彼岸花ちさたき概念 其の二

  • 1二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 21:53:22
  • 2二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 22:01:41

    おお続きくるのか

  • 3二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 22:01:55

    前回までのあらすじ


    京の本丸に在りし彼岸花たる瀧は
    過日証人となる可き犯人を無断にて
    これを死に至らしめ亦賜りし武器を紛失し
    剰え反省の弁これなければ、江戸へと送致せられ
    薬商を営める赤袖の彼岸花、千沙の監督の下と相成り
    護衛、通弁、教師抔数多の職を経ん。

    或る時、迷い子を探せる老夫婦からの頼みを請け
    これを見出せるも、これを殺めんとする者あれば
    子より改めて頼む所となり、その護衛となれり

  • 4二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 22:06:56

    「馬とか乗れるといいんだけどね」
    「ここではちょっと無理そうですね、クルミさんもいますし」
     彼岸花は乗馬の特権もあるのだが、他の人が乗ることはあまり歓迎されていない。
     それに、彼女が背負っている大き目の行李というか箱とというかが邪魔でどっちみち
    無理だろう。
    「大八車とか借りちゃう?」
    「いいですけど、帰りはカラの荷で戻ってくるんですよ? 千沙さんのことだからめんどくさがると思うんですけど」
    「うっ……!」
     よく見抜いてやがる、といった目で瀧を見返す。
    「まあ、手間をかけてすまないが、歩きで付き合ってくれ」
     クルミはそのままスタスタ歩いていく。
    「クルミさんは、古道具屋さんなんですか? またなんか怪しい物でも買ってませんか?」
     瀧は一応、と言った感じで確認しておく。
     これ以上暗殺者の手を増やしたくない。
     先ほど、古道具を一式買ったみたいなことを言っていたから何か紛れ込まれていると厄介だ。
    「ボクは実際は医者なんだよ、あ、そこの赤いの、『嘘だろこのチビが……』とか思っただろ」
    「いいえーそんなこと一切思ってませーん」
     片言な千沙にクルミはフフっと笑って「まあいい」と流す。

  • 5二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 22:25:54

    >>4

    「まあ、こんなナリだがな、免許はもってる。長崎やらで道具を売買する関係で古道具屋みたいなこともやっててな、あとは印刷もやる。書籍の出版もだが……」

    「すごい、人だったんですね。御見逸れしました」

     瀧は瀧で畏まる。が、クルミはそれを止めてくれよ、と言って制す。

    「あんまり怪しい者扱いされるのもアレだからな。一応は。まあでもあんまりボクは人前に出ない訳だし――お前らもそうなんだろ? 彼岸花」


     くるり、と二人の方を向く。

     ゴクリ、と二人は息を飲む。


    「言ったっけ、私たち」

     千沙は瀧を片手で制しながらクルミに向き合う。

     瀧は先ほどの、「彼岸花」という発声のすぐ後に刀に手を掛けていた。

  • 6二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 22:27:08

    >>5

    「いいや、お前らはちゃんと秘密を守った。だから罰せられることはないよ」

     クルミはニヤリと笑いながら続ける。

     このまま話続けると命が危ない、などというような遠慮は全くない。

    「ここは街道だけど、誰もいないから喋っていいよな。まあ、資料漁りが好きな人間ならそういう伝説があることはみんな知ってるはずだよな」

     クルミがその伝説を口に演ぶる。


     帝の周りにいる不思議な部隊。御庭番のようなもの。いやそれよりも歴史は古く、帝に近すぎる。

    そして裏切る者はいない。それなのに「高貴」な位置に据えられている。矛盾の塊。

     普通、帝に近いなら権力争いに参加することもあるのだが、そうではなく、

    遠いなら卑しい扱いがされるものなのにそうでもない。

     殆どの資料には断片的にしか書かれておらず、全貌を把握した者はいない。

     そういう話。

  • 7二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 22:28:50

    >>6

    「……ええ。でもみんなそんなのおとぎ話というか、与太話だと思ってるはずですが」

     国学の流行りはあるから、鴉の歴史を繙きたい者は多数いた。

     古事記の記述を正確に解釈したいと願った者――なども彼岸花らの手にかかってきた。

     直接殺さないにしても、原稿を取り換えるなんてこともやった。


    「そうだろうよ。でも、お前らはこの頃少々派手に動き過ぎてるんじゃないか? 黒船以降はさ」

    「失礼、クルミ先生はおいくつなのですか」

     黒船以降と言った。まるで以前のことをよく知っているような口ぶり。

     もう十年は前の出来事なのに。

    「それは秘密だ。まあしかし、ボクも貴重な体験をしている。貴人になった気分だよ」

     クルミはどこまでも楽しそうに向こうを向いて歩き始めた。

     その背中は、二人への信頼なのだろうか。

  • 8二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 22:36:47

    保守

  • 9二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 22:43:05

    保守しておくぜ

  • 10二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 22:45:37
  • 11二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 02:20:10

    >>10

    あなただったのか、好きです

  • 12二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 08:10:53

    保守

  • 13二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 10:50:51

    >>7

    ――

    「で、人気者ですね、クルミせんせーは」

     千沙と瀧はクルミを囲み、守る陣形を作す。

     彼らの周りには刀を抜いた者が十名以上いた。

     その全てが血走った眼をしていて、最早交渉の余地は見て取れない。

     

     街道の脇の、開けた広場みたいな所、しかし背の高い竹や木々によって

    人々の視界から遮られている場所、ここに三人は誘導され、押し込められている。


     瀧はこの状況を見て非常に無理がある――と断じている。

    全員の頭に弾丸を命中させたとして六人、実際はそんなこと出来ないから、この数だと

    三人の足止めが出来れば十分だろう。そうすると……。

     でも千沙さんがどれだけ強いかだ。わたしが一人片付けている間に

    訳の分からない、道理の通らない技で三人は生け捕りにしている。

     ここは賭けるか……? ただ護衛対象がいるとなると、そちら側に気を付けなければならない。

     

     この間の勝邸での様子が頭に戻ってくる。


     ――勝先生、患者さんを守ろうとはしなかったでしょ、最悪死んでもいいと思ってたでしょ

     ――依頼は、医師の護衛でしたから。患者じゃない


     今回の依頼は正真正銘、わたしの背後にいるこの小さい医者だ。

    絶対に守らなければ。



    //一般人もよわよわも落ちてしもた……

  • 14二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 11:32:51

    3つ同時はキツすぎるから大丈夫やであなたの文章力が好きだからゆっくりのびのびやってくんさい

  • 15二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 13:10:47

    >>14

    温かいお言葉嬉しい嬉しいやで……


    >>13

    「で、一応さ、訊くけど……人違いだったらアレだからさ。あんたらが狙ってるのは誰?」

     千沙は懐手を解いて、ぶらりと手を垂らす。

     それでも、その緩んだように見えた手も、ひとたび事が起こればしなやかな鞭のように

    刀の柄に触れるだろう。


    「そ、そうです。私たちはただの行商人です、ね!」

     瀧も咄嗟にそれに乗ってクルミの方を見る。クルミも、う、うんみたいな様子で頷く。


    「そうか、行商人か。失礼」

     そのうちの一人がずい、と出てくる。

     パラ、と懐から紙を出してくる。

     ごくり……と三人は唾を飲む。あれききっと人相書きだ。


     編み笠越しに三人が紙と見比べられる。


    「……失礼した。ここら辺に追いはぎが複数隠れているとの知らせがあり討伐しに参った」

     その言葉と同時に十人近くが一斉に刀を仕舞ったのは壮観ではあった。


    「そうなんですね、どこからのお勤めですか?」

    「拙者京都守護職の――」

    「へえ……そうなんですか、お気をつけて……」

     千沙が代表して受け答えると彼らは御免と言って一列となって去って行った。

  • 16二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 18:54:37

    >>15

    「銃まで携えて、ご苦労なこったな、捕り物か」

     クルミは暢気そうにしていたが、千沙は彼らが行った方を難しい表情で見続けている。

     編み笠を被った武士団は、こちらを振り返ることもなくスタスタと向こう側に

    移動しているが

    「瀧、先に行ってて、お願い」

     いつにもない真剣な声色で瀧を先にやり、クルミを間に置き、千沙は暫くあの

    隊列が離れていくのを腕を組みながら見続けている。

     その様子が気になった瀧ではあるが、命令に従いクルミを先導する。

     先ほどの街道まで瀧とクルミとが戻っても、なおもまだ街道脇から出てこない。

     少し待って、漸く出てくると今度は瀧らを急がせる。

    「どうしたんですか、千沙さん、さっきから変ですよ」

    「……京都守護職がこんなところまで来るのおかしいでしょ」

     数十歩歩いたところで、よく響く音がする。

    パァンと。

  • 17二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 18:55:04

    >>16

    瀧が音の鳴る方に振り返る――さっきの編み笠の武士たちではないか。

     銃口がいくつか茂みの奥から見える。

    「! この距離だと反撃は無理だ、瀧、クルミせんせーをお願い!」

     咄嗟に銃を取り出していた瀧の肩を叩いてクルミの手を引かせる。

     足の長さは歩幅の違い、少しでも遠くへ行くために瀧を推進力として使用する。

    「千沙さん! それじゃあなたが!」

     瀧は振り返って、動こうとしない千沙に叫ぶ。

    「大丈夫。後から追いつくから」

     ニカッと千沙は笑った。

  • 18二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 22:49:43

    >>17

    「どうしたんですか、さっき人違いって……! ってぇ、撃ってくんなバカやろー」

     千沙は迫りくる銃撃を避けて、相手方に走り寄る。

     茂みと叢と、ゴツゴツした石が足元を邪魔をする。

     相手方とはおよそ、十間(18m程度)の間合いがある。さすがの千沙でも大きな木の陰に隠れないと

    危険と判断してそこに背中を預ける。

     ――クソ、見えるなら避けるの余裕なのに。

     相手方もよく訓練された者らしく、叢や斜面、木の上からも発砲してきて、発射元が中々分からないし、正確には何人の兵隊がいるかも把握できない。

     しかも連中は千沙には目もくれず、徐々に距離を詰めてきて、狙うは瀧とクルミ。

     瀧にはちゃんと逃げろと申し伝えたが、この分だと被弾しているやもしれない。

  • 19二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 23:46:25

    >>18

    「しかたないなぁ……」

     千沙はよっと、木に登り周囲を見渡す。

    「わりと練度が高いのがムカつく……」

     彼らは、横一列ではなく、左右の人員が飛び出ていて、真ん中がへこんでいる形で進んでいく。

    なるほど、追いついたときに囲んで撃つ気なのだ。

    「鶴翼の陣ってことね……」

     千沙には目もくれない理由がわかる。

     訓練されているからこそ、邪魔者と対象物とをちゃんと分けている。

     ただの破落戸ならなんでもかんでも攻撃しただろう。

     すると厄介だ、しつこく、執念深く対象物であるクルミを狙うはずだ。と千束は思い至り

    頭を抱える。

     どうする――私?

  • 20二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 08:27:04

    ほしゅ

  • 21二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 15:07:48

    プロよりのアマか?

  • 22二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 23:09:55

    >>19

    どうしようもない。……ん? と千沙は一人の男が蹲って呻いているのを見つける。

    「どうした、お兄さん」

     警戒しながらもそれに近寄ると、右肩を押さえている。

    その手からどくどくと赤黒い液体が染み出しているように見える。

    「流れ弾か? 大丈夫?」

     念の為、担いでいた銃と彼の腰の刀を奪い去ってから傷口を診る。

     刀を奪われるのには大層抵抗したが、千沙の「じゃあほっといちゃうよ?」という少し低い声の

    脅しに屈して腰から抜かれることを了承した。もっとも、右肩の負傷なのだ、これ以上戦うことはできまい。


    「あー、弾は抜けてるね、よかった。止血するからね」

     背負った荷物から、サラシと徳利を取り出す。

    「強い焼酎で傷洗うからね、痛いけど我慢ね」

     三十も過ぎた男を赤子の如くあやしながら、傷の処置をする。羽織を取り、小袖を脱がせ、傷口を焼酎で洗浄しサラシで巻く。

     それでも血は完全には止まらないが、このまま放置するよりはいい。

     編み笠で隠れてはいるが、苦痛の表情が少し和らいでいるだろうことは、息遣いでわかる。

  • 23二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 23:10:19

    このレスは削除されています

  • 24二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 23:11:15

    >>22

    「なぜ……我々は刺客のはず」

     呻きながら彼は訊いた。

     手負いの敵など、格好の的で、彼もここで殺されることは覚悟していた。

    それなのに傷を診られ、清潔な布で包帯され、そのまま寝かされるだけの処遇。

    疑念を抱くのは不思議ではない。

    「……まあ、手負いだからね。もうこれ以上はやらないでしょ」

     それに、刀振れんの? と聞かれ黙る。

     だらりと下がるしかない右腕は、今後数カ月は日常生活もままならないだろう。

    況や戦闘行為をや。しかし、その武士は口を歪めて言う。

    「後ろから撃つやもしれぬぞ」

    「そういうのはよくないね、没収だから。あー刀はそのままにしておいてあげる」

     千沙は銃と弾薬を残らず回収した。

     革帯を右肩に掛けて、よしと呟いて出立の準備をする。

    「あ、羽織と編み笠借りていい?」

  • 25二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 00:07:31

    >>24

     瀧とクルミは走っている。

     後ろから飛んでくる銃弾に追いつかれてないのは幸運と言っていい。

     息が切れて、すぐにでも足が止まりそうだ。もうこれは、ほぼ転んでいると言ってもいいような

    走り方だ。一度でも足を止めたら、これ以上進むことはできないぐらいの疲労を受けている。

     全身が心臓になったかのように鼓動と動悸を感じる。

     訓練を受けて育ったたきなですら苦しいのだから、クルミなどもっとだろう。

    その証拠に、どんどんとたきながクルミを引く手が重くなっていく。

     上手く走れていない。このままじゃ――。

    「クルミ先生、その背負ってる箱って要りますか!?」

     この箱の所為で走るのが遅くなっていると瀧は踏んで、捨てるように促すが

    「……はぁ、はあ……ダメだ、これはもうボクの全部なんだ……」

     と離さない。

  • 26二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 00:43:04

    >>25

     このままだと、やられる。

     瀧は頭を切り替える。先ほどの編み笠武士団は十人ほどで全てこちらに目的を設定している。

    つまり、クルミを使えば武士団の方向性を制御できるということではないか?

     幸いというか、さっきからその背中に背負った荷物は捨てないということだから、

    後ろからの銃撃に少しは耐えられるのではないか? 少なくとも一発で貫通はあり得ないだろう。

    さっきだって金具で銃弾をカキーンと弾き飛ばした。

     千沙さんは――後ろから追いかけてくると言っていたけれど、大丈夫だろうか。


     瀧は何度か振り返って胸元の銃を抜き、撃って相手方を殺す。

    大抵は胸、腹に被弾し戦線を離脱させることを得るが、いかんせん足元が悪く

    銃の工作精度も低い。

     

     このまま立ち止まって対峙しても、きっとあいつらはわたしを無視してクルミ先生の方に行く。

    と瀧は予感し、なんとか細い道を見つけてクルミを誘導したかったが、そんなに都合のいい場所はない。濡れた落ち葉やごつごつした岩、小さな沢に背の高い茂みがこの周囲の全てだった。

  • 27二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 08:40:21

    保守

  • 28二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 19:36:33

    ほしゅ

  • 29二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 21:48:57

    >>26

    「! もうだめだ……おしまいだ……」

     クルミの声が響く。瀧がそちら側を向くと、今まで必死に走ってきた足を止めざるを得ない。

    下は切り立った崖。そして、そちら側からも銃砲の音がする。

     挟まれている。決死の覚悟でがけから飛び降りたとして、下手な火の見櫓より高いその崖から

    無事に降りたとしよう、それでも銃弾が待っているということなのだ。絶体絶命。

     崖の下は木の葉が溜まり、枯れ木が立ち並び、衝撃は吸収できまい。せめて河だったならば

    助かる見込みが増えたかもしれないのに。


     向こうから来る相手方も歩を休めながら、余裕を見せながら瀧の方へと近づく。

    瀧たちはもう逃げられないと踏んで、いわば舌なめずりしているような動態である。

    「クルミ先生、わたしから離れないでください」

     クルミを隠すように、立ちはだかり、刀を抜いた。

     切っ先が真っすぐに相手を向く。しかし、どこへ向かうかは不確定。

     ふわふわと照準を揺らすように刀を動かす。

  • 30二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 21:49:21

    >>29

    相手方が何人もいる場合、このようにしないと、攻撃先が割れてしまい

    簡単に防がれてしまう。

     このように揺らしているのは新しいが有効なやり方だと体得している。

     しかし……多勢に無勢すぎるともいえる。

    相手は刀だけではない。舶来の連発銃だ。肩に背負われているそれは、遠くまで

    真っすぐに飛びて、進路が歪まない。

     威力も伝来の銃とは全く異なる。それが瀧とクルミを狙って何丁も向けられている。


    「……千沙さん」

     

     千沙は来ない。殺さないなんてやってるから、救護中に後ろからでもやられたのではないか

    と瀧は思い、歯噛みする。

  • 31二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 22:44:06

    >>30

     首魁らしき男が中央にいる。それを囲うように横の茂みから人の身体が見えてくる。

    「囲まれましたね……」

     少なく見積もっても十名はいる。千沙は倒せなかったのか、と

     まだ撃たれてない。きっとその中央の人間が合図をしたら一斉に火を噴く算段なのだ。

     瀧は刀を握り、じりじりと詰められる距離に殺気を満たす。

     それは刺すようで、斬りつけるような鋭い意気。

     しかし、実体はない。ゆえに男たちの侵入を許す。

    「わたしが一歩下がれば、クルミ先生が、依頼人が後ろに下がる。そうすれば……行くのは崖の下だ」

     徐々に後ろに導かれる斜面の角度がキツくなる。

    「おい、そこの護衛。拙者らは無暗な殺生は好まぬ、その小さいのを渡してくれればそれで済まそうではないか」

     真ん中の男が言う。ああ、なるほどそれで今撃たないのか、と瀧は得心する。

    「……わたしは貴様らの顔を見た、声も聞いた。それで放すわけなかろうが!」

     瀧はこれを嘘だと断じた。

     編み笠の下の表情が歪む。実際、どうだかは知らぬがここで本当に瀧を無事で返すわけはなかった。

  • 32二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:16:39

    >>31

    「小賢しい! ええいもう諸共殺せ!」

    と真ん中が右手を挙げる。下ろされたとき、それが発射の合図。

     瀧はもう、自分が死んでも依頼人を守る、と肚を決めた。


     その時、ぱぁんと合図を無視した銃声が一つ。

     見ると、中央の男が、脚を押さえて蹲る。

     一瞬、指示系統が乱れた瞬間、編み笠の人影が脇にいる仲間を「鞘付きの刀で」打ち始める。

    「!」


     人数計 十二人 戦闘不能 二人


     突如仲間割れが始まって辺りはざわめくが、流石は訓練を積んだ者ら、

    的確に、裏切り者を捉え銃に火を噴かせるが、その銃は長物。いくら弾丸を後ろから込められる

    早撃ち式と言えども、懐に入られるよりは早く動作できない。

     狙いを定めている間に、その裏切り者が彼の襟を掴み、身体を屈めて彼を投げ飛ばしている。

     投げられたら最後、地面に仰向けに放り投げられ、庇う間もなく

    扇で、鞘で、拳に嵌めた鉄貫で殴打され視界と意識が奪われる。

     また、投げる先も、仲間の居る方へと選んでいる。銃を携えている者も咄嗟に迫りくる

    友軍を撃てずに巻き込まれ、結果的に怪我を負う。

     銃を取り上げ、後込め式の利点を生かして弾丸を引き出すと袖の中に銃弾を盗み、

    銃自体を分解してしまう。摺動部分を取り外し、薬莢と火薬を叩く撃針を露出させ、

    別々の方向に投げ捨てる。

    ここまで十数えるまでもない。


     人数計 十二人 戦闘不能 五人


    「羽織、ちょっと邪魔だわ」

     羽織を脱ぎ捨て現れるのは、深い赤の上衣、明るい色の髪の錦木千沙。

    その人であった。

  • 33二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 08:22:29

    保守

オススメ

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