも「アレ」は無傷だ!じゃあ次は何を狙う!?」

    「この街全体だろ」

  • 69二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 00:10:06

    「っ、ぅ……、うわああああああん」
    ヒナイチの涙腺がそこで決壊し始めてしまった。
    「ごめん」
    ロナルドはそこでようやく頭が冷えて、首を垂れる。

    不毛だった。お互いに理性のかけらもない子供のような八つ当たりだった。
    それをしてしまうほどに、心が完全に折れてしまっている。

    「ごめん、ヒナイチ」
    「……わたしも、わるかった」
    「あんなに痛そうだったのに、俺も何にもできなかった」
    「私だってどうにかしてやりたかった。でも何にも止められなくて、絶対つらかったはずなのに」

    あんな最後にしてしまったことが、二人にただただ悲しみとして重くのしかかる。
    そして、この地獄はそれだけでは終わらないのである。


    「……ッゲホ、ゴホッ」
    ロナルドは急に喉元が引っかかるような違和感を覚えて咳き込む。
    「だいじょうぶか?」
    「ああ、むせただけ……あ」

    ロナルドは咳を手で押さえると、口から何かが吐き出たのを感じる。
    慌てて、手が汚れていないか口を抑えた手のひらを見てみると、そこには予想外の物がこびりついていた。

    黒い、ヘドロ。
    黒いヘドロが、ロナルドの口からこぼれ落ちていた。


    続く。

  • 70二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 09:34:58

    おお…これでもかと追い込んでくるなあ
    続き楽しみです

  • 71二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 11:48:01

    とうとうジョンの夢に見た状況が判明してしまった…
    そして今ロナルドも食われようとしている…
    続きすごく楽しみにしてます!

  • 72二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 23:01:28

    ぬしゅ

  • 73二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 23:36:21

    圧倒的な絶望感
    読んでてヒエッてなった
    続き楽しみにしてます…!

  • 74二次元好きの匿名さん22/07/25(月) 00:35:01



    口からこぼれ出たものを認識した途端、ロナルドは腹の底からのこみ上げるような吐き気を感じ、何とか口を無理矢理手でふさぐ。

    「……っ」

    口の中で胃液とは明らかに違う苦みが広がり、そのまま吐き出してしまいそうな衝動に駆られるが何とか飲み下していく。
    「ロナルド?」
    ヒナイチが不安げに様子を窺うが、返事をする余裕がない。
    一言でも喋れば全部吐いてしまいそうだった。

    「っ、はぁ、はぁ……」
    ようやく吐き気を全て流し込み、口を開いて肩で息をする。
    自分の身に何が起きているのか分からない。

    ただ、あのヘドロがろくでもない事だけは直感的に分かった。
    自分に残された時間も、おそらくそう長くはない。
    せめて、ヒナイチだけでも逃がすべきだ。

    「なあ、ヒナイチ」

    ロナルドがヒナイチに提案をしようと顔を上げると、そこには誰もいない。

    「……は?」

    それどころか、鉄骨でできた建築地帯もなくなっている。
    あたりには街灯や街路樹がちらほら残っているだけで、建物らしい建物がまばらに消失している。

    「なんで」
    ロナルドが無意識に足を前に動かすと、ズブズブと足が何かに沈んでいく。

  • 75二次元好きの匿名さん22/07/25(月) 00:36:01

    下を見れば、周囲の地面は全て水没し、足元が足首ほどまで黒い水のような物に沈んでいる。

    「……ヒナイチ、ヒナイチどこだ!!」

    ロナルドがヒナイチの名前を叫ぶが、返事は返ってこない。
    周囲はロナルド以外無音だ。
    不自然なほどに環境音が無くなっている。

    「クソッ!」

    ロナルドは走り出した。
    誰かいないのか、せめて自分以外の誰かは。

    ジャボジャボという音を盛大に立てて、ロナルドは走る。
    街灯やわずかなビルを頼りに、元来た道を戻っていく。

    見知った街は少し時間が経つたびに形を変えていく。

    「誰か!誰かいないのかー!!」

    叫ぼうが何をしようが人影は見えない。
    ロナルドが走り続けていると、足元に大きな物体にぶつかり、躓き倒れそうになる。
    「うわっ!」
    何か硬いものが入った布袋にぶつかったような感触がした。
    ロナルドが一度立ち止まって足元を確認する。

    服を着た白骨が倒れていた。

    ロナルドはまた何も言わずに走り出す。
    恐ろしさも驚きも全てがマヒしてきている。

  • 76二次元好きの匿名さん22/07/25(月) 00:36:54

    何もかもを放り投げて逃げだしたい。安心が欲しかった。
    だけどまだ駄目だ。ヒナイチは見つかっていない。ギルドの皆や吸対の皆は頑張っているかもしれない。
    ならまだ、動くしかない。

    走り続けてほとんど面影の無いギルドの付近にたどり着く。
    周辺のビルはほとんど消え去っており、かろうじてその場所だと判別できる程度だった。

    ギルド入っていたビルももう、完全に消え去っている。

    「だれか、いないのか……?」
    疲れと心労でか細くしか声が出てこない。

    そろそろと歩き続けると、また足元に何かがひっかかる。

    「……あ」

    足元を見る。

    地面に、おびただしい数の衣服の山が落ちている。
    服によっては完全に消化されたものもあれば、白骨が残っているもの、肉が不完全に食い散らかされたもの、様々な地獄が見えた。

    見慣れた服がいくつも見える。
    いくつかの白い吸対服、意匠の凝った退治人服、BBOと書かれたパーカー。


    「はは、はははははは、ははははははは」

    ロナルドは膝から崩れ落ち、壊れたおもちゃのように笑った。

  • 77二次元好きの匿名さん22/07/25(月) 00:37:32

    服の柄を直視できない。
    誰が死んだかを理解したくない。

    終わってしまった。もう全部終わってしまった。

    この街がとっくに終わっていたことなど、分かっていただろうに。

    そう理解した瞬間、街に残っていたなけなしの外灯が全て消えた。





    光一つささぬ暗闇に、ロナルドは取り残される。

    何も見えない。何も聞こえない。
    星一つ瞬かない。

    生の実感を感じるのは足元をたゆたう黒い水の感触と、光を必死に探そうとする瞳孔の動きのみ。
    おぼろげな思考でスマホを取り出して、電源を入れてみようとするが、電池切れにでもなったかのようにうんともすんとも言わない。

    見えないながらも空気の圧だけは感じていて、重苦しいものがロナルドの周囲を渦巻いていると感じた。

    ただの気配は次第に明確な形を作っているようで、細長い何かがいる。

    蛇?

    直感的に蛇だと感じたが、見えないので答えなど分からない。
    自分の事を食べるのであれば、もったいぶらずにさっさと食べてしまえばいいのに。

  • 78二次元好きの匿名さん22/07/25(月) 00:38:14

    疲れてしまった。
    沢山の人が死んでいると分かるのに、涙一つでてきやしない。
    失ったものが多すぎて、悲しむことも上手くできない。

    完全に負けたことは分かったから、もうとっと終わらせてくれ。

    一人だけ残されるのは、さみしいのだけは、いやだ。


    その願いに答えるように、蛇のようなそれはロナルドの前にいるのがわかる。

    (苦しくないと、いいな)

    ぼんやりとそんなことを考えながら、暗闇で何も映すことのできない両目を気配のする虚空に向けながら、ロナルドは終わりの時を待った。

    その時である。
    視界の端に光るものが目に入った。
    何もなかったはずの暗闇の天井に、突然の光源が差し込んでくる。
    街を覆うドーム状の暗闇に、突如として穴をあけられて差し込んできたかのようなそれは、月。

    月の出る時間だったろうか。
    時間間隔も狂っているのでもうそんなに時間が経ったのかもわからない。
    だが最後に明かりが見えたことは、ほんの少しの慰めになった。

    しかし月が出たことで、思わぬ副産物も発生する。
    ロナルドを狙っているそれの、全貌が月明かりに照らされて分かっていく。

    まず印象的だったのが白い骨だった。

  • 79二次元好きの匿名さん22/07/25(月) 00:38:50

    二本角と牙を持った巨大な爬虫類の頭骨から、蛇の背骨のようなものが長く伸びている。
    細長いその胴体には三本指の手足の骨格が付いており、スカスカの中身には内臓や筋肉の代わりに黒いモヤが詰まっていた。
    そのシルエットとモヤ込みで見る全貌は、まるで__

    (龍だ)

    ロナルドは確信した。
    目の前にある怪異は、東洋龍の骨格標本のようだった。
    そういえば、初めて遭遇した時も巨大な白骨だったことをロナルドは思い出す。
    この怪異の象徴なのかもしれない。

    巨大な頭骨は、ロナルドをじっと見て、口を大きく開けていく。

    (俺、龍に食われるのか)

    痛そうだな、と他人事の様に考える。
    一口で終わってしまえばいいのにとも。
    ロナルドには反撃の意思はもうない。ただ、静かに終わりの時を待つ。

    白骨龍の頭骨が、ロナルドを飲み込もうと近づいた。

    次の瞬間である。

  • 80二次元好きの匿名さん22/07/25(月) 00:39:21

    キンと鋭い耳鳴りがしたかと思うと、目の前まで迫っていた頭骨が何かの衝撃によって横に吹っ飛んでいく。
    あまりのスピードでロナルドは一回では視界にとらえきれず、もう一度注意深く頭骨を襲った何かを観察した。
    白骨龍はもだえ苦しむように周囲を暴れまわっている。
    白骨龍ののど元に、何かが激しく食いついているのだ。

    それは、巨大な黒い西洋竜。

    西洋竜は激しく攻撃し、噛んでいた首根っこを乱暴に食いちぎって頭骨を地面へ吐き捨てる。
    頭を失った白骨龍はビタンビタンと胴体部分を跳ねさせた。まるで悶え苦しんでいるかのような様子である。

    ロナルドは黒い西洋竜をの背中部分に誰かが乗っているのを視認した。
    そこにいるのは和洋折衷の洋服を着た、凛々しい黒い長髪の女性。


    「ようやく掴まえたぞ、外道」

    ドラルクの母親のミラが、血も凍るような微笑みでそこにたたずんでいた。


    続く

  • 81122/07/25(月) 00:43:00

    なかなかしんどい展開を読んでいただきありがとうございます。ここ数日書く側もしんどかったです。
    過去編まだまだ続くんじゃよ

  • 82二次元好きの匿名さん22/07/25(月) 07:15:03

    これはトラウマにもなる……

  • 83二次元好きの匿名さん22/07/25(月) 11:06:34

    これでトラウマにならない方が嘘だわ…西洋竜は御真祖様かな?東洋龍VS西洋竜の戦いは何気に熱いそれどころじゃないけど

  • 84二次元好きの匿名さん22/07/25(月) 19:58:55

    大変な状況なんだけど
    ミラさんカッコいい畏怖ー!と思ってしまった

  • 85二次元好きの匿名さん22/07/25(月) 22:06:23

    間一髪でロナルドは助けられたけどこれ夫も息子も奪われてしまってミラさん悔しいだろうな…

  • 86二次元好きの匿名さん22/07/26(火) 00:40:29



    白骨龍はモヤでくびり落ちてしまった頭を滑るように回収すると、西洋竜に対して牙をむきだし、食って掛かろうと襲い始める。
    一方の西洋竜は落ち着き払っており、空中を高速で飛び回りながらも無駄のない動きで白骨龍の噛みつきを綺麗にかわしていった。
    攻撃が当たらないと理解したらしい白骨龍は、今度はその長い胴体を周りに絡みつかせようと西洋竜と並走飛行をはじめる。

    ロナルドから見ても激しい攻防戦であった。
    長く反撃をおこなわなかった西洋竜は、急に飛行速度をどんどん加速させていく。白骨龍はそれに追いつこうと、こちらも猛スピードで加速していくが、西洋竜は自分に白骨龍が付いてくるのを確認すると、気まぐれな動きで突然飛行に急ブレーキをかけた。
    白骨龍も慌てて加速を止めるが、長い尾は減速についていけず飛行の姿勢がわずかに崩れた。
    西洋竜は、そのわずかな崩れを利用して一気に白骨龍の体を掴み上げた。

    西洋竜は暴れる白骨龍の胴体を鷲掴みにしたまま、地面に強く押し付ける。
    水しぶきをあげながら白骨龍は何度ものたうち回るが、よほど西洋竜の力が強いらしくまるで拘束から抜け出すことが出来ない。

    わずかに抵抗が緩んだ段階で、ミラが西洋竜の背から降りて白骨龍の頭へと静かに歩いていく。
    ミラは頭骨の前まで歩き立ち止まると、頭骨の顔色を窺うように体を傾けた。

    「吸血鬼の気配が色濃いな。随分と同胞を食い散らかしたと見える。おまけに血なまぐさい事この上ない。大層人も食ったんだろうなあ」

    「一体何人その胎に収めたんだ?」

    ミラの言動は落ち着き払っている。
    だがロナルドは背筋が寒くて仕方がなかった。
    その言葉にどれだけの恨みつらみ怒りがこもっているのか計り知れない。
    先ほどまで感じていた絶望感による恐怖とはまた別種の恐怖であり、怒らせてはいけないものを怒らせたと感じるに十分である。

  • 87二次元好きの匿名さん22/07/26(火) 00:40:56

    ミラは穏やかに微笑む。

    「まあいいだろう。おかげで私もここに来ることが出来た」

    「もともと吸血鬼ですらないものに対して、私の能力は無力だ。1でもあればやりようはあるが、0にいくら数を掛け合わせても0は0だからな。無味無臭、吸血鬼ではないお前に対して私にできる事は無い。それが今はどうだ?」


    「胎にため込んだ吸血鬼で、こんなにも存在が我々に近しいものへと染め上がっている」

    ミラは凄絶な笑みを浮かべて巨大な頭骨を両手で掴む。

    ミラの両手が触れた途端、白骨龍は尋常じゃない様子で暴れはじめる。
    体内を埋め尽くしているモヤが周辺に散らばり、先ほどの余裕がまるでない。少なくとももがき苦しんでいるようにロナルドには見えた。

    だが同時にミラの様子もおかしい。
    「……くっ」
    何か能力を使っているのか、苦悶の表情で暴れる頭骨を掴み続けている。

    「逃がしてなどやるものか」

    「お前の奪った物、その全て。取り返すまで逃がしてなどやるものか!!」

    空気が揺らぐ。
    視界が揺らぐ。
    空間が揺らぐ。

    ロナルドは今自分が立っているのか座っているのかすらわからない、前後不覚の状態になり、そして意識が完全にブラックアウトした。

  • 88二次元好きの匿名さん22/07/26(火) 00:41:55




    「っ、ヒック……グス…」

    誰かのすすり泣きが聞こえる。
    仰向けに倒れている身体の下半分が水に沈んで濡れていることがわかる。
    頭部分だけは何かが枕になっていて、沈没を免れているようだった。

    ロナルドが薄目を開ける。

    ああ、ヒナイチか。
    ヒナイチが、子供の様に目をこすりながら泣きはらしている。
    ただ異様なのはヒナイチの体の輪郭部分が光に覆われている事だった。
    ろくに光源の無いこの空間ではとにかく眩しく、その光はまるで陽光のよう。
    あまりにも眩しくて、少し手のひらで目を隠してしまうほどだった。

    「…ひっく……、ロナルド?起きたのかロナルド!」
    ヒナイチが意識を取り戻したロナルドに気が付き、身体を揺さぶる。
    「おれ、どうなったんだ……?」

    「よかった、生きてた……!お前まで死んだらどうしようとおもって、ほんと、よかった……」
    そういってヒナイチはまた涙を手で拭う。
    どうやらヒナイチが膝枕をしていてくれたらしい。ロナルドが上半身をゆっくりと起こすと、辺りには何もないただの黒い空間にいる事が分かった。
    ロナルドはヒナイチの頭をぽんぽんと叩くと、意識が失う直前に見ていた光景を口に出す。

    「……竜は?」
    「竜?なんのことだ?」
    ヒナイチは本当に分からないようで小首をかしげる。

  • 89二次元好きの匿名さん22/07/26(火) 00:43:01

    「あー……、俺を見つけるまで、ヒナイチはどうしてたんだ?」
    「私は、あの工場地帯といつの間にかお前とはぐれてしまって、叫んでも探してもお前がいなくて、怖くなって」

    「それで一度ギルドの方に戻る事にしたんだ。でも、建物も段々無くなっていって、肝心のギルドは、みんな、」
    ヒナイチはそこで声を詰まらせる。

    「みんな、しんじゃってて」
    ロナルドは深くため息をついて目を伏せる。

    「それでもう、耐えきれなくなって、その場から逃げ出したら、急に明かりが全部消えたんだ」

    「何にも見えなくて聞こえなくてパニックになって、走っても歩いてもなんにもぶつからなくて、途方に暮れて」

    「このまま私も死ぬのかと諦めてたら、突然自分自身が光りはじめたんだ」
    「それで、俺を見つけたのか?」
    ヒナイチはこくんと頷く。

    「自分の光を頼りに歩いていたら、倒れて沈みかけてるお前を見つけて、そのまま介抱してた」
    「そうか。他に人はいなかったんだよな?」
    「私が探した範囲ではいない。いたら、一緒に行動してると思う」

    途中まではロナルドと同じような状況をたどっているが、光が消えたあとはまるで違うルートをたどっている。
    話を聞いていると自分の記憶の方が嘘だったように感じてしまった。
    本当に、あの竜どうしの争いとミラは実在したのだろうか?

    「ロナルド、これからどうする?このまま果てを探して歩くか?」
    「いやそれは、果てあるのか?これ」
    闇雲に歩きつづけても、なにもたどり着く気がしなかった。

  • 90二次元好きの匿名さん22/07/26(火) 00:43:59

    「じゃあ立ち止まるのか?多分、助けは来ないが」
    「それも、ちょっと……」
    どっちにせよ、二人の道行きは詰んでいる。
    だからと言って、自死もいまさら選ぶ気にはなれなかった。
    自分一人だったら銃口をこめかみに当てたかもしれないが、ヒナイチがいるのであれば、まだギリギリ頑張る気になれる。
    さて、どうしたものか。

    「あ」
    ヒナイチが何か見つけたような声をあげる。
    「何か見つけたのか?」
    「いや、月なんていつの間に出てたんだ?」
    「月?」
    ロナルドがヒナイチが指さす方向に視線を向ける。

    間違いない、さっき白骨龍と同じタイミングで現れた月だ。
    「私一人の時は何もなかったのに」
    「月に向かって歩いてみようぜ。あっちに行けば、何かあるかもしれない」

    ロナルドはヒナイチの手をとって歩き始める。

    月明かりに照らされて、二人は兄妹のように手をつなぎ、黒い水面の張った水平線を歩く。
    満月だけが水面を照らし、細く長い月明かりの道を作り出していた。

    「なんで突然光りはじめたんだろうな」
    「私にも分からない。どうやったら止まるんだろう、この光」
    「でもこの暗闇だとお日様みたいで安心するぜ?」
    「それは良かったが。このままじゃ私ビックリ人間みたいじゃないか?人間ランタンじゃないか!」
    人間ランタンという言葉にロナルドは吹き出してしまった。
    ヒナイチは拗ねたように頬を膨らませる。

  • 91二次元好きの匿名さん22/07/26(火) 00:44:42

    「昔だったらサーカスの見世物にでもなったかもな?」
    「それは嫌だぞ!絶対に直すからなこの光!オフにする方法が分かると良いんだが」
    あまりに真面目にヒナイチが言うものだから、ロナルドはけたけた笑ってしまう。
    絶望的な状況には変わりないが、他愛もないこの会話が、ほんの少しだけ気安めになった。

    だから、ついロナルドは言ってしまった。
    「きっとドラ公が見たらからかったろうな」
    「そうだな、ドラルクが見たら……」
    二人とも日常会話の癖でついドラルクの名前を出してしまい、沈黙する。

    「もう終わってしまったんだな、あの生活は」
    「……そうだな」

    楽しかったあの生活は、戻ってこない。

    「取り戻せないんだな、私たちには」
    「ああ」

    悲しかった。


    『取り戻したいですか?』

    ロナルドは突然の謎の声に足を止めた。

  • 92二次元好きの匿名さん22/07/26(火) 00:45:03

    「誰だ?」
    警戒心から鋭い声をあげる。
    一体誰だ、さっきまで人の気配はしなかったのに。

    『驚かせてすいません、私ですよ。ロナルドさん』

    何もない空間から、謎の穴が開くような音が聞こえる。
    ロナルドはその光景に見覚えがあった。
    何度も何度も泣かされた、その現象を起こす主は。

    「フクマさん?」

    穴からスーツを着こなし眼鏡をかけた黒髪長髪の成人男性が現れる。
    腕には数冊の本を抱えており、いつもはピシッと決まっているスーツが、今日に限ってはやけにボロボロだった。

    『ようやく見つけましたよ、ロナルドさん』

    『反撃の一手を持ってきました』


    ヌヌヌ(つづく)

  • 93二次元好きの匿名さん22/07/26(火) 07:08:55

    あのフクマさんがボロボロになってるなんて……

  • 94二次元好きの匿名さん22/07/26(火) 11:07:37

    竜同士の戦いもミラさんもかっこいい!二人共ロナルドを認識してなかったっぽいけどマジで認識できなかったのか戦闘に夢中で気づかなかったのかどれだろう
    ロナルドとヒナイチ合流出来たしフクマさんに見つけてもらえてよかったねと思ったけどボロボロなのか…フクマさんをボロボロにするって何事?

  • 95二次元好きの匿名さん22/07/26(火) 20:38:59

    未だに絶望状態だけど1人じゃないだけで安心感がある
    御真祖様とフクマさんが苦戦してるのは恐ろしいな

  • 96二次元好きの匿名さん22/07/26(火) 20:43:18

    ボロボロでもフクマさんはなんか安心できる…反撃の手段用意してやってきてくれるのかっこいい

  • 97二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 00:48:34



    「反撃の一手?」

    ロナルドが思わずフクマの言葉を復唱する。

    『はい、こちらをご覧ください』
    フクマはロナルドに持っていた本数冊を手渡す。

    「あ、どうも。……え?でも、これって」
    ロナルドは手渡された本をまじまじと見つめる。
    この分厚さ、装丁、そして見慣れた表題。これはどうみても、


    「ロナ戦、じゃないですか」
    『はい』

    フクマはニコニコとほほ笑んだ。

    「ロナ戦が反撃の一手に?why?どうやって!?」
    「でもロナルド。このロナ戦の表紙、おかしくないか?私このイラストは見たことないぞ」
    「へっ?あっほんとだ!なにこれ!?」
    ヒナイチの指摘でロナルドが手渡されたロナルドウォー戦記の表紙イラストを見比べてみる。
    普段着ている退治人衣装とは別物の表紙もあれば、吸血鬼のような姿をした表紙もある。

    かと思えば、そもそも出版したのかも怪しい分厚い書類の束もあった。
    書類の束は手書きの手記のようだった。
    書かれている内容をさっと読んでみると、確かにロナルドの筆致ではあるし、ロナルドの文章なのだ。
    だが、書かれている内容にはまるで覚えがない。

  • 98二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 00:49:05

    「フクマさん、これは一体……?」
    ロナルドは恐る恐るフクマの顔色を窺う。
    フクマはニコニコした様子で解説する。

    『はい、こちらの書籍は私が並行世界からかき集めてきたロナルドウォー戦記一式です』

    「待ってくださいいきなり爆弾発言をぶち込まないでくださいそしてできれば俺のキャパシティを容易に超えてこないでください混乱してしまいます」

    フクマはロナルドの困惑しきった様子にすこし困ったような顔をする。
    『シンプルに要点のみをお話したつもりだったんですが、もう少しかみ砕いた方がよかったでしょうか』
    「外野からの意見だが、かみ砕くとかそれ以前の問題だと私は思う」
    「普通の人は並行世界なんて言葉簡単に飛び出してこないんですよフクマさん」

    「っていうか、並行世界って何ですか!?しかも複数あるって事は数回並行世界に行ったんですか!?」
    『いえ、私も並行世界に行くのは流石に容易ではありませんよ』
    「よかった!フクマさんにも難しい事あったんだ!行けてる時点で意味わかんねーけど!!」

    『このような状況下でなければ、私も行くことは叶いませんでしたから』
    「それって、今のこの真っ暗闇な状況の事ですか?」
    『はい。もっと言いますとドラルクさんのお母様が介入しなければ、この本を手に入れる事はできませんでした』

    「オフクロさんが?」
    フクマは目を伏せて静かに頷く。

    『お母さまの能力は、吸血鬼の能力の介入と使用。つまり他の吸血鬼の能力を使用することが出来ます』
    「それじゃあ、オフクロさんがこの場所を作った吸血鬼の能力を使ったんですか?」

    『ええ。……もともとは吸血鬼ですら無いモノだったんです。一つか二つ次元が上の存在とでも言いましょうか。存在が小規模な間は、様々な世界を渡り歩き漂流する漂着神のようなものだったようです。今は肥え太り、その規模には収まっていませんが』
    「フクマさんは、その世界を渡り歩く力を使ってロナ戦を?」
    『はい。随分と時間と労力はかかりましたが』

  • 99二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 00:49:44

    「えっ、でも俺たちここに取り込まれて、多分2~3時間くらいしかかかってないですよ」
    「私も体感ではそれくらいだ」


    『私の体感では、100年です』

    「「えっ」」
    『100年です。漂着しても狙った時間に行けなくて、待つ必要もあったんですよね。吸血鬼の時間スケール長いですから』

    「……サラッととんでもない事言わんでください!ていうか全然年取ってないですよフクマさん!」
    『今の姿は話を混乱させないための擬態なので。本来の姿、見ますか?』
    「いいですその姿のままでありがたいです!」
    下手に本来の姿を見ると1d100ぐらいのSAN値チェックを受けそうな予感がしたロナルドは慌ててもぞもぞと動き始めるフクマさんを止めた。

    「ちょっとまってくれ、100年?外の世界は100年経ってるのか?」
    『時間の流れが歪んでいるので一概には100年とは言えません。ですがこの暗闇の世界と外の世界ではある程度ズレがあるでしょうね。我々の敵にとって、その性質上時間の概念は些事でしょうから』
    「俺たち浦島太郎かなあ」「なんかもう気持ち悪くなってきた……」
    『大丈夫です。それを解決するためにこの本をお持ちしたんですから』

    ロナルドは、フクマの持ってきたロナ戦をじっと見つめる。
    「なんで、俺の本が反撃の一手になるんですか?フクマさんが100年もかけて集めてくれるほどの、価値のあるものなんですか?」

    『あります』
    フクマはしっかりと肯定した。

    『いろいろな並行世界。前提のまるで違う環境、人間関係であったとしても、変わらぬものは確かにあるのです』

    『たとえばロナルドさんとドラルクさん、あなた達二人の出会いもその一つ』

    ロナルドは目を見開く。

  • 100二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 00:50:35

    『差異はあれどロナルドさんとドラルクさんが出会った人や吸血鬼、様々な人々の戦いや生活が、この数々の本には記されています。私たちの世界では完全に失われてしまった人々ですらも』

    『ドラルクさんのお母さまの能力により、この敵対する存在の能力は使用できるとは言いました。敵の今の規模ならば、時間軸ですら操る事も出来ます。しかし「アレ」によって失われてしまったもの、一度吸収されてしまったものは時間を巻き戻したとしても単純には元には戻らないのです』

    『ですが、完全に吸収されてしまったわけでもありません。あの黒いモヤのなかで粒子の様にぐずぐずに溶けてしまっただけで、きっかけがあればその形を取り戻してあげることは可能です。例えるならば、砂場に落ちた砂鉄を、磁石でかき集めるようなものとでも言いましょうか』

    『では、この場合の磁石の役割を持つ物とは何でしょう?』

    「俺の本……?」
    『正解です』
    フクマは満足そうに微笑む。

    『磁石で砂鉄を集めたとしても、かつてと全く同じとはいきません。吸血鬼の能力など、強固に失われてしまった物がある場合は必ず変質や欠けが起こります。それが連続して起これば、せっかく取り戻した時間軸ごと崩壊する可能性は高い』

    それを聞いたヒナイチが額に手を当てながら必死に情報を噛み砕こうとする。
    「えっと、上手く理解できたか分からないが……。つまり、一度壊してしまったツボがあったとする。壊してしまったツボのかけらは他のツボのかけらと混ざってしまったが、ロナルドが元々の形や色を記録していたからツボのかけらを選別できて、元の形に戻すことはできる。だが重要な欠片を「アレ」に取られてしまったままだから、せっかく組み立てて直しても壊れる可能性がある、って事で良いのか?」
    『おおむねそれで大丈夫です』
    「おまえよく解説できたな」「うまくできたか全く自信がない」

  • 101二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 00:51:02

    『失くしたパーツは他のもので代用しなければなりません。欠けが多すぎると時間軸ごと崩壊するのは今言った通り。ならばどこからその欠けを補充するのか、その為にこの並行世界のロナ戦が呼び水として必要になってくるのです』

    「まさか、フクマさん」

    『はい。これから私たちが行う反撃の一手は、世界の再構築。並行世界の様々な可能性から代替要素を選び、組み合わせていく。つぎはぎタイルのような世界線』


    『モザイクの世界線、とでも呼んでみましょうか』


    ヌヌヌ(つづく)

  • 102二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 00:55:38

    Δが主軸だけど嘘予告のクルースニクが出現したのはそういうことか……

  • 103二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 01:21:43

    とうとうタイトル回収がきた…!

  • 104二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 07:04:32

    ロナ戦に100年もかけて集めるほどの価値があるって、一番よくわかってるのは他でもないフクマさんだろうな
    なにしろ担当編集者だし……
    そしてここでタイトル回収、モザイク世界線ってそういう意味か……

  • 105二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 18:21:41

    応援保守

  • 106二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 22:44:22



    「世界の再構築って、そんなこと本当にできるんですか!?」
    『できなければ提案していませんよ。もちろん、何人もの協力を得てようやくできる事ですが』
    その話を聞いたヒナイチが、おずおずとフクマに尋ねる。

    「その再構築が成されたとして、皆元通りになるのか?ドラルクや、ジョンも」
    『存在のサルベージはできますが、完全に元通りは不可能です』
    「それは、どういう?」

    『吸血鬼の能力が完全に奪われてしまった存在は、再構築されたとしても吸血鬼の性質を持つことが出来ません。つまり、種族が切り替わります』

    「……もしかして、人間になるんですか。ドラルクが?」

    ロナルドは信じられない事を確認するように尋ねた。

    『はい。ドラルクさんの場合は、正確にはダンピールに切り替わりますが』
    「どうしてだ?」
    『ドラルクさんの場合、人間になる可能性があったとしてもダンピールなんです。私が見てきた数々の世界線でも完全に人間だった世界線はありませんでしたしね。並行世界に可能性が無ければ、パーツとして採用することはできません』
    「どれだけ吸血鬼要素濃いんだアイツ」「ダンピールの世界のドラルクは何をしてたんだ?」
    『吸対の隊長をされてましたよ』

    「「吸対の隊長ぉ!?」」
    ロナルドとヒナイチがさらに信じられない事を聞いたかのように声をそろえた。

    「あの責任感と無縁の面白い事最優先のクソ雑魚砂バカが!?吸対の隊長!?」
    「ダンピールでも貧弱なんだよな!?どうやって仕事してるんだあの雑魚さで!!」
    『お二人ともドラルクさんに対しての評価が手厳しいですね』
    「すいません一緒に暮らせば暮らすほど雑魚さだけは迷うことなく確信できたんで」
    「私もドラルクの戦闘能力と歌唱能力に関しては一切評価する気はない」

  • 107二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 22:45:15

    『よく知るからこその信頼感ですね。ですが私が見る限り立派に勤め上げられていましたよ。ダンピール特有の気配察知能力を使って司令官をしていらしたようです』
    「あー、司令官ならまあ、分かるか」

    ロナルドはいくつかの吸血鬼トラブルをドラルク立案の作戦で解決していたことを思い出す。頭脳戦で戦うのであれば、確かにドラルクにもできる事はある。

    「ちょっとまて、ならドラルクが隊長やってるんならあに……ヒヨシ隊長はどうなってるんだ?」
    「確かに。私たちの世界の吸対メンバーがどうなってるのか、ちょっと怖いが気になるな」
    『それが面白い事にですね。ヒナイチさんたち、吸対にすら所属していないんです』
    「ちーーーん!?」
    ヒナイチが驚きのあまり絶叫した。

    「じゃ、じゃあ私は無職に?」
    『いえ、ヒナイチさんたちはギルド所属の退治人です』
    「よかった!……退治人?」
    『そしてヒヨシさんやロナルドさんは、吸血鬼です』


    「……え?」





    フクマがしばらく準備に取り掛かると言う事で、待っている間にロナルドとヒナイチは並行世界から持ち出されたというロナ戦をぱらぱらと眺めていた。

    「すげえ変な感じ……、自分の文体なのに自分の事じゃないみたいだ。なんなんだ、死んで蘇れば畏怖って。死んで蘇っても比較対象はあのクソ砂だぞ、目を覚ませ吸血鬼の俺」
    「まさか完全にポジションが変わってる世界だとは思わなかったな。兄さんはギルド行っても何かやってそうだし。こう現物があるから疑うのもどうかと思うが、本当にこんな世界あるのか信じられない」
    「それは同感だぜ。かと思ったらこっちの手記っぽいのは書いてる事相当ハードだし、これ本当に新横か?」
    「こんなことになった私たちが言うのも難だが、手記の方は吸血鬼たちと明確に敵対しているのが見えて心情的に辛いな」
    「確かに。皆が笑ってねえのはちょっとな」

  • 108二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 22:46:16

    「そしてこっちの本はロナルドは退治人だしドラルクも吸血鬼だが、……うーん、私的に一番違和感あるな」
    「そうか?俺が本来目指すべき方向性はこれだよなこれって感じでちょっと羨ましいけど」
    「その光景を見たら私は無理するなって言う」「そんなに!?」
    二人が和やかに会話をしていると、ロナルドがぼそりと本音をつぶやく。

    「……本当に、作り直せるのかな」
    「信じられないのか?」

    「信じたいし、やるのはフクマさんやドラルクの爺さん達だぜ?なら、絶対やり遂げてくれるって思ってる。でも」
    ロナルドは脳裏にギルド前で起きた惨劇の光景がフラッシュバックしてくる。
    見慣れた服を着た白骨や中途半端な食いかけの死体。
    刻まれたトラウマは深刻で、思い出すと動機が激しくなり冷や汗が止まらない。

    「本当にその時になってみないと、きっと分からない。取り戻した人たちとどんな顔して会えばいいんだろうな。一回皆が……死んじゃったって思ったから、作り直した世界で、その人達の事をその人だって思えるのか、うまく言えねえけど、わかんねえ」
    ヒナイチはロナルドの不安を黙って聞き、少し考えるそぶりをするとゆっくりと口を開く。

    「別人だと、思おう」

    「当然の事じゃないか、死んだ人は元には戻らない。私たちは運よくこういった機会に恵まれたけど、私たちも本当はあの時点できっと死んでるに等しいんだ。完全に死んでしまったものは蘇らない。だから、これから起こすことは、私たちのエゴだ」
    「……そうだな」

    「エゴだって分かってるけど、それでも、わずかでも取り戻せるのなら、動かずにはいられない」
    「自己満足でも、俺は皆がいる街に帰りたい」

    二人の間に沈黙が落ちる。
    そこに、フクマが亜空間を開いて戻ってきた。

    『お待たせしました。ロナルドさん、ヒナイチさん』
    「フクマさん」「終わったのか?」

  • 109二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 22:47:25

    『最後調整の方は確認できました。ただ、モザイクの世界線に送るにはいくつかの取り返しのつかない注意事項がありますので説明しますね』
    「な、なんですか、取り返しがつかないって」

    『まず第一に、次に行く世界線でも「アレ」の脅威は収まっておりません』
    「「!」」

    『状況の悪化によって新横浜の街は暗闇に閉ざされてしまいましたが、今回は「アレ」の能力を逆利用することでギリギリまで悪化した状態を巻き戻します。そうですね。私たちの感覚ではドラルクさんのお父さまが失踪する直前くらいまでです。ですが「アレ」の能力を利用すると言う事は、「アレ」に止めを刺せないと言う事と同義です。その点は肝に銘じてください』
    「じゃあ、どうやって「アレ」を倒すんですか」

    『モザイクの世界線に降り立ったロナルドさんか、その世界線にいる人物が「アレ」に止めを刺せればモザイクの世界線を保ったまま消滅させることは可能です』
    「つまり、私たち自身で倒さなければいけないのか」「でも、俺たち手も足も出ませんでしたよ?」
    『それに関しては私たちも難しいとは承知しています。ですがこれから後述する要素と私たちのサポート次第ではけして不可能ではないかと』
    フクマが意味深な笑みを浮かべるが、ロナルドにはどこに勝ち目があるのかさっぱり分からない。

  • 110二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 22:47:50

    『話を続けますよ。そして第二に、この巻き戻しによる再構築はこれ一回きりです。我々の体力的にも次はありません。「アレ」に有利行動を取らせないように慎重に行動してください。街がこの暗闇状態になった段階で詰みです』
    二人は重々しく頷く。

    『そして第三に、』

    『今ある記憶を維持したまま世界線に降り立つには、人間のままでは不可能です』
    「えっ!?」「どういうことですか、フクマさん」


    『はい。ロナルドさんには、吸血鬼になってもらいます』


    ヌヌヌ(つづく)

  • 111二次元好きの匿名さん22/07/27(水) 22:55:16

    で、Δだー!!
    シリアスだけどちょっとワクワクが抑えられない!
    ヒナイチの読み切りロナへの評価でちょっと笑った
    さあ反撃開始だ頑張れロナルド!

  • 112二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 01:06:42

    これ同じ世界線からついてきた野球拳とディックはどうして生きてたんだ?ってぐらい相手がやばいんだな…続き楽しみにしてます

  • 113二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 07:08:49

    嘘予告は手記の形になってるのか……しかもみんなが笑ってないなんて記述があるっぽい……
    ……手記の結末がどうなってるのかちょっと覗いてみたい気もするけど、今はそれどころじゃないし……

  • 114二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 18:45:52

    保守

  • 115二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 23:07:39




    「俺が、吸血鬼に」
    ロナルドが知らず知らずのうちに自分の胸を抑える。

    まったくの寝耳に水の提案で、ロナルド自身わけの分からない不安感がわっと沸き上がったのだ。
    吸血鬼たちと暮らしていると、そういう選択をする人間が稀にいることはもちろん知っているが、いざ自分自身にその選択が提示されると非常に抵抗感があった。

    変わってしまう事が、怖い。

    (いやでも、大丈夫だろ。ドラルクとかダンピールから転化した人を見たってそんなに恐ろしい事ではないだろうし、希美さんだってあんなに元気だし、ああでもぶっちゃけると怖いです避けらんないよねこれ今決めるやつだよねこれ)

    以前までの日常であれば、いつか長い人生を過ごすうえでその可能性を考えることはあったかもしれないが、少なくとも今のロナルドにそんな考えはまるでない。
    しかも吸血鬼への転化は一方通行であり、一度なってしまえば戻る事は不可能だ。
    一生ものの選択を、いまここで突きつけられている。

    『大丈夫ですか、ロナルドさん』
    「ビャボーーー!!だ、大丈夫です!!な、なってやりますよ吸血鬼の一つや二つ!」
    「膝笑ってるぞロナルド」
    フクマは動揺するロナルドを見て、申し訳なさそうに言葉を続ける。

    『ロナルドさんに無理を言っているのはこちらも分かっています。本来であれば私たちがそれを強要することはできませんし、すべきことでもありません』
    「でも、吸血鬼にならないと記憶は持ち越せないんですよね……」
    『はい。能力の仕様上の問題です。「アレ」の能力を使用して作られた世界に変異無しで渡るためには「アレ」と同種の存在にならなければなりません』
    「同種になると何が違うんですか?」
    『自分と同じ存在だと錯覚させることで、「アレ」の能力で作り出す世界にリスクなしで干渉できます。世界を渡るマスターキーのようなものですかね』

    『以前ならばその方法は不可能でしたが、今の「アレ」は吸血鬼化しています。そして我々ができる一番確実な同種のなり方は吸血鬼化です。幸いロナルドさんにはその適正が確実にありますので』
    フクマが例を挙げるように吸血鬼のロナルドが書いたらしいロナ戦を手に持った。

  • 116二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 23:08:18

    「俺も一度は死んだようなものです。なら、生まれ変わったつもりでやってみます。それで、次の皆を助けられるのなら」
    『……ほとんど脅迫に近いやり方ですいません』
    「良いんですよ謝らないでくださいフクマさん!やるって決めたのは俺ですから」
    『いえ、もう一つ謝らなければならないことがあるんです』
    「えっ、なんですか」
    フクマは困ったような顔で目を伏せる。

    『ヒナイチさんには、ここに残ってもらわなければなりません』





    「どうして私は残らなきゃならないんだ!?」
    ヒナイチが動揺で声を荒げた。
    ロナルドもてっきりヒナイチと一緒だと考えていたので、予想外の展開に困惑してしまう。
    フクマを見ると、非常に言いづらそうな様子で、だが淡々と事実を述べていく。

    『ノーリスクで異世界を渡るには、「アレ」と同種になる必要があると私は言いました。ヒナイチさんには、その素養が全くありません』
    「全く?」
    『吸血鬼化の素養もなければ、そもそものヒナイチさんの性質が「アレ」と正反対です。水と油のようなものであり、交わう事のない対抗勢力としての側面が強いんです』
    「性質って、私は普通の人間だぞ!確かに、今はなんか光ってしまっているが……」
    『あなたは魔を御すための性質が強い存在なんです。分かりやすくいえば、夜に対する太陽。なのでその性質からしてそもそも夜の存在になる事ができません。事実、いくつかの並行世界を巡りましたが、ヒナイチさんが吸血鬼になる世界はありませんでした。可能性が無いものは、引っ張ってくることも出来ません』
    「そんな……。じゃあ、私はこのまま暗闇に?」

    『私が精いっぱいのサポートをさせていただきます。ヒナイチさんの退魔の能力があることで、こちらでできる事もありますから』
    「そうか、……そうか」
    ヒナイチは明らかにしょげた様子で、自分を納得させるように言葉を繰り返す。
    その落ち込んだ様子が、ロナルドには見ていられない。

  • 117二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 23:09:24

    「仕方ないものな……、ロナルド、私の分まで頑張って」
    「フクマさん!ヒナイチの事なんとかできない?」
    『なんとか、ですか』

    「俺、何回も怖い目にあったけど、ヒナイチがいて何とか踏ん張れた事が何回もあったんだ。次の世界がどうなるかわかんねえけど、一緒にいてくれた方が絶対心強いし」
    『申し訳ないのですが、非常に難しいです。元になるロナ戦の文章もありませんし』
    フクマは現実を誠実に突きつけてくる。
    普段のロナルドだったらそこで引いた。だが、今回は引くわけにはいかない。

    「なら、ロナ戦の文章があればいいんだよな?」
    『ロナルドさん?』

    「フクマさん、なるべく多く長文が書ける紙と筆記用具ない?」
    『用意できますが、一体何を』
    フクマがすぐに出してきた紙の束とペンを受け取ると、ロナルドは水面の中でわずかに残った瓦礫の上に座り込み、さらさらと文章を殴り書き始めた。

  • 118二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 23:09:46

    「ロナルド、何してるんだこんなところで」
    「ロナ戦の新作を書く」
    「どうしてだ!?」

    ヒナイチはいよいよ意味が分からず声をあげる。
    だが、ロナルドの中には確信めいたものがあった。

    「可能性が無いんだったら作ってやる。全部でっち上げてでもな」
    「ロナルド」


    「これから書く新作で、退治する吸血鬼はお前だ、ヒナイチ」


    ヌヌヌ(つづく)

  • 119122/07/28(木) 23:13:54

    初期から決めてた所だったんでようやく出せてうれしいです。いつも読んでいただきありがとうございます。
    明日は私用のため更新お休みです。

  • 120二次元好きの匿名さん22/07/28(木) 23:40:20

    ロナルドー!!
    ヒナイチの為に対抗策を作ってくれるのお兄ちゃんっぽくてかっこいい!!

  • 121二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 07:01:44

    そういえば、前の描写でヘルシングが必死に話書いてたのがあったけど
    それも世界観の維持に必要なことなのかも?

  • 122二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 17:18:33

    念の為保守

  • 123二次元好きの匿名さん22/07/29(金) 22:02:20

    乙です!
    各世界のロナ戦!長靴を履いた猫の青年ルドになって尚作家になってるロナルドくんだもんな、嘘世界でも手記綴ってるよな…。てか他のロナ戦で言及されてないキャラを復元する場合、童話世界からの復元になる可能性すらあったのか…。
    …これつまり、どのロナ戦にもまっっっったく出てない人や吸血鬼は復元できないってことだよな…。人間のヴェントルーが見当たらなかったのもそういうことか?少しでも復元できるだけ幸運なのは分かるけど、全部は元に戻せないのはつらいな…。
    そして今更ながら警察官二人組が警官時代のカンタロウとΔ???そのものと気付いて「ありがとう…ありがとうございます…」となっています。
    続き楽しみにしてます!

  • 124二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 01:16:23

    いつもおつかれさまです! 更新たのしみにしてます!

    人間かダンピールになってる吸血鬼(例:ドラルク、下半身透明)と完全に取り込まれて消えてた吸血鬼(例:おっさんの実、ゼンラニウム)の違いは肉体をサルベージできたか、できなかったかの差だと思うんだが、何が原因なんだ。アレに取り込まれてしまってからの時間か…?

    いや、へんな以外は一応全員人間かダンピールとしてサルベージされてて、人間姿は登場しなかっただけとかもありうるか。人間のドラウスも存在してるかもしれないんだしな。

    へんなの存在がまるっと消えてた理由、ディックが記憶持ち越し組だったからってのもふつうに考えられるし。

  • 125二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 07:12:58

    ぬしゅ
    更新たのしみにしています

  • 126二次元好きの匿名さん22/07/30(土) 17:55:18

    応援ぬしゅ〜
    ディックの解説の部分ほんとにわかりやすいし面白いしで大好き

  • 127二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 00:17:21

    保守

  • 128二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 00:21:16



    どれくらい時間が経ったのか。
    ロナルドは黙々と筆を走らせていた。

    いつもなら逃避に走ったりスマホを眺めるなどして締め切りギリギリまで悩むが、今回は完全に個人の為に書く身内にしか公表しない私小説である。
    ならもういっそ好きに書いてしまえと、思いついたことをどんどん詰め込んでいく。

    ヒナイチがもしも吸血鬼だったらというifの前提で、なら新横浜はこうなってるかもしれない、ああなってるかもしれないと想像を膨らませていく。
    どうせなら強敵にしてしまえ。吸血鬼の自分が兄妹で吸血鬼だったのなら、ヒナイチの兄も吸血鬼だろうか。
    そういう事を書いているうちに、ドラルクやジョンの事はもちろん、退治人ギルドの皆や吸対の皆、武々夫なんかの一般市民、それらをプロットが破綻しない程度に盛り込んでいった。

    今覚えているうちに、忘れないように。
    読んだら、『そうだ、こうだったこうだった』と思い出せるように。
    そして最後はいつものようにバカらしく。

    ロナルド自身はそういうつもりで書き始めた訳ではなかったが、結果的に無くなってしまったものに対する哀悼のような気持ちがこもっていた。
    これが、今の自分にできる供養の形なのかもしれない。
    本当にこんな事しかできないが。

    ロナルドは筆を置いて、はーーっと深いため息をつく。
    ロナルドの隣で手遊びをしていたヒナイチがロナルドの顔を窺い見る。
    「書けた、のか?」

    「……締めまでは書けた。これで良いのかわかんねえけど」
    『拝見してもよろしいでしょうか?』「「うわっ!」」
    突然音も気配もなく現れたフクマに二人が驚きつつも、ロナルドはフクマに原稿を渡す。

    「時間かかってすいません、どうぞ」
    『はい、確認させていただきます』

  • 129二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 00:22:30

    フクマが慣れた手つきで原稿を読んでいく。
    ロナルドは隣でそわそわと落ち着かない様子でページがめくられる様子を眺めている。
    物を書く上で一番苦手な時間かもしれない。
    そんなこんなで落ち着かなかったロナルドだが、フクマが読んでいる最中にほんの少し微笑んだり、比較的楽しそうな様子を見てようやく少し落ち着いた。
    (とりあえず、大丈夫かな?)
    一度客観的な目を通さないと、自分の書くものにまるで自信などないのである。
    ロナルドが早く読み終わらないか待っていると、今度はヒナイチがおずおずと尋ねてくる。

    「ロナルド、私も読んでみていいか?」





    二人があまりにも真剣に自分の文章を読むものだからロナルドは完全に処刑待ちの罪人のような面持ちで二人が読み終わった原稿を持っていた。
    (早く、早く終わってくれ……!)
    読者に目の前で自分の作品を読まれるというのは、いたたまれない羞恥心が凄まじいのである。
    それが二人となるとプレッシャーも倍なわけで、ロナルドは待っている間虚空を眺め続ける原稿置き場と化していた。

    『読み終わりました』
    フクマから読了の声が上がり、ロナルドはバッと顔をあげて様子をうかがう。
    「どうでしょうか」
    『素晴らしい出来栄えでした。今回は実体験の無いフィクションでしたが、どの人物も生き生きと描かれていて。完全な創作だとは言われなければ分からないほどです』
    「あ……、ありがとうございます」
    直球の誉め言葉にロナルドはぎこちなくお礼を言う。
    褒められたら褒められたで嬉しいが別の羞恥心がわくのがロナルドの難儀なところであった。

  • 130二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 00:23:45

    「私も、読めた」
    ヒナイチがフクマから数ページ遅れで読了する。
    「どうだった?」
    「ペンギン嫌いの下りはいらないと思う!」
    「いや、そこは重要だろ。つか他に感想ないのかよ!」
    「そう、だな。待ってくれ、自分がほぼ主役になってる小説なんて読んだことないから、ちょっと恥ずかしいんだ」
    「ああうん、ごめん。確かに俺も恥ずかしいわその状況」
    「……いやでも、良かったぞ。こういう風に書いてくれて、嬉しかった。それに、」

    「お前には、新横浜の皆がこう見えてるんだな」
    ヒナイチが優しく微笑む。

    「特にドラルクやジョンは全然違和感が無かったぞ。文句言いながらも結構ちゃんと見てるじゃないか、ロナルド」
    「うるせぇ!年がら年中アイツといたら嫌でも解像度が上がるわ!」
    ロナルドの悪態に苦笑いしつつも、感じたことを実直に述べる
    「他の皆の事もちょっとづつでも書いてくれてて嬉しかった。ここに書いてあったのは、ちゃんと私たちの新横浜だったよ」
    「……そうか」
    そして、ヒナイチはフクマに向き合った。

    「フクマさん、私はこの文章を元に世界を渡る事はできるだろうか?」
    『元の文章より弱体化はされると思います。吸血鬼の弱点も強めに出るので、少なくとも陽の光にはあまりあたれなくなるかと』
    「でも、可能なんだな?」

    『その弱点を覚悟のうえで挑まれるのでしたら、可能です』
    「なら挑もう。ロナルドが書いてくれた、あのにぎやかな新横浜を取り戻すために」
    フクマはヒナイチの二つ返事に観念したように息をついた。

    『では、お二人の返答が揃ったところでそろそろ始めましょうか。次の世界を』

  • 131二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 00:24:11




    「そういえばフクマさん、俺らどうやって吸血鬼にするんです?」
    「そうだ、もしかして誰か吸血鬼に吸血されなきゃいけないのか?」
    二人は吸血鬼になるうえでは避けては通れない疑問点を口にする。
    そもそもこの暗闇空間に吸血鬼が生き残っているのかが疑問だった。

    『吸血鬼の生き残りは数名いらっしゃいますが、吸血での吸血鬼化は今回はいたしませんよ。お二人に今回切り替わってもらうのは真祖ですから』
    「「えっ」」
    あの大惨事で生き残りがいた事も驚きだが、真祖という言葉は聞き捨てならなかった。
    「真祖って生まれながらの吸血鬼だから元が人間の俺たちじゃどうあがいても無理じゃないですかフクマさん!?」
    「その真祖詐欺に含まれないのか!?」

    『大丈夫ですよ。そもそもの因果を切り替えてしまいますので』
    フクマの言い草に二人が混乱していると、フクマがヒナイチの額をとん、と軽く叩く。
    すると、ヒナイチが目を見開いたままゆっくりと後ろ向きに倒れたかと思えば、そのまま黒い水面に沈んでいく。

  • 132二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 00:24:36

    「ヒナッ」『あとはもう、成すがまま身をゆだねていただければ』
    そして次に、ヒナイチを引き上げようとするロナルドの額もまた、とん、と軽く叩かれた。

    「あ」

    身体が一気に硬直して動かなくなる。
    仰向けのまま、ロナルドの体もバシャりと水音を立てて水面に叩きつけられた。
    だが身体は地面には当たらず、黒い水の中は底が抜けたかのように深くなっている。
    いつの間にか浅瀬から深い海に放り投げられたような感覚だった。

    目を、空けていられない。

    必死に意識を保とうとするが、ロナルドの脳裏に情報の濁流が押し寄せてくる。
    とうとう瞼がゆっくりと落ちていき、完全に目を閉じてしまう。
    そこで、ロナルドの意識がぶっつりと切れた。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 133二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 11:19:34

    保守
    反撃の為の駒が少しずつ揃っていくのを感じて何だかワクワクします

  • 134二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 22:08:14

    保守!
    他の吸血鬼になった人達は何人いるんだろう?

  • 135二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 23:42:29

    続きが気になる展開だ!

  • 136二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 23:55:48



    まどろんだ意識を覚醒させていくと、自分が黒い水中の中にいることが分かる。
    息が吸えない筈なのに不思議と苦しくはない。ただ、冷たくも暖かくもない水の中を漂っている。

    身体が底なしの沼に沈んでいく。
    どこまでもどこまでも。

    底まで行ったら自分はどうなるのだろうか。
    少しの不安がよぎると、そこで異変が始まった。

    ぱりぱりと、身体から何かが剥げていく。
    手のひらを見る。
    まるで薄皮が剥がれていくように、徐々に徐々に服どころか表皮そのもの、いわば体のテクスチャーそのものが剥がれて、自分の手が、ただの黒いシルエットでしかなくなっていく。

    (ああ、ああ……!)

    パリパリとテクスチャーが剥がれていくにつれて、自分の根本的な何かが失われていく。
    普段は意識はしていなくとも、本来自分が土台として持っているものが強制的に切り離されていくのが分かってしまう。
    切り離されるそれをなんとか留めておきたくて手を伸ばして掴もうとするが、全てすり抜けてしまう。

    もはや完全にシルエットでしかなくなってしまった両手で、自分の顔を覆う。

    今の自分は何者だ、自分は誰だった、何をしようとしているんだ。

    気を抜くと根本的な目的すら忘れてしまいそうなのだ。
    もはや天地も経過した時間も分からない。

    このまま狭間に溶けてしまうのではないか。

  • 137二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 23:56:48

    迷子になった子供のような心境で、必死に自分が霧散するのをこらえている。

    どうしよう。



    「こっちだよ」
    耳元で、そうハッキリとささやかれた。

    少し喉が弱そうな、しかし活舌の良い男の声だった。
    聞き覚えがある。

    そうか、あちらに行けばいいのか。

    目的が明確になって、急に不安定だった自分の形が明瞭になっていく。
    シルエットでしかなかった自分に新しい塗膜が、テクスチャーが張られていく。

    失ったものと引き換えに、次に内から沸き上がってきたのは恐ろしいほどの万能感だった。
    何でもできる気がする。
    今なら何でも。

    これなら、きっと「アレ」とだって戦える__!

    シルエットから明確な手足の感覚が戻り、それは徐々に体全体に巡っていく。
    今の自分はどういう形なのだろうか。

    ぼんやりとした脳内情景で形作ろうとすると、肩をトントンと叩かれた。

    「なに?」
    後ろを振り向くと、細長く筋張った大きな手が、自分の頭を鷲掴みにする。

  • 138二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 23:57:40

    『餞別』
    さっきの男の声とは別人の声だった。年老いた威厳のある声だが、少し茶目っ気のある声音。
    鷲掴みにした手によって頭が大きく後ろに押される。

    そのまま自分は、ロナルドは、水中から強制的に追い出される。
    水しぶきを大きく上げて放り出され、次に息を深く吸った。
    もうずいぶん長い間息を吸っていないように思えた。
    そしてすぐに違和感に気が付く。

    身体は放り投げられたままで、すぐに地面に落ちない。
    何とか周囲を観察する。

    ロナルドの目下に広がるは、見慣れた夜景。
    つまりここは空中。しかも、遥か上空の。

    「……ぁぁぁあああああああ!!!!」

    こうして、ロナルドの第一声は絶叫から始まったのであった。





    「今夜もいい夜だねえ、ジョン」
    「ヌン!」

    人気の少ない街路を、一人の吸対服の男と一匹のアルマジロが楽し気に歩いている。
    今はパトロールの時間だ。といっても、あまり大きな事件が起きないこの街においては、サボりも兼ねた気楽な散歩の時間に近かった。

  • 139二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 23:58:22

    今夜は綺麗な三日月。
    手作りおやつをもって、一人と一匹は今日の休憩場所を探している。

    「そう、最近は焼き菓子が面白いんだよ。次は何作ろうかな。ジョンはリクエストあるかい?」
    「ヌヌンヌン!」
    「メロンパン?焼きたてが美味しいからどうせなら家でゆっくりする時とかに作ろうかな……、うん?」

    男が異変に気が付き、空を見上げる。

    強大な気配をした何かが、この街に降ってきている。




    「なんで空中!?バカじゃねえのなんで空中!?」
    その頃ロナルドはありったけの罵倒を叫びながらどうやって着地するか必死に頭をひねっていた。
    このまま直撃=死
    何とか受け身を取る=落下距離的に無理だろの死
    諦める=死

    「ダメだ全部死しか見えねえ!さっきの万能感どこ行ったんだよ詐欺じゃねえかせめて地面付近から投げ出してほしかった助けてフクマさん!!!!」

    ロナルドが必死に空中で足搔くが地面はみるみるうちに迫っていく。
    「ヤダーーー!!!」
    せっかくのリベンジは残念ここで冒険は終わってしまったと言わんばかりのあっけない幕切れを起こすのか?
    本当に情けない事この上ないが現実(地面)は容赦なくロナルドを叩きつけようとしていた。

    もう駄目だ!と目をつぶる。
    せめて頭を庇えばなんとかならないだろうか。多分ならない。
    しかし抵抗くらいはしようとロナルドは、身を守るためにぐっと力を入れたのであった。

  • 140二次元好きの匿名さん22/07/31(日) 23:59:46

    ドガンッ!!

    案の定ロナルドは地面に直撃した。
    強い衝撃音が辺りに響き、砂埃が宙を舞う。
    地面は陥没して軽いクレーターのようになっていた。
    そして当のロナルドはというと

    「あ、あれ?」

    全くもって無傷である。

    「ええ……、嘘だろ」
    ロナルドは改めて自分の姿を見る。
    いつの間にかいつもの赤い退治人服ではなく、クラシカルな吸血鬼な出で立ちになっていた。
    鏡が無いので自分の顔をきちんとは見ていないが、髪も多少いじられている感覚がある。
    口の中を軽く触れば、異様に発達した犬歯が手に軽く触れた。
    またクソ砂で感覚がマヒしていたが、本来の吸血鬼は体が丈夫だったことを思い出し、そこでようやく実感する。

    「本当に吸血鬼になったんだな」


    「動くな」
    非常に鋭い声がロナルドに向かって投げかけられた。
    気が付けば、周りを何者かに囲まれている。

  • 141二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 00:00:25

    囲んでいる集団は、派手な白い制服を着ていた。……吸血鬼対策課だ。

    吸対の面々は、見慣れた顔もいれば、どうしてお前が吸対に!?という者も混ざっている。
    本当に、かつての新横浜とは違う。

    日本刀で武装し、警戒状態の吸対のメンバーの中から一人の男が歩み出てきた。

    「全く、いきなり現れてクレーター作るとは随分行動が派手な吸血鬼だね。本当にいきなりだったから焦ったじゃないか」
    薄々、予想はしていた。

    自分が吸血鬼と言う事は、アイツもまた変わっているだろうと言う事は。

    「さて。この街に突然現れて、一体何が目的かね?」


    「吸血鬼くん?」

    吸対服を着たひょろっとした貧弱そうなその男、ドラルクは不敵な笑みを浮かべている。
    当然、ドラルクからは吸血鬼の気配はせず、目は爛々と金色に輝いていた。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 142二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 06:40:02

    ここで出会い編かー!!乙です!

  • 143二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 07:07:00

    これが始まりというわけか

  • 144二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 18:26:03

    ほしゅ

  • 145二次元好きの匿名さん22/08/01(月) 23:57:08

    ヌシュ! 
    ヌヌヌ、ヌヌヌヌヌ ヌヌヌヌ!
    (つづき、たのしみに してるヌ!)

  • 146二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 00:13:47



    互いに値踏みをするように、二人の視線が交差する。

    ドラルクはその銀色の吸血鬼を見ると、何故か自分の中の感情の温度がスッと下がったことに気が付いた。

    どうしてそんな姿でここにいる。

    けれど、言葉には出さない。
    目の前の吸血鬼は間違いなく今日初めて出会ったし、どうしてそのような感情が湧いたのかも皆目見当がつかないからだ。
    だからあくまで事務手続き的に話しかける。
    この街に危害を加えるのであれば、捕らえて、VRCに収容しなければならない。



    ドラルクからの厳しい視線にロナルドは臆することなく受け止める。
    そりゃあそうだろう、街に突然降ってわいた吸血鬼である。
    ロナルド自身、自分に自信などほとほとないが、それでも今の自分の吸血鬼としての強さはある程度客観視できる。

    今の自分は、前のロナルドであれば危険な存在として絶対に警戒したはずだ。

    だからこの状況に対して不服などない。
    ただ、見知った顔の厳しい表情から、本当に皆別人なんだと寂しさだけが浮かぶのみである。

    さて、どう説明するか。
    信用してもらわなくてはならない。自分は危害を加えに来たわけではないと。

    「質問に答えてはくれないのかい?ならもう一度訪ねてあげよう。君は一体、何の目的があるんだい?」
    ドラルクが冷ややかな声で詰問する。

  • 147二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 00:15:06

    「俺は」
    口を開くが言葉に詰まる。

    助けにきた、取り戻しに来た。
    それでは足りない。

    前の世界は助けることも取り戻すことも叶わなかった。
    何かが起こって、今度こそ助けるではダメなのだ。

    受け身では、またこの世界を沈めてしまう。
    ならば言う事は、


    「退治だ」

    ロナルドは言い切った。
    怒りと恨みを思い出せ。あの地獄の惨状を思い出せ。目の前の男がどうなったのか思い出せ。

    「俺はこの街に退治をしに来た」
    「退治ぃ?退治人の真似事でもするというのかい、吸血鬼の君が?」
    「吸血鬼にも退治する奴はいるだろ?別におかしなことなんて何も無い」
    「いるにはいるけどね、希に。享楽に生きるのが常な吸血鬼がそんなボランティアじみた事をはじめると言われてもいまいち信用がないんだけど」
    「信用はこれから作る。それでいいだろ」

    二人の殺伐とした問答が続く。
    ドラルクはどうもロナルドの切り替えしが気に入らないようで、眉間に妙なしわがよっている。
    だからといって気にしない。
    ここで引いているようでは何もできないのだから。

  • 148二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 00:16:25

    「じゃあ聞くが、君は一体何を退治しようっていうんだい。この街は吸血鬼の数は多いかもしれないが、大した事件などなく治安はいい方なんだぞ」
    ドラルクは事実としての街の現状を伝えて、お前にやることは無いと暗に伝えてくる。
    だがこれに関しては良いのか悪いのか、すぐに状況がロナルドに味方をしてくれた。

    「その対象なら、今来る」
    「はぁーー??苦し紛れに何をぬかし……うん?」
    ドラルクが鼻に手を当てた。
    妙な気配がする。様々な香水を混ぜ合わせたかのような悪臭が、ほのかに漂ってきていたのだ。
    ドラルクとロナルドが同時に、空を見上げた。

    彼方からそれはやってくる。
    長い蛇のように細長いシルエットをし、輪郭が総じてぶれ続けるモザイクのような焦点の合わない黒のその存在。

    「ソレ」が空中を漂い、ドラルクめがけて大口を開け飛び掛かろうとしている。

    「ファ」「掴むぞ」
    ドラルクが叫ぶか叫ばないかのタイミングでロナルドはドラルクを俵担ぎすると、ひとっ飛びすることで容易く避けた。
    大口らしき箇所と接触したらしい地面は、元あったコンクリートがずぶずぶと溶けていき、液状化していく。
    その様子だけで、襲ってきた者の異常性が見て取れる。

    「なにあれなにあれ!?よくわからん蛇っぽいのが地面と熱いキッスしたと思ったら全部バブルスライムのごとく溶けたんだが!?」
    「アレは俺も正直初めて見た」「さっきまでいかにも訳知りそうな顔しておきながら知らんのか肝心なところ役に立たないな君!!」
    「仕方ねえだろ攻撃バリエーションが多すぎんだよ!全部解放したらなんかサインとかくれないとこっちだって分かるわけねえだろ」
    「んなPSのゲームトロフィーみたいなこと現実にあるわけないだろうが実績を解除しましたじゃないんだぞ!!アーーー!!そんなこと言っとる間にまた来る!!!」

    再び巨大な蛇はドラルクに攻撃を仕掛けようと、一度宙を舞って再び襲い掛かろうとしてくる。
    ロナルドは今度は襲い掛かろうとする寸前にドラルクを抱えて低い姿勢でスライディンクをして回避、顔スレスレを蛇が横切ったので適当な胴体部分を殴りつける。

    黒い蛇は拳一発で容易く宙に飛び上がっていった。
    所詮は黒い蛇なので表情のようなものはまるで分からないが、それでも急所を殴りつけられたかのような暴れ方をしている。

  • 149二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 00:17:04

    (本当に弱くなってる)
    ロナルドはかつての「アレ」の怪力を思い出す。
    前は何一つ攻撃が効いていないようだったので確かに弱体化はされているらしい。

    飛び上がった蛇はまた襲い掛かってくるのかと思えば、次の瞬間。

    シャンッという金属を打ち付ける音が聞こえたかと思うと、黒い蛇の総身がバラっとブツ切りにされる。

    ロナルドはその隙を見逃さず、ブツ切りにされた体のパーツ一つ一つを銀の銃弾で撃ち抜いていった。

    撃ち抜かれたパーツはずぶずぶと燃え広がり、モザイクの黒い蛇は跡形もなく消えてしまう。

    「大丈夫か、二人とも」
    蛇を切ったらしい凛とした少女の声が、ロナルドの耳に届いた。



    黒い蛇を切り刻んだ者の正体は二刀流の日本刀を持つ赤毛の少女だった。
    少女は地面にストッと降り立つと、ドラルク達の方を向き直る。
    こちらからも独特な吸血鬼の気配がするので、彼女も吸血鬼なのだろう。それも強力な。

    「ケガはねえよ」「ならいいが」
    一方銀髪の吸血鬼はぶっきらぼうな様子で少女の質問に答えている。

  • 150二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 00:18:03

    どちらも見目麗しい吸血鬼で、二人揃って並び立つと妙な迫力があった。
    そんな二人を見ながら、ドラルクは必死に状況の整理をしていた。訳が分からなくなってきた。

    「……君たちは一体何なんだ」
    本音の様に一つ言葉を漏らす。

    「あの怪物を、どうしてそこまで退治したがるんだ」

    少女と男が顔を見合わせる。
    「それはだな、ドラルク」

    少女がどうして自分の名前を知っているのか、そんなこと些事だった。
    次の言葉が強烈すぎて。

    「私たちは、お前を守りに来たんだ」



    ヌヌヌ(つづく)

  • 151二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 00:37:21

    ヒナちゃん合流時の落ち着きっぷりといい最後のセリフといい騎士かなにかか?ってくらいかっこいい

  • 152二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 06:28:11

    ヒナイチこれは姫騎士ですわ

  • 153二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 07:06:11

    ぬしゅ

  • 154二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 16:53:31

    久しぶりに読みに来たらめっちゃ進んでる
    楽しみにしてます

  • 155二次元好きの匿名さん22/08/02(火) 23:40:22

    物語が確かにエンディングに向かって進んでいることが楽しみなようなこの物語から離れ難く惜しいような。

    続きが楽しみです!

  • 156二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 00:21:00



    「守るって、私を?」

    ドラルクは困惑しきった様子で少女に尋ね返す。
    突然現れた強烈な気配の吸血鬼二人と謎の怪物。

    それだけでもただでさえ困惑するというのに、怪物はドラルクを襲いはじめるわ、なんか警戒していた当の吸血鬼には助けられるわでてんやわんやである。
    そしてとどめの守る宣言。

    ドラルクには襲われるいわれもなければ、守られるようないわれもない。
    だが、目の前の少女はいっそ晴れ晴れとした様子でこざっぱりと、

    「そうだ」
    と言い切ったのであった。



    そしてそれを聞いて困惑していたのはドラルクだけではない。

    (いやいやいやいやいきなり直球すぎる無理だろそれ信じてもらえるのは)

    ムスッとした表情で黙りこくっているロナルドも内心では焦っていた。
    あの危機感無し愉快な享楽クソ砂のドラルクといえどもこちらの世界では吸対の隊長なのである。
    さっきの警戒感からの立ち振る舞いや包囲網からして、とても信じられないが本当に責任感込みで仕事をしているらしいとロナルドですら非常に珍しく感心した程度なのだ。

    なのにも関わらず自分で言うのも難だがこんな訳の分からないポッと出の吸血鬼に守ると言われて信じられるか?
    ロナルドなら信じない。いや全く信じないは言いすぎだが本当に良い人だったら100歩譲って信用してしまう可能性もなくはないが流石に無条件に信じることはしない。多分しないと思う。

  • 157二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 00:21:58

    自分ですらそう思うのだ、何も事情を知らなければさらに胡散臭いのではないだろうか。
    そんな風にロナルドが懊悩していると、ヒナイチがなんてことないように二人に話しかけてくる。

    「どうしたんだ二人とも?別に変な事は言ってないだろう?」
    「変な事って君ねえ」
    ドラルクが眉間のしわに指を置きながらどう話したもんかといった様子で口を開く。

    「まず前提から言ってなんで私が狙われてるのかが謎なんだけど、それ以上に君たちになんの利点があるんだい?」
    「お前の事が守れる」
    「いやあの、だから……。ええやだあ私ライトノベルの世界にでも来ちゃった?ギャルゲーでも昨今こんな展開無いぞ」
    ヒナイチのあまりに実直すぎる返答にドラルクは絡め手を噛ませる余地もない。
    そうしている内に、ロナルドと目が合った。

    「そうだそこの無言で突っ立てる吸血鬼!君はなんか言う事無いのか!?彼女なんかすごい強火の発言してるけど君の意見は聞いてない!」



    少女の吸血鬼の真っすぐすぎる好意に疑う事がいたたまれない気持ちになったドラルクは男の方の吸血鬼に話を振る。
    あっちのブスッとした顔だけはいい仏頂面男は少女に巻き込まれているだけで本意ではないと踏んだのだ。
    なぜそう思ったのかは全くの勘だが、まあなにかしら否定的な意見を言ってくれれば今はそれでいい。

    しかし、事はドラルクの思う通りには進まなかった。

  • 158二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 00:23:40



    ドラルクを守る、という行為自体は別に不本意ではなかった。

    前の自分なら、そういった言葉は素直には出さなかっただろうし、内心でも認めなかっただろう。
    きっと何かしらひねくれた返答で言葉を濁した気がする。
    でも今は違うのだ。

    一度明確に失われた。
    この事実が、自分の心境に明確な隔たりを作っている。
    だから迷う事は返答の仕方だった。

    どう言えば納得されるのか。

    だが、そこまで考えて最初の頃のドラルクをふと思い出す。
    (あいつ、そういえば勝手に俺の事務所に押しかけてきたよな)

    変に気を使っていることに、腹が立ってきた。



    「言う事はないのかい?」
    ドラルクは銀髪の吸血鬼の返答の鈍さにこれは勝ったと勝手に確信した。

    (守ってくれるって言ってくれること自体は嬉しいけど、そこまで面倒みられなくたって別に)
    ドラルク自体吸対の隊長だ。いきなり出てきた吸血鬼に頼らなくとも守ってくれる、助けてくれる存在はいる。
    それに、ドラルクはあまり人に縛られるのが好きではない。
    守ると言ったが何をするつもりだ?まさか四六時中監視するとか言わないよなとかジョーク交じりに考える。ま、そんな提案来ても却下させてもらうが。

  • 159二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 00:24:20

    しかし、だ。

    「別に相違ないぜ」
    「は?」

    ドラルクは聞き返す。
    今なんと?

    「だから、お前を守る事が目的だって言ってるだろ」
    「は???」

    ドラルクは何故か天地がひっくり返ったような気分になった。

    「いや、だがね!吸血鬼くん!!」
    「俺はロナルドで、こっちがヒナイチ」
    「……ご丁寧にどうも。私は新横浜吸血鬼対策課のドラルク隊隊長のドラルクだ。では改めて聞くがロナルド君!守ると簡単に言うが具体的には何するつもりだい?私の事を監視でもするつもりか?」
    「それでいいかヒナイチ」「いいぞ」
    「待ってマジでやるの!?今大分無茶言ったぞ私!?」
    「無茶も何もそれくらいしないと「アレ」いつ来るかわかんねえし」
    「私としてもそっちの方が安心する」
    「えっ、ちょっとまて四六時中ガチで監視?家はどうするんだ家は!?」

    しかしロナルドはこともなげに、というか非常にキレた様子でドラルクに言い切った。
    「お前の家に居候する」
    「ファ(レ♯)ーーーーー????」

    ドラルクは吸血鬼たちのあまりの横暴に血管がブチ切れそうになった。
    何としてでもこの横暴を阻止しなければならぬ。

  • 160二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 00:24:44

    ドラルクは他の吸対メンバーのところに避難していたジョンを連れてきて掲げた。
    「私にはこの愛らしいアルマジロのジョンと暮らしてるんだぞ!ジョンがうんと言わなければ絶対に許してなどやるものか!!!」
    「ジョンだー!」「ジョーン!」「ヌーー!」
    「あれめっちゃ懐いてるーーー!?」

    「ドラルク」
    ヒナイチが口をはさむ。
    「お前に負担をかけて申し訳ないが、これは本当に心配でやるんだ。しばらく私たちに付き合ってほしい」
    「そうはいってもねえ!襲ってくる奴だって本当に私狙いかわからな」

    すると、ロナルドが前触れなく銃を取り出してドラルクの真上を数発撃った。

    「今度はなんだ!?」
    どさっという地面に何かが落ちる音が聞こえた。

    最初は透明だったが銃弾が撃たれたと思わしき場所から煙が立ち、徐々に姿が現れていく。落ちたなにかは、芋虫のようだった。再びあの香水が混ざったような悪臭がドラルクの鼻をよぎる。気がつけなかった。

    「これでも疑うか?」
    ドラルクはそれに対して何も言えない。
    ただこんなに近くに敵がいたのに気がつけなかった不手際と、もう何言っても聞かねえなこいつらという若干の諦めと、それを受け入れ始めている自分に対する驚きのトリプルコンボを食らい、やり場のない怒りによる声なき叫びをあげたのであった。




    ヌヌヌ(つづく)

  • 161122/08/03(水) 00:35:18

    別の世界線に移動して初期の頃の時間軸はもう少しほの暗いイメージで書こうとしてたんですけど、いざ過去編はじめたらなかなかそうならなかったですね。
    疑似兄妹のもうちょっと湿っぽい空気感とか出したいとか思ったんですけど、なんかそういう感じにならなかった……なんでだろうなあ。

  • 162二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 00:51:49

    >>161

    いつもありがとうございます。


    私見ですが、ロナルドもヒナイチも戦闘において実力者だからではないでしょうか?

    実力者は失敗をリカバーできる機会に恵まれたなら、今度こそは!と張り切るものだと思われますので。

  • 163二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 08:09:10

    二人ともポンチ相手に振り回されることはあってもnotポンチ相手に苦戦するイメージあんまない
    だからこそただ倒すだけじゃダメなモザイク世界線のアレの厄介さがすごいんだが

  • 164二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 11:03:20

    イケメンと美少女にめちゃくちゃ騎士ムーブされるガリガリ砂おじさん…新境地!
    なんか再会できた嬉しさが湿っぽさを上回ってしまった感じですね 私は好きです

  • 165二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 20:14:24

    保守

  • 166二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 23:47:25

    賑やかな夜の街に不穏なサイレン音が鳴り響く。

    駅前通りの道路に面した店屋の前に救急車とパトカーが止まっている。
    警察が野次馬が近づかないように人払いをしており、その人込みの隙間から無理やり現場を覗くと、人を乗せたストレッチャーが救急車に運ばれていった。

    乗せられた人の顔を覗き見ると、視点の焦点が合っておらず、魂が抜けたように口を半開きにしている。

    「また意識不明者ですか、今週何人目ですか?」
    「6人は倒れてる筈だ」
    サギョウの質問に半田が答える。明らかに異常なペースだ。

    「うわぁ、それで皆意識戻ってないんですよね?怖いな」
    「吸血鬼の仕業であれば吸血鬼対策課(俺たち)も何かできるが、今は動きようがない。今のところ原因不明の奇病扱いらしいぞ」
    「やだなー、原因不明なら対策しようがないですよね。吸血鬼の気配とかしないんですか、先輩」
    「今も確認しているが全くしない。ドラルク隊長直々に調査を行ってすら分からないんだから、原因は吸血鬼ではないんだろう」
    「そっちのがよっぽど厄介ですよ」
    サギョウがぶつくさと不安をこぼしていると、現場の警察官が話しかけてきた。

    「こちらの方交通規制解除されました!ご協力ありがとうございます!」
    「いえ、お疲れ様です。しかし大変ですね、魔法美少女になったり病院のホラー騒動に巻き込まれたりで」
    「どこから聞いたでありますかっ!?」
    溌溂とした警察官は予想外のジャブに慌てふためく。

    「うちのジョン君がたまに漏らしておりまして」
    「ドラルク隊長もばっちり聴取済みだ」
    「ジョンくーーーーん!!!!」
    もっと言ってしまうとそれを聞いたドラルクが大爆笑していたが、流石にそこまで言うのは可愛そうなので伏せてあげた。

  • 167二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 23:48:05

    溌溂とした警察官が嘆いていると、もう一人のシュっとし警察官がつかつかと歩いてくる。
    「なにしてるんだお前は」「ジョン君に裏切られたであります……」
    「丸がそんなことするわけないだろう。それよりもだ、そっちの吸対」
    シュっとした警察官は半田を指名して話しかける。

    「なんだ?」「お前はダンピールだったよな?一つ、気配を探ってほしいものがある」
    「何を探れというんだ?言っておくが、ここ周辺の気配はすでに調査しているぞ」
    「それでも構わん。確証が欲しいだけだからな。あれの気配は探れるか?」

    警察官が指さす先には、黒い蝶が羽を休めている。

    「できるが、なぜあの蝶を探る必要が?」
    「意識不明者が出た時、必ずあの黒い蝶がいる」
    警察官が言い切る。

    「二度までは偶然で済ませるが、三度目四度目と重なると流石に偶然では片づけられない。いくら新横といえどこんな町中にあんなアゲハ蝶サイズの蝶、そう出てくるか?しかも必ず意識不明者の近くを飛んでいる」
    警察官が鋭い目つきで蝶を睨んだ。

    「……なるほど、分かった。ただ、あまり期待はするなよ」
    半田が懐から血液錠剤を取り出し、噛んだ。
    気配を探る感覚がぶわっと拡張され、じっと蝶に集中する。

    しかし、まったく半田の気配察知に引っかかからない。
    「どうですか先輩」「ダメだな、俺の感覚からはあの蝶からなにも気配がしない」
    「そうか」
    警察官はとくに落胆した様子もなく事実を受け入れる。
    「力になれずすまない」「いや、そっちの線がないと分かっただけ良い」
    「そんなに現場にいるってなると、毒でも撒いたりするんですかね?」
    「やはり一度捕まえてみるべきなのでは?」
    もう一人の溌溂とした警察官がハンマースペースから虫取り網と虫かごを取り出す。

  • 168二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 23:48:45

    「お前何時からそんなもの用意してたんだ」
    「蝶が怪しいと聞いてからずっとであります!」
    「……、いや、まあ、いいか」
    もう一人の警察官は非常に何か言いたげだったが、言うのを諦めた。

    溌溂とした警察官が虫取り網を構えてそろっと黒い蝶に近づく。
    普段の行動のやかましさに反して、溌溂とした警官は慎重に行動していた。
    そしてタイミングとみるやいなや網を大きく振りかぶり、ポスン、と見事に網の中にを蝶に収めたのであった。

    「やったであります!」
    警官は喜びを隠しきれない様子で蝶に近づき、捕らえようとする。
    が、しかし。

    黒い蝶は警官が網に触れた途端、サラッと砂の様に溶けて消えてしまった。

    「あれ!?」「え」「ああ?」「なんだと?」
    四者四様の反応で今見た不思議な現象を確かめ合う。
    「今、消えましたよね?見間違いとかじゃないですよね?」「ああ、確かに網の中に蝶がいた筈だ」
    サギョウの確認に半田が頷く。
    「……やはり、一筋縄じゃいかないようだな」「せっかく捕まえたのにー!!」

    「しかし捕まえられないとなると、これは手がかりとしては難しいですよ。証拠ないと信じてもらえないでしょうし」
    「3回目以降は黒い蝶の存在を見つけるたびに写真に収めてはいるのですが、証拠能力としてはいささかに根拠に欠けるであります」
    「原因が本当にあの蝶にあるとしたら捕まえない事には対策も立てられないしな」
    「吸血鬼じゃないのであれば忌避剤も使えない」

  • 169二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 23:49:12

    手がかりらしきものが見つかったという手ごたえがあったが、それと同時に微妙などん詰まり感があった。
    シュっとした警察官は腕を組んでしかめっ面をしている。
    「一応こちらでも独自の調査はするが、吸対の方でも何か分かったことがあれば情報を提供してほしい」
    「そうだな、こちらも出来る限りの協力はしよう」
    半田が答える。管轄外の事件ではあるが、ドラルクにもこの事は報告した方が良いかもしれない。

    「それじゃあそろそろ僕たちも持ち場に戻りますんで」
    肝心の蝶が消えてしまった以上、ここにいつまでもいてもこれ以上の進展は望めない。
    半田とサギョウの吸対組は本部に戻るために警官組に最後に声をかけた。

    「ご協力していただき感謝であります」「一つの可能性が潰せたのは助かった。また頼む」
    警官二人の見送りに軽く手を振ると、半田とサギョウは署の方へ向かって歩みを進めようとする。

    そこで半田が、はたと気が付く。
    道の途中にあるビルにつけられた広告看板の一つが、妙に黒い。
    「先輩どうしたんですか?」「いや、あの看板」

    あんなに黒かっただろうか。
    半田が過去の記憶を辿っていると、丁度女性が二人の横をすれ違って歩く、そしていきなり、

    どさっ

    「えっ?」
    半田が振り返ると、女性が倒れてしまっていた。
    サギョウがぱたぱたと女性の容態を確かめる。
    「どうしました?……大丈夫ですか!?」
    サギョウの声音に緊迫感が混じる。
    半田はとっさに女性の肩を何度も叩いた。
    顔を見ると、目に焦点が合っておらず、口が力なく半開きになっている。

  • 170二次元好きの匿名さん22/08/03(水) 23:49:36

    「大丈夫ですか?意識はありますか?大丈夫ですか?……サギョウ救急車呼べ!」
    「今呼んでます!」

    また、周辺が慌ただしくなっていく。

    半田が脈を調べるために首の動脈や腕を探った。
    幸い息はある、だがこの症状は。

    半田が引き続き女性の介抱をしていると、半開きになった口から、黒い何かが飛び出しているのが見えた。
    (なんだこれは?)
    少し口元を触って確認する。何か異物が入っているのなら取らないと窒息してしまうかもしれない。
    しかし、出てきたものは思っていたものと違った。


    蝶だ。

    その黒い蝶は、口から大きく羽ばたくとひらひらと宙を飛んでいく。
    半田の背筋に冷たいものが走る。寒気が、止まらない。

    少し自分の気持ちを落ち着かせるために半田は空を仰ぐ。
    視界の端に映った先ほどの黒い看板は、ただのシンヨコハマ$の広告看板に変わっていた。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 171二次元好きの匿名さん22/08/04(木) 00:10:42

    ヒエッこっちの世界にも出現し始めてる怖い!!
    触ったら溶けたっていうのが気になるな
    一度食われたからか、それとも後から影響が出てきてしまうのか…

  • 172二次元好きの匿名さん22/08/04(木) 09:25:34

    黒蝶々ヤダーーーー!!!
    地道にアレの能力とか削っていってるはずなのに元気じゃんかよぉ!!!

  • 173二次元好きの匿名さん22/08/04(木) 20:05:12

    そうか辻斬りが居ないからカンタロウも警官のままなんだな

  • 174二次元好きの匿名さん22/08/05(金) 00:06:50

    「はい、はい、では予定通りに。よろしくお願いします」

    ドラルクが外線電話の受話器を置くと、椅子に雑に座って今度は半田から先ほど送られてきた資料のまとめを眺める。
    送られてきた資料には、新横浜周辺の地図と意識不明者の分布と日付、そしてその周辺にいたとされる謎の蝶の写真が丁寧にまとめられていた。
    補足として、という半田の体験した蝶と意識不明者に関する体験談のメモ書きも大変分かりやすく、その優秀さに舌を巻くばかりだ。

    「黒い蝶ね」
    ドラルクが窓ガラスの外を見ると、ひらひらと窓のふちに黒い蝶々が羽を休めている。

    「まさかこれじゃないよな」
    ドラルクは他人事で聞いていた怪談が突然自分に迫ってきたかのようなうすら寒さを感じる。
    試しに窓ガラスを開けてみるが、蝶は逃げ出さずその場にとどまり続けている。

    ドラルクは、そおっと黒い蝶に指を伸ばした。

    「ドラルクー?」「うわっ」
    背後から突然話しかけてドラルクは後ろに慌てて振り返る。

    話しかけてきたのはヒナイチだった。そのさらに後ろの方にひょっこりとジョンを頭に乗せたロナルドがいる。
    「なんだヒナイチ君か」「お茶菓子貰ってきたので持ってきたんだが、なにか邪魔してしまったか?」
    「いや、ちょっと気になるものがあっただけで大したことじゃないよ」
    ドラルクは微笑み返して開けたガラス窓を閉めようとする。
    すでに、黒い蝶は跡形もなくいなくなってしまっていた。

    「半田からの資料見てたのか?」「捜査資料を勝手に見るんじゃないゴリ造。……まあ、うちに関係ない事件なんだけどね」
    「これ、今話題になってる意識不明者の事件のやつだろ。一体何纏めてるんだよ」

  • 175二次元好きの匿名さん22/08/05(金) 00:08:01

    ドラルクは、資料を見たロナルドの顔が一瞬歪んだのを見逃さなかった。
    「何か見覚えのあるものでもあったのかい?」「ヌー?」
    「……」
    ロナルドは黙りこくる。
    言うか言うまいか迷っている顔だ。だが、ロナルドは熟考の末に重い口を開く。

    「昔の話なんだけど」「ほう」
    「知り合いの人間の、ご遺体に……、この蝶がいっぱいくっ付いてた」
    「辛い記憶を掘り返して悪いが、そのご遺体はどういう状態だったんだい」
    ドラルクは思わず身を乗り出して尋ねる。

    「……白骨化してた」
    「それは腐敗してたのかい?あるいは燃やされていたのかい?」
    「医療的な知識から言ってるわけじゃねえからな?」「構わん、言え」
    「多分、あれは食われたんだと思う」
    「なぜそう考えた?」

    「その人の服がボロボロで、血痕とか凄い残ってて、骨もキレイな白骨ってわけじゃないんだ。赤い繊維質の物とか残ってて生々しかったんだよ」
    「遺体によって、明らかな食べ残しの肉が残ってる場合もあったから、私もアレは食べられたんだと思う」
    ヒナイチの補足でドラルクはますます顔をしかめる。
    ジョンは突然のグロテスクな情報にヌァーーっと口をムンクの叫びの様に抑えていた。

    「意識不明で済んだだけマシと考えるべきか迷うところだな」
    「まだ死者がでてないだけ相当マシだとは思う。ただ、この状態がいつまで維持できるか分からねえな」
    ドラルクははぁーーっと深く息を吐く。明らかに事態は悪い方向に寄っている。

  • 176二次元好きの匿名さん22/08/05(金) 00:08:58

    「あっ、そうだ」
    ロナルドがそこで一つぽんと手のひらを叩いた。言い忘れるところだった。
    「前にお世話になってる知り合いの人に、明るい空気を維持しろっていわれてたんだよな」
    「明るい空気?」「祭りとか盛り上がる事をしろって。それだけで相手は動きづらくなるって」
    「……ロナルド君、一応確認の為に聞くけど、そのご遺体が出た時世間的にどんな空気感だった?」
    「その時は多分、パニック状態に近かったな。ゾンビ映画とかホラー映画みたいな空気っていうか」
    「それ以前から不穏な空気ではあったんだ。街に行方不明者が増えてて、皆どこか怖がってて」
    「なるほどはちゃめちゃにヤバいな」
    「ドラルク?」

    ドラルクは再び半田の資料を見返す。
    意識不明者は半月ほど前から出始め、ここ数日明らかに増えている。

    「これは推測なんだが、意識不明で済んでるのは、おそらく街の雰囲気がまだ明るいからだ」
    「何が言いたい?」
    ロナルドが尋ねた。
    「それがここ数日意識不明者が加速度的に増えている。そしたら何が起きると思う?原因不明の意識不明者続出でニュースが出され、一般市民に徐々に不安が募っていく。すると街の雰囲気が悪くなり、意識不明者がまた増える」
    「雰囲気が悪化すると、相手の能力が強くなる?」
    「私はそう見ているよ」

    「……なあ、相手の能力が強くなると、もしかして意識不明から状態がもっと悪化するのか?」
    「急激な白骨化は流石に最終段階だと思うけどね」
    「私たち畏怖を取られ始めてるのか」

  • 177二次元好きの匿名さん22/08/05(金) 00:09:28

    「アレ」は場の空気に左右されると言ったのはディックだったか。
    一度場ができると覆すのは難しいとは聞いていたが、確かに一般市民に一度芽生えてしまった不安感を拭うのは難しいように思えた。

    「だがまだリカバリはできる段階だ。市民が意識不明事件を他人事だと思っている間に、私たちが次の一手を出して覆してしまえばいい」
    「そう簡単にできるのか?」
    「なあにその為の布石は打ってある」
    ドラルクはいかにも愉快そうに笑う。

    「善は急げだ、祭りの準備をしよう。ロナルド君、ヒナイチ君」

    「むやみやたらに安寧を崩して場を荒らすものなどこちらのやり方で追い返してしまえばいいのさ。ここをどこだと思っている」


    「常識外れのポンチと変態吸血鬼と変態人間のはびこる魑魅魍魎が潜む魔都、それが新横浜という街だろう?」


    ヌヌヌ(つづく)

  • 178二次元好きの匿名さん22/08/05(金) 09:38:47

    透くんの時も人間の変態どもに場の空気奪われて心臓排出しなきゃいけなかったくらい、アレにとって場の空気は大事だからね…どんなお祭りになるか楽しみ

  • 179二次元好きの匿名さん22/08/05(金) 11:00:03

    ロナルドが「ご遺体」って言うの性格が出ててなんかいいですね
    ドラルクが蝶触ってたら危なかったんだろうな…
    お祭り楽しみにしてます

  • 180二次元好きの匿名さん22/08/05(金) 13:28:04

    乙です!
    「原作133死トリオがわちゃわちゃしてる!!!かわいい!!! 」とか「Δ???さん交番勤務タロウより優秀では?」とか「Δ???さんが蝶が怪しいと言ってからずっと虫取り網と虫かご装備してた交番勤務タロウある意味前の世界と変わらんな」とか「交番勤務タロウや交番勤務Δ???さんをロナ戦にかいててありがとうロナルドやΔルド」とか考えてたけど、やっぱり黒い蝶が不穏すぎる……!
    過去編のギルドの下り読んだあたりから「こっちの世界も大分重症になってきてない?!」とはおもってたけど、やっぱり相当ましとはいえいつまで維持できるか分からない状況か……。そしてそんな状況を解決するために祭りと。特級Y物やら黄色クール香やら集めてるし、心優しき花と緑を愛する怪人もとうに復活してるし、畏怖を吹き飛ばす材料はそろってるな!!!よし!!!
    続き楽しみにしてます!!!

  • 181二次元好きの匿名さん22/08/05(金) 14:14:57

    祭りだー!!!!!者ども(変態)出合えーー!!!!!明るい雰囲気にするのだーーー!!!!

  • 182二次元好きの匿名さん22/08/05(金) 14:59:22

    であえであえー!!
    シンヨコポンチの底力見せつけてやるのじゃー!!!

  • 183二次元好きの匿名さん22/08/05(金) 22:26:47

    少しにぎやかさに陰りの出てきた新横浜で、一人の男が町中を歩いている。
    男は吸血鬼だった。
    だが男は吸血鬼ではあったが、享楽に甘んじることを是とはせず、自分に厳しく、他人に厳しく、そして少々照れ屋であった。

    もちろん、吸血鬼の本能として畏怖を得たい欲は当然ある。
    しかし、それ以上に「変態に落ちたくない」というただその一心だけで男は己を律していた。
    何も考えずにポンチに走っていれば人生の充実度はかなり違っていた筈だが、そこは男の難儀な点である。
    そのせいか、男には何も吸血鬼らしい能力は発現していなかった。
    制御不能のクソ能力が発現して振り回されるくらいなら、いっそこれで十分だ。

    男は再び街を見る。
    街は何かの準備をしているようで、ここ最近の意識不明者が続出した事件で淀んでいた空気がにわかに弾んでいる。

    何が起きるのだろう。
    男も内心では気になってはいたが、結局自分には関係ないと情報を掘り下げようとする気持ちを吹っ切った。

    男の関心興味と裏腹に、夜の街は提灯や飾りつけで彩られていく。
    神社の祭りとは関係のない、何かを始める祭り。

    詳細は分からずとも、自然と街は浮足だっていた。





    『……』
    「どうしたんですか、フクマさん?」

    ロナルドはいつもの事務所の入ってる空きテナントでフクマと原稿の受け渡しをしていると、おおまかに原稿のチェックを終えたフクマが、仮に姿が見えるのであれば首をひねっているように感じた。

  • 184二次元好きの匿名さん22/08/05(金) 22:27:41

    『いえ、なにか足りないというか、見落としがある気がして』
    「足りない?戦力とかじゃなくてですか」
    『はい。戦力の点は十分かと思います。そうですねえ』
    フクマが珍しく歯切れ悪く言葉を探している。

    『要素、ですかね』
    「今準備してる物じゃ足りないものがあるって事ですか?」
    『はい。……引っかかりはあるんですけどうまく言葉が出ませんね。すいません』
    「いえ!フクマさんが分からないんだったら俺だって分からないだろうし」
    とはいえロナルドもその引っかかりは気になる。
    勝てる要素が増えるのであれば、できる限り増やしておきたい。

    「でも引っかかる事って何でしょうね?」
    『場の空気の維持と弱体化という意味では不足ないはずです、あと想定できるところは』
    ロナルドは前の世界の最後の方の記憶を辿ってみる。

    あの時は暗闇になって、店長が倒れて、ドラルクが襲われて、ヒナイチとはぐれて__。

    「そういえば、電子機器が使えなくなったんですよね。スマホの充電とか、結構残ってたはずなのに電源もつかなくなって」
    『それかもしれません』
    フクマの声音が明確に変わった。

    『わざわざ使用できなくさせたと言う事は、相手にとって不都合が大きい可能性があるのではないでしょうか?電子機器と言わずとも、電気が使える余地を残す必要がありそうです』
    「電気ですか?でも充電があっても駄目なら大体の電子機器関連は全滅なんじゃ」
    『吸血鬼の能力で電気を発生させるなら維持は可能かもしれませんよ。こちら側でできる手があるか調べてみます』
    「よろしくお願いします。……俺の方でも心当たりがあるんで、調べてみます」
    『こちらこそよろしくお願いいたします』

  • 185二次元好きの匿名さん22/08/05(金) 22:28:08

    フクマが深々と頭を下げる気配がしたかと思うと、亜空間に通じる黒窓がスッと閉じる。
    ロナルドはテナントから出ると、即座にスマホを取り出した。

    「……ドラ公?確認したい事があるんだが」





    「電気を使う吸血鬼退治人なんて聞いたことないよ」
    ドラルクはバッサリと切り捨てた。

    「いや、でも、本当にいないの?」
    「だからいないって、一応希美くんにも資料見て確認してもらったからね?ねえ、ジョン」「ヌン!」
    「ならさ、サンダーボルトって名前は知らない?」
    「そっちも聞いたことない。本当にいるの?」
    「俺の事は覚えて無いだろうけど、確かにいた筈なんだ」

    二人と一匹は喋りながら街を歩く。
    ロナルドがビルを出た後、準備に走り回っていたドラルクとスマホで連絡をしたことで合流したのだった。
    しかし確認したかった情報は空振りで、ロナルドは振り出しに戻ってしまった。

    (じゃあ別の街にいるとか?……どうしよう、へんなみたいに消えてたら)

    サンダーボルトそのものも心配だし、なによりまたあの悪循環に逆戻りしてしまうかもしれない。
    いや駄目だ、考えすぎるのは良くない。不安になりすぎるのは「アレ」の思うつぼだ。
    ロナルドが必死に思考を切り替えようとする。だが、考えないようにすればするほど意識してしまう。

  • 186二次元好きの匿名さん22/08/05(金) 22:28:59

    「ロナルド君、ロナルド君?」「ピャヴァッホ!?」
    「考えことしてる最中に悪いんだけどさ、その吸血鬼の事もう少し詳しく教えてくれない?電気を使うんだよね」
    「そうだ。スタンガンとか使って電気を溜めておくことが出来て、放電することで攻撃できたんだ」
    「へえ、この街にいたと仮定してもなかなかカッコイイタイプの吸血鬼じゃないか」「ヌッヌヌイ!」
    「指先とかから放電するの?」「いや、乳首から」「ごめん前言撤回させて」「ヌヌイ」
    ロナルドはドラルクの華麗な手のひら返しに憤った。

    「なんでだよ!!能力事態はカッコイイだろ!」「カッコよくとも魔法が尻から出るレベルで台無しなんじゃ!!なんでよりによって乳首なんだ!?」
    「だって乳首から充電しないと、あいつ電気が溜められなかったんだ」「なんで吸血鬼の能力を聞いてるのに他人の特殊性癖プレイの話聞かされてるの私」
    「でも本当に強かったんだぜ!暴力の効かないでかい敵にだって通用してたし!仕事も真面目で……、ちょっとシャイだったけど」
    「ちょっとミカエラ君思い出しちゃうのはなんでかな」「ヌヌーン(ビキニで煽る)」

    ドラルクがひとつ咳ばらいをして、改めて質問する。
    「それで、電気の能力が必要な理由は一体なんだい。ただ電気を使うだけなら簡易発電機とか使えばいいだけだろ」
    「いや、それがだな」
    ロナルドはドラルクにフクマから聞いた話をざっと説明する。

    「なるほどね?電子機器が使えないか。思い出してみれば、病院の時も使えないタイミングとかあったしね。説としてはアリだと思う」
    「だろ?だからサンダーボルトならきっと説明すれば協力してくれると思ったんだけど」
    「その当人がいないんじゃあ、計画は破綻だな」
    ロナルドはがっくりと肩を落とす。

    「本当にどこ行ったんだろうな、サンダーボルト」
    ロナルドは歩きながら道行く人々を眺める。
    ばったり会えたりしないだろうかと非常に薄い期待を込めていると、見た事のある特徴的なとんがり頭が__。

    ロナルドは目をこすった。


    いた。

  • 187二次元好きの匿名さん22/08/05(金) 22:29:52

    「うわっ!?」
    ロナルドはそれを視認した途端、見失わないようにすぐさま千々の蝙蝠へと変化し、はす向かいの道路にいる目標の元へと飛翔し、再び人型へと戻る。

    「なんだ一体!?」
    その人物は突然目の前にド派手な登場をしたロナルドに驚いていた。
    「驚かせてすいません!あなた、サンダーボルトさんですよね!?」
    「確かに俺はサンダーボルトだが、お前は一体何者だ!?」
    ウワサの人物、サンダーボルトは勢いよく質問してくるロナルドに怯えている。

    「突然蝙蝠化するなこのアホ造!!いきなりそこのバカ吸血鬼がすいません、吸血鬼対策課です!すこしお話を聞かせてください!」
    「俺は何も悪い事も変態行為もしていないぞ!?」
    「ワーー!!話がこじれる!!違うんですそういう疑いじゃないんです、ちょっと質問があるだけなんです」
    ドラルクが徐々に話のトーンを変えることで何とか場の空気を落ち着かせる。
    そこら辺の信用されそうな話し方は流石の年季である。

    「質問、なんのことだ」
    「いえね、あなたの吸血鬼としての能力について一つ質問がありまして」

    「吸血鬼としての能力だと?」
    サンダーボルトはあからさまに訝しむ。

    「俺には吸血鬼としての能力は発現していないが?」


    ヌヌヌ(つづく)

  • 18822/08/05(金) 22:32:45

    都合上画面に映ってませんが、ヒナイチはちゃんとドラルクのお見送りとか護衛はしてます。
    ただ下ネタがきつくなるとネタの都合上画面に映せなくなるだけです。

  • 189二次元好きの匿名さん22/08/05(金) 23:09:50

    電気のくだりから予想はついてたけどまだ能力未発現なのか…
    ではまず変な性癖に目覚めさせるところから…変な性癖に目覚めさせるところから???

  • 190二次元好きの匿名さん22/08/06(土) 07:03:06

    サンダーボルトって名前や能力は普通にカッコいいのに

  • 191二次元好きの匿名さん22/08/06(土) 07:48:24

    まだこのサンダーボルトは乳首に電流当ててないのか……

  • 192二次元好きの匿名さん22/08/06(土) 12:21:49

    ポンチになりたくないから吸血鬼能力発現してないの草だし、この後紆余曲折あろうと能力と性癖が発現することになるのも草。でも発現してもらわんと困るんだ頼む助けてくれ……!!

  • 193二次元好きの匿名さん22/08/06(土) 18:38:56

    はやめのほしゅ

  • 194122/08/06(土) 23:25:26

    次スレ立てます

  • 195二次元好きの匿名さん22/08/06(土) 23:32:40
  • 196二次元好きの匿名さん22/08/06(土) 23:41:37

  • 197二次元好きの匿名さん22/08/06(土) 23:45:58

    >>195

    スレ立て乙です!

    梅埋め

  • 198二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 01:53:33

    >>195

    スレ立て乙です!!!

    うめうめうめ

  • 199二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 04:25:38

    うめめ〜

  • 200二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 12:57:53

    セロリ埋め

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