【SS】世にもマーベラスな物語

  • 1二次元好きの匿名さん22/09/18(日) 21:30:06

    「はあ……」
    同室の彼女はまたため息をつく。机に体を預け、伸ばした手の先には手作りの折り紙トロフィー。
    指先でいじってはため息をつき、またそれの繰り返し。
    マーベラスサンデーは悩んでいた。同室のナイスネイチャは1週間近くこの有様である。
    何があったのかと言えば、ネイチャのトレーナーがちょうど1週間前、急遽出張に出かけることになったからだ。期間は2週間。
    「アタシは大丈夫だって!トレーナーさんはしっかり成果上げて、ガッツリ昇進目指していきましょ!ほらほらー行ってらっしゃいなー」
    そう言って平気な顔をして送り出していたネイチャだったが、その日の夜からずっとこうなのである。トレーナーに指示された練習メニューはちゃんとこなしている。だが、部屋に戻れば机に一直線。憂鬱そうにトロフィーを見つめるばかりだった。
    「ねぇねぇ?そんなに気になるならLANEか通話でお話したらいいんじゃないかな☆」
    「……そんなことしたら、トレーナーさんに心配かけちゃうじゃん」

  • 2二次元好きの匿名さん22/09/18(日) 21:30:42

    「そうかな〜?アタシはそうは思わな━━━」
    「トレーナーさんは優しいから、直接は言ってこないけど……きっと俺がついてないとって思われて、仕事にも身が入らなくなったら……はあ……」
    「━━━これは重症だね★☆★」
    ネイチャの性格は理解しているが、こう毎日湿った雰囲気を纏われては、マーベラスが逃げていってしまう。マーベラスサンデーのマーベラスゲージはもう限界だった。
    「よし!アタシがネイチャをとってもマーベラスに励ましてあげる☆」
    「え、え?どしたの急に……もう就寝時間だけど……」
    「まあまあ!それは眠ってからのお楽しみだよ★ 夢の世界へマーベラス☆★☆」
    「???は、はあ……じゃ、おやすみ〜」
    ネイチャを布団へ寝かしつけ、早速マーベラスサンデーは、ありったけの『マーベラス』をネイチャへと注ぎ込んだ━━━

  • 3二次元好きの匿名さん22/09/18(日) 21:31:31

    〜★〜☆〜★〜

    「━━ん、んぅ……へっ、あれっ!?」
    アタシが目を開けると、そこは寮のベッドではなかった。見知らぬホテルの一室……散らかった紙の資料やスーツが見える。部屋の隅に置かれたベッドにはすやすやと眠る人影がひとつ。見間違えるはずもない、アタシのトレーナーさんだ。
    「━━ああ、これって夢なんだ」
    妙に繊細で現実感に溢れてはいるけど、きっとそう。トレーナーさんは今この瞬間、出張先の一室で眠りに就いている。どういう理屈かわからないけれど、夢の中でアタシは、遠くにいるトレーナーさんと繋がっているんだ。
    きっとマーベラスが何かしてくれたんだよね。まさかこういうことだったなんて……。
    ベッドに数歩近づき、寝顔を覗きこむ。1週間ぶりに見るトレーナーさんの顔、こんなにも近くで見られるなんて。
    「お、おぉ……」
    そう、これは夢。なんにも罪悪感を感じる必要なんてない。普段は絶対できないこととかも、思いっきりやってしまえたり……!?

  • 4二次元好きの匿名さん22/09/18(日) 21:32:13

    「……それじゃあ、失礼しまーすっと」
    かけ布団をめくり、ベッドの中へ入る。体を寄り添わせ、体温を感じる。ヤバい。もう後戻りは出来ない。
    「なにこれ……ホンモノみたい……」
    踏み入れたそこは楽園だった。温かさも、アタシとは違うトレーナーさんの匂いも、現実みたいにはっきりと伝わってくる。こんなリアルな夢、初めて経験した。
    「夢だもん。もっと感じちゃって、いいよね……」
    自分に言い訳を重ね、震える手を伸ばしその身体を抱き寄せる。ゴツゴツとした男の人の肉体、アタシの全身でそれを感じる。興奮7割、罪悪感3割。這わせた指が張り付いて離れてくれない。
    「……ん、あれ……!?ね、ネイチャ!?」
    トレーナーさんが目を覚ました、一瞬背筋が凍りかけたけど、夢、夢……言い聞かせて。
    「お、おいっすー……ネイチャさん来ちゃいました♪でもこれは夢、全部夢なんだよ」
    「夢……?確かに……俺は今出張で……」
    トレーナーさんは意識がふわふわとしてるみたい。
    アタシ、悪い子だ。今から幻なことにつけ込んで『大人』の予行演習をしてしまおうってんだからさ。

  • 5二次元好きの匿名さん22/09/18(日) 21:32:48

    「そう。だからさ……現実じゃ絶対できないこと……させてよ?」
    「ほんとに夢なのか?……いや、そうだよな。ネイチャが言うなら……信じる」
    「ありがと。ねえ……もっとぎゅって、して?」
    「……いいよ」
    トレーナーさんの腕に収まる、触れ合ってない面積の方が少ないくらい。胸元へ顔を押し付け、もっともっと香りに、熱に溺れる。息が苦しい……アタマの中チカチカして、お腹のそこがぐつぐつ沸騰してる。アタシの鼓動とシンクロするように、トレーナーさんのそれもまた高まっていく。
    「へへ、あついですなあ……でも、アタシは好き」
    「俺も……ネイチャをこんな近くに感じる」
    この劇薬は思考回路を焼き尽くし、理性さえも容易く砕いてしまう。もっと、もっと欲しくなる……現実じゃ決して許されない、この先が。
    「トレーナーさん……」
    「ネイチャ……」
    アタシの想いは言わなくても伝わる。お互い顔を近づけていく。吐息が近い。アタシはそっと舌を伸ばして━━━

  • 6二次元好きの匿名さん22/09/18(日) 21:33:13

    「……!ちょっと待ってくれ!?」
    「……え?」
    突然の待ったにどっと苛立ちが沸き立つ。どうして!今1番いい所だったのに……。
    「色々現実離れしすぎて本当に夢かと思ったけど……なんだかやっぱり、夢じゃない気がする」
    「ハイ?いやいや何言ってるのさ。アタシがトレーナーさんの隣にいるなんてありえないでしょ」
    「そうなんだよな、そこだけが不思議で仕方ない……でもそれ以外は間違いない、現実だ」
    「……え?でもここは出張先で……」
    持て余していた熱が急激に冷めていく。代わりに溢れてくるのは冷や汗。
    夢じゃ……ない?そんなバカな。でも確かに、トレーナーさんとのやり取りがやたら生々しい。
    「いやいやいや!?意味わかんないって!」
    「と、とりあえず部屋は俺が布団に入る前の状態そのままだ。ネイチャもスマホか何かで確認してくれ!」
    「は、はいさ!」
    二人お互いの頬を引っ張りあったり、部屋を漁ったり、スマホを検索したりした。結果、それらの行為が全て、これが現実であることを証拠付けていったのだった。
    それじゃ、寝てる間に瞬間移動でもやったの?今やそんなオカルトチックな可能性しか残っていない。

  • 7二次元好きの匿名さん22/09/18(日) 21:33:50

    アタシは最後に、手の震えを抑えて眠る直前まで隣にいたマーベラスに電話をかけた。あの子がなにかしたのは間違いない、問いたださないと。
    「……もしもし!?マーベラスだよね?」
    「もしもーし☆どうしたのネイチャ?」
    電話越しのマーベラスはいつも通りのあっけらかんとした口調だ。何の変哲もないけど……。
    「いやどうしたもこうしたもないって!アタシ、なんでトレーナーさんのところにいるのさ!?なにこれ夢じゃないの!?」
    「何言ってるのネイチャ、れっきとした現実だよ!アタシがマーベラスで転送したんだ☆★☆」
    「てん……そう?」
    単語の意味が一瞬理解できなかった。つまり、ほんとにウマ娘一人を丸ごとワープさせたってこと!?
    「滅多にしないことだから疲れちゃったよ!あ、こっちはアタシがマーベラスで認識阻が……じゃなくて上手く言っておくから、残り1週間二人きりを楽しんでね☆★それじゃ、おやすみマーベラス★☆★」

  • 8二次元好きの匿名さん22/09/18(日) 21:34:51

    「いやちょっまっ━━切れちゃった」
    「どうだった……?ネイチャ」
    「……アタシ、ほんとにワープしたみたいデス」
    「……そうかー」
    「そんなんですよーアハハ」
    出てくるのは渇いた笑い。艶やかな雰囲気などすっかり吹き飛んでしまった。人智を超えたマーベラスの奇跡を目の当たりにして……アタシとトレーナーさんは考えるのをやめた。
    「とりあえず……どしましょかね」
    「どうあれ来てしまった以上、ひとまず今夜はここで過ごすしかないな」
    「…………」
    無言でベッドを見つめる、当たり前だけど、一人部屋のシングル。
    さっきまではあんなにするすると入っていけたのに、今はそこに座るのも躊躇ってしまう。
    現実の、臆病ないつものアタシ。

  • 9二次元好きの匿名さん22/09/18(日) 21:35:16

    ……ていうか。さっきまでのハグとか、キス……未遂とか。当たり前だけど全部夢じゃなかったってことで。
    ━━━アタシ、詰んだ。
    どどどどどどうしよ!?!?いやもうどうしようもないよね……あれだけしてワンチャンバレてないなんてことは……。
    「…………」
    トレーナーさんも気まずそうに頭をかいている。
    ははは……うん、ないよねそんなコト。
    いっそう迷惑かけちゃったじゃん……『好き』の気持ちを伝えるのは、然るべきタイミングでって決めてたのに……アタシ、ダメダメだ。
    何もかも筒抜けにしてしまって、明日からどんな顔してトレーナーさんと接すればいいんだろう。
    それとも、二度とまともに話もできなくなってしまって━━━

  • 10二次元好きの匿名さん22/09/18(日) 21:36:02

    「なあネイチャ」
    「はっひゃい!?」
    「そんなガチガチにならなくても……あーその……床もまた散らかったし、予備の布団も無いから。担当を放り出すわけもないし、トレーナーとして仕方なくという言い訳をさせてくれ」
    「は、ハイ……?」
    「また一緒に、寝ようか」
    「はひっ」
    収まっていた鼓動が跳ね上がった。え、ねるってなんだっけあたしわかんないうにゃあああ━━━━
    「だから……さっきは夢かと思って流されかけたけど、『そういうこと』は、ネイチャが卒業してからな」
    「おっおねがいしまっしゅ━━え」
    彼の少し赤く染まった頬が、電灯に照らされて見える。
    トレーナーさん、今言ったのって……あのー。期待しちゃっていいってことでしょーか。
    「ほら、おいで」
    「……うん」
    再びベッドに入る、今度は背中合わせ。とてもじゃないけど顔なんて見れない。
    そして、見せたくもない。
    だって今のアタシ、絶対ブサイクなことになってる。
    「……ねえ」
    「何かな」
    「アタシ……1番?」
    なんとか一言だけ振り絞った言葉足らずな問い。けれど、返事はすぐだった。
    「当たり前だろ。1番好きだよ」
    「〜!!!」
    今はこれだけ聞けたから、来たる日までもう少し我慢できそうなアタシなのです……多分。

  • 11二次元好きの匿名さん22/09/18(日) 21:37:55

    やはりマーベラス…
    マーベラスは全てを解決する

  • 12二次元好きの匿名さん22/09/18(日) 21:48:24
  • 13二次元好きの匿名さん22/09/18(日) 21:57:06

    >>12

    あなたか!いつも良質なSSをありがとうございます!

  • 14二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 09:55:45

    メチャ良かった……
    夕べ画面開いたままだったからギリギリ読めた……今日はツイてるぜ!

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