トレーナー「……起きないし、来ないなぁ」

  • 1◆UlpelLUOzM22/09/04(日) 22:34:04

    シャドウメアの静かな寝息が聞こえる。
    彼女の持つ暖かな熱がこちらにジワリと伝わってくる。
    正直、これ以上にないほどに安らかで心地いいが、トレーナーとしても大人としてもこの状況はまずい。
    というわけでたづなさんを呼んだのはいいが……来ない。
    実は送ってすぐに既読はついており、かれこれ30分程経っている。しかし来ない。
    待つにしてもいい加減睡魔が襲い掛かってきているので、本当にまずいのだが……

    「......すぅ......すぅ……」

    当のシャドウメアはとてもリラックスしている様子だ。
    いつも無表情で感情の起伏に独特な開きがある彼女らしからぬといえば失礼だろうか?
    よく考えてみると普段のシャドウメアはいつでも少しだけ気を張っているような雰囲気がある。
    気を抜くことなく生活を送っているような、そんな印象を持つ。
    ひょっとして、少しは自分を信用してくれているのだろうか。そうならとても嬉しいのだが。
    ……さて、結局たづなさんが来る気配のないまま、ただただ時間だけが過ぎていく。
    考えだけが延々と巡り、脳が退屈の二文字を示し始めた頃にふと気付いた。
    そういえば、彼女は表情を変える時には雰囲気がガラリと変わる。
    自分に見せる表情はとても自然に変わるのだが、他の人に見せる表情はまるで"はじめからその表情だった"と言わんばかりに切り替わる。もしやこれにもなにか理由があるのだろうか。
    ……シャドウメアの事はまだまだ知らない事だらけのようだ。
    もし自分に信頼を置いてくれているのなら、彼女の過去を聞いてみるのもいいかもしれない。

    ――――――
    ――――
    ――

    ……しまった。ついに眠ってしまったらしい。
    まだ温かみを感じるあたり、シャドウメアは眠ったままのようだ。
    ゆっくり瞼を開け、彼女の姿を確認しようと少しだけ頭を起こす。
    その瞬間にふと目があったのは緑衣の女性――たづなさんだった。
    ……なんでこっちをじっと見てるんですかたづなさん???

  • 2◆UlpelLUOzM22/09/04(日) 22:34:24

    「お目覚めですか、トレーナーさん?」

    囁くような細い声でたづなさんは話しかけてきた。

    「あ、あぁ。すいません、我慢できずに眠ってしまって――あはは、起こしてくれたらよかったのに」
    「いえいえ。シャドウメアさんも眠っていましたから」

    改めてシャドウメアを見ると、やはりまだ寝息を立てている。
    安らいでいるようで何よりだが、少しだけたづなさんの視線に罪悪感を覚える。
    言い訳染みてしまうが、きちんと状況を説明しないと。

    「シャドウメアに抱きつかれた上にすぐ眠ってしまわれてどうしようもなくって。鍵を閉めていないのは確認していたので誰かに見られでもしたらまずいと思って連絡したんです」
    「ふふっ。随分シャドウメアさんに信頼されているようですね」
    「そうなんでしょうか……まぁ、誰にでも抱きつくような子じゃないのはわかるんですけど」

    "こんな風に奔放なところだけは、ほんの少し困らされたりもします"……微笑みながらそう続けるとたづなさんも続けてくすくすと笑って口を開いた。

    「トレーナーさんに甘えているんですよ。他の人とはそこまで距離を詰めていないですから」
    「学園内で見かけたりしたんですか?」
    「はい。この間の調理実習以来、シャドウメアさんはすっかり有名人ですから」

    先日の一件の後は忙しくなってしまい、昼時の学園散策が出来ない状態が続いた。
    知らない間に彼女が人気になる。良いことではあるが、今日までの彼女がどんな雰囲気だったのか少し気になってしまった。
    すると、たづなさんが少し真剣な眼差しをこちらに向けて、徐に話し始める。

    「信頼を裏切るような事はしないであげてくださいね。きっとトレーナーさんと出会えたことが彼女にとってとても嬉しいことで、幸運だったのだと思いますから」
    「勿論。彼女の夢を手伝うんですから、失望はさせませんよ」

    ……とはいえ、寝転がりながら言っても全然説得力はない。
    悪いが、早く起きてくれないかなぁ。

  • 3◆UlpelLUOzM22/09/04(日) 22:34:45

    「そういえば、もう明日ですね。シャドウメアさんの模擬レース」
    「ええ……今日はその対策をしようと思っていたんですが……」
    「大丈夫ですよ、まだ放課後になって2時間も経っていませんから」

    ふと時間を見ると、たづなさんの言う通りまだまだ練習はできそうだ。シャドウメアが起きたらの話だが。

    「そういえば、シャドウメアさんには他のウマ娘さん達のレースを見せてあげましたか?練習ではないレースは」

    言われて気づく。
    確かにまだ彼女には、練習中に一度もレース資料を見せていない。
    どうやら文化には非常に疎いらしいシャドウメアのことだ、おそらく何かのきっかけがなければ目にする事はないだろう。

    「……しまった」
    「まさか、まだ?」
    「はい……盲点でした」
    「それであれだけの走りを見せるシャドウメアさんは凄いですけれど……」
    「走り方がわからない子にお手本の一つもなく自分の走り方を探させる、なんて……自分の愚かしさに頭痛がしてきました」
    「そんなに思い詰めなくても……あ、それなら改めて一度ビデオを観せてあげてはいかがですか?例えば――ウィンタードリームトロフィーとか」

    ウィンタードリームトロフィー……トゥインクルシリーズ屈指の強豪ウマ娘達が、ファンによる投票で参加を決められるとても大きなレースだ。
    今、シャドウメアは自分の走りをまだ見つけられていない。映像を見ることで何か良い刺激になってくれるかもしれないな。

    「そうですね――すみませんたづなさん、本当はトレーナーである俺が気づかなきゃいけないのに」
    「いえいえ、多くのウマ娘さん達が輝く姿を応援するために色々なことをしなければならないんですから、トレーナーさんだって気付けないこともたまにはありますよ」
    「あははは……そう言ってもらえると助かります」

    次からは無いように、と自分の中で意志を固める。
    そして、彼女が目覚めたら一緒にレースを見ることに決めた。
    ウマ娘達と、それを取り巻く熱気。
    映像越しだが、少しでもシャドウメアに伝わってくれますように。

  • 4◆UlpelLUOzM22/09/04(日) 22:35:01

    「それでは、こちらの仕事に戻ります。外から鍵をかけておくので、シャドウメアさんが起きるまでゆっくりしていてください」

    少しだけ時間が経ちそんなことを言ったたづなさんが部屋を出た頃、体の上のシャドウメアがモゾモゾと身をよじり始めた。
    どうやらようやく、眠り姫が目を覚ましたようだ。

    「――ん……おはようございます。トレーナーさん」
    「おはよう、シャドウメア。よく眠れたかい?」
    「はい、とても、良く。トレーナーさんも眠れましたか?」

    言われて、少し体が軽くなったことに気がついた。やはり少しだけでも睡眠をとると変わってくるのだろうか。

    「そうだな……休む前より体が軽くなった気がするよ。ゆっくりさせてもらったおかげかな」
    「良かったです」

    彼女はそういってこちらに微笑みを向けると、いそいそと立ち上がってあくびをした。一挙一動が可愛らしい。
    しかし、残念だがそんな気分に浸っている場合では無い。自分も起き上がり本題に入ろうとしたところで、なんとシャドウメアが俺の体を押さえてきた。

    「トレーナーさん……お話はここで聞くので、まだ座っていてください」

    流暢になった日本語でそう制される。そしてパワーでもって立ち上がることがままならない。
    彼女はたまに何を考えているかわからなくなる。今回もそう。だが……仕方がない。彼女なりの考えがあってのことだろう。俺の疲れに対して気遣っているのかも知れないし、素直に言うことを聞いて座りながら話を進めることにした。

    「それじゃこのまま……シャドウメア、すまなかった。今まで君に本気のレースを見せたことがなかったことについさっき気がついたんだ」
    「……本当の、レース?」
    「あぁ。夢を追い、その夢を掴むための戦いだ。今日は明日のレースに備えて調整をしたかったが、その前に見せなければならないものがある」

    そこまでいうと今度こそ立ち上がり、過去の資料が入った資料棚を軽く漁って、すぐに目的の物を見つける。

    「ウィンタードリームトロフィー。厳選されたウマ娘達の、真剣勝負。今日はこのビデオを観るぞ!」

  • 5◆UlpelLUOzM22/09/04(日) 22:35:20

    『各ウマ娘、ゲートイン完了――スタート!』

    大型モニターにレースの映像が映り、スピーカーからは実況が聞こえる。
    ゲートが開き、ウマ娘が走り始めた瞬間、巻き起こった歓声が追いかけるように響き始めた。
    豪脚が地を揺らし、芝ごと土を巻き上げ、たくさんのウマ娘がコースを走る。
    その表情は真剣そのものでありながら、心底レースを楽しんでいるのが見てとれた。

    『コーナーを抜け直線、先頭は――』

    先頭のウマ娘がぐんぐんと逃げ、先行するウマ娘は少しだけ離れてそれを追う。
    そのすぐ後ろで控える差しウマ娘、さらに後ろにはグッと足を溜めて追い込み姿勢のウマ娘。
    何度も観たレースだ。俺はこのレースの結果を知っている。
    だが、何度観ても会場からそのまま引っ張ってきたような熱気と、ウマ娘達の気迫に呑まれそうになる。
    そしてそれは、初めて本当のレースを見るシャドウメアには、より強い刺激を与えているらしい。

    『――このウマ娘が最後尾』
    『彼女の脚質には合っていますね』

    実況と解説の声を聞きながらも、シャドウメアはじっと画面から目を離さない。
    まるで子供がショーケースのトランペットを物欲しそうに見つめるが如く、彼女は微動だにしないままにレースを見ていた。
    そんな彼女をチラリと見たほんの短い間に、あれよあれよとレースは展開していく。
    彼女達の走りを見ていると、本当にあっという間すらもない。
    やはりレースは一瞬の勝負なのだ。

    『――第四コーナーカーブ、各ウマ娘が最後の直線にスパートをかける!夢のレースの終焉はもうすぐだ!!』

    抜きつ抜かれつ差して差されて。下がったかと思われたウマ娘の再点火に、後方からの猛追――
    ゴールが見えた。しかし勝負は見えない。彼女達は前だけを見据えて走る。走る。ただ走る――
    このレースはそんなギリギリの戦いの中、わずかハナ差で勝敗が決まった。
    ……ウマ娘達の"本気"とは、やはりこういうことなのだろう。

  • 6◆UlpelLUOzM22/09/04(日) 22:35:37

    割れんばかりの歓声と拍手が鳴り響く画面。
    興奮冷めやらぬままにゆっくりと画面がフェードし、ウイニングライブの映像が始まった。
    1着のウマ娘をセンターに、入着した順にずらりと並ぶ。
    煌びやかな光と共に、心を躍らせる音楽が鳴り渡り、センターのウマ娘が歌い始めた。
    ステージの上で歌い踊り、キラキラと輝くウマ娘――特にセンターの子は大歓声を一身に受け、満面の笑みをファン達に返している。
    シャドウメアは画面に穴が開くほど熱心に観続けている。
    この素晴らしいパフォーマンスと、会場の熱狂に惹かれたのだろうか。
    いつもの無表情ではあるが、どんどんと前のめりになっていくシャドウメア。
    集中しているのか、おそらく自分でも自分の体勢に気付いていなさそうだ。
    ……この分なら、近いうちにビデオではなく、リアルタイムのレースとライブを観せてあげたくなる。

    「……ほぅ……」

    ビデオの再生が終わった。
    ほぅ、とシャドウメアから溜息が聞こえる。

    「シャドウメア、どうだったかな」
    「――とても、良かったです。輝いて、美しくて……」
    「トゥインクルシリーズは、こんな光景を目指すウマ娘達が戦う場なんだ」
    「……」
    「そして、華々しい場に立てるのは一握り。そういう世界だ」
    「……走りたいです、トレーナーさん。今すぐに」
    「……少し落ち着こうシャドウメア、まずは明日の模擬レースに――」
    「走ります」

    ハッキリと聞き返すその間もなく、彼女は揺るがぬ視線をこちらに向けて続ける。

    「輝きを見るために、その先に行くために私は走りたい。その先を見たいです」

    無表情が少しだけ笑み、その真っ赤な瞳からは強い情熱が溢れ出していた。

  • 7◆UlpelLUOzM22/09/04(日) 22:36:55

    純粋で真っ直ぐすぎるほどの情熱――勿論この情熱を受け止めない自分ではない。
    故に、直近に控えるレースに備えた話を始めることにした。

    「俺は今、君にとにかくレースを感じて欲しくてこのビデオを観せた。ここからは君の意見と俺の解説を挟みつつもう一度レースを見てみよう」
    「意見?」
    「そう。俺はこのビデオを何度も観ているから、このレースに出場したウマ娘の走り方や作戦については殆ど解説できる。しかし、君が何かを感じ取ったもの以外の解説をしても、まだ君にはピンとこないと思うんだ」
    「納得、ですか?」
    「その通り。君の中で気になったところを俺に教えてくれれば、俺はそれについて答えるよ」

    シャドウメアは頷き、再び画面に視線を移す。まるで催促しているようだ。
    すぐに再生を始める。

    「改めてパドックから始めるが……さっきのレースで気になったウマ娘は居るかい?」
    「全員です。速い、強い。参考になります」
    「ははは、そうだね。君にとっては全て新鮮か」

    その後ゲートインから出走まで、彼女は画面を観ながらも微動だにしない。
    ここまでの集中力を見せるとは思っていなかったが……良い傾向だ。

    「トレーナーさん」
    「ん、何だい?」
    「少し止めてください」

    すぐに一時停止をする。この場面は――第一コーナーを越えたあたりだ。
    ウマ娘達がやや長めに位置を取り、走っている。

    「ここが気になるのか?」
    「はい。ここです」

    何度もレースを見てきた側からするといつも通りの光景だが、彼女はここの何が気になったのだろうか。

  • 8◆UlpelLUOzM22/09/04(日) 22:37:11

    「どうして走り方、動き方が違うのですか?」

    画面全体を指し、シャドウメアはそういった。
    成程、そうか。脚質に合わせた走り方や作戦に基づいた動き方はシャドウメアにとってピンとこないものだったのか。

    「そうだな……走る時、ウマ娘それぞれにやりやすいやり方があるんだ。例えばこの一番先頭を走っているウマ娘だが、常に前を走って後続に抜かれないように走る"逃げ"という戦法を使っている」
    「逃げ、ですか」
    「後続を引き離し、追いつかれないようにする走り方だね」
    「逃げれば、勝てる?」
    「いや、決してそうとは限らない」

    首を傾げるシャドウメアを制し、少し後ろの一団を見せる。

    「ここから後ろにいるウマ娘達は、みんな先頭を走るものを抜き去って勝つために控えているんだ」
    「控える?」
    「そうだな……走り方の癖というか、自分のペースで走るというか……」
    「……力を溜めている?」
    「っ!そう、それだ!それぞれ力を溜めている状態なんだよ!」

    言葉に迷っていると、なんとシャドウメア自身がその理由を見つけた。
    ある意味では当たり前のことなのだが、それを彼女が自ら導き出したと思うと喜ばしい限りだ。

    「改めて……この後ろのウマ娘達は今は力を溜め、体力を温存しているんだ。体力をあまり使わないようにというのは、実は先頭で逃げている子も変わりないんだけどね」
    「最初から全力、いけない事ですか?」
    「うーん……いや、そうでもないよ。逃げの中には大逃げと呼ばれる戦法もある。最初から全力全開で飛ばして、終始誰も追いつけないようにする戦法だ」
    「大逃げ……」
    「ただ、これにはとてつもない修練が必要になる。何せずっと最高速度で走るくらいの勢いなんだ、スピードやスタミナはもちろんのこと、ペースを全く乱さないメンタルの強さが必要になる」
    「……メンタル?」
    「精神力だね。つまりは自分の心との戦いさ」
    「自分の、心……」

  • 9◆UlpelLUOzM22/09/04(日) 22:37:46

    シャドウメアは少しだけ間を置き、再び口を開いた。

    「メンタルが大切、わかりました。けれど、後ろを走るウマ娘は、大切?」
    「あぁ、勿論大事だよ。これはどんな戦いだってそうさ」

    走る以外のスポーツなんかでも同じだよ、と付け加えて話を続ける。

    「そうだな。今この映像で言うなら、後ろの方に控えている子達ほど"徹底的に勝つ"っていう気持ちが強いのかもしれない」
    「……?」
    「精神力の使い方が違うんだ。先頭を逃げるこの子は"自分の走りたいよう全力で走る"と考えているかもしれないし、一番後ろで控えるこの子は"前の子達を全員抜いて勝ってやる"と思っているかもしれない。あくまで俺の主観だから、本当に考えていることはわからないけどね」
    「戦い方の違い、ですか」
    「そうとも言えるかもしれない」
    「徹底的に……」

    そういうと、シャドウメアは納得したように頷きビデオに向き直る。どうやら続きを催促しているようだ。
    ……もしかして、自分の戦い方について考えているのだろうか。
    一時停止を解き、再度画面に集中する。
    次に彼女からストップがかかったのは最終直線――ラストスパートの場面だった。

    「これが、スパートですか?」
    「そう、前に教えたことをよく覚えていたね。偉いぞシャドウメア」
    「……♪」
    「自分の持てる全てをここで使い切り、勝負を決する場面とさえ言える。勿論ここまでの走りも重要だけど、この一瞬を迎えた時には全て崩されることもある」

    そう言って、逃げていたウマ娘が競られている場面を見せる。

    「ごらん、シャドウメア。先頭を逃げていた子と、その後ろにつけていた子が競り合い始めた。その間に後ろからはぐんぐんと詰めてきている――そして、さっき見た通り」

    そう、この後は先程見た通りの大混戦。最後方にいたウマ娘の追い込みが決まり、それでもハナ差での終わりを迎える。
    その様子を見届けたシャドウメアの様子を見ながら、俺は1位という栄冠を手にしたウマ娘が観客に手を振るところでビデオを止めた。

  • 10◆UlpelLUOzM22/09/04(日) 22:38:37

    「さて……どうかな、シャドウメア。何か気になったところは他にあるかい?」

    尋ねると、彼女は少しだけ考え込む。

    「――トレーナーさん。次の戦いは、どれだけ走りますか?」
    「どれだけ……そうか、距離のことか?」
    「はい。色々な距離を走る、そう聞きました。でも次の戦いの距離、分かりません」
    「そういえば決まっていなかったかもしれない。困ったな、もう前日なのに……」
    「でしたら、このレースと違うレース、見たいです」

    ……まさか、各距離での走り方を学びたいということだろうか。
    今までは彼女の脚質がまだはっきりしていないからこそ、スタミナを活かした長距離路線でしか考えていなかったが……
    とはいえ彼女がやる気なら観せてあげる方がよさそうだ。

    「分かった。それじゃあ……このレースは中距離だから、次は短距離、マイル、長距離――せっかくだからダートでの戦いも見ておこうか」
    「はい、よろしくお願いします」

    トレーナー室に備えてあるビデオを見繕い、再生の用意を進める。
    ……時間的に、この後は一回走れたらラッキーなくらいだろうか。
    明日に備えての調整は……ひょっとしたら絶望的かもしれない。もっと早めに気づいておくべきだった。
    悔やんでも仕方がない。今は彼女の情熱を信じて付き合おうじゃないか。

    ――それから。
    シャドウメアの細やかな疑問に答え、レースについての解説をしつつ、それぞれのビデオを二度ずつ見返した。
    やはり考え通り、これから走るにしても長くは走れなさそうだ。

    「……とりあえずこれで全てだ。どうだった、シャドウメア?」
    「……分かりました、少しだけ……次は想像を固めたいです」
    「想像を……イメージを形にしたいってところかな」
    「はい。トレーナーさん。走っても良いですか?」

  • 11三十路のおっさん◆UlpelLUOzM22/09/04(日) 22:42:34

    お久しぶりです。

    スレが予期せず落ちてから、相当な遅筆ながらもいっぺんに書き溜めて、それを全て吐き出しました。

    今後も引き続き、落ちようが頑張って終わりまで書きますのでできれば落とさないでくれるとありがたいです。

    ぜひよろしく。


    前回まではこちら。

    トレーナー「君が編入生だね?」|あにまん掲示板「……はい」「これからよろしく!えっと、君の名前は……」「シャドウメア、です」bbs.animanch.com
    トレーナー「シャドウメアッ!」|あにまん掲示板続いたッ!!前回まではこちら。https://bbs.animanch.com/board/695984/bbs.animanch.com
    トレーナー「もう明日には模擬レースかぁ」|あにまん掲示板bbs.animanch.com
  • 12◆UlpelLUOzM22/09/04(日) 23:53:15

    シャドウメアの催促もあり、俺たちはグラウンドにやって来た。辺りは少し暗くなりかけているから、あまりウマ娘の姿はない。

    「シャドウメア。あまり時間はないけど、どの距離を走る?」
    「……試したいです。なので、草の上を長く」
    「芝の長距離か。分かった、あっちのコースだね」

    この遅い時間ともなると、撤収しようとするウマ娘たちばかりとすれ違う。
    となればコースには誰もいないだろう……と高を括っていたが、やはり熱心なウマ娘もちらほらと居るようだ。

    「はぁ、はぁ……ふぃ〜……よ〜し、もう一周行こ――あれっ?」

    そのうちの一人がどうやらこちらに気づいたらしい。息を整えながらこちらを見ている。

    「やぁ。君は――確か、マチカネタンホイザだね」
    「はい、マチカネタンホイザです!……あ、メアちゃんもしや、これからトレーニング?」
    「そうです。マチカネタンホイザさん」
    「そっかそっか!がんばって――」
    「ふぅ〜……おや?メアさんではありませんか!」

    どうしたことか、次々来る。この独特な髪飾りの彼女は確か……

    「君は、マチカネフクキタルかい?」
    「はい!マチカネフクキタルです!えーと……あなたはメアさんのトレーナーさんですか?」
    「うん、よろしく――熱心だね、二人とも」
    「いえいえっ、もっと速く走れるようになりたいのでこれくらいは普通ですよぅ」
    「私は、今朝の占いで誰かのトレーニングに付き合うが吉と出ましたので、おマチさんと一緒に走っていたところです!」

    こうやって鍛錬に励むウマ娘の姿には感銘さえ覚えるな……そうだ、折角だし試しに一つ頼んでみようか。

    「二人とも、良ければシャドウメアと併走してくれないかい?」

  • 13◆UlpelLUOzM22/09/05(月) 00:42:19

    「おおっ、メアちゃんとの並走……そういえばやったことないっけ。フクちゃん先輩はどうです?」
    「私は良いですよ、この後もおマチさんが満足するまで付き合うつもりでしたので!」
    「ありがとうございます、お二人とも」
    「本当に助かるよ。それじゃあ早速始めようか」

    三人がスタート位置に立つ。スタートの合図は自分の号令だ。
    今回のトレーニングはひとまずの仕上げになる。
    というわけで、彼女の記録を残すためにストップウォッチを片手に挙げてのスタンバイ。

    「よし、それじゃスタートと言ったら走り始めてくれるかい?」
    「了解です!」
    「おっけーです、むん!」
    「分かりました」
    「ではよーい……スタートッ!」

    号令と同時に挙げた手を振り下ろしながらストップウォッチのスイッチを押す。
    当然同時に三人とも走り始めた。地を揺らす轟音が響き渡る。

    「なッ……!」

    ――驚いた。なんとシャドウメアの走り方が随分とまともになっている。
    フォームこそ今までと変わらないが、酷い土砂を巻き上げるような走りではなく、今までの姿を知っている身からすると、とんでもなく控えめだ。
    もしや、これをウマ娘らしい走り方だと認識したのだろうか。だが……

    「フォームが変わっていないからこそ、速度が出ていない……?」

    マチカネタンホイザとマチカネフクキタルの二人は2バ身程度開き、そのままのペースで走っている。
    おそらくはこれが彼女らに合った走り方なのだろう、細やかなレース運びに彼女らの研鑽が滲み出ている。
    しかし、シャドウメアはその後方4バ身程を走っている……やはり、走り方を変えたせいか。
    ……それにしても、綺麗な走り方になっている。やはり走り方をきちんとしたストライド走法で固めたのは間違いではなかったようだ。

  • 14◆UlpelLUOzM22/09/05(月) 09:14:45

    数日間のトレーニングの末、空転することは無くなった。
    彼女らしいフォームの見直しと、姿勢制御を徹底して行ったからだ。
    その結果、彼女はあの地を這うような前傾のフォームのままに、カーブを曲がることもスパートをかけることもできるようになった。
    しかしこの走り方は彼女のパワーをフルに伝える走り方のはず、いつものパワーを出さなければ当然速度は落ちる。

    「どうしてあの剛力を発揮しないんだ……?」

    コースに来る前、彼女は試したいといっていた。
    あえて何を試すかと問わなかったが、もしやコースを傷つけない走り方を試すという意味だったのだろうか?
    などと思っている間に、三人は第一コーナーに差し掛かる。
    このスピードなら、シャドウメアも膨れることなく曲がることができるはずだ。

    「……よしッ、申し分ないコーナリングだ!」

    今までで最も理想的なコーナリングだ。
    数日前の直角コーナリングとは天と地ほどの差もある。
    しかし、目の前の二人との差は縮まらない。
    確かな実力を持つ二人の後につけている。その事実は変わらないが……
    よく観察すると、シャドウメアが少し息を荒げていることに気づく。
    今までどこで走ろうとほとんど息を切らせることはなかったのに。
    たった今第一コーナーを抜け、まだレースの三分の一も終わっていない。
    もしや、見えないところに不調が……というわけでもなさそうだ。
    少しでも体調が悪ければ伝えるように言ってあるし、こちらでも入念なチェックをしている。
    ……だとすると原因はなんだ?
    未だレースに展開はない。併走という人数の少ない環境故に、前を走る二人は自分のペースを保っていられるのだろう。
    しかし、シャドウメアは先程と全く変わらない。競り合おうともしなければ、速度を落とすこともない。
    まさかこれが彼女が見出した自分のペースだというのだろうか。
    間もなく1000m。彼女のタイムは……

    「1分0秒2……なっ、速い!?」

  • 15◆UlpelLUOzM22/09/05(月) 17:41:58

    今更だがこのコースは3000m、想定としてはG1レース"菊花賞"と同等のコースだ。
    そしてマチカネタンホイザとマチカネフクキタルは逃げを打つウマ娘ではなかったはず。
    むしろ先行策や差し込みを得意としていたと記憶している。
    シャドウメアはその二人から4バ身離れ、同じ場所を通過するまでにはおよそ3秒ほどのタイムラグがある。
    それでこのタイム……明らかに速すぎるのだ――前の二人が。
    確かに先頭に誰もいない状態ではあるが、通常のレースを想定しているのなら速すぎる。
    随分と調子が良さそうだったから、まさかこんなに速く走っているとは思わなかった。

    「待てよ……逃げウマ並みのスピードで走って、ペースが保たれているわけがないじゃないか」

    冷静に考えればそうだ。こんな走り方をしていればアクセルをベタ踏みしているようなもの。
    レース終盤に向けてそこそこの位置につけて控える作戦は、細やかなスピードコントロールも必要となる。
    となれば、前の二人のペースが既に乱されているのは明確だろう。
    だが走っていない俺には、彼女たちの様子を伺うことしかできない。何か……走っている者にしか分からないことが起こっているのか?

    ――

    『走る』
    『力を一点に』
    『曲がりは沿うように』
    『蹴り出し、前へと進む』
    『敵の動きをよく見る』
    『走る速さ、敵との距離を』
    『ただそれだけ』
    『殺す機を逃さない』
    『そのために』
    『お前を、お前たちを、私は見ている』

    (待ってっ、こわい、こわいってメアちゃん〜〜!?)
    (ひえええええっ!!?今にも刺してきそうです、物理的にぐさっとぉっ!?)

  • 16◆UlpelLUOzM22/09/05(月) 20:27:46

    2000mを通過した。間も無く最終コーナーに差し掛かる。
    だが、三人はまるで既にラストスパートをかけているかのような速度で走っている。
    変わらず先頭をマチカネタンホイザ、その僅か後ろにマチカネフクキタル。
    シャドウメアは先頭へ目掛けじわじわと迫っている。大きく開いていた序盤とは打って変わって、既にその差は1/2バ身程だ。
    こちらもゴール側で既に待機して、着順がどのようになるかを見届ける用意は済ませている。
    ……にしても、マチカネタンホイザとマチカネフクキタルが随分鬼気迫る表情に見えるのは何故だろう。シャドウメアの方は出力以外いつも通りなのに。
    コーナーを曲がりきり、前を走る二人が最後の直線へと入った。ほんの少し遅れてシャドウメアが入る。

    「……!?」

    一瞬。本当に一瞬。
    最後の直線でスパートをかけた瞬間、シャドウメアは二人を抜き去った。
    競ることすらも無く正しくあっという間に、どんどんと差は開いていく。
    2バ身、3バ身……シャドウメアの速度はぐんぐんと上がり、その分の距離が一向に縮まらない。
    そしてそれだけではなく、なんと先程まで前を走っていた二人が、スパートをかけられていない。
    いや、正確にはスパートをかけているのだろうが――明らかに過剰なオーバーペースに巻き込まれたせいで息が上がっている。
    このままの速度をキープすることもおそらくできないだろう。
    見積もった通り……シャドウメアがゴールする寸前にマチカネタンホイザが極度の速度低下を引き起こし、それをなんとか抜いたマチカネフクキタルも、1バ身離れた程度でスピードダウン。そのままゆっくり――とはいえヒトより数段速いが――ゴールを迎える。
    1着はシャドウメア、次はマチカネフクキタル……その差は実に8バ身。なんという圧倒的な走りだろうか。
    ……しかし、彼女ら二人は俺たちがここに来る前に何度も練習をしていた。ベストだとは言い切れないだろう。
    だとしても、シャドウメアがここまでの走りを見せたことには変わりない。そう思ってタイムを見る。

    「……3分、7秒7……!?」

    速い……あまりにも速い。速すぎる。
    今までの計測では3分20秒を切ることは無かった。あの無茶な走りでロスが酷かったためだ。
    確かにロスがなければ、もしかしたら3分数秒まで行くやもと考えていたが……
    シャドウメア、君は――一体君は何をしたんだ。

  • 17◆UlpelLUOzM22/09/06(火) 07:43:50

    走り終えたシャドウメアは、軽く息を整えてこちらにやってきた。

    「……トレーナーさん。どうでしたか」
    「し、シャドウメア……驚いたよ本当に。見違える程良い動きになった。それにタイムも……一体何をしたんだい?」
    「特別は、何も。"闇の一党"の心構えを忘れずに、走り抜いただけです」
    「"闇の一党"?」
    「家族でした。その教えみたいなものです」

    これは、スカイリムのことの一つか。
    となると今すぐ踏み込むのは良くない。こういう話は落ち着けるタイミングで聞いておきたいことだ。
    などと考えていると、とんでもなく息を切らしたマチカネフクキタルとマチカネタンホイザが歩いてきた。

    「はぁっ、ひぃっ、ぜぇっ、ぜぇっ……ま、負けたぁ〜……っ!」
    「はぁーっ、ひぃーっ……ふぅ……やっと息が整ってきました……」
    「二人ともありがとう……にしても、やっぱり既に何度も走っていた君たちには随分無茶をさせてしまったようだね。すまない」
    「い、いえいえっ!その点に関しては大丈夫です!……にしてもすごい気迫でしたね、メアさん……もういつ追い付かれるかとヒヤヒヤで、必死で走ってたらスッと抜かれて……」
    「こ、こわかったぁ〜……ハッ、ご、ごめんね!そういうことじゃなくて……!」
    「怖かった……?」

    そうか。二人は追われていたのか。
    シャドウメアがプレッシャーを与えて走っていたのなら、確かにあの異様なペースも頷ける。
    ……が、どうやってそれをやったんだ?

    「マチカネタンホイザ、マチカネフクキタル。今回君たちはシャドウメアと走ってどう感じた?」

    尋ねると、二人は数秒顔を見合わせて、フルフルと小さく震えながらこちらに向き直り、同時に口を開いた。

    「「……こ」」
    「こ?」
    「「殺されるかと……!!」」

  • 18二次元好きの匿名さん22/09/06(火) 07:54:59

    まるでルシエンの帰還のようだ。おかえりなさい

  • 19◆UlpelLUOzM22/09/06(火) 19:28:40

    「え、えぇ……?」

    そんな物騒な……しかし、レース中に"ブッ潰す"などと言って圧をかけるウマ娘が見られるのもまた事実。
    二人は確かに「殺されそうだった」といい、少し怯えている様子も見られる。
    となると、シャドウメアは本気で二人を殺すつもりで走っていたとか……?
    いや、しかし彼女はレースを戦いと称しながらも、危険がない戦いで幸せだと言っていたはずだ。
    本気で殺すつもりはないだろうし、もしそんなつもりがあるなら色々と問いたださなければならない。
    ……当のシャドウメアは、二人のその様子をいつもの無表情で見ていた。

    「め、メアちゃん?」
    「……怖かったですか?」
    「……う〜……うん」
    「いつぐさっといかれてしまうのかと……!」
    「戦いでした。殺すつもりで見ていました。でも、本当には殺しません。とても怖がらせた。ごめんなさい」
    「えっ!?いやいやそんな、謝られることじゃなくって〜……!」
    「その通り、むしろ誇ってください。あそこまでの気迫……なかなか見れるものではありません!」
    「気迫……」

    少し怯えていたのもどこへやら。
    シャドウメアと二人の間も丸く収まりそうな雰囲気である。
    ……それより考えなければならないのは、シャドウメアのあの速度だ。
    正直なところ、ここまでのタイムを出せるとは思っていなかった。
    初めての練習の後も相当土砂を舞い上げて走っていた姿を知っている身からすると、どんな変化が起こればこのような結果を出せるのかが気になってならない。

    「……?」

    シャドウメアと目が合う。
    軽く微笑んで、マチカネタンホイザとマチカネフクキタルの二人へ視線をやる。
    シャドウメアも微笑んで彼女らとの談笑に戻った。
    ……この疑問については、後ほど一対一で話をしてみよう。

  • 20二次元好きの匿名さん22/09/06(火) 19:43:44

    イキワレ!

  • 21二次元好きの匿名さん22/09/07(水) 06:54:27

  • 22◆UlpelLUOzM22/09/07(水) 07:01:26

    そんなこんなで併走を終えた彼女らは、もう遅いからと寮に戻っていく。
    こちらも撤収の用意をしよう。

    「トレーナーさん」
    「どうかしたかい、シャドウメア?」
    「走り方、おかしくなかったですか?」
    「今日の走りはすごく良かったよ。正直、昨日までとは見違えるほどだ」

    事実、今までなら併走トレーニングとはいえ勝てないであろう二人に勝ったのだ。
    この分なら明日の勝負にも勝てるかもしれない。
    ……実際のレースはそんなに甘くはないわけだが。

    「そうだシャドウメア。さっきの――」
    「"闇の一党"ですか」
    「――そう、それのことだ。彼女たちが殺されるかと思ったなんて言っていたから、少し不思議でね」
    「殺すつもりで見ていましたから」
    「おいおい物騒な……」
    「トレーナーさん」

    言葉の途中で遮られ、じっとこちらを見つめられる。
    そして少し経つ間も無くじわりじわりと、黒っぽいような"なにか"が俺を取り囲む。
    締め上げられるように苦しく、そして重く感じる圧……そうか、これが殺気か。

    「どうですか」

    シャドウメアが口を開くと、パッと消えるように殺気らしきものが無くなった。

    「い、いや……とても重苦しくて、息苦しいような――いやそうじゃない、どうしてこんなことができるんだ?」
    「"闇の一党"は、暗殺者の集まりでしたから」
    「いいっ!?」

  • 23二次元好きの匿名さん22/09/07(水) 07:11:52

    対象をマークして発動っぽいし、これだと逃げ先行ではなく差し追込の方が固有(?)は出やすそうだね

  • 24◆UlpelLUOzM22/09/07(水) 16:12:34

    "暗殺者の集まり"――確かにシャドウメアはそう言った。
    そんな集団である"闇の一党"を家族と呼ぶ。
    それはつまり、彼女もその仄暗い組織の一員であるということだ。
    思いがけない返答に、言葉と息が詰まり、冷たい汗が流れ出る。
    黄昏時。夕闇が、俺とシャドウメアを包む。

    「……トレーナーさん。怖いですか」
    「ッ……」
    「昔のことです。ここには居ません。"タムリエル"にしか居ませんから」

    "タムリエル"。また新しい知らない言葉だ。なんとなく地名のような気がする。

    「トレーナーさん。今の言葉で伝えられるだけ、あなたに伝えます。私の記憶、真実を」

    シャドウメアの真っ赤な瞳が、揺らぐことなくこちらを見つめる。
    彼女の眼差しとその言葉から、自分は顔を背けることができなくなっていた。

    「私は――きっと遠いところから来ました。ずっとずっと遠いところです。前に北と伝えたのは、きっと間違いでした」

    ……確か初めてきちんと話した時、彼女が何処から来たのかと尋ねた際に答えられた言葉だ。

    「"タムリエル"は大陸です。"スカイリム"はそのうちの一つの地方。かつて私は理由があって、家族であり友である者と"シロディール"という別の地方から"スカイリム"にやってきました」

    どんどん知らない言葉が出てくるが、その都度説明が入る。
    しかし、"タムリエル"という"大陸"……全く聞いたことがない。

    「"闇の一党"は暗殺者の集まりです。闇の兄弟姉妹は、依頼を受ければどんな相手も殺してきました――例え、皇帝でさえも」

    皇帝……!?
    そんなとんでもない立場の人物でさえも手にかけてきたのか、"闇の一党"は……!

  • 25二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 00:29:19

    成し遂げた仕事のデカさで言うとSkyrimの闇の一党が一番大きいし、そりゃそういう反応をするよね

  • 26二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 00:33:15

    固有スキルがデバフなの初めてじゃない?

  • 27◆UlpelLUOzM22/09/08(木) 09:18:09

    「ですが、家族は私に依頼をさせませんでした。私はただ走るだけ、長い距離を家族と共に。生きて帰る為に……家族の死を伝える為に」

    ……彼女の走り方のバックボーンはこれか。
    長距離間の移動がメインだったなら、確かに最初に見たあのスピードで走るのも頷ける。
    長く走る場合は何よりペースを乱さず止まらないことが重視されるからだ。
    もしやあの滅茶苦茶ながらも体幹を維持できているフォームは、そういう訓練によって生まれたものだったのか?
    にしても、なんて過酷な……

    「ある日家族の一人である"アストリッド"は、一つの依頼を見つけます。闇の一党はある儀式を通して依頼を受けるんです」

    "アストリッド"は夢に出た女性のことだったな。
    あの夢に見た二人も闇の一党の一員だということか。

    「しかし、その依頼は闇の兄弟姉妹が手を出す前に終わりました。取り下げられたのではなく、別の者に完遂されたのです――"ドヴァーキン"に」

    あの男の人との出会い、か。
    シャドウメアにとってとても重要な人物らしいが……

    「アストリッドは依頼を無事に終わらせた彼を勧誘します。本来ならばこの依頼は闇の一党が引き受けなければならなかったもの。ですがアストリッドは彼に素質を感じたのです」

    元々ドヴァーキンという人物は闇の一党に関わりがなかった人ということか。
    ……何故暗殺者集団に手を貸すようなことをしたんだ?

    「……出会いからずっと後、ドヴァーキンは話してくれました。正式に闇の一党に入る前、自らの意思で殺しをしたのは数少ないと。闇の一党に願われた彼にとっての最初の依頼は、孤児院から逃げた少年からの依頼でした。周りには良い顔を見せておきながら、集めた孤児を虐げる経営者……"親切者"を殺してくれ、と」

    ……その少年は確かに殺してしまいたくなるほどの仕打ちを受けたのだろう。そんな中で暗殺者集団との接触方法を知ったのなら、手を出してしまうかもしれない。
    だがその殺しを部外者であったドヴァーキンが行ったのは果たして良いことなのだろうか。
    何となく、彼女が居た場所には血生臭いことが溢れていたことは察せているが……

    「次の殺しはすぐでした。アストリッドが彼を拉致し、同じく拉致した殺すべき者三人の内、真に殺すべき一人を殺せと伝えたのです」

  • 28◆UlpelLUOzM22/09/08(木) 13:21:20

    続けてシャドウメアは殺される為に集められた三人について話した。
    一人は傭兵。受けた依頼を忠実にこなす男。だが仕事柄沢山の人を殺すため、それが原因で恨みを買ったやもしれないと自供したそうだ。
    一人は母親。夫が居らず、一人で六人の子の面倒を見なければならないと言い、こんなところで遊んでいる時間はないと自供したそうだ。
    一人は獣人。物を取り、命を奪い、娘達を汚す者だと自称し、逃がしてくれたらお前を道端で殺すような真似はしないと自供したそうだ。

    「ドヴァーキンは全員の話を聞き、獣人を殺しました。真の悪だと感じた、と。仕事を見届けたアストリッドは彼を聖域へ招き、合言葉を教えました――トレーナーさんも知るあの言葉です」

    "沈黙せよ、我が同胞"……そうか。この言葉は闇の一党の符合だったのか。

    「そうして闇の一党に加入したドヴァーキンは依頼を進め――ある日、"夜母"がやって来ます。その数日後、彼はとあるきっかけで"夜母"の声を聞いたそうです。闇の一党にはいくつかの決まり事がありました。そのうちの一つは、我々の信じる"シシス"の妻である"夜母"の声に従うこと……しかし、その声を聞けるのは選ばれたものだけです。ドヴァーキンはその時から"聞こえし者"となり、夜母の声に従って依頼をこなします。その過程で、私とドヴァーキンは初めて出会いました。それまではアストリッド以外に姿を見せていませんでしたから」

    話がずいぶん複雑になってきた。
    この"シシス"というのは信仰対象で、その配偶者である"夜母"は何らかの方法で"聞こえし者"に声を届け、闇の一党としての依頼を授ける……ということだろうか。
    今更だが、相当に非現実的な話だ。彼女がスゥームなんてものを使えなければ信じていたかすら怪しい。
    しかし、その眼差しに嘘は全く見受けられない。少なくとも、彼女にとってはこれが真実なのだろう。

    「私とドヴァーキンがそれからどれだけの時間を過ごしたかは、また今度お話しします。ある時、ついに皇帝の暗殺計画が始まりました。用意を進め、ドヴァーキンが皇帝を殺します。しかしその皇帝は影武者でした――裏切り者がいたんです」
    「裏切り者……?」
    「――裏切り者は、アストリッドでした。彼女は"夜母の声に従う"ことを嫌っていました。彼女は夜母がやってくるまで、スカイリムに存在する闇の一党を束ね、存続させてきたのです」

  • 29二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 23:04:35

    ほし
    Skyrimやってみたくなる

  • 30二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 23:13:12

    逃げが大逃げに変化するように
    差しが刺しに変化するのかもしれない

  • 31二次元好きの匿名さん22/09/09(金) 07:02:13

    シャドウメアとドヴァキンが会った時点で、既にシセロの裏切り真っ最中と不穏だったもんな…懐かしい

  • 32◆UlpelLUOzM22/09/09(金) 12:21:34

    「彼女は、今まで自分の手で守ってきた家族が夜母の声によって皆殺されてしまうかもしれないと考えたのかもしれません。敵方の将軍に持ちかけられた、ドヴァーキンの命を差し出せば闇の一党に手出しをしないという取引に応じたのです――しかしその将軍は約束を違え、聖域に火を放ち襲撃しました」

    ドヴァーキンは中々酷い目に遭っていたようだ。
    仲間を守る為の裏切り……少し違うが、トロッコ問題みたいだな。

    「その襲撃で何人もの仲間の命が失われます。ドヴァーキンも夜母の導きがなければ死んでいたかもしれません。そして……アストリッドがまだ聖域にいると伝えられたそうです。ドヴァーキンが見つけた時、彼女は炎に焼かれ、体のほとんどが焼け爛れたまま、聖域に横たわっていた……そう、聞いています」

    少しだけ、シャドウメアの声が震える。
    ……なんて辛い記憶なんだ。話すのも辛いだろう。
    自分の過去を俺に教えるために、悲しい思い出を引き出しているのだ。

    「……彼女は今にも尽きそうな命を使い、自らで儀式を行います。ドヴァーキンは彼女を手にかけ、シシスの元へと送ると、残った仲間と共に別の聖域へと向かいました。夜母はドヴァーキンに、まだ依頼は完遂できていないと言ったそうです」

    依頼……そうか、皇帝はまだ殺せていないのか。

    「ドヴァーキンはその後皇帝の居場所を突き止め、ついに暗殺を完遂しました。私はその場にはいませんでしたが、依頼は果たされたのです……ここまでが、私とドヴァーキンの闇の一党としての生き方のおおまかな流れです」

    闇の一党の話を聞くだけで、随分と時間が経ってしまった。
    それにしても、そうか。
    彼女の物怖じせずどこか達観したようにさえ見える雰囲気は、きっとここから来ているんだ。

    「それからドヴァーキンは聞こえし者としてささやかに動きながら、私と共にスカイリムを巡る旅に出ました。"吟遊詩人大学"や"ウィンターホールド大学"、"同胞団"に"盗賊ギルド"、"ドーンガード"と"ソルスセイム"での旅。そして"アルドゥイン"との戦い……他にもいろいろなことや、同行できなかったものもありますが、ドヴァーキンとの旅は楽しいものでした」
    「……そうか」
    「これが、私です。トレーナーさん」

    思い出を語る彼女は、側から見てもとても懐かしんでいるのが伝わった。
    ……彼女の持つ力も、この経験から来ているのだろうか。

  • 33二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 00:24:43

    ほしゅ

  • 34二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 12:15:55

    保守

  • 35◆UlpelLUOzM22/09/10(土) 12:39:36

    「シャドウメア、君は……俺が思っていたよりずっと壮絶な生き方をしてきたんだな」
    「……あの頃は血に染まってばかりで、でもこちらにはそんな戦いはない。とても不思議でした。みんな笑っている幸せな世界が目の前にある。ただ走るだけで輝ける世界が」

    ……夢破れたりプレッシャーに押し潰されて、笑っていられなくなったウマ娘も沢山いるが、多分彼女が言いたいのはそういうことではないのだろう。
    シャドウメアが語ったような血生臭い毎日なんてむしろ想像できない。
    そんなダークファンタジーのような世界観は、創作物でしか知り得ない。
    ……というか、実際ファンタジーのような環境にいたんだろう。

    「トレーナーさん。私はあの頃のように生きるつもりはありません。ドヴァーキンとの旅は楽しかったですが、それは思い出です」
    「……もしそういう生き方をしたいと言ったらどうしようかと思ったけど、杞憂だったね」
    「イスミールにかけて。私は殺しません……殺されそうになった時は別ですが」
    「そんな事態には絶対させないから、安心して誓いを果たしてくれ。シャドウメア」

    そういうと、シャドウメアはクスリと笑い、辺りを見回す。
    もう陽も落ち切り、夜の闇が辺りを包む。

    「……遅くなりました。帰りましょう、トレーナーさん」
    「そうだね……それにしても、ドヴァーキンとの旅は本当に色々あったんだね。スゥームの事もあるから、尋常じゃないのはなんとなく察していたけどここまでとは」
    「……そういえば、"ドヴ"をどう説明しようと悩んでいたのですが、この間ピッタリのものを教えてもらいました」

    "ドヴ"……確か、スゥームはドヴの言葉なんだと言っていたっけ。

    「教えてもらったって、そんなに難しかったのかい?」
    「はい。ですがゼンノロブロイさんと図書室で見つけた本にドヴがいたのです」

    ……ゼンノロブロイ?
    確か、活字の類が好きなウマ娘だったような……

    「それは……一体何者なんだい?」
    「"ドヴ"は"ドラゴン"。"竜"と呼ばれているものでした」

  • 36二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 23:41:26

    ほしゅ

  • 37二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 09:58:20

    闇の一党から始めてサブクエが内戦以外フルコースなのね…そりゃ付き合い長くなるわな

  • 38二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 20:20:33

    これ読んでシャドウメア女体化MOD探してみたけどなくてちょっと落ち込んだ

  • 39二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 22:03:13

    >>38

    処理とか難しいのかもね…足も減るし

  • 40二次元好きの匿名さん22/09/12(月) 07:28:56

    あさほしゅ

  • 41◆UlpelLUOzM22/09/12(月) 10:14:41

    ――昨日は最後にとんでもない発言をされた。
    まさかドラゴンなどという言葉が出てくるとは思ってもみなかった。
    あまりに想定外の言葉に唖然としているまま、シャドウメアは一瞥して寮に戻り、自分もそのまま部屋に戻って休み……翌日の今に至る。
    けど、やっぱり彼女の話は色んな意味で面白い。また落ち着いた時に彼女の思い出話を聞きたいな。
    ……さて、今日は例の模擬レース当日。昨日までの練習を活かしシャドウメアが走ってくれることを期待しよう。
    とはいえ、まずは普段通りの一日を……そういえば、レースはいつ行うんだろう。きちんと決めていなかったような……

    「ねえねえッ!今日だよ、ゴルシさんがあちこちにポスターを貼ってた模擬レースッ!」
    「そっか、メアちゃんが出走するんだよね。時間は放課後でいいんだっけ?」
    「うんうんッ!いやー楽しみだなー、なんと言っても出走者が豪華だもんねッ!」
    「確か、ゴールドシップさんにアグネスタキオンさん……」

    前のウマ娘達がレースの話題を話しているのが聞こえる。
    あれは確か、この間家庭科室でシャドウメアと同じ班だった子たちだな。
    ゴールドシップが随分と手回ししてくれているようだ。そういえば、他にもメンツを集めると言っていたような。

    「それに、カフェちゃんとルドルフ会長と、テイオーちゃんとマックイーンちゃん、ライスちゃんとブルボンちゃんと、BNWの三人にブライアンちゃん……あッ!オペラオーちゃんとドトウちゃんも出るんだよねッ!」
    「うーん、どうだったかな……そうだ、ポスター。これを見たらわかるんじゃない?」
    「それもそうだね……ああーッ!?フクキタルちゃんとタンホイザちゃんも飛び入りだってッ!」

    と……とんでもないビッグネームばかりじゃないか!
    昨日勝負した二人までもが飛び入り参戦したというがどれだけ人脈が広いんだ、ゴールドシップは……!?
    というか、むしろどうやったらそんなに集められるのか……!

    「……気を引き締めなきゃな」
    「あッ!メアちゃんのトレーナーさん、おはようございますッ!」
    「おっ、おはよう……」
    「おはようございます。すみません、今日のレースを楽しみにしすぎて興奮してるみたいで……」
    「そ、そうか……ありがとう。シャドウメアにもそう伝えておくよ」
    「はいッ!今日の授業が終わったら最速で、最短で、まっすぐに、一直線に応援に行きますねッ!」

  • 42二次元好きの匿名さん22/09/12(月) 20:35:19

    期待保守

  • 43二次元好きの匿名さん22/09/13(火) 04:37:51

    保守

  • 44二次元好きの匿名さん22/09/13(火) 06:30:03

    家庭科室の時といい、どっかで見たようなモブウマ娘がチラホラいますね…

  • 45二次元好きの匿名さん22/09/13(火) 11:23:13

    >>41

    勝たせる気が無い……。

  • 46二次元好きの匿名さん22/09/13(火) 11:25:56

    成し遂げられる人物ってわけね
    気に入ったわ

  • 47◆UlpelLUOzM22/09/13(火) 12:06:00

    レースを心待ちにしている様子の二人と別れ、改めてポスターを見る。
    ……芝2500m、これは有馬記念と同じ距離だ。
    そして出走するウマ娘は――先程彼女たちが言っていた通りの人選。
    いずれも実力者揃い、本当に随分な大事になっていたらしい。
    ……よく見るとマチカネフクキタルとマチカネタンホイザの名前は書き殴られたように付け足されている。
    ゴールドシップがポスターを貼ったのは昨日の放課後なのだろうか?
    丁度俺とシャドウメアが眠っていた頃に貼り出されたものだとしたら、あの併走の後に書き込まれたのかもしれない。

    「……にしても、まさか生徒会長まで出走するとは予想外だな」
    「私がどうかしたかな?」
    「いいっ!?し、シンボリルドルフ……!」

    驚いて少し身をすくませながら振り返ると、凛とした佇まいのシンボリルドルフが立っていた。
    どうやら生徒会活動の一環で、見回りのようなことをしているらしい。

    「ふふっ、おはよう。彼女に今日はよろしく頼むと伝えておいてくれ」
    「伝えるも何も、普段放課後までは会わないから……」
    「こういった事柄は気持ちが大切だろう。それとなく伝えてくれればそれで構わないよ」
    「そ、そうか……分かった」
    「ところで、彼女の調子がとても良いそうだね。昨日最後に長距離コースを使ったのは君達だろう?」
    「えーと……あのあと練習をしていた子がいなければそうなるかな?」
    「やはり、か。今あのコースにはシャドウメアの物だろうという跡が残っている。朝練で早く来たウマ娘達が見つけた物だが、彼女達が練習した後でもくっきり残っているほどの踏み込み跡だったよ」

    コースの整備は確かに出来ていなかったが、そんなに残ったままの跡が出来ているだなんて……

    「気になるのなら見てくるといい。君の担当ウマ娘の地力が垣間見える事だろう」
    「あぁ。シンボリルドルフ、教えてくれてありがとう」
    「なに、あんなものを見て誰かに言いたくなって、久しぶりにはしゃいでいただけだよ。気にしないでくれ」

    そう微笑んだシンボリルドルフは、校舎内を見回ると言い、この場を立ち去っていった。

  • 48◆UlpelLUOzM22/09/13(火) 18:29:23

    ……という訳で、話にあった昨日のコースまでやって来た。
    周囲はみんなが授業を受けている為に誰もいない。
    もう少し後になるとグラウンド全体の整備が始まるから、確認するならこのタイミングしかないだろう。

    「確か、シャドウメアの走った道筋は……」

    探そうとしたところ、思いの外すぐに発見した。
    深く強い跡……この周りに他のウマ娘達の走った跡もついているが、それでも目立つ程に刻まれている。
    その場にしゃがみ込み、触れてみた。
    ――固い。
    掘り返された跡もある。これは蹴った時の跡なのだろう。
    その元である踏み込み跡がとんでもなく固い……まるでレンガか何かのようだ。
    たった一度の踏み込みでこんなことになるとは……もしや、昨日の走りでそこまで土砂が巻き上がっていなかったのはこれが要因なのか?
    ……一点のみに力を濃縮させて踏み込むパワーコントロール、瞬発力、集中力……
    昨日、シャドウメアは珍しく息を切らしていた。
    外周を100周近く走らなければ息を上げる事もない彼女、全力とはいえあの距離で疲れるなんて普段ならありえない。そんな彼女が疲れるほどの繊細な走り方。
    確かにただ全力で走るだけなら、全てを蹴散らすあのパワーを出せば出来るかもしれない。しかしシャドウメアはあえてパワースタイルを選ばず、この繊細な走り方を選んだ……きっとこの事実こそが、彼女にとって重要な事なんだろう。
    もしかして、あのレースの映像を見たことがきっかけで似たような走り方を覚えたくなったのだろうか。
    練習でやっていた走り方だと、いずれ他の誰かを傷つけてしまう……それに気付いたのかもしれないな。

    「……本当に賢い子だ、あの子は」

    彼女の過ごして来た世界はとても過酷だった。
    だからこそ、環境に適応することに特化しているのかもしれない。
    それが新たな走りを得る習熟速度や、普段の対人反応に現れているのだろうか。

    「……いかん。気合を入れ直そう」

    雑念を払う為、自分の頬を叩いて深呼吸をする。
    よし、粉骨砕身の覚悟で――今日頑張る彼女を応援するか。

  • 49二次元好きの匿名さん22/09/13(火) 23:16:45

    ほしゅ

  • 50二次元好きの匿名さん22/09/14(水) 10:06:20

    保守

  • 51三十路のおっさん◆UlpelLUOzM22/09/14(水) 13:30:41

    こんにちは、筆者の三十路のおっさんでござます。
    現在コロナワクチンの副反応にて39.5℃の大発熱をかましてますので、今日の更新は難しいかもしれませぬ。
    少し経って大丈夫そうだったら投稿しますので気長にお待ちくりゃれ。

    追記:いつも保守や考察、感想やらネタやらありがとね。

  • 52二次元好きの匿名さん22/09/15(木) 00:07:17

    保守

  • 53二次元好きの匿名さん22/09/15(木) 11:31:04

    保守ロダー!

  • 54二次元好きの匿名さん22/09/15(木) 22:27:27

    SKYRIM AnniversaryEdition 日本語版発売開始保守

  • 55二次元好きの匿名さん22/09/15(木) 22:48:29

    スカイリムの馬は水泳も出来るから、シャドウメアがプールトレーニングしてても安心して見ていられるね

  • 56二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 06:04:57

    ほしゅ

  • 57二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 16:37:07

    保守

  • 58二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 23:35:01

    ほしゅ

  • 59二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 23:41:22

       🤚
    お前を見ている

  • 60二次元好きの匿名さん22/09/17(土) 07:05:58

    シャドウメアとおでかけで神社にお参りするときはお作法とかも教えてあげないとね

  • 61二次元好きの匿名さん22/09/17(土) 17:26:04

    ほしゅ

  • 62二次元好きの匿名さん22/09/18(日) 00:05:10

    深い霧が立ち込め
    空には分厚い雲が覆っていた
    冥い泉のほとりで人影が立ち上がる
    伏せられていた顔をあげるとそこには紅く妖しく輝く双眸が

    徐ろに空を見上げたソレがナニカを叫ぶ
    大地を揺らさんとするその叫び声に
    瞬く間に霧は散り雲は薄れていく

    雲の合間から差し込む光に
    眩しそうに僅かに目を細めたそのウマ娘は
    どこか幸せそうな笑みを口元にわずかに浮かべると
    前を見据えて大地を蹴り駆け出した


    [Threh Hos Dah]
    スレ民たちの期待が高まると
    スレッドがしばらく保守される

  • 63二次元好きの匿名さん22/09/18(日) 11:25:15

    ほしゅ

  • 64二次元好きの匿名さん22/09/18(日) 12:00:08

    このレスは削除されています

  • 65◆UlpelLUOzM22/09/18(日) 12:15:42

    「今日の模擬レース、誰が勝つと思う?ウチはマックイーンさんに一票。やっぱメジロ家って凄いし、マックイーンさんは中でも飛び抜けて強い走りするからね」
    「そうだなぁー……私はやっぱり会長かなー。群を抜いて仕上がってるもん」
    「あたしはオペラオー様だと思う!やっぱり美しいし!!」
    「美しさ関係ある……?まぁ、アタシは〜……何となくタキオン先輩だと思うよ、何となくしれっと勝ちそうじゃんあの人」
    「ワタシはフクキタル先輩、なんかちょっと前に大大吉ー!!って大騒ぎしてたから、今日は強いんじゃないかなって」
    「あの人も大概だよね、運勢良いと強いのぶっちゃけデタラメじゃん……」

    俺は久し振りにカフェテリアへとやって来た。ここはいつもの通り賑やかだ。
    みんな放課後の模擬レースのことで盛り上がっている。
    あれから学園内をあちこち回る機会があったが、様々な目につくところに例のポスターが貼ってあった。
    気合いの入れどころが違う気がしないでもないが、ゴールドシップはこういう子なのだろう。

    「ところで、何であの子が走るんだろう?」
    「あー、シャドウメアちゃん?確かに、あんまり速いって話聞かないもんね」
    「というかアレよ?スタミナはすごいけどスピードが全然なんだってさ」
    「そうなんだ、てっきり他のウマ娘並みに強いのかと思ってた」
    「不思議なメンバーだよねぇ……」

    ……どうやら、まだシャドウメアの実力は露見していないらしい。
    編入してきた直後にあの走りを見せて、半ば失望のような感情を向けられていた彼女。
    そう考えれば、これは大きなチャンスとなる。周りの評価をガラリと変える、いわゆる度肝を抜くチャンスに。
    と、話している一団に別のウマ娘が一人入り込んでいく。

    「フッ、甘いね……アタイからすれば、今回の本命はそのシャドウメアさ」
    「な、なんだってー!?」
    「昨日の暮れ時、併走トレーニングとはいえフク先輩とマチタンを抜き去ってたんだ。あの切れ味、半端じゃあないよ。まるで刃の様にね」
    「マジかー……まぁ、本当だといいね?」
    「フフフ……アタイの眼に狂いはないよ。先輩達もグングン抜いてドーン!と勝つ。アタイはそう睨んだね」

    どうやら、見ていた子も居たらしい。昨日の走りがまた出来れば良いが……あの面々に、あの走りが通用するのだろうか。

  • 66三十路のおっさん◆UlpelLUOzM22/09/18(日) 12:19:39

    どうも。無事復活したことをお伝えします。
    またのんびり書いていきますよん。
    ※二つ前のはちょっとミスったので一度消して再書き込みしました。

  • 67二次元好きの匿名さん22/09/18(日) 23:42:56

    保守ロダー!

  • 68二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 11:39:34

    保守

  • 69二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 22:37:55

    ほしゅ

  • 70二次元好きの匿名さん22/09/20(火) 10:27:29

    シャドウメアがささやきのデバフスキルを使うと、どうなるんだろうな…シャウト使いの声は相当危険らしいけど

  • 71二次元好きの匿名さん22/09/20(火) 21:28:04

    保守ハイチュウ

  • 72二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 07:50:57

    hosyu

  • 73二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 19:05:57

    保守せよ、我が同胞

  • 74二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 22:57:25

    ほしゅ

  • 75◆UlpelLUOzM22/09/22(木) 10:43:01

    今日の仕事はあっという間に終わった。
    たづなさんが調整してくれたのだろうか。
    既に放課後。トレーナー室の窓から外を見る。
    辺りはずっと騒がしく、皆一様にグラウンドへと集まっていく様子が見えた。
    人だかりに埋もれかけているが、よく見るとコースにはゲートまで用意されている。本格的だ。
    ……俺も早く向かおう。そう思って立ち上がるとドアがノックされる。

    「トレーナーさん、シャドウメアです」
    「シャドウメア?どうしたんだ」

    ドアが開かれ、その先には確かにシャドウメアが立っていた。

    「ゴールドシップさんに、会場にはトレーナーと一緒にと言われました」
    「そうか……まぁ走る前に話したい事もあったし丁度良いな」

    シャドウメアの方へと進み、安心させるため微笑みかける。
    緊張はしていないだろうが、こういう時はなるべく普段通りが良い。
    彼女も応え、嬉しそうに目を細めてくれた。
    トレーナー室の戸締りを済ませ、コースに向かって歩き始める。

    「朝から学園の様子を見てきたが、今日のレースを楽しみにしている子達ばかりだったよ」
    「私も楽しみです」
    「俺もだ……うん、調子も良さそうだね」

    シャドウメアはとてもワクワクしている様子で、それがえらく微笑ましく感じる。
    そんな彼女と共にグラウンドに出る頃には、周囲は完全に人だかりとなっていた。
    シャドウメアとはぐれないよう気を配りながら進む。
    コース周りにはある程度の規制がかかっているらしく、ようやく人だかりを抜けることができた。
    ――ものすごく本格的にコースが整備されている。
    なんと、簡易なものでは無い本格的なゲートまであった。

  • 76二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 18:50:35

    いよいよレースか…保守

  • 77二次元好きの匿名さん22/09/23(金) 00:01:37

    ほしゅ

  • 78二次元好きの匿名さん22/09/23(金) 11:32:07

    保守

  • 79二次元好きの匿名さん22/09/23(金) 18:49:51

    fosu

  • 80二次元好きの匿名さん22/09/23(金) 22:51:10

    ro

  • 81二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 01:30:48

    da

  • 82二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 12:53:19

    fo

  • 83二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 00:12:35

オススメ

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