ここだけモザイク世界線 7

  • 1二次元好きの匿名さん22/08/06(土) 23:28:43

    ※注意

    1がひたすらSSを書いているスレです。


    前スレ

    ここだけモザイク世界線 6|あにまん掲示板※注意1がひたすらSSを書いているスレです。前スレhttps://bbs.animanch.com/board/748903/以下初期設定。〇ドラルクΔとは違う世界線の吸対所属のクソ雑魚ダンピールおじ…bbs.animanch.com

    以下初期設定。


    〇ドラルク

    Δとは違う世界線の吸対所属のクソ雑魚ダンピールおじさん。

    本編世界よりも新横の治安が多少良いので悠々自適に公務員生活を謳歌している。

    以前は吸対のカナリアとして活躍していたが、最近優秀な新人が入ったのでもっと楽ができるぞーと息巻いていたところに謎の吸血鬼コンビのお世話係に任命されてしまった。

    アルマジロのジョンとはいつも一緒。たまに酷い悪夢を見て寝不足になるのが最近の悩み


    〇ロナルド

    突然ドラルクの前に現れた謎の吸血鬼コンビの片割れ。

    日光やにんにく、そして銀とあらゆる弱点が通用しない恐るべき吸血鬼だが何故かセロリが苦手。

    吸血鬼としての能力は非常に優秀で、大抵の能力は使えるみたいだが、ここ一番の場面ではなぜか銃か拳を重用する癖がある。

    過去に致命的な失敗をしたとのことで表情が険しい。

    ドラルクの後先考えない行動によく口を出しがちで、特に夜の勤務時間時はヒナイチともどもひな鳥のようにドラルクについてまわる。

    ドラルクが就寝中などにヒナイチとふらっと出かけてはボロボロになって帰ってくることがある。しかし何をしているのか絶対に話してくれない。


    〇ヒナイチ

    ドラルクの前に現れた吸血コンビの二人目。

    ロナルド程は弱点に耐性を持っておらず、特に日の光に弱い。

    日光に関しては「素質が無いのに無理やり転化した代償」とのことで、髪の赤色も若干濁ってしまっている。

    代わりに夜の闇において彼女を捕まえられるものはいないほど俊敏であり、また二刀流の達人でもある。

    ロナルドとは兄妹のように仲が良いが別に実の兄妹でもなければ恋人とかでもないらしい。

    たまにロナルドともども泣きだしそうな顔でドラルクを見ている時がある。

  • 2二次元好きの匿名さん22/08/06(土) 23:29:26

    〇半田
    吸対所属のエース。とにかく仕事ができるのだが、真面目過ぎて余裕がない所がある。
    同じダンピールで先輩にあたるドラルクには懐いているようだ。
    新たに表れた吸血鬼コンビには大いに警戒しているのだが、なぜか軽口をたたきやすく内心ホッとしている。なぜだろう?

    〇ヒヨシ
    レッドバレットの異名を持つ腕利きのハンター。妹が一人いる。
    無類の女好きだが過去に盛大にやらかしたこともあり、ある程度自制している。
    最近現れた吸血鬼が自分に似ているのが妙に気になる。あの半分でも身長があればな……。

    〇ミカエラ
    吸対所属のエースその2であり、人間。半田の先輩筋にあたり、弟が一人いる。
    きっちりと制服を着こなし真面目に職務に当たっているが、最近現れた吸血鬼がその事に茶々を入れてくるので困惑している。
    何が問題なのだ!

    〇ケン
    突然ハンターギルドに現れ、ハンターをやりたいと言い出した謎の吸血鬼。
    催眠と結界の二重使用という極めて高度な技術を持つ。ロナルドとヒナイチは以前からの知り合いのようで、たまに共同で戦ったりもしている。
    何故か吸対所属のミカエラをよく茶化す。

    〇ディック
    「揺らぐ影」の二つ名を持つ古き血の吸血鬼。
    ロナルドとヒナイチがピンチになるとどこからともなく現れ、変身能力で場をかき回して去っていくタ〇シード仮面的存在。
    2人に協力するのは何か目的があるようだ。以前、息子がいたらしい。

    〇カズサ
    神奈川県警吸血鬼対策部本部長。
    人員不足だった新横吸対の為に、渋るイギリス吸対から人材を引っ張ってきた人。
    人員の一人はクソ雑魚ダンピールおじさんだったが十分働いてくれるのでオッケー。
    (ヒナイチを見て)おや、そこの吸血鬼のお嬢さん、オレの顔に見覚えがあるのかい?

  • 3二次元好きの匿名さん22/08/06(土) 23:29:48

    〇ジョン
    ドラルクと永遠を誓う愛すべき〇。

    最近嫌な夢を見るんだヌ。黒い何かがドラルクさまに襲い掛かるんだヌ。
    そして、まるで存在をすする様にドラルクさまが消えていくんだヌ。

    ヌンは何もできなかったヌ。
    見ることしかできなくて、そしてヌンの体もぼろぼろと塵になっていくんだヌ。
    ……夢はいつもそこで終わりヌ。


    基礎ルール
    ・御真祖とフクマさんが存在していない
    ・そもそも竜の一族が存在していない。ノースディンは存在している。ドラウスたちは人間としてなら存在しているかもしれない
    ・記憶の持ち越しは元から吸血鬼か人→吸血鬼のみ。記憶のない吸血鬼もいる
    ・記憶を持ち越した者は、家族との血縁関係や友人関係がなかった事になる。
    ・吸血鬼が人間かダンピールになっている場合は確定で「何か」があった。
    ・本編で複数能力持ちだった吸血鬼のうち何人かは一部の能力が消えている場合がある(例、イシカナがタピオカの能力しか持っていない)
    ・一部の人間にもうっすらと記憶の残滓が残っている場合があるが夢のようにおぼろげ。
    ・存在が丸々消えている吸血鬼もいる(例、へんな)
    ・ロナルドヒナイチは頻繁に「何か」と戦っている

    ・「それ」は竜の臭いに惹かれている

  • 4二次元好きの匿名さん22/08/06(土) 23:32:06

    前回のあらすじ
    過去編地獄絵図
    祭り?の準備
    黒い蝶怖い

    サンダーボルトに変態の気配が忍び寄る。

  • 5二次元好きの匿名さん22/08/06(土) 23:34:00

    予想外の答えにロナルドが固まる。
    「そう、なんですか?」
    「だから質問に答えることなどできない。もう行ってもいいか?」
    「はい、大丈夫ですよ。突然の要請に対してご協力感謝します」
    ドラルクが愛想のいい外面で受け答えをする。

    「じゃあ、行くが……。そっちの吸血鬼は大丈夫か?」
    サンダーボルトは、明らかに沈んだ様子のロナルドを気にするように言った。
    「気にしないでください。こっちの話なので。それでは我々は失礼します」「ヌイヌーイ」
    ドラルクは気落ちしたロナルドの腕を掴むと、ひ弱な力でなんとか道のわきに引きずり、二人と一匹だけでこっそりと会話をする。

    「話が違うぞ若造!」「ごめん!!いやでも俺が知ってた範囲だと本当に電気使えたんだよまさか発現すらしてないとか思わなかったんだよ!!」
    「能力を持ってて隠し持ってる可能性もあるがあの様子だとガチで持ってなさそうだぞ。電気が使えるというのはいつも自尊心おっぺけぺーの君でも自信のある情報だったんだろ?出所はどこだ」
    「それはその、……」
    ロナルドの目が明らかに泳いでいる。ドラルクはこれ以上掘りだしても喋らないとあたりをつけた。
    「ヒヨシ君の時とかとおんなじ種類の案件?」「……!それ!あんまり言えない」

    「まったくもうめんどくさいな微妙にズレのあるその謎情報!だが電気に関しては確信してもいいんだな?話が進まなくなるからそこは容赦なく信用するぞ!」「わ、わかった、大丈夫な、筈」
    ロナルドがやはり自信のなさそうな顔をしたが無視して捲し立てる。

    「じゃあ確認だ。彼は乳首を通して電気を蓄え、放電する能力がある」「改めて字面にすると犯罪臭しかしねえなこの説明」
    「そしていまこの段階ではその能力は発現していない。ならやる事は一つ、その能力に目覚めていただくしかない」
    「でもどうするんだよ、本人にその気がねえならこっちもやりようがねえぞ」
    「だがせっかく電気が使えるかもしれない吸血鬼がいるのに諦めるのも愚策だろう。こちらからあらゆるアプローチをしてファっとしてなんとか目覚めてもらう」「肝心なところがワヤワヤしてきてるじゃねえか」
    「じゃあ具体的に言うが例えばサンダーボルトくんの乳首に君の念動力でありとあらゆる刺激を与える遠隔乳首攻めとか」「イヤダーーーーー!!!!」

  • 6二次元好きの匿名さん22/08/06(土) 23:35:36

    「わがまま言うんじゃないこれも街の平和のためだ!!」「街の平和以前に俺たちがセクハラで連行されるレベルなんだよ!!!」
    「吸血鬼の犯罪立証なんざほとんどできないから大丈夫だ!」「警察が白昼堂々と言う事じゃねえだろ!!」
    「ならちょっとつまむだけとか!」「ぜってえやらねえからなっ!?それに、俺の力加減間違えたらどうすんだよ下手したら乳首爆発だぞ!?」
    「それは確かに。なら他に手立ては……、hey!半田君!」
    ドラルクはスマホに向かって叫ぶと半田がすぐさまドラルク達の元にたどり着く。

    「お呼びですかドラルク隊長!」「半田早くね!?」「うるさい黙れバカ話のテンポの都合だ!!」
    「よく来た半田君、巨大化する前の陸吸血クリオネ持ってない?」「それなら手元に丁度これが」
    「あるのかよ!?」
    ドラルクは小型の吸血クリオネを受け取ってニヤリと笑った。



    「題して、陸クリオネが暴走して噛みついちゃった!上半身ドキドキパニック~!」
    半田が帰った後、ドラルクが一人でタンバリン小刻みに揺らす。それを聞いている一人と一匹は淀んだ目をしている。
    「タイトルセンスゼロ」「ヌイヌヌンヌヌヌヌーヌー(低予算企画AV)」
    「しょうがないだろ他に言いようがあるなら言ってみろやああ!?」
    「でも陸クリオネってだいたい下半身狙うだろ。どうやって上半身噛ませるんだよ」「聞けや」
    文句を無視されたドラルクは気を取り直して懐から一つの小瓶を出す。ちなみに半田はすでに持ち場に戻った。

    「薬か?」「ヨモっちゃんから犬写真集と引き換えに手に入れた下等吸血鬼を集める誘惑剤だ。これを上半身にかければ目論見通りというわけよ。というわけでハイ」
    ロナルドはドラルクに薬を手渡される。

    「え」「セクハラは強要しないからこれくらいはやらんか」
    「やるの……?」「やれ。人の生死がかかってるかもしれないんだぞ。必要な犠牲だ」
    「そうかもしれないけどさあ!それでも良心とか咎めるじゃん!」「じゃあ直接乳首いじってくださいって言うのか!?無理だろ!!」「ウワーーーン八方ふさがり!!」

    ロナルドは観念して念動力で薬を浮かす。
    力加減に注意しながら、サンダーボルトのやや上空にまで持っていき、そして見事に液体をサンダーボルトの服に付着させた。

  • 7二次元好きの匿名さん22/08/06(土) 23:36:36

    「よし、ついたぞ」「出番だ陸クリオネ!!」
    ドラルクが大きくさせた陸クリオネをサンダーボルトに向かってけしかける。
    あとは成功を祈るのみである。

    陸クリオネははじめはゆっくり動きながらも途中からサンダーボルトから漂う臭いを嗅ぎつけたのか、勢いよく跳ね、サンダーボルトに襲い掛かる。

    「なんだ!?」
    サンダーボルトが突然襲い掛かる陸クリオネに驚愕する。
    そのまま陸クリオネはサンダーボルトの上半身に食らいつく、かと思いきや。

    「「なに!?」」「ヌヌ!?」
    サンダーボルトは陸クリオネを足で蹴り上げて、見事に撃退してしまった。

    「ふう、なんでこんなところに陸クリオネが……」
    陸クリオネはすっかり伸びてしまっている。これでは作戦の続行は不可能だろう。

    「くそう、作戦失敗か!」「そういえば元々退治人できるポテンシャルあったもんな」
    ロナルドは襲われなくて良かったとちょっと安堵すると同時に、次どうしようという気持ちが湧いてくる。
    一方のドラルクは策が上手くいかなかったことに納得いかないのか、悔しそうに次の手を考えていた。

    「ある程度反射神経が良いのなら落下事故装うのは良くないな。もっと確実に相手の乳首を責めなければ」
    「なんで他人の乳首にこんなに葛藤しなきゃいけねえんだ……」「理性を取り戻すんじゃない捨てろ、バカバカしさで死にたくなるぞ」

    「そうだ」
    ドラルクは何かに気が付いたようで再びスマホを取り出す。
    「今度はなにやるんだよ」
    「いじる前にまずは晒させろ、だ」


    ヌヌヌ(つづく)

  • 8二次元好きの匿名さん22/08/06(土) 23:49:39

    新スレおつです
    サンダーボルトさん可哀想・・・

  • 9二次元好きの匿名さん22/08/06(土) 23:52:36

    スレ立て&更新乙です!
    ポンチ作戦進行中…!前スレがヤバかった分最初から面白いことになってる…!果たしてドラルク達はサンダーボルトを目覚めさせることができるのか⁉️
    続き楽しみにしてます!

  • 10二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 00:44:14

    更新乙です!!!
    サンダーボルトくんかわいそう(いいぞもっとやれ)
    シンヨコの平和のためだからね!仕方ないね!!!

  • 11二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 09:52:02

    それにしてもこのドラルクさんイキイキしてるな

  • 12二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 11:25:21

    やってることはギャグなのに理由がシリアスで切迫してるのシュールだなあ

  • 13122/08/07(日) 18:03:02

    業務連絡です。
    普段投稿してる回線が現在IP規制されてるので、もし今日投稿できなかったら規制に引っかかってると思っていただけると助かります

  • 14二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 23:53:10

    「というわけで行け!野球拳!!」
    「まあそんなこったろうと思ったよバカ野郎!!」

    そんなこんなでドラルクが呼び出したのはイカすピンク浴衣の吸血鬼こと野球拳大好きであった。
    「なに?オレに男の服脱がせってのか?」
    「本当に悪いと思ってるんだけどこの街の平和の為にあいつに乳首をさらしてもらう必要があるんだ」
    「街の平和と乳首にどんな関連があるのか全く分からねえんだが」「オレもそう思う」
    野球拳は若干渋い顔をしたが、すぐに何かを思い出したのか若干やる気を取り戻す。

    「まあいい、こっちのアイツには悪いが思う事が無くもない!いいぜやってやろうじゃねえか野球拳!!!」
    「おお、頼むぞ野球拳!」「上半身脱がせるだけでもいいからな!」
    「そこのお兄っさぁーーーん!!」
    野球拳が意気揚々とサンダーボルトに向かって駆け寄り、野球拳を仕掛けたのだった。



    「「あいこでしょ!」」
    「「あいこでしょ!」」
    「「あいこでしょっ!!!」」

    だが、話はそう簡単には終わらなかった。

    「すげえ……、野球拳が全然終わらん」
    「それどころか野球拳がじわじわ追いつめられてる。これはマズいぞ」

    しかし本人たちは周りの反応と打って変わってむしろヒートアップしていた。
    互いにじわじわとと着衣が脱がされていき、徐々に追いつめられていくにつれ盛り上がる周囲、気が付けば野次馬が出来ている。
    サンダーボルトは靴やズボンを脱いで抵抗していた。今彼はコート状の上着を脱がされたら一発アウト、あられもない全裸が待っている。
    一方の野球拳もあともう一歩、パンツを脱がされたら一糸まとわぬありのまま、お互いに次の一手が勝敗を決する。

  • 15二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 23:54:54

    「やるじゃねえか、こんなに粘った奴はめったにいねえ」
    「黙れ変態!俺はお前たちのような存在に堕ちたりなどしない!!」
    「なら堕としてやるぜオレの野球拳でよぉ!!あいこで、」


    「「しょッ!!!」」

    野球拳の出した手は、チョキ。

    サンダーボルトが出した手は、グー。

    「うぉぉおおおおおお!!!!!」
    「負けたぁあああああ!!!!」
    二人は対照的な雄たけびを上げる。

    「すごい!!サンダーボルトが勝った!!あのプレッシャーの中で勝った!!!」「ヌヌイーーーっ!!!」
    「全く持って目的が果たせない上に脱線しまくっとるのに感動してはしゃいでるんじゃない五歳児!!あっ、ジョンはいいからね!次いくぞ次!!」



    その後、ドラルクはあれやこれやとサンダーボルトの乳首をいかに刺激するか策を練るがそれもどれもが絶妙に不発。そんなこんなでドラルクのアイデアもネタ切れしてしまう。

    「くそう、ダメだ……!ゼンラニウム触手作戦も不発となると次はどうすれば」
    「あのさ、やっぱ黙ってやるのは良くないんじゃないか」
    「ファーー??じゃあどうするっていうんだ、バカ正直にいまさら話すのか!?」
    「それでいいよ!!やっぱ、サンダーボルトにちゃんと誠意をもって言おう!アイツだって事情を知ったらきっと分かってくれるって!」
    ロナルドがサンダーボルトに向かって駆け出す。
    「俺、言ってくる!」「待たんか若造!!その勢いのままで行ったらおまえ……!」

  • 16二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 23:58:08

    「サンダーボルトーー!!」
    「お前は、さっきの怪しい吸血鬼?」
    サンダーボルトがさっと警戒の体制を取った。
    「何度もごめん、俺やっぱりお前に言わなきゃいけないことがあって」
    しかし、ロナルドが思った以上に深刻な顔で話し始めたので、流石にちょっと警戒を緩めて、ロナルドの顔を窺う。

    「どうしたんだ?」
    「本当に申し訳ないんだけど、街の平和の為にもお前に協力してもらわなきゃどうにもならなくて」
    「なんだ、そういう事情なら言ってみろ」
    「うん、実は俺たち、」
    ロナルドは深く息を吸う。


    「お前に、サンダーボルトに、乳首をいじってほしいんだ……!」





    「誰か警察を呼べーーーー!!!」「違うんだサンダーボルト!!変態行為を強要したいわけじゃなくて、その
    !!」
    サンダーボルトは顔を赤らめながら叫び、ロナルドは涙目になりながらアカン事を口走りつつ誤解を解こうとするという新たな地獄絵図が完成していた。

    「ほーら言わんこっちゃない!話こじれたじゃないか!!」「だってさ!やっぱ黙ってるのは良くないって!!」
    「お前はさっきの吸血鬼対策課!?聞いてくれこの吸血鬼が俺に突然セクハラ強要を」
    「ハイハイ分かってます分かってます。ちょっと落ち着きましょうか」

    ドラルクは混乱するサンダーボルトを宥め、あくまで自分のペースに持っていく。
    「なるほど、この吸血鬼が突然乳首開発を強要してきたと」

  • 17二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 23:59:51

    「そうだ、VRC以前に普通の警察案件じゃないのか!?」「言ってることが真っ当だから困るなこれ」
    ドラルクは咳ばらいをする。

    「えー、実はですね、サンダーボルトさん。彼はけして意味もなく変態行為を強要したいわけではなく、吸血鬼対策課の作戦の一環なんです」
    「は?」
    「はい、とある吸血鬼の情報によると、あなたが電気が使えるタイプの吸血鬼だという話がありまして」
    「まってくれ俺は固有の吸血鬼能力なんて持ってないぞ!だいたいなんだその情報を出した吸血鬼は!」
    「ええ、それに関しては分かっています。ですが、あなたのまだ目覚めぬ力は電気であると、その吸血鬼は予言したんです」
    「予言!?」

    「占いのフランチェスカ先生をご存じですかな?実は彼女、未来を占いで予知できるタイプの吸血鬼なんですよね。その方が言い切ったんです、新横浜在住のとある吸血鬼が電気を使えるようになれると!」
    もちろんドラルクによるハッタリである。フランチェスカの占いは確かに比較的当たるが予言は吸血鬼の能力ではない。

    「それが俺だと?」
    「はい。フランチェスカ先生は言いました」

    「乳首を通して、電気を貯蓄、放電できる吸血鬼が現れると__!」





    「なんで乳首なんだ!?なんで手とかじゃないんだ!?」
    「知らん。吸血鬼の微妙にズレた能力なんざこの街にいりゃあいくらでもいるの分かるだろ」
    「いやでもほんと、手とかだったらこんなに話こじれてねえと思う」「ヌソーー」

    サンダーボルトは自分の胸元を抑えて顔を真っ赤にして叫ぶ。
    「絶対に嫌だ!!俺は!!変態に堕ちたくない!!!」
    「気持ちは痛いほどに分かる!でもこの街のピンチに電気の能力がどうしても必要なんだ!助けてくれサンダーボルト!!」
    「街のピンチの為だからってそんな乳首なんて……!」

  • 18二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 00:03:02

    だが、ロナルドは必死に頭を下げつづける。

    「お願いだ、本当に困ってるんだ……!俺たちにできる事ならなんだってするからさ!!」
    そのあまりにも真摯な頼み方に、すこしだけサンダーボルトの心が揺れる。
    だが、乳首開発はあまりにも……。

    「なら。等価交換だ」
    「サンダーボルト?」「なにを要求するというのかね?」

    「ああ、俺に乳首をいじれというのなら……、お前たちにもこの街中で恥ずかしい恰好をしてもらう!!」
    「「恥ずかしい恰好!?」」

    「そうだ!」
    サンダーボルトは強く頷いた。

    「俺の能力が本当に乳首がきっかけでないと発動できないというのなら、俺は乳首充電の十字架を一生背負う事になる!それに目覚めろと強制するのなら俺と同じくらいの恥をかいてみろ!」

    「サンダーボルト、俺たちは」
    「どうだ、できないだろ」
    サンダーボルトはロナルド達の顔を見ずにくるっと後ろを向く。

    「これが飲めないというのなら、俺は能力の発現は目指さない。……諦めて他を当たるんだな」
    「サンダーボルト」「まだ何か言うつもりか?」
    サンダーボルトが煩わしそうに再びロナルド達の方を向いた。すると、


    ロナルドはほぼ全裸に股間にサメの模型がついた下着状態、ドラルクはガリガリの体でシーニャのものと思わしきボンテージを着ていた。

    「……早くないか!?」
    「うるせーーーー!!!新横浜の退治人ならこれくらいの恥は覚悟の上なんだよ!!!これで足りねえなら乳首と尻部分だけ切り取られた黒の全身タイツでブブゼラ吹いてやる!!」

  • 19二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 00:03:42

    「いや、そこまでやらなくても」
    「なんだシーニャさんのボンテージじゃ足りないというのかね!?なら次はゼンラニウムか!?もうここまで来たら特注でこっそり作らせてたどらどらちゃんコスプレでもなんでもしてやるわ!!バ美肉おじさんの本気女子モーションリアルタイムで中継してやる!!」
    「それは見てる側がダメージを受けないか」「私は可愛いんだよダメージなんかあるわけないだろ!!」
    「いやあるだろ」「ここで冷静な切り返ししてくるなどっちの味方だ5歳児!!」

    サンダーボルトはすっかり二人の圧に飲まれてちょっと涙目になっている。

    「で、でも、」
    「でもじゃねえ!!お前が交換条件に応じたんだろ!!私たちはやったぞ!とっとと腹をくくらんか!!」
    「ウワーーーーーン!!」
    「迫真になるあまりにいじめになってんだよカス」「アダダダダダダダ」
    ロナルドはヒートアップするドラルクを関節技で強制的に落ち着かせた。

    「た、助かった……」
    「あまり乗り気じゃない事やらせてごめんな」
    ロナルドの言葉を、サンダーボルトは首を振った。

    「分かってる、お前たちは約束を果たした。ならオレも誠意を見せなきゃいけない」

    「じゃあ、サンダーボルト」「ああ」

    「やってやる、乳首開発を……!」


    ヌヌヌ(つづく)

  • 20二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 02:19:02

    流石シンヨコの変態達と日々鎬を削ってるだけあって変態化への躊躇がない
    そしてどらどらちゃんVの衣装は何の為に作っていたのか…それはそれでそのうち見たいですね

  • 21二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 06:30:04

    街の平和の為とはいえ人(吸血鬼)に乳首開発を強いるっていう状況がカオスすぎてシンヨコダナーって感じ

  • 22二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 11:08:09

    エロ漫画でもなんでもないのに交換条件に応じて変態の恰好しながらくそ真面目に乳首開発迫るってこの…なに?

  • 23二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 14:05:45

    野球拳に勝つサンダーボルトくん何気にすごい!
    深刻なことでも色々ギャグになってしまう、それがシンヨコクオリティ

  • 24二次元好きの匿名さん22/08/08(月) 23:12:08

    相変わらずシリアスとギャグの落差が激しすぎる(誉め言葉)

  • 25二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 06:31:19

    「本当かサンダーボルト!」
    「ああ、お前たちの熱意に負けた……」

    サンダーボルトは厚手の上着を脱ぎ、上半身をさらした。
    そして、しばらく固まる。

    「サンダーボルト?」「何固まってるんだ」「ヌヌヌヌヌ?」
    「いや、その、今すぐここでやらなきゃダメか?」
    「……確かに、わざわざ外でやらなくてもいいもんな」
    「まあ、よっぽどひっ迫した状況でなければ今日中でなくともかまわんが」
    しかしドラルクがその言葉を口にした途端、ドラルクの頭上の外灯が急に点滅をはじめる。
    周囲のビルや街の明かりも不規則に点いたり消えたりを繰り返したが、しばらくすると収まった。

    道行く人々がざわつく。
    「最近停電多くないか?」「なんか増えてるよね」
    「これ、原因不明なんだって」「えー」


    「前言撤回やっぱダメだ今日中にやれ!!」
    「話が違う!!!」
    サンダーボルトはドラルクの鮮やかな手のひら返しに困惑する。
    「どうしてだ!?さっきまでもう少し余裕がありそうな口ぶりだったじゃないか!!」
    「その余裕が今無くなったんだよ思ってた以上にひっ迫してたわ本当に厄介だなあの敵!!!」
    「じゃ、じゃあ俺は今から乳首開発を……?」「しろ!!」
    ドラルクは有無を言わさぬ顔で叫んだ。

    「せ、せめて人気のない所に行かせてくれ」
    「そうだな、あ、じゃああのビルとビルの間で」「助かる」

    ビルとビルに挟まれた薄暗い細道で上半身裸になった男とサメを取り付けた男とボンテージ男とマイクロビキニのマジロが入っていく。

  • 26二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 06:33:05

    「今この状態で誰かに通報されたら俺たち一発アウトな気がする」
    「職務質問は免れないが大丈夫だ。我々には警察手帳が味方してくれる」「それはそれで別の絶望を産むぞ」
    「朝っぱらから公務で下着チェックしてる国家権力に絶望もクソもないだろ」「もはや何もかもが終わってんな」
    二人がこの世の絶望について語っていると、おずおずとサンダーボルトが話しかけてくる。

    「じゃあ、始めるぞ」
    「頼む」

    サンダーボルトが胸部を晒す、だが

    「あの、後ろ向いてていいか。そしてできればそっちも後ろ向いててくれ」
    「わかった」

    三人は背中合わせになり、事の推移を待つ。
    ごそごそという衣擦れの音が聞こえたかと思うと、男の喘ぎ声が聞こえ始めてきた。
    「あっ、ううん……あんっ」


    「あの」
    「どうしたサンダーボルト?」
    ロナルドが後ろを向いたまま尋ねる。

    「足りないんだ」「なんだって?」

    「刺激が足りなくて、ダメな気がする」
    「「……」」
    ドラルクとロナルドは非常に複雑な気分に駆り立てられたが、言い出しっぺは自分たちである。

  • 27二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 06:36:23

    「洗濯ばさみとか良いんじゃないか」
    まず対策を述べたのはロナルドだった。
    「硬くて挟むところギザギザしてるから指とは違う刺激になるとか」
    「それだけじゃ足らんだろ。電気に通じる刺激が必要になると考えたらもう少し痛みがあってもいいかもしれない」
    「例えば?」
    「洗濯ばさみの後ろ側にひもつけて勢い良く引っ張るとか」
    「昔の体張ったコントとかでありそうなやつだ!」
    「なあ、本当にやるのか」「もうどこまでも付き合ってやるわ覚悟しろ!!」

    〇やってみた

    バチーンっ!!!

    「んっ!!」
    サンダーボルトが洗濯ばさみが外れた途端身をよじらせながら悲鳴を上げる。
    なんの地獄絵図だと言いたくなるが、本人たちはいたってクソ真面目だ。

    「どうだった?」
    「いい刺激だったが、目覚めるにはちょっと……」
    「次だ次!」

  • 28二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 06:39:24

    「じゃあ、次はハリセンで横殴り」

    〇やってみた

    バシーンッ!!

    「んんっ!!」
    「どうだった、サンダーボルト?」
    「さっきより刺激が弱くなったかもしれない」
    「次!」



    「じゃあ方向性を変えて見ろ!乳首の上でお灸!」

    〇やってみた

    「あっ、ああ!あつっ!」
    「どうだサンダーボルト!」
    「これはこれで刺激的だが俺の好みの刺激と違う」
    「次ぃ!!」



    「いっそ直接電気を当てろ!スタンガン!」

    〇やってみた

    「ああんっ!!!」
    「今度こそなんか響いてくれよサンダーボルト!!」

  • 29二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 06:40:21

    「……すまないが、惜しい」

    「もういっそ爆発させろロナルド君!!」
    「いくらなんでもそれは乱暴すぎるだろ!!めんどくさくなってきて投げやりになってんじゃねえ!」

    「やはり、元々俺には電気を扱う才能などないんじゃないか」
    「違うんだサンダーボルトお前にはちゃんとその力が……!」

    「お困りのようですな?」

    変態の目覚めに四苦八苦する一同の頭上から、最近やたらよく聞く紳士的な声が聞こえてくる。
    そしてすぱんっ!と地面にピンクチラシのテレカが突き刺さった。

    「こ、この声とこのピンクチラシは!」「わーこのピンクチラシテレカ何年物だろ」「ヌヌーイ!」

    「へんなの親父ッ!!」

    「いかにも、最近ご無沙汰しておりましたなロナルドさん!とうっ!」
    変なの父ことディックは一回鳥に変形してから華麗に地面に着地する。とてもHTPが源とは思えない華麗さだ。

    「一体何しに来たんだ変なの親父」
    「いえ、同胞の新たな芽生えに少しばかりアドバイスをしようかと思いまして」
    「アドバイス?」
    「そんなアドバイスなどいらん!」
    「まあそう意固地にならずに、きっとあなたの人生に新たな彩りを与えると思いますよ?」
    ディックはコホンと咳払いをする。

    「題して、なぜ近年の吸血鬼は能力開花が変態性癖に走りがちなのかについて、です!」

    ヌヌヌ(つづく)

  • 30122/08/09(火) 06:48:18

    IP規制で投稿が安定しなくてすいません。
    今回色んな意味で書いてて辛かったかもしれない

  • 31二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 06:54:56

    作者は書いてて辛かったかもしれませんが読者はめちゃくちゃ面白かったです!(ごめんなさい♡)

  • 32二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 07:22:40

    ディックが出てきた時の安心感。これならばサンダーボルトも新たな扉を開くことができるでしょう……

  • 33二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 11:49:51

    やってることはニッチなエロ漫画のそれなのなんなんだろうな…まあへんな父が来たしなんとかなるでしょうきっと
    作者さんお疲れ様です

  • 34二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 22:50:47

    一回保守

  • 35二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 22:55:57

    ヌシュ

  • 36二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 23:32:39

    「さて、語りますはまずは吸血鬼の能力についてです。吸血鬼の能力の発現の仕方、どこまでわかっていますかな?ロナルドさん!」
    ディックがロナルドに向けて手を向ける。

    「えっ!?えっと、まずへんなの変身能力は遺伝、だよな?」
    「そうです、我がドゥーブツ家は変身能力を基盤にした一族です。それ以外は?」
    「えーと、あと思いつくのは野球拳とかマイクロビキニとか下半身透明とかは発現の仕方よくわかんなくて、ゼンラ二ウムは……あいつ普通の吸血鬼のくくりで良いのか?マナー違反とかも能力としては強力だったけど……」
    「そのあたりも大きなくくりで言ってしまえば古き血に該当しますな。この中ではゼンラニウム氏は例外ですが」
    「そこら辺の細かい違いはよくわかんねえよ!」

    「仕方ない、私の方から吸血鬼の癖に世間知らずでひらがなも覚えたての五歳児に対して少し知恵を貸してやろう」「後で半殺す」
    「まず吸血鬼には血族という概念があるのを覚えてるか五歳児」
    「……あっ、そっか。噛んで血を吸う事で後で家族になる事あるもんな吸血鬼」
    「そうだ。吸血鬼の血族の増え方というのは人間でいう生殖にはとどまらない。血を分け与えれば本物の親子関係も疑似的な親子関係も等しく家族だ。吸血鬼の能力は分け与えられた親吸血鬼の血の濃さと本人の資質によって決まるので、疑似的な親子関係であっても血を分け与えてしまえば親の能力が子に遺伝するわけだ」
    ドラルクの説明に今度はディックがさらに説明をかぶせてくる。

    「そして、その血族の能力には各血族で特色があったりします。我々ドゥーブツ家であれば、それが変身能力というわけです。ここまでは大丈夫ですかな?」
    「おう」
    「なあ、その話が変態とどういう関係があるんだ……?」
    サンダーボルトが尋ねる。
    「少々話の前提知識が必要になってくるんですよ、焦らず焦らず」
    ディックは愉快そうに話を続けた。

  • 37二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 23:33:41

    「血族固有の能力と一口に言っても代を重ねていけば血も薄くなり、能力も段々と弱体化していく傾向にあります。稀に突然変異で異様に強い吸血鬼が爆誕したりもしますが今回は弾きましょう。なんの能力も発現していない吸血鬼、最近では珍しくないでしょう?」
    「まあ確かに、ゲームセンターあらしとか無かったはずだよな。……昔は能力のない吸血鬼はいなかったのか?」
    「200年程前でしたらそういう能力のない吸血鬼はだいたい吸血鬼退治人に倒されてたので、あまり残らないんですよね」
    「サラッとえぐい事言わないでよ!!」「怖いじゃん!怖いじゃん!!」
    サンダーボルトとロナルドが突然の話の急転直下にうろたえた。しかしディックは変わらぬ調子で話し続ける。

    「それだけ今は平和になったんですよ。今の時代は弱い吸血鬼が格段に生き残れるようになってきています。それによって何が発生すると思います?」
    「……、価値観が変わったりとか。平和の時と緊張した時代では考え方はまた違うだろう?」
    次に答えたのはドラルクだった。
    「そうですね。良い所をついています。平和の時代では確かに価値観が変わりました。ではなんの価値観が変わったのでしょうか?」

    「答えは、我々吸血鬼にとって最も重要な要素であり欲である、畏怖についての価値観です」

    「平和になると、まずなりを潜めてくるのが武力です。もちろん全く不要になったわけではありませんが、それでも人間社会に紛れ込んで生きる我々にとって表立って出すことのできなくなった能力の一つと言えるでしょう。古き血のもつ能力というのはどれも強力、それゆえに以前のような派手な使い方はできなくなりました。以前は己の強力な能力を誇示し、人間に畏れを抱かせることによって大抵の吸血鬼は己の畏怖欲を満たしていましたが、現代社会においてそれは禁じ手になってしまった」
    「いまだにバカやる吸血鬼もいるけどね」「ヒュドラとか性質悪いのいるしな」
    「長命ゆえクラシカルな考え方を貫く吸血鬼もいますからな。ですが、大半の吸血鬼は穏便に済ませるものです。楽しくないですから。ではどうするか?」

    「まさか」
    「この変化により、ある能力が台頭してきました。それが、素晴らしきセンスの能力、あなた方の言う変態能力というわけです!」

  • 38二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 23:34:23



    「変態!?なんでそこで変態!?」
    「念動力とか穏便なもので済ませられなかったのか!?」
    「ここで、先ほど話した能力の発現しない吸血鬼の話が効いてきます。弱い吸血鬼が生き残れるようになったことは確かに良い事です。ですがそれと同時に、彼ら彼女らは解消できない畏怖欲を抱え続けることになるのです」

    「ドラルクさんもご存じの通り、吸血鬼の能力というのはピンからキリまであります。真っ当な武力勝負や能力の強力さでは古き血や血が濃く能力が強力な者には到底かなわず、畏怖欲が満たせません。例えるならば、Aさんがスプーン一本浮かせることで畏怖を得ようとしたら、隣のBさんはスプーンどころか車一台浮かしてしまって周囲の話題をかっさらう状態に似ています」
    「確かにそれだとAさんの勝ち目ねえな……」「スプーン一本でも凄い事してる筈なんだけどね、浮遊」

    「そこで出てくるのが変態、性癖の部類です。なぜこの街の吸血鬼の能力に変態行為が発現しがちなのか!それは」


    「変態は、畏怖を得るコスパがめちゃくちゃ良いからです」

    「「な、なんだってー!!」」「ヌンヌッヌー!!」


    「ごめん、なんだってーってノリで言ったけどちょっと分かんなくなってきた。コスパが良いって何……?」
    「このネタ分かる人いるのかなあ。それはともかくとして私は何となく分かるよ」「そうなのか?」

  • 39二次元好きの匿名さん22/08/09(火) 23:35:12

    「だからさ、単純な実力勝負では勝てないんだろ?だったら独自の変態行為を極める事によって独自色の畏怖を得ようって話だよ」
    「うん?」
    「私あんまり実例出したくないんだけど、場末のネット掲示板とかでたまに凄い事やらかす人いるだろ?こう、色々自分の体でやっちゃいけない遊びした結果緊急入院して論文書かれたり」
    「それ以上は言わねえほうが良いな」「だろ。もうすこしマイルドでわかりやすいのだと女装を極めたりとかもあるけど、そういう極まりすぎた人たちって見ている人に時にドン引かれることがままあるわけだ。つまりそれって畏れられてるって事だろ?」
    「待ってくれ。……バカじゃねえの?」

    「素晴らしい解説ですドラルクさん!そう!変態行為を極めギリギリを攻める事によっても畏怖は得られます!いわばこれは現代を生きる吸血鬼にとって武力を使わず畏怖を得ることのできる新たな生存戦略なのです!!」
    「そんな生存戦略捨てちまえ」


    ヌヌヌ(つづく)

  • 40122/08/09(火) 23:37:05

    今回の変態と畏怖の話もこのスレの独自解釈なんでご注意ください。
    変態のさじ加減が難しい

  • 41二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 07:11:56

    度し難い生態への解像度が高い

  • 42二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 11:14:22

    理由としては腑に落ちるところはあるけど生存戦略にしても人間サイド的にはくっそ迷惑だな…ってなっちゃうの思考がシンヨコナイズされていないからなのかなんなのか

  • 43二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 11:45:32

    戦闘が推奨されない現代でなんとかして畏怖られようと頑張ってるのはすごいよ。結果出力されるのはポンチの街シンヨコだけど、人間側もなかなかの強者(変わり者)多いし

  • 44二次元好きの匿名さん22/08/10(水) 20:20:08

    な、なんだってー!?
    あのポンチ能力の裏にはそんな理由が…!!
    とても原作準拠の良い変態たちで読んでいてとても楽しいです
    いつもありがとうございます!!

  • 45二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 00:06:05

    「さっきから黙って聞いてれば畏怖欲って結局一体何なんだよ!!吸血鬼迷惑罪とかの間違いじゃねえのか!?」
    「失敬な。畏怖欲は我々にとって重要な欲求、人間でいう三大欲求に値するものですぞ!」
    「そうなの!?お前らそんなに畏怖無いと生きてけないものなの!?」
    「ロナルド君さっきから他人事のように言いたい放題言ってるがお前も吸血鬼だからな」
    「俺は変態がそこまで吸血鬼の本能に紐づいている事実に頭を抱えたい」
    「まあ、ショックだろうな……サンダーボルト」

    「とにかく、畏怖欲というのは我々には欠かせない欲求です」
    「いまいちそれがよくわからねえけど、人間の承認欲求とかとは違うのか?」
    「社会的承認という側面も確かにありますが、それ以上に重要な側面があります。……人間でいう性欲的な側面に近いのです」
    「はぁ!?」
    ロナルドはあまりにも予想していなかった言葉に驚愕する。

    「畏れられることが何で性欲に繋がるんだよ!関係ねえだろそれ!」
    「いいえ、関係ありますとも。吸血鬼の増え方は2パターンあるとドラルクさんは言いましたね?一つは人間と同じ生殖による繁殖。そしてもう一つ、対象を噛み血を送ることによって吸血鬼化させる方法」

    「人間でしたら子を成す方が重要と思われるかもしれませんが、我々吸血鬼のポピュラーな増え方は、あくまでも対象を噛み血を送る方なんですよ。ロナルドさん、今よりも古き時代、人間が吸血鬼化する現象を人間がどう扱っていたか知っていますか?」
    「え?ええっと、確か」
    ロナルドは古い記憶を掘り起こす、確か昔、呵々屋敷先生に取材したときにそういう話が合った筈だ。

    「不治の病にかかったって、扱いなんだっけ?」
    「その通り、よく勉強していますね。吸血鬼化は病気という扱いなんです。これによって分かる事は、我々吸血鬼の増え方は感染。元ある生物を我々の存在に染め上げる事にあります。下等吸血鬼なんか分かりやすいですね。古い野菜が吸血鬼化して他の野菜も影響されることは見た事あるでしょう?」

  • 46二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 00:07:09

    「ああ、思い出したくない記憶を思い出すな……。だけどそういわれると、全然別の生き物なんだな。吸血鬼」
    「そもそも既存の生物ですらありませんので。我々高等吸血鬼は他の生物を染め上げることで成り立つ現象が人型を取ったようなものですから。ゆえに川や他人の家屋などの境界に左右され、鏡にうつらず、死体は残らず塵になる。もっとも最近は人間との混血も増えましたので、昔に比べると事情は大分変りましたがね」

    「さて、ここで畏怖欲の話に再び戻しましょう。我々吸血鬼は生物を噛むことにより吸血鬼化できますが、こと吸血鬼化しづらい生物というのが存在します。それが人間です」
    「強い血を持つ吸血鬼が噛むか、そもそも素質のある人間が吸血鬼に噛まれるかくらいでしかならないのが常だが、これがどう関わってくるのかね?」
    ドラルクが補足を入れながらディックの話を促す。

    「そうです、基本的に古き血を持つような強大な吸血鬼にしか吸血鬼化ができません。人間は染め上げづらい存在なんです。それはなぜか?……人間そのものが独自に考え、場の空気に左右されない。簡単に畏れに流されない存在だからです」

    「我々は「アレ」の説明でも話したとおり、場の空気に非常に左右される存在です。畏れを得ることでその吸血鬼の独壇場になったりすることがあるというのは前にも言った通り。そして畏れにはもう一つの重要な役割があります」

    「畏れを得ること、己が強力な吸血鬼だと証明する行為は感染力、ひいては相手を染め上げる行為の成功率に直結するのです」

    「つまり、畏怖を得れば得るほど、吸血鬼は同族を増やしやすくなる?」
    「その通り!」
    ディックがパチパチと軽い拍手をする。

  • 47二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 00:07:34

    「相手が畏れ、心酔し、身を差し出すほどに我々は吸血対象を得ることが出来、食事とともに同胞を得ることもできる。まさに吸血鬼にとって必要不可欠な欲求ですな」
    「まあ最近は食事はもっぱら人工血液で間に合うし、血を噛んでの同胞増やしだって面倒が多いからほとんどやらないみたいだけどね」
    「近年はパートナーを得ることで子を成すことの方が主流になってきてますからね。そういう意味では吸血鬼は人間化してきていると言えるかもしれません」
    「ある意味吸血鬼にとってディストピア化してきてるようなものなのかもしれないな、現代」
    「だから畏怖欲こじらせるんだろうな」「ヌー」

    「我々吸血鬼は人間でいう遺伝子ではなく血によって一族が連なります。高等吸血鬼は一族以外は基本的にどうでもいいという話はご存じですよね?どれだけ弱い吸血鬼であったとしても、血を残したいという欲求は本能的に多かれ少なかれあるものです。そういった抑圧された側面が出てしまうのが人間の言う畏怖欲犯罪につながるんでしょうね。私は素晴らしいと思いますが」

    「変態行為に走られる方はたまったもんじゃねえんだよ!んで、変態能力が多い理由はこれで全部か?」
    「それだといささか乱暴ですね。もう少し事は複雑です。いわゆるクソ能力とよばれるガチャのハズレ枠に変態能力が増えた理由は畏怖コスパ論でいいんですが、強力な能力をもっているのにあえて変態能力を使っている吸血鬼の説明が片手落ちになります」
    「そっちの方がさらに性質が悪いんじゃ。なんなんだよ!なんであえて変態能力に走るんだ!」

    「そんなの決まってるでしょう!?そっちの方が楽しいからですよ!!」


    ヌヌヌ(つづく)

  • 48122/08/11(木) 00:13:13

    再度言いますが、畏怖欲関連はこのスレ独自設定なのでお気を付けください。
    説明が難しくてあまり進まずすいません。次は進む、かな?

    ちなみに吸血鬼化は不治の病扱いの情報ソースは至らぬラジオからです。

  • 49二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 00:19:10

    そういう情報をこうやって運用していくの本当にすごい
    最後wwwまあ楽しい方がいいもんね!!!

  • 50二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 01:03:21

    独自設定なのに
    「そんなの決まってるでしょう!?そっちの方が楽しいからですよ!!」
    の説得力が凄い・・・

  • 51二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 02:18:14

    吸血鬼に関しての説明、スレ主さんの独自設定なのは念頭に置いた上でめちゃくちゃ楽しんでます。だって読んでて面白い!

  • 52二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 12:18:31

    そっちの方が楽しいで「だからポンチ多いのか」と納得してしまう哀しさ

  • 53二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 12:52:40

    独自設定とはいえ説得力があって面白いですね
    ところでこの会話まだサメとボンテージなんですよね…?脳がバグる

  • 54二次元好きの匿名さん22/08/11(木) 23:47:59

    保守

  • 55二次元好きの匿名さん22/08/12(金) 00:53:38

    「結局ポンチじゃん!!!享楽優先のいつものポンチ吸血鬼じゃん!!!」
    「畏怖と変態の関係を知ったうえで知るのとでは全く違いますとも!!」
    ディックはロナルドに言い返す。

    「いいですか、吸血鬼は欲求の関係上変態行為に走りやすいという土壌を知ったうえで考えるとなお理解が深まるのです。そのままでも確かに強力な能力、だがそれに独自路線の変態行為をスパイスとして加えることでさらに刺激的なものへと変化しますから」
    「スパイスがわりの青唐辛の海におぼれて死 ね」「山盛りのパクチーを無理矢理口に放り投げたくなるな」

    「だいたい畏怖畏怖言ってるけど変態行為以外で畏怖取ってる奴だっているじゃん!吸血鬼の能力由来でなくとも自分の芸磨いて勝負してる奴だっているし」
    「それはそうなんですけど大半の人間というか吸血鬼も楽してできる方に流れるものなので」
    「クソカスなワナビみたいなこと言ってんじゃねえよ」「きっと何者にもなれない吸血鬼たちの最後の希望なのか、変態」

    「そしていつしか変態行為は畏怖を得る手段から、それそのものが目的へと変化していきます。つまり純粋な変態行為そのものを楽しんでしまい、趣味の変態に振り切ってアクセル下手踏みしてくる吸血鬼が増えてきたのです!!」
    「バーーーーカッ!!!」
    「ロナルドさん、思い出してください!魔法美少女スコスコ妖精氏など100%趣味でしかないでしょ!?」
    「わかるけどさ!!M字開脚あたりとか絶対その系統だけどさ!!」
    「厳密には変態じゃないけど他人巻き込むタイプのポンチ吸血鬼も大体この系統かな」

    「待ってくれ」
    そこでサンダーボルトが口をはさんだ。
    「じゃあ、俺が目覚めようとしている能力はなんなんだ?畏怖を得やすいために単純に変態能力が無駄に追加されてるだけだと言いたいのか?」
    「いいえ、違いますとも。貴方が認めたがらないだけで分かっているのではありませんか?」

    「乳首を起点に充電放電ができる。それはつまりあなたが乳首に気持ちよさを感じるため、さらなる高みを目指そうとあれこれ試した結果です。つまり、変態行為を十分楽しんだ結果開花させることが出来る素晴らしい能力ですよ」

    「うわぁぁぁああああああっっ!!!!」
    「サンダーボルトが顔真っ赤にさせて頭を抱えて体ビタンビタンさせてる!!!」

  • 56二次元好きの匿名さん22/08/12(金) 00:54:38

    「公開処刑されたようなものだ、仕方ない。乳首の刺激に対する注文が妙に具体的で細かかった時点で我々も気づくべきだった」「気づけねえよ」

    「違うっ!!俺は!!乳首いじりなんて!!!」
    「でも物足りないのでしょう?」
    サンダーボルトの動きが、ディックの一言で止まる。

    「いいじゃないですか。楽しんだって。それで吸血鬼(ひと)が死ぬわけではないんですから」
    妙に、実感のこもった一言だった。


    「誰かーー!!」
    大通りの方から悲痛な叫びが聞こえる。
    ロナルドとドラルクが即座に反応する。

    「一体なんだ!?」「確かめに行くぞドラ公!!へんなの親父、サンダーボルトの事頼む!!」
    「ちょっとまてこのサメとボンテージのままで行くのか!?」「着替えてる暇ねえだろ!とっとと行くぞ!」
    「いや私は……、引きずるな!ひきずるなゴリラ!!」「ヌーー!!」
    二人と一匹は変態の恰好のままそのままトラブルが起きた場所へと走り出してしまった。

    「本当に変態の恰好のまま行ってしまった」
    「あの二人にしてみれば恰好など些細な事ですからね。とくにロナルドさんは」
    「……」

    サンダーボルトは黙り込む。
    些細な事、という言葉が思ったよりも深く突き刺さっていた。


  • 57二次元好きの匿名さん22/08/12(金) 00:55:21

    愉快なポンチの恰好をした二人は現場へと全力疾走していく。
    大通りにはパトロールの最中に寄ったと思われる何人かの吸血鬼対策課が集まってきており、空気が混沌とし始めている。

    「バカめっロナルドなんだその恰好は!!」
    「仕方ねえだろちょっと色々あったんだよ半田!!!」
    「ドラルク、また変態吸血鬼に何かやられたのか?」
    「やられたっていうか、交渉中だったが正しいかな……。ヒナイチ君、状況は?」「それが」

    ロナルドとドラルクがヒナイチの指さす方向を見る。
    何も見えない。

    目をこすっても、何も見えない。
    確かに街灯が当たっているはずなのに、不自然にその場が薄墨でも垂らしたかのように黒ずんでいて、光が行き届いていない。
    黒ずみはじわじわと領域を広げており、黒ずみに触れた街灯はもれなく点滅をはじめ、消えていく。
    黒ずみの端々からは、かすかに蝶が羽ばたいているのが見て取れた。

    「見ての通りだ。何とか周辺の者は避難させたが、運悪くあの黒ずみの付近にいたものはもれなく意識不明者になっている」
    「そんな!」
    「大分マズイな。しぶといったらありゃしない。半田君、要請とかはどうなってる?」
    「吸対とギルドにはすでに連絡を入れてあります。簡易的な立ち入り禁止区域は交番の警察官立ち合いの元作成していますが、範囲が広がっているのでさらに警戒区域は広げるべきかと」
    「よしそのまま広げて構わない。人手が足りないようなら他の課にも支援要請出して。あとはやってると思うけど市民への避難指示。この分だと新横浜公園はちょっと危ないかも」
    「了解しました」
    半田は一通りの指示を受けると、さっそく独自にテキパキと動き始める。
    ドラルクの指示出しも大したものなのだが、なにせ恰好がボンテージなので場の空気の緊張感を大分下げさせていた。
    それはロナルドも同様である。真剣な顔で事の推移を見守っているが、恰好はあくまでもサメだ。

    「ロナルド君、念動力であの黒ずみの調査とかできる?」
    「今やってる!」
    ロナルドは地面に落ちている適当な長物を浮かすと、それをそのまま黒ずみの中に入れてみる。
    だが、長物が黒ずみの中に入った途端手ごたえを無くし、すぐに長物がどこに行ったか分からなくなってしまった。

  • 58二次元好きの匿名さん22/08/12(金) 00:56:16

    「手ごたえなくなった。異空間っぽいのが広がってるかも」
    「かーーー!どこからともなく四次元空間がお出しできるとはなんとまあ厄介なことだ。せめてポケットサイズにでも収まってくれないかね!?」
    「んなこと言ってる場合か!広がってきてるからこのままじゃやべえぞ!飲み込まれるんじゃ……」
    「いやでも」
    ヒナイチが少し驚いたような様子で喋りはじめる。

    「お前たちが来てから、急に黒ずみの拡大率が下がったんだ。なんでだろう……」
    ドラルクとロナルドは顔を見合せた。

    「ヒナイチ君!これからしばらくの間全部ちんだけで喋って!!」
    「なんでだ!?」「いいからチン!」「ち、ちーん!!」
    「ジョンも下ネタ連呼で!」「オヌンヌン!!」

    「市民の皆さん!すいません、Y談を、Y談を喋ってください!!できなければマイクロビキニの着用とかでもいいです!!」
    ロナルドが大きな声で拡散しはじめる。

    「なんでY談?わざとY談?」「どれから話せばいいんだ、足の事を話していいのか?」「熟女のすこしだらしない体つきにエロスを感じる」
    「どうしよう、この街ムダ毛フェチが強いけど正直ムダ毛全部剃った方が燃える」「脱いでいいんですか」

    市民たちが困惑しながら各々のY談を語り始める。
    「さすが新横浜の一般市民!唐突な無茶ぶりにも見事な対応だ!」「ヌンヌヌ!」
    「誇っていいのか正直分かんねえ!!でも黒ずみが徐々に小さくなってくぞ!」「ちん!」

    ロナルドの言った通り、黒ずみは人々のY談が増えるたびに勢いを落とし、縮小していく。

    「このままいけば消滅するぞ!」「いけーーーーー!!」「ちーーん!!」「ヌンヌ!!!」

    しかし、事はそう簡単には運ばない。
    黒ずみはまるで苦しむかのような動きで縮小していく。だが最後のあがきと言わんばかりに、黒ずみ一本の電柱まとわりついた。
    そしてそのまま、電線の一部を黒ずみで飲み込むことで、強制的に電線を分断させる。

  • 59二次元好きの匿名さん22/08/12(金) 00:56:42

    「マズイ!!」
    ドラルクが叫んだ時にはもう遅い。
    周囲一帯の外灯や電気が一気に消え、辺りは夜の闇に包まれる。

    「なんだ!?」「消えたぞ!?」「俺のマイクロビキニを見てくれ!」
    これにより困惑した市民もY談を止めてしまった。
    停電に乗じて再び黒ずみが広がっていく。

    「このままじゃ、また街が闇に取り込まれちまう!」
    ロナルドが確かな焦りを感じたその瞬間。

    その稲光は、顕れた。


    バチィッ!っという弾けるような音が聞こえたかと思うと、辺り一帯に目に突き刺さるようなまばゆい光があふれ出す。
    この光の由来は、間違える筈もない。電気によるものだ。

    「まだ、全てを受け入れたとは言えないのかもしれない」
    「この声は……!」

    「だが、お前たちのそのなりふり構わない真摯さに確かに負けた。それだけは分かる。……待たせたな」
    「来てくれたのか!サンダーボルト!!」

    ロナルドが破顔する。
    サンダーボルトは上半身裸になっており、乳首を中心に体全体が帯電していた。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 60二次元好きの匿名さん22/08/12(金) 01:00:20

    ※おまけ。本編とは関係ありません。個人的にこうなんじゃね?という考察です。

    ロ「能力が強力なのに変態に振り切りすぎたっていうと、やっぱり野球拳とマイクロビキニ思い出すな。なんであんなことになってるんだあいつら」
    ディ「ああ、その二つに関してはですね。ちょっと他と毛色が違うと思いますよ」
    ロ「? どういうこと?」

    ディ「野球拳大好き氏に関しては、あれ元々野球拳由来の能力じゃないと思いますよ。できる能力と野球拳のルールがたまたま合致したから野球拳と後付けで呼んでいるだけだと思います」
    ロ「でも強制的に脱衣させるし、野球拳、じゃないの?」
    ディ「これは私の想像なんですけど、元々は衣服を誰にも邪魔されないように脱がせる為の能力じゃないですかね」
    ロ「?」
    ディ「ですから、家族から本人は嫌がっているのに強制的に着せられたお仕着せをジャンケンによる遊びと称して脱がせるとか、ですよ」
    ロ「そんな嫌がるような服って、例えば?」
    ディ「……女装とか。人間でも、古い家なら男児の健康を祈って女子の格好させるまじないとかあるでしょう?まあこれはたとえなので、どんな服かはわかりません。私には」
    ロ「じゃあ、結界はなんなんだ?」
    ディ「そのままです。脱がせるのを邪魔されないようにするための措置ですよ。例えば、烈火のごとく怒る家族とかから」
    ロ「……」
    ディ「まあ、あくまで全て想像です」

    ヌン(完)

  • 61二次元好きの匿名さん22/08/12(金) 02:23:36

    乙です!
    ポンチとシリアスのミルフィーユで脳がバグる…!てかずっとサメボンテージだったの?!
    たとえ力のあるヒトでも少ない力で多様な効果得られるならそっちに流れるよね。人間のサガだと言いたいところだけど高等吸血鬼の話なんだよな…。
    やっぱりこの世界も切迫してきてるぅぅう‼️時空に穴空いてるのヤバいじゃん!その穴がY談で縮むのもウケるけど!
    と思ったらピンポイントで電気狙ってきた‼️ヤバい…と思ったらサンダーボルト覚醒ーーー‼️
    続き楽しみにしてます!

  • 62二次元好きの匿名さん22/08/12(金) 11:30:47

    ギャグとシリアスが反復横跳びしてくるの健康にいいな

  • 63二次元好きの匿名さん22/08/12(金) 12:26:36

    ギャグとシリアスの反復横跳びとかサウナと水風呂に交互に入るようなもんだから整う
    シンヨコ市民ブレないなぁ!突然のポンチにも対応できる素晴らしい市民ですね
    あとディックは古き血の吸血鬼だけあって所々含蓄が深い

  • 64二次元好きの匿名さん22/08/13(土) 00:13:49

    保守

  • 65二次元好きの匿名さん22/08/13(土) 01:00:51

    暗闇の中、一人輝き続けるサンダーボルトが気合を入れるように叫ぶ。

    「乳首充電完了(フルチャージ)!!必殺!!!」

    「ニップルサンダー!!!!」
    その掛け声とともに、まるで地面にさざ波が立つように電気の波動が周囲一帯に広がっていく。
    さざ波が広がるにつれ先ほどまで勢いを増していた黒ずみは一気に縮小していき、辺りの明かりがにわかに戻りはじめる。

    「やった!」「バファリンもビックリな即効性だな」
    電線が途切れてしまった周辺以外は大方の外灯や街明かりがどんどん復旧し、とうとう黒ずみは全て消え去ってしまう。その様は夜だというのに夜明けのような爽快感があった。

    「凄いぜサンダーボルト!本当に助かったよ。恥ずかしかっただろうに、ありがとな」
    「いや、俺の能力が役に立ったのならなによりだ。俺ももう少し、自分の能力を誇ってみるよ」
    「サンダーボルト……!」
    「あーー、良い雰囲気な所悪いんだがちょっと話の腰を折っていいか?」
    ドラルクが二人の間に割って入る。
    「なんだよドラ公!せっかく感動してたのに……!」
    「それどころじゃないんだ。あれ見ろあれ」
    ドラルクがロナルドの顔の向きをグイっと変えさせる。

    視線を変えさせられたその先には、ひらひらと黒い何かが舞っていた。

    「なんでまだ黒い蝶々がいるんだよ」
    「どうやらあれはY談で消える類のものではないらしい。……使い魔なのか?「アレ」の弱点をカバーするために使役してるのかもな」
    「じゃあ、まだ気は抜けないってことか」「それは確実だろう。こんな街のど真ん中で異空間が出始めている時点で異常事態だ」
    「チンチンチーン!」「あっ、もうチン語は解除していいよヒナイチ君」
    「なんだちん語って!それより、捕獲とか駆除はできなんだよな?あの蝶は」「報告によると無理だねえ」
    ドラルクがため息をつく。

  • 66二次元好きの匿名さん22/08/13(土) 01:01:38

    「実態があるようでない、まったく都合のいい生態だよ。スタンドか何かか?」
    「なあ、ドラ公」「どうしたロナ造」
    「あの蝶、増えてないか?」
    ドラルクが再び蝶に視線を向ける。先ほど見た蝶の数より2~3倍に膨れ上がっている。
    「なんでぇ?」「ヌンヌ?」
    ドラルクは想定以上のスピード感についていけず非常に間抜けな声をあげる。しかし、それにさらにロナルドが追い打ちをかけた。
    「んで、さ。ドラ公」

    「あの蝶、こっちに向かってきてない?」

    「うわぁああああ!!!」「くんなくんなくんな!!!!」「ちーーーん!!!」「ヌーーーー!!!!」
    三人と一匹が蝶の襲来に焦り、蜘蛛の子を散らすように逃げまどう。だが、蝶はみっぴきの方には向かわない。
    「あれ!?」
    ロナルドが立ち止まって、蝶の群れがどこへ向かっているのかよく確認する。

    「キャァァァアアアアア!!!」
    蝶は、サンダーボルトの方へと向かって飛んでいた。





    「一体何なんだこの黒い蝶は!!」
    「サンダーボルト逃げろ!!その蝶は、」
    しかしロナルドの忠告は間に合わず、サンダーボルトに蝶が襲い掛かる。

  • 67二次元好きの匿名さん22/08/13(土) 01:02:12

    「うわぁぁああ!!!!」「サンダーボルト!!!」
    ロナルドがサンダーボルトを助けようと駆け寄る。しかしそこには、

    「いだだだだだ!!痛い!!痛い!!!」
    「サンダー、ボルト……?」

    サンダーボルトの乳首に、黒い蝶々が二点集中して群がっていた。

    「えっ、乳首に……?」「花の蜜に群がるがごときだな。なんか出てるのか?」「ヌヌュウ」
    「そんなこと言ってないで助けてくれ!!!痛い!!乳首が!!乳首が噛まれてる!!!」
    「乳首が!?っていうか蝶って噛むの!?」「蝶が噛むかは分からんが、腐った死体を食べる蝶ならいるぞ」
    「マジでそんなんいるんだ!?いやそれよりもサンダーボルト助けないと!!」

    ロナルドは必死にサンダーボルトに群がる蝶を追っ払おうと手を振るが、蝶は少し離散したかと思うとまたサンダーボルトの乳首に群がってしまう。
    「くそ!このままじゃサンダーボルトの乳首がボロボロに……!」「ああんッ!」
    「そこで呻くんじゃない!というかなんの為の能力開発だ!とっとと電気を使って追っ払わんかサンダーボルト!!」

    「うっ、ダメだ……!さっきの広範囲放電で電気を使いすぎて充電が切れてしまって……!ううっ!!」
    「追加充電しなきゃダメか!この群がり方じゃバッテリーがあっても充電できねえ!」
    「どいてくれロナルド!」「ヒナイチ!?」
    ヒナイチが勇ましくサンダーボルトの方に踏み込むと、自分の手に傷を入れると蝶に向けて血を数滴かける。
    血が赤く煌めいたかと思うと、突然燃え上がり、乳首に群がっていた蝶が波が引くように逃げていく。

    「よかった、なんとか効いたか」「助かったぜ、ヒナイチ」
    「乳首がむしり取られるかと思った、ありがとう」
    サンダーボルトが礼を言う。ロナルドもそれにホッとした様子をするが、ドラルクは難しい顔をしたままだ。

  • 68二次元好きの匿名さん22/08/13(土) 01:02:35

    「ドラルク?」
    「いや、これじゃ終わらないな」

    ドラルクは逃げていく蝶の方向を見ている。
    空の天井に、いつの間にか黒い巨大な渦巻のようなものができ始めている。

    先ほど復帰したばかりの外灯がまた点滅を繰り返している。
    街のビル群も何度か点滅を繰り返し、まるで安定しない。
    またすぐにでもさっきのような薄墨がぶり返してきそうだ。根拠があるわけでもないが、そう感じられる空気感だった。

    「ヒナイチ君、吸対の方に連絡入れて。にく美くんいる筈だから、例の秘密道具の用意を指示」
    「あ、ああ」
    「ロナルド君、サンダーボルトを連れてヴリンスホテルの方にいこうか。「アレ」の性質上一番街で目立つランドマークに何かあったら怖い。あ、充電は必ずさせといてね。これからちょっと頑張ってもらうから」
    「……何するつもりだ?」
    「メインディッシュの前のオードブルだよ。ちょっと始める前に下準備が必要みたいだからね」


    「それが終わったら、いよいよ祭りの本番というわけだ」


    ヌヌヌ(つづく)

  • 69二次元好きの匿名さん22/08/13(土) 01:07:12

    このレスは削除されています

  • 70二次元好きの匿名さん22/08/13(土) 10:38:40

    ぬしゅ〜

  • 71二次元好きの匿名さん22/08/13(土) 16:17:12

    ヌヌュウで草生えた、出ねぇだろ男のチクビだぞ

  • 72二次元好きの匿名さん22/08/13(土) 23:26:45

    茉莉の本番って何する気なんだろ

  • 73二次元好きの匿名さん22/08/13(土) 23:58:33

    街のあちこちの明かりが不規則な点滅を繰り返し始めている。

    空を見れば雲一つない夜空のはずだというのに、まばらに空が黒ずんでていていまいち視界がはっきりとしない。
    先ほどサンダーボルトを襲ったと思われる黒い蝶々は空高く舞いつづけており、視界の端に常に映りつづけて妙な圧迫感があった。

    きっとこの状況を見て見ぬふりをしても、街は元通りにはならない。
    再び街を染め上げようと言わんばかりの圧力がある。
    一つ状況が動けばすべてが反転してしまうような怖さがあった。

    夜が波打っている、見えない何かが泳いでいる。
    空の黒ずみがまとまってきているように見える。

    ドラルク達がヴリンスホテル周辺までたどり着くと、その空の動きがとくに顕著だった。

    「なんか、すっげえ空から見られてる感じする」
    「無視だ無視!とにかくやれること全部やるぞ。サンダーボルト!さっきの放電はどれくらい続けられそうだ?」
    「さっきの威力で広範囲なら十分も持たないが……」
    「じゃあ、2時間……最低1時間連続で放電できそうな範囲と威力は分かるか?」「それなら」

    サンダーボルトが指定した範囲と威力を聞いて、ドラルクはさらに無線で吸対への何か応援要請を送った。
    「一応聞くけど、これからなにするつもりだ」
    「一次的な安全地帯を作ってこっちの反撃までの時間を稼ぐ。ここが作戦本部だ、忙しくなるぞ」
    「もう、もたないんだな?」
    ヒナイチが蠢く空を見ながら言った。

    「……朝を迎えられたら、我々の勝ちかな」
    ドラルクが答えた。

    だが、ロナルドもヒナイチも知っている。
    時間が経てば、いつもどおりに朝日が昇るとは限らない事に。

  • 74二次元好きの匿名さん22/08/13(土) 23:59:13

    「隊長、仮設テントの設置終わりました。……どうしたんですか、その恰好は。あの吸血鬼もですが」
    報告に来たミカエラが、どう接すればいいのか分からない様子で尋ねてくる。
    さっきから非常にまじめに職務をこなすドラルクだったが、恰好は依然としてボンテージであるし、ロナルドもサメのままだった。

    「ああ、これね。……正直、いつ着替えたものか迷ってるんだよね」「ヌヌーン(威嚇)」
    「着替えてください!!これから重要な作戦やろうとしてるのにいつまでそんなふざけた格好をしているんですか!我々の信頼に関わりますよ!?」
    「私もいつまでその恰好でいるのか凄く気になってた」
    「いや、俺も着替えた方がいいのは分かってるんだ。でもさ、これ」
    「うん、……蝶とか黒いモヤとかが全然寄ってこないからぶっちゃけ便利なんだよね、この服」
    「実用性の問題だったのか!?」
    ヒナイチが驚愕の声をあげる。着替えるタイミングはあったのにどうりでさっきから二人とも着続けているわけである。

    「さっきから私たちにしてはシリアス度数が上り調子だろ?こういう細かい所で中和してかないと仕事にならん」
    「オレもこのままシリアス戦闘突っ込むのかなって懸念はあるけど相手が弱体化するならもうやるしかないかなって腹くくり始めた」
    「見せ場ですらポンチをまとわなきゃいけないのか私たちは!?というか、私も何かやったほうが良いのか?」
    「いやお前まで変な恰好しなくていいから!」「ヒナイチ君は語尾にちんをつけることでシリアスを中和しなさい」
    「そ、そうする、ちん!」「ヌンヌン!」
    「隊長のその恰好は深い意味があってのものだったのですね」「別に深くないから」
    「でしたら、私からも一つ提案が」
    ミカエラがドラルクに一つ耳打ちをする。

    「ふんふん、良いんじゃないか?でもどうせやるなら私だったらこうするなあ、このタイミングでさ」
    ドラルクが良いいたずらを思いついた時のような笑顔でミカエラにさらに耳打ちをする。
    「なるほど、ではそのように連絡します!」
    「ああ、せいぜい賑やかしてくれ」
    ドラルクがにこやかに走るミカエラを見送った。

    「なに企んでだ」「いやいやいや、ここでネタバレをしてしまうのは無粋だとも。どこで起きるか分からないドキドキ感が楽しいんだから!」
    「楽しむ余裕あんのかよ……」
    正直ロナルドとしては煙草でも吸いたい気分だ。

  • 75二次元好きの匿名さん22/08/13(土) 23:59:55

    「あいつの生態分かってんならなおの事楽しまなきゃダメだろう!?明日の事なんて考えずとりあえず今を楽しむのがこの街における特効薬だ。主催者側がまず笑顔を見せなくてはな!」
    ドラルクが大笑いをして見せる。
    しかし、心からの笑いではなく、まだいささかぎこちない。それでも全力で楽しもうという姿勢が見えた。
    ロナルドはそれを見て、少しだけ肩の力を抜いた。
    失敗してはいけない特別な事をこれから始めるという気合ではなく、むしろいつも通りのお祭り騒ぎを起こすくらいの気持ちでいた方がいいのかもしれない。
    そしてヒナイチは、少しだけ考えたそぶりを見せると、おずおずと提案をする。

    「なら、ドラルク。ちん」
    「なんだいヒナイチ君?」
    「ロナルドもなんだが、ひとつ、お願いがあるんだ。……ちん」

    「「?」」「ヌ?」





    「ううんっ!!」
    たまに紛れるサンダーボルトのちょっと艶っぽい呻き声が気になるが、サンダーボルトによる電気結界は十全に働き、ヴリンスホテル前の一帯は完全な安全地帯が出来ていた。
    だが、駅前広場を少し離れると、途端に黒い蝶や黒ずみが視界に入る。
    いつ何が起こるのか、最早誰にも分からない。

    そんな中、ギルドによる応援メンバーもまたヴリンスホテル前に集まってくる。

    「やっほー!!新横浜ハンターギルドメンバーも来たわよ!!」
    「シーニャテンション高いな」
    「そりゃ高いに決まってるわよレッドバレット!!ドラちゃんが私が送ったボンテージ着てくれてるって風のウワサで聞いてるんだからね!!」
    「目的そっち!?」
    「そういうえば当のドラルク達はどこいるんだ?」
    同行しているショットやサテツがキョロキョロとあたりを見回す。

  • 76二次元好きの匿名さん22/08/14(日) 00:00:58

    「シーニャさん、あっちのテントの方からロナルド達の臭いがするよ」
    「でかしたわサテツ!さあ覚悟してらっしゃいドラちゃん!ばっちり写真に収めちゃうんだから!!」

    シーニャが意気揚々とサテツの指さした仮設テントの方へ向かい、そして勢いよく入り口のカーテンを開けた。
    「ドラちゃーん!!ここかしらー!?」
    「うわっシーニャさん!?」「ギャーーー!!」「なんだ!?」

    カーテンを開けた先には三者三様の叫びが聞こえる。
    だが、シーニャの考えていた光景とは違っていた。

    「あら?あらあらあら、どうしたのその恰好!」
    「どうしたのって、ヒナイチ君にちょっと頼まれてね」
    「いいじゃない!ボンテージ見られなかったのは残念だけど、似合ってると思うわ、その」


    「吸血鬼っぽい恰好!」

    「そりゃあ私はなんでも似合いますからね!これくらい似合って当然ですとも!」「ヌン!」
    ドラルクは、ロナルドが着ているようなクラシカルな雰囲気のマントに燕尾服のオーソドックスな吸血鬼のような恰好をしていた。

    「それにロナルドもどうしたの?レッドバレットみたいじゃない!でもなんだかしっくりくるの不思議ね、その退治人服」
    「ああうん、俺も久しぶりに着て大分しっくり着てる」
    そしてロナルドは、赤と十字架が付いたベルトによる装飾が特徴的な退治人衣装を着ている。

    「ヒナイチも凛々しくて素敵よ。吸対から借りれたの?」
    「そうだ。……今日だけは特別と言う事で許可してもらったんだ」
    そしてヒナイチは、白い吸対の制服をきっちりと着こなしていた。

  • 77二次元好きの匿名さん22/08/14(日) 00:01:30

    「なんだか全然雰囲気違って面白いわねえ。仮装パーティー?」
    「まあそんな所だね。シーニャさんも楽しんでくださいよ」
    「もちろん、それで何から始めるのかしら?」

    「まずは開会の言葉って奴ですね」

    ドラルクがマントをはためかせながらマイクを握り外を出ると、用意してあるカメラの前に立つ。
    カメラは電気がある限りは新横浜中に放送されるように中継が繋がっている。さながら即席の小さなご当地ローカルTVスタジオといった具合だ。

    ドラルクが息を大きく吸うと、マイクに向かって叫び始める。

    「諸君っ!!期待を煽るだけ煽って待たせたな!!新横浜警察署公式広報チャンネル、どらどらチャンネル特別編!!新横浜全体を使った特別番組の公開収録、開始である!!!」

    「肝心などらどらちゃんはどこだぁ~~!?可愛い私がここにいるだろうが!!ぶっちゃけ機材の関係で公録のバ美肉は無理だったわすまないな!!衣装だけは用意したからあとで誰か着てくれ!だがっ、このドラドラちゃんが誠心誠意込めてこの公碌を諸君の期待に沿った物を必ず提供すると約束しよう!」

    「新横浜の紳士淑女と変態の諸君、これはいわば反撃の狼煙である。我々の日常を浸食しようとするあのふざけた黒いもやもやを全部綺麗に吹き飛ばしてしまう為のな」

    「さあ、祭りの開始だっ!!目にモノを見せてやろう!!」


    ヌヌヌ!(つづく)

  • 78二次元好きの匿名さん22/08/14(日) 11:12:27

    クライマックスにいつもの衣装は盛り上がる!

  • 79二次元好きの匿名さん22/08/14(日) 11:18:39

    よかった!ポンチな格好での最終?決戦にならなくて本当によかった!ロナルドとヒナイチにとってのいつもの恰好で迎えるのいいね

  • 80二次元好きの匿名さん22/08/14(日) 13:16:21

    アーッかっこいい!!!!
    やっぱお前らはそうじゃなきゃな!!!!
    展開が良すぎて変なテンションになってしまう!!!
    楽しい!!!

  • 81二次元好きの匿名さん22/08/14(日) 16:00:38

    いつもの衣装は反則でしょう!!!カッコ良すぎる!!!

  • 82二次元好きの匿名さん22/08/14(日) 23:51:34

    夜空が動く、蝶の大群が舞う。
    ドラルクが叫んだ宣戦布告を知ってか知らずか、新横浜を覆う死を呼ぶケガレはその反撃を飲み込むように蠢いている。

    地上では、中継により至る所に流れたドラルクの言葉を聞いた一般市民がざわつきながらも、何かを期待して待っていた。
    この長く続く違和感を解消する答えが出るのではないかと。


    『さあ、まずは街の飾りつけから変えていこうか!ヨモっちゃん!!』
    『命令するな愚愚愚愚愚愚愚物』
    ドラルクの掛け声がきっかけで特定の区域から何かを引きずるような音が響き始める。
    細長くしなやかな緑色の植物のツタが、新横浜中の街路樹周辺を覆い始めたのだ。
    道路や歩道に邪魔にならない程度に成長したその植物は、しばらくなにか力を溜めているかと思うと、先端部分から鮮やかな花々が咲き誇った。
    まぎれもなく、新横浜名物ゼンラニウムの美しい股間の花々である。

    「ゼンラ、ゼンラ、ゼンラ!」
    歩道にはかわいらしい?子ゼンラニウムが列をなして歩き、時には金管楽器や木管楽器を持って小さな楽団として街の賑やかさに貢献していた。
    けして放屁軍団とは言ってはいけない。



    「むん!!これでいいのか吸対の同胞!!」「ああ上出来だとも!!」
    ドラルク達の本部では、ゼンラニウムがヨモツザカ特製の栄養剤を打ちながら町全体にゼンラニウムの植物を提供していたのだった。
    ゼンラニウムからすればなかなかの重労働の筈だが、本人は不思議と生き生きとしていた。

    「隊長、一部地域の停電を確認。復帰できない模様」「こっちでも停電始まってます!」
    モエギやサギョウの報告を耳に入れたドラルクは次なる作戦をゼンラニウムに支持する。

    「よっし、予定通りだ。ゼンラニウム!プランBを頼む!」
    「むん!!」
    ゼンラニウムはさらにめいっぱい股間に力を入れた。

  • 83二次元好きの匿名さん22/08/14(日) 23:52:44



    「停電だ!」「スマホ使えないんだけど!?」「どうなってんだよ」
    突然の停電に一般市民が驚き、騒ぎ始める。
    まだ不安というよりも、普段使えるものが使えないことによる苛立ちの方が大きく、混乱はしているがそこまでの恐怖感はない。
    だが、それも時間の問題である。
    暗闇から人々に向かって蝶が忍び寄ってくる。次なる恐怖の起点を得るために。

    しかし、だ。
    ゼンラニウムによってデコレーションされた街路樹から突然強烈な光が放たれる。

    「眩しっ」「なんだなんだ?」
    人々がよく目を凝らして光源を見ると、そこにはおっさんの顔が付いた実が、たわわに実り、光り輝いていた。



    「そういえば、ゼンラニウムのおっさんの実って、なんで光ってるんだ?」
    ロナルドは深く突っ込んだらアホらしいのであえて今まで突っ込まなかったが、だが原理としては気になっていた事をいまさら口にする。
    「ああ、あれね」

    「股間が強く光る能力の応用だよ」「はぁ?」
    「だから、股間が強く光る能力も入ってるの。今のゼンラニウム」
    「……おっさんの実が、股間扱い?」「そうだよ。植物目線ならまあ納得できるだろ」
    ロナルドはやはり知らなきゃよかったと後悔した。



    「凄ーい!お母さんイルミネーションだよ~!」
    「本当ね、このおじさんの顔いかついわ~」
    本部での世界一いらないムダ知識の披露はともかくとして、停電で一度混乱した街は下ネタのイルミネーションによってふたたび祭りの賑わいを取り戻している。

  • 84二次元好きの匿名さん22/08/14(日) 23:53:20

    突然の停電は事故かと思ったら、この祭りの為の演出だったらしい。
    そう勝手に自己完結した市民たちは、純粋にこの祭りを楽しみ始めていた。

    「VRC特製ババヘラアイス売ってますよ~!お土産におひとつどうぞ~!」
    「タピオカ~!新作タピオカ~!コラボアイスティーもありますよ!」
    「そこのイケメン、私が占ってやろう。お代はキッスで良い」
    「ヴァミチキいりませんか~!!!ビールもありますよー!!!」ガランガラン

    そしてその祭りの盛り上がりに乗じるように外野の露店が熾烈な争いを見せはじめている。
    イルミネーション目当て来たカップル客や家族客をまんべんなく取り込まんとする合戦の開始だった。つまるところのいつものポンチである。

    街の雰囲気はホラーとは程遠くただのバカ騒ぎとなり、そのせいか、蝶々も黒ずみもなかなか下に降りてこられない。
    まさに一つの防御陣である。



    「隊長!黒いモヤの進行抑えられてます!一部電気も復活!」
    「よし!どんどんゼンラニウム包囲網を張っていけ!小ゼンラもありったけ巡回させるんだ!街の空気をとにかくバカバカしくさせろ!!」
    「隊長、ですが一部街の方は電気が復活しません。活気が足りないかも」
    「大丈夫か?ゼンラニウム」
    ヒナイチがゼンラニウムの方を見ると、大分疲れた様子が見て取れた。
    「むう、……さすがに町全体覆うのは厳しい。我の力にも限界がありそうだ。すまない同胞」

    「いや、よくやってくれてる。勢力の拡大はいったん中止、そのまま明かりを維持してくれ!まだまだ手はあるぞ、次のフェーズに入る!」

  • 85二次元好きの匿名さん22/08/14(日) 23:53:48



    ゼンラニウムの包囲網が薄い場所では徐々に蝶々と黒ずみが集まりはじめていた。
    祭りを楽しんでいる人々も、少しずつその違和感に気が付き始める。

    「なんか、ここら辺寒気しない?」「怖いこと言うなよ」
    「ほら、あの黒い所、なにか出てきそうで……」「やめろって」

    しかし、その予感は当たっていた。

    暗闇で覆われた中でもひと際黒く光を通さない空間から、ズル、ズルっという服を引きずる音が聞こえ始める。

    「な、なんだ?」
    人々がその音の方向を注視すると、何か人型がゆっくりとこちらに向かってきているのが分かった。
    生臭く、何かが腐ったような匂いが鼻をくすぐる。
    わずかに差し込む月明かりによって、その正体が見える。

    「……ア゛ァ」

    半分肉体が溶けた生ける屍、グールが街に、襲い掛かろうとしていた。

    ヌヌヌ(つづく)

  • 86二次元好きの匿名さん22/08/15(月) 09:59:58

    ぬしゅぬしゅ〜
    ポンチの空気を広げるのじゃ!

  • 87二次元好きの匿名さん22/08/15(月) 11:18:35

    下ネタイルミネーションに即慣れて屋台も出し始めるの流石シンヨコ民適応力が違う

  • 88二次元好きの匿名さん22/08/15(月) 23:16:36

    保守

  • 89二次元好きの匿名さん22/08/15(月) 23:58:31

    死んでも死に切れぬ死者の群れ、そぞろに歩いて何求む。

    未練か、飢えか、あるいは孤独か。
    すっかり腐って潰れ果てた喉は何も欲求を訴えることはできず、ただいたずらに街をさまよい歩くのみである。
    そもそもそんなことを考える思考能力があるのかすら怪しい。
    元々の能力の持ち主である吸血鬼が使っていればまた話は別なのかもしれないが、現状この死者を操るものにはその手の思考は不要と言わんばかりにただそこにあるリビングデッドとしてこの軍団を自由にしていた。

    はっきり言ってしまえば、嫌がらせが目的なのだ。

    狙い通り、街は突然現れた死にぞこないを見て悲鳴を上げる。逃げる、怯える、畏れを抱く。
    どれほど日常を塗り固めたとしても、このように崩れる時はあっけない。
    一度空いてしまった穴はそう簡単に塞ぐことは難しく、水のさされた祭りなど興覚めも良い所である。

    あとはじわじわと、なぶってしまえばいい。

    死にぞこないたちがかすれた声で雄たけびをあげる。
    求めるはさらなる恐怖、求めるはさらなる暗がり。
    騒げ騒げ騒げ。

    沈んでいく日常を、今か今かと待ち望んでいる。

    しかし、聞こえてくるのはグールの呻き声だけではなかった。

    ドドドドドドドド、と地響きのような音がグールたちの群れに向かって近づいていく。

    「グ、ァ?」
    その異常事態に、大した知恵が残っていない筈のグールたちも足を止めた。

  • 90二次元好きの匿名さん22/08/15(月) 23:59:02

    地鳴りのする方向を見る。
    何かの群れがこちらに向かってきている。


    ダチョウだ。

    「うぉおおおおおおお!!!待ちやがれグールどもぉおおおお!!!!」
    ニホンオッサンアシダチョウの群れの先頭で雄たけびを上げながら騎乗しているのは、シスター服の女性、マリアである。
    後方には他のハンター連中もそれぞれダチョウに騎乗しており、破竹の勢いでグールの群れに向かってばく進している。

    「うぉぉぉおおマジで人間のグールじゃんこええええ!!」「怖がると相手の思う壺ね!シャンとするイソギンチャク!!」
    「市民の被害が出る前にどんどんひいてけ!グール一人残すなぁ!!!」「「「うぉぉおおおお!!」」」
    ハンターたちの気合の入った叫びとともに、逃げまどうグールの群れはどんどんダチョウの勢いで吹き飛ばされていく。

    「はい、市民の皆さんグールたちが起き上がる前にこちらに避難してくださいね~」
    「焦らず、ゆっくりと歩いて下さいでありまーす!」
    続々と逃げてくる一般市民をマスターや警察が誘導していく。

    それでもやはり、逃げ遅れはわずかに出てくる。

    道からほんの少し外れてしまった、ビルとビルに挟まれたわずかな小道。

    「く、くるなぁ!!」
    「グゥァ……」
    「くんなって!!」

    小学生くらいの子どもが、グールから逃げるうちに袋小路に追い込まれてしまっている。
    子どもは泣きながら必死に腕を振り回すが、もちろんグールはそんなことなど構いやしない。

  • 91二次元好きの匿名さん22/08/15(月) 23:59:39

    「やだあああああ!!!」
    もう駄目だ、子供が目をつむったその時。


    「おい、退治人!!こっちに子供がいるぞ!」
    そう、誰かが叫んだ。

    「グゥゥゥアアアアアアッ!!」
    次の瞬間には、子供の目の前にいたグールがまるで人形のように軽く横薙ぎにされていった。
    横薙ぎにしたのは獣のような鋭い爪に大きな手。耳はとんがっていて、吸血鬼というよりも、まるで狼男のよう。

    その狼男はグールをしっかりと塵に返すと、さっきの激しい表情はどこへやら、非常に穏やかで優しい顔つきで子供に話しかけてきた。
    「あの、大丈夫?ケガしてない?」
    子どもはフルフルと首を横に振る。

    「よかった、間に合って」
    「おい退治人、無駄話してないでさっさと次にいけ。そっちの子供は親が探してたからこっちで引き取る」
    「ありがとうございます、教えてくれて」「仕事をしただけだ」

    最初に子供の居場所を知らせた鋭い顔つきの警察官が、ぶっきらぼうな様子で子供の腕を握る。
    「いくぞ、母親が探していた」
    「うん」「? どうした」
    「退治人さんもおまわりさんも、ありがとう」
    「……早く行くぞ」

    子どもの手を握りながらずんずん歩いていく警察官を微笑ましく眺めながら、狼男の退治人ことサテツも顔を引き締めなおす。
    「俺も頑張って探さなきゃな」

    「どこにあるんだろう、マナー君の核」

  • 92二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 00:00:08



    「グール後退し始めてます!けが人も今のところ無しです!」
    「よしよし!第一陣は何とかしのいだな!」「ヌッヌー!!」
    その報告にドラルクとジョンがホッと胸をなでおろす。
    ミカエラや野球拳の報告から来るのは分かってはいたが、どこから来るのか分からないので博打に近い所もあったのだ。
    報告が来たらすぐにでも動けるよう指示は出したが、被害皆無で行けるかは運も関わってくる。
    そういった意味では僥倖と言ってよかった。

    「ですが隊長!やはり盛り上がりには水が刺されてしまったようで、先ほどの勢いはありません」
    「予定通りだ!この程度の盛り下がりピンチにも入らん!!」

    「さあ、あっちがグールを出してきたんだ。そろそろこちらの催し物も次の手を出さなければな」
    ドラルクはパチンと指を鳴らした。



    「あっちで人間のグール出たって!」「えっ、やばくない?」「このままいてもいいのか?」
    「避難しなくていいの?」

    グール騒ぎの場所から少し離れた場所でも、次第に市民にじんわりと不安が感染していく。
    楽しさで誤魔化されているが、実は良くない状況なのでは?
    状況への違和感がじっくりと積み上げられ、少しずつ熱が冷めていく祭りの場に、キラキラとした何かが空から降ってきた。

    「何これ?」「雪?」「粉じゃない?」
    「でも不思議、このキラキラした粉を眺めてると……」


    「「「エッチな気分になってくる」」」

  • 93二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 00:00:27




    「ドラルクの奴、私をこんな雑用に使うとは」
    ふーっと、街の上空の方でため息をついていたのは、口ひげが特徴的なクラシカルな紳士であった。

    その紳士、ノースディンは今自分が町中にばらまいているものに微妙な顔をしていた。
    「しかし、どこから手に入れたんだ。こんな代物」

    「特級Y物の残り?とか言っていたが、どうやったらこんなアホらしいものが生まれるんだ」


    ヌヌヌ(つづく)

  • 94二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 00:17:30

    グールと言えばマナー違反とエルダーさんだしな…と思った次の瞬間のダチョウ
    やっぱりダチョウはシンヨコ最強の生物なんだ!!
    頑張れサテツの兄ぃ!!
    あとおまわりさんの辻田さんかっこいい!!
    そしてシンヨコの空に舞うノースディン&特級Y物のインパクトすごい
    こんな大役()を任されるなんてさーすディン!!
    今回も面白かったです!!!!

  • 95二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 00:38:18

    いままでは対処法がわからず恐怖の象徴だった「アレ」、対処法さえわかればもう何も怖くない!って気分になって来る
    いちばんの恐怖は未知って本当だな……

  • 96二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 01:05:27

    壊れてなおエッチな気分にさせてくる特級Y物、こんなところで役に立つとは……

  • 97二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 10:59:49

    特級Y物撒かされるノースディンぇ…吸血鬼のままだからこそできることだけどすげえ使い方してるわ

  • 98二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 11:52:46

    乙です!
    カウボーイならぬダチョウガール!インパクトなら断然勝ってる!さすがだぜマリアさんはじめとした退治人一同!避難指示出したり逃げ遅れ(?)指摘するお巡りさん達もカッコいい!
    グール使い、マナーくんとエルダーどっちだろうと思ってたら、やっぱりサテツ庇ったっぽいマナーくんで確定か…。確かにエルダーなら炎&氷とあわせてディックが説明してるよな…。
    身近にグール出たらそりゃ不安になるよな…って思ったらここで特級Y物か!これは確かにアレ特攻だ!
    前よりは断然戦えてて頼もしいけど、また未知の能力が対策してないところから現れたら一気にひっくり返される可能性あるよな…。Y物が効かなくなったら油断できないな…。
    続き楽しみにしてます!

  • 99二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 12:46:47

    路地裏で襲われかかってる子どもを見つけて、他人に助けを求めて、母親のもとに連れて行くナギリ(おまわりさんの姿)に情緒をメチャクチャにされちゃう……それは本編で彼が与えられなかったもの……

  • 100二次元好きの匿名さん22/08/16(火) 21:34:20

    保守

  • 101二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 00:43:21

    汽笛隊によって賑やかな新横浜の街が、植物のイルミネーションで彩られ、キラキラと白い粉が飛ぶ。
    詳細を語らず字面だけ見ればいかにもロマンチックな絵だが、その正体はケツだけ植物による放屁隊におっさん顔のオーナメント、あげく飛んでくる白い粉はもれなくエッチを想起させるミーム汚染物である。

    あれほど人々を不安で震え上がらせたグールの大群も、ダチョウの行進により衝突事故を至る所で蹴散らされており、もはや軍勢ともいえぬほどに戦線の崩壊が酷かった。
    しかしこれでは足りない。「アレ」を完膚なきまでに叩きのめすには、もっともっとポンチをかき集める必要がある。

    吸対の仮説テントの一つで、ロナルドが次の一手を出すための準備を手伝っている。

    「本当に大丈夫か?乗り心地とか、痛いなら言えよ?」
    「大丈夫です、ロナルドさん。私の心は今満ちに満ちていますので」

    「見せて差し上げましょう、我が煩悩の境地を」



    「どうしてこんなにエッチな気分になるんだ……!」
    「いやでもこれはこれで」
    「ソックスの境目に指を差し込みたい」
    そんな市民たちの困惑をよそにヴリンスホテル方面からさらなる音楽が聞こえはじめる。

    非常に厳かで雅な、天上人でも降りてくるかのような音楽とともに、その山車は下ネタイルミネーションの道を練り歩いていた。

    山車の上には穏やかな顔をしたピンクの象芋虫が華やかな装飾で飾り立てられ、鎮座している。

    「なんだアレは」「でもすごく穏やかな気持ちになってくる」「この湧き上がるエッチは、能動のエッチ……!」
    「なんて心地いいんだ……」

  • 102二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 01:11:03

    人々が安心しきった様子でピンクの象芋虫ことへんな動物をあがめている様を眺め、ロナルドは不安そうな声でへんなの乗った山車を動かしている。
    「半田ぁ、これ本当にいいのかなぁ?皆キマりすぎててマジで市民の皆さんの後遺症とか怖いんだけど……!」
    「うるさい黙れ!今はそれでもやるしかあるまい!確かにあまりの効果絶大さに俺も引いてるが、中途半端な効果では「アレ」が襲い掛かるんだぞ!」
    一緒に山車を動かす係の半田も、そうは口で言いつつも若干不安げな様子だ。
    一方二人の不安などどこ吹く風で写真を撮りまくっているのはカメ谷である。

    「いやでも大分面白い状況ですよこれ!記者もいつも以上に脳内妄想がたぎってます!」
    「お前真顔で写真撮りながら何言ってんの!?」「貴様本当に自由だな!!」

    そんな周辺のざわつきなど気にもしない様子で、超然とした態度でへんなは民草に語り掛ける。

    「皆の者、己の心の内にあるエッチに身をゆだねるのです……、さすれば極楽浄土の扉が開かれます……」
    「それは極楽浄土じゃなくて酒池肉林の間違いじゃねえのか」
    「いいえ、私が導くはあくまでも能動のエッチ。能動のエッチは自家発電のエッチ。他者を傷つけず、あくまでも内なる理想におぼれるのみです」
    「良いのか悪いのか分かんねえ……」
    ロナルドが呆れというか虚しさを感じる表情をしていると、へんなの山車の前方から別の音楽が流れ始めてくる。

    「なんだこれ、神輿の音楽?」
    「これは……!」

    それは激しい太鼓と祭囃子の音とともに、へんなの山車に向かって爆走していた。
    爆走している山車の上に立つのは一人の吸血鬼、そして、普段であればモザイクのかかる巨大な一物。
    吸血鬼は大きな声で叫んだ。

    「かっなまらぁ~~~~!!!」


    「「きゅ、吸血鬼、かなまら祭りだぁぁあああ!!!」」

  • 103二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 01:12:19



    「はいっ、かーなーまーらっ!かーなーまーらっ!でっかいまーらでっかいまーら!!!」
    「クソッ!かなまら祭りのやつ文章だからってモザイクもかけずに直球状態で街を練り歩いてやがる!!」
    「公然わいせつ物にも程がある!!誰か止めろ!!」
    しかし、それを聞いたかなまら祭りが負けじと反論を叫ぶ。
    「バカ言うんじゃない吸血鬼対策課!こっちは神事だぞ!そもそもモザイクをかける方が不敬だったんだ!!」
    「うるせえバカ!!よその街の神事をわざわざ新横浜に持ってきてなに文句言ってるんだ!!こっちには子供連れもいんだぞ!!文章だろうと規制だ規制!!」
    「あーーー!!!モザイクが!!!」

    やはりテトリスに変化させられたご神体にすがりながら、かなまら祭りはがっくりと項垂れる。
    だが、それでも彼はあきらめない。

    「モザイクごときがどうした!この目の前の不届きな山車に比べたら些事だ些事!!」
    かなまら祭りがへんなに向かって指をさす。へんなゆっくりと頷いた。
    「私に宣戦布告をするというのですか。……いいでしょう。私が能動のエッチだとすれば、あなたの扱う神事は受容のエッチ。いわば外部刺激のエッチ!」

    「どちらのエッチがより人々を高みに至らせるのか、その勝負受けて立とうじゃありませんか!うぉぉぉおおおお!!!」
    「かーなーまーらーーーっ!!!」
    二つのエッチな山車がぶつからんと走り始める。
    それはまるで互いに譲れぬ信念のぶつかりあいのようでもあった。

    そしてそれを見守っていたロナルド達は、
    「勝手にやってろ」「ついていけん」「どっちも好きなように主張すればいいと思います!」
    三者三様に投げやりだった。


    山車同士がぶつかる。二人の男の信念がいま、弾け飛ぶ。
    しかしその対決が成立する前に、また事態は動き始めようとしていた。

  • 104二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 01:12:50




    「……、なんだ?」
    はるか上空で下のバカ騒ぎを冷めた目線で見ていたノースディンが、事態の異常に気付き始める。

    念動力で飛ばしていた特級Y物の粉の一部に、何か別のものが混ざっているように感じられたのだ。
    白い粉の一部を手で軽く握って捕まえる。

    手の表皮に、粉とは別の冷たい液体が付着していた。
    ノースディンはそれを見て、手の表皮で溶けたのだと気づいた。

    何が溶けたのか?ノースディンがもっと目を凝らしてみる。

    溶けた物の正体は、雪だ。

    体感温度がじわじわと下がっていることに気が付く。
    季節外れの雪、口からこぼれだす白い吐息。


    いつの間にか、町全体が冷え切った空気に覆われていた。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 105122/08/17(水) 01:15:51

    文章ならモザイクなしで行けるかなと思ったけどやっぱり子供の前ではいかんだろと思いモザイクが付きました。ノーモザイクは驚きの白さ連れてこないと無理ですね。
    そして明日は私用のためお休みです。

  • 106二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 01:51:46

    いつも更新お疲れ様です!
    まさかのへんな山車…!こりゃますますポンチな空気になるわ!
    吸血鬼かなまら祭り!吸血鬼かなまら祭りじゃないか!吸血鬼のままってことは前の世界だと川崎にいて難を逃れたのか…?
    見たところ御輿にモザイクかけたのはロナルドかフクマさんであってモザイク伯爵じゃなさそうだな…。モザイク伯爵ー!どうして来ないんですかー!伯爵の方はアレにやられたんですかーーー!
    御輿対決でますますポンチな空気に…ってここで氷の能力使ってきたーーー!サンダーボルトへの蝶の群がり方見るに特攻はピンポイントで排除する性質があるのは予想できたけど、吹雪でY物吹き飛ばそうとするとは…!
    明日休み把握しました!いつも更新ありがとうございます!

  • 107二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 11:24:17

    えっちなものとえっちなもののぶつかり合い…字面だけならゴイスーえっちなのに絵面が酷い
    ノースの盗られた能力ここで来るかあ…これどう対策すればいいんだろ?イシカナの炎も盗られてるからきつそうだぞ

  • 108二次元好きの匿名さん22/08/17(水) 21:42:05

    保守

  • 109二次元好きの匿名さん22/08/18(木) 06:04:22

    保守

  • 110二次元好きの匿名さん22/08/18(木) 10:45:07

    ほしゅ

  • 111二次元好きの匿名さん22/08/18(木) 19:07:00

    おかしいな希望ある街の風景のはずなのにシンヨコ的地獄絵図(割といつもの)だぞ……

  • 112二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 00:02:02

    「なんか、寒くなってきてない?」

    市民の一人がぼそりと呟く。
    空を見上げれば、ちらちらと白い粉と一緒に落ちてくる物質がある。

    ひらひらと落ちてきた物質を手のひらに乗せると、すぐにスッと溶けて消えてしまった。

    街の気温が急激に下がっていく。
    吐き出す息はいつの間にか白くなり、人々は寒そうに両手で腕をさする。
    薄着では明らかに辛い温度に突入しようとしていた。

    「これどうなってるの?」
    「冬じゃん」
    突然の異常気象に人々が困惑や寒さに対する苛立ちを覚え始める。
    こうなってくるとY物神輿どころではなくなっていく。
    せっかく熱狂していた人々の熱も急激に冷め、祭りの盛り上がりから離れる人々も増えてきた。

    「かーなーまーらー!!!かーなーまーらっ!!なんでみんなこっちを見なくなってるんだ!?」
    「人々が煩悩どころではなくなっている……!?いけません、寒さでエッチを受容する心が萎えてきている!」

    必死に山車での熱狂を維持しようと動くが、それでも人離れは止められそうにない。



    「隊長!異常気象の発生で人離れが発生し始めています!このままじゃ空気が……」

    しかしドラルクは大して動じた様子もなく、ひょうひょうと食えない笑顔を浮かべる。
    「あらかじめ分かっていた事だ。無論、手は打ってあるとも」

    「そちらが無法の力で畏怖を得ようとするのならば、こちらはそれを利用するまでだ。なあ、ジョン」「ヌン!」

  • 113二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 00:04:06



    気温はさらに厳しく刺すような寒さへと変化していく。

    「うう、貧弱には厳しい気温になってきた……!原稿からの息抜き(現実逃避)で見学しにきてたけどここまで寒いともう駄目だ。最後まで見れないの残念だけど帰ろうか。……どうしたの?」
    「いや」

    眼鏡をかけたダンピールの男が隣の背の高い地味目な男へ話しかけると、背の高い男の方は上空が気になるらしくしきりに気にしている。

    「どうしたの?宇宙船でもあった?」
    「上の方に何かいないか」
    「ええ?……ああ、本当だ何かいるね。なんだろう、雪だるま?」

    背の高い男の指摘通り、ビルの屋上部分に何かがいて叫んでいる。


    「我が名は!!吸血鬼、雪にわくわくっ!!新横浜の天候は今私がジャックした!!!雪やこんこずんずんこんこぉ!!!」
    そこには、雪だるまの着ぐるみを着たおっさんらしき吸血鬼が声高に叫び、雪ごい用の大幣をぶんぶんと振っていた。


    「またポンチ吸血鬼がでたぞーーー!!」「なんだアイツのせいかよ!」「とっととなんとかしろー!」
    市民はこの異常気象が吸血鬼の仕業と分かるや否や、あっという間にいつものポンチモードの空気に戻っていく。
    その間に警察やボランティアが祭りを楽しむ市民に上着やカイロを配り始めていた。

    「金久祖カンパニーからの新商品試供品メッチャアッタカクナールです!!おひとつどうぞー!!」
    「こちらではラーメン博物館からマジニンラーメンの試食もありまーす!!温まりますよー!!」

    さらに祭りの陽気を逃さんとばかりに、吸対が今度は道路の一部をつかって水を張り始めた。
    水は天候や気温を差し引いてもありえない勢いで凍り付き、天然のアイススケート場が完成し、そのスケート場を悠々自適に滑り始めるスケーターが現れる。

  • 114二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 00:07:01

    「我々は!!」「氷を操る吸血鬼スノウ&マーク夫妻!!!」
    「変態とエッチとポンチなんかには負けないわ!!」「我々の愛と技術こそが至高!!!」
    二人組の男女の吸血鬼夫妻が氷を操り、巧みなテクニックで寒さに凍えていた観客すらも魅了していった。

    「なんかまた変なのが出てきたぞ!!」「やれやれもっとやれー!!」
    さらなるポンチ企画に市民たちは燃え上がっている。

    「これも祭りの演出だったのかな?まだまだ楽しめそうだね」
    「……、いや、本当に演出だったのか?」
    呑気なダンピールの男をよそに、背の高い男は首をひねった。



    「凄い、本当に皆ポンチの仕業だって思いこんでる」
    サギョウが活気を取り戻した街をモニタリングしながら感心したように呟いた。
    一方ドラルクは策が上手くはまってご機嫌だ。

    「どれだけ「アレ」が異常現象を起こそうとも、起こしてる原因が身近なものだと誤解してしまえば畏怖は沸き起こりようがないのさ。言い方は悪いが畏怖の横取りに近いかもね。市民が恐慌状態なら町全体が一瞬で凍り付いたかもしれないが、あの空気感では無理だろう。雪と氷系の能力者が三人とも無事だったのは幸いだった」
    「そういえば、なんで他の能力者は取り込まなかったんでしょうね」

    「あの強力な「氷」能力があれば不要だったんじゃないか?こちらとしてはその油断がありがたい事この上ないがね。餅は餅屋、いくら能力が強力でも元々の持ち主が使うかどうかでその威力や精密さは段違いだ。現に三人も能力者がいるから「アレ」の氷能力が相殺されてる。いい気味だよ」
    「隊長、実は苛立ってません?」「別にぃ~~?むしろ綺麗にハマってくれてご機嫌ですとも~!!」

    だが、脳裏にドラルクの天敵であるヒゲヒゲを思い出したのは言わないでおいた。なぜ思い出すのかは全く分からないが。

  • 115二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 00:07:34

    「でもここまで完封できてるんならこのまま楽勝で勝てるんじゃないですか!」
    「サギョウ君、それフラグって奴」「え?」

    「遠回しに空気感から作ろうとしてるって事は、まだ相手に余裕があるって事だよ」
    ドラルクがそうつぶやくと、傍らで待機していたヒナイチがピクリと動く。

    「ドラルク」「分かってるよヒナイチ君」
    ドラルクは懐から取り出した血液錠剤を噛み砕く。

    「そろそろ私たちも現場に出ようか、ジョン。若造がどんな仕事してるか冷やかしに行こう」
    「ヌヌヌヌヌヌ」

    ドラルクは段々と自分の近くを主張しはじめた腐敗臭に顔をしかめつつも笑った。
    もう少しだ。
    もう少しで、隠れているであろう本体を出し始める。


    (どうせ、最後には私を狙うんだろう?)

    せいぜい釣り餌にでもなってやるさ。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 116二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 00:36:00

    すごい!!神ちゃんセンセがいる!!!ヤッター!!!!
    ポンチたちがすごく頼もしく感じる

  • 117二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 07:07:48

    背の高い地味めな男は三木さんかな?

  • 118二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 10:55:36

    なるほどこうして相殺するのか!って思わず膝を打ってしまった

  • 119二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 21:43:23

    保守

  • 120二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 23:17:08

    お祭り騒ぎは続いている。

    一度寒さで中断されたY物神輿も再びにぎやかさを取り戻し、突発的なアイススケートショーも観客が集まるほどに盛況だ。
    祭り特有の賑やかな空気で人間も吸血鬼も浮かれ切っており、楽しさを含む街の雰囲気が心地いい。

    しかし、ロナルドはその街の雰囲気には浸り切れていなかった。
    街を囲っている祭りの雰囲気という楽しさの書き割り。
    その板一枚後ろ側には、何かがすぐにでも飛び出そうとガリガリと書き割りをひっかき続けている。

    それは今すぐに飛び出てくるものではない。だが、ロナルドはそのひっかく音が今にも聞こえてくるようでならなかった。
    これはきっと、一度壊れてしまった街を見た者が抱える後遺症のようなものであり、本能的な危機察知でもあるのだろう。

    (今のところ順調だから、大丈夫だよな……?)
    「どうした、ロナルド。とっとと他の仕事を手伝わんかヴァカめ」

    半田が黙り込んでいるロナルドに話しかけてくる。ロナルドは思考を一旦やめて、今できる事をやる事にした。
    「悪い、すぐ行くよ」

    視線を半田の方に向けようとして、何かが目についた。


    一瞬、何かと目が合った。

    「おい、ロナルド!どこに行くつもりだ」
    「ごめん、ちょっと気になるモノがあるから見てくる!何かあったら連絡する!」
    「待て!ロナルド!!」

    ロナルドは目標に向かって駆けていく。
    焦点の合わないモザイクのようなシルエットが、確かに人込みに紛れていくのが見て取れた。

  • 121二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 23:17:37

    ロナルドが走り去って一拍おいて、ドラルクが置いてかれた半田の元にたどり着く。

    「おーい半田君!いやあ随分と愉快な光景が広がってるじゃないかやだ私の企画力天才すぎ転職とか考えたくなるねこの浮かれ騒ぎに乗じてポンチ吸血鬼どもも無駄に行動力を発揮してるのがちょっと怖いがな!……あれ、若造は?」
    「それが、隊長」
    半田がロナルドが走っていった経緯を話す。

    「半田君、錠剤使って警戒強化して。変な気配(におい)がしたら場所を本部に逐一報告。ボランティアやってる吸対メンバーは仕事切り替えで。急いで」
    「了解しました」

    半田がテキパキと手際よく指示通りの仕事をこなしていく。
    ドラルクはその効率の良さに感心しつつも、事の推移に若干顔をしかめざるを得なかった。
    街全体の畏怖が取れないとなると、次にやってくるのはおそらく……。
    そこで、ドラルクに同行していたヒナイチが妙に何かを気にする素振りに気が付いた。
    「ヒナイチ君、何か気になるのかい?」
    「あ、いや、大したことではないんだ」
    ヒナイチが慌てて否定する。

    「いや、今は些細な事も気にした方がいい。何か見つけたんだね?」
    「……さっき人混みに何か変なものがいたような気がしたんだ。一瞬だったから見間違いかもしれない」
    ヒナイチは本当に気にするなと言いたげに困ったように笑う。

    「なんにせよ、私はお前のそばを離れるわけにはいかないしな」
    「それで兆候を見過ごすのはちょっともったいないかな。というわけでこういう時は助っ人を頼ろう」
    ドラルクが流れるような動作でスマホに電話をかける。
    「助っ人?大丈夫なのか?」
    「もちろん!腕が立つのは保証できるとも」

    ドラルクがにやりと笑った。

  • 122二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 23:18:20

    (さっきのアレ、どこに行ったんだ!?)
    ロナルドが必死にモザイクのシルエットを探す。

    その存在が日常にポッと染み出してきた汚れのようで、ただただ嫌だった。
    見間違いかもしれない。
    でもこの違和感を逃してはいけない気がする。

    ロナルドは人であふれた街をさまよう。
    自分にも吸血鬼の気配が分かればとも思うがないものねだりをしている場合ではない。
    少しでも何か違和感はないか。地道に探すほかない。
    焦るロナルドに子どもの無邪気な喋り声が聞こえる。

    「ねえお母さん!大きなチョウチョいたよ!捕まえてもいい?」
    「えー、虫かごないよ?」「ちょっとだけでいいから!」

    ロナルドはガっと子供の声がした方向に振り向いた。

    「急にごめんね。聞いても良いかな。ねえ、そのチョウチョ、どこにいた?」



    「こっちに本当にチョウチョさんがいたんだよ」
    好奇心旺盛そうな、小さな女の子が保護者と思われるおじさんの手を握って言った。
    「そうなの?アルコちゃん」
    「うん。こんなに寒いのにすっごく珍しかったの!おっきくて、黒くて」

    女の子が身振り手振りで蝶の大きさを説明する。
    おじさんはただ微笑ましそうにうなずいてあげた。
    「おじさんにも見せたかったなあ」

  • 123二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 23:19:29

    その事だけが残念だと女の子は感じているようで、もう一度念入りに探してみる。
    すると、一羽の黒い蝶が、ひらひらと道の真ん中に漂っているのを見つけた。

    「あっ!あそこにいた!あっちだよおじさん」
    「まって、アルコちゃん。人混みが多いから危ないよ」
    急に走り出した女の子を追って、保護者のおじさんもつられて蝶の方向に走っていく。
    しかし、急いでたどり着いたというのにそこには目当ての蝶々はいない。

    「あれ?どこ行っちゃったんだろう」
    「飛んでっちゃったのかな?残念だけど元の道に戻ろうか」
    「うん。残念だったなあ」

    無邪気な子供とおじさんの二人組は手をつないだ。
    また元来た道に戻ろうとしてくるりと方向を変える。

    二人の後ろ側、女の子が蝶がいるといったその場所に、突然モザイク柄の人のシルエットが浮かび上がった。

    それは腕と思われる場所から大きな刃物を生やし、

    無警戒のその二人組に向かって、

    刃物は無常に振り下ろされる。

  • 124二次元好きの匿名さん22/08/19(金) 23:20:32

    「あれ?」
    女の子が背後の存在に気が付いた。

    気が付けば、二人の背後を庇うような形で赤い退治人服の男が立っていた。


    「セーフッ!!!」

    その男ロナルドは、ギリギリ取り出した銃で刃を受けきり、真剣白刃取りのような形でそのモザイクと向き合っている。

    事態の異変に気が付いた市民たちが困惑と悲鳴をあげ始めた。
    祭りは、次のフェーズに移行しようとしている。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 125二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 00:02:49

    乙でsうわあああああ!
    いや確かにこの世界の人たち辻斬りナギリも串刺しツラヌキも知らないし見たところディックも把握してなさそうだから吸対達の虚を突きたいならアレは血の刃使うよなって思ってたけど!やめろこんな人混みで使ったら祭りムードなんてぶっ飛ぶだろうが!
    ロナルドもヒナイチも完全にptsd…だけどそのおかげで危機回避出来てる…全てが終わったら幸せにおなり…。
    思ったより蝶の使い方が多様で厄介…。誰か血の刃の心臓をアレから解放してくれー!
    続き楽しみにしてます!

  • 126二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 10:37:28

    素で強くて狡猾なだけでもきついのに能力が多彩なのも本当に厄介だな

  • 127二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 18:39:14

    あっアルコちゃんいる!!と思いきやの血刃!!!
    そうだよ辻田さん本編だと主人公コンビとは別に動いてるからこっちが持ってる情報が極端に少ないんだ!!!!!
    うわああああああなんとかなってくれえええええ!!!!!!

  • 128二次元好きの匿名さん22/08/20(土) 20:19:42

    町のみなさんがちょこちょこ出てきて楽しいなと思ってたら血刃……!ナギリの不運が無いからただただ切れ味鋭い凶器生成能力(+忘却?)……強い!おまわりさーん!!!

  • 129二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 01:24:27

    攻撃を受け止めた銃の本体に徐々に刃が食い込んでいく。
    ロナルドは後ろの子供と保護者の二人組が驚きのあまり動けない事を確認すると、モザイクの腹部分に鋭い蹴りを入れて相手をノックバック、ロナルド自身も後ろの二人を庇うような形で覆いかぶさる。
    一度は体制を崩したモザイクは即座に姿勢を切り替えてロナルドが元居た場所へと切り込んでいた。
    その攻撃により、地面には鋭い赤い刃が深々と食い込んでいる。

    「ひゃあっ!?」「なんですか!?」
    「後ろを振り返らずに走ってください!!急いで!!」
    「は、はい……!」

    子ども連れの二人組はロナルドの指示通り無我夢中で走り始める。
    周りの人々がわっと逃げて散らばっていくのが分かった。
    それでいい、これから何が起こるのか分からないのだから。

    ロナルドはそれを見届けるとまたすぐに警戒態勢を取り直す。
    銃を構えなおそうとすると、一度攻撃を受けとめた銃は深い切込みから真っ二つに分かれ、銃の半分部分がゴトンと下に落ちる。もう使い物にならない。

    モザイクがゆらりと揺れながら立ち上がり、腕からにょきにょきと赤い刃が生えてくる。
    ロナルドはしっかりと拳を構えた。

    次の瞬間、モザイクが猛烈なスピードで駆け寄り、ロナルド目掛けて刃を振り下ろしてきた。
    ロナルドは足りないリーチを腕を基軸に使って両足を高く上げると、振り下ろす刃を腕ごと蹴り飛ばす。
    しかし、蹴り飛ばした途端に足に鋭い痛みが走った。

    予想外の痛みに少し体制を崩しそうになるが、それでも何とか着地をした。
    痛みの原因を確認するまでもなく、またモザイクが刃の攻撃を繰り出してくる。ロナルドは今度は蹴り飛ばすのではなく、腕そのものを握り締めることで相手の攻撃を受け取める。

    (よしっ!)
    刃に斬られることもなく腕は握り締められた。これでこのままマウントを取ってしまえば__
    そう思考が次のモーションに行こうとした途端、腕を握った手のひらから赤い刃が突き破ってくる。

  • 130二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 01:25:03

    「っ!?」
    突然の激痛にロナルドは顔をしかめ、とっさに握り締めた手を力の限り投げる。
    その勢いでモザイクは腕ごと地面に叩きつけられた。しかし、まるでダメージを受けていないとばかりにまたゆらりと立ち上がっていく。

    その少しの隙の間に、ロナルドは激痛の走った足と腕を見た。
    どちらも相手のモザイクが触れ場所に、生々しい刺し傷が残っている。
    「そういう事かよ!」

    安易な接触は駄目だ。
    物理的に触れた途端相手の刃が縦横無尽に自分を刺してくる。
    となると、戦い方を変えなければならない。

    再び刃はロナルドに向かって襲い掛かる。
    一見バカの一つ覚えなようだが、相手の攻撃はとにかく素早く、短いインターバルでこちらに思考や体制を整える余裕を持たせないという意味では厄介だった。
    なにせ相手は触れさえすればこちらにダメージを与えられるのだから。
    だから、ロナルドはそんなものバカ正直に相手などしてやらない。

    こちらに向かってモザイクが再び刃を振り下ろしていく、今度は両刀。確実に切り刻むという意思。
    ギロチンの様なその攻撃がロナルドに接触するかしないかのタイミングで、ロナルドの体は細かくちぎれた。

    『!?』
    モザイクの視界が黒一色に染まる。
    違う、これはただの黒ではない。蝙蝠の大群だ。

    古き高等吸血鬼ならばよく使う手である。だが、モザイクにはその程度の不意打ちでは攻撃を交わしたことにはならない。
    なぜならば。

    ブシュッ

    全身から何かが噴き出るような音がモザイクから聞こえる。

  • 131二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 01:25:40

    モザイクの周辺に散らばっていたロナルドの分け見たる蝙蝠が、全身から飛び出してきた赤い血の刃によって突き刺さり、捕らえられていたのだから。

    赤い血の刃はこれ幸いにとばかりに蝙蝠の血液を吸いはじめようとする。
    少しずつ取り込んでしまえば、あのふざけた吸血鬼とて弱体化することは防げない。
    かに思えた。

    蝙蝠から血液や精気を取り込もうとした瞬間、モザイクの目の前が今度は真っ白になった。

    バンッ!!バババンッ!!

    花火が連続で撃ちあがったような連続した爆発音とともに
    周囲一帯が真っ白に染め上がる。

    捕らえられた蝙蝠は一斉に爆発し、モザイクの体そのものが細切れに四散してしまった。
    爆発で吹き飛ばされた周囲には、塵と化したモザイクの残りかすが散らばっている。

    モザイクに捉えられなかったのこった蝙蝠たちが再び群体をつくると、細かく分裂していたロナルドは人の形に戻った。

    「……上手くいって良かった」
    蝙蝠化した自分の一部を爆発物に仕立て上げ、至近距離で爆発させる。
    ぶっつけ本番ではあったができるものである。

    蝙蝠化しているとはいえ曲がりなりにも自分の体の一部を失う事になるのでどうなるか不安ではあったが、ロナルド自身はなんともないし、さっきの切り傷も完全に治ってしまっていた。とにかく丈夫で再生力のある体でよかったと感謝したい。

    「もう、大丈夫かな?」
    ロナルドはじわじわと残った塵の方に近づく。
    綺麗に細切れになってはくれたが、なにせ相手は「アレ」だ。
    用心するに越したことは無い。そう考えて、警戒をしながら塵の処理をしようとすると、ロナルドの視界が突然ぐらりと揺れた。

  • 132二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 01:27:15

    ロナルドの主観視点がそのまま地面に転がり落ちる。
    何が起こったのか分からず、身体を動かそうとするが。何も動かすことができない。ならばと必死に目を動かした。
    目線から上の方を見ると、首が綺麗に失われた自分の体が見える。

    ああ、首が斬り落とされたからか。


    『ッXXXXXXXXX!!!XXXXXXXXXXX!!!!!!』
    あんなに細切れにしたはずのモザイクは再び形を取り戻し、興奮したように声なき声で叫んでいた。
    頭脳を失ったロナルドの体をさっきのお返しとばかりに何度も何度も切り刻む。
    まるでハンバーグにする為のミンチ肉を作るかのような執拗さだ。

    切り刻んで切り刻んで、ようやく気がすんだ頃には、ロナルドの体は全て塵に変わっていた。

    『XXXXXXXX!!!!!』
    モザイクは歓喜の雄たけびを上げた。
    市民の畏怖が自分に集まってくるのを感じる。
    もっとだ。もっともっと集めなければ。

    畏怖を集めれば息がしやすい、そしてなにより自分の事が皆に印象付けられるはずだ。
    モザイクにはまともな思考能力は残っていない。ただ能力の残滓の様に、本能的ともいえる欲求だけで突き進んでいる。

    叫ぶ叫ぶ叫ぶ。

    さあ、もっと畏怖を集めよう。

    モザイクは、次に逃げまどう市民たちを見る。
    そして、腕に鋭く赤い刃を生やした。

  • 133二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 01:32:08

    だがしかし、無差別に人々を斬りつけようとしたが、肝心の刃は市民には届かなかった。

    モザイクの頬の部分に、鋭いストレートパンチが直撃する。
    突然だったので当然対応することなどできず、無様に地面に再び転がった。

    「痛ってえ、本当に死ぬかと思ったわ」
    地面に転がるモザイクはストレートパンチの主を見て驚愕する。

    あれだけやって、まだ復活できるのか?
    相手が聞いたらお前が言うなと言われるような思考をしてしまうほどに、その吸血鬼はあまりにも元通りだった。

    その吸血鬼はわなわなと震えている。

    「俺、」

    「……首斬られたの初めてなんだぞ!!めっちゃ怖かったし痛かったわ!!ただで済むと思うんじゃねえぞこの一生ピントの合わねえブレブレ切り裂きクソ野郎!!」
    そして、怖さを通り越してブチ切れていた。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 134二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 11:12:09

    Δでの頑丈さを考えれば吸血鬼ロナルドならこれぐらいは出来るのか…?めっちゃ畏怖いけどΔロナルドじゃなくて本編ロナルドが死んで?からの復活を果たしてるの草

  • 135二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 21:25:57

    そうか血刃、初見殺しの側面もあるのか……
    絵面はR-18Gだけど表主人公VS裏主人公概念の激アツ戦……!??

  • 136二次元好きの匿名さん22/08/21(日) 23:55:13

    乙です!
    (ほとんど判読できない文字らしきものが羅列されている。靄のような状態でも自我を取り戻すことがあることをVS犬?戦で示されていたにも関わらず、ナギリもそうなるとは予想しておらず非常に興奮した状態で書かれたらしい。なんとか判読できるのは「お巡りさんここに迷子の男の子がいます!」という文字列だけであった。)
    続き楽しみにしてます!

  • 137二次元好きの匿名さん22/08/22(月) 01:22:44

    バンッ!!バババンッ!!

    花火を炸裂させたような凄まじい破裂音が街に鳴り響き、ドラルクが音のした方向に顔を向ける。
    空を見上げると爆発があったと思わしき場所からは白い煙が立っており、そこから逃げてきたと思われる住民が雪崩のようにこちら側に押し寄せてくる。

    「一体何が起きてるんだ!?」「ヌォーーー!?」
    ドラルクが無線で情報を確かめようとするが、現場が混乱しているようでいまだ応答がない。
    どうしたものかと困っていると、ドラルクに向かって一心に走ってくる子どもがいた。

    「おじさん!助けて!!」
    「うわっ、どうしたんだい急に!」
    「チョウチョさんを追いかけてたら刃物を持った人がいて!赤い退治人のお兄さんがおそわれちゃってるの!!」
    「まってまって!ちょっと落ち着いて、一体どうしたんだいお嬢さん?」
    「それは私の方から説明します」

    子どもに追いつくような形で、保護者と思われる男性が息を切らしてドラルクに話しかけてきた。
    「金久祖氏」
    「ドラルクさん、突然通り魔が現れたんです……!」


  • 138二次元好きの匿名さん22/08/22(月) 01:23:29

    ロナルドはキレていた。
    さっきまで確かに怖さが合った筈なのだが、ここまでの初見殺しと理不尽オーバーキルを食らい、復活はしたが良いものの痛みは据え置きという状況にブチ切れていた。
    めっっっっっちゃ痛かった。そりゃそうだ死ぬほどの痛みなんだから。
    再生が早いから長引かないのが救いだが、また攻撃を食らうと言う事はあの痛みよもう一度なのである。
    首ちょんぱなんてマジで嫌だ。息できなくなるし体動かせなくてパニクるし、第一身体を再生する時に体に首が生えるのか意識のある首に体が生えるのかと完全に再生するまで無駄に不安にならなきゃいけなくなって最悪だった。
    自分でプラナリア分裂実験なんて試したくないのである。

    そして何より敵のやり口も最悪だった。
    祭りの水を差すようにど真ん中で通り魔事件。しかも狙っていたのは子供連れ。
    ロナルドは目の前の敵を完全に滅していい敵と認識した。
    もともと「アレ」なのだから倒すべきなのは当然なのだが、なおの事放っておいてはいけない敵と覚悟を固める。

    再生した体でモザイクと対峙する。

    人気のなくなった街路、残っているのは刃のモザイク状の化け物と自分だけ。

    距離にして10mほど。


    来る。

    次の瞬間、ロナルドの顔面には深々と刃が縦一線に突き刺さっていた。

    『XXXXXXX!!!』
    モザイクは意味不明な叫び声をあげながら衝撃で宙に浮いたロナルドの胸目掛けてさらにもう片方の刃で深く突き刺す。
    ロナルドの胸部分、正確には心臓を貫いた感触が確かにあった。モザイクは心臓を抜き取ろうと手を引っ張るが次の瞬間にはモザイクの腕そのものが爆散していた。

    「お返しだ」
    いつの間にかモザイクの背後にいたロナルドが、何かを雑にぶん投げていた。
    モザイクは自分が刺した筈のロナルドを見るが、蝙蝠の残骸が数羽落ちて塵にかえっているだけである。

  • 139二次元好きの匿名さん22/08/22(月) 01:24:15

    相手は何を捨てたのか?
    ベちょっという不快な落下音がした場所をモザイクが見ると、そこには血まみれの臓器のような何かが捨て置かれている。

    モザイクは自分の胴を見た。
    胴に文字通りの大穴が空いている。

    『XXXXX』
    しかし、モザイクは表情など殆どわからないような顔ではあったが、にったりと笑ったようにロナルドには見えた。
    ドーナツの様に空いた大穴は、みるみるうちにまた塞がっていく。
    ロナルドもロナルドで呆れた再生能力だが、相手もまた厄介なほどに再生力がある。
    (不死身に近い再生能力。血液を使った刃、となると……長引きそうだなクソ野郎)

    モザイクは再びロナルドに向かって襲い掛かる。
    今度は素早く複雑な動きの切り裂きを何度もいれて、細かい切りのダメージを入れてきた。
    ロナルドはもう無傷は諦めて足や拳を使って蹴って殴り、時には腕や指を失いながらも即座に再生して応対する。
    ぶつかり合うように戦いながら、もう一度爆発を入れて見るべきかと隙を窺ってもみるが、爆発の素振りを出す前にモザイクは距離を置いて絶妙にタイミングを外してくる。面倒な警戒の仕方だ。

    次はどう攻めたものか。
    『辻斬りは超自然的な方法で魂から肉体を分離させて隠している』
    『魂を破壊しない限り日に晒そうが杭を打とうがビクともしない!』

    ロナルドは手を前にかざした。
    数羽の蝙蝠の分裂体が目の前に躍り出てくる。
    モザイクはあからさまに警戒をして距離を取ったが、ロナルドの目的からすれば距離は関係ない。

    次の瞬間、白く眩い光で発光するように、蝙蝠が爆ぜた。


  • 140二次元好きの匿名さん22/08/22(月) 01:25:02

    一方、別の祭りの会場での出来事である。

    「なんかあっちで吸血鬼が戦ってるんだって!」
    「えー、見に行きたい」「超やばいんだってさ!通行止めになってる」
    ロナルド達が戦っている場所からはそれなりに距離のある場所では、まだ緊迫感からは程遠い空気感が漂っている。
    だがこれも時間の問題だった。

    「ねえ、ここら辺あったけえよ!」「ほんとだ、氷溶けてる」「温まろう!」
    三人組の子供たちが、人混みから少し外れた場所で妙に暖かい空気の場所で暖を取り合っている。

    「でもなんでここ暖かいんだろうな」
    「ちょっと暑いくらいかも……?」
    最初は心地の良い温度感だったその場所が、じわじわとサウナのようなむせかえるような暑さに変わっていく。
    物珍しさから集まっていた子供たちも、流石に違和感を感じはじめた。

    「離れた方が良くない?」「そうかあ?面白いからもうちょっといようぜ」「えー、あっちの方に戻ろうよ」
    意見の割れる三人組の背後で、むくむくとまた別の人型のモザイクのシルエットが立ち上がりはじめていく。

    「なんか、暑すぎない?」
    そしてとうとう、一人の子供が後ろを振り向いた。

    三人組の真後ろには、腕からは炎がこぼれ落ちるモザイクがいる。

    「あっ……」
    その人型のモザイクは、灼熱の腕で子供たちの事を抱きしめようとしていた。


    「三人ともしゃがめ!!」
    凛々しい少女の張り上げた声が聞こえた。
    子どもたちはいっせいにその場でしゃがみ込むと、子供らの後ろにいた人型のモザイクが綺麗にすっぱりと両断される。

  • 141二次元好きの匿名さん22/08/22(月) 01:25:31

    「えっ?」「なに?」「う、うわあああああ!!!」
    自分たちに何が起きたのか分からない子供たちが一斉にパニックを起こして叫び始めた。
    そのモザイクを斬った少女、ヒナイチが子供を庇うような形で前に出る。

    「早く人通りのある方へ逃げるんだ。……走って!」
    子どもらはわけもわからず指示通りに走っていく。これでいい。
    ヒナイチは刀の切っ先をモザイクに向けた。

    「氷漬けの次は炎上か。いよいよなりふり構わなくなってきたな」
    ヒナイチはため息をつく。よくもまあ不穏の種のバリエーションがここまであるものだ。
    呆れを通り越して感心する。
    まあ、全てその種は取り除かせてもらうのだが。

    「お前が噂の炎使いか。……私の炎とお前の炎、どちらが上か戦って証明してみるとしよう」
    ヒナイチは笑う。

    ゆっくりと再生した人型のモザイクは、それに応えるかのようにゆらりと揺れた。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 142122/08/22(月) 01:32:34

    戦闘難しい!!!!
    Δロナルドの死なないがどの程度の死ななさなのかいまいちピンときてなくて、とりあえずご真祖様くらいの再生能力はあるだろうと想定して書いてしまった感じです。吸血鬼のガチ死の定義よくわからない。
    至ラジの情報だと即座に回復するからピアス穴開けるの大変だと聞いてるので、殺し切る前に再生が追っついてしまうから死なないって感じなんでしょうかね。わからん。
    本来であれば首斬られたら即座に次の首生えてくるくらいのスピード感なのかもしれない。

  • 143二次元好きの匿名さん22/08/22(月) 10:59:18

    保守

  • 144二次元好きの匿名さん22/08/22(月) 11:02:24

    ここで炎の能力切ってくるのか~しかし戦闘強いなおい

  • 145二次元好きの匿名さん22/08/22(月) 20:07:19

    乙です!
    ナギリがロナルドに確殺対象に認定されたの、仕方ないけどつらい…。当の本人は「みてみてドーナツになってもへっちゃらなんだよすごい?!」みたいなテンションになってるみたいだし…(泣)。
    喰われた時にはとっくの昔に分霊体失ってた筈なのに復活してるのめっちゃ厄介…。アレ喰った者の超能力だけじゃなく知識に基づいた技術まで奪えるのかよ…。
    そしてロナルドだけじゃなくヒナイチも反応してたからまさかと思っていたけど、やっぱりど真ん中で通り魔要員は複数いるよな…。吸血鬼の炎VSクルースニクの炎はヤバいと共に燃える戦いだけど、このレベルが第3、第4、第5といたら対応しきれるか心配…。とはいえ通り魔要員に町丸焼きできる炎出してきたってことはそろそろアレもタネギレしてる?
    続き楽しみにしてます!

  • 146二次元好きの匿名さん22/08/23(火) 00:47:55

    分霊体ありきの全盛期ナギリってドラウス並みだったはずだから氷+火も合わせて古き血大侵攻レベルじゃん……ヤバヤバだ
    しかしヒナイチかっこいいな……

  • 147二次元好きの匿名さん22/08/23(火) 01:13:54

    賑やかだった街のあちらこちらから悲鳴や、逃げまどう人々のどよめきが聞こえてくる。
    祭りの空気はすっかり水が差され、このままでは相手の思う壺だ。

    上から街を見下ろすと、方や爆発交じりの殺し殺されの乱闘戦、方や炎の剣戟戦。
    流石の新横でもそうめったに拝む事の出来ない対戦カードである。

    「なんか凄いっスねー!特撮もビックリな出来っスよ!なあ犬」

    その苛烈さ物珍しさからこのように野次馬観戦を始める人々もいるが、こういった盛り上がりは得てして何かが起きた時の事を考えていない場合が大半だ。
    何かの拍子で被害が出た時、加速度的にこの場の空気は恐怖や不安に満たされることであろう。

    それを見学するのも、確かに有意義かもしれない。
    かつての古き強大な吸血鬼たちであればもろ手を挙げて喜んだはずだ。

    だが、それではつまらない。

    なぜって、この街なのに。
    この街なのに?
    こんなあらゆる意味で得難い街を、たかだか型通りの恐怖で彩ってしまっていい物だろうか。
    もっと面白い方法があるというのに、なんというか、この方法を考えた存在は非常にセンスがない。センスゼロだ。


    だって、勿体ないじゃあないか。

    街を眺めているとさらなる爆破が連続して巻き起こる。
    随分派手だが、それはこの街の本質ではない。

    となると、いつかっさらうかだ。

  • 148二次元好きの匿名さん22/08/23(火) 01:14:20




    肺が焼けるような灼熱の空気の中、ヒナイチは炎の怪物と対峙する。
    猛スピードで迫りくる複数の炎弾を一つ、二つと紙一重で躱し、最後のとどめとなる巨大な火の玉を己の炎をまとった刀でぶった切る。

    綺麗に両断された炎弾の隙間を睨みつけ、もう片方の刀で一気に相手を突き刺した。
    炎をまとったモザイクの胸部分に見事に的中し、さらに力を込めることで刀を中心にモザイクの体全体がヒナイチの炎で燃え広がっていく。

    全てが燃え広がる前に刀を引き、大きく後ろに飛んで離れ、ブスブスとモザイクの全身に火が回り切るのを見つめる。
    無論、その程度で倒せる敵ではない。

    モザイクはぐらりと燃える体を揺らしたかと思うと、自分の両腕を地面に叩きつける。
    叩きつけた地面から炎柱が勢いよく吹き出し、地面が避けるようにヒナイチめがけて炎の軌跡が迫りくる。

    当然、これは躱せる。問題なのは次だ。
    ヒナイチは最小限の動きで無駄なく迫りくる炎をかわすが、移動した先に次の炎弾が迫ってきている。これもまだ躱せる。大分無理な姿勢で身体を逸らし、ギリギリ刀で切り落とす。
    しかし、それらをこなしきった後に触手の様に迫りくる炎までは躱し切れない。

    「ッ!!」
    それでも最小限のダメージで済ませた。
    横腹が抉れて、その傷跡から燃えた程度である。直撃だったら腹部分が全てまるまる燃え尽きた筈だ。

    吸血鬼の再生能力で、じわじわと回復が成される。
    ロナルドと比べて適性の無いヒナイチはこういう時が辛い。回復にどうしてもラグがあるのだ。

    時間がかかればかかるほどヒナイチに不利になる。
    だが、それは相手も同じである。
    先ほど貫いた心臓部分がよほど効いたらしい。

  • 149二次元好きの匿名さん22/08/23(火) 01:15:10

    心臓部分だけがいつまでも回復されず、黒く焦げた煙を出し続けている。

    「まだ不完全燃焼のようだな?生焼けは辛いだろう。いっそ完全に燃え尽きてしまおうか、吸血鬼」
    腹部が酷く痛む。
    それでも不敵な笑みは崩さない。さも余裕があるように見せつける。

    最近、ヒナイチにも吸血鬼の矜持というのがようやく分かってきた。
    相手にどのような畏れ、恐怖があったとしても、自分の方が格上だと言い張る勇気。

    内心がどれほど恐ろしくても、目の前の恐怖におぼれるのではなく、自分が与える側なのだと自覚し、見栄を張りつづける事。
    きっとそれが、吸血鬼同士で戦う上で重要な姿勢なのだろう。




    蝙蝠が爆ぜたことにより、モザイクの目の前が真っ白になる。
    『!?』
    ロナルドはその隙を見逃さなかった。

    怯んだモザイクそのものを掴み上げると、
    「だぁあああああ!!!」
    そのまま全身の力を込めて宙に向かって投げつけてしまった。
    モザイクははるか空高くまで投げられてしまったのだ。

    モザイクがある一定の高さで上昇が止まると、一拍遅れてロナルドが巨大な蝙蝠羽を使って追いかけてくる。

    モザイクは苛立った。この程度で止められると思うな。
    モザイクは中空であろうと攻撃する意思を止めず、なお血の刃で斬り裂こうと蝙蝠羽の男に向かえ打とうとする。

    しかしロナルドはそれに対して単純に反撃するのではなく、ただやる事はひとつだけ。

  • 150二次元好きの匿名さん22/08/23(火) 01:17:45

    ロナルドは先ほどの目くらましでどさくさ紛れに回収していたある存在をモザイクの目の前に思いっきり突きつける。
    モザイクはそんなもの全て切り捨ててやると言わんばかりに刃を振り下ろそうとしたが、


    目の前にいたのは、黒い狼だった。

    狼と視線が合った途端、モザイクの体がぴしゃりと固まる。邪眼である。
    ロナルドはすかさずその状態のモザイクを念動力で浮かせた。……これでしばらく、時間は稼げるだろう。

    「血の刃と再生能力以外あんまり絡め手できない奴でよかった」
    身体能力は確かにバカ高かったしとにかく手を焼いた。だがこのモザイクの特質上あのまま戦っても倒し切る事は不可能である。なら目指すべきことは無力化だった。宙に射止めてこのように体を固めてしまえば、いかに辻斬りと言えど倒せはしなくても無力化はできる。
    「グゥゥウ」
    「ああ、ごめんドラ公の親父!ちょうどいい所に武々夫と野次馬で通りがかったもんだから!!」
    「バウッ!!」「ごめんって!俺邪眼一発成功させる自信無かったんだよ!!」
    「バウバウッバウッ!」「何言ってるかさっぱり分からん」

    明らかに文句を言われていることは分かったが、ロナルドはマジロ語は分かっても狼語は分からないのである。

    「とにかく、後は半田かドラルクに連絡して、本体を探せば良いんだよな」
    これで少し、こちらの状況も好転するだろうか。


    しかしその見通しをあざ笑うかのように、宙に射止められたモザイクの体全体がぐしゃっ、と崩れた。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 151122/08/23(火) 01:27:11

    もうちょっとカッコイイ対処の仕方無いのかとか色々考えたけど、分霊体がある限りじり貧バトルしかできないのでこういう対処法しか思いつかなかったすまない辻斬り。
    地上戦オンリーだったら無類の強さだと思います。
    辻斬りの催眠耐性どうなってるんでしょうね。今回邪眼かけたのウスパパだから流石に辻斬りにも効くと願いたい。

  • 152二次元好きの匿名さん22/08/23(火) 11:12:03

    ヒナイチかっこいい!炎対決はド派手でいいな
    ウスパパ味方だと本当に心強いな…これが元の姿だったらと思わなくもないけど狼姿も畏怖くていいね!

  • 153二次元好きの匿名さん22/08/23(火) 11:19:09

    う~んかっこいい しかし同時多発的通り魔はちょっとしたバランスで畏怖を取られそうで怖いですね…

  • 154二次元好きの匿名さん22/08/23(火) 21:25:42

    保守

  • 155二次元好きの匿名さん22/08/23(火) 22:12:51

    乙です!
    最初の語り手…まさか黄色クール香ONになってる?
    炎VS炎カッコいい!!
    なるほど犬?に邪眼頼んでいる間に分霊体捜索…確かにそれが一番効率いいな。
    って、あれ?…本当に分霊体による不死なのか不安になってきたぞ?
    …そういえば蝶も触れようとした瞬間溶けて消えましたよね?…まさか、血の刃付与された蝶が複数いるのが不死の仕組みじゃねぇよな?
    続き楽しみにしてます!

  • 156二次元好きの匿名さん22/08/24(水) 00:33:24

    最早どちらが燃えているのか分からない焦げ臭さの中でヒナイチは絶えず攻防を続けている。

    あまりの高熱での死闘の為、手が焦げ付き、皮が剥がれてくるが、それでも刀を握り続けた。
    サンズのすすめで武器の改造をしておいてよかった。
    前の刀ならこの高温で形を保つことは難しかったかもしれない。

    モザイクは心臓を庇いながらもなおも執拗にヒナイチに立ちふさがる。
    ヒナイチの息つく暇もなく炎弾を連続で放射し、時に予想外の方向からの攻撃を混ぜ込んで確実にヒナイチの体力を削っていく。
    そして、体力と同時に、精神の疲労もまた蓄積されていった。
    一つの読み違いが自分の大ダメージに繋がるため、ヒナイチはずっと緊張の糸を張り続けなければならない。

    しかしそんな緊張感、何時までも連続して続けることはできない。
    案の定、段々と小さなミスが増えてきている。まだ大事には至っていないが、このままでは絶対に押し負ける。

    (相手のペースに引っ張られ過ぎてる。こちらからも何か仕掛けないと)

    今の自分にできる事。

    さっきの心臓への一手は重要だった。
    あの攻撃があったからまだ自分への畳みかけがこの程度で済んでいる節がある。
    ならもう一度、心臓に致命傷を入れれば__。

    いや、それも駄目だ。自分の行動が安直になりすぎるし、当然相手も読んでくる。

    (ロナルドだったらどうするだろうか)

    自然ともう一人の吸血鬼の姿が思い浮かぶ。
    最近メキメキと人外の力を使いこなしていて、ヒナイチもどこかで追いつかなければと思っていたのだ。
    ヒナイチには、炎以外の自分の人外の力に対して、まだ距離感があった。

  • 157二次元好きの匿名さん22/08/24(水) 00:34:23

    どうしても力に対して引っかかりがあるのだ。
    (変身とか、でも鳥に変身してもどうすれば)
    考えてもスッキリと自分の中で答えが見つからない。

    何度目かの炎弾の連射を全てかいくぐり、切り捨てたあと、宙の方に何かが打ち上げられるような音が聞こえた。
    戦闘の隙を縫って空の様子を確かめる。

    (あ……)

    見慣れた赤い退治人服の銀色の吸血鬼が、巨大な蝙蝠羽で空を舞っている。
    相手はロナルドだと分かっているのに、美しいな、と珍しく素直に感じた。

    蓋を開ければどこまでもお人好しでセロリが嫌いで子供っぽくて、どこか親しみやすい奴だと知っているはずなのに。
    近いのに、どこか遠い人の様に感じることも、これもまた畏怖の現れなんだろうか。

    『畏怖を得る、場の空気を握る事が「アレ」と戦う上で重要です』

    なら私が持っている畏れとは。


    ぼんやりとした様子のヒナイチに対して、モザイクはすかさず炎弾を叩きこんでくる。
    これ以上の隙はないと言わんばかりに回避不能の巨大な炎弾を何度も念入りに、ヒナイチを骨一つ残さず燃やし尽くさん限りの勢いであった。
    燻ぶった黒い爆炎が周囲を包む。
    周囲のビルの窓ガラスが衝撃で全て割れ、コンクリートもあまりの高熱の為に溶け始めてしまうほどだ。

    並みの吸血鬼ならばまず命はない。
    だが彼女は、並みの吸血鬼でもなければ、元々が並みの人間ですらなかった。

  • 158二次元好きの匿名さん22/08/24(水) 00:36:01

    黒く汚れた煙を浄化するように、瞬く間に消えていく。
    攻撃の先にいた少女は燃え尽きるどころか傷一つついておらず、それどころか異様な光輪を背に携えていた。

    少女の吸血鬼化した際に黒ずんでいた髪色が、直視するのが難しいほどにまばゆく真っ赤に輝いている。
    モザイクが対面するだけで身が焼かれるような、異様な輝きであった。

    まるで、太陽が人の形で降臨しているかのようだ。

    ヒナイチは、ロナルドが自分の為に書いてくれた文章の事を思い出していた。
    恐るべき強大な吸血鬼として書かれた自分はむずがゆくも嬉しかったのだが、その中でも特に印象に残っている文章がある。
    あれは確か、ドラルクの言葉だったはずだ。

    本当に体験した話ではなく、全てがロナルドの創作でできた文章だからドラルクの語り口も当然全てロナルドが考えた筈なのである。
    だが、あまりにも行動や言動がドラルクで、ヒナイチは読んでいる最中に何度か笑ってしまった。

    そんなロナルドが考えたドラルクの言葉、ヒナイチを吸血鬼として称える言葉がこんな調子だったのだ。

    『これは美しいお嬢さん。赤毛は陽光のごとき輝きで、うっかりしていればその美しさで私も焼かれてしまいそうなほどだ。夜を生きる同胞だというのに、君は太陽から掬ってきたかのような奇跡的な存在なのだね』

    太陽、か。
    太陽では確かに、吸血鬼の素質が無いと言われても仕方がないかもしれない。

    ヒナイチはふふ、と笑ってしまった。
    ロナルドはどういう気持ちでこの言葉を考えたんだろう。そして、何時か本当にドラルク自身が考えた称える言葉も聞いてみたいものだ。

    なんだ、はじめから答えは持っていた。
    私の炎がただの炎ではない、太陽そのものの性質を持った炎だとすれば、モザイクの炎を燃やし尽くすなどわけがない。

  • 159二次元好きの匿名さん22/08/24(水) 00:36:29

    ヒナイチは刀ではなく、手をおもむろに前に向ける。直感でできる気がした。
    モザイクが赤色の炎をヒナイチに差し向けてくる。
    ヒナイチにそれが直撃するかしないかのタイミングで、赤色の炎は一気に白色の炎に塗り替わり、白色の炎の怒涛によってモザイクそのものを飲み込んでいってしまった。



    しばらくたって炎が沈静化し、ヒナイチが燃え尽きたと思われるモザイクの残骸を見る。
    全部燃え尽きて消え去ってしまったかもしれないが、心臓があるようならば回収だけでもしたい。

    「これか……?」

    ヒナイチは呆れてしまった。
    あれだけの熱量を浴びせたというのに、まだ曲がりなりにもモザイクの人型はわずかに形を残していた。

    ヒナイチがあの場で優位取れた理由は、自分の力に対して自覚をした点ももちろん大きいが、それ以上に大きかったのは畏怖の獲得である。
    太陽由来の炎を操るという、夜を生きる生き物に対して特攻ともいうべき能力だからこそ畏怖を強烈に集め、ヒナイチの独壇場にすることができたのだ。
    実際最後の方は能力の動かしやすさが段違いだった。
    吸血鬼の畏怖欲というのは本当に侮れないものだなと実感して改めて思う。

    それほどの独壇場だったのにもかかわらず、このモザイクはまだしぶとく生き残っている。

    「はやく、心臓を回収しないと」
    いつまた復活してきてもおかしくない恐ろしさがあった。

    ヒナイチがモザイクの心臓を回収しようと近づく、その瞬間である。

    モザイクの体全体がぐしゃっ、と崩れた。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 160二次元好きの匿名さん22/08/24(水) 10:57:13

    吸血鬼ヒナイチすごく畏怖い!!
    太陽の穂のとかめちゃめちゃかっこいい!!
    でも最後のモザイクが崩れたのが気になるな
    とりあえず今回も面白かったです!!!

  • 161二次元好きの匿名さん22/08/24(水) 11:54:47

    太陽由来の炎という相反する属性を持つ吸血鬼はめちゃくちゃ畏怖くてかっこいいしドラルクの讃え方もらしくて良い
    モザイクはまだ何か隠し持ってるのか…?続き楽しみにしてます

  • 162二次元好きの匿名さん22/08/24(水) 20:15:43

    保守

  • 163二次元好きの匿名さん22/08/25(木) 00:34:29

    嘘予告クルースニクがごとき吸血鬼特効炎ヒナイチかっこいい……畏怖……

  • 164二次元好きの匿名さん22/08/25(木) 00:52:19

    ロナルドとヒナイチ、それぞれの場所にいるモザイクの体が大きく揺らぎだす。

    動くことができなくなった化け物はそれぞれが共鳴するようにガクガクと震えだし、形が溶け、黒い濃霧がモザイクの体から勢いよく噴き出しはじめる。

    「なんだ!?」
    「何が起きてるんだ!?」

    図らずも離れた場所で同じ反応を示したロナルドとヒナイチが、それぞれのモザイクの様子を窺っていると、吹き出す濃霧はまるで互いを引き付けるように地上と上空、それぞれから触手の様に濃霧が伸びていき、衝突する。

    風圧によるボンっとはじけるような独特の爆発音が鳴り響いたかと思うと、周囲一帯に黒い濃霧の津波が吹き荒れてくる。
    二人の視界が一気にブラックアウトする。分かるのは吸血鬼の気配に疎くとも分かる強烈な何かの存在感だった。

    「これは……!」「ヌヌー!?」
    混乱する地上で指示出しに奔走していたドラルクの目が、驚愕に見開かれる。
    頭が痛くなりそうなほどに恐ろしく濃い気配臭が爆心地から漂ってきていた。
    しかも今までのただの香水の調合を間違えた腐った悪臭ではなく、きちんと香りが調整され、気を抜けば酔ってしまいそうなほどの香しい気配臭。
    それが今までとの違いを明白にしていて、底知れぬ恐ろしさでドラルクは身震いする。

    予想はしていたが、ここで来るのか。

    黒い濃霧の中心から、白く巨大な何かがせりあがってくる。
    まず初めに白く硬そうな二本の角が見える。そしてその次に現れたのは爬虫類のような頭骨であった。
    真っ黒なモヤが詰まったその骨は徐々に全貌を濃霧から表し始める。
    細長い蛇のような胴体に三本指の手足、それはまるで東洋の龍を骨格標本にしたかのよう。

    「あれが、本体か」
    ドラルクの背後から、市民が口々に悲鳴をあげていくのが聞こえた。


  • 165二次元好きの匿名さん22/08/25(木) 00:53:11

    ロナルドはブラックアウトした視界を取り戻すため、衝撃波で一気に自分の周りにある濃霧を吹き飛ばす。
    開けた視界で真っ先に見えたものは、かつて苦渋を舐めた骨の龍の化け物だった。

    「あれは、あの時の龍!?」
    「キャイン!?」

    ドラウスもさすがに驚いたようで甲高い叫びをあげた。
    ロナルドは二度目の邂逅となるが、だが、明らかに前回とは違う何かを感じる。
    (すげえ嫌な感じがする)
    何をとは具体的に言えないが、纏う空気が何か違うのだ。

    そのロナルドの嫌な予感は、すぐに回答が出された。

    骨の龍は、衝撃波を出したロナルドを獲物として狙うかのような素振りでねめつける。
    真っ暗の空洞の筈の龍の眼窩から、燃え盛るような炎がこぼれ出した。

    炎は頭骨全体を覆いつくし、東洋竜に炎の肉付けをしていく。
    かと思えば、3本指の手足はいつの間にか硬い氷で覆われはじめ、まるで彫刻が動いているかのような硬い肉質を持ち始めていた。
    普通の人間であれば、触れば即座に凍り付いてしまう事は想像に難くない。

    そして最後の仕上げとでもいうのか、炎に包まれた頭骨から除く牙、そして手足の爪部分、それぞれがさっきほど散々手を焼かされたあの赤い血でできた刃で作られていた。

    つまりこれは、さっきまで戦っていた敵の能力全部乗せ。

    「全部盛りゃあいいってもんじゃねえんだぞっ!!!」「バウ!?」
    ロナルドはキレながら叫んだ。
    炎と氷って同居するものなの?とか疑問点が湧くがこの白骨龍は見事に二つを同居させている上にカッコいいのがムカつく。
    おまけになんだよその血の刃の使い方、普通にカッコいいじゃねえかもっと残念でトンチキな使い方しろよ腹立つ。
    そしてこの後苦労するんだろうなってもう予想するまでもなく決定事項なのがさらにムカつき度をアップさせていた。

  • 166二次元好きの匿名さん22/08/25(木) 00:53:45

    さっきの戦闘でこちとら一回首を斬られたばかりである。
    首以外を換算するともっといろんな所斬られてる。そしてそのどれもが激痛。いくら再生力があるからと言って一瞬でも痛みは感じるから心理的な苦痛はある。それでもやるのだが。

    「クソ、さっきより街の皆がビビっちゃってるせいか心なしか強くなってる気がするし……!」
    「ウウ……」
    血の刃の奴の本体だって見つけられてないのだ。一人ではどう考えてもしんどい。

    「ロナルド!」
    しかし救いの手はちゃんと現れるものだった。

    「ヒナイチ、お前こんな高くまで飛べたのか?……って、鳥!?」
    ロナルドがヒナイチの声がした方向に振り向くと、そこにいたのは巨大な神々しい火の鳥であった。
    「すまない、驚かせたな」
    火の鳥のシルエットが不意に揺らぐ。気が付けば火の鳥は、背中に炎の翼を携えたヒナイチに変化していた。

    「私は炎が絡んだイメージの方が変身がしやすいらしい。火で飛べる生物で思いついたのがこれだった」
    「すげえ!カッケえ!!いいな!!」
    「う、羨ましがってる場合か!それよりも、あの龍はどうするロナルド」
    ヒナイチがロナルドの素直すぎる賞賛に若干照れつつも、話を目の前の巨大な龍について切り替える。
    まだ龍は体の構築を終えておらず、少しだけ話す余裕がある。

    「色々考えたけど、結局俺たちにできるのはシンプルな暴力と体を張った暴力と知恵を使った暴力だけだろ」
    「覚悟が決まってることは十分分かったがもう少し役割分担は考えようか」
    「じゃあ氷の方頼んだ」「任された」
    「あと、血の刃の奴、あれは多分辻斬りナギリだと思う」「あの不死身のか?」
    「ああ、能力と性質が一致する。だけど本体見つける余裕が」「ワウッ!」

    ロナルドとヒナイチは、ロナルドの手に抱えられた黒い狼を見た。

  • 167二次元好きの匿名さん22/08/25(木) 00:54:25

    一方の地上は市民の混乱で現場が荒れていた。
    突然現れた通り魔二人に市民は恐怖で逃げまどい、その空気感に拍車をかけるような巨大な白骨龍の登場。
    完全に場の空気が傾き始めている。

    「隊長、私たちにアレをする許可をください!」
    ミカエラが切羽詰まった様子で叫ぶ。だがドラルクはそれに対して許可が出せなかった。
    「まだ駄目だ!今やったところで焼け石に水!せっかくの手札の一つがまともな効力を持たないまま死に札になる!」
    「ですが隊長、このままでは「アレ」の思う壺では……!」
    「そんなことは百も承知だ。だが何もかもタイミングが重要なのだよミカエラ君。そのタイミングさえあえば、私たちだって場の空気をひっくり返せるんだ。「アレ」が何度も挑戦したことでここまで空気を悪化させたようにね」

    ドラルクは仮テントの本部においてある、ある物を見た。
    まだ駄目か。なら時間稼ぎは必要だ。これに関しては、ロナルドとヒナイチの動きに期待するしかない。

    不甲斐ない。

    「随分としょげた顔をしているな。作戦ミスでもやらかしたか?」

    逡巡した思考を読み取られ、ドラルクはあからさまに不機嫌な顔を浮かべる。
    「いーえ、別に。それよりもY物散らしは終わったんですか?師匠」

    ドラルクの背後に立っていたノースディンが、弟子と似たような不敵な笑みを浮かべていた。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 168二次元好きの匿名さん22/08/25(木) 08:39:55

    やっぱりナギリさん気付かれちゃったか…
    そして「アレ」ってなんだ??
    まだ手は残ってる、頑張れみんなー!!!

  • 169二次元好きの匿名さん22/08/25(木) 16:11:11

    乙です!
    ただでさえ強い能力を3つ盛り…!それで悪臭じゃない辺り能力同士の相性いいだろうから厄介だな…。とはいえ骨格丸出しってことはこいつ倒せばハッピーエンド?
    ロナルドとヒナイチ二人じゃ3対2で不利だと思ったらドラウスがやる気だ!古き血が一人いるだけで安心感が違う!
    そりゃこの状態じゃポンチな空気の継続は無理だよね…。打つ手なさげだしどうするかと思ったらノースディン師匠?!
    あと、東洋竜の骨格標本が曲がりなりにも高次元の存在なせいで普通名詞が付けられなくて「アレ」としか呼べない件、読者的に厄介。骨格標本以外の事象(今回の場合ミカエラが許可を求めたこと)もアレってよばれるから、一瞬どっちかわからなくなる…。
    続き楽しみにしてます!

  • 170二次元好きの匿名さん22/08/25(木) 23:29:47

    毎度引き込まれます!ドキドキする……!

  • 171二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 00:58:24

    龍は空を舞う。
    巨大な蛇腹をくねらせ、見定めた獲物を食らおうとゆったりとした動きでしかし確実に獲物をねめつけている。

    狙っているのは二つのうっとうしい小蠅。
    一口に収まってしまうほどの過小な存在だというのに、卑しくもこちらにたてつき抵抗を続けている。

    早くたべてしまうべきだ。

    そもそもおかしい。
    一度この街はたべた。全て腹に収めた。

    腹の中に一度溜まった味を覚えている。
    矮小な存在が一つ一つやかましくわめき、上質な苦みとアクセントの利いた冷たさを吐き出しつづけてみな溶けた。
    うまかった。





    ここではない場所、一番はじめにめったにたべない味をたべた。

    鉄くささとほんのりとした塩気といつもたべているものより数百年以上は年季の重なった気配。重く息苦しい重力の塊のような何かでめずらしい。
    うまかった。
    いつもたべているのと違う。

    もっとたべようとして、さらに似た臭いを追っていく。
    似たような匂いがする存在がいくつもいた。
    全部たべた。
    うまかった。

  • 172二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 00:59:15

    もっといないかと探した。
    似たような匂いがする存在が沢山いる街があった。

    たべた。うまかった。不満だ。
    最初にたべた数百年たったようなうまみのあるやつはめずらしいのだと知った。
    臭いはよくても、うまみがたりないのがいくつかあった。

    たべたい、もっとたべたい。自分の一部に溶かしたい。

    今までたべてきた有象無象の年季の短いやつらではもうたりない。
    やっと数百年する奴を見つけたとしてもたべきるのが難しい。
    たべれても少ししかたべれない。

    じっくり味わって溶かして、まだあの味がこいしい。

    たべていくうちに、身体の性質が変わった。
    有象無象の短いのが、急にうまくなった。

    のどの渇きが、これで潤うのだと知った。
    いっぱいたべた。

    そうしてたべてるうちに、


    いた。

    最初のと同じ匂いがするやつが、いた。

    たべたい。
    近づけない。

  • 173二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 01:00:23

    有象無象の何人かの短いのが邪魔だ。
    年季が短いくせに、気配がひどい。猛毒だ。こちらを突き刺してくる。

    あの短いのを無視してたべたら、せっかくの味がうまくなくなる。

    たべたいたべたいたべたいたべたいたべたい。

    じゃあ、みんなうまくしよう。
    少しづつ、毒も消してしまえばいい。



    そうやって作った街はうまかった。

    なのに、腹からすっかり消えている。
    一度は消した筈の毒の気配が、小蠅のように龍の周りを飛んでいる。

    たべるべきだ。
    次こそは。

    龍は、大口を開ける。




    赤い退治人は高速で白骨龍の周りを旋回する。
    一つの要因は手を打った、なら、次にやるべきことは。

    ロナルドは自分目掛けて迫ってくる大口に向けて、蝙蝠を数羽差し向けた。
    次の瞬間には白煙とともに派手な爆発を巻き起こし、龍の目をひとまずくらませる。

  • 174二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 01:00:56

    白煙に紛れ、猛スピードで近づいてくる炎の頭骨にスライディングで滑り降り、足元が焼けるのを厭わず龍の長い胴体の背の部分を駆けていく。
    当然龍もそれを許すような寛容さがあるわけもなく、長い身体を存分に利用して自分の体を走るロナルドを掴みかかろうと氷の手足を伸ばす。

    しかし、手足にもまた小蠅がいるのである。
    炎の翼で近づいてきていたヒナイチが、ロナルドに近寄る魔の手をしっかりと炎の刃で両断した。
    龍は失った手足を即座に復活させ、邪魔なヒナイチを大きく叩くことで弾き飛ばそうとする。
    「っ!?」
    ヒナイチは直撃は避けられたが、不自然な恰好で中空に投げ飛ばされた。
    龍の爪の切っ先が足にあたり、足に血の刃が刺さっている。それによってヒナイチの動きがわずかに鈍り、龍はその鈍りを見逃さずヒナイチをもう片方の手で握りつぶそうとした。

    「ヒナイチっ!」
    ヒナイチが片手で握りつぶされようとする直前、ロナルドがヒナイチの片手を掴み、自分の方に引き寄せ、すんでのところでかっさらっていく。
    ヒナイチを抱えながら、飛ぶのではなく落下に任せて龍から急いで離脱すると、背後の龍の総身が一気に爆発した。

    ロナルドは龍の背を走っている間に分身の蝙蝠を張り付かせ、龍の体全体に散らばしていたのだった。
    それらすべての分身を爆破させたため、当然ハリウッド映画もビックリな大爆発となっている。

    ロナルドは回復したヒナイチの手を離し、落下から再び大蝙蝠の羽による飛行に移行すると、爆発した後の燻ぶった黒煙を見る。……黒煙の形が揺らいだ。
    二人は急いでそれぞれ別の方角に向けて翼を羽ばたかせる。
    案の定、今度は炎弾と氷の刃が入り混じった弾幕が二人目掛けて高速で追尾してきた。

    二人は障害物と龍の総身そのもので射線を区切り、距離を取り、時に弾を切り捨て、時に弾を爆発させることで確実に処理をしていく。
    ロナルドは高速飛行をしながら弾を処理しつつ、ついでと言わんばかりに龍の背骨部分に全力を込めて拳を加えた。
    一方でヒナイチも火力を最大限に挙げて、氷部分に向けて炎弾を放つ。
    二つの場所からそれぞれ性質の違う衝撃音が響いた。

    あわよくば真っ二つに千切れたり溶けたりはしないだろうかと目論んでみての行動だが、結果はロナルドの腕が赤い刃ですっぱりと切り落とされ、ヒナイチの肩に氷でできた突撃槍が突き刺さっただけである。

  • 175二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 01:01:51

    二人は致命傷を負う前にすぐに離脱する。
    それぞれ飛んで龍から距離をとると、自然と減らず口がこぼれてきた。

    「さっきのマジパンチで胴体とか斬りやすくならねえかな?」「……それはもう少しかかるんじゃないか」

    龍には当然真っ二つになるような兆候は見えず、ヒナイチが攻撃した氷の手足はピンピンとした様子だ。はじめにロナルドが起こした大爆発もさして効いた様子はないようで、ただ炎をまとってくねらせる。

    どこまで時間が稼げるだろうか。



    混乱する夜の街の中を、黒い狼が鼻をこすりつけて何かを必死に探している。
    元々吸血鬼であったものは相手の存在を見ることで同胞かそうでないかを知る事が出来るが、ダンピールはそうではない。

    ダンピールは嗅覚に近い気配を察することが出来ると言われている。
    気配感知という点では吸血鬼よりもよほど優秀なのかもしれなかった。

    この黒い狼は現在は吸血鬼の筈である。だが、かつてはダンピールであったこともある。
    それが原因なのかは分からない。

    この黒い狼は、確かに違和感のある臭いを感じ取っていた。

    鼻がピクリと動く。
    地面だ、この地面の中にある。
    黒い狼は川の近くの草原、奇妙な臭いがした場所を掘り進める。

    掘り進めて数分、さほど深くない場所に、目当てのそれはあった。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 176二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 10:44:21

    もしや分霊体…?ドラウスはこの姿だからこその活躍で嬉しい

  • 177二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 21:09:48

    保守

  • 178二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 00:54:42

    時間稼ぎと簡単に言っても、これだけの相手ともなれば骨が折れるものである。

    「ヒナ……!」「ロナルド!?」
    ヒナイチがフォローしきれなかった攻撃を庇ったことにより、ロナルドの上半身が炎弾によって吹き飛んだ。
    即座に復活はするが、これで10回近くは死んだだろうか。

    どれだけ気を張っていても、集中していても、物理的に避けることが出来ない、絶対に被弾する攻撃は出てくる。
    なので再生が遅いヒナイチがダメージを食らうくらいなら、ロナルドがダメージを受けてしまった方が絶対にいいという判断でロナルドはひたすら肉盾に徹していた。
    だが避けきれない全ての攻撃を代わりに受けているような形なので、いかんせん疲労の蓄積が酷い。

    「ロナルド、本当に大丈夫なのか……?」
    「……平気だって」

    そんな風には見えない、とヒナイチの目が語っている。
    だからと言ってこの役割は譲れない。ロナルドはあえてその反応を無視した。

    ロナルドもただ攻撃を受けていたわけではない。
    数回の交戦を繰り返しているうちに、相手の龍の攻撃の技量が明らかに伸びていることに気が付いた。
    弾の軌跡の複雑さなど恐ろしい上達速度だ。
    これだけ聞くと、状況は絶望的なのかもしれない。

    だが、相手ばかりが技量が上達するとは限らない。
    ロナルドは手元を見た。

    「ヒナイチ」
    ロナルドが一声かけてヒナイチの目を見ると、お互いに頷きあう。そして、再び高速で飛翔する。

    龍の繰り出す襲い掛かる弾の数々は徐々に動きに複雑性を帯びていき、飛び交う二人をじわじわと追いつめようとしている。
    最初は直線的だった弾道は円や文様を描くかのごとき整理された動きに変わっていき、見ているだけであればいっそ美しいほどだ。

  • 179二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 00:55:38

    ロナルドは追ってくる弾の一つ二つを破壊すると、その爆破を起点に衝撃波を放ち、後続から迫ってくる弾の動きを鈍らせる事で弾の制御権を自分で握る。
    「オラッ!!」
    そしてそれぞれの弾をクルっと回転させ、そのまま龍に攻撃を返した。

    龍は向かってくる弾を避けるのではなく、ゆったりとした動きのまま大口を開ける。
    ロナルドはそれに対して猛烈に嫌な予感がし、即座に大口の直線状から外れた。

    口の中から赤い光がこぼれ、膨れあがり、そのまま円柱状に炎の放射攻撃がが強烈な勢いで噴出される。
    超高温の火炎放射だ。

    「っ!!」
    かなり距離を取ったがそれでも被弾ギリギリの回避だった。
    反撃したはずの弾は当然綺麗に溶け、跡形もなく消えてしまう。
    それでもロナルドは食い下がる。
    (シンプルな暴力が駄目なら、知恵を使った暴力!!)
    ロナルドは先ほど手の平で練り込んでいた、念動力をなんとか球状に固めたものを複数作り出すと、それを乱雑にばらまいて龍の周囲に浮かせていく。
    はじめは両手の平ほどの大きさだった球は移動しながらパチパチと電気のようなものをまとわりつかせ膨張し、一つの弾の大きさが巨大な龍の頭蓋よりも大きくなっていった。
    龍の周囲にあるすべての念動力の塊が膨張することで、龍の総身が念動力というか、もはや重力の塊と言っても差し支えない球状の攻撃に挟まれ、圧迫されていく。
    それはまるで巨大な風船に四方八方を囲まれ、挟みあげられてプレスされていくかのようだ。

    ぎちぎちと骨が軋んでいき、時には砕ける音が聞こえた。
    流石にこれは白骨龍もたまらなかったようで、何とか重力場から逃げようと身をよじらせている。
    初めて、手ごたえがあるように感じた。
    (行けるか!?)

    思わずロナルドも自然と手に汗握ってしまう。
    致命傷は無理でも拘束が長引くだけでも万々歳である。

  • 180二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 00:57:09

    骨の軋む音が激しくなるが、龍は固い動きの身体をむりやり動かし、一度とぐろを巻いてから総身を伸ばし切る事で念動力を一気に相殺してしまう。

    解除されることは分かっている、なら次だ。
    総身を伸ばし切って再びロナルドの方を睨む龍の頭上から、キラッと光るものが見えた。

    金属の長物、ヒナイチは日本刀を頭上に高く掲げると、美しい日本刀は途端に白い炎をまとう。
    「ハァアアアアアアッ!!!!」
    そしてそのまま龍の体に向けて体ごと使って振り下ろした。

    龍は炎の背びれを激しく燃やすことでヒナイチそのものを燃やし尽くそうとするが、ロナルドが絶妙なタイミングで念動力の疾風を偏差撃ちをしたことで、炎がヒナイチに襲い掛かる前にかき乱される。
    むしろ少し炎が弱ったことで逆にヒナイチの炎に飲み込まれる。
    そして、胴体部分へと刀が叩きつけられた。

    血の刃がいくつか体に食い込む。痛い。だが無視する。刃は炎で焼き尽くす。切り落とせ。この隙を逃すな!
    ロナルドの念動力のダメージが残っている白骨の関節部分、炎のダメージも相まって白骨の回復が間に合ってないのが見えた。
    さらに刀を強く押し付ける。

    骨に、亀裂が入った。

    あとは簡単な話だ。一つ亀裂の入った骨はぴしぴしとダメージを大きくし、そして、スパンと両断される。

    ヒナイチは刀を振り下ろしたまま龍の総身そのものを両断した。


    頭部部分と胴体部分で綺麗に分けられた龍はそれでもしぶとく、体全体に血の刃をハリネズミの様に伸ばし、ヒナイチやロナルドを串刺しにして捕まえようと足搔く。

    だが届かない。
    血の刃が何者かによって粉みじんに砕かれた。

  • 181二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 00:58:01

    ならば炎を吐き出そうとするが、吐き出せない。
    頭だけでは出力が足りない上に、大口に突然何か細かい粒のようなものが喉の奥に詰まってしまった。
    何だこれは、黒い粒?黒い粒が喉の奥を詰まらせた上に、縦横無尽に暴れまわっている。

    ならば氷を使って敵を固まらせようとしたが、固められない。
    いつのまにか、胴体部分の手足が念動力で酷い打撃を受けて壊れている。手足を復活させなければ

    しかし先ほどまでは息をするように復活できていた体が、急に鈍くなったことに気が付いた。
    何が原因だ。
    龍が遠くの方に目を凝らす。

    最初に見えたのは、先ほど邪眼を愚かにも龍にかけてきた黒い狼。そして、

    片目を無くした口元に髭を貯えた男の吸血鬼と、片腕を無くした女のような細身の吸血鬼がいる。


    そうしている内に、大きな気配が龍の近くに迫っていることに気が付く。
    千切れた頭部と胴体部分、それぞれが丁度一直線上に重なる部分目掛けて拳を振り下ろそうとするその男。

    「ウォォオオオオオオッ!!!!」

    赤い退治人服の吸血鬼が、二つに千切れた龍をそれぞれ貫き、大穴を開けた。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 182二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 01:43:22

    更新お疲れ様です
    すげぇ… タピオカがこんなに畏怖く感じる日が来るなんて…
    古き血メンバーが現れてくれただけでもとにかく心強い

  • 183二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 11:44:36

    古き血が味方なのは本当に心強いね…タピオカってもしかして畏怖い食べ物だった?

  • 184二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 17:26:27

    つきたての餅を考えればタピオカも殺意高い食べ物なのかも?

  • 185二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 01:17:48

    大穴を開けられた龍は、身体が零れ落ちるように地面に向かって落下していく。
    そのまま地面に落下してしまえば街が大惨事になるところだが、大事が起きる前に空中で射止められるように落下が止まった。

    「はあ、はあ……」
    拳を全力で叩き込んだ後、疲労でふらふらと浮遊の安定しないロナルドをヒナイチが確保する。

    (やっばかった)
    再生能力がいかにバカ高くても二桁回の連続即死は無茶だったし、その後の膨大な念動力の行使からとどめのマジパンチ、なにからなにまでハイカロリーで疲労感で体が重い。
    事前に血はあらかじめ飲んでいたが、それでも喉が渇いてきているのを感じた。
    流石にガス欠が近い。

    (まだだ、まだなんとか)
    身体はガス欠なだけでなんとかなる、問題は精神的な疲労感だった。
    激痛苦痛の連続と高度な能力使用によって消費された集中力、いわばMPが足りない状況に近い。
    (ドラ公の奴はなんであんだけ即死しといてケロッとしてんだ……。いや、ちょっとした痛みで即死するからあんまり疲労感も溜まんねえのか)

    要するにデコピン一発で即死できる奴の痛みや苦痛の蓄積量と、上半身まるまる爆散されて即死する奴の痛みや苦痛の蓄積量は違うという話である。
    いかに再生できるとは言え、妙に頑丈でよっぽど頑張らないと死なない奴からしてみれば死ぬ時の苦痛が非常に大きいのでそうめったに死にたくはない。死ぬ直前の痛みが辛いからだ。

    だがドラルクはちょっとした痛みや精神的ダメージで日常的にホイホイ死ぬので、全然死に対して抵抗が無い。
    ドラルクの即再生能力は確かに吸血鬼としては破格なのだが、それ以上に破格なのは実は即死する才能の方なのかもしれなかった。

    (凄いんだか凄くないんだか分からねえ、つかそもそもクソだろ)

    即死する才能があった所で即時再生能力が無ければ一発終了のクソ能力以下である。
    最弱の名をほしいままにした(元)吸血鬼は格が違った。

    ロナルドはそんな与太話は頭の隅に投げ捨てて、空中で張り付けにされている龍を見る。

  • 186二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 01:18:51

    念動力で戦い始めたあたりから、妙に攻撃の通りが良くなっていたのが少し気になった。

    (確かにあの念動力のプレスは効いてたけど……、ヒナイチの炎のおかげか?)
    そう考えていると、ロナルドは遠くの方に誰が浮いていることに気が付く。
    ノースディンやドラウス、タピオカ屋のお姉さんがこちらを眺めているのが見えた。
    (助けてくれたんだ)
    あとでお礼を言わなくては。
    だがその前にと、ロナルドは自分を掴んで飛んでくれているヒナイチの方を見た。

    「ヒナイチ」
    「ん?」


    「襟首の広いシャツからほのかに見えるおっぱいの谷間に凄く罪悪感を感じるんだ(ありがとう!)」
    「」

    ヒナイチは無言でロナルドを持つ手を放した。




    「違うんだ!!俺は見ないようにしたいんだけどそれはそれとしてぴっちりとしたTシャツにおっぱいの形がしっかりわかるともう逃げ場なんてないっていうか!!お姉さんはすげえ堂々としてるから視線を逸らしたらセクハラっぽくないかなって逆に不安で!?(違うんだ俺はただヒナイチにお礼を言いたかっただけでけしておっぱいの話なんかは!っていうかこれY談波か!?)」

    「ち、チンチンチンチンチンチンチンチーーーン!!!!(な、なんでいきなりおっぱいの話されなきゃいけないんだって私もちんしか言えなくなってるーーー!!!)」

    「おい、二人とも」
    ロナルドとヒナイチの様子がおかしい事に気が付いたノースディンやイシカナ達がこちらに近づいてくる。
    「駄目だ下乳はもっと困る!!(こっちに来ちゃ駄目だ!!)」
    「バウ!?」
    しかし、時すでに遅しであった。

  • 187二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 01:20:08

    「寝起きのほんの少し乱れた髪(一体何があったんだ)」

    ノースディンが自分の言った言葉に気が付き、わなわなと震える手で口元を抑える。

    「ああ、ボインのおねえさん(ああ、手遅れ……)」
    ロナルドは体感温度が三度ほど下がった気がした。

    「の、残ったタピオカを吸い取ろうと力を入れる口元(こ、これはまさか、来たというのか)」


    「「Y談おじさんが!!」」「「あの黄色が!!」」「バウ!!!」

    注:実際はY談を喋っています。




    「ハーッハッハッハ!愉快愉快!」

    仕立てのいいスーツを着た一見紳士にも見えるそのおじさんは、街の中で高らかに笑い走り回る。

    「やはりY談は素晴らしい!どれだけ状況が深刻であっても、Y談一つでこれほどまでに空気を保てなくなりみんな慌てふためくのだからね!」
    おじさんは笑いながら道行く人々に丁寧に光線を浴びせていく。

  • 188二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 01:20:42

    Y談波を浴びせられた人々は、どんなにおびえた様子で逃げまどっていたとしても、自分から発せられた言葉が悲鳴や恐怖の言葉ではなく、心に秘めていた性癖話だと気が付いた途端に顔を赤らめて様々な方法で誤解を解こうとする。
    だが、言葉を再び口にしただけではさらなる恥辱が待っている。
    なにせY談波を浴びたものは、全てY談に変換されてしてしまうのだから。

    どれほど恐ろしい怪物であっても、それを伝える言葉が封じられては讃えることはできない。

    どれほど恐怖が場を支配したとしていても、それ以上に気を取られる事柄が発生すれば、このように場の恐怖は白けるものである。

    Y談おじさんの操る催眠術はバカらしいようにみえて、恐怖を支配するものにとっては天敵だった。
    それはもちろん、畏怖を得るという意味でも、である。
    どれほどおごり高ぶった吸血鬼であったとしても、彼のさじ加減一つでその威厳を削ぎ落すことが出来てしまうのだから。

    場の空気を引っ掻き回し、場合によってはその場の中心人物を自分に挿げ替えることが出来てしまう能力。
    正しく、彼は古き血を持つ強大な吸血鬼なのだ。


    ヌヌヌ(つづく)

  • 189122/08/28(日) 01:21:48

    このネタの為だけにノースディンを上空にまで引っ張ってきました。
    そして明日は私用のためお休みです

  • 190二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 10:57:01

    生きとったんかY談おじさん!めちゃくちゃ楽しそうにY談波撃ちまくりながら根こそぎ畏怖奪い取ってるの流石というかなんというか…ある意味敵に回したくないなこの吸血鬼
    続き楽しみにしてます

  • 191二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 11:04:06

    ウワーーーッY談おじさん!!!味方にいると頼もしい……のか? やってる事いつもと同じなんだよなぁ

  • 192二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 19:08:54

    グワーッΔロナルドくんのはだけた胸元はえっちでけしからんと思います!!
    ロナルドくんのお雄っぱい!!
    (ついにシリアスの天敵Y談のヤロウが来やがったぞ囲め囲め!!
    今回も面白かったです!!)

  • 193二次元好きの匿名さん22/08/29(月) 00:55:53

    保守

  • 194二次元好きの匿名さん22/08/29(月) 12:11:10

    ちょっと早いけど保守

  • 195122/08/29(月) 22:20:30

    まだ本編書いてるので本編上がったらスレ立てますね

  • 196二次元好きの匿名さん22/08/29(月) 22:23:18

    早めだけど保守&乙です!
    いくら竜の骨倒せたと言ってもこのシリーズだし不安だったけど、ついに黄色が来た‼️これだけ畳み掛けるように畏怖をちらせば弱体化待ったなしだ‼️
    しかし蝶とかの、特攻はピンポイントで潰す性質を考えると真っ先におじさん狙われそう…。前の世界の時はまだ蝶にその性質がなかっただろうし、竜の骨に畏怖バフがかかるようになる前に逃げたんだろうな…。Yおじは最後の悪あがきにきをつけて欲しい…。
    続き楽しみにしてます!

  • 197二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 01:01:29

オススメ

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